説明

真空ポンプ

【課題】真空ポンプの下流側から上流側へ気体を一部戻すことで、真空ポンプの排気性能を調整する技術を前提に、可能な限り生成物の悪影響を低減させることができる真空ポンプを提供すること。
【解決手段】逆流経路50の逆流経路入口52を圧縮段204に設けてあり、逆流経路出口54を排気段202に設けてある。少なくとも1段の固定翼40又は回転翼32が、逆流経路入口52より排気口90側に存在している。また、逆流経路50の逆流経路出口54の位置が、少なくとも1段の回転翼32又は固定翼40が吸気口10側に存在してる位置としている。換言すると、逆流経路出口54は、少なくとも1段の回転翼32又は固定翼40より、下流(排気口90側)に設置してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造装置で用いるプロセスチャンバーなどの真空容器の排気処理を行うターボ分子ポンプなどの真空ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
ターボ分子ポンプなどの真空ポンプにおいて、各種作業の状況に応じて、披排気室内の圧力を適切に制御することが求められている。披排気室内の圧力を制御する方法として、圧力を調整する圧力調整弁を用いたり、ポンプ自体の回転数を変化させて、ポンプの性能自体を制御する方法が用いられていた。このうち、圧力調整弁を用いる方法では、圧力調整弁自体が高価なものであり、コストアップとなる問題があった。また、ポンプの回転数を変化させる方法では、回転数を適切に変化させるための制御機構が別個必要となり、この点でやはりコストアップとなっていた。
そこで、下記の特許文献1に記載の技術である、真空ポンプで排気した気体の一部を吸気口側に戻す方法が提案されている。この方法では、排気する気体の一部を真空ポンプの下流側から上流側へ戻すことにより、真空ポンプの中でガスをより大量に吸引している状態にすることができる。これにより、真空ポンプの圧縮性能を低減させることとなる。よって、真空ポンプの上流側へ戻す気体の量を調整することで、結果として、真空ポンプの排気性能を調整することができる。
【特許文献1】特開2005−140079
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、真空ポンプには、排気ガスに含まれているパーティクルと呼ばれる浮遊物がポンプの内部に生成物(堆積物)として付着することが不可避的に発生していた。この生成物によりポンプの性能が低下したり、回転翼に接触が発生する恐れなどの問題があった。さらに、付着した生成物を除去するには、装置を一旦分解し、丹念に洗浄を行うことが必要であった。
ここで、図8の蒸気圧曲線図を参照して、ガスが固化する圧力と温度の関係を説明する。この図では曲線の左側即ち温度が低い側が固体であることを表しており、圧力が高くなると高い温度でも固化することを示している。例えば、塩化アルミニウムの場合、圧力が1パスカル(pa)の場合、約50°Cで固化するのに対し、圧力が100(pa)の場合約95°Cで固化する。
【0004】
そこで、従来、調整弁やフィルタへパーティクルが付着することを回避するために、ヒータを設けて、温度を高くしてガスの固化を防止する方法が提案されていた。しかし、ヒータにより調整弁やフィルタで固化しなかったガスは、ケーシングで冷却され、結果としてケーシングに生成物が堆積することとなった。ターボ分子ポンプの排出口近傍のガスは圧力が高いので、高い温度でもパーティクルが生成物として堆積することとなっていた。
そこで、本発明の目的は、真空ポンプの下流側から上流側へ気体を戻すことで、真空ポンプの排気性能を調整する技術を前提に、可能な限り生成物の付着を防止することができる真空ポンプを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載の発明では、円盤状のベース上に、磁気軸受により浮上保持される回転体と、この回転体を回転駆動させるモータと、前記回転体に取り付けられた複数枚の回転翼と、これらの回転翼と交互に配置された固定翼と、前記固定翼を一定の位置に保持する固定翼スペーサと、前記円盤状のベースと接続し、前記回転体、モータ、回転翼、固定翼および固定翼スペーサを覆う円筒状のケーシングと、を備え、前記モータにより回転体を回転駆動させることで、回転翼と固定翼の相互作用で吸気口から排気口への排気を行う真空ポンプにおいて、前記排気口側のガスの一部が前記吸気口側へ逆流する逆流経路を備え、且つ前記ケーシングを加熱する加熱手段を備えたことにより、前記目的を達成する。
請求項2記載の発明では、円盤状のベース上に、磁気軸受により浮上保持される回転体と、この回転体を回転駆動させるモータと、前記回転体に取り付けられた複数枚の回転翼と、これらの回転翼と交互に配置された固定翼と、前記固定翼を一定の位置に保持する固定翼スペーサと、前記円盤状のベースと接続し、前記回転体、モータ、回転翼、固定翼および固定翼スペーサを覆う円筒状のケーシングと、を備え、前記モータにより回転体を回転駆動させることで、回転翼と固定翼の相互作用で吸気口から排気口への排気を行う真空ポンプにおいて、前記排気口側のガスの一部が前記吸気口側へ逆流する逆流経路を備え、
前記逆流経路の出口は、前記逆流経路が分岐されて複数箇所設けられ、前記出口の少なくとも一対が、回転体の回転軸を挟んで対向する位置に配置されたこと、又は、前記出口が正多角形の頂点の位置に配置されたことにより、前記目的を達成する。
【0006】
請求項3記載の発明では、円盤状のベース上に、磁気軸受により浮上保持される回転体と、この回転体を回転駆動させるモータと、前記回転体に取り付けられた複数枚の回転翼と、これらの回転翼と交互に配置された固定翼と、前記固定翼を一定の位置に保持する固定翼スペーサと、前記円盤状のベースと接続し、前記回転体、モータ、回転翼、固定翼および固定翼スペーサを覆う円筒状のケーシングと、を備え、前記モータにより回転体を回転駆動させることで、回転翼と固定翼の相互作用で吸気口から排気口への排気を行う真空ポンプにおいて、前記排気口側のガスの一部が前記吸気口側へ逆流する逆流経路を備え、前記回転翼と前記固定翼が複数段配置されている位置である翼排気部に、前記逆流経路の入口を設けたことにより、前記目的を達成する。
請求項4記載の発明では、円盤状のベース上に、磁気軸受により浮上保持される回転体と、この回転体を回転駆動させるモータと、前記回転体に取り付けられた複数枚の回転翼と、これらの回転翼と交互に配置された固定翼と、前記固定翼を一定の位置に保持する固定翼スペーサと、前記円盤状のベースと接続し、前記回転体、モータ、回転翼、固定翼および固定翼スペーサを覆う円筒状のケーシングと、を備え、前記モータにより回転体を回転駆動させることで、回転翼と固定翼の相互作用で吸気口から排気口への排気を行う真空ポンプにおいて、前記排気口側のガスの一部が前記吸気口側へ逆流する逆流経路を備え、前記回転翼と前記固定翼が複数段配置されている位置である翼排気部に、前記逆流経路の出口を設けたことにより、前記目的を達成する。
請求項5記載の発明では、円盤状のベース上に、磁気軸受により浮上保持される回転体と、この回転体を回転駆動させるモータと、前記回転体に取り付けられた複数枚の回転翼と、これらの回転翼と交互に配置された固定翼と、前記固定翼を一定の位置に保持する固定翼スペーサと、前記円盤状のベースと接続し、前記回転体、モータ、回転翼、固定翼および固定翼スペーサを覆う円筒状のケーシングと、を備え、前記モータにより回転体を回転駆動させることで、回転翼と固定翼の相互作用で吸気口から排気口への排気を行う真空ポンプにおいて、前記排気口側のガスの一部が前記吸気口側へ逆流する逆流経路を備え、前記回転翼と前記固定翼が複数段配置されている位置である翼排気部に、前記逆流経路の入口及び出口を設けたことにより、前記目的を達成する。
請求項6記載の発明では、請求項3又は請求項5記載の発明において、前記逆流経路の入口を設けた位置から前記排気口側に、少なくとも1段の固定翼又は回転翼が配置されていることを特徴とする。
請求項7記載の発明では、請求項4又は請求項5記載の発明において、前記逆流経路の出口を設けた位置から吸気口側に、少なくとも1段の固定翼又は回転翼が配置されていることを特徴とする。
【0007】
請求項8記載の発明では、請求項3から請求項7の何れか1項に記載の発明において、前記逆流経路の出口は、前記逆流経路が分岐されて複数箇所設けられ、前記出口の少なくとも一対が、回転体の回転軸を挟んで対向する位置に配置されたこと、又は、前記出口が正多角形の頂点の位置に配置されたことを特徴とする。
請求項9記載の発明では、請求項2又は請求項8記載の発明において、前記逆流経路の入口と前記逆流経路が分岐される位置の間に、前記逆流経路を通過するガスの流量を調整する調節弁を設けたことを特徴とする。
請求項10記載の発明では、請求項3から請求項9の何れか1項に記載の発明において、前記逆流経路の出口が設けられた前記ケーシングと前記固定翼スペーサ又は前記固定翼のリムとの隙間にガスが漏れないように、ガスの経路と隙間を隔離するためのシール部材を設けたことを特徴とする。
請求項11記載の発明では、請求項10記載の発明において、前記シール部材が上下2段に前記ケーシングの全周内側に設けられていることを特徴とする。
請求項12記載の発明では、請求項10又は請求項11記載の発明において、前記シール部材がOリングであることを特徴とする。
請求項13記載の発明では、請求項10又は請求項11記載の発明において、前記シール部材が、前記固定翼スペーサ又は前記固定翼のリムに設けられた突起部であることを特徴とする。
請求項14記載の発明では、請求項13記載の発明において、前記突起部の突起高さが吸気口に近い位置ほど小さくなることを特徴とする。
請求項15記載の発明では、請求項10又は請求項11記載の発明において、前記シール部材が、前記ケーシングの内周面に設けられた突起部であることを特徴とする。
請求項16記載の発明では、請求項15記載の発明において、前記突起部の突起高さが排気口に近い位置ほど小さくなることを特徴とする。
請求項17記載の発明では、請求項1から請求項16の何れか1項に記載の発明において、前記回転翼の回転速度を制御する回転速度制御手段をさらに備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、排気口側からのガスが通る通路に堆積する生成物を低減することが出来るので、真空ポンプの排気性能を安定させることができ、圧力を調整するための圧力調整弁を用いずに被排気室の圧力調整を容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の好適な実施の形態を図1ないし図7を参照して、詳細に説明する。
図1は、第1の実施例に係る真空ポンプの構成を示した縦断面図である。この真空ポンプ100は、筒状のケーシング20の内部に、図示しないチャンバーからガスを吸引する吸気口10と、回転体30に複数設けられた回転翼32と、これら回転翼32と交互に設置された固定翼40と、ケーシング20の下部を覆う円盤状のベース70と、ドラッグ作用により排気を行うねじ溝80と、外部に排気を行う排気口90とから構成されている。
回転体30は、ラジアル軸受34、36及びスラスト軸受38により、磁気浮上することで、非接触で支持され、且つ制御されるようになっている。
この回転体30は、駆動用モータ60により、高速で回転駆動されるようになっている。この回転体30が高速回転することで、この回転に設けられた複数の回転翼32も同時に高速回転し、交互に配置された複数の固定翼40との相互作用により、排気を行うようになっている。
【0010】
この実施例に係る真空ポンプ100は、排気するガスの一部を吸気口10側に逆流させる逆流経路50が設けられている。この逆流経路50は、排気するガスを吸い込む逆流経路入口52と、ガスを排出する逆流経路出口54とを備え、途中にこの逆流経路50を流れるガスの量を調節する調節弁56が設けられている。
この逆流経路50を設けることで、排気する気体の一部を真空ポンプの下流側から上流側へ戻すことができ、真空ポンプの中でガスをより大量に吸引している状態にすることができる。そのため、真空ポンプの圧縮性能を低減させた状態にすることができる。調節弁56により、真空ポンプ100の上流側へ戻すガスの量を調節することで、結果として、真空ポンプの排気性能を調整することができる。
【0011】
この第1の実施例では、ケーシング20の周囲にケーシング20を加熱するためのリング状のヒータ110が設けてある。
逆流経路50を通って逆流したガスは、生成物となる可能性がある成分を含んでいることが考えられる。このガスが逆流することで、置かれた状態が変化(圧力の上昇または温度の低下)することにより、ガスが固化し、生成物となり付着する恐れがある。そこで、ヒータ110により加熱して、ガスの固化を低減している。
この図では、ケーシング20を加熱するようにしているが、これに限られることはなく、例えば、逆流経路50自体を加熱するようにしてもよい。すなわち、生成物が付着し易い所を選んで、そこにヒータ110を設けて加熱するようにする。
なお、加熱の温度は、生成物が堆積しない程度の温度にしておくことが重要である。
【0012】
次に、図2を参照して、第2の実施例を説明する。
まず、図2に示すように、回転翼32と、これら回転翼32と交互に設置された固定翼40とが設置された箇所を翼排気部200とすると、その上流部を排気段202、下流部を圧縮段204とする。
この実施例では、逆流経路50の逆流経路入口52を圧縮段204に設けてあり、逆流経路出口54を排気段202に設けてある。
特許文献1記載の発明のように、ねじ溝部に逆流経路入口を設けると、結果として、生成物となる可能性がある成分を含んだガスも逆流させることとなる恐れがある。この実施例のように、翼排気部200内に逆流経路入口52と逆流経路出口54を設けると、それ程圧力が高くないので、ガスが固化する可能性が低く、例えば、ヒータなどを特に設けなくても、生成物の堆積を低減することができる。
一方、真空ポンプの排気性能を調整することを考慮すると、逆流経路入口52と逆流経路出口54の間の圧力差が大きい方が望ましいので、逆流経路入口52は翼排気部200の下流方向、逆流経路出口54を上流方向に設置することとする。
但し、ねじ溝80で発生したパーティクルが吸気口10側に逆流することを防止するため、少なくとも1段の回転翼32又は固定翼40が、逆流経路入口52より排気口90側に存在していることが望ましい。このすることで、1段の回転翼32又は固定翼40が蓋の役割を果たし、逆流経路入口52よりパーティクルが進入して、翼排気部200内を循環することを低減することができる。
なお、このタイプの真空ポンプでは、回転翼32及び固定翼40を計8枚から10枚設けてあるものが一般的である。
【0013】
この実施例では、逆流経路50の逆流経路出口54の位置が、少なくとも1段の回転翼32又は固定翼40が吸気口10側に存在している位置としている。換言すると、逆流経路出口54は、少なくとも1段の回転翼32又は固定翼40より、下流(排気口90側)に設置している。
こうすることで、逆流経路出口54より吸気口側に回転翼32又は固定翼40があるので、排気口90側から来たガスにパーティクルが混入していたとしても、これが被排気室に戻る可能性を低くすることができる。
【0014】
続いて、図3を参照して、第3の実施例を説明する。
この実施例では、ベース70が、下方から翼排気部200の圧縮段204まで覆っている。換言すると、ケーシング20とベース70の接続部300が圧縮段204より上方に設けられている。そのため、逆流経路50の逆流経路入口52を圧縮段204に設けてあるので、必然的に逆流経路50がベース70を貫通することとなる。
通常このタイプの真空ポンプでは、ケーシング20はステンレススティール製、ベース70はアルミニウム製であり、ベースの方が厚手に形成されている。逆流経路50の逆流経路入口52をケーシング20に形成すると、ケーシング20の強度が低下する恐れがあり、この実施例のように、よりエネルギー負荷の大きい下方の通路をベース70に設けることにより、強度の低下を少なくさせることができる。
【0015】
次に、図4及び図5を参照して、第4の実施例を説明する。
第2、第3の実施例において、逆流経路50の逆流経路出口54を排気段202に位置する固定翼スペーサ42に設けてある。
この実施例では、図4の固定翼スペーサ42の断面図に示してあるように、逆流経路出口54を同一の高さに複数個設けてある。
仮に、逆流経路出口54を1箇所だけ設けると、回転翼32に一方向からガスが当たることになり、回転体30が振られ、回転体30の制御が困難になる可能性がある。回転体30は、磁気浮上して、高速で回転するため、僅かな力により影響を受けるためである。そこで、回転体30の周囲に逆流経路出口54を複数設けて、回転体30にガスが均等に当たるようにして、回転体30の振れを低減させる。
逆流経路出口54を設ける位置は、回転体30の中心に均等に力がかかる位置とする。例えば、逆流経路出口54を2箇所設ける場合は、図4(1)に示すように、中心を挟んで対称となる位置に配置する。また、3箇所以上設ける場合には、内接する正多角形の頂点の位置に配置する。例えば、3箇所設ける場合は、図4(2)に示すように、内接する正3角形の頂点に対応する位置に設ける。
【0016】
逆流経路50は、図5に示すように、調節弁56を通過した後に分岐するようにする。調節弁56は各通路に設ける必要は無く、分岐する前に1箇所設ければ十分である。
なお、逆流経路50の逆流経路入口52を複数箇所設けて回転体30に対して吸引するガスの影響が均等に及ぶようにして、回転体30の振れを低減させることもできる。この場合、逆流経路入口52を設ける位置は、上記した逆流経路出口54と同様に、回転体30の中心に均等に影響が及ぶ位置とする。2箇所設ける場合は、中心を挟んで対称となる位置とし、3箇所以上設ける場合には、内接する正多角形の頂点の位置に配置する。
【0017】
次に、図6及び図7を参照して、第5の実施例を説明する。
この実施例では、逆流経路50の逆流経路出口54が形成された部材(固定翼スペーサ42又は固定翼のリム)とケーシング20の間にシール部材を設ける。ケーシング20と固定翼スペーサ42又は固定翼のリムの間には、この真空ポンプを組み立てるために必要なわずかな隙間が不可避的に存在する。組み立て作業の最後にケーシング20を被せる際に、全く隙間が存在しないと、事実上、ケーシング20を挿入することができなくなるからである。
しかし、一方で、この隙間を通って逆流経路出口54を通るガスが排気口90側に流れてしまう量が多いと、真空ポンプの排気性能を調整する能力に悪影響を及ぼす可能性がある。そこで、この実施例では、排気口90側に流出してしまうガスをより少なくするために、逆流経路出口54の近傍にシール部材を設けている。このシール部材は、ガスの経路と隙間を隔離する働きをしている。
【0018】
この実施例で用いるシール部材は、図6(1)及び図7(1)に示したOリング310、図6(2)及び図7(2)で示した固定翼スペーサ42に設けた突起部320、又は図6(3)及び図7(3)で示した固定翼スペーサ42とは別個にケーシング20の内部に設けた突起部322である。図6は、シール部材を設けた逆流経路出口54付近の縦断面図であり、図7はその平面図である。
このようにして、Oリング310又は突起部320、322を設けることで、排気口90側に流出してしまうガスを減少させることができる。
これらのシール部材は、逆流経路出口54、すなわちケーシング20に開けられた孔と固定翼スペーサ42に開けられた孔を同心円状に囲むように円形のものを設置してもよいし、隙間の全周に渡って、リング状に上下2段に設置してもよい。もし、全周に渡ってシール部材を設定した場合は、ケーシング20に開ける孔は1箇所で済むというメリットがある。
シール部材として、突起部320又は突起部322を設けた場合、吸気口10側の面又は排気口90側の面、若しくは双方の面が傾斜しているようにすると、都合がよい。真空ポンプ100の組み立て工程において、最後にケーシング20を嵌め込む際、この傾斜部によりひっかかりを低減するためである。
【0019】
ところで、上記した本実施例では、逆流経路出口54を、固定翼スペーサ42に形成した場合を例にとり説明したが、固定翼のリムの外周面がケーシング20と固定翼スペーサ42の間の隙間に露出するように構成し、固定翼のリムに逆流経路出口54を形成してもよい。
この場合には、Oリングの配置位置を、ケーシング20と固定翼のリムの間に変更し、固定翼スペーサ42の突起部の形成位置を、固定翼のリムの外周に変更する。
また、2本のOリングまたは2つの突起部を、この固定翼のリムを挟む固定翼スペーサ42に、1つずつ配置または形成してもよい。
ここで、固定翼のリムとは、固定翼の一部を構成し、翼部を保持するリング状のものをいい、固定翼の高さ位置や中心位置を合わせる働きもしている。固定翼によっては、内周側のみに固定翼のリムを設けたものもある。
【0020】
ここで説明した実施例は、真空ポンプの下流側から上流側へ気体を戻すことで、真空ポンプの排気性能を調整する技術を前提にしていたが、真空ポンプ100の回転速度を変更させる制御も併せて用いて、排気性能を調整することもできる。このように、ガスを戻す方法に加えて回転速度も変化させる制御を行うことにより、圧力調整の応答性を更に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】第1の実施例に係る真空ポンプの構成を示した縦断面図である。
【図2】第2の実施例に係る真空ポンプの構成を示した縦断面図である。
【図3】第3の実施例に係る真空ポンプの構成を示した縦断面図である。
【図4】第4の実施例に係る逆流経路出口を2箇所(1)、3箇所(2)を設けた例を説明するための図である。
【図5】第4の実施例に係る逆流経路出口と調節弁の関係を説明するための図である。
【図6】第5の実施例に係る逆流経路出口にシール部材(1)Oリング、(2)(3)突起部を設けた例を説明するための縦断面である。
【図7】第5の実施例に係る逆流経路出口にシール部材(1)Oリング、(2)(3)突起部を設けた例を説明するための平面面である。
【図8】蒸気圧曲線を示した図である。
【符号の説明】
【0022】
10 吸気口
20 ケーシング
30 回転体
32 回転翼
34、36 ラジアル軸受
38 スラスト軸受
40 固定翼
42 固定翼スペーサ
50 逆流経路
52 逆流経路入口
54 逆流経路出口
56 調節弁
60 駆動用モータ
70 ベース
80 ねじ溝
90 排気口
100 真空ポンプ
110 ヒータ
200 翼排気部
202 排気段
204 圧縮段
300 接続部
310 Oリング
320 突起部
322 突起部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円盤状のベース上に、磁気軸受により浮上保持される回転体と、この回転体を回転駆動させるモータと、前記回転体に取り付けられた複数枚の回転翼と、これらの回転翼と交互に配置された固定翼と、前記固定翼を一定の位置に保持する固定翼スペーサと、前記円盤状のベースと接続し、前記回転体、モータ、回転翼、固定翼および固定翼スペーサを覆う円筒状のケーシングと、を備え、
前記モータにより回転体を回転駆動させることで、回転翼と固定翼の相互作用で吸気口から排気口への排気を行う真空ポンプにおいて、
前記排気口側のガスの一部が前記吸気口側へ逆流する逆流経路を備え、且つ前記ケーシングを加熱する加熱手段を備えたことを特徴とする真空ポンプ。
【請求項2】
円盤状のベース上に、磁気軸受により浮上保持される回転体と、
この回転体を回転駆動させるモータと、前記回転体に取り付けられた複数枚の回転翼と、これらの回転翼と交互に配置された固定翼と、前記固定翼を一定の位置に保持する固定翼スペーサと、前記円盤状のベースと接続し、前記回転体、モータ、回転翼、固定翼および固定翼スペーサを覆う円筒状のケーシングと、を備え、
前記モータにより回転体を回転駆動させることで、回転翼と固定翼の相互作用で吸気口から排気口への排気を行う真空ポンプにおいて、
前記排気口側のガスの一部が前記吸気口側へ逆流する逆流経路を備え、
前記逆流経路の出口は、前記逆流経路が分岐されて複数箇所設けられ、前記出口の少なくとも一対が、回転体の回転軸を挟んで対向する位置に配置されたこと、又は、前記出口が正多角形の頂点の位置に配置されたことを特徴とする真空ポンプ。
【請求項3】
円盤状のベース上に、磁気軸受により浮上保持される回転体と、この回転体を回転駆動させるモータと、前記回転体に取り付けられた複数枚の回転翼と、これらの回転翼と交互に配置された固定翼と、前記固定翼を一定の位置に保持する固定翼スペーサと、前記円盤状のベースと接続し、前記回転体、モータ、回転翼、固定翼および固定翼スペーサを覆う円筒状のケーシングと、を備え、
前記モータにより回転体を回転駆動させることで、回転翼と固定翼の相互作用で吸気口から排気口への排気を行う真空ポンプにおいて、
前記排気口側のガスの一部が前記吸気口側へ逆流する逆流経路を備え、
前記回転翼と前記固定翼が複数段配置されている位置である翼排気部に、前記逆流経路の入口を設けたことを特徴とする真空ポンプ。
【請求項4】
円盤状のベース上に、磁気軸受により浮上保持される回転体と、この回転体を回転駆動させるモータと、前記回転体に取り付けられた複数枚の回転翼と、これらの回転翼と交互に配置された固定翼と、前記固定翼を一定の位置に保持する固定翼スペーサと、前記円盤状のベースと接続し、前記回転体、モータ、回転翼、固定翼および固定翼スペーサを覆う円筒状のケーシングと、を備え、
前記モータにより回転体を回転駆動させることで、回転翼と固定翼の相互作用で吸気口から排気口への排気を行う真空ポンプにおいて、
前記排気口側のガスの一部が前記吸気口側へ逆流する逆流経路を備え、
前記回転翼と前記固定翼が複数段配置されている位置である翼排気部に、前記逆流経路の出口を設けたことを特徴とする真空ポンプ。
【請求項5】
円盤状のベース上に、磁気軸受により浮上保持される回転体と、この回転体を回転駆動させるモータと、前記回転体に取り付けられた複数枚の回転翼と、これらの回転翼と交互に配置された固定翼と、前記固定翼を一定の位置に保持する固定翼スペーサと、前記円盤状のベースと接続し、前記回転体、モータ、回転翼、固定翼および固定翼スペーサを覆う円筒状のケーシングと、を備え、
前記モータにより回転体を回転駆動させることで、回転翼と固定翼の相互作用で吸気口から排気口への排気を行う真空ポンプにおいて、
前記排気口側のガスの一部が前記吸気口側へ逆流する逆流経路を備え、
前記回転翼と前記固定翼が複数段配置されている位置である翼排気部に、前記逆流経路の入口及び出口を設けたことを特徴とする真空ポンプ。
【請求項6】
前記逆流経路の入口を設けた位置から前記排気口側に、少なくとも1段の固定翼又は回転翼が配置されていることを特徴とする請求項3又は請求項5記載の真空ポンプ。
【請求項7】
前記逆流経路の出口を設けた位置から吸気口側に、少なくとも1段の固定翼又は回転翼が配置されていることを特徴とする請求項4又は請求項5記載の真空ポンプ。
【請求項8】
前記逆流経路の出口は、前記逆流経路が分岐されて複数箇所設けられ、
前記出口の少なくとも一対が、回転体の回転軸を挟んで対向する位置に配置されたこと、又は、前記出口が正多角形の頂点の位置に配置されたことを特徴とする請求項3から請求項7の何れか1項に記載の真空ポンプ。
【請求項9】
前記逆流経路の入口と前記逆流経路が分岐される位置の間に、前記逆流経路を通過するガスの流量を調整する調節弁を設けたことを特徴とする請求項2又は請求項8記載の真空ポンプ。
【請求項10】
前記逆流経路の出口が設けられた前記ケーシングと前記固定翼スペーサ又は前記固定翼のリムとの隙間にガスが漏れないように、ガスの経路と隙間を隔離するためのシール部材を設けたことを特徴とする請求項3から請求項9の何れか1項に記載の真空ポンプ。
【請求項11】
前記シール部材が上下2段に前記ケーシングの全周内側に設けられていることを特徴とする請求項10記載の真空ポンプ。
【請求項12】
前記シール部材がOリングであることを特徴とする請求項10又は請求項11記載の真空ポンプ。
【請求項13】
前記シール部材が、前記固定翼スペーサ又は前記固定翼のリムに設けられた突起部であることを特徴とする請求項10又は請求項11記載の真空ポンプ。
【請求項14】
前記突起部の突起高さが吸気口に近い位置ほど小さくなることを特徴とする請求項13記載の真空ポンプ。
【請求項15】
前記シール部材が、前記ケーシングの内周面に設けられた突起部であることを特徴とする請求項10又は請求項11記載の真空ポンプ。
【請求項16】
前記突起部の突起高さが排気口に近い位置ほど小さくなることを特徴とする請求項15記載の真空ポンプ。
【請求項17】
前記回転翼の回転速度を制御する回転速度制御手段をさらに備えたことを特徴とする請求項1から請求項16の何れか1項に記載の真空ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−138741(P2010−138741A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−313889(P2008−313889)
【出願日】平成20年12月10日(2008.12.10)
【出願人】(508275939)エドワーズ株式会社 (18)
【Fターム(参考)】