説明

皮膚細胞増殖促進組成物

【課題】 表皮組織における細胞増殖を活性化して皮膚のターンオーバーを促進し、紫外線等による炎症を効果的に軽減・抑制することができる皮膚細胞増殖促進組成物を提供する。
【解決手段】 皮膚細胞増殖促進組成物の有効成分としてカカオマス中に含まれるココア分を有効成分として含有させる。前記ココア分を含有する原料としては、ココア及び/又はカカオマスが好ましく用いられる。本皮膚細胞増殖促進組成物は、前記カカオマス及び/又はその加工物を1質量%以上含有することが好ましい。また、他の成分として、ビタミンB群、ビタミンC、コラーゲン又はコラーゲンペプチドから選ばれた少なくとも1種を含有することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カカオマス及び/又はその加工物を有効成分として含有する皮膚細胞増殖促進組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は、生体の最も外側にある器官で、病原菌や異物等の侵入を防ぐと共に外界からの物理的刺激等から生体を保護している。
【0003】
皮膚は、表皮、真皮、皮下組織の3層から成り立っており、最も表面にある表皮は、下から基底層、有刺層、顆粒層、角質層の4つに分けられ、基底層で生まれた細胞は、徐々に分化しながら上層へ移動して角質層となり、最終的には垢となって剥がれ落ちる。
【0004】
通常、健康な皮膚は、上記のような新陳代謝(ターンオーバー)を活発に行っており、その周期は、部位差、個人差はあるものの、約28日間と言われている。
【0005】
しかしながら、老化や紫外線、空気汚染、食べ物、ストレス等の様々な原因によってターンオーバーの周期は長くなり、ハリの低下、小ジワ、くすみ等の肌のトラブルの原因となることが知られている。
【0006】
そのため、表皮組織における細胞増殖を活性化して皮膚のターンオーバーの乱れを改善し、皮膚を健康な状態に保つために様々な製品が研究開発されており、例えば、下記特許文献1には、家禽類の皮、骨及び/又は腱から調製された等電点7〜10の食用ゼラチン及び/又はその加水分解物を含有する皮膚代謝促進物が開示されている。
【0007】
下記特許文献2には、ハス胚芽抽出物を含有することを特徴とする表皮角化細胞増殖促進剤が開示されている。
【0008】
下記特許文献3には、杜仲若しくはその抽出物と、人参若しくはその抽出物とを必須成分とし、これにデオキシリボ核酸、コンドロイチン硫酸、コラーゲン若しくはその加水分解物、ハトムギエキスの一種又は二種以上を選択して配合することを特徴とする皮膚賦活剤が開示されている。
【0009】
一方、下記特許文献4には、カカオマス中に含まれるココア分を有効成分とする創傷治癒促進剤が開示されており、この創傷治癒促進剤は、皮膚及びその他の組織(臓器)の表面組織の損傷の修復、再生を促進することが記載されている。
【特許文献1】特開2000−201649号公報
【特許文献2】特開2002−68993号公報
【特許文献3】特開平9−67262号公報
【特許文献4】特開2001−233779号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記特許文献1に記載された皮膚代謝促進物は、主に真皮組織のマトリックス成分であるコラーゲンやヒアルロン酸等の代謝を促進するものであり、皮膚のターンオーバー促進の点から見ると十分な効果が期待できるものではなかった。
【0011】
また、上記特許文献2、3に記載された表皮角化細胞増殖促進剤や皮膚賦活剤は、風味等の点から、その効果が期待できるほどの量を日常的に摂取することが困難であり、充分満足できるものではなかった。
【0012】
一方、上記特許文献4に記載された創傷治癒促進剤は、擦過傷、裂傷、切創、挫傷、潰瘍、火傷等の外科的な損傷に対しては効果が期待できるものの、皮膚のターンオーバーの乱れ等を改善する効果については何ら記載されていない。
【0013】
したがって、本発明の目的は、表皮組織における細胞増殖を活性化して皮膚のターンオーバーを促進し、紫外線等による炎症を効果的に軽減・抑制することができる皮膚細胞増殖促進組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本発明の皮膚細胞増殖促進組成物は、カカオマス及び/又はその加工物を有効成分として含有することを特徴とする。
【0015】
本発明によれば、表皮組織の基底層における細胞増殖を促進して皮膚のターンオーバーの乱れを改善することができる皮膚細胞増殖促進組成物を提供できる。
【0016】
本発明においては、前記カカオマス及び/又はその加工物は、ココアパウダーであることが好ましい。この態様によれば、より風味に優れた皮膚細胞増殖促進組成物を提供できる。
【0017】
また、前記カカオマス及び/又はその加工物を1質量%以上含有することが好ましい。
【0018】
更に、他の成分として、ビタミンB群、ビタミンC、コラーゲン又はコラーゲンペプチドから選ばれた少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0019】
更にまた、1食分当たり、ビタミンB群を0.3〜60mg、ビタミンCを35〜1000mg、コラーゲンを200mg〜10g、及び/又はコラーゲンペプチドを200mg〜10g含有することが好ましい。
【0020】
これらの態様によれば、上記他の成分とカカオマス及び/又はその加工物との相乗効果によって更に優れた細胞増殖効果が期待できる皮膚細胞増殖促進組成物を提供できる。
【0021】
本発明の皮膚細胞増殖促進組成物は、紫外線あるいは日焼けによる皮膚の炎症の治療、更には、皮膚のターンオーバーを促進するために好適に用いられる。これにより、紫外線等による皮膚の炎症を抑制して赤みを速やかに軽減し、皮膚のツヤ等の回復を促進できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の皮膚細胞増殖組成物は、カカオマス及び/又はその加工物を有効成分として含有するので、風味がよく、そのままでも日常的に十分な量を摂取することができるだけでなく、様々な飲食品等に配合して摂取することもできるので、より高い効果が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明において、カカオマスは、通常、チョコレートやココア飲料等に使用されているものを用いることができる。例えば、クリーナーでカカオ豆を選別し、セパレータで豆を砕いて皮などを取り除き、リアクターでアルカリ剤を加えて反応させ、ロースターで焙焼した後、グラインダーで磨砕することによりカカオマスを得ることができる。なお、アルカリ剤による反応を行わない場合もある。
【0024】
また、カカオマスの加工物としては、カカオマスをココアプレスで搾油してココアバターの一部を分離除去し、ココアミルで粉砕して細かい粉末にすることにより得られるココアパウダーのほか、カカオマス又はココアパウダーを熱水、アルコール等で抽出した抽出物等を用いることができる。
【0025】
本発明においては、ココアパウダー(カカオバター含量0〜30質量%、好ましくは10〜25質量%)が好ましく用いられる。
【0026】
本発明においては、前記カカオマス及び/又はその加工物を、固形分換算で1質量%以上含むことが好ましく、1〜70質量%含むことがより好ましく、1〜50質量%含むことが特に好ましい。なお、前記カカオマス及び/又はその加工物を、そのまま本皮膚細胞増殖促進組成物として用いることもできる。
【0027】
本発明の皮膚細胞増殖促進組成物は、更に他の成分として、ビタミンB群、ビタミンC、コラーゲン又はコラーゲンペプチドから選ばれた少なくとも1種を含有することが好ましい。例えば、ビタミンB群は、皮膚や粘膜の健康維持を助ける作用を有しており、これらを含有することにより、相乗効果が期待できる。また、ビタミンCは、抗酸化作用や体内でコラーゲンの生成を助ける作用を有しており、これを含有することにより、相乗効果が期待できる。
【0028】
ビタミンB群としては、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6等が例示でき、これらのうち1種又は2種以上を用いることができる。ビタミンB群は、1食分当たり、0.3〜60mg含有することが好ましく、0.3〜4mg含有することがより好ましい。例えば、ビタミンB1は0.3〜25mg、ビタミンB2は0.3〜25mg、ビタミンB6は0.5〜10mg含有することが好ましい。
【0029】
ビタミンCは、1食分当たり、35〜1000mg含有することが好ましく、35〜100mg含有することがより好ましい。
【0030】
コラーゲンは、食品に使用可能なものであれば特に制限なく用いることができ、牛、豚、鳥類の骨、軟骨、皮、腱、又は魚類の魚皮等を原料として調製されたものを用いることができる。コラーゲンは、1食分当たり、200mg〜10g含有することが好ましく、200mg〜3g含有することがより好ましい。また、コラーゲンペプチドは、コラーゲンをアルカリ、酸、酵素等を用いて加水分解することにより調製されたものを用いることができる。コラーゲンペプチドは、1食分当たり、200mg〜10g含有することが好ましく、200mg〜3g含有することがより好ましい。
【0031】
なお、本発明において、1食分とは、ココアであれば1杯分、チョコレートであれば1枚分又は1包装分のように、1人が1回で通常摂取する量を意味するものとする。具体的な量は、皮膚細胞増殖促進組成物の形態によって異なるため一概に言えないが、例えば、ココア飲料のような形態の場合は、通常、ココアパウダー1〜10gに、必要に応じて砂糖、粉乳等を加え、100〜150mlの牛乳若しくはお湯に溶かしたものをいい、調整ココアのような形態の場合は、ココアパウダー0.8〜10gに、砂糖及び/又はその他の甘味料1〜20g、粉乳1〜20gを加えたものをいう。また、チョコレートのような形態の場合は、通常5〜75gの製品を意味する。
【0032】
本発明の皮膚細胞増殖促進組成物は、上記の基本的成分以外に、糖質、ビタミン類、ミネラル類、賦形剤、乳製品、香料等を含むことができる。
【0033】
本発明の皮膚細胞増殖促進組成物の形態は特に限定されず、錠剤、粉末、顆粒、カプセル剤、ドリンク剤等が例示できる。また、カカオマスやココアパウダーを原料として製造される各種の飲食品、例えばココアドリンク、調整ココア、チョコレート、粉末飲料、ゼリー飲料、焼き菓子等として本発明の皮膚細胞増殖促進組成物を摂取することもできる。
【0034】
本発明の皮膚細胞増殖促進組成物の有効投与(摂取)量は、カカオマス又はココアパウダー換算で成人一日当り1〜100gであり、好ましくは3〜40gであり、より好ましくは3〜25gである。
【0035】
また、本発明の皮膚細胞増殖促進組成物を飲食品に配合する場合には、飲食品中に、カカオマス又はココアパウダーが、固形分換算で1〜70質量%含有されていることが好ましく、1〜50質量%含有されていることがより好ましい。
【実施例1】
【0036】
市販飼料「CE−2」(商品名、日本クレア株式会社製)に、ピュアココア(商品名:MORINAGA PURE COCOA、森永製菓株式会社製)を、それぞれ2.5質量%、12.5質量%添加した固形飼料を調製(日本クレア株式会社に依頼)した。なお、上記CE−2は、蛋白源として大豆粕、ホワイトフィッシュミール、脂肪源として大豆油、繊維源としてアルファルファミール、炭水化物源として小麦、トウモロコシ、フスマ、胚芽、酵母、脱脂米糠、マイロ、ビタミン類としてビタミンA、D、E、B、B、B、B12、パントテン酸カルシウム、ナイアシン、葉酸、塩化コリン、ミネラル類としてCaCO、NaCl、FeSO、MnCO、CoSO・7HOを含有するものである。
【0037】
C57BL/6Jマウス(7週齢、雄、日本クレア株式会社より購入)9匹を5日間予備飼育した後、麻酔して、背部の毛をバリカンと電気シェーバーを用いて除毛した。
【0038】
そして、5mm四方の穴をあけたアルミホイルを除毛部にあてがい、約20cmの高さからUV照射を5分間行った。UV照射は、3匹ずつ同時に行い、照射後に照射範囲が分かるようにマジックでマークした。
【0039】
このマウスを3群(1群3匹)に分け、各群にそれぞれ下記の試料を3日間与えた。なお、飼料と水は自由摂取とした。
【0040】
試験群1:2.5質量%ココア添加固形飼料
試験群2:12.5質量%ココア添加固形飼料
対照群:CE−2(商品名、日本クレア株式会社製)
【0041】
3日後、各群のマウスに、BrdU(5−bromo−2'−deoxyuridine)を1mg/mlとなるように生理食塩水で希釈した溶液を腹腔内投与(1ml/匹)した。なお、各マウスへの投与は、解剖にかかる時間を考慮して15分間隔で行った。
【0042】
投与から2時間後にエーテル麻酔を行い、PBSと2%パラフォルムアルデヒド(PBS希釈)で灌流した。
【0043】
UV照射部位を含む周辺の皮膚組織を含むように大きく摘出し、シャーレに虫ピンで広げながら中性緩衝ホルマリンに浸漬した。2時間後に、UV照射部位とUV非照射部位の切り出しを行い、常法にしたがって凍結切片を作製して、薄切して標本を作製した。
【0044】
得られた標本をBrdU染色(Science. 1982 Oct 29;218(4571):474-475参照)して、増殖した細胞を特異的に染色し、顕微鏡観察した。その結果を図1〜4に示す。図1は試験群1のマウスのUV照射部位の皮膚サンプルであり、図2は試験群1のマウスのUV非照射部位の皮膚サンプルである。また、図3は対照群のマウスのUV照射部位の皮膚サンプルであり、図4は対照群のマウスのUV非照射部位の皮膚サンプルである。図中、増殖した細胞は黒点として観察される。
【0045】
図1、3から、UV照射部位において、試験群1は対照群に比べて、基底層における細胞増殖が顕著に促進されていることが分かる。また、図2、4から、UV非照射部位においても、試験群1は対照群に比べて、基底層における細胞増殖が促進されていることが分かる。なお、試験群2においても対照群に比べて基底層における細胞増殖が促進されており、同様の結果が観察された。
【0046】
更に、図1〜4に基いて増殖した細胞数をカウントし、対照群における増殖した細胞数を100として試験群1における増殖した細胞数を相対値で比較した結果を図5に示す。
【0047】
図5から、対照群に比べて試験群1のマウスにおいては、UV照射部位及びUV非照射部位における増殖した細胞の数が多いことが分かる。
【0048】
以上の結果から、ココアを経口摂取することにより、基底層における細胞増殖が促進され、皮膚のターンオーバーを促進できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の皮膚細胞増殖促進組成物は、紫外線等による皮膚の炎症の治療や美容健康食品等として好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】試験群1のマウスのUV照射部位の皮膚サンプルを示す図である。
【図2】試験群1のマウスのUV非照射部位の皮膚サンプルを示す図である。
【図3】対照群のマウスのUV照射部位の皮膚サンプルを示す図である。
【図4】対照群のマウスのUV非照射部位の皮膚サンプルを示す図である。
【図5】対照群における増殖した細胞数を100として試験群1における増殖した細胞数を相対値で比較した結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カカオマス及び/又はその加工物を有効成分として含有することを特徴とする皮膚細胞増殖促進組成物。
【請求項2】
前記カカオマス及び/又はその加工物は、ココアパウダーである請求項1記載の皮膚細胞増殖促進組成物。
【請求項3】
前記カカオマス及び/又はその加工物を1質量%以上含有する請求項1又は2記載の皮膚細胞増殖促進組成物。
【請求項4】
他の成分として、ビタミンB群、ビタミンC、コラーゲン又はコラーゲンペプチドから選ばれた少なくとも1種を含有する請求項1〜3のいずれか一つに記載の皮膚細胞増殖促進組成物。
【請求項5】
1食分当たり、ビタミンB群を0.3〜60mg、ビタミンCを35〜1000mg、コラーゲンを200mg〜10g、及び/又はコラーゲンペプチドを200mg〜10g含有する請求項4記載の皮膚細胞増殖促進組成物。
【請求項6】
紫外線あるいは日焼けによる皮膚の炎症の治療に用いられる請求項1〜5のいずれか一つに記載の皮膚細胞増殖促進組成物。
【請求項7】
皮膚のターンオーバー促進に用いられる請求項1〜5のいずれか一つに記載の皮膚細胞増殖促進組成物。

【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−69923(P2006−69923A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−252584(P2004−252584)
【出願日】平成16年8月31日(2004.8.31)
【出願人】(000006116)森永製菓株式会社 (130)
【Fターム(参考)】