説明

発芽防止剤及び発芽防止方法

【課題】剪定後の切口や摘蕾した箇所から新芽が発芽するのを防止することができる発芽防止剤及び該発芽防止剤を用いた発芽防止方法を提供する。
【解決手段】
幹枝10における発芽箇所16に密着して通気性を有する強固な被覆層18を形成する。被覆層18は、多糖類、タンパク質、天然樹脂、合成樹脂、糊剤、ロウ、有機酸などからなる被覆層形成成分を主成分とする発芽防止剤を発芽箇所にスプレー塗布等によって形成することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹木の幹枝における所望箇所から新芽が発芽するのを防止する発芽防止剤及び該発芽防止剤を用いた発芽防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹木の美観を維持するため、或いは、樹木の成長や果実の結実を良くするために、剪定は必要不可欠な作業であり、おおよそ年に1度の頻度で行なわれる。この剪定の後には、樹木の切口が露出することとなり、そのまま放置すると、春から夏にかけて露出した切口から多数の新芽が発芽して、図4に示すような天空に向かって真っ直ぐ伸びる枝(立枝)100に成長する。この立枝100は枝葉が密生するため、樹形が乱れ樹木の美観を損なうだけでなく、日照、通風の障害となって樹体の生育が阻害されることとなる。
【0003】
このため、従来、秋口に剪定を行なっているが、翌年になると、前年立枝100を剪定した枝の切口から新たな立枝100が発生し、再度立枝100を剪定することとなり、このような剪定と立枝100の発生を繰り返すことで、該切口近傍の幹枝にはこぶ102が生じ、美観を損なうこととなり問題である。さらに、樹木の上方部の生長は下方部の生長に比べ優位であるため、樹木の上方部に立枝100が多く発生することとなり、その剪定に多大な労力と費用が掛かり問題である。
【0004】
また、リンゴや梨などの果樹においては、その結実を良くするため、余分なつぼみを人手によって間引く摘蕾作業が行なわれるが、摘蕾した箇所から翌年になると再びつぼみが生長するため、翌年も同一箇所について摘蕾することとなり、非常に効率が悪く問題である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、剪定後の切口や摘蕾した箇所に塗布することで該箇所から新芽が発芽するのを防止することができる発芽防止剤及び該発芽防止剤を用いた発芽防止方法を提供することを目的とする。
【0006】
なお、剪定後の切口に塗布する塗布剤が従来からあるが、その目的は、剪定後の切口から病原菌等が侵入するのを防ぐことで、病害の感染から樹木を保護するものである。すなわち、該組成物は、殺菌成分あるいは抗菌成分を含有するもので、剪定後の切口の木質部に浸含または塗布されることで、所定期間にわたり殺菌成分あるいは抗菌成分の効能を該木質部に保持させるようにするものである。したがって、従来の切口に塗布する組成物は、切口から新芽の発芽を防止するという思想は全くなかった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明は、樹木から新芽が発芽するのを防止するための発芽防止剤であって、幹枝における発芽箇所に密着して通気性を有する強固な被覆層を形成する被覆層形成成分を有することを特徴とする。
【0008】
このように、剪定後の切口や摘蕾した箇所等の幹枝における発芽箇所に発芽防止剤を塗布することで形成された被覆層は、該箇所に密着して強固な層であるから、被覆層を突き破って新芽の発芽することがなく、発芽を防止することができる。
【0009】
かかる発明において、被覆層形成成分に塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、イソプロピルアミン塩、イソプロピルアンモニウム塩の4種の物質のうち少なくとも1種含有する除草剤、または、光触媒、銀、銅あるいは亜鉛から1種以上選ばれる物質の粉体からなる殺菌剤の、双方またはいずれか一方を補助成分として添加してもよい。上記のように除草剤を補助成分として添加した場合、剪定後の切口や摘蕾箇所等の露出する木質部(発芽箇所)を除草剤を含有する被覆層で被覆することとなるため、該木質部から新芽の発生を抑制することができる。また、殺菌剤を補助成分として添加した場合、露出する木質部を殺菌剤を含有する被覆層で被覆することとなるため、該木質部から病原菌などが侵入するのを防ぐことができ、病害の感染から樹木を保護することができる。
【0010】
また、被覆層形成組成物をスプレー塗布することにより該木質部に被覆層を形成してもよい。このように構成することにより、作業性が向上し、高所など作業困難な状況下であっても、容易に被覆層を形成することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の発芽防止剤及び発芽防止方法によれば、幹枝における発芽箇所を強固な被覆層によって密着被覆するようにしている。そのため、該箇所から新芽が発芽することを防止することができ、上記のような立枝の発生や摘蕾作業の問題を解消することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態について図面に基づいて説明する。図1は立枝が発生している枝の要部拡大図、図2は剪定後の切口(発芽箇所)を被覆層で被覆した状態を示した図、図3は図2のII−II線断面図である。
【0013】
図1に示すように、剪定と立枝の発生を繰り返したことにより、こぶ12が生じ、そのこぶ12からは多数の立木14が発生している。このようなこぶ12や、立木14は著しく樹形を乱し樹木の美観を損なうため、I−I線でこぶ12を切り取る剪定を行なう。そして、切り取られたこぶ12の切口(発芽箇所)16に密着する厚さ約1cm程度の被覆層18によって被覆する。
【0014】
被覆層18は、多糖類またはタンパク質のうち少なくとも一方からなる被覆層形成成分を主成分とする発芽防止剤を噴霧器によって発泡しながら切口16へスプレー塗布することにより形成される。より詳細に被覆層形成成分は、カマキリの卵鞘、絹糸、あるいは蜘蛛の糸などをDNA解析し、これに基づき人工的に合成したもので、多糖類、タンパク質、アミノ酸を含むものである。このような合成物は、繊維を含むためため、新芽によって突き破られることのない強度と適度な通気性を有する被覆層18を形成することができる。また、多糖類、タンパク質、アミノ酸は、化粧品や食品等に添加されるもので、環境安全性が高く、しかも、広く一般的に流通しているもので安価に入手することができる。
【0015】
なお、本実施形態では、被覆層18をスプレー塗布によって形成したが、これに限定するものでなく、例えば、刷毛による塗布によって被覆層18を形成してもよい。
【0016】
また、本実施形態では、カマキリの卵鞘などを人工的に合成した多糖類、タンパク質、アミノ酸を含む合成物であるが、これに限定するものではなく、他の多糖類、タンパク質、アミノ酸であってもよい。このような多糖類としては、例えば、澱粉、デキストリン、グリコーゲン、セルロース、ガラクトース、ペクチン、キチン、ヘミセルロース、寒天、アルギン酸及びその塩類、カラギナン、コンニャクイモ抽出物、ローカストビーンガム/キサンタンガム混合物、ジェランガム等を挙げることができる。タンパク質としては、例えば、卵白、乳汁などが挙げられる。
【0017】
上に例示した多糖類やタンパク質は、いずれも天然物であるため、樹木への負担が少なく、しかも、環境安全性が高い。
【0018】
なお、被覆層形成成分はタンパク質、多糖類以外にも、発芽箇所にスプレー塗布した被覆層が、新芽によって突き破られない程度の強固な層を密着形成することができるものであれば、例えば、天然樹脂、合成樹脂、糊剤、ロウ、有機酸、或いはこれらの混合物等であってもよい。
【0019】
より具体的には、天然樹脂としては、例えば、ダンマル樹脂、マスチック樹脂、ベネチアテレビンバルサム、ロジン、漆などが挙げられる等が挙げられる。合成樹脂としては、例えば、スチレン樹脂、アクリル系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、石油系樹脂、テルペン樹脂、合成ゴム(SBR、NBR、EPRなど)などが挙げられる。糊剤としては、例えば、膠、カゼイン、水ガラス、澱粉、小麦粉などが挙げられる。ロウとしては、例えば、蜜ロウ、木ロウ、カルナウバロウ、パラフィンロウ、マイクロクリスタリンワックス、モンタンロウなどが挙げられる。有機酸としては、例えば、アミノ酸、クエン酸、またはこれらの金属塩等が挙げられる。
【0020】
また、本実施形態における発芽防止剤には、上記のような被覆層形成成分に加え、必要に応じ、除草剤、殺菌剤、着色剤、増量剤などの補助成分を添加することができる。
【0021】
より具体的には、除草剤としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カリウム、イソプロピルアミン塩、イソプロピルアンモニウム塩等が挙げられる。上に例示した除草剤のうち、塩化ナトリウム、塩化マグネシウムまたは塩化カリウムを補助成分として被覆層形成成分に添加すると、剪定後の切口(発芽箇所)などの木質部の水分を脱水することで新芽の発生を抑制することができ、しかも、農薬などの有効成分であるイソプロピルアミン塩やイソプロピルアンモニウム塩に比べ環境安全性が高いので好ましい。なお、除草剤として塩化ナトリウム、塩化マグネシウムを含有する醤油であってもよい。
【0022】
殺菌剤としては、例えば、二酸化チタンや酸化亜鉛等の光触媒、或いは銀、銅、亜鉛等の粉体が挙げられる。着色剤としては、例えば、カーボンブラック、ランプブラック、アニリンブラック、弁柄、朱、鉛丹、ホワイティングなどの顔料や、これら顔料を2以上混合したものなどが挙げられる。増量剤としては、木粉や、コルク粉や、粗骨粉、蒸製骨粉、脱膠骨粉、脱脂骨粉などの骨粉や、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、シリカ、タルク、モンモリロナイト、バーミキュライト等の無機粉末が挙げられる。
【0023】
なお、本実施形態においては、剪定後の切口の発芽を防止する場合について示したが、これに限られず、摘蕾した箇所など、幹枝における任意の発芽箇所に本発明は適用することができる。
【0024】
また、本発明に係る発芽防止剤及び発芽防止方法は、マツ、カヤ、スギ、チョウ、ヒノキ、モミ等の針葉樹や、アラカシ、シラカシ、キンモクセイ、クスノキ、サザンカ、アオキ等の常緑広葉樹や、ウメ、サクラ、ブナ、イタヤカエデ、トチノキ、ミズナラ等の落葉広葉樹や、リンゴ、梨、桃、柿等の果樹など、対応することができる樹木に制限はない。
【0025】
以上のように、本発明によれば、新芽は被覆層を突き破って生長することができず、発芽を防止することができるとともに、被覆した箇所への酸素供給は保持されるため、樹木にとって最適な環境を維持することができる。
【0026】
また、除草剤や殺菌剤を被覆層形成成分に添加することにより、剪定後の切口や摘蕾した箇所からの新芽の発生を効果的に抑えることができるとともに、露出する木質部を保護することができる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は発芽防止剤及び発芽防止方法は樹木の剪定作業や果樹の摘蕾作業の労力低減、或いは、樹木の枝振りの調整等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】立枝が発生している枝の要部拡大図である。
【図2】剪定後の切口を被覆層で被覆した状態を示した図である。
【図3】図2のII−II線断面図である。
【図4】立枝が発生している樹木を示した図である。
【符号の説明】
【0029】
10……枝
12……立枝
14……こぶ
16……切口(発芽箇所)
18……被覆層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹木から新芽が発芽するのを防止するための発芽防止剤であって、
幹枝における発芽箇所に密着して通気性を有する強固な被覆層を形成する被覆層形成成分を有することを特徴とする発芽防止剤。
【請求項2】
前記被覆層形成成分が、多糖類、タンパク質、天然樹脂、合成樹脂、糊剤、ロウ、有機酸よりなる群から選ばれる物質を1種以上有することを特徴とする請求項1記載の発芽防止剤。
【請求項3】
除草剤または殺菌剤の双方またはいずれか一方を補助成分として、前記被覆層形成成分に添加することを特徴とする請求項1または2記載の発芽防止剤。
【請求項4】
前記除草剤が、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、イソプロピルアミン塩、イソプロピルアンモニウム塩のうち少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項3記載の発芽防止剤。
【請求項5】
前記殺菌剤が、光触媒、銀、銅、亜鉛よりなる群から選ばれる物質の粉体を1種以上有することを特徴とする請求項3記載の発芽防止剤。
【請求項6】
樹木の幹枝における発芽箇所に密着して通気性を有する強固な被覆層によって被覆することを特徴とする発芽防止方法。
【請求項7】
前記発芽箇所に被覆層形成成分をスプレー塗布することより前記被覆層を形成することを特徴とする請求項6記載の発芽防止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−1848(P2006−1848A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−177577(P2004−177577)
【出願日】平成16年6月15日(2004.6.15)
【出願人】(397051069)
【Fターム(参考)】