説明

真空バルブ用接点材料およびその製造方法

【課題】導電性成分中の耐弧性成分の微細化を図り、遮断特性や耐電圧特性などを向上させる。
【解決手段】接離自在の一対の接点12、14を有する真空バルブの接点材料であって、導電性成分と耐弧性成分のうち少なくとも導電性成分で構成された接点12、14を構成する基材の表面に、導電性成分マトリックス中に耐弧性成分粒子を分散させた肉盛材を回転させる摩擦肉盛処理を施し、耐弧性成分粒子を微細化させた肉盛層を形成したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遮断特性や耐電圧特性などを向上し得る真空バルブ用接点材料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
真空開閉機器はその環境調和性により適用範囲の拡大が図られており、高電圧領域への適用が試みられている。真空バルブの接点材料としては、導電性成分のマトリックス中にCr、Moなどの耐弧性成分粒子を分散させた複合材料が一般的に使用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
高電圧領域で接点材料を使用する場合、接点間での絶縁破壊メカニズムとしては、耐弧性成分などの粒子が離脱することが挙げられる。特に、Crのような脆性の耐弧性成分では、接点表面に露出している耐弧性成分粒子が開閉により破砕し、絶縁破壊の原因となる微粒子が発生する。このため、耐弧性成分粒子を微粒子化させ、接点表面に露出しないように導電性成分マトリックス中に微細に分散させている。
【0004】
微細に分散させる方法としては、耐弧性成分粒子と導電性成分粒子とを焼結法により製造する方法、耐弧性成分粒子の粒子間に溶解した導電性成分を溶浸する方法、あるいは導電性成分と耐弧性成分の両者を溶解し、急冷して耐弧性成分を導電性成分中に微細に晶出させる方法などがある。
【0005】
一方、金属部材表面に摩擦攪拌処理を施し、摩擦熱と回転体の攪拌作用によって表面改質を行い、靭性などの機械的強度を向上させる技術が知られている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、金属部材表面の金属組織を粗状態から緻密状態にするものに過ぎず、上述のように導電性成分や耐弧性成分などの異なる成分粒子を微細に分散させるものではない。
【特許文献1】特開2006−233298号公報 (第4〜5ページ、図1)
【特許文献2】特開2004−68681号公報 (第3〜4ページ、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の従来の接点材料においては、耐電圧特性に加えて通電特性や遮断特性が要求され、主たる耐弧性成分としては、CrやMoなどが選択されている。しかしながら、これらの耐弧性成分は比較的酸化し易く、微粒子を原料とした焼結法による製造は困難である。このため、耐弧性成分の微細化には、アーク溶解法や真空溶解法が用いられる。しかしながら、これらの製造方法による分散の微細化には限界があり、更なる耐弧性成分を微細化できる接点材料とその製造方法が望まれていた。
【0007】
本発明は上記問題を解決するためになされたもので、耐弧性成分の微細化を図り、遮断特性や耐電圧特性などを向上し得る真空バルブ用接点材料およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の真空バルブ用接点材料は、真空バルブ用接点材料であって、導電性成分と耐弧性成分のうち少なくとも導電性成分で構成された基材の表面に、導電性成分マトリックス中に耐弧性成分粒子を分散させた肉盛材を回転させる摩擦肉盛処理を施し、肉盛層を形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、導電性成分中に耐弧性成分を分散させた肉盛材で摩擦肉盛処理を施し、接点の表面に肉盛層を形成しているので、耐弧性成分が微細化されて分散し、耐電圧特性や遮断特性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。
【実施例】
【0011】
本発明の実施例に係る真空バルブ用接点材料を図1乃至図3を参照して説明する。図1は、本発明の実施例に係る真空バルブの構成を示す断面図、図2は、本発明の実施例に係る真空バルブの一方の接点の構成を示す断面図、図3は、本発明の実施例に係る真空バルブ用接点の製造方法を説明する図である。
【0012】
図1に示すように、真空絶縁容器1の両端には、封止金具2を介して蓋体3が封着され、互いの通電軸4、5の対向する端部に一対の電極6、7が配設されている。上部の電極6を固定電極、下部の電極7を可動電極としている。通電軸5には、伸縮自在のベローズ8が取り付けられ、真空絶縁容器1内を真空に保持しながら通電軸5の軸方向の移動を可能にしている。ベローズ8の上部には、金属製のアークシールド9が設けられ、また、電極6、7を包囲するように金属製の筒状のアークシールド10が設けられている。更に、可動側の電極7には、図2に示すように、通電軸5端がろう付け部11によって固定され、接点12もろう付け部13により固定されている。固定側の接点14も可動側と同様に固定されている。
【0013】
このような接点12、14の製造方法を図3を参照して説明する。
【0014】
図3に示すように、接点12、14となるCuなどの基材15の表面に、耐弧性成分を分散させた肉盛材16を回転させながら所定の面圧で押し付け、肉盛層17を形成させる。この摩擦肉盛処理においては、図示しない回転装置で肉盛材16を約1000rpmで回転させながら、基材15を約500mm/minの速度で平行移動させる。肉盛材16と基材15との接触面では、塑性流動が起こり、冷却すると基板15表面に耐弧性成分が微細化された肉盛層17が形成される。なお、アルゴンガスを用いたシールドガス18の吹き付けは、所定圧力のガスが摩擦面に当たるように実施した。
【0015】
肉盛材16が基材15表面を流動する過程において、導電性成分マトリックス中に分散されている耐弧性成分粒子が変形し粉砕される。粉砕は導電性成分に包含された状態で進められるため、耐弧性成分が周囲の雰囲気によって酸化あるいは窒化される機会が少なくなる。したがって、低ガス含有量で、組織が微細化された接点材料を得ることができる。
【0016】
ここで、肉盛層17内の耐弧性成分粒子は、基材15中と肉盛材16中に含まれるものであり、基材15にCuだけを用いたものでは肉盛材16中のものとなる。耐弧性成分粒子は、肉盛材16の軸方向と直交する端面を基材15面と平行させると、摩擦する面積が大きくなり、微細化され易くなる。
【0017】
接点12、14の製造においては、所定形状の基材15に肉盛層17を形成してもよく、これよりも大なる面積の基材15に肉盛層17を形成し、それを所定形状に加工してもよい。特に、後者においては、接点12、14の端部まで肉盛層17が均一に形成されるので好ましいものとなる。
【0018】
このような方法で製造した肉盛層17の評価は、以下の通りである。
1)酸素含有量
赤外線吸収法により測定した。
2)平均粒子間距離
断面組織写真の縦横に複数の補助線を引き、耐弧性成分の粒子間距離を測定し、平均値を求めた。
3)厚さと硬さ
断面組織写真から厚さを測定した。また、肉盛材16のビッカース硬さと、基材15のビッカース硬さとの比を求めた。
4)無負荷開閉後の耐電圧特性
電気的特性評価用の真空バルブに組み込み、無負荷開閉を100回実施後、ギャップ長を8mmとし、電圧上昇法により絶縁破壊電圧を求めた。後述する実施例1の結果を基準(1.0)とし、他の実施例と比較例を相対値で示し、0.9以上を合格とした。
5)投入溶着引き外し後の耐電圧特性
後述する実施例8、9、比較例3について、投入時にアークを発生させて溶着させ、その状態を機械的に引き外し、4項と同様の耐電圧特性を求めた。
6)遮断特性
後述する実施例10、比較例4について、ギャップ長を8mmとし、12kV印加条件での合成試験を実施し、電流を段階的に徐々に上昇させたときの再点弧が発生しない上限の遮断電流値を求めた。
これらの結果を表1を参照して説明する。
【0019】
(実施例1および比較例1)
実施例1では、溶解法によって製造したCu−25wt%Crの基材15に、同様の組成で焼結法により作製した肉盛材16を用いて摩擦肉盛処理を施し、接点12、14を製造した。比較例1では、溶解法によって製造したCu−25wt%Crで接点12、14を製造した。この結果、実施例1では、図3の丸印で示すように肉盛層17内でCr粒子が微細化されて均一に分散し、平均粒子間距離が0.5μmと比較例1よりも短くなった。また、酸素含有量が500ppmであり、比較例1の100ppmと比べて多いが、耐電圧特性は比較例1よりも上昇した。この実施例1の耐電圧値が基準となる。
【0020】
(実施例2、3)
実施例2では、溶浸法によって製造したCu−25wt%Crの基材15に、同様の組成で焼結法により作製した肉盛材16を用いて摩擦肉盛処理を施し、接点12、14を製造した。実施例3では、焼結法によって製造したCu−25wt%Crの基材15に、同様の組成で溶解法により作製した肉盛材16を用いて摩擦肉盛処理を施し、接点12、14を製造した。この結果、肉盛材16のビッカース硬さが実施例3の方が硬くなったが、両者共、Cr粒子は微細化され、良好な耐電圧特性が得られた。
【0021】
(実施例4、5および比較例2)
基材15をCuとし、Crの含有量を25、50、75wt%と変化させた肉盛材16を焼結法で製造した。いずれも肉盛材16のCr含有量が基材15よりも多いため、耐電圧特性は良好であった。しかし、比較例2では、肉盛材16のビッカース硬さが基材15の2.2倍となり、Cr粒子が均一に分散された肉盛層17が形成されなかった。粒子間距離のバラツキが大きく、接点12、14に適する状態でなかったので、表中には肉盛層17が形成されずと表示した。このため、肉盛材16のビッカース硬さの比は、基材15の2倍以下が好ましい。
【0022】
(実施例6、7および比較例3)
基材15を焼結法で製造したCu−25wt%Crとし、Crの含有量を5、35、50wt%と変化させた肉盛材16を焼結法で製造した。ビッカース硬さの比は1前後であり、実施例6、7では粒子間距離が0.2〜0.3μmで、耐電圧特性が良好であった。しかし、実施例3では、肉盛材16のCr含有量が少なく粒子間距離が増大し、耐電圧特性が不充分であった。
【0023】
(実施例8、9および比較例4)
溶解法によって製造したCu−25wt%Crの基材15に、同様の組成で焼結法により作製した肉盛材16を用いて、厚さを0.5、1、3mmと変化させた肉盛層17を形成した。厚さは、肉盛材16の押圧と基材15の移動速度で制御した。いずれも無負荷開閉後の耐電圧特性は良好であった。しかし、投入溶着引き外し後の耐電圧特性は、実施例8、9よりも肉盛層17厚さ0.5mmの比較例4が低かった。実施例8を1.0とすると、実施例9では1.1倍、比較例4では0.5倍であった。このため、溶着が起き得るものでは、投入溶着引き外し力に耐え得るように、肉盛層17の厚さを1mm以上にすることが好ましい。投入溶着引き外し力は、一般的に数100kgfとなる。
【0024】
(実施例10および比較例5)
溶解法によって製造したCu−25wt%Crの基材15に、同様の組成で焼結法により作製した肉盛材16を用いて、アルゴンガスの噴き付けの有無について評価した。いずれも無負荷開閉後の耐電圧特性は良好であった。しかし、遮断特性では、シールドガス18を用いた実施例10の方が比較例5よりも遮断電流値が高かった。実施例10を1.0とすると、比較例5では0.7倍であった。このため、シールドガス18を用いての摩擦肉盛処理は、酸素含有量を低減でき、耐電圧特性とともに、遮断特性を向上させることができる。また、シールドガス18の吹き付けにより、冷却を促進させることができる。
【0025】
(実施例11、12)
実施例11では、溶解法によって製造したCu−20wt%Moの基材15に、同様の組成で焼結法により作製した肉盛材16を用いて摩擦肉盛処理を施した。実施例12では、溶解法によって製造したCu−10wt%Mo−12.5wt%Crの基材15に、同様の組成で焼結法により作製した肉盛材16を用いて摩擦肉盛処理を施した。いずれも耐電圧特性は良好であり、接点材料にCu−Cr合金のほかに、Cu−Mo合金、Cu−Mo−Cr合金を用いることができる。
【0026】
上記実施例の真空バルブ用接点材料によれば、接点12、14を構成する基材15の表面に肉盛材16を回転させる摩擦肉盛処理を施して肉盛層17を形成しているので、耐弧性成分が粉砕され微細化されて分散し、低ガス量となり、耐電圧特性や遮断特性を向上させることができる。
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施例に係る真空バルブの構成を示す断面図。
【図2】本発明の実施例に係る真空バルブの一方の接点の構成を示す断面図。
【図3】本発明の実施例に係る真空バルブ用接点の製造方法を説明する図。
【符号の説明】
【0028】
1 真空絶縁容器
2 封着金具
3 蓋体
4、5 通電軸
6、7 電極
8 ベローズ
9、10 アークシールド
11、13 ろう付け部
12、14 接点
15 基材
16 肉盛材
17 肉盛層
18 シールドガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空バルブ用接点材料であって、
導電性成分と耐弧性成分のうち少なくとも導電性成分で構成された基材の表面に、
導電性成分マトリックス中に耐弧性成分粒子を分散させた肉盛材を回転させる摩擦肉盛処理を施し、
肉盛層を形成したことを特徴とする真空バルブ用接点材料。
【請求項2】
前記導電性成分は、Cuであり、
前記耐弧性成分は、CrとMoのうちの少なくとも一方を用いることを特徴とする請求項1に記載の真空バルブ用接点材料。
【請求項3】
前記肉盛層の厚さを、溶着引き外し力に耐え得るものにすることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の真空バルブ用接点材料。
【請求項4】
導電性成分と耐弧性成分のうち少なくとも導電性成分で構成された基材の表面に、
導電性成分マトリックス中に耐弧性成分粒子を分散させた肉盛材を押し当てながら回転させるとともに、前記基材を移動させて塑性流動を起こし、
少なくとも前記耐弧性成分粒子を微細化させた肉盛層を形成したことを特徴とする真空バルブ用接点材料の製造方法。
【請求項5】
前記肉盛材は、Cu−Cr、Cu−Mo−Cr、Cu−Moのいずれかであり、焼結法、溶解法のいずれかの方法で製造したことを特徴とする請求項4に記載の真空バルブ用接点材料の製造方法。
【請求項6】
前記基材は、Cu、Cu−Cr、Cu−Moのいずれかであり、焼結法、溶浸法、溶解法のいずれかの方法で製造したことを特徴とする請求項4または請求項5に記載の真空バルブ用接点材料の製造方法。
【請求項7】
前記基板表面の塑性流動を、シールドガス雰囲気中で行うことを特徴とする請求項4乃至請求項6のいずれか1項に記載の真空バルブ用接点材料の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−129856(P2009−129856A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−306526(P2007−306526)
【出願日】平成19年11月27日(2007.11.27)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(595019599)芝府エンジニアリング株式会社 (40)
【Fターム(参考)】