説明

目の表面及びその他の障害のための調剤薬及び治療方法

目において用いられるのに適した調剤薬であって、 (i)目における使用に適した調剤上受容可能なキャリヤと、(ii)目の表面の上皮細胞の生存、健康、細胞付着及び正常な分化の1又は複数を促進する要因及び薬剤、及び任意に扁平上皮化生を予防する要因及び薬剤から選ばれた1又は複数の成分と、(iii)涙液膜の流体特性を変えることのできる1又は複数の薬剤であって、安定した涙液膜を形成し、保持することができる少なくとも1の薬剤と、任意に眼科用潤滑剤、増粘剤、涙液膜の蒸発を減少させることができる薬剤の中から選ばれた1又は複数の薬剤を含むものとを有し、構成要素(ii)及び(iii)中の前記要因及び薬剤は、合成又は遺伝子組み換え又は薬の製造のために許可されているものであることを特徴とする調剤薬。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドライアイ状態及びその他の目の表面の障害の治療及び/又は予防における調剤薬及びその使用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
目の表面が完全な状態であることが、視力及び目の保護にとって非常に重要なことである。目の表面の障害は、健康な目の表面を保つメカニズムが機能しないことによる、種々の病気や障害のグループである。目の表面が、適切に機能しない単位である状態又は障害は、目の表面の障害である。
【0003】
目の表面の障害は、栄養上のもの、外傷のもの、医原性のもの、増殖性のもの、まぶたの異常に次ぐもの、涙液膜の異常により生ずるもの、神経栄養のものであってもよい。外傷は物理的、化学的、熱的なものであってよい。目の表面の障害は、しばしば治療を受け付けない。目の表面の障害のいくつかのタイプは、ドライ又は非常にドライアイから生じる又はそれらを生じさせるものであり、乾性角結膜炎として知られている状態である。しかしながら、ドライアイ状態は、目の表面の障害から生じる又はそれらを生じさせなくても起きる。
【0004】
一般に知られているドライアイ状態の2つの基本的なタイプは、ひとつは、「涙不足」ドライアイ、それは「蒸発」ドライアイとしても知られているもので、正常な目よりも涙の生成量が少ないものであり、もうひとつは、「涙が十分な」ドライアイであって、生成される涙量は正常又はほぼ正常であるが、涙の構成が機能が適切に働かないものであるものである。涙が十分なドライアイの最も一般的な原因は、マイボーム腺の病気である。マイボーム腺は脂質を分泌し、涙の表面張力に影響して、目の表面を濡らす能力に影響する。十分な及び/又は適切な脂質がなければ、涙はその機能を適切に実現しない。
【0005】
涙不足のドライアイはシェーグレン(Sjoegren)ドライアイ及び非シェーグレンドライアイのいずれも含む。シェーグレン症候群の場合、ドライアイは、しばしば深刻である。非シェーグレンドライアイは非常にありふれている。ドライアイ状態は、他の病理を伴っていない場合でさえ、非常に不快感と痛みを生じ、目が感染しやすくなり、まれには、角膜が溶解する。
【0006】
目の表面の障害及びドライアイ状態のためには、さまざまな治療法が提案されている。そのような治療法には、局所療法、外科及び治療用のコンタクトレンズが含まれる。現在商業的に入手可能は涙代替療法のための製品は、目の潤滑剤であって、それは涙の体積と流体力学を改善する。それらは一般に電解質と水と薬剤からなり、目の表面の保持能力を高める。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、目に用いるのに適した調剤薬を提供するものであり、
(i)目における使用に適した調剤上受容可能なキャリヤと、
(ii)目の表面の上皮細胞の生存、健康、細胞付着及び正常な分化の1又は複数を促進する要因及び薬剤、及び任意に扁平上皮化生を予防することができる要因及び薬剤から選ばれた1又は複数の成分と、
(iii)涙液膜の流体特性を変えることのできる1又は複数の薬剤であって、安定した涙液膜を形成し、保持することができる少なくとも1の薬剤と眼科用潤滑剤、増粘剤、涙液膜の蒸発を減少させることができる薬剤の中から選ばれた1又は複数の薬剤を含むものとを有し、構成要素(ii)及び(iii)中の要因及び薬剤は、合成又は遺伝子組み換え又は薬の製造のために許可されているものである。
【0008】
この調剤薬は、ここでは、「目の表面媒体」又は「OS媒体」と呼ぶ。
本発明の目の表面媒体は、
(iv)目の表面の病気、障害又は損傷の治療に用いられるのに適した1又は複数の薬剤
もまた有することができる。
そのような調剤薬をここでは、「治療上の目の表面媒体」又は「TOS媒体」と呼ぶ。
【0009】
構成要素(i)、(ii)及び(iii)を有する本発明の調剤薬は、さらに(v)幹細胞特性の生存及び維持、目の表面の幹細胞の成長、及び生体外又は生体内での幹細胞の子孫の生存、維持及び分化、の1又は複数を促進する要因及び薬剤から選ばれる1又は複数の成分を有することができ、前記要因及び薬剤は合成又は遺伝子組み換え又は薬事上の使用のために許可されているものである。
そのような調剤薬は、ここでは「輪部幹細胞媒体」又は「LSC媒体」と呼ぶ。
【0010】
本発明の輪部幹細胞媒体は、構成要素(i)、(ii)、(iii)及び(v)を有し、さらに(iv)目の表面の病気、障害又は損傷の治療に用いられるのに適した1又は複数の薬剤もまた有することができる。
そのような調剤薬は、ここでは「治療上の輪部幹細胞の媒体」又は「TLSC媒体」と呼ぶ。
【0011】
他に明記しない限り、「本発明の調剤薬」とは、ここでは本発明のどのような調剤薬、すなわち、本発明の目の表面媒体、本発明の治療上の目の表面媒体、本発明の輪部幹細胞媒体、本発明の治療上の輪部幹細胞の媒体も示すように一般的に用いられる。
【0012】
本発明は、本発明の調剤薬を薬として用いることもできる、例えば、ドライアイ又は目の表面の障害の治療又は予防に用いることが挙げられる。本発明の目の表面媒体又は治療上の目の表面媒体を用いることができる。
【0013】
本発明はドライアイ又は目の表面の障害の治療又は予防を主題とする方法も提供することができる、その方法は、本発明の調剤薬を治療上効果的な量を冒された目に与えることを含む。本発明の目の表面媒体又は治療上の目の表面媒体を用いることができる。
【0014】
本発明は、特に本発明の輪部幹細胞媒体、治療上の輪部幹細胞の媒体といった本発明の調剤薬を輪部幹細胞の欠乏又は不足の予防又は治療又は輪部幹細胞移植手術の前治療にも用いることが出来る。
【0015】
本発明は、さらに目の輪部幹細胞の欠乏又は不足を含む状態の治療又は予防に用いられる方法、輪部幹細胞移植手術の前治療の方法であって、本発明の調剤薬、例えば輪部幹細胞媒体、治療上の輪部幹細胞の媒体を治療上効果的な量を冒された目に与えることを含む方法を提供する。
【0016】
本発明は、本発明の目の表面媒体又は輪部幹細胞媒体を眼科の薬成分の薬の媒体又はキャリヤとして用いることを提供する。
【0017】
本発明は、治療薬剤、および薬の媒体又はキャリヤとして本発明の目の表面媒体又は輪部幹細胞媒体を含む眼科の薬成分も提供する。
【0018】
本発明は、本発明の治療上効果的な量を与えること含む治療を必要とする目の表面の障害の治療方法も提供する。
【0019】
好ましくは、目の表面の障害は、スケアリング(scaring)、類天疱瘡、持続性の上皮の不具合、激しい目の表面の障害、慢性の目の表面の病気、目の感染症又は炎症、目の腫瘍、目の外傷の中から選ばれる。
【0020】
好ましくは、対象は哺乳類である。好ましくは、哺乳類は人間である。代わりに、哺乳動物は人間でない動物であってもよい。人間でない動物としては、食用、輸送用、皮革用、毛又は羊毛用の動物であって、例えば、牛、馬、羊、ヤギ、豚が挙げられる、薬学上有用な薬剤、例えば、遺伝子組み換えたんぱく質を生産するのに用いられる動物、種馬及び産むための動物、競走馬、コンパニオン アニマル、例えば猫、犬及び小動物である。
【0021】
代わりに、前記対象は、鳥であってもよい、例えば食用の鳥またはコンパニオン アニマルとしての鳥である。
【0022】
[定義]
ここで用いられる用語は、以下の意味を有する:
細胞付着:細胞付着とは、細胞が互いに癒着すること及び基底膜に癒着することをいう。
【0023】
ドライアイ状態及びドライアイ:「ドライアイ状態」及び「ドライアイ」とは、ここでは涙の欠乏又は不足を特徴とする全ての状態をいう。そのような状態において、目の表面は水分が欠乏する。ドライアイは穏やかなものから激しいものまであり、目の表面の障害又はその他の病気の状態の一部であることもあり、そうでないこともある。目の表面の病気のいくつかのタイプはドライ又は非常にドライアイから生じるか又はそれらを生じ、乾性角結膜炎としても知られている、しかし、ドライアイ状態は、目の表面の障害を生じることがない、又は目の表面の障害から生じることがなくてもよい。
【0024】
成長:「成長」とは、長期間にわたって継続する過程に用いられるときは、一般的に細胞の数に比例して全体の大きさ及び体積が増加することを意味する。短期間の場合、「成長」という言葉は、細胞数に変更なく細胞のサイズ(大きさや体積)が増加することを示すことができる。
【0025】
成長要因:成長要因とは生合成、代謝又は触媒に加わらず、代わりに増殖を調節する非栄養物質をいう。
【0026】
成長要件:成長要件とは、細胞の成長に効果のあるものであるものであれば、何でも示す。
【0027】
健康:健康とは通常の特性及び細胞の機能を維持し、細胞の表現型をも維持することを意味する。
【0028】
ホルモン:ホルモンは体の流体を通して伝えられる化学物質であって、それらを作り出す細胞から遠い標的細胞に影響を与える。
【0029】
増殖:増殖とは細胞数の正味の増加を意味し、対応する全体の大きさ及び体積の増加を伴い、娘細胞は基本的に親細胞に一致する。
【0030】
正常な細胞:正常な細胞は、健康で損なわれていない有機体中に見出される細胞と重要な点では相違しない。
【0031】
正常な分化:正常な分化とは、正常な細胞終点への分化を意味する。
【0032】
栄養:栄養とは、細胞内に取り入れられて生合成又はエネルギー代謝又はそれらの過程のうち1つの触媒として役立つ化学物質をいう。
【0033】
目の表面の障害:目の表面が適切に機能しない構成単位であるいかなる状態又は障害も、目の表面の障害である。目の表面の障害は、種々の発病の病気や障害を含み、健康な目の表面を維持する機能の不全から生じる。目の表面の障害の原因は、栄養上の、医原性の、増殖性のものであり、二次的にまぶたの異常であり、又は神経栄養のものである。目の表面の障害は目の表面の損傷により生じるものであり、例えば、外科におけるもの、突発的な外傷であって、物理的、化学的及び熱的外傷を含むものによるもの、スケアリング(scaring)によるものが挙げられ、目の類天疱瘡も含む。目の表面の障害のいくつかのタイプはドライ又は非常にドライアイから生じるか又はそれらを生じる。
【0034】
生存:「生存」は、特に生存能力を維持することをいう。多くの場合、生存は、成長に必要な全てのものが満たされているときに増殖によって応答する能力を保持することを意味する。
【0035】
生存に必要とされるもの:生存に必要とされるものとは、細胞が十分に生存できるために提供されなくてはならない最小限の環境状態の組み合わせのどのような要素でも意味する。
【0036】
合成及び遺伝子組み換え要因及び薬剤:合成及び遺伝子組み換え要因及び薬剤は、化学合成によって、又はDNA遺伝子組み換え技術によって生成された基質、すなわち自然源から得られたことがないものである。
【0037】
涙中断時間(BUT):涙中断時間とは、完全なまばたきと角膜表面の最初の乾燥段階の現れの合間をいう。
【0038】
本発明の調剤薬
上記に述べたように、本発明は、目に用いるのに適した調剤薬を提供するものであり、
(i)目における使用に適した調剤上受容可能なキャリヤと、
(ii)目の表面の上皮細胞の生存、健康、細胞付着及び正常な分化の1又は複数を促進する要因及び薬剤、及び任意に扁平上皮化生を予防することができる要因及び薬剤から選ばれた1又は複数の成分と、
(iii)涙液膜の流体特性を変えることのできる1又は複数の薬剤であって、安定した涙液膜を形成し、保持することができる少なくとも1の薬剤、及び任意に眼科用潤滑剤、増粘剤、涙液膜の蒸発を減少させることができる薬剤の中から選ばれた1又は複数の薬剤を含むものとを有し、
構成要素(ii)及び(iii)中の要因及び薬剤は、合成又は遺伝子組み換え又は薬の製造のために許可されているものである。
【0039】
本発明のこの態様は、「目の表面媒体」又は「OS媒体」と呼ぶ。好適なキャリヤ(i)及び成分(ii)及び(iii)で用いられる要因及び薬剤は、述べられ、以下の「本発明の調剤薬の成分」の項で例示する。
【0040】
本発明の目の表面媒体は、(iv)成分(i)から(iii)に加えて目の表面の障害又は損傷の治療又は予防に用いられるのに適した1又は複数の薬剤もまた有することができる。目の表面の障害又は損傷の治療又は予防に用いられるのに適した薬剤は、例えば、散瞳薬、ステロイド、粘液溶解薬、血管形成阻害剤、抗繊維化剤、抗菌剤、目の表面において毒性の副生成物の蓄積を減少させる薬剤などが挙げられる。成分(v)において用いられる薬剤の更なる例は、以下の「本発明の調剤薬の成分」の項で述べられる。
【0041】
本発明の調剤薬は、成分(i)、(ii)及び(iii)を有し、さらに(v)幹細胞特性の生存及び維持、目の表面の幹細胞の成長、及び生体外又は生体内での幹細胞の子孫の生存、維持及び分化、の1又は複数を促進する要因及び薬剤から選ばれる1又は複数の成分を有することができる。
【0042】
そのような調剤薬は、ここでは「輪部幹細胞媒体」又は「LSC媒体」と呼ぶ。成分(v)に用いられるのに適した例は、「本発明の調剤薬の成分」として以下に示す。
【0043】
本発明の輪部幹細胞媒体は、成分(i)、(ii)、(iii)及び(v)を有し、さらに(iv)目の表面の障害の治療又は予防に用いられるのに適した1又は複数の薬剤もまた有することができる。
【0044】
そのような調剤薬は、ここでは「治療上の輪部幹細胞の媒体」又は「TLSC媒体」と呼ぶ。
【0045】
輪部幹細胞媒体は、角膜及び結膜の接合における角膜輪部組織及び/又は円蓋組織中に現れ、結膜及び角膜すなわち目の表面の上皮細胞の幹である。健康を維持するためのこれらの幹細胞が一部損傷していても、正常に分化した目の表面の上皮細胞は、目の表面に対し、深刻な結果となる。
【0046】
本発明の調剤薬の成分
成分(i):本発明の調剤薬の成分(i)は、目における使用に適した調剤上受容可能なキャリヤである。目における使用に適したキャリヤはよく知られ、ファーマコピア(pharmacopoeiae)に載っている。それには、点眼液のための精製水、眼科用クリーム、ゲル及び軟膏基材が含まれる。例えば、カルボマーがしばしばゲルの基材として用いられ、パラフィン及び/又はラノリンが軟膏のために用いられる。キャリヤは、1又は複数の等張化剤、例えばグルコース、緩衝材例えばHEPES又は重炭酸塩から選ばれる。
【0047】
成分(ii):本発明の全ての調剤薬は、上皮細胞の生存、健康、体内移行、細胞付着及び正常な分化及び任意に扁平上皮化生を予防することができる1又は複数を促進する要因及び薬剤を含む。
【0048】
そのような薬剤は、炭素代謝源、アミノ酸、成長因子、ビタミン、抗酸化剤、ムチン置換体、バルクイオン、微量元素、たんぱく質、ホルモン、プロテアーゼ阻害剤、抗菌剤を提供する薬剤から選ぶことが出来る。
【0049】
上記の様々なカテゴリーの中で、好ましい成分を以下に述べる。それぞれのカテゴリーから1又は複数の成分のいずれを選んで用いてもよく、成分のいかなる組み合わせも用いることができる。好ましくは、それぞれのカテゴリーから少なくとも1つの成分を選ぶことが好ましい。
【0050】
[炭素代謝源]
グルコース、ピルビン酸塩、好ましくはグルコースである。
【0051】
[アミノ酸]
好ましくは必須アミノ酸、及び任意に非必須アミノ酸、好ましくはL―アミノ酸である:
必須アミノ酸:アルギニン、システィン、グルタミン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、トリプトファン、バリン
非必須アミノ酸:アラニン、グリシン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン酸、プロリン、セリン、チロシン
【0052】
[成長因子]
EGF(上皮成長因子)、HGF(肝細胞成長因子)、KGF(ケラチノサイト成長因子)、NGF(ニューロン成長因子)、グリア由来の神経と栄養の因子、ニューロトロフィン
【0053】
[抗菌剤]
ラクトフェリン、リゾチーム、デフェンシン、分泌免疫グロブリンA
【0054】
[ホルモン]
インスリン
【0055】
[ビタミン]
ビタミンC(アスコルビン酸及びその塩)、任意にビオチン、葉酸、リポ酸、ナイアシンアミド、パントテン酸塩、ピリドキシン、リボフラビン、ビタミンB12及びビタミンA。
【0056】
[抗酸化剤]
チロシン及び/又はグルタチオン
【0057】
[ムチン置換体]
合成ムチン置換体及び/又はヒアルロン酸
【0058】
[電解質]
バルクイオンから選ばれる1又は複数の電解質、例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、塩素、重炭酸塩、硝酸塩、サルフェート、マグネシウム及びリン酸塩のイオンの1又は複数、及び微量元素、例えば銅、鉄、マンガン、モリブデン、ニッケル、セレニウム、シリコン、スズ、バナジウム、亜鉛
【0059】
[有機化合物]
アデニン、アラントイン、クロリン、i-イノシトール、リノール酸塩、プトレイシン、ピルビン酸塩、チミジンの1又は複数のいずれか。
【0060】
[プロテアーゼ阻害剤]
マトリックスメタロプロテアーゼの組織阻害剤(TIMPs)、α1−アンチトリプシン、α2−マクログロブリン、インター−α−アンチトリプシン、及びα1−チモトリプシンの1又は複数のいずれか。
【0061】
[付加要因]
フィブロネクチン
【0062】
[細胞代謝の毒性の副生成物の蓄積を減少させる薬剤]
キレーター、フリーラジカル捕捉剤
【0063】
成分(ii)において、本発明の調剤薬は、一般に炭素の代謝源、好ましくはグルコースを含む。グルコースは、一般的に約20から約1500mg/lの濃度、好ましくは約26mg/lの濃度で提供する。
【0064】
ラクトフェリンは好ましくは存在し、例えば約0.2から約4mg/lの濃度で、例えば約1.5mg/lの濃度で存在する。
【0065】
リゾチームは、さらに好ましい成分として約0.2から約7.0mg/mlの濃度、より好ましくは約0.4から約3.5mg/mlの濃度、例えば約1.5mg/mlの濃度で存在する。
【0066】
ビタミンCは、好ましくは存在し、例えば、目の表面媒体又は輪部表面媒体に対して約100から約500μg/ml、例えば、約117μg/mlの濃度で、及び治療上の目の表面媒体に対して約500μg/mlの濃度で存在する。
【0067】
ビタミンAは、一般的に存在する。目の表面媒体または輪部表面媒体に対しての濃度は、例えば約10から約20ng/ml、例えば、約15ng/mlの濃度である。治療上の目の表面媒体又は治療上の輪部表面媒体に対しては、濃度は好ましくはより高く、例えば約0.5mg/mlの濃度が、アルカリによる傷害の治療のための治療媒体に用いられるのに適している。
【0068】
表皮成長因子は好ましくは存在し、例えば、約0.1から2ng/mlの濃度で、例えば1ng/mlの濃度で存在する。
【0069】
チロシンは好ましくは存在し、例えば約40から約100μモルの濃度で、好ましくは、62μモルの濃度で存在する。
【0070】
グルタチオンはチロシンに加えて又はチロシンに代えて、例えば約50から約110μモルの濃度で好ましくは存在する。
【0071】
ナトリウムイオンは好ましくは存在し、例えば約140から150mEq/リットルの量で、例えば約145mEq/リットルの量で存在する。
【0072】
カリウムイオンは好ましくは存在し、例えば約20から約30mEq/リットルの量で、例えば約24から25mEq/リットルの量で存在する。
【0073】
カルシウム、塩素、重炭酸塩、硝酸塩、リン酸塩、サルフェートのイオンが好ましくは存在し、カルシウムイオンは約1.0から約2.0mMの濃度で、例えば1.5mMの濃度で、塩素イオンは約120から約130mMの濃度で、例えば約128mMの濃度で、重炭酸塩イオンは約20から30mMの濃度で、例えば26mMの濃度で、硝酸塩イオンは0.1から0.2mMの濃度で、例えば約0.13から0.14mMの濃度で、リン酸塩イオンは約0.15から0.25mMの濃度で、例えば約0.20から約0.24mMの濃度で、サルフェートイオンは、約0.35から約0.45mMの濃度で、例えば約0.38から約0.40mMの濃度で存在する。
【0074】
この節に挙げられた全ての成分を有することは、本発明の調剤薬にとって望ましい、すなわち、グルコース、ラクトフェリン、リゾチーム、EGF、チロシン、グルタチオン、ビタミンC、ビタミンA及びナトリウム、カリウム、カルシウム、重炭酸塩、硝酸塩、リン酸塩、サルフェートのイオンである。濃度は、好ましくは上記に述べたものである。
【0075】
成分(iii):本発明の調剤薬の成分(iii)は、涙液膜の流体特性を変えることのできる1又は複数の薬剤であって、安定した涙液膜を形成し、保持することができる少なくとも1の薬剤及び任意に眼科用潤滑剤、増粘剤、涙液膜の蒸発を減少させることができる薬剤の中から選ばれた1又は複数の薬剤を含む。
【0076】
安定した涙液膜を形成し、保持することができる薬剤は知られており、様々な脂質を含み、好ましくは極性脂質である、例えばスフィンゴミエリン、ホスファチジルクロリブ(phosphatidylcholibe)、及びリポタンパク質、例えば、エタノールアミン及びホスホエタノールアミンである。その代わりに、又はそれに加えてマイボーム腺分泌物、又はその合成類似物、又は1又は複数のそれらの成分を用いることができる。マイボーム腺分泌物は、、涙液膜を形成し、保持することに含まれる薬剤であるタンパク質リポカリンを含む。
【0077】
眼科用潤滑剤、増粘剤、涙液膜の蒸発を減少させることができる薬剤は、公知のものであり、また例えばヒプロメロース(hypromellose)(ヒドロキシプロピルメチルセルロースとしても知られている)、半合成のセルロース誘導体、メチルセルロース、カルボマー(例えば、「カルボポール(Carbopol)」のブランド名で販売されている)、カルメロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポビドン、デキストラン溶液、及び粘弾性薬剤、例えばヒアロン酸、ヒアロン酸ナトリウム及びコンドロイチン硫酸である。
【0078】
本発明のある態様によると、成分(iii)は、好ましくは、本発明の一態様によると発明者によって非常に優れた潤滑特性を有することが示され、望ましい栄養特性、低毒性で保管に良好な安定性を示すヒプロメロースを含む。好ましくは、調剤薬においては0.2から0.4%のヒプロメロースを含む。
【0079】
成分(iv):本発明の調剤薬の任意の成分(iv)は、目の表面の病気、障害、損傷の治療又は予防に用いるのに適した1又は複数の薬剤を含む。そのような薬剤は、例えば、イソプロテレノール、コルチコステロイド、例えば、ヒドロコルチゾン及びデキサメタゾン、非ステロディアル(non−sterodial)反インフラメートリ(anti−inflamatory)薬剤、粘液溶解薬剤、例えば、アセチルシステイン、血管形成阻害剤、例えばアンギオスタチン、アンジオテンシン及び抗VEGF、結合要因、例えばフィブロネクチン、抗線維化剤、例えば、抗TGFβ、抗菌剤、例えば、抗生物質、デフェンシン、殺菌剤、及び正常な涙中にある抗菌剤、例えば、リゾチーム、ラクトフェリン、sIgA、細胞代謝の毒性の副生成物の蓄積を減少させる薬剤、例えばキレーター、フリーラジカル捕捉剤、及び抗酸化物質、プロテアーゼ阻害剤、例えばマトリックスメタロプロテアーゼの組織阻害剤(TIMPs)、α1−アンチトリプシン、α2−マクログロブリン、インター−α−アンチトリプシン、及びα1−チモトリプシン、及びビタミンA。
【0080】
本発明の調剤薬は、好ましくは防腐剤を含まない、特にベンズアルコニウムクロライド(benzalkonium chloride)を含まない、目の表面細胞に有毒だからである。抗菌剤の組み合わせは、例えば、ラクトフェリン、リゾチーム、デフェンシン及びsIgAの1又は複数は、薬を1ヶ月の間細菌の汚染なしで用いることができ、標準の衛生状態を保つ。防腐剤の入っていない薬は、冷蔵庫で約4℃で保存する。
【0081】
成分(v):成分(v)は、本発明の輪部幹細胞薬中に存在し、幹細胞特性の生存及び維持、幹細胞の成長、及び生体外又は生体内での幹細胞の子孫の生存、維持及び分化、の1又は複数を促進する要因及び薬剤から選ばれる1又は複数の成分を含むことができる。そのような薬剤としては、EGF、基礎FGF及びNGFを含み、輪部幹細胞及びその親細胞の増殖を刺激する。
【0082】
本発明の調剤薬の最適の量、濃度及び様々な成分の比は、生体外及び/又は生体内の試験を用いられる経験に従って、経験的に決定することができる。生体外で上皮細胞、例えば角膜及び結膜の上皮細胞を分離し、培養する方法は、よく知られている、例えばWO98/16629を参照のこと。生体内での目の表面の細胞の成長及び分化を動物を用いて測定する方法もよく知られており、たとえばよく確立されたドライズ(Draize)試験が挙げられる。倫理上の問題から、できる限り多くの検証は生体外で行うことが好ましい。
【0083】
本発明の調剤薬に用いられるのに適した成分の詳細な説明及び適当な濃度及びその他の要因については、以下の実施例においてのべる。当業者であれば決まりきった生成物及び一般知識、例えば上記に述べたことを用いて、どのような特別な要求に従って、どのようなパラメータも変更することができる。
【0084】
本発明の調剤薬は、人間又は非人間に対する投薬に適しており、特に人間への投薬に適している。非人間である動物には、食用、輸送用、皮革用、毛又は羊毛用の動物が含まれ、例えば、牛、馬、羊、ヤギ、豚、鳥が挙げられる、薬学上有用な薬剤を生成するのに用いられる動物としては、例えば、遺伝子組み換え蛋白質、種馬及び産むための動物、競走馬、及びコンパニオン アニマル、例えば、猫、犬、小動物及び鳥である。
【0085】
人のための調剤薬又は獣医の使用のための規定の標準を満たすためには、調剤薬は、薬のための使用が許可されているものは除き、人間又は動物から得られた成分を含まないべきである、特に血液、臓器、腺から得られるものである。本発明の調剤薬成分は、合成又は遺伝子組み換え、又は薬事上用いられることが許可されるものである。好ましくは、調剤薬は、医療上の製品のための欧州連合感染性海綿状脳症(TSE)必要条件の一般モノグラフ1483及び欧州ファーマコピア(Pharmacopia)の一般章5.2.8に従うべきである。
【0086】
製剤
本発明の調剤薬は、目における使用に適した形態である、例えば溶液、クリーム、軟膏又はゲルが挙げられる。
【0087】
目での使用に適したキャリヤはよく知られ、ファーマコピア中に述べられている。それらは、適切な点眼薬のための精製水、ゲルのためのカルボマー、軟膏のためのパラフィン及び/又はラノリンを含む。
【0088】
調剤薬のpHは意図的な使用に適切である。例えば、点眼液は4.5から9.0の範囲のpHを有し、例えば6.0から9.0、好ましくは6.6から8.0、最も好ましくは約7.2である。ドライアイの治療又は予防のために、アルカリpH、例えば約8.5以下が望ましい。点眼液の浸透圧は一般に100から350mOsm、例えば、120から320mOsm、例えば150から350mOsm、例えば290から320mOsm、例えば約305mOsmである。同じpH及び浸透圧の範囲が一般にクリーム、ゲル及び軟膏に用いられる。
【0089】
点眼液の表面張力は、好ましくは約40dyne/cmから約80dyne/cmで、例えば約60dyne/cmである。
【0090】
点眼液の接触角(ぬれ角)は、好ましくは約20°から約50°、例えば約30°である。
【0091】
点眼液の粘度は、好ましくは、約5cpsから約50cps、例えば約10cpsである。
【0092】
本発明の調剤薬は、好ましくは臨床上重要な涙中断時間(BUT)を作る。涙中断時間は、涙液膜の組成及び身体構造上の要因に依存する、例えば、眼瞼球不一致は個人間でさまざまである。一般のガイドとして、本発明の調剤薬は、典型的な投与の場合、例えば、50μlの点眼液は、BUTの延長を少なくとも20分、好ましくは少なくとも40分、例えば約50分とする結果になる。
【0093】
溶液の場合、本発明の調剤薬の成分は、キャリヤに溶解することができ、適切な容器を満たす。1回の投与量が提供される、例えば1回の投与量のプラスチック製のアンプルが挙げられる。他の形態の場合、例えば、ゲル、クリーム及び軟膏は、通常の薬事上の慣例に従って生成される。そのような形態は、1回の投与量の単位又は1回の投与量を投与することのできる容器によって提供される、例えば定量ポンプである。それは溶液に用いるのに有用である、特に治療上の薬剤が調剤薬の中に存在している場合、1回の投与量を溶液で与えることは、クリーム、ゲル又は軟膏で与えるよりも容易である。溶液の1滴は、約50μlである。
【発明の効果】
【0094】
本発明の調剤薬の治療上の効用
上記に述べたとおり、本発明の調剤薬は様々な目の状態の治療又は予防に有用である。
【0095】
目の表面の障害は、種々の病因の障害であり、健康な目の表面を保つためのメカニズムの故障によって生じるものである。障害の原因は、栄養上のもの、外傷のもの、医原性のもの、増殖性のもの、まぶたの異常に次ぐもの、涙液膜の異常により生ずるもの、神経栄養のものであってもよい。その欠陥は、しばしば治療を受け付けない。目の表面の障害のいくつかのタイプは、ドライ又は非常にドライアイから生じる。ドライアイの状態は、ひどくない場合は、一般に「ドライアイ」又は「ドライアイ状態」と呼ばれる。ひどいドライアイは、乾性角結膜炎として知られている状態である。しかしながら、ドライアイ状態は、目の表面の障害を生じることなく、又は目の表面の障害に起因することなく生じる可能性がある。シェーグレン症候群の場合、ドライアイは、しばしば深刻である。非シェーグレンドライアイ(「ドライアイ」)は非常にありふれている。ドライアイ状態は、他の病理を伴っていない場合でさえ、非常に不快感と痛みを生じ、目が感染しやすくなる。目の表面が適切に機能していない状態又は障害はいずれも、目の表面の障害である。そのような障害は、ドライアイ、乾性角結膜炎、シェーグレン症候群、スケアリング(scaring)、手術後の状態、目の類天疱瘡、持続性の上皮の不具合、激しい又は慢性の目の表面の病気を含む。
【0096】
輪部幹細胞媒体は、角膜及び結膜の接合における角膜輪部組織及び/又は円蓋組織中に現れ、結膜及び角膜すなわち目の表面の上皮細胞の幹である。健康を維持するためのこれらの幹細胞が一部損傷していても、正常に分化した目の表面の上皮細胞は、目の表面に対し、深刻な結果となる。
【0097】
本発明の目の表面媒体は、
(i)目における使用に適した調剤上受容可能なキャリヤと、
(ii)目の表面の上皮細胞の生存、健康、細胞付着及び正常な分化の1又は複数を促進する要因及び薬剤、及び任意に扁平上皮化生を予防する要因及び薬剤から選ばれた1又は複数の成分と、
(iii)涙液膜の流体特性を変えることのできる1又は複数の薬剤であって、安定した涙液膜を形成し、保持することができる少なくとも1の薬剤と任意に眼科用潤滑剤、増粘剤、涙液膜の蒸発を減少させることができる薬剤の中から選ばれた1又は複数の薬剤を含むものとを有し、構成要素(ii)及び(iii)中の前記要因及び薬剤は、合成又は遺伝子組み換え又は薬の製造のために許可されているものである。
【0098】
目の表面の上皮細胞の生存、健康、細胞付着及び正常な分化の1又は複数を促進し、及び任意に安定な涙液膜を維持しながら、扁平上皮化生を予防することによって、本発明の目の表面媒体は、活発に正常で健康な目の表面を活性化し、ドライアイ状態及び目の表面の障害の治療及び/又は予防に用いることができる。ドライアイ状態は、ドライアイ、乾性角結膜炎、シェーグレン症候群を含む。目の表面の障害は、スケアリング(scaring)、手術後、その他外傷後の状態、目の類天疱瘡、持続性の上皮の不具合、激しい又は慢性の目の表面の病気を含む。
【0099】
本発明の治療上の目の表面媒体は、成分(i)から(iii)に加えて、(iv)目の表面、障害、損傷の予防又は治療に用いられるのに適した1又は複数の薬剤を有し、目の表面の障害及びドライアイ状態であって、さらなる病理状態、例えば感染症又は炎症、腫瘍、外傷、又は自己免疫、変性、医原性の状態の治療又は予防に用いられる。さらなる例としては、手術後及び外傷後の状態、例えば持続性の上皮の不具合の経歴(PED)を伴う全層角膜移植及びそれに次ぐ大規模な結膜の自己移植が挙げられる。
【0100】
本発明の輪部幹細胞媒体は、成分(i)から(iii)に加えて、(v)幹細胞特性の生存及び維持、目の表面の幹細胞の成長、及び生体外又は生体内での幹細胞の子孫の生存、維持及び分化、の1又は複数を促進する要因及び薬剤から選ばれる1又は複数の成分を有する。本発明の輪部幹細胞媒体は、輪部幹細胞の欠乏又は不足を含む状態、例えば、輪部幹細胞の部分的又は全体的な不足、及び輪部幹細胞の移植手術後の治療を含む状態の治療又は予防に用いられることが出来る。
【0101】
本発明の治療上の輪部幹細胞媒体は、成分(i)から(iii)及び(v)に加えて、上述した(iv)を有する。治療上の輪部幹細胞媒体は、さらなる病理状態、例えば感染症又は炎症、腫瘍、外傷、又は自己免疫、変性、医原性の状態が存する又はその状態である輪部幹細胞媒体状態の治療又は予防に用いられることができる。さらなる例としては、手術後及び外傷後の状態、例えば持続性の上皮の不具合の経歴(PED)を伴う全層角膜移植及びそれに次ぐ大規模な結膜の自己移植が挙げられる。
【0102】
本発明は、薬として用いられる調剤薬を提供する。本発明は、上記に述べた様々な媒体を以下に述べるように特定の目的に使用することもまた提供する。
【0103】
ドライアイ、乾性角結膜炎、シェーグレン症候群、スケアリング(scaring)、手術後、その他外傷後の状態、目の類天疱瘡、持続性の上皮の不具合、激しい又は慢性の目の表面の病気を含む目の表面の障害及びドライアイ状態の治療又は予防に用いられる本発明の目の表面媒体。
【0104】
ドライアイ、乾性角結膜炎、シェーグレン症候群、スケアリング(scaring)、手術後、その他外傷後の状態、目の類天疱瘡、持続性の上皮の不具合、激しい又は慢性の目の表面の病気を含む目の表面の障害及びドライアイ状態であって、さらなる病理状態、例えば感染症又は炎症、腫瘍、外傷、又は自己免疫、変性、医原性の状態が存する目の表面の障害及びドライアイ状態の治療又は予防に用いられる本発明の治療上の目の表面媒体。さらなる例としては、手術後及び他の外傷後の状態、例えば持続性の上皮の不具合の経歴を伴う全層角膜移植及びそれに次ぐ大規模な結膜の自己移植が挙げられる。
【0105】
輪部幹細胞の欠乏又は不足を含む状態、例えば、輪部幹細胞の部分的又は全体的な不足、及び輪部幹細胞の移植手術後の治療を含む状態の治療又は予防に用いられることが出来る輪部幹細胞媒体。
【0106】
本発明の治療上の輪部幹細胞媒体は、輪部幹細胞の欠乏又は不足を含む状態、例えば、輪部幹細胞の部分的又は全体的な不足、及び輪部幹細胞の移植手術後の治療を含む状態であって、さらなる病理状態、例えば感染症又は炎症、腫瘍、外傷、又は自己免疫、変性、医原性の状態が存する状態の治療又は予防に用いられることが出来る。さらなる例としては、手術後及び外傷後の状態、例えばPEDの経歴を伴う全層角膜移植及びそれに次ぐ大規模な結膜の自己移植が挙げられる。
【0107】
本発明は、上述した治療及び予防の様々な方法に用いられる薬の製造のための本発明の調剤薬の使用もまた提供する。
【0108】
本発明はさらに冒された目に適用するものを含む上述した様々な状態の治療及び予防の様々な方法を提供する、詳細は、課題を解決するための手段を参照。
【0109】
本発明の調剤薬は、目の表面の上皮細胞の生存、健康、成長、移染、細胞付着及び正常な分化を促進し、及び任意に扁平上皮化生を予防することができ、目の表面の障害及びドライアイ状態の治療に効果的である。以前提案されていた「人口涙」は、目の潤滑剤であり、涙の量と流体力学を改善することは可能であるが、目の表面の上皮細胞の生存、健康、成長、移染、細胞付着及び正常な分化を促進しない。以前提案されていた目の表面の障害及びドライアイ状態の治療であって、局所治療、手術及び治療的なコンタクトレンズを含むものは、満足なものではなかった。ドライアイ状態は、深刻なものでなくても、不快感、痛みを生じ、目を感染しやすくする。そのような状態はありふれたことである。本発明の調剤薬は、特に目の表面媒体及び治療上の目の表面媒体であり、そのような状態及びその他の目の表面の障害に単純で効果的な治療及び予防を提供する。
【0110】
本発明の輪部幹細胞媒体は、目の表面の上皮細胞の生存、健康、成長、移染、細胞付着及び/又は正常な分化を促進し、及び扁平上皮化生を予防することに加え、幹細胞特性の生存及び維持、及び/又は目の表面の幹細胞の成長、及び/又は幹細胞の子孫の生存、維持及び分化を促進する。輪部幹細胞媒体は、輪部細胞の再生及び上皮細胞への分化を促進し、幹細胞自体を育て、支え、その中に入る細胞を分化する。本発明の輪部幹細胞媒体は、輪部幹細胞の欠乏又は不足を含む状態、例えば、輪部幹細胞の部分的又は全体的な不足、及び輪部幹細胞の移植手術後の治療を含む状態に対する単純で効果的な治療及び予防を提供する。
【0111】
[他の治療薬の媒体としての使用]
本発明の調剤薬は、治療薬特にドライアイ又は目の表面の状態に伴う状態の治療に有用な治療薬を含むことが可能である。
【0112】
さらに、本発明は、本発明の目の表面媒体又は輪部幹細胞媒体を薬事上の媒体又はキャリヤとして用いることを提供する。
【0113】
本発明は、治療薬を含み、治療媒体又はキャリヤとして、本発明の目の表面媒体又は輪部幹細胞媒体を含む眼科の薬剤組成物もまた提供する。そのような治療薬は、例えば抗生物質、抗菌剤、抗真菌剤、抗ウイルス剤及び殺菌剤といった抗菌性薬、副腎皮質及び非ステロイド抗炎症剤といった抗炎症性薬、交感神経興奮剤、ベータブロッカー、プロスタグランジン類似体、副交感神経作用、炭素脱水酵素阻害剤といった眼球内の圧力を下げる抗緑内障薬、アセチルシスティンのような粘液溶解薬、抗ムスカリン剤及び交感神経興奮剤といった散瞳薬及び毛様筋調節薬、及び多くの細胞安定剤及び抗ヒスタミン剤のような抗アレルギー薬を含む。
【0114】
本発明の調剤薬を用いる利点は、特に従来のキャリヤの代わりに目の表面媒体(OSM)又は輪部幹細胞媒体(LSCM)を用いる利点は、本発明の調剤薬は、目の表面の上皮細胞の生存、健康、細胞付着及び/又は正常な分化を支え、その一方で安定な涙液膜を維持し、そうして積極的に正常で健康な目の表面を促進し、輪部幹細胞媒体の場合、目の表面の幹 細胞に成長及び分化を支える。
【0115】
多くの目の治療薬は、目の表面に有害な効果を有する、例えば、有毒で角膜上皮に有毒な防腐剤を含むものがある。しかしながら、治療が必要な状態 が十分に深刻である場合、そのような状態を治療しない危険は、目の表面を損傷することよりもまさる。目の表面の健康及び生存能力を促進するためには、本発明のOSM又はLSCMをそのような治療薬の媒体として用いることは、治療薬の反対の効果を中和し、損傷の危険性を減少させる。
【0116】
塩化ベンザルコニウムは防腐剤で眼科に用いられるが、目の表面細胞を害する。しかしながら、 防腐剤の使用は常に避けることはできない。 目の表面の健康及び生存能力を促進することにより、本発明のOSM又はLSCMを塩化ベンザルコニウムを含む成分の媒体として用いることは、 防腐剤の反対の効果を中和し、損傷の危険性を減少させる。
【0117】
[本発明の調剤薬を目の表面の上皮細胞の生体外の培養に使用]
本発明の調剤薬は目の表面の上皮細胞の生体外培養媒体として用いられる。
【0118】
以下に本発明の制限的でない実施例を述べる。
実施例
【実施例1】
【0119】
目の表面媒体
目の表面媒体を以下のとおり点眼液を構成する。
【0120】
目の表面媒体の基本的混合物の製造
点眼液に用いられるのに適した水は、全体の体積の80%以上である。マグネティック スターラーでこの水を静かに攪拌しながら、以下のものを加える:L−アラニン(8.69mg/L)、L−アルギニン.HCl(406.70mg/L)、L−アスパラギン.HCL (12.74mg/L)、L−アスパラギン酸(3.86mg/L)、L−システィン.HCL.HO(40.53mg/L)、L−グルタミン酸(14.28mg/L)、L−グルタミン(984.40mg/L)、グリシン(7.34mg/L)、L−ヒスチジン.HCL.HO(48.64mg/L)、L−イソロイシン(5.79mg/L)、L−ロイシン(126.60mg/L)、L−リジン.HCL(52.98mg/L)、L−メチオニン(13.03mg/L)、L−フェニルアラニン(9.65mg/L)、L−プロリン(33.39mg/L)、L−セリン(121.80mg/L)、L−トレオニン(22.97mg/L)、L−トリプトファン(8.98mg/L)、L−チロシン−二ナトリウム塩(11.27mg/L)、L−バリン(67.75mg/L)、ビオチン(0.019mg/L)、D−Ca++−パントテン酸塩(0.29mg/L)、塩化コリン(13.51mg/L)、葉酸(0.772mg/L)、i-イノシトール(17.37mg/L)、ナイアシンアミド(0.039mg/L)、ピリドキシン.HCL(0.058mg/L)、リボフラビン(0.039mg/L)、チアミン.HCL(0.29mg/L)、ビタミンB12(0.396mg/L)、プトレシン.2HCL(0.193mg/L)、D−グルコース(1462.00mg/L)、KCL(108.10mg/L)、NaCl(6553.00mg/L)、チミジン(0.704mg/L)、アデニン(23.16mg/L)、[4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸]、(HEPES、3220.00mg/L)、リポ酸(0.193mg/L)、ピルビン酸ナトリウム(53.08g)、酢酸ナトリウム(290.50mg/L)、NaHPO(274.10mg/L)、NaSO(3.38mg/L)、及び遺伝子組み換えのインスリン(5.00mg/L)。
【0121】
エタノールアミン.HCLの原液は、976mg/L/Lで水中に調整され、この原液の0.615ml/Lは基礎媒体溶液に加えられ、最終的にエタノールアミン.HCLの濃度は0.60mg/Lになる。
【0122】
ホスホエタノールアミンの原液 は1408.00mg/Lで水中に調整され、この原液の0.1001ml/Lは基礎媒体溶液に加えられ、最終的なホスホエタノールアミンの濃度は、0.141mg/Lとなる。
【0123】
FeSO.7HO(41.70mg/L)、 MgCl.6HO(18890mg/L)、CaCl.2HO及び0.207CuSo.5HO(1343.5mg/L)は水中に0.5ml/Lの濃度の濃HCLを含むように調整され、原液の9.660mlは基礎媒体溶液に加えられ、最終的な濃度は、 FeSO.7HOが0.403mg/L、 MgCl.6HOが182.50mg/L、CaCl.2HOが12.98mg/L及びCuSo.5HO が0.002mg/Lである。
【0124】
ZnSO.7HO(137.68mg/L)の原液 は水中に調整され、この原液の0.9660ml/Lは基礎媒体溶液に加えられ、最終的なZnSO.7HOの濃度は、0.133mg/Lとなる。
【0125】
NaSeO(0.513mg/L)、(NHMo24.4HO(0.124mg/L)、NaSiO.9HO(14.2mg/L)、NiSO.6HO(0.013mg/L)、MnCl.4HO(0.002mg/L)、SnCl.2HO(0.011mg/L)、及びNHVO(0.059mg/L)は水中に0.5ml/Lの濃度の濃HCLを含むように調整され、原液の9.660mlは基礎媒体溶液に加えられ、最終的な濃度は、 NaSeOが0.00496mg/L、 (NH)6Mo24.4HOが0.00120mg/L、NaSiO.9HOが0.137mg/L、NiSO.6HOが0.00002mg/L、MnCl.4HOが0.00011mg/L、SnCl.2HOが0.00011mg/L及びNHVO が0.00057mg/Lである。
【0126】
ヒドロコルチゾンの原液 は370mg/Lで95%エタノール中に調整され、この原液の0.2ml は基礎媒体溶液に加えられ、最終的なヒドロコルチゾンの濃度は、0.074mg/Lとなる。
【0127】
トリヨードチロニン(T3)の原液 は67.00mg/Lで70%エタノール中に調整され、この原液の0.1ml は基礎媒体溶液に加えられ、最終的なT3の濃度は、0.0067mg/Lとなる。
【0128】
NaHCO (1160mg/L)は基礎媒体溶液に加えられ、溶液のpHはHClを用いて7.2±0.25に調節され、体積は水で所望の体積にする。浸透圧は、290±15mOsmに定められる。
【0129】
前記混合物はその後、適切な条件で低蛋白質結合フィルターを細菌ろ過し、びんに詰め、使用されるまで光の少ない状態で4℃で保管される。
【0130】
補足物の調整
下記のものを無菌のダルベッコホスフェート緩衝生理食塩水(DPBS)に攪拌しながら加える:アスコルビン酸ホスフェート、マグネシウム塩(50mg/L)、酸性FGF(2.5mg/L)、 人間のヘパリン遺伝子組み換えナトリウム塩(5000USP単位/L)及び人間EGFの遺伝子組み換え。
【0131】
イソプロテノール.HCl(1,000,000mg/L) の原液をDPBS又はアスコルビン酸50mg/Lを含む水中に調整し、この溶液の1.25ml/Lを上記液に加え、補足物を500X生成する。
【0132】
この500X溶液はその後、適切な条件で低蛋白質結合フィルターを細菌ろ過し、基礎媒体溶液に加えられるか等分され、用いられるまで−20から−80℃で保管される。
【0133】
点眼液の調整
点眼液として用いられるためには、前記補足物は基礎媒体の混合物の1:500の体積比で加えられる。
点眼液は2時間毎に用いる(1日に8回)。
【実施例2】
【0134】
実施例1に記載された調剤薬を製剤して3人 の健康なボランティアに試した。滴状の溶液は2時間毎(1日に8回)1週間まで投与する。副作用は起きなかった。点眼液は「心地よい」 と記された。
【実施例3】
【0135】
目の表面媒体
以下に示すデータは、ドライアイの治療に用いられる目の表面媒体の成分のリストであって、その媒体は実施例1で示されたものの代替物である。それぞれの成分の好ましい濃度及びそれぞれの成分の濃度の好ましい範囲のおおよその目安が記載されている。それらの媒体は実施例1と同様に実証されている。
【表1】



【表2】

上記媒体は、この例に従って作成され、補足物が1:500希釈で加えられた場合、下記の物理特性が測定される。許容できる値の範囲も記載する。
【表3】

【0136】
上記媒体の生体外での試験は、人間の上皮細胞ラインの生存能力を維持することができ、生体外で人間の角膜の上皮細胞を初代培養できることを示した。 培養された輪部移植片からの人間の角膜の上皮細胞の派生物は、この細胞によって支えられている。人間の角膜の線維芽細胞の傷を癒す働きは、この媒体によって人間の血清中の活性に比較して穏やかになる。このような緩和は、過剰な細胞の増殖を避け、組織の傷の形成を制限するのが望ましい状況で、望ましい特性である。
【実施例4】
【0137】
以下のデータは、ドライアイの治療のためのさらなる代わりの目の表面媒体の成分のリストである。この媒体は実施例1に示したと同様な方法で調整された。
【表4】





【表5】

【実施例5】
【0138】
以下のデータは、以下の治療に用いられるのが特に適している 治療上の目の表面の回復媒体の成分のリストである。
・持続性の上皮の不具合
・激しく慢性の目の病気
・PEDを伴う全層角膜移植の手術後治療及び大規模な結膜の自己移植の手術後治療
媒体及び補足物のいずれの成分も実施例3に以下の変更、追加を伴って与えられる。
【表6】

【表7】

【実施例6】
【0139】
以下のデータは、輪部幹細胞の欠如又は機能障害の治療及び輪部幹細胞移植後の治療のための媒体の成分のリストである。
媒体及び補足物のいずれの成分も実施例3に以下の変更、追加を伴って与えられる。
【表8】

【実施例7】
【0140】
ドライアイ臨床試験
この実施例で述べられる臨床試験は、ドライアイの治療において本発明に従って作られた目の表面媒体の効能を示す。
【0141】
[患者のデータ]
被験者
ムーアフィールド眼科医院で角膜及び外部の病気科の穏やかから激しいドライアイの患者を10人募った。8患者は女性で、2患者は男性である。それぞれの患者の両目を試験した。
年齢: 52.90±18.45才
範囲 18−77
中央値 53
追跡できなかった患者はなく、辞退した患者もいない。
【0142】
患者の経歴は以下の通りである:
シェーグレン症候群
初期の(1)及び二次的な(5)
非シェーグレン涙欠乏(5)
全身の病気
リウマチ関節炎(5)
目の瘢痕性類天疱瘡
スティーブン−ジョンソン症候群
アトピー
その他の自己免疫病
全身の治療
コルチコステロイド、口(1)
免疫抑制、口(2)
被験目の角膜移植
刺し傷
【0143】
[方法]
臨床の採点方法
被験目の臨床状態は、以下の技術によって評価される。
【0144】
ローズベンガル染色:ローズベンガルは目に染み込む。目は6つの標準領域に分割され、それそれの領域がその領域の状態に基づいて、0点が最高及び0点が最低として0から3の点が与えられる。それぞれの目の領域の点は、加えられ、それぞれの目が18点を超えて全得点を与えられる。
【0145】
蛍光色素染色:蛍光色素は、目に染み込む。目は5つの標準領域に分割され、それそれの領域がその領域の状態に基づいて、0点が最高及び0点が最低として0から3の点が与えられる。それぞれの目の領域の点は、加えられ、それぞれの目が15点を超えて全得点を与えられる。
【0146】
シルマー試験:シルマー試験は5分間麻酔なしで行われる。この時間内に涙によって濡れたフィルターペーパーの長さは 、mmで記録される。
【0147】
涙中断時間(BUT):目の表面上に乾燥した場所が現れ、完全なまばたきがなされる時間をストップウォッチで測定し、秒単位で記録する。
【0148】
症状の採点:患者は症状のひどさを以下の等級に従って尋ねられる。
等級0:症状なし。
等級1:症状は穏やかで不快でない。
等級2:症状は普通で不快であるが、活動に支障はない。
等級3:症状はひどく不快であるが、活動に支障はない。
等級4:症状は非常にひどく、不快であり、活動に支障がある。
【0149】
以下の症状は得点される:
乾燥
異物感(砂又は砂利が目に入った感じ)
視界のかすみ
不快感
羞明
【0150】
それぞれの症状の点数は、合わせて加えられ、全点数が20を超えて全症状の点数が与えられる。
【0151】
顔の類似の得点(顔得点):患者は「うれしい」(得点1)から「悲しい」(得点10)までの一連の10の顔を見せられ、「どの顔が最もあなたの状態を示していますか」とたずねられる。
【0152】
結膜充血:結膜充血(「目が血走る」)は、角膜及びコンタクトレンズの調査単位(CCLRU)階級に従って、0から4の階級がつけられ、階級4が最も激しい。
【0153】
眼瞼炎:12点を超えた点が、それぞれの目の症状の数に基づいて、それぞれの目に対して計算される。それぞれの症状は1点である。観察される症状は:
【0154】
瞼の先の縁:潤滑油
皮膚落屑
小環
明らかな潰瘍
まつ毛の喪失
炎症
瞼の後ろの縁:
塞がれた腺 >1/3
テランジエクラシア(Telangieclasia)
マイボーム腺炎
瞼の縁の刻み
活性霰粒腫
【0155】
目の内圧(IOP):IOPはmmtlgで測定され、記録される。
最も矯正された視力(BCVA):BCVAは以下のように測定され、得点される。
1=6/6
2=6/9
3=6/12
4=6/18
5=6/24
6=6/36
7=6/60
8=3/60
9=1/60
10=HM,CF
11=PL
12=NPL
【表9】

RB=ローズベンガル、BUT=涙中断時間の延長、IOP=目の内圧、BCVA=最も矯正された視力、シルマー=シルマー試験
【0156】
医療行為
実施例1の目の表面媒体は、1ヶ月にわたって1日に8回、両目に与える。患者は、1週、2週及び調査を終了する4週に、自覚的な症状及び他覚的なサインを評価され記録する。
【0157】
[分析]
基準からの自覚的及び他覚的な変化が分析される。データは、「包括解析」に基づいて分析される。 効果の変化は、より悪い目のデータからのみ分析される。より悪い目とは、 シルマー試験の点が最も低く、角膜と結膜の染色の合計が悪いものと定義される。両目が同程度の場合は、右目が用いられる。
【0158】
両目に対して安全な分析が行われる。
ウイルコクソンの順位和検定は、追跡診察の度にすべての一次的及び二次的な効果の変化における基準からの変化に関して2つのグループ間の違いの評価に用いられる。
【0159】
定量的なデータは、組となる試料のパラメータのデータのt−試験によって分析される。独立した非パラメータデータは、2グループを比較するためのマン−ウィットニー(Mann−Whitney)U試験 によって分析される。
【0160】
結果
[一次的な結果]
ローズベンガル染色(RB)が第4週の試験の完了時には被験目(基準のより悪い目)の10人中7人が基準より3点又はそれ以上の点で改善された。
[二次的な結果]
ドライアイの自覚的な症状が10人全ての患者において改善された。第4週 までに、乾燥、異物感、不快感、羞明及び顔得点の記録の意義深い改善が見られた。 眼瞼炎、涙中断時間の延長、蛍光色素染色の得点、シルマー試験及び目の内圧(IOP)には第4週までに意義深い変化は見られなかった。
【0161】
【表10】

【表11】

【0162】
成功例(RBの得点が第4週の記録から3点又はそれ以上改善された)
リウマチ関節炎(5)であり二次的にシェーグレン症候群(3)でもある患者
スティーブン−ジョンソン症候群(2)
シルマー試験(涙で濡れたフィルター紙の一片の長さでmmで現される)0mm (2)、1mm(2)、2mm(1)、3mm(1)、4mm(1)
【0163】
失敗例(RBの得点が第4週の記録から3点以下改善された)
OCP(1)の患者。54才の女性は全身免疫抑制である。シルマーは0m。
被験目のRB得点は16であり、RB得点の変化は2である。
スティーブン−ジョンソン症候群及びアトピー(1)。18才の女性。シルマー0。 被験目のRB得点は9であり、RB得点の変化は−3である。
初期のシェーグレン症候群。39才の女性。シルマーは1mm。 被験目のRB得 点は14であり、RB得点の変化は2である。
【0164】
[安全性データ(ウイルコクソンの順位和検定で両目を分析した)]
BCVA:最も矯正された視力は、基準から第4週まで被験目(p=0.891)又はもう一方の目(p=0.705)に大きな変化はない。
IOP: IOPは、基準から第4週まで被験目(p=0.889)又はもう一方の目(p=0.482)に大きな変化はない。
【0165】
結膜充血:基準から第4週まで被験目(p=0.008)又はもう一方の目(p=0.014)も大きく減少した。
白内障:試験期間において被験目又はもう一方の目が白内障に発展した患者はいなかった。1人の患者は、試験期間中に、目の局所又は全体の治療の変更を伴わずに、もう一方の目に白内障摘出及び眼内レンズの移植を受けた。
【0166】
不利な出来事:一人の患者が第2週及び第3週に読書中の目のかすみを訴えたが、試験は続行され、症状は解決した。
【0167】
[結論]
自覚的な症状の改善が10人の患者全員に見られ、他覚的な症状の改善が7人の患者に見られた。深刻な不利な出来事はなく、視力、目の内圧、レンズの不透明さに大きな変化はなかった。本発明に従って、目の表面媒体を適用することは、目の表面の病気に対して有効で安全な治療であることがわかった。
【0168】
実施例8
様々な増粘剤及び栄養物の比較
様々な増粘剤は、濃縮された状態で、本発明に従って、生理学上目の表面媒体と両立して用いられる補足物である。生じた媒体は、生体外で試験される。
【0169】
[材料と方法]
ヒプロメロース、カルボポール又はヒアロン酸ナトリウムは、0.0001%から0.4%の濃度で目の表面媒体への補足剤として用いられた。結果物のpHと浸透圧は調整され、生理学上の範囲に調節された。生物物理学的な特性、例えば粘度及び表面張力は、血流計及び電子圧力計によって測定される。2人の人の角膜上皮細胞(HCE−T及びCEPEI−17−Cl.4)及び2人の人の結膜上皮細胞は、製剤に応答した細胞の増殖、生存能力、転移 をATP分析に基づく発光、カルセインAM/EthD−1分析、コロニー分散分析によって調査される。全ての溶液は4℃で3ヶ月保存され、再度安定性の調査がなされる。
【0170】
結果
補足されていない媒体の浸透圧は、ずり速度1.7から128.5s−1で0.75mPa.sec であった。 ヒプロメロース、カルボポール又はヒアロン酸ナトリウムは、全ての濃度において媒体の粘度を大きく増加した、しかし、ほんの0.2%及び0.4%のヒプロメロース及び0.4%のヒアロン酸ナトリウムで補足された媒体は、適度の粘度と非ニュートン挙動を見せた。ヒプロメロースで補足された媒体の粘度は、4℃で保管された場合3ヶ月の間安定である。それに対して、カルボポール又はヒアロン酸ナトリウムで補足された媒体の粘度は大きく変化した。ヒプロメロースで補足した媒体の表面張力は涙に類似した表面張力50mN/mを示した。比較のために、水の表面張力は約70mN/mである。0.2%又は0.4%のヒプロメロースで補足された媒体は、細胞の成長と細胞増殖を支える優れた能力を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目に用いるのに適した調剤薬であって、
(i)目における使用に適した調剤上受容可能なキャリヤと、
(ii)目の表面の上皮細胞の生存、健康、細胞付着及び正常な分化の1又は複数を促進する要因及び薬剤、及び任意に扁平上皮化生を予防する要因及び薬剤から選ばれた1又は複数の成分と、
(iii)涙液膜の流体特性を変えることのできる1又は複数の薬剤であって、安定した涙液膜を形成し、保持することができる少なくとも1の薬剤と、任意に眼科用潤滑剤、増粘剤、涙液膜の蒸発を減少させることができる薬剤の中から選ばれた1又は複数の薬剤を含むものとを有し、
構成要素(ii)及び(iii)中の前記要因及び薬剤は、合成又は遺伝子組み換え又は薬の製造のために許可されているものであることを特徴とする調剤薬。
【請求項2】
請求項1に記載された調剤薬であって、さらに
iv)目の表面の病気、障害又は損傷の治療又は予防に用いられるのに適した1又は複数の薬剤を有することを特徴とする調剤薬。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の調剤薬であって、さらに
(v)幹細胞特性の生存及び維持、目の表面の幹細胞の成長、及び生体外又は生体内での幹細胞の子孫の生存、維持及び分化、の1又は複数を促進する要因及び薬剤から選ばれる1又は複数の成分を有することができ、前記要因及び薬剤は合成又は遺伝子組み換え又は薬の製造のために許可されているものであることを特徴とする調剤薬。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載の調剤薬であって、(iv)目の表面の病気、障害又は損傷の治療又は予防に用いられるのに適した1又は複数の薬剤 が、
散瞳薬、ステロイド、粘液溶解薬、血管形成阻害剤、接着因子、抗繊維化剤、抗菌剤、抗グルコマ(anti−glucoma)剤、細胞の代謝の毒性の副生成物の蓄積を減少させる薬剤から選ばれることを特徴とする調剤薬。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の調剤薬であって、成分(i)が、
点眼液用精製水、眼科組成物用クリーム基材、眼科組成物用ゲル基材及び眼科組成物用軟膏基材 から選ばれる1又は複数の薬剤であることを特徴とする調剤薬。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の調剤薬であって、成分(ii)が
炭素代謝源、アミノ酸、成長因子、ビタミン、抗酸化剤、ムチン置換体、バルクイオン、微量元素、たんぱく質、ホルモン、プロテアーゼ阻害剤、抗菌剤を提供する薬剤から選ばれる1又は複数の薬剤であることを特徴とする調剤薬。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の調剤薬であって、安定した涙液膜を形成し、保持することができる薬剤が、
脂質、リポタンパク質、 マイボーム腺分泌物、又はその合成類似物
から選ばれることを特徴とする調剤薬。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の調剤薬であって、成分(iii)が、
ヒプロメロース(hypromellose)、半合成のセルロース誘導体、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボマー、カルメロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポビドン、デキストラン溶液、ヒアロン酸、及びコンドロイチン硫酸から選ばれる眼科用潤滑剤、増粘剤又は涙液膜の蒸発を減少させることができる薬剤を含むことを特徴とする調剤薬。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の調剤薬であって、 塩化ベンザルコニウムを含まないことを特徴とする調剤薬。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載の調剤薬であって、調剤薬が摂氏4℃で1ヶ月保存しても細菌により汚染されないように、
ラクトフェリン、リゾチーム、デフェンシン、sIgA
から選ばれる抗菌剤を含むことを特徴とする調剤薬。
【請求項11】
請求項1から10のいずれかに記載の調剤薬であって、pHが6.6から8.0の範囲にあることを特徴とする調剤薬。
【請求項12】
点眼液として用いられる溶液の形態であることを特徴とする 請求項1から11のいずれかに記載の調剤薬。
【請求項13】
クリーム、軟膏、ゲル の形態であることを特徴とする 請求項1から11のいずれかに記載の調剤薬。
【請求項14】
請求項12に記載の調剤薬であって、点眼液として用いられる前記溶液の浸透圧が、290mOsmから320mOsmの範囲であることを特徴とする調剤薬。
【請求項15】
請求項12又は請求項14に記載の調剤薬であって、点眼液として用いられる前記溶液の表面張力が、40 dyne/cmから80 dyne/cmの範囲であることを特徴とする調剤薬。
【請求項16】
請求項12、請求項14又は請求項15に記載の調剤薬であって、点眼液として用いられる前記溶液の粘度が、5 cpsから50 cpsの範囲であることを特徴とする調剤薬。
【請求項17】
1回の投与量であることを特徴とする請求項1から16のいずれかに記載の調剤薬。
【請求項18】
薬剤として用いられることを特徴とする 請求項1から17のいずれかに記載の調剤薬。
【請求項19】
前記薬剤が目の表面の障害の治療に用いられることを特徴とする請求項18記載の調剤薬。
【請求項20】
請求項19記載の調剤薬であって、前記目の表面の障害が、
ドライアイ、激しいドライアイ、スケアリング(scaring)、目の類天疱瘡、持続性の上皮の不具合、激しい目の表面の障害、慢性の目の表面の病気、目の感染症又は炎症、目の腫瘍、目の外傷の中から選ばれることを特徴とする調剤薬。
【請求項21】
請求項19又は請求項20に定義された状態の治療に用いられる薬剤の製造に、請求項1から17のいずれかに記載の調剤薬を用いる方法。
【請求項22】
請求項1から17のいずれかに記載の調剤薬を治療に効果的な量投与することを有する治療が必要とされる対象における目の表面の障害を治療する方法。
【請求項23】
目の表面の障害が、請求項20に定義されたものであることを特徴とする請求項22記載の方法。
【請求項24】
対象が哺乳類であることを請求項22又は請求項23記載の方法。
【請求項25】
哺乳類が人間であることを特徴とする請求項24記載の方法。
【請求項26】
目の薬事上の組成物のための薬事上の媒体又はキャリヤとして請求項1から請求項17のいずれかに記載された調剤薬を用いる組成物。
【請求項27】
1又は複数の実施例を参照してここで述べられた調剤薬。

【公表番号】特表2007−526292(P2007−526292A)
【公表日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−501349(P2007−501349)
【出願日】平成17年3月2日(2005.3.2)
【国際出願番号】PCT/GB2005/000806
【国際公開番号】WO2005/084635
【国際公開日】平成17年9月15日(2005.9.15)
【出願人】(506188666)インスティテュート オブ オフタルモロジー (2)
【出願人】(506298046)ムーアフィールズ アイ ホスピタル エヌエイチエス ファウンデーション トラスト (1)
【Fターム(参考)】