説明

真空排気装置の安全構造

【課題】高速回転するロータを有する真空ポンプを備えた真空排気装置において、運転中にロータが破壊した場合にも真空排気装置全体が設置場所から転倒する等の重大事故につながらないような真空排気装置の安全構造を提供する。
【解決手段】真空ポンプ2のポンプケース2aの下方部と取付け台4との間やポンプケース2aの上方部と排気源の配管6との間にトルクリミッター部3やフューズ継手5を介在させた構造とし、ロータ破壊が起きて前記ポンプケースaに設定値以上のトルクが生じた場合には前記トルクリミッター部3や前記フューズ継手5が作動して、ポンプケース2aが前記取付け台4上で摺動回転して前記トルクを吸収し、真空排気装置1全体を堪大な被害から護る構造とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高速で回転するロータを有するターボ分子ポンプ等の真空ポンプに関し、特に小型の真空ポンプを共通台板上に設置してなる真空排気装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の小型真空ポンプの一例(ターボ分子ポンプA)の縦断面図を図5に示し、ターボ分子ポンプAを組み込んだ真空排気装置Sの一例の側面図を図6に示した。
【0003】
図5に示すターボ分子ポンプAにおいて、aは複数の動翼段を有するロータであり、又、bは複数の静翼段からなるステータであり、該ステータbはポンプケースc内の内周部に嵌装され、又前記ロータaは該ステータb内に高速回転可能に軸支されている。
【0004】
又、図6において、ターボ分子ポンプAは取付け台dを介して共通台板eに設置固定されており、該共通台板eはこの下面の隅部に固着した防振ゴムe1を介して床面等に据え付けられている。
【0005】
更に、前記共通台板e上には前記ターボ分子ポンプAを制御するためのターボコントローラf等が設置されている。
【0006】
尚、この真空排気装置Sは、矢印Xの方向に排気を吸入し、矢印Yの方向に排気を排出して、前記ターボ分子ポンプAの上方部に接続した排気源の真空槽から真空排気を行なう。
【0007】
もしターボ分子ポンプAの運転中に、何らかの原因によってロータaが破損をした場合は、該ロータaの破片は大きな慣性力を有してステータbに衝突し、該ステータbに大きな回転トルクを与える。又、高速で回転するロータを有するターボ分子ポンプにあっては、破片となって飛び散ったロータの破片がポンプケースを突き破って外方へ飛び出す危険がある。
【0008】
このような危険を防止するために、出願人は先に、ターボ分子ポンプ及び又は複合分子ポンプにおいて、前記ターボ分子ポンプの静翼段の外周部に外挿するように円筒状に設けた内側ケーシングと外側ケーシングとの間に、密封が可能な円筒状の空間部を形成して、該円筒状の空間部に流動性を有する緩衝材を充填した分子ポンプの安全構造を提案した(特許文献1参照。)。
【0009】
【特許文献1】特開2004−263628号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記特許文献1に記載のケーシングを二重構造に形成してその間に緩衝材を充填する構造は、運転中にロータが破損した際に発生するスパイク状の回転トルクを小さくして、装置側に大きなダメージを起こさない効果を持つが、ケーシング構造が複雑になるため、製造コストが高価になってしまうという問題点があった。
【0011】
一方、図6に示す如き小型の真空排気装置Sにおいて、真空ポンプAの運転中にロータaが破壊した場合、該ロータaはステータbに衝撃的な回転トルクを与えると共に、ステータbに伝達された衝撃的なトルクによって、該真空排気装置Sが下の共通台板eと共に転倒したり脱落したりする等の堪大な事故につながる恐れがあるという問題点があった。
【0012】
本発明はこのような問題点に対処し、ポンプロータ破壊時の発生トルクを小さく抑えて小型の真空排気装置全体への伝達トルクを小さくすると共に真空排気装置全体が転倒する等の装置の堪大事故につながるのを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は前記の目的を達成すべく、真空ポンプのポンプケース内にロータとステータとを具備して、取付け台の上に該ポンプケースを立設して形成した真空ポンプからなる真空排気装置において、前記ポンプケースを前記取付け台に対して摺動回転可能に形成すると共に、これらポンプケースと前記取付け台との間にトルクリミッター部が介在する構造とした。
【発明の効果】
【0014】
本発明の効果として、真空ポンプの運転中に例えロータが破壊しても真空排気装置全体が転倒したり脱落したりする堪大事故に到らない安全な真空排気装置の安全構造を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明を実施するための最良の形態の実施例を以下に示す。
【実施例1】
【0016】
本発明の実施例1を図1乃至図3により説明する。
【0017】
図1は本発明の真空排気装置1の側面図であり、一部を断面にして示してある。
【0018】
2aは真空ポンプ2のポンプケースであり、該ポンプケース2a内には高速回転する動翼を有するロータとその外側にあって静翼からなるステータ(いずれも図示せず)を具備している。
【0019】
前記ポンプケース2aは後述するトルクリミッター部3を介して取付け台4に摺動回転可能に枢支されている。
【0020】
即ちトルクリミッター部3は円板状のブレーキディスク3aと該ブレーキディスク3aの外周部の上面に当接する環状の上部ブレーキシュー3bと、前記ブレーキディスク3aの外周部の下面に当接する円筒状の下部ブレーキシュー3cと、前記ブレーキディスク3aを所定の力で挟むように前記上部ブレーキシュー3bと前記下部ブレーキシュー3cとを締め付けるボルト3d等からなる。
【0021】
ここで、ブレーキディスク3aは前記ポンプケース2aの下面部にボルト3eにより固定されている。
【0022】
又、前記上部ブレーキシュー3b及び前記下部ブレーキシュー3cは、円板状のフランジ4aを介して前記取付け台4の上端部に前記ボルト3dによって固定されている。
【0023】
又、該フランジ4aの中心部には丸いピン4bが立設されていて、該ピン4bの上部が前記ブレーキディスク3aの中心部を挿通しており、前記ブレーキディスク3aは該ピン4bを中心として回動可能である。
【0024】
又、前記ポンプケース2aの上部は、後述するフューズ継手5を介して排気源の配管6に接続している。
【0025】
即ちフューズ継手5は前記配管6の下端部に固定された円形の第1フランジ5aと、前記ポンプケース2aの吸入口の上端部に固定された円形の第2フランジ5bと、これら第1、第2フランジ5a、5b間に介在する気密保持用のパッキン5cと、前記第1、第2フランジ5a、5bを接続するための上下一対のブラケット5d、5e及びこれら上下のブラケット5d、5eを連結するフューズボルト5fからなり、前記第1、第2フランジ5a、5bに円周方向に複数個所で係着されている。
【0026】
ここで、前記上部のブラケット5dは柱状部5d1と該柱状部5d1から側方に突出する係止突部5d2と、該柱状部5d1に形成され前記フューズボルト5fが挿通する挿通孔5d3とからなり、前記係止突部5d2の先端部が前記第1フランジ5aの上面部に係止するようになっている。
【0027】
又、前記下部のブラケット5eも柱状部5e1と該柱状部5e1から側方に突出する係止突部5e2と、該柱状部5e2に形成され前記フューズボルト5fが螺合する螺孔5e3とからなり、前記係止突部5e2の先端部が前記第2フランジ5bの下面部に係止するようになっている。
【0028】
更に前記フューズボルト5fはその中間部を細い括れ部5f1に形成し、該フューズボルト5fを前記上部のブラケット5dの挿通孔5d3に挿通して該ボルト5fの先端側を前記下部のブラケット5eの螺孔5e3に螺合させたとき、前記細い括れ部5f1がこれらブラケット5d、5e間の間隙に位置するようにした。
【0029】
ここで前記フューズボルト5fに設定値以上の剪断力が作用した場合には該フューズボルト5fは前記括れ部5f1で切断するように形成されている。
【0030】
尚、前記剪断力の設定値とは、運転中の真空ポンプのロータが破損して該ロータの破片がポンプケース内のステータに衝突したときに該ポンプケースに生ずる回転トルク値を予測算出し、この算出値を設定値としている。
【0031】
次に本実施例の真空排気装置1の配置、作動及び効果について説明する。
【0032】
小型の真空排気装置は、図6に示した如く、共通台板の上に小型の真空ポンプとコントローラとを設置した配置で用いられることが多い。
【0033】
然して真空ポンプ2の運転中に内部のロータが何らかの理由で破損した場合、ロータの破片は大きな慣性力を有してステータに衝突し、該ステータに衝撃的に大きな回転トルクを与える。
【0034】
この回転トルクは直ちにポンプケース2aに伝えられ、ポンプケース2aは取付け台4の上で回動しようとする。ただし、この回転トルクの大きさは、ブレーキシューとブレーキディスクとの間の静摩擦力を調節することで制御でき、即ちロータ破片がステータに衝突して発生する回転トルク(=発生トルク)を制御できる。
【0035】
もし前記回転トルクが予め設定された設定値以上となった場合は、フューズ継手部5が具備するフューズボルト5fが切断すると共に排気源6側の第1フランジ5aとポンプケース2a側の第2フランジ5bとの接続が断絶し、更に前記トルクリミッター部3においてブレーキディスク3aが該ブレーキディスク3aを挟持する上下のブレーキシュー3b、3cとの静止摩擦抵抗力に打ち勝って摺動回転を始める。
【0036】
即ち、真空ポンプ2の本体部分が取付け台4の上で摺動回転することで運動エネルギーは熱エネルギーに変換されるが、ブレーキシューとブレーキディスクとの間の静摩擦力を最適に調節することで、前記回転トルクは短時間で消滅するようにでき、上記の回動は例えば1/4円周乃至1/2円周程度に納めることができる。
【0037】
又、このようにロータ破壊時の発生トルクをトルクリミッター部3で吸収するようにしたので、真空排気装置1全体の伝達トルクが小さくなり、真空排気装置1全体が転倒する等の装置の堪大な事故につながるのを防止することができる効果を有する。
【0038】
尚、前記トルクリミッター部3の構造において、ブレーキディスク3aと上下のブレーキシュー3b、3cとの各当接面に、図2に示す如く2硫化モリブデン3fを塗布して当接面の摩擦係数の低減を図ってもよく、又は図3に示す如く、前記ブレーキディスク3aと上下のブレーキシュー3b、3cとの間にテフロン(登録商標)シートのリング3gを介在させて当接面の摩擦係数の低減を図るようにしてもよい。
【0039】
また、前記フューズ継手5は排気源の配管6に接続されているが、この配管6が排気源側の装置に剛に接続されている場合にフューズ継手5は有効に機能できるのであって、配管6が排気源側の装置にフレキシブルに接続されている場合は省略することもできる。
【実施例2】
【0040】
本発明の実施例2を図4により説明する。
【0041】
本実施例では前記実施例1におけるトルクリミッター部3の代りにトルクリミッター部3´を用いて、コイルばね3hの弾発力を利用して上部ブレーキシュー3bと下部ブレーキシュー3c1とでブレーキディスク3aを挟持する圧着力を得るようにした点が前記実施例1とは異なる。
【0042】
即ち下部ブレーキシュー3c1は環状に形成され、円筒状のブレーキシューホルダー3c2の肩部において回動可能に支承されている。
【0043】
又、該ブレーキシューホルダー3c2のブレーキシュー3c1支承面には複数の筒状の丸孔3iが設けられていて、各丸孔3iに前記コイルばね3hが伸縮自在に挿入されており、これら各コイルばね3hは前記丸孔3iの上方に頭部を突出させている。
【0044】
かくて、前記ブレーキシュー3c1をこれらコイルばね3hの上に載置し、前記上部ブレーキシュー3bとの間にブレーキディスク3aを介在させ、ボルト3dにより両ブレーキシュー3b、3c1を締結する。
【0045】
この場合、前記ボルト3dの締付けストロークを調節することにより前記コイルばね3hの弾発力を調節することができる。
【0046】
即ち、実施例2の真空排気装置ではトルクリミッター部3´にコイルばね3hを採用したことにより、ボルト3dによるストロークの調節範囲が広くなって、ブレーキディスク3aを挟持する力の微調節が可能となる効果が得られた。
【0047】
または、コイルばね3hの材質、線径、巻数等を適当に選択することで、コイルバネのばね定数を変えて、前記ボルト3dの締付けストロークの調節に拠ることなく弾発力を調節することもできる。
【0048】
即ち、実施例2の真空排気装置ではトルクリミッター部3´にコイルばね3hを採用したことにより、適当なコイルばねの選択だけで弾発力を調節することもできるため、煩雑なボルト3dによる締付けの調節を無くすことも可能である。
【0049】
本実施例2では、コイルばねの弾発力を利用してブレーキシューとブレーキディスクを挟持する圧着力を得るようにしているが、同じ作用をコイルばねに替えて、永久磁石の反発力や吸引力を利用することで圧着力を得るようにすることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は小型の真空ポンプを用いた真空排気装置で利用される。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】実施例1の真空排気装置の側面図である。
【図2】同上真空排気装置のトルクリミッター部の一部断面図である。
【図3】同上真空排気装置の他のトルクリミッター部の一部断面図である。
【図4】実施例2の真空排気装置のトルクリミッター部の一部断面図である。
【図5】従来のターボ分子ポンプの一例の縦断面図である。
【図6】従来の真空排気装置の一例の側面図である。
【符号の説明】
【0052】
1 真空排気装置
2 真空ポンプ
2a ポンプケース
3、3´ トルクリミッター部
3a ブレーキディスク
3b、3c、3c1 ブレーキシュー
3d 締付ボルト
3f 2硫化モリブデン
3g テフロン(登録商標)シート
4 取付け台
5 フューズ継手

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空ポンプのポンプケース内にロータとステータとを具備して、取付け台の上に該ポンプケースを立設して形成した真空ポンプからなる真空排気装置において、前記ポンプケースを前記取付け台に対して摺動回転可能に形成すると共に、これらポンプケースと前記取付け台との間にトルクリミッター部が介在する構造とした真空排気装置の安全構造。
【請求項2】
前記トルクリミッター部は前記ポンプケースの底面部に固定した円板状のブレーキディスクと前記取付け台の上部に設置したブレーキシューとからなり、前記ブレーキシューは前記ブレーキディスクをその上下両面から挟持して前記ポンプケースを前記取付け台上に保持すると共に、前記ポンプケースに設定値以上の回転トルクが発生した場合には前記ポンプケースは前記ブレーキシューと前記ブレーキディスクとの間の静止摩擦抵抗力に打ち勝って、前記取付け台上で摺動回転を開始する構造に形成した請求項1に記載の真空排気装置の安全構造。
【請求項3】
前記回転トルクの設定値を、運転中の真空ポンプのロータが破損して該ロータの破片がポンプケース内のステータに衝突したときに該ポンプケースに生ずる回転トルク値と同等、又はそれ以下の値となるように設定した請求項2に記載の真空排気装置の安全構造。
【請求項4】
前記ブレーキシューは、円板状又は円筒状を有する上下の環状体からなり、これら上下の環状体の間に前記ブレーキディスクを配置すると共に、複数の締付ボルトでこれら上下の環状体を締め付けて前記ブレーキディスクを挟持するようにし、これらブレーキシューとブレーキディスクとの間の静摩擦力を調節するようにした請求項2又は請求項3に記載の真空排気装置の安全構造。
【請求項5】
前記ブレーキシューと前記ブレーキディスクの相互の当接面間に、テフロン(登録商標)シート又は2硫化モリブデン粉末等の摩擦抵抗低減部材を介在させた請求項2乃至請求項4のいずれかに記載の真空排気装置の安全構造。
【請求項6】
前記ポンプケースの上方の排気源と接続する配管の管路部分に、前記設定値以上の回転トルクを受けた場合に該配管が上下に断絶するように作動するフューズ継手を介在させた請求項1に記載の真空排気装置の安全構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−209770(P2009−209770A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−53358(P2008−53358)
【出願日】平成20年3月4日(2008.3.4)
【出願人】(000149170)株式会社大阪真空機器製作所 (38)
【Fターム(参考)】