説明

直噴式エンジンの燃焼室構造

【課題】燃料をスキッシュエリアで積極的に燃焼させることで、NOxやスモーク等の生成が少なく、且つ燃料消費量が少ない直噴式エンジンの燃焼室構造を提供する。
【解決手段】ピストン10の頂面17に、キャビティ11の内周壁面16に連続してピストン10の径方向外側に向かい延び且つピストン10の径方向外側に向かうに従って浅くなる傾斜面19と、傾斜面19の外周に段差なく連続してピストン10の外周面21まで延び且つピストン10の中心軸Cに直交する直交面20とを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピストンの頂部中央に凹設されたキャビティにピストンの上方に配置されたインジェクタの噴孔から燃料が噴射される直噴式エンジンの燃焼室構造に関する。
【背景技術】
【0002】
直噴式ディーゼルエンジンのピストン頂部に設ける燃焼室(キャビティ)の形状としては、浅皿型、リエントラント型、トロイダル型等がある。従来の直噴式ディーゼルエンジンの燃焼室構造では、燃料をキャビティ内で燃焼させることに主眼をおいている。
【0003】
なお、この種の直噴式ディーゼルエンジンの燃焼室構造は、例えば、特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−211644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の直噴式ディーゼルエンジンの燃焼室構造では、燃料をキャビティ内で燃焼させることに主眼をおいており、燃料をスキッシュエリア(ピストン頂面とシリンダ天井面との間の領域)で積極的に燃焼させていない。そのため、燃焼領域がキャビティ内に偏るため、エミッションの改善や燃料消費量の低減が困難である。
【0006】
そこで、本発明の目的は、燃料をスキッシュエリアで積極的に燃焼させることで、NOxやスモーク等の生成が少なく、且つ燃料消費量が少ない直噴式エンジンの燃焼室構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するために、本発明は、ピストンの頂部中央に凹設され、前記ピストンの上方に配置されたインジェクタの噴孔から燃料が噴射されるキャビティを備え、前記ピストンの頂面に、前記キャビティの内周壁面に連続して前記ピストンの径方向外側に向かい延び且つ前記ピストンの径方向外側に向かうに従って浅くなる傾斜面と、前記傾斜面の外周に段差なく連続して前記ピストンの外周面まで延び且つ前記ピストンの中心軸に直交する直交面とを設けたものである。
【0008】
前記傾斜面の角度は、前記直交面側を基準に1度から30度の範囲内とされることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、燃料をスキッシュエリアで積極的に燃焼させることで、NOxやスモーク等の生成が少なく、且つ燃料消費量が少ない直噴式エンジンの燃焼室構造を提供することができるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態に係る直噴式エンジンの燃焼室構造を示すピストンの側断面図である。
【図2】変形例に係る燃焼室構造を示すピストンの側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0012】
図1に示すように、本実施形態に係る直噴式エンジンの燃焼室構造Aは、直噴式ディーゼルエンジンのピストン10の頂部中央に凹設されたキャビティ(燃焼室)11を備えている。キャビティ11には、ピストン10の上方に配置され、後述する傾斜面19とリップ部12との接合線(例えば、図1中に符号18で示す)よりも上方に噴孔中心をもつインジェクタIから燃料が噴射される。本実施形態では、キャビティ11の形状をリエントラント型としている。
【0013】
本実施形態に係る燃焼室構造Aでは、キャビティ11の底面13に、中央突起14と、中央突起14外周側の窪み15とが設けられている。即ち、キャビティ11内で発生する空気流動に燃料を供給することで、燃料と空気との混合を促進することができる。本実施形態では、中央突起14を切頭円錐状としている。なお、中央突起14の形状は、切頭円錐状には限定はされない。
【0014】
また、本実施形態に係る燃焼室構造Aでは、ピストン10の頂面17に、キャビティ11の内周壁面16に連続してピストン10の径方向外側に向かい延び且つピストン10の径方向外側に向かうに従って浅くなる傾斜面(テーパ面)19と、傾斜面19の外周に段差なく連続してピストン10の外周面21まで延び且つピストン10の中心軸Cに直交する直交面20とを設けている。即ち、本実施形態では、ピストン10の頂面17は、傾斜面19及び直交面20から構成されている。また、傾斜面19及び直交面20は、全周に亘って円環状に形成されている。傾斜面19の角度θは、直交面20側を基準に1度から30度の範囲内とされる。本実施形態では、傾斜面19の角度θを直交面20側を基準に10度としている。
【0015】
さらに、本実施形態に係る燃焼室構造Aでは、キャビティ11の内周壁面16とピストン10の頂面17との接続部分であるリップ部12を設けている。リップ部12は、キャビティ11の全周に亘って円環状に形成されている。本実施形態では、リップ部12を断面R形状としている。
【0016】
本実施形態の作用を説明する。
【0017】
図1に示されるように、ピストン10が圧縮上死点付近に達したときに、燃料FがインジェクタIの噴孔からキャビティ11のリップ部12に向かって噴射される。噴射された燃料Fは、キャビティ11のリップ部12に衝突し、下方に流れてキャビティ11内に流入する燃料Flと、上方に流れてスキッシュエリアSへ流入する燃料Fuとに分散される。
【0018】
本実施形態に係る燃焼室構造Aでは、ピストン10の頂面17に傾斜面19を設けているので、キャビティ11のリップ部12に向けて噴射された燃料をスキッシュエリアSとキャビティ11内とに分散させることができる。そのため、筒内全体の空気利用率が向上し、混合気の均一化が促進されることで、スモークやPMの生成を抑えられる。特に、本実施形態では、傾斜面19と直交面20との間に段差がないので、燃料をスキッシュエリアSの外周側まで導くことができる。
【0019】
また、本実施形態に係る燃焼室構造Aでは、ピストン10の頂面17に傾斜面19を設けているので、傾斜面19の傾斜分だけスキッシュエリアSが広くなる。スキッシュエリアSが広いため、圧縮行程時にスキッシュエリアSから燃焼室(キャビティ11)に流れるガスのスキッシュ流、及び膨張行程時に燃焼室(キャビティ11)からスキッシュエリアSに流れる逆スキッシュ流の流速が下がり、乱流の強度が下がることで、燃焼室壁面及びシリンダ壁面からの熱損失が低減する。また、熱損失が低減することで、ガス温度が高くなり、燃焼効率が向上する。この結果、燃料消費率が低減する。
【0020】
また、乱流の強度が下がることで、燃料と酸素との混合がゆっくりとなり、熱発生率の立ち上がりが緩やかになるため、局所的な高温燃焼領域が少なくなる。また、スキッシュエリアSに流入した燃料と空気との混合気は、スキッシュエリアSの広い空間で燃焼するために、燃焼温度の上昇が抑制される。この結果、NOxの生成を抑えられる。
【0021】
ところで、排気バルブ或いは吸気バルブとピストン10との接触を回避する目的でピストン10の頂面17にリセス(バルブリセス)を設ける場合がある。その場合、リセスの有無により圧縮比や燃焼状態が大きく変わるため、従来、おのおの個別に最適な燃焼室形状を追求する必要があった。これに対し、本実施形態によれば、ピストン10の頂面17に傾斜面19を設けることで、リセスの形成によるピストン10の形状変化をキャビティ11の中央から外周側に遠ざけることができる。即ち、リセスの形成によるピストン10の形状変化は、頂面17の内周側には及ばず、頂面17の外周側にのみ及ぶこととなる。その結果、リセスの有無による燃焼状態の差を極力抑えることが可能である。また、リセスの形成による燃焼室形状の変化の影響が少ないため、リセスの有無による圧縮比の差分を抑えることが可能となる。
【0022】
また、従来、圧縮比の変更のために、燃焼室形状を大きく変更する必要があった。これに対し、本実施形態によれば、傾斜面19の角度θを調節することにより、容易に圧縮比の変更が可能となる。
【0023】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態には限定されず他の様々な実施形態を採ることが可能である。
【0024】
例えば、キャビティ11の形状は、リエントラント型には限定はされず、浅皿型、トロイダル型等であっても良い。キャビティ11の形状をトロイダル型とした変形例を図2に示す。なお、図2において、図1と実質的に同一の構成要素には同一符号を付している。
【0025】
また、直噴式エンジンは、直噴式ディーゼルエンジンには限定はされず、直噴式ガソリンエンジンであっても良い。
【符号の説明】
【0026】
10 ピストン
11 キャビティ
16 内周壁面
17 頂面
19 傾斜面
20 直交面
21 外周面
A 燃焼室構造
C ピストンの中心軸
I インジェクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンの頂部中央に凹設され、前記ピストンの上方に配置されたインジェクタの噴孔から燃料が噴射されるキャビティを備え、前記ピストンの頂面に、前記キャビティの内周壁面に連続して前記ピストンの径方向外側に向かい延び且つ前記ピストンの径方向外側に向かうに従って浅くなる傾斜面と、前記傾斜面の外周に段差なく連続して前記ピストンの外周面まで延び且つ前記ピストンの中心軸に直交する直交面とを設けたことを特徴とする直噴式エンジンの燃焼室構造。
【請求項2】
前記傾斜面の角度は、前記直交面側を基準に1度から30度の範囲内とされる請求項1に記載の直噴式エンジンの燃焼室構造。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−53572(P2013−53572A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192843(P2011−192843)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】