説明

白金含有触媒及びその製造方法、並びに電極及び電気化学デバイス

【課題】白金の使用量を削減でき高い触媒活性及び安定性をもつコアシェル型白金含有触媒及びその製造方法、並びに電極及び電気化学デバイスを提供すること。
【解決手段】コアシェル型白金含有触媒は非白金元素からなるコア粒子(平均粒子径をR1))と白金シェル層(平均厚さts)を有し、1.4nm≦R1≦3.5nm、0.25nm≦ts≦0.9nmである。コア粒子と白金シェル層の界面の白金、白金シェルの最外表面の白金5d軌道電子の、フェルミ準位を基準とした平均束縛エネルギーをEintとする時、コア粒子は、Eout≧3.0eVとなる元素を含有する。コア粒子がRu粒子である白金含有触媒をアノード触媒とする燃料電池の電流密度300mA/cm2における出力密度は70mW/cm2以上であり、出力維持率は約90%以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非白金元素からなるコア金属粒子とシェル層(白金層)を有するコアシェル型白金含有触媒及びこれを用いた燃料電池に関し、一酸化炭素による被毒を受け難い白金含有触媒及びその製造方法、並びに白金含有触媒を用いた電極及び電気化学デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
化学エネルギーを電気エネルギーに転換する燃料電池は、効率的でしかも環境汚染物質を発生しないので、携帯情報機器用、家庭用、自動車用等のクリーンな電源として注目され、開発が進められている。
【0003】
近年、携帯電話、ノート型パーソナルコンピュータ、デジタルカメラ、カムコーダ等の携帯型電子機器では、その高機能化及び多機能化に伴い、消費電力が増加する傾向にある。これらの携帯型電子機器の電源としては、一般的に小型の一次電池及び二次電池が用いられている。
【0004】
電池の特性を示す指標として、エネルギー密度と出力密度とがある。エネルギー密度とは、電池の単位質量或いは単位体積当たりの供給可能な電気エネルギー量であり、出力密度とは、電池の単位質量或いは単位体積当たりの出力である。携帯型電子機器に用いられる電池には、電子機器の更なる高機能化及び多機能化に対応できるように、エネルギー密度及び出力密度の向上が要求されている。
【0005】
例えば、現在、携帯型電子機器用の電源として広く普及しているリチウムイオン二次電池は、出力密度が大きいという優れた特性をもつ。また、エネルギー密度も比較的大きく、体積エネルギー密度は400Wh/L以上に達している。しかし、リチウムイオン二次電池では、構成材料が大きく変わらない限り、これ以上大幅なエネルギー密度の向上を期待することはできない。
【0006】
そのため、今後も更なる多機能化及び高消費電力化が進むと予想される携帯型電子機器に対応していくために、燃料電池が次世代の携帯型電子機器用電源として期待されている。
【0007】
燃料電池では、アノード(負極)側に燃料が供給されて燃料が酸化され、カソード(正極)側に空気又は酸素が供給されて酸素が還元され、燃料電池全体では燃料が酸素によって酸化される反応が起こる。この結果、燃料がもつ化学エネルギーが、効率よく電気エネルギーに変換されて取り出される。従って、燃料を補給し続ければ、故障しない限り、充電しなくても燃料電池を電源として使い続けることができる。
【0008】
既に、種々な種類の燃料電池が提案又は試作され、一部は実用化されている。これらの燃料電池は、用いられる電解質によって、アルカリ電解質型燃料電池(AFC:Alkaline Fuel Cell)、リン酸型燃料電池(PAFC:Phosphoric Acid Fuel Cell)、溶融炭酸塩型燃料電池(MCFC:Molten Carbonate Fuel Cell)、固体酸化物型燃料電池(SOFC:Solid Electrolyte Fuel Cell)、及び、固体高分子電解質型燃料電池(PEFC:Polymer Electrolyte Fuel Cell)等に分類される。これらのうち、PEFCは、使用される電解質が固体であること、また、他の型式の燃料電池に比べて低い温度、例えば、30℃〜130℃程度の温度で動作させることができる等の利点を有し、携帯型電子機器用電源として好適である。
【0009】
燃料電池の燃料として、水素やメタノール等、種々の可燃性物質を用いることができる。しかし、水素等の気体燃料は、貯蔵用のボンベ等が必要になるため、燃料電池の小型化には適していない。一方、メタノール等の液体燃料は、貯蔵し易いという利点がある。とりわけ、メタノールを改質することなく、直接アノードに供給して反応させる直接型メタノール燃料電池(DMFC:Direct Methanol Fuel Cell)には、燃料から水素を取り出すための改質器を必要とせず、構成が簡素になり、小型化が容易であるという利点がある。従来、DMFCはPEFCの1種として研究されてきており、この型の燃料電池が携帯型電子機器用電源として用いられる可能性が最も高い。
【0010】
燃料電池には使用される電解質の種類によって各種のタイプがあるが、メタノール等の有機材料や水素を燃料とする燃料電池は特に注目されており、その出力性能を決定する重要な構成材料は、電解質材料、触媒材料であり、電解質膜の両側を触媒膜で挟んだ膜電極接合体(MEA:Membrane-Electrode Assembly)は重要な構成要素である。
【0011】
電解質材料として多種類の材料が検討されてきており、例えば、パーフロロスルホン酸系樹脂による電解質はその代表例であり、また、触媒材料として、多種類の材料が検討されてきており、例えば、PtRu触媒はその代表的な例である。また、PtRu触媒以外にも、高活性を有する触媒を実現するために、MをAu、Mo、W等とする二元系の触媒PtMの検討もなされている。
【0012】
DMFCの燃料極では、例えば、PtとRuを用いた二元金属系触媒を使用する場合、式(1)に示す脱プロトン反応でメタノールが酸化されCOが生成されPtに吸着されてPt−COを生成する。式(2)に示す反応で水が酸化されOHが生成されRuに吸着されてRu−OHを生成する。最終的に、式(3)に示す反応でRu−OHによって吸着されたCOが酸化されCO2として除去され電子が発生する。Ruは助触媒として作用している。
【0013】
Pt + CH3OH → Pt−CO + 4H+ + 4e- …(1)
Ru + H2O → Ru−OH + H + e- …(2)
Pt−CO + Ru−OH → Pt + Ru + CO2 + H+ + e- …(3)
【0014】
式(1)、(2)、(3)に示す一連の反応でメタノールが酸化される原理は、Ptに吸着されたCOと、Ptに隣接したRuに結合された水酸基とが反応してCOをCO2に転換させ、これによってCOによる触媒の被毒が抑制されるというバイファンクショナルメカニズム(bi-functional mechanism、以下、「二元機能機構」という。)として広く知られている。
【0015】
これとは別に、隣接するRuからPtが電子的影響を受ける条件の下で、式(1)の後に式(4)に示す反応でPt−COがH2O(水)によって酸化されることが起こり得るとされている。
【0016】
Pt−CO + H2O → Pt + CO2 + 2H+ + 2e- …(4)
【0017】
触媒の構造組成に関する検討は盛んになされており、燃料電池に適用されPt、Ruを含みコアシェル構造を有する触媒に関しては非常に多数の報告がなされている(例えば、後記する特許文献1〜特許文献4を参照。)。
【0018】
先ず、「燃料電池用複合触媒、燃料電池用複合触媒の製造方法、燃料電池用電極触媒層の製造方法及び燃料電池」と題する後記の特許文献1には、次の記載がある。
【0019】
特許文献1の発明の燃料電池用複合触媒は、触媒金属からなる触媒金属シェルと、該触媒金属と異なる金属種からなる金属コアとを有するコアシェル型触媒金属微粒子(A)の表面に、イオン交換性高分子(B)が付着していることを特徴とするとしている。
【0020】
触媒金属微粒子(A)において、シェルを形成する触媒金属としては、燃料電池の電極反応に対して触媒活性を有している金属であれば特に限定されず、Pt、Pd、Ir、Rh、Au、Ru、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Ag、W、Re、Os等が挙げられる。中でもPt、Pd、Ir、Rh、Au等の貴金属が好適に用いられ、その触媒活性の高さからPtが特に好ましく用いられるとしている。
【0021】
また、触媒金属微粒子(A)において、コアを形成する金属としては、シェルを形成する触媒金属とは異なる金属種であれば特に限定されず、例えば、Pt、Pd、Ir、Rh、Au、Ru、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Ag、W、Re、Os等を用いることができる。コアは、複数種の金属から構成されていてもよいとしている。
【0022】
触媒金属微粒子(A)において、金属コアを構成する金属種と触媒金属シェルを構成する触媒金属種のモル比(金属種/触媒金属種)は、特に限定されず、下記のような金属コアの粒径や触媒金属シェルの厚さ等によるが、一般的には、1/4〜1/0.2程度が好ましい。金属コアの粒径及び触媒金属シェルの厚さは特に限定されず、触媒金属の利用率の他、複合触媒の分散性、電子的効果、立体的効果等を考慮して適宜設定すればよい。コアシェル構造の安定性や触媒金属の利用率の観点からは、金属コアの粒子径が1〜50nmであることが好ましく、特に1〜10nmであることが好ましい。また、触媒金属シェルの厚さは触媒金属1原子分以上であればよく、触媒金属の利用率の観点からは、触媒金属シェルの厚さが0.3〜5nmであることが好ましく、特に0.3〜1nmであることが好ましいとしている。
【0023】
特許文献1の発明によれば、1〜10nmの粒径を有する触媒金属微粒子(A)を得ることが可能であり、更には2〜10nmの触媒金属微粒子(A)を得ることができるとしている。
【0024】
同時還元法は、イオン交換性高分子(b)、金属前駆物質(a2)及び金属触媒前駆物質(a1)を溶解した混合溶液に対して、還元処理を施すことによって、金属イオン及び触媒金属イオンを還元し、金属コアの表面に触媒金属シェルが形成されたコアシェル型触媒金属微粒子を析出させる方法である。
【0025】
触媒金属前駆物質(a1)と金属前駆物質(a2)の比(仕込み量)は特に限定されないが、この仕込み量によってコアシェル型触媒金属微粒子(A)における触媒金属シェルと金属コアの比率が制御されるため、適宜設定すればよい。一般的には、触媒金属前駆物質(a1)の触媒金属元素に対する金属前駆物質(a2)の金属元素の比率(金属元素/触媒金属元素)が1/10〜1/0.01となるように、特に、1/4〜1/0.2となるように、各前駆物質を仕込むことが好ましいとしている。以上が、特許文献1における記載である。
【0026】
また、「分散安定化された触媒ナノ粒子含有液」と題する後記の特許文献2には、次の記載がある。
【0027】
触媒ナノ粒子は、(a)Ru金属元素からなり且つ1nm〜10nmの粒径のナノ粒子と、(b)前記ナノ粒子の表面の一部又は全部を被覆し且つ白金金属からなる層とを有する。
【0028】
前記金属ナノ粒子の粒径は、表面において還元されて担持される白金族遷移金属層(例えば、Pt層)の大きさにより異なるが、1nm〜10nmの範囲が好ましい。1nm以下では、担持される白金族遷移金属層(例えば、Pt層)表面に十分な被毒抑制効果を与えることができないため、好ましくない。また、10nm以上では、白金族遷移金属層(例えば、Pt層)表面の被毒抑制に関与しない金属原子部分が多くなりコストが高くなるため、好ましくない。なお、前記粒径は、電子顕微鏡やX線回折測定により評価することができる。
【0029】
また、前記金属ナノ粒子の表面に担持されるPt層の被覆割合は、所要の触媒活性を実現するために必要なPt表面積が確保できる割合であれば特に制限はないが、前記金属ナノ粒子の表面積の5%以上であることが望ましい。また、前記Pt層の厚さは、前記金属ナノ粒子がPt層表面に存在するPt原子の電子状態に影響を与える厚さであれば制約はないが、1Pt原子層の厚さ〜3nmの範囲が好ましい。3nm以上であると、前記金属ナノ粒子が前記Pt層表面に存在するPt原子の電子状態に影響を与えなくなり、Pt表面の一酸化炭素被毒抑制効果が得られなくなるため、好ましくないとしている。以上が、特許文献2における記載である。
【0030】
更に、第一原理計算による結果に基づく触媒に関する検討がなされている(例えば、後記する非特許文献1〜非特許文献3を参照。)。
【0031】
DMFCでは、燃料のメタノールは、通常、低濃度又は高濃度の水溶液としてアノード側に供給され、アノード側の触媒層で下記式(a)のように二酸化炭素に酸化される。
【0032】
アノード:CH3OH + H2O → CO2 + 6H+ + 6e- …(a)
【0033】
式(a)で生じた水素イオンは、アノード側の触媒層とカソード側の触媒層の間に挟持されたプロトン伝導性高分子電解質膜を通ってカソード側へ移動し、カソード側の触媒層で酸素と下記式(b)のように反応して水を生成する。
【0034】
カソード:6H+ + (3/2)O2 + 6e- → 3H2O …(b)
【0035】
DMFC全体で起こる反応は、式(a)と式(b)を合わせた、下記の反応式(c)で示される。
【0036】
DMFC全体:CH3OH + (3/2)O2 → CO2 + 2H2O …(c)
【0037】
DMFCの体積エネルギー密度は、リチウムイオン二次電池の数倍の体積エネルギー密度を実現できると期待されている。しかし、DMFCの問題点の1つとして、出力密度が小さいことが挙げられる。このため、携帯型電子機器を駆動するための電力を燃料電池単独で発生させようとすると、燃料電池のサイズが携帯型電子機器に許容される大きさを超えてしまい、DMFCを携帯型電子機器に内蔵できなくなることが懸念されている。
【0038】
そこで、DMFCの出力密度を向上させることが要求されており、その出力密度の向上のための対策の1つとして、メタノール酸化に対するアノード触媒の活性を向上させることが要求されている。従来、アノード触媒としては、白金(Pt)とルテニウム(Ru)からなる合金触媒を微粒子化し、導電性の炭素材料粉末上に担持した触媒等が一般的に用いられている。
【0039】
白金を含有する触媒微粒子は、水素やメタノールの酸化に対して高い触媒活性を示す。しかし、純白金微粒子は一酸化炭素(CO)によって被毒され易く、一酸化炭素が白金微粒子の活性点に強く吸着され、白金微粒子の触媒活性が著しく低下することがある。このため、PEFCの一般的な燃料である水素ガス中に一酸化炭素が含まれていたり、DMFCのように一酸化炭素が中間生成物として生成したりする場合には、PEFCのアノード触媒として純白金微粒子を用いることはできない。
【0040】
これに対し、白金にルテニウム等の金属元素を共存させた白金/ルテニウム触媒等は、一酸化炭素による被毒を受け難いアノード触媒として優れた特性を有することが知られており、PEFCのアノード触媒として、白金/ルテニウム合金触媒等が用いられている。白金とルテニウムからなる触媒の、メタノール酸化に対する触媒作用は、二元機能機構によって説明されている(Electroanalytical Chemistry and Interfacial Electrochemistry,60(1975),267-273 参照。)。
【0041】
二元機能機構では、メタノールは、白金上での複数の反応によって段階的に水素(H)を水素イオン(H+)として失い、下記式(d)で示すように一酸化炭素にまで酸化される。
【0042】
CH3OH →CO + 4H+ + 4e- …(d)
【0043】
一方、ルテニウム上では吸着された水が分解され、下記式(e)で示すようにヒドロキシラジカル(OH)が生じている。
【0044】
2O →OH + H+ + e- …(e)
【0045】
白金上で生成した一酸化炭素は、下記式(f)で示すように、近隣のルテニウム上のヒドロキシラジカルによって二酸化炭素(CO2)に酸化され、メタノールの酸化が完了する。
【0046】
CO + OH → CO2 + H+ + e- …(f)
【0047】
上記のように、白金とルテニウムからなる触媒では、白金上の一酸化炭素が二酸化炭素に酸化され、白金の活性点からすみやかに脱離するため、一酸化炭素による白金の被毒が起こり難く、メタノール酸化に対する活性が高い。二元機能機構によれば、白金とルテニウムとが隣り合っている箇所が多い触媒ほど、メタノール酸化に対する活性が高いと予想され、例えば、白金とルテニウムとが原子レベルで混ざり合った触媒、即ち、白金/ルテニウム合金触媒が高活性であると考えられている。
【0048】
実際、白金/ルテニウム系触媒では、白金とルテニウムが原子レベルでよく混ざり合った触媒、即ち、合金化の進んだ触媒がメタノール酸化に対して高活性であることが、報告されている(Materials Research Society Symposium Proceedings,Vol.900E,0900-O09-12 参照。)。また、市販のDMFCアノード向け白金/ルテニウム触媒の中で、DMFCのアノード触媒として用いた場合に、比較的高出力のDMFCが得られるのは、白金とルテニウムの合金化の度合いが大きい触媒である。
【0049】
なお、白金とルテニウム等からなる合金触媒は、微粒子化して用いられる。これは、白金等の貴金属は高価で希少であるので、その使用量をできるだけ少なくすることが要求されており、少量でも高活性な触媒とするために、触媒活性を示す表面の面積をできるだけ大きくするためである。また、触媒微粒子は、導電性の炭素材料粉末等の上に担持して用いるのが一般的である。これは、触媒の微粒子化に際して、微粒子同士の凝集が起こり、触媒の表面積が減少することを防止するためである。
【0050】
しかしながら、合金化によって一酸化炭素による被毒を低減させ、メタノール酸化に対する活性を高める方法には限界があり、現在一般的に入手可能な白金/ルテニウム合金触媒微粒子の、メタノール酸化に対する触媒活性は十分なものではない。従って、このような白金/ルテニウム合金触媒微粒子をDMFCのアノード触媒として用いた場合、携帯型電子機器に要求されるレベルの高出力密度を実現することは困難である。また、触媒の製作において高価な白金の使用量を削減することが望ましいが、白金の使用量を抑えると触媒活性が低下してしまう。
【0051】
白金/ルテニウム合金触媒の触媒性能の向上を制限している原因の1つとして、触媒微粒子の小粒子径化や合金化が十分ではないことが挙げられる。白金/ルテニウム合金触媒の一般的な製造方法では、カーボン担体に白金微粒子を担持させてから、更にルテニウム微粒子を担持させ、その後、加熱によって白金微粒子とRu微粒子を融合させて合金化する。この作製方法では、白金微粒子とRu微粒子をある程度以上の大きさに成長させないと合金化が不十分になるので、触媒微粒子の小粒子径化と合金化とが相反する要求になり、解決が難しくなる。また、カーボン担体上での白金微粒子やルテニウム微粒子の担持量が少なくなるほど、白金微粒子とRu微粒子がまばらに分布するので、白金微粒子とRu微粒子を融合させて合金化することが困難になる。
【0052】
合金触媒の触媒性能の向上を制限している他の原因は、触媒微粒子の内部に存在する白金原子を利用できないことである。触媒微粒子を構成する原子の中で触媒作用に関与するのは、触媒微粒子の表面近傍に位置する原子のみである。従って、白金/ルテニウム合金触媒微粒子では、触媒微粒子の内部に位置する白金原子は触媒作用に寄与しない。この触媒作用に寄与しない無駄になる白金原子の割合は、触媒微粒子の粒子径が大きいほど大きい。また、白金/ルテニウム合金触媒微粒子では、DMFCの発電中にルテニウムが電解質に溶出し、触媒活性が徐々に低下するという問題もある。合金触媒では、触媒表面に白金とルテニウムとが露出していることが、触媒作用が働くために必要である。合金触媒では、発電中にルテニウムが溶出してしまうという耐久性に関する問題を解決することは難しい。
【0053】
白金/ルテニウム合金触媒以外にも、白金と白金以外の元素を組み合わせた触媒や、低コスト化のために白金を用いない触媒等の様々な材料により、DMFCのアノード触媒が検討されてきが、これらの何れの触媒も触媒活性や耐久性に問題を有している。このため、携帯型電子機器に要求されるレベルの高出力密度をDMFCで実現するためには、これまでとは異なるアプローチが望まれている。
【0054】
後述の特許文献5には、ルテニウム粒子と、その表面の一部を被覆する白金層とよりなる触媒微粒子が、燃料電池用の電極触媒として提案されている。この触媒微粒子では、合金化の工程がないので、触媒微粒子の粒子径が合金化の工程によって制約されることがない。また、触媒微粒子の内部に白金原子が存在せず、白金原子は微粒子表面にのみ存在するので、無駄になる白金量を低減でき、合金微粒子に比べて白金の利用効率が高い。
【0055】
特許文献5には、上記の触媒微粒子の製造方法として、ルテニウム塩溶液に還元剤を加えてルテニウムイオンを還元し、ルテニウムのコロイド粒子を合成する工程と、このルテニウム粒子を分散させた分散液に水素をバブリングして、ルテニウム粒子の表面に水素を吸着させる工程と、白金塩の溶液を前記分散液に加え、ルテニウム粒子の表面上で白金イオンを水素で還元することにより、表面に白金層を生成させる工程とを有する製造方法が提案されている。
【0056】
触媒微粒子を小粒子径化して、高い触媒性能を実現するためには、製造過程においてルテニウム粒子を安定に分散させ、凝集等を起こさせないことが必要である。このため、特許文献5には、ルテニウム粒子を合成する際に、ポリビニルピロリドン等の、ルテニウム粒子の凝集を防止するための凝集防止剤を、ルテニウム塩溶液に添加しておくことが好ましいと記載されている。
【0057】
しかしながら、このようにすると、凝集防止剤によって触媒の活性点が被覆されるため、触媒微粒子合成後に、例えば、水素存在下で300℃程度に加熱する等、凝集防止剤を除去する熱処理工程が必要になる。そして、この熱処理工程において触媒微粒子の凝集が起こり、触媒の活性表面積が減少することが懸念される。
【0058】
後述の特許文献2には、ルテニウム等の金属元素を有するナノ粒子と、このナノ粒子の表面の一部又は全部を被覆する白金等の層とを有する触媒ナノ粒子が、クエン酸等のカルボン酸化合物により分散安定化されているコロイド溶液、及び、このコロイド溶液と担体とを混合し、触媒ナノ粒子を担体上に担持させたナノ粒子含有触媒が提案されている。
【0059】
また、特許文献2には、クエン酸等のカルボン酸化合物を分散安定化剤として含有する金属塩含有液を調製し、この溶液をコロイド形成条件に付して、ルテニウム等の金属元素を有するナノ粒子を生成させ、次に、白金族金属塩含有液を添加して還元処理し、ナノ粒子の表面の一部又は全部を被覆する白金等の層を形成することによって、前記コロイド溶液を製造する製造方法が提案されている。
【0060】
特許文献2で提案されている前記コロイド溶液の製造方法の特徴は、特許文献5の製造方法で用いられているポリビニルピロリドン等の高分子系凝集防止剤の代わりに、クエン酸等のカルボン酸化合物を用いる点にある。特許文献2によれば、カルボン酸化合物は、触媒ナノ粒子表面への吸着力が弱いため、触媒として利用する際に触媒ナノ粒子表面から脱離する。このため、カルボン酸化合物を除去するための熱処理工程が不要になり、熱処理工程で触媒微粒子の凝集が起こるおそれがない。また、熱処理工程を行うとしても、高分子系凝集防止剤を除去する場合よりも低温で行うことができるので、触媒微粒子の凝集が起こって活性表面積が減少するおそれは小さい。
【0061】
図28は、特許文献2の図1に示されている触媒の模式図である。この触媒では、1個のRuナノ粒子101の表面の一部を複数の島状の白金層102が被覆しており、このようにして形成された触媒微粒子103がカーボン担体104上に担持されている。また、Ruナノ粒子101及び白金層102の表面には、コロイド溶液の製造時に用いられた、クエン酸等のカルボン酸化合物105が付着している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0062】
貴金属表面に分子やラジカルを吸着させ、反応を促進させる触媒の利用は産業上非常に重要である。例えば、白金触媒では中間生成物である一酸化炭素が触媒活性を劣化させ(被毒)、触媒活性が時間経過と共に低下していくことが問題となっている。燃料電池に使用する触媒として白金を含む合金粒子を用いた触媒が提案されているが、白金が均一に分散した合金粒子を用いた触媒では、外部に露出した白金が触媒の機能に寄与すると考えられるので、外部に露出せず合金粒子の内部に埋もれた白金は触媒の機能に寄与せず、触媒として利用されない白金の割合が多い。
【0063】
例えば、直径5nmの白金合金粒子の表層0.2nm〜0.3nmの体積の部分のみが触媒として機能すると考えると、この体積は白金合金粒子の約20%〜約30%に過ぎない。白金は埋蔵量が少なく高価な材料であり、白金が有効に使用されておらず無駄が多い。白金の使用量を削減し、高い触媒活性を有する実用性の高い触媒が望まれている。
【0064】
白金を触媒として利用する場合、材料の表面にある白金のみが触媒活性に寄与するものと考えられ、白金の使用量を削減する方法の一つとつとして、適当な元素からなるコア金属粒子上に白金層をシェル層として積層させたコアシェル型白金含有触媒がある。
【0065】
例えば、特許文献1では、コア金属粒子の粒子径が1〜10nmであることが特に好ましく、白金層の厚さは、特に0.3〜1nmであることが好ましいとしており、また、特許文献2では、金属ナノ粒子(コア金属粒子)の粒子径は、Pt層の大きさにより異なるが、1〜10nmの範囲が好ましく、Pt層の厚さは、1Pt原子層の厚さ〜3nmの範囲が好ましいとしている。
【0066】
従来技術では、触媒活性の実験的な評価結果に基づいて、コアシェル型白金含有触媒のコア粒子の粒子径、及び、シェル層(白金層)の厚さの好ましい範囲を提示している報告はない。特許文献1、特許文献2において好ましいとしている上記の範囲は、触媒活性の実験的な評価結果に基づくものではなく、広いものであり、実際にコアシェル型白金含有触媒を作製する際の指針としては、十分有効なものとなっていない。
【0067】
従って、触媒活性の実験的な評価結果に基づいて、白金の使用量の削減し且つ高い触媒活性を実現することができるコアシェル型白金含有触媒を作製するための有効な指針が望まれている。また、触媒活性の実験的な評価結果の密度汎関数理論(Density Function)に基づいた第一原理計算による結果による裏付けが望まれている。
【0068】
非特許文献1〜非特許文献3に、第一原理計算による結果を論拠とした白金−非白金接触系の触媒機能の向上に関する記載があるが、非特許文献1では、1層の原子層のモデルでしか計算しておらず、白金層の厚みが触媒活性にもたらす影響については考察されていない。
【0069】
また、非特許文献2、非特許文献3は単一金属相の表面へのCO吸着について論じているが、白金原子層とコア金属の接触がもたらすリガンド効果(ligand effect)ついては論じられておらず、厚さ1nm以下(1〜4原子層)の白金層の白金原子とコア金属粒子を構成する原子の間の相互作用による触媒の高活性化については論じられていない。
【0070】
特許文献2及び特許文献5で提案されている、ルテニウム等からなり下地となる微粒子とその表面の一部又は全部を被覆する白金層とからなる触媒微粒子において、一酸化炭素による白金の被毒が低減され、メタノール酸化に対する触媒性能が向上するメカニズムは2つあると考えられている。
【0071】
第1のメカニズムは、既述した二元機能機構である。この機構が有効に働くには、触媒表面に白金とルテニウムとが近接して露出していることが必要である。特許文献2及び特許文献5で提案されている触媒微粒子では、ルテニウム微粒子が露出している領域と、白金層で被覆されている領域との境界領域が、この条件を満たす領域になる。従って、二元機能機構による効果(以下、「第1の効果」という。)を重視するのであれば、ルテニウム微粒子を白金層で完全に被覆してはいけない。
【0072】
特許文献5ではこの二元機能機構による第1の効果を重視しており、特許文献5の段落0006に「ルテニウム粒子の全部を白金が覆ってしまうと、一酸化炭素の酸化機能が発揮できないため、ルテニウム粒子の少なくとも一部は露出していることが望ましい。」と記載されている。二元機能機構による第1の効果を高めるためには、上記境界領域の割合が大きくなるように、例えば、ルテニウム微粒子の表面を多数の島状の白金層で被覆する等(図28参照。)、小さなルテニウム微粒子の表面に更に小さな白金層パターンを形成することが望ましいが、これは難しい。従って、二元機能機構による触媒性能の向上は限定的なものとなると考えられる。
【0073】
第2のメカニズムは、白金層が形成される微粒子(下地となる微粒子)が、白金層表面における一酸化炭素の吸着を抑制する下地層として機能するメカニズムである。このメカニズムによる効果(以下、「第2の効果」という。)には、下地となる微粒子を構成する原子と、白金層のPt原子との間における、電子的な相互作用による効果、及び、下地となる微粒子と白金層の間における格子サイズのミスマッチによる効果等がある。例えば、下地となる微粒子の構成元素がルテニウムである場合、Ru微粒子の表面に形成される白金層を構成する白金原子層が1層〜3層程度である場合には、ルテニウム微粒子と白金層との境界で形成されるRu−Pt結合が、白金層表面の白金原子の電子状態に強い影響を与え(リガンド効果)、白金層表面の活性点における一酸化炭素の吸着が抑えられる。また、ルテニウム微粒子と白金層との間における格子サイズのミスマッチが、白金層表面の結晶格子の歪みを生じさせ、この歪みによって白金層表面の白金原子の電子状態が変化して、白金層表面における一酸化炭素の吸着が抑えられる。このような第2の効果は、白金層を構成する白金原子層が1層〜3層より厚くても作用すると考えられるが、白金原子層が5層以上になると低下し始めると考えられる。
【0074】
何れのメカニズムでも、第2の効果が有効に発現するには、白金層が極めて薄いことが必要である。また、触媒活性面として機能する白金層の面積はできるだけ大きい方がよいから、第2の効果を重視するのであれば、白金層はその下地となるルテニウム微粒子を完全に被覆するのがよい。これらの点で、同じ白金層であっても、第2の効果を重視する場合の白金層は、二元機能機構による第1の効果を重視する場合の白金層とは設計方針が異なり、白金層によるルテニウム微粒子の被覆割合には相反するところがある。
【0075】
特許文献2では、段落0014及び段落0021において、金属ナノ粒子による白金層の被毒抑制効果について言及しており、上記の第2の効果にも注意が払われている。しかしながら、図28によれば、Ruナノ粒子101の表面は複数の島状の白金層102によって部分的に被覆されており、二元機能機構による第1の効果を重視していると推測される。また、ナノ粒子の表面を被覆する白金層の被覆割合についての記述では、請求項1等で「前記ナノ粒子の表面の一部又は全部を被覆する」とされ、段落0021では「被覆割合は前記金属ナノ粒子の表面積の5%以上」とされており、これらの記述から、特許文献2では、主として部分被覆を想定していると考えられる。更に、実施例1には、「ルテニウムナノ粒子の粒子径は5nm程度であり、白金層の厚さは2nm程度であって、触媒中のルテニウムの質量分率は15wt%であり、白金の質量分率は31wt%である」例が示されている。これらの数値から計算すると、白金層はRuナノ粒子101を部分的に被覆していることになる。また、第2の効果は、白金原子層が5層以上になると低下し始めると考えられるので、厚さ2nmの白金層は第2の効果を有効に発現させるには厚過ぎる。以上から、特許文献2では第2の効果に言及しているものの、白金層の設計方針は第2の効果を有効に発現させるものからはほど遠く、二元機能機構による第1の効果を重視していると考えられる。
【0076】
また、特許文献2及び特許文献5では、ルテニウムが表面に露出している触媒では、DMFCの電極触媒として応用した場合、発電中にルテニウムが電解質に溶出してしまい、触媒活性が徐々に低下するという耐久性に関する問題について、全く検討されていない。
【0077】
本発明は、上述したような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、白金の使用量を削減することができ、劣化が少なく高い触媒活性を維持することができ、非白金元素からなるコア金属粒子とシェル層(白金層)を有するコアシェル型白金含有触媒及びその製造方法、並びに電極及び電気化学デバイスを提供することにある。
【0078】
また、本発明は、一酸化炭素による白金の被毒が低減され、メタノール酸化に対する触媒性能が向上し、且つ、触媒活性が長期間維持される耐久性や耐環境性の高い白金含有触媒及びその製造方法、並びにその白金含有触媒を用いた電極及び電気化学デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0079】
即ち、本発明の第1の構成による白金含有触媒は、白金以外の金属原子又は白金以外の金属原子(例えば、後述の実施の形態におけるRu、Ni、Co、Fe)による合金からなるコア粒子と、このコア粒子の表面に白金により形成されたシェル層とを有する金属粒子が導電性担体(例えば、後述の実施の形態におけるカーボンブラック)に担持され、前記シェル層の平均厚さをts、前記コア粒子の平均粒子径(直径)をR1とするとき、0.25nm≦ts≦0.9nm、1.4nm≦R1≦3.5nmである、白金含有触媒係るものである。
【0080】
また、本発明は、上記の第1の構成による白金含有触媒を含有する、電極に係るものである。
【0081】
また、本発明は、対向する電極と、この対向する電極に挟持されたイオン伝導体とからなり、前記対向する電極の少なくとも1つに、上記の第1の構成による白金含有触媒を含有している、電気化学デバイスに係るものである。
【0082】
また、本発明の第2の構成による白金含有触媒は、上部に白金層が形成され、この白金層の表面への一酸化炭素の吸着を抑制する下地層として機能する微粒子(例えば、後述の実施の形態におけるRu微粒子)と、前記微粒子と接触し、この接触部で前記微粒子を担持する担体(例えば、後述の実施の形態における導電性炭素材料)と、前記下地層としての前記微粒子の作用が効果的に発現する厚さで、前記担体との前記接触部以外の、前記微粒子の表面全体を被覆する前記白金層とによって構成されている、白金含有触媒に係るものである。
【0083】
また、本発明の第2の構成による白金含有触媒の製造方法は、後の工程で上部に白金層が形成され、この白金層の表面への一酸化炭素の吸着を抑制する下地層として機能する微粒子(例えば、後述の実施の形態におけるRu微粒子)を、微粒子同士の凝集を防止しながら合成する工程と、前記合成後の反応液に担体(例えば、後述の実施の形態における導電性炭素材料)を混合し、この担体に前記微粒子を吸着させる工程と、前記合成後の反応液から前記担体に担持された前記微粒子を取り出し、洗浄する工程と、前記担体に担持された前記微粒子の分散液に、白金塩含有液と還元剤含有液とを滴下することによって、前記下地層としての前記微粒子の作用が効果的に発現する厚さの前記白金層で、前記担体との接触部以外の、前記微粒子の表面全体を被覆する工程とを有する、白金含有触媒の製造方法に係るものである。
【発明の効果】
【0084】
本発明の第1の構成による白金含有触媒によれば、白金以外の金属原子又は白金以外の金属原子による合金からなるコア粒子と、このコア粒子の表面に白金により形成されたシェル層とを有する金属粒子が導電性担体に担持され、前記シェル層の平均厚さをts、前記コア粒子の平均粒子径(直径)をR1とするとき、0.25nm≦ts≦0.9nm、1.4nm≦R1≦3.5nmであるので、白金の使用量を削減することができ、CO被毒(CO poisoning)に対して高耐性であり、劣化が少なく高い触媒活性を維持することができる白金含有触媒を提供することができる。例えば、この白金含有触媒を負極触媒に適用して、電流密度が300mA/cm2における出力密度が70mW/cm2以上であり、十分に実用レベルにある出力密度を有し、且つ、約90%以上の高い出力維持率を有し耐久性に優れた直接型メタノール燃料電池を実現することができる。
【0085】
また、本発明の電極及び電気化学デバイスによれば、第1の構成による白金含有触媒を含有しているので、電気化学デバイスが一酸化炭素を含有する水素やメタノールを燃料とする燃料電池等として構成された場合、大きな出力密度を実現することができる。また、初期の性能が長期間の運転後も維持される高耐久性や、優れた耐環境性が得られる。
【0086】
本発明の第2の構成による白金含有触媒の特徴は、微粒子とその表面を被覆する白金層とからなる触媒微粒子において、前述した第2の効果、即ち、前記微粒子がその上部に形成された前記白金層の表面への一酸化炭素の吸着を抑制する作用が、効果的に発現するように設計されていることにある。即ち、前記微粒子は、前記下地層として有効に機能するように、構成元素や構造が選ばれる。また、前記白金層は、触媒活性面の面積ができるだけ大きくなるように、形成不可能な前記担体との前記接触部を除いて、前記微粒子の表面全体を被覆するように形成されている。この際、前記白金層の厚さは、前記下地層としての前記微粒子の作用が効果的に発現する厚さである。後述する実施例から、前記白金層を構成する白金原子層は、4層〜6層以下である。以上の結果、本発明の白金含有触媒では、前記白金層の表面の活性点における一酸化炭素の吸着が抑えられる。この結果、前記白金層上での一酸化炭素の酸化が起こり易くなり、一酸化炭素による被毒が低減され、一酸化炭素を含有する水素や、炭素含有燃料の酸化触媒としての性能が向上する。
【0087】
また、本発明の第2の構成による白金含有触媒では、触媒微粒子の表面にだけ前記白金層が配置されるので、特許文献2及び特許文献5に示されている触媒微粒子と同様、白金の利用効率が高い。但し、本発明の白金含有触媒では、前記白金層の厚さが極めて薄いので、特許文献2及び特許文献5に示されている触媒微粒子に比べて、希少で高価な白金の使用量を著しく減らすことができ、大幅なコスト削減を実現できる。また、前記微粒子の表面が前記白金層で完全に被覆されているため、前記微粒子を構成するルテニウム等の元素が溶出して失われる危険性が、特許文献2及び特許文献5に示されている触媒微粒子に比べて大幅に減少し、触媒の耐久性や耐環境性が向上する。
【0088】
本発明の第2の構成による白金含有触媒の製造方法は、前記白金含有触媒を製造することを可能にする方法である。既述したように、前記微粒子を合成する工程では、前記微粒子を安定に分散させ、凝集等を起こさせないために、前記反応液中に何らかの凝集防止剤が存在していることが必要である。特許文献2及び特許文献5に示されているように、微粒子を合成後、反応液に分散させたまま白金層の形成工程に進むと、凝集防止剤や、微粒子の合成時に生じた不純物が微粒子の表面に付着した状態で、白金層の形成を行うことになる。例えば、特許文献5のルテニウム粒子の表面には水素分子と凝集防止剤が付着しており、特許文献2のナノ粒子の表面にはクエン酸等のカルボン酸化合物105(図28参照。)が付着している。微粒子の表面に付着している異物は、均一な白金層が形成される妨げになる。これは、特許文献2で島状の白金層102が形成されている一因とも考えられる。
【0089】
これに対し、本発明の第2の構成による白金含有触媒の製造方法では、前記白金層の形成に先立ち、前記微粒子を前記担体に吸着させる工程を行う。これによって凝集防止剤が不要になるので、次に、前記反応液から前記担体に担持された前記微粒子を取り出し、洗浄する工程を行う。この洗浄工程の後に前記白金層を形成するので、吸着されている異物の少ない前記微粒子表面に前記白金層を形成することができる。そして、前記白金層の形成は、前記担体に担持された前記微粒子の分散液に、白金塩含有液と還元剤含有液とを滴下することによって、白金の析出速度を最適に制御しながら行う。以上の結果、原子層のレベルで厚さを制御しながら、ほぼ均一な厚さの前記白金層で、前記微粒子の表面全体を被覆することができる。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明の実施の形態における、DMFCの構成を説明する断面図である。
【図2】本発明の実施例における、コアシェル構造を有する白金含有触媒の構成、シェル層の白金の5d電子結合力の計算に使用した積層モデルを説明する図である。
【図3】同上、白金含有触媒のシェル層の白金の5d電子結合力の計算結果を説明する図である。
【図4】同上、白金含有触媒の表面、界面に存在する白金の5d電子結合力の差を説明する図である。
【図5】同上、白金含有触媒においてコア金属粒子をルテニウムナノ粒子としこれに積層されるPt原子の層数とPt5d電子結合力の関係を説明する図である。
【図6】同上、白金含有触媒のシェル層の厚さの評価の例を説明する図である。
【図7】同上、燃料電池の構成を説明する断面図である。
【図8】同上、ルテニウムナノ粒子、白金含有触媒粒子の粒子径、白金層の厚さ、及び、白金とルテニウムのモル比と燃料電池の出力維持率の関係を示す図である。
【図9】同上、白金含有触媒粒子におけるルテニウムナノ粒子の粒子径と燃料電池の最大出力維持率の関係を示す図である。
【図10】同上、白金含有触媒における白金層の厚さと燃料電池の出力維持率の関係を示す図である。
【図11】同上、白金含有触媒粒子とルテニウムナノ粒子の粒子径比と燃料電池の出力維持率の関係を示す図である。
【図12】同上、白金含有触媒粒子における白金とルテニウムのモル比と燃料電池の出力維持率の関係を示す図である。
【図13】同上、白金含有触媒粒子における白金とルテニウムのモル比と、白金含有触媒粒子とルテニウムナノ粒子の粒子径比との関係を示す図である。
【図14】同上、白金含有触媒粒子における白金とルテニウムのモル比の設定値と計算値との関係を示す図である。
【図15】本発明の実施の形態における、白金含有触媒の構造を示す概略断面図である。
【図16】同上、白金含有触媒の製造工程を示すフロー図である。
【図17】同上、燃料電池の構造を示す断面図(a)、及び、電解質膜−電極接合体(MEA)の拡大断面図(b)である。
【図18】本発明の実施例1で得られ、カーボンに担持され、Ptによって被覆されたRu微粒子の、透過型電子顕微鏡による観察像である。
【図19】本発明の実施例5〜実施例8で合成されたRu微粒子の電子線回折像である。
【図20】本発明の実施例5及び実施例6で得られ、Ptによって被覆されたRu微粒子の電子線回折像である。
【図21】本発明の実施例5〜実施例8で合成されたRu微粒子の粒子径分布を示すグラフ(a)、及び、実施例6で得られ、Ptによって被覆されたRu微粒子の粒子径分布を示すグラフ(b)である。
【図22】本発明の実施例1〜実施例4で得られた燃料電池の電流密度−電圧曲線(a)、及び、電流密度−出力密度曲線(b)である。
【図23】本発明の実施例5〜実施例8で得られた燃料電池の電流密度−電圧曲線(a)、及び、電流密度−出力密度曲線(b)である。
【図24】本発明の実施例9〜実施例12で得られた燃料電池の電流密度−電圧曲線(a)、及び、電流密度−出力密度曲線(b)である。
【図25】本発明の実施例13〜実施例15で得られた燃料電池の電流密度−電圧曲線(a)、及び、電流密度−出力密度曲線(b)である。
【図26】本発明の実施例16〜実施例19で得られた燃料電池の電流密度−電圧曲線(a)、及び、電流密度−出力密度曲線(b)である。
【図27】本発明の比較例1及び比較例2で得られた燃料電池の電流密度−電圧曲線(a)、及び、電流密度−出力密度曲線(b)である。
【図28】従来技術の特許文献2の図1に示されている触媒の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0091】
本発明の白金含有触媒では、前記シェル層の最外表面に存在する白金の5dバンドに属する電子の、フェルミ準位を基準とした平均束縛エネルギーをEoutとするとき、Eout≧3.0eVである前記金属原子が前記コア粒子に含有されている構成とするのがよい。このような構成によって、白金の使用量を削減することができ、CO被毒に対して高耐性であり、劣化が少なく高い触媒活性を維持することができる白金含有触媒を提供することができる。
【0092】
また、前記コア粒子と前記シェル層の界面に存在する白金の5dバンドに属する電子の、フェルミ準位を基準とした平均束縛エネルギーをEintとするとき、Eint≧4.0eVである構成とするのがよい。このような構成によって、CO被毒に対して高耐性であり、高い触媒活性を維持することができる白金含有触媒を提供することができる。
【0093】
また、Eout≦4.5eVである構成とするのがよい。このような構成によって、CO被毒に対して高耐性であり、高い触媒活性を維持することができる白金含有触媒を提供することができる。
【0094】
また、Eint≦5.0eVである構成とするのがよい。このような構成によって、CO被毒に対して高耐性であり、高い触媒活性を維持することができる白金含有触媒を提供することができる。
【0095】
また、前記金属粒子の平均粒子径(直径)をR2とするとき、1.7≦(R2/R1)≦2.2である構成とするのがよい。このような構成によって、白金の使用量を削減することができ、CO被毒に対して高耐性であり、高い触媒活性を維持することができ劣化が少ない白金含有触媒を提供することができる。
【0096】
また、2.2nm≦R2≦4.4nmである構成とするのがよい。このような構成によって、白金の使用量を削減することができ、CO被毒に対して高耐性であり、高い触媒活性を維持することができ劣化が少ない白金含有触媒を提供することができる。
【0097】
また、前記コア粒子はルテニウム粒子である構成とするのがよい。このような構成によって、白金の使用量を削減することができ、CO被毒に対して高耐性であり、高い触媒活性を維持することができ劣化が少ない白金含有触媒を提供することができる。
【0098】
また、ルテニウムに対する前記シェル層を構成する白金のモル比をγとするとき、3.5≦γ≦9.0である構成とするのがよい。このような構成によって、CO被毒に対して高耐性であり、高い触媒活性を維持することができ劣化が少ない白金含有触媒を提供することができる。
【0099】
また、前記コア粒子はコバルト粒子、鉄粒子、ニッケル粒子、銅粒子の何れかである構成とするのがよい。このような構成によって、CO被毒に対して高耐性であり、高い触媒活性を維持することができ劣化が少ない白金含有触媒を提供することができる。
【0100】
また、前記コア粒子はニッケル又は銅とルテニウムとの合金粒子である構成とするのがよい。このような構成によって、CO被毒に対して高耐性であり、高い触媒活性を維持することができ劣化が少ない白金含有触媒を提供することができる。
【0101】
本発明の電気化学デバイスは、第1の構成による前記白金含有触媒をアノード(負極)触媒として含有する燃料電池として構成れているのがよい。このような構成によって、白金の使用量を削減することができ、劣化が少なく優れた出力維持率を有し、低価格化が可能である燃料電池を提供することができる。
【0102】
また、上記の燃料電池は、直接型メタノール燃料電池として構成されているのがよい。このような構成によって、白金の使用量が少なく、劣化の少ない優れた出力特性を有する直接型メタノール燃料電池を提供することができる。
【0103】
また、上記の燃料電池は、電流密度が300mA/cm2における出力密度が70mW/cm2以上である構成とするのがよい。このような構成によれば、十分に実用レベルにある出力密度を有し、且つ、約90%以上の高い出力維持率を有し耐久性に優れた直接型メタノール燃料電池を実現することができる。
【0104】
また、上記の直接型メタノール燃料電池は、800時間連続発電後の出力維持率が90%以上である構成とするのがよい。このような構成によって、劣化が少なく優れた出力特性を有する直接型メタノール燃料電池を提供することができる。
【0105】
本発明の第2の構成による白金含有触媒において、前記白金層がほぼ均一の厚さに形成されているのがよい。ここで、「ほぼ均一な厚さ」とは、前記微粒子同士の接触等の偶発的事故に起因するばらつきや、前記微粒子と前記担体との前記接触部のように、堆積条件が極端に異なる領域での局所的なばらつきを除けば、前記白金層を構成する白金原子の積層数が、例えば、平均層数±1層程度に収まるように、原子層のレベルで制御されていることを意味するものとする。既述したように、第2の効果が効果的に発現するのは、白金原子積層数で4〜6までである。従って、前記白金層の厚さは、最も好ましい白金原子積層数±1程度に収まるように、原子層のレベルで制御されていることが望ましい。この際、前記白金層の平均厚さが1.0nm以下(白金原子積層数として4以下)であるのがよく、特に、前記白金層を構成する白金原子積層数が平均で3以下であるのがよい。なお、白金層の厚さを白金原子の積層数に換算する際に、白金の金属結合半径が0.139nmであることから、白金原子1層の厚さは0.21nm〜0.23nm程度である、或いは、後述するように、白金単体の格子定数をa0=0.39231nmとし、a0/√3=0.2265nm(=d111)であるとした(以下、同様。)。
【0106】
また、前記微粒子の平均粒子径(直径)が4.4nm以下であるのがよい。
【0107】
また、前記微粒子を構成する元素が、ルテニウム(Ru)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、銅(Cu)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、及び、スズ(Sn)からなる群から選ばれた1種類以上の金属元素であるのがよく、好ましくは、コバルト、鉄、ニッケル、銅、ルテニウムであるのがよい。
【0108】
また、前記担体が導電性炭素材料からなるのがよい。
【0109】
本発明の第2の構成による白金含有触媒の製造方法において、前記白金塩含有液及び/又は前記還元剤含有液の滴下量を調節することによって、前記白金層の厚さを制御するのがよい。
【0110】
また、ルテニウム塩をエチレングリコールに溶かした溶液を加熱して、前記微粒子としてルテニウム微粒子を生成させるのがよい。この際、前記のルテニウム塩の溶液を、1分〜40分間で120℃〜170℃に急速加熱するのがよく、この急速加熱を、マイクロ波加熱装置を用いて行うのがよい。
【0111】
本発明の電気化学デバイスにおいて、第2の構成による白金含有触媒をアノード(負極)触媒として含有する燃料電池として構成されているのがよい。とりわけ、直接型メタノール燃料電池として構成されているのがよい。
【0112】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0113】
以下の説明では、1層の白金原子層の厚さは、白金単体の格子定数をa0=0.39231nmとし、a0/√3=0.2265nm(=d111)とする。
【0114】
[コアシェル構造を有する白金含有触媒の構成]
本発明は、白金以外の元素からなるコア金属粒子(以下の説明では、コア金属粒子を単に「コア粒子」ともいう。)と、このコア金属粒子の表面に形成され白金からなるシェル層を有する白金含有触媒に関するものである。
【0115】
白金を含む合金触媒は、一酸化炭素等の中間生成物による触媒活性の低下が起こることが知られている。例えば、メタノールの酸化においては、触媒活性の低下の原因は、主に表面白金のフェルミ準位付近の5d電子がメタノール酸化における中間生成物である一酸化炭素と結合を生成することによって起こると考えられている。
【0116】
本発明では、密度汎関数理論に基づいた第一原理計算の結果に基づいて、コアシェル型白金含有触媒のコア粒子を構成する元素とシェル層を構成する白金との組合せによって、更に、シェル層を構成する白金原子の積層数を変化させることによって、白金シェル層の最外層(最外表面)の白金の電子状態を変化させることができ、この最外層の白金の電子状態を高い触媒活性を維持するに望ましい状態とすることができることを見出した。
【0117】
触媒活性の低下は、例えば、メタノール酸化における中間生成物である一酸化炭素が白金に吸着し結合を生成することによって起こると考えられている。触媒活性の低下は、白金シェル層の最外表面に存在する白金と一酸化炭素との結合が支配的であると考えられるので、白金シェル層の最外表面に存在する白金の電子状態を、一酸化炭素の吸着が安定した状態とならないようにすることができれば、触媒活性の低下を抑制することができると考えられる。
【0118】
触媒活性の低下を防止するには必ずしも白金を合金化する必要はなく、コアシェル型白金含有触媒の白金シェル層が薄い場合には、シェル層の白金原子と、特定の元素からなるコア粒子のコア金属原子(以下、単に「コア原子」とも呼び、コア粒子を構成する原子を意味する。)との相互作用があり、シェル層の白金の電子状態が変化し、白金の5d軌道の電子を、コア原子との結合によって深く束縛してしまうことにより、触媒活性の低下を防止することができる。
【0119】
即ち、シェル層の白金原子とコア原子の間の相互作用によって、白金の5d軌道の電子状態が変化して、フェルミ準位を基準としたPt5d電子の平均結合力(平均結合エネルギー)が、白金単体からなる触媒における白金の5d電子結合力よりも上まわり、強固なPt−CO結合を生じ難く、CO被毒に対して高耐性となる。以下、フェルミ準位を基準としたPt5d電子の平均結合エネルギー(平均束縛エネルギー、dバンド中心)を、単に、「Pt5d電子結合力」、或いは、「5d電子結合力」という。
【0120】
コア原子は、コア粒子の表面に形成される白金の電子状態計算から得られる、フェルミ準位を基準としたPt5d電子の平均束縛エネルギー(平均結合エネルギー)に基づいて評価され、コア原子として好ましい特定の白金以外の元素が選定される。このようなコア粒子の表面に形成される1層以上、4層以下の白金原子層からなる薄いシェル層(白金層)によって、中間生成物(一酸化炭素)の吸着を抑えることができ、劣化が少なく高い触媒活性を維持することができる。
【0121】
劣化が少なく高い触媒活性を維持するためには、白金シェル層の最外表面に存在する白金における5d電子結合力が、白金単体からなる触媒における白金の5d電子結合力よりも上昇していれば、強固なPt−CO結合を生じ難く、CO被毒に対して高耐性となることが、後述するように、第一原理計算による計算結果と燃料電池の出力維持率の実験結果との比較から、確認された。
【0122】
白金シェル層の最外表面に存在する白金の5d電子結合力の上昇は、コア金属粒子と白金シェル層の白金との接触によって、コア原子と白金原子の間に結合が生成し、この影響が、玉突き的に白金シェル層の表面にまで及んでいるためであると考えられる。このため、白金含有触媒は、コア金属原子と白金シェル層の界面に存在する白金の5dバンドに属する電子の平均結合エネルギーが大きくなるような構成を有することが、CO被毒に対して高耐性となり触媒活性を向上させる点で有利であり、望ましい。
【0123】
本発明の白金含有触媒は、非白金金属元素と白金の合金化による構成ではなく、表面に薄い白金層を有するコアシェル型の構成を有しているので、シェル層の白金原子とコア原子の相互作用によって、シェル層の白金の電子状態が変化するようなコア金属原子種を選択することによって、触媒活性の低下を防止することができ、白金の使用量を従来よりも更に削減することができ、白金使用量の削減と白金の触媒活性の維持を両立させ、コストを低減することができる長寿命の白金含有触媒を提供することが可能である。
【0124】
本発明の白金含有触媒は、高い発電効率を実現することができる燃料電池の燃料極触媒として好適に使用することができ、白金以外の金属からなるコア粒子とこの表面に形成された1層以上、4層以下の白金原子層からなるシェル層を有し、コア原子と白金の間に強い結合が生じるようなコアシェル構造のナノ粒子である。コア粒子は単体に限らず合金で構成されてもよいが、特にルテニウム単体で構成されるのが好ましい。なお、以下の説明では、ナノ粒子は平均直径10nm以下の粒子を意味するものとする。
【0125】
本発明のコアシェル型白金含有触媒は、非Pt元素からなるコア粒子とこのコア粒子の面に形成された白金原子による白金シェル層を有する。白金シェル層の平均厚さをts(nm)とする時、0.25nm≦ts≦0.9nmであり、白金シェル層の最外表面に存在する白金の5d軌道に属する電子の平均結合エネルギー(eV)をEoutとする時、コア粒子は、3.0eV≦Eout≦4.5eVとなるような元素から構成される。
【0126】
コア粒子と白金シェル層の界面に存在する白金の5d軌道に属する電子の平均結合エネルギー(eV)をEintとする時、4.0eV≦Eint、であることが望ましい。更に、4.0eV≦Eint≦5.0eV、3.0eV≦Eout≦4.5eVであることが望ましい。
【0127】
また、コア金属粒子の平均粒子径(直径)をR1、コアシェル型白金含有触媒粒子(以下、単に「コアシェル粒子」ともいう。)の平均粒子径(直径)をR2、コア金属粒子を構成する元素に対する白金のモル比をγとする時、1.0nm≦R1≦2.6nmであり、2.2nm≦R2≦4.4nm、1.7≦(R2/R1)≦2.2、3.5≦γ≦9.0である構成が望ましい。
【0128】
また、コア粒子がRu粒子であるコアシェル型白金含有触媒をアノード触媒とするDMFCでは、その出力密度は、電流密度が300mA/cm2において70mW/cm2以上であり、十分に実用レベルにあり、且つ、その出力維持率は800時間後でも90%以上となり、このコアシェル型白金含有触媒は非常に高い触媒活性を長期間維持することもできる。
【0129】
なお、コア原子と白金の間の結合強さは、密度汎関数理論に基づいた第一原理計算(この計算モデルと計算方法について後で詳述する。)による、フェルミ準位を基準としたPt5d電子の平均束縛エネルギー(平均結合エネルギー)によって評価される。
【0130】
コア原子は、シェル層の白金の電子状態計算から得られる、フェルミ準位を基準としたPt5d電子の平均束縛エネルギーに基づいて評価され、好ましい特定元素が選定されるが、コア粒子を構成する単体の結晶構造が六方最密充填構造又は面心立方構造であることが望ましい。
【0131】
コア粒子を構成する原子として、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、ハフニウム(Hf)、レニウム(Re)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、金(Au)、ユウロピウム(Eu)を除くランタノイドの各単体、及び、これらの遷移金属原子同士の合金が考えられる。
【0132】
コア粒子を構成する金属元素として有用なものは、白金シェル層の白金原子とコア原子とが隣接することによる電子的な効果(リガンド効果)によって、白金の電子状態が変化してPt5d電子結合力が、白金単体からなる触媒における白金の5d電子結合力よりも上まわるような元素であればよい。
【0133】
より具体的には、コア粒子を構成する金属元素としてRuが最も有用である。また、コア粒子は合金で構成することもでき、Ruと同様に、Pt5d電子結合力を上まわるようにすることができる元素を含有する合金があれば有用であると考えられ、このような合金の例として、Ruを主成分として含有するRuTi、RuZr、RuHf、RuV、RuNb、RuTa、RuMo、RuW、RuFe、RuNi、RuCu、RuCoがある。
【0134】
[コアシェル構造を有する白金含有触媒の作製方法]
〈コア粒子の作製方法〉
白金含有触媒を構成するコア粒子の作製方法として、金属塩をエチレングリコールに溶かした溶液を加熱する方法を採用する。この時、金属塩の溶液を、1分〜40分間で120℃〜170℃に急速加熱するのがよく、マイクロ波加熱装置を用いてこの急速加熱を行うのがよい。
【0135】
例えば、マイクロ波加熱装置を用いて170℃まで昇温させ、その後1時間170℃に保持することによって、ルテニウム(III)イオンがエチレングリコールによって還元され、ルテニウムナノ粒子の分散液が生成されるが、170℃まで昇温させる昇温時間を制御することによって、形成されるルテニウムナノ粒子の平均粒子径を制御することができる。
【0136】
以下の説明では、白金含有触媒を構成するコア粒子がルテニウム単体によって形成される場合を例にとって説明する。
【0137】
塩化ルテニウム(III)(RuCl3)等のルテニウム塩をエチレングリコールに溶かし、ルテニウム(III)イオンのエチレングリコール溶液を調製する。次に、この溶液に水酸化ナトリウム水溶液を加え、よく撹拌しながら、170℃まで昇温させ、その後、170℃に保つ。この時、ルテニウム(III)イオンがエチレングリコールによって還元され、ルテニウムナノ粒子の分散液が得られる。
【0138】
この分散液をマイクロ波加熱装置等によって1分〜40分間で120℃〜170℃まで昇温させることによって、平均粒子径1.4nm〜4.6nmのルテニウムナノ粒子を合成することができる。例えば、15分間で170℃まで昇温させることによって平均粒子径1.9nmのルテニウムナノ粒子を合成することができる。
【0139】
<ルテニウムナノ粒子の担体への吸着>
次に、ルテニウムナノ粒子の合成反応後の反応液に、カーボンブラック等の導電性炭素材料等からなる担体を混合し、担体にルテニウムナノ粒子を吸着させる。次に、反応液から担体に担持されたルテニウムナノ粒子を遠心分離器等によって分離し、取り出し、イオン交換水等で洗浄する。この後、次に説明するようにして、ルテニウムナノ粒子の表面を被覆するように白金層を形成する。
【0140】
<ルテニウムナノ粒子への白金層の形成>
ルテニウムナノ粒子の分散液に、塩化白金酸等の白金塩含有液と、テトラヒドロホウ酸ナトリウム等の還元剤含有液とを滴下することによって、ルテニウムナノ粒子の表面全体を被覆するように白金層を形成する。この方法によれば、白金塩含有液、還元剤含有液の滴下速度を制御することによって、ルテニウムナノ粒子の表面への白金の析出速度を最適に制御することができ、白金層の平均厚を制御することができる。
【0141】
白金塩含有液、還元剤含有液の滴下速度は、例えば、白金塩含有液、還元剤含有液をそれぞれシリンジに入れ、シリンジをシリンジポンプによって制御することによってできる。滴加速度は、早すぎなければ問題はない。滴下速度が早すぎると白金がルテニウムナノ粒子に析出せず、単独で析出することが電子顕微鏡で確認できるので、予め、白金がルテニウムナノ粒子の面に析出し、単独で析出しないような滴下速度の範囲を、電子顕微鏡で確認しておく。
【0142】
以上のようにして、担体に担持された白金含有触媒を逐次還元法によって作製することができるが、後述するように、同時還元法によって白金含有触媒を作製することもできる。
【0143】
<シェル層の厚さ(白金原子積層数)の評価方法>
作製した白金含有触媒のシェル層の平均厚さは、コア粒子の直径と白金含有触媒粒子の直径(シェル層の外側直径に等しい。)をそれぞれSEM像(Scanning Electron Microscopy image)又はTEM像(Transmission Electron Microscopy image)により評価し、コア粒子、白金含有触媒粒子の平均粒子径を求め、コア粒子の平均粒子径R1と白金含有触媒粒子の平均粒子径R2の差((R2−R1)/2)により求められる。白金原子積層数は、白金層の平均厚さを白金の面間隔(d111=0.2265nm)で割ることにより求められる。
【0144】
また、コア粒子、白金含有触媒粒子の粒径方向にTEM−EDX(Transmission Electron Microscopy-Energy Dispersive X-ray Spectroscopy:透過型電子顕微鏡エネルギー分散型X線分析法)、又は、TEM−EDX(Transmission Electron Microscopy-Energy Dispersive X-ray Spectroscopy:透過型電子顕微鏡エネルギー分散型X線分析法)によるライン分析によって、コア粒子と白金含有触媒粒子の平均粒子の直径をもとめこの2つの平均粒子の直径を用いて、シェル層の白金層の平均厚さ(白金原子積層数)を求めることができる。
【0145】
[白金含有触媒が適用される燃料電池]
図1は、本発明の実施の形態における、DMFCの構成を説明する断面図である。
【0146】
図1に示すように、メタノール水溶液が燃料25として、流路をもつ燃料供給部(セパレータ)50の入口26aから通路27aへと流され、基体である導電性のガス拡散層24aを通って、ガス拡散層24aによって保持された触媒電極22aに到達し、図1の下方に示すアノード反応に従って、触媒電極22a上でメタノールと水が反応し、水素イオン、電子、二酸化炭素が生成され、二酸化炭素を含む排ガス29aが出口28aから排出される。
【0147】
生成された水素イオンは、プロトン伝導性複合電解質によって形成された高分子電解質膜23中を、生成された電子はガス拡散層24a、外部回路70を通り、更に、基体である導電性のガス拡散層24bを通って、ガス拡散層24bによって保持された触媒電極22bに到達する。
【0148】
図1に示すように、空気又は酸素35が、流路をもつ空気又は酸素供給部(セパレータ)60の入口26bから通路27bへと流され、ガス拡散層24bを通って、ガス拡散層24bによって保持された触媒電極22aに到達し、図1の下方に示すカソード反応に従って、触媒電極22b上で水素イオン、電子、酸素が反応し、水が生成され、水を含む排ガス29bが出口28bら排出される。図1の下方に示すように全反応は、メタノールと酸素から電気エネルギーを取り出して水と二酸化炭素を排出するというメタノールの燃焼反応となる。
【0149】
図1において、高分子電解質膜23は、プロトン伝導性電解質からなる。高分子電解質膜23によって、アノード20とカソード30が隔てられ、高分子電解質膜23を通して水素イオンや水分子が移動する。高分子電解質膜23は、水素イオンの伝導性が高い膜であり、化学的に安定であって機械的強度が高いことが好ましい。
【0150】
図1において、触媒電極22a、22bは、集電体である導電性の基体を構成し、ガスや溶液に対して透過性をもったガス拡散層24a、24b上に密着して形成されている。ガス拡散層24a、24bは、例えば、カーボンペーパー、カーボンの成形体、カーボンの焼結体、焼結金属、発泡金属等の多孔性基体から構成される。燃料電池の駆動によって生じる水によるガス拡散効率の低下を防止するために、ガス拡散層は、フッ素樹脂等で撥水処理されている。
【0151】
触媒電極22a、22bは、触媒が担持された担体がプロトン伝導性高分子電解質によって結着され形成されている。担体として、例えば、アセチレンブラック、黒鉛のような炭素、アルミナ、シリカ等の無機物微粒子が使用される。プロトン伝導性高分子電解質を溶解させた有機溶剤に炭素粒子(触媒金属が担持されている。)が分散された溶液を、ガス拡散層24a、24bに塗布し、有機溶剤を蒸発させてプロトン伝導性高分子電解質によって結着された膜状の触媒電極22a、22bが形成される。
【0152】
高分子電解質膜23が、ガス拡散層24a、24b上に密着して形成された触媒電極22a、22bによって挟持され、膜電極接合体(MEA)40が形成されている。触媒電極22a、ガス拡散層24aによってアノード20が構成され、触媒電極22b、ガス拡散層24bによってカソード30が構成されている。触媒電極22a、22bと高分子電解質膜23は接合され、接合界面で水素イオンの高い伝導性が保持され、電気抵抗が低く保持される。
【0153】
なお、図1に示した例では、燃料25の入口26a、排ガス29aの出口28a、空気又は酸素(O2)35の入口26b、排ガス29bの出口28bの各開口部が、高分子電解質膜23、触媒電極22a、22bの面に垂直に配置されているが、上記の各開口部が、高分子電解質膜23、触媒電極22a、22bの面に平行に配置されている構成とすることもでき、上記の各開口部の配置に関して種々の変形が可能である。
【0154】
図1に示す燃料電池の製造は、各種文献に公知されている一般的な方法を利用できるので、製造方法に関する詳細な説明は省略する。
【0155】
[白金含有触媒とその製造方法]
白金含有触媒の例、白金含有触媒の製造方法の例について説明する。
【0156】
図15は、実施の形態に基づく、白金含有触媒の構造を示す概略断面図である。この白金含有触媒では、Ru微粒子等の微粒子1がカーボンブラック等の担体(導電性担体)4に担持され、担体4との接触部5以外の、微粒子1の表面全体を被覆するように、白金層2が形成されている。微粒子1と白金層2とからなる触媒微粒子3が触媒作用を有する。担体4に担持されることで触媒微粒子3同士の凝集は防止されるため、高比表面積は維持される。図15に示した白金含有触媒の特徴は、前述した第2の効果、即ち、微粒子2がその上部に形成された白金層2の表面への一酸化炭素の吸着を抑制する作用が、効果的に発現するように設計されていることにある。以下、この点を説明する。
【0157】
微粒子1は、上部に形成される白金層2の表面への一酸化炭素の吸着を抑制する下地層として機能するように、その構成元素や構造が選ばれる。例えば、微粒子1を構成する元素は、ルテニウム(Ru)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、及び、スズ(Sn)からなる群から選ばれた1種類以上の金属元素であるのがよく、特に、ルテニウムであるのがよい。
【0158】
微粒子1の平均粒子径は4.4nm以下であるのがよい。白金層2の厚さが極めて薄いので、白金層2によって被覆された触媒微粒子3の粒子径は、微粒子1の粒子径に大きな影響を受ける。触媒微粒子3のような微粒子触媒では、粒子径が小さいほど比表面積が大きくなり、ルテニウムの使用量も減少するので好ましい。後述する実施例で示すように、白金含有触媒は、微粒子1の平均粒子径が4.4nm以下である場合に、従来の白金/ルテニウム合金触媒よりも出力密度の大きいDMFCを実現できる。
【0159】
白金層2は、触媒活性面の面積ができるだけ大きくなるように、白金層2が形成不可能な接触部5を除いて、微粒子1の表面全体を被覆するように形成されている。二元機能機構による第1の効果を重視する場合、微粒子1の全部を白金層2で被覆すると、一酸化炭素の酸化機能が発揮できなくなり、一酸化炭素による被毒が著しくなり、不都合である。この点で本実施の形態の白金含有触媒は、特許文献2及び特許文献5に示されている、二元機能機構に基づく白金含有触媒とは異なっている。
【0160】
一方、第2の効果を効果的に発現させるには、白金層2の平均厚さは、白金原子の積層数で高々4〜6程度であり、後述する実施例から1.0nm(白金原子の積層数で4層)以下であるのがよく、特に、白金原子積層数が平均で3以下であるのがよい。従って、白金層2の厚さ(白金原子積層数)は、第2の効果を効果的に発現させることのできる最良の層数±1層程度に収まるように、原子層のレベルで制御されている。
【0161】
以上の結果、触媒微粒子3では、白金層2の表面の活性点における一酸化炭素の吸着が抑えられる。この結果、白金層2上での一酸化炭素の酸化が起こり易くなり、一酸化炭素による被毒が低減され、一酸化炭素を含有する水素や、炭素含有燃料の酸化触媒としての性能が向上する。
【0162】
また、触媒微粒子3では、表面にだけ白金層2が配置されるので、白金の利用効率が高い。但し、触媒微粒子3では、白金層2の厚さが極めて薄いので、特許文献2及び特許文献5に示されている触媒微粒子に比べて、希少で高価な白金の使用量を著しく減らすことができ、大幅なコスト削減を実現できる。また、微粒子1の表面が白金層2で完全に被覆されているため、微粒子1を構成するルテニウム等の元素が溶出して失われる危険性が、特許文献2及び特許文献5に示されている触媒微粒子に比べて大幅に減少し、触媒の耐久性や耐環境性が向上する。
【0163】
担体4は、カーボンブラック等の導電性炭素材料からなるのがよい。この場合、白金含有触媒全体が導電性をもつので、電極触媒として好適である。
【0164】
図16は、実施の形態に基づく、白金含有触媒の製造方法のフローを示す概略断面図である。ここでは、微粒子1(コア粒子)を構成する材料が金属ルテニウムである例について説明する。
【0165】
先ず、塩化ルテニウム(III)(RuCl3)等のルテニウム塩をエチレングリコールに溶かし、Ru(III)イオンのエチレングリコール溶液を調製する。次に、この溶液に水酸化ナトリウム水溶液を加え、よく撹拌しながら、170℃まで昇温させ、その後、170℃に保つ。このとき、Ru(III)イオンがエチレングリコールによって還元され、Ru微粒子1の分散液が得られる。エチレングリコールは、次にルテニウム微粒子1を担体4に吸着させるまでの間、凝集を防止してルテニウム微粒子1を安定に保つ凝集防止剤の役割も兼ねている。
【0166】
また、後述の実施例で示すように、マイクロ波加熱装置等を用いて1分〜40分間で120℃〜170℃まで急速に昇温させることによって、平均粒子径1.4nm〜3.5nmのRu微粒子1を合成することができる。例えば、15分間で昇温させることによって平均粒子径1.9nmのRu微粒子1を合成することができるが、このときの標準偏差は0.4nmで、粒子径のよく揃ったRu微粒子1を合成することができる。
【0167】
次に、合成反応後の反応液に、カーボンブラック等の導電性炭素材料等からなる担体4を混合し、担体4にRu微粒子1を吸着させる。次に、反応液から担体4に担持されたRu微粒子1を、遠心分離器等を用いて取り出し、イオン交換水等で洗浄する。この後、Ru微粒子1を被覆する白金層2を形成する。
【0168】
本製造方法の特徴の1つは、白金層2の形成に先立ち、Ru微粒子1を担体4に吸着させ、洗浄することにある。Ru微粒子1の表面に付着している異物は、均一な白金層2を形成する妨げになる。本法では、Ru微粒子1を担体4に吸着させることで、白金層2を形成する段階では凝集防止剤を不要とし、Ru微粒子1を、吸着されている異物の少ないクリーンな状態に洗浄する。
【0169】
次に、担体4に担持されたRu微粒子1の分散液に、塩化白金酸等の白金塩含有液と、テトラヒドロホウ酸ナトリウム等の還元剤含有液とを滴下することによって、接触部5以外のRu微粒子1の表面全体を白金層2で被覆する。この方法によれば、白金塩含有液及び/又は還元剤含有液の滴下速度を制御することによって、白金の析出速度を最適に制御することができる。この結果、位置の違いによる白金の析出速度の違いを抑えて、Ru微粒子1の表面全体を、原子層のレベルでほぼ均一な厚さの白金層2で被覆することができる。また、白金層2の厚さは、白金塩含有液及び/又は還元剤含有液の滴下量を調節することによって制御することができる。
【0170】
本製造方法は、微粒子1がRu微粒子である場合の方法であるが、微粒子1がルテニウム以外の材料からなる場合でも、微粒子1を合成するための反応物質、溶媒、及び、反応条件を変更するだけで、白金層2の形成等、本発明に関わる主要な工程は全く同様にして、白金含有触媒を製造することができる。
【0171】
[白金含有触媒が適用される燃料電池]
本発明による電極、及び、電気化学デバイスの例として、燃料電池について説明する。
【0172】
図17は、実施の形態に基づく、DMFCとして構成されたPEFC型燃料電池の構造を示す概略断面図(a)と、電解質膜−電極接合体(MEA)114の拡大断面図(b)である。図17に示す燃料電池では、Nafion(デュポン社登録商標)等のプロトン伝導性高分子電解質膜111は両面にアノード(負極)112とカソ−ド(正極)113とが接合され、電解質膜−電極接合体(MEA)114が形成されている。図17(b)に示すように、アノード112では、カーボンシートやカーボンクロス等の導電性多孔質支持体112aの表面に、本発明に基づく白金含有触媒とNafion(R)等のプロトン伝導体との混合物からなるアノード触媒層112bが形成されている。また、カソード113では、カーボンシートやカーボンクロス等の導電性多孔質支持体113aの表面に、触媒である白金又は白金合金等とNafion(R)等のプロトン伝導体との混合物からなるカソード触媒層113bが形成されている。
【0173】
電解質膜−電極接合体(MEA)114はセル上半部117とセル下半部118との間に挟持され、図17に示す燃料電池に組み込まれる。セル上半部117及びセル下半部118には、それぞれ、燃料供給管119及び酸素(空気)供給管120が設けられており、燃料供給管119からは、通常、低濃度又は高濃度の水溶液としてメタノールが供給され、酸素(空気)供給管120からは酸素又は空気が供給される。
【0174】
メタノール水溶液と酸素(又は空気)は、それぞれ、通気孔(図示省略)を有する燃料供給部115及び酸素供給部116を通過してアノード112及びカソード113に供給される。燃料供給部115はアノード112とセル上半部117とを電気的に接続し、酸素供給部116はカソード113とセル下半部118とを電気的に接続する役割もする。セル上半部117、セル下半部118はそれぞれ、外部負荷に接続するための端子121を備えている。
【0175】
燃料供給部115である、燃料供給口を有する金メッキ済みステンレス製押さえ板と、酸素供給部116である、空気取り入れ口を有する金メッキ済みステンレス製押さえ板との間に膜−電極接合体(MEA)114を挟み込んで、図17に示す燃料電池の単電池を構成している。この際、テフロン(登録商標)フィルムでアノード112とカソード113とが短絡するのを防止している。
【0176】
図17に示す燃料電池では、燃料のメタノールはアノード触媒層112bで既述の式(a)によって二酸化炭素に酸化される。このとき生じた水素イオンは、アノード112とカソード113とを隔てるプロトン伝導性高分子電解質膜111を通ってカソード側へ移動し、カソード触媒層113bで酸素と既述の式(b)によって反応し、水を生成する。
【0177】
以上が、実施の形態に関する説明である。
【実施例】
【0178】
以下で説明する実施例では、ルテ二ウムからなり平均粒子径が1.4nm以上、3.5nm以下であるコア粒子と、このコア粒子の表面に形成され、白金からなり厚さが0.25nm以上、0.9nm以下である(白金原子層数で1.1層以上、4.0層以下である。)シェル層を有するコアシェル型白金含有触媒を中心として説明する。
【0179】
このコアシェル型白金含有触媒は、少なくとも1層以上のシェル層を有し、好ましくは、シェル層によってコア粒子の前面が被覆され保護され、コア粒子のルテ二ウム原子が外部に露出しないように構成されているので、例えば、この触媒を直接型メタノール燃料電池の負極触媒に適用した場合、発電中でのルテニウムの溶出が抑制されるため耐久性に優れ、CO被毒に対して高耐性であり、劣化が少なく高い触媒活性を維持することができる。
【0180】
また、このコアシェル型白金含有触媒を負極触媒に適用した直接型メタノール燃料電池は、電流密度が300mA/cm2における出力密度が70mW/cm2以上であり、十分に実用レベルにある出力密度を有し、且つ、約90%以上の高い出力維持率を有し耐久性に優れている。
【0181】
以下、本発明を実施例に基づいてより詳細に説明する。但し、本発明が下記する実施例に限られるものではないことは言うまでもない。
【0182】
[白金含有触媒の構成]
図2は、本発明の実施例における、コアシェル構造を有する白金含有触媒の構成とそのシェル層(白金層)のPt5d電子結合力の計算に使用した積層モデルを説明する図であり、図2(A)はコアシェル構造を有する白金含有触媒の構成を模式的に示す断面図、図2(B)は積層モデルの斜視図、図2(C)は六方最密充填構造を説明する図である。
【0183】
図2(A)の上図は、白金以外の原子(コア金属原子)からなるコア金属粒子(球と見做す。)の表面に形成された白金原子からなるシェル層をもったコアシェル構造を有する白金含有触媒粒子(球と見做す。)を示している。図2に示す例では、シェル層は、白金原子の2層によって形成されている。図2(A)の上図に示す触媒は、図2(A)の下図に示すように、R1の平均粒子径(直径)をもったコア金属粒子の表面に、R2の平均粒子径(直径)をもったシェル層が形成された構成を有し、球として示される白金含有触媒粒子として表現することができる。
【0184】
図2(A)の上図に示す白金含有触媒粒子のシェル層を構成する白金の、コア粒子を構成する金属元素Mに対するモル比γ(Pt/M)が既知であれば、コアシェル粒子の平均粒子径R2の、コア粒子の平均粒子径R1に対する比(R2/R1)は、式(5)によって与えられる。また、比(R2/R1)が既知であれば、モル比γ(Pt/M)は、式(6)によって与えられる。
【0185】
なお、式(5)、式(6)において、ρcはコア粒子を構成する単体金属の密度(コア粒子が合金である場合には合金の密度)、ρsはシェル層を構成する単体金属Ptの密度、Mcはコア粒子を構成する単体金属の原子量(コア粒子が合金である場合には合金の分子量)、Msはシェル層を構成する単体金属Ptの原子量である。
【0186】
(R2/R1)={γ(ρc/ρs)(Ms/Mc)+1}1/3 …(5)
γ=(ρs/ρc)(Mc/Ms){(R2/R1)3−1} …(6)
【0187】
シェル層が白金によって構成され、コアがルテニウムによって構成されている場合には、ρc=12.41(g/cm3)、ρs=21.45(g/cm3)、Mc=101.07、Ms=159.08として、式(6)は式(7)となる。
【0188】
γ=0.895{(R2/R1)3−1} …(7)
【0189】
シェル層の平均厚さtsは式(8)〜式(10)によって与えられる。
【0190】
s=(R2−R1)/2 …(8)
=(R1/2){(R2/R1)−1} …(9)
=(R2/2){1−(R2/R1)-1} …(10)
【0191】
従って、白金含有触媒の構成として、白金含有量がより少なく、しかも、例えば、白金含有触媒を燃料電池の燃料極触媒として使用した場合、大きな出力維持率が実現できるように、高い触媒活性を実現できるような、シェル層の平均厚さts、コア粒子の平均粒子径R1の望ましい範囲が既知であれば、コアシェル粒子の平均粒子径R2は式(11)、比(R2/R1)は式(12)によってそれぞれ与えられ、モル比γ(Pt/M)は式(6)によって与えられる。
【0192】
2=R1+2ts …(11)
(R2/R1)=1+(2ts/R1) …(12)
【0193】
また、白金含有触媒の構成として、白金含有量がより少なく、しかも、高い触媒活性を実現できるような、シェル層の平均厚さts、コアシェル粒子の平均粒子径R2とコア粒子の平均粒子径R1の比(R2/R1)の望ましい範囲が既知であれば、コア粒子の平均粒子径R1は式(13)、コアシェル粒子の平均粒子径R2は式(12)によってそれぞれ与えられ、モル比γ(Pt/M)は式(6)によって与えられる。
【0194】
1=2ts/((R2/R1)−1) …(13)
【0195】
本発明による白金含有触媒では、コア粒子は白金以外の元素からなり、シェル層は白金層であるので、コア粒子とシェル層は異なる元素からなっており、作製された白金含有触媒の元素分析から得られた元素濃度比によってモル比γ(Pt/M)を求めることができる。或いは、後述するように、白金含有触媒の作製条件を制御することによって、モル比γ(Pt/M)が所望の値となるようにすることができる。
【0196】
また、コア粒子の平均粒子径R1、コアシェル粒子の平均粒子径R2は、先述のように、SEM又はTEM像の解析、或いは、SEM−EDX、又は、TEM−EDXによるライン分析によって、求めることができる。求められたコア粒子の平均粒子径R1及びコアシェル粒子の平均粒子径R2から、比(R2/R1)、式(8)によってシェル層の厚さts、式(6)によってモル比γ(Pt/M)を求めることができる。
【0197】
コア粒子の平均粒子径R1及びシェル層の平均厚さtsを変化させることによって、種々の構成を有する白金含有触媒を作製しその触媒活性を評価することによって、白金含有触媒の望ましい構成を定めることができる。
【0198】
即ち、白金含有触媒の構成として、白金含有量がより少なく、しかも、高い触媒活性を実現できるような、コア粒子の平均粒子径R1、コアシェル粒子の平均粒子径R2の望ましい範囲を定めることができ、これらから、シェル層の平均厚さts、比(R2/R1)、モル比γ(Pt/M)の望ましい範囲を定めることができる。白金含有触媒の望ましい構成を求める手順をより具体的に次に説明する。
【0199】
後述するように、種々の平均粒子径R1のコア粒子を有する白金含有触媒を作製するが、各平均粒子径R1のコア粒子を作製した後、このコア粒子の面に、モル比γ(Pt/M)が種々の値となるようにシェル層(白金層)を形成し、白金含有触媒を作製する。
【0200】
作製された白金含有触媒のコア粒子の平均粒子径R1、コアシェル粒子の平均粒子径R2を測定し、比(R2/R1)、シェル層の平均厚さts、モル比γ(Pt/M)を求める。
【0201】
白金含有触媒の触媒活性は、後述するように、白金含有触媒をDMFCの燃料極触媒として使用した場合の出力を測定し、これを尺度として評価することができる。
【0202】
例えば、燃料電池の燃料極触媒(白金含有触媒)のコア粒子の平均粒子径R1を変化させて、コア粒子の平均粒子径R1が同じでありコアシェル粒子の平均粒子径R2が異なる白金含有触媒を用いた燃料電池の出力の平均粒子径R1に対する変化を調べ、高い出力が得られるコア粒子の平均粒子径R1及びコアシェル粒子の平均粒子径R2の範囲を求め、これを望ましい範囲とする。
【0203】
また、白金含有触媒の耐久性は、後述するように、白金含有触媒をDMFCの燃料極触媒として一定時間使用した後の出力維持率を測定し、これを尺度として評価することができる。
【0204】
例えば、燃料電池の燃料極触媒(白金含有触媒)のコア粒子の平均粒子径R1を変化させた場合、最大出力維持率(コア粒子の平均粒子径R1が同じでありコアシェル粒子の平均粒子径R2が異なる白金含有触媒を用いた燃料電池の出力維持率のうちの最大値)の平均粒子径R1に対する変化を調べ、高い最大出力維持率が得られるコア粒子の平均粒子径R1の範囲を求め、これを望ましい範囲とする。
【0205】
また、コア粒子の平均粒子径R1が同じでありコアシェル粒子の平均粒子径R2が異なる白金含有触媒を用いた燃料電池の出力維持率の、シェル層(白金層)の平均厚さtsに対する変化、比(R2/R1)に対する変化、及び、モル比γ(Pt/M)に対する変化をそれぞれ調べ、高い出力維持率が得られるシェル層の平均厚さts、比(R2/R1)、及び、モル比γ(Pt/M)の範囲を求め、これらを望ましい範囲とする。
【0206】
[コアシェル構造を有する白金含有触媒における白金の有効利用率]
シェル層(白金層)を構成する白金層のうち外部に露出する白金原子が触媒作用に有効に寄与するものとすると、白金含有触媒における白金の有効利用率ηは次のようにして求めることができる。
【0207】
N層からなる白金層の体積VPtは、コア粒子の粒子径をR1、1層の白金原子層の厚さをd=0.2265nm(=d111)とする時、式(14)によって与えられる。白金層のうち外部に露出する層(最外表面の層)の体積VPtout(式(15)によって与えられる。)中の白金原子が触媒作用に有効に寄与するものとすると、白金の有効利用率ηは、式(16)によって与えられる。この有効利用率ηは、白金シェル層の最外表面に配置されたPtの割合を示している。
【0208】
白金層の平均厚さがtsである場合、この白金層はn=(ts/d)の原子層からなると見做し(d=0.2265nm)、白金層の体積VPt、及び、白金層のうち外部に露出する層(最外表面の層)の体積VPtoutはそれぞれ、式(14)、式(15)において、N=n=(ts/d)として与えられ、白金の有効利用率ηは、式(16)によって与えられるものとする。
【0209】
Pt=(4π/3)×{[(R1/2)+Nd]3−(R1/2)3} …(14)
Ptout=(4π/3)×{[(R1/2)+Nd]3−[(R1/2)+(N−1)d]3}
…(15)
η=VPtout/VPt …(16)
【0210】
触媒全体における白金の使用量が一定である時、外部に露出する最外表面の層の白金の割合が大きい程、外部に露出せず内部に埋もれている白金の量が少なくなるので、有効利用率ηが大きく白金を効率的に使用しているといえる。
【0211】
[白金含有触媒における白金の電子状態]
コアシェル型の白金含有触媒における白金の電子状態を、密度汎関数理論に基づいた第一原理計算によって計算し、フェルミ準位を基準としたPt5d電子の平均束縛エネルギーVd(平均結合エネルギー、Pt5d電子結合力)を求めた。
【0212】
<Pt5d電子結合力Vdの計算に使用した積層モデル>
白金以外の金属からなるコア粒子と白金シェル層からなるコアシェル構造を有する本発明による白金含有触媒の電子状態を、密度汎関数理論に基づいた第一原理計算によって推定する際に使用したモデルについて説明する。
【0213】
ナノ粒子触媒のTEM観察の結果では、ナノ粒子の表面にある白金のファセットとして面心立方構造の(111)面がしばしば観測される。そこで、コアシェル型触媒におけるコア粒子を構成する原子とシェル層を構成する原子の結合状態を近似的に計算するモデルとして、図2(B)に示したような、最密充填面を積層した積層モデルを採用する。ここで、最密充填面とは、6回の対称軸をもつように最密に配列された原子がなす面を意味し、面心立方格子の(111)面や単純六方格子の(001)面に相当する正三角形の複数格子からなる面である。
【0214】
図2(B)に示す積層モデルは、図2(C)に示す六方最密充填(hcp)構造を有し、図2(C1)に示すような、原子Aの配列による第1原子層によって形成される最密充填面と、図2(C2)に示すような、原子Bの配列による第2原子層によって形成される最密充填面を含む。ここで、原子A、原子Bはそれぞれ球と見做す。
【0215】
図2(C)では、図示を単純化するため、最密充填面を構成する原子は一部のみを示している。原子Aによる最密充填面をA面、原子Bによる最密充填面をB面とすれば、図2(B)に示す積層モデルは、A面、B面の周期的な繰返しを含み、ABAB…の2層周期を有し、六方最密充填構造を有している。ここで、原子A、原子Bはコア原子、或いは、シェル層の白金原子である。
【0216】
なお、ナノ粒子触媒を構成する単体の構造が六方最密充填構造及び面心立方構造でない場合にも、ナノ粒子の形態は表面エネルギーを最小化させるため、最密充填構造に近い構造を取っていると予想される。
【0217】
図2(A)に示す白金含有触媒の電子状態を密度汎関数理論に基づいた第一原理計算によって推定する際に、図2(B)に示すような最密充填面の積層構造を有する積層モデルを使用する。
【0218】
図2(A)に示すコアシェル構造を有する白金含有触媒を、六方最密充填(hcp)構造を有する積層モデルによって近似する。図2(B)に示す積層モデルは、シェル層を構成する白金原子の2層と、コア金属原子の5層とが積層された7層の原子層の2つが反転され配置され、コア原子の1層を共通として形成され、4原子からなる原子層と1原子からなる原子層が繰返し積層された多層積層体からなっている。
【0219】
なお、図2(B)では、図示を単純化するため、最密充填面を構成する原子は一部のみによって積層構造を図示しており、図2(C)において同一面に存在し隣接する4個のA原子の中心を結んで形成される平行四辺形をなすユニットセル(unit cell)の領域における積層構造を図示している。
【0220】
図2(B)の多層積層体におけるユニットセルが、最密充填面の面内の2方向に周期的に繰返され配置されたスラブ(薄板)として、図2(A)に示すコアシェル構造を有する白金含有触媒が近似される。
【0221】
以上、説明したように、図2(A)に示す白金含有触媒は、コア原子による9個の最密充填面の積層体の上下方向における最外側の面のそれぞれに、2個の最密充填面の積層による白金原子層が積層されてなる積層構造(図2(B))が、最密充填面の面内の2方向に周期的に繰返され配置されたスラブ(薄板)として近似される。そして、このスラブが、最密充填面に垂直な方向に空隙(真空層)を介して周期的に繰返され配置されたモデルを用いて、密度汎関数理論に基づいた第一原理計算が実行される。
【0222】
なお、密度汎関数理論に基づいた第一原理計算による白金含有触媒の電子状態の推定計算は、最密充填面と平行な方向、及び、最密充填面の法線方向における、コア粒子を構成する金属の原子間距離、コア原子と白金原子の原子間距離、コア粒子を構成する金属の原子間距離に等しいと仮定して行う。
【0223】
即ち、白金原子層(シェル層)における白金-白金原子間距離がコア粒子を構成する金属の原子間距離で規定されると仮定する。この仮定は、金属膜のエピタキシャル成長における一般的な知見では、原子層4層程度の厚さの金属膜の場合では、金属膜における原子間距離は下地の原子間距離に規定されるとされているので、不自然なものではない。
【0224】
図2(B)に示すような最密充填面の積層構造は、一般的に合金を含むコア粒子に適用できると考えられる。真空領域に露出した表面には結合を形成しないダングリングボンドが存在し、一般的なバルク状態とは化学的な状態が異なるという表面の効果が知られている。白金含有触媒を、コア原子による5層からなるコア層と白金原子の2層によるシェル層からなり上下反転対称性を与えない積層モデルで表すと、コア層には真空領域へ露出する露出面があらわれ、この露出面がダングリングボンドをもつようになり、コア層のコア原子の性質が変化してしまう。
【0225】
図2(A)に示す白金含有触媒ナノ粒子では、表面に露出しているのは白金のみで、コア原子は表面に露出していないこと、上下反転対称性を与えない積層モデルでは、コア原子の性質が変化してしまうことから、上記の上下反転対称性を与えない積層モデルは、シェル層の白金の電子状態を推定するための計算モデルとして妥当なものではない。
【0226】
コア層のコア原子が真空領域へ露出する露出面をもたないようにして、表面の効果がシェル層の白金のみ現れるようにするため、図2(B)に示すような上下反転対称性をもたせる。コア原子の5層に対し、基本的に白金原子の層は2層とする。
【0227】
白金−白金の原子間距離、白金−コア原子の原子間距離はそれぞれ、コア原子−コア原子の原子間距離に等しいと仮定する。コア粒子が合金からなる場合には、ベガード則が成り立つと仮定して合金を構成する単体の原子間距離の加重平均を用いて、合金の格子定数を求め、コア原子−コア原子の原子間距離を求める。
【0228】
シェル層を構成する白金原子の積層数が少ない場合には、エピタキシャル的に積層する場合、白金−白金の原子間距離、白金−コア原子の原子間距離はそれぞれ、コア原子−コア原子の原子間距離の影響を受けると予想される。しかし、上述したように、白金−白金の原子間距離、白金−コア原子の原子間距離はそれぞれ、コア原子−コア原子の原子間距離に等しいと仮定することは、不自然ではない。
【0229】
最密充填面の面内の格子定数は、コア原子−コア原子の原子間距離(面内格子定数)(後述する〈コア粒子における原子間距離〉を参照。)に等しいものとする。最密充填面に垂直方向の格子定数は、白金含有触媒ナノ粒子間の相互作用(周期的境界条件による表面間の相互作用)を無視するため、いわゆるスラブ近似の条件下で設定する。図2(B)に示した空隙(真空層)を1nm(10Å)以上として、十分に大きくとり、周期系に対するバンド計算を実施する。図2(B)に示す積層モデルの例では、積層面間隔の8倍とした。モデルにおける最密充填面の面間隔は後述の〈最密充填面の積層面間隔〉の値を用いた。
【0230】
コア金属原子、白金原子が積層される積層面の間隔、垂直方向の格子定数について、次に説明する
〈コア粒子における原子間距離(面内格子定数)〉
コア粒子が単一原子から構成され単体である場合、密度汎関数理論に基づいた第一原理計算による白金含有触媒の電子状態の推定計算に使用した、コア粒子を構成する金属、コア原子−コア原子の原子間距離(面内格子定数を、次に示しておく。(カッコ)の前にコア粒子を構成する金属種、(カッコ)内にコア原子−コア原子の原子間距離(nm)を示す。
【0231】
Pt(0.2774)
Ru(0.2696)
Ti(0.2895)
Fe(0.2579)
Mn(0.2756)
Co(0.2521)
Ni(0.2492)
Cu(0.2556)
Zn(0.2913)
Os(0.2734)
Pd(0.2751)
【0232】
なお、コア金属原子、白金原子が積層される積層面の間隔、及び、コア粒子の表面に形成される白金層における積層面内のPt−Pt原子の原子間距離は、コア粒子における原子間距離に等しいものとする。
【0233】
〈最密充填面の積層面間隔〉
コア粒子が単一原子から構成され単体である場合、密度汎関数理論に基づいた第一原理計算による白金含有触媒の電子状態の推定計算に使用した、最密充填面の積層面間隔を、次に示しておく。(カッコ)の前にコア粒子を構成する金属種、(カッコ)内にコア原子−コア原子の最密充填面の積層間隔(nm)を示す。
【0234】
Pt(0.22649)
Ru(0.21570)
Ti(0.23635)
Fe(0.21055)
Mn(0.22005)
Co(0.20586)
Ni(0.20344)
Cu(0.20871)
Zn(0.23785)
Os(0.22321)
Pd(0.22494)
【0235】
[白金含有触媒の電子状態の計算]
白金含有触媒の電子状態の計算手法としては周期系の密度汎関数法を用い、内殻電子を含む原子中の全電子を計算対象とする全電子(all electron)法によってバンド計算を行った。電子−電子間の交換相関エネルギーの関数として一般化された密度勾配近似(GGA:Generalize Gradient Approximation)を用い、線形化、補強された平面波を基底関数系として用いたLAPW法(Linearized Augmented Plane Wave Method)を用いた。
【0236】
本実施例では、ソフトウェアWien2kを用いてバンド計算を行ったが、他の市販のソフトウェアを用いてバンド計算を行うこともできる。
【0237】
バンド計算に用いるk点(ブリュアンゾーン内をメッシュ(サンプリングメッシュ)によって区分された各点であり、バンド計算実施時に用いる波数空間上のサンプリング点(Sampling points)である。)については積層面内の方向で4×4以上のメッシュで存在するものとする。
【0238】
積層面に垂直方向のk点に関しては、スラブ近似では真空層を挟んで隣接格子にある原子との相互作用は考えない(真空層が積層面と平行に入っているため、積層面に垂直方向の隣接格子にある白金層同士は相互作用をしていないものとする。)ので、実際の計算では、積層面内でのサンプリング点を15、積層面に垂直方向でのサンプリング点を1とした。
【0239】
以上の条件で計算された状態密度(Density of States)を用い、式(17)、式(18)からそれぞれ、白金の5dバンドに属する電子の数(Pt5dバンドの占有電子数)Ne、5dバンドに属する電子の平均束縛エネルギー(Pt5d電子結合力)Vdを算出した。
【0240】
なお、式(17)、式(18)において、Eは電子のエネルギー、E0は5dバンド下端(伝導体下端)のエネルギー、EFはフェルミ準位のエネルギー、D(E)は特定の白金原子の5d状態への射影状態密度である。また、式(17)、式(18)において積分(∫)の上限はEfであり、下限はE0である。
【0241】
e=∫D(E)dE …(17)
d=∫D(E)(Ef−E)dE/Ne …(18)
【0242】
<Pt5d電子結合力Vdの計算結果>
図3は、本発明の実施例における、白金含有触媒のシェル層(白金層)のPt5d電子結合力の計算結果を説明する図である。
【0243】
図3は、図2(B)に示す積層モデルにおいて、コア金属原子をそれぞれ、Ni、Co、Cu、Fe、Ru、Os、Mn、Pd、Pt、Ti、Znとして計算によって求められたPt5d電子結合力を示し、図3において、横軸は白金含有触媒のコア粒子を構成する単体の原子間距離(白金の原子間距離(Pt−Pt)を100とする相対値で示す。)を示し、縦軸は、コア粒子とシェル層の界面における白金の5d電子結合力Eint(□:eV)とシェル層の最外表面における白金の5d電子結合力Eout(○:eV)の計算結果を示す。
【0244】
図3に示すように、コア粒子が単体からなる場合に、シェル層の最外表面における白金、及び、コア粒子とシェル層の界面における白金の5d電子結合力Eout、Eintの計算の結果は、コア原子の原子間距離が短いほどPt5d電子結合力が強いことを示しており、コア原子の原子間距離とPt5d電子結合力Eout、Eintの間にはそれぞれ、ほぼ直線の関係が存在している。
【0245】
従来、触媒活性が高いとされているルテニウムをコア原子とする場合は、Pt5d電子結合力Eint、Eoutの値は上記の直線より有意に上側にずれており、上記の直線によってRuの原子間距離から予想されるよりも強い結合を白金との間に形成していることが示唆される。この結果と一酸化炭素被毒のメカニズムを合わせて考えると、ルテニウムをコア原子とする場合と同程度にPt5d電子結合力Eint、Eoutを大きくするような金属、即ち、Eint≧4.0eV、Eout≧3.0eVを満たす金属によってコア粒子を構成すれば、ルテニウムをコア原子とする触媒と同程度に触媒活性を向上させることが可能であると考えられる。
【0246】
コア原子とシェル層の白金との結合により、ルテニウムのように上記の直線よりも上側にあることが望ましいが、原子間距離がより短いコア原子でコア粒子を構成することによって、コア原子を白金とする白金単体触媒の場合よりも、Pt5d電子結合力を大きく上昇させるものであれば被毒防止効果は期待できる。図3に示す結果から、このような、コア原子としては、ルテニウム(Ru)の他、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、銅(Cu)、鉄(Fe)等であることが望ましい。
【0247】
このような非白金元素からなるコアの表面に白金層が形成されたコアシェル型白金含有触媒では、シェル層のPtはコア金属原子による電子的な影響を受け、Pt5d電子のバンド中心(平均結合エネルギー、平均束縛エネルギー)が、白金単体触媒におけるPt5d電子のバンド中心よりもフェルミ準位よりも離れた方向にシフトしており、フェルミ準位の状態密度が減少していると考えられる。
【0248】
このため、コアシェル型白金含有触媒では、PtからCOへの電子の逆供与(back donation)が起こり難くなり、Pt−CO結合は、白金単体触媒におけるCO結合よりも弱いものとなる。このように、コアシェル型白金含有触媒では、コアシェル型白金含有触媒のPtに対する一酸化炭素(CO)の結合を、白金単体触媒に対するCOの結合よりも弱める効果を生じているので、CO被毒され難くなり、高活性な触媒特性を示すことになる。
【0249】
図4は、本発明の実施例における、白金含有触媒の表面、界面に存在する白金の5d電子結合力の差を説明する図である。
【0250】
図4は、図3と同様にして図2(B)に示す積層モデルにおいて、コア金属原子をそれぞれ、Ni、Co、Cu、Fe、Ru、Os、Mn、Pd、Pt、Ti、Znとして計算によって求められたPt5d電子結合力を示し、図4において、横軸は白金含有触媒のコア粒子を構成する単体金属の原子間距離(白金の原子間距離(Pt−Pt)を100とする相対値で示す。)を示し、縦軸は、コア粒子とシェル層の界面における白金の5d電子結合力Eintとシェル層の最外表面における白金の5d電子結合力Eoutとの差(Eint−Eout)(eV)を示す。
【0251】
図4において、Ptについては、図2(B)に示す積層モデルにおいて、コア原子の5層を白金5層で置き換えた場合における、コア粒子とシェル層の界面における白金の5d電子結合力とシェル層の最外表面における白金の5d電子結合力との差(eV)を示す。即ち、白金原子層を真空層の側から白金第1原子層〜白金第7原子層と数える時、白金第1原子層のPt5d電子結合力と白金第2原子層のPt5d電子結合力との差(0.61eV)を示す。
【0252】
コア粒子とシェル層の界の面における白金の5d電子結合力Eintとシェル層の最外表面における白金の5d電子結合力Eoutとの差(Eint−Eout)が、上述の白金のみの層状構造からなる触媒における上記の差(0.61eV)より大きい場合は、即ち、(Eint−Eout)≧0.7を満足する場合、白金とコア原子の結合が白金単体の金属結合より強くなっていると考えられる。
【0253】
図4に示す結果は、ほぼ同一直線上にあるRu、Os、Ti、及び、同様にほぼ同一直線上にあるCo、Fe、Mnの各単体元素をコア原子とする時、白金とコア原子の結合が白金単体の金属結合より強くなることを示している。また、ほぼ同一直線上にあるNi、Cu、Pd、Znの各単体元素をコア原子とする時、白金とコア原子の結合が白金単体の金属結合より弱くなることを示している。
【0254】
コア粒子とシェル層の界面における白金の5d電子結合力とシェル層の最外表面における白金の5d電子結合力との差(Eint−Eout)の値は、コア原子の原子間距離の変化によるPt5d電子結合力の変化(図3参照)とは独立に、白金とコア原子との間の結合性の強さを判定するための指標にすることできると考えられる。
【0255】
図4に示すように、コア原子がルテニウムである場合に、コア粒子とシェル層の界面における白金の5d電子結合力とシェル層の最外表面における白金の5d電子結合力との差(Eint−Eout)は、大きな値を示し、コア原子(ルテニウム)と白金の間の強い結合を特徴的に示している。
【0256】
図3に示す結果から、コア粒子は、ルテニウム(Ru)の他、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、銅(Cu)によって構成されるのが好ましい。
【0257】
RuCu、RuNiの2元合金について、図3、図4に示した単体金属をコア粒子とする場合と同様にして、シェル層の白金の5d電子結合力を計算した結果、コア原子を白金とする白金単体触媒の場合よりも、Pt5d電子結合力は大きく上昇する確認され、RuCu、RuNiの2元合金についても、被毒防止効果は期待できることが判明した。
【0258】
<シェル層(白金層)のPtの原子積層数とPt5d電子結合力の関係>
図5は、本発明の実施例における、白金含有触媒においてコア粒子をRuナノ粒子としこれに積層される白金原子積層数とPt5d電子結合力の関係を説明する図である。
【0259】
図5は、図2(B)に示す積層モデルにおいて、コア原子の5層がRu5層であるとし、白金原子の層を1,2,3,4,5層とした時に計算された、Ru層とPt層の界面のPt5d電子結合力、真空層の側の最外表面のPt層のPt5d電子結合力を示している。
【0260】
図5において、横軸はシェル層を構成する白金原子積層数を示し、縦軸は、コア粒子とシェル層の界面における白金の5d電子結合力Eint(○:eV)とシェル層の最外表面における白金の5d電子結合力Eout(□:eV)の計算結果を示す。
【0261】
図5において、Pt原子積層数(シェル層を構成する白金原子の積層数)が1層である場合は、Ru層とPt層の界面のPt5d電子結合力と、真空層の側の最外表面のPt層のPt5d電子結合力とは同一値である。
【0262】
図5に示すように、コア粒子とシェル層の界面における白金の5d電子結合力Eint(○:eV)は、白金原子積層数が2〜4で上昇したほぼ一定の値を示し、白金原子積層数を5とするとPt5d電子結合力は下がり始める。シェル層の最外表面における白金の5d電子結合力Eout(□:eV)は、シェル層を構成する白金原子積層数の増加と共に、減少していくが、白金層が1層〜4層の範囲では減少は緩やかであるのに対して、白金層が5層とすると、減少は、大きくなっている。この結果から、Ruコア粒子の表面に形成される白金層が1層〜4層である場合、高い触媒活性を持つと予想され、この予想結果は、後述する燃料電池に関する実験結果と整合している。
【0263】
以上の結果から、1層〜4層の白金原子層とこれに強く結合するコア原子を有するコアシェル型白金含有触媒によって、被毒、例えば、CO被毒を効果的に防ぐことが可能である。
【0264】
COをはじめとする中間生成物による白金原子の被毒は、白金のフェルミ準位付近にある非結合性(non-bonding)d軌道と中間生成物の非占有軌道の混成による結合の形成に起因すると考えられる。コア原子と白金原子が強く結合してd軌道結合力が上昇すれば、Fermi準位付近の非結合性(non-bonding)軌道の数が減り、白金原子と中間生成物の結合の形成確率が減少する。即ち、白金原子のd軌道とCOの電子軌道の混成によるエネルギー利得が減少すると考えられる。
【0265】
[コアシェル構造を有する白金含有触媒の作製方法]
コアシェル構造を有する白金含有触媒は、逐次還元法、又は、同時還元法によって作製することができる。
【0266】
逐次還元法では、先ず、コア粒子を形成するためのコア前駆物質(例えば、金属の塩化物)を含む溶液中でコア前駆物質を還元してコア粒子を形成しこれを担体(例えば、多孔質炭素)に担持させた後、洗浄、乾燥させ、担体に担持されたコア粒子を得る。次に、担体に担持されたコア粒子と、シェル層(白金層)を形成するためのシェル前駆物質(例えば、塩化白金酸)を含む溶液中でシェル前駆物質を還元してコア粒子の表面に白金を析出させてシェル層を形成することによって、担体に担持され、コアシェル構造を有する白金含有触媒粒子が得られる。
【0267】
同時還元法では、コア粒子を形成するためのコア前駆物質(例えば、金属の塩化物)、及び、シェル層(白金層)を形成するためのシェル前駆物質(例えば、塩化白金酸)が共存する溶液中で、各前駆物質を還元し、コア粒子の表面に白金によるシェル層を形成させることによって、コアシェル構造を有する白金含有触媒粒子が得られる。この白金含有触媒粒子は、担体に担持される。
【0268】
以下に説明する実施例1〜実施例19では、コア粒子をルテニウム粒子とし、逐次還元法によって、コアシェル構造を有する白金含有触媒を作製した。
【0269】
<シェル層の厚さ(白金原子積層数)の評価方法>
作製した白金含有触媒のシェル層の平均厚さは、コア粒子と白金含有触媒粒子をそれぞれTEM像により評価し、コア粒子、白金含有触媒粒子の平均粒子径を求め、コア粒子の平均粒子径R1と白金含有触媒粒子の平均粒子径R2の差((R2−R1)/2)から求めた。白金原子積層数は、白金層の平均厚さを白金の面間隔(d111=0.2265nm)で割ることにより求めた。
【0270】
図6は、本発明の実施例における、白金含有触媒の白金層(シェル層)の平均厚さの評価の例を説明する図であり、図6(A)はコア粒子のTEM像を示す図、図6(B)は白金含有触媒粒子のTEM像を示す図、図6(C)はコア粒子の粒径分布を示す図、図6(D)は白金含有触媒粒子の粒径分布を示す図である。
【0271】
図6(A)は、カーボンブラックに担持されたコア粒子(Ru/C)のTEM像の例を示す図であり、図6(B)は、カーボンブラックに担持された白金含有触媒粒子(Pt2.4Ru1.0/C)のTEM像の例を示す図である。
【0272】
図6(C)は、図6(A)に示すようなコア粒子(ルテニウム粒子)のTEM像の評価から求められたコア粒子の粒径分布の測定例を示す図である。図6(C)において、横軸は、コア粒子の粒子径(直径:nm)を示し、縦軸はカウント数を示し、図6(C)に示すように、コア粒子の平均粒子径(直径)R1(=dmean)は、1.9nmであり、その標準偏差は±0.2nmである。なお、コア粒子の粒径分布は、TEM像の中の約430個の粒子について求められた粒子径により測定している。
【0273】
図6(D)は、図6(B)に示すような白金含有触媒粒子(Pt2.4Ru1.0)のTEM像の評価から求められた白金含有触媒粒子の粒径分布の測定例を示す図である。図6(D)において、横軸は、白金含有触媒粒子の粒子径(直径:nm)を示し、縦軸はカウント数を示し、図6(D)に示すように、白金含有触媒粒子の平均粒子径(直径)R2(=dmean)は、2.8nmであり、その標準偏差は±0.5nmである。なお、白金含有触媒粒子の粒径分布は、TEM像の中の約510個の粒子について求められた粒子径により測定している。
【0274】
コア粒子の平均粒子径R1と白金含有触媒粒子の平均粒子径R2から、白金層の平均厚さtsは0.45nm(=(2.8-1.9)/2)となり、この白金層の厚さは2.0層(=0.45/0.2265)の白金原子層に相当する。
【0275】
以上説明したシェル層の平均厚さ(白金原子積層数)の評価の結果例は、後述する実施例6における白金含有触媒粒子のシェル層の平均厚さ(白金原子積層数)の評価の結果に近いものである。
【0276】
[実施例1]
<コア粒子の作製方法>
白金含有触媒のコア粒子を構成するコア粒子は次のようにして行った。塩化ルテニウム(III)水和物(RuCl3・nH2O)をエチレングリコールに溶かし、ルテニウム(III)イオンが0.1mol/Lの濃度で溶解した溶液190mLを調製した。これに0.5mol/Lの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液10mLを加え、よく撹拌しながら、マイクロ波加熱装置を用いて1分間で170℃まで昇温させ、その後1時間170℃に保ったところ、ルテニウム(III)イオンがエチレングリコールによって還元され、濃い茶色のルテニウムナノ粒子の分散液が生成した。
【0277】
<ルテニウムナノ粒子のカーボンブラックへの吸着>
上記の分散液に担体としてカーボンブラック2.88gを加え、よく撹拌して分散させた後、0.5mol/L硫酸100mLを加えてよく撹拌した。次に、この分散液から遠心分離器を用いて、ルテニウムナノ粒子とカーボンブラックの混合物を沈降させ、上澄み液を除去し、カーボンブラックに担持されたルテニウムナノ粒子を得た。
【0278】
このカーボンブラックに担持されたルテニウムナノ粒子を50mLのイオン交換水に加え、よく撹拌して分散させた後、遠心分離器を用いて沈降させ、上澄み液を除去しカーボンブラックに担持されたルテニウムナノ粒子を洗浄した。この洗浄処理を合計5回繰返すことにより、カーボンブラックに担持されたルテニウムナノ粒子を精製した。最後に、カーボンブラックに担持されたルテニウムナノ粒子に窒素気流をあてて乾燥させた。
【0279】
<ルテニウムナノ粒子の大きさの評価>
TEM観察像から求めた白金含有触媒粒子の平均粒子径は1.4nm(標準偏差は±0.3nm)であった。
【0280】
<ルテニウムナノ粒子への白金層の形成>
カーボンブラックに担持されたルテニウムナノ粒子を200mLのイオン交換水に分散させ、これにテトラヒドロホウ酸ナトリウム(NaBH4)の6.6mol/L水溶液と塩化白金酸六水和物(H2PtCl6・6H2O)の0.97mol/L水溶液とを滴下し、白金(IV)イオンを還元して、ルテニウムナノ粒子の表面上に白金層を形成した。滴下は、白金とルテニウムのモル比が、調製しようとする白金含有触媒におけるモル比の設定値(仕込みのモル比)3:2になるまで行った。
【0281】
なお、調製された白金含有触媒を構成するPtのRuに対するモル比γ(Pt/Ru)のICP(誘導結合プラズマ)分析による組成分析の結果は、仕込みのモル比に一致していることが確認されており、原料中の金属は何れもほぼ100%が調製された白金含有触媒に含まれていることが確認されている(後述する実施例2〜実施例19に関しても同様である。)。
【0282】
カーボンブラックに担持された白金含有触媒粒子を、遠心分離によって反応液から分離した。このカーボンブラックに担持された白金含有触媒粒子は、上述した洗浄処理を5回繰返すことによって精製した。最後に、カーボンブラックに担持された白金含有触媒粒子に窒素気流をあてて乾燥させた。
【0283】
<白金層(シェル層)の厚さの評価>
作製された白金含有触媒粒子をTEM像により評価し、白金含有触媒粒子の平均粒子径(直径)R2を求め、先に求められているルテニウムナノ粒子の平均粒子径(直径)R1と平均粒子径R2の差((R2−R1)/2)から、白金含有触媒のシェル層の厚さtsを求めた。白金原子積層数は、シェル層(白金層)の厚さを白金の面間隔(d111=0.2265nm)で割ることにより求めた。
【0284】
図18は、上述のようにして得られた、カーボンに担持されたPtによって被覆されたRu微粒子(白金含有触媒粒子と呼ぶコアシェル型触媒であり、以下、「Pt被覆Ru微粒子」ともいう。)の透過型電子顕微鏡による観察像である。
【0285】
カーボン粒子の粒子径はPt被覆Ru微粒子の粒子径(平均1.9nm)に比べてはるかに大きく、図18において、カーボン粒子は、明るく見える所と暗く見える所のある、表面に小刻みな脈状の凹凸が形成されたシートのように見え、そして、Pt被覆Ru微粒子はその表面についた黒っぽい染みのように見えている。
【0286】
図18に示すTEM観察像から求めた白金含有触媒粒子の平均粒子径はR2=1.9nm(標準偏差は±0.4nm)であった。この白金含有触媒粒子の平均粒子径と、先に求めたルテニウムナノ粒子の平均粒子径、R1=1.4nmから、白金層の平均厚さtsは0.25nm(=(1.9-1.4)/2)となり、この白金層の平均厚さは1.1層(=0.25/0.2265)の白金原子層に対応する。白金層は平均1層程度の白金原子層で構成されていることがわかった。
【0287】
カーボンブラックに担持された白金含有触媒粒子の、DMFCのアノード触媒としての評価を行うために、次に示したDMFCを作製し、燃料電池の特性を評価した。
【0288】
<燃料電池の構成>
図7は、本発明の実施例における、燃料電池のMEA(膜電極接合体)及びその近傍の構成を説明する断面図であり、基本的な構成は図1に示すものと同じである。
【0289】
実施例及び比較例に関するPtRu触媒を、直接型メタノール燃料電池の単セルの燃料極12aに使用して、燃料電池の評価を行った。
【0290】
カーボンブラックに担持された白金含有触媒粒子と、Nafion(デュポン社登録商標)分散水溶液(ワコーケミカル社製)とを、質量比で7:3となるように混合し、イオン交換水を加えて粘度を調整して、ペースト状の混合物を作製した。
【0291】
次に、このペースト状の混合物を、ガス拡散層であるカーボンペーパー(東レ株式会社製)上に、ドクターブレード法で塗布した後、乾燥させて、アノード触媒層を形成した。この時、ペースト状混合物の塗布は白金含有触媒粒子の存在量が、ガス拡散層の1cm2当たり10mgになるようにした。ペースト状混合物の塗布、乾燥後、10mm×10mmの正方形に切断し、アノード(燃料極12a)とした。
【0292】
カソードも、触媒材料が異なることを除いて、アノード(燃料極12a)と同様にして作製した。先ず、白金触媒がカーボンに担持された触媒(田中貴金属工業株式会社製)とNafionTM分散水溶液(ワコーケミカル社製)とを、質量比で7:3になるように混合し、イオン交換水を加えて粘度を調整して、ペースト状の混合物を作製した。
【0293】
このペースト状の混合物を、ガス拡散層であるカーボンペーパー(東レ株式会社製)上にドクターブレード法で塗布した後、乾燥させて、カソード触媒層を形成した。この時、ペースト状混合物の塗布は白金の存在量が、ガス拡散層の1cm2当たり5mgになるようにした。ペースト状混合物の塗布、乾燥後、10mm×10mmの正方形に切断し、カソード(空気極12b)とした。
【0294】
プロトン伝導性高分子電解質膜10としてナフィオン112膜(商品名;デュポン社製)を12mm×12mmの正方形に切断し、これを燃料極12aと空気極12bで挟持し、温度150℃、圧力1MPaの条件下で10分間熱圧着し、電解質膜−電極接合体(MEA)を作製した。燃料極12aと空気極12bの全面は対向しプロトン伝導性高分子電解質膜10と接している。
【0295】
なお、図7に示されたMEA及びその近傍の構成は、後述する図17に示すMEA114と基本的に同じ構成である。
【0296】
そして、電解質膜10は、プロトン伝導性高分子膜111に対応し、燃料極12aは、アノード(負極)112に対応し、空気極12bはカソ−ド(正極)113に対応している。また、ガス拡散層14aはアノード112中に含まれ、ガス拡散層14bはカソード113中に含まれている。
【0297】
上記の単セルを、後述する図17に示すDMFCの構成として、次に説明するようにしてアノード触媒の性能評価を行った。
【0298】
<アノード触媒の性能評価>
燃料電池の発電は、アノード(燃料極12a)側に80質量%の濃度のメタノール水溶液を一定の速度で供給しながら、室温で行った。電極1cm2当たりの電流値を変えながら、各電流値における電圧を測定し、電流密度−電圧曲線及び電流密度−出力密度曲線を得た。また、電極1cm2当たり100mAの一定電流を取り出す発電を800時間連続して行い、初期の出力に対する800時間後の出力の比、即ち、出力維持率を求めた。
【0299】
この出力維持率は、長時間の発電後における触媒活性の初期状態の触媒活性に対する変化が反映されたものであり、触媒活性の維持率を示しており、出力維持率に基づいて、本発明に基づく白金含有触媒の、アノード触媒としての耐久性を評価した。
【0300】
[実施例2]
ルテニウムナノ粒子の表面を被覆し、白金とルテニウムとのモル比が、調製しようとする白金含有触媒におけるモル比の設定値(仕込みのモル比)4:1になるように白金層を形成した。これ以外は実施例1と同様にして、白金含有触媒の合成、精製、乾燥、性能評価を行った。カーボンブラックに担持された白金含有触媒粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した。TEM観察像から白金含有触媒粒子の平均粒子径は2.5nm(標準偏差は0.5nm)であった。これから白金層の平均厚さは0.55nm(=(2.5-1.4)/2)となり、この白金層の平均厚さは2.4層(=0.55/0.2265)の白金原子層に対応する。
【0301】
[実施例3]
ルテニウムナノ粒子の表面を被覆し、白金とルテニウムとのモル比が、調製しようとする白金含有触媒におけるモル比の設定値(仕込みのモル比)7:1になるように白金層を形成した。これ以外は実施例1と同様にして、白金含有触媒の合成、精製、乾燥、性能評価を行った。カーボンブラックに担持された白金含有触媒粒子を透過型電子顕微鏡で観察した。TEM観察像から白金含有触媒粒子の平均粒子径は2.9nm(標準偏差は±0.5nm)であった。これから白金層の平均厚さは0.75nm(=(2.9-1.4)/2)となり、この白金層の平均厚さは3.3層(=0.75/0.2265)の白金原子層に対応する。
【0302】
[実施例4]
ルテニウムナノ粒子表面を被覆し、白金とルテニウムとのモル比が、調製しようとする白金含有触媒におけるモル比の設定値(仕込みのモル比)9:1になるように白金層を形成した。これ以外は実施例1と同様にして、白金含有触媒の合成、精製、乾燥、性能評価を行った。カーボンブラックに担持された白金含有触媒粒子を透過型電子顕微鏡で観察した。TEM観察像から白金含有触媒粒子の平均粒子径は3.1nm(標準偏差は±0.5nm)であった。これから白金層の平均厚さは0.85nm(=(3.1-1.4)/2)となり、この白金層の平均厚さは3.8層(=0.85/0.2265)の白金原子層に対応する。
【0303】
[実施例5]
マイクロ波加熱装置を用いて15分間で170℃まで昇温させた。それ以外は実施例1と同様にしてカーボンブラックに担持されたルテニウムナノ粒子を作製したところ、ルテニウムナノ粒子の平均粒子径は1.9nm(標準偏差は±0.3nm)であった。その後、実施例1と同様にして、ルテニウムナノ粒子表面を被覆し、白金とルテニウムのモル比が、調製しようとする白金含有触媒におけるモル比の設定値(仕込みのモル比)1:1になるように白金層を形成し、精製、乾燥した。
【0304】
カーボンブラックに担持された白金含有触媒粒子を透過型電子顕微鏡で観察した。TEM観察像から白金含有触媒粒子の平均粒子径は2.4nm(標準偏差は±0.4nm)であった。これから白金層の平均厚さは0.25nm(=(2.4-1.9)/2)となり、この白金層の平均厚さは1.1層(=0.25/0.2265)の白金原子層に対応する。得られた白金系触媒の、アノード触媒としての性能評価は、実施例1と同様に行った。
【0305】
[実施例6]
ルテニウムナノ粒子の表面を被覆し、白金とルテニウムとのモル比が、調製しようとする白金含有触媒におけるモル比の設定値(仕込みのモル比)7:3になるように白金層を形成した。これ以外は実施例5と同様にして、白金含有触媒の合成、精製、乾燥、性能評価を行った。カーボンブラックに担持された白金含有触媒粒子を透過型電子顕微鏡で観察した。TEM観察像から白金含有触媒粒子の平均粒子径は2.9nm(標準偏差は±0.5nm)であった。これから白金層の平均厚さは0.5nm(=(2.9-1.9)/2)となり、この白金層の平均厚さは2.2層(=0.5/0.2265)の白金原子層に対応する。
【0306】
[実施例7]
ルテニウムナノ粒子の表面を被覆し、白金とルテニウムとのモル比が、調製しようとする白金含有触媒におけるモル比の設定値(仕込みのモル比)4:1になるように白金層を形成した。これ以外は実施例5と同様にして、白金含有触媒の合成、精製、乾燥、性能評価を行った。カーボンブラックに担持された白金含有触媒粒子を透過型電子顕微鏡で観察した。TEM観察像から白金含有触媒粒子の平均粒子径は3.3nm(標準偏差は±0.6nm)であった。これから白金層の平均厚さは0.70nm(=(3.3-1.9)/2)となり、この白金層の平均厚さは3.1層(=0.70/0.2265)の白金原子層に対応する。
【0307】
[実施例8]
ルテニウムナノ粒子の表面を被覆し、白金とルテニウムとのモル比が、調製しようとする白金含有触媒におけるモル比の設定値(仕込みのモル比)6:1になるように白金層を形成した。これ以外は実施例5と同様にして、白金含有触媒の合成、精製、乾燥、性能評価を行った。カーボンブラックに担持された白金含有触媒粒子を透過型電子顕微鏡で観察した。TEM観察像から白金含有触媒粒子の平均粒子径は3.8nm(標準偏差は±0.7nm)であった。これから白金層の平均厚さは0.95nm(=(3.8-1.9)/2)となり、この白金層の平均厚さは4.2層(=0.95/0.2265)の白金原子層に対応する。
【0308】
[実施例9]
マイクロ波加熱装置を用いて40分間で170℃まで昇温させた。それ以外は実施例1と同様にしてカーボンブラックに担持されたルテニウムナノ粒子を作製したところ、ルテニウムナノ粒子の平均粒子径は3.5nm(標準偏差は±0.3nm)であった。その後、実施例1と同様にして、ルテニウムナノ粒子表面を被覆し、白金とルテニウムのモル比が、調製しようとする白金含有触媒におけるモル比の設定値(仕込みのモル比)1:2となるように白金層を形成し、精製、乾燥した。
【0309】
カーボンブラックに担持された白金含有触媒粒子を透過型電子顕微鏡で観察した。TEM観察像から白金含有触媒粒子の平均粒子径は4.0nm(標準偏差は±0.6nm)であった。これから白金層の平均厚さは0.25nm(=(4.0-3.5)/2)となり、この白金層の平均厚さは1.1層(=0.25/0.2265)の白金原子層に対応する。得られた白金系触媒の、アノード触媒としての性能評価は、実施例1と同様に行った。
【0310】
[実施例10]
ルテニウムナノ粒子の表面を被覆し、白金とルテニウムとのモル比が、調製しようとする白金含有触媒におけるモル比の設定値(仕込みのモル比)1:1となるように白金層を形成した。これ以外は実施例9と同様にして、白金含有触媒の合成、精製、乾燥、性能評価を行った。カーボンブラックに担持された白金含有触媒粒子を透過型電子顕微鏡で観察した。TEM観察像から白金含有触媒粒子の平均粒子径は4.5nm(標準偏差は±0.7nm)であった。これから白金層の平均厚さは0.5nm(=(4.5-3.5)/2)となり、この白金層の平均厚さは2.2層(=0.5/0.2265)の白金原子層に対応する。
【0311】
[実施例11]
ルテニウムナノ粒子の表面を被覆し、白金とルテニウムとのモル比が、調製しようとする白金含有触媒におけるモル比の設定値(仕込みのモル比)3:2となるように白金層を形成した。これ以外は実施例9と同様にして、白金含有触媒の合成、精製、乾燥、性能評価を行った。カーボンブラックに担持された白金含有触媒粒子を透過型電子顕微鏡で観察した。TEM観察像から白金含有触媒粒子の平均粒子径は4.9nm(標準偏差は±0.7nm)であった。これから白金層の平均厚さは0.7nm(=(4.9-3.5)/2)となり、この白金層の平均厚さは3.1層(=0.7/0.2265)の白金原子層に対応する。
【0312】
[実施例12]
ルテニウムナノ粒子の表面を被覆し、白金とルテニウムとのモル比が、調製しようとする白金含有触媒におけるモル比の設定値(仕込みのモル比)2:1になるように白金層を形成した。これ以外は実施例9と同様にして、白金含有触媒の合成、精製、乾燥、性能評価を行った。カーボンブラックに担持された白金含有触媒粒子を透過型電子顕微鏡で観察した。TEM観察像から白金含有触媒粒子の平均粒子径は5.2nm(標準偏差は±0.7nm)であった。これから白金層の平均厚さは0.85nm(=(5.2-3.5)/2)となり、この白金層の平均厚さは3.8層(=0.85/0.2265)の白金原子層に対応する。
【0313】
[実施例13]
ルテニウムナノ粒子の表面を被覆し、白金とルテニウムとのモル比が、調製しようとする白金含有触媒におけるモル比の設定値(仕込みのモル比)16:1になるように白金層を形成した。これ以外は実施例1と同様にして、白金含有触媒の合成、精製、乾燥、性能評価を行った。カーボンブラックに担持された白金含有触媒粒子を透過型電子顕微鏡で観察した。TEM観察像から白金含有触媒粒子の平均粒子径は3.7nm(標準偏差は±0.6nm)であった。これから白金層の平均厚さは1.15nm(=(3.7-1.4)/2)となり、この白金層の平均厚さは5.1層(=1.15/0.2265)の白金原子層に対応する。
【0314】
[実施例14]
ルテニウムナノ粒子の表面を被覆し、白金とルテニウムとのモル比が、調製しようとする白金含有触媒におけるモル比の設定値(仕込みのモル比)9:1になるように白金層を形成した。これ以外は実施例5と同様にして、白金含有触媒の合成、精製、乾燥、性能評価を行った。カーボンブラックに担持された白金含有触媒粒子を透過型電子顕微鏡で観察した。TEM観察像から白金含有触媒粒子の平均粒子径は4.2nm(標準偏差は±0.6nm)であった。これから白金層の平均厚さは1.15nm(=(4.2-1.9)/2)となり、この白金層の平均厚さは5.1層(=1.15/0.2265)の白金原子層に対応する。
【0315】
[実施例15]
ルテニウムナノ粒子の表面を被覆し、白金とルテニウムとのモル比が、調製しようとする白金含有触媒におけるモル比の設定値(仕込みのモル比)4:1になるように白金層を形成した。これ以外は実施例9と同様にして、白金含有触媒の合成、精製、乾燥、性能評価を行った。カーボンブラックに担持された白金含有触媒粒子を透過型電子顕微鏡で観察した。TEM観察像から白金含有触媒粒子の平均粒子径は6.2nm(標準偏差は±0.7nm)であった。これから白金層の平均厚さは1.35nm(=(6.2-3.5)/2)となり、この白金層の平均厚さは6.0層(=1.35/0.2265)の白金原子層に対応する。
【0316】
[実施例16]
マイクロ波加熱装置を用いて60分間で170℃まで昇温させた。それ以外は実施例1と同様にしてカーボンブラックに担持されたルテニウムナノ粒子を作製したところ、ルテニウムナノ粒子の平均粒子径は4.6nm(標準偏差は±0.3nm)であった。その後、実施例1と同様にして、ルテニウムナノ粒子表面を被覆し、白金とルテニウムのモル比が、調製しようとする白金含有触媒におけるモル比の設定値(仕込みのモル比)1:2になるように白金層を形成、精製、乾燥した。
【0317】
カーボンブラックに担持された白金含有触媒粒子を透過型電子顕微鏡で観察した。TEM観察像から白金含有触媒粒子の平均粒子径は5.1nm(標準偏差は±0.7nm)であった。これから白金層の平均厚さは0.25nm(=(5.1-4.6)/2)となり、この白金層の平均厚さは1.1層(=0.25/0.2265)の白金原子層に対応する。得られた白金系触媒の、アノード触媒としての性能評価は、実施例1と同様に行った。
【0318】
[実施例17]
ルテニウムナノ粒子の表面を被覆し、白金とルテニウムとのモル比が、調製しようとする白金含有触媒におけるモル比の設定値(仕込みのモル比)2:3になるように白金層を形成した。これ以外は実施例16と同様にして、白金含有触媒の合成、精製、乾燥、性能評価を行った。カーボンブラックに担持された白金含有触媒粒子を透過型電子顕微鏡で観察した。TEM観察像から白金含有触媒粒子の平均粒子径は5.6nm(標準偏差は±0.8nm)であった。これから白金層の平均厚さは0.5nm(=(5.6-4.6)/2)となり、この白金層の平均厚さは2.2層(=0.5/0.2265)の白金原子層に対応する。
【0319】
[実施例18]
ルテニウムナノ粒子の表面を被覆し、白金とルテニウムとのモル比が、調製しようとする白金含有触媒におけるモル比の設定値(仕込みのモル比)1:1になるように白金層を形成した。これ以外は実施例16と同様にして、白金含有触媒の合成、精製、乾燥、性能評価を行った。カーボンブラックに担持された白金含有触媒粒子を透過型電子顕微鏡で観察した。TEM観察像から白金含有触媒粒子の平均粒子径は5.9nm(標準偏差は±0.7nm)であった。これから白金層の平均厚さは0.65nm(=(5.9-4.6)/2)となり、この白金層の平均厚さは2.9層(=0.65/0.2265)の白金原子層に対応する。
【0320】
[実施例19]
ルテニウムナノ粒子の表面を被覆し、白金とルテニウムとのモル比が、調製しようとする白金含有触媒におけるモル比の設定値(仕込みのモル比)3:2になるように白金層を形成した。これ以外は実施例16と同様にして、白金含有触媒の合成、精製、乾燥、性能評価を行った。カーボンブラックに担持された白金含有触媒粒子を透過型電子顕微鏡で観察した。TEM観察像から白金含有触媒粒子の平均粒子径は6.4nm(標準偏差は±0.8nm)であった。これから白金層の平均厚さは0.9nm(=(6.4-4.6)/2)となり、この白金層の平均厚さは4.0層(=0.9/0.2265)の白金原子層に対応する。
【0321】
比較例として、次に示す燃料電池を作製しその性能評価を行い、実施例1と同様に出力維持率を求めた。
【0322】
[比較例1]
アノード触媒としてカーボンに担持された白金/ルテニウム合金触媒(白金とルテニウムのモル比は1:1;田中貴金属工業株式会社製)を用いた。これ以外は実施例1と同様にして、触媒の性能評価を行った。なお、ここで使用した白金/ルテニウム合金触媒は、放射光を用いたX線吸収スペクトルから求められたXAFS(X-ray absorption fine structure)の解析から、Ru:Pt=1:1の合金触媒であり、コアシェル構造を有していないことが確認されている。
【0323】
[比較例2]
アノード触媒として比較例1に示した白金/ルテニウム合金触媒を用い、アノード触媒層中の白金/ルテニウム合金ナノ粒子の存在量を、1cm2当たり20mgとなるようにした。これ以外は実施例1と同様にして、触媒の性能評価を行った。
【0324】
<燃料電池の特性>
(白金含有触媒粒子の構成と燃料電池の出力維持率の関係)
図8は、本発明の実施例における、ルテニウムナノ粒子、白金含有触媒粒子の平均粒子径、白金層の厚さ、及び、白金とルテニウムのモル比と燃料電池の出力維持率の関係を示す図である。
【0325】
図8において、昇温時間t(min)は、白金含有触媒のコアを構成するコア粒子の調製において、塩化ルテニウム(III)をエチレングリコールに溶かした溶液にNaOH水溶液を加え撹拌しながら加熱装置を用いて170℃まで昇温させるための時間である。
【0326】
また、図8において、ルテニウムナノ粒子(コア粒子)の粒子径(直径)をR1、白金含有触媒粒子の粒子径(直径)をR2はそれぞれ、先述したTEM像の解析によって得た平均粒子径であり、この平均粒子径R2、R1を用いて、径比(R2/R1)、白金層(シェル層)の厚さ(平均厚さ)((R2−R1)/2)を求めた。
【0327】
また、図8において、白金含有触媒を構成するPtのRuに対するモル比γ(Pt/Ru)は、仕込みのモル比(調製しようとする白金含有触媒の組成の設定値である。)であり、調製された白金含有触媒のICP(誘導結合プラズマ)分析による組成分析の結果は、仕込みのモル比に一致していることが確認されており、実施例1〜実施例19の各実施例で用いた原料中の金属は何れもほぼ100%が調製された白金含有触媒に含まれていることが確認されている。
【0328】
次に、図8に示す結果に基づいて、コアシェル型白金含有触媒粒子の構成と燃料電池の出力維持率との関係を図9〜図14によって説明する。
【0329】
(Ruナノ粒子の粒子径と燃料電池の最大出力維持率の関係)
図9は、本発明の実施例における、白金含有触媒粒子におけるルテニウムナノ粒子の平均粒子径(R1)と燃料電池の最大出力維持率の関係を示す図である。
【0330】
図9において、横軸はルテニウムナノ粒子(コア粒子)の平均粒子径(R1(nm))
を示し、縦軸は燃料電池の最大出力維持率(%)を示す。最大出力維持率(%)は、図8において、コア粒子の平均粒子径(R1)が同じであり白金含有触媒粒子の平均粒子径(R2)が異なる燃料電池に関して得られた出力維持率(%)の最大値を示す。
【0331】
実施例1〜実施例4、及び、実施例13に示す燃料電池では、コア粒子の平均粒子径が1.4nmである白金含有触媒を用いており、最大出力維持率は96.3%(実施例3)である。同様に、コア粒子の平均粒子径が1.9nmである白金含有触媒を用いた燃料電池における最大出力維持率は96.7%(実施例7)であり、コア粒子の平均粒子径が3.5nmである白金含有触媒を用いた燃料電池における最大出力維持率は93.2%(実施例11)であり、コア粒子の平均粒子径が4.6nmである白金含有触媒を用いた燃料電池における最大出力維持率は87.6%(実施例18)である。
【0332】
図9に示すように、内挿及び外挿によって、ルテニウムナノ粒子(コア粒子)の平均粒子径(R1)が1.0nm以上、2.6nm以下である時、最大出力維持率は点線によって示す95%以上の値を示しており、コア粒子の平均粒子径(R1)が3nm以下では最大出力維持率は急激に低下している。
【0333】
(白金層の厚さと燃料電池の出力維持率の関係)
図10は、本発明の実施例における、白金含有触媒における白金層(シェル層)の平均厚さと燃料電池の出力維持率の関係を、コア粒子の平均粒子径(R1)が同じである白金含有触媒に関してそれぞれ示す図である。
【0334】
図10において、横軸は白金層(シェル層)の厚さ(平均厚さ(nm))(ts=(R2−R1)/2)(図8)を示し、縦軸は燃料電池の出力維持率(%)(図8)を示す。
【0335】
図10に示すように、コア粒子の平均粒子径(R1)が変化した場合にも、燃料電池の出力維持率は、シェル層の平均厚さ(ts)が0.6nm〜0.9nmの範囲で最大値を示しているが、この最大値は、図9に示したように、コア粒子の平均粒子径(R1)が増加と共に低下している。
【0336】
コア粒子の平均粒子径R1が1.4nm〜3.5nmである場合、シェル層(白金層)tsの平均厚さが0.25nm〜0.95nmであれば、十分に実用レベルにある出力密度を有し(後述する。)、且つ、約90%以上の高い出力維持率を有しており、耐久性に優れていることを示している。なお、図8において、比較例1、比較例2に示すように、市販品の白金含有触媒の出力維持率は80%以下である。
【0337】
図10に示すように、コア粒子の平均粒子径(R1)が1.4nm、1.9nmである場合、内挿によって、シェル層の平均厚さ(ts)が0.6nm以上、0.9nm以下である時、出力維持率は点線によって示す95%以上の値を示している。
【0338】
先述したように1層の白金原子層の厚さを0.2265nmとすると、上記の0.25nm以上、0.95nm以下の厚さのシェル層は、1.2層〜4.2層の白金原子層に相当し、上記の0.6nm以上、0.9nm以下の厚さのシェル層は、2.6層〜4.0層の白金原子層に相当している。
【0339】
この結果は、図5において、「□」で示す最外表面におけるPt5d電子結合力は、Pt原子積層数が1層〜4層の範囲では、減少が緩やかで大きな値であり、Pt原子積層数が5では小さな値となっており、最外表面におけるPt5d電子結合力が大きな値となるPt原子積層数が1層〜4層の範囲は、上述の2.6層〜4.0層の白金原子層にほぼ対応している。
【0340】
このように、図5に示す結果と図10に示す結果がよく対応していることは、密度汎関数理論に基づいた第一原理計算によって、コアシェル型白金含有触媒における白金の電子状態がほぼ正確に推定されていることを示しており、第一原理計算に使用した図2(B)に示す積層モデルが妥当なものであることを示している。
【0341】
(白金含有触媒粒子とRuナノ粒子の粒子径比と燃料電池の出力維持率)
図11は、本発明の実施例における、白金含有触媒粒子とルテニウムナノ粒子の粒子径比(R2/R1)と燃料電池の出力維持率の関係を、コア粒子の粒子径(R1)が同じである白金含有触媒に関してそれぞれ示す図である。
【0342】
図11において、横軸は白金含有触媒粒子とルテニウムナノ粒子の粒子径比(R2/R1)(図8)、縦軸は燃料電池の出力維持率(%)(図8)を示す。
【0343】
図11に示すように、内挿及び外挿によって、コア粒子の平均粒子径(R1)が1.4nm、1.9nmである場合、粒子径比(R2/R1)が1.7以上、2.2以下である時、出力維持率は点線によって示す95%以上の値を示している。
【0344】
(PtとRuのモル比と燃料電池の出力維持率の関係)
図12は、本発明の実施例における、白金含有触媒における白金とルテニウムのモル比(γ)と燃料電池の出力維持率の関係を、コア粒子の粒子径(R1)が同じである白金含有触媒に関してそれぞれ示す図である。
【0345】
図12において、横軸は白金のルテニウムに対するモル比γ(Pt/Ru)(図8)、縦軸は燃料電池の出力維持率(%)(図8)を示す。
【0346】
図12に示すように、内挿及び外挿によって、コア粒子の平均粒子径(R1)が1.4nm、1.9nmである場合、モル比γ(Pt/Ru)が3.5以上、9.0以下である時、出力維持率は点線によって示す95%以上の値を示している。
【0347】
(PtとTuのモル比と、白金含有触媒粒子とRuナノ粒子の粒子径比との関係)
図13は、本発明の実施例における、白金含有触媒における白金とルテニウムのモル比(γ)と、白金含有触媒粒子とルテニウムナノ粒子の粒子径比(R2/R1)との関係を示す図である。
【0348】
図13において、横軸は白金のルテニウムに対するモル比γ(Pt/Ru)(図8)、縦軸は粒子径比(R2/R1)(図8)を示す。
【0349】
コア粒子がルテニウム、シェル層が白金から構成されているので、モル比γ(Pt/Ru)と粒子径比(R2/R1)との間には、先述した式(7)(γ=0.895{(R2/R13−1})の関係式が成立する。図13には、この関係式を実線の曲線で示しており、図8に示すモル比γ(Pt/Ru)及び粒子径比(R2/R1)のプロット点は、この実線上又は近傍にある。
【0350】
(PtとRuのモル比の設定値と計算値との関係)
図14は、本発明の実施例における、白金含有触媒における白金とルテニウムのモル比γ(Pt/Ru)の設定値と計算値との関係を示す図である。
【0351】
図14において、横軸は白金のルテニウムに対するモル比γ(Pt/Ru)の設定値(図8に示す仕込みのモル比)、縦軸は、白金含有触媒粒子の平均粒子径R2(図8)及びルテニウムナノ粒子の平均粒子径R1(図8)を用い、先述した式(7)によって求められた計算値であり、設定値と計算値は非常に良い一致を示している。
【0352】
図13及び図14に示す結果は、図2(A)の上図に示すコアシェル構造を有する白金含有触媒を、図2(A)の下図に示すように、R1の平均粒子径をもったコア粒子の表面に、R2の平均粒子径をもったシェル層が形成された構成を有する球と見なすことが妥当なものであることを示している。
【0353】
以上が、コアシェル型白金含有触媒粒子の構成と燃料電池の出力維持率との関係についての説明である。次に、ルテニウム微粒子、コアシェル型白金含有触媒粒子の電子線回折、粒子径分布に関して説明し、コアシェル型白金含有触媒粒子を負極触媒に適用した直接型メタノール燃料電池の初期の出力特性について説明する。
【0354】
図19は、実施例5〜実施例8で合成されたRu微粒子の電子線回折像である。図19にはシャープな回折線やラウエパターンが見られず、Ru微粒子がアモルファスであることを示すブロードな回折パターンが見られる。一方、図20(a)は、実施例5で得られたPt被覆Ru微粒子の電子線回折像である。図20(a)には、面心立方格子構造を有する白金原子層によるシャープな回折線が現れている。図20(b)は、実施例6で得られたPt被覆Ru微粒子の電子線回折像である。図20(b)では白金原子層による回折線が更に明瞭になると共に、ルテニウム微粒子からの回折パターンが見られない。これから、Pt被覆Ru微粒子において、Ru微粒子は粒子全体が白金層によって被覆されていることがわかる。
【0355】
図21(a)は、実施例5〜実施例8で合成されたRu微粒子の粒子径分布を示すグラフである。TEM写真から各粒子のx方向の径とy方向の径を測定し、粒子径は、x方向の径とy方向の径の算術平均とした。1000個の粒子を対象として粒子径分布を求めたた。この結果、Ru微粒子の粒子径は、平均1.9nm、標準偏差0.4nmであった。一方、図21(b)は、実施例6で得られたPt被覆Ru微粒子の粒子径分布を示すグラフである。粒子径は上記と同様にして測定した。この結果、Pt被覆Ru微粒子の粒子径は、平均2.9nm、標準偏差0.5nmであった。
【0356】
図21からわかるように、Ru微粒子及びPt被覆Ru微粒子の両方とも、微粒子でありながら粒子径のばらつきが小さい。後述するように、粒子径は触媒性能に大きな影響を与えるので、このように粒子径の小さい粒子の大きさを揃えて形成できることは重要な進歩である。特に注目されるのは、白金層の形成によってRu微粒子がPt被覆Ru微粒子に変化した際、粒子径のばらつきがほとんど増加することなく、平均粒子径のみが1.9nmから2.9nmへシフトしていることである。これは、Ru微粒子の表面が均一な厚さの白金層によって一様に被覆されたことを示している。
【0357】
以上、図19〜図21に示されている結果から、Pt被覆Ru微粒子において、Ru微粒子は、極めて薄く、しかも均一な厚さの白金層によって、粒子全体が被覆されていることがわかる。
【0358】
図22〜図27は、初期の出力データを示し、実施例1〜実施例19、及び、比較例1、比較例2で得られた、(a)燃料電池の電流密度−電圧曲線、及び、(b)電流密度−出力密度曲線を示す。
【0359】
先ず、Ru微粒子の粒子径が同じである実施例同士の比較、即ち、図22に示す実施例1〜実施例4と図25に示す実施例13との比較、図23に示す実施例5〜実施例8と図25に示す実施例14との比較、図25に示す実施例9〜実施例12と図25に示す実施例15との比較から、Ru微粒子を被覆する白金層の平均厚さが1.0nm以下、白金層を構成する白金原子積層数の平均が4以下である時に、大きな出力が得られることがわかる。
【0360】
この原因としては、白金層が極めて薄いことで、白金層の下地層を構成しているルテニウム原子による影響が、白金層表面の白金原子の電子状態にまで強く影響し(リガンド効果)、白金層表面の活性点における一酸化炭素の過剰な吸着が抑えられ、白金層上での一酸化炭素の酸化が起こり易くなったことが考えられる。また、白金層が極めて薄いことで、白金層の下地層となっているRu微粒子のルテニウム層の影響が白金層表面における結晶格子の歪みという形で残り、この歪みの影響によって表面に位置する白金原子の電子状態が変化し、一酸化炭素の酸化が起こり易くなった可能性もある。
【0361】
Ru微粒子の粒子径が異なる実施例同士の比較、即ち、図22に示す実施例1〜実施例4と、図23に示す実施例5〜実施例8と、図24に示す実施例9〜実施例12と、図26に示す実施例16〜実施例19との比較から、Ru微粒子の粒子径が小さいほど大きな出力が得られる傾向があることがわかる。この一因は、Ru微粒子の粒子径が小さくなると、白金層を形成した後の触媒粒子、Pt被覆Ru微粒子の粒子径も小さくなり、本発明に限ったことではないが、触媒粒子の比表面積が大きくなって、触媒作用に有効な表面積が増大することにあると考えられる。
【0362】
更に、図22〜図24に示す実施例1〜実施例12、図26に示す実施例16〜実施例19と、図27に示す比較例1、比較例2との比較から、本発明に基づく白金含有触媒は、Ru微粒子の平均粒子径が3.5nm以下である図22〜図24に示す実施例1〜実施例12において、二元機能機構に基づいて高活性化を実現する、市販の白金/ルテニウム合金触媒よりも、高出力密度のDMFCを実現できることがわかる。この高出力密度のDMFCは、白金/ルテニウム合金触媒よりも白金の使用量が少ない時にも得られることがわかった。
【0363】
また、図8から、DMFCの出力維持率は、図22〜図24に示す実施例1〜実施例19が、図27に示す比較例1、比較例2に比べて著しく優れていることがわかる。これは、白金/ルテニウム合金触媒では、触媒粒子表面にRuが多く存在するため、Ruの溶出による性能低下が著しいのに対し、本発明に基づく白金含有触媒では、Ru微粒子の表面が白金層で完全に被覆されているため、Ruの溶出が抑えられていることによる効果であると考えられる。
【0364】
図8、図22〜図27に示す結果を電流密度、出力維持率に関して要約すると、次の通りである。
【0365】
図22(b)〜図24(b)に示すように、実施例1〜実施例12では、電流密度が200mA/cm2以上では、実用レベルとされる出力密度は60mW/cm2以上である。これに対して、図25(b)〜図27(b)に示すように、実施例13〜実施例19、及び、比較例1、比較例2では、実用レベルとされる出力密度は60mW/cm2以下である。
【0366】
図8、図22(b)に示すように、実施例1〜実施例4では、コア粒子の平均粒子径R1が1.4nmであり、シェル層(白金層)tsの平均厚さが0.25nm〜0.85nmであり、出力維持率が92.3%〜96.3%であり、電流密度が300mA/cm2における出力密度は80mW/cm2以上である。
【0367】
図8、図23(b)に示すように、実施例5〜実施例7では、コア粒子の平均粒子径R1が1.9nmであり、シェル層(白金層)tsの平均厚さが0.25nm〜0.70nmであり、出力維持率が91.4%〜96.7%であり、電流密度が300mA/cm2における出力密度は80mW/cm2以上である。
【0368】
図8、図24(b)に示すように、実施例10、実施例11では、コア粒子の平均粒子径R1が3.5nmであり、シェル層(白金層)tsの平均厚さが0.50nm〜0.70nmであり、出力維持率が91.1%〜93.2%であり、電流密度が300mA/cm2における出力密度は80mW/cm2以上である。
【0369】
図8、図22(b)〜図24(b)に示すように、コア粒子の平均粒子径R1が1.4nm〜3.5nmでは、シェル層(白金層)tsの平均厚さが0.25nm〜0.85nmであれば、電流密度が300mA/cm2における出力密度は80mW/cm2以上である。
【0370】
また、コア粒子の平均粒子径R1が1.4nm〜3.5nmでは、シェル層(白金層)tsの平均厚さが0.25nm〜0.95nmであれば、電流密度が300mA/cm2における出力密度は70mW/cm2以上である。即ち、コア粒子に1層以上、4層以下の白金原子層が形成されたコアシェル型白金含有触媒は、十分に実用レベルにあると言える。
【0371】
これらの結果は、図5に示されるように、「□」で示す最外表面におけるPt5d電子結合力が、Pt原子積層数が1〜4の範囲では、減少が緩やかで大きな値であり、Pt原子積層数が5では小さな値となっていることに対応しは、ている。このことは、密度汎関数理論に基づいた第一原理計算によって、コアシェル型白金含有触媒における白金の電子状態がほぼ正確に推定されていることを示しており、第一原理計算に使用した図2(B)に示す積層モデルが妥当なものであることを示している。
【0372】
コアシェル型白金含有触媒は、コア粒子の平均粒子径R1が1.4nm〜3.5nmでは、シェル層(白金層)tsの平均厚さが0.25nm〜0.95nmであれば、十分に実用レベルにある出力密度を有し、且つ、図10に示すように、約90%以上の高い出力維持率を有している。
【0373】
次に、出力維持率を尺度としたコアシェル型白金含有触媒粒子の望ましい条件について説明する。
【0374】
<白金含有触媒粒子の望ましい構成>
実施例1〜実施例19に示す白金含有触媒粒子を用いた燃料電池の出力維持率を触媒活性の評価尺度として使用して、白金の使用量の削減し且つ高い触媒活性を実現することができ、燃料電池に使用されるコアシェル型白金含有触媒を作製するための、望ましい範囲を決定することができる。
【0375】
即ち、コアシェル型白金含有触媒のコア粒子の平均粒子径R1、白金含有触媒粒子の平均粒子径R2、シェル層(白金層)tsの平均厚さ、白金含有触媒粒子とコア粒子の粒子径比(R2/R1)、白金層における白金のルテニウムに対するモル比γ(Pt/Ru)に対する望ましい範囲を決定することができる。
【0376】
出力維持率が95%以上の高い値を有する燃料電池(DMFC)を実現するための白金含有触媒の、コア粒子(ルテニウムナノ粒子)の平均粒子径R1(nm)、シェル層(白金層)の平均厚さts(=(R2−R1)/2)(nm)、白金含有触媒粒子とコア粒子の粒子径比(R2/R1)、コア粒子をルテニウムなの粒子とする時、白金層における白金のルテニウムに対するモル比γ(Pt/Ru)に関する望ましい条件は次の通りである。
【0377】
条件1:1.04nm≦R1≦2.6nm(図9に示す結果から)
条件2:0.25nm≦ts≦0.9nm(図10に示す結果から)
条件3:1.7≦(R2/R1)≦2.2(図11に示す結果から)
条件4:3.5≦γ≦9.0(図12に示す結果から)
【0378】
条件1〜条件4によって、次の事項を導くことができる。
【0379】
(A)条件1(1.0nm≦R1≦2.6nm)と条件2(0.6nm≦ts≦0.9nm)を用いて、式(11)から白金含有触媒粒子の粒子径R2の望ましい条件は2.2nm≦R2≦4.4nm(条件5)となる。この条件5と条件1から条件3に一致する結果が導出される。
【0380】
従って、条件1と条件2から、条件5が導出され、更に、条件2、条件3、条件4が導出される。
【0381】
(B)また、条件2と条件3から式(13)によって条件1に一致する結果が導出され、この結果と条件2から条件5に一致する結果が導出される。
【0382】
(C)また、条件3を用い式(6)からモル比γ(Pt/Ru)の望ましい条件として3.5≦γ≦8.6が導出されるが、この結果は条件4と略一致している。また、条件4を用い式(5)から条件3に一致する結果が導出される。
【0383】
従って、(A)と(C)によって、条件1と条件2から、条件5が導出され、更に、条件2、条件3、条件4が導出される。また、(B)と(C)によって、条件2と条件3から、条件1、条件5が導出され、更に、条件2、条件3、条件4が導出される。
【0384】
以上説明したように、白金含有量がより少なく、しかも、触媒活性が高い白金含有触媒を実現し、この白金含有触媒をDMFCの燃料極触媒として使用した場合の維持率を高いものとするためには、コア粒子を構成する元素によらず、1.0nm≦R1≦2.6nm(条件1)、0.25nm≦ts≦0.9nm(条件2)とすることが望ましい。
【0385】
この条件1、条件2が満たされるR1、tsによって、条件3、条件5を自動的に満たす粒子径比(R2/R1)、白金含有触媒粒子の平均粒子径R2が導出され、コア粒子を構成する元素Mが指定されれば、粒子径比(R2/R1)を用いて式(6)から元素Mに対するPtのモル比γ(Pt/M)が導出される。
【0386】
従って、条件1、条件2が満たされるようにR1、tsを決定し、コア粒子を構成する原子を、そのコア粒子と白金シェル層の界面に存在する白金の5d軌道に属する電子の平均結合エネルギーが4.0eV以上となるように決定することによって、白金含有量がより少なく、しかも、触媒活性の高い白金含有触媒の構成を決定することができる。
【0387】
以上説明したように、本発明による白金含有触媒では、コア粒子の平均粒子径をR1、白金シェル層の平均厚さをtsとする時、0.25nm≦ts≦0.9nm、1.0nm≦R1≦2.6nmとするので、白金含有触媒を形成するに必要な白金の使用量を大幅に低減することができ、白金の材料費を大幅に削減することができる。
【0388】
例えば、コア粒子の平均粒子径が1nm〜2nmである場合に、コア粒子の表面に形成するシェル層を白金の5原子層から、3原子層に変化させた時、シェル層の体積は約40%に減少するので、白金含有触媒を形成するに必要な白金の材料費は約60%削減することができる(但し、白金の1原子層の厚さは0.2265nmであるとする。)。
【0389】
本発明では、コア粒子と白金シェル層の界面に存在する白金、白金シェル層の最外表面に存在する白金の5d電子結合力(eV)をEint、Eoutとする時、コア粒子が、4.0eV≦Eint≦5.0eV、3.0eV≦Eout≦4.5eVとなるようなPt以外の金属元素によって構成するので、単に、白金の使用量を大幅に低減するのみではなく、白金の使用量を大幅に低減し、しかも、高い触媒活性を有する白金含有触媒を実現することができる。
【0390】
なお、本発明の白金含有触媒では、コア粒子を構成する元素Mに対するシェル層のPtのモル比γ(Pt/M)モル比は重要ではなく、白金含有触媒の構成を特徴付ける量は白金層の平均厚さ(ts)、コア粒子の平均粒子径R1である。白金含有触媒において、ts、R1として小さな値を採用するので、コア金属粒子が高価な金属元素からなる場合、コア金属粒子の粒子径が小さい程、触媒の単位質量当たりの白金シェル層の表面積が大きく触媒活性が大きくなるため、コア金属粒子を構成するルテニウムのような高価な金属元素、及び、シェル層を構成する高価な白金を有効に利用することができ、省資源に寄与することができる。
【0391】
より具体的には、本発明による触媒では、白金層の白金の電子状態が高い触媒活性を維持するに望ましい状態とすることができるように、コア粒子をルテニウムによって構成する。これによって、コアシェル構造を有する従来の触媒の白金層よりも薄い厚さで触媒効果を発揮させることができ、白金の使用量を削減でき、触媒全体における白金の使用量当たり効率Eを向上させることができる。
【0392】
この効率Eは、式(19)によって定義されたものである。白金含有触媒はその性能として、有効利用率ηが大きく、一定時間経過後における活性維持率(燃料電池の出力維持率)が大きいことが要求され、有効利用率η、活性維持率の2つの値が同時に大きいことが望ましい。従って、触媒の性能を有効利用率η、活性維持率の2つの積によって評価することができ、式(19)は、近似的に、式(20)によって表すことができる。
【0393】
白金シェル層の最外表面に配置されたPtの割合は、式(16)によって定義された有効利用率ηであり、先述したように、触媒全体における白金の使用量が一定である場合、外部に露出する最外表面の層の白金の割合が大きい程、白金を効率的に使用していることを示している。白金含有触媒の活性維持率は、白金含有触媒を用いた燃料電池を初めて駆動させた時の出力電圧に対する、一定時間(ここでは800時間とした。)経過後における出力電圧の比(出力維持率)によって示している。また、白金原子積層数は、先述したように、n=(ts/d)である(ts:白金シェル層の平均厚さ、d=0.2265nm)である。
【0394】
効率E=(燃料電池の出力)×(白金シェル層の最外表面に配置されたPtの割合)
×(燃料電池の出力維持率) …(19)
効率E=(燃料電池の出力)×(白金含有触媒の活性維持率)
÷(白金シェル層における白金原子積層数) …(20)
【0395】
効率Eは、燃料電池の出力が同程度であれば、白金シェル層における白金原子積層数が小さい方が大きい値となる。例えば、実施例2と実施例19における燃料電池の出力が同じであるとして比較すると、次のようになる。
【0396】
実施例2では、R1=1.4nm、ts=0.55nm、N=0.55/0.2265=2.428であるので、実施例2における有効利用率ηは、式(16)によって、
η={(0.7+0.55)3-(0.7+1.428×0.2265)3}/{(0.7+0.55)3-(0.7)3}=0.547
である。また、実施例19では、R1=4.6nm、ts=0.90nm、N=0.90/0.2265=3.974であるので、実施例19における有効利用率ηは、式(16)によって、
η={(2.3+0.9)3-(2.3+2.974×0.2265)3}/{(2.3+0.9)3-(2.3)3}=0.314
である。
【0397】
実施例2、実施例19における燃料電池の出力が同じであるとすると、式(19)によって、実施例2における燃料電池の効率Eは、実施例19における燃料電池の効率Eの{(95.2×0.547)/(80.9×0.314)}=2.05倍となり、
また、式(20)によって、実施例2における燃料電池の効率Eは、実施例19における燃料電池の効率Eの{(95.2/2.428)/(80.9/3.974)}=1.93倍となり、何れにしても効率Eは約2倍となる。
【0398】
このように、本発明によれば、白金の使用量を削減できるだけではなく、白金層によりコア金属の燃料電池内での溶出が抑えられるため、触媒活性の劣化が防止でき、更に、白金の体積当たり効率Eを向上させることができ、低コストで長寿命の白金含有触媒を実現することができる。
【0399】
以上が、実施例に関する説明である。
【0400】
白金ではフェルミ準位の直上のd電子状態密度が大きく、白金はもともと分子の吸着が起こり易い元素であると考えられ、ガス吸着性能は金属のdバンドとガスの分子軌道の相互作用で決まる。
【0401】
本発明では、Pt5d電子結合力をチューニングすることによって、分子の吸着力を変化させることが可能なことに着目し、密度汎関数理論に基づいた第一原理計算に基づいて、コア金属粒子とこの表面に形成された白金シェル層からなるコアシェル型白金含有触媒において、白金シェル層を構成する白金原子の積層数と、コア金属粒子を構成する金属元素種の組合せを変化させることによって、シェル層を構成する白金の5d電子結合力をチューニングすることができることを見出した。そして、コア金属粒子を構成する金属元素の影響が白金シェル層を構成する白金原子層の4層程度までしか及ばない事実を見出した。
【0402】
この結果、本発明では、CO等の分子の吸着力を意図的に下げるような構成によって被毒を防ぐという考え方に基づいて、白金シェル層の表面における白金の割合が大きく、白金シェル層の厚さが薄い構成によって、白金シェル層のPt5d電子結合力が高い触媒活性をもつようにチューニングされ、白金が効率よく使用されたコアシェル型白金含有触媒を実現することができた。
【0403】
なお、この白金含有触媒における、X線吸収スペクトルの広域X線吸収微細構造(EXAFS:Extended X-ray absorption fine structure)の解析から求めた、Pt周り、及び、Ru周りの原子間距離分布関数(動径分布関数ともいう。)に基づいて、白金シェル構造が形成されていることが確認されている。
【0404】
以上説明した実施の形態、実施例では、本発明による白金含有触媒の例として燃料電池用触媒をとって説明したが、本発明は、上述の実施の形態、実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて各種の変形が可能である。
【0405】
例えば、本発明による白金含有触媒は、燃料電池用触媒の他に、体積当たりの効率の高いガス検出器、有毒ガス除去フィルタ、燃料ガス保存カートリッジ等に応用することも可能である。
【0406】
上述したように、本発明では、CO等の分子の吸着力を意図的に下げるような構成によって被毒を防ぐという考え方に基づいて、コアシェル型白金含有触媒の望ましい構成を見出したが、逆に、CO等の分子の吸着力を意図的に上昇させるように、コア金属粒子を構成する金属元素を選択すれば、コアシェル型白金含有触媒に吸着させCO等の分子を除去する除去フィルタとしての吸着能力を向上させることができる。
【0407】
また、H2等の燃料ガスの吸着性能についても、白金シェル層を構成する白金の5d電子結合力のチューニングによって変化させ、吸着力を上昇させることが可能となる。更に、Hラジカルの吸着性能についても、コア金属粒子を構成する金属元素を選択することによって、フェルミ準位付近の電子状態を上昇させるように変化させれば、吸着力を上昇させることが可能であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0408】
本発明によれば、白金含有触媒において、白金の使用量が低減されるのにも関わらず、一酸化炭素被毒低減による高触媒活性が実現され、更には金属溶出による劣化をも防止することが可能となる。また、本発明の白金含有触媒を用いることで、優れた出力特性と高耐久性を有するDMFC等の燃料電池を実現することができる。
【符号の説明】
【0409】
1…微粒子、2…白金層、3…触媒微粒子、4…担体、5…接触部、10…電解質膜、
12a…燃料極、12b…空気極、14a、14b…ガス拡散層、
20、112…アノード、22a、22b…触媒電極、23…高分子電解質膜、
24a、24b…ガス拡散層、25…燃料、26a、26b…入口、
27a、27b…通路、28a、28b…出口、29a、29b…排ガス、
30、113…カソード、35…空気又は酸素、40…膜電極接合体、
50…燃料供給部、60…空気又は酸素供給部、70…外部回路、
111…プロトン伝導性高分子膜、112a、113a…導電性多孔質支持体、
112b…アノード触媒層、113b…カソ−ド触媒層、114…MEA、
115…燃料供給部、116…酸素供給部、117…セル上半部、118…セル下半部、
119…燃料供給管、120…酸素(空気)供給管、121…端子
【先行技術文献】
【特許文献】
【0410】
【特許文献1】特開2009−54339号公報(段落0016、段落0029〜0030、段落0032〜0033、段落0039、段落0041)
【特許文献2】特許3870282号明細書(請求項1、段落014、段落021、図1)
【特許文献3】特開2005−135900号公報(段落0013、段落0024〜0025、図1)
【特許文献4】特開2005−196972号公報(段落0012、段落0020、段落0043、図3)
【特許文献5】特開2002−231257号公報(第2頁〜第3頁)
【非特許文献】
【0411】
【非特許文献1】J. Greeley and M. Mavrikakis, “Near-surface alloys for hydrogen fuel cell applications”, Catal. Today 111(2006)52-58(2. Methods)
【非特許文献2】B. Hammer et al., “CO Chemisorption at Metal Surfaces and Overlayers”, Phys. Rev. Lett 76(1996)2141-2144(p2141)
【非特許文献3】J. K. Norskov et al., “Universality in Heterogeneous Catalysis”, J. Catal. 209, 275-278(2002)(p275 - p276)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金以外の金属原子又は白金以外の金属原子による合金からなるコア粒子と、このコア粒子の表面に白金により形成されたシェル層とを有する金属粒子が導電性担体に担持され、前記シェル層の平均厚さをts、前記コア粒子の平均粒子径をR1とするとき、0.25nm≦ts≦0.9nm、1.4nm≦R1≦3.5nmである、白金含有触媒。
【請求項2】
前記シェル層の最外表面に存在する白金の5dバンドに属する電子の、フェルミ準位を基準とした平均束縛エネルギーをEoutとするとき、Eout≧3.0eVである前記金属原子が前記コア粒子に含有されている、請求項1に記載の白金含有触媒。
【請求項3】
前記コア粒子と前記シェル層の界面に存在する白金の5dバンドに属する電子の、フェルミ準位を基準とした平均束縛エネルギーをEintとするとき、Eint≧4.0eVである、請求項1に記載の白金含有触媒。
【請求項4】
out≦4.5eVである、請求項2に記載の白金含有触媒。
【請求項5】
int≦5.0eVである、請求項3に記載の白金含有触媒。
【請求項6】
前記金属粒子の平均粒子径をR2とするとき、1.7≦(R2/R1)≦2.2である、請求項1に記載の白金含有触媒。
【請求項7】
2.2nm≦≦R2≦4.4nmである、請求項6に記載の白金含有触媒。
【請求項8】
前記コア粒子はルテニウム粒子である、請求項1に記載の白金含有触媒。
【請求項9】
ルテニウムに対する前記シェル層を構成する白金のモル比をγとするとき、3.5≦γ≦9.0である、請求項8に記載の白金含有触媒。
【請求項10】
前記コア粒子はコバルト粒子、鉄粒子、ニッケル粒子、銅粒子の何れかである、請求項1に記載の白金含有触媒。
【請求項11】
前記コア粒子はニッケル又は銅とルテニウムとの合金粒子である、請求項1に記載の白金含有触媒。
【請求項12】
請求項1から請求項11の何れか1項に記載の白金含有触媒を含有する、電極。
【請求項13】
対向する電極と、この対向する電極に挟持されたイオン伝導体とからなり、前記対向する電極の少なくとも1つに、請求項1から請求項11の何れか1項に記載の白金含有触媒を含有している、電気化学デバイス。
【請求項14】
前記白金含有触媒をアノード(負極)触媒として含有する燃料電池として構成れている、請求項13に記載の電気化学デバイス。
【請求項15】
直接型メタノール燃料電池として構成されている、請求項14に記載の電気化学デバイス。
【請求項16】
電流密度が300mA/cm2における出力密度が70mW/cm2以上である、請求項15に記載の電気化学デバイス。
【請求項17】
800時間連続発電後の出力維持率が90%以上である、請求項16に記載の電気化学デバイス。
【請求項18】
上部に白金層が形成され、この白金層の表面への一酸化炭素の吸着を抑制する下地層 として機能する微粒子と、
前記微粒子と接触し、この接触部で前記微粒子を担持する担体と、
前記下地層としての前記微粒子の作用が効果的に発現する厚さで、前記担体との前記
接触部以外の、前記微粒子の表面全体を被覆する前記白金層と
によって構成されている、白金含有触媒。
【請求項19】
後の工程で上部に白金層が形成され、この白金層の表面への一酸化炭素の吸着を抑制
する下地層として機能する微粒子を、微粒子同士の凝集を防止しながら合成する工程と 、
前記合成後の反応液に担体を混合し、この担体に前記微粒子を吸着させる工程と、
前記合成後の反応液から前記担体に担持された前記微粒子を取り出し、洗浄する工程
と、
前記担体に担持された前記微粒子の分散液に、白金塩含有液と還元剤含有液とを滴下
することによって、前記下地層としての前記微粒子の作用が効果的に発現する厚さの前
記白金層で、前記担体との接触部以外の、前記微粒子の表面全体を被覆する工程と
を有する、白金含有触媒の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図6】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2011−72981(P2011−72981A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−245394(P2009−245394)
【出願日】平成21年10月26日(2009.10.26)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】