真偽判定方法、装置及びプログラム
【課題】固体の真偽判定を簡単かつ高精度に行う。
【解決手段】真物である紙上の基準領域を異なる2方向から光学的に読み取り、基準画像として登録しておく。真偽判定対象の紙に対し、基準領域を含み基準領域よりも大きいサイズの照合領域をスキャナで異なる2方向から読み取り、読み取りによって得られた各照合データから基準領域と同サイズの部分領域のデータを抽出する。そして、同じ方向から光学的に読み取った基準画像と照合画像との組において、基準画像との相関値を正規化相関法により演算することを、照合領域内での部分領域の位置をずらしながら繰り返し、相関値の最大値及び該最大値のノーマライズド・スコアを各々閾値と比較することで真偽判定を行う。そして、各組における真偽判定において共に「真」と判定されてはじめて真偽判定対象の紙を「真」と判定する。
【解決手段】真物である紙上の基準領域を異なる2方向から光学的に読み取り、基準画像として登録しておく。真偽判定対象の紙に対し、基準領域を含み基準領域よりも大きいサイズの照合領域をスキャナで異なる2方向から読み取り、読み取りによって得られた各照合データから基準領域と同サイズの部分領域のデータを抽出する。そして、同じ方向から光学的に読み取った基準画像と照合画像との組において、基準画像との相関値を正規化相関法により演算することを、照合領域内での部分領域の位置をずらしながら繰り返し、相関値の最大値及び該最大値のノーマライズド・スコアを各々閾値と比較することで真偽判定を行う。そして、各組における真偽判定において共に「真」と判定されてはじめて真偽判定対象の紙を「真」と判定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は真偽判定方法、真偽判定装置及びプログラムに係り、特に、ランダム性を有する読み取り可能な固有の特徴が表面に沿って分布している固体の真偽を判定する真偽判定方法、該真偽判定方法を適用可能な真偽判定装置、及び、コンピュータを該真偽判定装置として機能させるためのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、複写機やプリンタの性能向上に伴い、紙幣や有価証券等を複写機やプリンタで複写した複写物が悪用される事例が増加してきていることを背景として、偽造や複写物の悪用を抑止するために、各種の紙文書(上述した紙幣や有価証券以外に、例えば旅券、各種の権利書、住民票、出生証明書、保険証書、保証書、機密文書等)の真偽を高精度に判定できる技術の確立が待望されている。
【0003】
紙文書の真偽を判定する技術として、例えば特許文献1〜4がある。しかしながら、特許文献1,2はコスト上また特殊装置が必要になるなどの問題が、特許文献3は原本複写には対応不可能という問題が、特許文献4は精度上の問題が、それぞれ発生していた。
【0004】
そこで、本願発明者等は、ランダムに変化している紙の透明度のように、ランダム性を有し固体の表面に沿って分布している固体固有の特徴は、固体の真偽判定に有用であるとの認識の下、固体固有の特徴を利用した真偽判定における判定精度の向上には、真偽判定のための比較対象としての領域(固有の特徴が分布している固体上の領域)の面積を真の固体と判定対象の固体とで相違させ、小面積の領域を大面積の領域内で移動させながら相関値を繰り返し演算することで多数の相関値を求め、求めた相関値の最大値に加え、求めた多数の相関値の分布具合を表す特徴量も用いて真偽判定を行うことが有効ではないかとの仮説を立て、上記問題の解決に取り組んだ。
【0005】
ところで、真偽判定における誤判定には、真物を偽物と誤判定する場合と偽物を真物と誤判定する場合がある(なお、真物を偽物と誤判定する確率はFRR(:False Rejection Rate)と称し、偽物を真物と誤判定する確率はFAR(:False Acceptance Rate)と称する)。本願発明者等は上記の仮説が、真物が偽物と誤判定される確率が高いケース、及び偽物が真物と誤判定される確率が高いケースでも有効か否かを検証すべく、以下の実験を行った。
【0006】
すなわち、まずフラットベッド型スキャナにより、400dpiの解像度・8ビットグレイスケールの階調で紙(原本)の未印刷の部分の32×32ドット(約2mm×約2mm)の基準領域を読み取り、スキャナから出力された画像データ(この画像データは、紙を形成する繊維質材料の絡み具合のランダム性に起因する紙(原本)上の基準領域内における紙の透明度のランダムな変化を表している)を基準データとして記憶した。図9(A)には基準データを「基準画像」として視覚化(目視での確認が容易なようにコントラストを補正)して示す。
【0007】
紙を形成する繊維質材料の絡み具合を製造時に制御することは不可能であるので、紙を形成する繊維質材料の絡み具合はランダムと見なすことができる。紙を形成する繊維質材料の絡み具合は透過光顕微鏡を用いれば観察できる。一方、図9(A)に示す「基準画像」では、繊維質材料の絡み具合までは確認できないものの、繊維質材料の絡み具合のランダム性に起因する(紙を漉くときの諸条件により生ずる紙表面の凸凹も影響している可能性もある)紙の透明度のランダムな変化を反映したランダムな明暗のパターンが生じているので、基準画像に対応する基準データが、紙(原本)上の基準領域内における紙(原本)に固有の特徴、すなわち紙(原本)上の基準領域内の透明度のランダムな変化を表す情報となっていることは確認できる。
【0008】
次に、比較例として、原本として用いた紙のうちの64×64ドット(約4mm×約4mm)の照合領域(前述の基準領域を含む領域)の読み取りを行い、スキャナから出力された画像データを第1の照合データとして記憶した。この第1の照合データは、紙(原本)の前記照合領域内における紙の透明度のランダムな変化を表している。なお、図9(B)には第1の照合データを「照合画像」として視覚化して示す。
【0009】
また、真物が偽物と誤判定される確率が高いケースとして、原本として用いた紙を、第1の照合データ取得時に対して位置を若干ずらすと共に向きを若干回転させてスキャナの原稿台上に載置した状態で、64×64ドットの照合領域の読み取りを行い(これにより第1の照合データ取得時の読取領域に対して位置及び向きが若干異なる領域が読み取られることになる)、スキャナから出力された画像データを第2の照合データとして記憶した。更に、別の比較例として、原本として用いた紙と異なる紙のうちの64×64ドットの照合領域を読み取り、スキャナから出力された画像データを第3の照合データとして記憶した。
【0010】
次に、第1〜第3の照合データが各々表す第1〜第3の照合画像と基準データが表す基準画像との相関値を各々演算した。具体的には、例として図10に示すように、演算対象の照合画像1から基準画像と同一サイズの部分領域2(図10では「基準画像との相関値演算範囲」と表記して太線で囲んで示す)を抽出し、部分領域と基準画像との相関値を正規化相関法により演算する(次の(1)式参照)ことを、照合画像上での部分領域の位置をX方向及びY方向に1ドット(画素)ずつずらしながら繰り返した。
【数1】
【0011】
但し、Fは基準画像(基準データの集合)、fiは基準画像の個々の画素の明度値、Nは基準画像(及び照合画像の部分領域)の総画素数、Gは照合画像の部分領域(の集合)、giは照合画像の部分領域の個々の画素の明度値、fAVEは基準画像の個々の画素の明度値の平均値、gAVEは照合画像の部分領域の個々の画素の明度値の平均値である。第1〜第3の照合画像を演算対象の照合画像として上記の演算を各々行うことで、基準画像のドット数をm×n、照合画像のドット数をM×Nとすると、単一の照合画像当たり(M―m+1)×(N−n+1)個の相関値が得られる。
【0012】
続いて第1〜第3の照合画像に対し、相関値の分布具合を表す特徴量として、相関値の最大値のノーマライズド・スコアを次の(2)式に従って各々演算した。
【0013】
ノーマライズド・スコア=(相関値の最大値−相関値の平均値)÷相関値の標準偏差 …(2)
【0014】
図11(A)〜(B)には、相関値の最大値及び相関値の最大値のノーマライズド・スコアの演算結果を、照合画像上での部分領域の位置と相関値の関係を視覚的に示すチャートと共に示す。
【0015】
図11(A)に示すように、同一の紙上の基準領域を含む照合領域を、位置及び向きのずれなく読み取った場合、相関値の最大値は非常に高い値を示す。また、相関値の分布も相関値が最大となっているピーク部分以外の部分では、最大値に比して相関値が非常に低い値を示しており、これに伴い相関値の最大値のノーマライズド・スコアも非常に高い値を示している。また、原本と異なる紙を読み取った場合には、図11(C)に示すように、相関値の最大値は非常に低い値となり、相関値の分布についても、ピーク部分を含めて全体的に相関値が低い値を示しているので、相関値の最大値のノーマライズド・スコアも非常に低い値となっている。
【0016】
一方、同一の紙上の基準領域を含む照合領域を位置及び向きを若干変えて読み取った場合(真物が偽物と誤判定される確率が高いケースに相当)、相関値の最大値及び相関値の最大値のノーマライズド・スコアは、図11(B)に示すように何れも同一の紙を位置及び向きのずれなく読み取った場合と異なる紙を読み取った場合の中間的な値になる。このため、相関値の最大値及び相関値の最大値のノーマライズド・スコアの閾値として図11(B)に示す値と図11(C)に示す値の中間的な値を各々採用し(例えば相関値の最大値の閾値≒0.3、相関値の最大値のノーマライズド・スコアの閾値≒5.0)、相関値の最大値を閾値と比較すると共に相関値の最大値のノーマライズド・スコアを閾値と比較することで真偽判定を行うようにする。このようにすれば、照合領域読み取り時の紙の位置及び向きが若干ずれている等のように真物が偽物と誤判定される確率が高いケースにおいて、相関値の最大値のみを用いて判定を行う場合よりも、真偽判定の判定精度が向上する可能性があることが理解できる。
【0017】
また、本願発明者等は、上記実験と同一のスキャナを用い、同一の解像度・階調でA4の白紙の紙(原本)の任意の32×32ドット(約2mm×約2mm)の基準領域を読み取って基準データを取得すると共に、第1の比較例として、原本として用いた紙の略全面を読み取り、読み取りによって得られた画像データから64×64ドットの照合領域のデータを抽出し、抽出した照合データから更に抽出した部分領域のデータと基準データとの相関値を(1)式に従って演算することを、照合領域内における部分領域の位置を1ドットずつずらしながら繰り返した(これにより、1000万個以上の相関値が得られた)。
【0018】
また、第2の比較例として、原本として用いた紙の略全面の読み取りを、位置を若干ずらすと共に向きを若干回転させてから再度行い、前述の第1の比較例と同様に、読み取りによって得られた画像データから64×64ドットの照合領域のデータを抽出し、抽出した照合データから更に抽出した部分領域のデータと基準データとの相関値を(1)式に従って演算することを、照合領域内における部分領域の位置を1ドットずつずらしながら繰り返した。また、第3の比較例として、原本として用いた紙と異なる紙を用い、第1及び第2の比較例と同様に、読み取り・相関値の演算を行った。
【0019】
そして、偽物が真物と誤判定される確率が高いケースとして、原本として用いた紙の基準領域を故意に過大な光量で読み取ることで、基準領域内の透明度の変化が部分的に白くとんでしまっている画像を表す第2の基準データを取得すると共に、第3の比較例で用いた紙の略全面を読み取り、読み取りによって得られた画像データから64×64ドットの照合領域のデータを抽出し、抽出した照合データから更に抽出した部分領域のデータと第2の基準データとの相関値を(1)式に従って正規化相関法により演算することを、照合領域内における部分領域の位置を1ドットずつずらしながら繰り返した。
【0020】
上記の実験によって得られた相関値の分布(横軸に相関値、縦軸に頻度に1を加えて対数をとったチャート)を図12〜図15に示す。図12は第1の比較例、図13は第2の比較例で得られた相関値の分布であり、何れの分布においても、多数の相関値のうちの大多数は0又は0に近い値を示しているものの、所定値以上(例えば0.3以上)の高い相関値を示しているデータも含まれており、第1の比較例における相関値の最大値が1.00、第2の比較例における相関値の最大値が0.657と、何れも高い値を示しているので、相関値の最大値のみを用いたとしても真物を真物と判定できることが理解できる。また、図14は第3の比較例で得られた相関値の分布であるが、全ての相関値が所定値(例えば0.3)未満であり、相関値の最大値も0.254と低い値を示しているので、上記と同様に相関値の最大値のみを用いたとしても偽物を偽物と判定できる。
【0021】
一方、図15は、偽物が真物と誤判定される確率が高いケースとして想定した実験によって得られた相関値の分布であるが、所定値以上(例えば0.3以上)の高い相関値を示しているデータも含まれており(相関値の最大値は0.348)、相関値の最大値のみを用いて真偽判定を行ったとすると偽物を真物と誤判定する可能性がある。これに対し、図15の分布を図14の分布と比較しても明らかなように、図15に示す相関値の分布は裾が広がっている形状となっており、これに伴って図15の分布における相関値の標準偏差が図14の分布よりも大きくなり、前出の(2)式からも明らかなように、図15の分布における相関値の最大値のノーマライズド・スコアの値が図14の分布よりも小さくなるので(図14の分布における相関値の最大値のノーマライズド・スコアが5.32、図15の分布における相関値の最大値のノーマライズド・スコアが4.91)、偽物が真物と誤判定されることを回避できることが理解できる。
【0022】
このように、偽物が真物と誤判定される確率が高いケース(図15のケース)においても、相関値の最大値及び相関値の最大値のノーマライズド・スコアを用いて真偽判定を行えば誤判定を回避することができるので、相関値の最大値に加え、相関値の最大値のノーマライズド・スコアのように相関値の分布具合を表す特徴量も用いて真偽判定を行えば、真偽判定の判定精度向上を実現できることが確認された。なお、この真偽判定方法等は、本願と同一出願人よりすでに出願されている(特願2004−085212号)。
【0023】
【特許文献1】特開2000−094865号公報
【特許文献2】特表2002−518608号公報
【特許文献3】特開2000−146952号公報
【特許文献4】特公平6−16312号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
確かに、相関値の最大値及び相関値の最大値のノーマライズド・スコアを用いて真偽判定を行えば、真偽判定の判定精度向上を図ることはできる。しかし、例えば何らかの方法で第三者が基準画像を入手し、その基準画像を精密な写真技術等を利用して用紙に印刷したとすると、印刷用紙上には基準画像と同じ真物の地の微妙なパターンが再現性良く印刷されてしまい、偽物を真物と誤判定をしてしまう可能性がある。
【0025】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、固体の真偽判定を簡単かつ高精度に行うことができる改良された真偽判定方法、真偽判定装置及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明者等は、上記誤判定の発生原因を以下のように究明した。すなわち、基準画像を形成する際に固体に向けて斜め方向から光を照射すると、ランダム性のある固定表面上のわずかな凹凸によって影が形成される。つまり、固体上のある所定領域内表面がいくらランダム性を有しているとしても、その所定領域に対して、ある一定方向からの光を照射することで形成される固体表面の凹凸に基づくランダムな明暗のパターン(濃淡情報)は、常に同じパターンとなる。従って、所定領域の読取画像(基準画像)に含まれる濃淡情報は常に同じになるという特性を有効に利用して、従来技術では真偽判定を行った。しかし、これを逆手にとり濃淡情報が精度良く偽物の固体上に再現されてしまうと、上記のように偽物を真物と誤判定をしてしまう可能性が生じてきてしまう。
【0027】
ただ、同じ所定領域に対して、異なる方向から光を照射して得られる各濃淡情報は、固定表面の凹凸により異なる明暗のパターンが形成される。本発明者等は、この点に着目した。
【0028】
すなわち、本発明に係るコンピュータにより実施され、ランダム性を有する読み取り可能な固有の特徴が表面に沿って分布している固体の真偽を判定する真偽判定方法であって、第1の方向又は第1の方向とは異なる第2の方向の少なくともいずれか一方から真の固体の表面に向けて発光手段により照射された光の反射光を受光手段により受光することで読み取られた当該真の固体の表面の状態の読取画像を基準画像として生成すると共に、第1の方向又は第2の方向の少なくともいずれか一方から判定対象の固体の表面に向けて発光手段により照射された光の反射光を受光手段により受光することで読み取られた当該判定対象の固体の表面の状態の読取画像を照合画像として生成する画像生成ステップと、基準画像に含まれる1又は2の読取基準画像と、照合画像に含まれる1又は2の読取照合画像とにより読取基準画像と読取照合画像との少なくとも2組による照合処理を行う照合ステップとを含むことを特徴とする。
【0029】
この発明においては、基準画像に含まれる第1及び/又は第2の方向からの照射に基づく第1及び/又は第2の読取基準画像と、照合画像に含まれる第1及び/又は第2の方向からの照射に基づく第1及び/又は第2の読取照合画像との照合処理を行う。具体的には、第1又は第2の読取基準画像と第1及び第2の読取基準画像、あるいは第1及び第2の読取基準画像と第1又は第2の読取基準画像、更に第1の読取基準画像と第1の読取基準画像及び第2の読取基準画像と第2の読取基準画像、という組み合わせによる照合処理を行う。このように、本発明では、読取基準画像と読取照合画像との少なくとも2組を照合処理に用いるようにしたので、より精度良く判定対象の固体の真偽判定を行うことができるようになる。
【0030】
また、前記画像生成ステップは、第1及び第2の双方の方向からの照射に基づく第1及び第2の読取基準画像を基準画像として生成すると共に、第1及び第2の双方の方向からの照射に基づく第1及び第2の読取照合画像を照合画像として生成し、前記照合ステップは、第1の読取基準画像と第1の読取照合画像を、第2の読取基準画像と第2の読取照合画像を、それぞれ照合し、前記判定ステップは、各照合処理の結果、共に予め設定した判定基準を満足した場合に判定対象の固体を真と判定することを特徴とする。
【0031】
更に、前記判定ステップは、同一方向からの照射に基づく基準画像と照合画像を用いて照合処理が行われた場合、基準画像と照合画像の正規化相関値が予め設定した閾値以上のときに判定対象の固体を真と判定することを特徴とする。
【0032】
この発明においては、第1の方向からの照射に基づく読取画像同士、また第2の方向からの照射に基づく読取画像同士をそれぞれ照合するようにしたので、単純な比較処理のみで真偽判定を行うことができる。
【0033】
前記判定ステップは、異なる方向からの照射に基づく基準画像と照合画像を用いて照合処理が行われた場合、基準画像と照合画像の正規化相関値が予め設定した閾値以下のときに判定対象の固体を真と判定することを特徴とする。
【0034】
このように、異なる方向からの照射に基づく基準画像と照合画像とにおいても判定対象の固体に対して真偽判定を行うことができる。
【0035】
また、第1の方向と第2の方向とは、固体表面上の読取位置を基準に相反する方向であることを特徴とする。この発明においては、いわゆる相反する方向から所定領域の画像を読み取るようにしたので、明暗パターンが逆の値となって現れてくるので、正規化相関値等の値を真偽判定の処理に利用しやすい。
【0036】
本発明に係る真偽判定装置は、ランダム性を有する読み取り可能な固有の特徴が表面に沿って分布している固体の真偽を判定する真偽判定装置であって、第1の方向又は第1の方向とは異なる第2の方向の少なくともいずれか一方から真の固体の表面に向けて光を照射する第1の発光手段と、前記第1の発光手段の照射光の反射光を受光する第1の受光手段と、前記第1の受光手段の出力から当該真の固体の表面の状態の読取画像を基準画像として生成する基準画像生成手段と、前記第1の方向又は前記第2の方向の少なくともいずれか一方から判定対象の固体の表面に向けて光を照射する第2の発光手段と、前記第2の発光手段の照射光の反射光を受光する第2の受光手段と、前記第2の受光手段の出力から当該判定対象の固体の表面の状態の読取画像を照合画像として生成する照合画像生成手段と、前記各画像生成手段により生成された基準画像と照合画像とに基づき照合処理を行うことで判定対象の固体の真偽を判定する判定手段とを有することを特徴とする。
【0037】
本発明に係るプログラムは、固体の表面に沿って分布しかつランダム性を有する前記固体固有の特徴を読み取り可能な読取装置が接続されたコンピュータを、第1の方向又は第1の方向とは異なる第2の方向の少なくともいずれか一方から真の固体の表面に向けて発光手段により照射された光の反射光を受光手段により受光することで読み取られた当該真の固体の表面の状態の読取画像を基準画像として生成する基準画像生成手段と、第1の方向又は第2の方向の少なくともいずれか一方から判定対象の固体の表面に向けて発光手段により照射された光の反射光を受光手段により受光することで読み取られた当該判定対象の固体の表面の状態の読取画像を照合画像として生成する照合画像生成手段と、基準画像に含まれる1又は2の読取基準画像と、照合画像に含まれる1又は2の読取照合画像との照合処理を行う照合手段として機能させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、基準画像と照合画像との照合により真偽判定対象の固体の真偽を判定する際、基準画像に含まれる1又は2の読取基準画像と、照合画像に含まれる1又は2の読取照合画像とにより読取基準画像と読取照合画像との少なくとも2組の組み合わせにより照合処理を行うようにした。すなわち、単一の基準領域に対して異なる方向から読取基準画像を取得し、あるいは単一の照合領域に対して異なる方向から読取照合画像を取得し、1対2、2対1あるいは2対2の画像の組み合わせによる照合処理を行うようにしたので、真偽判定対象の固体の真偽を、より高精度に判定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、図面に基づいて、本発明の好適な実施の形態について説明する。
【0040】
図1には本実施形態に係るカラープリンタ10が示されている。カラープリンタ10は、像担持体としての感光体ドラム12を備える。この感光体ドラム12は、帯電器14によって帯電される。感光体ドラム12の上方には、形成すべき画像に応じて変調されると共に主走査方向(感光体ドラム12の軸線に平行な方向)に沿って偏向された光ビームを射出する光ビーム走査装置16が配置されている。光ビーム走査装置16から射出された光ビームは感光体ドラム12の周面上を主走査方向に走査し、同時に感光体ドラム12が回転されて副走査が成されることで、感光体ドラム12の周面上に静電潜像が形成される。
【0041】
また、図1における感光体ドラム12の右側方には、多色現像器18が配置されている。多色現像器18はC(シアン)、M(マゼンダ)、Y(イエロー)及びK(ブラック)の何れかの色のトナーが装填された現像器18A〜18Dを備えており、感光体ドラム12に形成された静電潜像をC,M,Y,Kの何れかの色に現像する。なお、カラープリンタ10におけるフルカラー画像の形成は、感光体ドラム12上の同一の領域に対して静電潜像を形成して互いに異なる色に現像することが複数回繰り返され、前記領域上で各色のトナー像が順次重ね合わされることによって成される。
【0042】
感光体ドラム12の近傍には、無端の転写ベルト20が配置され、転写ベルト20の配置位置の下方には記録用紙22を収容する用紙トレイ24が配置されている。転写ベルト20の周面は、感光体ドラム12の回転方向に沿って多色現像器18による現像位置よりも下流側で感光体ドラム12の周面に接触している。感光体ドラム12に形成されたトナー像は、転写ベルト20に一旦転写された後、用紙トレイ24から引き出されて転写ベルト20の配置位置まで搬送された記録用紙22に再転写される。カラープリンタ10への機体外へと向かう記録用紙22の搬送路の途中には定着器26が配置されており、トナー像が転写された記録用紙22は、定着器26によってトナー像が定着された後にカラープリンタ10への機体外へ排出される。
【0043】
また、用紙トレイ24から転写ベルト20の配置位置へ至る記録用紙22の搬送路(図1に想像線で示す)の途中には読取部28が設けられている。読取部28は、記録用紙22に光を照射する発光器28A,28Cと、該発光器28A,28Cから射出され記録用紙22を反射した光を受光する受光器28Bを備える。本実施の形態では、受光器28Bを挟むように、つまり、記録用紙22の読取位置を基準に相反する異なる方向から記録用紙22へ照射するように各発光器28A,28Cを配設する。つまり、発光器28A,28Cの受光手段として受光器28Bを共用する。また、読取部28は、受光器28Bから出力された信号をデジタルデータに変換して出力する信号処理回路を備えており(図示省略)、記録用紙22を形成している繊維質材料の絡み具合のランダム性により記録用紙22の表面に沿って分布している光反射率のランダムな変化を、所定の解像度(例えば、400dpi)かつ所定の階調(例えば8ビットグレイスケール)で読み取り可能とされている。
【0044】
光ビーム走査装置16には、プリンタコントローラ30が接続されている。このプリンタコントローラ30には、キーボード及びディスプレイを含んで構成された操作部(図示省略)と読取部28が接続されており、更に、記録用紙22に印刷すべきデータを入力するパーソナル・コンピュータ(図示省略)が、直接又はLAN等のネットワークを介して接続されている。プリンタコントローラ30は、マイクロコンピュータを含んで構成されており、光ビーム走査装置16を含むカラープリンタ10の各部の動作を制御する。
【0045】
図2には、本発明に係る真偽判定装置として機能することが可能なパーソナル・コンピュータ(PC)32及びスキャナ34が示されている。図示は省略するが、PC32はCPU、ROM、RAM及び入出力ポートを備え、これらはバスを介して互いに接続されている。また、入出力ポートには、ディスプレイ、キーボード、マウス、ハードディスクドライブ(HDD)が接続されている。HDDにはOSや各種のアプリケーションソフトのプログラムが記憶されており、更に、後述する真偽判定処理を行うための真偽判定プログラムも記憶されている。
【0046】
一方、スキャナ34はフラットベッド型であり、原稿台(図示省略)上に載置された原稿を、前述の読取部28と同一の解像度(例えば400dpi)かつ同一の階調(例えば8ビットグレイスケール)で読み取る機能を備えている。スキャナ34は、PC32の入出力ポートに接続されており、スキャナ34による原稿の読み取りは、PC32によって制御されると共に、スキャナ34が原稿を読み取ることによって得られた画像データは、PC32に入力される。
【0047】
図3には、スキャナ34の部分的な内部構造が示されている。スキャナ34は、本体側上面の原稿台に相当するプランガラスカバー46の上に載置された原稿42をプラテンカバー44で押さえ付け、読取位置Pにおいて原稿読み取りを行う。反射板54の中に配設された発光手段に相当する光源50は、キャリッジ48の開口48Aを通して読取位置Pへ向けて発光する。読取位置Pからの反射光は、開口48Aを通ってミラー56、レンズ58を介してラインイメージセンサ52,62,68で受光される。図示されていないスキャナ34の駆動制御部は、キャリッジ48を矢印B方向に移動させながら画像読取を行うことで原稿42全体の画像を読み取る。この読取画像は、上記の通りPC32へ送られる。なお、本実施の形態では、汎用的なスキャナ34を利用できる。
【0048】
次に、本実施形態の作用として、まずカラープリンタ10における処理について説明する。
【0049】
本実施形態に係るカラープリンタ10は、記録用紙22に印刷する文書が原本である場合に、原本としての印刷を行う(該文書の真偽判定に使用するための基準データも記録用紙22に印刷する)機能を有している。カラープリンタ10を利用して印刷を行う場合、利用者は、記録用紙22に印刷すべき文書を表す印刷データをPCからカラープリンタ10へ送信させると共に、印刷する文書が原本として用いる文書である場合には、印刷対象の文書を原本として印刷するようカラープリンタ10に指示する。
【0050】
上記の指示が有った場合、カラープリンタ10のプリンタコントローラでは基準データ登録処理が行われる。以下、この基準データ登録処理について、図4に示したフローチャートを参照して説明する。
【0051】
ステップ100では、原本としての文書を印刷する記録用紙22を用紙トレイ24から取り出し、読取部28の配置位置(読取位置)へ搬送する。記録用紙22が読取位置に到達すると、次のステップ102では読取部28により、所定の解像度(400dpi)かつ所定の階調(8ビットグレイスケール)で、記録用紙22上の所定の基準領域(32×32ドット(約2mm×約2mm)の大きさの領域)を読み取る。より詳細には、以下のように読取部28は動作する。
【0052】
記録用紙22上の所定の基準領域が所定の読取位置に達したとき、いずれか一方、例えば発光器28Aが光を照射し、受光器28Bがその反射光を受光することで所定の基準領域を読み取る。このとき、発光器28Cは発光しない。受光器28Bにおける読み取り後、今度は他方の発光器28Cが光を照射し、受光器28Bがその反射光を受光することで所定の基準領域を読み取る。このとき、発光器28Aは発光しない。例えば、記録用紙22が遠のく方向に位置する発光器28Aを第1の方向、記録用紙22が近づく方向に位置する発光器28Cを第2の方向と称すると、本実施の形態における読取部28は、以上のように動作することで第1及び第2の異なる2方向から基準領域を読み取ることになる。なお、処理速度上、2方向からの連続した画像読取処理は可能である。
【0053】
これにより、読取部28からは、読取対象の記録用紙22を形成する繊維質材料の絡み具合のランダム性に起因して、読取対象の記録用紙22の基準領域内における紙の透明度のランダムな変化を表す基準画像が出力されることになる。この基準画像には、第1の方向からの照射に基づく読取画像と第2の方向からの照射に基づく読取画像とが含まれている。なお、第1の方向と第2の方向は異なる方向であればよく、本発明との関係上、どちらが第1の方向でもよい。本実施形態では、読取解像度を400dpi、読み取りの階調を8ビットグレイスケール、読取対象の基準領域を32×32ドットとしているので、基準画像に含まれる各読取画像のサイズは1024バイトとなり、個々の画素(ドット)の階調値(明度値)は、0〜255の範囲内の整数値となる。上記の読み取りによって得られる基準画像に基づき、該基準画像が表す画像を可視化(目視が容易なようにコントラスト補正)した画像の一例を図5に示す。なお、本実施の形態では、相反する2方向から光を照射して基準領域の画像を読み取るので、端的にいうと一方の画像が図5で図示されるのならば、他方の画像として図示した画像と明暗が反転した画像が得られることになる。
【0054】
なお、基準領域は、記録用紙22上の任意の位置でよく、記録用紙22上での基準領域の位置を固定してもよいし、記録用紙22上での基準領域の位置を文書(原本の内容)によって変化させてもよい。また、基準領域をユーザに入力指定させてもよいし、プリンタコントローラ30に自動設定させてもよい。但し、基準領域読み取り後の印刷により記録用紙22上の基準領域内にトナー(或いはインク)が付着された場合、後述する真偽判定で演算される相関値の最大値が大幅に低くなることで誤判定が発生する可能性が非常に高い。このため、基準領域の位置を固定する場合は、記録用紙22のうちトナーが付着される可能性のない位置(例えば、カラープリンタ10の印刷可能範囲外に相当する位置)とし、基準領域の位置を文書によって変化させる場合は、印刷データに基づいて記録用紙22のうち印刷によってトナー等が付着されない範囲を判断し、判断した範囲内に基準領域を設定することが望ましい。特に、後述する真偽判定処理では照合領域として基準領域より広い領域(例えば、64×64ドットの領域)を読み取るので、基準領域は周囲の領域にも印刷によってトナー等が付着されない領域であることが望ましい。
【0055】
また、基準領域の読み取りは、記録用紙22への印刷が行われた後に実行することも可能である。この場合、記録用紙22のうち印刷によってトナー等が付着された部分が基準領域に含まれていたとしても、前述のように基準領域の読み取りを行った後に行われた印刷により記録用紙22上の基準領域内にトナー等が付着された場合と比較すれば、真偽判定で誤判定が発生する可能性は低い。しかしながら、紙上のトナー等が付着されている部分の透明度の変化はランダム(個々の紙に固有の変化)とは言えない。透明度の変化がランダムでない部分を基準領域に設定し、該基準領域を読み取ることで得られた基準データを真偽判定に用いたとすると、偽造に対して脆弱になるので、記録用紙22への印刷が行われた後に基準領域を読み取る場合にも、基準領域は紙上のトナー等が付着されていない範囲内に設定することが望ましい。
【0056】
記録用紙22への印刷が行われた後に基準領域を読み取る場合に、記録用紙22上のトナーが付着されていない範囲を判断することは、前述のように印刷データを利用することで実現できる。しかしながら、記録用紙22上のトナー等が付着されている部分は、トナー等が付着されていない部分と比較してコントラストが明らかに大きいので、上記のように印刷データを利用することに代えて、記録用紙22を読み取り、該読み取りによって得られたデータに基づき、記録用紙22上の各部分毎にコントラスト(階調値(明度値又は濃度値)の最大値と最小値の差)を求める。このようにして、記録用紙22上のトナー等が付着されていない範囲を判断することも可能である。
【0057】
また、一般に読取対象の領域(詳しくは真偽判定で相関値の演算対象とする領域)のサイズが大きくなるに従って真偽判定の判定精度は向上する(FAR及びFRRの少なくとも一方が低下する)が、代りに、記録用紙22のうち印刷を行ってもトナー等が付着されない範囲をより広い面積とする必要があるために印刷の自由度が低くなり、真偽判定等の処理も複雑になるという問題が生ずる。このため本実施形態では、読取解像度400dpiにおける基準領域のサイズを32×32ドット(約2mm×約2mm)としている。後で説明する実験結果からも明らかなように、基準領域を上記サイズよりも小さくすると真偽判定の判定精度は低下するが、基準領域を上記サイズより大きくしても判定精度向上の程度は僅かである。従って、読み取りにあたって高価で取り扱いが面倒な顕微鏡を使う必要はなく、400dpi程度の解像度での読み取りが可能な読取装置(カラープリンタ10に内蔵されている読取部28や安価な市販のスキャナ等)を使用するのが実用的である。
【0058】
更に、基準領域の読み取りにおいて、受光器28Bに過大な光量の光が入射された等により受光器28Bの出力信号が飽和してしまうと、読み取りによって得られる基準データが表す基準領域内の透明度の変化が部分的に白くとんでしまう等のように、基準領域内の透明度の変化を正確に表す基準データが得られないので、基準領域の読み取りに際しては露出を適度に抑えることが望ましい。また、カラープリンタ10に内蔵されている読取部28に代えて、読取モードとして写真モード/書類モード等が設けられているスキャナを用いて読み取りを行う場合には、紙の透明度の変化をより高精細に読取可能な読取モード(例えば写真モード)を選択して読み取りを行うことが望ましい。
【0059】
上記のようにして基準領域の読み取りを行うと、ステップ104では、読み取りによって得られた基準データに対して離散コサイン変換等を適用して圧縮する。次のステップ106では、圧縮後のデータに基づき、該データを機械が自動的に読み取り可能な形式のコード(例えば、2次元バーコード等)として記録用紙(原本)22へ印刷するためのビットマップデータを生成する。なお、ステップ104におけるデータ圧縮は必須ではなく、データ圧縮を行うことなくコード化してもよい。また、基準領域の位置を文書によって変化させる場合には、読み取りによって得られた基準データに基準領域の位置を表す情報を付加した後に圧縮・コード化を行うことが好ましい。また、データの暗号化も行うようにしてもよい。
【0060】
次のステップ108では、基準データを表すコードが記録用紙(原本)22の所定位置に印刷されるように、印刷対象のビットマップデータ(カラープリンタ10がPCから受信した印刷データをビットマップデータへ展開することで得られる)に、ステップ106で生成したビットマップデータを付加する。そしてステップ110では、記録用紙(原本)22への印刷時に、上記のビットマップデータを光ビーム走査装置16へ出力する。これにより、利用者が原本としての印刷を所望している文書が、基準データを表すコードが所定位置に付加された状態で記録用紙(原本)22に印刷されることになる。
【0061】
なお、原本としての文書が印刷された記録用紙22のうち、基準領域として読み取りを行った領域に、例えばインクが付着する等の汚れが付着すると、次に説明する真偽判定における判定精度が低下するという問題がある。このため、原本としての文書の印刷に際しては、例えば基準領域として読み取りを行った領域を明示するマーク等を同時に印刷することで、前記領域に汚れ等が付着しないよう利用者に注意を喚起することが好ましい。一方、基準領域として読み取りを行った領域を明示しないことは偽造防止に有効であるので、偽造防止を目的として前記領域を意図的に明示しないようにしてもよい。
【0062】
また、基準領域として読み取りを行った領域に汚れ等が付着していた場合にも真偽判定の判定精度の低下を回避するために、基準領域を複数設定し、個々の基準領域を各々読み取り、読み取りによって得られた複数の基準データを各々保存しておくことが好ましい。これにより、基準領域として読み取りを行った複数の領域の一部に汚れ等が付着した場合にも、この領域を除外し、汚れ等が付着していない他の領域を用いて真偽判定を行うことができ、真偽判定の判定精度が低下することを回避することができる。
【0063】
続いて、所定位置にコードが印刷されている紙(文書)の真偽を判定する場合にPC32で実行される真偽判定処理について、図6に示したフローチャートを参照して説明する。なお、この真偽判定処理は、例えば上記文書の真偽の確認を所望している利用者によって真偽判定の実行が指示されると、PC32のHDDから真偽判定プログラムが読み出され、読み出された真偽判定プログラムがPC32のCPUで実行されることによって実現される。
【0064】
ステップ120では、真偽判定対象の文書をスキャナ34にセット(原稿台上に載置)するよう要請するメッセージをディスプレイに表示することで、真偽判定対象の文書をスキャナ34にセットさせる。ステップ122では文書のセットが完了したか否か判定し、判定が肯定される迄ステップ122を繰り返す。真偽判定対象の文書がスキャナ34にセットされると、ステップ122の判定が肯定されてステップ124へ移行し、スキャナ34に対し、原稿台上に載置された文書の読み取りを指示する。
【0065】
これにより、真偽判定対象の文書の全面が、基準領域読み取り時と同一の解像度(400dpi)かつ同一の階調(8ビットグレイスケール)でスキャナ34によって読み取られ、該読み取りによって得られた画像データがスキャナ34からPC32に入力される。
【0066】
なお、この読み取りにおいても、真偽判定対象の文書の、特に照合領域内の透明度の変化を正確に表す画像データが得られるように、露出を適度に抑えることが望ましい。スキャナ34の読取モードとして写真モード/書類モード等が設けられている場合には、読取モードとして、紙の透明度の変化をより高精細に読取可能な読取モード(例えば写真モード)を選択することが望ましい。
【0067】
更に、本実施の形態では、真偽判定対象の文書をスキャナ34からいったん取り出し、反転させた後にスキャナ34に再度セットする。そして、上記と同様に文書の読み取りを行う。スキャナ34の発光手段である光源50は、斜め方向から文書に光を照射し、ラインイメージセンサ52,62,68によってその反射光が受光されることで画像の読み取りが行われる。文書を反転させて画像の読み取りを再度行うことで、カラープリンタ10を用いて2方向から基準画像を取得したのと同様に、スキャナ34を用いても異なる2方向から照合画像を取得したことになる。
【0068】
スキャナ34から画像データが入力されると、次のステップ126では、入力された画像データから、基準データを表すコードが印刷されている領域のデータを抽出する。なお、スキャナ34から入力される画像データには、2方向からの読取画像が含まれているので、各読取画像からデータをそれぞれ抽出することになる。ステップ128では、ステップ126で抽出したデータに基づいて、真偽判定対象の文書に印刷されているコードが表すデータを認識し、認識したデータに対して解凍(暗号化されていれば復号化)等の処理を行うことで基準データを復元する。
【0069】
ところで、本実施形態に係る真偽判定処理においては、後述するようにカラープリンタ10において読み取られ生成された基準画像と、スキャナ34において読み取られ生成された照合画像との相関値を演算して判定対象の文書の真偽判定を行うことになる。しかし、基準画像には、第1の方向からの照射に基づく読取画像(第1の読取基準画像)と第2の方向からの照射に基づく読取画像(第2の読取基準画像)が含まれており、一方、照合画像には、第1の方向からの照射に基づく読取画像(第1の読取照合画像)と第2の方向からの照射に基づく読取画像(第2の読取照合画像)が含まれているので、相関値演算等の組み合わせとなる読取画像を基準画像及び照合画像からそれぞれ選出しなければならない。本実施の形態では、後述する説明から明らかになるように同じ方向からの照射に基づく読取画像の組を選出しても、異なる方向からの照射に基づく読取画像の組を選出しても判定対象の文書の真偽判定は行えるが、この例では、ステップ129において同じ方向からの照射に基づく読取画像の組を選出したものとして後段の処理について説明する。最初に、発行器28Aからの発光により取得した第1の読取基準画像と、対応する第1の読取照合画像との組を選出したものとする。
【0070】
ステップ130では、スキャナ34から入力された画像画像から、領域の中心位置が基準領域の中心位置と一致し、かつ基準領域よりも広面積(64×64ドット)の照合領域(従って、この照合領域は基準領域を含んでいる)のデータを抽出する。なお、基準領域の位置を文書によって変化させる場合、基準領域の位置は、例えば基準データに付加されている基準領域の位置を表す情報に基づいて認識することができる。
【0071】
また、基準データに付加した情報に基づいて基準領域の位置を認識することに代えて、印刷時に基準領域の近傍に何らかのマークを印刷しておき、真偽判定のための読み取りを行った後、読み取りによって得られた画像データ上で前記マークを探索することで、基準領域の位置を自動的に認識するようにしてもよい。これにより、真偽判定のための読み取り時に、原稿台上に載置された真偽判定対象の文書に若干の位置ずれが生じていたとしても、この位置ずれの影響を受けることなく基準領域の位置を正確に認識することができる。また、読取器28Aで読み取られた第1の方向からの画像に対応する第1の読取照合画像の特定も容易になる。
【0072】
上記のマークは例えば点形状とすることができる。また、重なり合わない位置に複数個のマークを印刷しておけば(マークの数はなるべく少ないことが望ましいので、最適な個数は2個である)、個々のマークと基準領域の位置関係が既知であれば、複数個のマークの位置から基準領域の位置及び向き(角度)は特定できる。またマークの検出は、例えば以下のようにして行うことができる。
【0073】
すなわち、画像データ上でマークを探索した結果、例えばマークと見なせる点が1個検出された場合には、検出失敗又は基準領域の読み取りが行われていない(原本として印刷された文書でない)紙と判断する。また、例えばマークと見なせる点が2個検出された場合には、2個のマークのユークリッド距離を求め、許容範囲内であれば基準領域を示すマークであると判断し、許容範囲外であれば検出失敗と判断する。マークと見なせる点が3個以上検出された場合には、それぞれのマーク間のユークリッド距離を求め、距離が許容範囲内のマーク対が1組あれば、該マーク対を基準領域を示すマークであると判断する。距離が許容範囲内のマーク対が0組および2組以上であった場合には、検出失敗と判断してもよいし、距離が許容範囲に近い組をとりあえず候補としてもよい。本発明では真偽判定の閾値を適切に定めることでFARを極めて低くすることができるので、実際には基準領域を示すマークではない点を基準領域を示すマークと誤判断したとしても、処理時間は長くなるものの真偽判定の判定精度に悪影響を及ぼすことは殆どない。
【0074】
ところで、本実施形態に係る真偽判定処理では、照合領域のデータから基準領域(第1領域)と同サイズの領域(演算対象領域:第2領域)に相当するデータを取り出し、該データと基準データとの相関値を演算することを、演算対象領域の位置を移動させながら繰り返す。このため、次のステップ132では照合領域内におけるデータ取出位置(演算対象領域の位置)を初期化する。
【0075】
ステップ134では、照合領域のデータから、設定したデータ取出位置に位置している基準領域と同サイズの領域のデータ(照合データ)を取り出す。そしてステップ136では前出の(1)式に従い、ステップ128で復元した基準データとステップ134で取り出した照合データとの相関値を正規化相関法により演算し、演算によって得られた相関値をRAM等に記憶させる。
【0076】
次のステップ138では、演算対象領域が照合領域の全面をスキャンしたか否か判定する。判定が否定された場合はステップ140へ移行し、データ取り出し位置を1ドットだけ縦又は横に移動させた後にステップ134に戻る。これにより、ステップ138の判定が肯定される迄の間ステップ134〜ステップ140が繰り返される。本実施形態では基準領域が32×32ドット、照合領域が64×64ドットであるので、相関値の演算が(64−32+1)×(64−32+1)=1089回行われ、1089個の相関値が得られることになる。
【0077】
相関値の演算が終了するとステップ138の判定が肯定されてステップ142へ移行し、上記の演算によって得られた多数個の相関値の中からその最大値を抽出する。また、次のステップ144では、多数個の相関値の標準偏差及び平均値を演算した後に、演算した標準偏差・平均値及びステップ142で求めた相関値の最大値を前出の(2)式に各々代入することで、相関値の最大値のノーマライズド・スコアを演算する。
【0078】
以上のようにして、選出された第1の方向からの照射に基づく読取画像に対して、相関値の最大値及び相関値の最大値のノーマライズド・スコアを得たが、ステップ145において、第2の方向からの照射に基づく読取画像に対する処理をまだ行っていないため、ステップ129に移行し、発行器28Bからの発光により取得した第2の読取基準画像と、対応する第2の読取照合画像との組を選出し、この選出したデータに基づき前述したステップ130〜144の処理を実施する。これにより、第2の方向からの照射に基づく読取画像に対しても、相関値の最大値及び相関値の最大値のノーマライズド・スコアを得る。
【0079】
ステップ146では、ステップ142で求めた相関値の最大値及びステップ144で演算したノーマライズド・スコアとそれぞれに対して予め設定した閾値との比較を行うことで判定対象の文書の真偽判定を行う。ここでの例では、同じ方向からの照射に基づき取得した読取画像の組による真偽判定なので、ステップ142で求めた相関値の最大値が閾値以上で、かつステップ144で演算したノーマライズド・スコアが閾値以上か否かを判定する。より具体的に説明すると、第1の方向からの照射に基づく読取画像の組において相関値の最大値が閾値以上で、かつノーマライズド・スコアが閾値以上か否かを判定する。また、第2の方向からの照射に基づく読取画像の組において相関値の最大値が閾値以上で、かつノーマライズド・スコアが閾値以上か否かを判定する。なお、相関値の最大値の閾値としては、例えば「0.3」を、ノーマライズド・スコアの閾値としては、例えば「5.0」を用いることができる(図8参照)。
【0080】
そして、ステップ147において、各組の真偽判定において、相関値及び相関値のノーマライズド・スコアの各閾値以上であり、双方とも「真」と判定されるという判定基準を満足した場合に限り、ステップ148において真偽判定対象の文書が「真物」であることを表すメッセージをディスプレイに表示する等により判定結果を出力し、真偽判定処理を終了する。また、ステップ147の判定において少なくとも一方が否定された場合はステップ150へ移行し、真偽判定対象の文書が「偽物」であることを表すメッセージをディスプレイに表示する等により判定結果を出力し、真偽判定処理を終了する。
【0081】
本実施の形態によれば、以上のようにして、真偽判定対象の文書(紙)の真偽を、簡単な処理により高精度に判定することができる。本実施の形態では、特に単一の基準領域に対して異なる複数の方向から基準画像を取得し、また同様に単一の照合領域に対して異なる複数の方向から照合画像を取得し、各方向から真偽の判定を行うようにした。これにより、判定対象の文書の単一の照合領域に対して複数の基準画像を印刷することはできないため、基準画像を不正に取得した者による悪質な行為にも対処することができるようになり、よって高精度な真偽判定を行うことができる。
【0082】
なお、本実施の形態では、基準画像として異なる2方向から照射したときの読取画像を得るために、図1に示したように2つの発光器28A,28Cをカラープリンタ10に配設した。しかし、この構成に限定するものではない。図7は、図1において読取部28付近の他の実施形態のみを示した図であるが、図7に示したように1つの発光器28Aを矢印E方向に回動可能に設置すると共に発光器28Aの両側に受光器28B,28Dを配設するようにしてもよい。この場合、図4におけるステップ102では、発光器28Aは、記録用紙22上の所定の基準領域が所定の読取位置P1に達したときに発光して受光器28Bに反射光を受光させる。その後、発光器28Aは、即座に照射方向を変え、記録用紙22上の所定の基準領域が所定の読取位置P2に達したときに発光し、受光器28Dに反射光を受光させる。このような構成によって異なる2方向からの照射に基づく読取基準画像を得るようにしてもよい。また、第1の方向と第2の方向を全く異なる部材にて構成するようにしてもよい。
【0083】
一方、照合画像として異なる2方向から照射したときの読取画像を得るために、本実施の形態では、画像読取後、真偽判定対象の文書を反転させた後にスキャナ34に再度セットさせていた。これは、市販のスキャナ34を用いることを前提としたためであり、カラープリンタ10のように発光手段を2つ搭載するような特注品のスキャナを用意するようにしてもよい。こうすれば、スキャナを1度動作させるだけで2方向から照射したときの読取画像を得ることができる。
【0084】
なお、本実施の形態では、異なる2方向から固体の所定の領域に対して発光するように構成し、同じ基準領域から複数の読取画像を取得して真偽判定を行うことで真偽判定の精度の向上を図るようにした。この目的を達成するためには、同じ基準領域から異なる明暗パターンの濃淡情報が取得できればよいため、論理的には、照射角度の異なる読取画像を収集できればよいと考えられる。つまり、固体の所定の読取位置を基準にしてある方向、例えば固体が離れていく方向(図1においては発光器28A側)から角度を変えて照射し、2つの読取画像を得るようにすることも考えられる。ただ、角度を変えて同じ方向から照射した場合、照射角度を異ならせたとしても明暗パターンにはそれほど差異は生じてこない。従って、固体の所定の読取位置を基準にすると、図1に示したように固体の所定の読取位置に相反する方向から照射して読取画像を取得することが望ましい。2方向だけではなくより多くの方向から照射してより多くの読取画像を取得してより精度の向上を図るようにすることも考えられるが、上記のように固体の所定の読取位置を基準に同じ方向から照射しても明暗パターンに差異は生じにくいため、本実施の形態のように、相反する2方向からの照射に基づく読取画像を取得することが効率的である。
【0085】
この所定領域を基準として照射方向を同じにすると、明暗パターンに差異が生じにくいということは、カラープリンタ10における各発光器28A,28Cから記録用紙22への照射角度と、スキャナ34における光源50から文書への照射角度とを、必ずしも一致させるような調整は必要ないということができる。
【0086】
ところで、上記説明においては、基準画像及び照合画像をそれぞれ2つ用意し、真偽判定を行う際に、基準画像と照合画像との組を同じ方向からの照射に基づく読取画像によって形成した。すなわち、基準画像及び照合画像により2対2(正確には(1対1)×2)の組を形成した。本実施の形態では、更に異なる組み合わせでも真偽判定を行うことは可能である。この一例として、基準画像として2方向からの照射に基づく読取基準画像を、照合画像として一方向からの照射に基づく読取照合画像を、それぞれ取得した場合について説明する。つまり、基準画像と照合画像が2対1の場合について説明する。
【0087】
まず、基準データ登録処理は、2方向からの照射に基づき読取基準画像を取得するので、図4を用いて説明した処理と同じである。よって、説明を省略する。
【0088】
真偽判定処理の基本的な処理の流れは、図6を用いて説明したとおりである。ただ、ステップ120〜124では、一方向のみ読取照合画像のみを取得すればよくなる。そして、ステップ129では、第1の読取基準画像と第1の読取照合画像との組及び第2の読取基準画像と第1の読取照合画像との組を形成して後段の処理を行うことになる。なお、この場合、第1の方向は、カラープリンタ10において記録用紙22が遠のく方向とは限らない。ステップ130〜144では、前者の場合、同じ方向からの照射により得られた読取画像であるから前述した処理と同様にして相関値の最大値及び相関値の最大値のノーマライズド・スコアを得る。一方、後者の場合、前者の場合と逆の値を得る。すなわち、ステップ142では、前段の演算によって得られた多数個の相関値の中からその最小値を抽出する。そして、ステップ144では、多数個の相関値の標準偏差及び平均値を演算した後に、演算した標準偏差・平均値及びステップ142で求めた相関値の最小値を前出の(2)式に各々代入することで、相関値の最小値のノーマライズド・スコアを演算する。なお、この場合、前出の(2)式における「最大値」は「最小値」に読み替える。
【0089】
ステップ146において、同じ方向からの照射に基づき取得した読取画像の組による真偽判定は、前述したようにステップ142で求めた相関値の最大値が閾値以上で、かつステップ144で演算したノーマライズド・スコアが閾値以上か否かを判定する。前者、すなわち第1の読取基準画像と第1の読取照合画像との組は、これに該当する。一方、異なる方向からの照射に基づき取得した読取画像の組による真偽判定は、これとは逆にステップ142で求めた相関値の最小値が閾値以下で、かつステップ144で演算したノーマライズド・スコアが閾値以下か否かを判定する。この場合、共に閾値以下の場合が「真」と判定される。
【0090】
判定対象の文書が「真物」であるとき、同じ方向からの照射であれば、画像データに現れてくる明暗パターン(濃淡情報)は一致するはずである。ただ、実際には、誤差等が発生するためステップ146で説明したとおり相関値の最大値等は閾値以上となる。従って、求めた相関値の最大値及び最大値のノーマライズド・スコアを各閾値と比較し、共に閾値以上であれば「真」と判定した。これに対して、異なる方向からの照射であれば、画像データに現れてくる明暗パターン(濃淡情報)は、正反対となるはずである。従って、同じ方向の場合とは逆に、相関値の最小値及び最小値のノーマライズド・スコアを求め、相関値の最小値及び最小値のノーマライズド・スコアを各閾値と比較し、共に閾値以下であれば「真」と判定することになる。
【0091】
この結果、ステップ147において、各組の真偽判定において肯定された場合、すなわち、双方とも「真」と判定された場合に限り、ステップ148へ移行し、真偽判定対象の文書が「真物」であることを表すメッセージをディスプレイに表示する等により判定結果を出力し、真偽判定処理を終了する。また、ステップ147の判定において少なくとも一方が否定された場合はステップ150へ移行し、真偽判定対象の文書が「偽物」であることを表すメッセージをディスプレイに表示する等により判定結果を出力し、真偽判定処理を終了する。
【0092】
最初の説明では、2対2(正確には(1対1)×2)で真偽判定を行っていたが、ここで説明したように基準画像が2,照合画像が1という2対1の関係においても2対2の場合と同様の効果を奏することができる。そして、この場合は、スキャナ34により照合画像を1回だけ読み取ればよいので、利用者による作業負荷を軽減することができる。
【0093】
更に、本実施の形態では、基準画像が1,照合画像が2という1対2の関係においても真偽判定を行うことができる。
【0094】
まず、基準データ登録処理は、1方向からの照射に基づき読取基準画像を取得するので、一方の発光器28A,28Cからの照射による画像読取を省略する。いずれを省略してもよい。その他は図4を用いて説明した処理と同じである。よって、説明を省略する。
【0095】
真偽判定処理の基本的な処理の流れは、図6を用いて説明したとおりである。この場合、ステップ129では、第1の読取基準画像と第1の読取照合画像との組及び第1の読取基準画像と第2の読取照合画像との組を形成して後段の処理を行うことになる。ステップ130〜144では、前者の場合、同じ方向からの照射により得られた読取画像であるから前述した処理と同様にして相関値の最大値及び相関値の最大値のノーマライズド・スコアを得る。一方、後者の場合、すなわち異なる方向からの照射により得られた読取画像の場合も前述したとおりであり、ステップ142では、相関値の最小値を抽出し、ステップ144では、相関値の最小値のノーマライズド・スコアを演算する。そして、ステップ146以降の真偽判定も読取基準画像と読取照合画像が2対1の場合と同じなので説明を省略する。
【0096】
読取基準画像と読取照合画像が1対2の場合も、2対2の場合と同様の効果を奏することができる。そして、この場合は、カラープリンタ10に発光器28A,28Cを2つ設ける必要はない。1つの読取基準画像で基準データを構成する場合は、基準画像を不正に記録用紙22に印刷される可能性もあるが、照合領域の画像を異なる方向から複数読み取るようにしているので、相関値を利用した真偽判定が共に「真」と判定されることはあり得ないと考えられる。
【0097】
なお、本実施の形態は、基準領域の読取画像を基準に処理対象の文書の真偽判定を行うため、トナー等の付着による基準領域の汚れは、真偽判定の精度を低下させる。そのためには、種々の方法にて精度の低下を回避する必要があるが、その具体的な手法としては、前述した本願と同一出願人による特許出願の明細書に記載されている方法を利用して真偽判定の精度の低下を回避することができる。
【0098】
また、上記特許出願と同じ方法による本発明の効果を検証した実験結果を図8に示す。図8には、横軸に相関値の最大値(左端が0.00、右端が1.00)をとり、縦軸に相関値の最大値のノーマライズド・スコア(上端が0.0、下端が10.0)をとったときに、相関値の最大値及び相関値の最大値のノーマライズド・スコアの閾値の変化に対するFRR及びFARの値の変化を示す。この図8は、上記特許出願の図17に相当する図である。但し、図8は、基準画像(当然ながら「真物」)と照合画像(ここでは、「真物」を用いた)を同じ照射方向により取得した読取画像に基づきFRRを、基準画像と基準画像と異なる照射方向により取得した読取画像に基づきFARを求めた。また、図8(a)は、基準領域のサイズが32×32ドット、照合領域のサイズが64×64ドット、図8(b)は、基準領域のサイズが32×32ドット、照合領域のサイズが128×128ドットである。図8(c),(d)は、異なる資料を用いた実験結果で、図8(c)は、基準領域のサイズが32×32ドット、照合領域のサイズが64×64ドット、図8(d)は、基準領域のサイズが32×32ドット、照合領域のサイズが128×128ドットである。本実験では、「真物」ならば、基準画像と基準画像取得時と異なる照射方向で取得した読取画像との照合において、正規化相関値及びノーマライズドスコアが低くなることを示すことが目的であり、異なる照射方向で取得した読取画像の照合での本来のFRR算出用データをFAR算出のために用いていることに留意されたい。
【0099】
図8から明らかなように、「真物」であれば照明方向の違いで正規化相関及びノーマライズドスコアが明確にセグメント化でき、基準画像を精密な写真技術等を利用して用紙に印刷して、印刷用紙上には基準画像と同じ真物の地の微妙なパターンが再現性良く印刷されてしまったとしても、真偽判定を精度良く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本実施形態に係るカラープリンタの概略構成図である。
【図2】本実施形態に係る真偽判定装置として機能するPC及びスキャナの外観図である。
【図3】本実施形態におけるスキャナの内部構造の様子を示した図である。
【図4】本実施形態においてカラープリンタで実行される基準データ登録処理を示したフローチャートである。
【図5】本実施形態において用いる基準データの一例を可視化したイメージ図である。
【図6】本実施形態においてPC(真偽判定装置)で実行される真偽判定処理を示したフローチャートである。
【図7】本実施形態に係るカラープリンタの読取部の変形例を示した図である。
【図8】本実施形態において黒点ノイズ有りの基準領域及び照合領域を用いた実験における、相関値の最大値及び相関値の最大値のノーマライズド・スコアの閾値とFAR,FRRの関係を示すイメージ図である。
【図9】従来の実験を説明するための(A)は登録画像、(B)は照合画像の一例を各々示すイメージ図である。
【図10】従来の実験における登録画像と照合画像の相関値の演算を説明するためのイメージ図である。
【図11】(A)〜(C)は各種条件での相関値の分布を相関値の最大値及びノーマライズド・スコアと共に示す線図である。
【図12】従来の実験のうち第1の比較例における相関値の分布を示す線図である。
【図13】従来の実験のうち第2の比較例における相関値の分布を示す線図である。
【図14】従来の実験のうち第3の比較例における相関値の分布を示す線図である。
【図15】偽物が真物と誤判定される確率が高いケースとして想定した実験における相関値の分布を示す線図である。
【符号の説明】
【0101】
10 カラープリンタ、12 感光体ドラム、14 帯電器、16 光ビーム走査装置、18 多色現像器、18A〜18D 現像器、20 転写ベルト、22 記録用紙、24 用紙トレイ、26 定着器、28 読取部、28A,28C 発光器、28B,28D 受光器、30 プリンタコントローラ、34 スキャナ、42 原稿、44 プラテンカバー、46 プランガラスカバー、48 キャリッジ、48A 開口、50 光源、52,62,68 ラインイメージセンサ、54 反射板、56 ミラー、58 レンズ。
【技術分野】
【0001】
本発明は真偽判定方法、真偽判定装置及びプログラムに係り、特に、ランダム性を有する読み取り可能な固有の特徴が表面に沿って分布している固体の真偽を判定する真偽判定方法、該真偽判定方法を適用可能な真偽判定装置、及び、コンピュータを該真偽判定装置として機能させるためのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、複写機やプリンタの性能向上に伴い、紙幣や有価証券等を複写機やプリンタで複写した複写物が悪用される事例が増加してきていることを背景として、偽造や複写物の悪用を抑止するために、各種の紙文書(上述した紙幣や有価証券以外に、例えば旅券、各種の権利書、住民票、出生証明書、保険証書、保証書、機密文書等)の真偽を高精度に判定できる技術の確立が待望されている。
【0003】
紙文書の真偽を判定する技術として、例えば特許文献1〜4がある。しかしながら、特許文献1,2はコスト上また特殊装置が必要になるなどの問題が、特許文献3は原本複写には対応不可能という問題が、特許文献4は精度上の問題が、それぞれ発生していた。
【0004】
そこで、本願発明者等は、ランダムに変化している紙の透明度のように、ランダム性を有し固体の表面に沿って分布している固体固有の特徴は、固体の真偽判定に有用であるとの認識の下、固体固有の特徴を利用した真偽判定における判定精度の向上には、真偽判定のための比較対象としての領域(固有の特徴が分布している固体上の領域)の面積を真の固体と判定対象の固体とで相違させ、小面積の領域を大面積の領域内で移動させながら相関値を繰り返し演算することで多数の相関値を求め、求めた相関値の最大値に加え、求めた多数の相関値の分布具合を表す特徴量も用いて真偽判定を行うことが有効ではないかとの仮説を立て、上記問題の解決に取り組んだ。
【0005】
ところで、真偽判定における誤判定には、真物を偽物と誤判定する場合と偽物を真物と誤判定する場合がある(なお、真物を偽物と誤判定する確率はFRR(:False Rejection Rate)と称し、偽物を真物と誤判定する確率はFAR(:False Acceptance Rate)と称する)。本願発明者等は上記の仮説が、真物が偽物と誤判定される確率が高いケース、及び偽物が真物と誤判定される確率が高いケースでも有効か否かを検証すべく、以下の実験を行った。
【0006】
すなわち、まずフラットベッド型スキャナにより、400dpiの解像度・8ビットグレイスケールの階調で紙(原本)の未印刷の部分の32×32ドット(約2mm×約2mm)の基準領域を読み取り、スキャナから出力された画像データ(この画像データは、紙を形成する繊維質材料の絡み具合のランダム性に起因する紙(原本)上の基準領域内における紙の透明度のランダムな変化を表している)を基準データとして記憶した。図9(A)には基準データを「基準画像」として視覚化(目視での確認が容易なようにコントラストを補正)して示す。
【0007】
紙を形成する繊維質材料の絡み具合を製造時に制御することは不可能であるので、紙を形成する繊維質材料の絡み具合はランダムと見なすことができる。紙を形成する繊維質材料の絡み具合は透過光顕微鏡を用いれば観察できる。一方、図9(A)に示す「基準画像」では、繊維質材料の絡み具合までは確認できないものの、繊維質材料の絡み具合のランダム性に起因する(紙を漉くときの諸条件により生ずる紙表面の凸凹も影響している可能性もある)紙の透明度のランダムな変化を反映したランダムな明暗のパターンが生じているので、基準画像に対応する基準データが、紙(原本)上の基準領域内における紙(原本)に固有の特徴、すなわち紙(原本)上の基準領域内の透明度のランダムな変化を表す情報となっていることは確認できる。
【0008】
次に、比較例として、原本として用いた紙のうちの64×64ドット(約4mm×約4mm)の照合領域(前述の基準領域を含む領域)の読み取りを行い、スキャナから出力された画像データを第1の照合データとして記憶した。この第1の照合データは、紙(原本)の前記照合領域内における紙の透明度のランダムな変化を表している。なお、図9(B)には第1の照合データを「照合画像」として視覚化して示す。
【0009】
また、真物が偽物と誤判定される確率が高いケースとして、原本として用いた紙を、第1の照合データ取得時に対して位置を若干ずらすと共に向きを若干回転させてスキャナの原稿台上に載置した状態で、64×64ドットの照合領域の読み取りを行い(これにより第1の照合データ取得時の読取領域に対して位置及び向きが若干異なる領域が読み取られることになる)、スキャナから出力された画像データを第2の照合データとして記憶した。更に、別の比較例として、原本として用いた紙と異なる紙のうちの64×64ドットの照合領域を読み取り、スキャナから出力された画像データを第3の照合データとして記憶した。
【0010】
次に、第1〜第3の照合データが各々表す第1〜第3の照合画像と基準データが表す基準画像との相関値を各々演算した。具体的には、例として図10に示すように、演算対象の照合画像1から基準画像と同一サイズの部分領域2(図10では「基準画像との相関値演算範囲」と表記して太線で囲んで示す)を抽出し、部分領域と基準画像との相関値を正規化相関法により演算する(次の(1)式参照)ことを、照合画像上での部分領域の位置をX方向及びY方向に1ドット(画素)ずつずらしながら繰り返した。
【数1】
【0011】
但し、Fは基準画像(基準データの集合)、fiは基準画像の個々の画素の明度値、Nは基準画像(及び照合画像の部分領域)の総画素数、Gは照合画像の部分領域(の集合)、giは照合画像の部分領域の個々の画素の明度値、fAVEは基準画像の個々の画素の明度値の平均値、gAVEは照合画像の部分領域の個々の画素の明度値の平均値である。第1〜第3の照合画像を演算対象の照合画像として上記の演算を各々行うことで、基準画像のドット数をm×n、照合画像のドット数をM×Nとすると、単一の照合画像当たり(M―m+1)×(N−n+1)個の相関値が得られる。
【0012】
続いて第1〜第3の照合画像に対し、相関値の分布具合を表す特徴量として、相関値の最大値のノーマライズド・スコアを次の(2)式に従って各々演算した。
【0013】
ノーマライズド・スコア=(相関値の最大値−相関値の平均値)÷相関値の標準偏差 …(2)
【0014】
図11(A)〜(B)には、相関値の最大値及び相関値の最大値のノーマライズド・スコアの演算結果を、照合画像上での部分領域の位置と相関値の関係を視覚的に示すチャートと共に示す。
【0015】
図11(A)に示すように、同一の紙上の基準領域を含む照合領域を、位置及び向きのずれなく読み取った場合、相関値の最大値は非常に高い値を示す。また、相関値の分布も相関値が最大となっているピーク部分以外の部分では、最大値に比して相関値が非常に低い値を示しており、これに伴い相関値の最大値のノーマライズド・スコアも非常に高い値を示している。また、原本と異なる紙を読み取った場合には、図11(C)に示すように、相関値の最大値は非常に低い値となり、相関値の分布についても、ピーク部分を含めて全体的に相関値が低い値を示しているので、相関値の最大値のノーマライズド・スコアも非常に低い値となっている。
【0016】
一方、同一の紙上の基準領域を含む照合領域を位置及び向きを若干変えて読み取った場合(真物が偽物と誤判定される確率が高いケースに相当)、相関値の最大値及び相関値の最大値のノーマライズド・スコアは、図11(B)に示すように何れも同一の紙を位置及び向きのずれなく読み取った場合と異なる紙を読み取った場合の中間的な値になる。このため、相関値の最大値及び相関値の最大値のノーマライズド・スコアの閾値として図11(B)に示す値と図11(C)に示す値の中間的な値を各々採用し(例えば相関値の最大値の閾値≒0.3、相関値の最大値のノーマライズド・スコアの閾値≒5.0)、相関値の最大値を閾値と比較すると共に相関値の最大値のノーマライズド・スコアを閾値と比較することで真偽判定を行うようにする。このようにすれば、照合領域読み取り時の紙の位置及び向きが若干ずれている等のように真物が偽物と誤判定される確率が高いケースにおいて、相関値の最大値のみを用いて判定を行う場合よりも、真偽判定の判定精度が向上する可能性があることが理解できる。
【0017】
また、本願発明者等は、上記実験と同一のスキャナを用い、同一の解像度・階調でA4の白紙の紙(原本)の任意の32×32ドット(約2mm×約2mm)の基準領域を読み取って基準データを取得すると共に、第1の比較例として、原本として用いた紙の略全面を読み取り、読み取りによって得られた画像データから64×64ドットの照合領域のデータを抽出し、抽出した照合データから更に抽出した部分領域のデータと基準データとの相関値を(1)式に従って演算することを、照合領域内における部分領域の位置を1ドットずつずらしながら繰り返した(これにより、1000万個以上の相関値が得られた)。
【0018】
また、第2の比較例として、原本として用いた紙の略全面の読み取りを、位置を若干ずらすと共に向きを若干回転させてから再度行い、前述の第1の比較例と同様に、読み取りによって得られた画像データから64×64ドットの照合領域のデータを抽出し、抽出した照合データから更に抽出した部分領域のデータと基準データとの相関値を(1)式に従って演算することを、照合領域内における部分領域の位置を1ドットずつずらしながら繰り返した。また、第3の比較例として、原本として用いた紙と異なる紙を用い、第1及び第2の比較例と同様に、読み取り・相関値の演算を行った。
【0019】
そして、偽物が真物と誤判定される確率が高いケースとして、原本として用いた紙の基準領域を故意に過大な光量で読み取ることで、基準領域内の透明度の変化が部分的に白くとんでしまっている画像を表す第2の基準データを取得すると共に、第3の比較例で用いた紙の略全面を読み取り、読み取りによって得られた画像データから64×64ドットの照合領域のデータを抽出し、抽出した照合データから更に抽出した部分領域のデータと第2の基準データとの相関値を(1)式に従って正規化相関法により演算することを、照合領域内における部分領域の位置を1ドットずつずらしながら繰り返した。
【0020】
上記の実験によって得られた相関値の分布(横軸に相関値、縦軸に頻度に1を加えて対数をとったチャート)を図12〜図15に示す。図12は第1の比較例、図13は第2の比較例で得られた相関値の分布であり、何れの分布においても、多数の相関値のうちの大多数は0又は0に近い値を示しているものの、所定値以上(例えば0.3以上)の高い相関値を示しているデータも含まれており、第1の比較例における相関値の最大値が1.00、第2の比較例における相関値の最大値が0.657と、何れも高い値を示しているので、相関値の最大値のみを用いたとしても真物を真物と判定できることが理解できる。また、図14は第3の比較例で得られた相関値の分布であるが、全ての相関値が所定値(例えば0.3)未満であり、相関値の最大値も0.254と低い値を示しているので、上記と同様に相関値の最大値のみを用いたとしても偽物を偽物と判定できる。
【0021】
一方、図15は、偽物が真物と誤判定される確率が高いケースとして想定した実験によって得られた相関値の分布であるが、所定値以上(例えば0.3以上)の高い相関値を示しているデータも含まれており(相関値の最大値は0.348)、相関値の最大値のみを用いて真偽判定を行ったとすると偽物を真物と誤判定する可能性がある。これに対し、図15の分布を図14の分布と比較しても明らかなように、図15に示す相関値の分布は裾が広がっている形状となっており、これに伴って図15の分布における相関値の標準偏差が図14の分布よりも大きくなり、前出の(2)式からも明らかなように、図15の分布における相関値の最大値のノーマライズド・スコアの値が図14の分布よりも小さくなるので(図14の分布における相関値の最大値のノーマライズド・スコアが5.32、図15の分布における相関値の最大値のノーマライズド・スコアが4.91)、偽物が真物と誤判定されることを回避できることが理解できる。
【0022】
このように、偽物が真物と誤判定される確率が高いケース(図15のケース)においても、相関値の最大値及び相関値の最大値のノーマライズド・スコアを用いて真偽判定を行えば誤判定を回避することができるので、相関値の最大値に加え、相関値の最大値のノーマライズド・スコアのように相関値の分布具合を表す特徴量も用いて真偽判定を行えば、真偽判定の判定精度向上を実現できることが確認された。なお、この真偽判定方法等は、本願と同一出願人よりすでに出願されている(特願2004−085212号)。
【0023】
【特許文献1】特開2000−094865号公報
【特許文献2】特表2002−518608号公報
【特許文献3】特開2000−146952号公報
【特許文献4】特公平6−16312号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
確かに、相関値の最大値及び相関値の最大値のノーマライズド・スコアを用いて真偽判定を行えば、真偽判定の判定精度向上を図ることはできる。しかし、例えば何らかの方法で第三者が基準画像を入手し、その基準画像を精密な写真技術等を利用して用紙に印刷したとすると、印刷用紙上には基準画像と同じ真物の地の微妙なパターンが再現性良く印刷されてしまい、偽物を真物と誤判定をしてしまう可能性がある。
【0025】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、固体の真偽判定を簡単かつ高精度に行うことができる改良された真偽判定方法、真偽判定装置及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明者等は、上記誤判定の発生原因を以下のように究明した。すなわち、基準画像を形成する際に固体に向けて斜め方向から光を照射すると、ランダム性のある固定表面上のわずかな凹凸によって影が形成される。つまり、固体上のある所定領域内表面がいくらランダム性を有しているとしても、その所定領域に対して、ある一定方向からの光を照射することで形成される固体表面の凹凸に基づくランダムな明暗のパターン(濃淡情報)は、常に同じパターンとなる。従って、所定領域の読取画像(基準画像)に含まれる濃淡情報は常に同じになるという特性を有効に利用して、従来技術では真偽判定を行った。しかし、これを逆手にとり濃淡情報が精度良く偽物の固体上に再現されてしまうと、上記のように偽物を真物と誤判定をしてしまう可能性が生じてきてしまう。
【0027】
ただ、同じ所定領域に対して、異なる方向から光を照射して得られる各濃淡情報は、固定表面の凹凸により異なる明暗のパターンが形成される。本発明者等は、この点に着目した。
【0028】
すなわち、本発明に係るコンピュータにより実施され、ランダム性を有する読み取り可能な固有の特徴が表面に沿って分布している固体の真偽を判定する真偽判定方法であって、第1の方向又は第1の方向とは異なる第2の方向の少なくともいずれか一方から真の固体の表面に向けて発光手段により照射された光の反射光を受光手段により受光することで読み取られた当該真の固体の表面の状態の読取画像を基準画像として生成すると共に、第1の方向又は第2の方向の少なくともいずれか一方から判定対象の固体の表面に向けて発光手段により照射された光の反射光を受光手段により受光することで読み取られた当該判定対象の固体の表面の状態の読取画像を照合画像として生成する画像生成ステップと、基準画像に含まれる1又は2の読取基準画像と、照合画像に含まれる1又は2の読取照合画像とにより読取基準画像と読取照合画像との少なくとも2組による照合処理を行う照合ステップとを含むことを特徴とする。
【0029】
この発明においては、基準画像に含まれる第1及び/又は第2の方向からの照射に基づく第1及び/又は第2の読取基準画像と、照合画像に含まれる第1及び/又は第2の方向からの照射に基づく第1及び/又は第2の読取照合画像との照合処理を行う。具体的には、第1又は第2の読取基準画像と第1及び第2の読取基準画像、あるいは第1及び第2の読取基準画像と第1又は第2の読取基準画像、更に第1の読取基準画像と第1の読取基準画像及び第2の読取基準画像と第2の読取基準画像、という組み合わせによる照合処理を行う。このように、本発明では、読取基準画像と読取照合画像との少なくとも2組を照合処理に用いるようにしたので、より精度良く判定対象の固体の真偽判定を行うことができるようになる。
【0030】
また、前記画像生成ステップは、第1及び第2の双方の方向からの照射に基づく第1及び第2の読取基準画像を基準画像として生成すると共に、第1及び第2の双方の方向からの照射に基づく第1及び第2の読取照合画像を照合画像として生成し、前記照合ステップは、第1の読取基準画像と第1の読取照合画像を、第2の読取基準画像と第2の読取照合画像を、それぞれ照合し、前記判定ステップは、各照合処理の結果、共に予め設定した判定基準を満足した場合に判定対象の固体を真と判定することを特徴とする。
【0031】
更に、前記判定ステップは、同一方向からの照射に基づく基準画像と照合画像を用いて照合処理が行われた場合、基準画像と照合画像の正規化相関値が予め設定した閾値以上のときに判定対象の固体を真と判定することを特徴とする。
【0032】
この発明においては、第1の方向からの照射に基づく読取画像同士、また第2の方向からの照射に基づく読取画像同士をそれぞれ照合するようにしたので、単純な比較処理のみで真偽判定を行うことができる。
【0033】
前記判定ステップは、異なる方向からの照射に基づく基準画像と照合画像を用いて照合処理が行われた場合、基準画像と照合画像の正規化相関値が予め設定した閾値以下のときに判定対象の固体を真と判定することを特徴とする。
【0034】
このように、異なる方向からの照射に基づく基準画像と照合画像とにおいても判定対象の固体に対して真偽判定を行うことができる。
【0035】
また、第1の方向と第2の方向とは、固体表面上の読取位置を基準に相反する方向であることを特徴とする。この発明においては、いわゆる相反する方向から所定領域の画像を読み取るようにしたので、明暗パターンが逆の値となって現れてくるので、正規化相関値等の値を真偽判定の処理に利用しやすい。
【0036】
本発明に係る真偽判定装置は、ランダム性を有する読み取り可能な固有の特徴が表面に沿って分布している固体の真偽を判定する真偽判定装置であって、第1の方向又は第1の方向とは異なる第2の方向の少なくともいずれか一方から真の固体の表面に向けて光を照射する第1の発光手段と、前記第1の発光手段の照射光の反射光を受光する第1の受光手段と、前記第1の受光手段の出力から当該真の固体の表面の状態の読取画像を基準画像として生成する基準画像生成手段と、前記第1の方向又は前記第2の方向の少なくともいずれか一方から判定対象の固体の表面に向けて光を照射する第2の発光手段と、前記第2の発光手段の照射光の反射光を受光する第2の受光手段と、前記第2の受光手段の出力から当該判定対象の固体の表面の状態の読取画像を照合画像として生成する照合画像生成手段と、前記各画像生成手段により生成された基準画像と照合画像とに基づき照合処理を行うことで判定対象の固体の真偽を判定する判定手段とを有することを特徴とする。
【0037】
本発明に係るプログラムは、固体の表面に沿って分布しかつランダム性を有する前記固体固有の特徴を読み取り可能な読取装置が接続されたコンピュータを、第1の方向又は第1の方向とは異なる第2の方向の少なくともいずれか一方から真の固体の表面に向けて発光手段により照射された光の反射光を受光手段により受光することで読み取られた当該真の固体の表面の状態の読取画像を基準画像として生成する基準画像生成手段と、第1の方向又は第2の方向の少なくともいずれか一方から判定対象の固体の表面に向けて発光手段により照射された光の反射光を受光手段により受光することで読み取られた当該判定対象の固体の表面の状態の読取画像を照合画像として生成する照合画像生成手段と、基準画像に含まれる1又は2の読取基準画像と、照合画像に含まれる1又は2の読取照合画像との照合処理を行う照合手段として機能させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、基準画像と照合画像との照合により真偽判定対象の固体の真偽を判定する際、基準画像に含まれる1又は2の読取基準画像と、照合画像に含まれる1又は2の読取照合画像とにより読取基準画像と読取照合画像との少なくとも2組の組み合わせにより照合処理を行うようにした。すなわち、単一の基準領域に対して異なる方向から読取基準画像を取得し、あるいは単一の照合領域に対して異なる方向から読取照合画像を取得し、1対2、2対1あるいは2対2の画像の組み合わせによる照合処理を行うようにしたので、真偽判定対象の固体の真偽を、より高精度に判定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、図面に基づいて、本発明の好適な実施の形態について説明する。
【0040】
図1には本実施形態に係るカラープリンタ10が示されている。カラープリンタ10は、像担持体としての感光体ドラム12を備える。この感光体ドラム12は、帯電器14によって帯電される。感光体ドラム12の上方には、形成すべき画像に応じて変調されると共に主走査方向(感光体ドラム12の軸線に平行な方向)に沿って偏向された光ビームを射出する光ビーム走査装置16が配置されている。光ビーム走査装置16から射出された光ビームは感光体ドラム12の周面上を主走査方向に走査し、同時に感光体ドラム12が回転されて副走査が成されることで、感光体ドラム12の周面上に静電潜像が形成される。
【0041】
また、図1における感光体ドラム12の右側方には、多色現像器18が配置されている。多色現像器18はC(シアン)、M(マゼンダ)、Y(イエロー)及びK(ブラック)の何れかの色のトナーが装填された現像器18A〜18Dを備えており、感光体ドラム12に形成された静電潜像をC,M,Y,Kの何れかの色に現像する。なお、カラープリンタ10におけるフルカラー画像の形成は、感光体ドラム12上の同一の領域に対して静電潜像を形成して互いに異なる色に現像することが複数回繰り返され、前記領域上で各色のトナー像が順次重ね合わされることによって成される。
【0042】
感光体ドラム12の近傍には、無端の転写ベルト20が配置され、転写ベルト20の配置位置の下方には記録用紙22を収容する用紙トレイ24が配置されている。転写ベルト20の周面は、感光体ドラム12の回転方向に沿って多色現像器18による現像位置よりも下流側で感光体ドラム12の周面に接触している。感光体ドラム12に形成されたトナー像は、転写ベルト20に一旦転写された後、用紙トレイ24から引き出されて転写ベルト20の配置位置まで搬送された記録用紙22に再転写される。カラープリンタ10への機体外へと向かう記録用紙22の搬送路の途中には定着器26が配置されており、トナー像が転写された記録用紙22は、定着器26によってトナー像が定着された後にカラープリンタ10への機体外へ排出される。
【0043】
また、用紙トレイ24から転写ベルト20の配置位置へ至る記録用紙22の搬送路(図1に想像線で示す)の途中には読取部28が設けられている。読取部28は、記録用紙22に光を照射する発光器28A,28Cと、該発光器28A,28Cから射出され記録用紙22を反射した光を受光する受光器28Bを備える。本実施の形態では、受光器28Bを挟むように、つまり、記録用紙22の読取位置を基準に相反する異なる方向から記録用紙22へ照射するように各発光器28A,28Cを配設する。つまり、発光器28A,28Cの受光手段として受光器28Bを共用する。また、読取部28は、受光器28Bから出力された信号をデジタルデータに変換して出力する信号処理回路を備えており(図示省略)、記録用紙22を形成している繊維質材料の絡み具合のランダム性により記録用紙22の表面に沿って分布している光反射率のランダムな変化を、所定の解像度(例えば、400dpi)かつ所定の階調(例えば8ビットグレイスケール)で読み取り可能とされている。
【0044】
光ビーム走査装置16には、プリンタコントローラ30が接続されている。このプリンタコントローラ30には、キーボード及びディスプレイを含んで構成された操作部(図示省略)と読取部28が接続されており、更に、記録用紙22に印刷すべきデータを入力するパーソナル・コンピュータ(図示省略)が、直接又はLAN等のネットワークを介して接続されている。プリンタコントローラ30は、マイクロコンピュータを含んで構成されており、光ビーム走査装置16を含むカラープリンタ10の各部の動作を制御する。
【0045】
図2には、本発明に係る真偽判定装置として機能することが可能なパーソナル・コンピュータ(PC)32及びスキャナ34が示されている。図示は省略するが、PC32はCPU、ROM、RAM及び入出力ポートを備え、これらはバスを介して互いに接続されている。また、入出力ポートには、ディスプレイ、キーボード、マウス、ハードディスクドライブ(HDD)が接続されている。HDDにはOSや各種のアプリケーションソフトのプログラムが記憶されており、更に、後述する真偽判定処理を行うための真偽判定プログラムも記憶されている。
【0046】
一方、スキャナ34はフラットベッド型であり、原稿台(図示省略)上に載置された原稿を、前述の読取部28と同一の解像度(例えば400dpi)かつ同一の階調(例えば8ビットグレイスケール)で読み取る機能を備えている。スキャナ34は、PC32の入出力ポートに接続されており、スキャナ34による原稿の読み取りは、PC32によって制御されると共に、スキャナ34が原稿を読み取ることによって得られた画像データは、PC32に入力される。
【0047】
図3には、スキャナ34の部分的な内部構造が示されている。スキャナ34は、本体側上面の原稿台に相当するプランガラスカバー46の上に載置された原稿42をプラテンカバー44で押さえ付け、読取位置Pにおいて原稿読み取りを行う。反射板54の中に配設された発光手段に相当する光源50は、キャリッジ48の開口48Aを通して読取位置Pへ向けて発光する。読取位置Pからの反射光は、開口48Aを通ってミラー56、レンズ58を介してラインイメージセンサ52,62,68で受光される。図示されていないスキャナ34の駆動制御部は、キャリッジ48を矢印B方向に移動させながら画像読取を行うことで原稿42全体の画像を読み取る。この読取画像は、上記の通りPC32へ送られる。なお、本実施の形態では、汎用的なスキャナ34を利用できる。
【0048】
次に、本実施形態の作用として、まずカラープリンタ10における処理について説明する。
【0049】
本実施形態に係るカラープリンタ10は、記録用紙22に印刷する文書が原本である場合に、原本としての印刷を行う(該文書の真偽判定に使用するための基準データも記録用紙22に印刷する)機能を有している。カラープリンタ10を利用して印刷を行う場合、利用者は、記録用紙22に印刷すべき文書を表す印刷データをPCからカラープリンタ10へ送信させると共に、印刷する文書が原本として用いる文書である場合には、印刷対象の文書を原本として印刷するようカラープリンタ10に指示する。
【0050】
上記の指示が有った場合、カラープリンタ10のプリンタコントローラでは基準データ登録処理が行われる。以下、この基準データ登録処理について、図4に示したフローチャートを参照して説明する。
【0051】
ステップ100では、原本としての文書を印刷する記録用紙22を用紙トレイ24から取り出し、読取部28の配置位置(読取位置)へ搬送する。記録用紙22が読取位置に到達すると、次のステップ102では読取部28により、所定の解像度(400dpi)かつ所定の階調(8ビットグレイスケール)で、記録用紙22上の所定の基準領域(32×32ドット(約2mm×約2mm)の大きさの領域)を読み取る。より詳細には、以下のように読取部28は動作する。
【0052】
記録用紙22上の所定の基準領域が所定の読取位置に達したとき、いずれか一方、例えば発光器28Aが光を照射し、受光器28Bがその反射光を受光することで所定の基準領域を読み取る。このとき、発光器28Cは発光しない。受光器28Bにおける読み取り後、今度は他方の発光器28Cが光を照射し、受光器28Bがその反射光を受光することで所定の基準領域を読み取る。このとき、発光器28Aは発光しない。例えば、記録用紙22が遠のく方向に位置する発光器28Aを第1の方向、記録用紙22が近づく方向に位置する発光器28Cを第2の方向と称すると、本実施の形態における読取部28は、以上のように動作することで第1及び第2の異なる2方向から基準領域を読み取ることになる。なお、処理速度上、2方向からの連続した画像読取処理は可能である。
【0053】
これにより、読取部28からは、読取対象の記録用紙22を形成する繊維質材料の絡み具合のランダム性に起因して、読取対象の記録用紙22の基準領域内における紙の透明度のランダムな変化を表す基準画像が出力されることになる。この基準画像には、第1の方向からの照射に基づく読取画像と第2の方向からの照射に基づく読取画像とが含まれている。なお、第1の方向と第2の方向は異なる方向であればよく、本発明との関係上、どちらが第1の方向でもよい。本実施形態では、読取解像度を400dpi、読み取りの階調を8ビットグレイスケール、読取対象の基準領域を32×32ドットとしているので、基準画像に含まれる各読取画像のサイズは1024バイトとなり、個々の画素(ドット)の階調値(明度値)は、0〜255の範囲内の整数値となる。上記の読み取りによって得られる基準画像に基づき、該基準画像が表す画像を可視化(目視が容易なようにコントラスト補正)した画像の一例を図5に示す。なお、本実施の形態では、相反する2方向から光を照射して基準領域の画像を読み取るので、端的にいうと一方の画像が図5で図示されるのならば、他方の画像として図示した画像と明暗が反転した画像が得られることになる。
【0054】
なお、基準領域は、記録用紙22上の任意の位置でよく、記録用紙22上での基準領域の位置を固定してもよいし、記録用紙22上での基準領域の位置を文書(原本の内容)によって変化させてもよい。また、基準領域をユーザに入力指定させてもよいし、プリンタコントローラ30に自動設定させてもよい。但し、基準領域読み取り後の印刷により記録用紙22上の基準領域内にトナー(或いはインク)が付着された場合、後述する真偽判定で演算される相関値の最大値が大幅に低くなることで誤判定が発生する可能性が非常に高い。このため、基準領域の位置を固定する場合は、記録用紙22のうちトナーが付着される可能性のない位置(例えば、カラープリンタ10の印刷可能範囲外に相当する位置)とし、基準領域の位置を文書によって変化させる場合は、印刷データに基づいて記録用紙22のうち印刷によってトナー等が付着されない範囲を判断し、判断した範囲内に基準領域を設定することが望ましい。特に、後述する真偽判定処理では照合領域として基準領域より広い領域(例えば、64×64ドットの領域)を読み取るので、基準領域は周囲の領域にも印刷によってトナー等が付着されない領域であることが望ましい。
【0055】
また、基準領域の読み取りは、記録用紙22への印刷が行われた後に実行することも可能である。この場合、記録用紙22のうち印刷によってトナー等が付着された部分が基準領域に含まれていたとしても、前述のように基準領域の読み取りを行った後に行われた印刷により記録用紙22上の基準領域内にトナー等が付着された場合と比較すれば、真偽判定で誤判定が発生する可能性は低い。しかしながら、紙上のトナー等が付着されている部分の透明度の変化はランダム(個々の紙に固有の変化)とは言えない。透明度の変化がランダムでない部分を基準領域に設定し、該基準領域を読み取ることで得られた基準データを真偽判定に用いたとすると、偽造に対して脆弱になるので、記録用紙22への印刷が行われた後に基準領域を読み取る場合にも、基準領域は紙上のトナー等が付着されていない範囲内に設定することが望ましい。
【0056】
記録用紙22への印刷が行われた後に基準領域を読み取る場合に、記録用紙22上のトナーが付着されていない範囲を判断することは、前述のように印刷データを利用することで実現できる。しかしながら、記録用紙22上のトナー等が付着されている部分は、トナー等が付着されていない部分と比較してコントラストが明らかに大きいので、上記のように印刷データを利用することに代えて、記録用紙22を読み取り、該読み取りによって得られたデータに基づき、記録用紙22上の各部分毎にコントラスト(階調値(明度値又は濃度値)の最大値と最小値の差)を求める。このようにして、記録用紙22上のトナー等が付着されていない範囲を判断することも可能である。
【0057】
また、一般に読取対象の領域(詳しくは真偽判定で相関値の演算対象とする領域)のサイズが大きくなるに従って真偽判定の判定精度は向上する(FAR及びFRRの少なくとも一方が低下する)が、代りに、記録用紙22のうち印刷を行ってもトナー等が付着されない範囲をより広い面積とする必要があるために印刷の自由度が低くなり、真偽判定等の処理も複雑になるという問題が生ずる。このため本実施形態では、読取解像度400dpiにおける基準領域のサイズを32×32ドット(約2mm×約2mm)としている。後で説明する実験結果からも明らかなように、基準領域を上記サイズよりも小さくすると真偽判定の判定精度は低下するが、基準領域を上記サイズより大きくしても判定精度向上の程度は僅かである。従って、読み取りにあたって高価で取り扱いが面倒な顕微鏡を使う必要はなく、400dpi程度の解像度での読み取りが可能な読取装置(カラープリンタ10に内蔵されている読取部28や安価な市販のスキャナ等)を使用するのが実用的である。
【0058】
更に、基準領域の読み取りにおいて、受光器28Bに過大な光量の光が入射された等により受光器28Bの出力信号が飽和してしまうと、読み取りによって得られる基準データが表す基準領域内の透明度の変化が部分的に白くとんでしまう等のように、基準領域内の透明度の変化を正確に表す基準データが得られないので、基準領域の読み取りに際しては露出を適度に抑えることが望ましい。また、カラープリンタ10に内蔵されている読取部28に代えて、読取モードとして写真モード/書類モード等が設けられているスキャナを用いて読み取りを行う場合には、紙の透明度の変化をより高精細に読取可能な読取モード(例えば写真モード)を選択して読み取りを行うことが望ましい。
【0059】
上記のようにして基準領域の読み取りを行うと、ステップ104では、読み取りによって得られた基準データに対して離散コサイン変換等を適用して圧縮する。次のステップ106では、圧縮後のデータに基づき、該データを機械が自動的に読み取り可能な形式のコード(例えば、2次元バーコード等)として記録用紙(原本)22へ印刷するためのビットマップデータを生成する。なお、ステップ104におけるデータ圧縮は必須ではなく、データ圧縮を行うことなくコード化してもよい。また、基準領域の位置を文書によって変化させる場合には、読み取りによって得られた基準データに基準領域の位置を表す情報を付加した後に圧縮・コード化を行うことが好ましい。また、データの暗号化も行うようにしてもよい。
【0060】
次のステップ108では、基準データを表すコードが記録用紙(原本)22の所定位置に印刷されるように、印刷対象のビットマップデータ(カラープリンタ10がPCから受信した印刷データをビットマップデータへ展開することで得られる)に、ステップ106で生成したビットマップデータを付加する。そしてステップ110では、記録用紙(原本)22への印刷時に、上記のビットマップデータを光ビーム走査装置16へ出力する。これにより、利用者が原本としての印刷を所望している文書が、基準データを表すコードが所定位置に付加された状態で記録用紙(原本)22に印刷されることになる。
【0061】
なお、原本としての文書が印刷された記録用紙22のうち、基準領域として読み取りを行った領域に、例えばインクが付着する等の汚れが付着すると、次に説明する真偽判定における判定精度が低下するという問題がある。このため、原本としての文書の印刷に際しては、例えば基準領域として読み取りを行った領域を明示するマーク等を同時に印刷することで、前記領域に汚れ等が付着しないよう利用者に注意を喚起することが好ましい。一方、基準領域として読み取りを行った領域を明示しないことは偽造防止に有効であるので、偽造防止を目的として前記領域を意図的に明示しないようにしてもよい。
【0062】
また、基準領域として読み取りを行った領域に汚れ等が付着していた場合にも真偽判定の判定精度の低下を回避するために、基準領域を複数設定し、個々の基準領域を各々読み取り、読み取りによって得られた複数の基準データを各々保存しておくことが好ましい。これにより、基準領域として読み取りを行った複数の領域の一部に汚れ等が付着した場合にも、この領域を除外し、汚れ等が付着していない他の領域を用いて真偽判定を行うことができ、真偽判定の判定精度が低下することを回避することができる。
【0063】
続いて、所定位置にコードが印刷されている紙(文書)の真偽を判定する場合にPC32で実行される真偽判定処理について、図6に示したフローチャートを参照して説明する。なお、この真偽判定処理は、例えば上記文書の真偽の確認を所望している利用者によって真偽判定の実行が指示されると、PC32のHDDから真偽判定プログラムが読み出され、読み出された真偽判定プログラムがPC32のCPUで実行されることによって実現される。
【0064】
ステップ120では、真偽判定対象の文書をスキャナ34にセット(原稿台上に載置)するよう要請するメッセージをディスプレイに表示することで、真偽判定対象の文書をスキャナ34にセットさせる。ステップ122では文書のセットが完了したか否か判定し、判定が肯定される迄ステップ122を繰り返す。真偽判定対象の文書がスキャナ34にセットされると、ステップ122の判定が肯定されてステップ124へ移行し、スキャナ34に対し、原稿台上に載置された文書の読み取りを指示する。
【0065】
これにより、真偽判定対象の文書の全面が、基準領域読み取り時と同一の解像度(400dpi)かつ同一の階調(8ビットグレイスケール)でスキャナ34によって読み取られ、該読み取りによって得られた画像データがスキャナ34からPC32に入力される。
【0066】
なお、この読み取りにおいても、真偽判定対象の文書の、特に照合領域内の透明度の変化を正確に表す画像データが得られるように、露出を適度に抑えることが望ましい。スキャナ34の読取モードとして写真モード/書類モード等が設けられている場合には、読取モードとして、紙の透明度の変化をより高精細に読取可能な読取モード(例えば写真モード)を選択することが望ましい。
【0067】
更に、本実施の形態では、真偽判定対象の文書をスキャナ34からいったん取り出し、反転させた後にスキャナ34に再度セットする。そして、上記と同様に文書の読み取りを行う。スキャナ34の発光手段である光源50は、斜め方向から文書に光を照射し、ラインイメージセンサ52,62,68によってその反射光が受光されることで画像の読み取りが行われる。文書を反転させて画像の読み取りを再度行うことで、カラープリンタ10を用いて2方向から基準画像を取得したのと同様に、スキャナ34を用いても異なる2方向から照合画像を取得したことになる。
【0068】
スキャナ34から画像データが入力されると、次のステップ126では、入力された画像データから、基準データを表すコードが印刷されている領域のデータを抽出する。なお、スキャナ34から入力される画像データには、2方向からの読取画像が含まれているので、各読取画像からデータをそれぞれ抽出することになる。ステップ128では、ステップ126で抽出したデータに基づいて、真偽判定対象の文書に印刷されているコードが表すデータを認識し、認識したデータに対して解凍(暗号化されていれば復号化)等の処理を行うことで基準データを復元する。
【0069】
ところで、本実施形態に係る真偽判定処理においては、後述するようにカラープリンタ10において読み取られ生成された基準画像と、スキャナ34において読み取られ生成された照合画像との相関値を演算して判定対象の文書の真偽判定を行うことになる。しかし、基準画像には、第1の方向からの照射に基づく読取画像(第1の読取基準画像)と第2の方向からの照射に基づく読取画像(第2の読取基準画像)が含まれており、一方、照合画像には、第1の方向からの照射に基づく読取画像(第1の読取照合画像)と第2の方向からの照射に基づく読取画像(第2の読取照合画像)が含まれているので、相関値演算等の組み合わせとなる読取画像を基準画像及び照合画像からそれぞれ選出しなければならない。本実施の形態では、後述する説明から明らかになるように同じ方向からの照射に基づく読取画像の組を選出しても、異なる方向からの照射に基づく読取画像の組を選出しても判定対象の文書の真偽判定は行えるが、この例では、ステップ129において同じ方向からの照射に基づく読取画像の組を選出したものとして後段の処理について説明する。最初に、発行器28Aからの発光により取得した第1の読取基準画像と、対応する第1の読取照合画像との組を選出したものとする。
【0070】
ステップ130では、スキャナ34から入力された画像画像から、領域の中心位置が基準領域の中心位置と一致し、かつ基準領域よりも広面積(64×64ドット)の照合領域(従って、この照合領域は基準領域を含んでいる)のデータを抽出する。なお、基準領域の位置を文書によって変化させる場合、基準領域の位置は、例えば基準データに付加されている基準領域の位置を表す情報に基づいて認識することができる。
【0071】
また、基準データに付加した情報に基づいて基準領域の位置を認識することに代えて、印刷時に基準領域の近傍に何らかのマークを印刷しておき、真偽判定のための読み取りを行った後、読み取りによって得られた画像データ上で前記マークを探索することで、基準領域の位置を自動的に認識するようにしてもよい。これにより、真偽判定のための読み取り時に、原稿台上に載置された真偽判定対象の文書に若干の位置ずれが生じていたとしても、この位置ずれの影響を受けることなく基準領域の位置を正確に認識することができる。また、読取器28Aで読み取られた第1の方向からの画像に対応する第1の読取照合画像の特定も容易になる。
【0072】
上記のマークは例えば点形状とすることができる。また、重なり合わない位置に複数個のマークを印刷しておけば(マークの数はなるべく少ないことが望ましいので、最適な個数は2個である)、個々のマークと基準領域の位置関係が既知であれば、複数個のマークの位置から基準領域の位置及び向き(角度)は特定できる。またマークの検出は、例えば以下のようにして行うことができる。
【0073】
すなわち、画像データ上でマークを探索した結果、例えばマークと見なせる点が1個検出された場合には、検出失敗又は基準領域の読み取りが行われていない(原本として印刷された文書でない)紙と判断する。また、例えばマークと見なせる点が2個検出された場合には、2個のマークのユークリッド距離を求め、許容範囲内であれば基準領域を示すマークであると判断し、許容範囲外であれば検出失敗と判断する。マークと見なせる点が3個以上検出された場合には、それぞれのマーク間のユークリッド距離を求め、距離が許容範囲内のマーク対が1組あれば、該マーク対を基準領域を示すマークであると判断する。距離が許容範囲内のマーク対が0組および2組以上であった場合には、検出失敗と判断してもよいし、距離が許容範囲に近い組をとりあえず候補としてもよい。本発明では真偽判定の閾値を適切に定めることでFARを極めて低くすることができるので、実際には基準領域を示すマークではない点を基準領域を示すマークと誤判断したとしても、処理時間は長くなるものの真偽判定の判定精度に悪影響を及ぼすことは殆どない。
【0074】
ところで、本実施形態に係る真偽判定処理では、照合領域のデータから基準領域(第1領域)と同サイズの領域(演算対象領域:第2領域)に相当するデータを取り出し、該データと基準データとの相関値を演算することを、演算対象領域の位置を移動させながら繰り返す。このため、次のステップ132では照合領域内におけるデータ取出位置(演算対象領域の位置)を初期化する。
【0075】
ステップ134では、照合領域のデータから、設定したデータ取出位置に位置している基準領域と同サイズの領域のデータ(照合データ)を取り出す。そしてステップ136では前出の(1)式に従い、ステップ128で復元した基準データとステップ134で取り出した照合データとの相関値を正規化相関法により演算し、演算によって得られた相関値をRAM等に記憶させる。
【0076】
次のステップ138では、演算対象領域が照合領域の全面をスキャンしたか否か判定する。判定が否定された場合はステップ140へ移行し、データ取り出し位置を1ドットだけ縦又は横に移動させた後にステップ134に戻る。これにより、ステップ138の判定が肯定される迄の間ステップ134〜ステップ140が繰り返される。本実施形態では基準領域が32×32ドット、照合領域が64×64ドットであるので、相関値の演算が(64−32+1)×(64−32+1)=1089回行われ、1089個の相関値が得られることになる。
【0077】
相関値の演算が終了するとステップ138の判定が肯定されてステップ142へ移行し、上記の演算によって得られた多数個の相関値の中からその最大値を抽出する。また、次のステップ144では、多数個の相関値の標準偏差及び平均値を演算した後に、演算した標準偏差・平均値及びステップ142で求めた相関値の最大値を前出の(2)式に各々代入することで、相関値の最大値のノーマライズド・スコアを演算する。
【0078】
以上のようにして、選出された第1の方向からの照射に基づく読取画像に対して、相関値の最大値及び相関値の最大値のノーマライズド・スコアを得たが、ステップ145において、第2の方向からの照射に基づく読取画像に対する処理をまだ行っていないため、ステップ129に移行し、発行器28Bからの発光により取得した第2の読取基準画像と、対応する第2の読取照合画像との組を選出し、この選出したデータに基づき前述したステップ130〜144の処理を実施する。これにより、第2の方向からの照射に基づく読取画像に対しても、相関値の最大値及び相関値の最大値のノーマライズド・スコアを得る。
【0079】
ステップ146では、ステップ142で求めた相関値の最大値及びステップ144で演算したノーマライズド・スコアとそれぞれに対して予め設定した閾値との比較を行うことで判定対象の文書の真偽判定を行う。ここでの例では、同じ方向からの照射に基づき取得した読取画像の組による真偽判定なので、ステップ142で求めた相関値の最大値が閾値以上で、かつステップ144で演算したノーマライズド・スコアが閾値以上か否かを判定する。より具体的に説明すると、第1の方向からの照射に基づく読取画像の組において相関値の最大値が閾値以上で、かつノーマライズド・スコアが閾値以上か否かを判定する。また、第2の方向からの照射に基づく読取画像の組において相関値の最大値が閾値以上で、かつノーマライズド・スコアが閾値以上か否かを判定する。なお、相関値の最大値の閾値としては、例えば「0.3」を、ノーマライズド・スコアの閾値としては、例えば「5.0」を用いることができる(図8参照)。
【0080】
そして、ステップ147において、各組の真偽判定において、相関値及び相関値のノーマライズド・スコアの各閾値以上であり、双方とも「真」と判定されるという判定基準を満足した場合に限り、ステップ148において真偽判定対象の文書が「真物」であることを表すメッセージをディスプレイに表示する等により判定結果を出力し、真偽判定処理を終了する。また、ステップ147の判定において少なくとも一方が否定された場合はステップ150へ移行し、真偽判定対象の文書が「偽物」であることを表すメッセージをディスプレイに表示する等により判定結果を出力し、真偽判定処理を終了する。
【0081】
本実施の形態によれば、以上のようにして、真偽判定対象の文書(紙)の真偽を、簡単な処理により高精度に判定することができる。本実施の形態では、特に単一の基準領域に対して異なる複数の方向から基準画像を取得し、また同様に単一の照合領域に対して異なる複数の方向から照合画像を取得し、各方向から真偽の判定を行うようにした。これにより、判定対象の文書の単一の照合領域に対して複数の基準画像を印刷することはできないため、基準画像を不正に取得した者による悪質な行為にも対処することができるようになり、よって高精度な真偽判定を行うことができる。
【0082】
なお、本実施の形態では、基準画像として異なる2方向から照射したときの読取画像を得るために、図1に示したように2つの発光器28A,28Cをカラープリンタ10に配設した。しかし、この構成に限定するものではない。図7は、図1において読取部28付近の他の実施形態のみを示した図であるが、図7に示したように1つの発光器28Aを矢印E方向に回動可能に設置すると共に発光器28Aの両側に受光器28B,28Dを配設するようにしてもよい。この場合、図4におけるステップ102では、発光器28Aは、記録用紙22上の所定の基準領域が所定の読取位置P1に達したときに発光して受光器28Bに反射光を受光させる。その後、発光器28Aは、即座に照射方向を変え、記録用紙22上の所定の基準領域が所定の読取位置P2に達したときに発光し、受光器28Dに反射光を受光させる。このような構成によって異なる2方向からの照射に基づく読取基準画像を得るようにしてもよい。また、第1の方向と第2の方向を全く異なる部材にて構成するようにしてもよい。
【0083】
一方、照合画像として異なる2方向から照射したときの読取画像を得るために、本実施の形態では、画像読取後、真偽判定対象の文書を反転させた後にスキャナ34に再度セットさせていた。これは、市販のスキャナ34を用いることを前提としたためであり、カラープリンタ10のように発光手段を2つ搭載するような特注品のスキャナを用意するようにしてもよい。こうすれば、スキャナを1度動作させるだけで2方向から照射したときの読取画像を得ることができる。
【0084】
なお、本実施の形態では、異なる2方向から固体の所定の領域に対して発光するように構成し、同じ基準領域から複数の読取画像を取得して真偽判定を行うことで真偽判定の精度の向上を図るようにした。この目的を達成するためには、同じ基準領域から異なる明暗パターンの濃淡情報が取得できればよいため、論理的には、照射角度の異なる読取画像を収集できればよいと考えられる。つまり、固体の所定の読取位置を基準にしてある方向、例えば固体が離れていく方向(図1においては発光器28A側)から角度を変えて照射し、2つの読取画像を得るようにすることも考えられる。ただ、角度を変えて同じ方向から照射した場合、照射角度を異ならせたとしても明暗パターンにはそれほど差異は生じてこない。従って、固体の所定の読取位置を基準にすると、図1に示したように固体の所定の読取位置に相反する方向から照射して読取画像を取得することが望ましい。2方向だけではなくより多くの方向から照射してより多くの読取画像を取得してより精度の向上を図るようにすることも考えられるが、上記のように固体の所定の読取位置を基準に同じ方向から照射しても明暗パターンに差異は生じにくいため、本実施の形態のように、相反する2方向からの照射に基づく読取画像を取得することが効率的である。
【0085】
この所定領域を基準として照射方向を同じにすると、明暗パターンに差異が生じにくいということは、カラープリンタ10における各発光器28A,28Cから記録用紙22への照射角度と、スキャナ34における光源50から文書への照射角度とを、必ずしも一致させるような調整は必要ないということができる。
【0086】
ところで、上記説明においては、基準画像及び照合画像をそれぞれ2つ用意し、真偽判定を行う際に、基準画像と照合画像との組を同じ方向からの照射に基づく読取画像によって形成した。すなわち、基準画像及び照合画像により2対2(正確には(1対1)×2)の組を形成した。本実施の形態では、更に異なる組み合わせでも真偽判定を行うことは可能である。この一例として、基準画像として2方向からの照射に基づく読取基準画像を、照合画像として一方向からの照射に基づく読取照合画像を、それぞれ取得した場合について説明する。つまり、基準画像と照合画像が2対1の場合について説明する。
【0087】
まず、基準データ登録処理は、2方向からの照射に基づき読取基準画像を取得するので、図4を用いて説明した処理と同じである。よって、説明を省略する。
【0088】
真偽判定処理の基本的な処理の流れは、図6を用いて説明したとおりである。ただ、ステップ120〜124では、一方向のみ読取照合画像のみを取得すればよくなる。そして、ステップ129では、第1の読取基準画像と第1の読取照合画像との組及び第2の読取基準画像と第1の読取照合画像との組を形成して後段の処理を行うことになる。なお、この場合、第1の方向は、カラープリンタ10において記録用紙22が遠のく方向とは限らない。ステップ130〜144では、前者の場合、同じ方向からの照射により得られた読取画像であるから前述した処理と同様にして相関値の最大値及び相関値の最大値のノーマライズド・スコアを得る。一方、後者の場合、前者の場合と逆の値を得る。すなわち、ステップ142では、前段の演算によって得られた多数個の相関値の中からその最小値を抽出する。そして、ステップ144では、多数個の相関値の標準偏差及び平均値を演算した後に、演算した標準偏差・平均値及びステップ142で求めた相関値の最小値を前出の(2)式に各々代入することで、相関値の最小値のノーマライズド・スコアを演算する。なお、この場合、前出の(2)式における「最大値」は「最小値」に読み替える。
【0089】
ステップ146において、同じ方向からの照射に基づき取得した読取画像の組による真偽判定は、前述したようにステップ142で求めた相関値の最大値が閾値以上で、かつステップ144で演算したノーマライズド・スコアが閾値以上か否かを判定する。前者、すなわち第1の読取基準画像と第1の読取照合画像との組は、これに該当する。一方、異なる方向からの照射に基づき取得した読取画像の組による真偽判定は、これとは逆にステップ142で求めた相関値の最小値が閾値以下で、かつステップ144で演算したノーマライズド・スコアが閾値以下か否かを判定する。この場合、共に閾値以下の場合が「真」と判定される。
【0090】
判定対象の文書が「真物」であるとき、同じ方向からの照射であれば、画像データに現れてくる明暗パターン(濃淡情報)は一致するはずである。ただ、実際には、誤差等が発生するためステップ146で説明したとおり相関値の最大値等は閾値以上となる。従って、求めた相関値の最大値及び最大値のノーマライズド・スコアを各閾値と比較し、共に閾値以上であれば「真」と判定した。これに対して、異なる方向からの照射であれば、画像データに現れてくる明暗パターン(濃淡情報)は、正反対となるはずである。従って、同じ方向の場合とは逆に、相関値の最小値及び最小値のノーマライズド・スコアを求め、相関値の最小値及び最小値のノーマライズド・スコアを各閾値と比較し、共に閾値以下であれば「真」と判定することになる。
【0091】
この結果、ステップ147において、各組の真偽判定において肯定された場合、すなわち、双方とも「真」と判定された場合に限り、ステップ148へ移行し、真偽判定対象の文書が「真物」であることを表すメッセージをディスプレイに表示する等により判定結果を出力し、真偽判定処理を終了する。また、ステップ147の判定において少なくとも一方が否定された場合はステップ150へ移行し、真偽判定対象の文書が「偽物」であることを表すメッセージをディスプレイに表示する等により判定結果を出力し、真偽判定処理を終了する。
【0092】
最初の説明では、2対2(正確には(1対1)×2)で真偽判定を行っていたが、ここで説明したように基準画像が2,照合画像が1という2対1の関係においても2対2の場合と同様の効果を奏することができる。そして、この場合は、スキャナ34により照合画像を1回だけ読み取ればよいので、利用者による作業負荷を軽減することができる。
【0093】
更に、本実施の形態では、基準画像が1,照合画像が2という1対2の関係においても真偽判定を行うことができる。
【0094】
まず、基準データ登録処理は、1方向からの照射に基づき読取基準画像を取得するので、一方の発光器28A,28Cからの照射による画像読取を省略する。いずれを省略してもよい。その他は図4を用いて説明した処理と同じである。よって、説明を省略する。
【0095】
真偽判定処理の基本的な処理の流れは、図6を用いて説明したとおりである。この場合、ステップ129では、第1の読取基準画像と第1の読取照合画像との組及び第1の読取基準画像と第2の読取照合画像との組を形成して後段の処理を行うことになる。ステップ130〜144では、前者の場合、同じ方向からの照射により得られた読取画像であるから前述した処理と同様にして相関値の最大値及び相関値の最大値のノーマライズド・スコアを得る。一方、後者の場合、すなわち異なる方向からの照射により得られた読取画像の場合も前述したとおりであり、ステップ142では、相関値の最小値を抽出し、ステップ144では、相関値の最小値のノーマライズド・スコアを演算する。そして、ステップ146以降の真偽判定も読取基準画像と読取照合画像が2対1の場合と同じなので説明を省略する。
【0096】
読取基準画像と読取照合画像が1対2の場合も、2対2の場合と同様の効果を奏することができる。そして、この場合は、カラープリンタ10に発光器28A,28Cを2つ設ける必要はない。1つの読取基準画像で基準データを構成する場合は、基準画像を不正に記録用紙22に印刷される可能性もあるが、照合領域の画像を異なる方向から複数読み取るようにしているので、相関値を利用した真偽判定が共に「真」と判定されることはあり得ないと考えられる。
【0097】
なお、本実施の形態は、基準領域の読取画像を基準に処理対象の文書の真偽判定を行うため、トナー等の付着による基準領域の汚れは、真偽判定の精度を低下させる。そのためには、種々の方法にて精度の低下を回避する必要があるが、その具体的な手法としては、前述した本願と同一出願人による特許出願の明細書に記載されている方法を利用して真偽判定の精度の低下を回避することができる。
【0098】
また、上記特許出願と同じ方法による本発明の効果を検証した実験結果を図8に示す。図8には、横軸に相関値の最大値(左端が0.00、右端が1.00)をとり、縦軸に相関値の最大値のノーマライズド・スコア(上端が0.0、下端が10.0)をとったときに、相関値の最大値及び相関値の最大値のノーマライズド・スコアの閾値の変化に対するFRR及びFARの値の変化を示す。この図8は、上記特許出願の図17に相当する図である。但し、図8は、基準画像(当然ながら「真物」)と照合画像(ここでは、「真物」を用いた)を同じ照射方向により取得した読取画像に基づきFRRを、基準画像と基準画像と異なる照射方向により取得した読取画像に基づきFARを求めた。また、図8(a)は、基準領域のサイズが32×32ドット、照合領域のサイズが64×64ドット、図8(b)は、基準領域のサイズが32×32ドット、照合領域のサイズが128×128ドットである。図8(c),(d)は、異なる資料を用いた実験結果で、図8(c)は、基準領域のサイズが32×32ドット、照合領域のサイズが64×64ドット、図8(d)は、基準領域のサイズが32×32ドット、照合領域のサイズが128×128ドットである。本実験では、「真物」ならば、基準画像と基準画像取得時と異なる照射方向で取得した読取画像との照合において、正規化相関値及びノーマライズドスコアが低くなることを示すことが目的であり、異なる照射方向で取得した読取画像の照合での本来のFRR算出用データをFAR算出のために用いていることに留意されたい。
【0099】
図8から明らかなように、「真物」であれば照明方向の違いで正規化相関及びノーマライズドスコアが明確にセグメント化でき、基準画像を精密な写真技術等を利用して用紙に印刷して、印刷用紙上には基準画像と同じ真物の地の微妙なパターンが再現性良く印刷されてしまったとしても、真偽判定を精度良く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本実施形態に係るカラープリンタの概略構成図である。
【図2】本実施形態に係る真偽判定装置として機能するPC及びスキャナの外観図である。
【図3】本実施形態におけるスキャナの内部構造の様子を示した図である。
【図4】本実施形態においてカラープリンタで実行される基準データ登録処理を示したフローチャートである。
【図5】本実施形態において用いる基準データの一例を可視化したイメージ図である。
【図6】本実施形態においてPC(真偽判定装置)で実行される真偽判定処理を示したフローチャートである。
【図7】本実施形態に係るカラープリンタの読取部の変形例を示した図である。
【図8】本実施形態において黒点ノイズ有りの基準領域及び照合領域を用いた実験における、相関値の最大値及び相関値の最大値のノーマライズド・スコアの閾値とFAR,FRRの関係を示すイメージ図である。
【図9】従来の実験を説明するための(A)は登録画像、(B)は照合画像の一例を各々示すイメージ図である。
【図10】従来の実験における登録画像と照合画像の相関値の演算を説明するためのイメージ図である。
【図11】(A)〜(C)は各種条件での相関値の分布を相関値の最大値及びノーマライズド・スコアと共に示す線図である。
【図12】従来の実験のうち第1の比較例における相関値の分布を示す線図である。
【図13】従来の実験のうち第2の比較例における相関値の分布を示す線図である。
【図14】従来の実験のうち第3の比較例における相関値の分布を示す線図である。
【図15】偽物が真物と誤判定される確率が高いケースとして想定した実験における相関値の分布を示す線図である。
【符号の説明】
【0101】
10 カラープリンタ、12 感光体ドラム、14 帯電器、16 光ビーム走査装置、18 多色現像器、18A〜18D 現像器、20 転写ベルト、22 記録用紙、24 用紙トレイ、26 定着器、28 読取部、28A,28C 発光器、28B,28D 受光器、30 プリンタコントローラ、34 スキャナ、42 原稿、44 プラテンカバー、46 プランガラスカバー、48 キャリッジ、48A 開口、50 光源、52,62,68 ラインイメージセンサ、54 反射板、56 ミラー、58 レンズ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータにより実施され、ランダム性を有する読み取り可能な固有の特徴が表面に沿って分布している固体の真偽を判定する真偽判定方法であって、
第1の方向又は第1の方向とは異なる第2の方向の少なくともいずれか一方から真の固体の表面に向けて発光手段により照射された光の反射光を受光手段により受光することで読み取られた当該真の固体の表面の状態の読取画像を基準画像として生成すると共に、第1の方向又は第2の方向の少なくともいずれか一方から判定対象の固体の表面に向けて発光手段により照射された光の反射光を受光手段により受光することで読み取られた当該判定対象の固体の表面の状態の読取画像を照合画像として生成する画像生成ステップと、
基準画像に含まれる1又は2の読取基準画像と、照合画像に含まれる1又は2の読取照合画像とにより読取基準画像と読取照合画像との少なくとも2組による照合処理を行う照合ステップと、
を含むことを特徴とする真偽判定方法。
【請求項2】
前記画像生成ステップは、第1及び第2の双方の方向からの照射に基づく第1及び第2の読取基準画像を基準画像として生成すると共に、第1及び第2の双方の方向からの照射に基づく第1及び第2の読取照合画像を照合画像として生成し、
前記照合ステップは、第1の読取基準画像と第1の読取照合画像を、第2の読取基準画像と第2の読取照合画像を、それぞれ照合し、
前記判定ステップは、各照合処理の結果、共に予め設定した判定基準を満足した場合に判定対象の固体を真と判定することを特徴とする請求項1記載の真偽判定方法。
【請求項3】
前記判定ステップは、同一方向からの照射に基づく基準画像と照合画像を用いて照合処理が行われた場合、基準画像と照合画像の正規化相関値が予め設定した閾値以上のときに判定対象の固体を真と判定することを特徴とする請求項3記載の真偽判定方法。
【請求項4】
前記判定ステップは、異なる方向からの照射に基づく基準画像と照合画像を用いて照合処理が行われた場合、基準画像と照合画像の正規化相関値が予め設定した閾値以下のときに判定対象の固体を真と判定することを特徴とする請求項3記載の真偽判定方法。
【請求項5】
第1の方向と第2の方向とは、固体表面上の読取位置を基準に相反する方向であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の真偽判定方法。
【請求項6】
ランダム性を有する読み取り可能な固有の特徴が表面に沿って分布している固体の真偽を判定する真偽判定装置であって、
第1の方向又は第1の方向とは異なる第2の方向の少なくともいずれか一方から真の固体の表面に向けて光を照射する第1の発光手段と、
前記第1の発光手段の照射光の反射光を受光する第1の受光手段と、
前記第1の受光手段の出力から当該真の固体の表面の状態の読取画像を基準画像として生成する基準画像生成手段と、
前記第1の方向又は前記第2の方向の少なくともいずれか一方から判定対象の固体の表面に向けて光を照射する第2の発光手段と、
前記第2の発光手段の照射光の反射光を受光する第2の受光手段と、
前記第2の受光手段の出力から当該判定対象の固体の表面の状態の読取画像を照合画像として生成する照合画像生成手段と、
前記各画像生成手段により生成された基準画像と照合画像とに基づき照合処理を行うことで判定対象の固体の真偽を判定する判定手段と、
を有することを特徴とする真偽判定装置。
【請求項7】
固体の表面に沿って分布しかつランダム性を有する前記固体固有の特徴を読み取り可能な読取装置が接続されたコンピュータを、
第1の方向又は第1の方向とは異なる第2の方向の少なくともいずれか一方から真の固体の表面に向けて発光手段により照射された光の反射光を受光手段により受光することで読み取られた当該真の固体の表面の状態の読取画像を基準画像として生成する基準画像生成手段と、
第1の方向又は第2の方向の少なくともいずれか一方から判定対象の固体の表面に向けて発光手段により照射された光の反射光を受光手段により受光することで読み取られた当該判定対象の固体の表面の状態の読取画像を照合画像として生成する照合画像生成手段と、
基準画像に含まれる1又は2の読取基準画像と、照合画像に含まれる1又は2の読取照合画像との照合処理を行う照合手段と、
して機能させるためのプログラム。
【請求項1】
コンピュータにより実施され、ランダム性を有する読み取り可能な固有の特徴が表面に沿って分布している固体の真偽を判定する真偽判定方法であって、
第1の方向又は第1の方向とは異なる第2の方向の少なくともいずれか一方から真の固体の表面に向けて発光手段により照射された光の反射光を受光手段により受光することで読み取られた当該真の固体の表面の状態の読取画像を基準画像として生成すると共に、第1の方向又は第2の方向の少なくともいずれか一方から判定対象の固体の表面に向けて発光手段により照射された光の反射光を受光手段により受光することで読み取られた当該判定対象の固体の表面の状態の読取画像を照合画像として生成する画像生成ステップと、
基準画像に含まれる1又は2の読取基準画像と、照合画像に含まれる1又は2の読取照合画像とにより読取基準画像と読取照合画像との少なくとも2組による照合処理を行う照合ステップと、
を含むことを特徴とする真偽判定方法。
【請求項2】
前記画像生成ステップは、第1及び第2の双方の方向からの照射に基づく第1及び第2の読取基準画像を基準画像として生成すると共に、第1及び第2の双方の方向からの照射に基づく第1及び第2の読取照合画像を照合画像として生成し、
前記照合ステップは、第1の読取基準画像と第1の読取照合画像を、第2の読取基準画像と第2の読取照合画像を、それぞれ照合し、
前記判定ステップは、各照合処理の結果、共に予め設定した判定基準を満足した場合に判定対象の固体を真と判定することを特徴とする請求項1記載の真偽判定方法。
【請求項3】
前記判定ステップは、同一方向からの照射に基づく基準画像と照合画像を用いて照合処理が行われた場合、基準画像と照合画像の正規化相関値が予め設定した閾値以上のときに判定対象の固体を真と判定することを特徴とする請求項3記載の真偽判定方法。
【請求項4】
前記判定ステップは、異なる方向からの照射に基づく基準画像と照合画像を用いて照合処理が行われた場合、基準画像と照合画像の正規化相関値が予め設定した閾値以下のときに判定対象の固体を真と判定することを特徴とする請求項3記載の真偽判定方法。
【請求項5】
第1の方向と第2の方向とは、固体表面上の読取位置を基準に相反する方向であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の真偽判定方法。
【請求項6】
ランダム性を有する読み取り可能な固有の特徴が表面に沿って分布している固体の真偽を判定する真偽判定装置であって、
第1の方向又は第1の方向とは異なる第2の方向の少なくともいずれか一方から真の固体の表面に向けて光を照射する第1の発光手段と、
前記第1の発光手段の照射光の反射光を受光する第1の受光手段と、
前記第1の受光手段の出力から当該真の固体の表面の状態の読取画像を基準画像として生成する基準画像生成手段と、
前記第1の方向又は前記第2の方向の少なくともいずれか一方から判定対象の固体の表面に向けて光を照射する第2の発光手段と、
前記第2の発光手段の照射光の反射光を受光する第2の受光手段と、
前記第2の受光手段の出力から当該判定対象の固体の表面の状態の読取画像を照合画像として生成する照合画像生成手段と、
前記各画像生成手段により生成された基準画像と照合画像とに基づき照合処理を行うことで判定対象の固体の真偽を判定する判定手段と、
を有することを特徴とする真偽判定装置。
【請求項7】
固体の表面に沿って分布しかつランダム性を有する前記固体固有の特徴を読み取り可能な読取装置が接続されたコンピュータを、
第1の方向又は第1の方向とは異なる第2の方向の少なくともいずれか一方から真の固体の表面に向けて発光手段により照射された光の反射光を受光手段により受光することで読み取られた当該真の固体の表面の状態の読取画像を基準画像として生成する基準画像生成手段と、
第1の方向又は第2の方向の少なくともいずれか一方から判定対象の固体の表面に向けて発光手段により照射された光の反射光を受光手段により受光することで読み取られた当該判定対象の固体の表面の状態の読取画像を照合画像として生成する照合画像生成手段と、
基準画像に含まれる1又は2の読取基準画像と、照合画像に含まれる1又は2の読取照合画像との照合処理を行う照合手段と、
して機能させるためのプログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2006−53736(P2006−53736A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−234502(P2004−234502)
【出願日】平成16年8月11日(2004.8.11)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年8月11日(2004.8.11)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】
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