真空ポンプ
本発明による真空ポンプ(100)は、長手方向軸線(107)周りに延びる環状ポンプチャンバ(112,114,116)を備えたポンプ機構を有する。流体は、ポンプ機構によってり環状ポンプチャンバ(112,114,116)の中を通ってポンプ送りされる。ポンプ機構から離れて位置するプレナム(126)が、ポンプ機構によってポンプ送りすべき流体を受け入れる入口(128)と、長手方向軸線(107)周りに配置され且つ流体を環状ポンプチャンバ(114,116)に供給する複数個の出口(132)とを有している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空ポンプに関し、かかる真空ポンプの作動効率の向上に関する。
【背景技術】
【0002】
複数のチャンバ又はシステムを互いに異なる真空レベルまで排気する必要のある多くの形式の装置が存在する。例えば、よく知られたタイプの質量分析計では、分析器/検出器は、比較的高い真空状態、例えば10-5ミリバール(10-3Pa)で作動されなければならず、これに対し、イオン源から引き出されると共に案内されるイオンを検出器に向かって運ぶ移送又は光学系チャンバは、低い真空状態、例えば10-3ミリバール(10-1Pa)で作動される。質量分析計は、分析器チャンバの上流側に設けられた1つ又は2つ以上の別のチャンバを有するのがよく、これら別のチャンバは、大気源で生じたイオンを捕捉し、最終的には検出器に向かって案内することができるように、次第に高くなる圧力で作動される。
【0003】
これらチャンバは、各々別個の又は共通のバッキングポンプによって支援された別個の真空ポンプを用いて排気されてもよいけれども、複数個の入口と複数のポンプ段とを有する単一の「スプリットフロー(split flow)」形ポンプを用いて2つ又は3つ以上の隣り合うチャンバを排気することが益々普及しており、複数個の入口の各々は、各チャンバから流体を受け入れ、複数のポンプ段は、チャンバを差圧的に排気する。かかるポンプを利用することにより、サイズ、コスト及び構成部品の合理化において利点が得られる。
【0004】
例えば、欧州特許出願公開第0919726号明細書は、複数の真空段又はポンプ段を有するスプリットフロー形ポンプを記載しており、このスプリットフロー形ポンプは、ガスをポンプに流入させてすべてのポンプ段を通過させることができる第1のポンプ入口と、ガスをポンプ段とポンプ段の間でポンプに流入させてポンプの次のポンプ段だけを通過させることができる第2の入口とを有している。ポンプ段は、第1及び第2の入口にそれぞれ取付けられたチャンバの圧力要件を満たすよう構成されているのがよい。
【0005】
本出願人の最近の国際出願PCT/GB2004/004046号明細書は、高圧チャンバからのガスを受け入れるポンプ入口が多段ホルベック(Holweck)分子ドラッグ機構のポンプ段とポンプ段の間に設けられたスプリットフロー形ポンプを記載しており、この国際出願を参照により引用し、その内容を本明細書の一部とする。図1は、この特許文献に記載されたポンプとほぼ同じスプリットフロー形ポンプ10の一部の断面図である。ホルベック機構は好ましくは炭素繊維材料で作られ、且つ、互いに異なる直径の2つの同軸円筒形ロータ要素12a,12bを有しており、これらロータ要素12a、12bは、駆動シャフト16に設けられているディスク14に取付けられている。ホルベック機構のステータは、ロータ要素12a,12bと同軸の2つの円筒形ステータ要素18a,18bを有し、これらステータ要素18a,18bとロータ要素12a,12bは、この例では、3つのポンプ段を構成し、ロータ要素12a,12bとステータ要素18a,18bとの間に設けられた3つの環状ポンプチャンバ20,22,24を有している。図2に示すように、ロータ要素に向いたステータ要素18a,18bの面には、螺旋チャネル26がそれ自体公知の仕方で設けられている。
【0006】
ポンプ10は、第1の入口(図示せず)を有し、ガスがこの第1の入口を通ってポンプ10に流入し(図1に矢印36で示されている)、ホルベック機構のポンプチャンバ20,22,24の全てを通り、その後、ポンプ10のベース30に設けられたポンプ出口28を通ってポンプ10から排出される。ポンプ段間の第2の入口32が、ホルベック機構のポンプ段とポンプ段の間に設けられていて、ポンプ段間の第2の入口32を通ってポンプに流入したガス(図1に矢印38で示されている)が、ポンプチャンバ20,22の間に設けられた環状プレナム34内に入り、ガス38は、この環状プレナム34から、ガス36の場合よりも少ない数のホルベック機構ポンプチャンバ(この例では、ポンプチャンバ22,24)を通り、その後、ポンプ出口28を通ってポンプ10から排出される。これにより、第1及び第2の入口に取付けられたシステムの差動(差圧)排気が可能になる。
【0007】
ホルベックポンプ段中においてガス流量/圧力の分布状態が均一である場合、このポンプ段の個々のポンプチャネル又はチャンバ26には各々、同一の境界条件(流量及び圧力)が適用され、従って、個々のポンプチャネル26は、同一レベルの性能を発揮する。これは、ホルベックポンプ段の最も効率的な動作条件である。例えば、図1に示す例では、最も外側の環状ポンプチャンバ20を通ったガスが、これが環状ポンプチャンバ20を出る際に環状ポンプチャンバの螺旋チャネル26の全てを均等に流れることになろう。ポンプ段とポンプ段との間の流れ38が存在しない場合、ガスは、単に引き続いてこのように流れ、次の下流側のポンプチャンバ22に至り、このことは、均一に分布した流量/圧力及び良好なポンプ段性能が得られていることを意味する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
今、第1の入口からのガス36が無い場合の、ポンプ段とポンプ段との間の入口32から流入するガス分布の他の極端な場合を考察する。ポンプ段とポンプ段との間に供給される供給ガスは、ポンプ段とポンプ段との間のプレナム34の周囲上のただ1箇所からポンプ10に入る。このガスは、次に、プレナム34の周りにそれ自体分布しようとし、その後、下流側の環状ポンプチャンバ22の中をポンプ送りされる。しかしながら、プレナム34のコンダクタンス又は流れやすさの制限により、プレナム34の周りでガスの非均一な分布が生じる場合があり、その結果、下流側の環状ポンプチャンバ22の螺旋チャネル26の周りにおいて流量/圧力の不均一な分布が生じる場合がある。これにより、ポンプ段性能が低下し、それ故、ポンプ段とポンプ段との間の入口性能が低下することになる。ポンプ段とポンプ段との間の入口32のところに達した供給ガスが第1の入口及びホルベック機構の上流側に設けられた任意他の入口から供給されるガスよりも遙かに多い場合、均一でない分布状態でポンプ段とポンプ段との間に供給されるガスのマイナスに働く挙動が、ホルベック機構の性能を損なう場合がある。
【0009】
本発明は、その好ましい実施形態において、ポンプ機構へのガスの供給を向上させようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、第1の特徴において、真空ポンプであって、長手方向軸線の周りに延びる環状ポンプチャンバを備えたポンプ機構を有し、ポンプ機構により流体が環状ポンプチャンバの中を通ってポンプ送りされ、真空ポンプは、更に、流体を環状ポンプチャンバに送出する手段を有し、送出する手段は、ポンプ機構から離れて位置したプレナムを有し、プレナムは、ポンプ機構によりポンプ送りすべき流体を受入れる入口と、長手方向軸線周りに配置され且つ流体を環状ポンプチャンバに供給する複数個の出口とを有する真空ポンプを提供する。
【0011】
ポンプ機構から離してプレナムを配置することにより、スペースが少なく且つ機械加工上の制約が少なく、また、大きくて抵抗の小さいプレナムを構成することができる。かくして、プレナムのコンダクタンス又は流れやすさを大きく向上させることができ、その結果、プレナム入口を通ってプレナムに流入したガスを、プレナムの周りに極めて均一に分布させることができ、その後、ガスはプレナムから出る。プレナムの配設場所及び設計は、最終的には、ポンプレイアウトで決まるが、好ましい実施形態では、プレナムは、ポンプのベースの中に機械加工によって形成され、従って、ポンプの寸法の増大は殆ど無いか、全く無い。プレナム出口をプレナムの周りに配置することにより、環状ポンプチャンバに流入したガスをその周りに均一に分布させることができ、それにより、プレナムにより得られるガスの均一な分布には悪影響が及ぼされず、従って、図1に示す構成と関連した性能低下は著しく減少する。
【0012】
環状ポンプチャンバに対するガスの均一な分布の程度を高めるため、プレナム出口は、好ましくは、長手方向軸線の周りに且つ/又は長手方向軸線から等間隔に配置され、この場合も又、プレナム出口の配置は、ポンプレイアウトで決まる。例えば、一実施形態では、プレナムは、環状の形態を有し、このプレナムは、長手方向軸線周りに延び、従って、プレナム出口を長手方向軸線周りに円形に配置することができ、従って、環状ポンプチャンバに対するガスの均一な分布が生じるようになる。しかしながら、追加のポンプ特徴部、例えば、ポンプ排気部、電気コネクタ、通気パージ等に関する条件に起因して、プレナムの形状に制約が生じる場合があり、従って、別の実施形態では、プレナムは、360°未満にわたって延びるチャンバに制限され、プレナム出口は、長手方向軸線周りに延びる円弧の状態に配置され、かくして、ポンプ設計の制約がある場合でも、環状チャンバのガスをできるだけ均一に分布させることができる。
【0013】
別の実施形態では、ポンプ機構は、第1の外側環状チャンバと、第1の外側環状チャンバと同軸の第2の内側環状チャンバとを有し、送出する手段は、環状ポンプチャンバのうちの選択された1つにガスを供給するように構成されている。これにより、プレナムに流入したガスをポンプ機構の最も適当なチャンバに差し向け、プレナム入口に連結されたシステムのポンプ要件を満たすようにすることができる。好ましくは、送出する手段は、長手方向軸線周りに配置され且つ流体を第1の外側環状チャンバに供給するための第1の外側の複数個の出口と、長手方向軸線周りに配置され且つ流体を第2の環状ポンプチャンバに供給するための第2の内側の複数個の出口と、第1の複数個の出口及び第2の複数個の出口のうちの一方を選択的に閉鎖する閉鎖手段とを有する。これにより、プレナム及びプレナム入口を、2種類の別々の複数個のプレナム出口に対して共通にすることができ、それにより、ポンプ構造が単純化される。閉鎖手段は、好ましくは、プレナムと出口との間に設けられ、第1の外側の複数個の出口及び第2の内側の複数個の出口のうち上述した一方を選択的に閉鎖する平らな部材、例えばプレート形ディスクから成る。変形例として、ポンプレイアウトに応じて、プレートを出口とポンプ機構との間に設けてもよい。
【0014】
このプレートは、単一の孔を有するのがよく、流体がこの孔を通ってプレナムから、例えば第1の複数個の出口だけに運ばれてもよいし、変形例として、プレートは、第1の外側の複数個の出口と同軸である複数個の孔を有していてもよい。これとは異なり第1の複数個の出口を閉鎖するため、プレートを取外し、これに代えて、流体をプレナムから第2の内側の複数個の出口だけに運ぶようにする別の孔配置形態を有する別のプレートを用いてもよい。しかしながら、より有利な変形構成例では、プレートは、第1の外側の複数個の出口が閉鎖される第1の位置と、第2の内側の複数個の出口が閉鎖される第2の位置との間で動くことができ、それにより、同一の部品を用いて互いに異なる環状ポンプチャンバに必要に応じて接近することができる。これは、プレートに第1の組の孔及び第2の組の孔を設け、これらの孔を、第1のプレート位置においては、第1の組の孔の各々がそれぞれの第1の外側の複数個の出口と同軸であり、第2のプレート位置においては、第2の組の孔の各々がそれぞれの第2の内側の複数個の出口と同軸であるよう位置決めすることによって達成できる。プレートは、好ましくは、選択された複数個の出口を閉鎖するように第1の位置と第2の位置との間で長手方向軸線回りに回転可能である。プレートは、ユーザがプレートの現在の位置及びかくしてプレナム入口のところの現在のポンプ性能状態を確認することができるように、切欠き又は任意他の好都合な指標を備えるのがよい。
【0015】
好ましい実施形態では、第1の外側環状チャンバと第2の外側環状チャンバは、連続通路を形成するよう互いに結合され、流体は、ポンプ機構により連続通路を通って排出される。ポンプ機構は、好ましくは、マルチチャンバ分子ドラッグポンプ機構を有し、マルチチャンバ分子ドラッグポンプ機構は、複数個の同軸円筒形ロータ要素と、ロータ要素と共に第1の外側環状チャンバ及び第2の内側環状チャンバを構成するステータを有する。好ましい実施形態では、分子ドラッグポンプ機構は、第1の外側環状チャンバ及び第2の内側環状チャンバが複数の螺旋形部として構成された多段ホルベック機構である、追加のポンプ段、例えば少なくとも1つのゲーデ(Gaede)ポンプ段及び/又は少なくとも1つの空気力学的ポンプ段を、必要に応じてホルベック機構の下流側に設けるのがよい。空気力学的ポンプ段は、再生段であるのがよい。他の形式の空気力学的機構は、サイドフロー型、サイドチャネル型及び周辺流れ型機構であるのがよい。第1の外側環状チャンバ及び第2の内側環状チャンバを各々、2つのポンプポンプ段とポンプ段の間に設けるのがよい。
【0016】
本発明の第1の特徴では、流体送出システムは、環状ポンプチャンバに供給される流体を均一に分布させ、それにより、流体供給のコンダクタンスを向上させるのに役立つ。しかしながら、同じシステムを、プレナム入口の機能とプレナム出口の機能を入れ替えることにより、流体を環状ポンプチャンバから運び去るのことにも使用でき、従って、ポンプ機構から受け取ったガスが環状流れから直線流れに再分布されるようになり(例えば、ホルベック機構からのガスをポンプ出口又は下流側のポンプ段、例えば再生又はゲーデポンプ段に提供するため)、従って、本発明は、第2の特徴では、真空ポンプであって、長手方向軸線の周りに延びる環状ポンプチャンバを備えたポンプ機構を有し、ポンプ機構により流体が環状ポンプチャンバの中を通ってポンプ送りされ、更に、流体を環状ポンプチャンバに送出する手段を有し、この送出する手段は、ポンプ機構から離れて又は分離して位置したプレナムを有し、プレナムは、長手方向軸線の周りに配置され且つ環状ポンプチャンバからの流体を受け入れる複数個の入口と、流体をプレナムから排出する出口を有する真空ポンプを提供する。第1の特徴のプレナム入口及びプレナム出口と関連して説明した特徴はそれぞれ、第2の特徴のプレナム出口及びプレナム入口に同じように当てはまる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、添付の図面を参照して本発明の好ましい特徴を説明するが、これらは例示に過ぎない。
【0018】
図3を参照すると、第1の実施形態としての真空ポンプ100が、マルチコンポーネント本体102を有し、この本体内には、駆動シャフト104が設けられている。駆動シャフト104の回転は、その周りに位置決めされたモータ(図示せず)、例えばブラシレス直流電動機によって行なわれる。駆動シャフト104は、互いに反対側に位置する軸受(図示せず)に取付けられている。例えば、駆動シャフト104は、ハイブリッド永久磁石軸受及び油潤滑軸受システムで支持されるのがよい。
【0019】
分子ドラッグポンプ機構が、本体102内に配置されている。この実施形態では、ポンプ機構は、互いに直径が異なる2つの同軸の円筒形ロータ要素106a,106bを有する多段ホルベック(Holweck)ドラッグ機構の形態をなし、同軸の円筒形ロータ要素106a,106bは、ポンプ100の長手方向軸線107周りに延びている。ロータ要素106a,106bは、好ましくは、炭素繊維材料で作られ、駆動シャフト104に設けられたディスク108に取付けられている。ディスク108は、駆動シャフト104に取付けられてもよいし、これと一体であってもよい。この実施形態では、ホルベック機構のステータは、3つのポンプ段を構成するように、ロータ要素106a,106bと同軸の2つの円筒形ステータ要素110a,110bを有し、3つのポンプ段は、ロータ要素106a,106bとステータ要素110a,110bとの間に設けられた第1、第2及び第3の環状ポンプチャンバ112,114,116を有し、これらの環状ポンプチャンバ112,114,116は、連続した通路を形成するように互いに接続されている。ロータ要素に面するステータ要素110a,110bの表面には、螺旋チャネル118がそれ自体よく知られた仕方で設けられている。
【0020】
ポンプ100は、第1の入口(図示せず)を有し、ガスが第1の入口を通ってポンプ100に入り(図3に矢印120で示されている)、ホルベック機構の環状ポンプチャンバ112,114,116の全てを通り、その後、本体102のベース124に設けられたポンプ出口122を通ってポンプ100から排出される。必要に応じて、第1の入口とホルベック機構との間に追加のポンプ段、例えば1つ又は2つ以上のターボ分子ポンプ段及び/又は螺旋ねじ山ロータポンプ段を設けて、第1の入口のところの圧力を一段と減少させてもよい。これと同様に、下流側のホルベック段116とポンプ出口122との間に追加のポンプ段、例えば1つ又は2つ以上の空気力学的ポンプ段及び/又はゲーデ(Gaede)ドラッグポンプ段を設けて、ポンプ出口のところの圧力を増大させてもよい。これら追加のポンプ段のロータ要素も、駆動シャフト104に取付けられるのがよい。必要に応じ、追加のポンプ入口が、追加のポンプ段の上流側及び/又は下流側に設けられてもよい。
【0021】
ポンプ100は、ガスをホルベック機構のポンプ段とポンプ段の間の場所に送出するたるまガス送出システムを更に有している。このガス送出システムは、ポンプ本体102のベース124内に設けられたプレナム(plenum)又は空間126を有している。この実施形態では、プレナム126は、ポンプ出口122に当たらないようにポンプ100の長手方向軸線107の周りに延びる環状チャンバを有している。プレナム126は、ガスが実質的に半径方向のただ1つの箇所でプレナム126に入る(図3に矢印130で示されている)ように配置されたプレナム入口128を有している。ただし、これは、同じように軸方向であってもよい。図4を参照すると、プレナム126は、ガス送出システムがガスをホルベック機構の環状ポンプチャネル114に送出することができるように、ポンプ100の長手方向軸線107周りに配置された複数個のプレナム出口132を更に有している。この実施形態では、プレナム出口132は、長手方向軸線107周りに円形に且つ均一に間隔をおいて設けられている。ただし、等間隔に配置された他の幾何学的形状を採用してもよい。
【0022】
使用にあたり、第1の入口を、比較的低い圧力を生じさせるべきチャンバに連結する。このチャンバからのガスは、第1の入口を通ってポンプ100に流入し、第1の入口とホルベック機構との間に設けられた追加のポンプ段を通り、そして、ホルベック機構の全てのポンプチャネル112,114,116を通り、その後、ポンプ出口122を通ってポンプ100から出る。プレナム入口128を比較的高い圧力を生じさせるべき別のチャンバに連結する。このチャンバからのガスは、プレナム入口128を通ってプレナム126に流入する。図1に示す先行技術のポンプ10のプレナム34がホルベック機構内部に設けられていることとは対照的に、ポンプ100のプレナム126がホルベック機構から離れて又は分離して配置されているので、プレナム126は、先行技術のポンプ10のプレナム34よりも大きく且つ抵抗が小さい。かくして、プレナム126内のコンダクタンス又は流れやすさは、プレナム34内のコンダクタンス又は流れやすさよりも非常に大きく、その結果、プレナム入口128を通ってプレナム126に流入したガスは、プレナム126の周りに迅速且つ均一に分布可能であり、その後、プレナム出口132を通ってプレナム126から出る。ガス130は、プレナム出口132から、ホルベック機構の環状ポンプチャンバ114に流入し、そして、ポンプチャネル114,116を通り、その後、ポンプ出口122を通ってポンプ100から出る。プレナム126内でのガスの均一な分布に起因して、各プレナム出口132は、供給されるガスの少しの部分を受け持つに過ぎず、それ故、プレナム入口126と環状ポンプチャネル114との間の圧力損失は生じさせることなしに、プレナム出口132の直径を比較的小さくすることができる。
【0023】
さらに、先行技術のポンプ10のホルベック機構の内部プレナム34はもはや必要ではないので、ポンプ100のロータ要素106a及びステータ要素110aを、ポンプ10のロータ要素12a及びステータ要素18aよりも延長させることができ、それにより、ポンプ性能が一段と向上する。
【0024】
この第1の実施形態では、ポンプ出口122の配設場所は、プレナム126を環状チャンバの形態で容易に機械加工できるようなところである。しかしながら、ポンプレイアウトに応じて、或る特定のポンプ特徴部は、プレナム126の形状を制約する場合がある。例えば、図5に示す第2の実施形態では(この図において、図3に示す第1の実施形態の特徴とほぼ同じ特徴には同一の参照符号が与えられている)、ポンプ出口122は、第1の実施形態の場合よりも第3の環状ポンプチャンバ116の近くに配置され、その結果、プレナム126は、第1の実施形態の環状の形状を採用する場合には、必ずポンプ出口122に当たるようになる。プレナムの内径を増大させてポンプ出口122がプレナムの内周部内に入るようにしてもよいが、ポンプのコンダクタンス又は流れやすさを著しく損ねることもある。このことに考慮して、プレナム126の形状を図6に示すように修正変更して、プレナム126がポンプ200の長手方向軸線107の周りに完全には延びないようにするのがよい。図示の実施形態では、プレナム126は、ポンプ200の長手方向軸線107の周りに約270°にわたって延び、それにより、プレナム出口132が長手方向軸線の周りに延びる円弧の状態に配置された状態で、他のポンプ特徴部、例えばポンプ出口、電気コネクタ、ベントパージ等を収容するスペースが得られ、従って、ポンプ設計に制約がある場合、プレナム126を出たガス130を、環状ポンプチャンバ114のできるだけ多くの部分に均一に分布させることができる。
【0025】
図7は、第3の実施形態である真空ポンプ300を示しており、この場合も又、図3に示す第1の実施形態の特徴とほぼ同じ構成要素には、同一の参照符号が与えられている。この第3の実施形態は、第3の内側円筒形ステータ要素110cを他の2つの円筒形ステータ要素110a,110bと同軸に設けることにより、4つのポンプ段に拡張されている。内側ステータ要素110cの外面が、螺旋溝138を備え、この外面は、内側ロータ要素106bと共に第4の環状ポンプチャンバ140を構成し、この第4の環状ポンプチャンバは、他の3つの環状ポンプチャンバ112,114,116に接続している。使用中、ガスが第2の環状ポンプチャンバ114を通るガスの流れと同一の方向で第4の環状ポンプチャンバ140の中を流れ、第1の環状ポンプチャンバ112及び第3のポンプ環状チャンバ116を逆方向に流れるので、この実施形態では、ガス送出システムは、ガスをプレナム入口128から第2の環状ポンプチャンバ114に送出するのか第4の環状ポンプチャンバ140に送出するのかのいずれかを、プレナム入口128を通して排出すべきポンプチャンバのポンプ要件に応じて、ユーザに選択させる。
【0026】
図7を参照すると、この実施形態では、プレナム126は、第1の複数個の出口132に加えて、第2の複数個のプレナム出口142を有し、第2の複数個のプレナム出口は、ガス送出システムがガスをホルベック機構の第4の環状ポンプチャネル140に直接、即ち、他の3つの環状ポンプチャネル112,114,116のいずれをも経ないで送出することができるように、ポンプ300の長手方向軸線107の周りに配置されている。この実施形態では、第1の複数個のプレナム出口132と同様、第2の複数個のプレナム出口142も又、長手方向軸線107周りに円形に且つ均一に間隔をおいて配置されている。ユーザがガスをプレナム126から供給すべき環状チャンバを特定し、かくして、この実施形態では、ユーザがプレナム入口128の性能レベルを特定することができるようにするために、ポンプ300のベース102の端板144を取外して、環状ディスク146の形態をしたプレート146を挿入することができるようにするのがよく、この環状ディスクは、図8に示すように、複数個の孔148を有し、これら孔148は、プレート146をプレナム126内に挿入したときに孔148が選択された複数個のプレナム出口だけを露出させるように位置決めされている。図7に示すように、環状ディスク146は、任意適当な手段、例えばボルト等を用いてプレナム126のルーフ又は屋根部に取外し可能に固定されるのがよい。この実施形態では、環状ディスク146は、第1の複数個のプレナム出口132のみを露出させる孔148を有し、従って、第2の複数個の出口142及びかくして第4の環状ポンプチャンバ140をプレナム126との直接連通状態から隔絶させるために使用される。環状ディスク146は、ユーザが第1の複数個の出口132に対して孔148を位置合わせするのを助けるための基準点を備えていてもよいし、違ったやり方で形作られてもよい。
【0027】
この実施形態で第1の複数個のプレナム出口132ではなく第2の複数個のプレナム出口142を露出させるためには、ユーザは、環状ディスク146に代えて、第2の複数個のプレナム出口142を開放すると共に第1の複数個のプレナム出口132を閉鎖するように別の配列状態の孔を備えた別の環状ディスクを用いることが必要になる。共通のプレナム入口128のところに互いに異なる性能レベルを付与する単純で安価な技術を提供できるが、実際には、ポンプ300の配設場所に応じて、ディスクの交換が困難である場合がある。図9に示す第4の実施形態である真空ポンプ400は、第1の複数個のプレナム出口132及び第2の複数個のプレナム出口142について共通の環状ディスク150を設けることにより、この問題を解決する。図9に示すように、環状ディスク150は、第3の実施形態の環状ディスク146と同一の位置に配置されている。図10を参照すると、環状ディスク150は、プレナム126からのガスを第1の複数個の出口132に供給する第1の組の孔152と、プレナム126からのガスを第2の複数個の出口142に供給する第2の組の孔154とを有している。この実施形態では、第2の組の孔154は、第1の組の孔152からそのピッチの約1/2だけ回転方向にずれている。
【0028】
環状ディスク150は、任意適当な手段によりプレナム126のルーフ又は屋根部内に回転自在に嵌め込まれ、従って、環状ディスク150は、第1の組の孔152が第1の複数個の出口132と整列し且つ第2の複数個の出口142が環状ディスク150により閉鎖される図9に示す第1の位置と、第2の組の孔154が第2の複数個の出口142と整列し且つ第1の複数個の出口132が環状ディスク150によって閉鎖される第2の位置との間を長手方向軸線107周りに回転可能である。環状ディスク150の第1の位置と第2の位置との間の回転のために、プレナム入口128は、環状ディスク150へのユーザの接近を可能にする。図9に示すように、切欠き156又は他の形態の指標を、プレナム入口128を通して見ることができるように環状ディスク150の側部に設け、それにより、ユーザは、例えば切欠きとポンプ400の本体102に設けられた印とを整列させることにより、環状ディスク150の位置及びかくしてプレナム入口128の現在の性能状態を目で見て確認することができる。
【0029】
ホルベック機構が追加のポンプ段を有している場合、又は、追加のポンプ段、例えばゲーデ又は再生ポンプ段がホルベック機構の下流側に設けられている場合、プレナム入口128の性能レベル範囲を増大させるために別の組の孔を必要に応じて設けるのがよい。
【0030】
上述の好ましい実施形態では、プレナム126を用いて真空チャンバをポンプに連結した。しかしながら、変形例として、プレナム126を用いて別のポンプ機構をホルベック機構に接続してもよい。この別のポンプ機構は、ポンプの外部に位置し、例えば、真空チャンバとポンプとの間に接続され、真空チャンバを排気し且つガスをプレナム入口128に排出するターボ分子ポンプの形態であってもよいし、入口のところに直線流れパターンを必要とするポンプの別の内部ポンプ機構、例えば、再生又はゲーデポンプ機構であってもよい。
【0031】
さらに、第1の実施形態から第4の実施形態までの各々において、プレナム126は、ガスをプレナム入口128を通してプレナムに半径方向又は軸方向に流入させる直線流れパターンを、プレナム出口132を通ってポンプから出る環状流れパターンに再分布させるために用いられている。これとは異なり、図9に示す第4の実施形態を基礎とする図11に示す第5の実施形態では、プレナム126は、ガスを環状流れパターンから直線流れパターンに再分布させるために用いられている。
【0032】
この第5の実施形態では、第4の実施形態と比較すると、ポンプ出口122は省略され、プレナム入口とプレナム出口のそれぞれの機能が逆になっている(従って、図11では、参照符号228,232,242は、それぞれ、ポンプ500のプレナム出口、第1の複数個のプレナム入口及び第2の複数個のプレナム入口を示すために用いられている)。環状ディスク150が図9を参照して説明したその第1の位置にある状態では、第1のポンプ入口からポンプ機構に流入したガス120は、第1の環状ポンプチャンバ112を通り、第1の複数個のプレナム入口232及び環状ディスク150の第1の組の孔152を通ってプレナム126に入り、そしてプレナム出口128を通ってプレナム126から出る。環状ディスク150が第2の位置にある状態では、第1のポンプ入口からポンプ機構に流入したガス120は、第1、第2及び第3の環状ポンプチャンバ112,114,116を通り、第2の複数個のプレナム入口142及び環状ディスク150の第2の組の孔154(図10に図示)を通ってプレナム126に流入し、そしてプレナム出口228を通ってプレナム126から出る。その結果、第1のポンプ入口の性能を必要に応じて調節することができる。
【0033】
この場合も、第5の実施形態では、上述の第1から第4の実施形態と同様、プレナム126を用いて別のポンプ機構をホルベック機構に連結してもよい。このポンプ機構は、ポンプの外部に位置し、例えば、プレナム出口228に連結され、ポンプ500からの排出ガスをプレナム出口228を通って排出するバッキングポンプの形態をしていてもよいし、入口のところに直線流れパターンを必要とするポンプの別の内部ポンプ機構、例えば、再生又はゲーデポンプ機構であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】先行技術のスプリットフロー形ポンプの一部の断面図である。
【図2】図1の分子ドラッグポンプ機構のポンプ段を通るガスの流れ方向を示す図である。
【図3】真空ポンプの第1の実施形態の一部の断面図である。
【図4】図3の真空ポンプのプレナムの平面図である。
【図5】真空ポンプの第2の実施形態の一部の断面図である。
【図6】図5の真空ポンプのプレナムの平面図である。
【図7】真空ポンプの第3の実施形態の一部の断面図である。
【図8】図7の真空ポンプのプレナムの平面図である。
【図9】真空ポンプの第4の実施形態の一部の断面図である。
【図10】図9の真空ポンプのプレナムの平面図である。
【図11】真空ポンプの第5の実施形態の一部の断面図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空ポンプに関し、かかる真空ポンプの作動効率の向上に関する。
【背景技術】
【0002】
複数のチャンバ又はシステムを互いに異なる真空レベルまで排気する必要のある多くの形式の装置が存在する。例えば、よく知られたタイプの質量分析計では、分析器/検出器は、比較的高い真空状態、例えば10-5ミリバール(10-3Pa)で作動されなければならず、これに対し、イオン源から引き出されると共に案内されるイオンを検出器に向かって運ぶ移送又は光学系チャンバは、低い真空状態、例えば10-3ミリバール(10-1Pa)で作動される。質量分析計は、分析器チャンバの上流側に設けられた1つ又は2つ以上の別のチャンバを有するのがよく、これら別のチャンバは、大気源で生じたイオンを捕捉し、最終的には検出器に向かって案内することができるように、次第に高くなる圧力で作動される。
【0003】
これらチャンバは、各々別個の又は共通のバッキングポンプによって支援された別個の真空ポンプを用いて排気されてもよいけれども、複数個の入口と複数のポンプ段とを有する単一の「スプリットフロー(split flow)」形ポンプを用いて2つ又は3つ以上の隣り合うチャンバを排気することが益々普及しており、複数個の入口の各々は、各チャンバから流体を受け入れ、複数のポンプ段は、チャンバを差圧的に排気する。かかるポンプを利用することにより、サイズ、コスト及び構成部品の合理化において利点が得られる。
【0004】
例えば、欧州特許出願公開第0919726号明細書は、複数の真空段又はポンプ段を有するスプリットフロー形ポンプを記載しており、このスプリットフロー形ポンプは、ガスをポンプに流入させてすべてのポンプ段を通過させることができる第1のポンプ入口と、ガスをポンプ段とポンプ段の間でポンプに流入させてポンプの次のポンプ段だけを通過させることができる第2の入口とを有している。ポンプ段は、第1及び第2の入口にそれぞれ取付けられたチャンバの圧力要件を満たすよう構成されているのがよい。
【0005】
本出願人の最近の国際出願PCT/GB2004/004046号明細書は、高圧チャンバからのガスを受け入れるポンプ入口が多段ホルベック(Holweck)分子ドラッグ機構のポンプ段とポンプ段の間に設けられたスプリットフロー形ポンプを記載しており、この国際出願を参照により引用し、その内容を本明細書の一部とする。図1は、この特許文献に記載されたポンプとほぼ同じスプリットフロー形ポンプ10の一部の断面図である。ホルベック機構は好ましくは炭素繊維材料で作られ、且つ、互いに異なる直径の2つの同軸円筒形ロータ要素12a,12bを有しており、これらロータ要素12a、12bは、駆動シャフト16に設けられているディスク14に取付けられている。ホルベック機構のステータは、ロータ要素12a,12bと同軸の2つの円筒形ステータ要素18a,18bを有し、これらステータ要素18a,18bとロータ要素12a,12bは、この例では、3つのポンプ段を構成し、ロータ要素12a,12bとステータ要素18a,18bとの間に設けられた3つの環状ポンプチャンバ20,22,24を有している。図2に示すように、ロータ要素に向いたステータ要素18a,18bの面には、螺旋チャネル26がそれ自体公知の仕方で設けられている。
【0006】
ポンプ10は、第1の入口(図示せず)を有し、ガスがこの第1の入口を通ってポンプ10に流入し(図1に矢印36で示されている)、ホルベック機構のポンプチャンバ20,22,24の全てを通り、その後、ポンプ10のベース30に設けられたポンプ出口28を通ってポンプ10から排出される。ポンプ段間の第2の入口32が、ホルベック機構のポンプ段とポンプ段の間に設けられていて、ポンプ段間の第2の入口32を通ってポンプに流入したガス(図1に矢印38で示されている)が、ポンプチャンバ20,22の間に設けられた環状プレナム34内に入り、ガス38は、この環状プレナム34から、ガス36の場合よりも少ない数のホルベック機構ポンプチャンバ(この例では、ポンプチャンバ22,24)を通り、その後、ポンプ出口28を通ってポンプ10から排出される。これにより、第1及び第2の入口に取付けられたシステムの差動(差圧)排気が可能になる。
【0007】
ホルベックポンプ段中においてガス流量/圧力の分布状態が均一である場合、このポンプ段の個々のポンプチャネル又はチャンバ26には各々、同一の境界条件(流量及び圧力)が適用され、従って、個々のポンプチャネル26は、同一レベルの性能を発揮する。これは、ホルベックポンプ段の最も効率的な動作条件である。例えば、図1に示す例では、最も外側の環状ポンプチャンバ20を通ったガスが、これが環状ポンプチャンバ20を出る際に環状ポンプチャンバの螺旋チャネル26の全てを均等に流れることになろう。ポンプ段とポンプ段との間の流れ38が存在しない場合、ガスは、単に引き続いてこのように流れ、次の下流側のポンプチャンバ22に至り、このことは、均一に分布した流量/圧力及び良好なポンプ段性能が得られていることを意味する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
今、第1の入口からのガス36が無い場合の、ポンプ段とポンプ段との間の入口32から流入するガス分布の他の極端な場合を考察する。ポンプ段とポンプ段との間に供給される供給ガスは、ポンプ段とポンプ段との間のプレナム34の周囲上のただ1箇所からポンプ10に入る。このガスは、次に、プレナム34の周りにそれ自体分布しようとし、その後、下流側の環状ポンプチャンバ22の中をポンプ送りされる。しかしながら、プレナム34のコンダクタンス又は流れやすさの制限により、プレナム34の周りでガスの非均一な分布が生じる場合があり、その結果、下流側の環状ポンプチャンバ22の螺旋チャネル26の周りにおいて流量/圧力の不均一な分布が生じる場合がある。これにより、ポンプ段性能が低下し、それ故、ポンプ段とポンプ段との間の入口性能が低下することになる。ポンプ段とポンプ段との間の入口32のところに達した供給ガスが第1の入口及びホルベック機構の上流側に設けられた任意他の入口から供給されるガスよりも遙かに多い場合、均一でない分布状態でポンプ段とポンプ段との間に供給されるガスのマイナスに働く挙動が、ホルベック機構の性能を損なう場合がある。
【0009】
本発明は、その好ましい実施形態において、ポンプ機構へのガスの供給を向上させようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、第1の特徴において、真空ポンプであって、長手方向軸線の周りに延びる環状ポンプチャンバを備えたポンプ機構を有し、ポンプ機構により流体が環状ポンプチャンバの中を通ってポンプ送りされ、真空ポンプは、更に、流体を環状ポンプチャンバに送出する手段を有し、送出する手段は、ポンプ機構から離れて位置したプレナムを有し、プレナムは、ポンプ機構によりポンプ送りすべき流体を受入れる入口と、長手方向軸線周りに配置され且つ流体を環状ポンプチャンバに供給する複数個の出口とを有する真空ポンプを提供する。
【0011】
ポンプ機構から離してプレナムを配置することにより、スペースが少なく且つ機械加工上の制約が少なく、また、大きくて抵抗の小さいプレナムを構成することができる。かくして、プレナムのコンダクタンス又は流れやすさを大きく向上させることができ、その結果、プレナム入口を通ってプレナムに流入したガスを、プレナムの周りに極めて均一に分布させることができ、その後、ガスはプレナムから出る。プレナムの配設場所及び設計は、最終的には、ポンプレイアウトで決まるが、好ましい実施形態では、プレナムは、ポンプのベースの中に機械加工によって形成され、従って、ポンプの寸法の増大は殆ど無いか、全く無い。プレナム出口をプレナムの周りに配置することにより、環状ポンプチャンバに流入したガスをその周りに均一に分布させることができ、それにより、プレナムにより得られるガスの均一な分布には悪影響が及ぼされず、従って、図1に示す構成と関連した性能低下は著しく減少する。
【0012】
環状ポンプチャンバに対するガスの均一な分布の程度を高めるため、プレナム出口は、好ましくは、長手方向軸線の周りに且つ/又は長手方向軸線から等間隔に配置され、この場合も又、プレナム出口の配置は、ポンプレイアウトで決まる。例えば、一実施形態では、プレナムは、環状の形態を有し、このプレナムは、長手方向軸線周りに延び、従って、プレナム出口を長手方向軸線周りに円形に配置することができ、従って、環状ポンプチャンバに対するガスの均一な分布が生じるようになる。しかしながら、追加のポンプ特徴部、例えば、ポンプ排気部、電気コネクタ、通気パージ等に関する条件に起因して、プレナムの形状に制約が生じる場合があり、従って、別の実施形態では、プレナムは、360°未満にわたって延びるチャンバに制限され、プレナム出口は、長手方向軸線周りに延びる円弧の状態に配置され、かくして、ポンプ設計の制約がある場合でも、環状チャンバのガスをできるだけ均一に分布させることができる。
【0013】
別の実施形態では、ポンプ機構は、第1の外側環状チャンバと、第1の外側環状チャンバと同軸の第2の内側環状チャンバとを有し、送出する手段は、環状ポンプチャンバのうちの選択された1つにガスを供給するように構成されている。これにより、プレナムに流入したガスをポンプ機構の最も適当なチャンバに差し向け、プレナム入口に連結されたシステムのポンプ要件を満たすようにすることができる。好ましくは、送出する手段は、長手方向軸線周りに配置され且つ流体を第1の外側環状チャンバに供給するための第1の外側の複数個の出口と、長手方向軸線周りに配置され且つ流体を第2の環状ポンプチャンバに供給するための第2の内側の複数個の出口と、第1の複数個の出口及び第2の複数個の出口のうちの一方を選択的に閉鎖する閉鎖手段とを有する。これにより、プレナム及びプレナム入口を、2種類の別々の複数個のプレナム出口に対して共通にすることができ、それにより、ポンプ構造が単純化される。閉鎖手段は、好ましくは、プレナムと出口との間に設けられ、第1の外側の複数個の出口及び第2の内側の複数個の出口のうち上述した一方を選択的に閉鎖する平らな部材、例えばプレート形ディスクから成る。変形例として、ポンプレイアウトに応じて、プレートを出口とポンプ機構との間に設けてもよい。
【0014】
このプレートは、単一の孔を有するのがよく、流体がこの孔を通ってプレナムから、例えば第1の複数個の出口だけに運ばれてもよいし、変形例として、プレートは、第1の外側の複数個の出口と同軸である複数個の孔を有していてもよい。これとは異なり第1の複数個の出口を閉鎖するため、プレートを取外し、これに代えて、流体をプレナムから第2の内側の複数個の出口だけに運ぶようにする別の孔配置形態を有する別のプレートを用いてもよい。しかしながら、より有利な変形構成例では、プレートは、第1の外側の複数個の出口が閉鎖される第1の位置と、第2の内側の複数個の出口が閉鎖される第2の位置との間で動くことができ、それにより、同一の部品を用いて互いに異なる環状ポンプチャンバに必要に応じて接近することができる。これは、プレートに第1の組の孔及び第2の組の孔を設け、これらの孔を、第1のプレート位置においては、第1の組の孔の各々がそれぞれの第1の外側の複数個の出口と同軸であり、第2のプレート位置においては、第2の組の孔の各々がそれぞれの第2の内側の複数個の出口と同軸であるよう位置決めすることによって達成できる。プレートは、好ましくは、選択された複数個の出口を閉鎖するように第1の位置と第2の位置との間で長手方向軸線回りに回転可能である。プレートは、ユーザがプレートの現在の位置及びかくしてプレナム入口のところの現在のポンプ性能状態を確認することができるように、切欠き又は任意他の好都合な指標を備えるのがよい。
【0015】
好ましい実施形態では、第1の外側環状チャンバと第2の外側環状チャンバは、連続通路を形成するよう互いに結合され、流体は、ポンプ機構により連続通路を通って排出される。ポンプ機構は、好ましくは、マルチチャンバ分子ドラッグポンプ機構を有し、マルチチャンバ分子ドラッグポンプ機構は、複数個の同軸円筒形ロータ要素と、ロータ要素と共に第1の外側環状チャンバ及び第2の内側環状チャンバを構成するステータを有する。好ましい実施形態では、分子ドラッグポンプ機構は、第1の外側環状チャンバ及び第2の内側環状チャンバが複数の螺旋形部として構成された多段ホルベック機構である、追加のポンプ段、例えば少なくとも1つのゲーデ(Gaede)ポンプ段及び/又は少なくとも1つの空気力学的ポンプ段を、必要に応じてホルベック機構の下流側に設けるのがよい。空気力学的ポンプ段は、再生段であるのがよい。他の形式の空気力学的機構は、サイドフロー型、サイドチャネル型及び周辺流れ型機構であるのがよい。第1の外側環状チャンバ及び第2の内側環状チャンバを各々、2つのポンプポンプ段とポンプ段の間に設けるのがよい。
【0016】
本発明の第1の特徴では、流体送出システムは、環状ポンプチャンバに供給される流体を均一に分布させ、それにより、流体供給のコンダクタンスを向上させるのに役立つ。しかしながら、同じシステムを、プレナム入口の機能とプレナム出口の機能を入れ替えることにより、流体を環状ポンプチャンバから運び去るのことにも使用でき、従って、ポンプ機構から受け取ったガスが環状流れから直線流れに再分布されるようになり(例えば、ホルベック機構からのガスをポンプ出口又は下流側のポンプ段、例えば再生又はゲーデポンプ段に提供するため)、従って、本発明は、第2の特徴では、真空ポンプであって、長手方向軸線の周りに延びる環状ポンプチャンバを備えたポンプ機構を有し、ポンプ機構により流体が環状ポンプチャンバの中を通ってポンプ送りされ、更に、流体を環状ポンプチャンバに送出する手段を有し、この送出する手段は、ポンプ機構から離れて又は分離して位置したプレナムを有し、プレナムは、長手方向軸線の周りに配置され且つ環状ポンプチャンバからの流体を受け入れる複数個の入口と、流体をプレナムから排出する出口を有する真空ポンプを提供する。第1の特徴のプレナム入口及びプレナム出口と関連して説明した特徴はそれぞれ、第2の特徴のプレナム出口及びプレナム入口に同じように当てはまる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、添付の図面を参照して本発明の好ましい特徴を説明するが、これらは例示に過ぎない。
【0018】
図3を参照すると、第1の実施形態としての真空ポンプ100が、マルチコンポーネント本体102を有し、この本体内には、駆動シャフト104が設けられている。駆動シャフト104の回転は、その周りに位置決めされたモータ(図示せず)、例えばブラシレス直流電動機によって行なわれる。駆動シャフト104は、互いに反対側に位置する軸受(図示せず)に取付けられている。例えば、駆動シャフト104は、ハイブリッド永久磁石軸受及び油潤滑軸受システムで支持されるのがよい。
【0019】
分子ドラッグポンプ機構が、本体102内に配置されている。この実施形態では、ポンプ機構は、互いに直径が異なる2つの同軸の円筒形ロータ要素106a,106bを有する多段ホルベック(Holweck)ドラッグ機構の形態をなし、同軸の円筒形ロータ要素106a,106bは、ポンプ100の長手方向軸線107周りに延びている。ロータ要素106a,106bは、好ましくは、炭素繊維材料で作られ、駆動シャフト104に設けられたディスク108に取付けられている。ディスク108は、駆動シャフト104に取付けられてもよいし、これと一体であってもよい。この実施形態では、ホルベック機構のステータは、3つのポンプ段を構成するように、ロータ要素106a,106bと同軸の2つの円筒形ステータ要素110a,110bを有し、3つのポンプ段は、ロータ要素106a,106bとステータ要素110a,110bとの間に設けられた第1、第2及び第3の環状ポンプチャンバ112,114,116を有し、これらの環状ポンプチャンバ112,114,116は、連続した通路を形成するように互いに接続されている。ロータ要素に面するステータ要素110a,110bの表面には、螺旋チャネル118がそれ自体よく知られた仕方で設けられている。
【0020】
ポンプ100は、第1の入口(図示せず)を有し、ガスが第1の入口を通ってポンプ100に入り(図3に矢印120で示されている)、ホルベック機構の環状ポンプチャンバ112,114,116の全てを通り、その後、本体102のベース124に設けられたポンプ出口122を通ってポンプ100から排出される。必要に応じて、第1の入口とホルベック機構との間に追加のポンプ段、例えば1つ又は2つ以上のターボ分子ポンプ段及び/又は螺旋ねじ山ロータポンプ段を設けて、第1の入口のところの圧力を一段と減少させてもよい。これと同様に、下流側のホルベック段116とポンプ出口122との間に追加のポンプ段、例えば1つ又は2つ以上の空気力学的ポンプ段及び/又はゲーデ(Gaede)ドラッグポンプ段を設けて、ポンプ出口のところの圧力を増大させてもよい。これら追加のポンプ段のロータ要素も、駆動シャフト104に取付けられるのがよい。必要に応じ、追加のポンプ入口が、追加のポンプ段の上流側及び/又は下流側に設けられてもよい。
【0021】
ポンプ100は、ガスをホルベック機構のポンプ段とポンプ段の間の場所に送出するたるまガス送出システムを更に有している。このガス送出システムは、ポンプ本体102のベース124内に設けられたプレナム(plenum)又は空間126を有している。この実施形態では、プレナム126は、ポンプ出口122に当たらないようにポンプ100の長手方向軸線107の周りに延びる環状チャンバを有している。プレナム126は、ガスが実質的に半径方向のただ1つの箇所でプレナム126に入る(図3に矢印130で示されている)ように配置されたプレナム入口128を有している。ただし、これは、同じように軸方向であってもよい。図4を参照すると、プレナム126は、ガス送出システムがガスをホルベック機構の環状ポンプチャネル114に送出することができるように、ポンプ100の長手方向軸線107周りに配置された複数個のプレナム出口132を更に有している。この実施形態では、プレナム出口132は、長手方向軸線107周りに円形に且つ均一に間隔をおいて設けられている。ただし、等間隔に配置された他の幾何学的形状を採用してもよい。
【0022】
使用にあたり、第1の入口を、比較的低い圧力を生じさせるべきチャンバに連結する。このチャンバからのガスは、第1の入口を通ってポンプ100に流入し、第1の入口とホルベック機構との間に設けられた追加のポンプ段を通り、そして、ホルベック機構の全てのポンプチャネル112,114,116を通り、その後、ポンプ出口122を通ってポンプ100から出る。プレナム入口128を比較的高い圧力を生じさせるべき別のチャンバに連結する。このチャンバからのガスは、プレナム入口128を通ってプレナム126に流入する。図1に示す先行技術のポンプ10のプレナム34がホルベック機構内部に設けられていることとは対照的に、ポンプ100のプレナム126がホルベック機構から離れて又は分離して配置されているので、プレナム126は、先行技術のポンプ10のプレナム34よりも大きく且つ抵抗が小さい。かくして、プレナム126内のコンダクタンス又は流れやすさは、プレナム34内のコンダクタンス又は流れやすさよりも非常に大きく、その結果、プレナム入口128を通ってプレナム126に流入したガスは、プレナム126の周りに迅速且つ均一に分布可能であり、その後、プレナム出口132を通ってプレナム126から出る。ガス130は、プレナム出口132から、ホルベック機構の環状ポンプチャンバ114に流入し、そして、ポンプチャネル114,116を通り、その後、ポンプ出口122を通ってポンプ100から出る。プレナム126内でのガスの均一な分布に起因して、各プレナム出口132は、供給されるガスの少しの部分を受け持つに過ぎず、それ故、プレナム入口126と環状ポンプチャネル114との間の圧力損失は生じさせることなしに、プレナム出口132の直径を比較的小さくすることができる。
【0023】
さらに、先行技術のポンプ10のホルベック機構の内部プレナム34はもはや必要ではないので、ポンプ100のロータ要素106a及びステータ要素110aを、ポンプ10のロータ要素12a及びステータ要素18aよりも延長させることができ、それにより、ポンプ性能が一段と向上する。
【0024】
この第1の実施形態では、ポンプ出口122の配設場所は、プレナム126を環状チャンバの形態で容易に機械加工できるようなところである。しかしながら、ポンプレイアウトに応じて、或る特定のポンプ特徴部は、プレナム126の形状を制約する場合がある。例えば、図5に示す第2の実施形態では(この図において、図3に示す第1の実施形態の特徴とほぼ同じ特徴には同一の参照符号が与えられている)、ポンプ出口122は、第1の実施形態の場合よりも第3の環状ポンプチャンバ116の近くに配置され、その結果、プレナム126は、第1の実施形態の環状の形状を採用する場合には、必ずポンプ出口122に当たるようになる。プレナムの内径を増大させてポンプ出口122がプレナムの内周部内に入るようにしてもよいが、ポンプのコンダクタンス又は流れやすさを著しく損ねることもある。このことに考慮して、プレナム126の形状を図6に示すように修正変更して、プレナム126がポンプ200の長手方向軸線107の周りに完全には延びないようにするのがよい。図示の実施形態では、プレナム126は、ポンプ200の長手方向軸線107の周りに約270°にわたって延び、それにより、プレナム出口132が長手方向軸線の周りに延びる円弧の状態に配置された状態で、他のポンプ特徴部、例えばポンプ出口、電気コネクタ、ベントパージ等を収容するスペースが得られ、従って、ポンプ設計に制約がある場合、プレナム126を出たガス130を、環状ポンプチャンバ114のできるだけ多くの部分に均一に分布させることができる。
【0025】
図7は、第3の実施形態である真空ポンプ300を示しており、この場合も又、図3に示す第1の実施形態の特徴とほぼ同じ構成要素には、同一の参照符号が与えられている。この第3の実施形態は、第3の内側円筒形ステータ要素110cを他の2つの円筒形ステータ要素110a,110bと同軸に設けることにより、4つのポンプ段に拡張されている。内側ステータ要素110cの外面が、螺旋溝138を備え、この外面は、内側ロータ要素106bと共に第4の環状ポンプチャンバ140を構成し、この第4の環状ポンプチャンバは、他の3つの環状ポンプチャンバ112,114,116に接続している。使用中、ガスが第2の環状ポンプチャンバ114を通るガスの流れと同一の方向で第4の環状ポンプチャンバ140の中を流れ、第1の環状ポンプチャンバ112及び第3のポンプ環状チャンバ116を逆方向に流れるので、この実施形態では、ガス送出システムは、ガスをプレナム入口128から第2の環状ポンプチャンバ114に送出するのか第4の環状ポンプチャンバ140に送出するのかのいずれかを、プレナム入口128を通して排出すべきポンプチャンバのポンプ要件に応じて、ユーザに選択させる。
【0026】
図7を参照すると、この実施形態では、プレナム126は、第1の複数個の出口132に加えて、第2の複数個のプレナム出口142を有し、第2の複数個のプレナム出口は、ガス送出システムがガスをホルベック機構の第4の環状ポンプチャネル140に直接、即ち、他の3つの環状ポンプチャネル112,114,116のいずれをも経ないで送出することができるように、ポンプ300の長手方向軸線107の周りに配置されている。この実施形態では、第1の複数個のプレナム出口132と同様、第2の複数個のプレナム出口142も又、長手方向軸線107周りに円形に且つ均一に間隔をおいて配置されている。ユーザがガスをプレナム126から供給すべき環状チャンバを特定し、かくして、この実施形態では、ユーザがプレナム入口128の性能レベルを特定することができるようにするために、ポンプ300のベース102の端板144を取外して、環状ディスク146の形態をしたプレート146を挿入することができるようにするのがよく、この環状ディスクは、図8に示すように、複数個の孔148を有し、これら孔148は、プレート146をプレナム126内に挿入したときに孔148が選択された複数個のプレナム出口だけを露出させるように位置決めされている。図7に示すように、環状ディスク146は、任意適当な手段、例えばボルト等を用いてプレナム126のルーフ又は屋根部に取外し可能に固定されるのがよい。この実施形態では、環状ディスク146は、第1の複数個のプレナム出口132のみを露出させる孔148を有し、従って、第2の複数個の出口142及びかくして第4の環状ポンプチャンバ140をプレナム126との直接連通状態から隔絶させるために使用される。環状ディスク146は、ユーザが第1の複数個の出口132に対して孔148を位置合わせするのを助けるための基準点を備えていてもよいし、違ったやり方で形作られてもよい。
【0027】
この実施形態で第1の複数個のプレナム出口132ではなく第2の複数個のプレナム出口142を露出させるためには、ユーザは、環状ディスク146に代えて、第2の複数個のプレナム出口142を開放すると共に第1の複数個のプレナム出口132を閉鎖するように別の配列状態の孔を備えた別の環状ディスクを用いることが必要になる。共通のプレナム入口128のところに互いに異なる性能レベルを付与する単純で安価な技術を提供できるが、実際には、ポンプ300の配設場所に応じて、ディスクの交換が困難である場合がある。図9に示す第4の実施形態である真空ポンプ400は、第1の複数個のプレナム出口132及び第2の複数個のプレナム出口142について共通の環状ディスク150を設けることにより、この問題を解決する。図9に示すように、環状ディスク150は、第3の実施形態の環状ディスク146と同一の位置に配置されている。図10を参照すると、環状ディスク150は、プレナム126からのガスを第1の複数個の出口132に供給する第1の組の孔152と、プレナム126からのガスを第2の複数個の出口142に供給する第2の組の孔154とを有している。この実施形態では、第2の組の孔154は、第1の組の孔152からそのピッチの約1/2だけ回転方向にずれている。
【0028】
環状ディスク150は、任意適当な手段によりプレナム126のルーフ又は屋根部内に回転自在に嵌め込まれ、従って、環状ディスク150は、第1の組の孔152が第1の複数個の出口132と整列し且つ第2の複数個の出口142が環状ディスク150により閉鎖される図9に示す第1の位置と、第2の組の孔154が第2の複数個の出口142と整列し且つ第1の複数個の出口132が環状ディスク150によって閉鎖される第2の位置との間を長手方向軸線107周りに回転可能である。環状ディスク150の第1の位置と第2の位置との間の回転のために、プレナム入口128は、環状ディスク150へのユーザの接近を可能にする。図9に示すように、切欠き156又は他の形態の指標を、プレナム入口128を通して見ることができるように環状ディスク150の側部に設け、それにより、ユーザは、例えば切欠きとポンプ400の本体102に設けられた印とを整列させることにより、環状ディスク150の位置及びかくしてプレナム入口128の現在の性能状態を目で見て確認することができる。
【0029】
ホルベック機構が追加のポンプ段を有している場合、又は、追加のポンプ段、例えばゲーデ又は再生ポンプ段がホルベック機構の下流側に設けられている場合、プレナム入口128の性能レベル範囲を増大させるために別の組の孔を必要に応じて設けるのがよい。
【0030】
上述の好ましい実施形態では、プレナム126を用いて真空チャンバをポンプに連結した。しかしながら、変形例として、プレナム126を用いて別のポンプ機構をホルベック機構に接続してもよい。この別のポンプ機構は、ポンプの外部に位置し、例えば、真空チャンバとポンプとの間に接続され、真空チャンバを排気し且つガスをプレナム入口128に排出するターボ分子ポンプの形態であってもよいし、入口のところに直線流れパターンを必要とするポンプの別の内部ポンプ機構、例えば、再生又はゲーデポンプ機構であってもよい。
【0031】
さらに、第1の実施形態から第4の実施形態までの各々において、プレナム126は、ガスをプレナム入口128を通してプレナムに半径方向又は軸方向に流入させる直線流れパターンを、プレナム出口132を通ってポンプから出る環状流れパターンに再分布させるために用いられている。これとは異なり、図9に示す第4の実施形態を基礎とする図11に示す第5の実施形態では、プレナム126は、ガスを環状流れパターンから直線流れパターンに再分布させるために用いられている。
【0032】
この第5の実施形態では、第4の実施形態と比較すると、ポンプ出口122は省略され、プレナム入口とプレナム出口のそれぞれの機能が逆になっている(従って、図11では、参照符号228,232,242は、それぞれ、ポンプ500のプレナム出口、第1の複数個のプレナム入口及び第2の複数個のプレナム入口を示すために用いられている)。環状ディスク150が図9を参照して説明したその第1の位置にある状態では、第1のポンプ入口からポンプ機構に流入したガス120は、第1の環状ポンプチャンバ112を通り、第1の複数個のプレナム入口232及び環状ディスク150の第1の組の孔152を通ってプレナム126に入り、そしてプレナム出口128を通ってプレナム126から出る。環状ディスク150が第2の位置にある状態では、第1のポンプ入口からポンプ機構に流入したガス120は、第1、第2及び第3の環状ポンプチャンバ112,114,116を通り、第2の複数個のプレナム入口142及び環状ディスク150の第2の組の孔154(図10に図示)を通ってプレナム126に流入し、そしてプレナム出口228を通ってプレナム126から出る。その結果、第1のポンプ入口の性能を必要に応じて調節することができる。
【0033】
この場合も、第5の実施形態では、上述の第1から第4の実施形態と同様、プレナム126を用いて別のポンプ機構をホルベック機構に連結してもよい。このポンプ機構は、ポンプの外部に位置し、例えば、プレナム出口228に連結され、ポンプ500からの排出ガスをプレナム出口228を通って排出するバッキングポンプの形態をしていてもよいし、入口のところに直線流れパターンを必要とするポンプの別の内部ポンプ機構、例えば、再生又はゲーデポンプ機構であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】先行技術のスプリットフロー形ポンプの一部の断面図である。
【図2】図1の分子ドラッグポンプ機構のポンプ段を通るガスの流れ方向を示す図である。
【図3】真空ポンプの第1の実施形態の一部の断面図である。
【図4】図3の真空ポンプのプレナムの平面図である。
【図5】真空ポンプの第2の実施形態の一部の断面図である。
【図6】図5の真空ポンプのプレナムの平面図である。
【図7】真空ポンプの第3の実施形態の一部の断面図である。
【図8】図7の真空ポンプのプレナムの平面図である。
【図9】真空ポンプの第4の実施形態の一部の断面図である。
【図10】図9の真空ポンプのプレナムの平面図である。
【図11】真空ポンプの第5の実施形態の一部の断面図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空ポンプであって、
長手方向軸線の周りに延びる環状ポンプチャンバを備えたポンプ機構を有し、前記ポンプ機構により、流体が前記環状ポンプチャンバの中を通ってポンプ送りされ、
更に、流体を前記環状ポンプチャンバに送出する手段を有し、前記送出する手段は、前記ポンプ機構から離れて位置したプレナムを有し、前記プレナムは、前記ポンプ機構によってポンプ送りすべき流体を受け入れる入口と、前記長手方向軸線周りに配置され且つ流体を前記環状ポンプチャンバに供給する複数個の出口とを有する、真空ポンプ。
【請求項2】
前記複数個の出口は、前記長手方向軸線周りに等間隔に配置される、請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項3】
前記複数個の出口は、前記長手方向軸線から等間隔に配置される、請求項1又は2に記載の真空ポンプ。
【請求項4】
前記プレナムは、前記長手方向軸線周りに延びる環状チャンバを有し、
前記複数個の出口は、前記長手方向軸線周りに円形に配置される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の真空ポンプ。
【請求項5】
前記プレナムは、前記長手方向軸線周りに360°未満にわたって延びるチャンバを有し、
前記複数個の出口は、前記長手方向軸線周りに延びる円弧をなして配置される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の真空ポンプ。
【請求項6】
前記ポンプ機構は、第1の外側環状チャンバと、前記第1の外側環状チャンバと同軸の第2の内側環状チャンバとを有し、
前記送出する手段は、流体を前記環状チャンバのうちの選択された1つに供給するよう構成される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の真空ポンプ。
【請求項7】
前記送出する手段は、前記長手方向軸線周りに配置され且つ流体を前記第1の外側環状チャンバに供給する第1の外側の複数個の出口と、前記長手方向軸線周りに配置され且つ流体を前記第2の内側環状チャンバに供給する第2の内側の複数個の出口と、前記第1の外側の複数個の出口及び前記第2の内側の複数個の出口のうちの一方を選択的に閉鎖する閉鎖手段とを有する、請求項6に記載の真空ポンプ。
【請求項8】
前記閉鎖手段は、前記プレナムと、前記第1の外側の複数個の出口及び前記第2の内側の複数個の出口のうちの選択的に閉鎖される前記一方の複数個の出口との間に設けられた平らな部材を有する、請求項7記載の真空ポンプ。
【請求項9】
前記閉鎖手段は、少なくとも1つの孔を有し、流体は、前記少なくとも1つの孔を通って前記プレナムから、前記第1の外側の複数個の出口及び前記第2の内側の複数個の出口のうちの他方に運ばれる、請求項7又は8記載の真空ポンプ。
【請求項10】
前記閉鎖手段は、複数個の孔を有し、この複数個の孔は各々、前記第1の外側の複数個の出口及び前記第2の内側の複数個の出口のうちの前記他方のそれぞれの出口と同軸である、請求項7〜9のいずれか1項に記載の真空ポンプ。
【請求項11】
前記閉鎖手段は、前記第1の外側の複数個の出口が閉鎖される第1の位置と、前記第2の内側の複数個の出口が閉鎖される第2の位置との間を動くことができる、請求項7又は8記載の真空ポンプ。
【請求項12】
前記閉鎖部材は、第1の組の孔及び第2の組の孔を有し、これらの孔は、前記第1の位置において、前記第1の組の孔の各々が前記第1の外側の複数個の出口のうちのそれぞれの出口と同軸であり、且つ、前記第2の位置において、前記第2の組の孔の各々が前記第2の内側の複数個の出口のうちのそれぞれの孔と同軸であるように位置決めされる、請求項11に記載の真空ポンプ。
【請求項13】
前記プレートは、前記選択された複数個の出口を閉鎖するように、前記第1の位置と前記第2の位置との間を前記長手方向軸線回りに回転可能である、請求項12に記載の真空ポンプ。
【請求項14】
前記閉鎖手段は、その位置を指示する手段を有する、請求項12〜14のいずれか1項に記載の真空ポンプ。
【請求項15】
前記第1の外側環状チャンバと前記第2の内側環状チャンバは、連続通路を形成するよう互いに接続され、流体は、前記ポンプ機構により前記連続通路を通ってポンプ送りされる、請求項6〜14のいずれか1項に記載の真空ポンプ。
【請求項16】
前記ポンプ機構は、マルチチャンバ分子ドラッグポンプ機構を有し、前記マルチチャンバ分子ドラッグポンプ機構は、複数個の同軸の円筒形ロータ要素と、前記ロータ要素と共に前記第1の外側環状チャンバ及び前記第2の内側環状チャンバを構成するステータとを有する、請求項15に記載の真空ポンプ。
【請求項17】
前記分子ドラッグポンプ機構は、前記第1の外側環状チャンバ及び前記第2の内側環状チャンバを複数の螺旋形部として構成した多段ホルベック(Holweck)機構である、請求項15に記載の真空ポンプ。
【請求項18】
真空ポンプであって、
長手方向軸線の周りに延びる環状ポンプチャンバを備えたポンプ機構を有し、前記ポンプ機構により流体が前記環状ポンプチャンバの中を通ってポンプ送りされ、
更に、流体を前記環状ポンプチャンバに送出する手段を有し、前記送出する手段は、前記ポンプ機構から離れて位置したプレナムを有し、前記プレナムは、前記長手方向軸線の周りに配置され且つ前記環状ポンプチャンバからの流体を受け入れる複数個の入口と、流体を前記プレナムから排出する出口を有する、真空ポンプ。
【請求項1】
真空ポンプであって、
長手方向軸線の周りに延びる環状ポンプチャンバを備えたポンプ機構を有し、前記ポンプ機構により、流体が前記環状ポンプチャンバの中を通ってポンプ送りされ、
更に、流体を前記環状ポンプチャンバに送出する手段を有し、前記送出する手段は、前記ポンプ機構から離れて位置したプレナムを有し、前記プレナムは、前記ポンプ機構によってポンプ送りすべき流体を受け入れる入口と、前記長手方向軸線周りに配置され且つ流体を前記環状ポンプチャンバに供給する複数個の出口とを有する、真空ポンプ。
【請求項2】
前記複数個の出口は、前記長手方向軸線周りに等間隔に配置される、請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項3】
前記複数個の出口は、前記長手方向軸線から等間隔に配置される、請求項1又は2に記載の真空ポンプ。
【請求項4】
前記プレナムは、前記長手方向軸線周りに延びる環状チャンバを有し、
前記複数個の出口は、前記長手方向軸線周りに円形に配置される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の真空ポンプ。
【請求項5】
前記プレナムは、前記長手方向軸線周りに360°未満にわたって延びるチャンバを有し、
前記複数個の出口は、前記長手方向軸線周りに延びる円弧をなして配置される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の真空ポンプ。
【請求項6】
前記ポンプ機構は、第1の外側環状チャンバと、前記第1の外側環状チャンバと同軸の第2の内側環状チャンバとを有し、
前記送出する手段は、流体を前記環状チャンバのうちの選択された1つに供給するよう構成される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の真空ポンプ。
【請求項7】
前記送出する手段は、前記長手方向軸線周りに配置され且つ流体を前記第1の外側環状チャンバに供給する第1の外側の複数個の出口と、前記長手方向軸線周りに配置され且つ流体を前記第2の内側環状チャンバに供給する第2の内側の複数個の出口と、前記第1の外側の複数個の出口及び前記第2の内側の複数個の出口のうちの一方を選択的に閉鎖する閉鎖手段とを有する、請求項6に記載の真空ポンプ。
【請求項8】
前記閉鎖手段は、前記プレナムと、前記第1の外側の複数個の出口及び前記第2の内側の複数個の出口のうちの選択的に閉鎖される前記一方の複数個の出口との間に設けられた平らな部材を有する、請求項7記載の真空ポンプ。
【請求項9】
前記閉鎖手段は、少なくとも1つの孔を有し、流体は、前記少なくとも1つの孔を通って前記プレナムから、前記第1の外側の複数個の出口及び前記第2の内側の複数個の出口のうちの他方に運ばれる、請求項7又は8記載の真空ポンプ。
【請求項10】
前記閉鎖手段は、複数個の孔を有し、この複数個の孔は各々、前記第1の外側の複数個の出口及び前記第2の内側の複数個の出口のうちの前記他方のそれぞれの出口と同軸である、請求項7〜9のいずれか1項に記載の真空ポンプ。
【請求項11】
前記閉鎖手段は、前記第1の外側の複数個の出口が閉鎖される第1の位置と、前記第2の内側の複数個の出口が閉鎖される第2の位置との間を動くことができる、請求項7又は8記載の真空ポンプ。
【請求項12】
前記閉鎖部材は、第1の組の孔及び第2の組の孔を有し、これらの孔は、前記第1の位置において、前記第1の組の孔の各々が前記第1の外側の複数個の出口のうちのそれぞれの出口と同軸であり、且つ、前記第2の位置において、前記第2の組の孔の各々が前記第2の内側の複数個の出口のうちのそれぞれの孔と同軸であるように位置決めされる、請求項11に記載の真空ポンプ。
【請求項13】
前記プレートは、前記選択された複数個の出口を閉鎖するように、前記第1の位置と前記第2の位置との間を前記長手方向軸線回りに回転可能である、請求項12に記載の真空ポンプ。
【請求項14】
前記閉鎖手段は、その位置を指示する手段を有する、請求項12〜14のいずれか1項に記載の真空ポンプ。
【請求項15】
前記第1の外側環状チャンバと前記第2の内側環状チャンバは、連続通路を形成するよう互いに接続され、流体は、前記ポンプ機構により前記連続通路を通ってポンプ送りされる、請求項6〜14のいずれか1項に記載の真空ポンプ。
【請求項16】
前記ポンプ機構は、マルチチャンバ分子ドラッグポンプ機構を有し、前記マルチチャンバ分子ドラッグポンプ機構は、複数個の同軸の円筒形ロータ要素と、前記ロータ要素と共に前記第1の外側環状チャンバ及び前記第2の内側環状チャンバを構成するステータとを有する、請求項15に記載の真空ポンプ。
【請求項17】
前記分子ドラッグポンプ機構は、前記第1の外側環状チャンバ及び前記第2の内側環状チャンバを複数の螺旋形部として構成した多段ホルベック(Holweck)機構である、請求項15に記載の真空ポンプ。
【請求項18】
真空ポンプであって、
長手方向軸線の周りに延びる環状ポンプチャンバを備えたポンプ機構を有し、前記ポンプ機構により流体が前記環状ポンプチャンバの中を通ってポンプ送りされ、
更に、流体を前記環状ポンプチャンバに送出する手段を有し、前記送出する手段は、前記ポンプ機構から離れて位置したプレナムを有し、前記プレナムは、前記長手方向軸線の周りに配置され且つ前記環状ポンプチャンバからの流体を受け入れる複数個の入口と、流体を前記プレナムから排出する出口を有する、真空ポンプ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2008−518155(P2008−518155A)
【公表日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−538493(P2007−538493)
【出願日】平成17年10月19日(2005.10.19)
【国際出願番号】PCT/GB2005/004042
【国際公開番号】WO2006/048603
【国際公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【出願人】(507261364)エドワーズ リミテッド (85)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年10月19日(2005.10.19)
【国際出願番号】PCT/GB2005/004042
【国際公開番号】WO2006/048603
【国際公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【出願人】(507261364)エドワーズ リミテッド (85)
【Fターム(参考)】
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