説明

真空度昇降中の停電時対応方法

【課題】真空脱ガス槽内の真空度の変化をさせている際に停電が発生したときに、他にトラブルを発生することなく容易にスタンバイの状態に復帰させることができるようにする。
【解決手段】取鍋3内の溶鋼2に浸漬させる浸漬管14を有する真空脱ガス槽4を備えたRH精錬装置で、真空脱ガス槽4内の真空度を変化させている際に停電が発生した時の真空度昇降中の停電時対応方法であって、停電時には、真空脱ガス槽4内の真空度が大気圧以上とならないようにガスを排気すると共に、真空脱ガス槽4内の真空度を電力不要で動作する真空計で測定し、この真空計で測定した真空度が650torr〜大気圧の範囲に達した際に、真空脱ガス槽4の浸漬管14を取鍋3から引き抜く。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、RH精錬装置において、真空脱ガス槽内の真空度を変化させている際に停電が発生した時の真空度昇降中の停電時対応方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、溶鋼を還流させることで当該溶鋼の脱ガスを行うものとしてRH精錬装置というものがあり、このRH精錬装置は、真空脱ガス精錬時に真空可能となる真空脱ガス槽と、この真空脱ガス槽の浸漬管が装入される取鍋とを備えたものである。
このようなRH精錬装置では、真空脱ガス精錬処理を行う際に、真空脱ガス槽を真空引きすることによって当該真空脱ガス槽を略数torrの真空にすることになるが、真空引きをする設備等の不具合によって、真空脱ガス槽内の真空度の異常が発生することがある。このように真空度の異常を検知するものとして特許文献1に示すものがある。
【0003】
特許文献1は、真空脱ガス処理設備において、真空発生装置系とそれに続くダストセパレーター系及び合金添加装置系に、それぞれ真空度計を設置し、真空脱ガス処理の操業パターンに応じ、それぞれ特定された真空度計の計測値を相互に比較し、その値が予め定められた値を超えたときに、比較した真空度計間の排気系の何れかの箇所に、大気との間にリークが発生していると判断する技術である。
【特許文献1】特開8−170116号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、真空脱ガス精錬処理中に真空度計間の排気系の何れかの箇所に大気との間にリークが発生していることが判断、即ち、検知して、RH精錬装置への無駄なエネルギーの投入や目標真空度への到達遅れを解消することができる。
このように、特許文献1の技術では、真空脱ガス精錬処理中に真空引きをする設備等の不具合が発生した場合は対応できるものの、真空脱ガス槽内の真空度(真空脱ガス槽内の圧力)を昇圧又は減圧を行っている際に停電が発生した状態を想定していないことから、停電発生時の対応をすることは困難であった。
【0005】
そこで、本発明は、真空脱ガス槽内の真空度の変化をさせている際に停電が発生したときに、他にトラブルを発生することなく容易にスタンバイの状態に復帰させることができる真空度昇降中の停電時対応方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明は、次の手段を講じた。
即ち、本発明における課題解決のための技術的手段は、取鍋内の溶鋼に浸漬させる浸漬管を有する真空脱ガス槽を備えたRH精錬装置で、前記真空脱ガス槽内の真空度を変化させている際に停電が発生した時の真空度昇降中の停電時対応方法であって、停電時には、前記真空脱ガス槽内の真空度が大気圧以上とならないようにガスを排気すると共に、前記真空脱ガス槽内の真空度を電力不要で動作する真空計で測定し、この真空計で測定した真空度が650torr〜大気圧の範囲に達した際に、前記真空脱ガス槽の浸漬管を取鍋から引き抜く点にある。
【0007】
発明者は、真空度を変化させているとき、即ち、真空脱ガス槽の圧力を上げたり又は下げたりしているときの停電時対応方法について様々な角度から検証を行った。
通常、溶鋼の真空脱ガス精錬処理を行うために、真空脱ガス精錬処理の前には真空引きをすることによって真空脱ガス槽内の真空度を上げる。また、真空脱ガス精錬処理の後には、取鍋を真空脱ガス槽から切り離すために真空度を下げる。
このように、真空度を昇降している際に、何らかの原因によって突然、停電が発生することがある。通常、停電が発生した際には、RH精錬装置の周囲の安全性を確保するという理由から、真空脱ガス槽と、溶鋼が装入された取鍋とを出来るだけ早く分離する必要がある。
【0008】
しかしながら、真空度を昇降しているときに停電が突然発生すると、真空脱ガス槽内の真空度(真空脱ガス槽内の圧力)がどの程度であるか分からないことが多い。例えば、停電の発生時に真空脱ガス槽内が真空に近い状態で、取鍋と真空脱ガス槽との切り離しを行うと、溶鋼が真空によって真空脱ガス槽内に引き込まれる恐れがあり、非常に危険である。
また、真空脱ガス槽内の圧力が大気圧の近い状態で突然停電が起こる恐れがある。このように、真空脱ガス槽内の圧力が大気圧付近であるときに停電が発生した場合は、真空脱ガス槽内の圧力が直ちに大気圧を超え、取鍋と真空脱ガス槽との切り離しの前に、取鍋内の溶鋼が外部へと吹きこ溢れる恐れがある。
【0009】
そこで、発明者は、取鍋と真空脱ガス槽との切り離しの際の安全な真空度(真空脱ガス槽内の圧力)を実験等により調査した上で、停電時に真空脱ガス槽内のガスを排気し、排気中の真空脱ガス槽内の真空度を電力不要で動作する真空計で測定し、測定した真空度が650torr〜大気圧の範囲に達した際に、前記真空脱ガス槽の浸漬管を取鍋(溶鋼)から引き抜くことを見出した。
なお、真空脱ガス槽の真空度とは、理想的な真空(圧力ゼロの状態)にどの程度接近しているかを示す目安であり、具体的には、真空脱ガス槽内の気体の圧力で表す。真空度が高いということは、真空脱ガス槽内の圧力が低いことを意味していて、真空度の定義は、岩波 理化学辞典 第4版 1987年 P626に記載されている内容と同じである。
【0010】
以下の説明では、説明の便宜上、真空度を真空脱ガス槽の圧力と同じように表現することがある。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、真空脱ガス槽内の真空度の変化をさせている際に停電が発生したときに、他にトラブルを発生することなく容易にスタンバイの状態に復帰させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づき説明する。
図1は、RH精錬装置の全体構成図を示している。
RH精錬装置1は、溶鋼2を還流させることで当該溶鋼2の真空脱ガス精錬処理を行うものであって、溶鋼2が装入された取鍋3と、真空脱ガス精錬時に真空状態となって溶鋼2内の脱ガスを行う真空脱ガス槽4と、ガスを冷却するガスクーラ5と、ダストセパレータ6とを備えている。
RH精錬装置1の取鍋3は、転炉又は電気炉から出鋼された溶鋼2が装入されるもので、真空脱ガス槽4の直下に配置されている。取鍋3の下方には、当該取鍋3を真空脱ガス槽4の下側の位置にて昇降させる昇降装置7が設けられている。この昇降装置7は、取鍋3を載置するテーブル8と、このテーブル8を作動油によって作動して昇降させる昇降駆動部9で構成されている。
【0013】
なお、この昇降装置7は、取鍋3を転炉から真空脱ガス槽4の直下に搬送する台車に具備させてもよいし、この台車とは別に真空脱ガス槽4の直下のフロアに直接設けた形態であってもよい。
昇降駆動部9には、当該昇降駆動部9に作動油を供給するための油圧配管11が接続され、この油圧配管11の経路には昇降駆動部9への作動油の量等を制御するための制御弁10が設けられている。この制御弁10には、当該制御弁10及び昇降駆動部9に作動油を供給するための油圧ポンプ12が接続されている。油圧ポンプ12から昇降駆動部9までの油圧経路(油圧配管11)には、当該油圧経路の作動油を排出するための排出弁13が設けられている。この排出弁13は通常は閉鎖状態となっていて、手動で開くことにより、油圧経路内の作動油、即ち、昇降駆動部9の作動油を外部に排出するものとなっている。油圧経路内の作動油を排出することによって、昇降駆動部9は、テーブル8が下降するように動作するものとなっており、電力無しでテーブル8を下降させることができる。
【0014】
真空脱ガス槽4の下部には、取鍋3内の溶鋼2に浸漬させる2本の浸漬管14が設けられており、この浸漬管14の一方にはArガス等の不活性ガスを吹き込む吹き込み口15が設けられている。この吹き込み口15には不活性ガスを吹き込むための配管16が接続され、この配管16には第1開閉弁17が設けられている。
真空脱ガス槽4の上部には、当該真空脱ガス槽4のガスを排気する排気口18が設けられている。真空脱ガス槽4の排気口18は、ダクトや配管等の第1ガス経路19を介してガスクーラ5に連通している。第1ガス経路19には、電力により動作して真空度を計測することができる第1真空計20が設けられると共に、電力不要で動作(停電時でも動作)して真空度を計測することができる非電力式の第2真空計21が設けられている。第1真空計20は圧力発信計や絶対圧力計(シロ産業製のWPAVG134C等)で構成され、第2真空計21は、例えば、水銀式U字形マノメータで構成されている。
【0015】
ガスクーラ5とダストセパレータ6との間には、ダクトや配管等から構成された第2ガス経路22が設けられ、当該第2ガス経路22を介してガスクーラ5とダストセパレータ6とが連通している。
ダストセパレータ6の上部には第1外部排気口23が設けられ、この第1外部排気口23の周辺には当該外部排気口23を遮断可能な第2開閉弁24が設けられている。
また、第1外部排気口23にはダクトや配管等から構成された第3ガス経路25が設けられ、当該第3ガス経路25によって外部に排気が行えるようになっている。なお、第3ガス経路25に真空引きするための真空ポンプ37が設けられている。
【0016】
ダストセパレータ6の上部には第1外部排気口23とは異なる第2外部排気口26が設けられている。この第2外部排気口26と第3ガス経路25との間には、両者を連通するダクトや配管等から構成された第4ガス経路27が設けられている。第4ガス経路27には、ダストセパレータ6、即ち、当該ダストセパレータ6と連通する真空脱ガス槽4の真空度(真空脱ガス槽4内の圧力)が大気圧以上となったときに開状態となる第3開閉弁28が設けられている。
この第3開閉弁28は大気側への流通のみを許容する逆止弁構造であって、第4ガス経路27又は第2外部排気口26内に開閉自在に設けられた板部材30と、第4ガス経路27又は第2外部排気口26内に固定された固定部材31とを備えている。板部材30の一端(上端)が軸部32に枢支され、他端(下端)は自由端となっていて、閉鎖時に他端が固定部材31に当接するものとなっている。真空脱ガス槽4の真空度(真空脱ガス槽4内の圧力)が大気圧以上となったときに、板部材30の下端が外側へと移動して開状態となり、真空脱ガス槽4の真空度(真空脱ガス槽4内の圧力)が大気圧未満であるときは、板部材30の下端が内側へと移動して固定部材31に当接し閉状態となる。
【0017】
また、ダストセパレータ6には不活性ガス(例えば、窒素ガス)を吹き込む吹き込み口33が設けられ、この吹き込み口33に不活性ガスを吹き込むための配管34が接続され、この配管34には第4開閉弁35が設けられている。この第4開閉弁35は、真空脱ガス槽4内が真空状態であるときは閉状態となっていて、真空脱ガス精錬後又は真空脱ガス精錬前には開状態になる。
以下、真空脱ガス精錬処理の方法と、真空度(真空脱ガス槽4内の圧力)を昇圧中のときに停電が発生した場合の対処方法について説明する。
【0018】
RH精錬装置1において、溶鋼2の真空脱ガス精錬処理を行うには、まず、転炉から出鋼した溶鋼2が装入された取鍋3を、クレーンや台車等の搬送手段によって真空脱ガス槽4の直下に搬送する。そして、真空脱ガス槽4の直下のテーブル8に取鍋3を載置した状態で、油圧ポンプ12を起動し、制御弁10を介して昇降駆動部9に作動油を供給する。
これにより、昇降駆動部9を駆動させてテーブル8を上昇させ、取鍋3の溶鋼2内に真空脱ガス槽4の浸漬管14を浸漬させる。
次に、予め設定された還流量に対応して第1開閉弁17を開いて吹き込み口15から不活性ガス(例えば、Arガス)を吹き込み、溶鋼2を真空脱ガス槽4と取鍋3との間で循環させる。また、第2開閉弁24を開状態にして第1外部排気口23を開放し、真空ポンプ37によって真空引きをすることで真空脱ガス槽4内の圧力を大気圧から徐々に略数torrにした後、溶鋼2内に存在する水素等のガス成分を除去して真空脱ガス精錬処理を行う。
【0019】
真空脱ガス精錬後は、開状態にした第2開閉弁24を閉状態にして第1外部排気口23を閉鎖し、第4開閉弁35を閉鎖した状態から開いて吹き込み口33からダストセパレータ6内に窒素ガスを供給する。このとき、真空脱ガス槽4の圧力は、第1開閉弁17によるArガスの吹き込みと、第4開閉弁35による窒素ガスの吹き込みにより、真空状態から真空度が一挙に低くなる。
図2に示すように、このように真空脱ガス槽4内を、Arガス及び窒素ガスにより昇圧中(昇圧状態)に停電が発生すると、制御弁10や油圧ポンプ12等が停止し、昇降駆動部9、油圧ポンプ12及び制御弁10は電気的には動作せず、昇降駆動部9は一時的に下降不能となる(S1)。
【0020】
また、停電状態になると、第1開閉弁17が全開となって不活性ガスを吹き込み口15から吹き込むと共に、第4開閉弁35が自動的に閉鎖して窒素ガスの供給を停止する(S2)。なお、停電時には、第1開閉弁17は自動的に全開となり、第4開閉弁35は自動的に閉状態になるように設定されている。
Arガス及び窒素ガスによって真空脱ガス槽4内の圧力を昇圧中に停電が発生した場合においては、真空脱ガス槽4内の圧力が大気圧に近い状態で停電が発生する場合があり、このような場合は、取鍋3と真空脱ガス槽4とを切り離す前に、その真空度(真空脱ガス槽4内の圧力)が大気圧を超えてしまう恐れがある。真空度(真空脱ガス槽4内の圧力)が大気圧を超えると、取鍋3からの溶鋼2の吹き溢れが発生するため、このようなトラブルを防止するために、本発明では、昇圧中に停電した場合に真空脱ガス槽4内のガスを自動的に排気することとなっている。
【0021】
また、本発明では、上記に加え、真空脱ガス槽4内の真空度を電力不要で動作する第2真空計21で測定する。そして、第2真空計21で測定した真空度(真空脱ガス槽4内の圧力)が650torr〜大気圧の範囲の時に、真空脱ガス槽4と取鍋3とを分離する。なお、大気圧は、後述するように、この実施形態では、770torrとしている。
詳しくは、図2に示すように、昇圧中に停電が発生し、真空脱ガス槽4内の圧力が大気圧よりも高くなってしまうと(S3:Yes)、第3開閉弁28が自動的に開く構造であるため、これにより、真空脱ガス槽4内のガスを排出し(S4)、真空度(真空脱ガス槽4内の圧力)が大気圧よりも高くならないようにしている。一方で、真空脱ガス槽4内の圧力が大気圧よりも低い場合(S3:No)には、第3開閉弁28が自動的に開くことはなく、閉鎖状態である。
【0022】
また、昇圧中に停電が発生すると、真空脱ガス槽4内の真空度(真空脱ガス槽4内の圧力)を第2真空計21で測定し、真空脱ガス槽4内の真空度を作業員が監視する(S5)。そして、第2真空計21の値が、650torr〜大気圧の範囲であるか否かを作業員が判定する(S6)。真空度(真空脱ガス槽4内の圧力)が、650torr〜大気圧の範囲でなければ、真空脱ガス槽4内に不活性ガスを入れ続け(第1開閉弁17の全開を維持する)、真空脱ガス槽4内の真空度(真空脱ガス槽4内の圧力)が650torr〜大気圧の範囲になるのを待つ(S7)。
【0023】
真空度(真空脱ガス槽4内の圧力)が、650torr〜大気圧の範囲になると、作業員が閉鎖状態となっている排出弁13を開き、油圧配管11内の作動油を外部に排出し、、昇降駆動部9を下降させて溶鋼2に浸漬した浸漬管を溶鋼2から引き出すことにより、真空脱ガス槽4と取鍋3とを分離する(S8)。真空脱ガス槽4と取鍋3とを分離する際は、第1開閉弁17を手動等により閉状態にすることが好ましい。
そして、RH精錬装置1を真空脱ガス処理前の状態に復帰させる(S9)。
図3は、真空度(真空脱ガス槽4内の圧力)を減圧中(下降中)のときに停電が発生した場合の対処方法を示したフローチャートの図である。
【0024】
真空脱ガス精錬処理を開始する前であって、真空脱ガス槽4内の真空度(真空脱ガス槽4内の圧力)が大気圧から徐々に略数torrに下降させている際に停電が発生した場合、制御弁10や油圧ポンプ12等が停止し、昇降駆動部9、油圧ポンプ12及び制御弁10は電気的には動作せず、昇降駆動部9は一時的に下降不能となる(S20)。
停電が発生すると、第1開閉弁17が全開となって不活性ガスを吹き込み口15から吹き込む(S21)。
また、第2開閉弁24が開状態から自動的に閉状態となって第1外部排気口23を閉鎖すると共に、真空引きを停止する(S22)。なお、第2開閉弁24は停電直後に自動的に閉状態になるように設定されている。
【0025】
そして、下降中に停電が発生した場合も、真空脱ガス槽4内の圧力が大気圧よりも高くなってしまうと(S3:Yes)、第3開閉弁28が自動的に開いて、真空脱ガス槽4内のガスを排出する(S4)。また、真空脱ガス槽4内の真空度(真空脱ガス槽4内の圧力)を第2真空計21で測定し、真空脱ガス槽4内の真空度を作業員が監視する(S5)。 第2真空計21の値が、650torr〜大気圧の範囲であるか否かを作業員が判定し(S6)、真空度(真空脱ガス槽4内の圧力)が、650torr〜大気圧の範囲でなければ、真空脱ガス槽4内に不活性ガスを入れ続け、真空脱ガス槽4内の真空度(真空脱ガス槽4内の圧力)が650torr〜大気圧の範囲になるのを待つ(S7)。
【0026】
真空度(真空脱ガス槽4内の圧力)が、650torr〜大気圧の範囲になると、昇圧と同様に真空脱ガス槽4と取鍋3とを分離(S8)し、RH精錬装置1を真空脱ガス処理前の状態に復帰させる(S9)。
表1は、本発明の真空脱ガス精錬処理中の停電対応方法を行った場合の結果をまとめたものである。即ち、表1の実施例では、真空脱ガス槽4内の圧力の昇圧又は減圧を行っている際に停電が発生し、昇降駆動部9、制御弁10及び油圧ポンプ12が電気的に動作しない状態で、取鍋3を真空脱ガス槽4から分離した。
【0027】
なお、この実施例では、転炉で溶鋼2を出鋼した際の溶鋼2温度が1670℃で、溶鋼2中の炭素濃度([C]は0.040%)である溶鋼2をRH精錬装置で真空脱ガス精錬処理を行った。吹き込み口15からは、Arガスを2Nm3/分で吹き込み、真空脱ガス洗練処理では、合金添加等も行った。
【0028】
【表1】

【0029】
実施例1では、真空度(真空脱ガス槽4内の圧力)、即ち、第2真空計21の値が650torrとなったときに取鍋3を真空脱ガス槽4から分離したため、真空脱ガス槽4内の溶鋼2やスラグが排気口18へと吸い込まれることもなくガスクーラ5やダストセパレータ6が溶鋼2等によって故障することもなかった(表1、評価「○」)。
実施例2及び実施例3では、第2真空計21の値が700torr又は750torrとなったときに取鍋3を真空脱ガス槽4から分離したため、実施例1と同様に真空脱ガス槽4内の溶鋼2が排気口へと吸い込まれることもなくトラブルが発生することもなかった(表1、評価「○」)。
【0030】
実施例4では、第2真空計21の値が略大気圧である770torrとなったときに取鍋3を真空脱ガス槽4から分離したため、実施例1と同様に真空脱ガス槽4内の溶鋼2が排気口へと吸い込まれることもなくトラブルが発生することもなかった(表1、評価「○」)。
一方で、第2真空計21の値が650torr未満のときに、取鍋3を真空脱ガス槽4から分離すると、取鍋3と真空脱ガス槽4との分離が早かったために、真空脱ガス槽4内の溶鋼2が排気口へと吸い込まれてしまうというトラブルが発生した。また、第2真空計21の値が770torrを超えてから取鍋3を真空脱ガス槽4から分離すると、取鍋3と真空脱ガス槽4との分離が遅かったために、真空脱ガス槽4が高まり過ぎる影響により、取鍋3から溶鋼2の吹き溢れが発生した。
【0031】
以上、本発明によれば、停電が発生して第1真空計による真空脱ガス槽4内の真空度が分からなくなっても、第2真空計21によって真空脱ガス槽4内の真空度が分かり、真空度を監視して、タイミングよく取鍋3と真空脱ガス槽4との分離を行い、停電時の復帰をトラブルが発生させることなく、簡単に行うことができる。
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0032】
例えば、上記実施形態では、取鍋3を下降させることで、当該取鍋3と真空脱ガス槽4とを分離するとしているが、真空脱ガス槽4を手動で動作するクレーン等(電力不要で動作するクレーン等)により上昇させることで、取鍋3と真空脱ガス槽4とを分離するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】RH精錬装置の全体構成図を示した図である。
【図2】真空脱ガス槽の昇圧中に停電が発生した場合の状態及び対処方法を示したフローチャート図である。
【図3】真空脱ガス槽の減圧中に停電が発生した場合の状態及び対処方法を示したフローチャート図である。
【符号の説明】
【0034】
1 RH精錬装置
2 溶鋼
3 取鍋
4 真空脱ガス槽
5 ガスクーラ
6 ダストセパレータ
7 昇降装置
8 テーブル
9 昇降駆動部
14 浸漬管
21 第2真空計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
取鍋内の溶鋼に浸漬させる浸漬管を有する真空脱ガス槽を備えたRH精錬装置で、前記真空脱ガス槽内の真空度を変化させている際に停電が発生した時の対応方法であって、
停電時には、前記真空脱ガス槽内の真空度が大気圧以上とならないようにガスを排気すると共に、前記真空脱ガス槽内の真空度を電力不要で動作する真空計で測定し、この真空計で測定した真空度が650torr〜大気圧の範囲に達した際に、前記真空脱ガス槽の浸漬管を取鍋から引き抜くことを特徴とする真空度昇降中の停電時対応方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−18859(P2010−18859A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−181445(P2008−181445)
【出願日】平成20年7月11日(2008.7.11)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】