説明

真空断熱材用芯材および該芯材を用いた真空断熱材

【課題】真空断熱材用芯材であって、軽量性、作業性および成型性に優れ、良好な断熱性を有する真空断熱材用芯材、ならびに該芯材を用いた真空断熱材を提供すること。
【解決手段】非弾性捲縮短繊維と、該非弾性捲縮短繊維を構成するポリマーよりも40℃以上低い融点を有するポリマーが熱融着成分としてその表面に配された熱接着性複合短繊維とが重量比率で95/5〜10/90となるように混綿され、該熱接着性複合短繊維同士が交差した状態で熱融着された固着点および/または該熱接着性複合短繊維と上記非弾性捲縮短繊維とが交差した状態で熱融着された固着点とが散在し、かつ上記熱接着性複合短繊維と上記非弾性捲縮短繊維が繊維構造体の厚さ方向に配列してなる繊維構造体を用いて真空断熱材用芯材とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽量性、作業性および成型性に優れ、良好な断熱性を有する真空断熱材用芯材、ならびに該芯材を用いた真空断熱材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境保護の視点から、省エネルギーや省資源に関する様々な取り組みがなされている。例えば、その対策として、断熱材が各種用途に使用されている。そして、かかる断熱材の素材として、ポリウレタンフォーム、ガラス繊維、ポリエステル繊維等のシート状物が用いられている。特に、冷蔵庫、電気ポット、保冷箱、保冷車、家屋等には、種々の構造・性能を有する断熱材が使用されている。また、救命胴衣等の断熱材として使用でき、海水中では浮くこともできるものも使用されている。
【0003】
特に、近年においては、真空断熱材が非常に優れた断熱性を有するため多く使用されている。真空断熱材に使用される芯材としては、連続気泡ポリウレタンフォーム、平均繊維径が0.5〜8μm程度のガラス繊維集合体や、リサイクル性等の点よりポリエステル繊維などが挙げられる(例えば、特許文献1、2、3、4参照)。
【0004】
しかしながら、上記の真空断熱材用芯材は、次のような問題を有している。例えば、連続気泡ポリウレタンフォームを用いた芯材は、作業性、取扱い性、軽量性等に非常に優れているが、ガラス繊維等の繊維状材料に比較して、断熱性が十分ではない。また、ガラス繊維集合体を用いた芯材は、アウトガス(芯材から揮発するガス分)の発生もなく、断熱性に極めて優れた性質を有するが、ガラス繊維固有の性質により、素手で取扱いをした場合、ちくちくするという問題があり、作業性に大きな難がある。さらには、連続気泡ポリウレタンフォームを用いた芯材およびガラス繊維集合体を用いた芯材は、ともにリサイクルが難しく一般に廃棄場への廃棄で処理されている。
【0005】
一方、ポリエステル繊維を用いた芯材は、リサイクル性の点では非常に優れているが、繊維集合体として繊維を重ねたものをニードルパンチ等を施して芯材とし、真空断熱材を作製する場合、断熱材の内部を真空化する際、厚さが低下し軽量化が難しい。さらには、ポリエステル繊維を用いた芯材を冷凍車等に使用した場合、重量増となり省エネルギーとはならない。さらに、表面の均一性が不十分であり、外観上見栄えもよくなく、かつ、フレームとの隙間が出来やすいため空気層が形成され、熱伝導率が高くなる等の問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−213561号公報
【特許文献2】特開平8−28776号公報
【特許文献3】特許第4012903号公報
【特許文献4】特開2006−57213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、真空断熱材用芯材であって、軽量性、作業性および成型性に優れ、良好な断熱性を有する真空断熱材用芯材、ならびに該芯材を用いた真空断熱材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を達成するため鋭意検討した結果、熱接着性複合短繊維と非弾性捲縮短繊維とで構成され、かつ繊維がその厚さ方向に配列した繊維構造体を真空断熱材用芯材として用いると、軽量性、作業性および成型性に優れ、良好な断熱性を有する真空断熱材が得られることを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。
かくして、本発明によれば「真空断熱材用芯材であって、非弾性捲縮短繊維と、該非弾性捲縮短繊維を構成するポリマーよりも40℃以上低い融点を有するポリマーが熱融着成分としてその表面に配された熱接着性複合短繊維とが重量比率で95/5〜10/90となるように混綿され、該熱接着性複合短繊維同士が交差した状態で熱融着された固着点および/または該熱接着性複合短繊維と上記非弾性捲縮短繊維とが交差した状態で熱融着された固着点とが散在し、かつ上記熱接着性複合短繊維と上記非弾性捲縮短繊維が繊維構造体の厚さ方向に配列してなる繊維構造体を用いてなることを特徴とする真空断熱材用芯材。」が提供される。
その際、上記繊維構造体が、繊維構造体の厚さ方向にプレスされた繊維構造体であることが好ましい。かかるプレスは、熱プレスであることが好ましい。また、上記非弾性捲縮短繊維がポリエステル系繊維からなることが好ましい。また、上記熱接着性複合短繊維の熱融着成分が共重合ポリエステルからなることが好ましい。また、上記熱接着性複合短繊維の熱融着成分が120℃以上の融点を有する結晶性共重合ポリエステルからなることが好ましい。また、上記繊維構造体の厚さが0.5〜50mmの範囲内にあることが好ましい。また、上記繊維構造体の密度が0.04〜0.4g/cmの範囲内にあることが好ましい。
次に、本発明によれば、上記の真空断熱材用芯材と、該芯材を収納し内部を減圧状態に維持できる外包材とを備えた真空断熱材が提供される。
その際、真空断熱材が3次元形状を有することが好ましい。また、真空断熱材が、冷蔵庫、電気ポット、自動販売機、保冷箱、保冷車、および家屋からなる群より選択されるいずれかの断熱材として用いられることが好ましい。さらに、救命胴衣等の断熱材として使用でき、海水中では浮くこともできるものとなる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、真空断熱材用芯材であって、軽量性、作業性および成型性に優れ、良好な断熱性を有する真空断熱材用芯材、ならびに該芯材を用いた真空断熱材が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明で使用する繊維構造体を得るための熱処理機の一例を示す側面図である。
【図2】B/Aの測定方法を説明するための模式図である。
【図3】繊維が繊維構造体の厚さ方向に配列している繊維構造体をプレスした後の繊維構造体断面の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明で使用する非弾性捲縮短繊維としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリ−1,4−ジメチルシクロヘキサンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリピバロラクトン、ポリ乳酸(PLA)、またはこれらの共重合体からなる短繊維ないしそれら短繊維の混綿体、または上記ポリマー成分のうちの2種類以上からなる複合短繊維等を挙げることができる。これらの短繊維のうち、繊維形成性等の観点から、ポリエチレンテレフタレートまたはポリブチレンテレフタレートからなる短繊維が特に好ましい。もちろん、マテリアルリサイクルやケミカルリサイクルされたポリエチレンテレフタレートを使用することもかまわない。また、特開2009−091694号公報に記載された、バイオマスすなわち生物由来の物質を原材料として得られたモノマー成分を使用してなるポリエチレンテレフタレートであってもよい。さらには、特開2004−270097号公報や特開2004−211268号公報に記載されているような、特定のリン化合物およびチタン化合物を含む触媒を用いて得られたポリエステルでもよい。
さらに、衣料や車両用シート等の布帛による反毛繊維等も使用することができる。
【0012】
この場合の、捲縮付与方法としては、熱収縮率の異なるポリマーをサイドバイサイド型に貼り合わせた複合繊維を用いてスパイラル状捲縮を付与する方法、異方冷却によりスパイラル状捲縮を付与する方法、捲縮数が3〜40個/2.54cm(好ましくは7〜15個/2.54cm)となるように通常の押し込みクリンパー方式による機械捲縮を付与する方法など、種々の方法を用いればよいが、嵩高性、製造コスト等の面から機械捲縮を付与するのが最適である。
【0013】
ここで、上記非弾性捲縮短繊維において、単繊維径が10〜200μmの範囲内であることが好ましい。この単繊維径が10μmよりも小さいと繊維構造体とし熱プレス後、充分な剛性が得られないおそれがある。逆に、この単繊維径200μmよりも大きいと充分な軽量性が得られないおそれがある。
上記非弾性捲縮短繊維の単繊維横断面形状は、通常の丸断面でもよいし、三角、四角、扁平などの異型断面であってもよい。なお、単繊維横断面形状が異型の場合、上記単繊維径は丸断面に換算した値を使用するものとする。さらに、丸中空断面の場合は外径寸法を測定するものとする。
また、上記非弾性捲縮短繊維の繊維長としては30〜100mmの範囲内であることが好ましい。上記繊維長が30mmよりも小さいと充分な剛性が得られないおそれがある。逆に、上記繊維長が100mmよりも大きいと工程安定性が損われるおそれがある。
【0014】
次に、熱接着性複合短繊維の熱融着成分は、上記の非弾性捲縮短繊維を構成するポリマー成分より、40℃以上低い融点、好ましくは60〜160℃低い融点を有することが必要である。この温度が40℃未満では接着が不十分となる上、腰のない取り扱いにくい繊維構造体となり、本発明の目的が達せられない。
【0015】
ここで、熱融着成分として配されるポリマーとしては、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、非弾性ポリエステル系ポリマーの共重合物、ポリオレフィン系ポリマー及びその共重合物、ポリビニルアルコール系ポリマー等を挙げることができる。
【0016】
このうち、ポリウレタン系エラストマーとしては、分子量が500〜6,000程度の低融点ポリオール、例えばジヒドロキシポリエーテル、ジヒドロキシポリエステル、ジヒドロキシポリカーボネート、ジヒドロキシポリエステルアミド等と、分子量500以下の有機ジイソシアネート、例えばp,p’−ジフェニールメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート水素化ジフェニールメタンイソシアネート、キシリレンイソシアネート、2,6−ジイソシアネートメチルカプロエート、ヘキサメチレンジイソシアネート等と、分子量500以下の鎖伸長剤、例えばグリコールアミノアルコールあるいはトリオールとの反応により得られるポリマーである。
これらのポリマーのうちで、特に好ましいのはポリオールとしてはポリテトラメチレングリコール、またはポリ−ε−カプロラクタムあるいはポリブチレンアジペートを用いたポリウレタンである。この場合の有機ジイソシアネートとしてはp,p’−ビスヒドロキシエトキシベンゼンおよび1,4−ブタンジオールを挙げることができる。
【0017】
また、ポリエステル系エラストマーとしては、熱可塑性ポリエステルをハードセグメントとし、ポリ(アルキレンオキシド)グリコールをソフトセグメントとして共重合してなるポリエーテルエステル共重合体、より具体的にはテレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、ナフタレン−2,7−ジカルボン酸、ジフェニル−4,4’−ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸、コハク酸、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジ酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体などから選ばれたジカルボン酸の少なくとも1種と、1,4−ブタンジオール、エチレングリコールトリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコールネオペンチルグリコール、デカメチレングリコール等の脂肪族ジオールあるいは1,1−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンメタノール等の脂環式ジオール、またはこれらのエステル形成性誘導体などから選ばれたジオール成分の少なくとも1種、および平均分子量が約400〜5,000程度のポリエチレングリコール、ポリ(1,2−および1,3−ポリプロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドとの共重合体、エチレンオキシドとテトラヒドロフランとの共重合体等のポリ(アルキレンオキサイド)クリコールのうち少なくとも1種から構成される三元共重合体を挙げることができる。
【0018】
特に、接着性や温度特性、強度の面からすれば、ポリブチレン系テレフタレートをハード成分とし、ポリオキシブチレングリコールをソフトセグメントとするブロック共重合ポリエーテルエステルが好ましい。この場合、ハードセグメントを構成するポリエステル部分は、主たる酸成分がテレフタル酸、主たるジオール成分がブチレングリコール成分であるポリブチレンテレフタレートである。むろん、この酸成分の一部(通常、30モル%以下)は他のジカルボン酸成分やオキシカルボン酸成分で置換されていても良く、同様にグリコール成分の一部(通常、30モル%以下)はブチレングリコール成分以外のジオキシ成分で置換されていても良い。また、ソフトセグメントを構成するポリエーテル部分はブチレングリコール以外のジオキシ成分で置換されたポリエーテルであってよい。
【0019】
共重合ポリエステル系ポリマー(非弾性ポリエステルポリマーの共重合物)としては、アジピン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸類および/またはヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸などの脂環式ジカルボン酸類と、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、パラキシレングリコールなどの脂肪族や脂環式ジオール類とを所定数含有し、所望に応じてパラヒドロキシ安息香酸などのオキシ酸類を添加した共重合エステル等を挙げることができ、例えばテレフタル酸とエチレングリコールとにおいてイソフタル酸および1,6−ヘキサンジオールを添加共重合させたポリエステル等が使用できる。
また、ポリオレフィンポリマーとしては、例えば低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン等を挙げることができる。
【0020】
上記熱融着成分の中でも、共重合ポリエステル系ポリマーが特に好ましい。特に融点が120℃以上の結晶性タイプが好ましい。真空断熱材用芯材を真空化する前に水分を飛ばすために、通常、熱処理を施し、その温度は水分が蒸発する温度を超える。熱融着成分が結晶性タイプであると、芯材を乾燥機に出し入れする場合、形状変化が少なく好ましい。また、非結晶性タイプの場合は、ポリエステル系繊維のガラス転移点より軟化が始まるが、結晶性タイプは、本現象がすくなく取り扱い性も良い。また、アウトガスも少なくなる方向であり好ましい。
【0021】
なお、上記ポリマー中には、各種安定剤、紫外線吸収剤、増粘分岐剤、艶消し剤、着色剤、その他各種の改良剤等も必要に応じて配合されていても良い。
【0022】
熱接着性複合短繊維において、熱融着成分の相手側成分としては、上記のような非弾性のポリエステルが好まして例示される。その際、熱融着成分が、少なくとも1/2の表面積を占めるものが好ましい。重量割合は、熱融着成分と非弾性ポリエステルが、複合比率で30/70〜70/30の範囲にあるのが適当である。熱接着性複合短繊維の形態としては、特に限定されないが、熱融着成分と非弾性ポリエステルとが、サイドバイサイド、芯鞘型であるのが好ましく、より好ましくは芯鞘型である。この芯鞘型の熱接着性複合短繊維では、非弾性ポリエステルが芯部となり、熱融着成分が鞘部となるが、この芯部は同心円状、もしくは偏心状にあってもよい。
【0023】
かかる熱接着性複合短繊維において、単繊維径としては20〜50μmの範囲内であることが好ましい。かかる熱接着性複合短繊維は、繊維長が30〜100mmに裁断されていることが好ましい。
【0024】
本発明においては、上記非弾性捲縮短繊維と上記の熱接着性複合短繊維を混綿させ、加熱処理することにより、該熱接着性複合短繊維同士が交差した状態で熱融着された固着点及び/又は該熱接着性複合短繊維と該非弾性捲縮短繊維とが交差した状態で熱融着された固着点とが散在してなる繊維構造体が形成される。
この際、非弾性捲縮短繊維と熱接着複合短繊維との重量比率は95/5〜10/90である必要がある。熱接着複合短繊維の比率がこの範囲より少ない場合は、固着点が極端に少なくなり、繊維構造体の腰がなく、また、熱プレスが不良となる。一方、熱接着複合短繊維の比率がこの範囲より多い場合は、接着点が多くなり過ぎ、熱処理工程での取扱い性、成型性などが低下する。
【0025】
なお、必要に応じ、生産性を損なわない範囲で、非弾性捲縮短繊維として、短繊維経が、ナノレベルから10ミクロンのもので、且つ、又は繊維長が30mm未満の繊維を混ぜることも可能である。
【0026】
さらに、本発明においては、上記繊維構造体は、上記熱接着性複合短繊維と上記非弾性捲縮短繊維が繊維構造体の厚さ方向に配列していることが肝要である。ここで、「厚さ方向に配列している」とは、繊維構造体の厚さ方向に対して平行に配列されている繊維の総本数を(B)とし、繊維構造体の厚さ方向に対して垂直に配列されている繊維の総本数を(A)とするとき、B/Aが1.5以上であることである。
すなわち、従来の真空断熱材用芯材を構成する繊維が、繊維構造体の厚さ方向に対して垂直、すなわち面方向に配列されていたのに対し、本発明においては、構成繊維が繊維構造体の厚さ方向に対して平行に配列されているため、熱プレス加工した場合、例えば図3に示すように、表面が優先的にプレスされるため、構造がダンボール構造となり、軽量化が達成される。また、表面が均一となる。
【0027】
このような繊維構造体を製造する方法には特に限定はなく、従来公知の方法を任意に採用すれば良いが、例えば非弾性捲縮短繊維と熱接着性複合短繊維とを混綿し、ローラーカードにより均一なウエブとして紡出した後、図1に示すような熱処理機を用いて、ウエブをアコーディオン状に折りたたみながら加熱処理し、熱融着による固着点を形成させる方法などが好ましく例示される。例えば、特表2002−516932号公報に示された装置(市販のものでは、例えばStruto社製Struto設備など)などを使用するとよい。
なお、図1において、符号1はウエブ、符号2はコンベア、符号3はヒーター、符号4は得られる繊維構造体である。
【0028】
本発明の真空断熱材用芯材において、繊維構造体はプレスしなくてもよいが、図3に示すように、繊維構造体の厚さ方向にプレスを施したものであることが好ましい。その際、プレスの方法としては、カレンダーロール、または加熱された成型金型で熱プレスする方法や、一定の間隙を持たせた熱カレンダーロールで処理する方法や、所定形状を持つモールドに所定量のウエブを詰め込んで圧縮・加熱成型(熱プレス)する方法などが例示される。このように、プレス加工をすることで、表面の密度があがり、ダンボール構造となり、真空加工において、潰れが非常に低く抑えられ、軽量化を達成できるものである。また、表面も均一化し作業性をしやすく、かつ、真空断熱材とした時、非常に均一な面を得ることができる。
ここで、熱プレスの条件は、例えばカレンダーロールのロール温度または成型金型温度が120〜230℃、ロール間プレスの場合、プレス圧が50〜170kg/cm、金型プレスの場合、プレス圧が500〜2000kg/cm程度である。
【0029】
かくして得られる(熱プレスされた)繊維構造体の厚さとしては、70mm以下の範囲内にあることが好ましい。特に、0.5〜50mm(より好ましくは2.0〜30mm)の範囲内にあることが好ましい。この厚さが0.5mmよりも小さいと十分な断熱性が得られないおそれがある。逆に、この厚さが50mmよりも大きいと繊維構造体が重くなるため、軽量性が損われるおそれがある。
【0030】
また、かかる繊維構造体の密度としては、0.03g/cm以上の範囲内にあることが好ましい。上記密度が0.03g/cmよりも小さいと、真空化時、押しつぶされて形状をたもてないおそれがある。特に、0.04〜0.4g/cmの範囲内にあることが好ましい。上記密度が0.04g/cmよりも小さいと、真空化時、押しつぶされて形状をたもてないおそれがある。逆に、上記密度が0.4g/cmよりも大きいと、軽量性が損なわれるおそれがある。繊維構造体の密度は、目付けと厚み、さらには熱プレス条件などにより、容易に調整することができる。
【0031】
なお、上記繊維構造体の厚さおよび密度は、繊維構造体(真空断熱材用芯材)が真空断熱材中に含まれる場合は、芯材を外包材に収容し、真空引きした後の密度を測定する。すなわち、真空断熱材を作製した後、真空断熱材の重量から、あらかじめ測定した外包材及びゲッター材等の重量を引き、芯材の重量を得る。また真空断熱材の体積から、あらかじめ測定したゲッター材等の体積を引き、芯材の体積を得る。なお、外包材は厚みが非常に小さいので、体積算出には考慮しない。得られた芯材の重量および体積から密度を算出する。
【0032】
次に、本発明の真空断熱材用芯材は、上記の繊維構造体を含む。その際、上記の繊維構造体を単独で用いることが好ましいが、必要に応じて上記繊維構造体にシート状物を貼り合せてもよい。かかるシート状物としては、スパンボンドもしくはメルトブローンもしくはフラッシュボンド等の直接紡糸法による不織布や、スパンレースもしくはエアレイドもしくはカード法による短繊維構造体による不織布で、強度や経済性、壁材としての使用時の作業性を考慮すると厚さが0.01mm以上5mm以下が好ましい。更に好ましくは、0.1mm以上2mm以下である。
【0033】
これらのシート状物に使用する素材としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレート(PEN)、ポリ乳酸(PLA)やこれらの共重合体に代表されるポリエステル、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド、その他ポリオレフィン、アクリル、モダクリル等の合成繊維やレーヨン、および絹、綿、麻、羊毛等の天然繊維が挙げられる。
【0034】
次いで、上記真空断熱材用芯材を用いて真空断熱材を得る際、上記芯材を収納する外包材としては、ガスバリア性を有し、内部を減圧に維持できるものであれば、どのようなものでも用いることができ、好ましくはヒートシール可能なものである。好適な具体例として、例えば、最外層から、ナイロン、アルミ蒸着PET(ポリエチレンテレフタレート)、アルミ箔、及び最内層として高密度ポリエチレンの4層構造からなるガスバリアフィルム、最外層から、ポリエチレンテレフタレート樹脂、中間層にアルミ箔、最内層に高密度ポリエチレン樹脂からなるガスバリアフィルム、最外層にPET樹脂、中間層にアルミニウム蒸着層を有するエチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂、最内層に高密度ポリエチレン樹脂からなるガスバリアフィルム等が挙げられる。
【0035】
一方、得られた芯材を、適当な大きさ及び形(例えば、四角形)にカットし、内部に含まれる水分等を除去するために乾燥を行う。当該乾燥は、100℃以上、低融点ポリエステル繊維の融点(TL)未満の温度、好ましくはTL−10〜TL−5(℃)の温度、例えば、100〜105℃で1時間程度の条件にて行われるが、よりポリエステル繊維の水分等を除去するために、当該温度において真空乾燥するのが好ましい。さらに、遠赤外線による乾燥を併用してもよい。
【0036】
次に、上記芯材を袋状にシールされた外包材の中に挿入する。なお、このとき、ガス吸着剤(「ゲッター材」ともいう)を一緒に挿入してもよい。この状態で真空引き装置内に入れて、内圧が1.0〜0.05Pa(パスカル)程度の真空度となるよう減圧排気する。その後、外包材の袋状開口部を熱融着により封止することにより、薄厚の立方体、凹凸のある立方体などの三次元形状の真空断熱材が得られる。なお、薄圧の立方体等のシート物を作成した後、金型を使用し熱成形することでも凹凸の有る立方体等の三次元形状の真空断熱材が得られる。
【0037】
本発明の真空断熱材において、外包材の中には芯材のみを入れるだけでも、断熱性に優れた真空断熱材を得ることができるが、経時的な断熱性をより向上させる観点から、さらに水蒸気もしくは空気の構成ガスのうち少なくとも1種類を吸着するガス吸着剤(ゲッター材)を封入することが好ましい。
ガス吸着剤としては、活性炭、シリカゲル、酸化アルミニウム、モレキュラーシーブ、ゼオライト、酸化カルシウム、酸化バリウム、塩化カルシウム、酸化マグネシウム、塩化マグネシウム、鉄、亜鉛などの金属粉、これらは、単体又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0038】
本発明の真空断熱材には、前述のように、熱接着性複合短繊維と非弾性捲縮短繊維が繊維構造体の厚さ方向に配列され、かつ厚さ方向にプレスされた繊維構造体が含まれる。その結果、本発明の真空断熱材は、優れた成型性および作業性をも呈し、さらには、軽量であるにもかかわらず良好な断熱性を呈する。さらには、ポリエステル系繊維で繊維構造体を構成する場合には、製造時およびリサイクル時において環境負荷も小さくなる。
【実施例】
【0039】
次に、本発明の実施例及び比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例中の各測定項目は下記の方法で測定した。
(1)融点
Du Pont社製、熱示差分析計990型を使用し、昇温20℃/分で測定し、融解ピークをもとめた。融解温度が明確に観測されない場合には、微量融点測定装置(柳本製作所製)を用い、ポリマーが軟化して流動を始めた温度(軟化点)を融点とする。なお、n数5でその平均値を求めた。
(2)捲縮数
JIS L 1015 7.12に記載の方法により測定した。なお、n数5でその平均値を求めた。
【0040】
(3)B/A
繊維構造体を厚さ方向に切断し、その断面において、厚さ方向に対して平行に配列されている繊維(図2において0°≦θ≦45°)の総本数を(B)とし、繊維構造体の厚さ方向に対して垂直に配列されている繊維(図2において45°<θ≦90°)の総本数を(A)としてB/Aを算出した。なお、本数の測定は、任意の10ヶ所について各々30本の繊維を透過型光学顕微鏡で観察し、その数を数えた。
(4)断熱性(熱伝導率)
断熱性の評価は、「AutoλHC−074」(英弘精機(株)製)を用いて、平均温度20℃の熱伝導率を測定した。なお、測定は真空引き工程から1日経過後に測定した。
(5)繊維構造体の厚さ(cm)
JIS K6400により測定した。
(6)繊維構造体の密度(g/cm
下記式により密度(g/cm)を求めた。
密度(g/cm)=ウエブの目付け(g/cm)/繊維構造体の厚さ(cm)
【0041】
(7)作業性
芯材(繊維集合体)を外包材に挿入するときの作業性を以下の基準に従って評価した。
○ ;芯材を容易に移動でき、且つ容易に外包材に挿入できる。
△ ;芯材を移動でき、且つ容易に外包材に挿入できる。
× ;芯材の移動及び外包材に挿入可能であるが、作業性に劣る。
××:芯材が柔らかく、外包材に繊維集合体を均一に挿入できない。
(8)単繊維径(μm)
電子顕微鏡で350倍に拡大し、n数10で単繊維径を測定し、その平均値を算出した。
【0042】
(9)成型性:190℃、180秒間熱絞り加工し、内径60mm×高さ20mm×厚み5mmのケースに成形した。このケースの胴部における外観を観察し、以下の基準で評価した。
3級:外観上に変化が見られない。
2級:表面に皺が見られる。
1級:表面に大きな皺が見られる。
【0043】
[実施例1〜2]
熱融着成分の共重合ポリエステルとして、テレフタル酸とイソフタル酸とを60/40(モル%)で混合した酸成分と、エチレングリコールとジエチレングリコールとを85/15(モル%)で混合したジオール成分とから非結晶共重合ポリエステルを得た。この共重合ポリエステルの軟化点は110℃であったので、110℃をもって融点とした。ペレットを減圧乾燥した後、鞘部に用いた。一方、ガラス転位点67℃、融点256℃のポリエチレンテレフタレートを減圧乾燥後、芯部とし、芯鞘型複合溶融紡糸装置に供給し、体積比50/50の複合比率で、紡糸温度290℃、吐出量650g/分で、紡糸孔数450の紡糸口金から溶融紡出した。油剤を付与し、900m/分で引き取って未延伸芯鞘型複合繊維を得た。
この未延伸繊維を集束し、通常の方法にて延伸した後、油剤を付与し、室温にて冷却された押し込み式クリンパーで捲縮を付与し、繊維長51mmに切断して単糸繊度2.2dtexの熱接着性複合短繊維を得た。このときの捲縮数は、11個/25mmであった。
【0044】
この熱接着性複合短繊維40%(重量)と、非弾性捲縮短繊維として常法により得られた単繊維の太さが4.4dtex、繊維長が51mm、捲縮数が8ケ/210cmの中空断面ポリエチレンテレフタレート短繊維(ポリエチレンテレフタレートの融点256℃、中空率32%)60%(重量)とをカードにより混綿し、ローラーカードとストルート設備を使用し熱処理した繊維構造体を作製した、次いで、これら繊維構造体を、190℃に加熱された金属製平板の間にはさみ、プレス圧800kg/cmで熱プレスした後、室温にて冷却し真空断熱材用芯材を得た。本発明によるストルートつまりB/Aが1.5以上による実施例1、2を表1に示す。なお、いずれの場合にも、非弾性捲縮短繊維の単繊維径が24.8μm、熱接着性複合短繊維の単繊維径が14.5μmであった。また、上記繊維構造体において、熱プレスにより、繊維構造体表面の密度が内層部よりも大きくなっていた。
【0045】
得られたシートを300mm×300mmの大きさに裁断し、温度105℃にて1時間乾燥を行った。乾燥後のシートを芯材として、ポリエチレンテレフタレート樹脂、アルミ箔、高密度ポリエチレン樹脂からなる3層構造からなるガスバリアフィルム製外包材に挿入し、同時にゲッター材(酸化カルシウムをポリエステル製の袋に充填したもの)を1個を外包材の中に挿入した。その後、真空引き装置にて、内圧が0.008Torr(1.1Pa)となるよう真空引きを行い熱伝導率を測定した。また、成形テストを実施した。その結果を表1に示す。
【0046】
[実施例3]
熱融着成分の共重合ポリエステルとしてテレフタル酸とイソフタル酸とを80/20(モル%)で混合した酸成分と、エチレングリコールとトリメチレングリコールとを30/70(モル%)で混合したジオール成分とから結晶性共重合ポリエステルを得た。上記共重合ポリエステルの融点は160℃であった。ペレットを減圧乾燥した後、鞘部に用いた。一方、ガラス転位点67℃、融点256℃のポリエチレンテレフタレートを減圧乾燥後、芯部とし、芯鞘型複合溶融紡糸装置に供給し、体積比50/50の複合比率で、紡糸温度290℃、吐出量650g/分で、紡糸孔数450の紡糸口金から溶融紡出した。油剤を付与し、900m/分で引き取って未延伸芯鞘型複合繊維を得た。
この未延伸繊維を集束し、通常の方法にて延伸した後、油剤を付与し、室温にて冷却された押し込み式クリンパーで捲縮を付与し、繊維長51mmに切断して単糸繊度2.2dtexの熱接着性複合短繊維を得た。このときの捲縮数は11個/25mmであった。その後、実施例1において、熱接着性複合短繊維として該熱接着性複合短繊維を用いること以外は実施例1と同様にして真空断熱材を作成し熱伝導率の測定と成形テストを実施した。その結果を表1に示す。なお、繊維構造体(真空断熱材用芯材)において、熱プレスにより、繊維構造体表面の密度が内層部よりも大きくなっていた。
【0047】
[比較例1]
実施例1と同条件にて原綿を配合し、ローラーカードとクロスレイ設備を使用し熱処理した繊維構造体を作成した、その後は、実施例と同様にして真空断熱材用芯材を作成した。その結果を表1に示す。
【0048】
[比較例2]
実施例1の非弾性捲縮短繊維を重量比で100%使用し、ローラーカードとクロスレイ設備を使用しシート物を作成し、熱処理することなしにニードルパンチ法を用いて目付480g/mの不織布を得た。この不織布を4層に重ね、熱プレスすること無しに、実施例1と同様に乾燥後ガスバリアフィルム製外包材に挿入して実施例1と同様にし、真空断熱材を得た。その結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明によれば真空断熱材用芯材であって、軽量性、作業性および成型性に優れ、良好な断熱性を有する真空断熱材用芯材、ならびに該芯材を用いた真空断熱材が得られ、その工業的価値は極めて大である。本発明により得られる真空断熱材は、冷蔵庫、電気ポット、自動販売機、保冷箱、保冷車、および家屋などの断熱材として有用である。さらに、救命胴衣等の断熱材として使用でき、海水中では浮くこともできるものとなる。
【符号の説明】
【0051】
1 ウエブ
2 コンベア
3 ヒーター
4 繊維構造体
F 熱接着性複合短繊維または非弾性捲縮短繊維
繊維構造体の厚さ方向
熱接着性複合短繊維または非弾性捲縮短繊維の配列方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空断熱材用芯材であって、
非弾性捲縮短繊維と、該非弾性捲縮短繊維を構成するポリマーよりも40℃以上低い融点を有するポリマーが熱融着成分としてその表面に配された熱接着性複合短繊維とが重量比率で95/5〜10/90となるように混綿され、該熱接着性複合短繊維同士が交差した状態で熱融着された固着点および/または該熱接着性複合短繊維と上記非弾性捲縮短繊維とが交差した状態で熱融着された固着点とが散在し、かつ上記熱接着性複合短繊維と上記非弾性捲縮短繊維が繊維構造体の厚さ方向に配列してなる繊維構造体を用いてなることを特徴とする真空断熱材用芯材。
【請求項2】
上記繊維構造体が、繊維構造体の厚さ方向にプレスされた繊維構造体である、請求項1に記載の真空断熱材用芯材。
【請求項3】
上記プレスが熱プレスである、請求項2に記載に真空断熱材用芯材。
【請求項4】
上記非弾性捲縮短繊維がポリエステル系繊維からなる、請求項1〜3のいずれかに記載の真空断熱材用芯材。
【請求項5】
上記熱接着性複合短繊維の熱融着成分が共重合ポリエステルからなる、請求項1〜4のいずれかに記載の真空断熱材用芯材。
【請求項6】
上記熱接着性複合短繊維の熱融着成分が120℃以上の融点を有する結晶性共重合ポリエステルからなる、請求項1〜5のいずれかに記載の真空断熱材用芯材。
【請求項7】
上記繊維構造体の厚さが0.5〜50mmの範囲内にある、請求項1〜6のいずれかに記載の真空断熱材用芯材。
【請求項8】
上記繊維構造体の密度が0.04〜0.4g/cmの範囲内にある、請求項1〜7のいずれかに記載の真空断熱材用芯材。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の真空断熱材用芯材と、該芯材を収納し内部を減圧状態に維持できる外包材とを備えた真空断熱材。
【請求項10】
真空断熱材が3次元形状を有する、請求項9に記載の真空断熱材。
【請求項11】
冷蔵庫、電気ポット、自動販売機、保冷箱、保冷車、および家屋からなる群より選択されるいずれかの断熱材、あるいは、救命胴衣の断熱材として用いられる、請求項9または請求項10に記載の真空断熱材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−26059(P2012−26059A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−166957(P2010−166957)
【出願日】平成22年7月26日(2010.7.26)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【出願人】(596009939)株式会社アヴァンティ (6)
【Fターム(参考)】