説明

真空ポンプ

【課題】真空装置側へ真空ポンプから放射される熱を効率的に低減させる。
【解決手段】真空ポンプの吸気口側における、回転翼及び固定翼(ブレード)の上部領域に、真空ポンプの軸線にも吸気口面にも平行ではない傾斜面を持つ板形状遮熱部材を有する熱交換器を配設し、更に、真空ポンプの吸気口側の上部領域に、当該熱交換器に支持されている網形状の遮熱部材を配設する。そして、熱交換器に接する冷却機構を熱交換器の外周に配設する。
更に、網形状の遮熱部材は、真空ポンプのロータの吸気口側端面領域と等しい径を有する中央部が低い開口率のメッシュで成形され、中央部の周囲を囲む領域(回転翼及び固定翼が配設される領域)が高い開口率のメッシュで成形されることで、真空ポンプの気体移送機構の排気性能の低下を抑制しつつ、真空装置側へ放射される熱を効率的に低減させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は真空ポンプに関し、詳しくは、真空ポンプ本体で発生する熱が真空装置へ伝導するのを抑制する放射熱低減構造を備える真空ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
各種ある真空ポンプのうち、高真空の環境を実現するために多用されるものに、ターボ分子ポンプがある。
ターボ分子ポンプは、吸気口および排気口を備えた外装体を形成するケーシングの内部で、ロータが高速回転するように構成されている。ケーシングの内周面には固定翼が多段に配設されており、また、ロータには回転翼が放射状に且つ多段に配設されている。そうしてロータが高速回転すると、回転翼と固定翼の作用により気体が吸気口から吸引され、排気口から排出される構造になっている。
こうした構造を持つターボ分子ポンプは、タービンを高速回転させて排気処理を行っているため、気体分子の衝突熱やモータから発生する熱などによってポンプ本体が加熱されて高温状態になる場合があり、そうして発生したターボ分子ポンプから放射される熱は、真空装置側に伝導すると悪影響を与えてしまうおそれがある。
【0003】
例えば、ターボ分子ポンプなどの真空ポンプを用いて排気処理を行うことで内部が真空に保たれる真空装置には、半導体製造装置用のチャンバ、電子顕微鏡の測定室、表面分析装置、微細加工装置などがある。こうした真空装置は、真空装置が担う工程や測定の特徴上、熱の影響をうけると測定に誤差が出てしまうので、熱の伝わりを抑制する必要性が高い。
具体的には、表面分析装置や微細加工装置の場合、真空ポンプから放射される熱によって加熱されてしまうと、測定精度や加工精度の誤差が大きくなる不具合が生じてしまうことがあった。
このように、真空装置は、当該真空装置に配設される真空ポンプから放射される熱によって真空装置自体が影響を受けた場合、より精密な加工やより精度の高い測定を実現させることが困難であった。
そこで、従来、下記特許文献のように、真空ポンプから放射される熱による影響を低減させるために真空ポンプからの熱の伝わりを抑制して真空装置側における過熱を防止する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−337071公報
【特許文献2】特開2004−239258公報
【0005】
特許文献1には、真空ポンプの気体移送機構の上流に、真空室(真空装置)が受ける放射熱の影響を低減させるための、遮熱機構及び冷却機構から構成された放射熱低減構造を設ける技術が開示されている。
より詳しくは、遮熱機構は、支持部、最上段スペーサ、及び、下流側の面に放射率が0.8以上且つ上流側の面に放射率が0.1以下である表面処理が各々施された遮熱プレートから構成され、遮熱プレートは、真空ポンプの気体移送機構側に投影される領域が、真空ポンプのロータ部が吸気口と対面する領域とほぼ等しくなるように配設される。
また、冷却機構は、最上段スペーサのケーシング(真空ポンプの外装体)を介した外周部に、ケーシングを囲むように設けられた冷却管及び冷却管ジャケットを備えた水冷システムで構成される。
これらの遮熱機構及び冷却機構を有する放射熱低減構造において、遮熱プレートが熱を吸収し、また、遮熱プレートから最上段プレートへ伝わってしまった熱は冷却システムが外部に排出することによって、真空装置への熱の放射を抑制している。
特許文献2には、真空ポンプの気体移送機構の上流に、ポンプの運転状態に対し適切なガス温度になるように、吸気口から異なる位置の温度を調整することが可能な技術が開示されている。温度調整機能は、真空室と真空ポンプの吸気口の間に、設置された構造部材によって行われる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、ブレード(真空ポンプの回転翼、固定翼)からの放射熱の影響はそれほど大きいものではないとして、図9及び図10に示すように、遮熱機構(遮熱プレート80)は、真空ポンプの気体移送機構側に投影される領域が、真空ポンプのロータ部が吸気口と対面する領域とほぼ等しくなるように配設されるのみであった。つまり、回転翼9や固定翼15の上部には、遮熱プレート80は設けられておらず、支持部81が配設されているのみであった。
また特許文献2でも同様に、ロータ・ディスク10(回転翼)やステータ・ディスク12(固定翼)の上部には、遮熱部材は設けられておらず、構造部分18に設置された環状の溝構造に導入される温度調整液で構造部分18自体の温度を調整し、構造部分18とガスとの接触や構造部分からの放射によって、導入されるガスの温度調整が行われていた。
そのため、従来の技術(特許文献1および特許文献2)では、回転翼や固定翼などから放たれる放射熱は充分に遮熱できてはいなかった。
また、特許文献2では、温度制御はポンプの冷却循環とは独立しているため、コスト高となっていた。
そこで、本発明は、真空装置側へ真空ポンプから放射される熱を、真空装置が配設される真空ポンプの吸気口全面、特に、ブレード(回転翼や固定翼)部分からの放射熱に関しても、簡単な構成で効率的に低減させることができる真空ポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明では、吸気口と排気口が形成された外装体と、前記外装体に内包され、回転自在に軸支された回転軸と、前記回転軸に固定されるロータ部と、前記ロータ部の外周面から放射状に配設された回転翼と、前記外装体の内側側面から前記回転軸へ向かって突設して配設された固定翼とを有し、前記吸気口から吸気した気体を前記排気口へ移送する気体移送機構と、前記吸気口に配設され、前記回転軸に対して非平行且つ非垂直な傾斜面を持つ板形状遮熱部材を複数有する熱交換器と、を備えたことを特徴とする真空ポンプを提供する。
請求項2記載の発明では、前記気体移送機構の上流に配設され、前記熱交換器に支持される網形状の網形状遮熱部材を備えたことを特徴とする請求項1記載の真空ポンプを提供する。
請求項3記載の発明では、前記熱交換器を冷却する冷却機構を更に備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の真空ポンプを提供する。
請求項4記載の発明では、前記網形状遮熱部材は、前記吸気口の内径と略一致する外径を有する円板状であり、前記回転軸及びロータ部が前記網形状遮熱部材に投影される領域である中央部が、前記熱交換器が前記網形状遮熱部材に投影される領域である周囲部よりも、前記網形状の開口率が低いことを特徴とする請求項1から請求項3のうち少なくともいずれか1項に記載の真空ポンプを提供する。
請求項5記載の発明では、前記熱交換器が有する板形状遮熱部材は、前記吸気口に対面する面の放射率が他の面の放射率よりも小さく形成されていることを特徴とする請求項1から請求項4のうち少なくともいずれか1項に記載の真空ポンプを提供する。
請求項6記載の発明では、前記熱交換器は、前記板形状遮熱部材を円板平面の法線方向から見たとき、隣接する前記板形状遮熱部材同士の投影の少なくとも一部が重なることにより、前記熱交換器の背後に不可視部を形成することを特徴とする請求項1から請求項5のうち少なくともいずれか1項に記載の真空ポンプを提供する。
請求項7記載の発明では、前記熱交換器は、1つの円状板材に加工を施して形成された板部材及びプレス固定翼を有する円形熱交換器部材を備え、前記プレス固定翼が前記板形状遮熱部材であることを特徴とする請求項1から請求項5のうち少なくともいずれか1項に記載の真空ポンプを提供する。
請求項8記載の発明では、前記熱交換器は、前記板部材同士及び前記プレス固定翼同士が密着するように、前記円形熱交換器部材を複数積層し、前記積層して形成された前記板形状遮熱部材を円板平面の法線方向視野から見たとき、前隣接する2つの前記板形状遮熱部材同士の投影の少なくとも一部が重なることにより、前記熱交換器の背後に不可視部を形成することを特徴とする請求項7に記載の真空ポンプを提供する。
請求項9記載の発明では、前記熱交換器は、前記板部材同士が密着し、且つ、前記プレス固定翼同士が離間するように、前記円形熱交換器部材を複数積層し、前記積層して形成された前記板形状遮熱部材の円板平面の法線方向視野から見たとき、隣接する2つの前記板形状遮熱部材同士の投影の少なくとも一部が重なることにより、前記熱交換器の背後に不可視部を形成することを特徴とする請求項7に記載の真空ポンプを提供する。
請求項10記載の発明では、前記熱交換器において、前記円形熱交換器部材を複数積層する場合に、前記吸気口側における最上面に配設される前記円形熱交換器部材の放射率が、他に配設される前記円形熱交換器部材の放射率よりも小さく形成されている、又は、前記排気口側における最下面に配設される前記円形熱交換器部材の放射率が、他に配設される前記円形熱交換器部材の放射率よりも大きく形成されている、又は、前記吸気口側における最上面に配設される前記円形熱交換器部材の放射率が他の面の放射率よりも小さく形成され、且つ、前記排気口側における最下面に配設される前記円形熱交換器部材の放射率が他の前記円形熱交換器部材の放射率よりも大きく形成されている、ことを特徴とする請求項8又は請求項9に記載の真空ポンプを提供する。
請求項11記載の発明では、前記外装体は、前記吸気口側に、断熱部材を有するフランジ部を備えることを特徴とする請求項1から請求項10のうち少なくともいずれか1項に記載の真空ポンプを提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、真空ポンプの吸気口全面、特に、ブレード(回転翼や固定翼)部分から放射されて真空装置へ伝わる熱の量を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態に係る放射熱低減構造を備えたターボ分子ポンプの概略構成例を示した図である。
【図2】本発明の実施形態に係る放射熱低減構造の一例を示した図である。
【図3】本発明の実施形態に係る熱交換器の一例を説明するための図である。
【図4】本発明の実施形態に係る遮熱部材の一例を説明するための図である。
【図5】本発明の実施形態に係る冷却機構の一例を説明するための図である。
【図6】本発明の実施形態に係る放射熱低減構造と、更に断熱材を備えたターボ分子ポンプの概略構成を示した図である。
【図7】本発明の実施形態の変形例1及び変形例2に係る熱交換プレス翼を示した概略図である。
【図8】本発明の実施形態の変形例3に係る遮熱部材を説明するための図である。
【図9】従来の技術に係る放射熱低減構造を説明するための図である。
【図10】従来の技術に係る放射熱低減構造を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(i)実施形態の概要
本発明の実施形態の真空ポンプは、遮熱機構と冷却機構とを有する放射熱低減構造を有する。
本遮熱機構は、真空ポンプの吸気口側における、回転翼及び固定翼(ブレード)の上部に位置する領域に配設される、真空ポンプの軸線にも吸気口面にも平行ではない傾斜面を持つ板形状遮熱部材を有する熱交換器と、真空ポンプの吸気口側の上部に位置する領域に配設される網形状の遮熱部材と、を備える。
更に、当該熱交換器を冷却する冷却機構を、熱交換器に接するように熱交換器の外周に配設する。
板形状遮熱部材を有する熱交換器が真空ポンプの回転翼及び固定翼(ブレード)から伝導する熱(電磁波)を受けとめることでブレードから真空装置に放射される熱を低減させることができ、また、網形状の遮熱部材が真空ポンプの吸気口から放射される熱を受けとめることで吸気口から真空装置に放射する熱を低減させることができる。
更に、熱交換器は、当該熱交換器の外周に配設されている冷却機構により冷却されるので、ブレードから真空装置に放射される熱を遮断(遮熱)すると同時に冷却させることができ、より効率よく熱の放射を低減させることができる。
【0011】
(ii)実施形態の詳細
以下、本発明の好適な実施の形態について、図1〜図8を参照して詳細に説明する。
なお、本実施形態では、真空ポンプの一例としてターボ分子ポンプを用いて説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る放射熱低減構造(遮熱機構及び冷却機構)を備えたターボ分子ポンプ1の概略構成例を示した図である。
なお、図1は、ターボ分子ポンプ1の軸線方向の断面図を示している。
また、図1には、ターボ分子ポンプ1に接続された真空室90の一部も示されている。
ターボ分子ポンプ1に接続された真空室90は、例えば、半導体製造装置、表面分析装置、あるいは微細加工装置のチャンバ等として用いられる真空装置の一部であり、真空室壁91によって構成され、ターボ分子ポンプ1との接続ポートを有する真空容器である。
【0012】
(真空ポンプ)
以下に、ターボ分子ポンプ1の構成について説明する。
ターボ分子ポンプ1は、真空室90の排気処理を行うための真空ポンプである。このターボ分子ポンプ1は、ターボ分子ポンプ部とねじ溝式ポンプ部を備えた、いわゆる複合翼タイプの分子ポンプである。
ターボ分子ポンプ1の外装体を形成するケーシング2は、略円筒状の形状をしており、ケーシング2の下部(排気口6側)に設けられたベース3と共にターボ分子ポンプ1の筐体を構成している。そして、この筐体の内部には、ターボ分子ポンプ1に排気機能を発揮させる構造物である気体移送機構が収納されている。
この気体移送機構は、大きく分けて、回転自在に軸支された回転部と筐体に対して固定された固定部から構成されている。
【0013】
ケーシング2の端部には、当該ターボ分子ポンプ1へ気体を導入するための吸気口4が形成されている。また、ケーシング2の吸気口4側の端面には、外周側へ張り出したフランジ部5が形成されている。
本実施形態では、ターボ分子ポンプ1と真空室壁91とは、ターボ分子ポンプ1のフランジ部5に配設される放射熱低減構造(熱交換器20、遮熱部材30、及び冷却機構(冷却管)40)を介してボルト等の締結部材を用いて固定することによって結合されている。なお、放射熱低減構造については後述する。
また、ベース3には、当該ターボ分子ポンプ1から気体を排気するための排気口6が形成されている。
【0014】
回転部は、回転軸であるシャフト7、このシャフト7に配設されたロータ8、ロータ8に設けられた複数枚の回転翼9、排気口6側(ねじ溝式ポンプ部)に設けられた筒型回転部材10などから構成されている。なお、シャフト7及びロータ8によってロータ部が構成されている。
各回転翼9は、シャフト7の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜してシャフト7から放射状に伸びたブレードからなる。
また、筒型回転部材10は、ロータ8の回転軸線と同心の円筒形状をした円筒部材からなる。
【0015】
シャフト7の軸線方向中程には、シャフト7を高速回転させるためのモータ部11が設けられている。
更に、シャフト7のモータ部11に対して吸気口4側、および排気口6側には、シャフト7をラジアル方向(径方向)に非接触で軸支するための径方向磁気軸受装置12、13、シャフト7の下端には、シャフト7を軸線方向(アキシャル方向)に非接触で軸支するための軸方向磁気軸受装置14が設けられている。
【0016】
筐体の内周側には、固定部が形成されている。この固定部は、吸気口4側(ターボ分子ポンプ部)に設けられた複数枚の固定翼15と、ケーシング2の内周面に設けられたねじ溝スペーサ16などから構成されている。
各固定翼15は、シャフト7の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して筐体の内周面からシャフト7に向かって伸びたブレードから構成されている。
各段の固定翼15は、円筒形状をしたスペーサ17により互いに隔てられている。
ターボ分子ポンプ部では、固定翼15が軸線方向に、回転翼9と互い違いに複数段形成されている。
【0017】
ねじ溝スペーサ16には、筒型回転部材10との対向面にらせん溝が形成されている。ねじ溝スペーサ16は、所定のクリアランス(間隙)を隔てて筒型回転部材10の外周面に対面するようになっている。ねじ溝スペーサ16に形成されたらせん溝の方向は、らせん溝内をロータ8の回転方向にガスが輸送された場合、排気口6に向かう方向である。
また、らせん溝の深さは、排気口6に近づくにつれて浅くなるようになっており、らせん溝を輸送されるガスは排気口6に近づくにつれて圧縮されるようになっている。
【0018】
また、ターボ分子ポンプ1が半導体製造用に使用される場合などは、半導体の製造工程で様々なプロセスガスを半導体の基板に作用させる工程が数多くあり、ターボ分子ポンプ1はチャンバ内を真空にするのみならず、これらのプロセスガスをチャンバ内から排気するのにも使用される。これらのプロセスガスは、排気される際に冷却されてある温度になると固体になり、排気系に生成物を析出する場合がある。そして、この種のプロセスガスがターボ分子ポンプ1内で低温となって固体状になり、ターボ分子ポンプ1内部に付着して堆積すると、この堆積物がポンプ流路を狭め、ターボ分子ポンプ1の性能を低下させる原因になる。
この状態を防ぐために、ベース3にサーミスタなどの温度センサ(図示しない)を埋め込み、この温度センサの信号に基づいてベース3の温度を一定の高い温度(設定温度)に保つように、ヒータ(図示しない)による加熱や水冷管18による冷却の制御(TMS;Temperature Management System)が行われている。
このように構成されたターボ分子ポンプ1により、真空室90内の真空排気処理を行うようになっている。
【0019】
ここで、すべての物体は、絶対温度が零度でない限り電磁波の形で熱エネルギーを放射している。例えば、上記したターボ分子ポンプ1では、回転部を高速回転させて排気処理を行う過程で気体(ガス)分子の衝突熱やモータ部11から発生する電磁波(熱)を放射している。この電磁波である放射熱によって、ターボ分子ポンプ1は加熱されて高温状態となる場合がある。
そして、更に、ターボ分子ポンプ1の放射熱が吸気口4を介して真空室90へ伝わることで真空室90内部が高温状態となると、真空室90が扱っている装置や試料等に影響を与えてしまう場合がある。
従って、真空ポンプから放射されて真空室90へ到達する電磁波(放射熱)を低減させることが、ターボ分子ポンプ1の熱放射が真空室90へ与える影響を低減させることに繋がる。
ここで、一般的に、放射熱は面に垂直な方向への放射が最も強い。つまり、ターボ分子ポンプ1では、ロータ8の吸気口4側面から垂直方向である真空室90方向へ放射される放射熱の影響が最も強くなる。
そこで、本発明の実施形態に係るターボ分子ポンプ1は、吸気口4側のロータ8上部面から垂直方向に放射される熱を垂直方向から吸収するための放射熱低減構造が配置されている。
【0020】
本発明の実施形態に係るターボ分子ポンプ1は、真空室90が受ける放射熱の影響を低減させるための放射熱低減構造を有し、この放射熱低減構造は、ターボ分子ポンプ1の高温部から放射される熱の透過を防ぎ、熱を吸収しやすく、且つ、真空室90側へ放射されにくい構造としている。
より詳しくは、本発明の本実施形態におけるターボ分子ポンプ1には、熱交換器20、遮熱部材(網形状の遮熱部材)30、及び冷却管40が、気体移送機構の上流(吸気口4側)に設けられている。
【0021】
(放射熱低減構造)
以下、本発明の実施形態に係るターボ分子ポンプ1に設けられる放射熱低減構造について説明する。
図2は、本発明の実施形態に係る放射熱低減構造の一例を示すための図である。
図2に示したように、本発明の実施形態に係る放射熱低減構造は、大別すると、遮熱機構としての熱交換器20及び遮熱部材30と、冷却機構としての冷却管40と遮熱機構および冷却機構を保持する部材(熱交換器保持部材60)により構成されている。
これらの放射熱低減構造は、ターボ分子ポンプ1の吸気口4が形成されている面に対向するように、ターボ分子ポンプ1の取付面に対して平行になるように配置されている。
本実施形態では、熱交換器20及び遮熱部材30は分離可能な構成としたが、これに限られることはない。例えば、それぞれの接合部(接続部)における熱の伝導を良くするために一体形成される構成にすることもできる。
【0022】
(i)熱交換器
はじめに、図1、図2、及び図3を参照しながら、本発明の実施形態に係る熱交換器20について説明する。
図3は、本発明の実施形態に係る熱交換器20の一例を説明するための図である。
図3(a)には、図2に示した熱交換器20においてA−A(直径方向)で切断した場合のいずれか半分を吸気口4側から見た平面図が示されている。
図3(b)には、図2に示した熱交換器20においてA−Aで切断した場合の切断面が示されている。
図3(c)には、図3(a)におけるB−Bで切断した場合の切断面を中心部側(後述する内リム22側)から見た断面図が示されている。
【0023】
本発明の実施形態に係る熱交換器20は、図1に示したように、ターボ分子ポンプ1の吸気口側の上部に配設され、図3(a)に示したように、ターボ分子ポンプ1の吸気口4の内径よりも大きい直径を有する、厚みを持つ円盤(円板)状の部材であり、ターボ分子ポンプ1の回転翼9及び固定翼15から真空室90へ放射される熱を遮るための固定翼として機能する。
この熱交換器20は、例えば、アルミニウムの鋳物で製造される。
また、本発明の実施形態に係る熱交換器20は、外リム21と、内リム22と、外リム21と内リム22に挟まれて(支持されて)配設される、真空ポンプの軸線にも吸気口面にも平行ではない斜めの傾斜面を有する複数の板形状遮熱部材(熱交換固定翼23)と、を備えている。
本実施形態の熱交換固定翼23は、図3(a)及び(b)に示したように、外リム21から内リム22へ向かう方向に、外リム21の内半径から内リム22の外半径を差し引いた長さに相当する長さLを有し、また、図3(c)に示したように、当該長さLと厚みTを有し、更に、水平面に対して斜めの傾斜(角度θ)を有する板状の部材であり、放射状に設けられている。
なお、本実施形態の熱交換固定翼23は、隣接する熱交換固定翼23同士が等間隔に配設されるように放射状に設けられた構成としたが、配設間隔はこれに限られることはない。
この熱交換器20は、外リム21、内リム22、及び熱交換固定翼23のそれぞれの接合部(接続部)における熱の伝導を良くするために一体形成されていることが好ましく、例えば、削り出し加工によって形成された、継ぎ目のない一体構造であることが好ましい。
また、内リム22を外径とする円状部分は空洞で、且つ、当該円状部分の直径は、ターボ分子ポンプ1の回転翼9が存在しない部分(図1 D)の直径に略一致するように構成されている。
上述のように構成された熱交換器20は、ターボ分子ポンプ1の吸気口側の、回転翼9及び固定翼15(ブレード)の上部に位置する部分(領域)に設けられる。
【0024】
また、本実施形態の熱交換器20は、後述する遮熱部材30を支持するための支持部材の役割も担っている。
更に、熱交換器20は、支持部材としての機能だけでなく、熱交換固定翼23の熱を後述する冷却管40へ導き、そこからターボ分子ポンプ1の外部へ放熱させるための熱の伝導経路の機能を兼ねている。
なお、熱交換器20の外側端部(外リム21)は、熱交換器保持部材60に図示しないボルトで固定されている。
【0025】
上述のように配設された熱交換固定翼23により、ターボ分子ポンプ1の回転翼9及び固定翼15から放射する放射熱に接する面積及び体積が増える(放射熱を吸収する面積及び体積が増える)ので、熱交換器20の熱容量は大きくなる。
その結果、熱交換固定翼23におけるターボ分子ポンプ1のブレードから放射される熱の吸収率を向上させることができるため、真空室90側へ放射される熱の量を低減させることができる。
【0026】
また、本実施形態の熱交換器20では、熱交換固定翼23は、熱交換器20を上部から見たとき(図3(a))に不可視部を多くする(即ち、可視部を少なくする)ように構成されることが望ましい。言い換えると、熱交換器20において開口率を低くすることが望ましい。開口率を低くする構成については後述する。
ここで、本実施形態における「不可視部」とは、吸気口4側から熱交換器20を見た際に、各々の熱交換固定翼23の間から熱交換固定翼23の背後が見えない部分のことである。
【0027】
また、本実施形態の熱交換固定翼23は、プレス固定翼による構成にしてもよい。
ここで、プレス固定翼について説明する。
プレス固定翼は、円形の金属板材(例えば、ステンレス鋼製又はアルミニウム製)の薄肉の板に、エッチング加工、抜き打ち加工、又は型抜き加工、或いは、レーザやプラズマなどの切断法を用いて、プレス固定翼を形成するためのスリットを複数形成し、スリットにより切り出されたプレス固定翼をプレス加工などにより所定角度に曲げ加工を行って形成される。
本実施形態における熱交換固定翼23にプレス固定翼を用いる構成については後述する。
【0028】
また、本実施形態の熱交換器20では、熱交換固定翼23の両表面には、それぞれ異なる表面処理が施されている。
より詳しくは、熱交換固定翼23の下流側面(排気口6側の面)、即ち、回転翼9や固定翼15等から構成される気体移送機構に対向する面には、放射率が高い表面処理が施されている。なお、放射率とは、熱エネルギー(電磁波)の吸収率を示し、放射率が高いほど熱の吸収率が高く、放射率が低いほど熱の吸収率が低いことを示している。
熱交換固定翼23の下流側面に施されている放射率が高い表面処理としては、例えば、放射率が0.8以上となるような、アルマイトコーティング処理、セラミックコーティング処理等がある。
このように、熱交換固定翼23の下流側面に放射率が高い表面処理を施すことによって、熱交換固定翼23における、回転翼9や固定翼15等から放射される熱の吸収率をより向上させることができる。
つまり、上述のように表面処理された熱交換固定翼23において、ターボ分子ポンプ1からの放射熱をより多く吸収することができるため、真空室90側へ放射される熱の量を低減させることができる。
【0029】
一方、熱交換固定翼23の上流側面、即ち、真空室90と対向する面には、放射率が低い表面処理が施されている。
本実施形態の熱交換固定翼23の上流側面に施されている放射率が低い表面処理としては、例えば、放射率が0.1以下となるような、電解研磨処理、金メッキ処理、アルミメッキ処理等がある。
なお、電解研磨処理とは、金属製の研磨対象物を電極の+(プラス)極にして電解液を介して直流電流を流し、金属表面を溶解させることにより研磨効果を得る方法である。
このように、熱交換固定翼23の上流側面に放射率が低い表面処理を施すことによって、熱交換固定翼23から真空室90側へ放射される熱の量を低減させることができるので、ターボ分子ポンプ1からの放射熱が熱交換固定翼23で吸収された後に、真空室90側へ再び放射される熱の量を低減させることができる。
【0030】
上述のように、本実施形態に係る熱交換器20では、ターボ分子ポンプ1の回転翼9及び固定翼15から放射する熱(電磁波)を、熱交換固定翼23の下側面では高い吸収率で受け止め、一方、上側面では真空室90側へ再び放射される熱の量を低減させるので、ターボ分子ポンプ1から真空装置に放射する熱をより低減させることができる。
なお、本実施形態では上流面及び下流面の各々に各々の処理を施す構成にしたが、これに限られることはない。例えば、上流面及び下流面の両方に表面処理を施すのではなく、何れか一方の面に該当する処理(上流面に放射率が低い表面処理、又は、下流面に放射率が高い表面処理)を施すように構成しても良い。
【0031】
(ii)遮熱部材
次に、図1、図2、及び図4を参照しながら、本発明の実施形態に係る遮熱部材(網形状の遮熱部材)30について説明する。
図4は、本発明の実施形態に係る遮熱部材30の一例を説明するための図である。
図4(a)には本発明の実施形態に係る遮熱部材30の全体像の一例が示されており、図4(b)には本発明の実施形態に係る遮熱部材30のメッシュ部分の拡大図が示されている。
本実施形態の遮熱部材30は、図4に示すように、網形状の遮熱部材であり、円周における複数箇所を、ボルトなどの取付具により熱交換器保持部材60に固定される。
本実施形態に係る遮熱部材30のメッシュ部分は、正六角形を隙間無く並べたハニカム(蜂の巣)構造としたが、メッシュ部分の網目の形状はこれに限ることはなく、例えば、矩形や円形の空洞が隙間無く並ぶ網目形状であれば、いかなる形状でも適用され得る。
この遮熱部材30は、例えば、従来、異物の落下防止のために使用される保護アミを利用する構成にすることもできる。
【0032】
網形状の遮熱部材である遮熱部材30が、ターボ分子ポンプ1の吸気口4から放射する熱を受けとめることで、吸気口4から真空装置の真空室90に放射する熱を低減させることができる。
【0033】
(iii)冷却機構
次に、図1、図2、及び図5を参照しながら、本発明の実施形態に係る冷却機構について説明する。
図5は、本発明の実施形態に係る冷却機構の一例を説明するための図である。
本発明の実施形態では、熱交換固定翼23へ伝わった熱を効果的に冷却するために、あるいは、遮熱機構(熱交換器20、遮熱部材30)を効率よく冷却するために、熱交換器20の外周部分に、環状の冷却管40を有する熱交換器保持部材60が、熱交換器20に接するように配設されている。
図5に示したように、本実施形態の熱交換器20の外リム21を介した外周部には、熱交換器保持部材60が設けられている。つまり、熱交換器20の熱交換固定翼23は、外リム21を介して冷却管40で冷却される。また、各々の熱交換固定翼23は、内リム22と外リム21で繋がって(支持されて)いる。
このように、全ての熱交換固定翼23は冷却管40と熱伝導による熱の出入りがある形で繋がっているので、冷却管40は熱交換器保持部材60を介して全ての熱交換固定翼23を冷やすことができる構造になっている。
【0034】
この熱交換器保持部材60の内部には、熱交換器20を囲むように、冷却管(例えば水冷管)が配設されている。
本実施形態の冷却管40は管状の部材であり、熱交換器保持部材60の内部に配設されている。本実施形態の冷却管40では、熱交換器保持部材60の内部に設けた冷却管40に熱媒体である冷却剤を流し、この冷却剤に熱を吸収させるようにして冷却を行う液冷方法を用いている。
【0035】
本実施形態のターボ分子ポンプ1には、上述したように水冷管18が設けられており、ターボ分子ポンプ1の水冷管18で使用する水を併用できるよう、冷却機構の冷却管40を用いる液冷方法を採用した。
この構成により、冷却機構(冷却管40)用に追加装置を別途用意する必要がなくなるので、設置スペースの拡大やコストの増大を防ぐことができる。
本実施形態では上述のように冷却機構は水冷方法を採用したが、水以外の冷媒を用いたり、あるいは遮熱機構(熱交換器20、遮熱部材30)の外周上又は外周の一部にファンを配設して遮熱機構の回りを冷やす空冷方法を採用することもできる。
【0036】
なお、本実施形態の熱交換器保持部材60は、ケーシング2と別構成にしてボルトなどの取付具でケーシング2に取りつける構成にしたが、熱交換器保持部材60の構成方法はこれに限定されるものではない。
例えば、ケーシング2の外周面に溝を形成し、この溝に冷却剤を流して冷却管40の機能を持たせるようにしてもよい。
また、冷却管40と熱交換器保持部材60との空隙や、冷却管40とケーシング2との接触部に半田や熱伝導用のペーストなどを付設し、冷却管40における熱交換の効率を更に向上させるようにしてもよい。
【0037】
上述のように、本実施形態では冷却管40を熱交換器の外周に配設することにより、熱交換器20の熱交換固定翼23へ放射された熱を効果的に冷却する、即ち、熱を速やかに外部に排出することができる。
このように、ブレード(ターボ分子ポンプ1の回転翼9及び固定翼15)から真空装置に放射される熱を、遮断(遮熱)すると同時に冷却させることができるので、ターボ分子ポンプ1から真空室90側へ放射される熱をより効率よく低減させることができる。
【0038】
(iv)断熱材
図6は、本発明の実施形態に係る放射熱低減構造と、更に断熱材50を備えたターボ分子ポンプ1の概略構成を示した図であり、ターボ分子ポンプ1の軸線方向の断面図を示している。
なお、上述した図1と同一部分(重複する箇所)には、同一の符号を用い詳細な説明を省略する。
本実施形態に係る断熱材50は、ターボ分子ポンプ1のケーシング2からの熱が伝わらないように、ケーシング2の吸気口4側のフランジ部5に配置された断熱部材であり、ゴムなどの熱抵抗が高い材料、即ち熱伝導率の小さい材料によって構成されている。
この構成により、ターボ分子ポンプ1の熱が、ターボ分子ポンプ1のケーシング2から熱交換器保持部材60を伝って真空装置側へ伝導するのを低減させることができる。
【0039】
上記のように説明した本発明の実施形態に係る遮熱機構は、以下のように様々に変形することが可能である。
(熱交換器の変形例)
まず、本発明の実施形態に係る熱交換器の変形例1及び変形例2を、図7を参照して説明する。
図7は、本発明の実施形態の変形例1及び変形例2に係る熱交換プレス翼230を示した概略図であり、図7(a)及び図7(b)には、図3(a)におけるB−Bで切断した場合の切断面を中心部側(内リム22側)から見た断面図が示されている。
本実施形態の変形例1及び変形例2では、熱交換固定翼は、上述したプレス固定翼で構成されている(以後、熱交換プレス翼230)。
上述したように、ターボ分子ポンプ1からの放射熱を低減させるためには、熱交換器20において熱交換固定翼23(図3)により形成される不可視部は、多ければ多いほど(即ち、可視部が少なければ少ないほど)良い。
そこで本実施形態の変形例1及び変形例2では、熱交換プレス翼230により形成される不可視部を多くする方法について説明する。
【0040】
例えば、図7(a)に示すように、1枚の第1の板部材2310で形成される第1の熱交換プレス固定翼231では、製造過程上、第1の熱交換プレス固定翼231同士のピッチ間隔(d1に相当する)をある一定以上縮めることができない。そのため、どうしてもd1に相当する可視部が形成されてしまう。
(変形例1)
そこで、本発明の実施形態の変形例1に係る熱交換プレス翼230は、図7(a)に示したように、第1の熱交換プレス固定翼231が形成された第1の板部材2310と、第2の熱交換プレス固定翼232が形成された第2の板部材2320とを、各々の熱交換プレス固定翼(第1の熱交換プレス固定翼231、第2の熱交換プレス固定翼232)が水平面(板部材面)に対して同じ角度を有して重なるように、第1の板部材2310と第2の板部材2320とを空隙なく重ねて配設して(積層して)構成されている。
このような構成にすることで、第1の板部材2310(又は、第2の板部材2320)のみで第1の熱交換プレス固定翼231(又は、第2の熱交換プレス固定翼232)を構成する場合に形成される可視部d1を、d2にまで減少させることができる。
つまり、第1の熱交換プレス固定翼231(又は、第2の熱交換プレス固定翼232)のみによって形成されていた不可視部が多くなって、熱交換プレス翼230の開口率を減らすことができるので、ターボ分子ポンプ1からの放射熱をより効率よく低減させることが可能になる。
【0041】
(変形例2)
次に、本発明の実施形態の変形例2について図7(b)を参照して説明する。
本発明の実施形態の変形例2に係る熱交換プレス翼330は、図7(b)に示したように、第1の熱交換プレス固定翼331が形成された第1の板部材3310と、第2の熱交換プレス固定翼332が形成された第2の板部材3320とを、各々の熱交換プレス固定翼(第1の熱交換プレス固定翼331、第2の熱交換プレス固定翼332)が水平面(板部材面)に対して略同じ角度を有し、且つ、第1の熱交換プレス固定翼331が投影される領域と、第2の熱交換プレス固定翼332が投影される領域とが重なる程度に、或いは、第1の熱交換プレス固定翼331が投影される領域と、第2の熱交換プレス固定翼332が投影される領域との間に隙間が無い程度に、隣接させて並べ、更に第1の板部材3310と第2の板部材3320とを空隙なく重ねて配設して(積層して)構成されている。
このような構成にすることで、第1の板部材3310のみで第1の熱交換プレス固定翼331を(又は、第2の板部材3320のみで第2の熱交換固定翼332を)構成する場合に形成される可視部d3を、可能な限り少なくした構成にすることができる。
つまり、第1の熱交換プレス固定翼331(又は、第2の熱交換固定翼332)のみによって形成されていた不可視部が多くなって、熱交換プレス翼330の開口率を減らし、ターボ分子ポンプ1からの放射熱をより低減させることが可能になる。
【0042】
また、上述した変形例1の熱交換プレス翼230は、図7(a)に示したように、熱交換プレス翼230の上面230U(つまり、熱交換プレス翼230の上側に配置される第1の板部材2310と第1の熱交換プレス固定翼231の、真空室90側である面)と、熱交換プレス翼230の下面230D(つまり、熱交換プレス翼230の下側に配置される第2の板部材2320と第2の熱交換プレス固定翼232の、排気口6側である面)とに、それぞれ異なる表面処理を施す構成にすることができる。
より詳しくは、変形例1の熱交換プレス翼230の下面230D、即ち、回転翼9や固定翼15等から構成される気体移送機構に対向する面には、放射率が高い表面処理が施される。この、熱交換プレス翼230の下面230Dに施される放射率が高い表面処理としては、例えば、放射率が0.8以上となるような、アルマイトコーティング処理、セラミックコーティング処理等がある。
このように、変形例1の熱交換プレス翼230の下面230Dに放射率が高い表面処理を施すことによって、変形例1の熱交換プレス翼230における、回転翼9や固定翼15等から放射される熱の吸収率を向上させることができる。
つまり、熱交換プレス翼230(の下面230D)においてより多くの熱を吸収し、真空室90側へ放射される熱の量を低減させることができる。
一方、変形例1の熱交換プレス翼230の上面230U、即ち、真空室90と対向する面には、放射率が低い表面処理が施されている。この、熱交換プレス翼230の上面230Uに施される放射率が低い表面処理としては、例えば、放射率が0.1以下となるような、電解研磨処理、金メッキ処理、アルミメッキ処理等がある。
【0043】
上記説明では、熱交換プレス翼230の上側に配置される第1の板部材2310と第1の熱交換プレス固定翼231の、真空室90側片面と、熱交換プレス翼230の下側に配置される第2の板部材2320と第2の熱交換プレス固定翼232の、排気口6側片面とに、それぞれ異なる表面処理を施す構成にしたが、このように各々の「片面」に各々の表面処理を施すのではなく、真空室90側に配設される第1の板部材板2310の「全面」に放射率が低い表面処理を、一方、排気口6側に配設される第2の板部材2320の「全面」に放射率が高い表面処理を、各々施する構成にしても良い。
あるいは、上下ともに表面処理を施すのではなく、何れか一方の面に該当する処理(上流面に放射率が低い表面処理、又は、下流面に放射率が高い表面処理)を施すように構成しても良い。
【0044】
同様に、上述した変形例2の熱交換プレス翼330では、図7(b)に示したように、熱交換プレス翼330の上面330U(つまり、熱交換プレス翼330の上側に配置される第1の板部材3310と、第1の板部材3310及び第2の板部材3320の第1の熱交換プレス固定翼331及び第2の熱交換プレス固定翼332各々の、真空室90側である面)と、熱交換プレス翼330の下面330D(つまり、熱交換プレス翼330の下側に配置される第2の板部材3320と、第1の板部材3310及び第2の板部材3320の第1の熱交換プレス固定翼331及び第2の熱交換プレス固定翼332各々の、排気口6側である面)とに、それぞれ異なる表面処理を施す構成にすることができる。
より詳しくは、変形例2の熱交換プレス翼330において、回転翼9や固定翼15等から構成される気体移送機構に対向する面(熱交換プレス翼330の下面330D)には、上述した放射率が高い表面処理が施され、真空室90と対向する面(熱交換プレス翼330の上面330U)には、上述した放射率が低い表面処理が施される。
あるいは、上下ともに表面処理を施すのではなく、何れか一方の面に該当する処理(上流面に放射率が低い表面処理、又は、下流面に放射率が高い表面処理)を施すように構成しても良い。
【0045】
このように、本実施形態の変形例1及び変形例2に係る熱交換プレス翼230、330では、熱交換プレス翼230(もしくは330)の上流側面(230Uもしくは330U)に放射率が低い表面処理を施し、且つ、熱交換プレス翼230(もしくは330)の下流側面(230Dもしくは330D)に放射率が高い表面処理を施すことによって、ターボ分子ポンプ1の回転翼9及び固定翼15から放射する熱(電磁波)を、熱交換プレス翼230の下流側面(230Dもしくは330D)では高い吸収率で受け止め、一方、上流側面(230Uもしくは330U)では真空室90側へ再び放射される熱の量を低減させることができる。
その結果、ターボ分子ポンプ1からの放射熱が熱交換プレス翼230(もしくは熱交換プレス翼330)で吸収された後に、真空室90側へ再び放射される熱の量を低減させることができ、ターボ分子ポンプ1から真空装置に放射する熱をより低減させることができる。
【0046】
なお、本実施形態の変形例1及び変形例2では、排気性能を考慮して、1つの熱交換プレス翼を形成するために重ねる板部材の数を2つにしたが、重ねる数量はこれに限ることはない。例えば、3つ、4つ・・・といった複数の板部材を重ねて1つの熱交換プレス翼を形成する構成にしてもよい。
【0047】
(遮熱部材の変形例−変形例3)
次に、本発明の実施形態に係る遮熱部材30の変形例(変形例3)を、図1及び図8を参照して説明する。
ここで、一般的に、網形状の遮熱部材においては、網状部分(メッシュ)の開口率が低ければ低いほど、気体の通りは悪くなる。そこで、本変形例3では、網形状の遮熱部材の開口率が一律ではない遮熱部材300を配設する。
図8(a)は、本発明の実施形態の変形例3に係る遮熱部材300を真空室90側から見た全体像の一例を示した図である。
図8(b)は、図8(a)で示した遮熱部材300の中央部Eの、また、図8(c)は図8(a)で示した遮熱部材300の中央部Eを囲む周辺部Fの、拡大図を示した図である。
図8(a)に示したように、変形例3に係る遮熱部材300は、中央に、低い開口率の網状部分(メッシュが細かい領域;メッシュサイズ小)で成形された中央部Eを、また、中央部Eの周囲を囲む領域には、中央部Eよりも高い開口率の網状部分(メッシュが粗い領域;メッシュサイズ大)で成形された周辺部Fを、同一平面上に有する。
なお、本変形例3に係る遮熱部材300の中央部Eの大きさ(直径)は、排気性能への影響を最小限にとどめるために、ロータ8の吸気口4側端面(図1 D)領域とほぼ等しくなっている。即ち、気体移送路が形成される領域(回転翼9および固定翼15が配設されている領域)の吸気口4側に投影される領域と、遮熱部材300のE部が吸気口4側に投影される領域とは重複しないようになっている。
言い換えると、遮熱部材300のE部は、遮熱部材300の中央部Eが吸気口4側に投影される領域と、ロータ8の吸気口4側端面領域が吸気口4側に投影される領域と、が重複するように配置されている。
更には、変形例3の遮熱部材300の中央部Eの外径は、熱交換器20の内リム22の内径と略一致するように構成され、変形例3の遮熱部材300の中央部Eを囲む領域(周辺部F)の外径は、熱交換器20の外リム21の外径と一致するように構成される。
【0048】
このように、遮熱部材300のE部が、吸気口4の全面ではなく、吸気口4におけるロータ8の円筒部分(回転翼9が配設される領域を除いた部分)の上部にのみ配設されることは、つまり、遮熱部材300の開口率が低い網状部分である中央部Eが、気体移送機構の作用により移送される気体の排気抵抗を増大させる領域に及ばないように配置することである。
上述のような構成により、低い開口率のメッシュで成形された中央部Eを有する遮熱部材300を設けたことに起因するターボ分子ポンプ1の排気性能の低下を抑制することができる。
【0049】
なお、吸気口4の中央部分(ロータ8の円筒部分の上部)からの熱の放射を効率よく防ぐために、遮熱部材300の中央部分(E)のメッシュの開口率を小さくし、中央部分以外(F)における遮熱部材300のメッシュの開口率は中央部分よりも大きくした構成にしているが、F部に該当する部分の直下には、上述した熱交換固定翼23(又は、熱交換プレス固定翼231、232、331、332)が設けられるので、中央部分(E)に比べ他部分(F)の熱放射率が劣ることはない構成になっている。
【0050】
上述した実施形態および変形例によれば、ターボ分子ポンプから真空装置へ伝わる熱を低減させることができるため、真空装置の真空室の内部温度上昇を適切に抑制することができる。これにより、真空室の内部におけるより精密な加工やより精度の高い測定を実現させることができる。
【符号の説明】
【0051】
1 ターボ分子ポンプ
2 ケーシング
3 ベース
4 吸気口
5 フランジ部
6 排気口
7 シャフト
8 ロータ
9 回転翼
10 筒型回転部材
11 モータ部
12、13 径方向磁気軸受装置
14 軸方向磁気軸受装置
15 固定翼
16 ねじ溝スペーサ
17 スペーサ
18 水冷管
20 熱交換器
21 外リム
22 内リム
23 熱交換固定翼
230、330 熱交換プレス翼
231、331 第1の熱交換プレス固定翼
232、332 第2の熱交換プレス固定翼
230U、330U 熱交換プレス翼の上面
230D、330D 熱交換プレス翼の下面
2310 第1の板部材
2320 第2の板部材
30 遮熱部材
300 遮熱部材
40 冷却機構(冷却管)
50 断熱材
60 熱交換器保持部材
80 従来の遮熱プレート
81 従来の支持部
90 真空室
91 真空室壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気口と排気口が形成された外装体と、
前記外装体に内包され、回転自在に軸支された回転軸と、前記回転軸に固定されるロータ部と、前記ロータ部の外周面から放射状に配設された回転翼と、前記外装体の内側側面から前記回転軸へ向かって突設して配設された固定翼とを有し、前記吸気口から吸気した気体を前記排気口へ移送する気体移送機構と、
前記吸気口に配設され、前記回転軸に対して非平行且つ非垂直な傾斜面を持つ板形状遮熱部材を複数有する熱交換器と、
を備えたことを特徴とする真空ポンプ。
【請求項2】
前記気体移送機構の上流に配設され、前記熱交換器に支持される網形状の網形状遮熱部材を備えたことを特徴とする請求項1記載の真空ポンプ。
【請求項3】
前記熱交換器を冷却する冷却機構を更に備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の真空ポンプ。
【請求項4】
前記網形状遮熱部材は、前記吸気口の内径と略一致する外径を有する円板状であり、前記回転軸及びロータ部が前記網形状遮熱部材に投影される領域である中央部が、前記熱交換器が前記網形状遮熱部材に投影される領域である周囲部よりも、前記網形状の開口率が低いことを特徴とする請求項1から請求項3のうち少なくともいずれか1項に記載の真空ポンプ。
【請求項5】
前記熱交換器が有する板形状遮熱部材は、前記吸気口に対面する面の放射率が他の面の放射率よりも小さく形成されていることを特徴とする請求項1から請求項4のうち少なくともいずれか1項に記載の真空ポンプ。
【請求項6】
前記熱交換器は、前記板形状遮熱部材を円板平面の法線方向から見たとき、隣接する前記板形状遮熱部材同士の投影の少なくとも一部が重なることにより、前記熱交換器の背後に不可視部を形成することを特徴とする請求項1から請求項5のうち少なくともいずれか1項に記載の真空ポンプ。
【請求項7】
前記熱交換器は、1つの円状板材に加工を施して形成された板部材及びプレス固定翼を有する円形熱交換器部材を備え、前記プレス固定翼が前記板形状遮熱部材であることを特徴とする請求項1から請求項5のうち少なくともいずれか1項に記載の真空ポンプ。
【請求項8】
前記熱交換器は、前記板部材同士及び前記プレス固定翼同士が密着するように、前記円形熱交換器部材を複数積層し、前記積層して形成された前記板形状遮熱部材を円板平面の法線方向視野から見たとき、前隣接する2つの前記板形状遮熱部材同士の投影の少なくとも一部が重なることにより、前記熱交換器の背後に不可視部を形成することを特徴とする請求項7に記載の真空ポンプ。
【請求項9】
前記熱交換器は、前記板部材同士が密着し、且つ、前記プレス固定翼同士が離間するように、前記円形熱交換器部材を複数積層し、前記積層して形成された前記板形状遮熱部材の円板平面の法線方向視野から見たとき、隣接する2つの前記板形状遮熱部材同士の投影の少なくとも一部が重なることにより、前記熱交換器の背後に不可視部を形成することを特徴とする請求項7に記載の真空ポンプ。
【請求項10】
前記熱交換器において、前記円形熱交換器部材を複数積層する場合に、
前記吸気口側における最上面に配設される前記円形熱交換器部材の放射率が、他に配設される前記円形熱交換器部材の放射率よりも小さく形成されている、又は、
前記排気口側における最下面に配設される前記円形熱交換器部材の放射率が、他に配設される前記円形熱交換器部材の放射率よりも大きく形成されている、又は、
前記吸気口側における最上面に配設される前記円形熱交換器部材の放射率が他の面の放射率よりも小さく形成され、且つ、前記排気口側における最下面に配設される前記円形熱交換器部材の放射率が他の前記円形熱交換器部材の放射率よりも大きく形成されている、
ことを特徴とする請求項8又は請求項9に記載の真空ポンプ。
【請求項11】
前記外装体は、前記吸気口側に、断熱部材を有するフランジ部を備えることを特徴とする請求項1から請求項10のうち少なくともいずれか1項に記載の真空ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−102652(P2012−102652A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−250978(P2010−250978)
【出願日】平成22年11月9日(2010.11.9)
【出願人】(508275939)エドワーズ株式会社 (18)
【Fターム(参考)】