説明

真空蒸着装置

【課題】共蒸着の濃度比率を正確に制御しながら蒸着を行なうことができる真空蒸着装置を提供する。
【解決手段】真空チャンバー1内に複数の蒸発源2と被蒸着体3とを配置し、各蒸発源2から気化した物質を被蒸着体3の表面に到達させて蒸着させるようにした真空蒸着装置に関する。各蒸発源2から気化した物質9の真空チャンバー1内の濃度比を光学的に計測する光学的濃度比計測手段12と、光学的濃度比計測手段12で計測される濃度比に応じて、各蒸発源2の加熱温度を制御する加熱温度制御手段13とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空雰囲気中で複数の蒸発源を気化させると共に各気化物質を被蒸着体に共蒸着させるようにした真空蒸着装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
真空蒸着装置は、真空チャンバー内に蒸発源と被蒸着体とを配置し、真空チャンバー内を減圧した状態で、蒸発源を加熱して、蒸発源を溶融させて蒸発させるか、もしくは蒸発源を昇華させるかして、気化させ、この気化させた物質を被蒸着体の表面に堆積させて蒸着するようにしたものである。そして加熱されて蒸発源から発生する気化物質は蒸発源から法線方向に直進的に放出されるが、放出空間は真空に保たれているため気化物質は直進し、蒸発源と対向して配置される被蒸着体の表面に付着して蒸着されるものである。
【0003】
また、被蒸着体に共蒸着をする場合、複数の蒸発源を用い、各蒸発源から気化した物質を被蒸着体に到達させて、複数の気化物質が混在した状態で被蒸着体に付着させるようにしている。
【0004】
図4は被蒸着体3に共蒸着を行なうことができるようにした真空蒸着装置を示すものであり、真空チャンバー1内に複数の蒸発源2と被蒸着体3とを対向させて配置し、発熱体21で各蒸発源2を加熱して気化させ、各蒸発源2から気化した物質が混在した状態で被蒸着体3に到達して付着することによって、共蒸着することができるようにしたものである。このように蒸着を行なうにあたって、被蒸着体3に蒸着される膜厚や蒸着速度の測定は、膜厚計38を用いて行なうことができる。この膜厚計38としては、水晶振動子膜厚計など表面に蒸着して付着される膜厚を自動計測するようにしたものを用いることができる(例えば特許文献1参照)。
【0005】
そして被蒸着体3の近傍に膜厚計38aを配置することによって、複数の各蒸発源2から気化した物質9は被蒸着体3に付着すると同時に、この膜厚計38aにも付着するので、被蒸着体3に共蒸着される膜厚や蒸着速度を膜厚計38aで測定することができるものである。また複数の蒸発源2のうち個々の蒸発源2から気化した物質9のみが飛翔する範囲にそれぞれ膜厚計38bを配置することによって、各蒸発源2から気化した物質9の蒸着膜厚や蒸着速度を個別に測定することができるので、各蒸発源2から発生する気化物質9の量を個別に検知することができる。そしてこのように膜厚計38aで個別に検知される各蒸発源2の気化物質9の量の比から、共蒸着の濃度比率を検出することができるものであり、このように検出された濃度比率に基づいて、各蒸発源2の発熱体21の加熱温度を制御することによって、被蒸着体3に共蒸着する濃度比率を調整することができるものである。
【0006】
また、蒸着を行なう際の、蒸着膜厚や蒸着速度の測定は、質量分析によっても行なうことができる。質量分析は、真空チャンバー内に質量分析計を設け、蒸発源から気化した物質の質量数を測定することによって、蒸着膜厚や蒸着速度の測定するようにしたものである(例えば特許文献2参照)。この場合、上記の膜厚計38a,38bの代わりに質量分析計を用いることになる。
【特許文献1】特開2002−080961号公報
【特許文献2】特許第2650609号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、蒸発源2から発生した気化物質9は真空空間に放出されるため、平均自由行程は数十mにも及ぶものであり、一つの蒸発源2から気化した物質9のみが飛翔する範囲に、他の蒸発源2から気化した物質9が進入することを防ぐことは難しい。従って個々の蒸発源2から気化した物質9のみが飛翔する範囲に膜厚計38bを配置しても、各蒸発源2から発生する気化物質9の量を個別に正確に測定することは難しい。特に、共蒸着を行なう場合、材料使用効率を向上するために、各蒸発源2の間隔距離を小さくて、各蒸発源2から気化した物質9が均一に混合される領域を広くする必要があり、この結果、個々の蒸発源2から気化した物質9のみが飛翔する範囲が狭くなって、各蒸発源2からの気化物質9の量を個別に測定することはより難しくなる。このことは質量分析計を用いて測定する場合も同じである。
【0008】
このように、複数の各蒸発源2から発生して被蒸着体3へと飛翔する気化物質9の量を個別に測定することは難しいものであり、この測定結果に基づいて共蒸着の濃度比率を制御することは困難であるという問題があった。
【0009】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、共蒸着の濃度比率を正確に制御しながら蒸着を行なうことができる真空蒸着装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の請求項1に係る真空蒸着装置は、真空チャンバー1内に複数の蒸発源2と被蒸着体3とを配置し、各蒸発源2から気化した物質を被蒸着体3の表面に到達させて蒸着させるようにした真空蒸着装置において、各蒸発源2から気化した物質9の真空チャンバー1内の濃度比を光学的に計測する光学的濃度比計測手段12と、光学的濃度比計測手段12で計測される濃度比に応じて、各蒸発源2の加熱温度を制御する加熱温度制御手段13とを備えて成ることを特徴とするものである。
【0011】
この発明によれば、複数の各蒸発源2から気化した物質9が真空チャンバー1内で混在する比率を光学的濃度比計測手段12で計測することによって、各蒸発源2からの気化物質9の濃度比を正確に検出することができるものであり、この濃度比に応じて加熱温度制御手段13で各蒸発源2の加熱温度を制御することによって、被蒸着体3に共蒸着する濃度比率を正確に調整することができるものである。
【0012】
また請求項2の発明は、請求項1において、複数の各蒸発源2から気化した物質9を蒸着させてその蒸着厚みを計測する蒸着厚み計測手段7と、蒸着厚み計測手段7で計測される蒸着厚みに応じて、各蒸発源2の加熱温度を制御する加熱温度制御手段13とを備えて成ることを特徴とするものである。
【0013】
この発明によれば、蒸着厚み計測手段7で蒸着膜厚を計測することによって、各蒸発源2から気化した物質9が被蒸着体3に共蒸着される膜厚や蒸着速度を検知することができ、蒸着厚み計測手段7で計測された蒸着厚みに応じて各蒸発源2の加熱温度を制御することによって、共蒸着の濃度比率を維持しながら、蒸着膜厚や蒸着速度を制御することができるものである。
【0014】
本発明の請求項3に係る真空蒸着装置は、真空チャンバー1内に複数の蒸発源2と被蒸着体3とを配置し、各蒸発源2から気化した物質9を被蒸着体3の表面に到達させて蒸着させるようにした真空蒸着装置において、各蒸発源2から気化した物質9の真空チャンバー1内の濃度比を光学的に計測する光学的濃度比計測手段12と、蒸発源2の物質が気化される温度で加熱され、各蒸発源2から気化した物質9が被蒸着体3へと飛翔する空間を囲む筒状体4と、各蒸発源2を個別に収容し、蒸発源2から気化した物質9が筒状体4内へと通過する開口部5を有する複数の蒸発源収容部14と、各蒸発源収容部14に設けられ、開口部5の開口度を調整可能な開閉手段6と、光学的濃度比計測手段12で計測される濃度比に応じて、各蒸発源収容部14の開閉手段6による開口部5の開口度を制御する開閉制御手段8とを備えて成ることを特徴とするものである。
【0015】
この発明によれば、蒸発源2から発生する気化物質9を筒状体4内に囲った状態で、筒状体4の内面で反射させながら被蒸着体3の方向へ飛翔させることができ、気化物質9の歩留まり高く蒸着を行なうことができるものである。また各蒸発源2から気化した物質9は各蒸発源収容部14の開口部5を通過した後に筒状体4内を飛翔して被蒸着体3に到達するものであり、光学的濃度比計測手段12で正確に計測された各蒸発源2からの気化物質9の濃度比に応じて、各蒸発源収容部14の開口部5の開口度を調整する開閉手段6を開閉制御手段8で制御することによって、各蒸発源2から発生した気化物質9が各蒸発源収容部14の開口部5を通過して被蒸着体3へと移動する量を制御することができ、被蒸着体3に共蒸着する濃度比率を正確に調整することができるものである。
【0016】
また請求項4の発明は、請求項3において、複数の各蒸発源2から気化した物質9を蒸着させてその蒸着厚みを計測する蒸着厚み計測手段7と、蒸着厚み計測手段7で計測される蒸着厚みに応じて、各蒸発源収容部14の開閉手段6による開口部5の開口度を制御する開閉制御手段8とを備えて成ることを特徴とするものである。
【0017】
この発明によれば、蒸着厚み計測手段7で蒸着膜厚を計測することによって、各蒸発源2から気化した物質9が被蒸着体3に共蒸着される膜厚や蒸着速度を検知することができ、蒸着厚み計測手段7で計測された蒸着厚みに応じて各蒸発源収容部14の開閉手段6による開口部5の開口度を制御することによって、共蒸着の濃度比率を維持しながら、蒸着膜厚や蒸着速度を制御することができるものである。
【0018】
また請求項5の発明は、請求項1乃至4のいずれかにおいて、光学的濃度比計測手段12は、分光分析、光吸収分析、発光分析から選ばれる方法で真空チャンバー1内の気化物質9の濃度比を計測するものであることを特徴とするものである。
【0019】
この発明によれば、複数の各蒸発源2から気化した物質9が真空チャンバー1内で混在する比率を光学的な方法で正確に計測することができるものであり、各蒸発源2から気化した物質9の濃度比を正確に検出することができるものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、複数の各蒸発源2から気化した物質9が真空チャンバー1内で混在する比率を光学的濃度比計測手段12で計測することによって、各蒸発源2からの気化物質9の濃度比を正確に検出することができるものであり、この濃度比に応じて被蒸着体3に共蒸着する濃度比率を正確に調整することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0022】
図1は本発明の実施の形態の一例を示すものであり、真空チャンバー1は真空ポンプ22で排気することによって真空状態に減圧することができるようにしてある。真空チャンバー1の下部内には坩堝などの複数の加熱容器31が配設してあり、各加熱容器31に蒸発源2をセットするようにしてある。これらの蒸発源2としては任意の材料を用いることができるが、例えば有機エレクトロルミネッセンス材料などの有機材料を用いることができる。各加熱容器31には発熱体21が付設してあり、発熱体21に接続した電源などの発熱源36を制御して発熱体21を発熱させることによって、加熱容器31内の蒸発源2を加熱することができるようにしてある。蒸着を行なう基板などの被蒸着体3は、真空チャンバー1の上部内において蒸発源2の上方に対向させて配置されるものである。
【0023】
上記の複数の蒸発源2と被蒸着体3の間の位置に光学的濃度比計測手段12が設けてある。光学的濃度比計測手段12は発光素子16と受光素子17を備え、さらに受光素子17で受光された光を分析する分析部18を備えて形成されるものであり、真空チャンバー1の対向する一方の内壁に発光素子16が、他方の内壁に受光素子17がそれぞれ設けてある。発光素子16と受光素子17は蒸発源2と被蒸着体3の間の空間部を横切るように対向させてあり、発光素子16から発光した光は蒸発源2と被蒸着体3の間の空間部を横切った後に受光素子17に受光されるようにしてある。
【0024】
光学的濃度比計測手段12はこのように発光素子16と受光素子17を備え、発光素子16から発光させた光を、真空チャンバー1内に導入し、真空チャンバー1内の気体分子の光吸収、発光、散乱などを、受光素子17で受光される光を分析部18で分析することによって、真空チャンバー1内の気体分子の濃度比、種類、分子数を計測することができるものである。
【0025】
分析部18での分析手法としては、分光分析、光吸収分析、発光分析などを用いることができる。光学的濃度比計測手段12としての分光分析としては、紫外可視分光分析、蛍光分光分析、赤外分光分析、ラマン分光分析などを用いることが出来る。一般的に異なる材料では、異なる吸収スペクトル、発光スペクトルを有するため、真空チャンバー1内の気体分子の吸収スペクトルまたは発光スペクトルを測定し、それぞれの材料に帰属されるピークの強度比を比較することで濃度比を求めることが可能である。
【0026】
より簡便な測定手法としては、異なる波長を有する2種類以上の光を発光素子16より真空チャンバー1に導入し、それぞれの吸収強度比から濃度比を求める方法、また、特定の波長を有する1種類以上の光を発光素子16より真空チャンバー1に導入し、異なる波長の光の発光強度比から濃度を求める方法が挙げられる。これらの方法では、スペクトル測定の必要が無くなるため、非常に短時間での濃度比計測が可能である。
【0027】
さらに、それぞれの吸収スペクトル、発光スペクトルがともに非常に近い波長である材料の濃度比測定に関しては、赤外分光分析やラマン分光分析などの振動分光法を用いることで容易にそれぞれの材料の吸収強度や散乱強度を測定することが可能であり、これら振動スペクトルの強度比から濃度比計測が可能である。
【0028】
なお、発光素子16と受光素子17の設置場所は、光吸収分析の場合は蒸発源2と被蒸着体3の間の空間を横切るように一般的に設けるが、分光分析、発光分析などの場合には、気体分子からの蛍光・散乱光を観測できる箇所であれば、受光素子17はどこに設けても良い。また、発光素子16や受光素子17の代わりに、真空チャンバー1の外部に設けた発光素子から発光した光を真空チャンバー1内に導入するための光ファイバーとして設けたり、真空チャンバー1の外部に設けた受光素子に真空チャンバー1内の光を導入させるための光ファイバーとして設けるようにしても良い。
【0029】
光学的濃度比計測手段12の分析部18は、CPUやメモリー等を備えて形成される加熱温度制御手段13に電気的に接続してあり、分析部18で分析されたデータが加熱温度制御手段13に入力されるようにしてある。また上記の各発熱体21の発熱源36もそれぞれこの加熱温度制御手段13に電気的に接続してあり、分析部18から入力された分析データに基づいて、各発熱体21の発熱温度を加熱温度制御部13で制御することができるようにしてある。
【0030】
上記のように形成される真空蒸着装置で蒸着を行なうにあたっては、まず、各加熱容器31に異なる種類の蒸発源2を充填してセットすると共に、被蒸着体3を蒸発源2の上方に水平にセットする。次に、真空ポンプ22を作動させて真空チャンバー1内を真空状態に減圧し、発熱体21を発熱させて蒸発源2を加熱すると、蒸発源2は溶融・蒸発、あるいは昇華して気化する。蒸発源2から発生するこの気化物質9は直進して蒸発源2と被蒸着体3の間の空間部を飛翔し、被蒸着体3の表面に到達する。このように被蒸着体3の表面に到達する気化物質9を堆積させることによって、被蒸着体4の表面に蒸着を行なうことができるものである。このとき、複数の蒸発源2から気化する物質9は混在した状態で被蒸着体3の表面に到達するので、各蒸発源2から気化する物質9の量に応じた濃度比率で共蒸着を行なうことができるものである。図1の実施の形態では、各加熱容器31を近接して配置し、それぞれの加熱容器31の上面の開口を相互に近づく方向に傾斜させることによって、各加熱容器31の蒸発源2から気化する物質9が均一に混合される領域が広くなるようにし、より均一な共蒸着を行なうことができるようにしてある。
【0031】
上記のようにして共蒸着を行なう際に、真空チャンバー1内における各蒸発源2から気化した物質9の濃度比率が光学的濃度比計測手段12で計測されている。光学的濃度比計測手段12は上記のように真空チャンバー1内を横切る光で、真空チャンバー1内の気体分子の種類と分子数を計測することができるので、各蒸発源2から気化した物質9の濃度比率を正確に計測することができる。そしてこのように光学的濃度比計測手段12で計測された濃度比率に基づいて、加熱温度制御手段13で各蒸発源2の発熱体21の発熱温度を個別に制御し、各蒸発源2からの気化物質9の発生量を個別に調整して、各蒸発源2からの気化物質9の発生量の比率が共蒸着の目的とする濃度比になるようにすることによって、被蒸着体3に目的とする濃度比率で共蒸着することができるものである。
【0032】
また図1の実施の形態では、被蒸着体3の近傍に蒸着厚み計測手段7が設けてある。蒸着厚み計測手段7は蒸発源2と被蒸着体3の間、またはその近傍に配置されていればよいが、被蒸着体3への蒸着膜厚をより正確に測定するためには、被蒸着体3の近傍に配置するのが好ましい。この蒸着厚み計測手段7としては水晶振動子膜厚計などを用いることができる。蒸着厚み計測手段7は加熱温度制御手段13に電気的に接続してあり、蒸着厚み計測手段7で計測された蒸着膜厚のデータが加熱温度制御手段13に入力されるようにしてある。そして加熱温度制御手段13に入力されるこの蒸着膜厚のデータに基づいて、各蒸発源2を加熱する発熱体21の発熱温度が制御されるようになっている。
【0033】
ここで、上記のように蒸着を行なう際に、各蒸発源2から発生した気化物質9が被蒸着体3の表面に到達して共蒸着されると同時に、各蒸発源2から発生した気化物質9は蒸着厚み計測手段7にも到達して共蒸着され、各蒸発源2の気化物質9が被蒸着体3に蒸着される膜厚と相関をもった膜厚で蒸着厚み計測手段7に蒸着が行なわれる。従って、蒸着厚み計測手段7で蒸着膜厚を計測することによって、被蒸着体3に共蒸着された膜厚を検知することができ、また蒸着厚み計測手段7で単位時間当たりの蒸着膜厚、すなわち共蒸着の蒸着速度を測定することによって、被蒸着体3への共蒸着の蒸着速度を検知することができるものである。
【0034】
従って、蒸着厚み計測手段7で蒸着厚み及び蒸着速度を測定し、この測定データに基づいて、加熱温度制御手段7で各蒸発源2を加熱する発熱体21の発熱温度を制御することによって、各蒸発源2からの気化物質9の発生量を調整することができ、被蒸着体3への蒸着厚み及び蒸着速度を制御することができるものである。このとき、各蒸発源2から気化物質9が発生する量の比率は上記のように制御されているので、この比率を保持した状態で、各蒸発源2を加熱する発熱体21の発熱温度を制御するものである。このため、光学的濃度比計測手段12で計測された濃度比率に基づいて共蒸着の濃度比率を制御しながら、被蒸着体3に蒸着される膜の蒸着厚み及び蒸着速度を制御することができるものである。
【0035】
図2は本発明の他の実施の形態の一例を示すものであり、真空チャンバー1内に筒状体4が配設してある。筒状体4は上面が開口する有底の筒状に形成されるものであり、上面の開口は多数の貫通孔28を設けた分散板29で塞ぐようにしてある。蒸着を行なう基板などの被蒸着体3は、筒状体4の上端の開口に対向させて、筒状体4の上方に配置されるものである。
【0036】
筒状体4の底面には、筒状体4の一部をなす複数の蒸発源収容部14が接続してある。蒸発源収容部14は上端の開口部5が筒状体4内に連通する他は、密閉された有底の筒状に形成されるものであり、共蒸着する蒸発源2の個数に応じた本数で設けられるものである。各蒸発源収容部14の下端部内に加熱容器31が配設してあり、加熱容器31に共蒸着する個別の蒸発源2をセットするようにしてある。加熱容器31には発熱体21が付設してあり、発熱体21に接続した電源などの発熱源36から給電して発熱体21を発熱させることによって、加熱容器31内の蒸発源2を加熱することができるようにしてある。また筒状体4の外周には蒸発源収容部14も含めてシーズヒーターなどのヒーター20が巻き付けてあり、ヒーター20に接続した電源26から給電してヒーター20を発熱させることによって、筒状体4を加熱することができるようにしてある。
【0037】
また各蒸発源収容部14には蒸発源2の上側において、開口部5に開閉手段6が設けてある。開閉手段6は電動バルブや電動シャッターなどで形成されるものであり、開口部5の開口度を調整することができるようにしてある。この開閉手段6はCPUやメモリー等を備えて形成される開閉制御手段8に電気的に接続してあり、開閉制御手段8から出力される制御信号によって開閉手段6による開口部5の開口度が制御されるようになっている。
【0038】
真空チャンバー1には上記の光学的濃度比計測手段12が設けてある。光学的濃度比計測手段12の発光素子16と受光素子17は筒状体4の上端と被蒸着体3の間の高さ位置に設けてあり、筒状体4の上端の開口から出て被蒸着体3に到達する気化物質9の濃度比率が計測されるようにしてある。この光学的濃度比計測手段12の分析部18は上記の開閉制御手段8に電気的に接続してあり、光学的濃度比計測手段12で計測された濃度比率のデータが開閉制御手段8に入力されるようにしてある。このように開閉制御手段8に入力される濃度比率のデータに基づいて、開閉手段6による開口部5の開口度が制御されるものである。その他の構成は図1のものと同じである。
【0039】
そして上記と同様に、真空チャンバー1内を減圧して蒸発源2を加熱すると、蒸発源2から発生する気化物質9は蒸発源収容部14の開口部5から筒状体4内に導入され、筒状体4内を直進して飛翔する。蒸発源2と被蒸着体3の間の気化物質9が飛翔する空間は筒状体4で囲まれており、気化物質9は筒状体4内に閉じ込められた状態にあるので、図2に示すように気化物質9は筒状体4の内面で反射して上端の開口へ向けて進む。このとき、筒状体4の上端の開口は多数の貫通孔28を設けた分散板29で塞がれているので、筒状体4内の気化物質9は分散板29の貫通孔28を通過した後に、筒状体4の上端の開口から出て被蒸着体3の表面に到達し、被蒸着体3の表面に気化物質9を堆積させて蒸着させることができるものである。このように気化物質9は分散板29の複数箇所の貫通孔28を通過して被蒸着体3へと進むので、均一な分布で被蒸着体3に気化物質9を到達させることができ、均一な膜厚で被蒸着体3に蒸着を行なうことができるものである。
【0040】
また、上記のように蒸発源2から気化した物質9は筒状体4内で規制されており、気化物質9が四方八方へ飛散することを防ぐことができるものであり、蒸発源2から発生する気化物質9の多くを被蒸着体3の表面に到達させて付着させることができるものである。従って蒸発源2から発生する気化物質9の多くが被蒸着体3の表面に付着して成膜に寄与することになって無効材料が少なくなり、蒸発源2の材料利用効率が高くなって歩留まりの高い蒸着が可能になると共に、被蒸着体3の表面の成膜速度を速くすることができるものである。また、筒状体4は加熱されていてホットウォールになっているために、気化物質9が筒状体4の表面に付着しても、付着物は筒状体4で再加熱されて気化し、このように再気化した気化物質9は上記と同様にして被蒸着体3の表面に蒸着されるものである。筒状体4の内周に接して取り付けられた分散板29も筒状体4からの伝熱や輻射熱で加熱されており、蒸発源2から気化した物質9が分散板29に付着しても再度蒸発等して気化して、被蒸着体3の表面に蒸着される。従って筒状体4や分散板29に気化物質9が堆積して蒸着に使用されなくなることを防ぐことができ、蒸着の歩留まりが低下するようなことはないものである。
【0041】
ここで、各蒸発源収容部14内の蒸発源2から気化した物質9は、開口部5を通過した後に筒状体4内を飛翔して被蒸着体3へと移動し、被蒸着体3に蒸着される。そしてこの開口部5の開口度を開閉手段6で調整することによって、開口部5を通過して被蒸着体3へと移動する気化物質9の量を調整することができる。すなわち、気化物質9は気体であるために、開口部5の開口度を小さくすると、開口部5を通過して移動する気化物質9の量が減り、逆に開口部5の開口度を大きくすると、開口部5を通過して移動する気化物質9の量が多くなる。また開口部5の開口度を小さくすると、蒸発源2からの気化量が減って開口部5を通過する気化物質9の量も少なくなり、開口部5の開口度を大きくすると、蒸発源2からの気化量が多くなって開口部5を通過する気化物質の9の量も多くなる。
【0042】
そこで本発明では、光学的濃度比計測手段12で計測された各蒸発体2からの気化物質9の濃度比率に基づいて、開閉制御手段8で各蒸発源収容部14に設けた開閉手段6による開口部5の開口度を個別に制御し、各蒸発源収容部14の開口部5を通過して移動する気化物質9の量を個別に調整するようにしてある。すなわち、各蒸発源収容部14の開口部5の開口度を個別に制御して、各蒸発源2から気化した物質9が被蒸着体3へと移動する量を個別に調整し、各蒸発源2から被蒸着体3へと移動する気化物質9の量の比率が共蒸着の目的とする濃度比になるようにすることによって、被蒸着体3に目的とする濃度比率で共蒸着することができるものである。
【0043】
またこの図2の実施の形態では、被蒸着体3の近傍に蒸着厚み計測手段7が設けてある。この蒸着厚み計測手段7は開閉制御手段8に電気的に接続してあり、蒸着厚み計測手段7で計測された蒸着膜厚のデータが開閉制御手段8に入力されるようにしてある。そして開閉制御手段8に入力されるこの蒸着膜厚のデータに基づいて、各蒸発源収容部14の開閉手段6による開口部5の開口度が制御されるようになっている。
【0044】
そして、蒸着厚み計測手段7で蒸着厚み及び蒸着速度を測定し、この測定データに基づいて、開閉制御手段8で各蒸発源収容部14に設けた開閉手段6による開口部5の開口度を制御することによって、各蒸発源収容部14の開口部5を通過する気化物質9の量を調整することができ、被蒸着体3への蒸着厚み及び蒸着速度を制御することができるものである。このとき、各蒸発源収容部14の開口部5を通過する気化物質9の量の比率は上記のように制御されているので、この比率を保持した状態で、各蒸発源収容部14の開口部5の開口度を制御するものである。このため、光学的濃度比計測手段12で計測された濃度比率に基づいて共蒸着の濃度比率を制御しながら、被蒸着体3に蒸着される膜の蒸着厚み及び蒸着速度を制御することができるものである。
【0045】
図3は本発明の他の実施の形態の一例を示すものであり、上記の図2の実施の形態と同様に複数の蒸発源収容部14を有する筒状体4が真空チャンバー1内に設けてある。各蒸発源収容部14の下端部内に加熱容器31が配設してあり、加熱容器31に共蒸着する個別の蒸発源2をセットするようにしてある。各加熱容器31には発熱体21が付設してあり、発熱体21に接続した電源などの発熱源36から給電して発熱体21を発熱させることによって、加熱容器31内の蒸発源2を加熱することができるようにしてある。この各発熱体21の発熱源36はそれぞれ図1の実施の形態と同様に加熱温度制御部13に電気的に接続してある。光学的濃度比計測手段12や蒸着厚み計測手段7も図2の実施の形態と同様に設けてあり、光学的濃度比計測手段12や蒸着厚み計測手段7はそれぞれ図1の実施の形態と同様に加熱温度制御部13に電気的に接続してある。
【0046】
また、筒状体4の外周には蒸発源収容部14も含めて温度調整手段10が設けてある。温度調整手段10は、シーズヒーターなどで形成される発熱体10aと、冷媒が通される冷却管などで形成される冷却体10bとを備えるものであり、発熱体10aと冷却体10bとを筒状体4の外周に交互にスパイラル状に巻くことによって、筒状体4に温度調整手段10を設けるようにしてある。発熱体10aは電源などで形成される発熱源34を制御することによって、発熱温度を調整することができるものであり、冷却体10bは冷媒冷却・送り出し装置などで形成される冷却源35を制御することによって、冷却温度を調整することができるものである。この温度調整手段10の発熱源34と冷却源35は加熱温度制御手段13に電気的に接続してあり、加熱温度制御手段13から出力される制御信号によって、発熱源34及び冷却源35を制御して発熱体10aの発熱温度や冷却体10bの冷却温度を制御し、発熱体10aと冷却体10bからなる温度調整手段10で筒状体4の温度を調整することができるようになっている。
【0047】
そして上記と同様に、真空チャンバー1内を減圧して蒸発源2を加熱すると、各蒸発源2から発生する気化物質9は蒸発源収容部14の開口部5から筒状体4内に導入され、筒状体4内を飛翔し、分散板29の貫通孔28を通過した後に被蒸着体3に気化物質9が到達して、被蒸着体3に共蒸着を行なうことができる。また図1の実施の形態と同様にして、光学的濃度比計測手段12で計測された濃度比のデータに基づいて、また蒸着厚み計測手段7で計測された蒸着膜厚や蒸着速度のデータに基づいて、加熱温度制御手段13で各蒸発源2を加熱する発熱体21の発熱温度を制御することによって、目的とする濃度比率や蒸着速度で被蒸着体3に共蒸着を行なうことができるものである。
【0048】
ここで、加熱温度制御手段13で発熱体21による蒸発源2の加熱温度を制御するにあたって、筒状体4からの輻射熱が気化物質9に作用するので、筒状体4内の気化物質9の運動速度は変化しにくく、被蒸着体3への気化物質9の移動量の変化は、微少なものであった。そこで本実施の形態では、筒状体4の温度を調整することによって、筒状体4内に存在する気化物質9の量を制御するようにしている。
【0049】
すなわち、筒状体4の温度は、温度調整手段10の発熱体10aによる加熱と冷却体10bによる冷却を制御することによって、蒸発源2の物質が気化し且つ分解しない高温の温度と、蒸発源2の物質が気化しない低温の温度との広い温度範囲で、調整することができるようにしてある。筒状体4は熱容量が大きいが、このように発熱体10aと冷却体10bを備えることによって、温度調整を迅速に行なうことができるものである。そして蒸着厚み計測手段7で計測される蒸着速度が目標値より大きいときには、例えば冷却体10bによる冷却を優先させるように加熱温度制御手段13で温度調整手段10を制御することによって、筒状体4の温度を蒸着源2の物質が気化しない温度以下に低下させて筒状体4の内面に蒸着源2の物質を析出させ、被蒸着体3への気化物質9の移動量を減少させるように制御するものである。筒状体4の温度を蒸発源2の物質が気化しない温度以下に下げると、筒状体4の内周に気化物質9が固体又は液体となって析出することになるが、筒状体4の温度を上げることによって再度気化するので、蒸着の歩留まりが低下するようなことはない。
【0050】
このようにして被蒸着体3への気化物質9の移動量を制御する他に、次のようにして制御を行なうこともできる。まず、蒸着厚み計測手段7で計測される蒸着速度が目標値よりも小さいときには、例えば発熱体10aによる加熱を優先させるように加熱温度制御手段13で温度調整手段10を制御することによって、筒状体4の温度を上昇させて高い温度の輻射熱を蒸発源2に作用させるようにし、短時間で蒸発源2の温度を上昇させるように制御するものである。また蒸着厚み計測手段7で計測される蒸着速度が目標値よりも大きいときには、例えば冷却体10bによる冷却を優先させるように加熱温度制御手段13で温度調整手段10を制御することによって、筒状体4の温度を低下させて輻射熱が蒸発源2に作用しないようにし、短時間で蒸発源2の温度を下降させるように制御するものである。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施の形態の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明の実施の形態の他の一例を示す概略断面図である。
【図3】本発明の実施の形態の他の一例を示す概略断面図である。
【図4】従来例の概略断面図である。
【符号の説明】
【0052】
1 真空チャンバー
2 蒸発源
3 被蒸着体
4 筒状体
5 開口部
6 開閉手段
7 蒸着厚み計測手段
8 開閉制御手段
9 気化物質
10 温度調整手段
12 光学濃度比計測手段
13 加熱温度制御手段
14 蒸発源収容部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバー内に複数の蒸発源と被蒸着体とを配置し、各蒸発源から気化した物質を被蒸着体の表面に到達させて蒸着させるようにした真空蒸着装置において、各蒸発源から気化した物質の真空チャンバー内の濃度比を光学的に計測する光学的濃度比計測手段と、光学的濃度比計測手段で計測される濃度比に応じて、各蒸発源の加熱温度を制御する加熱温度制御手段とを備えて成ることを特徴とする真空蒸着装置。
【請求項2】
複数の各蒸発源から気化した物質を蒸着させてその蒸着厚みを計測する蒸着厚み計測手段と、蒸着厚み計測手段で計測される蒸着厚みに応じて、各蒸発源の加熱温度を制御する加熱温度制御手段とを備えて成ることを特徴とする請求項1に記載の真空蒸着装置。
【請求項3】
真空チャンバー内に複数の蒸発源と被蒸着体とを配置し、各蒸発源から気化した物質を被蒸着体の表面に到達させて蒸着させるようにした真空蒸着装置において、各蒸発源から気化した物質の真空チャンバー内の濃度比を光学的に計測する光学的濃度比計測手段と、蒸発源の物質が気化される温度で加熱され、各蒸発源から気化した物質が被蒸着体へと飛翔する空間を囲む筒状体と、各蒸発源を個別に収容し、蒸発源から気化した物質が筒状体内へと通過する開口部を有する複数の蒸発源収容部と、各蒸発源収容部に設けられ、開口部の開口度を調整可能な開閉手段と、光学的濃度比計測手段で計測される濃度比に応じて、各蒸発源収容部の開閉手段による開口部の開口度を制御する開閉制御手段とを備えて成ることを特徴とする真空蒸着装置。
【請求項4】
複数の各蒸発源から気化した物質を蒸着させてその蒸着厚みを計測する蒸着厚み計測手段と、蒸着厚み計測手段で計測される蒸着厚みに応じて、各蒸発源収容部の開閉手段による開口部の開口度を制御する開閉制御手段とを備えて成ることを特徴とする請求項3に記載の真空蒸着装置。
【請求項5】
光学的濃度比計測手段は、分光分析、光吸収分析、発光分析から選ばれる方法で真空チャンバー内の気化物質の濃度比を計測するものであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の真空蒸着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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