説明

直接噴射式ディーゼルエンジン

【課題】グロープラグを有する燃料室を備えた直接噴射式ディーゼルエンジンの低温時の運転に際して、高圧での多段噴射や低スワールにおいても、適切な配置をしたグロープラグにより、燃料噴射弁より噴射された燃料を安定して燃焼できる直接噴射式ディーゼルエンジンを提供する。
【解決手段】グロープラグ3を有する燃料室を備えた直接噴射式ディーゼルエンジンにおいて、該グロープラグ3の発熱部3aを、ピストンの横方向から見る側面視でシリンダヘッド下面3aに対して30度〜40度の鋭角をなすように、かつ、前記グロープラグ3の発熱部3aを、ピストン頂面を見下ろす平面視で、前記グロープラグ3の発熱部3aの方向がスワール上流側に近接する噴霧の噴射中心線Fとなす傾斜角度βがプラスマイナス5度以内になるように取り付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グロープラグを有する燃料室を備えた直接噴射式ディーゼルエンジンに関し、より詳細には、エンジンの低温時の運転に際して、高圧での多段噴射や低スワールにおいても、適切な配置をしたグロープラグにより、燃料噴射弁より噴射された燃料を安定して燃焼できる直接噴射式ディーゼルエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
ガソリンエンジンに比較して低温時の始動性が悪いディーゼルエンジンでは、低温時の始動また白煙低減のための補助装置として、グロープラグシステムを採用している。このグロープラグの棒状の先端部は、発熱コイルを有した金属またはセラミックによりなる鞘部で形成され、シリンダ内に突出してシリンダヘッドに組み付けられている。このグロープラグにより、エンジンの低温時に、発熱コイルに通電して発熱させて、燃焼室を温めておくことにより、燃料噴射弁より燃焼室に噴射された燃料を熱面着火させて安定して燃焼している(例えば、特許文献1,2及び3参照)。
【0003】
また、燃焼室内における空気と燃料の混合を促進して燃焼効率を高めるために、吸気ポートの形状をらせん形状に形成するなどして、燃焼室内にスワールと呼ばれる吸気の旋回流を発生させている。そして、可変スワールシステムのエンジンでは、エンジンの低温時におけるシリンダ内の冷却を抑制するために、低温時にはスワール比を低減させることが行われている。
【0004】
一方、近年、低NOxと低スモークの同時低減を可能にする予混合圧縮着火燃焼の研究が活発に行われている。この予混合圧縮着火燃焼は均一で希薄な混合気を早期に生成し燃焼させるため、エンジン負荷を増加すると過早着火が発生する。そのため、着火時期の制御が困難となり易く、運転領域が低負荷領域に限定される。
【0005】
これに対して、予混合圧縮着火燃焼による運転領域を拡大する一つの方法として、圧縮比を低減して筒内温度を下げると共に、高EGR化して酸素濃度を低減することにより燃焼を抑制し、空燃比(A/F)を確保する方法がある。しかしながら、圧縮比を低減すると、一般に低温時における始動性および白煙の排出が問題となるため、噴霧のペネトレーションの抑制とピストンの燃焼室の口元径の拡大が図られる。
【0006】
また、もう一つの方法として、小噴孔径ノズルから高圧噴射で燃料を燃焼室に噴霧することにより、噴射期間を短縮し、燃料と吸気との混合速度を高めて、混合期間を長期化する方法がある。この方法により、より均質な予混合気を形成することができる。更に、コモンレールシステムの採用による多段噴射を利用して、メイン噴射の前のパイロット噴射を多段化することにより、低温時の白煙の排出を改善できる。
【0007】
上記のように、予混合圧縮着火燃焼等を考慮するようになって、燃料噴射形態は大きく変化してきており、エンジンが低温時には、スワールは低スワールに切り替えられ、燃料は高圧でしかも多段で噴射されるようになりつつある。そのため、噴射された燃料の噴霧の到達距離は短縮し、早期拡散して、より均質な混合気を形成するようになってきている。それに伴い、グロープラグの配置も、燃料の噴霧と吸気スワールに対してより効果的な位置に配置することが要求されている。
【特許文献1】特開平7−217495号公報
【特許文献2】特開2000−2116公報
【特許文献3】特開2000−230471公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の状況を鑑みてなされたものであり、その目的は、グロープラグを有する燃料室を備えた直接噴射式ディーゼルエンジンの低温時の運転に際して、高圧での多段噴射や低スワールにおいても、適切な配置をしたグロープラグにより、燃料噴射弁より噴射された燃料を安定して燃焼できる直接噴射式ディーゼルエンジンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するための本発明の直接噴射式ディーゼルエンジンは、グロープラグを有する燃料室を備えた直接噴射式ディーゼルエンジンにおいて、該グロープラグの発熱部を、ピストンの横方向から見る側面視でシリンダヘッド下面に対して30度〜40度の鋭角をなすように、かつ、前記グロープラグの発熱部を、ピストン頂面を見下ろす平面視で、前記グロープラグの発熱部の方向がスワール上流側に近接する噴霧の噴射中心線となす傾斜角度がプラスマイナス5度以内になるように取り付けて構成される。
【0010】
この構成によれば、スワールによって運ばれる噴霧の中に、噴霧の噴射中心線となす傾斜角度がプラスマイナス5度以内になるように、即ち、噴霧の噴射中心線と略平行になるように配置されたグロープラグが入り込むので、噴射された燃料の噴霧とグロープラグの発熱部とが接触する表面積が大きくなる。その結果、グロープラグの熱が噴霧側により伝わり易くなるので、噴霧されてスワールにより吸気と混合した燃料が着火し易くなり、安定して燃焼できるようになる。
【0011】
上記の直接噴射式ディーゼルエンジンにおいて、ピストン頂面を見下ろす平面視で、燃料噴射弁から噴射される噴霧同士の間になるように配置し、更に、スワールの上流側の噴霧に近接させて設けて構成する。
【0012】
この構成によれば、燃料噴射弁の小孔ノズルから噴射された燃料の噴霧は、スワールで撹乱されて吸気と混合すると共に、スワールによって運ばれて、スワール下流側のグロープラグの発熱部を包み込む形になる。そのため、吸気と混合した噴霧状態の燃料が、確実にグロープラグの発熱部と接触するようになり、グロープラグの熱が確実に噴霧側に伝わる。従って、予混合圧縮着火燃焼等における多段噴射や低スワール時においても、燃料噴射弁より噴射された燃料が着火し易くなり、安定して燃焼できるようになる。
【0013】
また、上記の直接噴射式ディーゼルエンジンにおいて、前記グロープラグの発熱部の先端部を、前記噴霧の噴霧上端線を前記燃料噴射弁の軸方向周りに回転させたときにできる仮想の第1円錐面と、前記噴霧の噴霧下端線を前記燃料噴射弁の軸方向周りに回転させたときにできる仮想の第2円錐面との間に配置して構成する。更には、上記の直接噴射式ディーゼルエンジンにおいて、前記グロープラグの発熱部の先端部を、前記噴霧の噴霧中心線を前記燃料噴射弁の軸方向周りに回転させたときにできる仮想の第3円錐面上に配置することが好ましい。
【0014】
これらの構成によれば、発熱部の先端部がスワールによって運ばれてくる燃料噴霧内に確実に入ることになるので、効率よく噴霧を温めて燃焼し易くすることができる。その上、発熱部のシリンダ内への突出量が適正な量となり、この突出部の表面積が大きくなり過ぎないので、発熱部がシリンダ内の燃焼によって生じる高温状態に晒される面積の量が過大になって、発熱部の耐熱性が悪化するのを防止できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る直接噴射式ディーゼルエンジンによれば、グロープラグを有する燃料室を備えた直接噴射式ディーゼルエンジンにおいて、グロープラグの発熱部を、ピストンの横方向から見る側面視でシリンダヘッド下面に対して30度〜40度の鋭角をなすように、かつ、グロープラグの発熱部を、ピストン頂面を見下ろす平面視で、グロープラグの発熱部の方向がスワール上流側に近接する噴霧の噴射中心線となす傾斜角度がプラスマイナス5度以内になるように取り付けて構成しているので、燃料の噴霧とグロープラグの発熱部とが接触する表面積を大きくするグロープラグの適切な配置により、エンジンの低温時の運転に際して、高圧での多段噴射や低スワールに対して、燃料噴射弁より噴射された燃料を安定して燃焼できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る実施の形態の直接噴射式ディーゼルエンジンについて、図面を参照しながら説明する。図1に、本発明の実施の形態の直接噴射式ディーゼルエンジンの構成を示す。この直接噴射式ディーゼルエンジンは、燃焼室は副室を持たず、燃焼室がピストン頂面に設けられた燃焼凹部とシリンダヘッドとの間に形成される。この燃焼室に向かってシリンダヘッド2に、グロープラグ3と燃料噴射弁4が取り付けられている。
【0017】
このグロープラグ3は、ディーゼルエンジンの始動補助装置であり、ディーゼルエンジンの燃焼室の余熱装置として使用されるものである。ディーゼルエンジンは、空気の圧縮熱によって燃料の着火を行うために、エンジンの冷間時には熱損失が多く、圧縮熱だけでは着火が難しくなるため、エンジンの冷間始動時及び始動後の暖機時に確実に燃料が着火するように、グロープラグ3の先端側の発熱部(ヒータ部)に配置された発熱コイルに通電して加熱するものである。このグロープラグ3は、ガソリンエンジンのスパープラグと異なり、通常の燃焼時は使用しない。
【0018】
このグロープラグは、自己制御金属グロープラグの場合には、発熱コイルと制御コイルと、これらのコイルを、燃焼室の高温、高圧の燃焼ガスから保護するためのステンレス等の耐熱、耐蝕性合金で形成されるシース管と、シース管の後部を保持し、かつ、シリンダヘッドへ取り付けるための取り付けネジを有するハウジングと、通電のための中軸等を有して構成される。この場合は、発熱コイルと制御コイルとシース管の先端部とで棒状の発熱部(鞘部)を形成する。
【0019】
また、セラミックグロープラグの場合には、導電性セラミックからなる発熱体とタングステン製のリードワイヤと、これらを内包する絶縁性セラミックと、この絶縁性セラミックに金属パイプを介して結合されているハウジングと、通電のための中軸等を有して構成される。この場合は、発熱体と絶縁性セラミックの先端部とで棒状の発熱部(鞘部)を形成する。
【0020】
本発明においては、図1に示すように、グロープラグ3の発熱部3aを、ピストンの横方向から見る側面視でシリンダヘッド2の下面2aに対して角度αが、従来技術のグロープラグ3Xよりも小さくて、30度〜40度の鋭角をなすように取り付けられる。この角度αは、シリンダヘッドにおける燃料噴射弁4や吸気ポートや排気ポートの配置によって制限されるが、この角度範囲が好ましい。
【0021】
また、図2及び図3に示すように、ピストン頂面を見下ろす平面視で、燃料噴射弁4から噴射される噴霧同士の間になるように配置し、更に、スワールの上流側の噴霧に近接させて設ける。グロープラグ3の発熱部3aを、ピストン頂面を見下ろす平面視で、グロープラグ3の発熱部3aの方向がスワール上流側に近接する噴霧の噴射中心線Fとなす傾斜角度βがプラスマイナス5度以内になるように、つまり、略平行になるように、取り付ける。
【0022】
また、グロープラグ3のシリンダヘッド2の下面から突出した突出量dに関しては、グロープラグ3の発熱部3aの先端部を、噴霧の噴霧上端線Fuを燃料噴射弁4の軸方向周りに回転させたときにできる仮想の第1円錐面と、噴霧の噴霧下端線Fdを燃料噴射弁4の軸方向周りに回転させたときにできる仮想の第2円錐面との間に配置して構成する。また、より好ましくは、グロープラグ3の発熱部3aの先端部を、噴霧の噴霧中心線Fを燃料噴射弁4の軸方向周りに回転させたときにできる仮想の第3円錐面上に配置する。なお、この突出量dは、対象エンジンによっても異なるが、一例を挙げれば、5mm前後である。
【0023】
上記の構成の直接噴射式ディーゼルエンジンによれば、スワールによって運ばれる噴霧の中に、略平行になるように配置されたグロープラグ3の発熱部3aが入り込むので、噴射された燃料の噴霧とグロープラグ3の発熱部3aとが接触する表面積が大きくなる。その結果、グロープラグ3の発熱部3aの熱が噴霧側により伝わり易くなるので、噴霧されてスワールにより吸気と混合した燃料が着火し易くなり、安定して燃焼できるようになる。
【0024】
また、燃料噴射弁4から噴射される噴霧同士の間になるように配置し、更に、スワールの上流側の噴霧に近接させて設けているので、燃料噴射弁4の小孔ノズル4aから噴射された燃料の噴霧は、スワールで撹乱されて吸気と混合すると共に、スワールによって運ばれて、スワール下流側のグロープラグ3の発熱部3aを包み込む形になるので、吸気と混合した噴霧状態の燃料が、確実にグロープラグ3の発熱部3aと接触するようになるので、グロープラグ3の発熱部3aで発生した熱が効率よく噴霧側に伝わる。そのため、予混合圧縮着火燃焼等における多段噴射や低スワール時においても、燃料噴射弁4より噴射された燃料が着火し易くなり、安定して燃焼できるようになる。
【0025】
更に、この突出量dによれば、グロープラグ3の発熱部3aの先端部がスワールによって運ばれてくる燃料噴霧内に入ることになるので、効率よく噴霧を温めて燃焼し易くすることができる。その上、発熱部3aのシリンダ内への突出量dが適正な量となり、この突出部dの表面積が大きくなり過ぎないので、発熱部3aがシリンダ内の燃焼によって生じる高温状態に晒される面積の量を少なくできるので、発熱部3aの耐熱性が悪化するのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る実施の形態の直接噴射式ディーゼルエンジンのグロープラグの取り付け状態を示す側面図である。
【図2】グロープラグをスワール上流側に近接する噴霧の噴射中心線に対して微小な傾斜角度を持って取り付けた状態を示す平面図である。
【図3】グロープラグをスワール上流側に近接する噴霧の噴射中心線に平行に取り付けた状態を示す平面図である。
【図4】従来技術のグロープラグの取り付け状態を示す平面図である。
【符号の説明】
【0027】
2 シリンダヘッド
2a シリンダヘッドの下面
3 グロープラグ
3a 発熱部
4 燃料噴射弁
4a 小孔ノズル
F 噴霧中心線
Fu 噴霧上端線
Fd 噴霧下端線
α シリンダヘッド下面に対する傾斜角度
β スワール上流側の噴霧中心線に対する傾斜角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グロープラグを有する燃料室を備えた直接噴射式ディーゼルエンジンにおいて、該グロープラグの発熱部を、ピストンの横方向から見る側面視でシリンダヘッド下面に対して30度〜40度の鋭角をなすように、かつ、前記グロープラグの発熱部を、ピストン頂面を見下ろす平面視で、前記グロープラグの発熱部の方向がスワール上流側に近接する噴霧の噴射中心線となす傾斜角度がプラスマイナス5度以内になるように取り付けたことを特徴とする直接噴射式ディーゼルエンジン。
【請求項2】
前記グロープラグの発熱部を、ピストン頂面を見下ろす平面視で、燃料噴射弁から噴射される噴霧同士の間になるように配置し、更に、スワールの上流側の噴霧に近接させて設けたことを特徴とする請求項1に記載の直接噴射式ディーゼルエンジン。
【請求項3】
前記グロープラグの発熱部の先端部を、前記噴霧の噴霧上端線を前記燃料噴射弁の軸方向周りに回転させたときにできる仮想の第1円錐面と、前記噴霧の噴霧下端線を前記燃料噴射弁の軸方向周りに回転させたときにできる仮想の第2円錐面との間に配置したことを特徴とする請求項1、又は2に記載の直接噴射式ディーゼルエンジン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−71094(P2010−71094A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−236188(P2008−236188)
【出願日】平成20年9月16日(2008.9.16)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】