説明

直接酸化型燃料電池

【課題】燃料の利用効率と、発電電圧や発電効率などの発電性能とに優れた燃料電池を提供する。
【解決手段】本発明の燃料電池は、アノードと、カソードと、それらの間に配置された電解質膜とを含む膜−電極接合体、アノードに接するアノード側セパレータ、およびカソードに接するカソード側セパレータを備える少なくとも1つの単位セルを有する。アノード側セパレータは、アノードに燃料を供給するための燃料流路を有し、アノードは電解質膜に接するアノード触媒層、およびアノード側セパレータに接するアノード拡散層を含み、アノード触媒層は、アノード触媒と高分子電解質を含む。高分子電解質の体積膨張率が、アノード触媒層の燃料流路の下流側よりも上流側で大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直接メタノール型燃料電池のような直接酸化型燃料電池に関し、詳しくは、直接酸化型燃料電池のセル構造の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、使用される電解質の種類によって、固体高分子型燃料電池、リン酸型燃料電池、アルカリ型燃料電池、溶融炭酸塩型燃料電池、固体酸化物型燃料電池などに分類される。なかでも固体高分子型燃料電池(PEFC)は、作動温度が低く、出力密度が高いことから、車載用電源、家庭用コージェネレーションシステム用電源などとして実用化されつつある。
【0003】
また、近年、燃料電池を、ノート型パーソナルコンピュータ、携帯電話、携帯情報端末(PDA)などの携帯用小型電子機器における電源として用いることが検討されている。燃料電池は燃料の補充によって連続発電が可能であることから、燃料電池を充電が必要な二次電池に代わりに用いることで、携帯用小型電子機器の利便性をさらに向上させることが期待できる。上記のように、PEFCは作動温度が低いため、携帯用小型電子機器用の電源としても注目されている。
【0004】
PEFCのなかでも直接酸化型燃料電池は、常温で液体の燃料を使用し、この燃料を水素に改質することなく、直接酸化して電気エネルギーを取り出す。このため、直接酸化型燃料電池は、改質器を備える必要がなく、よって小型化が容易である。また、直接酸化型燃料電池のなかでも、燃料としてメタノールを用いる直接メタノール型燃料電池(DMFC)は、エネルギー効率および出力の観点より、携帯用小型電子機器用の電源として、最も有望視されている。
【0005】
DMFCのアノードおよびカソードでの反応は、それぞれ、下記の反応式(1)および(2)で示される。カソードに導入される酸素は、一般に、大気中から取り入れられる。
アノード:CH3OH+H2O→CO2+6H++6e- (1)
カソード:3/2O2+6H++6e-→3H2O (2)
【0006】
DMFCなどの固体高分子型燃料電池は、例えば、図1に示すような構成を有する。図1に、固体高分子型燃料電池の従来の一般的な構成を示す。
図1の燃料電池10は、電解質膜11と、電解質膜11を挟み込むように配置されたアノード23およびカソード25を含む。アノード23は、アノード触媒層12およびアノード拡散層16を含む。アノード触媒層12は、電解質膜11に接している。アノード拡散層16は、アノード撥水層14およびアノード多孔質基材15を含む。アノード撥水層14およびアノード多孔質基材15は、この順番で、アノード触媒層12の電解質膜11と接している面とは反対側の面の上に積層されている。アノード拡散層16の外側には、アノード側セパレータ17が積層されている。
【0007】
カソード25は、カソード触媒層13およびカソード拡散層20を含む。カソード触媒層13は、電解質膜11のアノード触媒層12が接している面とは反対側の面に接している。カソード拡散層20は、カソード撥水層18およびカソード多孔質基材19を含む。カソード撥水層18およびカソード多孔質基材19は、この順番で、カソード触媒層13の電解質膜11と接している面とは反対側の面の上に積層されている。カソード拡散層20の外側には、カソード側セパレータ21が積層されている。
【0008】
このように、電解質膜11、アノード23、カソード25、アノード側セパレータ17およびカソード側セパレータ21からなる積層体は、セルと呼ばれる基本構成を形成している。なお、電解質膜11および電解質膜11を挟み込むアノード触媒層12とカソード触媒層13からなる積層体は、燃料電池の発電を担っており、CCM(Catalyst Coated Membrane)と呼ばれている。また、CCMと、アノード拡散層16およびカソード拡散層20とからなる積層体は、膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly;MEA)と呼ばれている。アノード拡散層16およびカソード拡散層20は、供給される燃料および酸化剤の均一な分散および生成物である水および二酸化炭素の円滑な排出を担っている。
【0009】
また、図1の燃料電池10において、アノード側セパレータ17は、アノード多孔質基材15との接触面に、MEAに燃料を供給するための燃料流路22を有している。燃料流路22は、例えば、凹部からなる。カソード側セパレータ21は、カソード多孔質基材19との接触面に、MEAに酸化剤(空気)を供給するための酸化剤流路(空気流路)24を有する。酸化剤流路24も、例えば、凹部からなる。
さらに、燃料電池10において、アノード側セパレータ17と電解質膜11との間には、アノード23を封入するようにガスケット26が配置され、カソード側セパレータ21と電解質膜11との間には、カソード25を封入するようにガスケット27が配置されている。ガスケット26および27は、それぞれ、燃料および酸化剤が外部に漏れるのを防止している。
なお、MEA、およびその両側に配置されるアノード側セパレータ17とカソード側セパレータ21から構成されるセルは、さらに、各セパレータの外側にそれぞれ端板28を配置した状態で、図示しないボルト、バネなどによって加圧締結される。
【0010】
現在、DMFCなどの直接酸化型燃料電池において解決すべき技術的課題としては、燃料流路から供給された液体燃料(メタノール水溶液など)が、アノード23と電解質膜11とを透過し、カソード25に到達し、カソード触媒層13で酸化される現象を抑制することが挙げられる。上記現象は、例えば、燃料のクロスオーバーと呼ばれており、特にDMFCでは、メタノールクロスオーバー(MCO)と呼ばれ、燃料の利用効率を低下させる原因となっている。なお、このような現象が生じるのは、用いられる液体燃料は水溶性であることが多いため、液体燃料が、水を含みやすい性質の電解質膜に浸透しやすいからである。
さらに、カソード25での燃料の酸化反応は、カソードで通常生じる酸化剤(酸素)の還元反応と競合し、カソード25の電位を低下させる。このため、発電電圧の低下、発電効率の低下などを招く。
【0011】
そこで、DMFCにおいては、MCOを低減させるため、メタノールの透過量が抑制された電解質膜が盛んに開発されている。しかし、現在実用化されている電解質膜は、膜内に存在する水を介してプロトンを伝導するため、電解質膜には水の存在が不可欠である。また、メタノールは水との親和性が高い。よって、水とともにメタノールが電解質膜を透過することを十分に防止できない。
【0012】
電解質膜中の液体燃料の移動は、主として濃度拡散に起因する。このため、燃料のクロスオーバーの程度は、電解質膜11のアノード23側表面とカソード25側表面とにおける燃料の濃度差に大きく依存することが知られている。そして、電解質膜11のカソード25側表面における燃料濃度は、透過した燃料がカソード25で速やかに酸化されることから、無視できるほど低いと考えられる。このため、結局のところ、燃料のクロスオーバー量は、電解質膜11のアノード23側表面における燃料濃度に大きく依存することになる。
【0013】
アノード23において、燃料流路22から供給された液体燃料の拡散速度は、アノード撥水層14の拡散抵抗により、制御される。さらに、燃料は、アノード触媒層12内での酸化反応によって消費される。このため、一般に、電解質膜11のアノード23側表面における燃料濃度は、燃料流路22における燃料濃度に比べて極めて小さいと考えられる。
【0014】
しかし、電解質膜11の主面に対して平行な面内での燃料濃度の分布について考えると、燃料流路22内部に存在する燃料の濃度は、燃料流路22の入口において最も大きく、燃料が燃料流路22を流れるにつれて漸次減少し、燃料流路22の出口において最も小さくなる。つまり、燃料流路の上流付近においては、電解質膜11のアノード23側表面における燃料濃度が比較的大きくなり、その結果、燃料のクロスオーバー量が大きくなる。
反対に燃料流路の下流付近では、燃料流路22内部に存在する燃料の濃度は、燃料流路の上流に比べて非常に小さい。このため、むしろアノード触媒層12内部における燃料の拡散性を高め、アノード触媒周囲の燃料濃度を向上させて、濃度過電圧による電圧低下を低減し、出力の低下を抑制する必要がある。
【0015】
上述の技術的課題に対し、特許文献1には、アノード撥水層の組成および厚みを燃料流路の上流側と下流側で変化させることが提案されている。特許文献1には、前記構成により、燃料流路の上流側での燃料透過性を低下させて、メタノールクロスオーバー量を低減できることが記載されている。
【0016】
なお、DMFCに関する技術ではないが、特許文献2には、燃料ガスの上流側と下流側とで、触媒層に含まれるイオノマーの物性を変化させることが提案されている。特許文献2では、イオノマーのEW(イオン交換基あたりの当量重量)を上流側で小さくし、下流側で大きくすることにより、電極の保湿性をコントロールすることを試みている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2002−110191号公報
【特許文献2】特開2002−164057号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら、撥水層の厚みは、一般的に10〜50μm程度と薄いため、撥水層のみを用いて、アノードにおけるメタノールのような液体燃料の透過性を制御するのは困難である。具体的には、上記のように、撥水層の厚さは薄いため、撥水層の流路側の面と触媒層側の面との間に生じる燃料濃度の差は小さい。前記液体燃料の拡散の駆動力は、濃度勾配が小さいほど、小さくなる。従って、仮に特許文献1のように、燃料流路の上流側と下流側で撥水層の組成などを変化させたとしても、前記液体燃料の透過性に与える影響は小さい。特に、供給する液体燃料の濃度が高い場合、あるいはセルの作動温度が高い場合には、前記液体燃料の拡散速度が大きくなるために、撥水層のみで前記液体燃料の透過性をコントロールすることは非常に困難である。
【0019】
そこで、本発明は、メタノールクロスオーバーなどの、燃料流路から供給された燃料が電解質膜を通過し、カソードで酸化される現象を抑制することにより、燃料の利用効率と、発電電圧、発電効率などの発電性能とに優れた燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の直接酸化型燃料電池は、アノードと、カソードと、それらの間に配置された電解質膜とを含む膜−電極接合体、アノードに接するアノード側セパレータ、およびカソードに接するカソード側セパレータを備える少なくとも1つの単位セルを有する。アノード側セパレータは、アノードに燃料を供給するための燃料流路を有し、カソード側セパレータは、カソードに酸化剤を供給するための酸化剤流路を有する。アノードは、電解質膜に接するアノード触媒層、およびアノード側セパレータに接するアノード拡散層を含み、アノード触媒層は、アノード触媒と高分子電解質を含む。前記高分子電解質の体積膨張率が、前記アノード触媒層の前記燃料流路の下流側よりも上流側で大きい。
【0021】
本発明の好ましい実施形態において、前記高分子電解質の体積膨張率は、燃料流路の上流側から下流側に向かって段階的に減少している。本発明の別の実施形態において、前記高分子電解質の体積膨張率は、前記燃料流路の上流側から下流側に向かって連続的に減少している。
【0022】
前記アノード触媒層の燃料流路の上流側に対向する部分に、高分子電解質の体積膨張率が20〜40%である高膨潤領域を備えることが好ましい。前記アノード触媒層の、燃料流路の上流側の燃料流路の全長の1/6〜1/3の長さの部分に対向している領域に、前記高膨潤領域を備えることがさらに好ましい。
【0023】
前記アノード触媒層の燃料流路の下流側に対向する部分に、高分子電解質の体積膨張率が0〜30%である低膨潤領域を備えることが好ましい。
【0024】
前記高膨潤領域に、高分子電解質として、フッ素系イオノマーが含まれることがさらに好ましい。前記フッ素系イオノマーの体積膨張率は20〜40%であり、プロトン伝導度は0.05〜0.15S/cmであることが好ましい。
【0025】
前記低膨潤領域に、高分子電解質として、炭化水素系イオノマーが含まれることがさらに好ましい。前記炭化水素系イオノマーの体積膨張率は、0〜30%であり、プロトン伝導度は、0.01〜0.1S/cmであることが好ましい。
【0026】
前記フッ素系イオノマーは、パーフルオロスルホン酸単位とテトラフルオロエチレン単位との共重合体を含むことが好ましい。前記炭化水素系イオノマーは、スルホン酸基が導入されたエンジニアリングプラスティック、およびホスホン酸基が導入されたエンジニアリングプラスティックよりなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0027】
前記アノード触媒層に含まれる高分子電解質の量が、前記アノード触媒層の10〜30重量%を占めることが好ましい。
【0028】
前記アノード触媒の量は、アノード触媒層全体にわたって、均一であることが好ましい。このとき、前記アノード触媒の量は、1〜10mg/cm2であることが好ましい。
【0029】
前記アノード触媒層の厚さが、前記アノード触媒層全体にわたって、均一であることが好ましい。このとき、前記アノード触媒層の厚さは、5〜120μmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、アノード触媒層に含まれる高分子電解質の種類を、アノード触媒層の燃料流路の上流部に対向する部分と下流部に対向する部分とで適正化させている。このため、アノード触媒層の上流部に対向する部分では、アノード触媒層と電解質膜の界面における燃料の濃度を従来技術に比べて低下させることでき、その結果、燃料のクロスオーバーを低減させることが可能となる。アノード触媒層の下流部に対向する部分では、燃料拡散性を向上させることができる。その結果、濃度過電圧を低減させ、よって、発電電圧を向上させることが可能となる。このように、本発明により、直接酸化型燃料電池の燃料の利用効率の低下、ならびに発電電圧および発電効率の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】従来の固体高分子型燃料電池の構成の一例を模式的に示す縦断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る直接酸化型燃料電池を模式的に示す縦断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る直接酸化型燃料電池に含まれるアノード触媒層を模式的に示す正面図である。
【図4】触媒層を形成するために用いられるスプレー式塗布装置の構成の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の好ましい実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
本発明の直接酸化型燃料電池は、アノードと、カソードと、前記アノードとカソードとの間に配置された電解質膜とを含む膜−電極接合体、前記アノードに接するアノード側セパレータ、および前記カソードに接するカソード側セパレータを備える少なくとも1つの単位セルを有する。アノード側セパレータは、アノードに燃料を供給するための燃料流路を有し、カソード側セパレータは、カソードに酸化剤を供給するための酸化剤流路を有する。アノードは、電解質膜に接するアノード触媒層、およびアノード側セパレータに接するアノード拡散層を含む。本発明においては、アノード触媒層に特徴がある。具体的には、アノード触媒層は、アノード触媒と高分子電解質を含み、前記高分子電解質の体積膨張率が、前記アノード触媒層の前記燃料流路の下流側よりも上流側で大きい。
【0033】
以下、本発明を、図面を参照しながら説明する。図2に、本発明の一実施形態に係る燃料電池を模式的に示す縦断面図を示し、図3に、図2の燃料電池10に含まれるアノード触媒層32の一例を概略的に示す正面図を示す。図2および3において、図1と同じ構成要素には、同じ番号を付している。なお、図3においては、アノード触媒層32と、それを担持する電解質膜11を図示している。また、図3には、アノード触媒層32が対向するサーペンタイン型の燃料流路22も点線で示す。
【0034】
図2の燃料電池30は、アノード31と、カソード25と、それらの間に配置された電解質膜11を備える。電解質膜11は、水素イオン伝導性を有する。アノード31の電解質膜11と接する面とは反対側の面には、アノード側セパレータ17が積層されている。カソード25の電解質膜11と接する面とは反対側の面には、カソード側セパレータ21が積層されている。さらに、アノード側セパレータ17と電解質膜11との間には、アノード31を封入するように、ガスケット26が配置され、カソード側セパレータ21と電解質膜11との間には、カソード25を封入するように、ガスケット27が配置されている。ガスケット26および27は、それぞれ、燃料および酸化剤が外部に漏れるのを防止している。
【0035】
アノード側セパレータ17には、電解質膜11の主面と平行な面方向に燃料を分配させるための燃料流路22が形成されている。燃料流路22には、少なくとも1対の燃料入口と燃料出口が設けられている。以下、説明を簡略化させるため、アノード側セパレータ17は、燃料入口35と燃料出口36を1箇所ずつ有し、燃料が、燃料入口35から燃料出口36に向かって一方向にのみ流れる形態を示す。なお、本発明は、前記形態に限定されない。
【0036】
アノード31は、電解質膜11と接するアノード触媒層32と、アノード側セパレータ17と接するアノード拡散層16とを有している。アノード触媒層32は、上述の反応式(1)に示す反応を促進するためのアノード触媒と、アノード触媒層32と電解質膜11とのイオン伝導性を確保するための高分子電解質とを含む。
【0037】
本発明においては、高分子電解質の体積膨張率が、アノード触媒層32の燃料流路の下流側よりも上流側で大きい。前記高分子電解質の体積膨張率は、燃料流路の上流側から下流側に向かって連続的に減少していてもよいし、段階的に減少していてもよい。なかでも、高分子電解質の体積膨張率は段階的に変化されることが好ましい。この場合、アノード触媒層の製造工程が簡便になり、また、アノード触媒粒子の充填密度を制御しやすくなるからである。アノード触媒粒子の充填密度は、例えば2〜10段階に変化させることが好ましく、2〜5段階に変化させることがより好ましい。
【0038】
本発明は、アノード面内での燃料反応性および物質移動の分布解析にもとづき、使用する高分子電解質の体積膨張率を、アノードの面方向において変化させている。つまり、アノード触媒層32において、燃料の平均的な流れの方向Aに沿って、アノード触媒層に含まれている高分子電解質の体積膨張率を変化させている。
本発明者らは、プロトン伝導度を向上させた高分子電解質は、メタノール水溶液のような液体燃料に接触したときの体積膨張が大きいため、プロトン伝導度を向上させた高分子がアノード触媒層に含まれる場合、アノード触媒層の実質の空孔度が低下するという関係に注目した。本発明においては、このような関係を利用して、燃料の流れ方向に応じて、アノード触媒層に含まれる最適な高分子電解質を選択している。
【0039】
より具体的には、燃料流路の上流側においては、燃料濃度が比較的大きい。このため、アノード触媒層の燃料流路の上流側に対向する部分では、速やかにアノード反応を進行させて、燃料を消費させることが求められる。その結果、アノード触媒層と電解質膜の界面における燃料濃度を低下させて、燃料のクロスオーバーを低減させることができる。そのためには、アノード触媒層の上流側に含まれる高分子電解質としては、プロトン伝導度が大きい高分子電解質が適している。しかも、前記プロトン伝導度が大きい高分子電解質は、液体燃料に接触したときの体積膨張が大きく、その結果、アノード触媒層の空孔度が低下しやすい。このため、プロトン伝導度が大きい高分子電解質が含まれるアノード触媒層の部分では、燃料拡散性も抑制されて、アノード触媒層と電解質膜の界面における燃料濃度を低下する働きが助長される。アノード触媒層の燃料流路の上流側に対向する部分に含まれる高分子電解質としては、フッ素系イオノマーが好ましい。
【0040】
燃料流路の下流側においては、燃料濃度が比較的小さい。このため、アノード触媒層の燃料流路の下流側に対向する部分においては、その空孔度を高く保つことにより、燃料の拡散性を向上させることが求められる。その結果、アノード触媒層の燃料流路の下流側に対向する部分における燃料濃度を向上させ、濃度過電圧を低減することができる。従って、アノード触媒層の燃料流路の下流側に対向する部分に含まれる高分子電解質としては、プロトン伝導度は多少犠牲にしても、液体燃料に接触したときの体積膨張が小さい高分子電解質が適している。このような高分子電解質としては、炭化水素系イオノマーが好ましい。
【0041】
フッ素系イオノマーの体積膨張率は、20〜40%であることが好ましい。優れたプロトン伝導度を示すフッ素系イオノマーは、十分にイオノマーが十分に水分を保持することで、プロトン輸送速度が確保できる。現在の技術では、高いプロトン伝導度を得ることと小さな体積膨張率を得ることは、トレードオフの関係にあるため、フッ素系イオノマーの体積膨張率は大きくてよい。さらに、本発明においては、フッ素系イオノマーの体積膨張率が比較的大きい方が、液体燃料を供給したときのアノード触媒層内の細孔容積が容易に低減される。このため、体積膨張率が比較的大きいフッ素系イオノマーを用いる方が、燃料流路の上流側の液体燃料の拡散速度を調節するのに好都合である。ただし、使用するフッ素系イオノマーの体積膨張率を考慮しながら、フッ素系イオノマーの量およびアノード触媒層の空孔度を適切に選択する必要がある。
【0042】
フッ素系イオノマーのプロトン伝導度は、0.05〜0.15S/cmであることが好ましい。燃料流路の上流側において、液体燃料の酸化反応を効率良く進めるためには、イオノマーによるプロトンの輸送速度も促進する必要がある。このため、高いプロトン伝導度が必要となる。なお、燃料の酸化反応が促進されると、結果として触媒層/電解質膜界面における燃料濃度も低減され、燃料のクロスオーバー量が低減されることにもつながる。
【0043】
フッ素系イオノマー1gあたりのイオン交換容量は、0.9〜1.3meq/gであることが好ましい。フッ素系イオノマーは、比較的小さなイオン交換容量でも、大きなプロトン伝導度が得られることが特徴である。しかしながら、現在の技術では、上記のような高いプロトン伝導度を得るためには、上記のようなイオン交換容量が必要である。
【0044】
フッ素系イオノマーは、ナフィオン(商品名「Nafion(登録商標)」、デュポン社製)に代表されるように、その分子構造内に、フッ素化された主鎖と、スルホン酸基などのイオン交換基を含む側鎖とを含む。主鎖部分は撥水性を示し、側鎖部分は親水性を示すことから、フッ素系イオノマーは、相分離構造を形成し、そのうちの親水相クラスター部分に水を多く含むことで、比較的小さなイオン交換容量でも優れたプロトン伝導性を示すと考えられている。しかし、フッ素系イオノマーは、親水相クラスター部が水を取り込むことによって、体積膨張しやすく、さらにメタノール水溶液中に浸漬した場合には、水に浸漬した場合に比べてさらに体積膨張が大きくなる。
【0045】
フッ素系イオノマーとしては、パーフルオロスルホン酸単位とテトラフルオロエチレン単位との共重合体(H+型)が挙げられる。このようなフッ素系イオノマーとしては、例えば、ナフィオン(商品名「Nafion(登録商標)」、デュポン社製)、フレミオン(商品名「Flemion(登録商標)」、旭硝子(株)製、アシプレックス(商品名「Aciplex(登録商標)」、旭化成(株)製)などが挙げられる。
【0046】
炭化水素系イオノマーの体積膨張率は、0〜30%であることが好ましい。アノード触媒層の燃料流路の下流側に含まれる炭化水素系イオノマーの体積膨張率は小さいほど好ましい。現在の技術では、炭化水素系イオノマーであっても、体積膨張することが一般的であるが、アノード触媒層の燃料流路の下流側における液体燃料の拡散性を維持するために、その体積膨張率は、フッ素系イオノマーの体積膨張率に比べて、小さいことが好ましい。
【0047】
炭化水素系イオノマーのプロトン伝導度は、0.01〜0.1S/cmであることが好ましい。フッ素系イオノマーの場合と同様に、炭化水素系イオノマーにおいても、プロトン伝導度と体積膨張率はトレードオフの関係にある。このため、体積膨張率が小さいことを重視した炭化水素系イオノマーのプロトン伝導度は、フッ素系イオノマーのプロトン伝導度に比べると小さくなる。
【0048】
また、炭化水素系イオノマー1gあたりのイオン交換容量は、1.0〜1.5meq/gであることが好ましい。現在の技術では、炭化水素系イオノマーのイオン交換容量を、フッ素系イオノマーのイオン交換容量と比べて大きくしないと、発電反応に十分なプロトン伝導度を得ることが難しい。なお、同じイオン交換容量で比較すると、炭化水素系イオノマーの方が、フッ素系イオノマーに比べて、体積膨張率が小さくなることが一般的である。すなわち、炭化水素系イオノマーのイオン交換容量を、フッ素系イオノマーのイオン容量よりも大きくしても、炭化水素系イオノマーの体積膨張率をフッ素系イオノマーの体積膨張率より小さくすることが可能である。
【0049】
スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(SPEEK)に代表されるような炭化水素系イオノマーにおいて、撥水相と親水相の大きさが、一般的にフッ素系ポリマーの場合と比べて小さく、容易に観察されるような大きさの親水相クラスター部は存在しない。従って、炭化水素系イオノマーは、同じイオン交換容量で比較すると、フッ素系イオノマーに比べて体積膨張が小さいものの、フッ素系イオノマーと比較してプロトン伝導度が小さい。しかし、昨今では、炭化水素系イオノマーの分子構造的開発が進み、WO2008−149815号公報に記載されているように、3つの重合体ブロックを共重合させることなどにより、体積膨張が小さくかつプロトン伝導度に優れた炭化水素系イオノマーの開発が進んでいる。
【0050】
炭化水素系イオノマーとしては、スルホン酸基が導入されたエンジニアリングプラスティックおよびホスホン酸基が導入されたエンジニアリングプラスティックより選択される少なくとも1種を用いることができる。エンジニアリングプラスティックとしては、例えば、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリ(アリーレンエーテル)、ポリイミド、ポリ((4−フェノキシベンゾイル)−1,4−フェニレン)、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニルキノキサレン、ポリフォスファゼン、ポリベンズイミダゾールのようなポリマーが挙げられる。さらに、前記ポリマーを構成する複数種のモノマー単位を共重合した共重合体を、エンジニアリングプラスティックとして用いることもできる。なお、スルホン酸基またはホスホン酸基の導入は、従来公知の技術を用いて行うことができる。
また、炭化水素系イオノマーとしては、スルホアリール化ポリベンズイミダゾール、スルホアルキル化ポリベンズイミダゾール、ホスホアルキル化ポリベンズイミダゾール、ホスホン化ポリ(フェニレンエーテル)、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリ(α−メチルスチレン)スルホン酸などを用いることもできる。
【0051】
プロトン伝導度は、交流インピーダンス法により測定することができる。フッ素系イオノマーを含む溶液または炭化水素系イオノマーを含む溶液を、ガラス板上にキャストして、フッ素系イオノマーのキャスト膜または炭化水素系のイオノマーのキャスト膜を得る。各キャスト膜の両端に金線を配置し、金線を交流インピーダンス測定装置に接続する。常温、相対湿度100%窒素雰囲気中で、交流インピーダンス法(測定周波数:100kHz〜1Hzの範囲で周波数を変化させ、ナイキストプロットにおける実軸切片をインピーダンス値とする)により、プロトン伝導度を測定することができる。
【0052】
体積膨張率は、以下のようにして測定することが。上記のようにして作製したフッ素系イオノマーのキャスト膜または炭化水素系イオノマーのキャスト膜を、100℃に温度設定された減圧乾燥機中で12時間乾燥した。各キャスト膜の寸法を、ドライエア雰囲気中で、ノギスなどにより測定し、浸漬前の体積を求める。この後、各キャスト膜を、常温下で2Mのメタノール水溶液に、12時間浸漬する。12時間経過後に、各キャスト膜の寸法を再度測定して、浸漬後の体積を求める。2Mのメタノール水溶液の浸漬する前の体積と浸漬した後の体積とを用いて、体積膨張率を計算する。体積膨張率は、{[(浸漬後の体積)−(浸漬前の体積)]/(浸漬前の体積)}×100により求めることができる。
【0053】
イオン交換容量は、0.5Mの水酸化ナトリウムを使用する中和滴定により測定することができる。
【0054】
アノード触媒層32は、アノード触媒層32の燃料流路22の上流側に対向する部分に、高分子電解質の体積膨張率が20〜40%である高膨潤領域を備えることが好ましい。さらに、アノード触媒層32は、アノード触媒層32の燃料流路22の下流側に対向する部分に、高分子電解質の体積膨張率が0〜30%である低膨潤領域を備えることが好ましい。このことを、図3を参照しながら説明する。図3では、アノード触媒粒子の充填密度を段階的に減少させた場合について説明する。
【0055】
図3のアノード触媒層32は、高分子電解質の体積膨張率が20〜40%である高膨潤領域(第1領域)33と、高分子電解質の体積膨張率が0〜30%である低膨潤領域(第2領域)34とを含む。図3において、燃料流路22の上流側から下流側に向かう燃料の全体的な流れ方向(燃料濃度が減少する平均的な方向)は矢印Aで表されている。図3に示されるアノード触媒層32において、第1領域33は、燃料流路の上流側であり、かつ全流路長の半分の長さの流路部分と対向している。第2領域34は、燃料流路22の下流側であり、かつ全流路長の半分の長さの流路部分と対向している。つまり、燃料流路22の上流側から下流側に向かう矢印Aに平行なカソード触媒層18の辺の長さをLとした場合、図3において、第1領域33は、燃料流路の上流部に対向するように位置し、かつ方向Aにおける長さが約L/2のアノード触媒層の領域(アノード触媒層の投影面積の約1/2を占める領域)を占めている。第2領域34は、燃料流路の下流部に対向するように位置し、かつ方向Aにおける長さが約L/2のアノード触媒層の領域(アノード触媒層の投影面積の約1/2を占める領域)を占める。第1領域33は、燃料流路の、燃料入口35から、全流路長の好ましくは1/6〜1/2の流路部分と対向していることが好ましい。
特に、燃料のクロスオーバーによる発電性能の低下が最も顕著であるのは、燃料流路の上流側に位置するアノード触媒層32の端32aから、燃料流路の全長を1としたときに、その上流側の1/6〜1/3の長さに相当する部分である。従って、アノード触媒層32の第1領域33は、燃料流路22の上流側の、燃料流路22の全長の1/6〜1/3の長さの部分に対向していることがさらに好ましい。
なお、アノード触媒層32が、第1領域33および第2領域34から構成され、第1領域33が前記範囲を占める場合、第2領域34は、アノード触媒層32の残りの部分を占める。
【0056】
ここで、アノード触媒層の投影面積とは、カソード触媒層の主面に対して法線方向から見たときのアノード触媒層の面積のことである。
【0057】
この場合、第1領域33は、フッ素系イオノマーを高分子電解質として含むことができ、第2領域34は炭化水素系イオノマーを高分子電解質として含むことができる。
【0058】
第1領域33に含まれるフッ素系イオノマーは1種でもよいし、2種以上であってもよい。同様に、第2領域34に含まれる炭化水素系イオノマーは1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0059】
第1領域33および第2領域34に含まれるイオノマーの量は、イオノマーのプロトン伝導度、イオノマーと触媒粒子との混合分散性等に依存して決定される。第1領域33に含まれるフッ素系イオノマーの量は、第1領域33の10〜30重量%であることが好ましい。同様に、第2領域34に含まれる炭化水素系イオノマーの量は、第2領域34の10〜30重量%であることが好ましい。
【0060】
第1領域33は、第1領域33における高分子電解質の体積膨張率が20〜40%となるように、フッ素系イオノマーのほかに、少量の炭化水素系イオノマーを含んでいてもよい。同様に、第2領域34も、第2領域34における高分子電解質の体積膨張率が0〜30%となるように、炭化水素系イオノマーのほかに、少量のフッ素系イオノマーを含んでいてもよい。つまり、第1領域33および第2領域34がそれぞれフッ素系イオノマーおよび炭化水素系イオノマーを含み、第1領域33においては、フッ素系イオノマーの含有量を炭化水素系イオノマーの含有量よりも多くし、第2領域34においては、炭化水素系イオノマーの含有量をフッ素系イオノマーの含有量より多くしてもよい。
【0061】
なお、この場合、必ずしも第1領域33を形成するための第1インクおよび第2領域34を形成するための第2インクにおいて、フッ素系イオノマーおよび炭化水素系イオノマーが混合されている必要はない。例えば、フッ素系イオノマーのみを含むインクと炭化水素系イオノマーのみを含むインクを交互に塗布することにより、第1領域33および第2領域34を形成してもよい。このとき、各インクに含まれるイオノマーの濃度は、作製される部分に応じて、適宜調節される。
【0062】
あるいは、アノード触媒層32の厚さ方向において、第1領域33および第2領域34が、それぞれ、含まれる高分子電解質の種類が異なる2層から構成されてもよい。この場合、第1領域33では、その投影単位面積あたりのフッ素系イオノマーの含有割合を高くし、第2領域34では、その投影単位面積あたりの炭化水素系イオノマーの含有割合を高くする。
【0063】
また、第1領域33および第2領域34に、それぞれフッ素系イオノマーおよび炭化水素系イオノマーが含まれる場合、フッ素系イオノマーおよび炭化水素系イオノマーの物性を、第1領域33と第2領域34とで、変化させてもよい。例えば、第1領域33に含まれるフッ素系イオノマーとして、イオン交換基当たりの重量(EW)の小さいイオノマーを主として用い、第2領域34に含まれるフッ素系イオノマーとして、EWの大きいイオノマーを主として用いてもよい。同様に、第1領域33に含まれる炭化水素系イオノマーとして、EWの小さいイオノマーを主として用い、第2領域34に含まれる炭化水素系イオノマーとして、EWの大きいイオノマーを主として用いてもよい。このような構成により、上記のような本発明の効果が得られるとともに、第1領域33では、プロトン伝導度を最大に高めることができ、第2領域34では、イオノマーの体積膨張をできる限り低減することができる。
なお、第1領域33に含まれる高分子電解質が、EWの小さいフッ素系イオノマーのみを含み、第2領域34に含まれる高分子電解質が、EWの大きい炭化水素系イオノマーのみを含んでいてもよい。この場合にも、前記のような効果を得ることができる。
【0064】
各領域が複数種の高分子電解質を含む場合、各領域における高分子電解質の体積膨張率は、各高分子電解質の体積膨張率と各高分子電解質の質量比とから求めることができる。例えば、所定の領域に、体積膨張率がSW1のフッ素系イオノマーと体積膨張率がSW2の炭化水素系イオノマーとがx:yの質量比で含まれる場合、所定の領域における高分子電解質の体積膨張率は、{SW1×x/(x+y)}+{SW2×y/(x+y)}で表される。なお、各高分子電解質の体積膨張率は、上記のようにして求められる。
【0065】
第1領域33がフッ素系イオノマーおよび炭化水素系イオノマーを含む場合にも、上記と同様に、第1領域33に含まれるイオノマーの合計量は、第1領域33の10〜30重量%であることが好ましい。同様に、第2領域34がフッ素系イオノマーおよび炭化水素系イオノマーを含む場合にも、第2領域34に含まれるイオノマーの合計量は、第2領域34の10〜30重量%であることが好ましい。
【0066】
図3においては、アノード触媒層32を、上流側半分の第1領域33と、下流側半分の第2領域34の2つに分割している。アノード触媒層の分割数は、2に限定されず、アノード触媒層を、燃料の平均的な流れ方向(矢印Aの方向)に沿って、3つ以上に分割してもよい。
なお、分割数が大きい場合には、フッ素系イオノマーと炭化水素系イオノマーの含有割合を段階的に変化させていくことが可能である。さらに、使用するイオノマーの種類や割合は、各領域間で明確に境界を設けるのではなく、漸次変化させてもよい。
【0067】
例えば、第1領域33と第2領域34との間に、さらなる第3の領域が設けられる場合、前記第3の領域における高分子電解質の体積膨張率SWmは、第1領域33における高分子電解質の体積膨張率SWuと、第2領域34における高分子電解質の体積膨張率SWdとに応じて、適宜選択される。例えば、差(SWu−SWm)と、差(SWm−SWd)とが、ほぼ同じとなるように、SWmを選択してもよい。あるいは、差(SWu−SWm)が差(SWm−SWd)よりも大きくなるように選択してもよいし、差(SWm−SWd)が差(SWu−SWm)よりも大きくなるように選択してもよい。また、第1領域33と第2領域34との間に複数の領域を設ける場合、各領域における高分子電解質の体積膨張率も、適宜選択される。
【0068】
上記のように、高分子電解質の体積膨張率は、燃料流路の上流側から下流側に向かって連続的に変化させてもよい。この場合、例えば、フッ素系イオノマーと炭化水素系イオノマーとの混合質量比を、燃料流路の上流側から下流側に向かって、連続的に変化させることにより、高分子電解質の体積膨張率を、連続的に変化させることができる。
さらに、フッ素系イオノマーと炭化水素系イオノマーとの混合比を連続的に変化させている場合、アノード触媒層32の燃料流路22の上流側の、燃料流路22の全長の1/6〜1/2、さらに好ましくは1/6〜1/3の長さの部分に対向している領域(前記第1領域33に相当)に含まれるフッ素系イオノマーと炭化水素系イオノマーとの平均の混合質量比から求められる高分子電解質の体積膨潤率は、20〜40%であることが好ましい。アノード触媒層32の残りの領域(前記第2領域34に相当)においても同様に、フッ素系イオノマーと炭化水素系イオノマーとの平均の混合質量比から求められる高分子電解質の体積膨潤率は、0〜30%であることが好ましい。
【0069】
アノード触媒層32の各領域が、フッ素系イオノマーおよび炭化水素系イオノマーを含む場合にも、アノード触媒層32に含まれる高分子電解質の量は、アノード触媒層全体にわたって均一であることが好ましい。
【0070】
アノード触媒層32に含まれるアノード触媒としては、例えば、白金(Pt)とルテニウム(Ru)の合金、Ptとルテニウム酸化物との混合物、PtとRuと他の金属元素(例えば、イリジウム(Ir)など)との3元合金などが挙げられる。PtとRuとの合金において、PtとRuとの原子比は、これに限定されないが、好ましくは、1:1である。前記アノード触媒は、微粉末の状態でそのまま用いてもよい。あるいは、前記アノード触媒は、カーボンブラックなどの電子導電性を有する粉末に担持させてもよい。
【0071】
アノード触媒層32に含まれるアノード触媒の量は、一般的に担体を含まない金属量として、1〜10mg/cm2の範囲であることが好ましく、1〜6mg/cm2の範囲であることがさらに好ましい。ここで、前記アノード触媒の量とは、アノード触媒層の投影単位面積あたりの部分に含まれるアノード触媒の量のことをいい、アノード触媒層の投影単位面積とは、アノード触媒層の主面に対して法線方向から見たときのアノード触媒層の単位面積(cm2)のことをいう。例えば、前記アノード触媒の量は、アノード触媒層に含まれるアノード触媒の全量を、アノード触媒の投影面積で除することにより得ることができる。
【0072】
アノード触媒層に含まれるアノード触媒の量は、アノード触媒層全体にわたって均一であることが好ましい。上記のように、アノード触媒層の燃料流路の上流側に対向する部分および下流側に対向する部分に含まれる高分子電解質の体積膨張率を変化させているため、アノード触媒層における燃料の拡散性が制御される。その結果、アノード触媒層全体にわたって燃料を均一に供給することができる。この場合、アノード触媒の量を、アノード触媒層全体にわたって均一とすることにより、アノード触媒層全体にわたって発電を均一に行うことができ、よって、効率的な発電を行うことができる。この結果、発電特性および発電効率をさらに向上することができる。
【0073】
アノード触媒層32の厚さは、使用する触媒粒子の粒径、触媒粒子の担体への担持率、高分子電解質の含有量、空孔度などに依存する。アノード触媒層32の厚さは、5〜120μmの範囲であることが好ましく、5〜70μmの範囲であることがさらに好ましい。
【0074】
アノード触媒層32の厚さは、アノード触媒層全体にわたって均一であることが好ましい。燃料電池のセルおよびスタックの構成要素は基本的に均一な厚みであり、厚み方向に均一に圧力をかけてセル全体またはスタック全体を締結している。このため、アノード触媒層の厚さが変化すると、その変化分を吸収するために、MEAの他の部分、例えば拡散層、電解質膜などの厚みを変化させる必要が生じる。これは、MEAのバランスを不必要に変化させることとなり、全体として発電特性を低下させる要因となりうる。
【0075】
以上のように、本発明の燃料電池においては、アノード触媒層の燃料流路上流側に、プロトン伝導度が高いが液体燃料に接触したときの体積膨張が大きいフッ素系イオノマーのような高分子電解質が含まれ、アノード触媒層の燃料流路下流側に、プロトン伝導度はさほど高くないが液体燃料に接触したときの体積膨張が小さい炭化水素系イオノマーのような高分子電解質が含まれている。アノード触媒層32の燃料流路上流側の部分には、プロトン伝導度が大きい高分子電解質が含まれているため、アノード反応を迅速行わせることができ、その結果、前記アノード触媒層の燃料流路上流側の部分では、アノード触媒層32と電解質膜11の界面における燃料の濃度を従来技術に比べて低下させることができる。よって、燃料のクロスオーバーを低減させることができる。アノード触媒層32の燃料流路下流側の部分では、前記部分に体積膨張率の小さい高分子電解質が含まれているため、従来技術に比べて優れた燃料拡散性を維持することできる。よって、電極の濃度過電圧を低減させることでできる。
【0076】
以下、図2を再度参照しながら、アノード触媒層32以外の構成要素について、説明する。
カソード25は、電解質膜11に接するカソード触媒層13と、カソード側セパレータ21に接するカソード拡散層20とを有している。カソード拡散層20は、カソード触媒層13に接するカソード撥水層18と、カソード側セパレータ21に接するカソード多孔質基材19とを有している。
【0077】
カソード触媒層13は、上述の反応式(2)に示す反応を促進するためのカソード触媒と、カソード触媒層13と電解質膜11とのイオン伝導性を確保するための高分子電解質と、を含む。
カソード触媒層13に含まれるカソード触媒としては、例えば、Pt単体およびPt合金が挙げられる。Pt合金には、Ptと、コバルト、鉄などの遷移金属との合金が挙げられる。上記Pt単体またはPt合金は、微粉末状のまま用いてもよいし、カーボンブラックなどの電子導電性を有する担体に担持させてもよい。
カソード触媒層13に含まれる高分子電解質としては、アノード触媒層12に含まれる高分子電解質として例示した材料を用いることができる。
【0078】
カソード触媒層13は、例えば、以下のようにして作製することができる。具体的には、カソード触媒と、高分子電解質とを適当な分散媒に分散させる。得られたインクを電解質膜11に塗布し、乾燥させることにより、アノード触媒層13を得ることができる。塗布の手段としては、例えば、スプレー法、スキージ法などが挙げられる。
【0079】
図3に示されるような第1領域33と第2領域34とを含むアノード触媒層32も、基本的には、カソード触媒層13と同様にして作製することができる。一例として、スプレー法を用いて、アノード触媒層32を作製する方法について、以下に説明する。この場合、アノード触媒層は、図4に示されるようなスプレー式塗布装置を用いて形成することができる。図4は、スプレー式塗布装置の構成を概略的に示す側面図である。
【0080】
まず、アノード触媒と、フッ素系イオノマーとを、適当な分散媒に分散させて、第1インクを調製する。同様に、アノード触媒と、炭化水素系イオノマーとを適当な分散媒に分散させて、第2インクを調製する。
【0081】
図4のスプレー式塗布装置70は、インク72を収容したタンク71およびインク72を吐出するスプレーガン73を備える。
タンク71内において、インク72は、撹拌機74により撹拌されて、常時流動状態にある。インク72は、開閉バルブ75を介して、スプレーガン73に供給され、噴出ガスとともに、スプレーガン73から吐出される。噴出ガスは、ガス圧力調整器76およびガス流量調整器77を介して、スプレーガン73に供給される。噴出ガスとしては、例えば、窒素ガスを用いることができる。塗布装置70では、電解質膜11と接するように配置されたヒータ81により、電解質膜11の表面温度が制御されている。
なお、図4の塗布装置70において、スプレーガン73は、アクチュエータ78により、紙面に垂直な面内において、矢印Xに平行なX軸およびX軸に垂直なY軸の2方向に任意の位置から任意の速度で移動することが可能である。
【0082】
スプレー式塗布装置70のタンク71に、第1インクを収容する。電解質膜11の第1領域33が配置される予定箇所に、第1インクを、スプレーガン73を用いてスプレー塗布し、乾燥する。このとき、アノード触媒層32が形成される電解質膜11の領域以外は、マスキング79を施しておき、さらに、電解質膜11上の第2領域34が配置される予定箇所には、マスキング80を施しておく。こうして、第1領域33を形成することができる。
【0083】
次いで、タンク71に収容されるインクを、第2インクに変更し、マスキング80を取り除く。そして、電解質膜11の第2領域34が配置される予定箇所に、第2インクを、スプレーガン73を用いてスプレー塗布し、乾燥する。こうして、第2領域34を形成することができる。
【0084】
このようにして、電解質膜11の一方の面にアノード触媒層32が形成され、他方の面にカソード触媒層13が形成されたCCMを形成することができる。
【0085】
あるいは、スプレーガンおよびタンクの組を2つ有するスプレー式塗布装置を用意し、一方の組のスプレーガンからは第1インクを吐出させ、他方の組のスプレーガンからは第2インクを吐出させて、第1領域33および第2領域34を形成してもよい。
【0086】
なお、図4の塗布装置70においては、スプレーガン73を、任意の位置に移動させながら、タンク71内に収容されたインク72を吐出させることができる。例えば、タンク71に収容するインク72の種類(例えば、フッ素系イオノマーと炭化水素系イオノマーとの混合比)を順次変更していけば、電解質膜11上に、3つ以上の部分からなるアノード触媒層を形成することもできる。
また、例えば、タンク71に収容するインク72の種類を連続的に変化させることにより、高分子電解質の体積膨張率を連続的に変化させたアノード触媒層を形成することもできる。
【0087】
アノード触媒層32は、所定の樹脂シート上に形成してもよい。具体的には、第1インクおよび第2インクを樹脂シート上に塗布し、乾燥することにより、アノード触媒層32を得ることができる。同様にして、カソード触媒層13も、樹脂シート上に形成してもよい。
【0088】
次いで、樹脂シート上に形成されたアノード触媒層およびカソード触媒層は、熱プレスにより、電解質膜11に転写される。アノード触媒層32は、電解質膜11の一方の面に転写され、カソード触媒層13は他方の面に転写される。このとき、アノード触媒層32およびカソード触媒層13は、同時に、電解質膜11に転写してもよい。または、一方の触媒層を転写したのちに、他方の触媒層を転写してもよい。このようにしても、CCMを形成することができる。
【0089】
電解質膜11の構成材料としては、電解質膜11がイオン伝導性を有していれば、特に限定されない。このような材料としては、たとえば、当該分野で公知の各種高分子電解質材料を用いることができる。なお、現在、流通している電解質膜は、主として、プロトン伝導タイプの電解質膜である。
【0090】
電解質膜11の具体例としては、フッ素系高分子膜などが挙げられる。前記フッ素系高分子膜の具体例としては、例えば、パーフルオロスルホン酸/ポリテトラフルオロエチレン共重合体(H+型)などのパーフルオロスルホン酸ポリマーを含有する高分子膜が挙げられる。パーフルオロスルホン酸ポリマーを含有する膜の具体例としては、たとえば、ナフィオン膜(商品名「Nafion(登録商標)」、デュポン社製)などが挙げられる。
【0091】
なお、電解質膜11は、燃料電池30に用いられる液体燃料のクロスオーバーを低減する効果をさらに有していることが好ましい。このような効果を有する電解質膜としては、上記フッ素系高分子膜のほかに、例えば、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン(S−PEEK)などのフッ素原子を含まない炭化水素系ポリマーならなる膜、無機物・有機物複合膜などが挙げられる。
【0092】
アノード拡散層16は、撥水処理が施された多孔質基材15と、多孔質基材15の表面に形成された、撥水性の高い材料からなる撥水層14とを備える。同様に、カソード拡散層20は、撥水処理が施された多孔質基材19と、多孔質基材19の表面に形成された、撥水性の高い材料からなる撥水層18とを備える。
アノード多孔質基材15およびカソード多孔質基材19に用いられる多孔質基材としては、例えば、炭素繊維からなるカーボンペーパー、カーボンクロス、カーボン不織布(カーボンフェルト)、耐腐食性を有する金属メッシュ、発泡金属などが挙げられる。
【0093】
アノード撥水層14およびカソード撥水層18の形成に用いられる高撥水性材料としては、例えば、フッ素系高分子、フッ化黒鉛などが挙げられる。フッ素系高分子としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などが挙げられる。
【0094】
アノード拡散層16およびカソード拡散層20は、次のようにして得ることができる。まず、例えばフッ素系高分子などの高撥水性材料と、例えばカーボンブラック(ファーネスブラック、アセチレンブラックなど)、黒鉛粉末、多孔質金属粉末などの導電性を有しかつ多孔質の集合体を形成することのできる材料と、適当な分散媒と、を混合し、攪拌する。こうして得られたインクを、撥水処理が施された多孔質基材の表面に塗布して乾燥させる。塗布の手段としては、例えば、スクリーン印刷法、スキージ法などが挙げられる。
【0095】
こうして得られたアノード拡散層16およびカソード拡散層20は、アノード触媒層32と電解質膜11とカソード触媒層13との積層体(CCM)に、熱プレスにより接合される。このとき、アノード拡散層16は、アノード触媒層32に接合され、カソード拡散層20は、カソード触媒層13に接合される。こうして、アノード23と、電解質膜11と、カソード25とが、この順で積層された膜電極接合体(MEA)が得られる。
【0096】
アノード側セパレータ17およびカソード側セパレータ21は、例えば、黒鉛などのカーボン材料からなる。アノード側セパレータ17には、アノード31と接する面に、アノード31に燃料(メタノール水溶液など)を供給する凹状の燃料流路が設けられている。カソード側セパレータ21には、カソード25と接する面に、カソード25に酸化剤(空気、酸素など)を供給するための凹状の酸化剤流路が設けられている。
アノード側セパレータ17の燃料流路22およびカソード側セパレータ21の酸化剤流路24は、例えば、セパレータの表面を溝状に切削することにより形成することができる。また、燃料流路22および酸化剤流路24は、セパレータ自体を成形(射出成形、圧縮成形など)するときに成形することもできる。
【0097】
ガスケット26、27の構成材料としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体(FEP)などのフッ素系高分子、フッ素ゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)などの合成ゴム、シリコーンエラストマーなどが挙げられる。
各ガスケット26、27は、PTFEなどからなるシートの中央部分に、膜電極接合体(MEA)を収容するために、MEAと同じ面積の開口部を備えている。ガスケット26および27は、それぞれアノード触媒層12およびカソード触媒層13の側面と接するようにして、MEAの表面に配置される。
さらに、ガスケット26、27は、セパレータ17、21とともに、電解質膜11をその厚さ方向に加圧している。
【0098】
MEAと、このMEAの両側に配置されるアノード側セパレータ17およびカソード側セパレータ21とから構成されるセルは、2枚の端板28の間に挟まれた状態で、図示しないボルトやバネなどによって加圧締結される。2枚の端板28は、それぞれ、アノード側セパレータ17およびカソード側セパレータ21に積層されるように配置される。
MEAと一対のセパレータ17、21との界面は、接着性に乏しい。しかしながら、上記のようにして、セルを加圧締結することにより、MEAと一対のセパレータ17、21との接着性を高めることができ、その結果、MEAと一対のセパレータ17、21との間の接触抵抗を低減させることができる。
【0099】
また、複数個のセルを積層して、セルスタックを形成してもよい。この場合にも、セルスタックは、端板、ボルト、バネなどにより、加圧締結される。
【0100】
本発明の直接酸化型燃料電池に用いられる燃料としては、メタノールの他、エタノール、ジメチルエーテル、蟻酸、エチレングリコールなどの炭化水素系液体を用いることができる。この中でも、1mol/L〜8mol/Lのメタノール濃度を有する水溶液として用いることが好ましい。メタノール水溶液のメタノール濃度は、3mol/L〜5mol/Lであることがより好ましい。燃料の濃度が高いほど燃料電池システム全体としての小型軽量化につながるが、MCOが多くなるおそれがある。本発明によれば、MCOを低減することができるため、通常よりもメタノール濃度が高いメタノール水溶液を用いることができる。メタノール濃度が1mol/Lより小さいと、燃料電池システムの小型軽量化が困難となる場合がある。メタノール濃度が8mol/Lを超えると、MCOを十分に低減できない場合がある。上記のメタノール濃度を有する燃料を用いることで、本発明のアノード触媒層において、燃料の上流側でMCOを低減しつつ、燃料の下流側でメタノールの供給量をさらに良好に確保することができる。
【0101】
本発明の燃料電池は、燃料の利用効率を向上させ、さらに、発電電圧や発電効率などの発電性能を向上させる上で好適である。
【実施例】
【0102】
次に、実施例および比較例を用いて、本発明を具体的に説明するが、本発明は、下記の実施例によって限定されるものではない。
【0103】
《実施例1》
本実施例では、図2に示されるような燃料電池を作製した。本実施例では、アノード触媒層を、第1領域および第2領域の2つから構成し、第1領域にフッ素系イオノマーを高分子電解質として添加し、第2領域に炭化水素系イオノマーを高分子電解質として添加した。
【0104】
アノード触媒粒子としては、白金(Pt)−ルテニウム(Ru)合金(原子比1:1)を付着させた平均一次粒子径が30nmの導電性カーボン粒子を用いた。白金−ルテニウム合金と導電性カーボン粒子との合計重量に占める白金−ルテニウム合金の重量の割合は、80重量%とした。
【0105】
カソード触媒粒子としては、白金を付着させた平均一次粒子径が30nmの導電性カーボン粒子を用いた。白金と導電性カーボン粒子との合計重量に占める白金の重量の割合は、80重量%とした。
【0106】
電解質膜11には、厚さ178μmのフッ素系高分子膜(パーフルオロスルホン酸/ポリテトラフルオロエチレン共重合体(H+型)をベースとするフィルム、商品名「Nafion(登録商標)117」、デュポン社製)を使用した。
【0107】
フッ素系イオノマーとして、パーフルオロスルホン酸/ポリテトラフルオロエチレン共重合体(H+型)を用いた。
【0108】
炭化水素系イオノマーとして、スルホン化ポリエーテルエーテルケトンを用いた。スルホン化ポリエーテルエーテルケトンを、以下のようにして作製した。メカニカルスターラーを取り付けた反応容器に150mlの濃硫酸を入れた。撹拌しながら、前記濃硫酸にポリエーテルエーテルケトン(Aldrich社製)を5g加え、さらに、得られた反応溶液を常温で10時間攪拌し続けた。
次いで、攪拌後の反応溶液をイオン交換水中に滴下して、反応生成物を沈殿させ、ろ過し、ろ液が中性となるまでイオン交換水で洗浄した。
洗浄後の反応生成物を、120℃に温度設定された減圧乾燥機中で12時間乾燥することにより、スルホン化ポリエーテルエーテルケトンを得た。
得られた固体状のイオノマーを、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)中に溶解して、溶液状態のイオノマーを得た。その後、インク作製および触媒層作製工程を容易にするために、前記溶液状態のイオノマーをプロパノール水溶液と混合し、前記イオノマーを含むイソプロパノール水溶液を、超音波を印加しながら攪拌した。
【0109】
フッ素系イオノマーおよび炭化水素系イオノマーの物性評価を行った。具体的には、フッ素系イオノマーおよび炭化水素系イオノマーのイオン交換容量、プロトン伝導度、メタノール水溶液浸漬時の体積膨張率を測定した。
【0110】
イオン交換容量は、0.5Mの水酸化ナトリウムを使用した中和滴定により測定した。
【0111】
プロトン伝導度は、交流インピーダンス法により測定した。フッ素系イオノマーを含む溶液および炭化水素系イオノマーを含む溶液を、それぞれ別のガラス板上にキャストして、フッ素系イオノマーのキャスト膜および炭化水素系のイオノマーのキャスト膜を得た。各キャスト膜の両端に金線を配置し、金線を交流インピーダンス測定装置に接続した。常温、相対湿度100%窒素雰囲気中で、交流インピーダンス法(測定周波数:100kHz〜1Hzの範囲で周波数を変化させ、ナイキストプロットにおける実軸切片をインピーダンス値とする)により、プロトン伝導度を測定した。
【0112】
体積膨張率は、以下のようにして測定した。上記のようにして作製したフッ素系イオノマーのキャスト膜および炭化水素系イオノマーのキャスト膜を、100℃に温度設定された減圧乾燥機中で12時間乾燥した。各キャスト膜を、ドライエア雰囲気中でノギスにより、各キャスト膜の厚さ、幅および長さを測定し、浸漬前の体積を求めた。この後、各キャスト膜を、常温下で2Mのメタノール水溶液に、12時間浸漬した。12時間経過後に、各膜の寸法を再度測定して、浸漬後の体積を求めた。2Mのメタノール水溶液の浸漬する前の体積と浸漬した後の体積とを用いて、体積膨張率を計算した。なお、体積膨張率は、{[(浸漬後の体積)−(浸漬前の体積)]/(浸漬前の体積)}×100により求めた。
【0113】
その結果、炭化水素系イオノマーであるスルホン化ポリエーテルエーテルケトンのイオン交換容量は1.2meq/gであり、プロトン伝導度は0.032S/cmであり、体積膨張率は30%であった。
フッ素系イオノマーであるナフィオンのイオン交換容量は1.0meq/gであり、プロトン伝導度は0.097S/cmであり、体積膨張率は45%であった。
【0114】
上記アノード触媒粉末10gと、パーフルオロスルホン酸/ポリテトラフルオロエチレン共重合体(H+型)を含有する分散液(商品名:ナフィオン分散液、「Nafion(登録商標)5重量%溶液」、デュポン社製)70gとを、適量の水とともに混合し、攪拌した。この後、得られた混合物を脱泡して、フッ素系イオノマーおよびアノード触媒粒子を含む第1インクを得た。第1インクにおいて、固形分中に含まれるフッ素系イオノマーの含有量は、固形分の26重量%とした。
【0115】
上記アノード触媒粉末10gと、上記のようにして得られたスルホン化ポリエーテルエーテルケトンを含有する液体とを混合し、攪拌した。この後、得られた混合物を脱泡して、アノード触媒粒子および炭化水素系イオノマーを含む第2インクを得た。このとき、第2インクの固形分中に含まれるイオノマーの含有量は、第1インクと同様に、固形分の26重量%とした。
【0116】
こうして得られた第1インクおよび第2インクを用いて、電解質膜11の一方の面上に、スプレー法を用いて、60mm×60mmの正方形のアノード触媒層32を形成した。具体的には、電解質膜11上の燃料流路の上流部に対向する位置に、20×60mmのサイズの第1領域33を形成した。次いで、燃料流路の下流部に対向する位置に、40mm×60mmのサイズの第2領域34を形成した。各部分の寸法は、マスキングによって、調整した。
【0117】
なお、第1インクおよび第2インクの吹き付け時には、電解質膜11を金属板に減圧吸着させて固定しておいた。前記金属板には、その表面温度を調節するためのヒータを設けておいた。このように、金属板の表面温度を調節することにより、電解質膜11へのインクの塗布中に、インクを漸次乾燥させることができる。
インク塗布時の金属板の表面温度は、フッ素系イオノマーを含む第1領域33を形成する場合には、55℃とし、炭化水素イオノマーを含む第2領域34を形成する場合には、80℃とした。これは、炭化水素イオノマーを含む第2インクの分散媒として、沸点の高いDMFを使用したために、低い温度では乾燥が速やかに進まないからである。なお、炭化水素系イオノマーを含む第2インクの分散媒として、より低沸点の溶媒を使用する場合には、乾燥温度を高くする必要はない。
【0118】
カソード触媒層形成用インクを、以下のようにして調製した。
上記カソード触媒粉末10gと、パーフルオロスルホン酸/ポリテトラフルオロエチレン共重合体(H+型)を含有する分散液(前出の商品名「Nafion(登録商標)5重量%溶液」)100gとを、適量の水とともに混合および攪拌した。この後、得られた混合物を、脱泡して、カソード触媒層形成用インクを得た。
【0119】
上記のようにして得られたカソード触媒層形成用インクを、電解質膜11のアノード触媒層32が形成された面とは反対側の面に、塗布し、乾燥して、60mm×60mmのサイズのカソード触媒層13を得た。
【0120】
こうして、アノード触媒層32と、電解質膜11と、カソード触媒層13とからなるCCMを得た。最後に、炭化水素系イオノマーの溶媒として用いたDMFを完全に除去するために、得られたCCMを、130℃に温度設定された減圧乾燥機中で12時間乾燥した。
【0121】
第1領域33および第2領域34の単位面積あたりのPtRu合金の量は、第1領域33および第2領域34ともに4mg/cm2とした。また、第1領域33および第2領域34の厚さは、ほぼ60〜63μmの範囲にあり、有意差のある厚み差は生じなかった。
【0122】
アノード多孔質基材15を以下のようにして得た。撥水処理が施されたカーボンペーパー(商品名「TGP−H−090」、厚さ約300μm、東レ株式会社製)を、希釈されたポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ディスパージョン(商品名「D−1」、ダイキン工業株式会社製)に1分間浸漬した。この後、前記カーボンペーパーを、100℃に温度設定された熱風乾燥機中で乾燥させた。次いで、乾燥後のカーボンペーパーを、電気炉中で、270℃で2時間焼成した。こうして、PTFEの含有量が10重量%であるアノード多孔質基材15を得た。
【0123】
カソード多孔質基材19は、撥水処理が施されたカーボンペーパーに代えて、カーボンクロス(商品名「AvCarb(商標)1071HCB」、バラードマテリアルプロダクツ社製)を使用したこと以外、アノード多孔質基材15と同様にして作製した。こうして、PTFEの含有量が10重量%であるカソード多孔質基材19を得た。
【0124】
アセチレンブラックの粉末と、PTFEディスパージョン(前出の商品名「D−1」)とを混合および攪拌することにより、全固形分に占めるPTFEの含有量が10重量%であり、全固形分に占めるアセチレンブラックの含有量が90重量%の撥水層形成用インクを得た。得られた撥水層形成用インクを、ドクターブレード法によって、アノード多孔質基材15の一方の表面に塗布し、100℃に温度設定された恒温槽で乾燥させた。次いで、撥水層形成用インクを塗布したアノード多孔質基材15を、電気炉中で、270℃で2時間焼成して、界面活性剤を除去した。こうして、アノード撥水層14を形成した。
カソード多孔質基材19の一方の表面にも、上記と同様にして、カソード撥水層18を形成した。
【0125】
アノード多孔質基材15とアノード撥水層14とからなるアノード拡散層16、およびカソード多孔質基材19とカソード撥水層18とからなるカソード拡散層20は、いずれも、抜き型を使用して、60mm×60mmの正方形に成形した。
【0126】
次に、アノード拡散層16とCCMとカソード拡散層20とを、アノード撥水層14がアノード触媒層32に接し、カソード撥水層18がカソード触媒層13に接するように積層した。得られた積層体を、温度を140℃に設定した熱プレス装置に配置した。そして、前記積層体を5MPaの圧力で1分間加圧して、アノード触媒層とアノード拡散層を接合し、カソード触媒層とカソード拡散層とを接合した。こうして、アノード31と、電解質膜11と、カソード25とからなる膜電極接合体(MEA)を得た。
【0127】
厚み0.25mmのエチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)のシートを、120mm×120mmの正方形に切り出た。さらに、前記シートの中心部分を、162mm×62mmの正方形にくり抜いた。このようにして、2枚のガスケット26および27を得た。
ガスケット26を、中心部の開口部にアノード31が配置されるように配置した。同様に、ガスケット27を、中心部の開口部にカソード25が配置されるように配置した。
【0128】
アノード側セパレータ17を、厚み2mmの黒鉛板の表面を切削して、メタノール水溶液を供給する燃料流路22を形成することにより作製した。同様に、カソード側セパレータ21を、厚み2mmの黒鉛板の表面を切削して、酸化剤を供給する酸化剤流路24を形成することにより作製した。アノード側セパレータ17を、燃料流路22がアノード拡散層16に接するように、アノード拡散層16上に積層した。カソード側セパレータ21を、酸化剤流路24がカソード拡散層20に接するように、カソード拡散層20上に積層した。
なお、燃料流路22と酸化剤流路24の断面形状は、それぞれ、1mm×1mmとした。また、燃料流路22および酸化剤流路24は、それぞれアノード31表面上およびカソード25表面上を万遍なく蛇行するサーペンタイン型とした。
【0129】
そして、アノード側セパレータ17およびカソード側セパレータ21に挟持されたMEAを、さらに、厚さ1cmのステンレス鋼板からなる一対の端板28で挟み込んだ。端板28とセパレータ17との間および端板28とセパレータ21との間には、それぞれ、各セパレータから外側に向かって順に、表面に金メッキが施された厚さ2mmの銅板からなる集電板と、絶縁板とを配置した。なお、以下の評価試験において、前記集電板を、電子負荷装置に接続した。一対の端板28を、ボルト、ナットおよびばねを用いて締結し、MEAとセパレータ26および27を加圧した。こうして、直接メタノール型燃料電池(DMFC)の単セルを得た。なお、図2においては、集電板と絶縁板の図示を省略している。このことは、図1においても同様である。
【0130】
《比較例1》
比較例1として、図1に示されるような従来構造の燃料電池を作製した。
アノード触媒層12は、60mm×60mmの正方形とし、アノード触媒層12に含まれる高分子電解質としては、実施例1で用いたフッ素系イオノマーを用いた。アノード触媒層12を、実施例1の第1領域33の作製方法と同様にして、作製した。アノード触媒層12に含まれる触媒量およびアノード触媒層12の厚さは、実施例1と同じであった。
前記以外は、実施例1と同様にして、比較例1の燃料電池(DMFC)を作製した。
【0131】
《比較例2》
アノード触媒層12は、60mm×60mmの正方形とし、アノード触媒層12に含まれる高分子電解質として、フッ素系イオノマーの代わりに、実施例1で用いた炭化水素系イオノマーを用いた。アノード触媒層12を、実施例1の第2領域34の作製方法と同様にして、作製した。アノード触媒層12に含まれる触媒量およびアノード触媒層12の厚さは、実施例1と同じであった。
前記以外は、実施例1と同様にして、比較例2の燃料電池(DMFC)を得た。
【0132】
《評価試験》
実施例1の燃料電池および比較例1〜2の燃料電池について、発電中のメタノールクロスオーバー量と発電性能の評価を行い、得られた結果から燃料の利用効率を計算した。
【0133】
燃料電池の発電条件は以下の通りである。4mol/Lのメタノール水溶液を燃料として0.3cm3/minの流量でチューブ式ポンプを用いてアノードに供給した。無加湿の空気をマスフローコントローラーによって、300cm3/minの流量に制御しながらカソードに供給した。電熱線ヒータと温度コントローラを用いて、セルの温度を60℃となるように制御した。この後、燃料電池を、電子負荷装置「PLZ164WA」(菊水電子工業株式会社製)に接続し、200mA/cm2の一定の電流密度になるように制御しながら、連続発電を行った。
【0134】
アノード側から排出される未使用の燃料が残存したメタノール水溶液と二酸化炭素からなる気液混合流体を、純水を満たした気体捕集容器に流入させた。こうして、気体と液体のメタノールを、1時間にわたって捕集した。このとき、前記気体捕集容器は、氷水浴で冷却しておいた。
その後、気体捕集容器中のメタノール量をガスクロマトグラフ法によって測定し、アノードの物質収支を計算することで、メタノールクロスオーバー量(MCO量)を求めた。すなわち、アノードに供給したメタノール量から、排出され捕集されたメタノール量と発電電流量から求められる電極でのメタノール消費量を差し引いて、MCO量を求めた。MCO量は、MCO量に相当する量のメタノールが電極酸化された場合に発生し得る電流量に換算した数値を使用した。燃料利用率は下記の計算式によって求めた。
燃料利用率=(発電電流)/(発電電流+MCO量の電流換算値)
以上の結果を表1に示す。
【0135】
【表1】

【0136】
表1より明らかなように、実施例1の燃料電池は、比較例1の燃料電池に比べて、高い発電電圧を得ることができる。さらに、実施例1の燃料電池は、比較例2の燃料電池に比べて、高い燃料利用率を得ることができ、しかも高い発電電圧を得ることができる。
【0137】
比較例1の燃料電池は、燃料濃度が小さくなる燃料下流に対向するアノード触媒層において燃料の拡散性が十分でなく、濃度過電圧が上昇する。その結果として、燃料電池全体の発電電圧も低下したものと考えられる。一方、実施例1の燃料電池では、この点が改善されて高い発電電圧が得られたものと考えられる。
【0138】
比較例2の燃料電池において、アノード触媒層に使用した炭化水素系イオノマーのプロトン伝導度が小さいために、アノード触媒層全体において、プロトン伝導抵抗による過電圧が大きくなると考えられる。さらに、燃料濃度の大きい燃料上流に対向するアノード触媒層において、燃料であるメタノール水溶液により炭化水素系イオノマーの体積が膨張しないために、アノード触媒層の空孔率が大きく保たれ、燃料の拡散性が高くなる。このために、アノード触媒層と電解質膜との界面での燃料濃度が高くなり、メタノールクロスオーバー量が大きくなっているものと考えられる。
なお、実施例1の燃料電池では、SPEEKという比較的汎用化された炭化水素系イオノマーを使用しながらも、従来技術に比べて優れた発電性能を示している。昨今、よりプロトン伝導度の高い炭化水素系イオノマーが開発されており、そのような更に性能の優れた炭化水素系イオノマーを使用すれば、本発明の実施効果はさらに高まるものと推定できる。
【0139】
以上のように、本発明の燃料電池は、従来の燃料電池に比べて、高い発電性能と燃料利用率を得ることができ、ひいては高いエネルギー変換効率を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0140】
本発明の燃料電池は、例えば、ノート型パーソナルコンピュータ、携帯電話、携帯情報端末(PDA)などの携帯用小型電子機器における電源として有用である。また、本発明の燃料電池は、電動スクータ用電源などの用途にも応用することができる。
【符号の説明】
【0141】
10 燃料電池
11 電解質膜
12、32 アノード触媒層
13 カソード触媒層
14 アノード撥水層
15 アノード多孔質基材
16 アノード拡散層
17 アノード側セパレータ
18 カソード撥水層
19 カソード多孔質基材
20 カソード拡散層
21 カソード側セパレータ
22 燃料流路
23、31 アノード
24 酸化剤流路
25 カソード
26、27 ガスケット
28 端板
33 第1領域
34 第2領域
70 スプレー式塗布装置
71 タンク
72 インク
73 スプレーガン
74 撹拌機
75 開閉バルブ
76 ガス圧力調整器
77 ガス流量調整器
78 アクチュエータ
79、80 マスキング
81 ヒータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノードと、カソードと、前記アノードとカソードとの間に配置された電解質膜とを含む膜−電極接合体、前記アノードに接するアノード側セパレータ、および前記カソードに接するカソード側セパレータを備える少なくとも1つの単位セルを有し、
前記アノード側セパレータは、前記アノードに燃料を供給するための燃料流路を有し、
前記カソード側セパレータは、前記カソードに酸化剤を供給するための酸化剤流路を有し、
前記アノードは、前記電解質膜に接するアノード触媒層、および前記アノード側セパレータに接するアノード拡散層を含み、
前記アノード触媒層は、アノード触媒と高分子電解質を含み、
前記高分子電解質の体積膨張率が、前記アノード触媒層の前記燃料流路の下流側よりも上流側で大きい、直接酸化型燃料電池。
【請求項2】
前記高分子電解質の体積膨張率が、前記燃料流路の上流側から下流側に向かって段階的に減少している請求項1に記載の直接酸化型燃料電池。
【請求項3】
前記高分子電解質の体積膨張率が、前記燃料流路の上流側から下流側に向かって連続的に減少している請求項1に記載の直接酸化型燃料電池。
【請求項4】
前記アノード触媒層の前記燃料流路の上流側に対向する部分に、前記高分子電解質の体積膨張率が20〜40%である高膨潤領域を備える請求項1〜3のいずれか1項に記載の直接酸化型燃料電池。
【請求項5】
前記アノード触媒層の、前記燃料流路の上流側の前記燃料流路の全長の1/6〜1/3の長さの部分に対向している領域に、前記高膨潤領域を備える、請求項4に記載の直接酸化型燃料電池。
【請求項6】
前記アノード触媒層の前記燃料流路の下流側に対向する部分に、前記高分子電解質の体積膨張率が0〜30%である低膨潤領域を備える請求項1〜5のいずれか1項に記載の直接酸化型燃料電池。
【請求項7】
前記高膨潤領域に、前記高分子電解質として、フッ素系イオノマーが含まれる、請求項4または5に記載の直接酸化型燃料電池。
【請求項8】
前記フッ素系イオノマーの体積膨張率が20〜40%であり、プロトン伝導度が0.05〜0.15S/cmである、請求項7記載の直接酸化型燃料電池。
【請求項9】
前記低膨潤領域に、前記高分子電解質として、炭化水素系イオノマーが含まれる、請求項6記載の直接酸化型燃料電池。
【請求項10】
炭化水素系イオノマーの体積膨張率が0〜30%であり、プロトン伝導度が0.01〜0.1S/cmである、請求項9に記載の直接酸化型燃料電池。
【請求項11】
前記フッ素系イオノマーが、パーフルオロスルホン酸単位とテトラフルオロエチレン単位を含む共重合体を含む、請求項7または8に記載の直接酸化型燃料電池。
【請求項12】
前記炭化水素系イオノマーが、スルホン酸基が導入されたエンジニアリングプラスティック、およびホスホン酸基が導入されたエンジニアリングプラスティックよりなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項9または10に記載の直接酸化型燃料電池。
【請求項13】
前記アノード触媒層に含まれる前記高分子電解質の量が、前記アノード触媒層の10〜30重量%を占める、請求項1〜12のいずれか1項に記載の直接酸化型燃料電池。
【請求項14】
前記アノード触媒の量が、前記アノード触媒層全体にわたって、均一である、請求項1〜13のいずれか1項に記載の直接酸化型燃料電池。
【請求項15】
前記アノード触媒の量が、1〜10mg/cm2である、請求項14に記載の直接酸化型燃料電池。
【請求項16】
前記アノード触媒層の厚さが、前記アノード触媒層全体にわたって、均一である、請求項1〜15のいずれか1項に記載の直接酸化型燃料電池。
【請求項17】
前記アノード触媒層の厚さが、5〜120μmである、請求項16に記載の直接酸化型燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−71062(P2011−71062A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−223287(P2009−223287)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】