説明

皮膚の水和度を測定する方法

【課題】皮膚の水和度を測定する方法を提供する。
【解決手段】本発明の方法は皮膚の水和度を測定する手段に関連する。本発明の方法は、少なくとも2つの偏光器によってフィルターされた少なくとも2つの波長を利用して、パーソナルケア製品で処理された皮膚のデジタル画像を生成する。本方法は、皮膚水和度を高め、及び/又は皮膚を脱水(そのような脱水が裸眼では明らかでないような場合においても)から保護する目的のスキンケア製品の有効性を示すのに有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
用語「皮膚水和度」は、皮膚の最も外側の角質層中の水分量を指し、しばしば皮膚の健康度の測定値の1つとして使用される。健康な皮膚の一般的性質として、角質層の水分濃度が、皮膚表面での約15〜25%から、生存能力のある表皮での約70%へと、徐々に増加していることが挙げられる。脱水状態の皮膚は、バリア機能の不良に関連することが多く、しばしば、病原生物、毒素、及び環境に対抗する保護の低下をもたらす。水和度を高める方法の1つは、皮膚に保湿剤を塗布することである。
【0002】
皮膚水和度は通常、電気的技法(例えば皮膚のキャパシタンス、コンダクタンス、インピーダンスの測定)、又は光学的技法(例えば撮像、分光法など)のいずれかによって測定される。電気的方法が最も一般的であり、角質層の水分をプローブで間接的に測定する。測定点は、プローブが皮膚表面に接触する箇所である。電気的測定プローブは通常、キャパシタンス(例えばCorneometer(登録商標)CM420、Courage+Khazaka Electronic GmbH、Cologne、Germany)、コンダクタンス(例えばSkicon−200EX(登録商標)、IBS−Hamamatsu Co.(日本))及びインピーダンス(例えばNova DPM 900、NOVA Technology Corp.、Portsmouth、New Hampshire、USA)に基づいている。
【0003】
最近の論文では、デジタル撮像を利用した新しい光学的方法が記述されている。
【0004】
Attasらは、Vibrational Spectroscopy v.28(2002)pp 37〜43の中で、電磁スペクトルのNIR(近赤外線)領域を利用している。Attasは、単一波長(1460nm)、IR領域での最大吸水率と最小吸水率との間の比、及び1300〜1600nmの領域の統合について論じている。このアプローチは1000nmを超えるIR領域で行なわれるため、特殊で高価な装置が必要になる。加えて、Attasは、平行、又は交差−平行偏光フィルターの使用については説明していない。
【0005】
Arimotoは、Skin Research and Technology v.13(2007)pp.49〜54の中で、皮膚表面の情報を向上させるために可視領域において交差偏光と平行偏光とを組み合わせることに関して説明している。Arimotoの方法は皮膚の水分の間接的な分布を提供するが、定量化可能な水分マップを提供せず、又は500nmでのメラニンの寄与を考慮していない。
【0006】
Robinsonら(米国特許第20060239547A1号)は、皮膚の光学的測定から美容上の皮膚特性を判定する方法及び機器を示している。Robinsonは、皮膚表面のマッピングを可能にするデジタル画像は生成していない。
【0007】
Stamatasらは、Journal of Biomedical Optics v.12(5)(2007)pp.051603−1〜051603−7の中で、交差偏光だけを使用して皮膚のより深い部分の水分を調べるのに適切なスペクトル撮像アプローチについて検討している。
【背景技術】
【0008】
本発明は、皮膚の水和度を測定する方法に関連する。本発明の方法は、少なくとも2つの偏光器によってフィルターされた少なくとも2つの波長光を利用して、パーソナルケア製品で処理された皮膚のデジタル画像を生成する。本方法は、皮膚水和度を高め、及び/又は皮膚を脱水(そのような脱水が裸眼では明らかでないような場合においても)から保護する目的のスキンケア製品の有効性を示すのに有用である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の方法は、異なるスペクトル波長での偏光を使用して皮膚表面の水和度の定量化可能な視覚的マップを提供する、皮膚の水和度を測定するためのデジタル撮像方法に関連する。この波長の1つは、水による電磁放射線の吸収が強く、もう1つは、水による電磁放射線の吸収が最小限である。交差偏光デジタル画像及び平行偏光デジタル画像は、第一の波長で生成される。第一の波長で得られた交差偏光画像及び平行偏光画像の組み合わせを、次いで第二の波長のものに正規化することにより、皮膚の水分情報を提供する視覚的マップが生成される。
【0010】
本発明の方法は、水の吸収特性に基づいているため、既知の方法よりもより直接的な皮膚水和度測定方法を提供する。その結果得られるデジタル画像(マップ)は、角質層を含めさまざまな皮膚層内に含まれる水の量を視覚化及び定量化するのに使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明による皮膚水和度測定に好適な装置例を示す概略図。
【図2】本発明による皮膚水和度測定に好適な別の装置例を示す概略図。
【図3】平行偏光条件において800nmで処置を受ける被験体を撮影した画像。
【図4】交差偏光条件において800nmで処置を受ける被験体を撮影した画像。
【図5】平行偏光条件において970nmで処置を受ける被験体を撮影した画像。
【図6】交差偏光条件において970nmで処置を受ける被験体を撮影した画像。
【図7】図4及び6に示す画像を使用して生成した深部水分マップ。
【図8】図3〜6に示す画像を使用して生成した表面水分マップ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、スペクトル撮像システムを利用して皮膚の画像を生成する。好適なスペクトル撮像システムの1つとしては、25mmマクロレンズ、並びにマルチスペクトル(約30までの狭周波数帯フィルター)撮像及び/又はハイパースペクトル(約30より多くの狭周波数帯フィルター)撮像が可能な直線偏光フィルター(以下、マルチスペクトル及びハイパースペクトルの両方を総じて「ms/hs」とする)を備えた、カスタムメードのカメラ(FORTH Photonics、Athens、Greece)が挙げられる。このカメラには、複数の狭周波数帯フィルターが含まれており、例えば約700〜約1000nmのスペクトル範囲の4〜50の狭周波数帯フィルターが含まれている。フィルター選択、露出時間、及びカメラゲインなどを含む画像収集の設定は、コンピューターソフトウェアを介して制御されるのが好ましい。
【0013】
別の実施形態では、市販のカメラ(例えばNikon G10)が、カメラの前部にフィルターホイールを備えて使用される。フィルターホイールは、好ましくは、望ましいフィルターを選択するよう、適切なソフトウェア又はコマンドを利用してコンピューターによって制御することができ、これにより、続いてフィルターホイール位置を望ましいフィルターに変える(例えば、フィルターを800nmから970nmに動かす)。
【0014】
直線的に偏光された広周波数帯光源が、本発明の方法において利用されるのが好ましい。好適な直線偏光光源の1つは、v600、Syris、Gray、MEである。
【0015】
本明細書に使用される以下の用語は、以下と見なす意味を有する。
「直交偏光条件又は交差偏光条件」:光源の前にある第一偏光フィルターとカメラレンズの前にある第二偏光フィルターとを含み、これら2つのフィルターは偏光軸が互いに直交している撮像条件。
「平行偏光条件」:光源の前にある第一偏光フィルターとカメラレンズの前にある第二偏光フィルターとを含み、これら2つのフィルターは偏光軸が互いに平行である撮像条件。
【0016】
1つの実施形態において、本発明の方法には、対象物の偏光写真を撮影する工程が含まれる。「偏光写真」という語は、(i)偏光フィルターを通して光を放射する光源を用い、及び/又は(ii)カメラレンズに入る前に光がフィルターされる偏光フィルターを通して撮影される対象物の写真を意味する。
【0017】
本明細書で使用されるとき、識別子「PP」は、平行偏光を意味するものとする。
【0018】
本明細書で使用されるとき、識別子「XP」は、直交偏光を意味するものとする。
【0019】
1つの実施形態において、カメラ及び1つ以上(好ましくは1つ)の光源は、撮影する被験者の皮膚とほぼ同じ平面上にあり、この光源は、各光源、被験者の皮膚、及びカメラでなす角度が約15〜約70度、より好ましくは約45度になるように設置される。1つの実施形態において、1つの偏光フィルターが各光源の前に設置される。
【0020】
「偏光フィルター」という語は、入射光をフィルターして、偏光した光を放射するフィルターを意味する。偏光フィルターの例としては、偏光板(例えばEdmund Scientific(Barrington、N.J.、USA)から入手可能であるもの)、偏光プリズム(例えばGlan Thomson偏光プリズム)、又は偏光反射板(ほぼブルースター角で光を反射する)が挙げられるが、これらに限定されない。偏光フィルターは、直線偏光フィルターであっても円偏光フィルターであってもよい。
【0021】
測定は好ましくは2つの波長で実施される。第一波長λは、好ましくは約700〜約900nmの範囲、より好ましくは800nmであり、この範囲では水は強い光吸収を呈さない。第二波長λは、好ましくは約900〜約1000nmの範囲、より好ましくは970nmであり、この範囲では水による光吸収度が高い。
【0022】
「正反射」又は「グレア」は、光を発する媒体とは屈折率が異なる物質の表面に入射するときに、方向が変えられる光の部分である。皮膚撮像の場合は、第一媒体は空気であり、第二媒体は角質層である。この場合、正反射は入射光強度の約4%である(フレネルの法則による)。入射光の残りは皮膚組織に浸透し、吸収される。皮膚組織内の光は、角質層内で数回分散した後に皮膚から外に出る(これにより偏光状態が保たれる)か、又はより深く浸透し、複数回反射してから、拡散反射光として皮膚から外に出る。
【0023】
本発明の方法の一実施例において(また図1に示すように)、ハロゲン光源LS1から放射された光は、偏光器P1を通過してから皮膚表面に到達する。この光は皮膚で反射され、第二偏光器P3を通過する。P1及びP3は異なる2つの偏光器であり、そのため一方は他方に対して直交又は平行に配向され得る。例えば、P1がある特定の平面に設定されている場合、P3を回転させて、P1に対して直交又は平行となるようにすることができる。図1に示すように、より均一な光を得るために、散光器D1を使用することができる。ただし、図1の実施形態に示されている散光器D1は、本発明の方法に必須ではない。
【0024】
LS1からの光は、特定の皮膚領域SUTを標的として、P1を通過する。この光は次に特定の角度(θ)で標的皮膚から反射され、第二偏光器(図1のP3として図示)及びフィルターホイールFを通過して、デジタルカメラに捕捉される。フィルターホイールF1は、周波数帯が異なる波長を中心としたバンドパスフィルター間で切り替えることができる。好ましくは、このバンドパスフィルターは狭周波数帯(帯域幅5〜20nm)フィルターである。好ましくは、このフィルターは高透過率(80%超)のものである。好ましくは、このフィルターは干渉(又は二色性)フィルターである。1つの実施形態において、このフィルターホイールは、液晶同調フィルター(LCTF)システムにより置き換えられてもよい。本発明での好ましい波長は、約700〜約900nm、より好ましくは800nm、及び約900〜約1000nm、より好ましくは970nmである。皮膚表面を分析するために、4つの画像がデジタルカメラによって捕捉又は撮影される。
1.約700〜約900nmの第一波長λでフィルターされた平行偏光条件での皮膚のデジタル画像
2.約700〜約900nmの第一波長λでフィルターされた直交(交差)偏光条件での皮膚のデジタル画像
3.約900〜約1000nmの第二波長λでフィルターされた平行偏光条件での皮膚のデジタル画像
4.約900〜約1000nmの第二波長λでフィルターされた直交(交差)偏光条件での皮膚のデジタル画像
【0025】
図2に示す本発明の別の実施例においては、2つのハロゲン光源(LS1及びLS2)が、所望による散光器(D1及びD2)並びに偏光器(それぞれP1及びP2)との組み合わせで示されている。好ましい実施形態において、P1及びP2は同じように配向されている。第三偏光器(図2のP3として図示)は、P1及びP2に対して直交又は平行に配向されている。
【0026】
図2において、LS1及びLS2からの光は、P1及びP2を通って特定の皮膚領域に当たるように調整される。次いでこの光が標的皮膚で反射され、P3及びフィルターホイールを通過して、デジタルカメラに捕捉される。図2に示す例において、反射角θ及びθは、同じであるのが好ましい。
【0027】
記録された画像は、計算式で処理される。この計算式は画素ごとに適用され、これにより反射率値(数値)が得られる。次にこの数値を使用して、皮膚表面のマップを生成する。このマップは皮膚の水和度に対応している。
「反射率値」:特定の波長及び特定の偏光状態(直交又は平行)でカメラにより記録される光強度。
【0028】
好ましくは、2つの波長で得られた直交偏光画像及び平行偏光画像を使用して、以下に定義されるように、水による光吸収が測定される。
【数1】

【0029】
本明細書で使用されるとき、項「α」は、平行偏光画像において拡散された反射光の量を示すよう調整される項である。本発明の好ましい実施形態において、αは好ましくは0〜1であり、より好ましくは約0.2〜約0.4であり、好ましくは約0.3である。
【0030】
本明細書で使用されるとき、「λ」は、ナノメートル(nm)単位で測定された波長であり、この波長で反射光がフィルターされてからカメラ検出器に入る。
【0031】
本発明の方法の別の実施形態では、散光器が光源ユニットと偏光フィルターとの間に設置される。
【0032】
本発明の方法の更に別の実施形態では、直線偏光フィルターが光源の位置に使用され、その直線偏光フィルターは、光源、被験者の皮膚、及びカメラがなす平面に対して放射光の電界がほぼ平行又は垂直(直交)になるように配置される。
【0033】
本発明の方法の別の実施形態では、偏光光源が、カメラ及び被験者の皮膚の上の垂直面上に配置され、これにより、光源、被験者の皮膚、及びカメラがなす角度は約15〜70度、好ましくは約45度になる。光源は、伝達電界が垂直方向(例えば、平面に対して平行)で設置されている直線偏光フィルターでフィルターされる。
【0034】
800及び970nmで撮影された交差偏光画像及び平行偏光画像の例
撮像システムは図1に示す構成で設定された。所望による散光器D1はこれらの画像の取得には使用されなかった。角度θは約25度であった。乾燥肌を呈している28歳の男性志願者の左下肢の皮膚領域を使用して、水和クリームEnydrial(登録商標)Lait Hydratant Corps(フランス、RoCから入手可能)約0.1mLを、裸指で下肢の指定領域に均一に塗布した。余分なクリームを、ペーパータオルで表面を吸い取らせることにより除去した。塗布時間には約1分間かけ、塗布から約5分以内に測定を行った。4つの画像が撮影された。第一の画像(図3)は、平行偏光条件において800nmで撮影された。第二の画像(図4)は、交差偏光条件において800nmで撮影された。第三及び第四の画像(図5及び6)は、それぞれ平行偏光条件及び交差偏光条件において970nmで撮影された。
【0035】
次いでこの画像を、以下の計算式を使用して処理して、深部及び表面の水分を得た。
深部(生存能力のある表皮及び真皮)の水分マップ(図7)
【数2】

表面(角質層)の水分マップ(図8)
【数3】

式中、α=0.30である。
【0036】
保湿クリームによる水和度の増加が、表面水分マップにおいて視認できる。
【0037】
〔実施の態様〕
(1) a)約700〜約900nmの第一波長λでフィルターされた平行偏光条件での皮膚のデジタル画像を取得することと、
b)約700〜約900nmの第一波長λでフィルターされた直交(交差)偏光条件での皮膚のデジタル画像を取得することと、
c)約900〜約1000nmの第二波長λでフィルターされた平行偏光条件での皮膚のデジタル画像を取得することと、
d)約900〜約1000nmの第二波長λでフィルターされた直交(交差)偏光条件での皮膚のデジタル画像を取得することと、
e)4つの前記デジタル画像それぞれの反射率(画素)値を生成することと、
f)前記反射率(画素)値を以下の式:
【数4】

に適用することであって、式中、αは約0.2〜約0.4であり、これにより前記皮膚のデジタル画像を生成する、ことと、
を含む、皮膚の水和度を測定する方法。
(2) 前記デジタル画像が、処置の前に生成される、実施態様1に記載の方法。
(3) 前記デジタル画像が、処置の後に生成される、実施態様1に記載の方法。
(4) 前記第一波長が約800nmである、実施態様1に記載の方法。
(5) 前記第二波長が約970nmである、実施態様1に記載の方法。
(6) αが約0.3である、実施態様1に記載の方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)約700〜約900nmの第一波長λでフィルターされた平行偏光条件での皮膚のデジタル画像を取得することと、
b)約700〜約900nmの第一波長λでフィルターされた直交(交差)偏光条件での皮膚のデジタル画像を取得することと、
c)約900〜約1000nmの第二波長λでフィルターされた平行偏光条件での皮膚のデジタル画像を取得することと、
d)約900〜約1000nmの第二波長λでフィルターされた直交(交差)偏光条件での皮膚のデジタル画像を取得することと、
e)4つの前記デジタル画像それぞれの反射率(画素)値を生成することと、
f)前記反射率(画素)値を以下の式:
【数1】

に適用することであって、式中、αは約0.2〜約0.4であり、これにより前記皮膚のデジタル画像を生成する、ことと、
を含む、皮膚の水和度を測定する方法。
【請求項2】
前記デジタル画像が、処置の前に生成される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記デジタル画像が、処置の後に生成される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第一波長が約800nmである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第二波長が約970nmである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
αが約0.3である、請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−242395(P2011−242395A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−110108(P2011−110108)
【出願日】平成23年5月17日(2011.5.17)
【出願人】(598039367)ジョンソン・アンド・ジョンソン・コンシューマー・カンパニーズ・インコーポレイテッド (79)
【氏名又は名称原語表記】Johnson & Johnson Consumer Companies,Inc.
【住所又は居所原語表記】Grandview Road,Skillman,New Jersey 08558,United States of America
【Fターム(参考)】