説明

皮革繊維が融合した手漉き和紙及びその製法

【技術課題】手漉き和紙に皮革繊維を融合させた新規な質感と機能性を有する手漉き和紙とこの製法を提供する。
【解決手段】皮革製品の生産工程から排出された皮革製品の切れ端等であって、植物タンニンで鞣されたもののみを原材料に選定してこれを裁断・破砕することにより、短繊維に加工し、この加工した短繊維と和紙の原料である雁皮、楮、三椏等から得た植物繊維を混合し、これを紙漉き槽内に投入して伝統的な手法により手漉きを行い、皮革繊維が融合した手漉き和紙を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種皮革製品の製造工程、あるいは廃棄された各種皮革製品を日本の伝統的な手漉き和紙に融合させることにより、これまでにない質感を持ち、美術品、あるいは手漉き和紙を原材料とする製品を作り出すことができる皮革繊維が融合した手漉き和紙及びこの製法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
日本の伝統的な手漉き和紙の産地は、かつて全国に広がっていたが、現在では美術品や土産品等に加工されている程度で、その用途はごく限られている。このため、各地の地場産業の一翼を担っていた手漉き和紙の産地は消滅したりして、残っている産地においては生産量が減少し、現在では、その製作に携わる伝統的な技法を持つ人の数も僅かとなっている。
【0003】
本発明者等は、このような伝統的な手漉き和紙の製作技術を絶やしてはならない、との思いから、手漉き和紙の特徴を活かした生産拡大が望める新たな製品開発に取り組んできた。この取り組みの中で、和紙自体での需要拡大には限界があることから、和紙を基材とした複合素材を得ることにより、新たな需要拡大が望めるとの結論に達し、その複合すべき材料について鋭意研究を重ねてきた。
この結果、現在、鞄等の皮革製品の生産工程で排出される切れ端は、肥料の原料として用いられたり、使用されなくなった鞄等の皮革製品は、焼却処分されていて、いずれも、再利用はなされていない。そこで、このようにして処分される皮革を手漉き和紙と融合させて、手透き和紙のイメージや品質の改善に再利用できないものかと考えた。
【0004】
このような観点で、公知例を検索してみたが、公知例の中に、和紙と皮革を貼り合わせた製品の提案が特許文献1あるいは特許文献2に開示されている。
【特許文献1】特開2004−130028号公報
【特許文献2】特開2003−125841号公報
【0005】
しかし、和紙と皮革を貼り合わせる手法は、その製作に手間がかかるばかりでなく、製品としては、和紙の特徴を活かしたものとはならず、実用的には問題点が多い。
例えば、貼り合わせの場合、片面(皮革側)には和紙の良さが全く現れないことになり、伝統的な和紙の良さを存分に発揮した製品とはならず、大きな需要増は望めない。
また、ただの貼り合わせのために、厚みが増し、加工がしにくく、重量も増すため、用途は限られる。
また、皮革の切れ端や廃棄された皮革製品の場合、その形状及び厚さは種々雑多あり、これを和紙に貼り合わせて一定の製品に仕上げるのは難しい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は叙上の如き点に鑑み提案されるものであって、その主たる目的の第一は、手漉き和紙の需要の拡大を図ることである。
更に、第二の目的は、従来であると肥料にされたり、焼却処分されていた皮革の切れ端や、使用が終った皮革製品を有効に再利用することである。
更に、第三の目的は、これまでにない質感と機能を持った皮革繊維が融合した手漉き和紙を提供することである。
その他、着色や模様、金箔等の装飾あるいは撥水性、耐熱性、耐摩耗性を高めたり、美術品や土産品、あるいは建物や飛行機、自動車等の乗物の内装材としての用途に適した皮革繊維が融合した手漉き和紙を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明においては、皮革繊維が融合した手漉き和紙の製法において、皮革を裁断・破砕することにより短繊維に加工し、この短繊維に加工した皮革繊維を和紙の原材料である植物繊維と混合し、その上で伝統的な手法により手漉きを行って得ることを特徴とするものである。
【0008】
更に、請求項2に記載の発明においては、請求項1において、皮革は、植物タンニンで鞣されたものであることを特徴とするものである。
【0009】
更に、請求項3に記載の発明においては、皮革繊維が融合した手漉き和紙において、皮革を裁断・破砕することにより短繊維に加工し、この短繊維に加工した皮革繊維を和紙の原材料である植物繊維と混合し、その上で常法により手漉きを行って得たことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、以上のとおり、伝統的な手漉き和紙の製法中に、皮革繊維を取り込んで和紙原料である植物繊維と融合させ、全く新しいイメージと質感を現出させ、一方和紙の欠点である吸水性、耐熱性、強度等を改善することにより、次の効果を奏する。
1.衰退傾向にある手漉き和紙の需要拡大と、伝統的な手漉き和紙の製作技術の伝承を 図ることができる。
2.和紙としての特徴を活かしながら皮革繊維の融合により、和紙以上に機械的な強度 が向上し、撥水性、耐熱性も増し、和紙としての欠点である強度、吸水性、易燃性を 改善できる。
3.手漉き和紙の生産地の拡大により、地場産業の振興に寄与できる。
4.皮革の切れ端や皮革製品のリサイクル利用の途が開ける。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明において、手漉き和紙の製作は、伝統的な手法が用いられ、本発明において特別に変わるところはない。
原材料としては、やはり伝統的に用いられている雁皮、楮、三椏の靭皮繊維となる。因みに、これら3種の靭皮繊維の特徴は次の通りである。
雁皮…繊維は微細にして滑沢あり、きわめて軽薄にしてかつ粘着性に富む。これをもっ て製した紙は繊維固有の光沢をもち、紙質が緊縮して、明度に富み、かつ湿潤状 態においても非常に強靭であり、永久保存にも耐える。色はやや黒いが、よく墨 汁を受け、永年虫害を受けないといわれている。
楮 …繊維が優美でしかも細長く、きわめて強靭なるため和紙の優れた外観と実質とを 兼ね備える。
三椏…繊維は楮に比して、長さが短く、強度も多少劣るが処理方法が容易な利点がある 。
本発明においては、上記雁皮、楮、三椏は、単独で又は組み合わせて用いることができる。また、麻も原材料として、単独で、又は上記3種の原材料に混合して用いることもできる。
【0012】
一方、皮革としては、皮革製品の工場から大量に排出される切れ端や不良品及び使い終わった鞄等の皮革製品が原材料となる。この原材料となる皮革は、牛、豚皮が主であるが、その他の動物の皮革も原則的には用いることができる。そして、これら動物の皮革は、単独で又は組み合わせて用いることができる。通常、皮革製品は、クローム鞣しのものが多いが、このクローム鞣しの皮革は、廃棄したときに公害問題や環境問題を起こす心配があり、また、伝統的な手漉き和紙のイメージにもそぐわないので、本発明では、天然植物タンニン鞣しされた皮革のみを原材料に使用する。
このような原材料となる皮革は、着色や薬品処理されたものもあるため、表皮は剥ぎ取り、内皮を使用する。この内皮はそのままでも良いが、一旦充分に晒しを行って不純物を除去し、乾燥したものを裁断機及び破砕機を用いて何段階かに分けて破砕しながら最終的には、1.5mm〜2.5mm程度にその長さが整えられた繊維状のものとする。
上記晒しに際しては、漂白剤や脱臭剤を用いても良く、これは用途により適宜選択される。
【0013】
このようにして繊維状に加工された皮革原料は、手漉き和紙の製作工程において、叩解された植物繊維に混合される。この混合比は、和紙としての用途により適宜変更される。但し、植物繊維に対して数重量%では皮革繊維を融合する意味がなくなり、200重量%以上になると和紙の特徴が活かされなくなるので、実用的には30乃至200重量%が皮革繊維の混合量となる。
植物繊維と皮革繊維は、良く攪拌を行い、均一な混ざり具合とすることが必要である。
【0014】
手漉きは、流し漉き、溜漉き等の通常の手漉きとなるが、皮革繊維と植物繊維とは比重が異なるため、原液(手漉き槽)中において、繊維の分離が始まる前に手早く簀を揺り動かしながら、漉くことが肝要である。
手漉きが終了した後の圧搾、乾燥工程は伝統的な手漉き和紙の製法と同じであるが、皮革繊維が融合している分、時間及び温度等の調整が必要な場合もあり、原則として上記手漉きも含めて、伝統的な勘と技が支配する分野である。
【0015】
以上のようにして製造された皮革繊維が融合した和紙の外観は、和紙としての繊維が表面に現れ、併せて皮革のイメージも現れた、これまでにない質感と素材感を持つ。
この新規素材(手漉き和紙)は、そのまま使用しても良いが、表面に着色剤を用いて着色したり、あるいは金箔を貼り付けたり、常法で撥水加工を施したり、型押しを行ったりして付加価値の高い製品とすることができる。
【実施例】
【0016】
第一工程
和紙の原木として、本実施例では楮を使用した。この楮の樹皮を剥がし、次に黒皮の 表皮をこそぎ取り、白皮を得る。
第二工程
白皮を水洗いして不純物を溶かし流し、次に木炭・ソーダ灰の溶液中に白皮を入れて 、煮熟を行い、不純物を除去する。
第三工程
次に、煮熟した白皮を水洗いして更に不純物を除去し、再び水中に浸して屑を除去す る。
第四工程
十分柔らかくなった白皮を叩き、繊維を十分にほぐす。このときの繊維の長さの平均 は、約7.3mmである。
一方、皮革は、原皮の表皮をこそぎ取り、内皮を裁断機にかけて先ず約15mmの長 さにカットし、次に再び裁断機にかけて約5mmにカットしたあと、破砕機にかけて約 2mmにカットし、このカットしたものを2mmの選別用の網を経由してブロアにより 引き、繊維の長さを2mmに整え、この整えた皮革繊維を計量し、前記楮繊維に対して 重量比で1:1となるように混合する。
第五工程
上記楮繊維と皮革繊維の混合繊維を漉槽に入れ、更にネレを入れて良く攪拌し、漉き 簀と桁を用いて混合繊維を簀上にすくい上げる。
なお、本実施例においては、楮繊維と皮革繊維は、繊維の状態のときに混合したが、 楮繊維を漉槽内に投入し、その後で皮革繊維を槽内に投入し、両繊維を槽内において良 く攪拌し、融合させるようにしても良い。
第六工程
漉き上げた紙(繊維)の水分を圧搾して除去し、そのあと板に張り、天日乾燥又は温 室乾燥、又は火力乾燥を経て製品に仕上げる。
【0017】
以上の工程を経て得られた製品は、7.3mmの楮繊維の間に2mmの皮革繊維が入り込み、からみついたかたちで融合していて、和紙でありながら、皮革のイメージも併せ持った外観となっている。
なお、雁皮及び三椏の繊維の長さは、実施例で用いた楮繊維の長さより短いので、皮革繊維の長さも、上記2mmよりも短く調整することが必要である。但し、この皮革繊維の長さは、植物繊維の長さよりも長くなると和紙のイメージが崩れるため、植物繊維の長さよりは短いものを用いることが必要である。
この製品は、そのまま用いることもできるが、用途に応じてエンボス加工、着色、金箔を貼ったり、撥水加工等の付加価値を高める工夫を行って製品とすることができる。
【0018】
上記実施例で得た和紙を25mm幅にカットした180mm長の試験片、CS483、CS503、SPK900B、SPK961Bの4種(楮繊維と皮革繊維の比 500:800及び1:1)について、その引っ張り強さ、水無破断強さ、吸水破断強さのテストを行った。この結果を表1に、ひずみ、水無伸び量、吸水伸び量のテスト結果を表2に示す。
【表1】

【表2】

更に、引張試験の結果を表3に、伸びの結果を表4に、吸水量(しみ込む量)の結果を表5に示す。
【表3】

【表4】

【表5】

【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明に係る皮革繊維融合和紙の産業上の利用分野の主たるものは次のとおりである。
1.金箔等を貼り合わせた美術、工芸品
2.鞄、小物入れ、手帳、ノート、本の表紙、その他の事務用品
3.被服
4.住宅の内装材
5.飛行機、自動車の内装材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮革を裁断・破砕することにより短繊維に加工し、この短繊維に加工した皮革繊維を和紙の原材料である植物繊維と混合し、その上で伝統的な手法により手漉きを行って得る皮革繊維が融合した手漉き和紙の製法。
【請求項2】
請求項1において、皮革は、植物タンニンで鞣されたものであることを特徴とする皮革繊維が融合した手漉き和紙の製法。
【請求項3】
皮革を裁断・破砕することにより短繊維に加工し、この短繊維に加工した皮革繊維を和紙の原材料である植物繊維と混合し、その上で常法により手漉きを行って得た皮革繊維が融合した手漉き和紙。

【公開番号】特開2007−262638(P2007−262638A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−93239(P2006−93239)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(506108479)株式会社イーグル技術研究所 (1)
【Fターム(参考)】