説明

皮膚収斂剤

【課題】 本発明の目的は、安全性が高く、優れた皮膚収斂作用を長時間にわたり持続できる皮膚収斂剤を提供することである。
【解決手段】 ラベンダーの水蒸気蒸留水を、皮膚収斂剤の有効成分として使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は皮膚収斂剤に関する。より詳細には、本発明は、安全性が高く、優れた皮膚収斂作用を長時間にわたり持続できる皮膚収斂剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、香粧品や医薬品には、皮膚の蛋白質を引き締め、脂質や汗の過剰分泌を抑制する目的で、皮膚収斂剤が使用されている。しかしながら、従来使用されている皮膚収斂剤では、短期的に皮膚収斂効果が認められるものの、効果の持続性に乏しく、安全性を考慮した使用量範囲内では十分な効果が得られないという問題点がある。そこで、安全性が高く、優れた皮膚収斂作用を長時間にわたり持続できる皮膚収斂剤の開発が求められている。
【0003】
ところで、ラベンダーを水蒸気蒸留することにより得られる水蒸気蒸留水には、肌にツヤ・張りを与える作用を有していることが報告されているが(特許文献1参照)、該水蒸気蒸留水に皮膚を収斂する作用があることについては全く知られていない。なお、肌にツヤ・張りを与える効果は、皮膚の保湿作用や皮膚のターンオーバーに基づいて得られるものであり、肌を引き締める収斂効果とは相反する効果と考えられている。そのため、肌にツヤ・張りを与える効果と収斂効果との間に関連性は認められない。
【特許文献1】特表2004−238299号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明の目的は、安全性が高く、優れた皮膚収斂作用を長時間にわたり持続できる皮膚収斂剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、ラベンダーを水蒸気蒸留することにより得られる水蒸気蒸留水には、優れた皮膚収斂作用があることを見出した。更に、該水蒸気蒸留水は、皮膚収斂作用を比較的長期にわたり発揮できることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて、更に検討を重ねて開発されたものである。
【0006】
即ち、本発明は、下記に掲げる発明を提供するものである:
項1. ラベンダーの水蒸気蒸留水を有効成分とする、皮膚収斂剤。
項2. ラベンダーの水蒸気蒸留水が、ラベンダーの地上部又は全草から得られるものである、項1に記載の皮膚収斂剤。
項3. ラベンダーが、おかむらさき又はその改良品種である、項1又は2に記載の皮膚収斂剤。
【0007】
以下に、本発明を詳細に説明する。本発明の皮膚収斂剤は、ラベンダーの水蒸気蒸留水を有効成分とすることを特徴とするものである。
【0008】
ラベンダーは、シソ科(Labiatae)、ラバンジュラ属(Lavandula)に属する植物種であり、真正ラベンダー(学名;Lavandula angustifolia、異学名;L.officinalis、L.vera)、スパイクラベンダー(学名;L.spica、異学名;L.latifolia)、ストエカス(学名;L.stoechas)、ラバンジン(学名;L.hybrida)などが挙げられる。本発明において、使用するラベンダーの種については特に制限されないが、好ましいものとして真正ラベンダーを挙げることができる。特に好ましいものとして、おかむらさき、はなもいわ、濃紫早咲、ようていの各品種を挙げることができ、もっとも好ましくはおかむらさき又はその改良品種、特に日本の北海道産のものである。なお、ラベンダーは野生種であってもよく、栽培種であってもよい。
【0009】
ラベンダーの水蒸気蒸留水の原料としては、ラベンダーの花、花穂、果実、果皮、茎、葉、枝、枝葉、幹、樹皮、根茎、根皮、種子をいずれか単独で、又は組み合わせて使用してもよく、またラベンダーの全草を使用してもよい。ラベンダーの水蒸気蒸留水の原料として、好ましくは地上部(根を除く全草)又は全草であり、これらを使用することにより一層優れた皮膚収斂効果を得ることができる。
【0010】
ラベンダーの水蒸気蒸留水は、ラベンダー1重量部に対して、水0.6〜2重量部、好ましくは0.8〜1重量部を用いて、水蒸気蒸留を行い、捕集した蒸留液の水相を回収することにより調製される。水蒸気蒸留の方法については特に制限されないが、好ましくは加圧水蒸気蒸留法が挙げられる。
【0011】
本発明の皮膚収斂剤は、それ自体単独で外皮用組成物として皮膚に適用することにより使用できるが、外皮用組成物に配合して使用することもできる。本発明の皮膚収斂剤が配合される外皮用組成物としては、皮膚外用剤(外用医薬品又は外用医薬部外品)の他、軟膏、クリーム、乳液、化粧水、ローション、パック、浴用剤、ロールオン等の化粧料;ボディーシャンプー、ヘアシャンプー、リンス等の洗浄料が挙げられる。
【0012】
本発明の皮膚収斂剤の外皮用組成物中の割合については、該外皮用組成物の形態や期待される効果等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、該外皮用組成物の総重量に対して、有効成分(ラベンダーの水蒸気蒸留水)が0.05〜100重量%、好ましくは0.1〜100重量%、更に好ましくは1〜100重量%となる割合が例示される。
【0013】
本発明の皮膚収斂剤が配合される外皮用組成物には、必要に応じて、無機顔料、紫外線吸収剤、美白成分、界面活性剤、細胞賦活剤、抗炎症剤、抗菌剤、保湿剤、香料、着色剤、消臭剤等の添加剤を適宜含有していてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の皮膚収斂剤は、天然由来成分であるラベンダーを水蒸気蒸留水を使用しており安全性が高いため、該剤をそのまま皮膚に適用して日常的な皮膚のケアに使用することができる。
【0015】
また、本発明の皮膚収斂剤を化粧料や皮膚外用剤に配合することによって、皮膚収斂用の化粧料や皮膚収斂用の皮膚外用剤を提供することもできる。
【0016】
更に、本発明の皮膚収斂剤は、皮膚を引き締めることにより、体臭の原因物質である皮脂の分泌や発汗を抑制できるので、体臭抑制剤としても有用である。
【0017】
また、本発明の皮膚収斂剤は、皮膚収斂作用の持続性の点においても優れており、有用性が高い。更に、本発明の皮膚収斂剤は、人間に対する睡眠誘発効果、安眠効果や鎮静効果を奏する心地よい芳香を放出させるので、該剤によれば、皮膚を収斂させると同時に精神安定等のリラックス効果を得ることができる。
【0018】
特に、上記本発明の効果は、ラベンダーの地上部又は全草から得られる水蒸気蒸留水を使用する場合に顕著であり、該水蒸気蒸留水を有効成分とする皮膚収斂剤は極めて有用性が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、実施例及び試験例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1
ラベンダー(おかむらさき)の地上部(根を除く全草)60kgに対して、水約50kgを用いて加圧水蒸気蒸留を行い、水相36kg及び油相0.36kgを含む蒸留液を製した。蒸留液から水相を回収して、ラベンダーの水蒸気蒸留水を得た。
【0020】
試験例1 収斂効果の評価試験
実施例1で得られたラベンダーの水蒸気蒸留水について、以下の方法により収斂作用の評価試験を行なった。なお、本試験は収斂作用の試験法として化粧品業界で一般的に採用されているもので、蛋白凝集力で収斂性を評価するものである。
【0021】
まず、実施例1で得られたラベンダーの水蒸気蒸留水を9.5重量%のエタノール水溶液で0.01、0.05、0.1及び1重量%の濃度に希釈して、4種の試験サンプルを調製した。この試験サンプル4重量部に対して、0.5重量%アルブミン水溶液1重量部を添加し、5分混合した後に、日本精密工業(株)製の積分球式濁度計を用いて白板法により濁度を測定した(試験例1)。また、空試験として、ラベンダーの水蒸気蒸留水を含まない場合について同様の測定を行い、濁度の測定値の補正を行った。また、比較として、ラベンダーの水蒸気蒸留水の代わりに、ラベンダー精油を使用して、上記と同様に試験を行った(比較試験例1)。測定された濁度は、アルブミンの凝集の程度を示しており、試験サンプルの皮膚収斂作用の指標である。
【0022】
得られた結果を表1に示す。この結果、ラベンダーの水蒸気蒸留水には、優れた蛋白質凝集作用があり、皮膚収斂剤として有用であることが確認された。一方、ラベンダー精油については、蛋白質凝集作用は殆ど認められなかった。
【0023】
【表1】

【0024】
試験例2 皮膚一時刺激性試験
実施例1で得られたラベンダーの水蒸気蒸留水について、以下の方法により皮膚一次刺激性を評価した。
【0025】
背部を剃刀にて剃ったハートレー系モルモット(メス、一群3匹、体重300-360g)の皮膚の2×2cm2の正方形領域の3カ所に、実施例1で得られたラベンダーの水蒸気蒸留水(試験例2)、ラベンダー精油(比較試験例2)、又は生理的食塩水(大塚製薬株式会社製)(コントロール)をそれぞれ0.5mlずつ塗布した。判定は、塗布1及び48時間後に一次刺激性の評点法(draize基準)により、紅班及び浮腫を指標として行なった。判定方法及び判定基準については、以下の通りである。
<A.紅班と痂皮形成の判定>
(評点)
0:紅班なし
1:ごく軽度の紅班
2:明らかな紅班
3:中程度から強度の紅班
4:深紅色の強い紅班から軽い痂皮形成
<B.浮腫形成の判定>
(評点)
0:浮腫なし
1:ごく軽度の浮腫
2:軽度の浮腫
3:中程度の浮腫
4:強い浮腫
<一次刺激インデックス(P.I.I)の算出方法>
塗布1及び48時間後に「紅班と痂皮形成」について判定した評点の合計と、塗布1及び48時間後に「浮腫形成」について判定した評点の合計とを合算して、2で割ることにより、一次刺激インデックス(P.I.I)を算出する。
<Draizeにおける皮膚反応の評価>
下記基準に従って、一次刺激インデックス(P.I.I)の値から安全性の区分を判定する。
P.I.I.=0:無刺激物
0< P.I.I. <2:弱い刺激物
2≦ P.I.I. <5:中等度の刺激物
5≦ P.I.I.:強い刺激物。
【0026】
試験例2、比較試験例2及びコントロールのそれぞれについて、一次刺激インデックス(P.I.I)を算出した結果を表2に示す。この結果、ラベンダーの水蒸気蒸留水は、皮膚一次刺激性は認められず、安全であることが確認された。
【0027】
【表2】

【0028】
試験例3 皮膚累積刺激性試験
実施例1で得られたラベンダーの水蒸気蒸留水について、以下の方法により皮膚累積刺激性を評価した。
【0029】
背部を剃刀にて剃ったハートレー系モルモット(メス、一群3匹、体重300-360g)の皮膚2×2cm2の正方形領域の3カ所に、実施例1で得られたラベンダーの水蒸気蒸留水(試験例3)、ラベンダー精油(比較試験例3)、又は生理的食塩水(大塚製薬株式会社製)(コントロール)をそれぞれ0.5mlずつ塗布した。塗布24時間後に、塗布部分をぬるま湯で清拭した。この作業(塗布と清拭の作業)を15回繰り返した後、2週間放置した。2週間経過後、前述と同じ手法でモルモットの皮膚上にラベンダーの水蒸気蒸留水(試験例3)、ラベンダー精油(比較試験例3)、又は生理的食塩水コントロール)を塗布した(惹起)。塗布24及び72時間後に皮膚の状態を目視にて確認し、評点法(draize基準)により、紅班及び浮腫を指標として皮膚累積刺激性の判定を行なった。判定方法及び判定基準については、以下の通りである。
<A.紅班と痂皮形成の判定>
(評点)
0:紅班なし
1:ごく軽度の紅班
2:明らかな紅班
3:中程度から強度の紅班
4:深紅色の強い紅班から軽い痂皮形成
<B.浮腫形成の判定>
(評点)
0:浮腫なし
1:ごく軽度の浮腫
2:軽度の浮腫
3:中程度の浮腫
4:強い浮腫
<累積刺激インデックス(P.I.I)の算出方法>
塗布24及び72時間後に「紅班と痂皮形成」について判定したそれぞれの評点と、塗布24及び72時間後に「浮腫形成」について判定したそれぞれの評点を合算して、2で割ることにより、累積刺激インデックス(P.I.I)を算出する。
<Draizeにおける皮膚反応の評価>
下記基準に従って、累積刺激インデックス(P.I.I)の値から安全性の区分を判定する。
P.I.I.=0:無刺激物
0< P.I.I. <2:弱い刺激物
2≦ P.I.I. <5:中等度の刺激物
5≦ P.I.I.:強い刺激物。
【0030】
試験例3、比較試験例3及びコントロールのそれぞれについて、累積刺激インデックス(P.I.I)を算出した結果を表3(塗布24時間後)及び4(塗布72時間後)に示す。この結果から、ラベンダーの水蒸気蒸留水は、皮膚累積刺激性は認められず、安全であることが確認された。
【0031】
【表3】

【0032】
【表4】

【0033】
試験例4 体臭発生抑制試験
実施例1で得られたラベンダーの水蒸気蒸留水について、以下の方法により体臭発生抑制効果を評価した。
【0034】
腋臭が強いと判定された男子被験者5名に、実施例1で得られたラベンダーの水蒸気蒸留水を被験者の一方の腋下に塗布し、もう一方の腋下は対照として塗布しなかった。塗布前とその直後、4時間後、12時間後のそれぞれに下記判定基準に従って臭いの判定を行った(試験例4)。また、比較として、下記処方のラベンダー油含有組成物を調製し、これをラベンダーの水蒸気蒸留水の代わりに使用して、上記と同様の試験を行った(比較試験例4)。
<臭いの判定基準>
0:臭わない
1:かすかに臭う
2:やや臭うが弱い
3:はっきりと臭う
4:非常に強く臭う
<ラベンダー油含有組成物の処方>
ラベンダー精油 1重量%
界面活性剤 2重量%
グリセリン 10重量%
流動パラフィン 20重量%
精製水 67重量%
合計 100重量%。
【0035】
得られた結果を表5に示す。この結果から、ラベンダーの水蒸気蒸留水を使用することにより、皮脂の分泌や発汗が抑制され、体臭の発生を低減できることが明らかとなった。この体臭発生の低減効果は、ラベンダーの水蒸気蒸留水による皮膚収斂作用と共に芳香効果が組み合わされて奏される結果として、獲得されていると類推される。また、本試験結果から、ラベンダーの水蒸気蒸留水の皮膚収斂作用には持続性があり、本発明の皮膚収斂剤は、長期間にわたって皮膚収斂効果を奏することが確認された。
【0036】
【表5】

【0037】
試験例5 鎮静効果(睡眠誘発効果)の評価試験
成人男性3人を被験者に選択した。被験者3人に、実施例1で得られたラベンダーの水蒸気蒸留水5mLを両腋下部に塗り拡げ、その後、被験者を直ちに就寝させ、睡眠に如何なる影響を及ぼしているかについて評価した(試験例5)。なお、評価は、(1)寝付き、(2)眠りの深さ、(3)睡眠中の目覚め、及び(4)目ざめの状態について、下記評価基準に従って評価した。また、比較として、ラベンダーの水蒸気蒸留水の代わりに、ラベンダー精油含有溶液(ラベンダー精油1重量%、界面活性剤5重量%、残部水)(比較試験例5)を用いて、上記と同様に試験を行った。
<評価基準>
A:いつもに比べて良好である
B:いつもに比べて変わりがない
C:いつもに比べて悪い。
【0038】
得られた結果を表6に示す。この結果から、本発明の皮膚収斂剤には、優れた睡眠誘発効果や安眠効果があり、精神を鎮静させる効果があることが明らかとなった。
【0039】
【表6】

【0040】
参考例 組成分析
実施例1で得られたラベンダーの水蒸気蒸留水、及びラベンダー精油について、ガスクロマトグラフィーにより成分分析を行った。分析対象のラベンダー精油には、実施例1において、水蒸気蒸留により製された蒸留液から回収した油相を用いた。分析には、実施例1で得られたラベンダーの水蒸気蒸留水47.5gにヘキサン2.5gを混合したもの、及び上記ラベンダー精油をメタノールで1重量%に希釈したものを試料として使用した。分析条件は、以下の通りである。
<分析条件>
ガスクロマトグラフ装置
Hewlett Packard 社製
HP6890シリーズ
カラム
DB−5MS
長さ 30m
内径 0.25mm
膜厚 0.25μm
オーブン
初期温度50℃7分
毎分5℃で100℃まで昇温
毎分20℃で250℃まで昇温
250℃定温10.5分
分析合計時間 45分
注入口
温度 250℃
スプリット比 10:1
総流量 9.8ml/分
キャリアガス 超高純度ヘリウム
試料注入量
2μl
検出器
FID(水素炎イオン化)検出器。
【0041】
ラベンダーの水蒸気蒸留水について得られたクロマトグラフを図1に、またラベンダー精油について得られたクロマトグラフを図2に示す。図1と図2ではピークパターンが相違しており、ラベンダーの水蒸気蒸留水とラベンダー精油とでは、その組成を異にするものであることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】実施例1で得られたラベンダーの水蒸気蒸留水をガスクロマトグラフィーにより分析した結果(クロマトグラフ)を示す図である。
【図2】ラベンダー精油をガスクロマトグラフィーにより分析した結果(クロマトグラフ)を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラベンダーの水蒸気蒸留水を有効成分とする、皮膚収斂剤。
【請求項2】
ラベンダーの水蒸気蒸留水が、ラベンダーの地上部又は全草から得られるものである、請求項1に記載の皮膚収斂剤。
【請求項3】
ラベンダーが、おかむらさき又はその改良品種である、請求項1又は2に記載の皮膚収斂剤。

【図1】
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【図2】
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