説明

皮膚バリア機能向上作用の評価法及び皮膚バリア機能の評価法

【課題】皮膚バリア機能に寄与する新規因子を見い出すことにより、皮膚バリア機能を簡便に評価する方法、及び皮膚バリア機能の向上に有効な物質を、高い確度で、かつ簡便に探索する方法を提供する。
【解決手段】ラメラ・グラニュールの内包因子の発現の増大作用を、被験物質の皮膚バリア機能向上作用を評価するための指標とする。また、前記内包因子の発現の程度を皮膚バリア機能を評価するための指標とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物質の皮膚バリア機能向上作用を評価する方法に関する。詳しくは、皮膚外用剤に含有するための物質の皮膚バリア機能向上作用を評価する方法、皮膚バリア機能の向上に有効な物質を鑑別する方法に関する。また、本発明は、皮膚バリア機能を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚バリア機能は、皮膚の健全性を保つために重要な因子であり、皮膚バリア機能が低下すると、アトピー性皮膚炎や化学物質過敏症などの病的な症状が出現すると言われている。皮膚バリア機能は、経皮的散逸水分量(TEWL)によって測定される場合が多い。
物質の皮膚バリア機能向上作用を評価する方法としては、例えば角層細胞の形状や分布を指標として、TEWLを推定する方法が知られている(例えば特許文献1を参照)。しかしながら、正常な形状の角層細胞を有している場合でも、皮膚バリア機能の低い様な例外も存することが知られており、皮膚バリア機能に影響を与える他の因子が存することが推定されている。
このような他の因子としては、セラミドなどの細胞間脂質の量と組成が知られている。即ち、セラミドなどの細胞間脂質の量が多ければ多いほど、皮膚バリア機能は高いと言われている(例えば、非特許文献1を参照)。また、セリンパルミトイルトランスフェラーゼ(Serine palmitoyl transferase、SPT)はセラミドのde novo合成律速酵素であり、その欠損は角層バリア機能を低下させ致死的な結果をもたらすことも知られており(例えば、特許文献2、非特許文献2を参照)、セラミドに加えてこの合成酵素も皮膚バリア機能の発現においては重要な役割を果たしていることが推察される。しかしながら、この様な因子を加えても、皮膚バリア機能の説明には、時として不十分な場合も存することは否めない。即ち、皮膚バリア機能に寄与する新規因子の発見が望まれている。
特に、細胞レベルで検知できる皮膚バリア機能に寄与する新規因子は、ホールボディーレベルでの皮膚バリア機能の機作の解明のための有力なツールとなることが期待されることから、その解明が強く望まれている。
また、これまで物質の皮膚バリア機能向上作用の評価法としては、in vivoで行う方法しか知られておらず、評価の簡便性の点から十分とはいえない。
【0003】
一方、ケラチノサイト(表皮角化細胞)には、ラメラ・グラニュールとよばれる顆粒が存在し、これは、コルネオデスモシン、グルコシルセラミド、及びKLK5等の角層剥離酵素を内包していることが知られている。これらの内包因子のうち、コルネオデスモシンは、角層細胞に存在し、紫外線照射によってその発現が変化を受けることが既に知られているし(例えば、特許文献3を参照)、グルコシルセラミドは、脂質代謝に関連し、皮膚に於いて、老化防止作用を発現することが既に知られている(例えば、特許文献4を参照)。
【0004】
しかしながら、ラメラ・グラニュールの内包因子の発現の程度が、皮膚バリア機能と関連していることは知られていなかったし、前記内包因子の発現を増大させる物質も知られていなかった。そして、被験物質の前記内包因子の発現の増大作用を指標として、前記被験物質の皮膚バリア機能向上作用を評価することについては、全く検討されていなかった。
【0005】
【特許文献1】特開2005−189011号公報
【特許文献2】特表2005−531285号公報
【特許文献3】特表2005−520483号公報
【特許文献4】特開平6−256158号公報
【非特許文献1】Grubauer G et al: Lipid content and lipid type as determinants of the epidermal permeability barrier. J. Lipid Res 30 : 89-96, 1989
【非特許文献2】Sano S et al: Disappearance of lamellar bodies and enrichment of aberrant lipids in the epidermis of the ceramide knockout mice. The 27st Annual Meeting of the Japanese Society for Investigative Dermatology Program :poster No.p-134, 2002
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、この様な状況下為されたものであり、皮膚バリア機能に寄与する新規因子を見い出し、皮膚バリア機能を簡便に評価する方法、及び皮膚バリア機能の向上に有効な物質を、高い確度で、かつ簡便に探索する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この様な状況に鑑みて、本発明者らは、皮膚バリア機能に寄与する新規因子を求めて、鋭意研究努力を重ねた結果、マイリオシンを経皮投与することにより、角層において、ラメラ・グラニュールの内包因子の発現が増大し、特に表層側の角層において、前記内包因子の発現が増大することを見出した。この知見を基に、本発明者らは、ラメラ・グラニュールの内包因子の発現の増大作用が、該被験物質の皮膚バリア機能向上作用を評価するための指標となることを見い出し、発明を完成させるに至った。即ち、本発明は以下に示す通りである。
【0008】
(1)被験物質の、ラメラ・グラニュールの内包因子の発現の増大作用を指標として、該被験物質の皮膚バリア機能向上作用を評価することを特徴とする、物質の皮膚バリア機能向上作用の評価法。
(2)前記内包因子は、グルコシルセラミド、コルネオデスモシン及び角層剥離酵素から選択される少なくとも一つであることを特徴とする、(1)に記載の評価法。
(3)前記内包因子の発現の増大は、内包因子の発現量の増加及び/又は内包因子の分布領域の拡大であることを特徴とする、(1)又は(2)に記載の評価法。
(4)前記内包因子の分布領域の拡大は、表層側の角層への内包因子の分布領域の拡大であることを特徴とする、(3)に記載の評価法。
(5)被験物質の皮膚バリア機能向上作用は、一般式(I)で表される化合物の、前記内包因子の発現の増大作用を基準として評価されることを特徴とする、(1)〜(4)の何れか一に記載の評価法。
【0009】
【化1】

【0010】
(上記一般式(I)において、R1は水素又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、R2及びR3は、独立して水素、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のアシル基を表し、R4は水素又は−CH2OR’であり、R’は水素、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のアシル基を表し、R5、R6及びR7は、独立して水素、水酸基、炭素数1〜4のアルコキシ基又は炭素数1〜4のアルキルカルボニルオキシ基を表し、Aは、置換基を有しても良い炭素数5〜20の炭化水素基を表す。)
(6)一般式(I)で表される化合物が、一般式(II)で表される化合物であることを特徴とする、(5)に記載の評価法。
【0011】
【化2】

【0012】
(但し、式中Xはメチレン基、ヒドロキシメチレン基又はカルボニル基を表し、破線で表される結合はあってもなくても良い。)
(7)一般式(II)で表される化合物が、マイリオシンであることを特徴とする、(6)に記載の評価法。
(8)被験物質の、前記内包因子の発現の増大作用が、一般式(I)で表される化合物の、前記内包因子の発現の増大作用より大きい場合に、該被験物質は、皮膚バリア機能向上に有効であると鑑別することを特徴とする、(5)〜(7)の何れか一に記載の評価法。
(9)一般式(I)で表される化合物が、一般式(II)で表される化合物であることを特徴とする、(8)に記載の評価法。
以下、これらの物質の皮膚バリア機能向上作用の評価法を、単に本発明の評価法ともいう。
【0013】
(10)ラメラ・グラニュールの内包因子の発現の程度を指標として、皮膚バリア機能を評価することを特徴とする、皮膚バリア機能の評価法。
(11)前記内包因子の発現の程度が、内包因子の発現量の大小及び/又は内包因子の分布領域の大小であることを特徴とする、(10)に記載の皮膚バリア機能の評価法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の評価法を用いれば、被験物質の皮膚バリア機能向上作用を高い確度で簡便に評価することができる。特に、本発明の評価法を用いれば、in vitroでの物質の評価が可能となるため、産業的な利用価値が大きい。また、皮膚バリア機能の向上に有効な物質を、高い確度で簡便に見出すことができ、皮膚外用剤の製造等に応用することができる。
また、本発明の皮膚バリア機能の評価法を用いれば、被験者の皮膚バリア機能を高い確度で簡便に評価することができ、化粧料の選択などに役立てることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の評価法は、被験物質の、ラメラ・グラニュールの内包因子の発現の増大作用を指標として、該被験物質の皮膚バリア機能向上作用を評価することを特徴とする。
ラメラ・グラニュール(Lamella granule (LG))は、Lamella body (LB)、オドランド小体、層板顆粒、ラメラ顆粒などとも称される。ラメラ・グラニュールは、主にケラチノサイトのうち顆粒細胞(顆粒層)中に認められる約10〜30nmの球状の顆粒で、内包因子を膜が包む形態を有する。ラメラ・グラニュールは、主に、顆粒層と角層の境界領域にて細胞膜に結合し、内包因子を角層の細胞間に放出する。
ラメラ・グラニュールの内包因子としては、角層細胞間脂質の前駆体であるリン脂質、グルコシルセラミド、スフィンゴミエリン、角層剥離酵素類、該酵素類の阻害剤、細胞間接着因子、抗菌物質等などが挙げられ、これらの内包因子の内、セラミドは角層全域に存
在するが、このものの配糖体である、グルコシルセラミドは、通常は顆粒層から表層側へ2、3層の角層において分布している。又、コルネオデスモシン及び角層剥離酵素も、グルコシルセラミドと同様に、通常は顆粒層から表層側へ2、3層の角層において分布している。
本発明の評価法においては、ラメラ・グラニュールの内包因子のうち、少なくとも一つを選択して、下記の観察の対象とすることができる。特に、グルコシルセラミド、コルネオデスモシン等の細胞間接着因子類、及びKLK5等のKLK類に代表される角層剥離酵素が特に好ましく使用できる。
【0016】
本発明の評価法は、被験物質を動物の皮膚組織にin vivo又はin vitroで投与した後、観察の対象とする内包因子を染色し、被験物質の投与部位の角層を観察することにより行うことができる。具体的な方法を以下に示す。
in vivoでの被験物質の投与は、一般的な経皮投与試験方法に準じて行えば良く、使用動物、及び投与する皮膚の部位も適宜選択される。試験動物としては、毛が試験時に存しない、ヘアレスマウスが特に好適に例示できる。
また、in vitroでの被験物質の投与は、三次元培養皮膚などの系への一般的な薬剤投与方法に準じて行えばよい。本発明の評価法は、特にin vitroでの物質の皮膚バリア機能の評価に好適である。
被験物質の投与期間及び投与回数は、被験物質の安全性、毒性、許容される使用量などに応じて適宜選択することができる。通常、角層の変化を観察するためには、被験物質を複数回投与することが好ましく、3〜24回投与することが好ましく例示できる。
【0017】
内包因子の染色は、例えば、超薄切片を作製した後、内包因子に結合する一次抗体を結合させ、内包因子−一次抗体複合体を標識することにより行うことができる。
超薄切片の作製は、凍結固定・凍結置換法や凍結超薄切片法などを用いて行うことができる(例えば、山本明美ら「臨床検査」;50(8);893〜896;2006を参照)。
凍結固定・凍結置換法は、上記のように被験物質を投与した動物の皮膚組織を、無固定、或いはパラホルムアルデヒドなどで固定し、冷却した液化プロパン中にて休息凍結し、凍結置換装置にてメタノール中に浸漬し、この状態でメタノールと樹脂を置換し、樹脂を常温にて硬化させて樹脂包埋サンプルを得て、この樹脂包埋サンプルを超薄切片化する方法である。
凍結超薄片法は、上記皮膚組織をパラホルムアルデヒドなどで固定し、液化プロパン中にて休息凍結し、凍結した状態で液体窒素温度にて組織を超薄切片化する方法である。
【0018】
免疫染色を行う為に用いる内包因子の一次抗体は、必要に応じてハプテンなどとともに、フロインドの完全アジュバントや不完全アジュバントなどを使用し、被験物質を投与する動物の種とは異なる種の動物を、被験物質を投与する動物の種由来の内包因子で免疫し作製することも出来るし、既に市販されているものを利用することも出来る。
このような市販品として、例えば、コルネオデスモシンの抗体であればABR-Affinity BioReagents社より販売されているものが、グルコシルセラミドの抗体であればGlycobiotechから販売されているものが例示できる。
また、標識としては、ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体(二次抗体)、プロテインA、プロテインG、アビジン−ビオチン反応を利用した標識などが挙げられる。二次抗体としては、例えば金コロイド標識抗体を用いることができる。例えば、Goat血清の抗Rabbit IgG(H+L)を金コロイドで標識した抗体を用いることができ、このような市販品として、GE Healthcare社製のAuroProbe EM Goat Anti-Rabbit IgG (H+L)が例示できる。
【0019】
角層の観察は、免疫電子顕微鏡を用いて行うことができる。免疫電子顕微鏡を用いた角層の観察は、顆粒層との境界を含めた角層全領域に渡って行うことが、内包因子の分布領
域を正確に観察することができるため好ましい。観察の具体的な手法としては、前記内包因子の発現の程度を観察できればよく、例えば前記内包因子の発現強度を測定する方法、前記内包因子の分布領域を観察する方法が好ましく挙げられる(例えば、山本明美ら「臨床検査」;50(8);893〜896;2006を参照)。内包因子の発現強度は、角層において染色されて表れるドットの頻度を測定することにより知ることができる。内包因子の分布領域は、角層の顆粒層との境界から数えて、何層目の角層まで前記ドットが現れているか、より具体的には、何層目の角層細胞内(角層中)及び何層目の角層細胞間(角層間)に前記ドットが現れているかを観察することにより知ることができる。
【0020】
このようにして、被験物質を投与した後の角層における前記内包因子の発現の度合いの観察結果から被験物質の前記内包因子の発現の増大作用を調べ、該作用を指標として被験物質の皮膚バリア機能向上作用を評価する。すなわち、被験物質が、その投与前と比較してどの程度、前記内包因子の発現を増大させるかを調べることにより、被験物質の皮膚バリア機能向上作用を評価することができる。内包因子の発現の増大とは、内包因子の発現量が増加すること、及び/又は内包因子の分布領域が拡大することをいう。ここで、分布領域の拡大とは、好ましくは、表層側の角層へ分布領域が拡大することをいう。
【0021】
被験物質の皮膚バリア機能向上作用を評価する方法としては、例えば、被験物質を投与しない陰性コントロールの前記内包因子の発現の程度を、被験物質を投与した後の前記内包因子の発現の程度と比較することにより、被験物質の前記内包因子の発現の増大作用を調べ、皮膚バリア機能向上作用を評価する方法、被験物質を投与した後の前記内包因子の発現の程度を、陽性コントロールを投与した後の前記内包因子の発現の程度と比較することにより、該陽性コントロールの前記内包因子の発現の増大作用に対する、被験物質の相対的な前記内包因子の発現の増大作用を調べ、皮膚バリア機能向上作用を評価する方法が挙げられる。
【0022】
陽性コントロールとしては、皮膚バリア機能向上作用を有する標準陽性物質を用いることができる。具体的には、マイリオシン(化合物1、ISP−1)や特開平11−310523号公報、特開平07−247252号公報、WO2004/013084に示されるようなマイリオシンと類似の骨格を有する化合物を用いることが好ましく例示できる。マイリオシンと類似の骨格を有する化合物として、一般式(I)で表される化合物を用いることができる。
【0023】
【化3】

【0024】
上記一般式(I)において、R1は水素又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、好ましくは、水素である。また、R2及びR3は、独立して水素、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のアシル基を表し、好ましくは、R2及びR3共に水素である。R4は水素又は−CH2OR’である。−CH2OR’におけるR’は水素、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のアシル基を表し、好ましくは、水素である。R5、R6及びR7は、独立して水素、水酸基、炭素数1〜4のアルコキシ基又は炭素数1〜4のアルキルカルボニルオキシ基を表す。R5及びR6は、好ましくは、水素又は水酸基であり、R7は、好ましくは、水素である。Aは、置換基を有しても良い炭素数5〜20の炭化水素基を表す。
さらに、一般式(I)で表される化合物の中でも、一般式(II)で表される化合物を
好ましく用いることができる。
【0025】
【化4】

【0026】
一般式(II)において、Xはメチレン基、ヒドロキシメチレン基又はカルボニル基を表し、破線で表される結合はあってもなくても良い。
【0027】
一般式(II)で表される化合物として、具体的には以下に示す化合物1〜10が挙げられる。
この中でも、マイリオシン(化合物1)の前記内包因子の発現の増大作用を基準として、被験物質の皮膚バリア機能向上作用を評価することが特に好ましい。
なお、マイリオシンには、しわ改善作用があることが知られており(特開平11−310523号公報)、その製造方法も既に知られている(例えば、特開平07−247252号公報)。
【0028】
【化5】

【0029】
【化6】

【0030】
【化7】

【0031】
【化8】

【0032】
【化9】

【0033】
【化10】

【0034】
【化11】

【0035】
【化12】

【0036】
【化13】

【0037】
【化14】

【0038】
これらの化合物は、ラメラ・グラニュールの内包因子の発現量を増加させ、かつその分布領域を表層側の角層へ拡大させる。通常は、前記内包因子の分布領域は、顆粒層−角層との境界から2、3層までの角層であるが、これらの化合物を皮膚に投与することにより、前記内包因子の分布領域は、顆粒層−角層との境界から5〜7層までの角層へ拡大する。特に、これらの化合物は、表層側の角層中における前記内包因子の発現量を増加させ、前記内包因子の分布領域は、顆粒層−角層との境界から5〜7層までの角層中へ拡大する。
従って、被験物質が、内包因子の分布を顆粒層−角層との境界から5層以上表層側、好ましくは7層以上表層側に拡大させる作用を有している場合に、該被験物質は、皮膚バリア機能向上に有効であると鑑別することができる。
【0039】
上記一般式(I)で表される化合物を陽性コントロールとして用いる場合の経皮投与量は、0.02% (W/V in 80% EtOH)を10〜500μl/dayが好ましく例示できる。かかる物質の経皮投与は、一般的な経皮投与試験方法に準じて行えば良く、使用動物、及び投与する皮膚の部位も適宜選択される。試験動物としては、毛が試験時に存しない、ヘアレスマウスが特に好適に例示できる。また、投与期間及び投与回数は、特に制限されないが、例えば3〜24回投与することが挙げられる。被験物質の前記内包因子の発現の増大作用が、陽性コントロールの該作用と同等であるかこれより大きい場合には、前記被験物質は、皮膚バリア機能の向上に有効であると鑑別することができる。
具体的には、被験物質の前記内包因子の発現量の増加作用及び/又は該内包因子の分布領域の拡大作用が、陽性コントロールのこれらの作用と同等であるかこれより大きい場合には、前記被験物質は、皮膚バリア機能の向上に有効であると鑑別することができる。また、前記内包因子の分布領域を表層側の角層へ拡大する作用が、陽性コントロールのこれら作用と同等であるかこれより大きい場合には、前記被験物質は、皮膚バリア機能の向上に有効であると鑑別することができる。
【0040】
また、種々の被験物質を投与した場合の前記内包因子の発現の増大作用どうしを比較することにより、複数の被験物質の皮膚バリア機能向上作用を比較することもできる。本発明においては、前記内包因子の発現の増大作用が大きければ大きいほど、皮膚バリア機能向上作用も大きいと評価することができる。
【0041】
本発明の評価法によれば、生体における角層のみならず(in vivo)、三次元培養皮膚における角層を用いて(in vitro)、被験物質の皮膚バリア機能を評価することも可能となる。これは、図5に示すように、ラメラ・グラニュールは、三次元培養皮膚に於いても発現しているため、三次元培養皮膚を用いて、前記内包因子の発現の程度を調べることができるためである。
【0042】
また、本発明は、ラメラ・グラニュールの内包因子の発現の程度を指標として、皮膚バリア機能を評価する方法も提供する。
すなわち、皮膚バリア機能を評価しようとする皮膚について、角層における前記内包因子の発現量や分布領域を調べ、内包因子の発現量の大小及び/又は内包因子の分布領域の大小を指標に、該皮膚の皮膚バリア機能を評価することができる。前記内包因子の発現の程度は、上述した方法と同様にして調べることができる。評価の方法としては、被験者間で前記内包因子の発現の程度を比較する方法でもよいし、複数のサンプルを観察した結果から、評価基準を作成し、これを参考にしてスコアを付ける方法でもよい。また、同一の皮膚について、皮膚外用剤の使用前及び使用後の前記内包因子の発現の程度を比較し、皮膚バリア機能の変化を評価する方法も挙げられる。
【0043】
以下に、実施例を挙げて、本発明について更に詳細に説明を加えるが、本発明がかかる実施例にのみ限定されないことは言うまでもない。
【実施例】
【0044】
以下に示す手順に従って、ヘアレスマウスの背部をマイリオシンで処理し、角層のラメラ・グラニュールの内包因子の発現量及び分布領域の変化を計測した。内包因子としては、コルネオデスモシンとグルコシルセラミドを用いた。
ヘアレスマウス(Hr−kud)背部皮膚にマイリオシン(ISP−1)(0.02%
W/V in 80% EtOH)を100μl/day 7日間連続塗布した。陰性コントロール(ベヒクル コントロール、Vehicle Control)は80 %EtOHとした。各群5匹設定した。投与終了後、24時間に経皮的散逸水分量(TEWL)を、Tewameter(Courage +Khazaka社製)を用いて測定した。TEWL計測後、動物はサクリファイス
し、投与部位の皮膚を切り出し、凍結固定・凍結置換方を用いた方法により超薄切片を作製し、免疫染色をして、免疫電子顕微鏡下観察を行った。内包因子の染色は、抗コルネオデスモシン抗体としてJournal investigative dermatology 122,1137-1144,2004に記載の抗体を用い、抗グルコシルセラミド抗体としてGlycobiotech社のRabbit anti-glucosylceramideを用いた。二次抗体としては1〜20nmの金コロイドを付帯させたGoat血清の抗Rabbit IgG (H+L)を用いた。結果を図1〜4に示す。
【0045】
図1及び図2に、グルコシルセラミドを染色した場合の、ベヒクルコントロール塗布皮膚(図1)とISP−1塗布皮膚(図2)の免疫電子顕微鏡像を示す。図1に示すベヒクルコントロール塗布皮膚においては、顆粒層で染色(ドット)が確認され、また、このドットはLGと一致性の染色像であった。また、このドットは顆粒層−角層間(丸内で例示される部分)でよく放出されており、顆粒層と角層の境界から数えて1層目の角層中(角層細胞内)にもドットが見られる。しかし、2層目より表層側においては角層中、角層間ともにドットはほとんど見られなかった。一方、図2に示すISP−1塗布皮膚では、図1のベヒクルコントロール塗布皮膚と比較して、顆粒層でのドットの分布に差異は認められないものの、角層中もしくは角層間のトッドの分布領域に差異が認められた。すなわち、ベヒクルコントロール塗布皮膚においては、顆粒層から1層目の角層中でドットが認められたが、ISP−1塗布皮膚においては、顆粒層から7層目の角層中にまでドットが認められ、顆粒層−角層間のドットはベヒクルコントロール塗布皮膚に比べ低下していた。これより、ISP−1の塗布により、グルコシルセラミドの分布領域が表層側の角層中へ拡大していることが分かった。
【0046】
図3及び図4に、コルネオデスモシンを染色した場合の、ベヒクルコントロール塗布皮膚(図3)とISP−1塗布皮膚(図4)の免疫電子顕微鏡像を示す。図3に示すベヒクルコントロール塗布皮膚においては、顆粒層でドットが確認され、また、このドットはLGと一致性の染色像であった。このドットは顆粒層−角層間(丸内で例示される部分)でよく放出されており、特にデスモソーム(細胞間接着構造)周辺でよく観察された。また、顆粒層と角層の境界から数えて1層目の角層中にもドットが見られた。しかし、2層目より表層側においては、角層中、角層間ともドットはほとんど見られなかった。一方、図4に示すISP−1塗布皮膚では、図3のベヒクルコントロール塗布皮膚と比較して、顆粒層でのドットの分布に差異は認められなかったものの、顆粒層と角層の境界から数えて5層目程度までの角層中でドットが認められた。染色の程度、出現率もISP−1投与皮膚の方が有意に大きかった。これより、ISP−1の塗布により、コルネオデスモシンの発現量が増加するともに、その分布領域が表層側の角層へ拡大していることが分かった。
【0047】
次に、TEWLの測定結果を表1に示す。これより、ISP−1の投与により、TEWLが低下し、皮膚バリア機能が向上していることが分かる。従って、前記内包因子の発現度合いが皮膚バリア機能の指標として使用できることが判った。
【0048】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、皮膚外用剤の有効成分の選定、皮膚外用剤の評価、個々の肌に併せた化粧料の選択などに応用できる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】ベヒクル投与におけるグルコシルセラミドの発現を示す図である(図面代用写真)。
【図2】ISP−1投与におけるグルコシルセラミドの発現を示す図である(図面代用写真)。
【図3】ベヒクル投与におけるコルネオデスモシンの発現を示す図である(図面代用写真)。
【図4】ISP−1投与におけるコルネオデスモシンの発現を示す図である(図面代用写真)。
【図5】三次元培養皮膚に於いて出現しているラメラ・グラニュールを示す図である(図面代用写真)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験物質の、ラメラ・グラニュールの内包因子の発現の増大作用を指標として、該被験物質の皮膚バリア機能向上作用を評価することを特徴とする、物質の皮膚バリア機能向上作用の評価法。
【請求項2】
前記内包因子は、グルコシルセラミド、コルネオデスモシン及び角層剥離酵素から選択される少なくとも一つであることを特徴とする、請求項1に記載の評価法。
【請求項3】
前記内包因子の発現の増大は、内包因子の発現量の増加及び/又は内包因子の分布領域の拡大であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の評価法。
【請求項4】
前記内包因子の分布領域の拡大は、表層側の角層への内包因子の分布領域の拡大であることを特徴とする、請求項3に記載の評価法。
【請求項5】
被験物質の皮膚バリア機能向上作用は、一般式(I)で表される化合物の、前記内包因子の発現の増大作用を基準として評価されることを特徴とする、請求項1〜4の何れか一項に記載の評価法。
【化1】

(上記一般式(I)において、R1は水素又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、R2及びR3は、独立して水素、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のアシル基を表し、R4は水素又は−CH2OR’であり、R’は水素、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のアシル基を表し、R5、R6及びR7は、独立して水素、水酸基、炭素数1〜4のアルコキシ基又は炭素数1〜4のアルキルカルボニルオキシ基を表し、Aは、置換基を有しても良い炭素数5〜20の炭化水素基を表す。)
【請求項6】
一般式(I)で表される化合物が、一般式(II)で表される化合物であることを特徴とする、請求項5に記載の評価法。
【化2】

(但し、式中Xはメチレン基、ヒドロキシメチレン基又はカルボニル基を表し、破線で表される結合はあってもなくても良い。)
【請求項7】
一般式(II)で表される化合物が、マイリオシンであることを特徴とする、請求項6に記載の評価法。
【請求項8】
被験物質の、前記内包因子の発現の増大作用が、一般式(I)で表される化合物の、前
記内包因子の発現の増大作用より大きい場合に、該被験物質は、皮膚バリア機能向上に有効であると鑑別することを特徴とする、請求項5〜7の何れか一項に記載の評価法。
【化3】

(上記一般式(I)において、R1は水素又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、R2及びR3は、独立して水素、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のアシル基を表し、R4は水素又は−CH2OR’であり、R’は水素、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のアシル基を表し、R5、R6及びR7は、独立して水素、水酸基、炭素数1〜4のアルコキシ基又は炭素数1〜4のアルキルカルボニルオキシ基を表し、Aは、置換基を有しても良い炭素数5〜20の炭化水素基を表す。)
【請求項9】
一般式(I)で表される化合物が、一般式(II)で表される化合物であることを特徴とする、請求項8に記載の評価法。
【化4】

(上記一般式(II)において、Xはメチレン基、ヒドロキシメチレン基又はカルボニル基を表し、破線で表される結合はあってもなくても良い。)
【請求項10】
ラメラ・グラニュールの内包因子の発現の程度を指標として、皮膚バリア機能を評価することを特徴とする、皮膚バリア機能の評価法。
【請求項11】
前記内包因子の発現の程度が、内包因子の発現量の大小及び/又は内包因子の分布領域の大小であることを特徴とする、請求項10に記載の皮膚バリア機能の評価法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−215945(P2008−215945A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−51677(P2007−51677)
【出願日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【出願人】(000113470)ポーラ化成工業株式会社 (717)
【出願人】(598034177)
【出願人】(501190941)三井製糖株式会社 (52)
【Fターム(参考)】