説明

皮膚外用剤

【課題】トコフェリルリン酸エステル及び/またはその塩類を安定に配合した皮膚外用剤を提供すること。
【解決手段】化学式1(R,Rはそれぞれ水素、アルカリ金属あるいは有機塩基から選ばれる)で表されるトコフェリルリン酸エステル及び/またはその塩類にコレステロールプルランを配合することによって、トコフェリルリン酸エステル及び/またはその塩類を安定に配合できることを見出した。トコフェリルリン酸エステル及び/またはその塩類の配合量は好ましくは0.01〜5.0重量%である。コレステロールプルランの配合量は0.001〜0.1重量%であることが好ましく、さらに好ましくは0.002〜0.05重量%である。コレステロールプルランは従来使用された安定化剤より少量で効果を示すため、処方設計の幅を制限しない。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トコフェリルリン酸エステル及び/またはその塩類を安定に配合することを特徴とする皮膚外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
トコフェロールはビタミンEとして広く認知されており、高い抗酸化能、血行促進作用等の生理活性を示すことから、古くより医薬品、化粧品、飼料等に配合されている。しかしながら、トコフェロールは油脂やエタノール等には溶解するが水には不溶であり、また粘性の液体であるため、その取扱いは制約を受ける。このため、様々なトコフェロール誘導体が開発され、水溶性を高める試みがなされている(特許文献1)。
【0003】
トコフェロール誘導体であるトコフェリルリン酸エステル及び/またはその塩類は生体において代謝されることにより、トコフェロールと同等またはそれ以上の生理活性を示すことがある。皮膚外用剤に配合した場合にはシワ防止効果(特許文献2)、美白効果(特許文献3)及び活性酸素消去効果(特許文献4)を示すことが開示されており、今後もその利用価値は高いと思われる。
【0004】
しかしながら、トコフェリルリン酸エステル及び/またはその塩類は、トコフェロールと比較して高い水溶性を示すものの、水溶液または乳化系に配合する際に凝集沈殿等を起こすため、安定に配合することが非常に困難であった。
【0005】
この課題に対しては従来様々な安定化技術が検討されており、トコフェリルリン酸エステル及び/またはその塩類に、多価アルコール及び/またはある種の酸及び/またはその塩類を配合すること(特許文献5)または非イオン性界面活性剤を配合すること(特許文献6)が開示されている。しかし、これらの方法は未だ低温での保存安定性に関して十分とは言い難く、また、製剤中に多成分を配合すること、または多量の安定化剤を配合することが必要であり製品の処方設計が制限されるため、より有効で簡便な安定化技術の開発が望まれていた。
【0006】
コレステロールプルランは水溶性の高い非イオン性の直鎖状の多糖であるプルランに疎水基としてコレステロール基をウレタン結合で導入したものである。コレステロールプルランを配合した皮膚外用剤は、プルラン構造がもつ保湿性、被膜形成能とコレステロール基がもつ疎水性及び皮膚などに対する親和性、安定性のために、皮膚表面に安定で保湿性に優れたコレステロール置換プルラン層を形成することが可能である。コレステロールプルランはプルランに比べて水への溶解性が低いため、水中では非常に低濃度から粒径100nm程度の安定な集合体を形成し、臨界集合体形成濃度は10−7mol/L程度である(特許文献7)。
【0007】
コレステロールプルランの用途としては、リポソームの多糖被覆剤(特許文献8)、脂肪乳剤の被覆剤(特許文献9)、多糖被覆エマルション作成時の高分子界面活性剤(特許文献10)が開示されている。また、コレステロールプルランが可溶性タンパク質や酵素を取り込んで複合体を形成し、熱変性を抑えることが報告されている(非特許文献1)。しかしながら、これらの文献において水に難溶である薬物の溶解性を向上させる効果についての記述はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】WO97/014705
【特許文献2】特開2008−007428号公報
【特許文献3】特開2004−026817
【特許文献4】特開2006−232767
【特許文献5】特開平11−199465号公報
【特許文献6】特開昭59−44375号公報
【特許文献7】WO00/59948
【特許文献8】特開昭61−69801号公報
【特許文献9】特開昭63−319046号公報
【特許文献10】特開平2−144140号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】猪又潔ら著「FRAGRANCE JOURNAL 2002−7,74−78」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明はトコフェリルリン酸エステル及び/またはその塩類を容易に水に溶解させ、保存安定性の高い皮膚外用剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らはこれらの課題に対し検討した結果、トコフェリルリン酸エステル及び/またはその塩類にコレステロールプルランを配合することでトコフェリルリン酸エステル及び/またはその塩類を安定に配合できることを見出し、本発明を完成するにいたった。
【発明の効果】
【0012】
【化1】

【0013】
本発明は、化学式1(R,Rはそれぞれ水素、アルカリ金属あるいは有機塩基から選ばれる)で表されるトコフェリルリン酸エステル及び/またはその塩類にコレステロールプルランを配合することにより、トコフェリルリン酸エステル及び/またはその塩類を安定に配合することを可能とした。本発明において、コレステロールプルランは従来使用された安定化剤より少量で効果を示すため、処方設計の幅が広がりトコフェリルリン酸エステル及び/またはその塩類を配合した様々な使用感の製品が開発できるようになる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の化学式1で表されるトコフェリルリン酸エステル及び/またはその塩類は、R、Rがそれぞれ水素、アルカリ金属あるいは有機塩基から選ばれるが、少なくとも一方がアルカリ金属、アミンあるいは第4級アンモニウムから選ばれることが好ましい。さらに好ましくはR、Rのうち少なくとも一方がナトリウム、カリウム、L−アルギニン、トリエタノールアミンあるいはアンモニウム等から選ばれる。さらに好ましくはR、Rのうち少なくとも一方がナトリウムである。トコフェリルリン酸エステル及び/またはその塩類の配合量は特に限定されないが0.01〜5重量%が好ましい。0.01重量%よりも少ない量では水に溶解しやすく、本発明の効果の発現が乏しい。5重量%を超える量では製剤の保存安定性に問題がある。本発明を実施する場合には、トコフェリルリン酸ナトリウムの市販品としてビタミンEリン酸Na(昭和電工(株)製、商品名)等が挙げられる。
【0015】
本発明で用いられるコレステロールプルランの配合量は特に限定されないが、好ましくは0.001〜0.1重量%の範囲であり、さらに好ましくは0.002〜0.05重量%である。0.001重量%よりも少ない量では保存安定性を高める効果が期待できない場合がある。0.1重量%を越える量ではコレステロールプルラン水溶液を凍結し、室温で解凍すると白濁する場合がある。コレステロールプルランは水に予め分散させた後、高圧乳化機を用いて安定な集合体を形成させて分散液として用いると良い。本発明を実施する場合には、コレステロールプルランの市販品として、1重量%分散液であるMeduseeds−C1(日油(株)製、商品名)等が挙げられる。
【0016】
本発明の皮膚外用剤は、本発明の効果を損なわない範囲で、化粧水、乳剤、クリーム、軟膏、水性ゲル等に用いることができるが、水性皮膚外用剤であることが好ましい。本発明の水性皮膚外用剤とは水に対し可溶な皮膚外用剤を言い、例えば、化粧水、水性ゲル等が挙げられるが、これらに制限されるものではない。
【0017】
本発明の皮膚外用剤を製造するには、コレステロールプルランを予め水に分散させた後、トコフェリルリン酸エステル及び/またはその塩類を添加し溶解させることによって得られる。
【0018】
また、本発明の皮膚外用剤は上記必須成分の他には一般に皮膚外用剤に用いられる界面活性剤、油性基剤、脂肪酸、アルコール、水性基剤、酸化防止剤、防腐剤、金属イオン封鎖剤、pH調整剤、水溶性ポリマー、シリコーン油、紫外線吸収剤、ビタミン類、アミノ酸類、糖類などを配合してもよい。
【0019】
本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。実施例中の配合量は重量%である。
【実施例】
【0020】
実施例1〜9及び比較例1〜5
次の表1及び2に記載した組成で、下記の製法によって皮膚外用剤を製造し、その保存安定性を評価した。その結果を併せて表1及び2に記載する。
表1及び2中、トコフェリルリン酸ナトリウム(ビタミンEリン酸Na、昭和電工(株)製)、コレステロールプルラン(1重量%分散液、Meduseeds−C1、日油(株)製)及びポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油(酸化エチレン平均付加モル数:60、NIKKOL HCO−60、日光ケミカルズ(株)製)をそれぞれ用いた。
(製法)
実施例1〜9及び比較例1〜4
1重量%コレステロールプルラン分散液と少量の精製水にトコフェリルリン酸ナトリウムを加え溶解させた。さらに残量の精製水を加えて皮膚外用剤を得た。
比較例5
予めポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油を溶解させた少量の精製水にトコフェリルリン酸ナトリウムを加え溶解させた。さらに残量の精製水を加えて皮膚外用剤を得た。
【0021】
保存安定性は−25℃で凍結させた後室温に戻し解凍させる試験(以下、凍結試験とする)を3回繰り返したものについて外観を評価した。透明のものは◎、透明から青白色のものは○、青白色のものは△、沈殿及び/または濁りを生じたものは×とした。
【0022】
【表1】

【0023】
【表2】

【0024】
トコフェリルリン酸ナトリウムは低温での溶解性が悪く、解凍した際に低濃度では青白色になり(比較例1)、濃度が高くなると白濁した(比較例2、3)。コレステロールプルランを添加するとトコフェリルリン酸ナトリウムの再溶解性が改善したが(実施例1〜9)、ポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油を添加した場合は再溶解性は改善しなかった(比較例4)。コレステロールプルランの濃度が低い場合は溶解性を改善する効果は認められたが外観が微青白色を呈した(実施例2)。コレステロールプルランの濃度が高い場合は調製直後から液は微青白色を呈したが、本発明の効果に影響を及ぼすものではなかった(実施例6及び実施例9)。コレステロールプルラン水溶液は再溶解性が悪く白濁した(比較例5)。
【0025】
実施例10、11及び比較例6
次の表3に記載した組成で、下記の製法によって皮膚外用剤を製造し、その保存安定性を評価した。その結果を併せて表3に記載する。
表3中、トコフェリルリン酸ナトリウム(ビタミンEリン酸Na、昭和電工(株)製)、コレステロールプルラン(1重量%分散液、Meduseeds−C1、日油(株)製)、EDTA−2Na(クレワット−N、ナガセケムテックス(株)製)、ヒアルロン酸ナトリウム(ヒアルロン酸FCH 60(株)紀文フードケミファ製)及びパラオキシ安息香酸メチル(メッキンス−M、上野製薬(株)製)をそれぞれ用いた。
(製法)
1重量%コレステロールプルラン分散液と少量の精製水にトコフェリルリン酸ナトリウムを加え溶解させた。香料及びパラオキシ安息香酸メチルはエタノールに溶解させた。各成分の溶解を確認した後、EDTA−2Na及びヒアルロン酸ナトリウムを予め溶解させた残量の精製水に上記溶液を加えて皮膚外用剤を得た。
【0026】
【表3】

【0027】
実施例10、11の皮膚外用剤は透明な外観を有し、凍結試験と、5℃、室温、40℃に保存した場合の28日後における保存安定性を評価した結果はいずれも良好であった。比較例6は解凍した際に白濁した。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、化学式1(R,Rはそれぞれ水素、アルカリ金属あるいは有機塩基から選ばれる)で表されるトコフェリルリン酸エステル及び/またはその塩類にコレステロールプルランを配合することにより、トコフェリルリン酸エステル及び/またはその塩類を安定に配合することを可能とした。本発明において、コレステロールプルランは従来使用された安定化剤より少量で効果を示すため、処方設計の幅が広がりトコフェリルリン酸エステル及び/またはその塩類を配合した様々な使用感の製品が開発できるようになる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
【化1】

化学式1(R,Rはそれぞれ水素、アルカリ金属あるいは有機塩基から選ばれる)で表されるトコフェリルリン酸エステル及び/またはその塩類及びコレステロールプルランを配合することを特徴とする皮膚外用剤。
【請求項2】
請求項1記載の化学式1で表されるトコフェリルリン酸エステル及び/またはその塩類の配合量が0.01〜5重量%、及びコレステロールプルランの配合量が0.001〜0.1重量%であることを特徴とする請求項1記載の皮膚外用剤。
【請求項3】
コレステロールプルランの配合量が0.002〜0.05重量%であることを特徴とする請求項1あるいは2記載の皮膚外用剤。
【請求項4】
皮膚外用剤が水性であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の水性皮膚外用剤。




【公開番号】特開2011−201789(P2011−201789A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−68260(P2010−68260)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(592262543)日本メナード化粧品株式会社 (223)
【Fターム(参考)】