説明

白血球除去フィルターを用いた血液または血液成分の濾過方法及び濾過装置

【課題】ポンプなどで血液を加圧して可撓性容器からなる白血球除去フィルターに流し込む濾過方法を行った場合、1)白血球除去能を効率よく高めること、2)偏流をなくしフィルターの濾過面積を有効に利用すること、を同時に達成する血液または血液成分の濾過方法及び装置を提供すること。
【解決手段】血液または血液成分の濾過方法であって、入口と出口を有する扁平状可撓性容器と該容器内を入口側室と出口側室とに隔てるように配置した総厚みが8.2mm〜8.6mmのシート状の白血球除去フィルター材を含む、厚さ9.0mm〜9.4mm、通気圧損300Pa〜700Pa、有効濾過面積50cm2〜70cm2の白血球除去フィルターに、前記白血球除去フィルターを挟み込んでいる部分における向かい合う体積拘束板の間隔が[前記白血球除去フィルターの厚み+0.5mm]〜[前記白血球除去フィルターの厚み+2.5mm]である体積拘束板を前記可撓性容器の入口側外面および出口側外面の外側に配置して、30kPa〜50kPaの圧力で血液または血液成分を前記白血球除去フィルターで濾過し、該濾過の間に発生する前記可撓性容器の膨らみを前記体積拘束板によって拘束する、ことからなる、血液または血液成分の濾過方法、及び該方法を行う濾過装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液または血液成分から凝集物や白血球等の好ましくない成分を除去する為の白血球除去フィルターを用いて血液または血液成分を濾過する方法及び装置に関する。特に扁平状可撓性容器からなる白血球除去フィルターを使用して、血液ポンプなどを使用して高流速で血液または血液成分を濾過する場合に、白血球除去フィルターの膨らみを防止して白血球除去フィルターの厚みを適切に保持し、流れを均一にするための体積拘束板を使用した濾過方法及び濾過装置に関する。
【背景技術】
【0002】
輸血の分野においては、血液製剤中に含まれている混入白血球を除去してから血液製剤を輸血する、いわゆる白血球除去輸血が普及してきている。これは、輸血に伴う頭痛、吐き気、悪寒、非溶血性発熱反応などの比較的軽微な副作用や、受血者に深刻な影響を及ぼすアロ抗原感作、ウィルス感染、輸血後GVHDなどの重篤な副作用が、主として輸血に用いられた血液製剤中に混入している白血球によって引き起こされることが明らかにされたためである。
【0003】
白血球除去方法には、大きく分けて、遠心分離機を用いて血液成分の比重差を利用して白血球を分離除去する遠心分離法と、繊維素材や、連続気孔を有する多孔質体などの多孔質素子からなるフィルター材を用いて白血球を除去するフィルター法の2種類がある。フィルター法は、白血球除去能に優れていること、操作が簡便であること、及びコストが安いことなどの利点を有するため現在普及している。
【0004】
フィルター法、即ち、白血球除去フィルターによる血液製剤などの白血球含有液の処理は、輸血操作を行う際にベッドサイドで行われることが多かったが、近年では白血球除去血液製剤の品質管理、及び白血球除去処理の有効性向上の為に、血液センターにおいて保存前に行われることが一般的になりつつある。
【0005】
従来白血球除去フィルターには、不織布や多孔質体からなるフィルター要素をポリカーボネート等の硬質容器に充填したものが広く使われてきたが、1)容器が水蒸気透過性を有さないため、採血分離セットの滅菌工程として広く使われている高圧蒸気滅菌を適用し難い、2)採血分離セットに白血球除去フィルターを組み込んだ、いわゆるクローズドシステムを使用し、全血を遠心分離によって複数の血液成分に分離した後に白血球除去を行う場合には、白血球除去フィルターも採血分離セットと共に遠心されるため、この際、硬質の容器がバッグや導管にダメージを与えたり、硬質容器自身が遠心時のストレスに耐えられずに破損する可能性がある、などの問題点を有するために、これらの問題点を解消する方法として、可撓性素材を容器に用いた、可撓性の白血球除去フィルターが開発されている(例えば、特許文献1〜特許文献4)。
【0006】
通常これらの白血球除去フィルターで血液を濾過する際は、濾過されるべき血液製剤が入ったバッグを、フィルターよりも100cm程高い位置に置き、重力の作用によって血液製剤を濾過するのが一般的である。しかし近年、市場においては白血球除去フィルターに対して、短時間で所望量の血液を処理し作業時間を短縮化させたいといった要求がある。
【0007】
このため、従来広く行われてきた重力の作用によって血液製剤を濾過する方法の他に、ポンプなどで濾過する血液を加圧し、白血球除去フィルターに流し込むことで血液の濾過速度を大きくして、短時間で血液を濾過する方法が検討されている。
【0008】
このように、血液をポンプなどで加圧して可撓性容器からなる白血球除去フィルターに流し込む濾過方法を行った場合、濾過の最中に白血球除去フィルター材の抵抗によって圧力損失が生じ、フィルター入口側の空間が大きく陽圧となり容器は風船状に膨らみ、白血球除去フィルター材と容器との接合部位に、該接合を剥がそうとする力が常に加わり、白血球除去フィルターが破裂する可能性があった。
【0009】
このような破裂を防ぐ手段の一つに、可撓性容器からなるフィルターを膨張したときの体積よりも小さい容積のプラスチック等の補強箱またはカバーに収納することにより耐圧性を高める方法が提案されている(特許文献5)。
【0010】
しかし、このような補強箱に可撓性容器からなる白血球除去フィルターを収納し、血液をポンプなどで加圧し可撓性容器からなる白血球除去フィルターに流し込む濾過方法を行った場合、白血球除去フィルター材の抵抗によって生じる圧力損失により、白血球除去フィルター材は出口側の容器に押しつけられることになる。このような状態では、白血球除去フィルター材が出口側容器と密着し、血液の流れが阻害される。
【0011】
また、特許文献6には、可撓性容器からなるフィルターを硬質ホルダーに収納する発明が開示され、この硬質ホルダーでは、可撓性容器と硬質ホルダーとの癒着を防止するために、ホルダー内面に幅が1〜3mm、間隔が2〜6mm、高さが1〜3mmのリブなどの突起状物を設けることが記載されている。しかし、本発明者がこの硬質ホルダーを使用して、ポンプなどを使用して加圧して血液を高流速で濾過しようとすると、白血球除去フィルター材が押しつけられた出口側容器は、ホルダー内面に設けられた複数のリブが作り出す隙間に膨張し侵入するが、白血球除去フィルター材と出口側容器との間に血液が高流速で流れるのに十分な空間を作り出すには至らず、血液の流れが阻害されることを防ぐことが困難であることが分かった。
【0012】
フィルターの密着を解決する方法として、フィルター材と出口側容器との間に連接棒と呼ばれる軟質塩ビチューブを挿入して密着を防ぐ方法(特許文献7)や軟質容器内面に高低差0.2〜2mmの凹凸をつけて、白血球除去フィルター材が出口側容器と密着することを防ぐ方法(特許文献8)、ニットファイバー製のスクリーン等を挿入する方法(特許文献9)等が提案されている。しかしながら本発明者らの検討によれば、これらの可撓性容器からなる白血球除去フィルターを特許文献5や特許文献6に開示されている補強箱やホルダー内部に配置して、ポンプなどを使用して加圧して血液を高速流で濾過した場合でも、白血球除去フィルター材が出口側容器と密着してしまい、白血球除去フィルター材と出口側容器との間に血液が流れるのに十分な空間を作り出すには至らず、血液の流れが阻害されることを防ぐことが困難であることが分かった。
【0013】
また、ポンプなどで血液を加圧し可撓性容器からなる白血球除去フィルターに流し込む濾過方法に対して、特許文献10に開示されているように、可撓性容器の外側に、血液出口に向かって連通する溝を有する体積拘束板を設けて、可撓性容器からなる白血球除去フィルターの体積を拘束する方法が提案されている。特許文献10の技術によれば良好な血液の流れ特性が得られるが、フィルター内での血液の偏流防止、濾過効率の向上、等の点で更に改良されることが望まれていた。
【0014】
以上述べたように、従来の技術では、短期間で大量の血液を濾過するために、ポンプなどで血液を加圧して可撓性容器からなる白血球除去フィルターに流し込む高流速濾過方法を行った場合、フィルターが破損する恐れや、血液の流れが阻害され偏流したりするために白血球除去能が低下したりする問題点があり、1)白血球除去能を効率よく高めること、2)偏流をなくしフィルターの濾過面積を有効に利用すること、を同時に達成することが困難であった。
【特許文献1】特開平6−335516号公報
【特許文献2】特開平7−67952号公報
【特許文献3】特開平7−267871号公報
【特許文献4】特表平8−507000号公報
【特許文献5】国際公開第90/15660号パンフレット
【特許文献6】特開2001−149444号公報
【特許文献7】欧州特許第0526678号明細書
【特許文献8】特開平11−216179号公報
【特許文献9】国際公開95/17236号パンフレット
【特許文献10】特開2003−052808号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の課題は、前記のような問題点を解決することにあり、ポンプなどで血液を加圧して扁平状可撓性容器からなる白血球フィルターに流し込む高流速濾過方法を行った場合、1)白血球除去能を効率よく高めること 2)偏流をなくしフィルターの濾過面積を有効に利用すること、を同時に達成する血液または血液成分の濾過方法及びそれに使用する濾過装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、前記のような問題点を解決する血液または血液成分の濾過方法及び濾過装置を提供するために鋭意検討した。その結果、入口と出口を有する扁平状可撓性容器と該容器内を入口側室と出口側室とに隔てるように配置した総厚みが8.2mm〜8.6mmのシート状の白血球除去フィルター材を含む、厚さ9.0mm〜9.4mm、通気圧損300Pa〜700Paの白血球除去フィルターに、前記白血球除去フィルターを挟み込んでいる部分における向かい合う体積拘束板の間隔が[前記白血球除去フィルターの厚み+0.5mm]〜[前記白血球除去フィルターの厚み+2.5mm]である体積拘束板を前記可撓性容器の入口側外面および出口側外面の外側に配置して、30kPa〜50kPaの圧力で血液または血液成分を前記白血球除去フィルターで濾過し、該濾過の間に発生する前記可撓性容器の膨らみを前記体積拘束板によって拘束する場合、前記白血球除去フィルターの有効濾過面積が50cm2〜70cm2の範囲にある時、白血球除去能およびフィルターの有効利用率が格段に向上することを見出し、本発明を得るに至った。
【0017】
すなわち、本発明によれば、以下の(1)〜(12)が提供される。
(1)血液または血液成分の濾過方法であって、入口と出口を有する扁平状可撓性容器と該容器内を入口側室と出口側室とに隔てるように配置した総厚みが8.2mm〜8.6mmのシート状の白血球除去フィルター材を含む、厚さ9.0mm〜9.4mm、通気圧損300Pa〜700Pa、有効濾過面積50cm2〜70cm2の白血球除去フィルターに、前記白血球除去フィルターを挟み込んでいる部分における向かい合う体積拘束板の間隔が[前記白血球除去フィルターの厚み+0.5mm]〜[前記白血球除去フィルターの厚み+2.5mm]である体積拘束板を前記可撓性容器の入口側外面および出口側外面の外側に配置して、30kPa〜50kPaの圧力で血液または血液成分を前記白血球除去フィルターで濾過し、該濾過の間に発生する前記可撓性容器の膨らみを前記体積拘束板によって拘束する、ことからなる、血液または血液成分の濾過方法。
(2)前記血液または血液成分の粘度が5mPa・s〜15mPa・sである(1)に記載の血液または血液成分の濾過方法。
(3)前記血液または血液成分が濃厚赤血球製剤である(1)または(2)に記載の血液または血液成分の濾過方法。
(4)前記扁平状可撓性容器を構成する材の引張弾性率が7N/mm2〜13N/mm2で、厚みが0.2mm〜0.6mmである(1)〜(3)の何れかに記載の血液または血液成分の濾過方法。
(5)前記扁平状可撓性容器に設けられた前記入口中心と前記出口中心が、前記フィルター材に垂直でかつ該フィルター材の中心を通る1つの平面と、該入口側外面あるいは該出口側外面との交線上に位置し、かつ該入口中心と出口中心を結ぶ直線は該フィルター材の中心を通り、かつ該入口中心と出口中心は該フィルター材の中心からそれぞれ10mm〜15mmはなれた位置にある(1)〜(4)の何れかに記載の血液または血液成分の濾過方法。
(6)前記体積拘束板が白血球除去フィルターの有効濾過面積の80〜100%を覆う(1)〜(5)の何れかに記載の血液または血液成分の濾過方法。
(7)血液または血液成分の濾過装置であって、(a)入口と出口を有する扁平状可撓性容器と該容器内を入口側室と出口側室とに隔てるように配置した総厚みが8.2mm〜8.6mmのシート状の白血球除去フィルター材を含む、厚さ9.0mm〜9.4mm、通気圧損300Pa〜700Pa、有効濾過面積50cm2〜70cm2の白血球除去フィルターと(b)前記可撓性容器の入口側外面および出口側外面の外側に配置された、前記白血球除去フィルターを挟み込んでいる部分における向かい合う体積拘束板の間隔が[前記白血球除去フィルターの厚み+0.5mm]〜[前記白血球除去フィルターの厚み+2.5mm]である体積拘束板を含む、血液または血液成分の濾過装置。
(8)前記扁平状可撓性容器を構成する材が、引張弾性率が7N/mm2〜13N/mm2で、厚みが0.2mm〜0.6mmである(7)に記載の血液または血液成分の濾過装置。
(9)前記扁平状可撓性容器に設けられた前記入口中心と前記出口中心が、前記フィルター材に垂直でかつ該フィルター材の中心を通る1つの平面と、該入口側外面あるいは該出口側外面との交線上に位置し、かつ該入口中心と出口中心を結ぶ直線は該フィルター材の中心を通り、かつ該入口中心と出口中心は該フィルター材の中心からそれぞれ10mm〜15mmはなれた位置にある(7)または(8)に記載の血液または血液成分の濾過装置。
(10)前記体積拘束板の大きさが白血球除去フィルターの有効濾過面積の80〜100%である(7)〜(9)の何れかに記載の血液または血液成分の濾過装置。
(11)前記体積拘束板が、断面形状がコである一体構造物からなる(7)〜(10)の何れかに記載の血液または血液成分の濾過装置。
(12)前記体積拘束板が一定の間隔を保つように固定又は半固定状態に連結したばらばらの2枚の板状物からなる(7)〜(10)の何れかに記載の血液または血液成分の濾過装置。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る血液または血液成分の濾過方法及び濾過装置を用いることによって、濾過後の液体中の白血球の濃度は1000個/ml以下にまで低減し、フィルターの有効利用率が70%以上でありフィルターの有効濾過面積を有効に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明で言う、血液成分とは、ヒトの血液から分離、調製される成分であり、赤血球、血小板等が挙げられる。
【0020】
本発明で言う、白血球除去フィルターとは、血液の入口と出口を有する扁平状可撓性容器と、該容器内部を入口側室と出口側室とに隔てるように配置されたシート状の白血球除去フィルター材とからなる。扁平状可撓性容器製の白血球除去フィルターであればいずれのフィルターでも良く、例えば、特許文献1〜特許文献5、特許文献7、特許文献8などで開示されている可撓性容器製白血球除去フィルターは、以下に述べる種々の特別な条件を満たせば、いずれも本発明に用いることができる。
【0021】
可撓性容器とは、可撓性の合成樹脂製のシート状成型物から形成されるのが好ましく、素材は、軟質ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリエチレンやポリプロピレンのようなポリオレフィン、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体の水添物、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体またはその水添物等の熱可塑性エラストマー、および熱可塑性エラストマーとポリオレフィン、エチレン−エチルアクリレート等の軟化剤との混合物等が好適な材料として挙げられる。好ましくは軟質ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリオレフィン、およびこれらを主成分とする熱可塑性エラストマーであり、さらに好ましくは軟質ポリ塩化ビニル、ポリオレフィンである。また、引張弾性率が7N/mm2〜13N/mm2、厚みが0.2mm〜0.6mmである材で作製された可撓性容器であることがより好ましい。引張弾性率は、引張試験を行ったとき、引張応力(試料に加わった単位面積当たりの荷重)とひずみ(試料の引張方向への伸び率)の関係が直線関係である範囲内における、引張応力とこれに対応するひずみの比である。実際には、JIS K 7113(プラスチックの引張試験方法)に従い、オートグラフ(島津製作所(株)製、型式AG-5KNI)とロードセル(島津製作所(株)製、型式SLBL-500N)を用いて可撓性容器素材の引張試験を行い、データ処理ソフト「TRAPEZIUM」(島津製作所(株)製)を用いて、応力−ひずみ曲線の変形開始点における接線の傾斜を求めることにより引張弾性率を得た。
【0022】
また、可撓性容器の形状は、濾過前の血液または血液成分の入口と濾過後の血液または血液成分の出口を有する扁平状の形状であれば、特定はしない。例えば、シート状の白血球除去フィルター材の形状に合わせて、四角形、六角形等の多角形や円形、楕円形等の曲線からなる形状であってもよい。より詳細には、容器は液体入口を有する入口側容器と液体出口を有する出口側容器から構成され、両者がフィルター材を直接挟み込むことによりフィルター内部を血液および血液成分の入口側室と出口側室に分け、扁平状の白血球除去フィルターを形成するような形状であれば好ましい。可撓性容器製白血球除去フィルターは、入口側容器と出口側容器により白血球除去フィルター材を挟み、白血球除去フィルター材の周囲と可撓性容器とを直接溶着接合することにより作製される。溶着接合法としては、高周波溶着、超音波溶着による内部溶着、ヒートシールによる外部溶着などの方法があるが、均一な溶着性という点で高周波溶着が望ましい。
【0023】
シート状の白血球除去フィルター材とは、メルトブロー法やフラッシュ紡糸法あるいは抄造法などによって製造された不織布等の繊維構造物や、連続した細孔を有する多孔質体(スポンジ状構造物)、多孔膜のような構造物であり、血液および血液成分の白血球を捕捉する性質を持つフィルター材のことをいう。シート状の白血球除去フィルターには更に白血球捕捉能力の低いプレフィルターを含むことができる。プレフィルターにより血液および血液成分中の凝集物を前もって除去することができる。
【0024】
フィルター材を形成する基材が繊維構造物である場合、その素材の例としては、ポリアミド、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、ポリトリフルオロエチレン、ポリメチルメタアクリレート、ポリエチレン、ポリプロピレンなどが挙げられる。
【0025】
さらに繊維構造物を基材とする場合、ほぼ均一な繊維径を有する繊維からなる基材であっても良いし、繊維径の異なる複数種の繊維が混在された形態であってもよい。これらの繊維は平均繊維径が0.01μm以上3.0μm未満であるものが望ましい。そしてその嵩密度としては0.1g/cm3〜0.5g/cm3であることが好ましい。
【0026】
フィルター材を構成する基材が多孔質体あるいは多孔膜である場合、その素材としてポリアクリロニトリル、ポリスルホン、セルロースアセテート、ポリビニルホルマール、ポリエステル、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリウレタンなどいずれの素材であっても本発明には適する。多孔質体あるいは多孔膜の平均孔径は1μm以上30μm未満であるものが望ましい。
【0027】
また、フィルター材は基材そのものから構成しても良いし、その表面を化学的あるいは物理的に改質したものでも良く、いずれのフィルター材も白血球除去に寄与しているシート状の白血球除去フィルター材に含まれる。
【0028】
フィルター材は繊維構造物、多孔質体あるいは多孔膜を単層で用いても良いし、複数層組み合わせて用いても良い。本発明の血液または血液成分の濾過方法で使用する体積拘束板の大きさは、白血球除去フィルターの有効濾過面積の80%以上の面積であることが好ましい。80%未満であると、体積拘束板からはみ出した白血球除去フィルター部分が大きく膨らみ、破裂の危険があり好ましくない。
【0029】
体積拘束板の大きさが白血球除去フィルターよりも大きい場合には、加圧によって白血球除去フィルターが大きく膨れることを回避でき、耐圧性を高めるという点でも好ましい。
【0030】
体積拘束板の材質は、血液または血液成分を加圧して白血球除去フィルターに流し込み、高流速で濾過する場合に、白血球除去フィルターが膨れようとする圧力に耐えて破損しない強度を保つことができればいずれの材質であっても良い。例えば、ポリカーボネート、アクリル、ポリスチレン、ポリプロピレン、硬質ポリ塩化ビニルなどの硬質プラスチック、あるいは金属などの硬質材料が挙げられる。
【0031】
本発明の血液または血液成分の濾過方法では、図1Aのように白血球除去フィルターの入口側と出口側との両方に、白血球除去フィルターを挟み込むように体積拘束板が配置されていることが好ましい。体積拘束板には、溝や孔を設けて血液入口側および出口側の導管周辺を圧迫しない構造が好ましい。白血球除去フィルターの血液または血液成分の入口側または出口側の外面に対向する体積拘束板の面は、凹凸のない平面であっても良いし、断面形状が矩形、半円、三角形等の溝や、リブや突起物等を設けた凹凸形状であっても良い。図1Bのように入口側と出口側の2枚の体積拘束板は、ほぼ平行に向き合うように、バラバラの2枚を組み合わせて用いるものが、体積拘束板の間隔を所望の間隔に調整することができるので望ましい。
【0032】
本発明において、加圧して血液または血液成分を白血球除去フィルターに流し込み濾過するとは、血液ポンプなどを用いて血液または血液成分を加圧し、白血球除去フィルターに流し込んで濾過することをいう。通常、白血球除去フィルターで血液を処理する際に一般的に行われているような、処理されるべき血液製剤が入っていたバッグをフィルターよりも100cmほど高い位置に置き、重力の作用によって血液または血液成分を濾過するといった比較的低い負荷圧力での濾過は、本発明における加圧して血液または血液成分を高流速で濾過することとは異なる。
【0033】
本発明において加圧して血液または血液成分を高流速で濾過するには、血液ポンプなどを白血球除去フィルターと濾過されるべき血液または血液成分が入ったバッグとの間に配置し、血液または血液成分を30kPa〜50kPaで白血球除去フィルターに送液する必要がある。血液または血液成分を30kPa未満の圧力で加圧する場合は、加圧濾過しても白血球除去フィルターの出口側可撓性容器の膨らみが小さく、血液または血液成分が高流速で流れるのに十分な空間が白血球除去フィルター材と出口側可撓性容器との間に形成されない。このため濾過時の圧力損失が大きくなり、濾過する血液または血液成分の流速がより小さくなるため適さない。50kPaを超える圧力で血液または血液成分を加圧する場合は、赤血球膜の破壊など、有用血液成分の破壊が起こる危険があり、適さない。
【0034】
白血球除去フィルターとしては、有効濾過面積が50cm2〜70cm2、通気圧損が300Pa〜700Pa、厚みが9.0mm〜9.4mm、かつフィルター材の厚みが8.2mm〜8.6mmであることが必要である。
【0035】
フィルターの有効濾過面積とは、血液または血液成分の濾過に使うことができる白血除去フィルターの面積であり、可撓性容器と白血球除去フィルター材との溶着部位より内側の範囲にあるフィルター材の面積である。本発明では、白血球除去フィルターの有効濾過面積は50cm2〜70cm2の範囲である必要がある。有効濾過面積が50cm2より小さいと白血球除去に使われる濾材の量が少なくなり、白血球除去性能が十分得られず、適さない。また、有効濾過面積が70cm2より大きくなると、濾過面に平行な方向へ血液または血液成分が浸透するのに時間が必要となり、フィルター全体に血液または血液成分が浸透するのに時間が必要となり、フィルター全体に血液または血液成分が浸透する前に濾過面に垂直方向に通過してしまい、フィルターの有効利用率が低下するため適さない。より好ましい範囲は50cm2〜60cm2である。
【0036】
白血球除去フィルターの通気圧損とは、白血球除去フィルターが持つ空気の流れに対する抵抗値を表す指標であり、白血球除去性能等の性能が所定の目標を達成するか否かを簡便に識別するのに適した指標である。本発明で言う白血球除去フィルターの通気圧損値は、測定対象の白血球除去フィルターを密閉できる容器に入れ、フィルター外部を40kPa減圧した状態でフィルター内部に一定流量(3.0ml/分)の乾燥空気を流したときにフィルター材に発生する圧力損失(Pa)を測定することにより求める。白血球除去フィルターの通気圧損値は、白血球除去フィルターの濾過部面積、充填するフィルター材の量、繊維径、目の粗さなどを選択し、これらを組み合わせることにより調節できる。本発明では、白血球除去フィルターの通気圧損は300Pa〜700Paの範囲である必要がある。300Paより小さいと白血球がフィルター材との接触表面積が小さく、十分な白血球除去性能が得られないために適さず、700Paより大きいと圧力損失が高いため、加圧しているにもかかわらず血液または血液成分の流速が小さくなるので適さない。より好ましくは、400Pa〜600Paの範囲であり、450Pa〜550Paの範囲が更に望ましい。
【0037】
フィルター材の総厚みとは、フィルター材を構成しているシートを全て積層した状態におけるフィルター材の平均厚みである。実際には、厚さ測定器(定圧厚み計FFA-12型、Mitsutoyo社製)を用いて2kPaの圧力(測定子の面積は2cm2)のもとで10秒以上放置して厚さを、フィルター材の異なる5箇所について測定し、その平均値から求めた。このとき、フィルター材周辺の溶着部位付近の、圧迫されて薄くなっている部分は測定の対象外とした。本発明では、フィルター材の総厚みは、8.2mm〜8.6mmの範囲であることが望ましい。8.2mmより薄いと、血液または血液成分と接触するフィルター材の表面積が小さくなり、十分な白血球除去能が得られないため、適さない。また、8.6mmより厚いと、圧力損失が高くなるため、加圧しているにもかかわらず血液または血液成分の流速が小さくなるので適さない。
【0038】
白血球除去フィルターの厚みとは、血液または血液成分を濾過する前のフィルター材を含む白血球除去フィルターの厚みを指し、フィルター材の総厚みと可撓性容器の入口側および出口側それぞれの厚みの総和で定義する。可撓性容器の厚みは、JIS B 7502 (マイクロメータ)で規定する標準外側マイクロメータで試料の異なる5箇所について測定し、その平均値を表す。フィルターの厚みが9.0mmより薄い場合は、可撓性容器の強度が下がり、30kPa〜50kPaの圧力で血液または血液成分を流したとき破断する恐れがあり、適さない。フィルターの厚みが9.4mmより厚い場合は、30kPa〜50kPaの圧力で血液または血液成分を流したとき、可撓性容器が十分に膨らまず血液または血液成分が濾過面に平行な方向へ広がるまで時間が必要となり、フィルター全体に血液または血液成分が浸透する前に濾過面に垂直方向に通過してしまい、フィルターの有効利用率が低下するため適さない。
【0039】
本発明における体積拘束板は、白血球除去フィルターを挟み込め、濾過工程中に可撓性容器が膨張しても一定間隔を保持できる強度を有するものであれば形状、材質を問わないが、例えばプラスチック等でできた、向かい合う体積拘束板を1側部で連結した断面コ字状の一体構造物(図1A)、または、ほぼ平行に向き合う、ばらばらの2枚の板状物を組み合わせ、それらが一定の間隔を保つようボルト等で固定又は半固定状態に連結したもの(図1B)が例示される。
【0040】
入口側に使用される体積拘束板と出口側に使用される体積拘束板の間隔は、[白血球除去フィルターの厚み+0.5mm]〜[白血球除去フィルターの厚み+2.5mm]であることが必要である。
【0041】
体積拘束板の間隔とは、向かい合う体積拘束板が白血球除去フィルターを挟み込んでいる部分における、可撓性容器の入口側に使用される体積拘束板と出口側に使用される体積拘束板の間の間隔を言う。体積拘束板に凹凸がある場合、血液または血液成分の入口側および出口側の外面に対向する体積拘束板の一番高い凸部となっている先端部分同士の間隔を言う。
【0042】
入口側と出口側の体積拘束板の間隔が、[白血球除去フィルターの厚み+0.5mm]より小さい場合、30kPa〜50kPaの圧力で血液または血液成分を流したとき、可撓性容器が十分に膨らまず血液または血液成分が濾過面に平行な方向へ広がるまで時間が必要となり、フィルター全体に血液または血液成分が浸透する前に濾過面に垂直方向に通過してしまい、フィルターの有効利用率が低下するため適さない。また、入口側と出口側との体積拘束板の間隔が、[白血球除去フィルターの厚み+2.5mm]よりも大きい場合、濾過終了後、白血球除去フィルター内に残留する血液量が多く、これを回収する操作が新たに必要となり、煩雑な操作が増えると同時に、この操作に時間を要するため適さない。
【0043】
体積拘束板の間隔のより好ましい範囲は、[白血球除去フィルターの厚み+1.0mm]〜[白血球除去フィルターの厚み+2.0mm]の範囲である。
【0044】
本発明で用いる血液または血液成分の粘度を測定する方法は、JIS Z 8803(液体の粘度−測定方法)で記述されている円すい−平板形回転粘度計による粘度測定方法に従って3回測定した平均値を用いる。本発明では、血液または血液成分の粘度は、5mPa・s〜15mPa・sであることが望ましい。血液または血液成分の粘度が5mPa・sより小さい場合は、血液または血液成分に必要な血球成分(例えば、赤血球、血小板など)の濃度が低い場合であり、必要な血球成分濃度を得るために、濃縮操作が必要となり適さない。血液または血液成分の粘度が15mPa・sより大きい場合は、フィルターに目詰まりがおき、濾過時間が長くなってしまったり、途中で流れが止まってしまったりする恐れがあり、適さない。
【0045】
可撓性容器の入口側に設けられた入口と出口側に設けられた出口が、フィルター材に垂直でかつ該フィルター材の中心を通る1つの平面と、該入口側外面あるいは該出口側外面との交線上に位置し、かつ該入口中心と出口中心を結ぶ直線は該フィルター材の中心を通り、かつ該入口中心および出口中心は該フィルター材の中心から10mm〜15mmはなれた位置にあるとは、例えば、図2のような可撓性容器3内に白血球除去フィルター材6がある白血球除去フィルター1で、可撓性容器3に入口4と出口5が図2のように配置されていることである。入口中心および出口中心とは、入口4および出口5として設けられた図形の重力中心(重心)のことである。フィルター材の中心とは、フィルター材を均一な立体と仮定したときの重心7と同じ位置の点である。入口4と重心7との距離8および出口5と重心7との距離がともに10mm〜15mmであることが好ましい。図2に示すような位置に入口と出口がないとき、フィルター内の血液または血液成分の流れに偏りが起こり易くなるため好ましくない。
【0046】
本発明で言うフィルターの有効利用率とは、血液または血液成分を白血球除去フィルターにより濾過したとき、該フィルターの有効濾過面積に対して濾過後に実際に使われたフィルターの面積の割合である。詳しくいうと、「フィルターの有効濾過面積」とは、前記白血球除去フィルターで血液が通過可能である白血球除去フィルター材の面積範囲である。また、「濾過後に実際に使われたフィルターの面積」とは、可撓性容器のフィルターに血液を流した場合に、実際に血液または血液成分が通過した白血球除去フィルター材の面積範囲である。そこで、一定圧力で血液または血液成分がフィルターを通過するとき、フィルターの有効利用率と、単位時間当たりの流量、すなわち流速が比例関係となる。すなわち、フィルターの有効利用率は体積拘束板を使用せずに液体を一定量濾過したときの濾過流速に対する体積拘束板を使用したときの濾過流速の比で評価できる。濾過流速は以下のように測定する。体積拘束板を用いて厚みを拘束した白血球除去フィルターに、濾過前血液貯留バッグ内の血液または血液成分を、血液または血液成分がなくなるまで血液ポンプを用いて加圧して流し込み濾過する。このとき、白血球除去フィルター入口側のフィルター材に血液または血液成分が到達した時点から、濾過前血液貯留バッグ内の血液または血液成分がなくなるまでの時間を濾過時間として測定する。
【0047】
体積拘束板を用いたときの濾過流速V(ml/分)は、回収された血液または血液成分の重量W(g)と濾過時間t(分)、さらに血液または血液成分の比重d(g/ml)から以下の式から求める。
V=(W/d)/t
【0048】
また、体積拘束板なしに、同じ物性をもつ白血球除去フィルターを使用して血液または血液成分を濾過したときの血液または血液成分の重量W0(g)、濾過時間t0(分)を測定することにより、体積拘束板を使用しないときの濾過流速V0(ml/分)を以下の式から求める。
V0=(W0/d)/t0
【0049】
これらの値からフィルターの有効利用率を以下の式から求める。
有効利用率(%)=(V/V0)×100
【0050】
この指標を以下に述べる実施例でも用いる。
[実施例]
以下、実施例により本発明をより詳細かつ具体的に説明するが、本発明は、これらによって範囲を限定されるものではない。
【実施例1】
【0051】
血液の入口、出口を接着する部分に該入口、出口の内径と同等以上の直径を有する孔を空けた、引張弾性率10N/mm2で厚み0.4mmの可撓性のポリ塩化ビニル樹脂製シートと、内径3mm、外径4.2mmのポリ塩化ビニル製のチューブを、血液の入口、出口にそれぞれ高周波溶着して、血液の入口の付いた入口側の可撓性容器、及び、血液の出口の付いた出口側の可撓性容器を作製した。前記入口と出口は、入口中心と出口中心からフィルター材の中心までの距離が各々12mmとなるように可撓性容器材に高周波溶着された。
【0052】
次に、白血球除去フィルター材として以下に記すポリエステル製不織布を積層して用いた。平均繊維径が12μm、目付が30g/m2のもの(不織布(1))を4枚、平均繊維径1.7μm、目付が66g/m2のもの(不織布(2))2枚、平均繊維径1.2μm、目付が40g/m2のもの(不織布(3))22枚、不織布(2)と同一のもの2枚、不織布(1)と同一のもの4枚、合計34枚をこの順に積層した。この白血球除去フィルター材の総厚みは、8.4mmであった。以上のようにして作製した、三種の不織布からなる積層物を84×104mm2に(長方形)に切断した。これらの可撓性容器と不織布の積層体とを、入口側可撓性容器、不織布の積層体、出口側可撓性容器の順に重ね合わせ、有効濾過面積が65×85mm2となるように高周波溶着法を用いて溶着し、可撓性容器製の白血球除去フィルターを作製した。上記白血球除去フィルターの厚みは、9.2mmで、通気圧損は、500Pa、有効濾過面積は55cm2であった。
実際に使用した不織布(2)および(3)は、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート(以下、DMという)と2-ヒドロキシエチルメタクリレート(以下、HEMAという)との共重合体(組成:DM/HEMA=3モル%/97モル%)を公知の方法を使用してコーティングを行った。コーティングした上記の共重合体の量は、不織布1gあたり約10mgであった。
【0053】
上記の白血球除去フィルターを、濾過前血液貯留バッグと濾過後血液回収バッグとの間に配置し、濾過前血液貯留バッグに接続した入口側導管を白血球除去フィルターの血液入口へ、濾過後血液回収バッグに接続した出口側導管を白血球除去フィルターの血液出口へそれぞれ接続した。また、それぞれの導管として、内径3.0mm、外径4.2mmのポリ塩化ビニル製のチューブを使用した。入口側導管にY字管を取付け、導管を介してデジタル圧力計を取り付けた。また、濾過前血液貯留バッグとデジタル圧力計につながるY字管との間に、血液を加圧送液するための血液ポンプを取り付けた。
【0054】
白血球除去フィルターの入口側および出口側の外面に対向する体積拘束板の形状は次の通りである。17×17cm2のアクリル製の平面板に、3×4cm2の溝をあけ血液入口側および出口側導管周囲を圧迫しない構造とした。また、血液入口側および出口側導管が体積拘束板によって折り曲げられたりしないように、体積拘束板の導管が接する個所には、この導管に沿って幅5mm、深さ5mmの溝を設けた。それ以外の体積拘束板の白血球除去フィルター側は平面であるものを用いた。
これら2枚の体積拘束板の間に白血球除去フィルターを配置し、体積拘束板同士の間隔が10.2mm(=[白血球除去フィルターの厚み+1.0mm])となるように固定した。
【0055】
濃厚赤血球は以下のようにして準備した。ヒトの全血液450mlにacid-citrate-dextrose(ACD)−A液を56ml添加してから、採血後8時間以内に遠心分離によって多血小板血漿を除去し、赤血球保存液として100mlのAdenine-mannitol-saline(Adsol)を加えることにより、濃厚赤血球製剤を300ml得た。濃厚赤血球製剤の粘度は、10mPa・sであった。
【0056】
上記白血球除去フィルターに、濃厚赤血球を、血液ポンプを用いて40kPaに加圧して流し込み濾過することにより白血球除去性能を評価した。濾過前血液貯留バッグ内の濃厚赤血球がなくなるまで血液ポンプを使って血液を白血球除去フィルターに供給し続けた。このとき、白血球除去フィルター入口側のフィルター材に濃厚赤血球が到達した時点から濾過前血液貯留バッグ内の濃厚赤血球がなくなるまでの時間を濾過時間として測定した。
また、濾過前の濃厚赤血球、および回収された濃厚赤血球の白血球濃度は、以下の方法により測定した。
【0057】
濃厚赤血球600μlを既知数の蛍光ビーズが入ったTruCOUNT試験管に添加した。さらにLeucoCOUNT試薬2400μlを試験管に加え、穏やかに混和した。室温暗所にて、5分間静置した。このように調製したTruCOUNT試験管を10本連続でフローサイトメーター(FACSCalibur HG 日本ベクトンディッキンソン(株)製)で測定した。また、LeucoCOUNT試薬とTruCOUNT試験管はLeucoCOUNTキット(日本ベクトンディッキンソン(株)製)を用いた。濾過前の濃厚赤血球に含まれる白血球濃度は1×107個/mlであった。
回収された濃厚赤血球の重量と濾過時間を測定して上記の式により、体積拘束板を用いたときの濾過流速を求めた。このとき濃厚赤血球の比重dを1.08g/mlとした。
【0058】
体積拘束板を使用しないこと以外は上記と同様の物性をもつ白血球除去フィルターを用い、同一の操作により濃厚赤血球の濾過を行った。回収された濃厚赤血球の重量と濾過時間を測定して上記の式により、体積拘束板を用いないときの濾過流速を求めた。これらから白血球除去フィルターの有効利用率を求めた。
白血球除去フィルターの有効利用率、および回収された濃厚赤血球に含まれる白血球濃度を表1、および図3、4に示した。
【実施例2】
【0059】
白血球除去フィルターにおいてフィルターの有効濾過面積が7.3×9.6=70cm2、通気圧損が393Paである以外は実施例1と同じ形状のものを使用し、実施例1と
同じ体積拘束板を用い、同一の操作を行った。白血球除去フィルターの有効利用率、およ
び回収された濃厚赤血球に含まれる白血球濃度を表1、および図3、4に示した。
【実施例3】
【0060】
白血球除去フィルターにおいてフィルターの有効濾過面積が6.2×8.1=50cm2、通気圧損が550Paである以外は実施例1と同じ形状のものを使用し、実施例1と同じ体積拘束板を用い、同一の操作を行った。白血球除去フィルターの有効利用率、および回収された濃厚赤血球に含まれる白血球濃度を表1、および図3、4に示した。
【0061】
[比較例1]
白血球除去フィルターにおいてフィルターの有効濾過面積が5.5×7.2=40cm2、通気圧損が688Paである以外は実施例1と同じ形状のものを使用し、実施例1と同じの体積拘束板を用い、同一の操作を行った。白血球除去フィルターの有効利用率、および回収された濃厚赤血球に含まれる白血球濃度を表1、および図3、4に示した。
回収された濃厚赤血球に含まれる白血球濃度が3400個/mlであり、他の実施例に比べて十分に白血球が除去されていないことが分かった。
【0062】
[比較例2]
白血球除去フィルターにおいてフィルターの有効濾過面積が8.9×11.9=105cm2、通気圧損が262Paである以外は実施例1と同じ形状のものを使用し、実施例1と同じの体積拘束板を用い、同一の操作を行った。白血球除去フィルターの有効利用率、および回収された濃厚赤血球に含まれる白血球濃度を表1、および図3、4に示した。
フィルターの有効利用率が45.5%であり、他の実施例に比べてフィルターの有効濾過面積が広い割に有効に利用されていないため、流速が遅くなることが分かった。
【0063】
【表1】

【0064】
以上のように、実施例においては本発明で示した特定の有効濾過面積等の条件を満たす白血球除去フィルターを用いて、特定の条件で濃厚赤血球を濾過するとき、白血球除去フィルターの有効利用率が高く、かつ回収した濃厚赤血球の白血球濃度を低くすることが同時に達成できたが、比較例においては、白血球除去フィルターの有効利用率が低い、もしくは回収した濃厚赤血球の白血球濃度が高い結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明に係る濃厚赤血球の濾過方法及び濾過装置は主に輸血のための白血球を除去した濃厚赤血球製剤を製造する上で有用である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】A:体積拘束板の一例、 B:体積拘束板の別の例
【図2】白血球除去フィルターの形状の一例
【図3】実施例1〜3、比較例1〜2における白血球除去フィルターの有効濾過面積と白血球除去フィルターの有効利用率の関係を示すグラフ
【図4】実施例1〜3、比較例1〜2における白血球除去フィルターの有効濾過面積と回収した濃厚赤血球の白血球濃度の関係を示すグラフ
【符号の説明】
【0067】
1 入口側からみた白血球除去フィルター
2 フィルター材の平面の長辺に平行な中心線でフィルターを二分した断面
3 可撓性容器
4 血液または血液成分入口
5 血液または血液成分出口
6 フィルター材
7 フィルター材の中心
8 血液または血液成分入口とフィルター材の中心との距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液または血液成分の濾過方法であって、
入口と出口を有する扁平状可撓性容器と該容器内を入口側室と出口側室とに隔てるように配置した総厚みが8.2mm〜8.6mmのシート状の白血球除去フィルター材を含む、厚さ9.0mm〜9.4mm、通気圧損300Pa〜700Pa、有効濾過面積50cm2〜70cm2の白血球除去フィルターに、前記白血球除去フィルターを挟み込んでいる部分における向かい合う体積拘束板の間隔が[前記白血球除去フィルターの厚み+0.5mm]〜[前記白血球除去フィルターの厚み+2.5mm]である体積拘束板を前記可撓性容器の入口側外面および出口側外面の外側に配置して、
30kPa〜50kPaの圧力で血液または血液成分を前記白血球除去フィルターで濾過し、
該濾過の間に発生する前記可撓性容器の膨らみを前記体積拘束板によって拘束する、
ことからなる、血液または血液成分の濾過方法。
【請求項2】
前記血液または血液成分の粘度が5mPa・s〜15mPa・sである請求項1に記載の血液または血液成分の濾過方法。
【請求項3】
前記血液または血液成分が濃厚赤血球製剤である請求項1または2に記載の血液または血液成分の濾過方法。
【請求項4】
前記扁平状可撓性容器を構成する材の引張弾性率が7N/mm2〜13N/mm2で、厚みが0.2mm〜0.6mmである請求項1〜3の何れかに記載の血液または血液成分の濾過方法。
【請求項5】
前記扁平状可撓性容器に設けられた前記入口中心と前記出口中心が、前記フィルター材に垂直でかつ該フィルター材の中心を通る1つの平面と、該入口側外面あるいは該出口側外面との交線上に位置し、かつ該入口中心と出口中心を結ぶ直線は該フィルター材の中心を通り、かつ該入口中心と出口中心は該フィルター材の中心からそれぞれ10mm〜15mmはなれた位置にある請求項1〜4の何れかに記載の血液または血液成分の濾過方法。
【請求項6】
前記体積拘束板が白血球除去フィルターの有効濾過面積の80〜100%を覆う請求項1〜5の何れかに記載の血液または血液成分の濾過方法。
【請求項7】
血液または血液成分の濾過装置であって、
(a)入口と出口を有する扁平状可撓性容器と該容器内を入口側室と出口側室とに隔てるように配置した総厚みが8.2mm〜8.6mmのシート状の白血球除去フィルター材を含む、厚さ9.0mm〜9.4mm、通気圧損300Pa〜700Pa、有効濾過面積50cm2〜70cm2の白血球除去フィルターと
(b)前記可撓性容器の入口側外面および出口側外面の外側に配置された、前記白血球除去フィルターを挟み込んでいる部分における向かい合う体積拘束板の間隔が[前記白血球除去フィルターの厚み+0.5mm]〜[前記白血球除去フィルターの厚み+2.5mm]である体積拘束板
を含む、血液または血液成分の濾過装置。
【請求項8】
前記扁平状可撓性容器を構成する材が、引張弾性率が7N/mm2〜13N/mm2で、厚みが0.2mm〜0.6mmである請求項7に記載の血液または血液成分の濾過装置。
【請求項9】
前記扁平状可撓性容器に設けられた前記入口中心と前記出口中心が、前記フィルター材に垂直でかつ該フィルター材の中心を通る1つの平面と、該入口側外面あるいは該出口側外面との交線上に位置し、かつ該入口中心と出口中心を結ぶ直線は該フィルター材の中心を通り、かつ該入口中心と出口中心は該フィルター材の中心からそれぞれ10mm〜15mmはなれた位置にある請求項7または8に記載の血液または血液成分の濾過装置。
【請求項10】
前記体積拘束板の大きさが白血球除去フィルターの有効濾過面積の80〜100%である請求項7〜9の何れかに記載の血液または血液成分の濾過装置。
【請求項11】
前記体積拘束板が、断面形状がコである一体構造物からなる請求項7〜10の何れかに記載の血液または血液成分の濾過装置。
【請求項12】
前記体積拘束板が一定の間隔を保つように固定又は半固定状態に連結したばらばらの2枚の板状物からなる請求項7〜10の何れかに記載の血液または血液成分の濾過装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−244858(P2007−244858A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−37801(P2007−37801)
【出願日】平成19年2月19日(2007.2.19)
【出願人】(000116806)旭化成メディカル株式会社 (133)
【Fターム(参考)】