説明

相乗抗菌システム

【課題】食料中の微生物数の増加を防ぐのに有効な量のナイシンおよびε−ポリ−L−リジンを含む抗菌組成物の提供。
【解決手段】0℃から50℃の温度で3日後の食料中の微生物数の増加を1log以下に防ぐのに有効な量のナイシンおよびε−ポリ−L−リジンを含み、ある種の食品媒介性病原微生物による毒形成を防ぐまたは遅らせる潜在能力を有する抗菌組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品中の微生物学的汚染物質の増殖を防ぐのに有効な抗菌組成物を対象とする。より詳細には、ナイシンとε−ポリ−L−リジンとのブレンドである抗菌組成物を提供している。ナイシンおよびε−ポリ−L−リジンは、相乗的に作用して食料中の微生物数の増加を防ぐ。
【背景技術】
【0002】
現在の食品科学技術者は、食品を保存するために数々の物理的、化学的、および生物学的プロセスならびに薬剤を利用する。有害な細菌および/または他の微生物を死滅させるまたは阻害し、それによって食品を保存し、腐敗を防ぐ多くの化学組成物が存在している。
【0003】
微生物学的汚染物質の増殖を阻害することによる食品保存は、しばしば困難である。食品に添加される化学組成物は、微生物数の増加を防ぐのに有効であるべきであり、食品に望ましくない風味または望ましくない感覚刺激特性を付加すべきではない。微生物の増殖を阻害するために食品中で別々に使用されていることが知られている2つの組成物は、ナイシンおよびε−ポリ−L−リジンである。
【0004】
ナイシンは、ラクトコッカス−ラクチス亜種ラクチス(Lactococcus lactis subsp. lactis)(以前は乳連鎖球菌(Streptococcus lactis)として知られていた)のような微生物によって産生されるペプチド様抗菌物質である。これは、様々な食品の安定化を助けるために使用されており、その構造は特許文献1に説明されている(特許文献1参照)。ナイシンの活性が最も高い製剤は、1グラム当り約4千万国際単位(IU)を含有する。ナイシンは、ヒトで知られている毒作用はなく、種々の調製乳製品で広く使用されている。
【0005】
他の食品を保存する際のナイシンの使用も報告されている。これらの用途の詳細は例えば、特許文献1、特許文献2、非特許文献1、特許文献3、非特許文献2、特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7、特許文献8、および特許文献9、非特許文献3、非特許文献4、および非特許文献5に記載されている(特許文献1〜9および非特許文献1〜5参照)。これらの特許および参考文献は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0006】
ε−ポリ−L−リジンの抗菌作用はよく知られている。ε−ポリ−L−リジンは、食品と一緒に混練することまたは食品に直接噴霧することによって、食品中の微生物の増殖を防ぐために使用されている(例えば、特許文献10参照。)。しかし、食品にε−ポリ−L−リジンを直接添加する場合、より量が多いと食品の味および物理的性質に悪影響を与えるので、一般に食品1kg当り約100mg以下に制限されている。
【0007】
ε−ポリ−L−リジンを生成する方法およびその使用は特許文献11、特許文献12、特許文献13、特許文献14、特許文献15、特許文献16、特許文献17、特許文献18、および特許文献3に記載されている(特許文献11〜18および3参照)。これらの特許は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0008】
【特許文献1】米国特許第5527505号明細書("Process for the Manufacture of Fermented Milk")
【特許文献2】米国特許第5015487号明細書("Use of Lanthionines for Control of Post - processing Contamination in Processed Meat")
【特許文献3】米国特許第4584199号明細書("Antibotulinal Agents for High Moisture Process Cheese Products")
【特許文献4】米国特許第6136351号明細書("Stabilization of Fermented Dairy Compositions Using Whey from Nisin - Producing Cultures")
【特許文献5】米国特許第6113954号明細書("Stabilization of Mayonnaise Spreads Using Whey from Nisin - Producing Cultures")
【特許文献6】米国特許第6110509号明細書("Stabilization of Cream Cheese Compositions Using Nisin - Producing Cultures")
【特許文献7】米国特許第6242017号明細書("Stabilization of Cooked Meat Compositions Stabilized by Nisin - Containing Whey and Methods of Making")
【特許文献8】米国特許第6613364号明細書("Stabilization of Cooked Meat and Vegetable Compositions Using Whey From Nisin - Producing Cultures and Product Thereof")
【特許文献9】米国特許出願第09/779756号明細書("Stabilization of Cooked Pasta Compositions Using Whey From Nisin - Producing Cultures")
【特許文献10】米国特許第5759844号明細書
【特許文献11】米国特許第6294183号明細書("Antimicrobial Resin Composition and Antimicrobial Resin Molded Article Comprising Same")
【特許文献12】米国特許第5294552号明細書("Strain mass - producing ε - poly - L - lysine")
【特許文献13】米国特許第5434060号明細書("Method for Producing ε - poly - L - lysine")
【特許文献14】米国特許第5759844号明細書("Antibacterial Articles and Methods of Producing the Articles");
【特許文献15】米国特許第5900363号明細書("Process for producing ε - poly - L - lysine with immobilized Streptomyces albulus")
【特許文献16】米国特許第5453420号明細書("Food preservative and production thereof")
【特許文献17】米国特許第5009907号明細書("Method for Treating Food to Control the Growth of Yeasts")
【特許文献18】米国特許第4597972号明細書("Nisin as an Antibotulinal Agent for Food Products")
【非特許文献1】Chung et al. (Appl. Envir. Microbiol., 55, 1329 - 1333 (1989))
【非特許文献2】Muriana et al. (J. Food Protection, 58:1109 - 1113 (1995))
【非特許文献3】Scott V. N. and Taylor S. L. "Effect of nisin on the outgrowth of Clostridium botulinum spores." J. Food Sci., 46: 117 - 120 (1981)
【非特許文献4】Scott V. N. and Taylor S. L. "Temperature, pH and spore load effects on the ability of nisin to prevent the outgrowth of Clostridium botulinum spores." J. Food Sci., 46: 121 - 126 (1981)
【非特許文献5】Broughton, J. D. "Nisin and its uses as a food preservative." Food Technology, 11, 100 - 17 (1990)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
食品の保存および腐敗の防止に有効だが食品の味および物理的性質に悪影響を与えない、食品に添加できる組成物の必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
食料中の微生物数の増加を防ぐのに有効な量のナイシンおよびε−ポリ−L−リジンを含む抗菌組成物を提供する。ナイシンおよびε−ポリ−L−リジンは相乗的に作用して、食品の味および物理的性質に影響しないで食品中の微生物数の増加を防ぐ。この相乗抗菌組成物は、リステリア菌(Listeria monocytogenes)、ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)、セレウス菌(Bacillus cereus)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、ラクトコッカス属(Lactococcus spp.)、乳酸桿菌属(Lactobacillus spp.)、リューコノストック属(Leuconostoc spp.)、連鎖球菌属(Streptococcus spp.)のような一般的な食品病原体および腐敗生物を阻害するために使用することができる。実施例に示したデータは、この組成物が食品病原体ボツリヌス菌(C.botulinum)および腐敗細菌ラクトバチラス−プランタルム(Lactobacillus plantarum)に対して特に有効であることを実証した。ナイシンおよびε−ポリ−L−リジンを単独で使用すると本質的に効果がない多くの場合(実施例を参照のこと)に、併用すると極めて有効な抗菌組成物がもたらされる。
【0011】
ナイシンとε−ポリ−L−リジンの併用は、約3日後の食料中の微生物数の増加を約1log以下に防ぐのに有効である。また、併用は、一部の食料において5日間で1cfu/g以下に微生物数を低減するのに有効であるので、一部の食品システムにおいて殺菌効果を示す。抗菌組成物は、抗菌組成物の重量に基づいて少なくとも約1ppm(百万分率)のナイシンおよび少なくとも約10ppmのε−ポリ−L−リジンを含む。本発明の重要な態様では、抗菌組成物は、抗菌組成物の重量に基づいて約1から約100ppm、好ましくは約5から約10ppmのナイシン、および約10から約1000ppm、好ましくは約50から約500ppmのε−ポリ−L−リジンを含む。ナイシン濃度は、1g当りの国際単位(IU/g)によっても計算でき、1ppmのナイシンは40IU/gになる。
【0012】
別の態様では、約14日後の食料中のナイシン活性を初期ナイシン活性の約90%以上に維持するのに有効な量のナイシンおよびε−ポリ−L−リジンを含む抗菌組成物を提供する。抗菌組成物は、抗菌組成物の重量に基づいて少なくとも約1ppmのナイシンおよび少なくとも約10ppmのε−ポリ−L−リジンを含む。本発明の重要な態様では、抗菌組成物は、抗菌組成物の重量に基づいて約1から約100ppm、好ましくは約5から約10ppmのナイシン、および約10から約1000ppm、好ましくは約50から約500ppmのε−ポリ−L−リジンを含む。
【0013】
ナイシンおよびε−ポリ−L−リジンは、ブレンドとしてまたは別々に食品中に組み込んでもよい。食料は、約3日後の食料中の微生物数の増加を約1log以下に防ぐのに有効な量のナイシンおよびε−ポリ−L−リジンを含む。この態様では、食料は、すべて食品組成物の全重量に基づいて少なくとも約1ppmのナイシン、好ましくは約5から約10ppmのナイシン、および少なくとも約10ppmのε−ポリ−L−リジン、好ましくは約50から約500ppmのε−ポリ−L−リジンを含むことができる。ナイシンおよびε−ポリ−L−リジンを添加できる食品は、ドレッシング、ソース、マリネード、乳製品、スプレッド、マーガリン、肉、パスタ、麺類、調理済みの米、ライスプディング、野菜および飲料を含む。
【0014】
別の態様では、ソース、ドレッシング、茶含有飲料を含む飲料、マリネード、乳製品、スプレッド、マーガリン、肉などの食料中の微生物数の増加を防ぐのに有効な量で、ナイシンをε−ポリ−L−リジンと併せて利用する方法を提供する。この方法は、約3日後の食料中の微生物数の増加を約1log以下に防ぐのに有効である。この方法は、約1ppmから約100ppmのナイシンと約10から約500ppmのε−ポリ−L−リジンとのブレンドを食料に加えるステップを含む。ナイシンとε−ポリ−L−リジンとのブレンドを食料に加えてもよく、あるいはナイシンおよびε−ポリ−L−リジンを別々に加えてもよい。ナイシンおよびε−ポリ−L−リジンは、約0から約50℃までの範囲内の温度を有する食品中の微生物数の増加を防ぐまたは低減させるのに有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
ナイシンとε−ポリ−L−リジンの併用は、食品保存および食品の腐敗を防ぐのに有効な抗菌組成物として相乗的に作用する。ナイシンおよびε−ポリ−L−リジンは、ブレンドしてよく、あるいは食品に直接加えてもよく、あるいは例えば、野菜用の包装水のような、食品が包装されている媒質中に含有されていてもよい。抗菌組成物は、約0から約50℃において、約3日後の食料中の微生物数の増加を約1log以下に防ぐことができるので、低温で有効である。この組成物はまた、ある種の食料では1cfu/g以下に微生物数を低減するのに有効であるので、殺菌性である。ナイシンおよびε−ポリ−L−リジンの市販の製剤を利用してもよい。
【0016】
定義
本明細書で使用される際は、「食品保存」という用語は、微生物による食品の腐敗を遅らせるまたは防ぐ方法を含む。食品保存は、食品を摂取するのに安全に保ち、より食品の風味を落とす栄養素の劣化または感覚刺激変化を阻害または防止する。
【0017】
本明細書で使用される際は、「食品腐敗」という用語は、味、臭い、食感または外観の変化を含む、よりその風味を落とす食品の状態の任意の変質を含む。
【0018】
ナイシン
本発明の組成物にナイシンの商業用の製剤を利用してもよい。例えば、1グラム当り100万IUに相当する約2.5%の純ナイシンを含有するNisaplin(登録商標)は、Aplin&Barrett Ltd.(イギリス、トローブリッジ(Trowbridge))およびDanisco A/S(デンマーク)から入手可能である。同様に1グラム当り約100万IUのナイシンを含有するChrisin(登録商標)は、Chr.Hanson A/S(デンマーク)から入手可能である。Nisaplin(登録商標)は、典型的には、ナイシン2.5%、塩化ナトリウム77.5%、タンパク質12%、炭水化物6%、および水分2%を含み、ナイシン活性が約1×10IU/gの天然抗菌組成物である精製したナイシン製剤である。1ppmは40IU/gと等しいので、製品中のナイシン濃度はppmまたはIU/gとして表すことができる。
【0019】
ε−ポリ−L−リジン
ε−ポリ−L−リジンは、遊離型、あるいは塩酸、硫酸もしくはリン酸のような無機酸または酢酸、プロピオン酸、フマル酸、リンゴ酸もしくはクエン酸のような有機酸の塩型として使用することができる。これらの無機酸または有機酸の塩型の両方ならびに遊離型は、同様の抗菌作用を有している。
【0020】
ε−ポリ−L−リジンは、以下の構造を有しており、
【0021】
【化1】

【0022】
式中、nは、約25から約35である。
【0023】
ε−ポリ−L−リジンは、日本のチッソ株式会社から商標名Save−ory(商標)GK128として入手可能である。この商業用の製剤は、有効抗菌剤であるε−ポリ−L−リジン1.0%、グリセリン30%、水68.8%、pH調整のための痕跡量の有機酸、および乳化剤を含む。Save−ory(商標)製品は、日本で賞味期限延長のために寿司および調理済みの米に使用されている。
【0024】
抗菌組成物の調製および使用
すべて組成物の全重量に基づいて約1ppmから約100ppm、好ましくは5ppmから約10ppmのナイシンおよび約10から約1000ppm、好ましくは50から約500ppmのε−ポリ−L−リジンを有する組成物を提供するのに有効な量でナイシンとε−ポリ−L−リジンとを一緒にブレンドすることによって、抗菌組成物を調製することができる。この抗菌組成物は、食品中、少なくとも約1ppm、好ましくは約5から約10ppmのナイシン、および少なくとも約10ppm、好ましくは約50から約500ppmのε−ポリ−L−リジンのレベルをもたらすのに有効な量で食品に加えることができる(重量パーセントは食料の全重量に基づく)。あるいはまた、ナイシンおよびε−ポリ−L−リジンを、同一濃度レベルをもたらすのに有効な量で食料に別々に加えてもよい。
【0025】
様々な食料中のナイシンとε−ポリ−L−リジンの併用によってもたらされた比較の相乗抗菌活性を以下に示す。
【0026】
【表1】

【実施例】
【0027】
(実施例1)ナイシンおよびε−ポリ−L−リジンによるボツリヌス菌芽胞の成長の阻害
細菌芽胞から栄養細胞への成長は、一般に、以下のステージを含む:芽胞発芽、芽胞壁の脱落、栄養細胞への発芽後成育および細胞分裂。様々な防腐剤が、様々なステージで、細菌芽胞が増殖性栄養細胞に成長するのを抑制するのに作用する。この実施例では、アガーウェルアッセイ(agar well assay)を使用して、ボツリヌス菌芽胞の栄養細胞への成長の抑制におけるナイシンおよびε−ポリ−L−リジンの全抗菌活性を測定した。4種の異なるボツリヌス菌株を指標として使用した。これらの株は、タンパク分解性毒A型株、タンパク分解性毒B型株、非タンパク分解性毒B型株および非タンパク分解性毒E型株を含んだ。ボツリヌス菌芽胞を約10〜10芽胞/mlの濃度レベルで含有するブレインハートインフュージョン(BHI)寒天培地を使用してペトリプレートを作製した。指標株を培地に加える前に、芽胞調製物をまず熱ショックにかけて芽胞を活性化し、存在している可能性のある栄養細胞を除去した。寒天培地中に無菌的に直径6mmの穴を開けた。
【0028】
商業用のナイシン製剤Nisaplin(登録商標)(Danisco製)および商業用のε−ポリ−L−リジン製品GK128(チッソ製)を所望の濃度に水で希釈することによってナイシンおよびε−ポリ−L−リジンの溶液を作製した。
【0029】
ピペットによって穴に試料を1穴当り40μlの割合で注いだ。また、(いかなるpH阻害効果も排除するために)NaOHおよびHClを用いて溶液のpHを5.5に調整した。次いでペトリ皿を嫌気条件下30℃で24時間インキュベートした。インキュベーション後、指標株は成長しており、認識できる阻止域を計測した。第1表は、ナイシンおよびε−ポリ−L−リジンならびにそれらの併用の試料によって形成された阻止域を示す。
【0030】
結果は、所与のレベルにおいてナイシンまたはε−ポリ−L−リジンのいずれも、単独では試験したすべてのボツリヌス菌株に対してはっきりしたまたは強い阻止域を示さなかったことを示す。それらは、最適インキュベーション条件下で芽胞からのボツリヌス菌の成長を阻害することができなかった。しかし、併用すると、それらは試験したボツリヌス菌株すべての芽胞発芽後成育の阻害をはっきりと示した。これらのデータは、芽胞からのボツリヌス菌の発芽後成育およびその後の毒形成の抑制における、これら2つの抗菌成分間の強力な相乗効果を示唆している。
【0031】
【表2】

【0032】
(実施例2)ナイシンおよびε−ポリ−L−リジンによるボツリヌス菌栄養細胞の成長の阻害
この実施例では、実施例1で説明したアガーウェルアッセイを使用して、栄養細胞からのボツリヌス菌の成長の抑制におけるナイシンおよびε−ポリ−L−リジンの抗菌活性を測定した。4種の異なるボツリヌス菌株を指標として使用した。これらの株は、タンパク分解性毒A型株、タンパク分解性毒B型株、および2種の非タンパク分解性毒E型株を含んだ。これらの株の熱活性化芽胞をBHIブロス中30℃で24時間インキュベートし、その後新しいBHIブロス培地に移し、30℃で終夜インキュベーションして栄養細胞をもたらした。これらのボツリヌス菌栄養細胞を約3×10cfu/mlの濃度レベルで含有するBHI寒天培地を使用してペトリプレートを作製した。寒天培地中に直径6mmの穴を開けた。実施例1に記載の手順に従ってナイシンおよびε−ポリ−L−リジンの試料を調製し、(いかなるpH阻害効果も排除するために)NaOHおよびHClを用いてpHを5.5に調整した。それらをピペットによって穴に1穴当り40μlの割合で注いだ。次いでプレートを嫌気条件下30℃で24時間インキュベートした。インキュベーション後、指標株は成長しており、認識できる阻止域を計測した。第2表は、ナイシンおよびε−ポリ−L−リジン単独ならびに併用の試料によって形成された阻止域を示す。
【0033】
【表3】

【0034】
結果は、最適成長条件下でナイシンまたはε−ポリ−L−リジンは単独では栄養細胞からのボツリヌス菌株の成長に対してはっきりしたまたは強い阻害を示さなかったが、それらを併用すると、試験したボツリヌス菌のすべての株に対してはっきりした阻害が示されたことを示唆している。これらのデータは、栄養細胞からのボツリヌス菌の成長に対するナイシンとε−ポリ−L−リジンの間の強力な相乗作用を示唆している。
【0035】
(実施例3)低温におけるナイシンおよびε−ポリ−L−リジンによるボツリヌス菌(C.botulinum)栄養細胞の成長の阻害
いくつかの場合では、温度は、細菌の成長の阻害における抗菌効果に影響を与えることになる。この実施例では、バイオアッセイ法は、プレートインキュベーション条件が異なることを除いては、実施例2に記載のものと同じであった。試験株は、非タンパク分解性毒E型株のみを含んだ。ナイシンおよびε−ポリ−L−リジンの試料も、実施例2に記載のように調製し、それらをピペットによって穴に1穴当り40μlの割合で注いだ。次いでプレートを13℃で48時間にわたって嫌気的にインキュベートした。インキュベーション後、指標株は成長しており、認識できる阻止域を計測した。第3表は、ナイシン、ε−ポリ−L−リジンおよびそれらの併用の試料によって形成された阻止域を示す。
【0036】
【表4】

【0037】
実施例1および2における観察と同様に、ナイシンとε−ポリ−L−リジンの併用は、13℃における非タンパク分解性ボツリヌス菌の成長の阻害においてはっきりした相乗効果を示した。
【0038】
(実施例4)見かけのナイシン活性に対するε−ポリ−L−リジンの作用
この実施例では、標準的なアガーウェルアッセイを使用して、ナイシン活性ならびにラクトコッカス−ラクチス亜種クレモリス(Lactococcus lactis subsp. cremoris)の指標株に対する直接的な阻止域を決定した。標準的なアガーウェルアッセイでは、終夜活性化したL.ラクチス亜種クレモリス(L.lactis subsp. cremoris)を10cfu/mlの濃度でBHI寒天培地中に混合し、この培地を、プレートを作製するために使用した。培地20mlを各ペトリ皿(90×15mm)に注いだ。サイズが6mmの6から7のウェルを各皿に作製した。実施例1に記載の手順に従ってナイシンおよびε−ポリ−L−リジンの試料を調製した。試料をウェルに加える前に、それらをpH2.0のバッファーで5倍希釈し、15分間煮沸した。室温まで冷却した後、試料40μgを皿中の各ウェルに加えた。また、正確な比較のために、同じ方法で標準ナイシン溶液を調製した。次いでプレートを30℃で終夜嫌気的にインキュベートし、阻止域サイズを計測した。ナイシン濃度と域直径の対数との直線関係を想定した標準溶液で作成した標準曲線に基づいてナイシン活性を計算した。直接的なウェルアッセイでは、プレートおよびウェルは標準的なウェルアッセイで説明したのと同じ方法で作製したが、ナイシンおよびε−ポリ−L−リジンの試料は実施例2に記載したように調製し、40μg/ウェルのレベルでウェルに直接加えた。プレートを30℃で終夜嫌気的にインキュベートし、阻止域を読み取った。第4表は、直接的なウェルアッセイおよび標準的なナイシン活性アッセイの結果を示す。
【0039】
【表5】

【0040】
第4表は、見かけのナイシン活性がε−ポリ−L−リジンによって著しく増大したことを示す。
【0041】
(実施例5)インゲン豆包装水中でのラクトバチラス−プランタルムの増殖の阻害
プレートバイオアッセイで得られたナイシン−ε−ポリ−L−リジン相乗作用の観察値を確かめるため、かつそれらの食品における潜在的な用途を検証するために、簡単なモデル食品システムを使用した。この実施例では、サラダドレッシングから単離した一般的な食品腐敗生物ラクトバチラス−プランタルム(株を標的株として選択し、インゲン豆包装水(オートクレーブ済み、pH5.2)をモデル液体食品システムとして使用した。活性化したL.プランタルム(L.plantarum)細胞をインゲン豆包装水中に1.0×10cfu/mlのレベルで接種した。包装水は様々な濃度のナイシンおよび/またはε−ポリ−L−リジンを含んでいた。接種した試料を30℃で1週間インキュベートした。L.プランタルムの生細胞をBHIプレート上で周期的に数えた。結果を第5表にまとめて示す。
【0042】
第5表のデータは、ナイシンまたはε−ポリ−L−リジンは、単独ではL.プランタルムの初期の増殖に対する阻害が極めて限られており;最高でもインキュベーション7日後には、阻害が本質的になかったことを示唆している。ナイシンとε−ポリ−L−リジンの併用は、このモデル液体システムにおいてL.プランタルムの増殖を著しく阻害した。これらの結果は、バイオアッセイ実験の結果を裏付け、ある種の病原菌および腐敗細菌に対するナイシンとε−ポリ−L−リジンとの間の強力な相乗抗菌活性を示唆した。液体食品モデルによる結果は、食品および飲料中の病原体および腐敗制御のための相乗抗菌システムの潜在的な用途も示唆している。
【0043】
【表6】

【0044】
(実施例6)乳製品におけるε−ポリ−L−リジンによるナイシンの抗菌活性の増大
乳製品に基づく食品システムにおける本発明の有効性を試験するために、乳製品(すなわちセイバリークリーム)を選択した。通常の原料混合物に抗菌成分を加えてセイバリークリームを調製した。実施例4に記載した標準的なバイオアッセイ法に従ってナイシン活性を測定した。第6表は、ナイシンおよびε−ポリ−L−リジンを別々におよび併せて含有するセイバリークリームの測定可能なナイシン活性の結果を示す。このデータは、ε−ポリ−L−リジンによってこの乳製品中の測定可能なナイシン活性が増大したが、その程度は非乳製品の系(すなわち実施例4および5で観察したインゲン豆包装水)におけるものよりも少なかったことを示唆する。これは、乳タンパク質のε−ポリ−L−リジンとの相互作用に起因する可能性があり、したがって非乳製品システムで発現したその有効性が低減する。これらの結果は、食品システムにおける本発明の用途は、ある種の制限を有する可能性を示している。それは、無タンパク質食品または低タンパク質食品、およびおそらく低脂肪システムにおいてはるかに良く機能するようであり、野菜、デンプンベースの食品、果汁、飲料などのような食品における用途により高い潜在能力がある可能性がある。
【0045】
【表7】

【0046】
(実施例7)レディトゥドリンク飲料におけるε−ポリ−L−リジンによるナイシンの抗菌活性の増大
この実施例では、ナイシンおよびε−ポリ−L−リジンを果汁含有のレディトゥドリンク(RTD)飲料に加えて、相乗抗菌活性が観察できるかどうかを見た。抗菌活性を、実施例1に記載の標準的なプレートウェル拡散アッセイを用いて測定した。この結果を第7表に示す。
【0047】
【表8】

【0048】
表7の結果は、RTD飲料中の極めて低レベルのε−ポリ−L−リジンの存在によって見かけのナイシン活性が著しく増大したことを明らかに示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
0℃から50℃の温度で3日後の食料中の微生物数の増加を1log以下に防ぐのに有効な量のナイシンおよびε−ポリ−L−リジンを含み、ある種の食品媒介性病原微生物による毒形成を防ぐまたは遅らせる潜在能力を有することを特徴とする抗菌組成物。
【請求項2】
少なくとも1ppmのナイシンおよび少なくとも10ppmのε−ポリ−L−リジンを含むことを特徴とする、請求項1に記載の抗菌組成物。
【請求項3】
前記ε−ポリ−L−リジンは、
【化1】

の構造を有し、
式中、nは、25から35であることを特徴とする請求項1に記載の抗菌組成物。
【請求項4】
14日後の食料中のナイシン活性を初期ナイシン活性の90%以上に維持するのに有効な量のナイシンおよびε−ポリ−L−リジンを含み、ナイシン活性がIU/gで表されることを特徴とする抗菌組成物。
【請求項5】
少なくとも1ppmのナイシンおよび少なくとも10ppmのε−ポリ−L−リジンを含むことを特徴とする、請求項4に記載の抗菌組成物。
【請求項6】
前記ε−ポリ−L−リジンは、
【化2】

の構造を有し、
式中、nは、25から35であることを特徴とする請求項4に記載の抗菌組成物。
【請求項7】
0℃から50℃の温度で3日後の食料中の微生物数の増加を1log以下に防ぐのに有効な量のナイシンおよびε−ポリ−L−リジンを含むことを特徴とする食料。
【請求項8】
前記食料は、14日後の食料中のナイシン活性を初期ナイシン活性の90%以上に維持するのに有効な量のナイシンおよびε−ポリ−L−リジンを含み、そのナイシン活性がIU/gで表されることを特徴とする、請求項7に記載の食料。
【請求項9】
前記食料の重量に基づいて少なくとも1ppmのナイシンおよび少なくとも10ppmのε−ポリ−L−リジンを含むことを特徴とする、請求項7に記載の食料。
【請求項10】
前記ε−ポリ−L−リジンは、
【化3】

の構造を有し、
式中、nは、25から35であることを特徴とする請求項7に記載の食料。
【請求項11】
前記食料は、ドレッシング、ソース、マリネード、乳製品、スプレッド、マーガリン、肉、パスタ、麺類、調理済みの米、ライスプディング、野菜および飲料からなる群から選択されることを特徴とする、請求項7に記載の食料。
【請求項12】
食料中の微生物数の増加を防ぐ方法であって、3日後の前記食料中の微生物数の増加を1log以下に防ぐのに有効な量でナイシンおよびε−ポリ−L−リジンを食料と一緒にブレンドする工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項13】
前記ナイシンおよびε−ポリ−L−リジンは、前記食料に一緒に加えられることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ナイシンおよびε−ポリ−L−リジンは、前記食料に別々に加えられることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記ナイシンおよびε−ポリ−L−リジンは、0から50℃の温度の食料中の微生物数の増加を防ぐのに有効であることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記食料の全重量に基づいて少なくとも1ppmのナイシンおよび少なくとも10ppmのε−ポリ−L−リジンであることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記ε−ポリ−L−リジンは、
【化4】

の構造を有し、
式中、nは、25から35であることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項18】
前記食料は、ドレッシング、ソース、マリネード、乳製品、スプレッド、マーガリン、肉、パスタ、麺類、調理済みの米、ライスプディング、野菜および飲料からなる群から選択されることを特徴とする、請求項12に記載の方法。

【公開番号】特開2006−325590(P2006−325590A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−136774(P2006−136774)
【出願日】平成18年5月16日(2006.5.16)
【出願人】(501360131)クラフト・フーヅ・ホールディングス・インコーポレイテッド (49)
【氏名又は名称原語表記】KRAFT FOODS HOLDINGS, INC.
【住所又は居所原語表記】Three Lakes Drive, Northfield, Illinois 60093 United States of America
【Fターム(参考)】