説明

直流高圧電源装置

【課題】 自励発振式高周波電源およびシェンケル回路を備えている直流高圧電源装置において、電源内部放電が発生したときに、短時間でかつ確実に、自励発振式高周波電源における自励発振を停止させて、シェンケル回路を構成している整流器に与えるダメージを小さくする。
【解決手段】 この直流高圧電源装置は、自励発振式高周波電源10と、その共振コイルを兼ねる昇圧コイル30と、シェンケル回路50と、昇圧コイル30の2次コイル32を過電圧から保護する放電ギャップ40とを備えている。更に、放電ギャップ40の放電を検出して放電検出信号Sdを出力する放電検出器60と、この放電検出信号Sdに応答して、2次コイル32に発生する高周波電圧の一部である帰還信号Sfが自励発振式高周波電源10に与えられるのを阻止して同高周波電源10における自励発振を停止させる自励発振停止回路70とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば電子線照射装置、イオン注入装置、その他の加速器等に用いられる装置であって、自励発振式高周波電源およびシェンケル回路を備えている直流高圧電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
直流高電圧(例えばMVオーダー)を発生させる直流高圧電源装置の一つに、シェンケル形の直流高圧電源装置がある。
【0003】
シェンケル形の直流高圧電源装置は、例えば特許文献1、2にも記載されているように、1次コイルおよび2次コイルを有している昇圧コイルと、この昇圧コイルの1次コイルに例えば数十kHz〜百数十kHz程度の高周波電力を供給する高周波電源と、昇圧コイルの2次コイルに接続されていて当該2次コイルに発生する高周波電圧の昇圧および整流を行って直流高電圧を出力するシェンケル回路とを備えている。昇圧コイルの2次コイルには、特許文献1、2には記載されていないけれども、通常は当該2次コイルを過電圧から保護する放電ギャップが接続されている。
【0004】
シェンケル回路は、よく知られているように、かつ特許文献1、2にも記載されているように、複数のキャパシタと複数の整流器とを複数段に組み合わせて、交流電圧または高周波電圧から直流高電圧を発生させる回路である。シェンケル回路では、コッククロフト・ウォルトン回路と違って、複数のキャパシタはその一端が昇圧コイルの2次コイルの一端にそれぞれ並列接続されていて、並列的に充電される。
【0005】
出力する直流高電圧が高い場合は、特許文献1、2にも記載されているように、各キャパシタには、電極間空間に形成される静電容量(浮遊静電容量とも呼ばれる)が用いられる。
【0006】
また、上記高周波電源として、上記昇圧コイルを共振コイルにしていて、その2次コイルに発生する高周波電圧の一部が帰還信号として与えられて自励発振する自励発振式高周波電源を用いることも従来から行われている。
【0007】
【特許文献1】実公平8−11064号公報(第2頁、第1図、第2図)
【特許文献2】特開平11−225476号公報(段落0002−0007、図3、図4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記直流高圧電源装置においては、非常に高い高電圧を扱うので、装置の内部において予期せぬ放電(電源内部放電)が発生することがあり、この電源内部放電から構成機器をいかに保護するかが重要である。この電源内部放電は、例えば、上記静電容量形成用の電極間空間における閃絡(内部閃絡)である。
【0009】
自励発振式高周波電源を用いた従来の直流高圧電源装置においては、電源内部放電が発生した場合、初期放電発生→自励発振が一旦停止→自励発振が再起動→再び放電発生という動作が、自励発振式高周波電源内の入力直流電源が異常(例えば過電流および/または過電圧)を検出してその出力を停止させて、当該出力が自励発振可能電圧以下に低下するまで繰り返されるという課題がある。
【0010】
上記のような電源内部放電が発生すると、シェンケル回路では、放電発生箇所より上段(電気的に直流出力端子に近い方を上段、その反対側を下段と言う。以下同様)にある整流器に過大な逆電圧が印加され、これが繰り返されると、当該整流器は大きなダメージを受けて破壊の危機に曝されることになる。なお、シェンケル回路における上記過大な逆電圧印加については、後で図1を参照してより詳しく説明する。
【0011】
そこでこの発明は、自励発振式高周波電源およびシェンケル回路を備えている直流高圧電源装置において、電源内部放電が発生したときに、短時間でかつ確実に、自励発振式高周波電源における自励発振を停止させて、シェンケル回路を構成している整流器に与えるダメージを小さくすることを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明に係る直流高圧電源装置は、1次コイルおよび2次コイルを有している昇圧コイルと、前記昇圧コイルの1次コイルに高周波電力を供給するものであって、前記昇圧コイルを共振コイルにしていて、前記2次コイルに発生する高周波電圧の一部が帰還信号として与えられて自励発振する自励発振式高周波電源と、前記昇圧コイルの2次コイルに接続されていて、当該2次コイルに発生する高周波電圧の昇圧および整流を行って直流高電圧を出力するシェンケル回路と、前記昇圧コイルの2次コイルに接続されていて、当該2次コイルを過電圧から保護する放電ギャップとを備えている直流高圧電源装置において、前記放電ギャップの放電を検出して放電検出信号を出力する放電検出器と、前記放電検出器からの放電検出信号に応答して、前記帰還信号が前記自励発振式高周波電源に与えられるのを阻止して前記自励発振式高周波電源における自励発振を停止させる自励発振停止回路とを備えていることを特徴としている。
【0013】
この直流高圧電源装置においては、電源内部放電が発生すると、昇圧コイル保護用の放電ギャップが放電し、当該放電が放電検出器によって検出され、放電検出信号が出力される。自励発振停止回路は、上記放電検出信号に応答して、上記帰還信号が自励発振式高周波電源に与えられるのを阻止して、自励発振式高周波電源における自励発振を停止させる。
【0014】
このような作用によって、電源内部放電が発生したときに、短時間でかつ確実に、自励発振式高周波電源における自励発振を停止させて、シェンケル回路を構成している整流器に与えるダメージを小さくすることができる。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載の発明によれば、上記のような放電検出器および自励発振停止回路を備えているので、電源内部放電が発生したときに、短時間でかつ確実に、自励発振式高周波電源における自励発振を停止させて、シェンケル回路を構成している整流器に与えるダメージを小さくすることができる。
【0016】
請求項2に記載の発明によれば次の更なる効果を奏する。即ち、正常時には放電ギャップには放電電流は全く流れず、電源内部放電が発生して放電ギャップが放電したときに初めて放電電流が流れ、放電検出器はこのような明確に検出することのできる放電電流によって放電ギャップの放電を検出するものであるので、放電ギャップの放電を簡単にかつ確実に検出することができる。
【0017】
請求項3に記載の発明によれば次の更なる効果を奏する。即ち、自励発振停止回路は自己保持回路を有しているので、放電検出器からの検出信号が短時間で0になる減衰振動信号であっても、自己保持回路のオン状態を保持してスイッチ手段のオン状態を確実に維持することができる。従って、自励発振式高周波電源における自励発振を確実に停止させることができる。
【0018】
請求項4に記載の発明によれば次の更なる効果を奏する。即ち、昇圧コイルが二つの2次コイルを有していて両2次コイルには放電ギャップがそれぞれ接続されているので、両方の放電ギャップの放電を検出する必要があるが、放電検出器は両放電ギャップの共通の接地線に流れる放電電流によって両放電ギャップの放電を検出するものであるので、一つの放電検出器によって両方の放電ギャップの放電を検出することができる。従って、構成の簡素化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1は、この発明に係る直流高圧電源装置の一実施形態を示す回路図である。この直流高圧電源装置は、自励発振式高周波電源10、昇圧コイル30、シェンケル回路50等を備えている。
【0020】
昇圧コイル30は、この実施形態では空芯コイルであり、1次コイル31と、互いに位相が180度異なる(即ち、両2次コイル32の非接地側端34に同時に発生する電圧の極性が逆である)高周波電圧(2次電圧)eを発生する二つの2次コイル32とを有している。この昇圧コイル30は、1次コイル31に入力される高周波電圧を昇圧して各2次コイル32に2次電圧eを出力するものであるが、自励発振式高周波電源10の共振コイルも兼ねている。2次電圧eの波高値をEとする。波高値Eは、例えば、150kV程度であるが、これに限られるものではない。
【0021】
両2次コイル32の非接地側端34は、シェンケル回路50に接続されている。より具体的には、シェンケル回路50を構成する二つの高周波電極52にそれぞれ接続されている。
【0022】
両2次コイル32の接地側端35は、適切な位相の帰還信号Sfを取り出すためのリアクタンス素子36をそれぞれ介して接地されている。一方のリアクタンス素子36の両端の高周波電圧Vcが帰還信号Sfとして取り出される。両リアクタンス素子36は、この実施形態ではコンデンサであるが、コイルでも良い。コイルの場合は、位相の関係で図1とは反対側のリアクタンス素子36から帰還信号Sfを取り出すようにすれば良い。
【0023】
各2次コイル32には、それを過電圧から保護する放電ギャップ40がそれぞれ接続されている。より具体的には、各放電ギャップ40は、各2次コイル32の非接地側端34と、両放電ギャップ40に共通の接地線42との間にそれぞれ接続されている。
【0024】
なお、図1では、各放電ギャップ40を一つの放電ギャップで図示しているが、各放電ギャップ40は、互いに直列接続されかつ直列接続部が各2次コイル32の途中点にそれぞれ接続された複数の放電ギャップで構成されていても良く、実際はそのようにしている場合が多い。
【0025】
自励発振式高周波電源10は、昇圧コイル30を共振コイルにしていて、2次コイル32に発生する高周波電圧の一部が帰還信号Sfとして与えられて、この帰還信号Sfを用いて自励発振して昇圧コイル30の1次コイル31に高周波電力を供給するものである。この自励発振の周波数は、簡単に言えば、各2次コイル32のインダクタンスLと、シェンケル回路50の各高周波電極52と接地電位部(具体的には後述する圧力タンク)との間の静電容量(浮遊静電容量とも呼ばれる)C1 とによって形成される共振回路の共振周波数によって決まる。当該共振周波数は、例えば、40kHz〜150kHz程度であるが、これに限られるものではない。
【0026】
自励発振式高周波電源10は、この実施形態では、発振用増幅器の一例である真空管(より具体的には3極真空管)22と、それに(より具体的にはその陽極に)昇圧コイル30の1次コイル31を経由して直流電力を供給する入力直流電源12とを備えている。
【0027】
入力直流電源12は、この実施形態では、商用周波数の交流電源14と、それからの交流電力を昇圧すると共に出力を制御するサイリスタコンバータ16と、それからの交流を整流する整流回路18と、それからの出力電圧を平滑する平滑コンデンサ20とを備えていて、直流電圧Vd1 を出力する。直流電圧Vd1 は、例えば、10kV程度であるが、これに限られるものではない。また、入力直流電源12の構成もこれに限られるものではない。
【0028】
真空管22の陽極には、入力直流電源12からの直流電力が昇圧コイル30の1次コイル31を経由して供給される。真空管22のカソードは接地されている。真空管22のグリッドには、この実施形態では、真空管22の動作点の調整等のためのグリッド回路38を経由して、昇圧コイル30の2次コイル32から上記帰還信号Sfが供給される。これによって、自励発振式高周波電源10は自励発振する。
【0029】
シェンケル回路50は、キャパシタとしての複数の静電容量C0 と、複数の整流器56とを複数段に組み合わせた構成をしている。このシェンケル回路50は、昇圧コイル30の2次コイル32に接続されていて、当該2次コイル32に発生する2次電圧eの昇圧および整流を行って直流高電圧HVを出力するものである。この実施形態では、負の直流高電圧HVを出力するものであるが、各整流器56を図示とは逆向きに接続して、正の直流高電圧HVを出力するようにしても良い。
【0030】
シェンケル回路50は、この実施形態では、負の直流高電圧HVを取り出すために整流器56の向きが逆であることを除いて、上記特許文献1の第2図および特許文献2の図4のものと、ほぼ同様の構成をしている。
【0031】
即ち、シェンケル回路50は、図1では簡略化して図示しているけれども、半円筒状をしていて互いに向かい合うように配置された一対の高周波電極52と、この一対の高周波電極52の内側に、各高周波電極52との間に隙間をあけて対向するように、かつ複数段に配置された半円筒状の複数のキャパシタ電極54と、各キャパシタ電極54間、および、1段目のキャパシタ電極54とグラウンド間を同一の向きで順次接続している複数の整流器56とを備えている。最上段のキャパシタ電極54と直流出力端子58との間も、上記と同じ向きの整流器56によって接続されている。
【0032】
各高周波電極52は、昇圧コイル30の各2次コイル32の非接地側端34にそれぞれ接続されている。各高周波電極52は、互いに実質的に同一の形状および寸法をしている。各キャパシタ電極54も、それぞれ実質的に同一の形状および寸法をしている。
【0033】
上記高周波電極52、キャパシタ電極54、整流器56および直流出力端子58は、絶縁ガス(例えばSF6 ガス)が充填され、かつ電気的に接地された円筒状の圧力タンク(図示省略)内に収納されている。
【0034】
上記構成によれば、各高周波電極52とそれに対向する各キャパシタ電極54との間にそれぞれ実質的に同一容量の静電容量C0 が形成されるので、昇圧コイル30の一方の2次コイル32の非接地側端34に複数の静電容量C0 が並列接続され、他方の2次コイル32の非接地側端34にも複数の静電容量C0 が並列接続された回路となり、シェンケル回路が構成される。また、各高周波電極52と圧力タンクとの間に、上記静電容量C1 がそれぞれ形成される。
【0035】
このシェンケル回路50においては、上記特許文献1、2にも説明されているように、昇圧コイル30の各2次コイル32に波高値Eの2次電圧eがそれぞれ出力されると、各キャパシタ電極54には、下段側からそれぞれ約E、約3E、約5E、約7E、約9E、約11Eの直流高電圧が得られ、直流出力端子58に約11Eの直流高電圧HVが得られる。従って例えば、波高値Eを150kVとすると、約1.6MVの直流高電圧HVが得られる。各直流高電圧は、この実施形態では負電圧である。
【0036】
シェンケル回路50は、コッククロフト・ウォルトン回路に比べて、多段にした場合の電圧降下の影響が少ないという利点がある一方、上記のように上段の静電容量C0 ほど、具体的には上段のキャパシタ電極54ほど、印加される電圧が高くなるという課題がある。
【0037】
シェンケル回路50において内部放電(より具体的には内部閃絡)が発生すると、例えば図1中に示すように上段付近のキャパシタ電極54とそれに対向する高周波電極52との間で内部放電59が発生すると、当該高周波電極52に接続された2次コイル32の保護用の放電ギャップ40が放電して、上記接地線42に放電電流Idが流れる。上記とは反対側の高周波電極52とキャパシタ電極54との間で内部放電が発生しても、上記とは反対側の放電ギャップ40が放電してやはり上記接地線42に放電電流Idが流れる。
【0038】
そこでこの実施形態では、上記接地線42に、そこを流れる放電電流Idによって両放電ギャップ40の放電を検出して放電検出信号Sdを出力する放電検出器60を設けている。放電検出器60は、この実施形態では変流器であり、従って放電検出信号Sdは電流信号である。上記放電電流Idはスパイク状の電流、即ち短時間(例えば数μ秒程度)でほぼ0に収束する減衰振動電流であるので、放電検出信号Sdも同様の減衰振動信号となる。
【0039】
放電検出器60からの放電検出信号Sdは自励発振停止回路70に供給される。自励発振停止回路70は、この放電検出信号Sdに応答して、上記帰還信号Sfが自励発振式高周波電源10に与えられるのを阻止して、自励発振式高周波電源における自励発振を停止させるものである。自励発振停止回路70は、この実施形態では、上記帰還信号Sfに応答してオン状態になりかつそのオン状態を維持する自己保持回路と、この自己保持回路がオン状態のときにオン状態になって、上記帰還信号Sfをグラウンドへ流す閉回路を形成するスイッチ手段とを有している。
【0040】
より具体的には、自励発振停止回路70は、上記放電検出信号Sdを抵抗器72によって電圧信号に変換し、整流回路74によって整流し、平滑コンデンサ75によって平滑して直流電圧Vd2 を出力するよう構成されている。この直流電圧Vd2 によって、放電検出信号Sdが減衰信号であっても、フォトカプラ76を確実にオン状態にすることができる。フォトカプラ76がオン状態になることによってそれに接続されているフォトカプラ78がオン状態になり、それによってフォトカプラ78側には、自己のフォトダイオードからフォトトランジスタを通る電流経路79が形成されるので、フォトカプラ78はオン状態を自己保持することができる。即ち、フォトカプラ76、78を用いて自己保持回路が構成されている。なお、図1中のVd3 は、例えば+12Vの直流電源電圧である。
【0041】
フォトカプラ78がオン状態のときに、スイッチ手段の一例である継電器80は、そのコイル82に直流電源電圧Vd3 からフォトカプラ78のフォトトランジスタを通して励磁電流が流れてオン状態になり、その接点84がオン状態になる。接点84の両端は、符号a、bで示すように、この実施形態では、上記帰還信号Sfを取り出すリアクタンス素子36の両端に、即ち同じ符号a、bの箇所にそれぞれ接続されている。従って、継電器80がオン状態になると、その接点84によって、上記リアクタンス素子36を短絡して、上記高周波電圧Vcを、即ち上記帰還信号Sfをグラウンドへ流す閉回路が形成される。
【0042】
継電器80の動作によって帰還信号Sfがシャントされてグラウンドへ流されると、自励発振式高周波電源10は帰還信号Sfが供給されなくなるので自励発振が即時に停止する。即ち、従来例のように入力直流電源12が異常を検出してその出力Vd1 を停止するよりも遥かに速く自励発振を停止させることができる。従ってこの直流高圧電源装置においては、電源内部放電が発生したときに、短時間でかつ確実に、自励発振式高周波電源10における自励発振を停止させて、シェンケル回路50を構成している整流器56に与えるダメージを小さくすることができる。
【0043】
なお、継電器80の動作後にリセットするには、直流電源電圧Vd3 を一旦切れば良い。それによって、フォトカプラ78の自己保持状態は解除され、かつ継電器80はオフ状態に戻るので、自励発振停止回路70は初期状態に戻る。従って自励発振式高周波電源10の再起動が可能になる。
【0044】
実験結果の一例を図2に示す。高周波電圧Vcは、上記リアクタンス素子36の両端の電圧であり、高周波数で振動しているが、図2ではその包絡線を図示している(図3も同様)。時刻t1 において電源内部放電を発生させて放電ギャップ40を放電させると、約3m秒後の時刻t2 で継電器80がオン状態になり、その約1m秒後の時刻t3 で高周波電圧Vcは0Vになり、それ以降はその状態が維持されている。即ち、電源内部放電の約4m秒後という極めて短時間で、自励発振式高周波電源10における自励発振を完全に停止させ、かつその停止状態を維持することができた。
【0045】
参考例として、上記自励発振停止回路70を働かせていないときの実験結果の一例を図3に示す。これは前述した従来技術に相当する。時刻t4 において電源内部放電を発生させると、放電ギャップ40が放電して高周波電圧Vcが一旦低下して自励発振は一旦停止しかけるけれども、すぐに入力直流電源12はその出力電圧Vd1 を上げる動作に入って自励発振が再起動して、高周波電圧Vcおよび昇圧コイル30の2次電圧eが初回よりも大きくなって時刻t5 で再び電源内部放電が発生し、これ以降は上記動作が繰り返されて時刻t6 、t7 、t8 において電源内部放電が繰り返して発生し、時刻t8 の放電によって入力直流電源12は異常(例えば出力の過電流および/または過電圧)を検出して出力を停止させる。
【0046】
この場合は、時刻t4 から時刻t8 までに約75m秒もの長時間を要している。しかも、入力直流電源12は平滑コンデンサ20を有しているので、その出力電圧Vd1 が小さくなって自励発振式高周波電源10における自励発振が完全に停止する時刻t9 までに更に約50m秒程度を要している。その結果、電源内部放電発生から自励発振式高周波電源10における自励発振の完全停止までに約125m秒という長時間を要している。入力直流電源12における異常検出の遅れや平滑コンデンサ20の容量が大きい場合には、これよりも更に長時間を要する場合もある。
【0047】
上記のような電源内部放電が発生すると、シェンケル回路50では、放電箇所より上段にある整流器56に過大な逆電圧が印加される。例えば、図1に示す例のように9Eの電圧が印加されるキャパシタ電極54と高周波電極52との間で内部放電59が発生すると、当該高周波電極52につながる放電ギャップ40が放電して当該キャパシタ電極54の電位は実質的に0Vになる。そうなると、当該キャパシタ電極54よりも電気的に上段にある整流器56(56a)には、アノードが約11E(これは前述したように負の直流高電圧である)、カソードが0Vという非常に大きな逆電圧が印加される。従ってこのような過大な逆電圧印加が繰り返されると、当該整流器56は大きなダメージを受けることになる。しかも逆電圧印加時間が長いとダメージも大きくなる。
【0048】
図1に示す内部放電59よりも下段において内部放電が発生した場合も、上記と同様の考え方によって、放電箇所より上段にある整流器56に過大な逆電圧が印加され、これが繰り返されると当該整流器56は大きなダメージを受けることになる。また、各整流器56の向きを図1とは逆向きにして正の直流高電圧HVを出力する場合も、上記と同様の考え方によって、放電箇所より上段にある整流器56に過大な逆電圧が印加され、これが繰り返されると当該整流器56は大きなダメージを受けることになる。
【0049】
これに対して、この実施形態の直流高圧電源装置では、上記のような放電検出器60および自励発振停止回路70を備えているので、電源内部放電が発生したときに、図2を参照して説明したように初期放電を検出して短時間でかつ確実に、自励発振式高周波電源10における自励発振を停止させて、シェンケル回路50を構成している整流器56に与えるダメージを小さくすることができる。
【0050】
なお、放電ギャップ40の放電を検出して放電検出信号Sdを出力する放電検出器は、上記放電検出器60以外のものでも良いけれども、上記放電検出器60のように、放電ギャップ40を通して流れる放電電流Idによって放電ギャップ40の放電を検出するものが好ましい。その理由は次のとおりである。即ち、正常時には放電ギャップ40には放電電流は全く流れず、電源内部放電が発生して放電ギャップ40が放電したときに初めて放電電流Idが流れ、放電検出器60はこのような明確に検出することのできる放電電流Idによって放電ギャップ40の放電を検出するものであるので、放電ギャップ40の放電を簡単にかつ確実に検出することができる。即ち、放電電流Idが流れたときは、放電電流Idの大小に拘わらずに、電源内部放電が発生して放電ギャップ40が放電した証拠であるので、検出感度を上げることができ、簡単にかつ確実に放電ギャップ40の放電を検出することができる。しかも、検出時定数は必要ないので、最短時間で検出することができる。
【0051】
昇圧コイル30がこの実施形態のように二つの2次コイル32を有していて両2次コイル32に放電ギャップ40がそれぞれ接続されている場合は、両放電ギャップ40の放電を検出する必要がある。これに対しては、この実施形態のように、両放電ギャップ40の共通の接地線42に流れる放電電流Idによって両放電ギャップ40の放電を検出する放電検出器60を設けておくのが好ましい。そのようにすると、一つの放電検出器60によって両方の放電ギャップ40の放電を検出することができるので、放電検出器60を一つで済ませることができる。それに伴って、当該放電検出器60につながる自励発振停止回路70の構成も簡素化することができる。従って構成の簡素化を図ることができる。
【0052】
自励発振停止回路70には、上記のような自己保持回路を設けておくのが好ましい。そのようにすれば、放電検出信号Sdが短時間で0になる減衰振動信号であっても、自己保持回路はオン状態を保持して継電器80のオン状態を確実に維持することができるので、自励発振式高周波電源10における自励発振を確実に停止させることができる。
【0053】
上記実施形態のように、継電器80によって(より具体的にはその接点84によって)リアクタンス素子36の両端を短絡することによって、帰還信号Sfがグリッド回路38を経由して真空管22に供給される前に帰還信号Sfをグラウンドへ流すように構成する代わりに、継電器80の接点84の出力a、bを、図1中の符号c、dで示すように真空管22のグリッドとグラウンドとにそれぞれ接続して、帰還信号Sfが真空管22のグリッドに供給される直前でグラウンドへ流すように構成しても良い。換言すれば、継電器80の接点84によって真空管22のグリッドを接地するように構成しても良い。いずれにしても、継電器80がオンすると帰還信号Sfは真空管22に(より具体的にはそのグリッドに)供給されなくなるので、自励発振式高周波電源10における自励発振は停止する。
【0054】
自励発振式高周波電源10における自励発振を短時間で停止させる観点から、上記継電器80には、高速動作するもの、例えば高速リードリレーを用いるのが好ましい。また、自励発振停止回路70を構成するスイッチ手段として、上記継電器80の代わりに、トランジスタ、サイリスタ等の半導体スイッチを設けても良い。そのようにすれば、継電器80の場合よりも更に短時間で自励発振式高周波電源10における自励発振を停止させることが可能になる。
【0055】
自励発振式高周波電源10を構成する自励発振用の増幅器としては、大出力の場合はこの実施形態のように真空管22を用いるのが現実的であるが、必要とする出力を出すことができるのであれば、他の増幅器、例えばトランジスタ(より具体的には電界効果トランジスタ)等を用いても良い。
【0056】
シェンケル回路50は、図1に示す実施形態では、回路が非対称である非対称形のシェンケル回路であるが、それに限られるものではなく、回路が対称である公知の対称形のシェンケル回路、例えば上記特許文献1の第1図または特許文献2の図3に記載されているような対称形のシェンケル回路でも良い。その場合も、シェンケル回路50以外の構成は上記と同様で良い。
【0057】
シェンケル回路50は、昇圧コイル30がこの実施形態のように二つの2次コイル32を有していると、一つの2次コイル32の場合に比べて約2倍近くの直流高電圧HVを発生させることができるけれども、必ずしも二つの2次コイル32を有している必要はなく、一つの2次コイル32を有するものでも良い。その場合は、当該一つの2次コイル32の保護用に放電ギャップ40を設けておいて、その放電を放電検出器60で検出するようにすれば良い。その他は上記実施形態の場合と同様である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】この発明に係る直流高圧電源装置の一実施形態を示す回路図である。
【図2】図1に示す直流高圧電源装置において、内部放電発生時の高周波電圧Vcの一例を包絡線で示す概略図である。
【図3】参考例として、図1に示す直流高圧電源装置において、自励発振停止回路を働かせていないときの、内部放電発生時の高周波電圧Vcの一例を包絡線で示す概略図であり、横軸の時間目盛は図2の5倍である。
【符号の説明】
【0059】
10 自励発振式高周波電源
30 昇圧コイル
31 1次コイル
32 2次コイル
36 リアクタンス素子
40 放電ギャップ
42 接地線
50 シェンケル回路
60 放電検出器
70 自励発振停止回路
Id 放電電流
Sd 放電検出信号
Vc 高周波電圧
Sf 帰還信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1次コイルおよび2次コイルを有している昇圧コイルと、
前記昇圧コイルの1次コイルに高周波電力を供給するものであって、前記昇圧コイルを共振コイルにしていて、前記2次コイルに発生する高周波電圧の一部が帰還信号として与えられて自励発振する自励発振式高周波電源と、
前記昇圧コイルの2次コイルに接続されていて、当該2次コイルに発生する高周波電圧の昇圧および整流を行って直流高電圧を出力するシェンケル回路と、
前記昇圧コイルの2次コイルに接続されていて、当該2次コイルを過電圧から保護する放電ギャップとを備えている直流高圧電源装置において、
前記放電ギャップの放電を検出して放電検出信号を出力する放電検出器と、
前記放電検出器からの放電検出信号に応答して、前記帰還信号が前記自励発振式高周波電源に与えられるのを阻止して前記自励発振式高周波電源における自励発振を停止させる自励発振停止回路とを備えていることを特徴とする直流高圧電源装置。
【請求項2】
前記放電検出器は、前記放電ギャップを通して流れる放電電流によって前記放電ギャップの放電を検出するものである請求項1記載の直流高圧電源装置。
【請求項3】
前記自励発振停止回路は、前記放電検出器からの放電検出信号に応答してオン状態になりかつそのオン状態を保持する自己保持回路と、この自己保持回路がオン状態のときにオン状態になって、前記帰還信号をグラウンドへ流す閉回路を形成するスイッチ手段とを有している請求項1または2記載の直流高圧電源装置。
【請求項4】
前記昇圧コイルは互いに位相が180度異なる2次電圧をそれぞれ発生する二つの2次コイルを有していて、両2次コイルの非接地側端は前記シェンケル回路に接続されており、
前記2次コイルの接地側端はリアクタンス素子をそれぞれ介して接地されていて、一方の2次コイルの接地側端に発生する高周波電圧が前記帰還信号として取り出されるよう構成されており、
両2次コイルには前記放電ギャップがそれぞれ接続されていて、両放電ギャップの接地側端は共通の接地線を経由して接地されており、
前記放電検出器は前記接地線に流れる放電電流によって両放電ギャップの放電を検出するものである請求項1、2または3記載の直流高圧電源装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate