説明

真空ポンプ

本発明は、シーグバーン・ポンプ機構(14)と直列接続のターボ分子ポンプ機構(12)を含む真空ポンプ(10)を提供する。気体がターボ分子ポンプ機構及びシーグバーン・ポンプ機構の両方を通過することができる第1のポンプ入口(16)が、設けられる。さらに、気体がターボ分子ポンプ機構とシーグバーン・ポンプ機構との間の場所においてポンプに入り、シーグバーン・ポンプ機構のみを通過することができる段間(入口)18が、設けられる。段間入口(18)と流体連通する、シーグバーン・ポンプ機構の第1の複数の段(32、34)内の流路(52、62)が存在し、段間入口を通ってポンプに入る気体は、前述の流路に沿って並行排気される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空ポンプに関し、特に、複合真空ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
周知の複合真空ポンプは、典型的には、ホルベック(Holweck)ポンプ機構である分子ドラッグ・ポンプ機構と直列に結合されたターボ分子ポンプ機構を含む。これらの機構は、同じモータによって駆動される。
【0003】
分子ドラッグ・ポンプ機構は、低圧時に高速で運動する面に当たる気体分子には、その運動する面から速度成分が与えられるという一般的な原理に基づいて動作する。結果として、分子は、分子が当たる面と同じ方向に動く傾向があり、これにより分子がポンプ内を通るようにされ、ポンプの排気口付近で比較的高い圧力が生じる。
【0004】
一般に、これらのポンプ機構は、ロータと、このロータに対向する、1つ又はそれ以上の螺旋状又は渦巻き状の流路が設けられたステータとを含む。分子ドラッグ・ポンプ機構のタイプとして、直径の異なる2つの動軸シリンダを備え、外側シリンダの内面上又は内側シリンダの外面上のいずれかに位置する螺旋状のスレッド(thread)によりそれらのシリンダ間に螺旋状の気体通路を定める、ホルベック・ポンプ機構と、ステータの外周からステータの中心へ向けて延びる渦巻き状の流路を定めるディスク状ステータに対向する回転ディスクを備えたシーグバーン・ポンプ機構とが挙げられる。分子ドラッグ・ポンプ機構の別の例には、ゲーデ(Gaede)機構があり、これにより、半径方向平面又は軸方向平面内に配置された同心状流路の周囲で気体が排気される。この場合、気体は、流路と、各段の隣接する入口・出口間の緊密な隙間の「ストリッパ」セグメントとの間の交差地点により、段から段へ移送される。シーグバーン及びホルベック・ポンプ機構は、入口及び出口が流路の長さに沿って配置されているため、交差地点又は緊密な隙間の「ストリッパ」セグメントを必要としない。
【0005】
製造目的のためには、シーグバーン・ポンプ機構が、ホルベック及びゲーデ・ポンプ機構よりも好ましい。しかしながら、分子ドラッグ機構を真空ポンプに適用する際、ホルベック・ポンプ機構が、低電力で高レベルの性能を提供すると考えられることが多い。
【0006】
所与のロータ・ステータ間の隙間に関しては、シーグバーン・ポンプ機構は、ホルベック・ポンプ機構と同レベルの圧縮及びポンプ速度を達成するために、一般的には、より多くのポンプ段を必要とする。さらに、こうしたポンプ機構を伝統的に用いる真空ポンプは多くの場合、緊密な隙間を、軸方向においてよりも(シーグバーン・ポンプ機構に対して優先的に)、半径方向において(ホルベック・ポンプ機構に対して優先的に)制御することができ、同レベルの性能を達成するためにより多くのポンプ段がさらに必要とされる。ポンプ段の追加は、より高レベルの電力消費につながる。ターボ分子ポンプの製造業者が、シーグバーン・ポンプ機構よりも、ホルベック・ポンプ機構を使用する傾向があるのは、こうした理由によるものである。
【0007】
典型的には、真空ポンプは、ポンプの単一の入口からポンプの出口に排気することが必要とされる。他の用途においては、真空ポンプは、異なる圧力で1つより多い入口から排気する能力を有することが必要である又は好ましい。このような用途の例は、真空ポンプが直列に結合された複数の真空チャンバを差動排気する質量分析システムである。主ポンプ入口は、低圧の真空チャンバに結合され、段間入口は、より高圧のチャンバに結合される。主入口に入る気体は、通常、ポンプのポンプ段の全てを通ることができるが、段間入口を通って入る気体は、段間入口の下流のポンプ段しか通ることができない。この構成は、単一の真空ポンプによる異なる圧力での排気を可能にする。
【0008】
気体の圧縮に加えて、真空ポンプが増大したポンプ容量(又は速度)を与え得るという顧客の要求は、ますます高まりつつある。例えば、質量分析システムにおいては、増大したポンプ速度により、より大きい物質の処理量を検査することが可能になり、従って全体的な効率の改善が可能になる。主ポンプ入口においても、段間入口又は各段間入口においても、ポンプ容量の増大が必要とされる。
【0009】
上述のように、ホルベック・ポンプ機構は、より大きいポンプ容量をもたらし、従って、ホルベック・ポンプ機構と直列接続されたターボ分子ポンプ機構、及び、ターボ分子ポンプ機構とホルベック・ポンプ機構との間の段間入口を備えた真空ポンプを提供することが、真空ポンプ供給業者の選択であった。シーグバーン・ポンプ機構はより少ないポンプ容量を与え、段間入口において達成することができる容量はシーグバーン機構のポンプ容量により制限されるので、シーグバーン・ポンプ機構と直列にターボ分子ポンプ機構を組み合わせることは望ましくないと考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、段間の排気に対する改善された解決策を提供しようと努めるものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、
シーグバーン型ポンプ機構と直列のターボ分子ポンプ機構と、
気体が、ターボ分子ポンプ機構及びシーグバーン・ポンプ機構の両方を通過することができる第1のポンプ入口と、
気体が、ターボ分子ポンプ機構とシーグバーン型ポンプ機構との間の位置においてポンプに入り、シーグバーン・ポンプ機構のみを通過することができる段間入口と、
を含み、
シーグバーン・ポンプ機構の第1の複数の段内の流路は、段間入口と流体連通し、段間入口を通ってポンプに入る気体は、前述の流路に沿って並行排気される、
複合真空ポンプを提供する。
本発明の他の好ましい及び/又は随意的な態様は、添付の特許請求の範囲において定められる。
【0012】
本発明をよりよく理解できるように、ここで、添付図面を参照して、単なる例示として与えられる本発明の実施形態を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明を具体化する真空ポンプを概略的に示す。
【図2】図1に示す真空ポンプのシーグバーン・ポンプ機構の第1及び第2の段をより詳細に示す。
【図3】図2に示すシーグバーン・ポンプ機構を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
複合真空ポンプ10が、図1に示される。ポンプは、単一のハウジングと、シーグバーン・ポンプ機構14と直列接続のターボ分子ポンプ機構12とを含む。第1の即ち主ポンプ入口16を通ってポンプに入る気体は、ターボ分子ポンプ機構12及びシーグバーン・ポンプ機構14の両方を通過することができる。ターボ分子ポンプ機構12とシーグバーン・ポンプ機構14との間の場所において段間入口18を通ってポンプに入る気体は、シーグバーン・ポンプ機構のみを通過することができる。
【0015】
ターボ分子ポンプ機構12は、各々が、駆動シャフト22上に取り付けられた又はこれと一体のロータ・ブレード20の列と、ポンプ・ハウジング26に対して固定されたステータ・ブレード24の列とを含む、複数のポンプ段を含む。本例においては、4つのポンプ段が示される。ターボ分子ポンプの構造及び動作は周知であり、本明細書ではこれ以上説明はしない。
【0016】
シーグバーン・ポンプ機構14は、各々がロータ及びステータ構成を含む、複数のポンプ段を含む。以下により詳細に説明されるように、典型的には、各段において、ロータは、駆動シャフト22上に取り付けられた又はこれと一体のディスク28を含み、ステータは、ポンプ・ハウジング26に対して固定され、かつ、その中に複数の渦巻き状の流路が形成されたディスク30を含む。図1に示されるように、シーグバーン機構14は、5つのこのようなポンプ段32、34、36、38、40を含む。
【0017】
シーグバーン・ポンプ機構の第1及び第2の段32、34内の流路は、段間入口18と流体連通し、段間入口を通ってポンプに入る気体は、前述の流路に沿って並行排気される。これらの流路は、位置42で収束し、ポンプ段36、38、40を通る同じ流路に沿って続行する。本例においては、既に周知のシーグバーン構成における1つだけのポンプ流路ではなく、段間入口における2つのポンプ流路が排気を行うので、段間入口において並行したポンプ流路を設けることにより、シーグバーン・ポンプ機構のポンプ容量が増大される。さらに、シーグバーン・ポンプ機構は、ホルベック・ポンプ機構と比べて、より容易に且つ費用効率よく製造されるので、本発明の真空ポンプは、従来技術の設計よりも低コストのポンプを提供する。
【0018】
段間入口の排気に加えて、シーグバーン・ポンプ機構14はさらに、ターボ分子ポンプ機構12も支援する。示されるように、ターボ分子ポンプ機構の最終段から排出される気体は、シーグバーン・ポンプ機構の第1及び第2のポンプ段32、34によって並行排気される。ターボ分子ポンプ機構は、主入口における圧力を有効に維持しながら排出することができる動作範囲を有する。段間入口18における圧力がその動作範囲内である場合、段間の圧力が、ターボ分子ポンプ機構の動作に著しい影響を与えることはない。しかしながら、段間入口における圧力が動作範囲外である場合、特に段間入口圧力が動作範囲よりも著しく高い場合には、段間入口における圧力はターボ分子ポンプ機構の動作に影響を与える。本発明はこうした状況の両方に適用可能であるが、図面に示される真空ポンプは、ターボ分子ポンプ機構の動作に著しい影響を与えることなく、動作範囲よりも高い段間入口圧力におけるポンプの能力を有する。この点において、シーグバーン・ポンプ機構の第1及び第2の段はそれぞれ、複数の渦巻き状の流路を含む。各段内の渦巻き状流路の1つ又はそれ以上は、段間入口を排気するように構成され、1つ又はそれ以上の渦巻き状流路は、ターボ分子ポンプ機構の排気口を排気するように構成される。このように、シーグバーン・ポンプ機構の第1及び第2の段は、段間入口及びターボ分子ポンプ機構の排気口が、1つの流路内の圧力を別の流路内の圧力と異なり得るように、独立した流路に沿って並行排気する。
【0019】
ここで、図2及び図3を参照して、真空ポンプ10、特に、シーグバーン・ポンプ機構14の第1の段32及び第2の段34をより詳細に説明する。
【0020】
シーグバーン・ポンプ機構の第1及び第2の段32、34は、モータ(図示せず)によって軸46を中心として回転可能な駆動シャフト22上に取り付けられた又はこれと一体の、単一のディスク44の形態のロータを含む。ロータ・ディスクの上部及び下部のほぼ平坦な表面は、第1及び第2の段32、34を形成するそれぞれのステータ48、51と協働する。第1のステータ48は、ステータ48の外周部56からステータ48の内側部分58に向かう気流を生成する、ステータ48内の第1の複数の渦巻き状流路52及び第2の複数の渦巻き状流路54を定める複数の壁50を含む。同様に、第2のステータ51は、ステータ51の外周部66からステータ51の内部68に向かう気流を生成する、ステータ51内の第1の複数の渦巻き状流路62及び第2の複数の渦巻き状流路64を定める複数の壁60を含む。
【0021】
逆に、チャネルの相対角度又はシャフト22の回転方向を逆にすることによって、排気作用が内側部分58、68から外周部56、66に向かうように、渦巻き状流路52、54、62、64を設計することができる。回転及び固定構造部を逆にして、平坦なディスクが固定され、渦巻き状流路が回転部品の一部を形成するようにすることも可能である。しかしながら、本発明の真空ポンプ10においては、段間入口18は、通常、半径方向外側の位置にあるので、半径方向外側の位置から半径方向内側の位置に排気するのがより実際的である。
【0022】
図3は、第1のポンプ段32のステータ48の壁を破線で示す、シーグバーン・セクション14の斜視図である。シーグバーン機構の第1の段32は、ロータ・ディスク44の上方にあり、第2の段は、部分的に不明瞭であり、ロータ・ディスクの下方にある。流路52の外周領域は、段間入口18と気体連通しており、流路54の外周領域は、ターボ分子ポンプ機構14の排気口と気体連通している。同様に、流路62の外周領域は、段間入口18と気体連通しており、流路64の外周領域は、ターボ分子ポンプ機構14の排気口と気体連通している。従って、真空ポンプ10は、段間入口18及びターボ分子ポンプ機構14の排気口が1つの流路内の圧力を別の流路内の圧力と異なり得るように、独立した流路に沿って並行排気することができる。段間入口18及びターボ分子ポンプ機構の排気口に結合される渦巻き状流路の数は、必要に応じて選択することができる。例えば、段間入口18に結合される1つ又はそれ以上の渦巻き状チャネル52、及びターボ分子ポンプ機構の排気口に結合される1つ又はそれ以上の渦巻き状流路54が存在し得る。
【0023】
作動フランジの形態のバッフル72が、シーグバーン機構の第1の段のステータ48の半径方向外側部分から上向きに延びる。示されるように、バッフルは、ステータ48の周囲に約240°にわたって延びる。図2に示されるように、バッフル72は、ポンプ・ハウジングの内面に押し当たり、かつ、ターボ分子ポンプ機構の排気口から段間入口18への気流に対する障壁として機能する。バッフル72は、ステータ48の周囲全体にわたって延びるのではなく、それによりターボ分子ポンプ機構の排気口からの気体が、流路54、64に沿ってシーグバーン・ポンプ機構に入るのを可能にする入口が形成される。
【0024】
使用時に、モータは、駆動シャフト22及びロータ44を回転させる。段間入口18からの気体は、ポンプ10に入り、シーグバーン機構14の第1及び第2の段32、34内の渦巻き状流路52、62に沿って並行排気される。ターボ分子ポンプ機構14の排気口からの気体は、ポンプ10に入り、渦巻き状流路54、64に沿って並行排気される。ロータは、ロータ・ディスク44の半径方向内側部分における複数の貫通孔70を含み、第1の段32内の渦巻き状流路52、54に沿って排気された気体が、貫通孔を通過し、位置42において、第2の段34内の渦巻き状流路62、64に沿って排気された気体と合流することを可能にする。図1に示されるように、続く合流気体が、ポンプ段36、38、40を通って排気され、ポンプ排気口72において排気される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シーグバーン・ポンプ機構と直列接続のターボ分子ポンプ機構と、
気体が、前記ターボ分子ポンプ機構及び前記シーグバーン・ポンプ機構の両方を通過することができる第1のポンプ入口と、
気体が、前記ターボ分子ポンプ機構と前記シーグバーン・ポンプ機構との間の位置において前記ポンプに入り、前記シーグバーン・ポンプ機構のみを通過することができる段間入口と、
を含み、
前記シーグバーン・ポンプ機構の第1の複数の段内の流路は、前記段間入口と流体連通し、前記段間入口を通って前記ポンプに入る気体は、前記流路に沿って並行排気されることを特徴とする、真空ポンプ。
【請求項2】
前記シーグバーン・ポンプ機構内の前記第1及び第2の段内の前記流路は、前記段間入口と流体連通し、前記段間入口を通って前記ポンプに入る気体は、前記流路に沿って並行排気されることを特徴とする、請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項3】
使用時に、流体が、前記段間入口に近接した半径方向外側の位置における前記流路へのそれぞれの入口から、半径方向内側の位置におけるそれぞれの出口まで、前記流路に沿って排出されることを特徴とする、請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項4】
前記段間入口、及び前記ターボ分子ポンプ機構の排気口は、前記シーグバーン・ポンプ機構により、異なる圧力で独立して独立して排気することができることを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれかに記載の真空ポンプ。
【請求項5】
前記シーグバーン・ポンプ機構の前記第1の段内の前記流路の1つ又はそれ以上は、前記段間入口を排気するように構成され、前記第1の段内の前記1つ又はそれ以上の流路は、前記ターボ分子ポンプ機構の前記排気口を排気するように構成されることを特徴とする、請求項4に記載の真空ポンプ。
【請求項6】
前記シーグバーン・ポンプ機構の前記第1の複数の段の各々の中の前記流路の1つ又はそれ以上は、前記段間入口を排気するように構成され、前記第1の複数の段の各々の中の前記1つ又はそれ以上の流路は、前記ターボ分子ポンプ機構の前記排気口を排気するように構成されることを特徴とする、請求項4に記載の真空ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−508595(P2013−508595A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−533689(P2012−533689)
【出願日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際出願番号】PCT/GB2010/051506
【国際公開番号】WO2011/048396
【国際公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(507261364)エドワーズ リミテッド (85)
【Fターム(参考)】