説明

白金族含有溶液からのRu及び又はIrの回収方法

【解決課題】Ru及び又はIrを含む酸性溶液(以下白金族含有溶液と称す。)から不純物を除去し、Ru及び又はIrを効率的に分離回収する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】Ru及びまたはIrを含み、AsとCu、Fe、Ni、Zn、Bi、Pb、Te、Sn、Sbの内から1種類以上の卑金属不純物を含む酸性溶液(以下白金族含有溶液と称す。)に、
硫化剤を添加して、澱物を濾過除去後の後液中のRu及び又はIrを活性炭に吸着させる際に、
Ru及びまたはIrの吸着を妨げる不純物As,Pb,Snの少なくとも1種以上を硫化物として沈殿除去する際に、
硫化時の溶液の酸化還元電位(ORP)を70〜90mVに制御する白金族含有溶液からのRu及び又はIrの回収方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Ru及び又はIrを含む酸性溶液、例えばCu電解殿物を脱Cu浸出、塩化浸出、Au抽出、SO2還元した後の工業廃水からRu及び又はIrを効率的に回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
RuやIrなどの白金族金属を回収する方法としてはイオン交換樹脂や溶媒抽出剤を用いた方法が知られている。しかしこれらの方法は、イオン交換樹脂や溶媒抽出剤が比較的高価であること、溶離性が悪いこと、卑金属や共存イオンの混在により性能の減弱があるなどの欠点がある。
【0003】
そうした流れを汲み活性炭への吸着が広く用いられることとなった。例えば特公平8−170124(特許文献1)のように、Ruを陰イオン状態に保持し、活性炭に接触させることにより、Ruを活性炭に吸着させて溶液から分離回収する方法がある。しかし、共存イオンについてはNiのみに限られており、Irや他の卑金属イオンの共存については言及されていない。
Ru及び又はIrが10〜100mg/L程度の微量であり、他の卑金属、特にAsがRu、Irと比較して多量に存在する場合には、Ru及び又はIrの活性炭への吸着率が著しく低下する問題がある。
【0004】
【特許文献1】特公平8−170124 「ルテニウムの回収方法」住友金属鉱山
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記のような事情に鑑み、溶液に含まれるRu及び又はIrを、その含有量が微量で、他の卑金属を多量に含む場合であっても、効率的に溶液から回収する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するものであって、
(1)Ru及びまたはIrを含み、AsとCu、Fe、Ni、Zn、Bi、Pb、Te、Sn、Sbの内から1種類以上の卑金属不純物を含む酸性溶液(以下白金族含有溶液と称す。)に、
硫化剤を添加して、澱物を濾過除去後の後液中のRu及び又はIrを活性炭に吸着させる際に、
Ru及びまたはIrの吸着を妨げる不純物As,Pb,Snの少なくとも1種以上を硫化物として沈殿除去する際に、
硫化時の溶液の酸化還元電位(ORP)を70〜90mVに制御する白金族含有溶液からのRu及び又はIrの回収方法。
(2)上記(1)記載の硫化後液を濾過しRu及び又はIrを含む濾液と不純物の沈殿物とに分離する白金族含有溶液からのRu及び又はIrの回収方法。
(3)上記(2)記載のRu及び又はIrを含む濾液を、カラムに充填した活性炭に通液し、活性炭にRu及び又はIrを吸着させる白金族含有溶液からのRu及び又はIrの回収方法。
を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本願発明により、溶液に含まれるRu及び又はIrを、その含有量が微量で、他の卑金属を多量に含む場合であっても、効率的に溶液から回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明におけるRu及び又はIrの回収フローである。
【図2】硫化時の酸化還元電位とRu、Irの分配比の関係である。
【図3】硫化時の酸化還元電位と硫化後液の不純物濃度の関係である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
硫化剤に用いる水硫化ナトリウム溶液の濃度については、濾液量の増加や硫化時の溶液の酸化還元電位の制御を考慮し20〜30%が好ましい。また、添加速度についても硫化時の溶液の酸化還元電位(ORP)の制御を考慮し、Ru及び又はIrを含む酸性溶液(以下白金族含有溶液と称す。)1Lに対して3ml/min以下が好ましい。
硫化を行う際の温度は、硫化反応の速度に関係するものであるが、特定の温度に限定されるものではなく、常温でもあるいは加熱してもRu及び又はIrを効率よく分離させることが出来る。
【0010】
硫化を行う際の攪拌速度は、水硫化ナトリウム溶液を白金族含有溶液と十分に反応させる為に300rpm以上が好ましい。
【0011】
硫化反応終了の基準は硫化後液中のRu及び又はIr濃度が硫化前の濃度の70%以上であることが好ましい。
その際の硫化後液のAg/AgCl電極を基準とする酸化還元電位(ORP)は、
図1に示す硫化時の酸化還元電位とRu、Irの分配比の関係、図2に示す硫化時の酸化還元電位と硫化後液の不純物(活性炭にRu及び又はIrを吸着させる際にRu及びまたはIrの吸着を妨げる不純物、例えばAs,Pb,Sn等)濃度の関係から、70〜90mVの範囲を指標とすることが好ましい。
【0012】
活性炭と溶液との接触方法については活性炭をカラムに充填し、そのカラムに白金族含有溶液の硫化後液を連続的に流し込む方式が好ましい。
【0013】
活性炭は椰子殻活性炭が吸着量が大きく、吸着速度も速いため好ましい。また、吸着させる前に脱泡処理をすることが好ましい。
【0014】
活性炭への通液速度についてはSV(空間速度)=1〜20の範囲で制御することが好ましい。
【実施例】
【0015】
実施例1(ORP=90mVにおける実施例)
Cu電解殿物を脱Cu浸出、塩化浸出、Au抽出、SO2還元した後の工業廃水1000mLに、常温(20〜25℃)、攪拌速度1000rpmの状態で、25%水硫化ナトリウム溶液を1ml/minの添加速度で硫化後液のAg/AgCl電極を基準とする酸化還元電位(ORP)が90mVになるまで添加した。
【0016】
表1に実施例1の液組成、pH、ORP及び硫化後液への分配比を示す。Ru、Irは70%以上が硫化後液に残存している。Fe、Ni、Pb、Snについては依然として多くが硫化後液に分配しているが、As、Cu、Bi、Sbについてはほぼ全量を分離することができた。
【0017】
【表1】

上記と同様な条件で、ORPを変化させた結果、図2に示すようになり、最適値は、70mV以上と把握された。
【0018】
比較例1(ORP=50mVと低い場合の比較例)
Cu電解殿物を脱Cu浸出、塩化浸出、Au抽出、SO2還元した後の工業廃水400mLに、常温(20〜25℃)、攪拌速度1000rpmの状態で、25%水硫化ナトリウム溶液を1ml/minの添加速度で硫化後液のAg/AgCl電極を基準とする酸化還元電位(ORP)が50mVになるまで添加した。
【0019】
表2に比較例1の液組成、pH、ORP及び硫化後液への分配比を示す。実施例1と比較してPb21%、Sn0%と分配比は減少しているが 、Ru、Irの分配比もそれに伴って、それぞれRu:40%、Ir:3%と減少しており分離はできなかった。
【0020】
【表2】

【0021】
比較例2(ORP=120mVと高い場合の比較例)
Cu電解殿物を脱Cu浸出、塩化浸出、Au抽出、SO2還元した後の工業廃水1000mLに、常温(20〜25℃)、攪拌速度1000rpmの状態で、25%水硫化ナトリウム溶液を1ml/minの添加速度で硫化後液のAg/AgCl電極を基準とする酸化還元電位(ORP)が120mVになるまで添加した。
【0022】
表3に比較例2の液組成、pH、ORP及び硫化後液への分配比を示す。実施例1と比較してRu、Irの分配比がほとんど変化していないがAs:5%,Pb:59%,Sn:88%と他の不純物の分配比が増加しており、実施例1よりも分離はできなかった。
この結果、図3からも明らかなように、As,Pb,Sn等の不純物がある場合は、ORPを余り高くすることは好ましくなく、最適値は、70から90mVであることが把握される。
【0023】
【表3】

【0024】
実施例2(活性炭によるRu,Irの吸着例)
Cu電解殿物を脱Cu浸出、塩化浸出、Au抽出、SO2還元した後の工業廃水に25%水硫化ナトリウム溶液を添加し、不純物を沈殿除去した溶液200mLを、活性炭10dry-gにSV=6で吸着させた。
【0025】
表4に実施例2の液組成及び吸着後液への分配比を示す。Ruは81%、Irは100%が活性炭に吸着したと考えられる。また、活性炭の量を増やせばRuも100%回収することが可能と考えられる。
【表4】

【0026】
本発明によれば、溶液に含まれるRu及び又はIrを、その含有量が微量で、他の卑金属を多量に含む場合であっても、効率的に溶液から回収することができる。
また、鉄、ニッケルは、硫化後液中に存在していた場合であっても、Ru,Irの吸着には、問題ないことが把握された。






【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ru及びまたはIrを含み、AsとCu、Fe、Ni、Zn、Bi、Pb、Te、Sn、Sbの内から1種類以上の卑金属不純物を含む酸性溶液(以下白金族含有溶液と称す。)に、
硫化剤を添加して、澱物を濾過除去後の後液中のRu及び又はIrを活性炭に吸着させる際に、
Ru及びまたはIrの吸着を妨げる不純物As,Pb,Snの少なくとも1種以上を硫化物として沈殿除去する際に、
硫化時の溶液の酸化還元電位(ORP)を70〜90mVに制御することを特徴とする白金族含有溶液からのRu及び又はIrの回収方法。
【請求項2】
請求項1に記載の硫化後液を濾過しRu及び又はIrを含む濾液と不純物の沈殿物とに分離することを特徴とする白金族含有溶液からのRu及び又はIrの回収方法。
【請求項3】
請求項2に記載のRu及び又はIrを含む濾液を、カラムに充填した活性炭に通液し、活性炭にRu及び又はIrを吸着させることを特徴とする白金族含有溶液からのRu及び又はIrの回収方法。












【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−174336(P2010−174336A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−19001(P2009−19001)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【出願人】(591007860)日鉱金属株式会社 (545)
【Fターム(参考)】