説明

発熱組成物、及びその製造方法

【課題】有機溶剤に代えて水を主成分とする溶剤を使用することで製造時の取り扱いを容易としつつも、着火性能の低下が抑制された発熱組成物、及びその製造方法を提供することにある。
【解決手段】発熱組成物は、(A1)マグナリウム、(B)酸化剤、(C)セルロース系水溶性ポリマー及びビニル系水溶性ポリマーから選ばれる少なくとも一種の結合剤、及び水を主成分とする溶剤を混合した混合物を乾燥させてなるものであり、含有水分比率が1.0質量%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着火性及び燃焼性に優れ、高い熱量を発生させる発熱組成物であって、例えば、ハイブリッドインフレータの貯蔵ガスを速やかに高温状態にしてエアバッグにガスを供給する発熱組成物、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両には、衝突等により車両に衝撃が加わった場合に乗員をその衝撃から保護することを目的として、ガス発生器(インフレータ)からガスを噴出させてエアバッグを膨張させるエアバッグ装置が搭載されている。従来、このエアバッグ装置に備えられるガス発生器としては、例えば特許文献1に開示されるものが知られている。
【0003】
特許文献1のガス発生器は全体として略筒状をなし、その内部には破裂板により区画された第1室及び第2室が形成されている。第1室には発熱組成物が収容されるとともに、第2室には貯蔵ガス(例えば、アルゴンガス)が加圧状態で充填されている。上記ガス発生器では、例えば、車両への衝突による衝撃の感知を契機として、まず点火器が作動点火して第1室の発熱組成物を燃焼させ、高温の燃焼ガスを発生させる。その後、発熱組成物から生じた上記燃焼ガスのガス圧により破裂板が破壊されて上記燃焼ガスが第2室内に流入する。これにより、第2室内の貯蔵ガスが熱せられるとともに熱膨張し、ディフューザ部を介して上記燃焼ガスと貯蔵ガスとの混合ガスが噴射される。こうした上記燃焼ガスと貯蔵ガスとの混合ガスを噴射する方式のガス発生器は、一般にハイブリッドインフレータとして知られている。
【0004】
一方、上記ガス発生器に用いられる発熱組成物としては、発熱量及び着火性能に優れるという点からマグネシウムとアルミニウムの合金であるマグナリウムを燃料成分として含有する発熱組成物を好適に用いることができる。マグナリウムを含有する発熱組成物としては、例えば特許文献2及び特許文献3に記載されるものが知られている。特許文献2及び特許文献3の発熱組成物は、燃料成分としてのマグナリウム粉末と、酸化剤と、結合剤としてのシリコン樹脂バインダとを、エタノールを用いて混合した後に乾燥処理を行うことにより製造されるものであり、着火性能に優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−149097号公報
【特許文献2】特開2006−117508号公報
【特許文献3】特開2008−030970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献2及び特許文献3の発熱組成物は、マグナリウム粉末と酸化剤と結合剤とを混合するための溶剤として有機溶剤(エタノール)を使用している。溶剤として有機溶剤を使用する場合、作業者に対する安全性の確保や環境への影響等の観点から、その取り扱いには十分な配慮が必要となる。たとえば、発熱組成物の製造作業にあたって、作業者には防護マスクや防護眼鏡等の安全保護具の着用が求められる。そのため、可能な限り有機溶剤の使用を避けて発熱組成物の製造を行いたい、ということが作業現場における実情である。そこで、有機溶剤に代えて水を主成分とする溶剤を使用する方法が考えられる。しかしながら、溶剤として水を主成分とする溶剤を使用して発熱組成物を製造したところ、発熱組成物の着火性能、特に低温(−40℃)における着火性能が低下するという問題が新たに生じた。
【0007】
この発明は、こうした従来の実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、有機溶剤に代えて水を主成分とする溶剤を使用することで製造時の取り扱いを容易としつつも、着火性能の低下を抑制することのできる発熱組成物、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために請求項1に記載の発熱組成物は、(A1)マグナリウム、(B)酸化剤、(C)セルロース系水溶性ポリマー及びビニル系水溶性ポリマーから選ばれる少なくとも一種の結合剤、並びに水を主成分とする溶剤を混合した混合物を乾燥させてなり、含有水分比率が1.0質量%以下であることを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発熱組成物は、請求項1に記載の発明において、組成物全体に対して、前記(A1)マグナリウムを10〜50質量%、前記(B)酸化剤を40〜89.5質量%、前記(C)セルロース系水溶性ポリマー及びビニル系水溶性ポリマーから選ばれる少なくとも一種の結合剤を0.5〜10質量%含有することを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発熱組成物は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記(A1)マグナリウムに対して等量未満のボロンがさらに含有されていることを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の発熱組成物の製造方法は、(A1)マグナリウム、(B)酸化剤、並びに(C)セルロース系水溶性ポリマー及びビニル系水溶性ポリマーから選ばれる少なくとも一種の結合剤を、水を主成分とする溶剤を用いて混合する混合工程と、混合工程にて得られた混合物を含有水分比率が1.0質量%以下となるように乾燥させる乾燥工程とを有することを特徴とする。
【0012】
請求項5に記載の発熱組成物の製造方法は、請求項4に記載の発明において、前記混合工程において、前記(A1)マグナリウムに対して等量未満のボロンをさらに混合することを特徴とする。
【0013】
請求項6に記載の発熱組成物は、(A2)ボロン、(B)酸化剤、(C)セルロース系水溶性ポリマー及びビニル系水溶性ポリマーから選ばれる少なくとも一種の結合剤、5−アミノテトラゾール、並びに水を主成分とする溶剤を混合した混合物を乾燥させてなり、含有水分比率が0.7質量%以下であることを特徴とする。
【0014】
請求項7に記載の発熱組成物の製造方法は、(A2)ボロン、(B)酸化剤、(C)セルロース系水溶性ポリマー及びビニル系水溶性ポリマーから選ばれる少なくとも一種の結合剤、並びに5−アミノテトラゾールを、水を主成分とする溶剤を用いて混合する混合工程と、混合工程にて得られた混合物を含有水分比率が0.7質量%以下となるように乾燥させる乾燥工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の発熱組成物、及びその製造方法によれば、有機溶剤に代えて水を主成分とする溶剤を使用することで製造時の取り扱いを容易としつつも、着火性能の低下を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[第1実施形態]
以下、本発明を具体化した第1実施形態の発熱組成物を詳細に説明する。
第1実施形態の発熱組成物は、(A1)マグナリウム、(B)酸化剤、及び(C)結合剤を含有し、含有水分比率が1.0質量%以下である。
【0017】
(A1)マグナリウムはマグネシウム(Mg)とアルミニウム(Al)との合金であって、発熱組成物中に燃料成分として含有される。マグナリウムを構成するMg成分とAl成分との比は、20:80〜70:30の範囲であることが好ましく、35:65〜65:35の範囲であることがより好ましい。また、マグナリウム中にMg成分及Al成分以外のその他の金属成分が添加されていてもよい。その他の金属成分としては、例えばCa、Mn、Li、Si、Sb、Sr、Zn、Zr、Sc、Y、Sn、及び希土類金属が挙げられる。これらの金属成分のうちの一種のみが添加されていてもよいし、二種以上が添加されていてもよい。
【0018】
また、マグナリウムは、好ましくは平均粒径1〜100μmの範囲、より好ましくは10〜70μmの範囲の粉末状態で発熱組成物中に含有される。そして、発熱組成物中におけるマグナリウムの含有比率は、10〜50質量%であることが好ましい。なお、本明細書における平均粒径は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定器を用いて測定された粒度分布から得られたメジアン径を意味する。
【0019】
(B)酸化剤は燃料成分であるマグナリウムの酸化反応を引き起こすために含有される成分である。酸化剤としては、発熱組成物に酸化剤として含有される公知ものを用いることができ、例えば塩基性金属硝酸塩、硝酸塩、過塩素酸塩、及び塩素酸塩が挙げられる。塩基性金属硝酸塩としては、例えば塩基性硝酸銅、塩基性硝酸コバルト、塩基性硝酸亜鉛、塩基性硝酸マンガン、塩基性硝酸鉄、塩基性硝酸モリブデン、塩基性硝酸ビスマス、及び塩基性硝酸セリウムが挙げられる。硝酸塩としては、例えば硝酸カリウム、硝酸ナトリウム等のアルカリ類金属硝酸塩、硝酸ストロンチウム等のアルカリ土類金属硝酸塩、及び硝酸アンモニウムが挙げられる。過塩素酸塩としては、例えば過塩素酸カリウム、過塩素酸ナトリウム、及び過塩素酸アンモニウムが挙げられる。塩素酸塩としては、例えば塩素酸カリウム、及び塩素酸ナトリウムが挙げられる。これらの酸化剤のうちの一種のみが含有されていてもよいし、二種以上が含有されていてもよい。なお、発熱量に優れるという点から、これらの酸化剤のなかでもアルカリ金属の硝酸塩又は過塩素酸塩、及びアルカリ土類金属の硝酸塩又は過塩素酸塩から選ばれる少なくとも一種を用いることが特に好ましい。
【0020】
また、酸化剤は、好ましくは平均粒径1〜50μmの範囲、より好ましくは1〜10μmの範囲の粉末状態で発熱組成物中に含有される。そして、発熱組成物中における酸化剤の含有比率は、40〜89.5質量%であることが好ましい。
【0021】
(C)結合剤は発熱組成物の成形性を向上させるために含有される成分である。結合剤としては、水に溶解した状態で粘性を発揮する結合剤を用いることができ、具体的にはセルロース系水溶性ポリマー及びビニル系水溶性ポリマーを用いることができる。セルロース系水溶性ポリマーとしては、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、可溶性デンプン、グアガム、及びデキストリンが挙げられる。ビニル系水溶性ポリマーとしては、例えばポリビニルアルコール(PVA)、カルボキシビニルポリマー(ポリアクリル酸)、及びポリビニルピロリドン(PVP)が挙げられる。これらの結合剤を用いた場合には、結合剤自身が燃焼することにより発熱量を高めることができる。また、これらの結合剤のうちの一種のみが含有されていてもよいし、二種以上が含有されていてもよい。
【0022】
発熱組成物中における結合剤の含有比率は、0.5〜10質量%であることが好ましい。また、発熱組成物を成型する際の成型方法が造粒成型法である場合には、発熱組成物中における結合剤の含有比率を0.5〜2.0質量%の範囲とすることがより好ましく、押出成型法である場合には同含有比率を4.0〜8.0質量%とすることがより好ましい。
【0023】
なお、第1実施形態の発熱組成物は、本発明の課題を解決できる範囲において、必要に応じて発熱組成物に含有される公知の各種添加剤を含有することができる。上記添加剤としては、例えば酸化銅、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化コバルト、酸化マンガン、酸化モリブデン、酸化ニッケル、酸化ビスマス、シリカ、アルミナ等の金属酸化物;炭酸コバルト、炭酸カルシウム、塩基性炭酸亜鉛、塩基性炭酸銅等の金属炭酸塩又は塩基性金属炭酸塩;酸性白土、カオリン、タルク、ベントナイト、ケイソウ土、ヒドロタルサイト等の金属酸化物又は水酸化物の複合化合物;ケイ酸ナトリウム、マイカモリブデン酸塩、モリブデン酸コバルト等の金属酸塩;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、二硫化モリブデン、ステアリン酸カルシウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素が挙げられる。
【0024】
また、第1実施形態の発熱組成物は、本発明の課題を解決できる範囲において、必要に応じてマグナリウム以外の燃料成分を含有することができる。上記マグナリウム以外の燃料成分としては、例えばボロン、アルミニウム、マグネシウム、シリコン、チタン、水素化チタン、ジルコニウムが挙げられる。これらの燃料成分のうちの一種のみが含有されていてもよいし、二種以上が含有されていてもよい。
【0025】
発熱組成物中に上記マグナリウム以外の燃料成分を含有させる場合、発熱量の観点から、その含有量をマグナリウムの含有量よりも少なくする(等量未満とする)ことが好ましく、マグナリウムの含有量の80%以下とすることがより好ましい。さらに、発熱組成物中におけるマグナリウムと上記マグナリウム以外の燃料成分とを合わせた含有比率を10〜50質量%とすることが好ましい。
【0026】
そして、第1実施形態の発熱組成物は、組成物中の含有水分比率が1.0質量%以下(0.01〜1.0質量%の範囲)となるように調整されている。含有水分比率を1.0質量%以下に設定することにより、着火性能や発熱性能といった燃焼性能を好適に確保することができる。
【0027】
第1実施形態の発熱組成物は、円柱状や角柱状等のペレット状に成形した成形体とすることができる。上記成形体は次のようにして成形される。まず、発熱組成物の構成成分であるマグナリウム、酸化剤、及び結合剤に水を主成分とする溶剤を添加し、これらを混合・混練する(混合工程)。上記水を主成分とする溶剤とは、水のみからなる溶剤、又は構成成分の50質量%以上が水である溶剤であって、残余の成分として一種若しくは二種以上の水溶性有機溶剤(例えば、メタノールやエタノール等のアルコール系有機溶剤、アセトン等のケトン系有機溶剤)を含有する溶剤を意味する。なお、発熱組成物を押出成型法により成型する際における成型物の表面平滑性を向上させる観点から、溶剤中に水溶性有機溶剤を含有させる場合がある。
【0028】
次いで、得られた混合物を押出成形法を用いてペレット状に成形した後(成形工程)、含有水分比率が1.0質量%以下になるように乾燥処理を行う(乾燥工程)ことにより発熱組成物の成形体を得ることができる。上記成形体を乾燥させる方法としては、例えば恒温槽や真空デシケータによる乾燥方法を好適に用いることができる。
【0029】
第1実施形態の発熱組成物は、車両に搭載されるエアバッグ用のガス発生器、特にハイブリッドインフレータに好適に適用することができる。この場合、第1実施形態の発熱組成物は、着火性能に優れるとともに発熱量が高いことから、ハイブリッドインフレータ内の貯蔵ガスを速やかに高温にして、膨張した貯蔵ガスをエアバッグ内に供給することができる。なお、上記エアバッグとしては、例えば運転席用のエアバッグ、助手席用のエアバッグ、サイドエアバッグ、カーテンエアバッグ、及びニーエアバッグが挙げられる。また、第1実施形態の発熱組成物は、エアバッグ用のガス発生器の他、プリテンショナー用のガス発生器、ニーボルスター用のガス発生器、ボンネットの位置を変更するためのポップアップ装置用のガス発生器に適用してもよい。さらに、第1実施形態の発熱組成物は、雷管やスクイブのエネルギーを他の発熱組成物に伝えるためのエンハンサ剤又はブースターと呼ばれる着火剤として適用してもよい。
【0030】
次に、第1実施形態における作用効果について以下に記載する。
(1)発熱組成物は、マグナリウム、酸化剤、結合剤、及び水を主成分とする溶剤を混合した混合物を乾燥させてなるものであって、結合剤がセルロース系水溶性ポリマー及びビニル系水溶性ポリマーから選ばれる少なくとも一種の結合剤であり、含有水分比率が1.0質量%以下である。
【0031】
上記構成によれば、マグナリウム、酸化剤、結合剤を混合するための溶剤として、水を主成分とする溶剤を使用するとともに、これに伴って結合剤として水溶性の結合剤を使用している。これにより、有機溶剤のみからなる溶剤を使用した場合と比較して、製造時の取り扱いを容易に行なうことができる。また、溶剤として水を主成分とする溶剤を用いた際に生じる着火性能、特に低温(−40℃)における着火性能の低下は、発熱組成物中の含有水分比率を1.0質量%以下にすることにより抑制することができる。
【0032】
[第2実施形態]
以下、本発明を具体化した第2実施形態の発熱組成物を詳細に説明する。なお、第2実施形態の発熱組成物については第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0033】
第2実施形態の発熱組成物は、(A2)ボロン、(B)酸化剤、(C)結合剤、及び5−アミノテトラゾールを含有し、含有水分比率が0.7質量%以下である。そして、(A1)マグナリウムに代えて(A2)ボロンを含有する点、5−アミノテトラゾールを含有する点、含有水分比率が0.7質量%以下である点において第1実施形態の発熱組成物と異なる。
【0034】
第2実施形態の発熱組成物においては燃料成分として(A2)ボロンが含有される。このボロンは、好ましくは平均粒径0.1〜100μmの範囲、より好ましくは0.1〜50μmの範囲、さらに好ましくは0.1〜5.0μmの範囲の粉末状態で発熱組成物中に含有される。そして、発熱組成物中におけるボロンの含有比率は、好ましくは10〜50質量%であり、より好ましくは14〜50質量%である。
【0035】
また、第2実施形態の発熱組成物においては第2の燃料成分として5−アミノテトラゾールが含有される。5−アミノテトラゾールはボロンとともに発熱組成物中に含有されることにより、発熱組成物の着火性能の向上に寄与する。5−アミノテトラゾールは、好ましくは平均粒径0.1〜100μmの範囲、より好ましくは1〜50μmの範囲、さらに好ましくは1〜10μmの範囲の粉末状態で発熱組成物中に含有される。そして、発熱組成物中における5−アミノテトラゾールの含有比率は、好ましくは0.01質量%以上5質量%未満であり、より好ましくは3〜4.5質量%である。
【0036】
第2実施形態の発熱組成物に含有される(B)酸化剤については、第1実施形態の発熱組成物に含有される(B)酸化剤と同様である。そして、発熱組成物中における酸化剤の含有比率は、40〜89.5質量%であることが好ましく、40〜85.5質量%であることがより好ましい。
【0037】
第2実施形態の発熱組成物に含有される(C)結合剤については、第1実施形態の発熱組成物に含有される(C)結合剤と同様である。そして、発熱組成物中における結合剤の含有比率は、0.5〜10質量%であることが好ましい。なお、各成形方法に対応する結合剤の含有比率については第1実施形態の発熱組成物に含有される結合剤と同様である。
【0038】
さらに、第2実施形態の発熱組成物においても、第1実施形態の発熱組成物と同様に公知の各種添加剤や他の燃料成分を含有することができる。
そして、第2実施形態の発熱組成物は、組成物中の含有水分比率が0.7質量%以下(0.01〜0.7質量%の範囲)となるように調整されている。含有水分比率を0.7質量%以下に設定することにより、着火性能や発熱性能といった燃焼性能を好適に確保することができる。
【0039】
第2実施形態の発熱組成物の製造方法については、上記混合工程において混合される成分の組成が異なる点、上記乾燥工程において含有水分比率が0.7質量%以下になるように乾燥処理を行う点を除いて第1実施形態の発熱組成物の製造方法と同様である。また、第2実施形態の発熱組成物の適用範囲については、第1実施形態の発熱組成物と同様である。
【0040】
次に、第2実施形態における作用効果について以下に記載する。
(2)発熱組成物は、ボロン、酸化剤、結合剤、5−アミノテトラゾール、及び水を主成分とする溶剤を混合した混合物を乾燥させてなるものであって、結合剤がセルロース系水溶性ポリマー及びビニル系水溶性ポリマーから選ばれる少なくとも一種の結合剤であり、含有水分比率が0.7質量%以下である。
【0041】
上記構成によれば、ボロン、酸化剤、結合剤、5−アミノテトラゾールを混合するための溶剤として、水を主成分とする溶剤を使用するとともに、これに伴って結合剤として水溶性の結合剤を使用している。これにより、有機溶剤のみからなる溶剤を使用した場合と比較して、製造時の取り扱いを容易に行なうことができる。また、溶剤として水を主成分とする溶剤を用いた際に生じる着火性能、特に低温(−40℃)における着火性能の低下は、発熱組成物中の含有水分比率を0.7質量%以下にすることにより抑制することができる。
【0042】
なお、燃料成分として用いているボロンは、マグナリウムと比較して単位質量当たりの発熱量が大きい。そのため、ボロンを用いた場合には、マグナリウムよりも少量にてマグナリウムと同等の発熱量を得ることが可能であり、発熱組成物全体の質量を低く抑える、即ち発熱組成物の軽量化を図ることができる。
【0043】
一方、ボロンはマグナリウムよりも燃焼するために多量の酸素を必要とすることから、ボロンを用いた場合には、マグナリウムを用いた場合よりも燃焼時の環境(酸素バランス)をより厳密に調整することが求められる。そのため、インフレータの容量等の問題により、燃焼時の環境(酸素バランス)を十分に確保することが難しい場合には、燃料成分としてマグナリウムを用いることが好ましい。このように、求められる発熱量や使用環境等に応じて、燃料成分としてのマグナリウムとボロンとを適宜使い分ければよい。
【0044】
次に、上記各実施形態から把握できる技術的思想について記載する。
(イ) 前記(B)酸化剤は、アルカリ金属の硝酸塩又は過塩素酸塩、及びアルカリ土類金属の硝酸塩又は過塩素酸塩から選ばれる少なくとも一種である上記発熱組成物。
【0045】
(ロ) (A1)マグナリウム、(B)酸化剤、(C)セルロース系水溶性ポリマー及びビニル系水溶性ポリマーから選ばれる少なくとも一種の結合剤、並びに水を主成分とする溶剤を混合した混合物を押出成形により所定形状に成形した後、乾燥させてなり、含有水分比率が1.0質量%以下であることを特徴とする発熱組成物。
【0046】
(ハ)(A1)マグナリウム、(B)酸化剤、並びに(C)セルロース系水溶性ポリマー及びビニル系水溶性ポリマーから選ばれる少なくとも一種の結合剤を、水を主成分とする溶剤を用いて混合する混合工程と、混合工程にて得られた混合物を押出成形により所定形状に成形する成形工程と、成形工程にて得られた成形体を含有水分比率が1.0質量%となるように乾燥させる乾燥工程とを有することを特徴とする発熱組成物の製造方法。
【0047】
(ニ)(A1)マグナリウム、(B)酸化剤、(C)セルロース系水溶性ポリマー及びビニル系水溶性ポリマーから選ばれる少なくとも一種の結合剤、ボロン、並びに水を主成分とする溶剤を混合した混合物を乾燥させてなる発熱組成物であって、前記ボロンの含有量が前記(A1)マグナリウムに対して等量未満であり、組成物全体に対して、前記(A1)マグナリウムと前記ボロンとを合わせて10〜50質量%、前記(B)酸化剤を40〜89.5質量%、前記(C)セルロース系水溶性ポリマー及びビニル系水溶性ポリマーから選ばれる少なくとも一種の結合剤を0.5〜10質量%含有し、含有水分比率が1.0質量%以下であることを特徴とする発熱組成物。
【実施例】
【0048】
次に、各試験例を挙げて上記実施形態をさらに具体的に説明する。
<試験1−1.着火性能に関する試験>
発熱組成物の着火性能を評価した。燃料成分としての(A1)マグナリウム粉末、(B)酸化剤、及び(C)結合剤を、表1に示す比率(質量比)で配合した配合物100gに対して水を主成分とする溶剤(蒸留水:エタノール=4:1)を20g添加し、これを混合・混練した。なお、本試験においては平均粒径50μmのマグナリウム粉末を用いた。そして、得られた混合物を押出成形によりペレット状に成形するとともに、これを乾燥させて外径1.0mm、厚さ2.5mmの円柱状の発熱組成物(試験例1〜4)を得た。試験例1〜4は組成を同一として乾燥時間のみを異ならせたものであり、含有水分比率がそれぞれ異なっている。そして、得られた各試験例について、その着火時間を測定した。
【0049】
着火時間の測定は、次のようにして行った。各試験例の発熱組成物の成形体2.0gを点火器(日本化薬社製)に充填した。上記点火器を−40℃にて1時間放置した後、内部の圧力変化を測定可能な燃焼室(27cc)を備えるボンブ試験装置に上記点火器を取り付けた。上記ボンブ試験装置は、例えば特開2002−012492号公報の図9に示されている。次いで、ボンブ試験装置に取り付けた点火器を所定の着火条件(温度:−40℃、電流値:1.2mA、通電時間:2ミリ秒)にて着火させて、上記燃焼室内にガスを噴射させた。そして、燃焼室内の経時的な圧力変化を測定するとともに、最大圧力(Pmax)の5%に達するまでの時間を立ち上がり時間(着火時間)として導出した。その結果を表1に示す。
【0050】
【表1】

表1に示すように、含有水分比率が1.0質量%以下である試験例1〜3は、着火時間が1.1ミリ秒以内であり、着火性能に優れていることが分かる。一方、含有水分比率が1.1質量%である試験例4は着火時間が1.1ミリ秒を超えており、試験例1〜3と比較して着火性能が低下していることが分かる。
【0051】
<試験1−2.発熱性能に関する試験(1)>
発熱組成物の発熱性能を評価した。燃料成分としての(A1)マグナリウム粉末、(B)酸化剤、(C)結合剤を表2に示す比率(質量比)で配合して、試験例5〜13の発熱組成物を得た。なお、本試験においては平均粒径50μmのマグナリウム粉末を用いた。また、本試験においては、溶剤を添加して混合するとともにペレット状に成形するという作業を行ってはおらず、マグナリウム粉末、酸化剤、及び結合剤を混合したものを、そのまま試験例5〜13とした。そして、得られた各試験例について、その発熱性能を測定した。
【0052】
発熱性能の測定は、断熱型熱量計(島津製作所社製)を用いて行った。まず、試料燃焼用ボンブ内の試料皿に各試験例の発熱組成物1gを計量した。この発熱組成物に点火線を接触させた状態として試料燃焼用ボンブを密閉し、試料燃焼用ボンブ内をアルゴンガスにより置換した。次いで、内部に内槽水が満たされた断熱容器中に試料燃焼用ボンブを投入し、点火線を通電させて着火させ、発熱組成物を完全燃焼させた。そして、断熱容器内の内槽水の上昇温度を測定し、同温度を用いて下記式(1)に従って発熱量を算出した。
【0053】
H=(t・W−e)/S ・・・(1)
H:発熱量(J/g)
t:内槽水の温度上昇(K)
W:標準物質(安息香酸)の燃焼から求めた内槽水の熱容量と熱量計の熱当量を加えたもの(J/K)
e:点火線等の発熱量補正値(J/g)
S:試験例の質量(g)
【0054】
【表2】

表2に示すように、マグナリウム粉末と酸化剤との配合比を最適化することにより、6400J/g以上の高い発熱量を得ることができることが分かる。
【0055】
<試験1−3.発熱性能に関する試験(2)>
発熱組成物の発熱性能を評価した。燃料成分としての(A1)マグナリウム粉末、(B)酸化剤、(C)結合剤、及びマグナリウム以外の燃料成分としてのボロン粉末を表3に示す比率(質量比)で配合して、試験例14〜16の発熱組成物を得た。なお、本試験においては平均粒径50μmのマグナリウム粉末、及び平均粒径0.9μmのボロン粉末を用いた。また、本試験においても、溶剤を添加して混合するとともにペレット状に成形するという作業を行ってはいない。そして、得られた各試験例について、上記試験1−2と同様の方法にて、その発熱性能を測定した。
【0056】
【表3】

表3に示すように、マグナリウム粉末に加えてボロン粉末を含有させた場合にも、高い発熱量を得ることができることが分かる。とくに、マグナリウム粉末に対して、ボロン粉末を等量未満で含有する試験例15及び16においては、6400J/g以上の高い発熱量を得ることができた。なお、データは示していないが、マグナリウム粉末に加えてボロン粉末を含有させた場合にも、試験1−1と同様の試験において、試験例1〜3と同等の着火性能を示す試験結果が得られている。
【0057】
<試験2−1.着火性能に関する試験>
発熱組成物の着火性能を評価した。燃料としての(A2)ボロン粉末、(B)酸化剤、(C)結合剤、及び5−アミノテトラゾールを、表4に示す比率(質量比)で配合した配合物100gに対して水を主成分とする溶剤(蒸留水:エタノール=4:1)を17g添加し、これを混合・混練した。なお、本試験においては平均粒径0.9μmのボロン粉末を用いた。そして、得られた混合物を押出成形によりペレット状に成形するとともに、これを乾燥させた後、所定量の水分を付与して外径1.0mm、厚さ2.5mmの円柱状の発熱組成物(試験例17〜20)を得た。試験例17〜20は組成を同一として、乾燥後の水分付与量のみを異ならせたものであり、含有水分比率がそれぞれ異なっている。そして、得られた各試験例について、上記試験1−1と同様の方法にて、その着火時間を測定した。その結果を表4に示す。
【0058】
【表4】

表4に示すように、含有水分比率が0.7質量%以下である試験例17及び18は、着火時間が1.1ミリ秒以内であり、着火性能に優れていることが分かる。一方、含有水分比率がそれぞれ0.96質量%及び2.07質量%である試験例19及び20は着火時間が1.1ミリ秒を超えており、試験例17及び18と比較して着火性能が低下していることが分かる。
【0059】
<試験2−2.発熱性能に関する試験>
燃料成分としての燃料としての(A2)ボロン粉末、(B)酸化剤、(C)結合剤、及び5−アミノテトラゾールを表5に示す比率(質量比)で配合して、試験例21〜23の発熱組成物を得た。なお、本試験においては平均粒径0.9μmのボロン粉末を用いた。また、本試験においては、溶剤を添加して混合するとともにペレット状に成形するという作業を行ってはおらず、ボロン、5−アミノテトラゾール、酸化剤、及び結合剤を混合したものを、そのまま試験例21〜23とした。そして、得られた各試験例について、上記試験1−2と同様の方法にて、その発熱性能を測定した。
【0060】
【表5】

表5に示すように、燃料成分としてボロン粉末を含有させた場合にも、高い発熱量を得ることができることが分かる。とくに、ボロン粉末を14質量%以上含有する試験例22及び23においては、6400J/g以上の高い発熱量を得ることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A1)マグナリウム、(B)酸化剤、(C)セルロース系水溶性ポリマー及びビニル系水溶性ポリマーから選ばれる少なくとも一種の結合剤、並びに水を主成分とする溶剤を混合した混合物を乾燥させてなり、含有水分比率が1.0質量%以下であることを特徴とする発熱組成物。
【請求項2】
組成物全体に対して、前記(A1)マグナリウムを10〜50質量%、前記(B)酸化剤を40〜89.5質量%、前記(C)セルロース系水溶性ポリマー及びビニル系水溶性ポリマーから選ばれる少なくとも一種の結合剤を0.5〜10質量%含有することを特徴とする請求項1に記載の発熱組成物。
【請求項3】
前記(A1)マグナリウムに対して等量未満のボロンがさらに含有されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の発熱組成物。
【請求項4】
(A1)マグナリウム、(B)酸化剤、並びに(C)セルロース系水溶性ポリマー及びビニル系水溶性ポリマーから選ばれる少なくとも一種の結合剤を、水を主成分とする溶剤を用いて混合する混合工程と、混合工程にて得られた混合物を含有水分比率が1.0質量%以下となるように乾燥させる乾燥工程とを有することを特徴とする発熱組成物の製造方法。
【請求項5】
前記混合工程において、前記(A1)マグナリウムに対して等量未満のボロンをさらに混合することを特徴とする請求項4に記載の発熱組成物の製造方法。
【請求項6】
(A2)ボロン、(B)酸化剤、(C)セルロース系水溶性ポリマー及びビニル系水溶性ポリマーから選ばれる少なくとも一種の結合剤、5−アミノテトラゾール、並びに水を主成分とする溶剤を混合した混合物を乾燥させてなり、含有水分比率が0.7質量%以下であることを特徴とする発熱組成物。
【請求項7】
(A2)ボロン、(B)酸化剤、(C)セルロース系水溶性ポリマー及びビニル系水溶性ポリマーから選ばれる少なくとも一種の結合剤、並びに5−アミノテトラゾールを、水を主成分とする溶剤を用いて混合する混合工程と、混合工程にて得られた混合物を含有水分比率が0.7質量%以下となるように乾燥させる乾燥工程とを有することを特徴とする発熱組成物の製造方法。

【公開番号】特開2012−180259(P2012−180259A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−54585(P2011−54585)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】