説明

発芽バキュロウィルスを用いたG蛋白質共役型受容体のシグナル伝達の検出方法

本発明の目的は、発芽型バキュロウイルスを用いてリガンド刺激依存性のcAMP産生を測定することにより、GPCR(G蛋白質共役型受容体)のシグナル伝達を検出する方法を開発することである。本発明によれば、G蛋白質共役型受容体蛋白質をコードする遺伝子、G蛋白質をコードする遺伝子、及びアデニル酸シクラーゼをコードする遺伝子を含む少なくとも1種の組換えバキュロウィルスを感染させた宿主を培養し、該宿主から放出される発芽バキュロウイルスを回収し、該発芽バキュロウイルスとリガンドとを接触させ、生成するcAMPをアッセイすることを含む、G蛋白質共役型受容体のシグナル伝達を検出する方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、発芽バキュロウィルスを用いたG蛋白質共役型受容体のシグナル伝達を検出する方法に関する。より詳細には、本発明は、宿主から放出される発芽バキュロウイルス中にG蛋白質共役型受容体蛋白質、G蛋白質及びアデニル酸シクラーゼを同時発現させ、この発芽バキュロウイルスを用いてG蛋白質共役型受容体のシグナル伝達を検出する方法に関する。
【背景技術】
バキュロウイルス発現系はバキュロウイルスの高発現蛋白質、特には多角体蛋白質(polyhedrin)遺伝子のプロモーターなどを利用して、目的遺伝子を昆虫細胞(Sf9細胞など)で組換えを起こさせて、大量に発現させる系である。多角体遺伝子に組換えタンパク質を導入し、発現したタンパク質を精製する系バキュロの発現系は、大腸菌やイースト菌を用いる発現系に比べ、膜蛋白質などの疎水性領域を多く持つ蛋白質でも発現タンパク質が凝集を作りにくく、また糖鎖の付加や金属イオンの配位などタンパクの機能に必要な翻訳後修飾がはいるなど利点が多いため膜受容体蛋白質の発現系として多用されている(Tate CG,Grisshammer R., Trends in Biotechnology 1996,14,pp426−430,Heterologous expression of G−protein−coupled receptors;及びGrisshammer R,Tate CG,Quarterly Reviews of Biophysics 1995,28,pp315−422,Overexpression of integral membrane proteins for structural studies)
バキュロウイルスには多角体蛋白質を被った多角体ウイルスとなって核内に存在する他にもう一つの生活環があり、ウイルスが増殖して他の細胞や個体に感染するために,発芽型のウイルス(Budded virus)となってSf9細胞の細胞膜を被って細胞外にでる。この際に上記の多角体蛋白質に組換えた7回膜貫通型受容体がSf9の細胞膜に発現され、発芽したバキュロウイルスのエンベロープ上に回収されることがLoiselらによって報告された(Loisel TP,Ansanay H,St−Onge S,Gay B,Boulanger P,Strosberg AD,Marullo S,Bouvier M.,Nat Biotechnol.1997,Nov.15(12),pp1300−1304,Recovery of homogeneous and functional beta2−adrenergic receptors from extracellular baculovirus particles)。宿主細胞に発現された7回膜貫通型受容体は糖鎖構造など機能的でないものが多いのにくらべ、ウイルスエンベロープ上に回収される受容体は機能的な蛋白質のみであることが報告されている。
またSREBP(sterol regulatory element binding protein)2、HMG−CoA(ヒドロキシメチルクルタリルコエンザイムA)還元酵素、SCAP(SREBP cleavage activating protein)、S1P(site 1 protease)などの小胞体(ER)膜あるいはゴルジ体膜に分布する細胞内コレステロールフィードバック調節に関与する膜蛋白質群も機能を保ったままウイルスエンベロープ上に発現されることが報告された(Ishihara,G.,Shirai,H.,Yamaguchi,M.,Fukuda,R.,Hamakubo,T.,and Kodama,T.,Atherosclerosis,151,p290,2000,Expression of cholesterol regulatory proteins on extracellular baculoviruses)。
一方、G蛋白質共役型受容体(GPCR;G−protein coupled receptor)は創薬のターゲットとして重要であり、ゲノムベースで約700種と報告され(Venter JG,Adams MD,Myers EW,et al.,Science 291,pp1304−1351,2001,The sequence of the human genome)、ホルモンのシグナル伝達機構の研究も進んでいる(Tate CG,Grisshammer R.,Trends in Biotechnology 1996,14,pp426−430,Heterologous expression of G−protein−coupled receptors)。GPCRは膜貫通ドメインを7つもち3量体G蛋白質と共役している。リガンド結合の際に共役(カップリング)するG蛋白質αサブユニットの種類は受容体ごとに決まっており,例えばロイコトリエンB4受容体の場合はGiあるいはGqである(Igarashi T,Yokomizo T,Tsutsumi O,Taketani Y,Shimizu T and Izumi T.,Eur.J.Biochem.,259,pp419−425,1999,Characterization of the leukotiene B4 receptor in porcine leukocytes Separation and reconstitution with heterotrimeric GTP−binding proteins)。アドレナリン受容体の場合はGsが共役することが知られており、Loiselらの報告によるとSf9細胞由来のGsが共役して発現し、発芽ウイルス上にもコンプレックスを形成しているとされている(Loisel TP,Ansanay H,St−Onge S,Gay B,Boulanger P,Strosberg AD,Marullo S,Bouvier M.,Nat Biotechnol.1997,Nov.15(12),pp1300−1304,Recovery of homogeneous and functional beta2−adrenergic receptors from extracellular baculovirus particles)。Sf9細胞には哺乳類細胞と同様にG蛋白質の各種のアイソフォームが発現しているとされているが、その量はG蛋白質の種類によって差がある(Leopoldt D,Harteneck C,Nurnberg R,Naunyn−Schmiedeberg’s Arch Pharmacol,356,pp216−224,1997,G Proteins endogenously expressed in Sf9 cells:interactions with mammalian histamine receptors)。GsはSf9細胞には比較的多く存在しているため、Loiselらの系ではウイルスに発現したアドレナリン受容体が昆虫細胞由来のGsと共役し機能的な膜受容体が発現されたが、Sf9には比較的量が少ないGi等の他のGαアイソフォームと共役する受容体(例えば、ロイコトリエンB4受容体など)の場合には、そのまま発現させても親和性の高い機能的な受容体を得ることは困難である。
また、特開2003−52370号公報には、G蛋白質などの相互作用蛋白質をコードする遺伝子及びG蛋白質共役型受容体蛋白質などの膜型受容体蛋白質をコードする遺伝子を含む少なくとも1種の組換えバキュロウィルスを感染させた宿主を培養し、該宿主から放出される発芽バキュロウイルス中に該相互作用蛋白質と該膜型受容体蛋白質とを同時発現させることを含む、機能を有する膜型受容体蛋白質を発現する方法が記載されている。しかしながら、発芽型バキュロウイルスを用いてリガンド刺激依存性のcAMP産生を測定することにより、G蛋白質共役型受容体(GPCR)のシグナル伝達を検出できることについては現在までの所、全く報告がない。
【発明の開示】
本発明は上記した問題点を解消することを解決すべき課題とした。即ち、本発明は、発芽型バキュロウイルスを用いてリガンド刺激依存性のcAMP産生を測定することにより、GPCR(G蛋白質共役型受容体)のシグナル伝達を検出する方法を開発することを解決すべき課題とした。
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特開2003−52370号公報に記載したバキュロウイルスへ機能的なGPCRとG蛋白質を発現する技術を用いて、ドパミン受容体D1、三量体G蛋白質のGαs、Gβ、Gγサブユニット、更にエフェクターであるアデニル酸シクラーゼの各遺伝子を有するリコンビナントウイルスの共感染により、発芽型バキュロウイルスのエンベロープ上に受容体複合体を再構成し、リガンドであるドパミン刺激により活性化されたG蛋白質とアデニル酸シクラーゼとの相互作用を、活性化アデニル酸シクラーゼによるcAMP産生を測定することによって、リガンド結合による受容体を介したシグナル伝達を測定できることを実証した。本発明はこれらの知見に基づいて完成したものである。
即ち、本発明によれば、G蛋白質共役型受容体蛋白質をコードする遺伝子、G蛋白質をコードする遺伝子、及びアデニル酸シクラーゼをコードする遺伝子を含む少なくとも1種の組換えバキュロウィルスを感染させた宿主を培養し、該宿主から放出される発芽バキュロウイルスを回収し、該発芽バキュロウイルスとリガンドとを接触させ、生成するcAMPをアッセイすることを含む、G蛋白質共役型受容体のシグナル伝達を検出する方法が提供される。
本発明の別の態様によれば、G蛋白質共役型受容体蛋白質をコードする遺伝子を含む組換えバキュロウィルス、G蛋白質をコードする遺伝子を含む組換えバキュロウィルス、及びアデニル酸シクラーゼをコードする遺伝子を含む組換えバキュロウィルスを感染させた宿主を培養し、該宿主から放出される発芽バキュロウイルスを回収し、該発芽バキュロウイルスとリガンドとを接触させ、生成するcAMPをアッセイすることを含む、G蛋白質共役型受容体のシグナル伝達を検出する方法が提供される。
好ましくは、宿主は昆虫細胞又は昆虫幼虫である。
本発明においては、被験物質の存在下において発芽バキュロウイルスとリガンドとを接触させ、生成するcAMPをアッセイすることによってG蛋白質共役型受容体蛋白質とリガンドとの相互作用を分析し、該相互作用を促進又は阻害する物質をスクリーニングすることができる。
本発明の別の側面によれば、上記のスクリーニングにより得られる、G蛋白質共役型受容体蛋白質とリガンドとの相互作用を促進又は阻害する物質が提供される。
本発明のさらに別の側面によれば、G蛋白質共役型受容体蛋白質をコードする遺伝子、G蛋白質をコードする遺伝子、及びアデニル酸シクラーゼをコードする遺伝子を含む少なくとも1種の組換えバキュロウィルスを感染させた宿主から放出される発芽バキュロウイルスであって、G蛋白質共役型受容体蛋白質、G蛋白質及びアデニル酸シクラーゼを機能的に提示している発芽バキュロウイルスが提供される。好ましくは、宿主は昆虫細胞又は昆虫幼虫である。
【図面の簡単な説明】
図1は、受容体・G蛋白質・エフェクター蛋白質(アデニル酸シクラーゼ)共発現ウイルスでのリガンド刺激に伴うエフェクターの活性化を測定した結果を示す。ドパミン受容体(DRD1)、Gαsβγ、アデニレートシクラーゼ(ACVI)を共発現し、ドパミンで刺激し、Gαを活性化し、GαがACVIに結合し、ACVIが活性化し、cAMPが産生する。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明の実施態様及び実施方法について詳細に説明する。
本発明は、発芽型バキュロウイルスによる膜蛋白質複合体の発現系を用いて、ウイルスにおけるリガンド刺激依存性のcAMP産生を測定することにより、GPCR(G蛋白質共役型受容体)のシグナル伝達を検出する系に関するものである。
本明細書の下記実施例においては、特開2003−52370号公報に記載のバキュロウイルスへ機能的なGPCRとG蛋白質を発現する技術を利用して、ドパミン受容体D1、三量体G蛋白質のGα、Gβ、Gγサブユニット、更にエフェクターであるアデニル酸シクラーゼの各遺伝子を有するリコンビナントウイルスの共感染により、発芽型バキュロウイルスのエンベロープ上に受容体複合体を再構成し、リガンドであるドパミン刺激により活性化されたG蛋白質とアデニル酸シクラーゼとの相互作用を、活性化アデニル酸シクラーゼによるcAMP産生を測定することによって、リガンド結合による受容体を介したシグナル伝達を測定することに成功した。
本発明によるG蛋白質共役型受容体のシグナル伝達を検出する方法は、G蛋白質共役型受容体蛋白質をコードする遺伝子、G蛋白質をコードする遺伝子、及びアデニル酸シクラーゼをコードする遺伝子を含む少なくとも1種の組換えバキュロウィルスを感染させた宿主を培養し、該宿主から放出される発芽バキュロウイルスを回収し、該発芽バキュロウイルスとリガンドとを接触させ、生成するcAMPをアッセイすることを特徴とするものである。本発明では、上記のように3種類の蛋白質を共発現させるものであるが、上記3種類の蛋白質をコードする遺伝子は同一の組換えバキュロウィルス中に含めてもよいし、異なる組換えバキュロウイルス中に含めてもよい。
本明細書で言うG蛋白質共役型受容体とは、リガンドと相互作用(結合)する能力を有する受容体であって、リガンドとの相互作用に起因する情報をG蛋白質と共役することにより細胞内に伝達することができる蛋白質である。
G蛋白質共役型受容体(GPCRとも略記される)は、7回膜貫通型受容体とも呼ばれ、ホルモンや光、におい、味などの刺激に反応してシグナルを細胞内に伝達する膜型受容体である。ヒトゲノム上ににおい受容体を含めて700種類程度の遺伝子が存在していることが知られている。これらの多くは、ホルモンやケモカインの受容体であることから、創薬のターゲットとして重要視されている。GPCRはリガンドと結合して三量体G蛋白質を活性化し、三量体G蛋白質のGαサブユニットは解離して、エフェクター蛋白質と相互作用を起こしてシグナルを伝播する。GPCRはG蛋白質と共役することによって高親和性を保っており、このシグナルを検出することは、受容体に対するリガンドの特定や阻害剤のスクリーニングに重要である。
Gタンパク質共役型受容体においては、三量体Gタンパク質と受容体タンパク質との共役に加えて、βアドレナリン受容体とβ−アレスチン(β−arrestin)あるいはGタンパク質共役型受容体キナーゼ(G−protein coupled receptor kinase,GRK)との相互作用、メタボトロピックグルタミン酸受容体(mglu)とホーマータンパク質(Homer)との相互作用、βアドレナリン受容体とNa、H交換因子(Na,Hexchange factor)との相互作用など(Heuss,C.and Gerber,U.G−protein−independent signaling by G−protein−coupled receptors. Trends Neurosci.(2000)23,469−475)が挙げられる。
また、メタボトロピックグルタミン酸受容体(mglu)とRGS4、インターロイキン8B受容体とRGS12との結合など、RGS(Regulators of G−protein signaling)タンパク質とよばれるGαサブユニットに結合するRGSドメインを持つ一群の蛋白質(Hepler,J.R.Emerging roles for RGS proteins in cell signalling.TiPS(1999)20,376−382)とGタンパク質あるいはその共役型受容体との相互作用がある。
G蛋白質の具体例としては、3量体G蛋白質が挙げられる。G蛋白質のαサブユニットとして次のものが挙げられる。GsクラスのGsα、Golfα。GiクラスのGi1α、Gi2α、Gi3α、Go1α、Go2α、Gt1α、Gt2α、Ggustα。GqクラスのGqα、G11α、G14α、G15α、G16α。G12クラスのG12α、G13α。またこれらαサブユニットと三量体を形成するβおよびγサブユニットとして、それぞれβ1からβ5までおよびγ1からγ11まで挙げられる。
G蛋白質共役型受容体蛋白質(そのリガンドを括弧内に示す)の具体例としては、以下のものが挙げられる。
(1)ロドプシン/βアドレナリン受容体様Gタンパク質共役型受容体タンパク質として、BLT1(ロイコトリエンB),ET,ET(エンドセリン),AT1(アンギオテンシン),EDG(スフィンゴシンリン酸),CCR,CXCR(ケモカイン),α、α、β、β、β(ノルエピネフリン)、M,M,M(アセチルコリン)、5−HT1A(セロトニン)、NK−1(サブスタンスP)、Y(ニューロペプチドY)、B,B(ブラジキニン)、V1A(バソプレッシン)、CB1,CB2(アナンダマイド),D1,D2,D3(ドーパミン),におい受容体,MT1,MT2,MT3(メラトニン),光受容体などが挙げられる。
(2)グルカゴン/VIP(Vasoactive intestinal peptide)/カルシトニン受容体様Gタンパク質共役型受容体タンパク質として、カルシトニン受容体(カルシトニン)、VIP,VIP(Vasoactive intestinal peptide)、CRF1(corticotropin−releasing factor),PTH受容体(パラトルモン)などが挙げられる。
(3)代謝型神経伝達物質/カルシウム受容体様Gタンパク質共役型受容体タンパク質として、mglu,mglu(グルタミン酸)、GABA(γ−アミノ酪酸),味受容体などが挙げられる。
(Gether,U.Uncovering molecular mechanisms involved in activation of G protein−coupled receptors.Endocrine Reviews(2000)21,90−113)(1998 Receptor and Ion Channel Nomenclature Supplement,Trends in Pharmacological Science,1998)
本発明では、上記したような発現させるための蛋白質をコードする遺伝子を含む少なくとも1種の組換えバキュロウィルスを使用する。
昆虫に感染して病気を起こすウイルスであるバキュロウイルスは、環状の二本鎖DNAを遺伝子としてもつエンベロープウイルスで、鱗翅目、膜翅目および双翅目などの昆虫に感受性を示す。バキュロウイルスの中で、感染細胞の核内に多角体(ポリヒドラ)と呼ばれる封入体を大量につくる一群のウイルスが核多角体病ウイルス(NPV)である。多角体は、分子量31kDaのポリヘドリンタンパクより構成され、感染後期に大量につくられその中に多数のウイルス粒子を埋め込んでいる。多角体はウイルスが自然界で生存するためには必須であるが、ウイルスの増殖そのものには必要ないので、多角体遺伝子の代わりに発現させたい外来遺伝子を挿入してもウイルスは全く支障なく感染し増殖する。
本発明で用いられるバキュロウイルスとしては、NPVのキンウワバ亜科のオートグラファ・カリフォルニカ(Autographa californica)NPV(AcNPV)やカイコのボンビックス・モリ(Bombyx mori)NPV(BmNPV)などのウイルスがベクターとして用いることができる。
AcNPVの宿主(感染、継代細胞)としてはスポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)細胞(Sf細胞)などが挙げられ、BmNPVの宿主(感染、継代細胞)としてはBmN4細胞などが挙げられる。Sf細胞は、BmN4細胞などに比べ増殖速度が速いこと、また、AcNPVはヒト肝細胞およびヒト胎児腎細胞などにも感染する能力を有することから、AcNPV系のベクターが好ましい。
宿主としては、Spodoptera Frugiperda細胞系統Sf9およびSf21などがS.frugiperda幼虫の卵巣組織から確立しており、Invitrogen社あるいはPharmingen社(San Diego,CA)、又はATCCなどから入手可能である。さらに、生きている昆虫幼虫を宿主細胞系として使用することもできる。
本発明で用いる組換えウイルスを構築する方法は、常法に従って行えばよく、例えば次の手順で行うことができる。
先ず、発現させたい蛋白質の遺伝子(即ち、G蛋白質共役型受容体蛋白質をコードする遺伝子、G蛋白質をコードする遺伝子、及びアデニル酸シクラーゼをコードする遺伝子)をトランスファーベクターに挿入して組換えトランスファーベクターを構築する。
トランスファーベクターの全体の大きさは一般的には数kb〜10kb程度であり、そのうちの約3kbはプラスミド由来の骨格であり、アンピシリン等の抗生物質耐性遺伝子と細菌のDNA複製開始のシグナルを含んでいる。通常のトランスファーベクターではこの骨格以外に、多角体遺伝子の5’領域と3’領域をそれぞれ数kbずつ含み、以下に述べるようなトランスフェクションを行った際に、この配列間で目的遺伝子と多角体遺伝子との間で相同組換えが引き起こる。また、トランスファーベクターには蛋白質遺伝子を発現させるためのプラモーターを含むことが好ましい。プロモーターとしては、多角体遺伝子のプロモーター、p10遺伝子のプロモーター、キャプシド遺伝子のプロモーターなどが挙げられる。
トランスファーベクターの種類は特に限定されない。トランスファーベクターの具体例としては、AcNPV系トランスファーベクターとしては、pEVmXIV2、pAcSG1、pVL1392/1393、pAcMP2/3、pAcJP1、pAcUW21、pAcDZ1、pBlueBacIII、pAcUW51、pAcAB3、pAc360、pBlueBacHis、pVT−Bac33、pAcUW1、pAcUW42/43などが挙げられ、BmNPV系トランスファーベクターとしては、pBK283、pBK5、pBB30、pBE1、pBE2、pBK3、pBK52、pBKblue、pBKblue2、pBFシリーズ(以上、フナコシ株式会社、藤沢薬品工業株式会社等から入手可能)などが挙げられる。
次に、組換えウイルスを作製するために、上記の組換えトランスファーベクターをウイルスと混合した後、宿主として用いる培養細胞に移入するか、あるいは予めウイルスで感染させた宿主として用いる培養細胞に上記のトランスファーベクターを移入し、組換えトランスファーベクターとウイルスゲノムDNAとの間に相同組み換えを起こさせ、組み換えウイルスを構築する。
ここで宿主として用いる培養細胞とは、上記した宿主が挙げられ、通常、昆虫培養細胞(Sf9細胞やBmN細胞など)である。培養条件は、当業者により適宜決定されるが、具体的にはSf9細胞を用いた場合は10%ウシ胎児血清を含む培地で、28℃前後で培養することが好ましい。このようにして構築された組み換えウイルスは、常法、例えばプラークアッセイなどによって精製することができる。なお、このようにして作製された組換えウイルスは、核多角体病ウイルスの多角体蛋白質の遺伝子領域に外来のDNAが置換または挿入されており多角体を形成することができないため、非組換えウイルスと容易に区別することが可能である。
本発明の方法では、前記の組換えバキュロウイルスを、上記した適当な宿主(Spodoptera Frugiperda細胞系統Sf9およびSf21などの培養細胞、又は昆虫幼虫など)に感染させ、一定時間後(例えば、72時間後等)に培養上清から細胞外発芽ウイルス(budded virus,BV)を遠心などの分離操作によって回収する。なお、組換えバキュロウイルスは1種類のみ感染させてもよいし、2種類以上の組換えバキュロウイルスを組み合わせて共感染させてもよい。
細胞外発芽バキュロウイルスの回収は、例えば、以下のように行うことができる。
先ず感染細胞の培養液を500〜1,000gで遠心分離して、細胞外発芽バキュロウイルスを含む上清を回収する。この上清を約30,000〜50,000gで遠心分離して細胞外発芽バキュロウイルスを含む沈殿物を得ることができる。上記のようにして回収される発芽バキュロウイルスは、G蛋白質共役型受容体蛋白質、G蛋白質、及びアデニル酸シクラーゼを生理活性を有する状態で含んでおり、当該発芽バキュロウイルス自体も本発明の範囲内である。即ち、当該発芽バキュロウイルスは、G蛋白質共役型受容体蛋白質、G蛋白質及びアデニル酸シクラーゼを機能的に提示していることを特徴とする。
本発明においては、上記のようにして調製した発芽バキュロウイルスを使用し、被験物質の存在下において発芽バキュロウイルスとリガンドとを接触させ、生成するcAMPをアッセイすることによって、G蛋白質共役型受容体蛋白質とリガンドとの相互作用を分析し、これにより該相互作用を促進又は阻害する物質をスクリーニングすることができる。
生成するcAMPのアッセイ方法は特に限定されず、当業者であれば適宜選択することができる。一例としては、エンザイムイムノアッセイの原理を用いて、固相に結合させた抗cAMP抗体へのペルオキシダーゼ標識cAMPの結合を、活性化アデニル酸シクラーゼにより生成されたcAMPが競合的に阻害することを利用して、酵素反応による発色の減少を測定することにより、cAMPをアッセイすることができる。なお、cAMPのアッセイは、例えば、Amersham社製cAMP Biotrak Enzymeimmunoassay Systemキットなどの市販のキットを使用して行うこともできる。
上記したスクリーニングに供される被験物質としては、例えばペプチド、ポリペプチド、合成化合物、微生物発酵物、生物体(植物又は動物の組織、微生物、又は細胞などを含む)からの抽出物、あるいはそれらのライブラリーが挙げられる。ライブラリーとしては、合成化合物ライブラリー(コンビナトリアルライブラリーなど)、ペプチドライブラリー(コンビナトリアルライブラリーなど)などが挙げられる。スクリーニングに供される化学物質は、天然物でも合成物でもよく、また候補となる単一の化学物質を独立に試験しても、いくつかの候補となる化学物質の混合物(ライブラリーなどを含む)について試験をしてもよい。また、細胞抽出物のような混合物を分画したものについてスクリーニングを行い、分画を重ねて、所望の活性を有する物質を単離することも可能である。
これらの被験物質は、G蛋白質共役型受容体蛋白質とリガンドとの相互作用を促進又は阻害することが予想される物質であることが好ましい。
本発明のスクリーニング方法により、G蛋白質共役型受容体蛋白質に対する阻害薬または活性化薬物をスクリーニングすることが可能である。本発明のスクリーニング方法により得られる、G蛋白質共役型受容体蛋白質とリガンドとの相互作用を促進又は阻害する物質も本発明の範囲内である。
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
[実施例1]ドパミン受容体D1を発現する組換えバキュロウイルスの調製
(1)細胞の培養と感染、および発芽型バキュロウイルスの収集
ヒト胎児脳cDNAからPCR法により増幅して得られたヒトドパミン受容体D1(DR−D1)全長cDNA(Genbank accession number NM000794)をpBlueBacHis2C(Invitrogen)へ組み込み、pBluBac−His−DR−D1を作成した。Sf9細胞(Invitrogen)は完全培地(10%ウシ胎児血清(Sigma)、100units/mlペニシリンおよび100μg/mlストレプトマイシンを含むGrace’s supplemented media(GIBCO BRL))で27℃で10cm径ディッシュに継代培養した。大量培養は1L容量のスピナーフラスコ(Wheaton)にて完全培地に0.001%pluronic F−68(GIBCO BRL)を添加して行なった。組み換えバキュロウイルスの作成は説明書(Bac−N−BlueTM Transfection Kit,Invitrogen)に従い、Sf9細胞にBac−N−Blue DNA(ApMNPV由来)とpBluBac−His−DR−D1とを共感染させ組み換えウイルスを作成した。
(2)発芽型バキュロウイルスにおける受容体発現のWestern Blotによる解析
Sf9細胞を1L容量のスピナーフラスコ(Wheaton)に2x10個/ml濃度で500ml培養し、上記(1)で作成した組み換えウイルスをMOI=5で感染させ、72時間後の培養液を実験に用いた。培養液は800xg、10分間遠心し、沈澱および上清に分離した。800xgの遠心後の上清を40,000xg、25分遠心し、沈澱をPBSに懸濁後、再度40,000xg、25分遠心した。 沈澱をPBSに懸濁し,800xg,10分遠心して凝集物を除いた後に、再度、40,000xg、25分遠心して得られた沈澱をPBSに懸濁して、発芽型ウイルス画分(BV画分)とした。BV画分におけるDR−D1の発現はHis−tagを認識する抗His抗体(Sigma)を用いたWestern Blotにより確認した。
(3)発芽型バキュロウイルスにおける受容体に対するリガンド結合能解析
BV画分のリガンド結合能は、7,8−H−Dopamine(Amersham)結合実験により確認した。H−Dopamine結合実験は、7,8−H−Dopamineを含むbinding buffer(50mM Tris−HCl pH7.4、10mM MgCl、10mM NaCl、0.5%fatty acid−free BSA)にDR−D1 BV画分を加えて反応液量500・lとし、室温で90分、反応させて行なった。反応液をフタル酸ジ−n−ブチル/フタル酸ジオクチル1:1混合液500μl上に重層し、15,000xg,10分間、室温にて遠心して、ウイルスを沈澱として回収した。沈澱をbinding bufferで3回洗浄、風乾後、液体シンチレーションカウンターで、沈澱物中に含まれるトリチウムの量を測定することにより、受容体と結合したH−dopamineの量を算出した。H−dopamineの結合量は、反応液中に加えた標識dopamineの濃度依存的に増加した。更にこのH−dopamineの結合は、非標識dopamineまたはアンタゴニストにより、阻害された。以上より、発芽型バキュロウイルス上に発現したDR−D1は、リガンド結合活性を有することが確認された。
[実施例2]発芽型バキュロウイルスにおけるGタンパク質共役型受容体とリガンドの結合に伴うGタンパク質によるアデニル酸シクラーゼ活性化の検出
Gタンパク質は、共役する受容体への特異的リガンド結合により活性化され、活性化後にエフェクタータンパク質と総称される各種酵素と相互作用しそれら酵素分子の活性を調節する。アデニル酸シクラーゼは活性型Gs様Gタンパク質と相互作用することによりサイクリックAMP(cAMP)産生を上昇させるエフェクタータンパク質である。ドパミン受容体はGs様Gタンパク質と共役し、ドパミンの特異的結合によって活性型となったGs様Gタンパク質はアデニル酸シクラーゼと相互作用し酵素活性を上昇させることが報告されている。
(1)アデニル酸シクラーゼ組み換えバキュロウイルスの作成
ヒトVI型アデニル酸シクラーゼ(AC VI)cDNAは、ヒト胎児脳cDNAライブラリーよりPCRによってクローニングした(Genbank accession number NM015270)。蛍光蛋白ECFPとアデニル酸シクラーゼを融合発現するため、クローニングしたAC VI cDNAをpECFP−N1プラスミド(Clontech)に組込み、ECFP遺伝子をAC VI遺伝子3‘末端に融合させた。さらにこのECFP融合ACVI cDNAをpBlueBac4.5ベクター(Invitrogen)へ組込んだ。実施例1(1)で示した組換えバキュロウイルスの作成法により、ECFP融合AC VI(AC VI−ECFP)組換えバキュロウイルスを調製した。
(2)受容体、G蛋白質、アデニル酸シクラーゼを共発現する発芽型バキュロウイルスにおけるリガンド刺激依存性cAMP産生の検出
2x10細胞/ml濃度のSf9細胞200mlに、DR−D1およびラットGαs、Gβ1+Gγ2(Gβ1とGγ2遺伝子を同一ウイルスゲノム上に直列に持つウイルス)、AC VI−ECFPの各組換えバキュロウイルスをそれぞれMOI=2.5:1.5:0.5::4.0で共感染させ、72時間後にBV画分を調製しTBSへ懸濁した。また同様に、Gαsを除いたDR−D1およびGβ1+Gγ2、AC VI−ECFPの各組換えバキュロウイルスをそれぞれMOI=2.5::0.5::4.0でSf9細胞に共感染させ、発芽型バキュロウイルスを調製した。更に、野生型バキュロウイルスをMOI=2でSf9細胞に感染させ、発芽型バキュロウイルスを調製した。
各組み合わせで調製した発芽型バキュロウイルス懸濁液によるcAMP産生は、下記のようにして測定した。DR−D1,Gαs,Gβ1,Gγ2,ACVI−ECFP共発現ウイルス画分10μgをassay buffer(50mM HEPES pH8.0,0.6mM EDTA,5mM MgGl,1mM IBMX,0.01%fatty acid−free BSA,3mM phosphoenol pyruvate 3Na,5u/ml pyruvate kinase,5u/ml myokinase,1mM ATP,50μM GTP,0.02%saponin)に加えて、総体積を90μlとし、更に10μlの100μM dopamine(終濃度10μM),あるいは500μM forskolin(終濃度 50μM)を添加して、37℃で30分間、反応させた。反応は1/9容のLysis reagent 1A(Amersham社製 cAMP Biotrak Enzymeimmunoassay Systemキットに付属)を加えることにより、停止させた。反応液中に産生されたcAMPは上記のcAMP測定キットを用いて、説明書に従いELISA法により定量した。
DR−D1およびGαs、Gβ、Gγ、AC VI−ECFPの組換えバキュロウイルスを共感染させ得られた発芽型バキュロウイルスについて10μMドパミン(Sigma)による刺激を行なった場合、cAMP産生の上昇が確認された(図1)。一方、野生型の発芽型バキュロウイルスでは10μMドパミン刺激によるcAMP産生の上昇は認められなかった(図1)。更にGαsを除くDRD1、Gβ+Gγ、およびAC VI−ECFPの組換えバキュロウイルスを共感染させて得られた発芽型バキュロウイルスでもドパミン刺激によるcAMP産生の上昇は認められなかった。以上のことから、発芽型バキュロウイルスにおけるドパミンのDR−D1受容体への特異的結合によるGαsおよびAC VI−ECFPの相互作用、すなわち特異的リガンド刺激による受容体活性化後のシグナル伝達現象の検出が可能であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
本発明によれば、発芽型バキュロウイルスを用いてリガンド刺激依存性のcAMP産生を測定することにより、GPCR(G蛋白質共役型受容体)のシグナル伝達を簡便に検出することが可能になった。
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
G蛋白質共役型受容体蛋白質をコードする遺伝子、G蛋白質をコードする遺伝子、及びアデニル酸シクラーゼをコードする遺伝子を含む少なくとも1種の組換えバキュロウィルスを感染させた宿主を培養し、該宿主から放出される発芽バキュロウイルスを回収し、該発芽バキュロウイルスとリガンドとを接触させ、生成するcAMPをアッセイすることを含む、G蛋白質共役型受容体のシグナル伝達を検出する方法。
【請求項2】
G蛋白質共役型受容体蛋白質をコードする遺伝子を含む組換えバキュロウィルス、G蛋白質をコードする遺伝子を含む組換えバキュロウィルス、及びアデニル酸シクラーゼをコードする遺伝子を含む組換えバキュロウィルスを感染させた宿主を培養し、該宿主から放出される発芽バキュロウイルスを回収し、該発芽バキュロウイルスとリガンドとを接触させ、生成するcAMPをアッセイすることを含む、G蛋白質共役型受容体のシグナル伝達を検出する方法。
【請求項3】
宿主が昆虫細胞又は昆虫幼虫である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
被験物質の存在下において発芽バキュロウイルスとリガンドとを接触させ、生成するcAMPをアッセイすることによってG蛋白質共役型受容体蛋白質とリガンドとの相互作用を分析し、該相互作用を促進又は阻害する物質をスクリーニングする、請求項1から3の何れかに記載の方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法により得られる、G蛋白質共役型受容体蛋白質とリガンドとの相互作用を促進又は阻害する物質。
【請求項6】
G蛋白質共役型受容体蛋白質をコードする遺伝子、G蛋白質をコードする遺伝子、及びアデニル酸シクラーゼをコードする遺伝子を含む少なくとも1種の組換えバキュロウィルスを感染させた宿主から放出される発芽バキュロウイルスであって、G蛋白質共役型受容体蛋白質、G蛋白質及びアデニル酸シクラーゼを機能的に提示している発芽バキュロウイルス。
【請求項7】
宿主が昆虫細胞又は昆虫幼虫である、請求項6に記載の発芽バキュロウイルス。

【国際公開番号】WO2005/049825
【国際公開日】平成17年6月2日(2005.6.2)
【発行日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515702(P2005−515702)
【国際出願番号】PCT/JP2004/017646
【国際出願日】平成16年11月19日(2004.11.19)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成15年度新エネルギー・産業技術総合開発機構タンパク質相互作用解析ナノバイオチッププロジェクト委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(899000024)株式会社東京大学TLO (50)
【Fターム(参考)】