説明

真空冷却機とその過冷却防止装置、および真空冷却方法

【課題】 異なる食材を同時に冷却する場合でも、冷却後温度の差を軽減して安定した冷却が可能な真空冷却機および真空冷却方法を提供する。
【解決手段】 真空冷却機1は、被冷却物2が収容される処理槽3と、処理槽3内の減圧手段4と、減圧された処理槽3内の復圧手段5とを備える。処理槽3内へ外気を導入する復圧ライン11には、その外気導入量を調整する復圧操作弁12が設けられる。処理槽3には、処理槽3内の圧力を検出するための圧力センサ13および処理槽3内に収容される被冷却物2の温度を検出する品温センサ14が備えられる。真空冷却機1による真空冷却は、減圧手段4により処理槽3内を設定圧力まで減圧し、その後減圧手段4を一定能力で作動させつつ復圧操作弁12の開度を調節して処理槽3内に外気を導入し、処理槽3内の圧力を設定圧力で維持することで行われ、品温センサ14が目標温度を検出すると冷却処理を終了する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、食材や食品などを冷却するための真空冷却機および真空冷却方法と、既存の真空冷却機に後付け可能な過冷却防止装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1に開示されるように、被冷却物が収容された処理槽内を減圧して、被冷却物中の水分を気化し、その気化熱で被冷却物を冷却する真空冷却機が知られている。このような真空冷却機では、被冷却物に品温センサを付けて、この品温センサによる被冷却物の温度に基づいて、目標温度帯まで真空冷却することが行われている。
【特許文献1】特開平9−296975号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
図4は、従来の真空冷却機を使用して、一つの処理槽内で異食材を同時に真空冷却した場合の食材の温度変化を示す図である。同図において、実線は処理槽内の飽和温度(湿球温度)、破線は冷え易い食材、二点鎖線は冷え難い食材の温度を示す。ここで、冷え易い食材としては、たとえば炊飯された米飯が挙げられ、逆に冷え難い食材としては、たとえば鳥の唐揚げのように水分が少なく穴の空いていない食材や、液体そのものが挙げられる。また、同じ食材であっても、容器内での位置や詰り具合の差などにより、冷え易い箇所と冷え難い箇所とが出現し、冷え易い食材と冷え難い食材と同様の問題が生じる。
【0004】
この図4から明らかなとおり、食材により冷却速度が異なる。従って、冷え易い食材に品温センサを付けたのでは、冷え難い食材が目標温度帯(下限温度TL度〜上限温度TH度)に入る前に冷却完了と認識され、冷え難い食材は冷却不足の状態となる。逆に、冷え難い食材に品温センサを付けたのでは、その冷え難い食材が目標温度帯に入る頃には、冷え易い食材は目標温度帯の下限温度TL度を通過して冷え過ぎており、場合によっては凍ってしまっている。
【0005】
このように、従来の真空冷却機では、異なる食材を同時に冷却すると、食材ごとに冷却後温度に差が生じてしまうものであった。また、特に冷却スピードを速くした場合には、冷え易い食材について、冷却し過ぎるおそれがあった。このような不都合は、そもそも従来の真空冷却機では、その減圧手段の最大真空度を制御しておらず、減圧時にはその能力にまかせて、処理槽内の空気を真空引きし続けるためである。
【0006】
この発明が解決しようとする課題は、異なる食材を同時に冷却する場合でも、冷却後温度の差を軽減して安定した冷却が可能な真空冷却機および真空冷却方法を提供することにある。また、そのような真空冷却方法を既存(既設)の真空冷却機で実施可能に、既存の真空冷却機に後付け可能なユニットとしての過冷却防止装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、前記課題を解決するためになされたもので、請求項1に記載の発明は、被冷却物を収容する処理槽と、この処理槽内の減圧手段と、この減圧手段による前記処理槽内の減圧を設定圧力までで止める減圧能力規制手段とを備えることを特徴とする真空冷却機である。
【0008】
請求項1に記載の発明によれば、減圧能力規制手段によって、処理槽内は設定圧力(つまり設定温度)以下となるのが防止され、設定圧力(設定温度)に維持される。そして、設定圧力到達後、その設定圧力で処理槽内を所定時間以上保持した後に冷却を終了することで、異食材を同時に真空冷却しても、あるいは同じ食材でもその収容容器に対する位置や詰り具合などに左右されず、冷却後温度が安定した均一な真空冷却が可能となる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、前記処理槽内に収容される被冷却物の温度を検出する品温センサをさらに備え、この品温センサによる検出温度に基づき、前記減圧手段による前記処理槽内の減圧を停止することを特徴とする請求項1に記載の真空冷却機である。
【0010】
請求項2に記載の発明によれば、品温センサを備えるので、この品温センサを冷却され難い被冷却物または冷却され難い箇所に設けて、その温度を検出することができる。そして、その品温センサによる検出温度に基づき前記減圧手段の停止が制御される。従って、品温センサによる検出温度が目標温度になった後に冷却を終了することで、異食材を同時に真空冷却しても、あるいは同じ食材でもその収容容器に対する位置や詰り具合などに左右されず、冷却後温度が安定した均一な真空冷却が可能となる。
【0011】
請求項3に記載の発明は、被冷却物を収容する処理槽と、この処理槽内の減圧手段と、前記処理槽内の復圧手段と、前記処理槽内に収容される被冷却物の内、冷却され難い被冷却物または冷却され難い箇所の温度を検出する品温センサと、前記減圧手段による前記処理槽内の減圧時、前記減圧手段および前記復圧手段の一方または双方を制御して、前記処理槽内を設定圧力まで減圧して維持するとともに、前記品温センサによる検出温度が目標温度に達するか否かを監視する制御手段とを備えることを特徴とする真空冷却機である。
【0012】
請求項3に記載の発明によれば、減圧手段および/または復圧手段を制御して、処理槽内は設定圧力(つまり設定温度)に維持される。そして、温度センサを利用して、冷却され難い被冷却物または冷却され難い箇所の温度を監視する。従って、その温度が目標温度になった後に冷却を終了することで、異食材を同時に真空冷却しても、あるいは同じ食材でもその収容容器に対する位置や詰り具合などに左右されず、冷却後温度が安定した均一な真空冷却が可能となる。
【0013】
請求項4に記載の発明は、前記処理槽内へ外気を導入する復圧ラインには、その外気導入量を調整する復圧操作弁が設けられており、前記減圧手段を一定能力で作動させた状態で、前記処理槽内の圧力を検出する圧力センサによる検出圧力に基づき、前記復圧操作弁の開度を調整することで、前記処理槽内を前記設定圧力に維持することを特徴とする請求項1〜3までのいずれか1項に記載の真空冷却機である。
【0014】
請求項4に記載の発明によれば、減圧手段は一定能力で作動させつつ、復圧操作弁の開度を調整するだけで、処理槽内の圧力を設定圧力に維持することができる。従って、請求項1〜3までのいずれか1項に記載の真空冷却機を簡易な構成および制御で提供することができる。
【0015】
請求項5に記載の発明は、被冷却物を収容する処理槽と、この処理槽内を減圧する減圧手段と、この減圧手段にて減圧された前記処理槽内を復圧する第一復圧手段とを備える真空冷却機に適用され、復圧操作弁を介して前記処理槽内へ外気を導入する第二復圧手段と、前記処理槽内の圧力を検出する圧力センサと、前記減圧手段による前記処理槽内の減圧を設定圧力までで止めるように、前記圧力センサの検出圧力に基づき前記復圧操作弁の開度を調整する制御手段とを備えることを特徴とする真空冷却機の過冷却防止装置である。
【0016】
請求項5に記載の発明によれば、既存または既設の真空冷却機を容易に、請求項1または請求項4に記載の真空冷却機とすることができる。
【0017】
請求項6に記載の発明は、前記処理槽内に収容される被冷却物の温度を検出する品温センサが、前記真空冷却機または前記過冷却防止装置のいずれかに設けられており、前記制御手段は、前記品温センサによる検出温度が目標温度に達するか否かを監視することを特徴とする請求項5に記載の真空冷却機の過冷却防止装置である。
【0018】
請求項6に記載の発明によれば、既存または既設の真空冷却機を容易に、請求項2〜4のいずれか1項に記載の真空冷却機とすることができる。
【0019】
さらに、請求項7に記載の発明は、処理槽内を減圧して被冷却物を真空冷却する方法であって、設定圧力までの減圧とその維持を図りつつ、前記処理槽内に収容される被冷却物の内、冷却され難い被冷却物または冷却され難い箇所の温度が目標温度になるまで前記処理槽内を減圧することを特徴とする真空冷却方法である。
【0020】
請求項7に記載の発明によれば、処理槽内を設定圧力(つまり設定温度)に維持しつつ、品温センサを利用して、冷却され難い被冷却物または冷却され難い箇所の温度が目標温度になるまで真空冷却がなされる。従って、異食材を同時に真空冷却しても、あるいは同じ食材でもその収容容器に対する位置や詰り具合などに左右されず、冷却後温度が安定した均一な真空冷却が可能となる。
【0021】
ところで、前記設定温度や前記目標温度は、一の温度ではなく、ある程度幅のある温度域であってもよい。そして、前記目標温度を温度域で設定する場合、前記設定温度は、その温度域内の温度(典型的にはその下限温度)に設定される。そして、品温センサは、通常、被冷却物が前記温度域の上限温度を下まわったか否かを監視する。
【発明の効果】
【0022】
この発明によれば、異なる食材を同時に冷却する場合でも、冷却後温度の差を軽減して安定した冷却が可能な真空冷却機および真空冷却方法を提供することができる。また、そのような真空冷却方法を既存の真空冷却機で実施可能とする過冷却防止装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
つぎに、この発明の実施の形態について説明する。
本実施形態の真空冷却機は、密閉空間を形成する処理槽と、この処理槽内の減圧手段と、前記処理槽内の復圧手段と、前記減圧手段による前記処理槽内の減圧を設定圧力までで止める減圧能力規制手段とを主要部として備える。
【0024】
そして、前記処理槽には、処理槽内の圧力を検出するための圧力センサが備えられている。また、前記処理槽には、被冷却物の温度を検出する品温センサが備えられており、処理槽内に収容される被冷却物の内、冷却され難い被冷却物または冷却され難い箇所に差し込むなどして設けられる。特に、最も冷却され難い被冷却物または最も冷却され難い箇所に設けることが好ましい。通常は、最も冷却され難い被冷却物の最も冷却され難い箇所と思われる部分の温度を前記品温センサにて計測する。この品温センサは、上述したように、被冷却物に差し込むなどして計測するものに限らず、非接触で間接的に計測するものであってもよい。
【0025】
前記減圧手段は、前記処理槽内の空気を真空引きして、処理槽内を減圧する手段であり、真空ポンプまたはエジェクタなどからなる。これらは、複数種類のものを組み合わせてもよい。この減圧手段は、減圧ラインを介して、前記処理槽の内部空間に接続されている。従って、前記減圧手段により、減圧ラインを介して処理槽内の空気を外部へ吸引して、処理槽内を減圧することができる。前記処理槽内の減圧の有無は、減圧手段自体の駆動の有無により操作することができる。あるいは、前記減圧ラインの中途に減圧操作弁を設け、この減圧操作弁より真空ポンプ側を常時所定圧力に減圧しておき、前記減圧操作弁を開閉操作してもよい。
【0026】
一方、前記復圧手段は、減圧された前記処理槽内へ外気を導入して、真空状態を解除し復圧する手段である。この復圧手段により、前記処理槽内は、大気圧下に解放可能とされる。その際、衛生面を考慮して、フィルターを介して外気を導入するのがよい。前記復圧手段の復圧ラインは、復圧操作弁を介して前記処理槽の内部空間に接続されている。この復圧操作弁を開閉操作することで、前記処理槽内と外部との連通の有無が切り替えられる。本実施形態の復圧操作弁は、その開度を任意に調整可能に構成されている。従って、前記減圧手段による減圧を行いつつ復圧操作弁の開度を調整することで、処理槽内圧力を調整することができる。また、前記減圧手段を停止した状態で、前記復圧操作弁を開くことで、前記処理槽内の圧力を大気圧まで戻すことができる。
【0027】
前記減圧能力規制手段は、種々の構成を採用し得る。具体的には、前記減圧手段により前記処理槽内を減圧して処理槽内が設定圧力に達した後は、前記減圧手段の駆動の有無で、処理槽内を設定圧力に保持する構成とすることができる。あるいは、前記減圧手段により前記処理槽内を減圧して設定圧力に達した後は、前記減圧手段を作動させた状態で前記復圧操作弁を操作して処理槽内に外気を導入することで、処理槽内を設定圧力に保持することもできる。ところで、設定圧力で維持制御を行う前における、大気圧から設定圧力またはその近辺までの減圧の仕方は特に問わない。たとえば、設定圧力に近づくと減圧速度を落とすように制御することができる。この場合も前記復圧操作弁の開度を調整すればよい。
【0028】
本実施形態の減圧能力規制手段は、制御手段により、前記圧力センサが検出する前記処理槽内圧力に基づき、前記復圧操作弁の開度を調整して処理槽内圧力を設定圧力に維持する構成である。具体的には、前記減圧手段を一定能力で作動した状態で、前記復圧操作弁の開度を調整することで、前記処理槽内の圧力ひいては温度を任意に調整できる。これにより、前記減圧手段により前記処理槽内が設定圧力まで減圧された際に、前記減圧手段の作動を継続した状態で、前記圧力センサからの検出信号に基づき前記復圧操作弁の開度を調整して前記処理槽内に外気を導入することで、処理槽内を設定圧力で維持することができる。
【0029】
ところで、前記処理槽内の圧力や温度の調整は、本実施形態では、前記減圧手段による減圧時に処理槽内へ外気を導入して行うが、前記減圧手段の吸込み口へ外気を導入するようにしてもよい。また、前述したように、外気を導入せずに、前記減圧手段の駆動の有無を切り替えてもよい。さらに、前記減圧手段の能力を可変しつつ、前記復圧手段を調整してもよい。
【0030】
本実施形態の真空冷却機は、異食材からなる被冷却物を同時に真空冷却する場合に好適に使用される。本実施形態の真空冷却機により真空冷却する際には、先ず前記処理槽内に被冷却物を収容し、この収容される被冷却物の内、冷却され難い食材に前記品温センサを設けて処理槽を密閉する。次に、前記減圧手段により処理槽内の空気を真空引きして減圧する。前記処理槽内を設定圧力に減圧後は、減圧手段を一定能力で作動させつつ前記復圧操作弁の開度を調節して処理槽内に外気を導入することで、前記処理槽内の圧力を前記設定圧力で維持する。そして、前記品温センサが目標温度を検出すると、直ちにまたは所定時間経過後、前記減圧手段による減圧を停止して冷却処理を終了する。
【0031】
ところで、前記設定圧力は、設定された一の圧力値であってもよいし、ある程度の幅のある圧力域であってもよい。しかも、設定圧力は、冷却される対象物などに応じて変更可能とするのが好ましい。
【0032】
上述したように、本実施形態の真空冷却機は、前記処理槽内の圧力が制御可能とされる。具体的には、真空冷却時に前記処理槽内の圧力を設定圧力まで減圧すると共に、処理槽内をその設定圧力で維持する。つまり、前記処理槽内の圧力を前記減圧手段によって到達し得る圧力まで低下させないように、前記処理槽内の最大真空度を制御しており、これにより被冷却物を冷却し過ぎることも、また、被冷却物の冷却不足もなくなり、異食材を安定して冷却することができる。
【0033】
ところで、既存または既設の真空冷却機を前記実施形態の真空冷却機とするために、次に述べる過冷却防止装置を後付けしてもよい。
【0034】
既存または既設の真空冷却機は、被冷却物を収容する処理槽と、この処理槽を減圧する減圧手段と、この減圧手段にて減圧された前記処理槽内を復圧する復圧手段(第一復圧手段)とを備えている。そして、この真空冷却機は、前記減圧手段により前記処理槽内の空気を真空引きし続けて真空冷却後、品温センサの温度または設定時間に基づき前記第一復圧手段を開いて処理槽内を復圧する。
【0035】
本実施形態の過冷却防止装置は、復圧操作弁を介して処理槽内へ外気を導入する復圧手段(第二復圧手段)と、前記処理槽内の圧力を検出する圧力センサと、前記減圧手段による前記処理槽内の減圧を設定圧力までで止めるように、前記圧力センサの検出圧力に基づき前記復圧操作弁の開度を調整する制御手段とを備えている。この過冷却防止装置は、前記既存または既設の真空冷却機に後付け可能なユニットとされる。
【0036】
本実施形態の過冷却防止装置が、既存または既設の真空冷却機に取り付けられることで、前記実施形態の真空冷却機と同様に、前記減圧手段による前記処理槽内の減圧を設定圧力までで止めることが可能となる。具体的には、前記減圧手段による前記処理槽内の減圧が設定圧力まで達した際に、前記復圧操作弁の開度を調整して前記第二復圧手段により外気を処理槽内に導入することで、処理槽内の圧力を設定圧力で維持することができる。これにより、前記実施形態の真空冷却機と同様に、異食材でも安定した真空冷却を行うことが可能となる。
【実施例】
【0037】
以下、この発明の具体的実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の真空冷却機の一実施例を示す概略構成図である。
【0038】
本実施例の真空冷却機1は、被冷却物2が収容される処理槽3と、この処理槽3内の減圧手段4と、減圧された処理槽3内の復圧手段5とを主要部として備える。前記処理槽3は、被冷却物2を出し入れするための開閉扉(図示省略)を備えており、この開閉扉にて処理槽3は密閉可能である。本実施例では、被冷却物2として異なる食材6,7が同時に処理槽3内に収容される。ここでは、食材6は、食材7に比べて冷却され難い食材であるとする。
【0039】
減圧手段4は、真空ユニット8を備え、この真空ユニット8は減圧ライン9を介して処理槽3と接続される。真空ユニット8は、典型的には、真空ポンプ(不図示)を備えて構成されるが、これに代えてまたはこれに加えて、蒸気エジェクタなどを備えていてもよい。
【0040】
一方、復圧手段5は、減圧された処理槽3内へ外気を導入して、真空状態を解除し復圧する手段である。具体的には、外気は、フィルター10を介して取り込まれ、復圧ライン11を介して処理槽3内へ供給可能とされている。復圧ライン11の中途には、外気と処理槽3内との連通の有無を切り替える復圧操作弁12が設けられている。従って、復圧操作弁12を閉じた状態で、減圧手段4により処理槽3内を減圧した後、減圧手段4による減圧を停止して、復圧操作弁12を開ければ、処理槽3内の真空状態を解除して大気圧下に戻すことができる。
【0041】
ところで、復圧操作弁12は、比例制御弁のように、その開度が任意に調整可能に構成されている。従って、減圧手段4による処理槽3内の減圧時に、復圧操作弁12の開度を調整することで、処理槽3内の圧力を任意に調整可能である。この場合、処理槽3内の減圧時、真空ユニット8は一定の能力で作動させ続けるだけでよい。
【0042】
本実施例の処理槽3には、処理槽3内の圧力を検出するための圧力センサ13が備えられている。従って、この圧力センサ13の出力に基づき、前記復圧操作弁12の開度を調整しつつ、減圧手段4による減圧操作を行うことで、処理槽3内の圧力調整を容易に行うことができる。
【0043】
また、本実施例の処理槽3には、処理槽3内に収容される食材の温度を検出する品温センサ14が備えられている。この品温センサ14は、処理槽3内に収容される食材の内、冷却され難い食材6に差し込まれるなどして、その箇所の温度を計測する。そして、処理槽3内の減圧時、処理槽3内を設定温度で維持した状態で前記品温センサ14による検出温度が目標温度に達した場合に、減圧手段4および復圧手段5を停止させることで、冷却後温度が安定した均一な真空冷却を行うことができる。
【0044】
さらに、真空冷却機1には、減圧手段4や復圧手段5などを制御する制御器(制御手段)15が備えられている。本実施例では、真空ユニット8、復圧操作弁12、前記圧力センサ13、前記品温センサ14は、制御器15に接続されており、この制御器15にて各種制御が可能とされる。具体的には、制御器15は、圧力センサ13からの検出信号に基づいて、復圧操作弁12の開度を調整して、真空ユニット8による処理槽3内の減圧レベルを調整する。また、品温センサ14からの検出信号に基づいて食材が目標温度に達したことを確認し、真空ユニット8を停止する。さらに、このような真空冷却処理終了後には、復圧操作弁12を開いて処理槽3内を大気圧まで復圧する。そして、圧力センサ13からの検出信号に基づいて、復圧操作弁12による処理槽3内の復圧完了を確認する。このように、制御器15は、所定のプログラムに従い、復圧操作弁12などの開閉を制御したり、真空ユニット8の駆動を制御したりする。
【0045】
前記構成の真空冷却機1を用いたときの真空冷却方法について、図1および図2に基づいて説明する。
図2は、本実施例の真空冷却機1を使用して、一つの処理槽3内で異食材を同時に真空冷却する場合の温度変化を示す図である。同図において、実線は処理槽3内の飽和温度(湿球温度)、破線は冷却され易い食材7、二点鎖線は冷却され難い食材6の温度を示す。
【0046】
本実施例では、処理槽3内に収容される食材6,7をT1度〜T2度(T1<T2)の範囲内(目標温度帯)に冷却することを目標とする。
【0047】
まず、処理槽3内に食材6,7を収容し、収容される食材6,7の内、前記冷却され難い食材6に品温センサ14を差し込む。そして、処理槽3の作業用の開閉扉(図示省略)を閉鎖する。このとき、制御器15は、復圧操作弁12を閉鎖状態とすると共に、真空ユニット8を停止させている。
【0048】
次に、減圧手段4の真空ユニット8を作動させる。この真空ユニット8の作動により、処理槽3内の空気は、減圧ライン9を介して真空吸引される。処理槽3内の圧力が低下するにつれて、飽和温度(庫内湿球温度)が低下するため、処理槽3内の食材6,7の水分が活発に蒸発し、この蒸気は、前記空気とともに減圧ライン9によって吸引される。そして、食材6,7中の水分の蒸発に伴う気化潜熱により、この食材6,7は冷却される。
【0049】
そして、処理槽3内が設定圧力(本実施例では目標温度帯の下限温度T1に相当する飽和圧力)より若干高い所定圧力(T3度に対応する飽和圧力)まで減圧されたことを前記圧力センサ13が検出した後は、処理槽3内に外気を導入しつつ、処理槽3内の圧力が設定圧力になるように、復圧操作弁12の開度を調整する。具体的には、真空ユニット8を一定能力で作動させつつ、処理槽3内の圧力を設定圧力まで減圧し維持するように、制御器15が復圧操作弁12の開度を調整する。
【0050】
本実施例では、前記設定圧力は、処理槽3内の減圧下限とされ、具体的には、処理槽3内に収容される食材6,7の許容冷却下限つまりT1度のときの飽和圧力とされる。したがって、処理槽3内の圧力が減圧後設定圧力に維持されることで、処理槽3内に収容された食材6,7の内、冷却され易い食材7は、T1度またはT1度に近似する温度まで冷却され、その冷却後温度を維持する。これにより、冷却され易い食材7の温度が、T1度を下まわることがない。一方、冷却され難い食材6は、処理槽3内の飽和温度(T1度)に近づくようにさらに冷却されていく。
【0051】
ところで、処理槽3内の圧力を大気圧下から設定圧力まで減圧する過程は任意に選択可能である。たとえば、減圧手段4により処理槽3内を設定圧力またはその直前まで一気に減圧した後に、復圧操作弁12の開度を調整して処理槽3内に外気を導入して、処理槽3内をその設定圧力で維持してもよい。あるいは、処理槽3内の圧力が設定圧力またはその直前に達するまでに、復圧操作弁12の開度を調整して処理槽3内の減圧速度を段階的に変化させてもよい。
【0052】
そして、冷却され難い食材6がT2度を下まわったことを前記品温センサ14が検出すると、直ちにあるいは所定時間経過後に冷却処理を終了する。冷却処理を最短時間で済ませる場合には、冷却され難い食材6がT2度になった時点で、直ちに冷却処理を終了すればよい。冷却処理の終了は、制御器15が真空ユニット8を停止させると共に、復圧操作弁12を閉めることで行われる。
【0053】
このように、本実施例の真空冷却機1は、処理槽3内の圧力、特に最大真空度を制御することで、処理槽3内の飽和温度を制御し、ひいては食材の冷却後温度を制御可能としている。これにより、本実施例の真空冷却機1で異食材を真空冷却する場合、処理槽3内に収容される冷却され易い食材7および冷却され難い食材6の両方が、冷却目標温度帯(上記の例ではT1度〜T2度)に冷却される。よって、冷却され易い食材7を冷却し過ぎることや、冷却され難い食材6の冷却不足がなくなる。
【0054】
ところで、本実施例では、真空ユニット8を一定能力で作動させつつ、復圧操作弁12の開度を調整することで、処理槽3内の圧力を設定圧力まで減圧後、その設定圧力を保持したが、この保持の仕方は、これに限らず適宜変更可能である。
【0055】
たとえば、復圧操作弁12を閉じた状態のまま処理槽3内を減圧し、処理槽3内の圧力が設定圧力に達した後は、単に減圧手段4をオンオフ制御して、処理槽3内を設定圧力に保持する構成としてもよい。具体的には、真空ユニット8が真空ポンプにより構成されている場合には、処理槽3内を設定圧力まで減圧後、この真空ポンプをオンオフ制御すればよい。たとえば、処理槽3内がT1度になると真空ポンプを停止し、処理槽3内が所定温度(たとえばT3度)まで上昇すると真空ポンプを作動させることを繰り返すよう制御すればよい。同様に、真空ユニット8が蒸気エジェクタで構成されている場合には給蒸の有無を制御すればよい。また、真空ユニット8が、真空ポンプおよび蒸気エジェクタの両方を備えている場合には、真空ポンプをオンオフ制御すると共に蒸気エジェクタへの給蒸の有無を制御すればよい。さらに、真空ユニット8の能力を可変するとともに、復圧操作弁12の開度を制御器15により制御してもよい。
【0056】
本実施例では、品温センサ14からの検出信号に基づいて食材の冷却完了を確認し、冷却処理を終了したが、つぎに、品温センサ14を備えない場合について説明する。この場合には、減圧手段4により処理槽3内が設定圧力まで減圧されたことを圧力センサ13が検出した後、所定時間処理槽3内を設定圧力で維持し、その後真空ユニット8を停止して冷却処理を終了すればよい。この際、前記所定時間内に、冷却され難い食材6が少なくともT2度まで冷却されるように時間を設定すればよく、この所定時間は任意に変更可能とされる。
【0057】
つぎに、既存または既設の真空冷却機16に取り付けられる過冷却防止装置17について説明する。既存または既設の真空冷却機16は、過冷却防止装置17が取り付けられることで前記真空冷却方法を実施可能となる。
【0058】
図3は、本発明の過冷却防止装置17の一実施例の使用状態を示す図であり、既存または既設の真空冷却機16に取り付けた状態を示す概略構成図である。
【0059】
既存または既設の真空冷却機16は、被冷却物2が収容される処理槽3と、この処理槽3を減圧する減圧手段4と、この減圧手段4にて減圧された前記処理槽3内を復圧する復圧手段(第一復圧手段)18と、処理槽3内に収容される被冷却物2の温度を検出する品温センサ14とを備えている。前記減圧手段4は、前記図1の実施例における真空ユニット8と同様の構成である。前記第一復圧手段18の復圧ライン11は、開閉弁19を介して前記処理槽3内の内部空間に接続されている。また、前記第一復圧手段18には、フィルター(第一フィルター)20が設けられており、このフィルター20を介して外気が処理槽3内に導入される。
【0060】
この既存または既設の真空冷却機16は、減圧手段4により処理槽3内の空気を真空引きし続けて真空冷却する。そして、被冷却物2が目標温度に達したことを品温センサ14が検出することで減圧手段4を停止して冷却処理を終了する。また、減圧手段4を停止した状態で、開閉弁19を開くことで、処理槽3内の圧力を大気圧まで戻すことができる。
【0061】
本実施例の過冷却防止装置17は、開度が任意に調整可能な復圧操作弁12を介して前記処理槽3内へ外気を導入する復圧手段(第二復圧手段)21と、処理槽3内の圧力を検出する圧力センサ13と、前記減圧手段4による前記処理槽3内の減圧を設定圧力までで止めるように、前記圧力センサ13の検出圧力に基づき前記復圧操作弁12の開度を調整する制御器(制御手段)15とを備えている。前記第二復圧手段21には、フィルター(第二フィルター)22が設けられており、このフィルター22を介して外気が処理槽3内に導入される。また、前記制御器15は、既存または既設の真空冷却機16に設けられた品温センサ14を接続可能とされる。
【0062】
本実施例の過冷却防止装置17が取り付けられた既存または既設の真空冷却機16で真空冷却する場合、まず、処理槽3内に被冷却物2を収容する。本実施例では、被冷却物2として異なる食材6,7が処理槽3内に収容され、この処理槽3内に収容される食材6,7の内、冷却され難い食材6に品温センサ14を差し込み処理槽3を密閉する。つぎに、減圧手段4により処理槽3内を減圧し、処理槽3内が設定圧力まで減圧されたことを前記圧力センサ13が検出すると、前記復圧操作弁12の開度を調整して第二復圧手段21により外気を処理槽3内に導入することで、処理槽3内の圧力を設定圧力で維持する。ところで、処理槽3内の圧力を設定圧力まで減圧する過程は、前記真空冷却機1の場合と同様に、任意に選択可能である。
【0063】
そして、前記品温センサ14が目標温度を検出すると、減圧手段4を停止して冷却処理を終了する。このように、本実施例の過冷却防止装置17が取り付けられた既存または既設の真空冷却機16は、前記真空冷却機1と同様に、前記減圧手段4による前記処理槽3内の減圧を設定圧力までで止めることが可能となる。
【0064】
ところで、本実施例では、既存または既設の真空冷却機16に品温センサ14が備えられており、前記品温センサ14が目標温度を検出すると減圧手段4を停止して冷却処理を終了したが、つぎに、品温センサ14を備えていない場合について説明する。
【0065】
この品温センサ14を備えていない既存または既設の真空冷却機16による真空冷却は、処理槽3内を減圧手段4の最大減圧能力にまかせて処理槽3内の空気を真空引きし続け、所定時間経過後に減圧手段4を停止する構成とされる。この所定時間は任意に設定可能であり、通常、その所定時間内に冷却され難い食材6が目標冷却温度まで冷却されるように設定される。
【0066】
品温センサ14を備えていない既存または既設の真空冷却機16に本実施例の過冷却防止装置17が取り付けられる場合、その所定時間内に処理槽3内を設定圧力まで減圧して維持し、冷却され難い食材6が少なくとも目標冷却温度帯の上限温度(上記実施例におけるT2度)まで冷却されるように所定時間を設定すればよい。そして、所定時間経過後に減圧手段4が停止する際に、第二復圧手段21を停止させればよい。
【0067】
本発明の真空冷却機および過冷却防止装置は、上記実施例の構成に限らず、適宜変更可能である。たとえば、処理槽3内に、冷却され易い食材7と冷却され難い食材6を収容して同時に真空冷却する場合について説明したが、同じ食材であっても、容器内での位置や詰り具合の差などにより、冷却され易い箇所と冷却され難い箇所とが出現する。このため、冷却され易い食材7と冷却され難い食材6とを同時に冷却する場合と同様の問題が生じるので、この場合でも前記真空冷却機1および前記過冷却防止装置17を有効に使用することができる。
【0068】
また、前記真空冷却機1、および前記過冷却防止装置17が取り付けられる既存または既設の真空冷却機16に蒸煮機能を付加して蒸煮冷却機としても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の真空冷却機の一実施例を示す概略構成図である。
【図2】図1の真空冷却機を使用して、一つの処理槽内で異食材を同時に真空冷却する場合の温度変化を示す図である。
【図3】本発明の過冷却防止装置の一実施例の使用状態を示す図であり、既存または既設の真空冷却機に取り付けた状態を示す概略構成図である。
【図4】従来の真空冷却機を使用して、一つの処理槽内で異食材を同時に真空冷却した場合の食材の温度変化を示す図である。
【符号の説明】
【0070】
1 真空冷却機
2 被冷却物
3 処理槽
4 減圧手段
5 復圧手段
8 真空ユニット
9 減圧ライン
11 復圧ライン
12 復圧操作弁
13 圧力センサ
14 品温センサ
15 制御手段(制御器)
16 真空冷却機
17 過冷却防止装置
18 復圧手段(第一復圧手段)
21 復圧手段(第二復圧手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被冷却物を収容する処理槽と、
この処理槽内の減圧手段と、
この減圧手段による前記処理槽内の減圧を設定圧力までで止める減圧能力規制手段とを備える
ことを特徴とする真空冷却機。
【請求項2】
前記処理槽内に収容される被冷却物の温度を検出する品温センサをさらに備え、
この品温センサによる検出温度に基づき、前記減圧手段による前記処理槽内の減圧を停止する
ことを特徴とする請求項1に記載の真空冷却機。
【請求項3】
被冷却物を収容する処理槽と、
この処理槽内の減圧手段と、
前記処理槽内の復圧手段と、
前記処理槽内に収容される被冷却物の内、冷却され難い被冷却物または冷却され難い箇所の温度を検出する品温センサと、
前記減圧手段による前記処理槽内の減圧時、前記減圧手段および前記復圧手段の一方または双方を制御して、前記処理槽内を設定圧力まで減圧して維持するとともに、前記品温センサによる検出温度が目標温度に達するか否かを監視する制御手段とを備える
ことを特徴とする真空冷却機。
【請求項4】
前記処理槽内へ外気を導入する復圧ラインには、その外気導入量を調整する復圧操作弁が設けられており、
前記減圧手段を一定能力で作動させた状態で、前記処理槽内の圧力を検出する圧力センサによる検出圧力に基づき、前記復圧操作弁の開度を調整することで、前記処理槽内を前記設定圧力に維持する
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の真空冷却機。
【請求項5】
被冷却物を収容する処理槽と、この処理槽内を減圧する減圧手段と、この減圧手段にて減圧された前記処理槽内を復圧する第一復圧手段とを備える真空冷却機に適用され、
復圧操作弁を介して前記処理槽内へ外気を導入する第二復圧手段と、
前記処理槽内の圧力を検出する圧力センサと、
前記減圧手段による前記処理槽内の減圧を設定圧力までで止めるように、前記圧力センサの検出圧力に基づき前記復圧操作弁の開度を調整する制御手段とを備える
ことを特徴とする真空冷却機の過冷却防止装置。
【請求項6】
前記処理槽内に収容される被冷却物の温度を検出する品温センサが、前記真空冷却機または前記過冷却防止装置のいずれかに設けられており、
前記制御手段は、前記品温センサによる検出温度が目標温度に達するか否かを監視する
ことを特徴とする請求項5に記載の真空冷却機の過冷却防止装置。
【請求項7】
処理槽内を減圧して被冷却物を真空冷却する方法であって、
設定圧力までの減圧とその維持を図りつつ、前記処理槽内に収容される被冷却物の内、冷却され難い被冷却物または冷却され難い箇所の温度が目標温度になるまで前記処理槽内を減圧する
ことを特徴とする真空冷却方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−266649(P2006−266649A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−89264(P2005−89264)
【出願日】平成17年3月25日(2005.3.25)
【出願人】(000175272)三浦工業株式会社 (1,055)
【出願人】(504143522)株式会社三浦プロテック (488)
【Fターム(参考)】