説明

省エネルギー、揮発性金属除去及びスラグコントロールのための酸化鉄回収炉の操作。

【課題】省エネルギーでの酸化鉄回収炉の操作方法、揮発性金属の除去方法、及びスラグのコントロール方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、鉄及び揮発性金属を含有する供給原料としての、揮発性金属を含有する製鋼転炉ダスト及び任意に他の物質を処理する方法であって、鉄含有物質をバッチ式、連続式又は半連続式に溶鉄が入っている溝形誘導炉中に供給することと、揮発性金属含有物質をバッチ式、連続式又は半連続式に溝形誘導炉中に供給することと、誘導炉に供給する酸素の量を制御して、i)誘導炉の溶融浴上のヘッドスペースの温度、及びii)ヘッドスペース中の二酸化炭素の量、の少なくとも一つを制御することと、バッチ式、連続式又は半連続式に鉄含有製品を得ることと、揮発性金属を回収することと、を含んでなる方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製品の製造ならびに鉄及び揮発性金属の回収を行いつつ、廃棄物(例えば、アーク炉ダスト(EAF)、金属酸素転炉汚泥、ミルスケール、亜鉛メッキ汚泥/ダスト、電池などの原料)を処理する方法及び工程に関する。特に、本発明は、廃棄物を良好なエネルギー効率で処理する方法及び工程であって、揮発性金属、スラグ及び鉄の分離を含む方法及び工程に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼の製造などの製造工程中に多くの廃棄物が生じる。鋼の製造中に、アーク炉(EAF)ダスト及び金属酸素転炉(BOF)ダスト/汚泥は、廃棄又はリサイクルのために、捕捉、回収される。
【0003】
これらダストの主成分は、鉄(60質量%以下)及び亜鉛(30質量%以下)であって、通常、酸化物の形で存在する。さらに、これらのダストは少量のカルシウム、マグネシウム、マンガン、塩化物、鉛、カドミウムなどの微量元素を含有する。鉄鋼業では、この種のダストが、製鋼施設で製造される鋼1トン当たり約13.608kg(30ポンド)〜18.144kg(40ポンド)発生する。1997年の米国では、これらダストの概算発生量は100万トンを上回り、そのほぼ半分が埋め立てごみ処理地にて廃棄処理される。
【0004】
EAFダストは、米国の環境規制下、有害廃棄物(K061)としてリストアップされている。この規制プログラムの下、EAFダストは、リサイクルか廃棄処理かに関わらず、特別な記録の作成、取り扱い要件、及び処理費用の制約を受ける。BOF汚泥/ダストは、有害廃棄物としてはリストアップされていないが、適当な再利用の選択肢がないため、この物質を大量に埋め立てごみ処理地で廃棄処理することになる。
【0005】
EAFダスト及びBOF汚泥/ダストは多量の鉄を含有するため、くず鉄、溶銑、焼結ダストなどの、製鋼施設にある酸化鉄のような他の鉄含有物質の代用品として、製鋼工程で直接使用するための貴重な原料となる。さらに、EAFダストは多量の亜鉛を含有し、亜鉛製造工程へ供給する原料としての価値を有する。BOF汚泥/ダストの亜鉛含量は比較的少ないが、その含まれる亜鉛を亜鉛製品として再利用するために回収できる。
【0006】
既存のEAFダストの処理方法には、ベルツ回転炉、回転炉床式加熱炉、及び噴射型反応器処理にてEAFダストを処理し、亜鉛を回収する工程が含まれる。EAFダストはまた、埋め立てごみ処理地での処理前に安定化工程を経なければならない。少量のBOF汚泥/ダストは、BOF製鋼の工程中にいくつかの位置で戻されたり、いくらかは他の方法でリサイクルされたりもするが、大部分のBOF汚泥/ダストは、埋め立てごみ処理地で廃棄物として処理される。
【0007】
一般的に、多量の亜鉛を含有するEAFダストを既存の亜鉛回収手順に委ね、少量の亜鉛を含有するEAFダストを廃棄物として処理するために埋め立てごみ処理地へ送ることが、経済的な場合がある。溶銑は、BOF施設における唯一のエネルギー源であるため、BOF工程での使用にエネルギーを必要とするスクラップなどの固体原料は、限られた量(全鋼生産率のおよそ20%)だけが原料混合物中に添加できる。これにより、BOF製鋼工程に戻すことができるBOF汚泥/ダストの量が制限される。その結果、BOF汚泥/ダストの一部が、通常、処理のために埋め立てごみ処理地に送られる。
【0008】
EAFダスト及びBOF汚泥/ダストから亜鉛及び/又は鉄を回収する他の処理方法がいくつか試みられたが、その成果は限られたものであった。かかる処理には、熱処理、湿式製錬処理又はそれらの組み合わせが含まれる。ほとんどの場合、それらの処理は好適に機能しないものであった。なぜなら、それらは構築に費用がかかり、操作するには費用がかかり、及び/又は全てのEAFダスト及びBOF汚泥/ダスト物質の処理には使用できないからであり、その結果、未処理の廃棄物を埋め立てごみ処理地で処理する必要性が残る。
【0009】
さらに、EAFダストを扱ういかなる処理も、資源保全回収法(「RCRA」)の下、重要な環境規制要件を適用される。これは、現行の処理が、有害廃棄物のEAFダストの処理を唯一の目的として、特別に開発されたという事実に起因する。鉄鋼業界では今日、EAFダストは有害廃棄物としてリストアップされており、それにより、何らかのタイプの供給原料又は反応物としてEAFダストを使用すれば、必然的に有害物質の形成、生成又は保存をもたらすであろうと論理的に結論付けられる。
【0010】
1999年5月17〜19日にPittsburgh.Paで開催されたGorham/Inertechが主催する会議におけるSouthwickによるプレゼンテーション「製鋼所廃棄物からの鉄及び亜鉛の回収」では、工場廃棄物から鉄と亜鉛を回収するための様々な処理に関する概要が提案された。さらに、米国特許第4,605,435号、第5,013,532号、第5,082,493号、第5,435,835号、第5,439,505号、第5,493,580号、第5,538,532号、第5,667,553号、第5,879,617号、第5,993,512号、第6,102,982号、第6,120,577号及び第6,221,124号では、EAFダストを処理する様々な方法及び装置に関する記載が存在する。
【0011】
Zoppiによる米国特許第6,136,059号では、EAFダストの処理を唯一の目的とする誘導炉の使用が開示されている。すなわち、必須の酸化還元反応のために「ヒール」を提供した後に誘導炉中へ原料を供給しても、鋳造される鉄の半分量にしか至らず、またそれを補給せずに、その代わりに石炭及び少量のスラグ剤とともにEAFダストのペレットを添加するというものである。Zoppiは、従来技術における誘導炉は一般的に、鋼の二次製品の製錬手段及び非鉄金属の処理方法としてのみ唯一使用されていることに言及している。
【0012】
Bratina及びFehsenfeldによる米国特許第6,831,939号では、Zoppiによる特許を発展させた技術が開示されており、その方法では、誘導炉を操作して溶銑及び銑鉄製品の両方を製造し、鉄及び揮発性金属を含有する物質を処理して鉄を回収し、誘導炉の操作温度において揮発性の金属を濃縮することが含まれる。該方法は、金属酸化物質及び還元物質の両方を誘導炉に添加して混合することに基づく。処理の効率は、使用する誘導炉により規定される。
【0013】
製錬工程における誘導炉の使用であって、鋼処理ダストの使用を伴うものが記載されている他の特許としては、米国特許第5,980,606号、第5,304,230号、第5,249,198号、第5,188,658号、第4,878,944号、第4,802,919号、第4,762,554号、第4,612,041号及び第4,403,327号が挙げられる。
【0014】
本発明は、良好なエネルギー効率で、かつ、改良された揮発性金属の分離と改良されたスラグ粘度の制御を伴う態様で金属製品を製造し、鉄と揮発性金属とを回収しながら、廃棄物を処理するための、誘導炉の設計法及び操作法とに関する。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0015】
以下に詳細に記載する本発明の様々な特徴、特性、及び実施形態では、本発明は、鉄及び揮発性金属を含有する供給原料として、揮発性金属を含有する製鋼転炉ダスト及び任意に他の物質を処理する方法であって、溶鉄が入っている溝形誘導炉中にバッチ式、連続式又は半連続式に鉄含有物質を供給することと、バッチ式、連続式又は半連続式に溝形誘導炉中に揮発性金属含有物質を供給することと、制御された量の酸素を誘導炉に供給して、i)誘導炉の溶融浴上のヘッドスペースの温度、及びii)ヘッドスペース中の二酸化炭素の量、の少なくとも一つを制御することと、バッチ式、連続式又は半連続式に鉄含有製品を得ることと、揮発性金属を回収することと、を含む方法を提供する。
【0016】
本発明はまた、鉄及び揮発性金属含有物質を処理する方法であって、溝形誘導炉を準備することと、鉄含有物質を連続又は半連続式に溝形誘導炉に供給することと、鉄含有物質が入っている溝形誘導炉中に揮発性金属成分とともに揮発性金属を含有する供給原料を供給することと、制御された量の酸素を誘導炉に供給して、i)誘導炉の溶融浴上のヘッドスペースの温度、及びii)ヘッドスペース中の二酸化炭素の量、の少なくとも一つを制御することと、連続式又は半連続式に鉄含有製品を得ることと、揮発性金属を回収することと、を含む方法を提供する。
【0017】
本発明はさらに、溝形誘導炉を操作する方法であって、鉄を含有する供給原料をバッチ式、連続式又は半連続式に溝形誘導炉に供給することと、揮発性金属含有物質を供給原料として、バッチ式、連続式又は半連続式に溝形誘導炉に供給することと、制御された量の酸素を誘導炉に供給して、i)誘導炉の溶融浴上のヘッドスペースの温度、及びii)ヘッドスペース中の二酸化炭素の量、の少なくとも一つを制御することと、連続式又は半連続式に溝形誘導炉から鉄を回収することと、揮発性金属を回収することと、を含む方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は広義には、金属製品を製造し、鉄と揮発性金属とを回収しつつ、廃棄物を処理するための誘導炉の使用を含む方法及び装置に関する。本発明は具体的には、良好なエネルギー効率で、かつ、改良された揮発性金属の分離と改良されたスラグ粘度の制御を伴う態様で金属製品を製造し、鉄と揮発性金属とを回収しながら、廃棄物を処理するための、誘導炉の設計法及び操作法が含まれる。本発明で処理可能な廃棄物としては、製鋼操作から生じる鉄及び揮発性金属含有物質(例えば、EAFダスト及びBOF汚泥/ダスト)が挙げられ、誘導炉への供給物流として使用することで、鉄の回収、濃縮、及び/又は揮発性金属(例えば、亜鉛、鉛、カドミウムなど)の回収が可能となる。処理可能な他の廃棄物は、ミルスケール、亜鉛メッキ汚泥/ダスト、電池などの物質を含む。
【0019】
本発明で使用する誘導炉の構成により、1)転炉中への過剰空気の流量を制御することによって、転炉のヘッドスペースのガス温度を高温にした状態で転炉を操作すること、2)転炉を操作して最小量の空気によってガス・ヘッドスペース中の一酸化炭素の一部を燃焼させてヘッドスペースにさらに熱を供給し、また亜鉛その他の揮発性金属の酸化を防止するためにガス・ヘッドスペースの還元状態を維持すること、3)シリカ(あるいは石灰)のような薬剤を別個の原料として添加するか、あるいは、転炉に供給するブリケット混合物中に添加して混合する工程で形成されるスラグの化学的性質を制御することで、転炉から容易に除去できる流動体のスラグ物質を製造すること、4)供給位置をガスとスラグを除去する位置の反対側に設けることにより、プラグ流反応器における処理に要する反応時間を延長させ、処理におけるスラグと供給原料とのより完全な分離を可能にすること、ならびに、5)処理工程からの熱の損失を減少させ、耐熱性ライニング材の交換時期の間隔を長期化できる、より厚みのある耐熱性部分の使用により、エネルギー効率のより良好な転炉の使用が可能となる、溝型誘導炉を提供すること、が可能となる。
【0020】
本発明でエネルギー効率及び分離効率が改良されることにより、従来の処理と比較し、より経済的な方法で、より広範な種類の供給原料を処理できるシステムの提供がなされる。
【0021】
本発明に使用する装置は、転炉本体の底部又は他の適当な下部に誘導部を有する溝型誘導炉を、主な構成要素として含む。この特徴により、転炉の本体(ドラム部分)と耐熱性のより厚い層が組み合わさり、それによってエネルギー効率のより良好な方法での転炉の設計が可能となる。また、この耐熱性の部分がより厚いことにより、耐熱性部分の交換までの期間が長期化するという効果も奏される。このタイプの誘導炉の使用自体には独自性はないが、本発明に記載するように、それを、金属製品を製造し、鉄と揮発性金属とを回収するための誘導炉として使用することは、本明細書中に記載する具体的な特徴と操作方法とから明白なように、従来技術における処理方法に対して重要な改良をもたらすとして独自性を有するものである。
【0022】
また、溝型誘導炉の使用により、エネルギー効率の改良という形で更なる改良がもたらされる。転炉の本体は閉鎖可能な水平ドラムであり、それにより反応処理中の空気の流れを制限し、制御することができる。ドラム中への空気流は、転炉中で加熱された空気の量を制限したり、あるいは転炉上のガス制御システムによって除去することで制限され、それにより誘導炉操作において通常行われているように、空気中への熱の放散が減らされる。転炉に供給する空気により、転炉中の金属還元処理によって発生する一酸化炭素の一部が燃焼する。一酸化炭素のこの燃焼により、転炉のガス・ヘッドスペースにさらに熱が供給され、それによりヘッドスペースが通常の操作よりも高温の状態で転炉を操作できる。本発明の処理によってガス・ヘッドスペースが高温(約1,300°C〜約1,500°Cに及ぶ)となることにより、転炉浴の表面からの熱の損失を防止し、あるいはかなり減少させ、その結果、浴の表面上のスラグをより高温に維持できる。
【0023】
このシステムにおける金属の酸化還元処理の結果形成された一酸化炭素が完全に酸化されないレベルでの空気の制限を望む場合にも、それに相応した転炉中への空気の流れの制御も可能である。ガス・ヘッドスペース又は転炉を過剰な一酸化炭素で保つことによって、ガスが転炉から排出されるまで、還元状態でシステムを操作できる。還元状態で操作する場合、亜鉛、鉛、カドミウム(蒸気の形)などの揮発性金属は、除去されるまでの間、転炉内での酸化が防止される。この操作方法により、酸化された揮発性金属の転炉から除去されるスラグへの沈着が抑制される。結果として、処理の間、スラグが清澄な状態で維持される。
【0024】
スラグを清澄な状態で維持することに加えて、本発明の方法では、誘導炉処理から除去がより容易な、より高品質の流動スラグを生成することが可能となる。これは、3つの方法により達成される。第一に、上述のように、転炉への空気流を本発明に従って制御することで達成され、それにより高い温度のガス・ヘッドスペースが形成される。ガス・ヘッドスペースのこの高い温度は、スラグの表面に熱を供給する。誘導炉の通常の操作では得られないガス・ヘッドスペースの高い温度は、スラグ表面からの自動的な熱の損失を防止するか、又は実質的に逆に作用させ、それによりいずれの場合もスラグ層に対して高い温度が供給される。その結果、スラグの流動性は、誘導炉の典型的な操作方法と比較して増大する。
【0025】
第2に、本発明によれば、スラグ層の化学的性質を調整することにより達成でき、それにより、より流動性を有するスラグが得られる。この方法は、シリカ、石灰又は他の物質もしくは若干の周知のスラグ化剤を添加してスラグの流動性及び品質を改良することによって可能となる。
【0026】
第3に、本発明で使用する誘導炉において、転炉の一端から原料を供給し、反対端からスラグ/ガスを除去することにより達成される。このような構成を採ることにより、処理に必要な滞留時間の増加をもたらす反応ゾーンが提供される。この滞留時間の増加は、供給位置からスラグ排出位置まで、スラグが鉄浴の表面上をプラグ流れ移動することによって、もたらされる。滞留時間の存在により、スラグが転炉から除去される前に、揮発性金属が反応してスラグ表面から離れるための時間が増加する。したがって、除去されたスラグは揮発性金属濃度が低く、道路工事用の凝集材として利用可能な程度の適当な化学的性質を有している。
【0027】
本発明を図1〜6を参照しながら説明するが、図1〜6では類似又は同一の構成要素を特定するために使用した同一の参照符号によって、かかる類似又は同一の構成要素の反復使用を回避できる。
【0028】
図1は、EAFダストの処理を唯一の目的とする誘導炉を使用する従来技術のシステムを示す。図1には、コアレス(又はチャネル)タイプであってもよい誘導炉(10)を示す。その内部には溶融鋳鉄の装填部(11)が誘導炉(10)を部分的にのみ満たしている態様で示す。装填部(11)はすなわち、誘導炉(10)内部の乱流条件下、誘導炉で通常使用される強力な誘導電流の作用によって、必然的に溶融浴として存在する。
【0029】
電気製鋼所由来の酸化亜鉛及び酸化鉄の豊富なダストを注入口(12)を通して誘導炉(10)に供給し、それらは誘導炉(10)を出る温風の流れとは反対方向に、傾斜したドラム(13)に沿って流れる。誘導炉(10)内部で発生する反応熱は、それらが誘導炉(10)の方へ流れる間に、ダストを乾燥させ、予熱するために用いられる。
【0030】
非鉄金属の酸化物は、一酸化炭素(CO)の豊富な高温ガスの流れによって移動し、誘導炉(10)を出る。フードエアと一酸化炭素(CO)の反応(CO+1/2O→CO)は、傾斜したドラム(13)をガスが通過する間に生じ、それに沿って、ガスに対して向流的に下方に湿性のダストペレットが移動する。
【0031】
排出ガスは、ドラム(13)を出た直後、管(14)に空気が供給されることで一次冷却され、サイクロン(15)に入る。ここで、最も粗大で重量のある成分が除去される。
【0032】
完全なダストの除去は、煙突(18)から上流側に取り付けられた「パルスジェット」タイプなどのソックスあるいはバッグフィルター(16)内で行われる。
【0033】
予熱され、乾燥したダストが入っている誘導炉(10)中に含まれる揮発性金属酸化物は、誘導炉(10)に存在する浴中で還元され、その揮発性金属の蒸気が放出される。揮発性金属の蒸気が浴から出ると、それらは酸化され、揮発性金属酸化物はソックスあるいはバッグフィルターに捕集され、亜鉛、鉛、カドミウムなどの捕集及び回収に供される。
【0034】
図2は、溶銑又はくず鉄を製造し、揮発性金属(例えば、亜鉛、鉛、カドミウムなど)を濃縮しつつ、EAFダストあるいは他の鉄と揮発性金属とを含有する物質から鉄を回収するための、溝形誘導炉(17)を使用した本発明の一実施形態に係るシステムを示す。図2に示すシステムは、溝形誘導炉(17)に供給する物質及びそこから除去する物質を除き、図1に示したものと同様である。図1に示して、上述して、図2で同一参照符号によって特定する構成要素に加えて、図2ではさらに、くず鉄、溶銑、焼結ダスト、金属酸素転炉(BOF)汚泥などの鉄酸化物を含有する物質を溝形誘導炉(17)の注入口(19)に供給又は装填するための装填流又は供給流(20)と、溝形誘導炉(17)の注入口(19)に鉄と揮発性金属とを含有する物質を供給又は装填するための他の装填流又は供給流(21)とが含まれる。装填流又は供給流(20及び21)において、溝形誘導炉(17)中へ供給又は装填されるように示す物質が混合された状態で、溝形誘導炉(17)の注入口(19)に供給又は装填される場合もあることが理解されよう。
【0035】
図2はまた、溝形誘導炉(17)から排出される溶銑製品あるいは銑鉄(例えば鉄製品)を表す生成物流(22)を示す。そして、従来技術の図1の出典である米国特許第6,136,059号において、Zoppiにより教示された方法で亜鉛、鉛、カドミウムなどの揮発性金属の酸化物を回収する位置を参照符号(25)で示す。揮発性金属は、これらの捕集した揮発性金属の酸化物を従来の方法に従って処理することにより回収できる。図2ではまた、スラグが溝形誘導炉(17)から除去される位置を表すスラグ流(23)を示す。
【0036】
図3は、本発明の一実施形態で使用する溝形誘導炉の正面図である。図4は、図3の溝形誘導炉の平面図である。図5は、図3の溝形誘導炉の側面図である。図3から5の溝形誘導炉(17)は、連続的に操作用に構成され、それにより溶銑あるいは銑鉄を生成し、亜鉛、鉛、カドミウムなどの揮発性金属及びスラグを濃縮しつつ、供給原料を処理する。バッチ式、あるいは半連続的なバッチ式でも転炉を操作できる。さらに、溝形誘導炉(17)は、連続的な方法でスラグを除去するように構成されて、また図2に示した連結フード(27)などのガス排気坑(26)を備える態様で構成される。バッチ式、あるいは半連続的なバッチ式でもスラグを除去できる。
【0037】
溝形誘導炉(17)は一般的に、ライナーとして提供される高融点材料(29)で周囲を覆われて形成されるドラム型又は円筒型のチャンバー(28)が設置されている。溝形誘導炉のかかる高融点ライナーの使用及び取り付けは、それ自体が高融点材料であるため公知である。従来設計の誘導部(30)がドラム型のチャンバー(28)の底部に設置され、溝形誘導炉(17)における溶融浴の形成、維持に使用される。
【0038】
図のように、溝形誘導炉(17)の最上部において、原料を誘導炉(17)に供給するための注入口(19)が一方の端付近に設置され、ガス除去のための排気口(26)がその反対の端に設置される。溝形誘導炉(17)には、操作中、通常は閉じられている点検口を設けてもよい。点検口(31)が誘導炉(17)の最上部の中央に位置する態様を示す。
【0039】
スラグ排出口(32)が、誘導炉(17)内の溶融浴上に形成されるスラグ層の制御にとって適当な高さで、溝形誘導炉(17)の一方の端に設置される。スラグ排出口(32)には、溝形誘導炉(17)の側面から伸びて、ドラム型あるいは円筒型チャンバー(28)との流路を形成する溝型構造又は経路構造を含んでなる。スラグ排出口(32)には、スラグ排出の制御に使用できるゲート又は可動せきを設置してもよい。
【0040】
溝形誘導炉(17)にはまた、噴出口(33)が誘導炉(17)の正面に設置され、これを通してドラム型又は円筒型のチャンバー(28)から溶融浴に由来する溶融金属を除去できる。この点に関していえば、溝形誘導炉(17)には、参照符号(34)として示す構造が設置され、それを用いて既知の方法でその中心軸を中心にドラム型又は円筒型のチャンバー(28)を回転させ、溶融浴中の溶融金属を噴出口(33)を通して流出させる。
【0041】
図6は、本発明の方法の一実施形態の操作方法を説明するための、図3〜5の溝形誘導炉の略図である。図のように、誘導部(30)は、上述したドラム型あるいは円筒型チャンバー(28)と連通している誘導炉(17)の底部に位置する。くず鉄、溶銑、焼結ダスト、EAFダスト、金属酸素転炉(BOF)汚泥などの鉄酸化物を含有する物質を含んでなる供給原料流(21)は、誘導炉(17)の最上部の一方の端付近に設置した注入口(19)を通して連続的に転炉に供給される。シリカ、石灰などのスラグ調整剤(35)を、ドラム型又は円筒型のチャンバー(28)のスラグ排出口(32)に対して反対側に位置する注入口(19)を通して工程中に添加してもよい。供給原料を注入口(19)を通して転炉に供給する場合、それは、スラグ層(37)の表面上のガス・ヘッドスペース(36)を通って落下する。転炉の操作温度に起因して供給原料の温度が上昇し、その構成成分が反応して金属鉄、スラグ及び揮発性物質が形成される。
【0042】
高密度の鉄がスラグ層(37)を通って、誘導炉(17)の底部に位置する鉄の液体金属浴(38)中に入る。誘導部(30)は、電力を用いてエネルギーを鉄金属浴(38)に供給し、浴(38)を所望の操作温度に維持する。誘導炉(17)の正面にある噴出口(33)を通じて液体の鉄(38)をシステムから除去する。
【0043】
液体の鉄より低密度のスラグは、注入口(19)から誘導炉(17)の反対側にあるスラグ排出口(32)にわたり、鉄浴(38)の表面を浮遊する。スラグは、高温のガス・ヘッドスペース(36)と、上述のようにスラグ粘性を改良するスラグ調整用の添加剤との組み合わせよって、流動性が維持される。スラグは、システム操作上、必要に応じて、連続式又は半連続式に除去できる。新しい供給原料の添加から排出までのスラグ構成成分の移動時間は、誘導炉(17)のスラグ層(37)の深さ、もしくは厚さを変更するか、又は装置の設計を変更させて誘導炉の液面の表面積を変化させることにより調整できる。
【0044】
処理工程から生じたガスは、一酸化炭素、二酸化炭素及び揮発性金属の蒸気の混合ガスである。供給原料流(21)及びスラグ排出口(32)から若干の空気をシステム内に添加してもよい。添加された空気中に含まれる酸素は、ガス・ヘッドスペース中で一酸化炭素の一部と燃焼し、それによりさらにガス・ヘッドスペース(36)領域に熱が加えられる。
【0045】
非常に多くの空気が、これらの領域に添加又は供給された場合、ガス・ヘッドスペース(36)に存在する一酸化炭素の全てが燃焼した後、一部の金属蒸気が燃焼又は酸化される。金属蒸気が燃焼又は酸化される場合、それらは金属酸化物を形成し、誘導炉内及びスラグ層(37)中で凝縮され得る。金属蒸気のこの好ましくない燃焼又は酸化は、揮発性金属の回収率を低下させ、スラグ層中における不要物の量を増加させる。
【0046】
したがって、本発明には、誘導炉に流入する空気の制御を伴うシステムの操作が含まれ、それにより適当なガス・ヘッドスペース(36)の操作温度、及びガス・ヘッドスペース(36)に流入する酸素の制限が可能となる。誘導炉(17)から出るガス流(39)は、図2に示したように誘導炉(17)から出るときに空気と反応し、揮発性金属が酸化され、さらにBratina及びFehsenfeldによる米国特許第6,136,059号ならびにZoppiによる米国特許第6,831,939号にて教示された方法で回収できる。さらに、排出されるガスの冷却は、回収される揮発性金属酸化物を凝縮するシステム中の領域(14)で行われる。回収可能な揮発性金属としては、元素金属、ハロゲン化物又は酸化物として存在し得る亜鉛、鉛、カドミウムなどが挙げられる。これらの捕集した揮発性金属原料をさらに従来の工程に従って処理し、揮発性金属を回収してもよい。
【0047】
稼働中、スラグ層(37)を、その下層の溶融金属層の表面がスラグ排出口(32)の高さに達するまで除去し、その結果として厚みを減少させてもよく、その前に、ドラム型又は円筒型のチャンバー(28)をその中心軸を中心として回転させて、浴(38)中の溶融金属を、噴出口(33)を通して流出させてもよい。
【0048】
本発明を具体的な手段、物質及び実施形態により説明したが、当業者であれば、以上の説明から本発明の本質的な特徴を容易に把握でき、様々な変更及び修正を、上記の本発明の技術的思想及び技術的範囲から逸脱することなく行い、様々な用途及び特徴に適合させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
本発明は添付図面を参照しながら開示されるが、それらは非限定的な例示としてのみ提供されるものである。
【図1】従来技術のシステムを示す。該システムは、EAFダストを処理することを唯一の目的とする誘導炉を使用することで、銑鉄及び揮発性金属製品を製造するものである。
【図2】誘導炉を使用して、揮発性金属(例えば、亜鉛、鉛、カドミウムなど)を濃縮しつつ、溶銑(又は銑鉄)を製造し、EAPダストなどの、鉄と揮発性金属とを含有する物質から鉄を回収するための、本発明の一実施形態に係るシステムを示す。
【図3】本発明の一実施形態に従って使用する溝形誘導炉の正面図である。
【図4】図3の溝形誘導炉の平面図である。
【図5】図3の溝形誘導炉の側面図である。
【図6】図3〜図5の溝形誘導炉の略図である。本発明の方法の一実施形態に係る操作方法を例示するために提供するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄及び揮発性金属を含有する供給原料としての、揮発性金属を含有する製鋼転炉ダスト及び任意に他の物質を処理する方法であって、鉄含有物質をバッチ式、連続式又は半連続式に溶鉄が入っている溝形誘導炉中に供給することと、揮発性金属含有物質をバッチ式、連続式又は半連続式に溝形誘導炉中に供給することと、誘導炉に供給する酸素の量を制御して、i)誘導炉の溶融浴上のヘッドスペースの温度、及びii)ヘッドスペース中の二酸化炭素の量、の少なくとも一つを制御することと、バッチ式、連続式又は半連続式に鉄含有製品を得ることと、揮発性金属を回収することと、を含んでなる方法。
【請求項2】
前記鉄含有物質が、くず鉄、溶銑及び焼結ダストの少なくとも一つを含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記揮発性金属が、亜鉛、鉛及びカドミウムの少なくとも一つを含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記揮発性金属の回収が、溝形誘導炉から蒸気として揮発性金属を放出させ、揮発性金属蒸気を回収することによってなされる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
i)溝形誘導炉のスラグ層の粘性、及びii)溝形誘導炉のスラグ層の化学的性質、の少なくとも一つを制御することを含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
一つ以上の化学物質がスラグ層に添加される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
鉄及び揮発性金属を含有する物質の処理方法であって、溝形誘導炉を設置することと、連続式、又は半連続式に溝形誘導炉に鉄含有物質を供給することと、該鉄含有物質が入っている溝形誘導炉中に揮発性金属組成物とともに揮発性金属を含有する供給原料を供給することと、誘導炉に供給する酸素の量を制御して、i)誘導炉の溶融浴上のヘッドスペースの温度、及びii)ヘッドスペース中の二酸化炭素の量、の少なくとも一つを制御することと、連続式又は半連続式に鉄含有製品を得ることと、揮発性金属を回収することと、を含んでなる方法。
【請求項8】
前記鉄含有物質が、くず鉄、溶銑及び焼結ダストの少なくとも一つを含んでなる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記揮発性金属が、亜鉛、鉛及びカドミウムの少なくとも一つを含んでなる、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記揮発性金属の回収が、溝形誘導炉から蒸気として揮発性金属を放出させ、揮発性金属蒸気を回収することによってなされる、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
i)溝形誘導炉のスラグ層の粘性、及びii)溝形誘導炉のスラグ層の化学的性質、の少なくとも一つを制御することを含んでなる、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
一つ以上の化学物質をスラグ層に添加する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
溝形誘導炉の操作方法であって、バッチ式、連続式又は半連続式に溝形誘導炉に鉄含有供給原料を供給することと、バッチ式、連続式又は半連続式に溝形誘導炉に揮発性金属含有物質を供給することと、誘導炉に供給する酸素の量を制御して、i)誘導炉の溶融浴上のヘッドスペースの温度、及びii)ヘッドスペース中の二酸化炭素の量、の少なくとも一つを制御することと、連続式又は半連続式に溝形誘導炉から鉄を回収することと、揮発性金属を回収することと、を含んでなる方法。
【請求項14】
前記鉄含有供給原料及び前記揮発性金属含有物質が、溝形誘導炉を有する設備と異なる設備で生産される、請求項13に記載の溝形誘導炉の操作方法。
【請求項15】
前記鉄含有供給原料が、くず鉄、溶銑及び焼結ダストの少なくとも一つを含んでなる、請求項13に記載の溝形誘導炉の操作方法。
【請求項16】
前記揮発性金属含有物質が、亜鉛、鉛及びカドミウムの少なくとも一つを含んでなる、請求項13に記載の溝形誘導炉の操作方法。
【請求項17】
前記揮発性金属の回収が、溝形誘導炉から蒸気として揮発性金属を放出させ、揮発性金属蒸気を回収することによってなされる、請求項13に記載の溝形誘導炉の操作方法。
【請求項18】
i)溝形誘導炉のスラグ層の粘性、及びii)溝形誘導炉のスラグ層の化学的性質、の少なくとも一つを制御することをさらに含んでなる、請求項13に記載の溝形誘導炉の操作方法。
【請求項19】
一つ以上の化学物質がスラグ層に添加される、請求項18に記載の溝形誘導炉の操作方法。
【請求項20】
前記鉄含有供給原料及び前記揮発性金属含有物質が、スラグを溝形炉から除去する位置と反対側の端において溝形誘導炉に供給される、請求項13に記載の溝形誘導炉の操作方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2008−534785(P2008−534785A)
【公表日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−504379(P2008−504379)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【国際出願番号】PCT/US2006/011721
【国際公開番号】WO2006/107715
【国際公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【出願人】(503371546)ヘリテージ エンバイアロンメンタル サービシーズ,リミティド ライアビリティ カンパニー (2)
【Fターム(参考)】