説明

直接液体型燃料電池用隔膜

【課題】 直接液体型燃料電池の隔膜として用いられるカチオン交換膜において、液体燃料の非透過性、特にメタノール非透過性に極めて優れ、しかも、膜の電気抵抗も低く維持されているため、高い電池出力を安定して得ることができるカチオン交換膜を提供すること。
【解決手段】 A)相対湿度50%RH(25℃)における含水率が1〜15%である低含水型カチオン交換膜層と、
B)相対湿度100%RH(25℃)における含水率が、前記低含水カチオン交換膜層の相対湿度100%RH(25℃)における含水率よりも3%以上大きい高含水型カチオン交換膜層
とが両側層に位置してなり、25℃、1mol/l−硫酸水溶液中の電気抵抗が0.5〜0.01Ω・cmである積層カチオン交換膜からなる直接メタノール型等の直接液体型燃料電池用隔膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直接液体型燃料電池用隔膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン交換膜は、固体高分子型燃料電池、レドックス・フロー電池、亜鉛−臭素電池等の電池用隔膜、透析用隔膜等として汎用的に使用されている。このうち、イオン交換膜を電解質として用いた固体高分子型燃料電池は、燃料と酸化剤とを連続的に供給し、これらが反応した時の化学エネルギーを電力として取り出すクリーンで高効率な発電システムの一つであり、近年、低温作動や小型化の観点から自動車用途、家庭用や携帯用途としてその重要性を増している。固体高分子型燃料電池は、一般的に電解質として作用する固体高分子の隔膜の両面に触媒が坦持されたガス拡散電極を接合し、一方のガス拡散電極が存在する側の室(燃料室)に水素ガスあるいはメタノール等の液体燃料からなる燃料を、他方のガス拡散電極が存在する側の室に酸化剤である酸素や空気等の酸素含有ガスをそれぞれ供給し、両ガス拡散電極間に外部負荷回路を接続することにより、燃料電池として作用させる。中でも、メタノール等を直接燃料として用いる直接液体型燃料電池は、燃料が液体であることからその取り扱いやすさに加え、安価な燃料ということで、特に携帯機器用の比較的小出力規模の電源として期待されている。
【0003】
こうした直接液体型燃料電池の基本構造を図2に示す。図中、(1)は隔膜、(2)は燃料流通孔、(3)は酸化剤ガス流通孔、(4)は燃料室側拡散電極、(5)は酸化剤室側ガス放散電極、(6)は固体高分子電解質膜を示す。この直接液体型燃料電池において、燃料室(7)に供給されたアルコール等の液体燃料から燃料室側拡散電極(4)においてプロトン(水素イオン)と電子が生成し、このプロトンは固体高分子電解質(6)内を伝導し、他方の酸化剤室(8)に移動し、空気又は酸素ガス中の酸素と反応して水を生成する。この時、燃料室側拡散電極(4)で生成した電子は、外部負荷回路を通じて酸化剤室側ガス拡散電極(5)へと移動することにより電気エネルギーが得られる。
【0004】
このような構造の直接液体型燃料電池において、上記隔膜には、通常、カチオン交換膜が使用されるが、該カチオン交換膜においては、電気抵抗が小さく、物理的な強度が強いばかりでなく、燃料として使用される液体燃料の透過性が低いといった特性が要求される。例えば、液体燃料の透過性が高い場合には、イオン交換膜を燃料電池用隔膜として使用した際には、燃料室の液体燃料が酸化室側に拡散することを十分に抑えることが出来ず、大きな電池出力が得られなくなる。
【0005】
従来、燃料電池用隔膜として使用されるカチオン交換膜としては、例えば、架橋型の炭化水素系カチオン交換膜、すなわち、ポリオレフィン系やフッ素系樹脂製多孔質膜を使用して、これの空孔に、カチオン交換基を導入可能な官能基を有する重合性単量体および架橋性重合性単量体からなる重合性組成物を充填させて重合し、該カチオン交換基を導入可能な官能基に係るイオン性基を導入する方法により得たカチオン交換膜が、比較的安価に製造できる他、電気抵抗が小さく、水素ガスの透過性が小さく、膨潤等による変形も少ないため好適なものとして知られている(例えば、特許文献1、2)。
【0006】
【特許文献1】特開2001−135328号公報
【特許文献2】特開平11−310649号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、これらの架橋型の炭化水素系カチオン交換膜においても、直接液体型燃料電池用隔膜として用いた場合には、アルコール等の液体燃料の透過性は十分に抑えられておらず、そのため、酸化剤室側への液体燃料の拡散が生じ、電池性能が低下するという問題があった。これを改善するためには、
・基材として使用する多孔質膜の空隙率を下げて、その空孔に充填されるカチオン交換樹脂の含有量を低下させたり、
・該カチオン交換樹脂を重合するための重合性組成物において、架橋性重合性単量体の含有量を高めて、親水性のカチオン交換基の導入量を相対的に低下させて膜の疎水性を高め、且つ膜の架橋度も高めて緻密な膜とすれば、
ある程度に有効であるが、これらの方法の場合、一方で膜の電気抵抗が増大して電池出力が低下する問題が引き起こされ、実用上満足できる前記燃料電池用隔膜は得られなかった。
【0008】
以上の背景にあって本発明は、直接液体型燃料電池の隔膜として用いられるカチオン交換膜において、液体燃料の非透過性、特にメタノール非透過性に極めて優れ、しかも、膜の電気抵抗も低く維持されているため、高い電池出力を安定して得ることができるカチオン交換膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記の課題に鑑み、鋭意研究を行ってきた。その結果、カチオン交換膜として、含水率が異なる、具体的には、低含水型と高含水型の2層のカチオン交換膜層を両側層に配したカチオン交換膜を用いることにより、上記の課題が解決できることを見出し本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、A)相対湿度50%RH(25℃)における含水率が1〜15%である低含水型カチオン交換膜層と、
B)相対湿度100%RH(25℃)における含水率が、前記低含水カチオン交換膜層の相対湿度100%RH(25℃)における含水率よりも3%以上大きい高含水型カチオン交換膜層
とが両側層に位置してなり、25℃、1mol/l−硫酸水溶液中の電気抵抗が0.5〜0.01Ω・cmである積層カチオン交換膜からなる直接液体型燃料電池用隔膜である。
【0011】
この燃料電池用隔膜は、直接液体型燃料電池に組み込んだ際に、A)低含水型カチオン交換膜層が酸化剤室側に位置し、他方、B)高含水型カチオン交換膜層が燃料室側に位置するように配して使用される。
【0012】
また、本発明は、上記燃料電池用隔膜の製造方法として、カチオン交換基の導入に適した官能基を有する重合性単量体またはカチオン交換基を有する重合性単量体100モルに対して、架橋性重合性単量体0.5〜40モル%、および有効量の重合開始剤を含む重合性組成物を、
平均細孔径が0.005〜10μmであり空隙率が10〜50%である低空隙多孔質膜と、平均細孔径が0.01〜50μmであり空隙率が低空隙多孔質膜より7%以上大きい高空隙多孔質膜との積層多孔質膜
に接触させて、該重合性組成物を積層多孔質膜の有する各空隙部に充填させた後重合硬化させ、次いで、必要に応じてカチオン交換基を導入する製造方法を提供する。
【0013】
さらに、本発明は、上記燃料電池用隔膜の別の製造方法として、
a)相対湿度50%RH(25℃)における含水率が1〜15%であり、且つ25℃、1mol/l−硫酸水溶液中の電気抵抗が0.3〜0.006Ω・cmである低含水型カチオン交換膜と
b)相対湿度100%RH(25℃)における含水率が、前記低含水型カチオン交換膜の相対湿度100%(25℃)における含水率より3%以上大きく、且つ25℃、1mol/l−硫酸水溶液中の電気抵抗が0.2〜0.004Ω・cmである高含水型カチオン交換膜
とを熱圧着させる製造方法も提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明で使用する積層カチオン交換膜のように、A)低含水型カチオン交換膜層とB)高含水型カチオン交換膜層とが両側層にそれぞれ配されてなるカチオン交換膜を直接液体型燃料電池用隔膜として使用した場合、膜の電気抵抗を低く維持しつつ、液体燃料、特に、メタノールの透過性を大きく低減させることが可能になる。具体的には、本発明の積層カチオン交換膜は、25℃における30%メタノール水溶液に対する、B)高含水型カチオン交換膜層からA)低含水型カチオン交換膜層に向けてのメタノールの透過率が通常500g/m・hr以下であり、特に300〜10g/m・hrの範囲にすることも可能である。また、25℃、1mol/l−硫酸水溶液中の電気抵抗は0.5〜0.01Ω・cmである。すなわち、従来達成困難であった、高い液体燃料の非透過性と高いプロトン伝導性を両立した直接液体型燃料電池隔膜が得られる。
【0015】
このような本発明の隔膜を使用して製造した直接液体型燃料電池は、電池の内部抵抗が低く、且つメタノール等の燃料燃料のクロスオーバーが高度に抑制されるため、高い電池出力が得られるものになり、極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の直接液体型燃料電池用隔膜を構成するカチオン交換膜は、
A)相対湿度50%RH(25℃)における含水率が1〜15%である低含水型カチオン交換膜層と、
B)相対湿度100%RH(25℃)における含水率が、前記低含水カチオン交換膜層の相対湿度100%RH(25℃)における含水率よりも3%以上大きい高含水型カチオン交換膜層
とが両側層にそれぞれ位置した積層構造をしている。このような積層カチオン交換膜を直接液体型燃料電池用隔膜として使用した場合、膜の電気抵抗が低く維持されつつ、液体燃料、特に、メタノールの透過性を大きく低減させることが可能になる。この原因は、以下のような作用によるものと推測される。
【0017】
すなわち、前記図2で説明したような基本構造をした直接液体型燃料電池において、カチオン交換膜からなる隔膜(1)では、燃料室(7)側の面近傍は、該面が、アルコール水溶液等の水を多量に含む液体燃料に接していることから吸水して湿潤な状態にあり、他方、酸化剤室(8)側の面近傍は、該面が、取り込まれた大気等の酸素含有ガスと接していることから乾いた状態にある。そうして、このような両面の接する環境が全く異なる電池隔膜(1)では相対的に、湿潤な(含水率の高い)燃料室(7)側の面近傍ではプロトン伝導性が高く、液体燃料も透過し易い状態にあり、これと反対に、乾いている(含水率の低い)酸化剤室(8)側の面近傍ではプロトン伝導性は低下し、液体燃料も透過し難い状態にあり、膜全体としての上記液体燃料の非透過性の性状は、これら両面近傍の異なる性状が合わさって値が決まってくると考えられる。つまり、直接液体型燃料電池の隔膜として使用されるカチオン交換膜において、該液体燃料の非透過性は、上記乾いた性状にある酸化剤室(8)側の面近傍において、いかにその非透過性を高く発揮させ、上記湿潤な状態にある燃料室(7)側の面から多量に透過してくる液体燃料の流れを遮断するかが大きなカギとなる。
【0018】
しかしながら、この酸化剤室(8)側の面近傍における液体燃料の非透過性を高めるため、カチオン交換膜の架橋度を大きくする等してその吸湿性を低下させると、この部分における該液体燃料の遮断効果には確かに向上するが、対抗する酸化剤室(8)側の面近傍において湿潤性が足りなくなり、前記したとおりこの部分のプロトン伝導性が低下し、膜全体としても該プロトン伝導性の必要量を保持することができなくなる。このようにカチオン交換膜を直接液体型燃料電池の隔膜として使用する場合、単一膜で、液体燃料の非透過性とプロトン伝導性を高度に両立させることは困難であった。
【0019】
これに対して、本発明では、カチオン交換膜を、こうした単一膜ではなく、図1に示されるような積層構造としたため、前記吸湿性が低い、すなわち、低含水型カチオン交換膜層(9)で構成された酸化剤室(8)側の面近傍では、液体燃料の遮断効果が良好に発揮され、他方、燃料室(7)側の面近傍では、上記層とは逆に吸水性が高い、すなわち、高含水型カチオン交換膜層(10)により構成されているため、この部分のプロトン伝導性を高くすることができ、膜全体としても、該プロトン伝導性を十分な値に保持できる。以上の機構から、本発明では、上記液体燃料の遮断効果とプロトン伝導性の、通常は相反する両物性をいずれも優れたものに両立できるものと推測される。
【0020】
本発明で使用する積層カチオン交換膜において、A)低含水型カチオン交換膜層は、相対湿度50%RH(25℃)における含水率が1〜15%、より好適には4〜9%であることが重要である。この相対湿度50%RHとは、酸化剤(8)室側の面の湿度状態の典型として規定したものであり、無論、酸化剤室に供給する酸素含有ガスは装置周囲の大気を取り込んでそのまま使用するような場合にはある程度の湿度変化はあるものの、該湿度で上記含水率を有すると言うことは、直接液体型燃料電池の使用時において、この層部分は概ねこの値程度の低い含水率を有することになり、相対的に液体燃料の非透過性に優れたものになることを意味する。
【0021】
ここで、この相対湿度50%RHにおける含水率が15%を上回る場合、燃料室側から透過してくる液体燃料の遮断効果が十分でなくなり、積層カチオン交換膜全体の液体燃料の非透過性が満足できないものに低下する。他方、この相対湿度50%RHにおける含水率が1%を下回る場合、この部分においてプロトン導電性が低くなりすぎ、積層カチオン交換膜全体における電気抵抗が増大する。
【0022】
なお、このような相対湿度50%RHにおける含水率が低い値にあるカチオン交換膜層は、通常、相対湿度100%RHにおいては、その含水率は、7〜40%、より一般的には7〜30%の範囲にある。
【0023】
本発明で使用する積層カチオン交換膜において、B)高含水型カチオン交換膜層は、相対湿度100%RH(25℃)における含水率が前記低含水カチオン交換膜層の相対湿度100%RH(25℃)における含水率よりも3%以上、より好適には4%以上大きいことが重要である。この相対湿度100%RHとは、燃料室(8)側の面の湿度状態を規定したものであり、この相対湿度で上記含水率を有すると言うことは、直接液体型燃料電池の使用時において、この層部分が該値程度の含水率を有し、プロトン伝導性に優れたものになることを意味する。
【0024】
また、含水率が3%以上大きいとは、低含水カチオン交換膜層の含水率をA%とした場合、(A+3)%以上であることを意味する。
【0025】
このB)高含水型カチオン交換膜層の相対湿度100%RHにおける含水率が、低含水型カチオン交換膜層の相対湿度100%RH(25℃)における含水率に対する増分が3%に満たない場合、この部分におけるプロトン導電性が低くなり、積層カチオン交換膜全体において電気抵抗が大きくなる。
【0026】
また、B)高含水型カチオン交換膜層の相対湿度100%RH(25℃)における含水率の前記増分は、通常、100%以下、より一般的には30%以下である。この含水率の増分が100%を超える場合には、これほどにまでに湿潤性の高い膜は架橋度が極端に低いような膜であり、機械的強度が十分でなくなり、この部分において形状の保持性等が満足できなくなる。
【0027】
なお、このB)高含水型カチオン交換膜層の相対湿度100%RH(25℃)における含水率は、通常、10〜135%、より一般的には20〜100%の範囲になるのが一般的である。また、このB)高含水型カチオン交換膜層の相対湿度50%RH(25℃)における含水率は、通常、7〜50%、より一般的には10〜40%の範囲にあるのが一般的である。
【0028】
これらA)低含水型カチオン交換膜層とB)高含水型カチオン交換膜層とは、それぞれの層において通常は単層として各設けるのが普通であるが、何れの層も特定される含水率の要件の範囲内で2層以上の複層として設けても良い。
【0029】
本発明で使用する積層カチオン交換膜は、上記A)低含水型カチオン交換膜層とB)高含水型カチオン交換膜層とを両側層にそれぞれ位置させたものであり、通常は、これら両カチオン交換膜層を直接的に積層して構成すれば良い。後述する積層カチオン膜全体に求められる電気抵抗の低さが保持できている限りにおいては、該A)低含水型カチオン交換膜層とB)高含水型カチオン交換膜層との間に、これらの層の含水率の要件を満足しない他のカチオン交換膜からなる中間層を介在させても良い。この中間層として許容できるカチオン交換膜は、その厚みや、上記A)層およびB)層として形成する各カチオン交換膜層の種類等との関係で使用可能なものが決まってくる。極薄層として設けるならば、上記A)低含水型カチオン交換膜層よりもその含水率が低いような層も形成可能であるが、通常は、この中間層は、
C)相対湿度100%RH(25℃)における含水率(C%)が、前記低含水型カチオン交換膜層の相対湿度100%RH(25℃)における含水率(A%)よりも大きく、且つこの含水率+3%よりも小さい範囲である{A<C<(A+3)}カチオン交換膜層
を採択して形成される。
【0030】
上記A)低含水型カチオン交換膜層とB)高含水型カチオン交換膜層とが積層されてなる積層カチオン交換膜は、上記各層の含水率の要件が満足されていることに加えて、膜全体の25℃、1mol/l−硫酸水溶液中の電気抵抗が0.5〜0.01Ω・cmであることが必要である。すなわち、プロトン伝導性を無視して、各カチオン交換膜層の含水率、特にA)低含水型カチオン交換膜層の含水率を前記値に調整しても、得られる積層カチオン交換膜が上記電気抵抗の要件を満足しないものになれば、燃料電池用隔膜として使用が困難になる。したがって、積層カチオン交換膜の電気抵抗が上記範囲に保持される範囲内で、各カチオン交換膜層の含水率を調整する必要がある。積層カチオン交換膜のこの電気抵抗は、0.4〜0.01Ω・cmであることが特に好ましい。
【0031】
上記含水率の各層を形成するするカチオン交換膜において、カチオン交換基は、スルホン酸基、カルボン酸基、ホスホン酸基等が挙げられ、中でも、得られる積層カチオン交換膜の電気抵抗を低くできる等の観点から、強酸性基であるスルホン酸基を有するものが特に好ましい。
【0032】
それぞれの層を構成するカチオン交換膜は、前述の含水率の値および積層カチオン交換膜とした際の電気抵抗の要件が満足できるものであれば如何なる種類のものであってもよく、例えば、非架橋のパーフルオロカーボンスルホン酸膜等のフッ素系のカチオン交換膜も上記要件が満足できるならば使用可能である。高含水型から低含水型のものまで、含水率の異なるカチオン交換膜層が製造し易く、機械的強度を始めとした前記した種々の利点があることから、架橋型の炭化水素系カチオン交換膜であるのが好ましく、さらに、基材である多孔質膜の空隙に架橋型の炭化水素系カチオン交換樹脂が充填されてなるカチオン交換膜が好ましい。
【0033】
ここで、炭化水素系カチオン交換樹脂とは、カチオン交換基以外の部分は炭素と水素を主とする構造の樹脂であり、カチオン交換基以外の部分にもフッ素、塩素、臭素、酸素、窒素、珪素、硫黄、ホウ素、リン等の他の原子が少量であれば存在しても良いが、その量はカチオン交換基以外の部分を構成する原子の総数に対して40モル%以下、特に10モル%以下であるのが好ましい。
【0034】
さらに、架橋型の炭化水素系カチオン交換樹脂とは、共有結合による架橋を一定程度には有する架橋重合体、即ち、炭素−炭素結合、炭素−酸素結合などの共有結合性の架橋点を一定程度には有する樹脂である。すなわち、非架橋の重合体やイオン結合性の架橋のみの重合体では、一般に、メタノール等の液体燃料や水に対して膨潤しやすく、極端な場合には溶解してしまうため、少なくとも、これらの性状が付与される程度には共有結合により架橋されているのが好ましい。また、後述する本発明で使用する積層カチオン交換膜の各種製造方法からも明らかなように、こうした共有結合による架橋は、カチオン交換樹脂に、本発明が特定する各カチオン交換膜層の含水率の要件を達成させる上でも、重要な要件の一つになり得る。一般に、共有結合による架橋の密度が高くなるとカチオン交換樹脂の含水率は低減する傾向にあり、他方、この架橋密度が低くなるとカチオン交換樹脂の含水率は高くなる傾向がある。
【0035】
本発明の積層カチオン交換膜の膜全体のカチオン交換容量は、通常、0.1〜4.0mmol/gの範囲であり、これを構成する前記各層のカチオン交換容量もそれぞれのこの範囲から採択される。各規定される含水率の値を満足し、使用する積層カチオン交換膜の全体の電気抵抗を、前記した25℃、1mol/l−硫酸水溶液中での測定で0.5〜0.01Ω・cmのものにするためには、A)低含水型カチオン交換膜層は0.1〜3.0mmol/g、より好適には0.1〜2.6mmol/gの範囲が好ましく、B)高含水型カチオン交換膜層は0.3〜4.0mmol/g、より好適には0.5〜3.5mmol/gの範囲が好ましく、さらに、C)中間層を設ける場合には、上記2層のカチオン交換容量の間の範囲であるのが好ましい。
【0036】
さらに、各層の厚みは、カチオン交換膜の電気抵抗の要件が満足し易い等の観点から、A)低含水型カチオン交換膜層の厚みは3〜40μm、より好適には5〜35μmであるのが好ましく、B)高含水型カチオン交換膜層の厚みは5〜150μm、より好適には10〜120μmであるのが好ましく、C)中間層を設ける場合には3〜100μm、より好適には3〜70μmであるのが好ましい。積層カチオン交換膜全体の厚みとしては、10〜200μm、より好適には10〜120μmであるのが好ましい。
【0037】
以上の特徴的な積層構造を有する積層カチオン交換膜は、その要件が満足されているならば、公知の如何なる方法により製造したものであっても良い。該積層カチオン交換膜を構成する各層が前記した多孔質膜の空孔に架橋型の炭化水素系カチオン交換樹脂が充填されてなるカチオン交換膜層である場合、好適な製造方法を例示すると以下の方法が挙げられる。
【0038】
すなわち、カチオン交換基の導入に適した官能基を有する重合性単量体またはカチオン交換基を有する重合性単量体100モルに対して、架橋性重合性単量体0.5〜40モル%、より好適には1〜30モル%、および有効量の重合開始剤を含む重合性組成物を、
平均細孔径が0.005〜10μm、より好適には0.01〜5μmであり空隙率が10〜50%、より好適には20〜50%である低空隙多孔質膜と、平均細孔径が0.01〜50μm、より好適には0.02〜40μmであり空隙率が低空隙多孔質膜より7%以上、より好適には10〜60%大きい高空隙多孔質膜との積層多孔質膜
に接触させて、該重合性組成物を積層多孔質膜の有する各空隙部に充填させた後重合硬化させ、次いで、必要に応じてカチオン交換基を導入する積層カチオン交換膜の製造方法である。
【0039】
この方法によれば、得られる積層カチオン交換膜は、
A)低含水型カチオン交換膜層が、平均細孔径が0.005〜10μm、より好適には0.01〜5μmであり空隙率が10〜50%、より好適には20〜50%である低空隙多孔質膜の空孔に、カチオン交換容量が0.1〜6.0mmol/g、より好適には0.3〜5.5mmol/gであり、相対湿度50%RH(25℃)における含水率が2〜150%、より好適には8〜90%であり、相対湿度100%RH(25℃)における含水率が14〜250%、より好適には20〜150%である架橋型の炭化水素系カチオン交換樹脂が充填された層であり、
B)高含水型カチオン交換膜層が、平均細孔径が0.01〜50μm、より好適には0.02〜40μmであり空隙率が低空隙多孔質膜より7%以上、より好適には10〜60%大きい高空隙多孔質膜の空孔に、上記上記A)層において低空隙多孔質膜の空孔に充填されているものと同じ架橋型の炭化水素系カチオン交換樹脂が充填された層
であるものになる。
【0040】
なお、本発明において、多孔質膜の平均細孔径は、ASTM−F316−86に準拠し、ハーフドライ法にて測定した値をいう。また、多孔質膜の空隙率は、多孔質膜の体積(Vcm)と質量(Ug)を測定し、多孔質膜の材質の密度をX(g/cm)として、下記の式により算出した値をいう。
【0041】
空隙率=[(V−U/X)/V]×100[%]
この製造方法は、基材の多孔質膜として、低空隙多孔質膜と高空隙多孔質膜との積層多孔質膜を使用し、その各空隙に同じ組成の重合性組成物を充填して重合硬化させるため、各カチオン交換膜層の積層界面が均質で一体性が良い利点がある。他方で、A)低含水型カチオン交換膜層もB)高含水型カチオン交換膜層も同じカチオン交換樹脂を使用して形成しなければならないため、これら各層の含水率の差を、基材の各多孔質膜の空隙率の差だけで調整しなくてはならない制限がある。このため、A)低含水型カチオン交換膜層において含水率が特に低いものを形成させる場合には、上記空隙率が小さすぎてプロトン伝導性が満足できなくなるおそれも生じる。この観点から、係る方法で得られるA)低含水型カチオン交換膜層の含水率の通常の下限は相対湿度50%RHで4%程度である。
【0042】
この製造方法で使用する積層多孔質膜において、平均細孔径が0.005〜10μmであり空隙率が10〜50%である低空隙多孔質膜部分は、本発明の積層カチオン交換膜におけるA)低含水型カチオン交換膜層の基材になる。この平均細孔径が、上記値より小さい場合、多孔質膜へのカチオン交換樹脂の充填が不十分となり均一なカチオン交換膜層が得がたくなる。一方、平均細孔径が上記値より大きい場合には、高い液体燃料非透過性を得られなくなる。また、空隙率が上記値より小さい場合、カチオン交換膜層のプロトン伝導性が小さくなり過ぎ、得られる積層カチオン交換膜の電気抵抗を本発明が特定する範囲にすることが困難になる。他方、この空隙率が、上記値より大きい場合、カチオン交換膜層の含水率を本発明が特定する小さいものにすることが困難になる。
【0043】
また、積層多孔質膜において、平均細孔径が0.01〜50μmであり空隙率が低空隙多孔質膜より7%以上大きい高空隙多孔質膜部分は、本発明の積層カチオン交換膜におけるB)高含水型カチオン交換膜層の基材になる。この平均細孔径が、上記値より小さい場合、多孔質膜へのカチオン交換樹脂の充填が不十分となり、含水率を本発明の特定する大きなものにすることが困難になり、他方、平均細孔径が上記値より大きい場合には、均一なカチオン交換膜層を得ることができなくなる。また、空隙率が上記値より小さい場合、カチオン交換膜層の含水率を本発明が特定する大きいものにすることが困難になる。他方、この空隙率が、上記値より大きい場合、カチオン交換膜層の機械的強度が十分でなくなる。
【0044】
この他、積層多孔質膜は、上記各多孔質膜層における平均細孔径と空隙率の要件が満足される限り、特に限定されることなく使用される。一般に、積層多孔質膜全体の透気度(JIS P−8117)は1500秒以下、特に1000秒以下であるのが好ましい。また、高い液体燃料の非透過性を得るために、両側面の表面平滑性が、夫々粗さ指数で表して10μm以下、さらには5μm以下であることが好ましい。
【0045】
こうした各空隙率を有する積層多孔質膜は、前記低空隙多孔質膜と高空隙多孔質膜とを単純に重ね合わせた状態で、後述の工程へ移行させることもできるが、両層の接着性を良好にして得られる積層カチオン交換膜のプロトン伝導性や液体燃料の非透過性を長期にわたり安定させるために、接着処理を施すことが好ましい。こうした接着処理には特に制限なく、高分子フィルムの接着方法として公知な手法を広く採用することができる。具体的には、前記した両多孔質膜の平均細孔径や空隙率などの物性を本発明の特定する範囲で損なわない程度に、各種接着剤で接着する方法、熱、振動、高周波で融着する方法、さらには0〜50MPaの圧力で機械的に圧着する方法などが挙げられる。これらの中でも、製造が容易で、前記した両多孔質膜の特性を損ないにくい利点を有する熱圧着による接着処理が好ましい。
【0046】
熱圧着は、加圧、加温できる装置を用いて実施され、一般的には、ホットプレス機、ロールプレス機等により行われる。プレス温度は一般的には60℃〜200℃、プレス圧力は、通常0〜50MPaである。用いた多孔質膜の材質や特性に、これら加圧、加熱条件は依存し、熱圧着後に多孔質膜の特性が本発明の範囲を逸脱しないように決定される。本製造方法では、後述のように両多孔質膜は、充填されるカチオン交換樹脂で一体に成形されるため、比較的接着性が高くなる。このため、両多孔質膜の熱圧着は必ずしも、多孔質膜の融点以上とする必要はない。
【0047】
これら低空隙多孔質膜部分と高空隙多孔質膜部分に該当する各多孔質膜の形態は特に限定されず、多孔質フィルム、織布、不織布、紙、無機膜等が制限なく使用でき、材質としても熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、あるいは無機物でも又はそれらの混合物でも構わず使用できる。製造が容易であるばかりでなくカチオン交換樹脂との密着強度が高いという観点から、熱可塑性樹脂であることが好ましい。当該熱可塑性樹脂としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、3−メチル−1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、5−メチル−1−ヘプテン等のα−オレフィンの単独重合体または共重合体等のポリオレフィン樹脂;ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル−オレフィン共重合体等の塩化ビニル系樹脂;ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフロオロエチレン−ペルフロオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体等のフッ素径樹脂;ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂等が例示される。これらのなかでも特に、機械的強度、化学的安定性、耐薬品性に優れ、炭化水素系イオン交換樹脂との馴染みがよいことからポリオレフィン樹脂を用いるのが好ましい。ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン又はポリプロピレン樹脂が特に好ましく、ポリエチレン樹脂が最も好ましい。
【0048】
さらに前記平均細孔径を有すものの入手が容易で、かつ強度に優れる点でポリオレフィン樹脂製の多孔質フィルムであることが好ましく、ポリエチレン樹脂製の多孔質フィルムであることが特に好ましい。
【0049】
上記説明した積層多孔質膜が有する各空隙部に充填させる重合性組成物としては、本発明で規定する各カチオン交換膜層の含水率を達成するためには、架橋性重合性単量体の使用量が重要である。この架橋性重合性単量体の使用量が、カチオン交換基の導入に適した官能基を有する重合性単量体またはカチオン交換基を有する重合性単量体100モルに対して0.5モル%よりも少ない場合には、A)低含水型カチオン交換膜層を形成するのが困難になる。他方、この配合量が40モル%よりも多い場合、B)高含水型カチオン交換膜層を形成するのが困難になる。
【0050】
ここで、カチオン交換基を導入可能な官能基を有する重合性単量体としては、特に制限されること無く該機能を有する公知のものが使用できるが、カチオン交換基を導入可能な官能基として、前記した好適なカチオン交換基であるスルホン酸基を導入容易な基であることから、スチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、α−メチルスチレン、アセナフチレン、ビニルナフタリン、α−ハロゲン化スチレン、α,β,β’−トリハロゲン化スチレン等のなどの芳香族炭化水素基を有するラジカル重合性単量体が好ましく使用できる。また、これらの芳香族炭化水素基を有するラジカル重合性単量体は、スチレン等の該芳香族炭化水素基にビニル基が直結している構造のものが、(メタ)アクリル基が結合する構造のものよりも、加水分解を受け難い等の理由により好ましい。
【0051】
カチオン交換基を有する重合性単量体としては、スチレンスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−スルホプロピル(メタ)アクリル酸エステル、ビニルスルホン酸、ビニルホスホン酸、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、;さらには、α−ハロゲン化ビニルスルホン酸、α,β,β’−ハロゲン化ビニルスルホン酸、マレイン酸、イタコン酸、スチレンホスホニル酸、ビニルリン酸などのエステル類及びこれらに対応する塩類等の酸性基含有ラジカル重合性単量体が好適に使用される。
【0052】
さらに、架橋性重合性単量体としては、上記のような各重合性単量体と共重合して架橋型の高分子を生成する公知の如何なる架橋剤でも良く、例えば、ジビニルベンゼン類、ジビニルスルホン、ブタジエン、クロロプレン、ジビニルビフェニル、トリビニルベンゼン類、ジビニルナフタレン、ジアリルアミン、ジビニルピリジン類等のジビニル化合物が用いられる。
【0053】
以上の重合性単量体成分に配合させる重合開始剤としては、上記重合性単量体を重合させることが可能な化合物であれば特に限定されるものではないが、有機過酸化物であることが好ましく、例えば、オクタノイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ベンゾイルパーオキシド、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルパーオキシド等が挙げられる。
【0054】
重合開始剤の配合量としては、上記機能を発するに必要な有効量であれば良いが、通常は、使用する全重合性単量体成分の合計100質量部に対して0.1〜20質量部(好適には0.5〜10質量部)用いるのが一般的である。
【0055】
本発明で使用される重合性組成物には、得られる積層カチオン交換膜の液体燃料透過性を更に高めるため、カチオン交換膜に導入されてなるカチオン交換基とイオンコンプレックス形成可能な3級アミノ基を有する重合性単量体を用いることも有効である。これら、3級アミノ基を有する重合性単量体の種類や配合量については、WO2006/028292に記載された手法を採用することができる。
【0056】
なお、重合性組成物には、上記各成分の他に、機械的強度や重合性等の物性を調節するために、本発明で特定する含水率に関する要件や積層カチオン交換膜における電気抵抗の要件が維持される範囲において必要に応じて他の成分が配合されてもよい。このような他の成分としては、例えば、アクリロニトリル、アクロレイン、メチルビニルケトン等の重合性単量体や、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジメチルイソフタレート、ジブチルアジペート、トリエチルシトレート、アセチルトリブチルシトレート、ジブチルセバケート等の可塑剤類が挙げられる。
【0057】
重合性組成物と多孔質膜との接触方法は、重合性組成物が多孔質膜の有する空隙部に浸入できる方法であれば特に限定されず、例えば、重合性組成物を多孔質膜に塗布やスプレーしたり、あるいは、多孔質膜を重合性組成物中に浸漬する方法などが例示される。浸漬による場合に、その浸漬時間は多孔質膜の種類や懸濁液の組成にもよるが、一般的には0.1秒〜十数分である。
【0058】
重合方法も特に限定されず、用いた重合性単量体及び重合開始剤に応じて適宜公知の方法を採用すればよい。重合開始剤として前記したような有機過酸化物を用いた場合には加熱による方法(熱重合)が一般的である。この方法は、その操作が容易で、また比較的均一に重合させることができ、他の方法よりも好ましい。重合に際しては、酸素による重合阻害を防止し、また表面の平滑性を得るため、ポリエステル等のフィルムにより覆った後に重合させることがより好ましい。さらにフィルムで覆うことにより、過剰の重合性組成物が取り除かれ、薄く均一な燃料電池隔膜とすることができる。また、熱重合により重合させる場合の重合温度は特に制限されず、公知の条件を適宜選択して適用すればよいが、一般的には50〜150℃程度、好ましくは60〜120℃程度である。また重合時間としては10分〜10時間程度である。
【0059】
このような重合により得られる膜状高分子体の積層物を、本発明の積層カチオン交換膜とするには、含有されるカチオン交換基を導入可能な基に、カチオン交換基を導入しなければならない。この処理は、使用したカチオン交換基を導入可能な官能基を有する重合性単量体における該官能基の種類に応じて、適切な処理を施せばよい。前記したように燃料電池用のカチオン交換基としては、スルホン酸基が好ましく、この場合、該カチオン交換基を導入可能な官能基を有する重合性単量体としては、芳香族炭化水素基を有するものが使用される。該芳香族炭化水素基にスルホン酸基を導入する方法を具体的に示せば、例えば、濃硫酸、発煙硫酸、二酸化硫黄、クロロスルホン酸などのスルホン化剤を反応させる方法が挙げられる。
【0060】
以上の方法により、本発明で使用する積層カチオン交換膜が製造される。この製造方法の他、該積層カチオン交換膜は、A)低含水型カチオン交換膜層の部分とB)高含水型カチオン交換膜層の部分とを、予めa)膜とb)膜の別々のカチオン交換膜として製造しておいて積層することでも製造できる。この製造方法の中でも、方法が簡便で、比較的均一な積層が可能である次の方法で良好に製造できる。
【0061】
すなわち、
a)相対湿度50%RH(25℃)における含水率が1〜10%であり、且つ25℃、1mol/l−硫酸水溶液中の電気抵抗が0.3〜0.006Ω・cmである低含水型カチオン交換膜と
b)相対湿度100%RH(25℃)における含水率が、前記低含水型カチオン交換膜の相対湿度100%(25℃)における含水率より3%以上大きく、且つ25℃、1mol/l−硫酸水溶液中の電気抵抗が0.2〜0.004Ω・cmである高含水型カチオン交換膜
とを熱圧着させる製造方法である。
【0062】
この製造方法は、A)低含水型カチオン交換膜層の部分とB)高含水型カチオン交換膜層の部分とを、予めa)膜とb)膜の別々のカチオン交換膜として製造しておいて実施できるため、各膜を構成するカチオン交換樹脂を自由に選定でき、これら各層の含水率の差を、基材の各多孔質膜の空隙率の差だけでなく、該カチオン交換樹脂の架橋度も異なるもの等にして調整することができる利点がある。したがって、A)低含水型カチオン交換膜層において、含水率が相対湿度50%RHで4%を下回るようなものも製造がし易い。他方で、熱可塑性多孔質膜の熱圧着を均一に行わないと、電気抵抗は増大し、使用時において両者の界面が剥離する危険性がある。
【0063】
この方法において使用するa)低含水型カチオン交換膜は、含水率が前記のA)低含水型カチオン交換膜層の要件を満足しなければならず、この他、積層カチオン交換膜にした際における、前記25℃、1mol/l−硫酸水溶液中の電気抵抗の要件を満足させるためには、該方法で測定した電気抵抗が0.3〜0.006Ω・cm、好適には0.25〜0.012Ω・cmであることが必要である。同様に、b)高含水型カチオン交換膜も、含水率は前記B)高含水型カチオン交換膜層の要件を満足しなければならず、さらに、積層カチオン交換膜にした際における、前記25℃、1mol/l−硫酸水溶液中の電気抵抗の要件を満足させるためには、該方法で測定した電気抵抗が0.2〜0.004Ω・cm、好適には0.15〜0.008Ω・cmであることが必要である。
【0064】
これらの各カチオン交換膜も、多孔質膜の空隙に架橋型のカチオン交換樹脂が充填されてなるカチオン交換膜を用いるのが好ましい。このような構造のa)低含水型カチオン交換膜およびb)高含水型カチオン交換膜の製造方法は、通常は、前記した本発明の積層カチオン交換膜を製造する別法において、多孔質膜として積層多孔質膜を用いた部分を単一の多孔質膜を用いる態様に変更し、その他、所望条件を変更して同様の方法により実施すればよい。
【0065】
このようにして製造したa)低含水型カチオン交換膜とb)高含水型カチオン交換膜の熱圧着は、両膜を重ね合わせ、80〜300℃の温度下、0〜50MPaの加圧下で機械的に圧着することにより実施すればよい。一般的には、熱プレス機、熱ロール機によって熱圧着される。このとき、熱圧着を強固にするため、a)低含水型カチオン交換膜とb)高含水型カチオン交換膜の何れか一方、または両方の表面を、サンドブラストなどによって粗面化するのが好ましい。
【0066】
また、多孔質膜の空隙に架橋型のカチオン交換樹脂が充填されてなるカチオン交換膜は、通常は、その表面は、該架橋型のカチオン交換樹脂で覆われているが、上記a)、b)両膜の熱圧着に際しては、それぞれの積層面の少なくとも一部において、この表面を覆う架橋型のカチオン交換樹脂の表面層を除去し、熱可塑性樹脂製多孔質膜の表面を露出させてから熱圧着させるのが、接着強度を高くする観点から好ましい。表面のカチオン交換樹脂の除去方法としては、特開2001−157823号公報記載の、一旦作成したカチオン交換膜の表面層を酸化剤で酸化分解する方法や、カチオン交換膜の製造に用いる重合性組成物に非重合性成分を配合して、カチオン交換膜の製造工程で表面層がないものに得る方法などが挙げられる。さらには、この時のa)、b)両膜を構成する多孔質膜として、熱可塑性樹脂製のものを用い、上記熱圧着の温度を該熱可塑性樹脂の融点以上、好適には該融点よりも0〜50℃の高温にして実施するのが、特に好ましい。この場合には、積層されたa)、b)両膜の熱可塑性樹脂製多孔質膜は熱融着するためより強固に接着する。この方法を実施する場合において、熱可塑性樹脂製多孔質膜を構成する熱可塑性樹脂は、上記熱圧着のし易さや耐熱性の観点から、融点が80〜300℃、より好適には100〜250℃であるものが好ましく、前述の多孔質膜の素材樹脂の例示の中から、該融点を勘案して適宜選定すればよい。
【0067】
以上の製造方法のほか、本発明の積層カチオン交換膜は、A)低含水型カチオン交換膜層層とB)高含水型カチオン交換膜層とが上記した物性範囲を満足するものである限り如何なる方法により製造してもよく、例えば、一旦A)層を単一のカチオン交換膜として作成し、この上にB)層をキャストする方法などによっても製造可能である。
【0068】
本発明の燃料電池用隔膜が使用される燃料電池は、直接液体型燃料電池である。直接液体型燃料電池としては、前記した図1の基本構造を有したものが一般的であるが、その他の公知の構造を有する直接液体型燃料電池にも勿論適用することができる。こうした直接液体型燃料電池に対して、本発明の隔膜は、a)低含水型カチオン交換膜層が酸化剤室側に面し、他方、b)高含水型カチオン交換膜層が燃料室側に面するように配して使用される。このような向きで膜を組み込むことにより、本発明の前記した優れた液体燃料の非透過性の効果が発揮される。これと逆の向き、すなわち、A)低含水型カチオン交換膜層が燃料室側に面し、他方、B)高含水型カチオン交換膜層が酸化剤室側に面するように配した場合においても、従来の単一のカチオン交換膜からなる同型の燃料電池用隔膜に比べれば、良好な液体燃料の非透過性が得られるが、上記向きで使用したときよりは、その効果は大きく下回るものになる。
【0069】
こうした直接液体型燃料電池の液体燃料としては、メタノールが最も一般的であり、本発明の効果も最も顕著に発揮されるものであるが、その他、エタノール、エチレングリコール、ジメチルエーテル、ヒドラジン等においても同様の優れた効果が発揮される。これらの液体燃料は、通常は、1〜99質量%の水溶液として使用される。
【実施例】
【0070】
以下、本発明を更に詳細に説明するため実施例を挙げるが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0071】
なお、実施例、比較例においては、隔膜(カチオン交換膜)のカチオン交換容量、含水率、膜抵抗、メタノール透過率、燃料電池出力電圧を測定して燃料電池用隔膜の特性を評価した。これらの測定方法を以下に説明する。
1)カチオン交換膜の、カチオン交換容量および含水率の測定
カチオン交換膜を1mol/L−HCl水溶液に10時間以上浸漬し、水素イオン型とした後、1mol/L−NaCl水溶液でナトリウムイオン型に置換させ、遊離した水素イオンを水酸化ナトリウム水溶液を用いて電位差滴定装置(COMTITE−900、平沼産業株式会社製)で定量した(Amol)。次に、同じカチオン交換膜を25℃で、1mol/L−HCl水溶液に4時間以上浸漬し、イオン交換水で十分水洗した後膜を取り出しティッシュペーパー等で表面の水分を拭き取り湿潤時の重さ(W100g)を測定し、これを相対湿度100%RH(25℃)における膜の含水質量とした。W100の測定後、膜を温度25℃、相対湿度50%RHに設定した恒温恒湿槽中に設置し、一晩放置した後に相対湿度50%RH(25℃)における重さ(W50g)を測定した。さらに膜を60℃で5時間減圧乾燥させその質量を測定した(Dg)。上記測定値に基づいて、カチオン交換膜の、カチオン交換容量および含水率を次式により求めた。
【0072】
カチオン交換容量=A×1000/D[mmol/g−乾燥質量]
相対湿度100%RH(25℃)における含水率=100×(W100−D)/D[%]
相対湿度50%RH(25℃)における含水率=100×(W50−D)/D[%]
2)多孔質膜の空隙に充填されたカチオン交換樹脂の、カチオン交換容量および含水率
基材を25℃でイオン交換水に4時間以上浸漬し湿潤質量(Gwg)と、60℃で5時間減圧乾燥させた後の質量(Gdg)を測定した。同じ基材を用いてカチオン交換膜を作成し、前記により、カチオン交換膜の乾燥質量(Dg)、カチオン交換容量と相対湿度100%RH(25℃)および50%RH(25℃)における含水率を測定した。これらから次式により充填カチオン交換樹脂のカチオン交換容量と含水率を求めた。
【0073】
カチオン交換容量=A×1000/(D−Gd)[mmol/g−乾燥質量]
相対湿度100%RH(25℃)における含水率=100×{(W100−Gw)−(D−Gd)}/(D−Gd)[%]
相対湿度50%RH(25℃)における含水率=100×{(W50−Gw)−(D−Gd)}/(D−Gd)[%]
3)多孔質膜の平均細孔径
ASTM−F316−86に準拠し、ハーフドライ法にて測定した。
4)多孔質膜の空隙率
多孔質膜の体積(Vcm)と質量(Ug)を測定し、多孔質膜の材質であるポリエチレンの樹脂密度を0.9(g/cm)として、下記の式により算出した。
【0074】
空隙率=[(V−U/0.9)/V]×100[%]
5)膜の電気抵抗
白金黒電極を備えた2室セル中にイオン交換膜を挟み、イオン交換膜の両側に1mol/L−硫酸水溶液を満たし、交流ブリッジ(周波数1000サイクル/秒)により25℃における電極間の抵抗を測定し、該電極間の抵抗とイオン交換膜を設置しない場合の該電極間の抵抗の差により求めた。上記測定に使用する膜は、あらかじめ1mol/L−硫酸水溶液中で平衡にしたものを用いた。
4)メタノール透過率
カチオン交換膜を1mol/L−HCl水溶液に10時間以上浸漬し、水素イオン型とした後、室温で24時間以上乾燥した。このカチオン交換膜を燃料電池セル(隔膜面積1cm)の中央に取り付け、一方の室にメタノール濃度30質量%の水溶液を液体クロマトグラフ用ポンプで供給し、反対側の室にアルゴンガスを300ml/minで供給した。測定は25℃の恒温槽内で行った。隔膜の反対側の室から流出するアルゴンガスの一定量をガスサンプラによりガスクロマトグラフ装置(島津製作所製GC14B)に直接導入し、アルゴンガス中のメタノール濃度を測定し、隔膜を透過したメタノール量を求めた。
6)燃料電池出力電圧
ポリテトラフルオロエチレンで撥水化処理した厚さ100μm、空孔率80%のカーボンペーパー上に、触媒が4mg/cmとなるように塗布し、80℃で4時間減圧乾燥してガス拡散電極を得た。触媒として、燃料室側には白金とルテニウムとの合金触媒(ルテニウム50mol%)を50質量%担持したカーボンブラックを、酸化剤室側には白金を50質量%担持したカーボンブラックを用い、これらをアルコールと水とにパーフルオロカーボンスルホン酸を5%溶解(デュポン社製、商品名ナフィオン)したものとを混合して調製した。
【0075】
次いで、予め水素イオン型にした燃料電池隔膜の、低含水型カチオン交換膜層面に上記の酸化剤室ガス拡散電極を、高含水型カチオン交換膜層面に燃料室ガス拡散電極をセットし、100℃、圧力5MPaの加圧下で100秒間熱プレスした後、室温で2分間放置した。これを図1に示す構造の燃料電池セルに組み込んだ。燃料電池セル温度を25℃に設定し、燃料室側に30質量%のメタノール水溶液を、酸化剤室側に相対湿度80%の大気圧の空気を200ml/min.で供給して発電試験を行ない、電流密度0A/cm、0.1A/cmにおけるセルの端子電圧を測定した。
【0076】
製造例1
スチレン70モル%、ジビニルベンゼン30モル%からなる重合性組成物に、全単量体100質量部に対し5質量部となるように重合開始剤t−ブチルパーオキシエチルヘキサノエートを加え、これに多孔質フィルム(重量平均分子量25万のポリエチレン製、膜厚25μm、平均細孔径0.03μm、空隙率37%)を5分間浸漬した。
【0077】
次いで、この多孔質フィルムを重合性組成物中から取り出し、100μmのポリエステルフィルムを剥離材として多孔質膜の両側を被覆した後、0.3MPaの窒素加圧下、80℃で5時間加熱重合した。
【0078】
得られた膜状物を98%濃硫酸と純度90%以上のクロロスルホン酸の1:1の混合物中に40℃で60分間浸漬してベンゼン環をスルホン化し、カチオン交換膜を得た。
【0079】
このカチオン交換膜のカチオン交換容量、各湿度における含水率、電気抵抗、膜厚を測定した。結果を表2に示す。
【0080】
製造例2〜5
表1に示す重合性組成物、多孔質フィルムを用いた以外は製造例1と同様にしてカチオン交換膜を得た。得られたカチオン交換膜のカチオン交換容量、各湿度における含水率、電気抵抗、膜厚を測定した結果を表2に示す。
【0081】
【表1】

【0082】
【表2】

実施例1
1mol/L−HCl水溶液に10時間以上浸漬し、水素イオン型とした製造例1のカチオン交換膜と製造例4のカチオン交換膜を室温で24時間以上乾燥させ、その後、130℃で5MPaの加圧下で熱プレスして本発明の積層価値オン交換膜を得た。
得られた積層カチオン交換膜のイオン交換容量、含水率、電気抵抗、膜厚、メタノール透過率、燃料電池出力電圧を測定した。結果を表3に示す。
【0083】
実施例2〜4
表3に示すカチオン交換膜の組合せを用いた以外は実施例1と同様にして積層カチオン交換膜を得た。得られた積層カチオン交換膜の特性を表3に示す。
【0084】
比較例1〜5
製造例1〜5のカチオン交換膜をそのまま燃料電池隔膜として用い、特性を評価した。結果を表3に示す。
【0085】
比較例6、7
表3に示すカチオン交換膜の組合せを用いた以外は実施例1と同様にして積層カチオン交換膜を得た。得られた積層カチオン交換膜の特性を表3に示す。
【0086】
【表3】

実施例5
表4に示す2種類の多孔質フィルムを、110℃、1MPaの加圧下で3分間熱プレスして積層多孔質フィルムを作成した。
この積層多孔質フィルムを、スチレン70モル%、ジビニルベンゼン30モル%、重合開始剤t−ブチルパーオキシエチルヘキサノエート(全単量体100質量部に対し5質量部)からなる重合性組成物に5分間浸漬した。
【0087】
次いで、この積層多孔質フィルムを重合性組成物中から取り出し、100μmのポリエステルフィルムを剥離材として積層多孔質フィルムの両側を被覆した後、0.3MPaの窒素加圧下、80℃で5時間加熱重合した。
【0088】
得られた膜状物を98%濃硫酸と純度90%以上のクロロスルホン酸の1:1の混合物中に40℃で60分間浸漬してベンゼン環をスルホン化し、本発明の積層カチオン交換膜を得た。
【0089】
この積層カチオン交換膜のカチオン交換容量、含水率、電気抵抗、膜厚、メタノール透過率、燃料電池出力電圧を測定した。また、得られたカチオン交換膜を沸騰水中で3時間以上煮沸して充分に膨潤させ、その後、低含水層と高含水層に引き剥がし、これら各層の各湿度における含水率、膜厚を測定した。これらの結果を表5、6に示す。
【0090】
実施例6、7
表4に示す重合性組成物、多孔質フィルムを用いた以外は実施例5と同様にして本発明の積層カチオン交換膜を得た。これらの特性を表5、6に示す。
【0091】
比較例8、9
表4に示す重合性組成物、多孔質フィルムを用いた以外は実施例5と同様にして積層カチオン交換膜を得た。これらの特性を表5、6に示す。
【0092】
【表4】

【0093】
【表5】

【0094】
【表6】

【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】図1は、隔膜として本発明の積層カチオン交換膜を用いた、直接液体型燃料電池の基本構造を示す概念図である。
【図2】図2は、従来の直接液体型燃料電池の基本構造を示す概念図である。
【符号の説明】
【0096】
1;隔壁
2;燃料ガス流通孔
3;酸化剤ガス流通孔
4;燃料室側拡散電極
5;酸化剤室側ガス拡散電極
6;固体高分子電解質(カチオン交換膜)
7;燃料室
8;酸化剤室
9;低含水型カチオン交換膜層
10;高含水型カチオン交換膜層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
A)相対湿度50%RH(25℃)における含水率が1〜15%である低含水型カチオン交換膜層と、
B)相対湿度100%RH(25℃)における含水率が、前記低含水カチオン交換膜層の相対湿度100%RH(25℃)における含水率よりも3%以上大きい高含水型カチオン交換膜層
とが両側層に位置してなり、25℃、1mol/l−硫酸水溶液中の電気抵抗が0.5〜0.01Ω・cmである積層カチオン交換膜からなる直接液体型燃料電池用隔膜。
【請求項2】
直接液体型燃料電池に組み込んだ際に、A)低含水型カチオン交換膜層が酸化剤室側に面し、他方、B)高含水型カチオン交換膜層が燃料室側に面するように配して使用されるものである請求項1に記載の直接液体型燃料電池用隔膜。
【請求項3】
A)低含水型カチオン交換膜層が、平均細孔径が0.005〜10μmであり空隙率が10〜50%である低空隙多孔質膜の空孔に、カチオン交換容量が0.1〜6.0mmol/gであり、相対湿度50%RH(25℃)における含水率が2〜150%であり、且つ相対湿度100%RH(25℃)における含水率が14〜250%である架橋型の炭化水素系カチオン交換樹脂が充填された層であり、
B)高含水型カチオン交換膜層が、平均細孔径が0.01〜50μmであり空隙率が前記低空隙多孔質膜より7%以上大きい高空隙多孔質膜の空孔に、上記A)層において低空隙多孔質膜の空孔に充填されているものと同じ架橋型の炭化水素系カチオン交換樹脂が充填された層
である請求項1または請求項2に記載の直接液体型燃料電池用隔膜。
【請求項4】
カチオン交換基の導入に適した官能基を有する重合性単量体またはカチオン交換基を有する重合性単量体100モルに対して、架橋性重合性単量体0.5〜40モル%、および有効量の重合開始剤を含む重合性組成物を、
平均細孔径が0.005〜10μmであり空隙率が10〜50%である低空隙多孔質膜と、平均細孔径が0.01〜50μmであり空隙率が低空隙多孔質膜より7%以上大きい高空隙多孔質膜との積層多孔質膜
に接触させて、該重合性組成物を積層多孔質膜の有する各空隙部に充填させた後重合硬化させ、次いで、必要に応じてカチオン交換基を導入することを特徴とする請求項3に記載の直接液体型燃料電池用隔膜の製造方法。
【請求項5】
a)相対湿度50%RH(25℃)における含水率が1〜15%であり、且つ25℃、1mol/l−硫酸水溶液中の電気抵抗が0.3〜0.006Ω・cmである低含水型カチオン交換膜と
b)相対湿度100%RH(25℃)における含水率が、前記低含水型カチオン交換膜の相対湿度100%(25℃)における含水率より3%以上大きく、且つ25℃、1mol/l−硫酸水溶液中の電気抵抗が0.2〜0.004Ω・cmである高含水型カチオン交換膜
とを熱圧着させることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の直接液体型燃料電池用隔膜の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の直接液体型燃料電池用隔膜が組み込まれてなる同型の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−328916(P2007−328916A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−133972(P2006−133972)
【出願日】平成18年5月12日(2006.5.12)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】