説明

真空以上の圧力での試料のイオン化

【課題】信号対雑音比を改善することができるイオン化装置を提供する。
【解決手段】試料受け取り室でイオン化された試料物質は、試料導管に流れ込む。試料導管には、乾燥ガスを流し込んでもよく、乾燥ガスを加熱してもよい。試料導管の圧力および長さは、その積が50Torr・cm以上となるように規定してもよい。試料導管は、変向部を備えていてもよい。また、試料導管は、イオン抽出室に通じていてもよく、イオン抽出室では、サンプリングオリフィスが質量分析計に通じていてもよい。試料導管の直径は、サンプリングオリフィスの直径より大きくてもよい。イオン抽出室内に電界を印加して、流れ込むイオンの速度を低減させてもよい。さらに、電圧ジャンプを試料導管に印加してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に真空以上の圧力で行われる試料物質のイオン化に関する。このようなイオン化は、たとえば質量分析計等の分析機器に導入するイオンを得るために行われる。
【背景技術】
【0002】
分析化学等における特定の技術では、試料を分析する前にその成分をイオン化する必要がある。質量分析(MS)は、そのような分析技術の一例であって、一般的には、機器を用いた様々な定性的および定量的な分析方法を包含している。これらの方法によれば、イオン化された検体種(すなわち、関心のある試料分子)を質量対電荷比に基づいて分離することができる。このため、質量分析システムでは、試料の成分をイオン化し、質量対電荷比に基づいてイオンを分類または分離し、得られたイオン出力(たとえば、イオン電流、イオン束、イオンビーム等)を必要に応じて処理することにより質量スペクトルを生成する。通常、質量スペクトルは、荷電成分の相対存在量を質量対電荷比の関数として示したピークの集まりである。
【0003】
通常の質量分析システムは、試料注入システム、イオン源またはイオン化装置、質量分析器、イオン検出器、信号処理装置、読み出し/表示手段、およびコンピュータ等の電子制御装置を具備する。また、質量分析システムは、質量分析器の周囲環境を真空状態に制御するための真空排気システムも具備する。質量分析器以外にも、試料注入システム、イオン源、およびイオン検出器のすべてまたは一部について、その周囲環境を真空状態とするように設計されていてもよい。ただし、ある特定のイオン源では、質量分析器の真空または低圧領域と必然的に異なる領域において、大気圧またはその近傍で試料物質をイオン化する。したがって、大気圧イオン化(API:Atmospheric−Pressure Ionization)では、API源の大気圧環境で生成されたイオンを質量分析計の真空環境に移送するためのインターフェース構造が必要となる。API技術は、質量分析を液体クロマトグラフィ(LC:Liquid Chromatography)等の分析分離技術と組み合わせることが望ましい場合に特に有用である。たとえば、LCカラムからの出力または流出物は、APIインターフェースの試料源または入力となる。通常、この流出物は、検体および移動相物質(たとえば、溶媒、添加剤、基質成分等)の液相基質から成る。
【0004】
API技術の例としては、エレクトロスプレーイオン化(ESI:Electrospray Ionization)、大気圧化学イオン化(APCI:Atmospheric−Pressure Chemical Ionization)、大気圧光イオン化(APPI:Atmospheric−Pressure Photoionization)、および大気圧マトリクス支援レーザー脱着イオン化(AP−MALDI:Atmospheric−Pressure Matrix−Assisted Laser Desorption/Ionization)等が挙げられる。これらのAPI技術は既知であり、したがって、詳細な説明は不要である。当業者にはよく知られているように、ESIは、導電性のエレクトロスプレーニードルの使用を特徴とする脱着イオン化技術である。APCIは、コロナ放電ニードルの使用を特徴とする気相イオン化技術である。APPIは、紫外線(UV)ランプ等の光子源を使用することが特徴である。AP−MALDIは、パルスレーザービームおよびレーザー照射/吸収有機分子を使用することが特徴である。
【0005】
各技術では通常、大気圧室へと延びているイオン化装置を使用する。大気圧室は、イオン案内部および質量分析部を含む質量分析計の1または複数の真空または低圧領域から物理的に分離されている。イオン化装置は、検体を含む試料物質を受け取って、たとえば検体イオン、イオンクラスタ、帯電液滴、および非帯電液滴等を含み得るガス流または霧状ガスを生成する。この霧状試料の形成には、窒素(N)等の不活性霧化ガスを利用してもよい。得られた霧状試料は、大気圧室内を通って、質量分析計に通じるサンプリングオリフィスに送られる。霧状試料をサンプリングオリフィスに案内するため、大気圧室内に1または複数の電界を形成してもよい。
【0006】
従来の技術では、霧状試料のうちの検体イオンのみが質量分析計に入り、非帯電溶媒液滴等の他の成分は入らないのが理想であった。また、溶媒の蒸発および/またはサンプリングオリフィスからの除去のため、上述の霧化ガス以外の選択肢として、窒素等の不活性乾燥ガス流を大気圧室内に導入してもよい。この乾燥ガスは、大気圧室内への導入前に加熱してもよく、さらに、サンプリングオリフィスに送られる霧状試料に逆流するように、サンプリングオリフィスと同軸の管で形成された環状開口を介して導入してもよい。あるいは、サンプリングオリフィス前段の障壁として乾燥ガスを導入してもよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第5,412,208号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したようなAPI技術においては、質量分析計の排気された領域への入口として機能するサンプリングオリフィスに不要な液滴およびその他の非分析物質が侵入することが、たびたび問題となる。このような不要成分があると、汚れ、感度の低下、堅牢性の低下、ピークテーリング等によって、質量分析計の性能および/または生成される質量スペクトルデータの品質が低下する場合がある。これらの問題は、イオン源に導入される試料物質の流量増加に伴って深刻化する可能性がある。上述のとおり、APIイオン源は従来、加熱した窒素等の不活性乾燥ガスの逆流または障壁が用いられ、不要成分を蒸発および吹き飛ばす(一掃する)ことによって、サンプリングオリフィスを保護していた。しかし、これら従来の手法では、サンプリングオリフィスへの不要成分の侵入を十分に阻止できず、乾燥ガスと霧状試料物質との接触を十分に図ることができなかった。また、従来の手法では、混入した試料クラスタイオンの脱溶媒和、および液滴の蒸発が不完全で、質量分析計へのイオン抽出効率が所望の値に達していなかった。そこで、溶媒和イオンまたはクラスタイオンが質量分析計に進入する前の衝突回数を増やすことによって、信号対雑音(S/N)比を改善することが望ましい。
【0009】
また、サンプリングオリフィスは、大気圧イオン化室から質量分析計への出口として従来利用されてきたが、通常は、イオン化室と質量分析計の第1段部との間の直接インターフェースとして機能する。このサンプリングオリフィスは通常、流体圧を大気圧からおよそ1〜20mTorrに低下させる小径かつ長形状のキャピラリ型入口である。サンプリングオリフィスの内径(および関連するキャピラリの長さ)は、イオン化/質量分析装置に併設されたポンプシステムによって決まる。この種のシステムでは、60CFMを大幅に上回る流量でガス状流体をポンピングすることは現実的でないため、サンプリングオリフィスの内径は通常5μm前後に保たれている。しかし、サンプリングオリフィスの直径が小さいこと、およびそのサンプリングオリフィスをイオン化室から質量分析計へのイオンを含むガス流を直接サンプリングすることに用いることによって、イオン化室内で生成されたイオンの大部分がサンプリングオリフィスで収集されず、質量分析計で分析できないことになる。
【0010】
APIインターフェースを利用した従来システムにおける上述の問題は、低い感度、低いS/N比、低いイオン信号強度、液滴および基質バックグラウンド成分からの検体イオンの不十分な分離、液滴の不十分な蒸発、溶媒和イオンまたはクラスタイオンの不十分な衝突およびそれによる不十分な脱溶媒和、ならびに高い化学的バックグラウンド等、望ましい性能パラメータを達成できない場合がある。したがって、生成イオンを受け取る質量分析計等の関連した低圧/真空分析機器よりも高圧の環境およびそのような機器とのインターフェースを要するイオン化技術を改善することが依然必要である。
【0011】
上述の問題のすべてまたは一部、および/または当業者が発見する可能性があるその他の問題を解決するため、本開示においては、以下に記載の実施態様において例示的に説明する、比例弁に関連した装置、デバイス、システム、および/または方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
一実施態様に係るイオン化装置は、複数の境界で画成されたインターフェース室と、インターフェース室を通って延びている加熱された試料導管とを備えている。試料導管は、入口および出口を備え、それぞれは少なくとも1つの境界内に位置する。また、試料導管は、インターフェース室内部から分離された試料物質流路を構成する。試料導管内では、乾燥ガスが試料物質流と混合され、試料導管の圧力と長さとの積が50Torr・cm以上である。
【0013】
別の実施態様に係るイオン化装置は、インターフェース室内部を画成する複数の境界を具備したインターフェース室と、インターフェース室内部と連通した乾燥ガス入口と、インターフェース室を通って延びている試料導管であって、入口および出口を具備した試料導管とを備えている。試料導管の入口および出口は、試料導管がインターフェース室内部から分離された試料物質流路を構成するように、少なくとも1つの境界に位置している。試料導管の入口が位置する境界が、その入口に隣接し、インターフェース室内部と連通した乾燥ガス出口を備えていることにより、インターフェース室は、乾燥ガス入口から試料導管の周囲を経て乾燥ガス出口に至る乾燥ガス流路を構成する。
【0014】
別の実施態様に係るイオン化装置は、試料受け取り室内部を画成する境界を含む試料受け取り室と、試料受け取り室から分離され、イオン出口孔および排出孔を備えたイオン抽出室と、試料導管とを備えている。試料導管は、試料受け取り室と連通した入口と、イオン抽出室と連通した出口とを備え、試料受け取り室の外側で入口と出口との間で延びている長さを有する。また、試料導管は、その長さ方向に非直線部分をさらに含むことにより、変向部を含む試料物質流路を構成する。
【0015】
別の実施態様に係るイオン化装置は、試料受け取り室内部を画成する境界を含む試料受け取り室と、試料受け取り室から分離され、イオン出口孔および排出孔を備えたイオン抽出室と、試料受け取り室およびイオン抽出室と連通した試料導管と、試料導管の出口からイオン抽出室に進入するイオンの極性と反対の極性の電界をイオン抽出室内に印加するためのデバイスとを備えている。
【0016】
別の実施態様に係るイオン化装置は、試料受け取り室内部を画成する境界を含む試料受け取り室と、試料導管と、試料導管内のイオンを加速または減速させるデバイスとを備えている。試料導管は、試料受け取り室と連通した入口と、イオン抽出室と連通した出口とを備え、試料受け取り室の外側で入口と出口との間で延びている長さを有する。
さらに別の特定の実施態様に係るイオン化装置は、以下のような特徴を有する。
【0017】
試料導管内の乾燥ガスは、試料物質流と混合され、試料導管の圧力と長さとの積が100〜10,000Torr・cmの範囲、または、200〜2,000Torr・cmの範囲である。
試料導管は、試料物質流路が変向部を含むように、非直線部分をさらに含む。非直線部分は、屈曲部分または巻回部分を含んでもよい。
【0018】
試料導管の入口の軸は、試料導管の出口の軸と平行であるか、または、試料導管の出口の軸に対してゼロではない角度をなす。
イオン化装置のイオン抽出室は、試料導管の出口と連通しており、イオン出口孔および排出孔を備えている。また、イオン化装置は、試料導管の出口からイオン抽出室に進入するイオンの極性と反対の極性の電界をイオン抽出室内に印加するためのデバイスをさらに備えている。
【0019】
別の実施態様に係る、試料物質からイオンを抽出する方法は、試料受け取り室で試料物質をイオン化する工程を含む。インターフェース室内に、試料導管を設けられている。乾燥ガスを試料導管に流し込んでイオン化した試料物質を乾燥ガスと混合することにより、試料導管内において試料導管の圧力と長さとの積を50Torr・cm以上とする。
別の実施態様に係る、試料物質からイオンを抽出する方法は、試料受け取り室で試料物質をイオン化する工程を含む。加熱した乾燥ガスを試料受け取り室から分離されたインターフェース室に流し込み、インターフェース室内に配設された試料導管の周囲を経て、乾燥ガス出口を介して試料受け取り室に流し込む。イオン化した試料物質の少なくとも一部と乾燥ガスとを、試料受け取り室から乾燥ガス出口に隣接して配設された入口を介して試料導管に流し込む。インターフェース室内の加熱した乾燥ガスは、試料導管を流れるイオン化した試料物質および乾燥ガスの加熱に利用される。
【0020】
別の実施態様に係る、試料物質からイオンを抽出する方法は、試料受け取り室で試料物質をイオン化する工程と、イオン化した試料物質の少なくとも一部を乾燥ガスとともに、試料受け取り室から試料導管を介してイオン抽出室に流し込む工程とを含む。試料導管は、試料受け取り室と連通した入口と、試料受け取り室の外側に配設された外側部分と、外側部分に含まれる変向部とを備え、イオン化した試料物質および乾燥ガスが通る流路を規定する。
【0021】
別の実施態様に係る、試料物質からイオンを抽出する方法は、試料受け取り室で試料物質をイオン化する工程と、イオン化した試料物質の少なくとも一部を乾燥ガスとともに、試料受け取り室からイオン抽出室に流し込む工程と、イオン抽出室に流れ込むイオン化した試料物質のイオンの極性と反対の極性を有する電界をイオン抽出室内に印加することによってイオン抽出室に進入するイオンの流量を低減する工程とを含む。
【0022】
別の実施態様に係る、試料物質からイオンを抽出する方法は、試料受け取り室で試料物質をイオン化する工程と、イオン化した試料物質の少なくとも一部を乾燥ガスとともに、試料受け取り室から試料受け取り室の外側まで延びている試料導管に流し込む工程と、イオン化した試料物質の荷電種がイオン化した試料物質および乾燥ガスの非荷電種(電気的中性)よりも加速または減速されるように、試料導管を流れるイオン化した試料物質に電圧ジャンプを印加する工程とを含む。
【0023】
別の実施態様に係るイオン化装置は、試料受け取り室と、試料受け取り室と連通した試料イオン化デバイスと、試料受け取り室と連通した乾燥ガス出口と、試料受け取り室と連通し、入口および出口を具備した試料導管と、試料導管の出口を受けるイオン抽出室とを備えている。イオン抽出室は、試料導管の出口から間隔を空けて設けられたイオン出口オリフィスを含む。イオン出口オリフィスの内径は、試料導管の出口の内径よりも小さい。また、イオン出口オリフィスの中心軸は、試料導管の出口の中心軸と実質的に一致する。
【0024】
別の実施態様に係る、試料物質からイオンを抽出する方法は、大気圧より高い圧力に保たれた試料受け取り室で試料物質をイオン化する工程と、イオン化した試料物質の少なくとも一部を乾燥ガスとともに、試料受け取り室から試料導管を介して大気圧に保たれたイオン抽出室に流し込む工程とを含む。
本発明は、以下の図面を参照することによって理解を深めることができる。図面中の構成要素は、本発明の原理を説明するために縮尺の変更や強調を施している。視点が異なる図面において、対応する要素は同じ符号で示す。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】一実施態様に係るイオン化装置の例の模式図である。
【図2】別の実施態様に係るイオン化装置の例の模式図である。
【図3】別の実施態様に係るイオン化装置の例の模式図である。
【図4】別の実施態様に係るイオン化装置の例の模式図である。
【図5】別の実施態様に係るイオン化装置の例の模式図である。
【図6】一実施態様に係るイオン抽出室の例の模式図である。
【図7】一実施態様に係る試料導管の例の模式図である。
【図7A】別の実施態様に係る試料導管の一部の例の模式図である。
【図7B】別の実施態様に係る試料導管の一部の例の模式図である。
【図8】別の実施態様に係るイオン化装置の例の模式図である。
【図9】別の実施態様に係るイオン化装置の例の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本明細書では、「連通(連絡、通信)」という用語は、2つ以上の構成要素または要素間の構造的関係、機能的関係、機械的関係、電気的関係、光学的関係、磁気的関係、イオン的関係、または流体的関係を表すために、一般に使用する(たとえば、第1の構成要素が第2の構成要素と「連通」する、のように使用する)。そのため、第1の構成要素が第2の構成要素と連通(連絡、通信)しているという事実は、別の構成要素が第1の構成要素と第2の構成要素との間に存在する可能性、および/または両構成要素と動作可能に関連または係合する可能性を除外するものではない。
【0027】
本開示では、「大気圧」という用語は、海面における1気圧(760Torr)として表される厳密な大気圧の値を限定的に示すものではない。それよりむしろ、一般的に、「大気圧」という用語は、実質的に(別の表現としては、およそ、近似的に、または概ね)大気圧である任意の圧力も包含する。したがって、「大気圧」は一般に、およそ100Torr〜7,000Torr(または、およそ0.1atm〜10atm)の圧力範囲を包含する。また、本明細書に開示するイオン化装置および方法の実施態様は、大気圧での動作に限らず、むしろ一般的には、真空以上の任意の圧力、すなわち通常は真空圧と考えられない任意の圧力のほか、大気圧およびその近傍よりもはるかに高い圧力でのイオン化を含む。したがって、本開示では、「真空以上」という用語は一般に、およそ10Torr(または、およそ0.01atm)以上の任意の圧力範囲を包含する。
【0028】
本明細書では、APIインターフェースまたは真空以上の圧力で動作する他種のイオン化インターフェースから検体イオンを含む試料物質が導入される真空空間または低圧空間内で通常動作する質量分析/分類デバイスおよび関連する任意の構成要素を参照する場合、「質量分析計」という用語を一般的かつ非限定的な意味で便宜上使用する。
本明細書に開示する主題は、一般に、試料分析のための試料のイオン化に関連したシステム、装置、デバイス、機器、プロセス、および方法に関する。本発明の実施態様については、図1〜図9を参照しつつ以下により詳細に記載する。これらは、質量分析(MS)との関連で例示しているが、本発明の広範な態様は、他種の分析機器にも適用可能であってもよいことを認識すべきである。一般的に、質量分析計以外の分析機器の使用を含めて、イオンの生成が望まれる任意のプロセスは、本開示の範囲に含まれ得る。
【0029】
図1は、一実施態様に係るイオン化装置またはシステム100の例の模式図である。イオン化装置100は、たとえば質量分析計104と動作可能に関連付けられていてもよい。また、イオン化装置100は、試料をイオン化するための試料イオン化デバイス108を具備する。試料イオン化デバイス108は、簡単に上述したとおり、ESI、APCI、APPI、またはAP−MALDI等と併せて用いられる適切なイオン化デバイスであればよく、また、そのようなイオン化デバイスに限定されるものでもない。ただし、多重モードの実施態様における例示された試料イオン化デバイス108は、同じ試料受け取り室124に設けられ、同時または順次に動作する上述した種の2つ以上のイオン化デバイスで構成してもよい。実際には、ESI、APCI、APPI、またはAP−MALDI等の異なる種のイオン化技術を相補的に利用してもよく、その場合は非常に有用である。さらに、従来は、このようなデバイスを大気圧イオン化(API)と関連付けていたが、本明細書に教示する主題の実施態様は、上述したように大気圧での動作に限定されない。
【0030】
試料イオン化デバイス108は、実装される特定のイオン化技術に応じて、イオン化されるべき試料物質が流れる導管(たとえば、キャピラリ、ニードル、細管等)112を備えていてもよく、さらに、同軸に、窒素(N)等の不活性霧化ガスが流れる外側導管116を任意に備えていてもよい。気化デバイス、電気エネルギーまたは電磁エネルギー入力デバイス(たとえば、電圧源、対電極、エレクトロスプレーニードル、コロナ放電電極、光子源、レーザー等)といった他の構成要素については、当業者には明らかなように、特定のイオン化技術を実装するために必要に応じて備えていてもよい。簡素化のため、これら他の構成要素は図示していない。上記のようなすべてのイオン化技術において、試料物質は通常、気化成分を含むガス流(たとえば、噴流(ジェット)、霧状、電気スプレー、エアロゾル等)として試料イオン化デバイス108から放出される。これについては、形態や組成にかかわらず、試料液滴流またはイオン化試料物質120と便宜上称するものとする。
【0031】
本開示の目的上、試料物質の組成、試料イオン化デバイス108への試料物質の供給方法、および流量、圧力、粘度等の流体力学パラメータには、具体的な制限を設けていない。試料イオン化デバイス108に供給される試料物質は、通常の実施態様では主に流体であるが、他の実施態様においては、固体または多相混合物であってもよい。APIに関する多くの実施態様では、流体は主に液相である。たとえば、試料物質は、検体成分が1種もしくは複数種の溶媒に予め溶解された溶液または検体成分が他種の成分に媒介される溶液であってもよい。溶媒以外にも、賦形剤、緩衝剤、添加剤、ドーパント、試薬等の他の補助的な成分(すなわち、必ずしも必要ではないが、分析を向上させる成分)が存在してもよい。別の例として、試料物質は、クロマトグラフィ、電気泳動、またはその他の分析分離プロセスによる溶離液であってもよい。この場合、試料物質は、検体および移動相成分の基質であってもよい。また、試料物質は、イオン化装置100におけるその所定部分の位置またはイオン化を行う手順段階に応じて、主にイオンのみ、またはイオンとその他の成分(荷電および/または非荷電(電気的中性)液滴、蒸気、ガス等)との組み合わせを含んでいてもよい。したがって、本明細書における「試料物質」という用語は、特定の相、形態、組成に限定されない。さらに、試料イオン化デバイス108を流れる試料物質は、バッチボリューム、試料プローブ、または上流側の機器やプロセス等の適切な供給源または試料注入システム(図示せず)から発生したものであればよい。たとえば、試料イオン化デバイス108の入口は、クロマトグラフィカラム等の分析分離システムまたはデバイスの出口で構成したり、連通させたりしてもよい。その他の例として、試料物質は、液体処理システム、貯留槽、注射器等の試料移送デバイス、または溶出試験システムから試料イオン化デバイス108に供給する構成であってもよい。試料物質の試料イオン化デバイス108への流し込みまたは試料イオン化デバイス108内での流れは、ポンプ、移動界面、圧力差動、キャピラリ動作、または電気関連の技術等、任意の手段で生じさせてもよい。
【0032】
図1に示すとおり、試料液滴流120は、試料受け取り室(またはイオン化室)124内部に流れ込む。試料受け取り室124は、壁等の境界または構造128等の適切なハウジングまたは密閉構造で画成したものであってもよい。また、試料受け取り室124は、密閉領域を提供し、その内部では、試料物質のイオン化の全体または一部が、質量分析における検体イオンの検出等、所望の分析手順の一部として行われてもよい。試料受け取り室124の少なくとも1つの壁またはその一部(たとえば、境界128)には、入口136を有する試料インターフェース導管132を受ける開口が含まれる。試料導管の入口136は、試料受け取り室124の試料排出オリフィスとして機能する。試料物質は、このオリフィスを通って試料受け取り室124から流出し、大略的にフロー矢印140で示す方向に、入口136を介して試料導管132に進入する。試料導管の入口136は、試料受け取り室124の対応する開口と面一または実質的に面一(または適合)にされていてもよい。あるいは、試料導管132の注入端は、試料受け取り室124の中まで延びていてもよい。上記いずれの場合にも、試料導管の入口136は、境界128に位置することを特徴としてもよい。また、試料受け取り室124の同じ境界128は、乾燥ガスが試料受け取り室124内に流入する乾燥ガス出口144を備えていてもよい。乾燥ガス出口144は、試料受け取り室124に面した境界128の表面と面一もしくは実質的に面一であってもよく、または、試料受け取り室124の中まで延びていてもよい。また、乾燥ガス出口144は、試料導管の入口136に隣接する1または複数の乾燥ガスオリフィス、スリット、アーチ状スロット等を含む構成であってもよい。したがって、図1に示す実施態様においては、乾燥ガスが大略的にフロー矢印148で示す方向に、乾燥ガス出口144を介して試料受け取り室124に導入される。乾燥ガスの少なくとも最初の流れ148は、排出される試料物質の流れ140に対して、大略的に逆流する構成であってもよい。ただし、乾燥ガスの最初の流れ148の方向は、試料物質の流れ148と同じ方向等、任意の方向であってもよい。さらに、乾燥ガスは、試料液滴流120に含まれる試料物質との組み合わせで、排出流140の一成分を構成してもよい。
【0033】
また、イオン化装置100は、インターフェース室または中間室152を備えていてもよい。インターフェース室152は、適切なハウジングまたは包囲構造で画成したものであってもよい。インターフェース室152の1または複数の壁、境界、またはその他の構造は、試料受け取り室124と共有されていてもよい。すなわち、たとえば図1に示す境界128のように、試料受け取り室124とインターフェース室152との間の仕切りとして機能するものであってもよい。境界128のほか、本開示に記載の他の境界は一般に、所定チャンバの個別の一面を包含するため、単一の平面壁または表面のみならず、そうした壁または表面に関連するその他の構造的特徴を含んでいてもよい。図1に示す例では、試料導管132の長さ方向のほとんどまたはすべてが入る包囲空間がインターフェース室152によって提供される。インターフェース室152の少なくとも1つの壁またはその一部(たとえば、境界156)は、試料導管132の出口158を受ける開口を含む。
【0034】
試料導管132は、試料受け取り室124と質量分析計104の低圧/真空領域との中間に位置する個別のインターフェースまたはステージとして機能する。いくつかの実施態様では、試料導管132によって規定される内部流路が少なくとも1つの変向(方向転換)部を含むように、試料導管132が少なくとも1つの非直線部分(構造、機構等)を含む。すなわち、試料導管132の長さ方向に沿った少なくとも2つの所定点を考えると、一方の点における試料導管132の内部断面の中心軸は、他方の点における内部断面の中心軸に対してゼロ以外の角度を有することになる。このように、試料導管132の長さ方向に沿った1または複数の点において、内部断面の中心軸は試料導管132の内面と交差して通過するため、この軸に沿って流れる試料物質の液滴またはその他のより重い成分は、内面に衝突することになる。非直線部分は、試料導管壁、乾燥ガス、および試料物質間のエネルギー交換を増大するために設けてもよい。その結果として、試料イオンクラスタの脱溶媒和および液滴の蒸発が実現される。
【0035】
たとえば、試料導管132は、入口136と出口158との間に1または複数の屈曲部または変向部を含んでいてもよい。これによって、試料物質および乾燥ガスを試料受け取り室124から質量分析計104に移送する非直線拡張流路(たとえば、単屈曲形状、複屈曲形状、回旋形状、蛇行形状等)が構成される。試料導管132の変向部または屈曲部は、試料導管132内の流量、圧力、および試料物質の予想組成に応じて、鋭角的または鋭峻な形状から比較的大きな曲率半径の曲線形状までの範囲を含んでいてもよい。図1に示す例では、試料導管132の長さ方向の大部分が、環状、螺旋状、または渦巻状に変向している。この種の非直線性が存在すると、互いに角度を成す多数の中心線軸を有する曲線形状の流路が得られるため、試料成分が試料導管132の内壁に衝突する機会が増える。その他の例として、試料導管132は、肘状部分、L字状部分、U字状部分等を含んでいてもよい。
【0036】
また、イオン化装置100は、適切な乾燥ガスをイオン化装置100に供給する乾燥ガス源160も具備する。乾燥ガスは、たとえば窒素(N)であってもよい。乾燥ガス源160は、乾燥ガスの1または複数の流れ168をイオン化装置100に導入する1または複数の乾燥ガス源入口164を具備する。また、乾燥ガス源160は、乾燥ガスをイオン化装置100に導入する前に加熱する手段またはデバイス(特に図示せず)と、乾燥ガスを流すとともにその流量または圧力を調整するポンプおよびその関連要素等の手段を備えていてもよい。インターフェース室152の境界のうちの1つ(たとえば、図1に示す境界170)には、乾燥ガス入口164で終端している乾燥ガス源160の導管に適合する開口、接続部、フィードスルー等を含んでいてもよい。この場合、乾燥ガス源160は、インターフェース室152と連通している。乾燥ガス源の出口164は、インターフェース室152の境界170の対応する開口と面一もしくは実質的に面一であってもよく、または、インターフェース室152の中まで延びていてもよい。
【0037】
したがって、図1に示す例では、加熱した乾燥ガスがフロー矢印168で示すように1または複数の乾燥ガス源の入口164を介してインターフェース室152に流れ込み、インターフェース室152内部を通って、フロー矢印148で示すように乾燥ガス出口144(たとえば、1または複数の乾燥ガスオリフィス)を介して、インターフェース室152から試料受け取り室124に流れ込む流路を成すように、イオン化装置100が構成されている。インターフェース室152を通る乾燥ガスの流れは、試料導管132を通る試料物質および乾燥ガスの流れと物理的に分離されている。ただし、乾燥ガスは、インターフェース室152内部を通過する際、試料導管132の周囲でその外表面と熱的に接触して流れる場合があるため、試料導管132を流れる試料物質が加熱されるほか、試料物質とともに試料導管132を流れる乾燥ガスの高温が維持されることになる。入口136および出口158を含む試料導管132は、試料導管132内を流れる試料物質を加熱することが必要であるときは、インターフェース室152内で乾燥ガス源の入口164および乾燥ガス出口144と関連した配置としてもよい。同様に、乾燥ガス源の入口164(乾燥ガス流168の最初の方向の角度または向きを含む)および乾燥ガス出口144は、試料導管132内を流れる試料物質を効果的に加熱することが必要であるときは、試料導管132と関連した配置としてもよい。以上の考察を念頭に置くと、図1に示す乾燥ガス源の入口164、乾燥ガス出口144、および試料導管132の相対位置および方向は、ほんの一例として任意に示したものに過ぎないということが明らかである。
【0038】
必要または要望に応じて、付加的構成要素(図示せず)を利用することにより、インターフェース室152および試料導管132に導入される乾燥ガスからの熱エネルギーの伝達を最適化してもよい。たとえば、乾燥ガス源160は、2つ以上の適当に配置した乾燥ガス源の入口164に乾燥ガスを導くプレナムまたはマニホールドを備えていてもよい。別の例として、インターフェース室152にプレナム、バッフル、またはその他の構造を設けることによって、インターフェース室152内に所望の乾燥ガス流路を構成してもよい。
【0039】
試料導管132の加熱に乾燥ガスを利用する代わりに、またはそれに加えて、試料導管132を加熱する他の手段を用いてもよい。たとえば、試料導管132の導電層または導電部分に電流を流すこと等による抵抗加熱手段(図示せず)を用いてもよい。別の例として、電気カートリッジを用いて試料導管132を加熱してもよい。試料導管132の加熱に乾燥ガス以外の手段を利用することは、試料導管132の加熱および乾燥ガスの流れを独立して制御する場合に望ましい。
【0040】
乾燥ガスが入口136から試料導管132に進入できるように1または複数の乾燥ガス出口144を利用する代わりに、またはそれに加えて、試料導管132の長さ方向の各位置で、試料導管132の壁に1または複数の開口169を形成することによって、上記と同じように加熱した乾燥ガスと試料導管132内を流れる試料物質との接触を図ってもよい。一例として、図1には、試料導管132の長さ方向の中間位置またはその近傍に形成した乾燥ガス入口開口169を示している。インターフェース室152内と試料導管132内との圧力差は、試料導管132の長さ方向に沿った所望の位置で乾燥ガスを引き込むのに十分である。設けられる開口169の寸法および/または数は、乾燥ガスの試料導管132への流入が所望の特性となるように選択してもよい。
【0041】
また、イオン化装置100は、イオン抽出または出口室172を備えていてもよい。イオン抽出室172は、適切なハウジングまたは包囲構造で画成したものであってもよい。インターフェース室152の1または複数の壁、境界、またはその他の構造は、イオン化装置100の他のチャンバまたは領域と共有していてもよい。たとえば、図1に示す境界156は、インターフェース室152とイオン抽出室172との間の仕切りまたは共通側面として機能してもよい。上述のとおり、この境界156は、試料導管の出口158を受ける開口を含んでいてもよい。試料導管の出口158は、この開口と面一または実質的に面一であってもよい。あるいは、試料導管152の出口端は、イオン抽出室172の中まで延びていてもよい。イオン抽出室172は、検体イオンの非分析物質からの分離および質量分析計104への導入に備えて、大略的にフロー矢印176で示す方向に試料物質が試料導管の出口158から流れ込む包囲された内部を提供する。また、イオン抽出室172は、イオンを通すサンプリングオリフィス180に対応した開口と、非分析物質を通す排出ポート184とを備えている。
【0042】
大気圧またはその近傍での動作に限定された従来のイオン化インターフェースとは異なり、本開示の実施態様に係る試料受け取り室124の内部は、大気圧(または常圧)、大気圧の近傍、大気圧を大幅に上回る圧力、または大気圧を大幅に下回る圧力のいずれであってもよい。一般的に、試料受け取り室124内の圧力は、100Torr〜15,200Torr(または、0.013〜20気圧)の範囲であってもよく、イオン抽出室172内の圧力よりも高い圧力を有するものとする。試料受け取り室124内をイオン化のための所望のバックグラウンド圧力に加圧するため、乾燥ガスまたは乾燥ガスと試料イオン化デバイス108等から供給される霧化ガスとの両者を利用してもよい。試料受け取り室124内を大気圧以上に加圧することによって、乾燥ガスと試料物質との双方の試料導管132への導入を促進するように構成してもよい。
【0043】
一般的に、インターフェース室152内の圧力は、いかなる値であってもよい。ただし、インターフェース室152を利用して試料導管132を加熱する乾燥ガスの流れを導く場合、インターフェース室152内の圧力は、乾燥ガス源の出口164から導入される乾燥ガスの影響を大きく受ける場合がある。このような場合、インターフェース室152内の圧力は、乾燥ガスのこの熱エネルギー伝達機能を促進する、または少なくとも損なわない大きさとすべきである。一般的に、インターフェース室152内の圧力は、常圧または大気圧であってもよく、試料受け取り室124内の圧力と同等もしくはおよそ同等であってもよく、または、試料受け取り室124内の圧力よりも、たとえばおよそ5〜40Torr高くてもよい。
【0044】
イオン抽出室172内の圧力は、流入する試料の流れ176からイオンを抽出するとともに、試料物質および乾燥ガスを試料導管132に導入できるように試料受け取り室124とイオン抽出室172との圧力差を維持するのに適した圧力であれば、いかなる圧力であってもよい。一例として、イオン抽出室172内の圧力は、100〜数百Torrオーダー、さらには、およそ200Torrである。別の例として、イオン抽出室172内の圧力は、大気圧以上であってもよい。その結果として、インターフェース自身の圧力すなわち試料導管132内の圧力は、試料受け取り室124内の圧力よりも低くなる。なお、試料物質を試料受け取り室124から排出させる手段は、本開示に教示する試料導管132であるが、従来のイオン化装置では、そのような排出手段は、サンプリングオリフィス、すなわち質量分析計の低圧/真空ポンプステージに直接通じるキャピラリまたはスキマーであった。
【0045】
試料導管132内の圧力は、入口136の領域も含めて、従来配設されていたサンプリングオリフィスの圧力よりも高い。このように圧力が高く、試料物質と乾燥ガスとがより長時間にわたって接触している場合は、加熱した乾燥ガスと溶媒液滴および試料イオン化デバイス108で生成された試料物質のイオンクラスタとの間の熱エネルギーの移動がより効率的となる。
【0046】
動作の際、試料イオン化デバイス108から放出された試料液滴流120において、試料物質は、試料導管の入口136へと導かれる。また、試料受け取り室124内に適切な方向の電界を印加することによって、試料液滴流120中の荷電成分は、試料導管の入口136へ引き付けられる。たとえば、試料イオン化デバイス108のエレクトロスプレーニードル、コロナ放電電極、光子源、またはその他の導電性要素等の構成要素と、試料導管の入口136または試料導管の入口136と隣接するその他の導電性要素との間に電位差を設けてもよい。試料物質は、試料受け取り室124と試料導管132との圧力差によって、試料導管の入口136内へと引き込まれる。試料導管の入口136内への試料物質の流れ140は、上述した電界または追加の電界を印加することにより促進してもよい。また、試料受け取り室124内の圧力が大気圧以上の相対的に高い水準に加圧されている場合は、その加圧が試料物質を試料導管の入口136内へ押し込むように作用するものであってもよい。
【0047】
試料物質は、試料導管の入口136内に流れ込む。乾燥ガス出口144を図示した位置に設けた実施態様の場合、最初のうちは、試料物質が乾燥ガスの逆流148に対向して流れ込む。このようにして、乾燥ガスは、試料導管の入口136前の領域で試料物質と接触し、試料導管の入口136からの液滴の蒸発および/または溶媒液滴の一掃を促進する。乾燥ガスとのこの最初の接触で蒸発または一掃されなかった液滴は、試料物質のイオン、荷電クラスタ、および他の成分とともに試料導管の入口136に進入する。従来技術とは異なり、乾燥ガスがまた試料物質とともに試料受け取り室124から排出され、上述したように開口169を介して試料導管132に進入することは、意図的に許されている。上述したとおり、従来のイオン化装置では、試料物質のイオン化室からの出口は、質量分析計に直接通じるサンプリングオリフィス(たとえば、キャピラリまたはスキマー)であった。従来技術の場合、理想的なプロセスは、検体イオンのみが試料受け取り室124から排出されることであった。よって、このような従来技術では、試料受け取り室124における液滴の蒸発および一掃を最大化するとともに、試料受け取り室124から排出される試料物質の流れを乾燥ガスが伴うことを最小化しようとする。これに対し、図1に示す実施態様では、試料受け取り室124からの試料物質の出口は、試料導管132への入口136である。このようなインターフェースにより、加熱した乾燥ガスと試料物質との接触度が大幅に高くなるとともに、以下に述べるその他の性能基準も改善される。
【0048】
上記した例のような実施態様に係るイオン化装置100の1または複数の特徴は、試料イオンの脱溶媒和の改善、液滴の蒸発、ならびに液滴および基質バックグラウンド成分からの試料イオンの分離を実現するものとして実現してもよい。これにより、高いイオン信号強度、低い化学的バックグラウンド、高い信号対雑音(S/N)比、高い感度が得られるとともに、質量分析計104等の下流側分析機器の汚れを抑制できる。イオン化装置100、特に試料導管132が提供するインターフェースは、上述したような手段により高温で動作するため、試料イオンの脱溶媒和が促進される。また、試料イオン化デバイス108によって試料受け取り室124に導入された試料イオン、液滴等の成分は、乾燥ガス出口144から放出された乾燥ガスとともに試料導管132に取り込まれる。これらの成分が試料導管152の内部で衝突することにより、試料イオンの脱溶媒和はさらに促進される。さらに、乾燥ガスは、従来のイオン化インターフェースよりも長時間にわたって試料物質の液滴と熱的に接触するため、より多くの熱エネルギーが液滴に伝達され、液滴の蒸発が促進されることになる。試料物質がフロー矢印176で示すようにイオン抽出室172に到達するまでに、液相成分のほとんどまたはすべてが蒸発し、イオンクラスタおよび溶媒和イオンが遊離される。イオン化装置100においては、インターフェースが従来のイオン化インターフェースよりも比較的高圧で動作可能に構成されているため、熱エネルギーの伝達も向上する。上述のとおり、インターフェースは、経路長に応じて、20〜30Torrから数気圧の範囲で動作するように構成してもよい。また、非直線性(たとえば、屈曲状、螺旋状、回旋状等)の試料導管132で構成された試料物質の非直線経路によって、試料イオンと乾燥ガスとの衝突が増加し、その運動量、遠心力等に起因して、より大きな液滴が試料導管132の内面に衝突する。試料導管132の各屈曲部分または変向部分の角度および曲率半径は、この目的に適したものであればよい。
【0049】
試料導管132内における総衝突回数を把握または計測する方法の1つとして、試料導管132内の圧力と試料導管132の長さとの積(Torr×cmまたはTorr・cm)を検討することができる。一例として、この圧力と長さとの積は、50Torr・cm以上である。別の例としては100〜10,000Torr・cm、さらに別の例としては、200〜2,000Torr・cmである。試料導管132内の圧力は、その長さに応じて、20Torr〜7,000Torrの範囲となり得る。別の例としては、この圧力は、およそ100Torr〜7,000Torrである。さらに別の例としては、試料導管132内の圧力がおよそ200Torrで、試料導管132の長さがおよそ10cmであり、この場合には圧力と長さとの積が2,000Torr・cmとなる。なお、通常の実施態様においては、試料導管132の長さ方向の圧力変化は最小となっているが、試料導管132内の圧力を平均値として扱ってもよい。多くの実施態様において、試料導管132の圧力は主にポンピング速度によって決まる。
【0050】
本実施例の動作を継続し、試料物質がイオン抽出室172に到達すると、脱溶媒和されたイオンが入ってくる流れ176から抽出されて、大略的に矢印188で示すように、サンプリングオリフィス180に進入する。一方、非荷電成分およびその他の非分析物質は、大略的に矢印192で示すように、排出ポート184へと導かれる。この目的のため、排出ポート184は、ポンプ等の適切な真空源(図示せず)と連通していてもよい。また、後述する他の実施態様において、排出ポートは、周囲環境への通気孔として機能するものであってもよい。図1に示す実施態様においては、試料導管の出口158の軸が排出ポート184の軸と大略的に一直線となっており、サンプリングオリフィス180が試料導管の出口158の軸から外れた方向を向いている。後述する他の実施態様においては、試料導管の出口158の軸がサンプリングオリフィス180の軸と大略的に一直線となっており、排出ポート184が試料導管の出口158の軸から外れた方向を向いている。流入試料176から所望の検体イオンを抽出することを補助する必要に応じて、試料導管152、サンプリングオリフィス180、およびイオン抽出室172の1または複数の壁等、イオン抽出領域の導電性要素に1または複数の電圧源を電気的に連通させて接続してもよい。ただし、多くの実施態様においては、イオン抽出室172とサンプリングオリフィス180の低圧側または真空側との圧力差によって、イオンをサンプリングオリフィス180に導く十分な駆動力が得られる。さらに後述するように、適当な電圧を印加することによって、イオン抽出室172に流れ込むイオンの速度を低減させてもよい。
【0051】
サンプリングオリフィス180は、質量分析計104の低圧領域および真空領域に通じるイオン入口として機能する。また、サンプリングオリフィス180は、質量分析計104に通じるイオン通路の長さに応じて、図1に例示するような小径管またはキャピラリ196の入口を構成してもよい。さらにこの実施例において、質量分析計104は、1または複数の中間室またはポンプステージ202と質量分析ステージ206とを備えていてもよい。図1に示すポンプステージ202は、矢印210で示すように、適切なポンプによって大気圧以下の適切な圧力(たとえば、およそ1Torr)に減圧されてもよい。キャピラリ196によって移送されたイオンは、ポンプステージ202を通って、スキマープレート214等に設けられたオリフィスを介して質量分析ステージ206に流れ込む。質量分析ステージ206は、矢印218で示すように、適切なポンプによって適切な低真空圧(たとえば、およそ1〜2mTorr)に減圧されてもよい。また、質量分析ステージ206は、イオン誘導部や質量分類(ソート)デバイス等、当業者によく知られているような質量分析の実施に関連する様々な構成要素を備えていてもよい。質量分類デバイス内の圧力は、超低真空圧(たとえば、10−5Torr以下)にまでさらに減圧されてもよい。質量分析技術としては、様々なものが知られている。本開示に教示する実施態様では、特殊な質量分析計104は一切不要である。
【0052】
図2は、イオン化装置250のインターフェース構造の別の例を示した模式図である。この実施態様は、試料物質の流路に複数の変向部を含む巻回状または渦巻状の試料導管232を具備する。試料導管232は、入口256および出口260を具備する。試料導管の入口256は、インターフェース室の壁268に円周方向に間隔を空けて形成された複数の乾燥ガスオリフィス264に囲まれている。この壁268は、乾燥ガスが乾燥ガスオリフィス264から進入する試料受け取り室と共有の境界を構成するものであってもよい。乾燥ガスオリフィス264は、試料導管の入口256からわずかな距離だけ半径方向に離れているため、試料受け取り室における従来のような蒸発および一掃の機能を乾燥ガスで果たすことができる上、乾燥ガスを試料物質とともに試料導管の入口256に取り込むことができる。試料導管の出口260は、共通の境界を介して壁268と隣接する別の壁272と適合しているか、または壁272を通って延びている。図2に示すその他の構成要素は、上記しかつ図1に示す同じ構成要素と同様な構成であってもよい。
【0053】
図3は、イオン化装置300のインターフェース構造の別の例を示した模式図である。この実施態様は、入口336および出口358を備えた試料導管332を具備する。試料導管332は、単屈曲またはL字状の形状を有する。屈曲角は、図3に示すとおり、90度またはおよそ90度であってもよく、大きな液滴が試料導管332の内面に衝突する非直線性の試料物質流路を提供するのに十分な角度であれば、いかなる角度でもよい。
【0054】
図4は、イオン化装置400のインターフェース構造の別の例を示した模式図である。この実施態様は、入口436および出口458を備えた試料導管432を具備する。試料導管432は、たとえば、2つの屈曲もしくはL字形状を有するか、またはU字状の形状を有することにより、180度変向した試料物質流路を構成している。1つの境界または側面428には、試料導管432の入口端および出口端の双方に対する開口が設けられている。この境界または側面428は、試料受け取り室124のみならず、イオン抽出室172と共有していてもよい。図4に示す一例では、U字形状が、2つの脚部の間に直線状または実質的に直線状の部分470を含んでいる。あるいは、同じく図4に示す別の例では、試料導管432が2つの脚部の間に曲線部分471を含んでいる。
【0055】
図5は、イオン化装置500のインターフェース構造の別の例を示した模式図である。この実施態様は、入口536および出口558を備えた試料導管532を具備する。試料導管532は、2つ以上の屈曲またはL字形状を有する。1つの境界または側面528には、試料導管532の入口端に対する開口が設けられている。別の境界または側面530には、試料導管532の出口端に対する開口が設けられている。境界または側面530は境界または側面528に対向しているか、または両者間に介在する境界または側面556によって境界または側面528から少なくとも間隔を空けて配されている。図5に示す実施態様の別の例として、試料導管532は、図2に示す構成と同様の巻回状または渦巻状の複数の屈曲部をさらに含む。
【0056】
上記しかつ図2〜図5に示した例において、試料導管232、332、432、および532は、図1に示す試料導管132に設けられた開口169の代わりに、またはそれに加えて、類似する1または複数の開口を備えていてもよい。また、試料導管232、332、432、および532内の圧力、および、試料導管232、332、432、および532の長さ、さらには、これらの実施態様で得られる圧力と長さとの積は、図1に対応する実施態様に関連して示した上記の値と同様であってもよい。
【0057】
図1〜図5に示す非直線試料導管の複数の実施態様は、ほんの一例として示したものに過ぎず、これらには限定されない。本発明は、大きな液滴が試料導管の内面に衝突する非直線性の試料物質流路を提供する別の実施態様を包含する。
上記しかつ図1〜図5に示したイオン化装置の例とは別の実施態様として、乾燥ガス源160または少なくともその出口164は、試料受け取り室124内に直接備わっていてもよい。この場合、乾燥ガス源の出口164は、試料導管の入口136に隣接して一定の方向で設けられていてもよい。これにより、上述の実施態様と同様に、乾燥ガスが試料受け取り室124内で試料物質と作用し、試料物質とともに試料導管の入口136に取り込まれる。上述の実施態様のように、乾燥ガスからの熱は、試料導管の入口136の前にある試料物質に伝達されるほか、乾燥ガスおよび試料物質の両者が試料導管132を通過する間に、試料物質に伝達される。別の具体例として、乾燥ガスは、上記特許文献1に記載の技術と同様に、試料イオン化デバイス108から放出される試料物質の流れ120に対して所望の角度で、試料受け取り室124に直接導入してもよい。ただし、本発明においてこの技術を採用すると、乾燥ガスおよび試料物質の流れが試料導管の入口136の前の領域で交差することになる。試料導管132を流れる試料物質の温度を高温に維持する必要がある場合は、加熱ガスの第2または補助的な加熱ガス源を設け、加熱ガスをインターフェース室152に導入することにより、補助的な加熱ガスを試料導管132と熱的に接触させてもよい。すなわち、そのような実施態様では、乾燥ガス源の入口および補助的な加熱ガス源の入口の両者を備えていてもよい。
【0058】
図6は、上述の任意の実施態様と併せて利用可能なイオン抽出室600の一例を示した模式図である。フロー矢印604で示すとおり、試料物質は、試料導管608を介してイオン抽出室600に導入される。また、フロー矢印612で示すとおり、試料の流れ604からイオンが抽出され、サンプリングオリフィス620を介して、質量分析計の入口616に導かれる。また、試料物質の非荷電成分およびその他の非分析成分は、フロー矢印624で示すとおり、排出ポート628を介してイオン抽出室600外に導かれる。これは、通常、低圧もしくは真空ポンプの影響下、または、別の実施態様においては、大気圧条件下で行われる。
【0059】
いくつかの実施態様では、イオン抽出プロセスの効率を上げるため、イオン抽出領域に減速用の直流(DC)電界を印加する手段が、イオン抽出室600に設けられている。この印加電界によって得られる力は、流入する試料の流れ604と反対の方向である(または、大略的に反対の方向であってもよい)。これにより、イオン抽出領域におけるイオン流の速度が低下する。その結果、安定状態に達すると、イオン抽出領域におけるイオン密度は、他の領域よりも高くなる。イオン抽出室600で印加される減速用のDC電界は、イオン抽出室600に関連する1または複数の導電面に1または複数の適当な電圧を印加することによって形成してもよい。たとえば、図6に示すとおり、イオン抽出室600の導電壁または壁部分632は、絶縁要素636および640によって他の導電性要素から電気的に分離されている。イオン抽出室600の別の導電壁または壁部分642は、絶縁要素636および646によって第1の壁632および他の導電性要素から電気的に絶縁されている。また、サンプリングオリフィス620を規定する構造は、絶縁要素640および646によって壁632および642から電気的に絶縁されている。第1の壁632、第2の壁642、およびサンプリングオリフィス620に電圧V1、V2、およびV3をそれぞれ印加するため、電圧源650、654、および658、またはその他の適切な手段が採用されている。陽イオンに対しては、電圧V1を電圧V2よりも高い大きさで正にバイアスすることにより、減速用のDC電界が生成される。電位差ΔV=V1−V2は、たとえば約200V〜2kVの範囲であってもよい。陽イオンを抽出してサンプリングオリフィス620に導入するには、電圧V3は、電圧V2よりも低くするべきであり、通常0Vまたは単に接地電位とされる。
【0060】
図7は、1または複数のDC電圧ジャンプまたは高周波(RF)電圧ジャンプを試料導管700に印加して試料イオンと乾燥ガス(および/またはその他の非荷電成分)との衝突を促進する実施態様を示した斜視図である。試料導管700は、入口704および出口708を具備する。また、試料導管700は、2つ以上の電気的導電性部分、たとえば3つの部分712、716、および720をさらに含む。隣接する部分の開放端は、間隔を空けて分離されるとともに、中空の絶縁要素によって囲まれている。たとえば、隣接する部分712および716の開放端は、絶縁要素728に囲まれた間隙724によって分離されており、隣接する部分716および720の開放端は、絶縁要素736に囲まれた間隙732によって分離されている。各間隙を横切る電圧ジャンプを生成するため、電圧源またはその他の適切な手段が隣接する部分と電気的に連通している。たとえば、電圧源740および744は、隣接する部分712および716と接続することによって、間隙724に電位差V4−V5を印加している。この電位差はパルス状であってもよい。各間隙724または732に印加される電位差は、たとえば約500V〜2kVの範囲であってもよい。印加される電界の極性は、試料導管700内を通るイオンが正または負のいずれであるかにかかわらず、どちらの方向であってもよく、交流電界であってもよい。電圧ジャンプは、イオンの極性に対する印加電界の極性に応じて、試料物質のイオンおよびその他の荷電成分を非荷電成分および乾燥ガスに対して加速または減速する。イオンの加速または減速が相対的であるのは、非荷電成分および乾燥ガスの流量が試料導管の入口704と出口708との圧力差、液滴の蒸発に起因する膨張等、非電気的な要因に依存するためである。このように電圧ジャンプを印加することによって、当初加速する荷電種の前にある乾燥ガス分子と当該加速する荷電種との衝突、および/または当初減速する荷電種の後ろにある乾燥ガス分子と当該減速する荷電種との衝突が促進される。
【0061】
別の例として、図7Aは、長さ方向または細長の間隙762によって長さ方向の部分754および758に分離または分割された試料導管750の全長または一部を示したものである。試料導管750の間隙762は、中空の絶縁要素によって囲まれていてもよい(図示しないが、図7に示した類似の絶縁要素728および736を参照)。これらの長さ方向の部分754および758には、それぞれ電圧源766および770が電気的に連通しており、これによって、間隙762に電位差V6−V7を印加することができる。この電位差はパルス状であってもよい。この構成によって、試料導管750を通る試料物質の流れを大略的に横切る方向に、RF電圧ジャンプを印加してもよい。こうすることで、イオンおよびその他の荷電成分に横方向の振動または摂動が加えられて、乾燥ガス分子および/またはその他の非荷電成分との衝突が促進される。
【0062】
さらに別の例として、図7Bは、断面方向の間隙780によって2つ(またはそれ以上)の断面方向の部分776および778に分離または分割された試料導管774の全長または一部を示したものである。断面方向の各部分776および778は、さらに、それぞれ対応する長さ方向または細長の間隙788および790によって、それぞれ、長さ方向の部分782、783、784、および785に分離または分割されている。各間隙は、必要に応じて、中空の絶縁要素(図示せず)によって囲まれていてもよい。長さ方向の部分782、783、784、および785には、それぞれ電圧源792、793、794、および795が電気的に連通しており、これによって、対応する長さ方向の間隙788および790に電位差V6−V7を印加することができる。この電位差はパルス状であってもよい。図7Bに示すとおり、イオンが連続する断面方向の部分776および778を流れるときに、イオンに印加される電界が交番するように、電位差の極性は、断面方向の一方の部分776から別の隣接する断面方向の部分778にかけて反転するように構成してもよい。この構成によって、試料導管774を通る試料物質の流れを大略的に横切る方向にDC電圧ジャンプを印加してもよい。こうすることで、イオンおよびその他の荷電成分に横方向の振動または摂動が加えられて、乾燥ガス分子および/またはその他の非荷電成分との衝突が促進される。また、この実施態様においても、RF電圧ジャンプを印加してもよいことに留意すべきである。
【0063】
図8は、イオン化装置またはシステム800の別の例を示した模式図である。上述の実施態様と同様、イオン化装置800は、試料をイオン化して試料液滴流120を形成する試料イオン化デバイス108を具備する。試料液滴流120は、試料受け取り室(またはイオン化室)824内部に流れ込む。試料受け取り室824は、1または複数の壁または他種の構造的境界等の適切なハウジングまたは密閉構造で画成したものであればよい。少なくとも1つの壁または境界828、またはそのような壁または境界828の一部には、入口836および出口858を有する試料インターフェース導管832を受ける開口が含まれる。試料導管の入口836は、試料受け取り室824の試料出口オリフィスとして機能する。このため、試料物質は、試料受け取り室824から流出し、大略的にフロー矢印840で示す方向に、入口836を介して試料導管832に進入する。このように、試料導管の入口836は、境界828に設けられていてもよい。すなわち、試料導管の入口836は、境界828に設けられた対応する開口と面一または実質的に面一であってもよい。あるいは、試料導管832の入口端は、試料受け取り室824の中まで延びていてもよい。試料導管の出口858は、境界828からいくらかの距離をおいて、試料受け取り室824の外側に配設されている。また、試料受け取り室824の同じ境界828は、試料導管の入口836に隣接する乾燥ガス出口844(たとえば、1または複数の乾燥ガスオリフィス)を備えていてもよい。したがって、乾燥ガスは、大略的にフロー矢印848で示す方向に、乾燥ガス出口844を介して試料受け取り室824に導入される。乾燥ガスの少なくとも最初の流れ848は、排出される試料物質の流れ840に対して、大略的に逆流する構成であってもよい。さらに、乾燥ガスは、試料物質との組み合わせで、排出流840の重要な一成分を構成してもよい。乾燥ガスは、適切な乾燥ガス源860から入口864を介して供給される。また、乾燥ガス源860は、乾燥ガスを加熱するデバイス(特に図示せず)を備えていてもよい。乾燥ガスの試料導管832への導入は、乾燥ガス出口844を利用する代わりに、またはそれに加えて、図1に示す実施態様に関連して上述したような、試料導管832に設けられた1または複数の開口(図示せず)を介して行ってもよい。
【0064】
また、イオン化装置800は、イオン抽出または出口室872を具備する。イオン抽出室872は、同様に、1もしくは複数の壁、境界、またはその他の構造によって画成された適切なハウジングまたは包囲構造で画成したものであればよい。イオン抽出室872の1つの境界856には、試料導管の出口858を受ける開口が含まれていてもよい。よって、試料導管の出口858は、境界828に設けられていてもよい。すなわち、試料導管の出口858は、境界856に設けられた対応する開口と面一または実質的に面一であってもよい。あるいは、試料導管832の出口端は、イオン抽出室872の中まで延びていてもよい。イオン抽出室872は、検体イオンの非分析物質からの分離および質量分析計104への導入に備えて、大略的にフロー矢印876で示す方向に試料物質が試料導管の出口856から流れ込む包囲構造を提供する。また、イオン抽出室872は、サンプリングオリフィス180および排出ポート884に対応した開口を備えている。図8に示す実施態様においては、試料導管の出口858がサンプリングオリフィス180と一直線になっており、排出ポート884が試料導管の出口858からある角度で(軸から外れた)方向を向いている。
【0065】
試料導管832は、試料受け取り室124と質量分析計104の低圧/真空領域との中間に位置する個別のインターフェースまたはステージとして機能する(たとえば、図1参照)。図8に示す実施態様において、試料導管832の内径は、試料物質を大気圧イオン化インターフェースから質量分析計の真空領域へ移動させる際に従来利用されているサンプリングオリフィス、キャピラリ、およびその他の開口等(たとえば、図示したサンプリングオリフィス180)の直径よりも大きい。また、試料導管832は、相対的に短くてもよい。たとえば、試料導管832の内径は約0.05〜約1cmの範囲であってもよく、試料導管の入口836から出口858までの長さは、約0.5〜約5cmの範囲であってもよい。別の例として、試料導管832の長さは、約3〜約4cmの範囲である。また、別の例として、試料導管832の内径は、試料導管832の長さの約0.5〜約10%の範囲であってもよい。さらに別の例として、試料導管832の内径は、サンプリングオリフィス180の内径の約100〜約10,000%であってもよい。
【0066】
図8に示す実施態様では、試料導管832は、その入口836から出口858まで長さ方向に真っ直ぐまたは直線状である。別の実施態様では、上述の実施態様と同様に、試料導管832が入口836と出口858との間に1または複数の屈曲部または変向部等の少なくとも1つの非直線構造または形状を含んでいてもよい。これによって、試料物質および乾燥ガスを試料受け取り室124から質量分析計104に移送する非直線流路が構成される。試料導管832の全体が直線状であっても、1または複数の非直線形状を含んでいても、図8に示す実施態様では、試料導管の出口858がサンプリングオリフィス180と一直線または実質的に一直線となっている。たとえば、試料導管858の中心軸は、サンプリングオリフィス180の中心軸と共線(同一線上の)関係または実質的に共線関係であってもよい。
【0067】
図8に示す実施態様において、試料受け取り室824は、大気圧以上に保たれていてもよく、イオン抽出室872は、大気圧またはその近傍に保たれていてもよい。試料受け取り室824内を大気圧以上の所望の圧力に加圧するため、乾燥ガス、または乾燥ガスと試料イオン化デバイス108等から供給される霧化ガスとの両者を利用してもよい。排出ポート884は、矢印892で示すように、イオン抽出室872の内部と周囲環境またはそれに近い環境との通気孔として機能する。これにより、イオン抽出室872は、大気圧またはその近傍に保たれる。たとえば、試料受け取り室824内の圧力は、約1,000〜約15,200Torrの範囲であってもよく、イオン抽出室872内の圧力は、約500〜約1,400Torrの範囲であってもよい。その結果として得られる試料導管832の入口側と出口側との圧力差を利用して、試料液滴流120からの試料物質、および流入する乾燥ガス流848からの乾燥ガスを、フロー矢印840で示すように、試料導管の入口836に引き込むように構成してもよい。この実施態様では、イオン抽出室872が大気圧またはその近傍で動作してもよいため、このポンプステージには大きなポンプが必要なく、コストを低減可能である。
【0068】
大径の試料導管832は、ガス圧を、出口端で大気圧またはその近傍に低下させるガス制限管として機能する。したがって、上述のように試料受け取り室824内を大気圧以上に加圧することによって、試料導管の入口836への試料の流れ840を増加させてもよい。このように構成すると、真空領域に通じる極小径のサンプリングオリフィスが試料受け取り室824の出口に直接設けられている従来のイオン化装置に比べて、試料イオン化デバイス108で生成された試料を含むガスのかなり大部分、特に所望の検体イオンを、質量分析計104へ導くことが可能となる。また、試料受け取り室824で生成されたイオン化プルームのかなりの大部分をサンプリングする能力を利用して、質量分析計104の感度を向上させてもよい。試料導管832内の圧力が比較的高くかつ容量が比較的大きいと、乾燥ガスと試料物質との衝突および熱的接触が促進される。さらに、そのように構成することによって、試料導管の出口858での試料物質濃度が高くなり、すると検体イオンの大部分をサンプリングオリフィス180内に収集可能となる。試料導管の出口858、サンプリングオリフィス180、および両者間に介在するイオン抽出室872の間隙がつながった箇所は、運動量分離器として作用してもよく、この場合、イオンを含むより重い試料物質がフロー矢印888で示すようにサンプリングオリフィス180に真っ直ぐ流れ込み、非分析溶媒等のより軽い物質がフロー矢印892で示すように排出ポート884を介して排出される。この運動量分離作用は、電気的に導電性の試料導管832を設けるとともに、試料導管832に電圧を印加することによって促進してもよい。これにより、試料物質の荷電成分が試料導管832の中心線上またはその近傍に蓄積する。イオンをサンプリングオリフィス180に導く別の手段として、開口を含む板、円筒、または格子等の導電性要素898を、試料導管の出口858とサンプリングオリフィス180との間に設けてもよい。
【0069】
図9は、イオン化装置またはシステム900の別の例を示した模式図である。イオン化装置900は、上記しかつ図8に示したイオン化装置800に類似する。ただし、図9は、図1〜図7に関連して本開示中で上述したその他の特徴を、図8または図9のイオン化装置800または900にも適用してもよいことを示している。たとえば、図9は、非直線形状を含む大径の試料導管932を例示している。また、図9は、試料受け取り室924とイオン抽出室972との間のインターフェース室952を例示している。乾燥ガス源160の入口164は、インターフェース室952に導入された乾燥ガスからの熱エネルギーが試料導管932に効果的に伝達されるように、試料導管932および乾燥ガス出口(たとえば、1または複数のオリフィス)944に対して設けられている。
【0070】
図8および図9に示す実施態様において、試料導管832および932は、図1に示す試料導管132に設けられた開口169の代わりに、またはそれに加えて、類似する1または複数の開口を備えていてもよい。さらに、試料導管832または932を特徴づける圧力と長さとの積(Torr・cm)は、図1に対応する実施態様に関連して示した上記の値と同様であってもよい。
【0071】
本発明の範囲を逸脱することなく、本発明の態様または詳細を様々に変更可能であることは一層明らかである。さらに、上述の内容は、単に説明を目的としたものであって、本発明の範囲を限定するものではない。本発明は、特許請求の範囲によって規定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の境界で画成されたインターフェース室と、
少なくとも1つの前記境界内に位置し、インターフェース室内部から分離された試料物質流路を構成する入口および出口を備え、前記インターフェース室を通って延びている加熱された試料導管と、を備えたイオン化装置であって、
前記試料導管内で乾燥ガスが前記試料物質流と混合され、前記試料導管の圧力と長さとの積が50Torr・cm以上であることを特徴とする、イオン化装置。
【請求項2】
前記インターフェース室内部と連通し、前記試料導管の入口周囲に配置された複数の乾燥ガス出口オリフィスを有する乾燥ガス出口をさらに備えた、請求項1に記載のイオン化装置。
【請求項3】
前記試料導管が、乾燥ガスを導入するための少なくとも1つの開口を備えたことを特徴とする、請求項2に記載のイオン化装置。
【請求項4】
前記試料導管内のイオンを加速または減速させるためのデバイスをさらに備えた、請求項1に記載のイオン化装置。
【請求項5】
試料受け取り室内部を画成する境界を含む試料受け取り室と、
前記試料受け取り室から分離され、イオン出口孔および排出孔を備えたイオン抽出室と、をさらに備え、
前記試料導管の入口および出口がそれぞれ前記試料受け取り室および前記イオン抽出室と連通しており、前記試料導管の長さが、前記試料受け取り室の外側で前記入口と前記出口との間で延びており、その長さ方向において非直線部分をさらに含み、
前記インターフェース室と連通した乾燥ガス入口をさらに備え、
前記試料物質流路が、前記試料受け取り室から、前記インターフェース室内部から分離された前記イオン抽出室まで延びており、前記インターフェース室が、前記乾燥ガス入口から前記試料導管の周囲を経て前記乾燥ガス出口に至る乾燥ガス流路を構成していることを特徴とする、請求項1に記載のイオン化装置。
【請求項6】
前記試料導管の入口と連通した試料受け取り室と、
前記試料受け取り室と連通した試料イオン化デバイスと、
前記試料受け取り室と連通した乾燥ガス出口と、
前記試料導管の出口から間隔を空けて設けられたイオン出口オリフィスを含み、前記試料導管の出口を受けるイオン抽出室と、をさらに備え、
前記イオン出口オリフィスの内径が、前記試料導管の出口の内径よりも小さく、前記イオン出口オリフィスの中心軸が、前記試料導管の出口の中心軸と実質的に一致することを特徴とする、請求項1に記載のイオン化装置。
【請求項7】
前記試料導管が、前記試料導管の入口から前記試料導管の出口まで実質的に直線状の断面を有しており、これにより、前記試料受け取り室から前記イオン抽出室まで実質的に直線状の試料物質流路を構成していることを特徴とする、請求項6に記載のイオン化装置。
【請求項8】
前記試料導管が、前記試料導管の入口と前記試料導管の出口との間に非直線部分を含み、これにより、前記試料導管が、変向部を含む試料物質流路を構成することを特徴とする、請求項6に記載のイオン化装置。
【請求項9】
前記試料受け取り室内の圧力を大気圧より高く保つ手段と、前記イオン抽出室内の圧力を大気圧に保つ手段と、をさらに備えた、請求項6に記載のイオン化装置。
【請求項10】
試料受け取り室で試料物質をイオン化する工程と、
インターフェース室内に試料導管を設ける工程と、
乾燥ガスを前記試料導管に流し込んで、イオン化した試料物質を乾燥ガスと混合することにより、前記試料導管内において、前記試料導管の圧力と長さとの積を50Torr・cm以上とする工程と、
を含む、試料物質からイオンを抽出する方法。
【請求項11】
前記イオン化した試料物質を前記試料導管からイオン抽出室に流し込む工程と、前記イオン抽出室に流れ込む前記イオン化した試料物質のイオンの極性と反対の極性を有する電界を前記イオン抽出室内に印加することによって、前記イオン抽出室に進入する前記イオンの流量を低減する工程と、をさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記イオン化した試料物質の荷電種が、前記イオン化した試料物質および前記乾燥ガスの非荷電種よりも加速または減速されるように、前記試料導管を流れる前記イオン化した試料物質に電圧ジャンプを印加する工程をさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
大気圧より高い圧力に保たれた試料受け取り室で試料物質をイオン化する工程と、
前記イオン化した試料物質の少なくとも一部を乾燥ガスとともに、前記試料受け取り室から前記試料導管を介して、大気圧に保たれたイオン抽出室に流し込む工程と、
をさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
イオン抽出室に受け取られた前記イオン化した試料物質のイオンを、分析機器の大気圧以下の領域と連通したサンプリングオリフィスに流し込む工程をさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記イオン化した試料物質が、前記サンプリングオリフィスの中心軸と実質的に一致する中心軸を有する前記試料導管の出口を介して前記イオン抽出室に受け取られ、前記イオンが、実質的に直線状の流路に沿って前記サンプリングオリフィスに流し込まれることを特徴とする、請求項14に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2010−537371(P2010−537371A)
【公表日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−521108(P2010−521108)
【出願日】平成20年8月11日(2008.8.11)
【国際出願番号】PCT/US2008/072754
【国際公開番号】WO2009/023622
【国際公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(599060928)バリアン・インコーポレイテッド (81)
【Fターム(参考)】