説明

真空ポンプ装置

真空ポンプ装置、特にターボ分子ポンプ装置が、ポンプハウジング(10)内にロータ(14)とステータ(16)とを有している。ポンプハウジング(10)はポンプフランジ(20)を介して真空室ハウジング(26)に結合されている。結合のためには、保持エレメント(34)が設けられている。ロータ(14)のロック時のような故障発生時に高いトルクが生じることにより保持エレメント(34)が回動することを回避するために、保持エレメント(34)は真空室ハウジング(26)と協働する回動防止装置(40)を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空ポンプ装置、特にターボ分子ポンプ装置に関する。
【0002】
たとえばターボ分子ポンプのような真空ポンプは、真空室中に真空を発生させるために真空室ハウジングに結合されている。この結合はポンプハウジングに結合されたポンプフランジと、対応する保持エレメント、たとえば「つめ(クロー)」とを介して行われる。これらのつめはポンプフランジに結合されており、この場合、たとえばつめに設けられた付設部が、ポンプフランジに設けられた溝内に係合する。真空室ハウジングにおけるつめの固定は、ねじを介して行われる。このような真空ポンプは最大65kgの重量を有していてよく、そしてポンプハウジング内に配置されたロータは30000〜100000r.p.m.の範囲の回転数に到達し得るので、安全性に対しては高い要求が課せられる。高い重量および高いロータ速度に基づき、高い安全性を持ってオペレータの被る危険を排除するためには、真空室ハウジングにおける真空ポンプの確実な固定が保証されていなければならない。特にロータのロックによる故障発生時では、突発的に高いトルクが発生する。このトルクはロータからステータを介してポンプハウジングへ伝達され、そしてこのポンプハウジングからつめを介して真空室ハウジングへ伝達される。数千Nmの範囲となり得るこのような大きなトルクでは、真空室ハウジングに対するポンプハウジングの回動が行われる恐れがある。このことは、つめの固定部の範囲において真空室ハウジングの損傷を招く恐れがある。特に真空室ハウジングの損傷は不都合となる。なぜならば、真空ポンプの交換に加えて真空室ハウジングの修理も必要となるからである。このことはコストがかかるだけではなく、場合によっては長い時間にわたって生産を中断させてしまう。場合によってはそれどころか、ポンプフランジに設けられたつめが完全に破損し、真空ポンプがもはや真空室ハウジングに保持されなって、真空ポンプが落下してしまう危険が生じ得る。これにより、真空室ハウジングの損傷の他に、オペレータの高い負傷危険が生じる。
【0003】
実験により、特に160mmのフランジ直径を超えると上記問題が発生する危険があることが判った。
【0004】
本発明の課題は、故障発生時に真空ポンプ装置の安全性を高めることである。
【0005】
この課題は本発明によれば、請求項1の特徴部に記載の特徴により解決される。
【0006】
特にターボ分子ポンプ装置である本発明による真空ポンプ装置は、特にロータの高い重量および/または高い回転速度を有するポンプを有している。当該真空ポンプ装置はポンプハウジングを有しており、このポンプハウジング内にはロータとステータとが配置されている。ポンプハウジングにはポンプフランジが結合されており、この場合、ポンプフランジは直接にハウジングの一部として形成されていてもよい。ポンプハウジングを真空室ハウジングに固定するためには、保持エレメントが設けられている。本発明によれば、少なくとも1つの保持エレメントが、真空室ハウジングと協働する回動防止装置を有している。このような回動防止装置を設けることにより、故障発生時、特にロータの突発的なロックの際に高いトルクが発生しても保持エレメント、たとえばクローもしくはつめ(Pratze)の回動が行われないことが確保されている。これにより、特にポンプフランジと真空室ハウジングとの間の結合の解離が回避されているので、安全性は改善されている。さらに、保持エレメントの固定部の範囲における真空室ハウジングの損傷の危険は減じられている。
【0007】
本発明による回動防止装置を備えた少なくとも1つの保持エレメントが設けられていると有利である。回動防止装置を備えた、特に互いに向かい合って位置する2つの保持エレメントが設けられていると有利である。この場合、回動防止装置を備えた本発明による保持エレメントは慣用の単独型保持エレメントと組み合わされていてよい。回動防止装置を備えた複数の保持エレメント、特にポンプフランジの周面に分配されて配置された少なくとも3つの保持エレメントが設けられていると有利である。この場合、ポンプフランジは円環状に形成されていると有利である。
【0008】
回動防止装置として保持エレメントはピンを有していてよい。このピンは、ポンプ室ハウジングに設けられた切欠きもしくは孔内に係合する。付加的に、保持エレメントが固定エレメント、たとえばねじを有していると有利である。したがって、本発明による保持エレメントの有利な構成は、たとえば切欠き内に係合するピンの形の回動防止装置と、固定エレメントとを有しており、この固定エレメントは真空室ハウジングに設けられたねじ山にねじ込まれる。別の有利な構成では、回動防止装置も固定エレメント、特にねじとして形成されているので、本発明による保持エレメントは特に同一に形成された少なくとも2つの固定エレメントを有している。両固定エレメントは、真空室ハウジングに設けられた切欠き、たとえばねじ山付孔内に係合するので、両固定エレメントは固定装置としても回動防止装置としても働く。
【0009】
ポンプハウジングに結合されたポンプフランジまたはポンプハウジングの一部として形成されたポンプフランジは、円環状の溝を有していると有利である。この溝は中断されていてよいが、しかし有利には全周にわたって延びている。保持エレメントは、この溝内に係合する、特に円環セグメント状の付設部を有していると有利である。これにより、ポンプの組付けは著しく簡単化される。なぜならば、真空室ハウジングに対して相対的なポンプハウジングの位置を、保持エレメントの位置を変える必要なしに変化させることができるからである。
【0010】
周方向に延びる前記溝の半径は前記付設部に与えられた半径にほぼ相当していると有利である。このことには特に次のような利点がある。すなわち、故障発生時における極めて大きなトルクの発生時に、発生したトルクによってポンプフランジと保持エレメントの付設部との間に発生した力がこの範囲における摩擦力よりも大きくなるやいなや、ポンプハウジングが保持エレメントに対して回転を実施し得る。
【0011】
以下に、本発明の有利な1実施例を図面につき詳しく説明する。
【0012】
図1は、真空ポンプ装置の概略的な断面図であり、
図2は、ポンプハウジングの概略的な斜視図であり、
図3は、本発明による保持エレメントの概略的な斜視図であり、
図4は、公知先行技術による保持エレメントを備えた真空ポンプ装置の一部を故障発生時の状態で示す概略的な平面図である。
【0013】
図面には、真空ポンプ装置が図示されている。この真空ポンプ装置はポンプハウジング10を有しており、このポンプハウジング10内には、長手方向軸線12を中心にして回転するロータ14が配置されている。ロータ14の個々のロータブレード(動翼)の間には、ポンプハウジング10に結合されたステータ16のステータブレード(静翼)が配置されている。ロータ14は結合エレメント18を介して駆動軸20に固く結合されている。相応して、ステータ16は結合エレメント22を介してポンプハウジング10に固く結合されている。
【0014】
真空室24内に真空を発生させるためには、ポンプハウジング10が真空室ハウジング26に開口28の範囲で固定されている。
【0015】
固定のためには、ポンプハウジング10が、図示の実施例では円環状に形成されているポンプフランジ30を有している。このポンプフランジ30は横断面L字形に形成されているので、円環状の溝32が形成されている。
【0016】
保持エレメント34を用いて、ポンプハウジング10はポンプフランジ30を介して真空室ハウジング26に固定される。このためには、図示の実施例では、保持エレメント34が特に円環セグメント状の付設部36を有しており、この付設部36がポンプフランジ30の溝32内に係合する。
【0017】
真空室ハウジング26に保持エレメント34を固定するためには、固定エレメントとしてねじ38が設けられている。この場合、本発明による保持エレメント34(図2)は固定エレメント38ならびに回動防止装置40を有しており、この場合、図示の実施例では、固定エレメント38も回動防止装置40も、ねじとして形成されている。回動防止装置40は切欠き42内に係合する。この切欠き42は、図示の実施例では真空室ハウジング26に設けられたねじ山付孔である。
【0018】
本発明による保持エレメント34は固定エレメント38の他に回動防止装置40を有しているので、故障発生時には、固定エレメント34の回動が生じないことが保証されている。ロータ14のロックのような故障発生時にロータ14からステータ16を介してポンプハウジング10へ伝達される高いトルクが発生したにもかかわらず、固定エレメントしか有しない相応する単独型保持エレメント44(図2)の場合に行われ得るような保持エレメント34の回動は行われない。
【0019】
図2に示したポンプハウジング10の斜視図は、ポンプハウジングのフランジ側を斜め上から見た図である。この場合、円環状のポンプフランジ30には4つの本発明による保持エレメント34ならびに4つの単独型保持エレメント44が配置されている。本発明による保持エレメント34はそれぞれ1つの円環状の付設部36を有しており、この付設部36はポンプフランジ30の溝32(図1)内に係合する。さらに、保持エレメント1つ当たり2つのねじ38,40が設けられており、これらのねじは固定エレメントもしくは回動防止装置として働く。
【0020】
ねじ38,40は、保持エレメント34に設けられた貫通孔46によって案内されている。
【0021】
公知先行技術を明示するために、図4には、単独型保持エレメント44が故障発生時の状態で図示されている。単独型保持エレメント44は、ねじ48を介して真空室ハウジング26に固定されている。故障発生時に生じる高いトルクに基づき、図面で見て矢印50の方向におけるポンプハウジング10の回動が行われる。これにより、図面で見て逆時計回り方向での単独型保持エレメント44の回動が行われる。このことはポンプフランジ30ならびに真空室ハウジング26の損傷を招く。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】真空ポンプ装置の概略的な断面図である。
【図2】ポンプハウジングの概略的な斜視図である。
【図3】本発明による保持エレメントの概略的な斜視図である。
【図4】公知先行技術による保持エレメントを備えた真空ポンプ装置の一部を故障発生時の状態で示す概略的な平面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空ポンプ装置、特にターボ分子ポンプ装置であって、
ポンプハウジング(10)内に配置されたロータ(14)と、ステータ(16)と、
ポンプハウジング(10)に結合されたポンプフランジ(30)と、
ポンプハウジング(10)と真空室ハウジング(26)とに結合された、ポンプハウジング(10)を真空室ハウジング(26)に固定するための少なくとも1つの保持エレメント(34)とが設けられている形式のものにおいて、
保持エレメント(34)が、真空室ハウジング(26)と協働する回動防止装置(40)に結合されていることを特徴とする真空ポンプ装置。
【請求項2】
回動防止装置(40)が、真空室ハウジング(26)に設けられた切欠き(42)内に係合している、請求項1記載の真空ポンプ装置。
【請求項3】
保持エレメント(34)が、回動防止装置(40)に対して付加的に設けられた固定エレメント(38)を有している、請求項1または2記載の真空ポンプ装置。
【請求項4】
回動防止装置(40)が、付加的に別の固定エレメントとして形成されている、請求項1から3までのいずれか1項記載の真空ポンプ装置。
【請求項5】
有利には円環状に形成されているポンプフランジ(30)の周面に少なくとも3つの保持エレメント(34)が配置されている、請求項1から4までのいずれか1項記載の真空ポンプ装置。
【請求項6】
ポンプフランジ(30)が、特に円環状の溝(32)を有しており、該溝(32)内に、保持エレメント(34)に設けられた特に円環セグメント状の付設部(36)が係合している、請求項1から5までのいずれか1項記載の真空ポンプ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−500549(P2009−500549A)
【公表日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−510538(P2008−510538)
【出願日】平成18年5月2日(2006.5.2)
【国際出願番号】PCT/EP2006/061977
【国際公開番号】WO2006/120132
【国際公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【出願人】(507102296)エーリコン ライボルト ヴァキューム ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (17)
【氏名又は名称原語表記】Oerlikon Leybold Vacuum GmbH
【住所又は居所原語表記】Bonner Str. 498, D−50968 Koeln, Germany
【Fターム(参考)】