説明

眼の代謝の評価方法

対象網膜の網膜自家蛍光を測定するための方法および装置は、少なくとも450nmの波長で励起光を放出するための励起光源と、励起光に反応して生成された眼の自家蛍光信号を記録するための画像キャプチャ装置とを含む。この画像キャプチャ装置は、眼の自家蛍光信号から背景非信号波長を低減するためのフィルタと、眼の自家蛍光信号強度を増大させるためのイメージインテンシフィアとを含む。この方法および装置はさらに、自家蛍光信号を分析してコントラストの変化またはパターンを判定することで網膜疾患または障害を発見するプロセッサを含むことができる。このプロセッサは、画像と、対照用画像、同じ眼の過去の画像、または網膜疾患もしくは障害を発見するための眼底撮影、血管造影、もしくは視野検査などの他の診断モダリティとを比較することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示の装置は一般に、網膜内の特徴の測定に関する。特にこの装置は、網膜および視神経内の代謝活性を測定するための、非侵襲的な単一画像方法および装置を具体化する。
【背景技術】
【0002】
図1は例示的な眼10を示し、眼10の光検出および神経処理要素である網膜30上に焦点を合わせ光を導くための角膜20と水晶体22とを含む。網膜30は、眼10の後極26付近の網膜神経線維からなる視神経24から眼10の前区32に近い鋸状縁28の端まで延びている。網膜30は、光に反応して電気信号を生成する、二種類の光受容細胞、杆体および錐体を含む。
【0003】
網膜構成要素どれかの障害によって失明になる可能性がある。例えば全盲または半盲目は、糖尿病性網膜症または網膜静脈閉塞症などの虚血性イベントの結果である、網膜への血液供給の低下が原因である可能性がある。調査によると、サイトメガロウィルス性網膜炎、緑内障、レーベル視神経症、網膜剥離、加齢性黄斑変性症、網膜色素変性症または光誘発性失明などの失明の他の原因は一般に、網膜細胞のアポートシス、即ちプログラム死に関連することがわかっている。
【0004】
アポートシスは一般に、神経の選択的な変性を起こす内因性または外因性の刺激による1つまたはそれより多くのアポートシス信号伝達経路の活性化を要する。アポートシスの発生は、アポートシスメディエータの放出につながるミトコンドリアの完全性の喪失と細胞死につながる酵素および他の経路の活性化を特徴とする、(細胞代謝活性の変化を表す)ミトコンドリア機能不全と関連している。ミトコンドリアの完全性のこういった変化は、プロアポートシスおよび抗アポートシス信号のゲインまたはロスの原因となり、不可逆性失明の症例の95%の原因となる網膜疾患に関連している。ミトコンドリア機能不全の早期発見によって、こういった疾患の診断、処置、監視が可能になる。
【0005】
通常の眼の検査で使用する現在の診断技術は典型的に、網膜を視覚的に観察するのに検眼鏡を利用し、眼内圧を評価するのに眼圧計を利用する。網膜変性を診断するために検眼鏡を使用できるが、検眼鏡は実質的な障害が既に起こってしまった後にだけ有効で、ミトコンドリア活性の表示は提供しない。眼圧計は、緑内障、網膜神経節細胞死または虚血を起こす可能性のある眼内圧の変化を判定するために眼に圧入する。しかしながら眼内圧と疾患との相関関係は、低眼内圧でも緑内障性の変性を発現した患者や高眼内圧でも疾患なしを維持している患者が証明するように、強固なものではない。さらにこういった旧式の方法は、例えば、自然変動、疾患、近視、または角膜屈折手術による角膜厚の異常などの生体力学的なアーチファクトの存在下では、正確に解釈できない。
【0006】
特許文献1には、網膜のフラビンタンパク質の蛍光を測定することでその網膜の酸化を判定する方法および装置が開示されている。この特許によると、約450ナノメートル(nm)の波長の励起光のスポットを網膜にわたって走査し、これに反応して約520nmの波長で網膜自家蛍光(auto−fluorescence)が検出される。特に網膜発光が約520nmと540nmの2つの波長で検出されることで、眼における吸収と透過の変動を補うことができる。眼の水晶体の蛍光を補うために瞳孔の中心が走査ミラーに結像される。その結果、励起光の走査ビームが眼の水晶体の中心で旋回する。この方法および装置は一度に網膜の狭い領域(即ち、非常に限られた数のピクセル)しか走査しないため測定信号の強度が非常に低く、低い信号対雑音(S/N)比ともしあったとしてもわずかな精度しかない測定信号になってしまう。さらに走査領域が狭いために、網膜を完全に走査するのに長い処置時間を要し、このことが外眼筋緊張の自然な不安定性、血液の脈動、光の汚染に起因する眼の動きによって生じる誤差の可能性をさらに増大させる。この方法および装置が本来持っている不正確さのために、正確な診断および監視システムとして作動できない。
【特許文献1】米国特許第4,569,354号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、上述の周知の診断器具や方法の欠点に対処するために、眼の代謝を測定する装置および方法が必要とされている。具体的には、網膜疾患を発見する診断精度や速度を上げた、細胞の代謝活性を非侵襲的に測定する装置および方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書中に開示した方法および装置は、網膜ミトコンドリア内の励起したフラビンタンパク質(FP)の自家蛍光に基づいて網膜細胞の活力を直接測定するための、迅速かつ非侵襲的な診断および実験用器具を提供する。対象網膜の網膜自家蛍光を測定するための開示の方法および装置は、約450nmの波長で励起光を放出する励起光源と、励起光に反応して生成された眼の自家蛍光信号を記録する画像キャプチャ装置とを含む。この画像キャプチャ装置は、眼の自家蛍光信号から所望しない波長を除去するフィルタと、眼の自家蛍光信号強度を増大させるイメージインテンシフィアとを含む。この方法および装置はさらに、眼の自家蛍光信号を分析してコントラストの変化またはパターンを判定するプロセッサを含むことができ、異なる時間または日付に測定した連続する測定値を比較することができる。以下に開示する装置および方法が対処する主要な目的には、速い処置時間、高精度、網膜代謝活性と網膜疾患の存在との直接的な相関関係、高い信号対雑音比(S/N)が含まれる。
【0009】
開示の装置をより完全に理解するために、以下の詳細な説明と添付図面を参照する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
細胞自家蛍光は、内因性フラビンタンパク質(FP)およびNAD(P)H分子の発光を測定することで観察することができる。これまでの実験室での研究と実験によると、細胞代謝活性はFPとNAD(P)H分子両方の自家蛍光に関係することが示されている。ところがNAD(P)Hは紫外線領域付近で励起して自家蛍光する。この領域は白内障や網膜損傷を促進するため、生体への使用には適さない。したがってFP自家蛍光が、例えば、網膜損傷のリスクなしで眼の光学的構造を透過できる短い青色励起光を使用して評価されている。これまでの研究では、高レベルのアポートシス活性が、FP自家蛍光強度を増大させる低い代謝活性と相関関係にあることが示されている。したがってFPの蛍光を測定する方法および装置は、失明疾患の早期発見および/または予防を助けるために網膜代謝活性を評価するのに有用である。
【0011】
図2は、例示的な網膜評価方法40の可能な1実施形態を具体化したフローチャートを示す。ブロック42で、較正ルーチン60(図3により詳細に示す)を手作業または何らかの所定の条件の発生のいずれかによって開始することができる。例えば、較正ルーチン60を実行するための条件は、眼から放出される非特異的自家蛍光、既に検査した同じ眼の自家蛍光画像のデータベース、前もって画像形成された対照用の眼のデータベース、その装置が実行したサイクルまたは動作数、装置が作動した時間、臨界構成要素の計算された平均故障間隔(MTBF)、またはあらゆる他の特定された基準に基づくことができる。
【0012】
ブロック44では、較正ルーチン60の実行後、スキップ後または完了後に、評価される被験者を評価装置に対して位置決めまたは位置合わせすることができる。この位置合わせ手順は、被験者の頭と網膜を装置に対して位置合わせするためにデスクトップ検眼鏡、眼底カメラ、またはスリットランプ(図示せず)で使用する物理的ガイドを利用したり、スリットランプ装置または網膜眼底カメラ装置を利用したりするなどの種々の方法で達成できることが理解されるであろう。さらにこの位置合わせ手順は、ソフトウェアを使用して表示されるデジタルまたはグラフィカル画像から注目の評価領域を選択することによって実行することもできる。視神経円板または血管パターンのような網膜の目印といった注目領域を選択することで、ソフトウェアはバーチャルカメラの絞りに命令して特定した注目領域に焦点を合わせるかまたはこれに移動することもできるし、システム内の物理的要素に命令して所望のまたは特定した場所へと移動および位置決めすることもできる。
【0013】
ブロック46では、複数の顕微鏡対物レンズを所望の焦点距離に調整することができる。こういった調整は、例えば高精度のラックアンドピニオン構造を使用して、光源などの励起手段によって生成された光の経路によって画定された同一の直線に沿って対物レンズを線形に移動させるというように、機械的に行うことができる。さらに、対物レンズをサーボまたは位置決めモータシステムを使用して自動的に位置決めし、ブロック46に関連して説明した物理的ガイドや被験者に対してレンズを所定の位置へと移動できることが理解されるであろう。さらに、距離計またはパターンフォーカシング技術(パターンが光路に投影され、自動フォーカシングルーチンによってそのパターンがシステムの焦点になる)を利用して、正確な焦点距離を自動的に決定することができる。
【0014】
ブロック48では、光源などの励起手段をトリガまたはパルスさせて網膜ミトコンドリアに関連するフラビンタンパク質(FP)を活性化することができる。励起は、例えば、He−Cdまたはアルゴンイオンレーザ、そしてATTOARC(商標)強度可変照明装置などの白熱ランプまたは水銀ランプを使用して広範囲の波長にわたって開始することができる。しかしながら、励起スペクトルをFPの励起スペクトルと一致する範囲の約460nmに制限することで、潜在的な信号雑音を低減するのが望ましい。そのために、約420〜490nmのフィルタ範囲を有する、OMEGA OPTICAL(登録商標)モデル番号XF1012(455DF70)の励起フィルタなどの励起フィルタを使用できる。フィルタされた励起手段は、さらなる分子を刺激しないことで、雑音として作用して評価技術の全体的な精度を低下させる望ましくない自家蛍光を発生させずに、FP自家蛍光を活性化する。試験室の照明を落としたり、被験者にゴーグルを装着したり、またはあらゆる他の類似の方法によって行うことができる、網膜30に隣接する周辺光を落とすことで励起スペクトルをさらに制限できることが理解されるであろう。
【0015】
ブロック50では、網膜内の励起したFP自家蛍光を表す単一画像をキャプチャすることができる。例えば、PRINCETON INSTRUMENTS(登録商標)PI−MAX ICCDモデル512−GenIIIカメラなどの高速電荷結合素子(CCD)カメラを利用して、網膜の自家蛍光画像を記録することができる。ブロック46の対物レンズによる拡大があってもなくても、網膜(またはそのあらゆる所望の部分)の画像形成が単一の写真でできるようにCCDカメラの視野(FOV)を設定すべきであることが理解されるであろう。
【0016】
画像形成するのに適切なFOVを選択する一つの例示的な方法として、視神経円板または血管パターンなどの網膜の目印を識別して照準点として使用し、次いで注目の領域全体を包含するようにFOVを調整することが挙げられる。適当な単数または複数の対物レンズを使用して、FP自家蛍光をCCDカメラへと向けることができる。規定の積分時間、典型的には1秒未満後にシャッタを閉じ、次いで画像をコンピュータにダウンロードする。キャプチャしたデジタル画像を視覚的または電子的にスキャンして、アポートシス領域として診断され得る輝度の高い領域を見つけることができる。
【0017】
画像を電気信号に変換するための光電陰極を含む、上で特定したPRINCETON INSTRUMENTS(登録商標)のイメージインテンシファイアモデルGen−IIIHQなどのフォトンインテンシファイアによって、CCDカメラをさらに強化することができる。電気信号は逓倍および加速されて蛍光スクリーンに入り、増幅画像が作成され、次いでこの画像はキャプチャされ、保存され、分析される。
【0018】
ブロック52では、キャプチャした増幅画像を、例えばコンピュータメモリに保存されプロセッサで実行されるプログラムによって分析して、FP信号自家蛍光によって示される網膜内の代謝活性を評価することができる。キャプチャした画像は、訓練された観察者などによって視覚的に分析されて、パターン、変化または注目の他の異常の有無を判定することができる。また一方で上述のように、プロセッサを使用して画像処理ソフトウェアを実行することで、分析手順を自動化することも望ましい。ソフトウェア分析プログラムは、画像の各ピクセルまたは要素を個々に、また周囲のピクセルに関連させて分析し、コントラストの局所的な変化、コントラストの変化の速度、そしてパターンの存在を判定することができる。例えば、単一ピクセルまたはピクセル群の強度を測定し、別の近傍ピクセルまたはピクセル群と比較して、網膜30の健康および機能の変化を示し得る、局所的変化、パターンの存在または変化の速度を判定することができる。ソフトウェア分析プログラムはまた、キャプチャした代謝画像パターンを、同じ網膜領域に対応する写真、血管造影図または視野に関連付けることもできる。さらにこのプログラムは、履歴画像または他の保存済みデジタル画像を分析し、これらの画像を最近の画像または時間が経過した画像と比較することができる。
【0019】
図3は、網膜評価方法40の任意の時点で実行できる較正ルーチン60を示す。ブロック62では、メンテナンス基準または他の選択機構に応じて、物理的またはソフトウェア制御の較正手順を実行することができる。ブロック64では、位置決めラックアンドピニオンの調整および/または位置決めサーボまたはステッパモータの初期位置のオフセットまたはシフトによって、光学系および対物レンズを物理的に位置合わせすることができる。さらに対物レンズを互いに対して回転的にシフトさせて、画像の歪み、ぶれなどを起こす可能性のあるあらゆるずれを補正することもできる。
【0020】
ブロック66では、励起光源の出力強度および位置合わせを評価することができる。この励起光源は、例えば、光強度を監視し、検出された出力強度のあらゆるばらつきを補正するように作動する内部フォトダイオードを含むことができる。さらにこのフォトダイオードは単にメンテナンス信号を出力して、ランプの交換時期を示すことができる。ブロック68では、被験者のガイド、スタンドの高さ、顎乗せ、額乗せのガイドなどの試験用ハードウェアまたは他の試験用ハードウェアを調整または位置合わせすることができる。
【0021】
ブロック70では、カメラおよび/またはインテンシファイア固有の診断ルーチンを実行することで、ソフトウェアまたは電子較正を実行することができる。こういったルーチンは、例えば、保存されているパワーレベルと、周知の入力に応答してCCDカメラアレイによって生成される検出パワーレベルとを比較することができる。ブロック72では、網膜評価装置、特にCCDカメラの周りに存在する周辺光を測定することができる。周辺光を決定する1つの可能な方法は、周知の照明条件で露光された周知の画像を、CCDカメラまたは別の接続プロセッサ内に保存されている値によって、または光度計を使用してCCDカメラの背景周辺光レベルを検出することによって、キャプチャおよび評価することである。保存されていた値と評価された値との差がもしあるとするならば、それを使用してCCDカメラの光および/またはパワーレベルを補うことができる。ブロック74では、計算結果または例えば、最小の決定したCCD強度および/もしくは励起光源強度などの他の較正基準に基づいて、較正プロセス60を繰り返すことができる。較正手順を繰り返さないならば、この方法は示されるように網膜評価ルーチン40に戻ることができる。
【0022】
とりわけこの手法は安価で、迅速で、無痛であると同時に患者に対して最小の労力しか必要としないため、上述の例示的な網膜評価方法40によって臨床的にも実験的にも有用な非侵襲的な評価方法がもたらされることが理解されるであろう。上述のように、内因性蛍光色素フラビンタンパク質(FP)によって網膜細胞内の網膜代謝活性が示され、これを信頼性のある非侵襲的な方法で監視することができる。
【0023】
図1および2に示す例示的な評価方法40の予備研究は、分離網膜細胞に対する試験管内(in vitro)研究や2つの分離した人間の網膜に対する生体外(ex vivo)研究の実施を含んだ。試験管内実験では、530nmの発光波長を使用して、精製FP成分と非標識の人間の白血球の自家蛍光励起スペクトルを比較した。励起特性は、顕微蛍光測定装置を使用して530nmの励起発光に対して励起分光を実行することで評価できる。試験管内実験によると、530nmで検出された発光は、2つの試料の相関関係に基づいていうと、注目のフラビンタンパク質(FP)の自家蛍光によって起こった可能性が高いことが確認された。
【0024】
酸化蛍光メラニンおよび暗調顆粒を含む高含量の網膜色素上皮(RPE)細胞を有する人間の網膜組織に対して、生体外実験を行った。身体的実験では、495nmのロングパスダイクロイックリフレクタと連動させてOMEGA OPTICAL(登録商標)モデル番号XF1012(455DF70)励起フィルタを利用した。フィルタされた励起手段を光ファイバハーネスおよびシステムを使用して被験者/患者に向け、そこまで運搬できることが理解されるであろう。励起した網膜組織の発光分光は530nmでピークを示し、これを周知のFP自家蛍光に適合するものとして認めた。こういった発光結果を、FP自家蛍光の増大の原因となる代謝阻害剤の存在下、またFP自家蛍光の減少の原因となるシアン化合物の存在下で網膜発光スペクトルを調べることで確認した。こういった実験の結果によって、FPの発光強度がミトコンドリア活性のレベルに反比例する(例えば、代謝活性の増大によってFP自家蛍光が減少する)ことを確認した。
【0025】
図4は、番号80で一般的に示す、網膜評価を実行するための例示的な装置を示す。一般にこの評価装置80は、対象網膜30内に存在するFP自家蛍光を表す単一画像をキャプチャするように構成された、スチルカメラ、電荷結合素子(CCD)カメラ82、そして励起光源84を含む。CCDカメラ82を使用するならば、それは例えば、検出器の温度を下げることで熱的に生成された電子雑音または暗電流雑音を低減させるペルチェクーラーを含み得る冷却CCDカメラを含むことができる。既述のように、励起光源84によって網膜30を刺激することができ、結果として生じるFP自家蛍光をスチルカメラまたはCCDカメラ82によって記録することができる。単一画像、またはスチルカメラの場合は写真画像をキャプチャするように最適化されたFOVを有するようにCCDカメラ82を選択できることが理解されるであろう。分析の際、CCDカメラ82がキャプチャした画像に対して、対象網膜30の代謝活性または健康を判定するための直接的かつ非侵襲的な手順が可能となる。
【0026】
動作については、440nm付近に明るい水銀線を有するATTOARC(商標)水銀ランプなどの水銀ランプまたは同様の波長のレーザであり得る励起光源84が集束レンズ86と協働して、放出された励起光84aを励起フィルタ88に向ける。励起フィルタ88は、例えば、上述のOMEGA OPTICAL(登録商標)励起フィルタでよく、約400〜500nmの範囲を超える波長の光が対象網膜30に伝達されないように選択される。次いでフィルタされた光88aは上述の495nmロングパスダイクロイックリフレクタなどのダイクロイックリフレクタ90に向けられて、対象網膜30へと向け直される。
【0027】
次いで向け直されたフィルタ光88bは、顕微鏡対物レンズ94およびコンタクトレンズ96または眼底カメラ装置もしくはスリットランプカメラ装置を含み得る光学ステージ92を通過する。顕微鏡対物レンズ94およびコンタクトレンズ96は、向け直されたフィルタ光88aを対象網膜30の所望の領域に集束し、位置合わせをし、増幅するように作用することができる。ある試験条件下では、平坦で光学的にクリアなレンズまたは平面などの圧平手段を使用して角膜20を平らにするかまたは所望の形状に変形することで、より良いまたはより正確な画像形成が可能であることが理解されるであろう。或いは、眼底を見るのに適したコンタクトレンズを利用することもできる。
【0028】
集束されたリダイレクト光88cが網膜を照射することで、関連するフラビンタンパク質(FP)の自家蛍光が起こる。発生したFP自家蛍光82aは対象網膜30から離れ、光学ステージ92の構成要素とダイクロイックリフレクタ90を通過して例えばOMEGA OPTICAL(登録商標)モデル番号XF3003(520DF40)などの発光フィルタ98へと向けられる。発光フィルタ98は、FP自家蛍光波長(例えば、約530nmの波長)に対応しない波長がその構造を通過しないように選択することができる。次いでフィルタされたFP自家蛍光82bは集束レンズ100を通過し、このレンズはFP自家蛍光82cをスチルカメラまたはCCDカメラ82に集束させる。この時点で、フィルタされたFP自家蛍光82bが視覚的な評価のためにLCDまたは陰極線管などのビデオディスプレイユニット104に表示されてもよいし、分析、保存または他の所望の画像処理のためにパーソナルコンピュータ106と通信されてもよい。
【0029】
CCDカメラ82はさらにイメージインテシフィア102を含むことができ、これと協働して、キャプチャ画像の分析をし易いように集束されたFP自家蛍光82cの輝度を増幅する。イメージインテンシフィア102は、CCDカメラ82の検出器によってキャプチャされた信号と対応する出力信号との比であるゲインが元の画像強度の100〜1000倍となるように選択される。画像は、例えば、高速PRINCETON ST−133インタフェースおよびSTANFORD RESEARCH SYSTEMS(登録商標)DG−535遅延ゲートジェネレータを使用して、5ナノ秒〜数分の速度で獲得できる。遅延ゲートジェネレータはCCDカメラ82およびイメージインテンシフィア102と協働して、こういった構成要素の動作を同期し制御する。このキャプチャ画像が、強調された形、即ち所望しない自家蛍光情報または雑音が励起フィルタ86および発光フィルタ98の動作によって最少化された形の、集束されたFP自家蛍光82cのみを表すことが理解されるであろう。このようにして、CCDカメラ82によってキャプチャされた単一画像は高いS/N比を有し、FP自家蛍光82a−82cを表すクリアで詳細な画像を提供する。
【0030】
本明細書中で説明した網膜評価装置80の構成要素は単体で使用でき、その場合位置合わせは個々の構成要素の手作業によるクランプおよび固定によって達成される。その一方で網膜評価装置80の画像形成要素、励起要素、光学要素を、あらゆる周知のデスクトップまたはハンドヘルド検眼鏡、スリットランプまたは眼底カメラに統合し、本明細書中で説明した試験装置に簡単にアップグレードすることができる。具体的には、CCDカメラ82、励起光源84、光学ステージ92、そして関連する構成要素に、網膜評価装置80の各構成要素が検眼鏡や上述の他の装置と連結できるように設計されたアダプタ(図示せず)を装備させることができる。この場合、標準的な検眼鏡、眼底カメラまたはスリットランプの代わりに、ブラケットまたはアダプタを使用して検眼鏡フレームに固定された励起手段84を使用することができ、励起手段84が射出する光はフィルタがかけられて所望の励起光84aを生成することができる。画像検出装置をこういった装置のフレームに装着して網膜30の反対側に位置合わせし、励起光84aに反応して生成されるFP自家蛍光を表す単一画像を検出することができる。このようにして、網膜自家蛍光を活性化して評価するのに周知の診断装置を使用できるように、既存の装置を改良することができる。
【0031】
幾つかの網膜評価システムおよび方法を本開示物の教示にしたがって本明細書中で説明してきたが、本特許の範囲および包含領域はこれに限定されない。それどころか本特許は、許容される等価物の範囲内に適正に存在する開示物の教示の全ての実施形態を含むことが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】例示的な眼の構成要素の断面図である。
【図2】例示的な網膜試験および評価装置の動作を具体化したフローチャートである。
【図3】例示的な較正ルーチンの動作を具体化したフローチャートである。
【図4】例示的な評価装置に含まれる複数の構成要素の機能的な配置を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
網膜の自家蛍光を測定するための装置であって、
フラビンタンパク質自家蛍光の励起に対応する波長で励起光を放出するように構成された励起光源と、
前記励起光に反応して生成される網膜蛍光信号を表す単一画像を記録するように構成された画像キャプチャ装置であって、
前記網膜蛍光信号から背景波長を低減するフィルタと、
前記網膜蛍光信号の強度を増大させるように構成されたイメージインテンシフィアと、を含む画像キャプチャ装置と、を備える装置。
【請求項2】
前記励起光源が水銀ランプである、請求項1記載の網膜自家蛍光測定装置。
【請求項3】
前記励起光源がレーザである、請求項1記載の網膜自家蛍光測定装置。
【請求項4】
前記励起光がダイクロイックリフレクタを使用して前記網膜に対して位置合わせされる、請求項1記載の網膜自家蛍光測定装置。
【請求項5】
前記励起光が光ファイバシステムを使用して前記網膜に対して位置合わせされる、請求項1記載の網膜自家蛍光測定装置。
【請求項6】
前記画像キャプチャ装置が電荷結合素子である、請求項1記載の網膜自家蛍光測定装置。
【請求項7】
前記画像キャプチャ装置がスチルカメラである、請求項1記載の網膜自家蛍光測定装置。
【請求項8】
前記画像キャプチャ装置が冷却電荷結合素子カメラである、請求項1記載の網膜自家蛍光測定装置。
【請求項9】
前記イメージインテンシフィアが少なくとも100のゲインファクタを含む、請求項1記載の網膜自家蛍光測定装置。
【請求項10】
前記画像キャプチャ装置が、前記網膜によって生成された前記網膜蛍光信号の単一画像をキャプチャするようにサイジングされた視野を有する、請求項1記載の網膜自家蛍光測定装置。
【請求項11】
第2の保存されている網膜蛍光信号に対して前記網膜蛍光信号を分析するようにプログラムされたプロセッサをさらに備える、請求項1記載の網膜自家蛍光測定装置。
【請求項12】
前記網膜蛍光信号を分析してコントラストの変化を判定するようにプログラムされたプロセッサをさらに備える、請求項1記載の網膜自家蛍光測定装置。
【請求項13】
前記プロセッサが、前記網膜蛍光信号を分析して局所的なコントラストの変化を判定するようにプログラムされた、請求項12記載の網膜自家蛍光測定装置。
【請求項14】
前記プロセッサが、前記網膜蛍光信号を分析してコントラストの変化の速度を判定するようにプログラムされた、請求項12記載の網膜自家蛍光測定装置。
【請求項15】
前記フィルタが、フラビンタンパク質自家蛍光に関連する波長を超える波長を低減する、請求項1記載の網膜自家蛍光測定装置。
【請求項16】
網膜の代謝活性を非侵襲的に測定する方法であって、
画像検出装置を対象網膜に対して位置合わせするステップと、
励起光源を対象網膜に対して位置合わせするステップと、
前記励起光源によって生成された励起光を放出して前記対象網膜の網膜自家蛍光を誘起するステップと、
前記誘起された網膜自家蛍光を表す単一画像をキャプチャするステップと、
前記単一画像を強化して前記網膜自家蛍光の信号強度を増大させるステップと、
前記単一画像を分析してコントラストを判定するステップと、を備える方法。
【請求項17】
前記励起光源を位置合わせする前記ステップが、ダイクロイックリフレクタを位置合わせして前記励起光を前記対象網膜に向けるステップを含む、請求項16記載の網膜の代謝活性の非侵襲的測定方法。
【請求項18】
前記励起光源を位置合わせする前記ステップが、光ファイバシステムを位置合わせして前記励起光を前記対象網膜に向けるステップを含む、請求項16記載の網膜の代謝活性の非侵襲的測定方法。
【請求項19】
前記画像検出装置を位置合わせする前記ステップが、電荷結合素子カメラを位置合わせするステップを含む、請求項16記載の網膜の代謝活性の非侵襲的測定方法。
【請求項20】
前記画像検出装置を位置合わせする前記ステップが、スチルカメラを位置合わせするステップを含む、請求項16記載の網膜の代謝活性の非侵襲的測定方法。
【請求項21】
前記画像検出装置を位置合わせする前記ステップが、イメージインテンシフィアを位置合わせするステップを含む、請求項20記載の網膜の代謝活性の非侵襲的測定方法。
【請求項22】
前記励起光源を位置合わせする前記ステップが、約450nmの励起波長で前記励起光を生成するステップを含む、請求項16記載の網膜の代謝活性の非侵襲的測定方法。
【請求項23】
前記対象網膜に与えられる周辺光の量を低減するステップをさらに含む、請求項16記載の網膜の代謝活性の非侵襲的測定方法。
【請求項24】
フラビンタンパク質自家蛍光に関連する波長を超える前記誘起された網膜自家蛍光をフィルタ除去するステップをさらに含む、請求項16記載の網膜の代謝活性の非侵襲的測定方法。
【請求項25】
前記単一画像をキャプチャする前記ステップが、フラビンタンパク質に特有の自家蛍光を表す画像をキャプチャするステップを含む、請求項16記載の網膜の代謝活性の非侵襲的測定方法。
【請求項26】
前記単一画像を分析する前記ステップが、前記単一画像と第2の保存されている単一画像とを比較するステップを含む、請求項16記載の網膜の代謝活性の非侵襲的測定方法。
【請求項27】
前記単一画像を分析する前記ステップが、局所的なコントラストの変化を判定するステップを含む、請求項16記載の網膜の代謝活性の非侵襲的測定方法。
【請求項28】
前記単一画像を分析する前記ステップが、コントラストの変化の速度を判定するステップを含む、請求項16記載の網膜の代謝活性の非侵襲的測定方法。
【請求項29】
少なくとも1つの対物レンズを前記画像検出装置と前記対象網膜との間で位置合わせするステップをさらに含む、請求項16記載の網膜の代謝活性の非侵襲的測定方法。
【請求項30】
網膜の代謝活性を非侵襲的に測定するために標準的な画像形成装置をアップグレードする方法であって、
標準的な光源の代わりに、フィルタされた励起光を生成する励起光源を使用するステップと、
画像検出装置を位置合わせして、前記フィルタされた励起光に反応して生成された網膜自家蛍光を表す単一画像を検出するステップと、
インテンシフィアを使用して前記単一画像の強度を増大させるステップと、を備える方法。
【請求項31】
フラビンタンパク質自家蛍光に関連する波長を超える波長を検出しないように、フィルタを前記画像検出装置と対象網膜との間で位置合わせするステップをさらに備える、請求項30記載の標準画像形成装置のアップグレード方法。
【請求項32】
前記励起光源を提供する前記ステップが水銀ランプを提供するステップを含む、請求項30記載の標準画像形成装置のアップグレード方法。
【請求項33】
前記励起光源を提供する前記ステップがレーザを提供するステップを含む、請求項30記載の標準画像形成装置のアップグレード方法。
【請求項34】
前記フィルタされた励起光を生成する前記ステップが、約450nmの波長で光を発生させるステップを含む、請求項30記載の標準画像形成装置のアップグレード方法。
【請求項35】
少なくとも1つの対物レンズを位置合わせして前記検出された単一画像をスケーリングするステップをさらに備える、請求項30記載の標準画像形成装置のアップグレード方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−521920(P2007−521920A)
【公表日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−553177(P2006−553177)
【出願日】平成17年2月8日(2005.2.8)
【国際出願番号】PCT/US2005/003837
【国際公開番号】WO2005/079238
【国際公開日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【出願人】(506277410)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ ミシガン (19)
【Fターム(参考)】