説明

発酵麦芽飲料風味アルコール飲料の製造方法

【課題】ビール・発泡酒等の低アルコール度数の発酵麦芽飲料と、焼酎・ウォッカのような蒸留酒等の高アルコール度数の蒸留アルコールとを混合した、キレとまろやかさを有し、香味の調和のとれた発酵麦芽飲料風味アルコール飲料(リキュール類)、及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】蒸留アルコール入り発酵麦芽飲料風味アルコール飲料の製造方法において、発酵麦芽飲料と蒸留アルコールを混合し、酵母の存在下に前記発酵麦芽飲料と前記蒸留アルコールとを混和する混和工程を設けることにより、キレとまろみの調和した蒸留アルコール入り発酵麦芽飲料風味アルコール飲料を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キレとまろみの調和した蒸留アルコール入り発酵麦芽飲料風味アルコール飲料及びその製造方法、特に、ビール・発泡酒等の低アルコール度数の発酵麦芽飲料と、焼酎・ウォッカのような蒸留酒等の高アルコール度数の蒸留アルコールとを混合した、キレとまろやかさを有し、香味の調和のとれた発酵麦芽飲料風味アルコール飲料(リキュール類)、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビール等の発酵麦芽飲料は、アルコール飲料として古来より親しまれてきており、また、近年は、日本における酒税法の取り扱いの下で、その製造に際して、麦芽の使用量を調整した発酵麦芽飲料として分類される発泡酒の飲用も増大している。また、最近は、麦又は麦芽を使用せず、マメ類、穀類などの植物タンパク質等を酵素で分解して必要とする窒素源を得、糖化液を加えて発酵させた、日本の酒税法上、「その他の雑酒」に分類されるビールタイプの発泡性を有するアルコール飲料の飲用も増大している。
【0003】
このように、今日、消費者の多様化した好みに応じてビールや発泡酒のような発酵麦芽飲料や、「その他の雑酒」に分類される発酵麦芽飲料風味の発泡性アルコール飲料が、種々、提案され、市場に提供される中で、これらの発酵麦芽飲料の風味を基調として、新しい香味を付与したアルコール飲料も検討され、提案されている。例えば、ビール等の醸造酒は、製造された時点でのアルコール度のまま飲用するのが普通であるが、従来、ビール等のアルコール度を高めるために、味の薄いスピリッツを追加したり、逆にアルコール度を低くするために、炭酸水を追加する方法が一般的方法として行なわれていた。しかし、このような方法では、ビールの味を薄め、風味を損なうことから、通常の方法で製造したビール等の麦芽酒を蒸留することにより、アルコールを高め、これに炭酸ガスを封入して、ビール風味でありながら、アルコール度の高いアルコール飲料を製造する方法が提案されている(特開2003−265161号公報)。
【0004】
また、従来のビールと比較して、アルコール度の高いビールを提供するために、シャンペンやワインのような高含有率アルコールに耐える酵母を使用してアルコール度の高いビールを製造し、更に、これを使用済みのウイスキーやワイン用木製たる内で熟成させ、高アルコールビールを製造する方法が開示されている(特開平7−236467号公報)。しかしながら、上記のような方法で製造したものは、ビールの香味のバランスへの影響が避けられず、アルコール味が強調される等により、香味の調和に欠け、ビール本来の香味を保持させる味覚の改良が難しいという問題がある。
【0005】
更に、最近、ビールや、発泡酒、或いは雑酒等に、焼酎、ウイスキー、ウオッカ、スピリッツ等の麦を原料の一部としたアルコール含有物を蒸留して得た高アルコール度数のアルコール含有蒸留液を混合し、キリッとした味わいの喉越しの爽快感を有する発酵麦芽飲料或いは発酵麦芽飲料風アルコール飲料(リキュール類)が提案されている(特開2006−314333号公報;特開2006−314334号公報;WO2005/056746)。
【0006】
しかしながらこれらのアルコール飲料においては、高アルコール度数の蒸留酒の比率を変えたり、原料である麦芽の比率を変えたりして、味わいを変え、麦芽由来の味わいと、蒸留酒を添加したことによる「キレ」の付与との調和を図っているが、該アルコール飲料の製造法においては、これらの発酵麦芽飲料等と麦を原料とする蒸留酒を単に混合しているだけであるため、発酵麦芽飲料等の香味と、混合した蒸留酒との香味の調和が図れず、キレとまろみの調和した蒸留アルコール入り発酵麦芽飲料風味アルコール飲料とならない問題がある。すなわち、発酵麦芽飲料等と麦芽を原料とする蒸留酒をそれぞれ混合したのみでは、アルコール度数の異なる2成分が分子レベルで混ざり合い難いため、香味にまとまりがなく香味の調和を欠くという問題がある。
【0007】
【特許文献1】特開2003−265161号公報。
【特許文献2】特開平7−236467号公報。
【特許文献1】特開2006−314333号公報。
【特許文献2】特開2006−314334号公報。
【特許文献1】WO2005/056746。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、キレとまろみの調和した蒸留アルコール入り発酵麦芽飲料風味アルコール飲料及びその製造方法、特に、ビール・発泡酒等の低アルコール度数の発酵麦芽飲料と、焼酎・ウォッカのような蒸留酒等の高アルコール度数の蒸留アルコールとを混合した、キレとまろやかさを有し、香味の調和のとれた発酵麦芽飲料風味アルコール飲料(リキュール類)、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
従来、ビールのような発酵麦芽飲料等において、発酵麦芽飲料としての風味の保持とキレの良さを狙って、発酵麦芽飲料に焼酎やウイスキー或いはスピリッツのような蒸留酒を添加したアルコール飲料が知られている。しかし、これらのアルコール飲料は、それぞれ製造した発酵麦芽飲料や蒸留酒を混合するだけであったので、発酵麦芽飲料等の香味と、混合した蒸留酒との香味の調和が図れず、キレとまろみの調和した蒸留アルコール入り発酵麦芽飲料風味アルコール飲料とならない問題があった。すなわち、発酵麦芽飲料等と麦芽を原料とする蒸留酒をそれぞれ混合したのみでは、アルコール度数の異なる2成分が分子レベルで混ざり合い難いため、香味にまとまりがなく香味の調和を欠くという問題がある。
【0010】
そこで、本発明者は、かかる問題を解決すべく、鋭意検討する中で、ビール・発泡酒等の発酵麦芽飲料中に、蒸留酒を少量添加して混合させて調製するアルコール飲料(リキュール類)の製造において、発酵麦芽飲料等に蒸留酒を混合し、その後、酵母の存在下に発酵麦芽飲料と添加した蒸留アルコールとを混和する混和工程を設けることにより、香味バランスのとれた、かつキレとまろやかな調和した味の発酵麦芽飲料風味を保持したアルコール飲料(リキュール類)を短期間で製造することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、蒸留アルコール入り発酵麦芽飲料風味アルコール飲料の製造方法において、発酵麦芽飲料と蒸留アルコールを混合し、酵母の存在下に前記発酵麦芽飲料と前記蒸留アルコールとを混和する混和工程を設けたことを特徴とするキレとまろみの調和した蒸留アルコール入り発酵麦芽飲料風味アルコール飲料の製造方法からなる。
【0012】
本発明のアルコール飲料の製造方法と従来法の発酵麦芽飲料に蒸留酒を単に混合する場合との相違について、水やアルコールの分子集団(クラスター)の形成とその相互作用の観点(NIRE(資源環境技術総合研究所)ニュース:「分子クラスターから始まる新たな液体のサイエンス」;ホームページ(http://www.aist.go.jp./NIRE/publica/news-2000-2000-01-3.htm)参照)から説明すると、発酵麦芽飲料に蒸留酒を単に添加したのみでは、混合液中のアルコール分子と水分子によって形成されるクラスター構造が不均一となっており、分子レベルでは両成分が完全に混合しているとは言えない状態となる。なぜならば、発酵麦芽飲料は、低アルコール濃度であるため、水分子がメインのクラスター構造(水クラスター)である一方、蒸留酒は、高アルコール濃度であるため、アルコール分子がメインのクラスター構造(アルコールクラスター)となっているため、単に添加したのみでは、これらのクラスター構造を崩すことができないからである。更に、アルコールクラスター存在下にあっては、アルコールの刺激が強く感じられ、香味の調和を欠くという問題がある。
【0013】
一方、発酵麦芽飲料に蒸留酒を混合後、一定条件下で酵母と共存させた混和工程においては、炭酸ガスの発生や混合溶液中の自然対流により促される一定以上の活性を有する酵母の浮遊現象によって、効果的な酵母の還元作用が促進され、その結果、溶液全体における水分子−アルコール分子間の水素結合に均一な影響を及ぼす。つまり、蒸留酒由来のアルコールクラスターが一旦崩れた後、新たに水クラスターが形成されることにより、分子レベルで両成分が完全に混和することになる。その結果、香味バランスが優れ、かつまろやかな香味を有する新規アルコール飲料が製造できる。以上より、発酵麦芽飲料に蒸留酒を添加した後、一定条件下酵母と共存させる混和工程を経ることで、香味バランスがとれ、かつキレとまろやかな香味を有する新規アルコール飲料が製造できるものと推測される。
【0014】
本発明において用いられる発酵麦芽飲料には、ビール、発泡酒、「その他の雑酒」等が包含される。通常、ビール・発泡酒等の発酵麦芽飲料は、麦芽及びホップ等を原料の一部として使用し、酵母を用いて発酵させた後、貯蔵タンクに移し、後発酵(熟成)させて製造される。これは、発酵が終了した発酵直後の発酵液は、ダイアセチル前駆体、アセトアルデヒド等の未熟臭物質を含むため、香り、味ともに未熟であるために行うものである。このように、適切な期間、貯蔵を行うことにより、熟成が進み、香味の調和のとれた発酵麦芽飲料を製造することができる。本発明に用いる前記発酵麦芽飲料は、通常の貯蔵工程を経たものでも良く、貯蔵工程を一部経たもの、或いは、貯蔵工程の直前のものでも良い。即ち、発酵麦芽飲料と蒸留酒を混合し、その後一定条件下で酵母と共存させる混和工程を経ることが重要であり、該工程においては、発酵麦芽飲料の通常の貯蔵工程の役割を兼ねることができる。
【0015】
本発明において用いられる蒸留アルコールには、焼酎、ウイスキー、ウオッカ、スピリッツから選択される蒸留酒等が用いられる。該蒸留酒としては、アルコール濃度20〜60容量%の高アルコール度数の蒸留酒であることが好ましい。
【0016】
本発明において、発酵麦芽飲料と添加した蒸留アルコールとを混和する混和工程は、添加酵母量20〜40×10個/mlの酵母の存在下、温度6〜12℃で、15〜21日間、混和するような条件で行うことが好ましい。本発明において用いられる酵母としては、Saccharomyces属に属する酵母を挙げることができるが、該酵母のうち、下面発酵ビール酵母Saccharomyces pastrianusが特に好ましい酵母として用いることができる。本発明において用いられる酵母は、細胞内pH測定値であるICP値で、ICP値5.5以上の酵母活性を有することが好ましい。また、本発明において用いられる酵母は、蒸留アルコール添加後においても酵母死滅率6.0%以下を保持するものであることが好ましい。
【0017】
すなわち具体的には本発明は、(1)蒸留アルコール入り発酵麦芽飲料風味アルコール飲料の製造方法において、発酵麦芽飲料と蒸留アルコールを混合し、酵母の存在下に発酵麦芽飲料と蒸留アルコールとを混和する混和工程を設けたことを特徴とするキレとまろみの調和した蒸留アルコール入り発酵麦芽飲料風味アルコール飲料の製造方法や、(2)蒸留アルコールが、焼酎、ウイスキー、ウオッカ、スピリッツから選択される1又は2以上の蒸留酒であることを特徴とする前記(1)記載のキレとまろみの調和した蒸留アルコール入り発酵麦芽飲料風味アルコール飲料の製造方法や、(3)蒸留酒が、アルコール濃度20〜60容量%の高アルコール度数の蒸留酒であることを特徴とする前記(2)記載のキレとまろみの調和した蒸留アルコール入り発酵麦芽飲料風味アルコール飲料の製造方法や、(4)発酵麦芽飲料と蒸留アルコールとを混和する混和工程を、添加酵母量20〜40×10個/mlの酵母の存在下、温度6〜12℃で、15〜21日間、混和することを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか記載のキレとまろみの調和した蒸留アルコール入り発酵麦芽飲料風味アルコール飲料の製造方法や、(5)酵母が、Saccharomyces属に属する酵母であることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか記載のキレとまろみの調和した蒸留アルコール入り発酵麦芽飲料風味アルコール飲料の製造方法や、(6)酵母が、下面発酵ビール酵母Saccharomyces pastrianusであることを特徴とする前記(5)記載のキレとまろみの調和した蒸留アルコール入り発酵麦芽飲料風味アルコール飲料の製造方法からなる。
【0018】
また本発明は、(7)酵母が、細胞内pH測定値であるICP値で、ICP値5.5以上の酵母活性を有することを特徴とする前記(5)又は(6)記載のキレとまろみの調和した蒸留アルコール入り発酵麦芽飲料風味アルコール飲料の製造方法や、(8)酵母が、蒸留アルコール添加後においても酵母死滅率6.0%以下を保持するものであることを特徴とする前記(5)〜(7)のいずれか記載のキレとまろみの調和した蒸留アルコール入り発酵麦芽飲料風味アルコール飲料の製造方法や、(9)前記(1)〜(8)のいずれか記載のアルコール飲料の製造方法によって製造されたキレとまろみの調和した蒸留アルコール入り発酵麦芽飲料風味アルコール飲料からなる。
【発明の効果】
【0019】
従来、ビールのような発酵麦芽飲料等において、発酵麦芽飲料としての風味の保持とキレの良さを狙って、発酵麦芽飲料に焼酎やウイスキー或いはスピリッツのような蒸留酒を添加したアルコール飲料が知られていたが、これらのアルコール飲料は、それぞれ製造した発酵麦芽飲料や蒸留酒を混合しただけで、発酵麦芽飲料等の香味と、混合した蒸留酒との香味の調和が図れず、キレとまろみの調和したアルコール飲料とならない問題があった。本発明により、発酵麦芽飲料等の香味と、混合した蒸留酒との香味の調和を図ることが可能となり、香味バランスのとれた、かつキレとまろやかな調和した味の発酵麦芽飲料風味を保持したアルコール飲料(リキュール類)を提供することができる。また、本発明により、特別な装置や複雑な工程を導入することなく、短期間で、安価・迅速に発酵麦芽飲料風味を有し、キレとまろみの調和したアルコール飲料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明は、蒸留アルコール入り発酵麦芽飲料風味アルコール飲料の製造方法において、発酵麦芽飲料と蒸留アルコールを混合し、酵母の存在下に前記発酵麦芽飲料と前記蒸留アルコールとを混和する混和工程を設けたことにより、キレとまろみの調和した蒸留アルコール入り発酵麦芽飲料風味アルコール飲料を製造する方法からなる。
【0021】
本発明に用いられる発酵麦芽飲料とは、麦を原料の一部として使用し、発酵させた飲料をいい、望ましくは、麦の中でも麦芽を原料の一部として使用して製造したアルコール含有飲料をいう。具体的には、ビール、発泡酒、雑酒、低アルコール発酵麦芽飲料(例えばアルコール分1%未満の発酵麦芽飲料)等をあげることができ、日本における酒税法上の酒類の分類上、ビール、発泡酒、リキュール類、スピリッツ類に分類される発酵麦芽飲料である。
【0022】
この場合において、発酵麦芽飲料のアルコール度数は、低アルコール度数であれば、特に限定されないが、1〜15%(v/v)であることが望ましい。特に、ビールや発泡酒といった発酵麦芽飲料として消費者に好んで飲用されるアルコール濃度、すなわち、3〜8%(v/v)、の範囲であることが望ましい。さらに、4〜6%(v/v)がより望ましい。
【0023】
発酵麦芽飲料の原料の一部として用いられる麦とは、通常のビールや発泡酒の原料として用いられる麦由来の加工品のことをいい、例えば、麦芽、大麦、精白大麦、大麦エキス、大麦フレーク、小麦、ハト麦、ライ麦、エン麦などをあげることができる。そのなかでも、特に、麦芽を好適に用いることができる。また、本発明において、発酵麦芽飲料の原料として用いられるその他の原料とは、麦芽発泡酒の主な原料である麦芽、ホップおよび水以外の原料をいい、例えば、米、トウモロコシ、コウリャン、バレイショ、デンプン、糖類、麦芽以外の麦、苦味料、または着色料などをあげることができる。
【0024】
発酵麦芽飲料のうち、ビールや発泡酒を用いる場合には、それらを通常製造する方法と同様の方法に従って製造すればよい。この場合アルコール分は、特に限定されるものではないが、最終製品としての新規アルコール飲料(リキュール類)におけるアルコール度数の設計値を勘案して、調整すればよい。例えば、最終製品である新規アルコール飲料(リキュール類)を、ビールテイストとしての香味を有する飲料とする場合には、3〜8%程度のアルコール分とすればよい。
【0025】
また、本発明において、発酵麦芽飲料に添加する蒸留アルコールとしては、通常、蒸留酒を用いることができるが、本発明において用いられる蒸留酒とは、日本の酒税法上、『蒸留酒類』に分類されるものであれば特に限定されるものではなく、具体的には、焼酎、ウイスキー、ウオッカ、スピリッツ、原料用アルコールなどが挙げられる。そのなかでも、特に、香味の調和の観点から、焼酎やスピリッツであることが好ましい。
【0026】
この場合において、蒸留酒のアルコール度数は、高アルコール度数であれば、特に限定されないが、10〜90%(v/v)であることが望ましい。特に、焼酎やスピリッツといった蒸留酒として消費者に好んで飲用されるアルコール濃度、すなわち、20〜60%(v/v)、の範囲であることが望ましい。更に、25〜45%(v/v)がより望ましい。
【0027】
本発明でいう焼酎とは、麦、米、そばなど穀類や、サツマイモといった芋類を原料として、主に麹菌と酵母を用いて発酵させ、更に蒸留して得られる酒類をいう。本発明に蒸留酒として用いられる焼酎においては、例えば、麦焼酎、米焼酎、そば焼酎、芋焼酎、本格焼酎、泡盛と称される焼酎を好適に使用することができる。また、本発明にいうスピリッツとは、麦、米、そばなどの穀物類や、サツマイモ、ジャガイモ、キャッサバといった芋類を原料として、麦芽または必要により酵素剤を用いて糖化し、酵母を用いて発酵させ、更に蒸留して得られる酒類をいう。
【0028】
本発明において用いられる蒸留酒の製造において、蒸留方法や蒸留回数といった製造条件は特に限定されるものではない。焼酎を用いる場合、甲類焼酎(アルコール含有物を連続式蒸留機で蒸留したもので、アルコール分が36%未満の焼酎)、または、乙類焼酎(アルコール含有物を単式蒸留機で蒸留したもので、アルコール分が45%以下の焼酎)のいずれであっても使用することができる。アルコール含有蒸留物として小麦スピリッツに代表される麦スピリッツを用いる場合、アルコール含有物を連続式蒸留機で蒸留したものを用いることができる。また、アルコール分が36%以上としたものを好適に使用することができる。
【0029】
本発明において、発酵麦芽飲料と蒸留酒の混合割合は、新規アルコール飲料(リキュール類)が求める香味の設計に従って、或いは香味の特徴を考慮して、適宜設定することができる。香味の調和の観点から、発酵麦芽飲料のアルコール分:蒸留酒のアルコール分の比率が、99.99:0.01〜98:2の範囲にあるのが好ましく、特に、99.98:0.02〜99.9:0.1の範囲であるのが好ましい。
【0030】
発酵麦芽飲料と蒸留酒の混合量(混合容積比)は、発酵麦芽飲料及び蒸留酒のアルコール濃度に応じて、適宜設定することができる。ただし、最終製品である新規アルコール飲料(リキュール類)に、ビールテイスト飲料としての麦芽由来の飲み応えを損なわない範囲にすべきであり、そのためには、蒸留酒の容積比率を0.1%以下に抑えることが望ましい。
【0031】
本発明において、発酵麦芽飲料と蒸留酒を混合し、酵母の存在下に発酵麦芽飲料と添加した蒸留アルコールとを混和する混和工程は、酵母の作用により、発酵麦芽飲料と混合した蒸留アルコールとが混和する条件及び期間を設定して行うことができるが、蒸留酒を混合した後の混和工程の温度は6〜12℃に管理することが望ましく、特に8〜11℃の範囲であるのが望ましい。また、混和期間は15日〜21日が望ましい。一方酵母添加量は20〜40百万(20〜40×10)個/mlが望ましく、麦芽比率が25%未満なら28〜40百万(28〜40×10)個/ml、麦芽比率が25%〜50%なら20〜28百万(20〜28×10)個/mlが望ましい。上記所定の条件下で、発酵麦芽飲料と蒸留酒等を混和することにより、発酵麦芽飲料の風味を保持し、香味バランスがとれ、かつキレとまろやかな香味を有するアルコール飲料を製造することができる。
【0032】
本発明において、用いる酵母は、ビール醸造用酵母(上面発酵用酵母あるいは下面発酵用酵母)であることが好ましく、Saccharomyces属に属する酵母を用いることができる。該酵母としては、S. cerevisae、S. paradoxus、S.bayanus、S. pastrianus、S. pastrianus等を挙げることができるが、より好ましくはビール醸造用下面発酵ビール酵母S. pastrianusを挙げることができる。用いる酵母の酵母活性は、蒸留アルコールを添加する前後を通じて、ICP値5.5以上(ICP;Intracellular pH;細胞内pH)、更に、ICP値6.0以上を保つことがより好ましい。また、用いる酵母の酵母死滅率は、蒸留アルコールを添加した後であっても、酵母死滅率6.0%以下を保つことがより好ましい。
【0033】
ここで、酵母活性の測定法は、酵母細胞を低pH環境の溶液に一定時間放置後、細胞内のpHを測定(ICP値という)することによって行う。このように細胞内のpHを測定することによって、酵母の増殖力又は発酵力、生菌率を把握することができる。酵母を低pH環境下に置いてから測定した細胞内pHが酵母細胞の活性と相関があるということは、酵母細胞のHポンプ作用に基因するものと推定される。すなわち、活性の高い酵母細胞はHポンプ作用が強く、低pHの環境となっても細胞内pHを原pHに維持する能力が大きい、それに対して、活性の低い細胞は原細胞内のpH値を維持することが弱いので、所定時間経過後の細胞内pHは原pHより低いレベルにまで低下する。
ここで、低pH環境下とは、pH6.0以下、好ましくは5以下の条件を意味する。更に、一定時間放置後の細胞内pHは、酵母の種類や用いる低pH値ごとに異なるが、通常は4.8〜6.5である。
【0034】
また、上記酵母死滅率の測定は、メチレン ブルー法による(詳細は、E.B.C.Analytical Microbiologica. J.Inst.Brew.83,109,1977、参照)。すなわち、該酵母死滅率の測定は、次の方法による:4%クエン酸ナトリウム溶液0.5μlを2μl容サンプルチューブに採り、20〜50%濃度の酵母15μlをピペットで採取し、懸濁する。酵母懸濁液に0.02%メチレンブルー溶液0.5μlを加え、試験管ミキサーにかけ、スライドグラスに滴下する。カバーグラスをかけ、10×20倍程度の倍率で顕鏡する。濃い青色に染色した酵母を死滅酵母として数え、全酵母数に対する割合(%)を計算する。
【0035】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0036】
(発酵麦芽飲料及び蒸留酒の調製)
発酵麦芽飲料として、麦芽比率37〜40%、アルコール分4%(酵母添加量は約25百万(25×10)個/ml)のビールを、定法にしたがって、調製した。一方、蒸留酒として、麦と水を原料とし、発酵に使用する麹として麦麹を用い、蒸留して得たアルコール分44.0%のスピリッツを、定法にしたがって、調製した。
【0037】
(発酵麦芽飲料と蒸留酒の混合・混和)
上記のようにして調製したビールに、上記調製のアルコール分44.0%のスピリッツを、表1、2の添加のタイミング(貯蔵の前後)で、発酵麦芽飲料に対して、0.01%の割合(アルコール量として0.1%)で混合して、温度の8〜11℃で管理(貯蔵)し、混和した。このときの酵母のICPは6.0であった。
【0038】
(混和時間(期間)の実験データ)
得られた蒸留酒混合アルコール飲料(リキュール類)についての官能試験結果を、表1(官能試験結果:調和)、表2(官能試験結果:キレ)、表3(官能試験結果:旨味)、表4(官能試験結果:酸味)、及び、得られたアルコール飲料(リキュール類)についての味センサーの結果を、図1(旨味)、図2(酸味)に示す。
【0039】
(調製した蒸留酒添加アルコール飲料の評価)
なお、本試験例における調製した蒸留酒添加アルコール飲料の評価は、「味覚官能試験」及び「味覚センサーの測定」により行なった。
【0040】
(味覚官能試験):
得られた発酵麦芽飲料につき味覚官能試験を実施した。評価項目は(1)ビールテイストとしてのキレと調和とした。専門パネリスト4名による評点法で行い、平均点を算出し、表中に示した。なお評点は、以下のとおりとした。非常に強い=5点:強い=4点:普通=3点:弱い=2点 無し=1点
【0041】
(味覚センサーの測定)
味覚センサーの測定には、インテリジェントセンサーテクノロジー社の味認識装置「SA402B」を使用した。センサーは苦味センサー、渋味センサー、旨味センサー、塩味センサー、酸味センサーの5種類を使用し測定し3連の分析値を平均した。なお測定の実施例としては、味覚センサーの測定で差のでた旨味と酸味の結果を記載した。
【0042】
【表1】



【0043】
【表2】



【0044】
【表3】



【0045】
【表4】



【0046】
(評価結果)
混和工程を経た新規アルコール飲料は、混和工程無しのスピリッツを添加した飲料よりも、官能上の調和が取れており、混和日数が長くなるにつれ調和の度合いが増した。混和工程なしの飲料は感覚的には、調和がとれず、とげとげしさを感じる評価であった。官能のキレに関しては、高アルコール濃度蒸留酒の添加により、明らかにキレが感じられた。混和工程ありと混和工程なしの比較では、混和工程ありの方が、混和工程なしよりややキレが強く、混和工程ありの方が、キレの点でやや好ましく感じられた。
【0047】
味覚センサーの測定による後味認識装置の測定結果では、旨味センサーで、発酵麦芽飲料(蒸留アルコールなし)、混和工程なしよりも、明らかに混和工程ありにおいて差が見られた。また酸味センサーでは、混和工程ありにおいて、酸味が少なくまろやかであるという結果が見られた。混和日数の増加とともに、官能上の調和が取れ、混和日数も15日以上21日未満の混和日数が最低限必要と考えられた。混和日数の増加に伴い、炭酸ガスの溶け込みが進むことが知られているが、前記酵母の作用とも相まって、蒸留酒のアルコール分子と水が水和して混ざりあい、調和が進み、まろやかな香味が達成されたものと考えられた。
【実施例2】
【0048】
(用いる酵母と酵母活性及び酵母死滅率の測定)
メッシュ(サイズ:70μm)を通して大きなデッケを取り除いた酵母を2ml分取した。この酵母を、MESバッファ(pH6.2、50mM 2−(N−モルホリノ)エタンスルフォン酸、NaCl 10mM、KCl 5mM、MgCl mM)で洗浄した。その後終濃度1mM 5(6)カルボキシフルオレセインジアセテート(invitrogen社)を添加して、0℃にて30分放置した後、pH3のクエン酸/リン酸バッファー50mM、NaCl 110mM、KCl 5mM、MgCl2 1mMで洗浄後、同バッファに懸濁させた。酵母細胞をpH3以下の低pH環境の溶液に0℃で90分放置後、細胞内pHを蛍光光度計で2励起波長(441nmおよび488nm)に対する蛍光(518nm)強度を測定した。その蛍光強度の比をとり、予め作成した検量線より細胞内pH(細胞集団としてのpH)を求めた(詳細は、特公平7-108235号公報参照)。なお測定した酵母活性、死滅率はスピリッツ添加24時間後に測定した。
【0049】
(結果)
結果を図3に示す。スピリッツの添加により、酵母の細胞内pHは若干減少するが、活性の低下が少ないように、ICP値5.5以上、望ましくはICP値6.0以上を保つことがより好ましいことが示された。また酵母死滅率は、6.0%以下を保つことが望ましく、その死滅率をオーバーしないようスピリッツを添加する必要がある。一方、ICP値が極端に低い場合や、酵母死滅率が極端に高い場合には、酵母を共存させた場合の香味改善効果は、ほとんど得られないことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施例において、得られたアルコール飲料(リキュール類)についての味センサーの「旨味」についての結果を示す図である。
【図2】本発明の実施例において、得られたアルコール飲料(リキュール類)についての味センサーの「酸味」についての結果を示す図である。
【図3】本発明の実施例において、用いる酵母と酵母活性及び酵母死滅率の測定結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸留アルコール入り発酵麦芽飲料風味アルコール飲料の製造方法において、発酵麦芽飲料と蒸留アルコールを混合し、酵母の存在下に発酵麦芽飲料と蒸留アルコールとを混和する混和工程を設けたことを特徴とするキレとまろみの調和した蒸留アルコール入り発酵麦芽飲料風味アルコール飲料の製造方法。
【請求項2】
蒸留アルコールが、焼酎、ウイスキー、ウオッカ、スピリッツから選択される1又は2以上の蒸留酒であることを特徴とする請求項1記載のキレとまろみの調和した蒸留アルコール入り発酵麦芽飲料風味アルコール飲料の製造方法。
【請求項3】
蒸留酒が、アルコール濃度20〜60容量%の高アルコール度数の蒸留酒であることを特徴とする請求項2記載のキレとまろみの調和した蒸留アルコール入り発酵麦芽飲料風味アルコール飲料の製造方法。
【請求項4】
発酵麦芽飲料と蒸留アルコールとを混和する混和工程を、添加酵母量20〜40×10個/mlの酵母の存在下、温度6〜12℃で、15〜21日間、混和することを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載のキレとまろみの調和した蒸留アルコール入り発酵麦芽飲料風味アルコール飲料の製造方法。
【請求項5】
酵母が、Saccharomyces属に属する酵母であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載のキレとまろみの調和した蒸留アルコール入り発酵麦芽飲料風味アルコール飲料の製造方法。
【請求項6】
酵母が、下面発酵ビール酵母Saccharomyces pastrianusであることを特徴とする請求項5記載のキレとまろみの調和した蒸留アルコール入り発酵麦芽飲料風味アルコール飲料の製造方法。
【請求項7】
酵母が、細胞内pH測定値であるICP値で、ICP値5.5以上の酵母活性を有することを特徴とする請求項5又は6記載のキレとまろみの調和した蒸留アルコール入り発酵麦芽飲料風味アルコール飲料の製造方法。
【請求項8】
酵母が、蒸留アルコール添加後においても酵母死滅率6.0%以下を保持するものであることを特徴とする請求項5〜7のいずれか記載のキレとまろみの調和した蒸留アルコール入り発酵麦芽飲料風味アルコール飲料の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか記載のアルコール飲料の製造方法によって製造されたキレとまろみの調和した蒸留アルコール入り発酵麦芽飲料風味アルコール飲料。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−165465(P2009−165465A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−298080(P2008−298080)
【出願日】平成20年11月21日(2008.11.21)
【出願人】(307027577)麒麟麦酒株式会社 (350)
【出願人】(000253503)キリンホールディングス株式会社 (247)
【Fターム(参考)】