説明

真空ポンプ

【課題】コンパクトな構造において高い圧力比を有する真空ポンプを提供することである。
【解決手段】軸12、軸と結合されたハブ40、およびハブの第1の側と結合された、軸に同心の第1のスリーブ50、を有するロータを備えた真空ポンプ特に分子真空ポンプに関するものであり、少なくとも1つの第2のスリーブ52が、軸に同心に、軸方向においてハブの第1の側に向かい合う第2の側でハブと結合され、および第1のスリーブは、ガス流れ内において第2のスリーブに後続配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念に記載の真空ポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
工業用真空の発生における多種類の用途に基づき、真空技術から分子ポンプ原理を除いて考えることはもはやできない。要するに、ポンプ効果は、高速で運動される面からガス分子への運動量伝達に基づいており、これにより、統計熱運動に指向性運動がさらに加えられる。
【0003】
真空ポンプにおいて、回転するスリーブは、例えばホルベック・ポンプ段の形でその機能が実証されてきた。1つまたは複数のスリーブが1つのハブの片側に固定され、一方、ハブは軸上に配置されている。このような構造を、例えば欧州特許公開第0695872A1号が示している。
【0004】
例えば漏れ検出器内における真空ポンプの使用のような幾つかの使用例において、特に軽いガスに対して、ポンプの吸込開口と出口との間で高い圧力比が希望される。これは、上記の構造原理に基づき、きわめて長いスリーブを必要とする。しかしながら、この用途においては、コンパクトな構造が希望されている。真空ポンプそれ自身の構造長さを増大させる長いスリーブは、この希望とは相反するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】欧州特許公開第0695872A1号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の課題は、コンパクトな構造において高い圧力比を有する真空ポンプを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題は、独立の請求項1の特徴により解決される。本発明の有利な形態が従属請求項2−10に記載されている。
この課題は、請求項1に記載の特徴を有する真空ポンプにより解決される。
【0008】
軸、軸と結合されたハブ、およびハブの第1の側と結合された、軸に同心の第1のスリーブ、を有するロータを備えた本発明による真空ポンプ特に分子真空ポンプは、少なくとも1つの第2のスリーブが、軸に同心に、軸方向においてハブの第1の側に向かい合う第2の側でハブと結合され、および第1のスリーブは、ガス流れ内において第2のスリーブに後続配置されていることを特徴とする。
【0009】
課題を解決するために、請求項1の特徴により、2つのスリーブを有するハブを設けることが提案され、2つのスリーブはハブの向かい合う側に配置されている。同じポンプ作用長さを達成させるために、1つの長いスリーブの代わりに2つの短いスリーブが使用される。ここで、利点は、2つのスリーブの場合、製造公差はほとんど問題にならないことである。このような製造公差は、例えば、スリーブ直径および固定位置におけるスリーブの傾きである。これらの公差は、スリーブとステータとの間の隙間の設計において考慮されなければならず、且つ長いスリーブの場合、隙間をさらに広くさせることになる。製造公差のほかに、高速回転における遠心力によるスリーブの膨張もまた重要である。短いスリーブの場合、この膨張はより小さくなる。したがって、1つの長いスリーブの代わりに2つの短いスリーブの場合、より狭い隙間が使用可能である。狭い隙間は同時に圧力比の上昇を意味するので、単位長さ当たりの圧力比は上昇する。したがって、真空ポンプは、従来の構造による対応真空ポンプよりも、より良好な圧力比において、よりコンパクトな構造となる。
【0010】
本発明の可能な一実施形態により、第1のスリーブの半径および第2のスリーブの半径が異なっているように設計されている。これにより、圧力比が同じままで、ポンプの構造をより小さくすることが可能である。
【0011】
他の有利な一実施形態は、より小さい半径を有する第3のスリーブが第1のスリーブに同心に配置されているように設計されている。この第3のスリーブは、軸から軸方向に見て、第1のスリーブと同じ構造高さに配置されている。この手段により、追加構造空間を必要とすることなく、ポンプ効率を上昇することが可能である。
【0012】
本発明の他の有利な一実施形態により、より小さい半径を有する第4のスリーブが第2のスリーブに同心に配置されているように設計されている。軸方向に見て、第4のスリーブは第2のスリーブと同じ構造高さに配置されている。これによってもまた、同じままの構造空間において、ポンプ効率がさらに上昇される。
【0013】
本発明の好ましい一実施形態により、第2のスリーブの半径方向内側に、スリーブの内側表面と協働してポンプ作用をなすステータが設けられている。これによってもまた同様に、ポンプの構造空間が拡大されることなく、ポンプ効率が明らかに上昇される。
【0014】
他の有利な一実施形態により、ガス流れ内において第2のスリーブの手前に、ターボ分子構造タイプの少なくとも1つのロータ・ディスクが配置されているように設計されている。これによってもまた、ポンプのポンプ作用が上昇される。
【0015】
本発明の特に有利な一実施形態は、少なくとも1つのスリーブが炭素繊維強化プラスチックを含むように設計されている。スリーブ材料としての炭素繊維強化プラスチックの使用は、遠心力によるスリーブの膨張が低減されるので、さらにより小さい隙間を可能にする。
【0016】
本発明の他の一実施形態は、ハブが、ステータと協働してガスを供給する外表面を含むように設計されている。これにより、ハブの外表面がポンプ作用の達成のために使用される。
【0017】
外表面および第1および第2のスリーブの外側に位置する表面は、共に、ただ1つの円筒面として形成されていることが有利である。これは、第1および第2のスリーブが、ハブの外表面と共に、ホルベック段の連続するスリーブのように働き、且つこれによりポンプのポンプ作用が最適化される。
【0018】
本発明の他の有利な一実施形態は、ハブが、ガス流れ内において第1のスリーブの手前に、ガス入口と協働する凹部を有するように設計されている。この実施形態は、ガス入口とハブの凹部との協働が排気速度および圧力比のような真空技術的変数を改善させるという利点を有している。
【0019】
他のステータと協働し且つその配置に基づいて追加構造空間を必要としない複数の同心スリーブの設置は、真空ポンプが、コンパクトな構造において、従来の構造タイプに基づく対応真空ポンプよりもより良好な圧力比を有するという利点を有している。
【0020】
一実施例およびその変更態様により、本発明を詳細に説明し且つそれらの利点を解明することとする。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、真空ポンプの縦断面図を示す。
【図2】図2は、ターボ分子構造タイプのロータ・ディスクを有する、一変更態様によるロータの部分断面図を示す。
【図3】図3は、他のスリーブを有する、一変更態様によるロータの部分断面図を示す。
【図4】図4は、追加ガス入口の高さに凹部を有する、一変更態様によるロータの部分断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、真空ポンプの縦断面図を示す。真空ポンプのハウジング2内に吸込開口4が設けられ、吸込開口4を介してガスが真空ポンプ内に吸い込まれる。圧縮後、ガスは真空ポンプの出口6から排出される。
【0023】
真空ポンプの内部にロータ10が設けられ、ロータ10はステータ30と共にポンプ作用を発生する。ロータ10は軸12を有し、軸12の吸込開口4に向けられた端部は永久磁気軸受14により支持される。反対側端部は転がり軸受16により支持される。この軸受配置は、吸込開口4に向かい合う側に2つの転がり軸受を有する浮動軸受支持のような、考えられる他の軸受タイプに比較して、吸込側に無潤滑軸受が使用され、およびロータ動特性上簡単な軸受支持に基づいて狭い隙間および短い構造長さが達成される、という利点を有している。
【0024】
軸12上に永久磁石20が設けられ、永久磁石20は通電された駆動コイル22と協働する。これにより、ロータ10は十分に高速の回転数で回転される。この回転数は使用されるポンプ原理に従って決定され、且つ分子ポンプ原理においては、一般に、毎分数万回転の範囲である。
【0025】
ステータ30は、ロータ10に向かい合うその表面上に、1つまたは複数の螺旋状溝32を有している。
軸12にハブ40が固定されている。ハブ40は、第1の側42と、これに向かい合う第2の側44とを有している。第2の側44は吸込開口4に向けられている。第1の側42に第1のスリーブ50が固定され、第2の側44に第2のスリーブ52が固定されている。両方のスリーブ50、52はステータ30およびその螺旋状溝32と協働してホルベックに基づくポンプ作用を発生させる。ガス流れは、吸込開口4を介して、第2のスリーブ52およびステータ30の間の隙間S内に導かれる。第1のスリーブ50はガス流れ内において第2のスリーブ52に後続配置され、これにより、より高い圧力に圧縮する。上記のガス案内と共にスリーブ50および52を使用することにより、隙間Sに対して製造公差はより小さい値となるので、隙間Sは、両方のスリーブ50、52の長さL1、L2の和の長さに対応するただ1つの対応スリーブにおいてよりも狭く形成される。
【0026】
以下の図2−4に変更態様が示され、この場合、紹介された特徴は相互に組み合わされてもよい。
図2に、ステータ30の一部およびロータ10の一部が示されている。ハブ40が軸12上に配置されている。ハブ40は、ほぼディスク状で且つ軸線Wに垂直な平面内を伸長する本体を有し、これにより、少ない材料消費量で、ロータ動特性上有利な、スリーブ50、52、54に対する支持構造が提供される。ハブ40およびスリーブ50、52、54、56の少なくとも1つは一体に形成されている。ハブ40を対称に形成すること、または図2に示されているように、特に軸方向に対して垂直に見て非対称に形成すること、が可能である。ハブ40の第1の正面側に対応するハブ40の第1の側42に2つの突起80および84が設けられ、これらの突起80および84に第1のスリーブ50および第3のスリーブ54が固定されている。スリーブ50、52、54の材料は、本質的に、炭素繊維強化プラスチックを含む。スリーブ50、52、54の固定は、例えば接着により行われてもよい。第1の側に向かい合う第2の側44上に他の突起82が設けられ、突起82に、吸込開口の方向に伸長し且つガス流れ内において第1のスリーブ50の手前に配置された第2のスリーブ52が固定されている。
【0027】
ハブ40は半径方向外側に位置する外表面46を有し、外表面46は、ステータ30内の少なくとも1つの螺旋状に伸長する溝32と共にポンプ作用を達成する。一変更態様において、外表面46は、半径方向外側に位置する、第1および第2のスリーブ50および52の表面60および62と共に、材料の相違は別として、連続の円筒面を形成する。
【0028】
軸12上に、ガス流れ内において第2のスリーブ52の手前に、ターボ分子構造タイプのロータ・ディスク70が配置され、ロータ・ディスク70により、より短い構造長さにおいて排気速度が上昇され、および圧力範囲がより低い圧力の方向に拡張される。
【0029】
図3に、第1および第2のスリーブ50および52の長さL1およびL2を異なる長さに形成した、追加の形態空間が紹介される。これにより、真空技術的データおよびロータ動特性が、質量分布に基づき、ロータに対して調整可能である。代替態様または追加態様として、第1および第2のスリーブ50、52の半径R1およびR2は相互に異なっていてもよい。
【0030】
第2のスリーブ52に同心に且つより小さい半径で、第4のスリーブ56が設けられていてもよい。第2および第4のスリーブ52、56の間に追加のステータ34が設けられ、ステータ34はポンプ作用構造として螺旋状溝36および38を有している。溝36は、第2のスリーブの内側に位置する表面64と協働する。矢印はガス流れを表わし、ガス流れは、はじめに、第4のスリーブ56の外側表面においてハブ40の方向に行われ、次に、第2のスリーブ52の表面64においてハブ40から離れる方向に向けられ、それに続いて、第2のスリーブ52の半径方向外側に位置する表面において、再びハブ40の方向に向けられている。
【0031】
図4に示す変更態様は、追加のステータ34を有し、この作用により、(図示されていない)吸込開口4を介して流入したガスは、はじめに、ステータ34および第2のスリーブ52の協働によって、ハブ40から離れる方向に供給される。
【0032】
他の可能な形態特徴は凹部48により形成され、凹部48は第1および第2のスリーブ50、52の間のハブ40の領域を示し、この領域内においては、ハブ40の半径は両方のスリーブ50および52の半径よりも低減されている。この凹部48は、ガス入口8を介して流入したガスがはじめに凹部48内に到達する形で、追加のガス入口8と協働する。これによって、ガスはロータ10の周りに分配され、これにより、第1のスリーブ50の方向へのガス流れが改善される。
【符号の説明】
【0033】
2 ハウジング
4 吸込開口
6 出口
8 ガス入口
10 ロータ
12 軸
14 永久磁気軸受
16 転がり軸受
20 永久磁石
22 駆動コイル
30 ステータ
32 溝
34 ステータ
36 溝
38 溝
40 ハブ
42 第1の側
44 第2の側
46 外表面
48 凹部
50 スリーブ
52 スリーブ
54 スリーブ
56 スリーブ
60 表面
62 表面
64 表面
70 ロータ・ディスク
80 突起
82 突起
84 突起
L1 スリーブの長さ
L2 スリーブの長さ
R1 半径
R2 半径
S 隙間
W 軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸(12)、軸(12)と結合されたハブ(40)、およびハブ(40)の第1の側(42)と結合された、軸(12)に同心の第1のスリーブ(50)、を有するロータ(10)を備えた真空ポンプ特に分子真空ポンプにおいて、
少なくとも1つの第2のスリーブ(52)が、軸(12)に同心に、軸方向においてハブ(40)の第1の側(42)に向かい合う第2の側(44)でハブ(40)と結合され、
第1のスリーブ(50)は、ガス流れ内において第2のスリーブ(52)に後続配置されていることを特徴とする真空ポンプ。
【請求項2】
第1のスリーブ(50)の半径(R1)および第2のスリーブ(52)の半径(R2)が異なっていることを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項3】
より小さい半径を有する第3のスリーブ(54)が第1のスリーブ(50)に同心に配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の真空ポンプ。
【請求項4】
より小さい半径を有する第4のスリーブ(56)が第2のスリーブ(52)に同心に配置されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の真空ポンプ。
【請求項5】
第2のスリーブ(52)の半径方向内側に、スリーブ(52)の内側表面(64)と協働してポンプ作用をなすように形成されているステータ(34)が設けられていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の真空ポンプ。
【請求項6】
ガス流れ内において第2のスリーブ(52)の手前に、ターボ分子構造タイプの少なくとも1つのロータ・ディスク(70)が配置されていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の真空ポンプ。
【請求項7】
少なくとも1つのスリーブ(50、52、54、56)が炭素繊維強化プラスチックを含むことを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の真空ポンプ。
【請求項8】
ハブ(40)が、ステータ(30)と協働してガスを供給するように形成されている外表面(46)を含むことを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載の真空ポンプ。
【請求項9】
外表面(46)および第1および第2のスリーブ(50、52)の半径方向外側に位置する表面(60、62)は、共に、ただ1つの円筒面として形成されていることを特徴とする請求項8に記載の真空ポンプ。
【請求項10】
ハブ(40)が、ガス流れ内において第1のスリーブ(50)の手前に、ガス入口(8)と協働するように形成されている凹部(48)を有することを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1項に記載の真空ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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