説明

監視制御方法及び監視制御システム

【課題】データ伝送にIP技術が導入された場合でも、アプリケーションごとの要件に応じてリアルタイム性及び信頼性を確保する。
【解決手段】電気所サーバ10が、複数の監視制御系アプリケーションごとに定められた優先度に基づいて、データの送信順序を調整する。また、送信順序に従って制御所サーバ20にデータが送達されるよう制御する。また、送信対象のデータを複製して伝送路の数と同数のデータを生成し、生成したデータを伝送路1及び2それぞれにUDPを用いて送信する。そして、制御所サーバ20が、同一内容のデータを複数受信した場合に、最初に受信したデータを除く他のデータを廃棄する。また、送信順序に従って電気所サーバ10からデータが送達されるよう制御する。また、複数の監視制御系アプリケーションごとに定められた優先度に基づいて、電気所サーバ10から送信されたデータを監視制御系アプリケーションに渡す順序を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、監視制御方法及び監視制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、発電所や変電所などの電気所に設置された電力設備を監視するための電力系統の監視制御システムがある。例えば、電力系統の監視制御システムは、発電所などの電気所に設置された電気所サーバと、制御所に設置された制御所サーバとを有する。そして、電気所サーバと制御所サーバとは、各サーバに実装された監視制御系アプリケーションに関するデータを伝送路経由で送受信する。
【0003】
ここで、電力系統の監視制御システムで用いられる監視制御系アプリケーションには、目的や用途に応じて各種のものがある。例えば、設備の状態や故障を監視するための監視アプリケーションや、設備の遠隔操作や自動操作を行うための制御アプリケーション、設備に関する各種測定値を計測するための計測アプリケーション、設備に関する各種情報を記録するための記録アプリケーション、設備の運転を支援するための運転支援アプリケーションなどがある。
【0004】
このような電力系統の監視制御システムにおいて、良質な電力を安定して供給するためには、監視制御系アプリケーションに関するデータの伝送についてリアルタイム性及び信頼性を確保することが重要である。ここでいうリアルタイム性とは、一定時間内に情報伝送を完了させる性質である。また信頼性とは、伝送路障害の影響を受けない性質である。
【0005】
かかる電力系統の監視制御システムは、良質な電力を安定して供給するために重要な役割を果たしており、常に最新の情報通信技術を活用して発展を続けている。近年では、上述した監視制御システムにおいて、相互接続性や低コスト性などに優れるという理由から、インターネットプロトコル(Internet Protocol:IP)技術などの汎用的かつ標準的な技術の導入も進められている(例えば、非特許文献1又は2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】山本、居関、「IPネットワークを用いた新たな電力系統監視制御システムの構築」、電気評論、pp.62−66、2003年7月
【非特許文献2】大佐古、斉藤、辻、「広域ネットワーク分散型系統制御システム」、「東芝レビュー」、Vol.63、No.4、pp.10−13、2008年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、電力系統の監視制御システムにIP技術を導入した場合には、以下に示す課題が生じる。
【0008】
例えば、汎用的かつ標準的なIP技術を電力系統の監視制御システムに導入した場合には、複数の伝送路を介して複数の監視制御システムを統合することが可能になる。その結果、制御所が大規模になるとともに、多数の電気所から送信されたデータが制御所に集中することになる。また、アプリケーションの機能が高度化又は多様化することで、システム内で伝送されるデータ量が増大することも考えられる。これらのことから、IP技術を導入した場合には、データの輻輳や伝送路の途絶などによって、監視制御システムにおける通信のリアルタイム性や信頼性が低下する可能性がある。
【0009】
また、監視制御システムにおける通信のリアルタイム性及び信頼性の要件は、監視制御系アプリケーションの種類ごとに異なる。例えば、電力系統に事故が発生した場合には、監視アプリケーションによって電気所サーバから制御所サーバに向けて大量の状態変化情報が伝送される。この状態変化情報の伝送は、電力系統の監視制御において極めて重要度が高い。したがって、監視アプリケーションに関する情報の伝送には、他のアプリケーションに関する情報と比べて高いリアルタイム性及び信頼性が要求される。つまり、リアルタイム性及び信頼性に関する要求が高いアプリケーションのデータについては、他のアプリケーションのデータより優先して伝送することが求められる。
【0010】
すなわち、電力系統の監視制御システムにおいて、データ伝送にIP技術が導入される場合には、アプリケーションごとの要件に応じてリアルタイム性及び信頼性を確保することが課題となる。なお、この課題は電力系統の監視制御システムに限って生じるものではなく、監視側に設置された装置と被監視側に設置された装置とが各装置に実装されたアプリケーションに関するデータを送受信する各種の監視制御システムにおいて同様に生じるものである。
【0011】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、データ伝送にIP技術が導入された場合でも、アプリケーションごとの要件に応じてリアルタイム性及び信頼性を確保することができる監視制御方法及び監視制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、被監視側に設置された装置と監視側に設置された装置とが各装置に実装された監視制御系アプリケーションに関するデータを送受信する監視制御方法であって、送信側の装置が、複数の監視制御系アプリケーションごとに定められた優先度に基づいて、自装置に実装された監視制御アプリケーションから送信要求を受け付けたデータの送信順序を調整する第1のステップと、前記送信順序に従って受信側の装置にデータが送達されるよう制御する第2のステップと、送信対象のデータを複製して複数の伝送路と同数のデータを生成する第3のステップと、生成されたデータを前記複数の伝送路それぞれにUDPを用いて送信する第4のステップと、受信側の装置が、前記複数の伝送路を介して前記送信側の装置から送信されたデータを受信する第5のステップと、同一内容のデータが複数受信された場合に、当該複数のデータのうち最初に受信されたデータを除く他のデータを廃棄する第6のステップと、前記送信順序に従って前記送信側の装置からデータが送達されるよう制御する第7のステップと、複数の監視制御系アプリケーションごとに定められた優先度に基づいて、前記送信側の装置から送信されたデータを自装置に実装された監視制御系アプリケーションに渡す順序を調整する第8のステップとを含んだことを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、被監視側に設置された装置と監視側に設置された装置とが各装置に実装された監視制御系アプリケーションに関するデータを送受信する監視制御システムであって、送信側の装置が、複数の監視制御系アプリケーションごとに定められた優先度に基づいて、自装置に実装された監視制御アプリケーションから送信要求を受け付けたデータの送信順序を調整する第1の手段と、前記送信順序に従って受信側の装置にデータが送達されるよう制御する第2の手段と、送信対象のデータを複製して複数の伝送路と同数のデータを生成する第3の手段と、生成されたデータを前記複数の伝送路それぞれにUDPを用いて送信する第4の手段と、受信側の装置が、前記複数の伝送路を介して前記送信側の装置から送信されたデータを受信する第5の手段と、同一内容のデータが複数受信された場合に、当該複数のデータのうち最初に受信されたデータを除く他のデータを廃棄する第6の手段と、前記送信順序に従って前記送信側の装置からデータが送達されるよう制御する第7の手段と、複数の監視制御系アプリケーションごとに定められた優先度に基づいて、前記送信側の装置から送信されたデータを自装置に実装された監視制御系アプリケーションに渡す順序を調整する第8の手段とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、データ伝送にIP技術が導入された場合でも、アプリケーションごとの要件に応じてリアルタイム性及び信頼性を確保することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本実施例に係る監視制御システムの構成を示す図である。
【図2】図2は、図1に示した通信処理部の構成を示す機能ブロック図である。
【図3】図3は、図2に示した伝達通信連携部の詳細を説明するための図である。
【図4】図4は、図2に示した優先制御部の詳細を説明するための図(1)である。
【図5】図5は、図2に示した優先制御部の詳細を説明するための図(2)である。
【図6】図6は、本実施例に係る監視制御システムにおける監視制御の処理手順を示すシーケンス図である。
【図7】図7は、本実施例に係る監視制御方法による情報伝送に関するリアルタイム性及び信頼性の評価結果を示す図である。
【図8】図8は、本実施例に係る監視制御方法による優先制御に関するリアルタイム性の評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明に係る監視制御方法及び監視制御システムの実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下に示す実施例では、電力系統の監視制御システムに本発明を適用した場合について説明するが、この実施例によって本発明が限定されるものではない。
【実施例】
【0017】
まず、本実施例に係る監視制御システムの構成について説明する。図1は、本実施例に係る監視制御システムの構成を示す図である。図1に示すように、本実施例に係る監視制御システム100は、発電所や変電所などの電気所に設置された電気所サーバ10と、制御所に設定された制御所サーバ20とを有する。ここで、電気所サーバ10と制御所サーバ20とは、IPネットワークである伝送路1と伝送路2とを介して接続される。なお、図1では1台の電気所サーバ10のみを示しているが、制御所サーバ20には、様々な電気所に設置された複数の電気所サーバが複数のIPネットワークを介して接続される。
【0018】
電気所サーバ10は、電気所に設定された監視制御盤3などから電力設備に関するデータを収集する。例えば、電気所サーバ10は、アプリケーション処理部11及び通信処理部12を有する。アプリケーション処理部11は、各種の監視制御系アプリケーションを実行することで、監視制御盤3などから電力設備に関するデータを収集する。通信処理部12は、アプリケーション処理部11によって収集されたデータを2つの伝送路1及び2を介して制御所サーバ20に送信する。
【0019】
制御所サーバ20は、電気所サーバ10によって収集された情報に基づいて、電気所に設置された電力設備の監視制御を行う。例えば、制御所サーバ20は、アプリケーション処理部21及び通信処理部22を有する。通信処理部22は、電気所サーバ10から2つの伝送路1及び2を介して送信されたデータを受信する。アプリケーション処理部21は、各種の監視制御系アプリケーションを実行することで、通信処理部22によって受信されたデータを用いて電力設備の監視制御を行う。
【0020】
次に、図1に示した通信処理部12及び22について具体的に説明する。図2は、図1に示した通信処理部12及び22の構成を示す機能ブロック図である。図2に示すように、電気所サーバ10側の通信処理部12は、送信要求受付部12a、優先制御部12b、再送処理部12c、データ複製部12d、及び伝達通信連携部12eを有する。
【0021】
送信要求受付部12aは、制御所サーバ20へデータを送信することを要求する送信要求を自装置に実装された監視制御系アプリケーションから受け付ける。
【0022】
優先制御部12bは、複数の監視制御系アプリケーションごとに定められた優先度に基づいて、送信要求受付部12aにより送信要求が受け付けられたデータの送信順序を調整する。なお、かかる優先制御部12bについては後に詳細に説明する。
【0023】
再送処理部12cは、優先制御部12bにより調整された送信順序に従って制御所サーバ20にデータが送達されるよう制御する。例えば、再送処理部12cは、送信順序に従ってデータが送達されなかった場合に制御所サーバ20から送信される再送要求を受信したときに、再送要求により要求されたデータを再送する。
【0024】
データ複製部12dは、送信対象のデータを複製して伝送路の数と同数のデータを生成する。このとき、例えば、データ複製部12dは、生成した各データに異なるシーケンス番号を付与する。このシーケンス番号は、後述する制御所サーバにおいてデータの後着廃棄が行われる際に用いられる。データ複製部12dは、優先制御部12bによってデータの送信順が調整された後にデータを複製するので、シーケンス番号が逆転する可能性がなく、後に行われる後着廃棄においてシーケンス番号が小さいデータが誤って廃棄されるのを防ぐことができる。
【0025】
伝達通信連携部12eは、データ複製部12dにより生成されたデータを2つの伝送路1及び2それぞれにUDP(User Datagram Protocol)を用いて送信する。一般的に、UDPは、TCPと比べて高速にデータを伝送することできることが知られている。また、データ伝送にUDPを用いた場合には、TCPを用いた場合と比べて、多数のデータが伝送されることにより生じる通信輻輳の影響が小さくなる。さらに、TCPを用いた場合には、データの送信方向と反対方向の伝送路が途絶ずるとデータ送信を継続できなくなるが、UDPを用いた場合には、データ送信を継続することができる。したがって、伝達通信連携部12eが、UDPを用いてデータを送信することによって、リアルタイム性及び信頼性を確保しつつ、高速にデータ伝送を行うことが可能になる。
【0026】
一方、制御所サーバ20側の通信処理部22は、伝達通信連携部22a、後着データ廃棄部22b、再送処理部22c、優先制御部22d、及び機能呼出部22eを有する。
【0027】
伝達通信連携部22aは、2つの伝送路1及び2を介して電気所サーバ10から送信されたデータを受信する。また、伝達通信連携部22aは、電気所サーバ10から送信されたデータを受信する際に、電気所サーバ10に実装された複数の監視制御アプリケーションにより送信された複数のデータを1つの受信ポートに集約して受信する。なお、かかる伝達通信連携部22aについては後に詳細に説明する。
【0028】
後着データ廃棄部22bは、伝達通信連携部22aにより同一内容のデータが複数受信された場合に、その複数のデータのうち最初に受信されたデータを除く他のデータを廃棄する。このとき、例えば、後着データ廃棄部22bは、受信されたデータに付与されているシーケンス番号に基づいて、データの順序を判別する。具体的には、後着データ廃棄部22bは、これまで受信したデータに付与されていたシーケンス番号より大きいシーケンス番号が付与されているデータを伝送し、他のデータを廃棄する。
【0029】
再送処理部22cは、電気所サーバ10により調整された送信順序に従って電気所サーバ10からデータが送達されるよう制御する。例えば、再送処理部22cは、電気所サーバ10により調整された送信順序に従ってデータが送達されなかった場合に、電気所サーバ10に再送要求を送信することで、損失したデータを当該送信装置側の装置に再送させる。
【0030】
ここで、例えば、再送処理部22cは、TCPを用いて、伝送路1又は2経由で再送要求を送信する。一般的に、TCPは、UDPと比べてデータ伝送の信頼性が高いことが知られている。したがって、再送処理部22cがTCPを用いて再送要求を送信することによって、再送要求の損失や、一時的な伝送路途絶によって再送要求が電気所サーバ10に到着しなくなることを防ぐことが可能になる。これにより、データ伝送の信頼性をより高めることができる。
【0031】
優先制御部22dは、複数の監視制御系アプリケーションごとに定められた優先度に基づいて、電気所サーバ10から送信されたデータを自装置に実装された監視制御系アプリケーションに渡す順序を調整する。なお、かかる優先制御部22dについては後に詳細に説明する。
【0032】
機能呼出部22eは、優先制御部22dにより調整された順序で監視制御系アプリケーションを実行する。
【0033】
なお、ここでは、制御所サーバ20側の再送処理部22cが、電気所サーバ10により調整された送信順序に従ってデータが送達されなかった場合に、電気所サーバ10に再送要求を送信することで、損失したデータを電気所サーバ10に再送させる場合について説明した。この方式を、例えばNack方式と呼ぶ。
【0034】
これに対し、例えば、電気所サーバ10が、制御所サーバ20にデータが送達された際に制御所サーバ20から送信される送達確認を受信したのちに、送信順序に従って次の送信対象のデータを送信するようにしてもよい。この場合には、制御所サーバ20側の再送処理部22cが、電気所サーバ10からデータを受信するごとに電気所サーバ10に対して送達確認を送信し、電気所サーバ10側の再送処理部12cが、制御所サーバ20から送信される送達確認を受信したのちに、優先制御部12bによって調整された送信順序に従って次の送信対象のデータを送信するようにしてもよい。この方式を、例えばAck方式と呼ぶ。
【0035】
ここで、例えば、再送処理部12cは、TCPを用いて、伝送路1又は2経由で送達確認を送信する。これにより、送達確認の損失や、一時的な伝送路途絶によって送達確認が電気所サーバ10に到着しなくなることを防ぐことが可能になるので、データ伝送の信頼性をより高めることができる。
【0036】
なお、Nack方式又はAck方式のいずれを用いるかは、例えば、監視制御システム100で利用される監視制御系アプリケーションの要件に応じてあらかじめ決められる。例えば、高速性が重要な場合にはNack方式を用い、順序性が重要な通信にはAck方式を用いるようにする。
【0037】
次に、図2に示した伝達通信連携部22aについて詳細に説明する。図3は、図2に示した伝達通信連携部22aの詳細を説明するための図である。前述したように、伝達通信連携部22aは、電気所サーバ10から送信されたデータを受信する際に、電気所サーバ10に実装された複数の監視制御アプリケーションにより送信された複数のデータを1つの受信ポートに集約して受信する。
【0038】
例えば、図3に示すように、伝達通信連携部22aは、多重化処理部31、UDP受信ポート32、及びUDP受信処理部33を有する。
【0039】
多重化処理部31は、アプリケーションデータ伝送用のIPパケットを1つのUDP受信ポート32に集約する。このとき、多重化処理部31は、図3に示すように、IPネットワークを介して伝送された各IPパケットP1〜P3を、制御所サーバ20に到着した順序でUDP受信ポート32に渡す。なお、かかる多重化処理部31は、例えば、制御所サーバ20に実装されたOS(Operating System)のポート転送機能により実現される。
【0040】
また、UDP受信処理部33は、多重化処理部31からUDP受信ポート32に渡されたIPパケットをアプリケーションごとに結合したデータを生成し、生成したデータを後着データ廃棄部22bに渡す。
【0041】
このように、伝達通信連携部22aは、電気所サーバ10から送信されたデータを受信する際に、複数のデータを1つの受信ポートに集約して受信する。これに対し、UDP受信ポートをアプリケーションごとに設けた場合には、それに伴ってUDP受信処理が複数発生するため、処理の切り換えが発生する。この結果、処理オーバヘッドやデータの到着順序の入れ替わりが発生することになり、通信のリアルタイム性に対する影響が生じる。
【0042】
したがって、本実施例によれば、UDP受信処理の切り換えを低減することにより、通信の高速化及び安定化を実現することができる。また、UDP受信処理の並行化によってアプリケーションデータの到着順が逆転するのを防ぐことができる。また、長大なアプリケーションデータを効率よく伝送することができるようになる。
【0043】
次に、図2に示した優先制御部12b及び22dの詳細について説明する。図4及び5は、図2に示した優先制御部12b及び22dの詳細を説明するための図である。図4に示すように、例えば、電気所サーバ10及び制御所サーバ20には、それぞれ3つのアプリケーションA〜Cが実装されていたとする。ここで、3つのアプリケーションA〜Cのうち、アプリケーションBの優先度が最も高く、次にアプリケーションAの優先度が高く、アプリケーションCの優先度が最も低かったとする。
【0044】
制御所サーバ20側の優先制御部12bは、前述したように、複数の監視制御系アプリケーションごとに定められた優先度に基づいて、送信要求受付部12aにより送信要求が受け付けられたデータの送信順序を調整する。
【0045】
例えば、アプリケーション処理部11は、データに対して、優先度や、処理にかかる見込み時間、そのデータの処理を完了すべき時刻などを含めたヘッダ情報を付与する。あるいは、送信要求受付部12aは、各アプリケーションから受け付けたデータに対して、それぞれのアプリケーションに応じた優先度や、処理にかかる見込み時間、そのデータの処理を完了すべき時刻などを含めたヘッダ情報を付与する。図4に示す例では、例えば、送信要求受付部12aは、アプリケーションBから受け付けたデータB43には最も高い優先度のヘッダ情報44を付与し、アプリケーションAから受け付けたデータA41に次に高い優先度のヘッダ情報42を付与し、アプリケーションCから受け付けたデータC45に最も低い優先度のヘッダ情報46を付与する。そして、優先制御部12bは、各データのヘッダ情報に含まれる優先度や、処理にかかる見込み時間、そのデータの処理を完了すべき時刻に応じて、各データの送信順序を制御する。
【0046】
一方、制御所サーバ20側の優先制御部22dは、複数の監視制御系アプリケーションごとに定められた優先度に基づいて、電気所サーバ10から送信されたデータを自装置に実装された監視制御系アプリケーションに渡す順序を調整する。
【0047】
例えば、優先制御部22dは、電気所サーバ10から送信されたデータを、制御所サーバ20に実装されたバッファ22fに蓄積する。そして、優先制御部22dは、バッファ22fに蓄積された各データのヘッダ情報を参照し、それぞれのヘッダ情報に含まれる優先度や、処理にかかる見込み時間、そのデータの処理を完了すべき時刻に応じて、各データをアプリケーションに渡す順序を制御する。図4に示す例では、優先制御部22dは、アプリケーションBから送られたデータB43、アプリケーションAから送られたデータA41、アプリケーションCから送られたデータC45の順で、制御所サーバ20に実装された各アプリケーションにデータを渡す。
【0048】
ここで、各サーバにおいて、優先制御部の後段に低速な機能が存在した場合には、その機能がFIFO(First In First Out)型の処理を行うと、優先制御の効果が打ち消されてしまう場合もある。
【0049】
例えば、図5に示すように、電気所サーバ10では、伝達通信連携部12eが、2つの伝送路でデータを送信する。そのため、1つの伝送路でデータを送信する場合と比べて、伝達通信連携部12eによって処理されるデータの数が倍増する。この結果、伝達通信連携部12eにおいて、送信側の処理ボトルネックが生じる場合がある。また、例えば、制御所サーバ20では、機能呼出部22eが各種のアプリケーションを起動する。ここで、アプリケーションを起動するためには処理時間を要する。この結果、機能呼出部22eにおいて、受信側の処理ボトルネックが生じる場合がある。
【0050】
そこで、優先制御部12b及び22dは、各サーバの処理能力に応じてサーバ内におけるデータの転送速度を調整する。具体的には、優先制御部12bは、電気所サーバ10の処理能力に応じて、装置内におけるデータの転送速度を調整する。また、優先制御部22dは、制御所サーバ20の処理能力に応じて、装置内におけるデータの転送速度を調整する。
【0051】
例えば、優先制御部12bは、アプリケーションデータを受け付けると、電気所サーバ10に実装されたバッファに蓄積し、データの順序をスケジューリングする。続いて、優先制御部12bは、バッファに蓄積されたデータを所定の転送速度で出力する。ここでいう所定の転送速度は、電気所サーバ10が有する機能の中でスループットが最も低い機能に合わせて設定される。優先制御部22dも優先制御部12bと同様の処理を行う。
【0052】
このように、優先制御部12b及び22dがサーバ内におけるデータの転送速度を調整することによって、優先制御を効率よく行うことができるようになる。また、優先制御部12b及び22dがデータをバッファに蓄積することによって、伝達レベルの送信バッファ漏れを防ぐことができる。
【0053】
次に、本実施例に係る監視制御システムにおける監視制御の処理手順について説明する。図6は、本実施例に係る監視制御システム100における監視制御の処理手順を示すシーケンス図である。図6に示すように、本実施例に係る監視制御システムでは、電気所サーバ10において、送信要求受付部12aが、制御所サーバ20へデータを送信することを要求する送信要求を自装置に実装された監視制御系アプリケーションから受け付ける(ステップS101)。
【0054】
続いて、優先制御部12bが、複数の監視制御系アプリケーションごとに定められた優先度に基づいて、送信要求受付部12aにより送信要求が受け付けられたデータの送信順序を調整する(ステップS102)。その後、再送処理部12cが、送信順序に従ってデータが送達されなかった場合に制御所サーバ20から送信される再送要求に応じて、再送要求により要求されたデータを再送する(ステップS103)。
【0055】
続いて、データ複製部12dが、送信対象のデータを複製して伝送路の数と同数のデータを生成する(ステップS104)。その後、伝達通信連携部12eが、データ複製部12dにより生成されたデータを2つの伝送路1及び2それぞれにUDPを用いて送信する(ステップS105)。
【0056】
電気所サーバ10によってデータが送信されると、制御所サーバ20において、伝達通信連携部22aが、2つの伝送路1及び2を介して電気所サーバ10から送信されたデータを受信する(ステップS106)。
【0057】
続いて、後着データ廃棄部22bが、伝達通信連携部22aにより同一内容のデータが複数受信された場合に、その複数のデータのうち最初に受信されたデータを除く他のデータを廃棄する(ステップS107)。その後、再送処理部22cが、電気所サーバ10により調整された送信順序に従ってデータが送達されなかった場合に、電気所サーバ10に再送要求を送信する(ステップS108)。
【0058】
続いて、優先制御部22dが、複数の監視制御系アプリケーションごとに定められた優先度に基づいて、電気所サーバ10から送信されたデータを自装置に実装された監視制御系アプリケーションに渡す順序を調整する(ステップS109)。その後、機能呼出部22eが、優先制御部22dにより調整された順序で監視制御系アプリケーションを実行する(ステップS107)。
【0059】
上述してきたように、本実施例では、電気所サーバ10において、優先制御部12bが、複数の監視制御系アプリケーションごとに定められた優先度に基づいて、電気所サーバ10に実装された監視制御アプリケーションから送信要求を受け付けたデータの送信順序を調整する。また、再送処理部12cが、優先制御部12bにより調整された送信順序に従って制御所サーバ20にデータが送達されるよう制御する。また、データ複製部12dが、送信対象のデータを複製して伝送路の数と同数のデータを生成する。また、伝達通信連携部12eが、データ複製部12dにより生成されたデータを伝送路1及び2それぞれにUDPを用いて送信する。そして、制御所サーバ20において、伝達通信連携部22aが、伝送路1及び2を介して電気所サーバ10から送信されたデータを受信する。また、後着データ廃棄部22bが、伝達通信連携部22aにより同一内容のデータが複数受信された場合に、その複数のデータのうち最初に受信されたデータを除く他のデータを廃棄する。また、再送処理部22cが、電気所サーバ10により調整された送信順序に従って電気所サーバ10からデータが送達されるよう制御する。また、優先制御部22dが、複数の監視制御系アプリケーションごとに定められた優先度に基づいて、電気所サーバ10から送信されたデータを制御所サーバ20に実装された監視制御系アプリケーションに渡す順序を調整する。
【0060】
このように、本実施例では、アプリケーションごとに定められた優先度に基づく優先制御を行うことで、送信側及び受信側におけるデータの輻輳を防ぐことができる。また、データの再送を制御することで、伝送路におけるデータの損失を防ぐことができる。また、2つの伝送路を介してデータを伝送することで、伝送路の途絶によるデータ伝送への影響を小さくすることができる。また、UDPを用いてデータを伝送することで、高速にデータを伝送することができる。したがって、本実施例によれば、データ伝送にIP技術が導入された場合でも、アプリケーションごとの要件に応じてリアルタイム性及び信頼性を確保することができる。
【0061】
なお、本実施例では、電気所サーバ10から制御所サーバ20へデータを送信する場合について説明したが、本発明はこれに限られるものではない。例えば、電力系統の監視制御システムでは、制御所サーバに実装された監視制御系アプリケーションから電気所サーバに実装された監視制御系アプリケーションに対して各種の制御情報が送信される場合もある。このような場合でも、本発明を同様に適用することが可能である。すなわち、上記実施例で説明した電気所サーバ10の通信処理部12が有する機能を制御所サーバに実装させ、制御所サーバ20の通信処理部22が有する機能を電気所サーバに実装させる。
【0062】
また、本実施例では、2つの伝送路を用いた場合について説明したが、本発明はこれに限られるものではない。すなわち、伝送路の数は3本以上であってもよい。この場合には、伝送路の数を増やすことで、全ての伝送路が途絶してしまう可能性が低くなるので、通信の信頼性をより高めることが可能になる。
【0063】
以上、本実施例に係る監視制御方法及び監視制御システムについて説明した。以下では、本実施例で説明した監視制御方法に関する評価結果を示す。
【0064】
まず、系統事故による状態変化が発生した際に電気所から制御所へ情報が伝送される場合を想定して、本実施例で説明した監視制御方法による情報伝送とTCPを用いた情報伝送とを比較した。この評価では、電気所サーバ及び制御所サーバはそれぞれ1台とし、サーバ間で伝送されるデータ数は100個とした。また、各サーバの優先制御部で用いられるデータの転送速度は、5ms/データとした。
【0065】
かかる評価により、図7に示す評価結果が得られた。図7は、本実施例に係る監視制御方法による情報伝送に関するリアルタイム性及び信頼性の評価結果を示す図である。図7に示すように、本実施例に係る監視制御方法では、ほぼ一定の通信時間で情報を伝送することにより、リアルタイム性を確保でき、かつ、TCPを用いた方法に比べてデータ数が50個以内では高速にデータを伝送することができることが確認された。さらに、片方の伝送路が途絶した場合でも信頼性を確保できることが確認された。
【0066】
次に、複数のサーバから異なる優先度のデータが伝送される場合を想定し、本実施例で説明した監視制御方法による優先制御の効果を評価した。この評価では、複数の電気所サーバから1台の制御所サーバに対して一斉にデータを送信することとした。ここで、電気所サーバは全部で6台であり、そのうち1台は高優先度のデータを送信し、残りの5台は低優先度のデータを送信する。そして、この評価では、低優先度のデータを送信する制御所サーバの台数を1台から5台まで変化させた。
【0067】
かかる評価により、図8に示す評価結果が得られた。図8は、本実施例に係る監視制御方法による優先制御に関するリアルタイム性の評価結果を示す図である。図8に示すように、本実施例に係る監視制御方法では、優先度が高いデータの伝送は優先度が低いデータの伝送による影響を受けることがなく、リアルタイム性が確保できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0068】
以上のように、本発明に係る監視制御方法及び監視制御システムは、監視側に設置された装置と被監視側に設置された装置とが各装置に実装されたアプリケーションに関するデータを送受信する各種の監視制御システムに有用であり、特に、電力系統の監視制御システムに適している。
【符号の説明】
【0069】
100 監視制御システム
10 電気所サーバ
11 アプリケーション処理部
12 通信処理部
12a 送信要求受付部
12b 優先制御部
12c 再送処理部
12d データ複製部
12e 伝達通信連携部
20 制御所サーバ
21 アプリケーション処理部
22 通信処理部
22a 伝達通信連携部
22b 後着データ廃棄部
22c 再送処理部
22d 優先制御部
22e 機能呼出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被監視側に設置された装置と監視側に設置された装置とが各装置に実装された監視制御系アプリケーションに関するデータを送受信する監視制御方法であって、
送信側の装置が、
複数の監視制御系アプリケーションごとに定められた優先度に基づいて、自装置に実装された監視制御アプリケーションから送信要求を受け付けたデータの送信順序を調整する第1のステップと、
前記送信順序に従って受信側の装置にデータが送達されるよう制御する第2のステップと、
送信対象のデータを複製して複数の伝送路と同数のデータを生成する第3のステップと、
生成されたデータを前記複数の伝送路それぞれにUDPを用いて送信する第4のステップと、
受信側の装置が、
前記複数の伝送路を介して前記送信側の装置から送信されたデータを受信する第5のステップと、
同一内容のデータが複数受信された場合に、当該複数のデータのうち最初に受信されたデータを除く他のデータを廃棄する第6のステップと、
前記送信順序に従って前記送信側の装置からデータが送達されるよう制御する第7のステップと、
複数の監視制御系アプリケーションごとに定められた優先度に基づいて、前記送信側の装置から送信されたデータを自装置に実装された監視制御系アプリケーションに渡す順序を調整する第8のステップと
を含んだことを特徴とする監視制御方法。
【請求項2】
前記第5のステップにおいて、前記受信側の装置は、前記送信側の装置に実装された複数の監視制御アプリケーションにより送信された複数のデータを1つの受信ポートに集約して受信することを特徴とする監視制御方法。
【請求項3】
前記第7のステップにおいて、前記受信側の装置は、前記送信順序に従ってデータが送達されなかった場合に、前記送信側の装置に再送要求を送信することで、損失したデータを当該送信装置側の装置に再送させることを特徴とする請求項1又は2に記載の監視制御方法。
【請求項4】
前記第7のステップにおいて、前記再送要求は、TCPを用いて送信されることを特徴とする請求項3に記載の監視制御方法。
【請求項5】
前記第2のステップにおいて、前記送信側の装置は、前記受信側の装置にデータが送達された際に当該受信側の装置から送信される送達確認を受信したのちに、前記送信順序に従って次の送信対象のデータを送信することを特徴とする請求項1又は4に記載の監視制御方法。
【請求項6】
前記第2のステップにおいて、前記送達確認は、TCPを用いて送信されることを特徴とする請求項5に記載の監視制御方法。
【請求項7】
前記第1のステップにおいて、前記送信側の装置は、自装置の処理能力に応じて装置内におけるデータの転送速度を調整することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一つに記載の監視制御方法。
【請求項8】
前記第8のステップにおいて、前記受信側の装置は、自装置の処理能力に応じて装置内におけるデータの転送速度を調整することを特徴とする請求項1〜7のいずれか一つに記載の監視制御方法。
【請求項9】
被監視側に設置された装置と監視側に設置された装置とが各装置に実装された監視制御系アプリケーションに関するデータを送受信する監視制御システムであって、
送信側の装置が、
複数の監視制御系アプリケーションごとに定められた優先度に基づいて、自装置に実装された監視制御アプリケーションから送信要求を受け付けたデータの送信順序を調整する第1の手段と、
前記送信順序に従って受信側の装置にデータが送達されるよう制御する第2の手段と、
送信対象のデータを複製して複数の伝送路と同数のデータを生成する第3の手段と、
生成されたデータを前記複数の伝送路それぞれにUDPを用いて送信する第4の手段と、
受信側の装置が、
前記複数の伝送路を介して前記送信側の装置から送信されたデータを受信する第5の手段と、
同一内容のデータが複数受信された場合に、当該複数のデータのうち最初に受信されたデータを除く他のデータを廃棄する第6の手段と、
前記送信順序に従って前記送信側の装置からデータが送達されるよう制御する第7の手段と、
複数の監視制御系アプリケーションごとに定められた優先度に基づいて、前記送信側の装置から送信されたデータを自装置に実装された監視制御系アプリケーションに渡す順序を調整する第8の手段と
を有することを特徴とする監視制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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