説明

真菌性皮膚疾患の治療用医薬組成物及びその製造方法

本発明は、真菌性皮膚疾患の光治療用医薬組成物であって、前記医薬組成物は光増感剤及びエンハンサーを含み、光増感剤がカチオン性光増感剤であり、前記エンハンサーが、i)酸、及びii)金属キレート剤から選択される。このような組成物は、分生子及び菌糸をいずれも排除することができる。本発明は、前記医薬組成物の製造方法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真菌性皮膚疾患の光治療用医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
白癬、特に爪の感染のような真菌性皮膚疾患を治療するためのいくつかの医薬組成物、例えば、Lamisil(登録商標)(テルビナフィン)が当該技術分野において公知である。それは、中程度の効果のみを示し、感染の再発は一般的である。これは皮膚糸状菌(真菌)の胞子(分生子)により引き起こされ、胞子はこの治療によって明らかに死滅しないと信じられている。この問題を克服するため、光治療を用いる努力がなされ、活性化酸素種(一重項酸素)が皮膚糸状菌の種々の段階を不活性化する場合、活性化酸素種はそれほど区別されないので、より効果的なアプローチを可能にするだろう。しかし、PDTは紅色白癬菌(Trichophyton rubrum)のような皮膚糸状菌に対して効果的であることが示されるが、これらの皮膚糸状菌はLamisil(登録商標)のような局所薬剤を投与する場合には生存すると思われる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、皮膚糸状菌の胞子(分生子)及び菌糸を不活性化することのできる医薬組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の医薬組成物は、前記医薬組成物が光増感剤及びエンハンサーを含み、前記光増感剤がカチオン性光増感剤であり、前記エンハンサーが、i)酸、及びii)金属キレート剤から選択される医薬組成物によって特徴づけられる。
【0005】
意外にも、皮膚糸状菌を不活性化するためのカチオン性光増感剤の有効性は、このようなエンハンサーの医薬組成物中の取り込みにより、胞子まで広がり得る。更に、医薬組成物は、薬学的に許容される担体又は賦形剤を含んでもよい。本発明の意味においては、カチオン性光増感剤は、四級化窒素原子を有する光増感剤であり、好ましくは、少なくとも2個、好ましくは3個以上の四級化窒素原子を含む光増感剤である。増感剤の全体の電荷が正である限り、1個以上の負電荷を有する側鎖の存在は排除されない(1個以上の負の対イオンが存在する)。酸は、有機又は無機のいずれの酸であってもよく、炭酸が含まれる。医薬組成物は、純度に関して医薬組成物の要求を満たす組成物であり、医薬品グレードの成分を含む。好ましくはi)及びii)の両方のクラスの1種以上のエンハンサーが存在してもよい。金属キレート剤は、好ましくは、Ca2+及びMg2+とキレート化し得る金属キレート化合物である。適切な具体例は、酸及びキレート剤の両方として作用し得るEDTA又はNaEDTAである。「金属キレート化合物」なる用語は、例えば、クラウン・エーテル、ゼオライト、イオン交換体、タンパク質(カルモジュリン)及び沈殿剤(負電荷の対イオン等)を含む、金属イオンと結合し得るあらゆる化合物を包含する。Ca2+の結合は、特に有利であると考えられる。一般に、エンハンサーが酸である場合、医薬組成物のpHは3以上であるが、7未満、特に6未満であろう。使用前に水性媒体中に医薬組成物を、例えば溶解することによって導入する場合、前記pHは、得られる医薬組成物を使用のために準備する場合のpHである。治療すべき皮膚を、光治療(PDT)による治療の直前にカルシウムイオンを除去するための処置、例えば、高濃度のEDTA−溶液又は十分量の脱塩又は蒸留水の使用に供してもよい。キレート剤を用いる場合、次に、例えば脱塩又は蒸留水を再び用いて過剰量の薬剤を洗い流してもよい。本発明は、カチオン性光増感剤による光治療を用いた真菌性皮膚疾患の治療をも含み、好ましい実施態様によれば、例えば、前述した、又は本出願の他の場所に記載したように、カルシウムを封鎖する工程を含む。カルシウムを封鎖する工程は、PDTの前又は間に実施されるであろう。
【0006】
好ましい実施態様によれば、医薬組成物はxのpHを有し、ここで、3.5<x<6であり、好ましくは4.5<x<5.7である。
【0007】
特に皮膚に接触した後に、pHをこの範囲に維持するために、酸は、好ましくは医薬組成物を前記範囲に緩衝させることのできる、弱酸である。弱酸は、好ましくはxについて前述した範囲のpKaを有する。
【0008】
好ましい実施態様によれば、医薬組成物は、10mM以下、更に好ましくは6mM以下、最も好ましくは2mM以下のイオン強度を有する。
【0009】
低イオン強度は、菌糸の処置における本発明の医薬組成物中の光増感剤の有効性において好ましい結果を有することがわかった。
【0010】
好ましい実施態様によれば、カチオン性光増感剤は、大員環ポルフィリンを含む光増感剤であり、この大員環ポリフィリンは、少なくとも1個の四級化窒素原子を含む。更に好ましくは、3個の四級化窒素原子を有する。一般に最も好ましくは、5,10,15−トリス(4−メチルピリジニウム)−20−フェニル[21H,23H]−ポルフィントリクロライド(シルセンス(Sylsens)B)である。
【0011】
本発明の医薬組成物の用途の重要な分野は、真菌性皮膚疾患が、白癬及び爪甲真菌症からなる群から選択されるものである。
【0012】
重要な実施態様によれば、医薬組成物は局所用医薬組成物である。
【0013】
このような局所用組成物は、治療すべき皮膚の部分(爪を含む)に容易に塗布することができる。局所用組成物は、好ましくはゲル、軟膏、クリーム、又は他の粘性のある組成物、特にそれらの水性形態である。用語、局所用組成物にはスプレー、特に、皮膚への塗布を可能にする、エタノール又は水のような揮発性溶媒を含むものも含まれる。揮発性溶媒を含まない非粘性の組成物は、それらが確実に塗布することが困難であるので、一般に好ましくない。治療すべき部位に噴霧又はすり込むことができる、水をベースとする局所性医薬組成物が最も好ましい。
【0014】
本発明は、真菌感染症治療用医薬組成物の製造のためのエンハンサーの使用であって、前記医薬組成物がカチオン性光増感剤を含み、前記エンハンサーが、i)酸、及びii)金属キレート剤からなる群から選択される使用にも関する。
【0015】
好ましい実施態様は、医薬組成物について前述したような利点を有する、従属請求項に詳細に記載されている。
【0016】
これから、本発明を以下の実験及び図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】pH3.5及びpH7.4におけるシルセンスBの抗真菌効果を示す。
【図2a】同様に、シルセンスBの抗真菌効果を示す。
【図2b】同様に、シルセンスBの抗真菌効果を示す。
【図2c】同様に、シルセンスBの抗真菌効果を示す。
【図3】イオン強度の効果を示す。
【図4】pHの関数として測定した、T.rubrum小分生子(黒のひし形)及び菌糸体(黒四角)のゼータ電位を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
最小発育阻止濃度(MIC)の測定
直径が25mmでありポアサイズが2μmのポリカーボネート膜フィルター(Whatman,Breda,The Netherlands)を、5mLの麦芽エキス寒天(MEA)を満たした3cmの培養皿(Greiner,Alphen aan den Rijn,The Netherlands)の中心部分に置いた。次いで、1cmの直径のヒトの角質層の円形の断片を膜フィルター上に置き、70%エタノールに浸したはけを用いて両方を静かにこすった。Trichphyton rubrumから分離した小分生子懸濁液(Centraal Bureau voor Schimmelcultures,Utrecht,The Netherlandsから得、「ポルフィリン増感剤を用いた、皮膚糸状菌、Trichophyton Rubrum及びその小分生子の光治療」、Photochemistry and PhotoBiology,80,197−202において、Smijs G.M.T.ら(2004)に開示されたように製造したCBS nr.304.60)を1000CFU/mLに希釈し、15μLをヒトSCの円形シート上に接種した。胞子接種光治療(PDT)を適用した後、皿を、28℃のインキュベータ中に17時間置いた。
【0019】
胞子接種の17時間後に、接種された胞子を含むSCを有する膜フィルターを、MEA皿から、1035μLのインキュベーション培地で満たした3cmの培養皿に移した。インキュベーション培地は、pHが調整された1mLの蒸留水(3.5、4.5、5.2又は7.4)及び35μLのシルセンスB原液(Buchem,Apeldoorn,the Nederland)を含む。接種した胞子とインキュベーション培地との接触を最適化するために、2時間のインキュベーション時間の間、SCを有する膜フィルターをひっくり返した。連続的な振盪条件下でインキュベーションを実施した。照射時間の直前に、SCを有する膜フィルターを裏返した(表面のSCは、今はランプに面している)。全てのケースにおいて、照射時間は、30mW/cmの赤色光照射を用いて1時間であった。これは108J/cmの照射量に相当する。照射した後、SCを有する膜フィルターを新鮮なMEM皿に移し、28℃のインキュベータ中に置き、真菌の増殖を数週間追跡調査した。暗コントロールを含む、すなわち、ヒトの皮膚上の接種された小分性子を溶媒及び/又は暗所における光増感剤で処理したことを除き、同じ手段を実施した。明コントロールにおいては、小分生子を光の存在下に溶媒(のみ)で処理した。処理の効果は、胞子接種後8日に検出される新規の増殖完全な不活性化の相対頻度として表わした。これを、Zeiss Axiovert 25(Germany)を用いて、顕微鏡的に評価した。PDTの後に、胞子及び菌糸の完全が活性化が得られる場合に、8日後に、目視によって再増殖を観察することができない。処置の効果を数ヶ月の間追跡調査した。各実験は全ての条件の4〜6回の再現を含み、実験を少なくとも3回繰り返した。
【0020】
結果を表1に示す。
【0021】
図1は、pH3.5及び7.4についての、この実験の結果を示す(胞子接種8日後の抗真菌効果(FE))。酸性のpHにおいては、カチオン性光増感剤は有意に活性であった。
【0022】
メソ−テトラ(N−メチル−4−ピリジル)ポルフィリンテトラクロライドを用いて同じ実験を実施し、シルセンスBよりも少ない程度であるにもかかわらず、酸性のpHで向上した活性を示した(結果は示さず)。
【0023】
【表1】





【0024】
インキュベーション:調整されたpHを有する水媒体中で2時間
照射:1時間、30mW/cm(赤色光)
抗真菌効果は、胞子接種の8日目に測定した。
μMにおける最小発育阻止濃度(所定の試験環境下)
暗毒性は同じ範囲内である。
真菌の増殖自体又は発芽過程は、このpHでは遅い(明及び暗コントロールにおいて少ない数のCFU)。
【0025】
生体外でのモデル、種々の濃度のシルセンスB及び種々のpH(水性媒体)を用いた胞子接種17時間後のT.rubrumのPDT。数字は、抗真菌効果の相対的頻度を示す。区分(brackets)の間の数字は、実施した試験の番号を示す。これらの結果から、最も低いMICはpH5.2で検出され、このpHにおける照射により、増感剤が抗真菌剤として最適に効果的であることが明らかである。
【0026】
シルセンスBを用いた実験を、長時間及び多くの試料について、より広範囲に繰り返した。特に、T.rubrumに対するシルセンスBの光力学的効果を、以下に示すインキュベーションpH値で、ヒトSCにおける胞子接種後17(図2a)、48(図2b)及び72時間(図2C)で試験した:黒ひし形:pH3.5、黒四角:pH5.2及び黒三角pH7.4.PDTの適用は、調整した、指示されたpHの蒸留水中で2時間のインキュベーション、次いで1時間の照射(30mW/cm、赤色光)により、生体外モデルを用いて実施した。得られた値は、5種の異なる実験の平均値及び標準誤差(SEM)である。17時間の段階について、暗コントロールは8〜12cfuを示した。48時間及び72時間の段階について、暗コントロールは80μM以下のシルセンスBで8〜12cfu、より高い濃度について5〜8cfuを示した。明コントロールは、全ての段階で8〜12cfuを示した。
【0027】
イオン強度
図3を参照されたい。T.rubrumに対するシルセンスBの光力学的効果を、17(黒丸)、48(黒三角)及び72時間(黒四角)で、種々のモル濃度のpH5.2のクエン酸/クエン酸ナトリウムバッファーを用いて試験した。PDTの適用は、種々のモル濃度のpH5.2のクエン酸/クエン酸ナトリウムバッファー中での2時間のインキュベーション、次いで、1時間の照射(30mW/cm、赤色光)により、生体外モデルを用いて実施した。シルセンスBの濃度は、胞子接種17時間後におけるPDT適用について10μM、胞子接種48時間後における適用について80μM、及び胞子接種72時間後における適用について160μMに固定した。得られる値は、3種の実験についての平均値及びそれらのSEMである。
【0028】
明及び暗コントロールは、いずれも全ての増殖段階について8〜12cfuを示した。
【0029】
前記実験において、デューテロポルフィリンモノメチルエーテル(DPmme)、アニオン性ポルフィリンをコントロールとして用いた。負電荷であり、このポリフィリンは、観察されたpH効果を示さなかった。更に、観察されるpH効果が、異なるpH値におけるシルセンスBの種々の効果のためでないことを示すために実験が実施された。特に、の生産は、用いられたpHの範囲の全体で実質的に一定であった。更に、ゼータ電位(Zetasizer 2000/3000,Malvern Instruments Ltd,Worcs,UKを用いて)を測定するために実施された実験は、これらが3.5を超えるpHにおいて負に帯電し(図4)、それ故カチオン性光増感剤に結合することを示した。皮膚は約5.5のpHを中心とする等電範囲を有するので、皮膚はこのpHより下で負電荷が小さく、それ故、カチオン性光増感剤と結合しそうにない。pH5.2において5mM CaClの存在下、光力学的効果を測定するために、カルシウムイオンの効果を調べた。これは、懸濁液中で増殖する真菌に対してシルセンスBを結合させない。同じ効果は、160μMでシルセンスB(160μM)と真菌に対する結合について競合し、シルセンスBの新規を不活性化する効果を低下させる、正に帯電した色素、Alcian Blueを用いて達成することができる。従って、自然に存在するカルシウムが処置により緩衝されるのを防止するために、特にEDTAのようなキレート化合物を用いることにより、測定が実施される場合、PDTは、増殖する真菌を不活性化(死滅)するためにさえ用いられ得る

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光増感剤及びエンハンサーを含む、真菌性皮膚疾患の光治療用医薬組成物であって、前記光増感剤がカチオン性光増感剤であり、前記エンハンサーが、i)酸、及びii)金属キレート剤から選択される医薬組成物。
【請求項2】
前記医薬組成物がxのpHを有し、3.5<x<6、好ましくは4.5<x<5.7である、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記医薬組成物が、10mM以下、更に好ましくは6mM以下、最も好ましくは2mM以下のイオン強度を有する、請求項1又は2記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記カチオン性増感剤が、大員環ポルフィリンを含む光増感剤であり、大員環ポルフィリンが少なくとも1個の四級化窒素原子を含む、前記請求項のいずれか記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記大員環ポルフィリンが、3個の四級化窒素を含む、請求項4記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記光増感剤が5,10,15−トリス(4−メチルピリジニウム)−20−フェニル[21H,23H]−ポルフィントリクロライドである、請求項5記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記真菌性皮膚疾患が、白癬及び爪甲真菌症からなる群から選択される、前記請求項のいずれか記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記医薬組成物が局所用医薬組成物である、前記請求項のいずれか記載の医薬組成物。
【請求項9】
真菌感染症治療用医薬組成物の製造方法であって、前記医薬組成物がカチオン性光増感剤を含み、前記製造が、i)酸、及びii)金属キレート剤から選択されるエンハンサーを含むことを必要とする、前記製造方法。
【請求項10】
xのpHを有する医薬組成物が製造され、3.5<x<6、好ましくは4.5<x<5.7である、請求項9記載の方法。
【請求項11】
2mM以下、好ましくは0.4mM以下のイオン強度を有する医薬組成物が製造される、請求項9又は10記載の方法。
【請求項12】
大員環ポルフィリンを含み、前記大員環ポルフィリンが少なくとも1個の四級化窒素原子を含む光増感剤が用いられる、請求項9〜11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
前記大員環ポルフィリンが3個の四級化窒素を含む、請求項12記載の使用。
【請求項14】
前記光増感剤が5,10,15−トリス(4−メチルピリジニウム)−20−フェニル[21H,23H]−ポルフィントリクロライドである、請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記真菌性皮膚疾患が、白癬及び爪甲真菌症からなる群から選択される、請求項9〜14のいずれか記載の方法。
【請求項16】
前記医薬組成物が局所用医薬組成物である、請求項9〜15のいずれか記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2a】
image rotate

【図2b】
image rotate

【図2c】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公表番号】特表2010−502595(P2010−502595A)
【公表日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−526554(P2009−526554)
【出願日】平成19年8月29日(2007.8.29)
【国際出願番号】PCT/NL2007/000211
【国際公開番号】WO2008/026915
【国際公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【出願人】(509047384)
【Fターム(参考)】