説明

直流電源装置

【課題】トランスによって入出力が電気的に絶縁された直流電源装置において、特に半導体スイッチの高周波動作化のためにスイッチング損失、ダイオードの損失を低減する。
【解決手段】直流電源装置は、直流電源(101)と、直流から交流を生成可能な電力変換回路(Q1〜Q4)と、一次巻線が電力変換回路の出力と接続されたトランス(T)と、該トランス(T)の二次巻線に、共振リアクトル(Lz)を介して接続された整流ダイオードブリッジ回路(D5〜D8)と、フィルタリアクトル(LD)とフィルタコンデンサ(FC)で構成され、整流ダイオードブリッジ回路の出力側に接続されるフィルタ回路(102)とを有している。整流ダイオードブリッジ回路の入力側に、該整流ダイオードブリッジ回路を構成する整流ダイオード(D5〜D8)のリカバリが発生する直前までの電流方向に対しては低インピーダンス、その逆方向には高インピーダンスを持つ回路要素(SR)を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁型のDC−DCコンバータに関わり、その中でもリアクトルLとコンデンサCの共振によって半導体スイッチング損失の低減の機能を有する回路において、整流回路のダイオードで発生する電圧の変動抑制と損失低減に関するものである。
【背景技術】
【0002】
不安定な直流電源の安定化や、直流電圧を変更する場合、あるいは入力と電気的に絶縁された直流電源を出力する必要がある場合にはDC−DCコンバータが用いられる。その中でも、入力と出力が電気的に絶縁された直流電源装置では、絶縁に使用するトランスは、使用するスイッチング周波数の上昇に比例して小型化される。一方、半導体スイッチのスイッチング損失による発熱によって、スイッチング周波数の上昇には限界がある。こうしたスイッチング損失を低減するために、共振回路を利用した転流回路を設けたソフトスイッチングという手法がある。こうしたソフトスイッチングとして、トランスの二次側に転流回路を設けた先行技術が、下記の特許文献1と非特許文献1に記載されている。
【0003】
図2には、これらの公知例に記載されている転流回路を有する回路の構成を示す。
101には入力直流電源、102はフィルタリアクトルLdとフィルタコンデンサFCで構成されるフィルタ回路、103は共振回路、104は各半導体スイッチのオン・オフを制御するゲート制御部である。
図2の回路動作について説明する。入力直流電源101に接続された半導体スイッチQ1〜Q4はインバータ回路を構成する半導体スイッチで、半導体スイッチQ1〜Q4には、それぞれフリーホイールダイオードD1〜D4が並列に接続されている。半導体スイッチQ1とQ2との接続点aと半導体スイッチQ3とQ4との接続点bとの間に、トランスTの一次巻線が接続され、二次巻線は共振リアクトルLzを介して、整流ダイオードD5〜D8よりなる整流ブリッジの接続点cと接続点dに接続される。この整流ブリッジの出力はフィルタ回路102を介して負荷RLに与えられる。
なお、共振スイッチ回路103は、整流ブリッジの出力側とフィルタ回路102との間に挿入されている。
【0004】
ゲート制御部104は、半導体スイッチQ1〜Q4と共振回路制御用半導体スイッチQzにオンとオフの指令を与える。これらの半導体スイッチとしては、バイポーラトランジスタ・MOSFET・サイリスタ・ゲートターンオフサイリスタ・IGBTなどが考えられるが、ここでは代表例としてIGBTを使用して説明する。
図3は、図2の従来例を説明するための動作波形の時間変化を表したものである。Iabは接続点a、b間に流れる電流、Vabは接続点a、b間の電圧、Izは共振回路に流れる電流、Vzは共振コンデンサCzの両端の電圧である。また、Vrは整流ブリッジを構成するダイオードD5の両端の電圧、Irは同じくダイオードD5の順方向の電流をそれぞれ示す。
【0005】
回路動作について以上の記号を用いて説明する。
図2において、ゲート制御装置104から半導体スイッチQ1とQ4にオン信号が与えられて、インバータ回路の半導体スイッチQ1とQ4が導通状態であるとする。電流IabがトランスTの一次巻線に流れることにより、直流電源101から、トランスT、共振リアクトルLz、整流ブリッジ、フィルタ回路102を介して負荷RLにエネルギーを伝達している。
インバータ回路の半導体スイッチQ1とQ4をターンオフする前の時刻t0において、ゲート制御装置104から共振スイッチ回路103の共振回路制御用半導体スイッチQzをターンオンする信号を与えると、共振コンデンサCzの充電電流が入力直流電源101より流れ込む。この充電電流が、共振リアクトルLzと共振コンデンサCzの直列共振電流Izとなる。
【0006】
半導体スイッチQ1とQ4に流れる電流Iabは、ここでは、トランスTの巻数比を1:1とすると、負荷側に流れる電流Idと直列共振電流Izの和であり、正弦波状に増加してゆく。また、整流ダイオードD5の電流Irも同じ波形となる。その時、共振コンデンサCzには電圧Vzが発生し、共振リアクトルLzと共振コンデンサCzの共振により、この電圧Vzは、トランスTの二次電圧より高い電圧となる。
時刻t1にて、共振コンデンサCzの充電が完了し、電圧Vzは最大値に達する。その後、共振コンデンサCzの放電が始まり、フリーホイールダイオードD9と共振コンデンサCzの経路で放電電流が直列共振電流Izとして流れ出す。トランスTの巻数比を1:1としているので、フィルタリアクトルLdへの電流Idは、電流Iabと直列共振電流Izの和で一定となるように流れ、直列共振電流Izが増加すると電流Iabは減少することになる。
【0007】
時刻t2で、直列共振電流Izと電流Idが等しくなり、この時点で電流Iabが0となる。放電が進み、やがて時刻t4で共振コンデンサCzは完全に放電し、直列共振電流Izは0となる。この間の時刻t3に、半導体スイッチQ1とQ4をターンオフさせる。一方、フィルタリアクトルLdに流れる電流Idは連続した値であるから、共振コンデンサCzの放電電流Izが0となった時点で、電流Idは整流ダイオードD5〜D8からの電流に切り替わって流れる。この時、電流Idは、ダイオードD5に流れるダイオード電流Irと、ダイオードD7を流れるIoとが合流したものとなるため、ダイオードD5に流れるダイオード電流Irの値は、Idの半分の値となり、電流Idの連続性は保たれる。
【0008】
直列共振電流IzがフリーホイールダイオードD9を流れ、トランス一次側電流Iabが0となる、時刻t2〜t4の間の時刻t3において、ゲート制御装置104から半導体スイッチQ1とQ4にターンオフ信号を送り、これらをターンオフさせると、トランス一次側電圧Vabは0となり、半導体スイッチQ1とQ4には入力直流電源電圧Eに等しい程度の電圧が印加される。これは僅かに残るトランスの励磁電流分がダイオードD3と直流電源101、ダイオードD2の経路でフリーホイールするためである。半導体スイッチQ1とQ4の電流は、時刻t3の時点でほぼ0となるから、半導体スイッチQ1とQ4のターンオフの過程ではスイッチング損失はほとんど発生しない。
【0009】
一方、時刻t0の時点で半導体スイッチQzがターンオンするときは、共振リアクトルLzによって共振電流Izの時間変化率は小さく制限され、直列共振電流Izは徐々に増加するから、ターンオンの過渡状態ではスイッチング損失は小さい。また、フリーホイールダイオードD9が導通し、直列共振電流Izが正である期間に、半導体スイッチQzをターンオフさせると、Qzの電流はすでに0であるので、ターンオフの過程ではスイッチング損失は発生しない。
【0010】
時刻t5にはゲート制御装置104から、半導体スイッチQ2とQ3にターンオン指令が出され、ターンオンを開始する。この時はフィルタリアクトルLdに流れる電流Idは、整流ダイオードD5〜D8を環流している電流Irと等しい。この時、半導体スイッチQ2とQ3にターンオンにより、共振リアクトルLzを通して電流Iabが流れ始めるため、急激な増加はできず、また、電流Idは一定と見なせるため、電流Iabと電流Irとの和がIdとなるように変化する。したがって、電流Iabは電流Irの減少分で増加してゆき、半導体スイッチQ2とQ3のターンオン過渡状態ではほとんど電流は流れない。このことからターンオン損失は小さい。この電流Iabはだんだんと増加し、時刻t6には電流Idと等しくなり、電流Irは0となる。この後の時刻t0’から時刻t6’までの半周期に関しては、以上と同様の原理で対アーム(半導体スイッチQ2及びQ3)が動作する。
【0011】
図4には、実際に図2に示した回路を動作させた場合の、整流ダイオードD5の電圧Vrと電流Irの波形を示す。なお、図4中には図3の時刻t0〜t6に対応する時刻を明示してある。
理想的な場合の図3と実測波形である図4を比較する。順方向に流れていたダイオード電流Irがゼロとなる時刻t2及びt6での電圧波形には、理想的な図3ではサージ(跳ね上がり)は発生しないが、図4の実動作波形を見ると、この時刻でサージ電圧が発生することが分かる。
理想ダイオードでは、アノードとカソードの間が順方向にバイアスされ順方向に電流が流れている状態から、ダイオードが逆バイアスされたり、他の影響によって順方向電流が減少したりして、その電流値がゼロとなった場合にも逆方向に流れることはない。
【0012】
しかし、現実のダイオードでは、アノード・カソード間が順バイアスされて順方向電流が流れている状態から、上記のような理由で電流が止められたり、もしくはゼロになったりした場合、PN接合間に蓄積された少数キャリアが消滅するまでにある程度の時間がかかることから、この間に逆方向のサージ状の電流が流れる。この現象はリカバリ(逆回復)と呼ばれており、実測波形である図4の時刻t2及びt6を見ると、電流Irは瞬間的に負方向に流れていることからも明かである。
【0013】
この逆方向サージ電流であるリカバリ電流によってダイオードの端子間には逆方向にサージ電圧が生じる。また、前述のリカバリ電流とこのサージ電圧の積がリカバリ損失であり、これが、ダイオードのスイッチング損失として扱われる。さらに、このサージ電圧が同ダイオードの逆方向耐電圧を超えると、ダイオードが破壊に至ることもあり、急峻な時間変化をするために、高周波の電磁ノイズが発生し他の機器へ悪影響を与えることもある。
【0014】
このようなダイオードのリカバリ現象への対策としては、特許文献2で述べられているように、各整流ダイオードへCRスナバの取付けが一般的である。また、特許文献2、特許文献3では、各整流ダイオードへ可飽和リアクトルを導入している。
これらの先行技術の目的は、サージ電圧による電磁ノイズの発生を抑制することである。
また、RCスナバの導入は、サージ電圧が発生したときにそのエネルギーをスナバ回路に吸収させ、サージ電圧の発生を抑えるためであり、可飽和リアクトルの導入は、リカバリ現象を発生させる逆方向のサージ電流の発生を抑え、ダイオード内部の少数キャリアの消滅を遅くさせることでリカバリ自体を遅くし、サージ電圧の抑制効果を生むものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平4−368464号公報
【特許文献2】特開平10−262371号公報
【特許文献3】特開2002−223568号公報
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】O. Deblecker, A Moretti, and F. Vallee: “Comparative Analysis of Two Zero-Current Switching Isolated DC-DCConverters for Auxiliary Railway Supply,” SPEEDAM 2008.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
さて、実際に回路を動作させた場合の結果である図4に示した整流ダイオードD5の電圧Vrと電流Irを用いて、時刻t6及びt2のリカバリで発生する損失を計算すると、それぞれ、およそ110Wと50Wとなる。
整流ダイオードD5を流れる電流から判断すると、時刻t6で発生する整流ダイオードD5のリカバリは、共振スイッチ回路103の有無にかかわらず、DC−DCコンバータの動作として発生するが、時刻t2のリカバリは、一次側の半導体スイッチQ1〜Q4で発生するスイッチング損失を低減するための共振電流を流し、一次側電流IabをトランスTの励磁電流のみに減少させることによって発生する。
つまり、共振スイッチ回路103を導入することで、一次側半導体スイッチのターンオフ損失は大幅に減少可能となるが、トランスTの二次側に接続される整流ダイオードブリッジD5〜D8には新たなリカバリ損失が発生することとなる。上記の動作例であれば、共振スイッチ回路103の有無によってリカバリ損失が約1.5倍に増加する。これは、整流ダイオードブリッジの発熱によってDC−DCコンバータ自体の動作周波数に制約がかかることを意味する。
【0018】
このように、この時刻t2で発生する整流ダイオードのリカバリは、図2のようなソフトスイッチング機能を有するDC−DCコンバータにおける新たな課題となる。
ここで、図4の時刻t6とt2で発生するサージ電圧値を見ると、それらには差があることが分かる。これは、二次側の整流ダイオードブリッジで発生する2種類のリカバリの原因が異なるためと考えられる。
まず、時刻t6で発生するリカバリを考える。時刻t5の直前までは、負荷電流Idが整流ダイオードD5〜D8を環流している。時刻t5で一次側の半導体スイッチQ2とQ3がターンオンするから、トランスTの端子間には電圧が発生し、整流ダイオードD5とD8に逆バイアスがかかる。そのため、時刻t5〜t6にかけて電流Irが、トランスTの電流Iabの増加に従い減少する。その後、時刻t6において電流Irはゼロに達し、電圧Vrが発生する。この動作は「リカバリ」の典型的な動作であり、このリカバリはトランスTを介し、一次側から直接、二次側の整流ダイオードブリッジを構成する整流ダイオードに逆バイアスが印加されて発生することが分かる。
【0019】
次に、時刻t2で発生するリカバリに関して考える。時刻t1からt2において整流ダイオードD5を流れる電流Irは、共振電流Izとの和が負荷電流Idで一定であり、電流Izが徐々に増加するため、それに従い減少し、時刻t2で電流Irはゼロに達する。この時、同時に一次側からトランスTに流れ込む電流Iabもゼロとなるため、一次側からのエネルギーは供給されないが、電流Irが流れていた電流経路のインダクタンス分によって電流は流れ続けようとするため、キャリア消滅分の逆方向サージ電流が流れることでリカバリが発生する。
【0020】
このように、一次側から逆バイアスを強制的にかけられるリカバリが時刻t6で発生し、電流が自然消滅し、配線インダクタンス分などに蓄えられた磁気エネルギーのみで発生するのが時刻t2のリカバリである。つまり、このことは、時刻t6でリカバリを発生させるエネルギーは大きく、時刻t2ではそれが小さいと言うことを意味する。すなわち、時刻t2のリカバリが持つエネルギーは、電流Irが流れていた電流経路のインダクタンスによる磁気エネルギー程度であるから、大容量のエネルギー吸収素子を追加することなしに、リカバリ損失を抑えることが可能である。
【0021】
そこで、本発明は、特に時刻t2(及びt5で半導体スイッチQ2とQ3がターンオンしてからIabがゼロとなるt2’)で、電流Irの方向が急激に変化しないように、電流が流れている方向に小さなインピーダンス、その逆方向には大きなインピーダンスを持つ回路要素を導入することで、時刻t2(及びt2’)でリカバリ損失を減少させた直流電源装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0022】
そこで、本発明の特流電源装置では、次のような技術的手段を講じた。すなわち、
(1)直流電源と、直流から交流を生成可能な電力変換回路と、一次巻線が前記電力変換回路の出力と接続されたトランスと、該トランスの二次巻線に、共振リアクトルを介して接続された整流ダイオードブリッジ回路と、フィルタリアクトルとフィルタコンデンサで構成され、前記整流ダイオードブリッジ回路の出力側に接続されるフィルタ回路とを有し、環流ダイオード(D9)が逆並列に接続された共振回路制御用半導体スイッチ(Qz)と、共振コンデンサ(Cz)からなる共振スイッチ回路(103)を、前記整流ダイオードブリッジの出力側に並列接続することにより、前記共振リアクトル(Lz)と、共振スイッチ回路(103)の共振コンデンサ(Cz)とで直列共振回路を構成する直流電源装置において、前記整流ダイオードブリッジ回路の入力側に接続されるトランスの一次側または二次側に、該整流ダイオードブリッジ回路を構成する整流ダイオードのリカバリが発生する直前までの電流方向に対しては低インピーダンス、その逆方向には高インピーダンスを持つ回路要素を設けた。
【0023】
(2)上記の直流電源装置において、前記回路要素として、可飽和リアクトルを利用した。
【0024】
(3)上記の直流電源装置において、前記可飽和リアクトルを、前記トランスの一次側電圧及び二次側電圧のうち、電圧の低い側に配置した。
【0025】
(4)上記の直流電源装置において、前記回路要素によって、前記トランスの一次側に接続される電力変換回路を構成する半導体スイッチのスイッチング損失を小さくする機能を持つようにした。
【0026】
(5)上記の直流電源装置において、前記電力変換回路を構成する半導体スイッチを流れる電流がほぼゼロとなったときに、該半導体スイッチをオフさせるようにした。
【0027】
(6)上記の直流電源装置において前記電力変換回路を構成する半導体スイッチと、前記共振回路制御用半導体スイッチのオン/オフの制御は、ゲート制御装置によって制御されるようにした。
【0028】
(7)上記の直流電源装置において、前記共振リアクトルは、トランスの漏れインダクタンスとその配線インダクタンスの合計で構成されるようにした。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、トランス絶縁式のDC−DCコンバータにおいて、整流ダイオードブリッジ回路の入力側に接続されるトランスの一次側または二次側に、該整流ダイオードブリッジ回路を構成する整流ダイオードのリカバリが発生する直前までの電流方向に対しては低インピーダンス、その逆方向には高インピーダンスを持つ回路要素を設けることにより、一次側半導体スイッチのスイッチング損失を低減するとともに、トランス二次側の整流ダイオードで発生するリカバリによる損失を低減するという優れた効果を奏することができる。
このことは、DC−DCコンバータの廃熱が減少し、効率の向上による省エネルギー化、冷却装置の小型化だけでなく、駆動周波数の上昇によってトランスの小型化も実現可能であり、装置全体の小型化や信頼性向上に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明による直流電源装置の実施例1を示す。
【図2】従来例の回路構成を示す。
【図3】従来例での理想的な電圧電流と半導体スイッチ指令の時間変化を示す。
【図4】図2の構成で、整流ダイオードD5の電圧Vrと電流Irの実測波形を示す。
【図5】本発明の実施例1で利用する可飽和リアクトルの磁気特性(BHカーブ)を示す。
【図6】従来例回路で測定した図4の時刻t2付近を拡大した波形を示す。
【図7】図6の動作回路に本発明の実施例を施した場合の波形を示す。
【図8】本発明の実施例2として、一次側半導体スイッチをハーフブリッジで構成した場合の回路を示す。
【図9】本発明の実施例1,2で使用する可飽和リアクトルSRの例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明は、特に一次側半導体スイッチのターンオフ損失を減少させる回路が発生する電流によって整流ダイオードの損失が増加するという課題を解決するが、整流ダイオードの全リカバリ損失を減少させる効果を持つ。
以下では本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0032】
[実施例1]
まず、本発明の実施例1として、その構成と動作原理を図1により説明する。
101には入力直流電源、102はフィルタリアクトルLdとフィルタコンデンサFCで構成されるフィルタ回路、103は共振回路、104は各半導体スイッチのゲート制御装置である。Q1〜Q4はインバータ回路を構成する半導体スイッチで、それぞれの半導体スイッチにはD1〜D4のフリーホイールダイオードが付属する。半導体スイッチQ1とQ2との接続点aと半導体スイッチQ3とQ4との接続点bとの間にトランスTの一次巻線が接続され、二次巻線は整流ダイオードD5〜D8よりなる整流ダイオードブリッジの接続点cとdに接続される。この整流ダイオードブリッジの出力はフィルタ回路102を介して負荷RLに与えられる。
【0033】
ゲート制御装置104は半導体スイッチQ1〜Q4と共振回路103内の半導体スイッチQzにオンとオフの指令を与える。半導体スイッチとしては、バイポーラトランジスタ・MOSFET・サイリスタ・ゲートターンオフサイリスタ・IGBTなどが考えられるが、本実施例では代表例としてIGBTを使用して説明する。
図1に示す構成では、トランスTの持つ漏れインダクタンスと配線によるインダクタンスの和を共振リアクトルLzとして記し、共振回路103の共振コンデンサCzと共に直列共振回路を構成する。
整流ダイオードD5〜D8の出力側e,fに半導体スイッチQzで制御可能なコンデンサCzよりなる共振回路103を直列に接続している。共振回路103はより具体的には、フリーホイールダイオードD9が逆並列に接続された半導体スイッチQzと、共振コンデンサCzとが直列に接続された回路である。共振回路103は整流ダイオードブリッジの出力側とフィルタ回路102との間に、整流ダイオードブリッジ回路と並列に挿入されている。
【0034】
また、ここではトランスTの巻数比はN:1(Nはゼロを含まない自然数)で、一次側電圧V1は二次側電圧V2よりも大または等しいとして、トランスTの出力である二次側に、整流ダイオードにリカバリが発生する直前までの電流が流れる方向には低インピーダンス、その逆方向には高インピーダンスを持つ回路要素として、本実施例では可飽和リアクトルSRを設ける。
図1の動作は図2と同一であり、電圧・電流波形は技術背景で述べた図3と同一である。ここでは図3を用いながら可飽和リアクトルSRの動作と効果のみを説明する。図5は可飽和リアクトルSRの持つ磁気特性(BHカーブ)を示す。図5中において、Bは可飽和リアクトルの磁束密度、Hは磁界の強さを表す。
【0035】
時刻t5’では制御装置104から半導体スイッチQ1とQ4にオン信号が与えられて(図3参照)、インバータ回路の半導体スイッチQ1とQ4が導通状態となり、トランスTの一次側である点a,b間の電圧Vabには電源電圧Eと等しい電圧が発生する。この時刻t5’では可飽和リアクトルの磁気特性上の動作点は図5の点H3付近となっているため、可飽和リアクトルSRは大きなインダクタンスとしてみなせるから、時刻t5’になった瞬間では可飽和リアクトルSRにはトランスTの二次側に発生する電圧V2と等しい電圧が発生する。このときの電流Iabを考えると、従来例の図2と比較すると、共振リアクトルLzのインダクタンス値が大きい場合と等価であるから、さらにゆっくりと流れ出す。したがって、一次側の半導体スイッチQ1とQ4が発生するターンオン損失は、図2の場合のそれよりさらに小さくなる。
【0036】
ここで、可飽和リアクトルSRの磁束Φは数式1で表せる。数1において、nは可飽和リアクトルSRの巻数、Vは可飽和リアクトルSRに発生する電圧を示す。この数式1はファラデーの電磁誘導の法則に基づく。
【数1】

【0037】
また、磁束Φと磁束密度Bには次の数式2の関係がある。数式2において、Sは磁束密度Bの通過する面の面積を示し、nはその面積に対する単位法線ベクトルを示すが、数式2の右辺はさらに磁束密度Bとその通過する面が垂直の時を示している。
【数2】

上記、数式1と数式2の関係から、可飽和リアクトルSRの磁束密度Bは、時間変化しない電圧Vに対して次の数式3の関係を持つ。すなわち、磁束密度Bは通過する面積が一定の時、電圧Vとその発生時間tに比例する。
【数3】

【0038】
このように、可飽和リアクトルSRに電圧Vが発生すると、その時間tが経つにつれて磁束密度Bが増加する。この時、時刻t5’〜t6’にかけて図5に示す可飽和リアクトルの動作点は、点H3から点H0を経て点H1に向かって移動する。
そして、時刻t6’では可飽和リアクトルSRは飽和して、動作点は図5中の点H1に達すると、可飽和リアクトルSRの透磁率が極端に小さくなるため、可飽和リアクトルのインダクタンスはほとんどゼロとなる。このように、可飽和リアクトルは、その磁気特性上の動作点が図5の点H1周辺に存在するとき、トランスTの電流Iabが正の方向にはインダクタンスがなく、低インピーダンス状態となっている。
【0039】
やがて、時刻t0に達し、共振スイッチQzがオンして共振電流がIabを流れるが、時刻t2に至るまでその電流の方向は変化しないため、可飽和リアクトルSRは低インピーダンス状態である。
時刻t2では背景技術でも述べたとおり、電流Irが瞬間的に逆方向に流れようとするが、可飽和リアクトルSRはこの時は逆方向電流に対して大きなインダクタンスを持ち、高インピーダンス状態である。この時、可飽和リアクトルSRは時刻t6’で蓄えられた磁気エネルギーを放出することで逆方向電流を妨げる方向に電圧を発生し、その動作点は時刻t6’時の数式3に基づき、図5上の点H1から点H2方向へ移動するが、時刻t2でリカバリを発生するエネルギーは前述のとおり小さいため、図5の動作点は点H1付近に留まる。また、リカバリ電流がサージ状に流れられず、リカバリ電流は時刻t6’の電流Iabのように徐々に流れ出し、整流ダイオードD5のキャリアがゆっくりと消滅するため、サージ電圧の発生も伴わない。
【0040】
図6は可飽和リアクトルを導入しない図2の回路図で動作試験を行い、時刻t2の時の整流ダイオードの電圧Vrと電流Irである。図中に示してあるように、逆方向のリカバリ電流が流れている際に電圧が発生し、損失が発生していることが分かる。図7は、本発明の実施例である可飽和リアクトルを導入した図1に示す回路での電圧Vrと電流Irの測定結果である。整流ダイオードのリカバリ時に、逆方向に電流が流れることなく、サージ電流の発生も起こることなくリカバリが終了し、その後、ゆっくりと電圧Vrが回復してゆく。
【0041】
その後、時刻t5で半導体スイッチQ3とQ4がターンオンし、時刻t5’とは逆の電圧がトランスTの二次側電圧V2に発生する。このときは時刻t5’と同様に一次側からエネルギーが印加され、可飽和リアクトルSRの動作点を図5の点H1付近から点H2を通り点H3まで動かすことで、電流Iabが徐々に流れ出し、時刻t6では磁気飽和し可飽和リアクトルSRは低インピーダンス状態となる。
時刻t0’〜t5’までは一次側半導体スイッチの対アームが動作するため、時刻t0〜t5までと電圧・電流が逆方向となるだけで、同じ原理で動作が繰り返される。
なお、時刻t6及びt6’においても整流ダイオードにリカバリが発生するが、このリカバリのエネルギーは前述のとおり一次側から供給されるために大きく、可飽和リアクトルの動作点を点H1からH3(またはその逆)まで移動させるまでは、リカバリで発生するサージ電流を抑えられるため多少の効果はあるが、それ以上は途中でリアクトルの効果がなくなるため、リカバリ電流によるサージ電圧と損失が発生する。
【0042】
本発明によれば、図2の回路においては時刻t6で110W、時刻t2で50Wの合計160W発生したリカバリ損失が発生していたが、図1の可飽和リアクトルSRを導入することで、時刻t6で80W、時刻t2で0Wの合計80Wとリカバリ損失が半減する効果が得られる。
【0043】
[実施例2]
また、本発明は、図8の形態においても実現可能である。これは、一次側の半導体スイッチの構成をハーフブリッジで構成した例である。電力変換回路の半導体スイッチの動作としては、図1の半導体スイッチQ1とQ4の動作を図8の半導体スイッチQ1が受け持ち、同様に図1の半導体スイッチQ2とQ3の動作を半導体スイッチQ2が受け持つ。また、半導体スイッチQ1とQ2の接続点aと分圧コンデンサC1とC2の接続点bとの間にトランスTの一次側が接続される。スイッチング損失低減の動作と可飽和リアクトルSRの動作及び電圧電流波形の形状は実施例1と同一である。
ただし、一次側の半導体スイッチがハーフブリッジで構成されるため、トランスTの一次側電圧V1はE/2となる。したがって、実施例1とは異なり昇圧トランスとし、巻数比を1:N(Nはゼロを含まない自然数)と構成する。
【0044】
そのため、トランスTが巻数比1:Nの昇圧トランスの場合に、実施例1と同様に可飽和リアクトルSRをトランスTの二次側に導入すると、整流ダイオードのリカバリ時に可飽和リアクトルSRで発生する電圧が実施例1と比較し高くなる。これは、数3に従うと可飽和リアクトルSRが飽和するまでの時間が短くなるから、リカバリのサージ電流を抑えるための高インピーダンスの期間が短くなる。
このことから、可飽和リアクトルSRはトランスTの巻線のうち低電圧である一次側に導入する。
【0045】
[実施例3]
図9は実施例1や実施例2で示した可飽和リアクトルSRとして、磁性材料がリング状で構成される可飽和コアをトランスTの一次側に入れた構成例である。通常このような形状をしたコアは、電磁ノイズ防止のためにコモンモード(往復線路)で用いられるが、本発明では、ノーマルモードで用いることによって整流ダイオードのリカバリ損失を抑える効果が得られる。
なお、図9の点a、bは図1ないし図8の接続点a、bにそれぞれ対応する。
【産業上の利用可能性】
【0046】
以上説明したように、本発明によれば、直流電源装置の整流ダイオードブリッジ回路の入力側に、整流ダイオードのリカバリが発生する直前までの電流方向に対しては低インピーダンス、その逆方向には高インピーダンスを持つ回路要素を設けることにより、コストアップを招くことなく、リカバリに伴うサージ電圧の発生を効果的に抑制して電力損失を低減するとともに、整流ダイオードの破壊や電磁ノイズの発生を防止することができるので、直流電源装置の省エネルギー対策手段、高信頼性対策手段として広く利用されることが期待できる。
【符号の説明】
【0047】
101: 直流電源
102: フィルタ回路
103: 共振スイッチ回路
104: ゲート制御装置
105: リング状の磁性体材料で構成された可飽和コア
C1, C2: 分圧コンデンサ
Cz: 共振コンデンサ
D1〜D4, D9: フリーホイールダイオード
D5〜D8: 整流ダイオード
E: 入力直流電源電圧
FC: フィルタコンデンサ
Ld: フィルタリアクトル
Lz: 共振リアクトル
Q1〜Q4: 半導体スイッチ
Qz: 共振回路制御用半導体スイッチ
RL: 負荷
SR: 可飽和リアクトル
T: トランス
V1: トランスTの一次側電圧
V2: トランスTの二次側電圧

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源と、直流から交流を生成可能な電力変換回路と、一次巻線が前記電力変換回路の出力と接続されたトランスと、
該トランスの二次巻線に、共振リアクトルを介して接続された整流ダイオードブリッジ回路と、
フィルタリアクトルとフィルタコンデンサで構成され、前記整流ダイオードブリッジ回路の出力側に接続されるフィルタ回路とを有し、
環流ダイオード(D9)が逆並列に接続された共振回路制御用半導体スイッチ(Qz)と、共振コンデンサ(Cz)からなる共振スイッチ回路(103)を、前記整流ダイオードブリッジの出力側に並列接続することにより、
前記共振リアクトル(Lz)と、共振スイッチ回路(103)の共振コンデンサ(Cz)とで直列共振回路を構成する直流電源装置において、
前記整流ダイオードブリッジ回路の入力側に接続されるトランスの一次側または二次側に、該整流ダイオードブリッジ回路を構成する整流ダイオードのリカバリが発生する直前までの電流方向に対しては低インピーダンス、その逆方向には高インピーダンスを持つ回路要素を設けたことを特徴とする直流電源装置。
【請求項2】
請求項1に記載の直流電源装置において、前記回路要素として、可飽和リアクトルを利用することを特徴とした直流電源装置。
【請求項3】
請求項2に記載の直流電源装置において、前記可飽和リアクトルは電圧が高い場合に高インピーダンス状態である時間が短くなるよう、前記トランスの一次側電圧及び二次側電圧のうち、電圧の低い側に配置したことを特徴とする直流電源装置。
【請求項4】
請求項1に記載の直流電源装置において、前記回路要素によって、前記トランスの一次側に接続される電力変換回路を構成する半導体スイッチのスイッチング損失を小さくする機能を持つことを特徴とする直流電源装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の直流電源装置において、前記電力変換回路を構成する半導体スイッチを流れる電流がほぼゼロとなったときに、該半導体スイッチをオフさせることを特徴とする直流電源装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の直流電源装置において、前記電力変換回路を構成する半導体スイッチと、前記共振回路制御用半導体スイッチのオン/オフの制御は、ゲート制御装置によって制御されることを特徴とする直流電源装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の直流電源装置において、前記共振リアクトルは、トランスの漏れインダクタンスとその配線インダクタンスの合計で構成されることを特徴とする直流電源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−27162(P2013−27162A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−160030(P2011−160030)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】