説明

眼内レンズ

【課題】 軟質材料で一体形成されたフォールダブルタイプの眼内レンズであって、埋植状態下での支持部の変形形状を安定化させて、光学部を嚢の網膜側内面に対して押し付けて精度良く位置決め保持せしめることの出来る、新規な構造のワンピース型眼内レンズを提供すること。
【解決手段】 支持部14の前面26において周方向に延びる周溝28,30,32を形成し、眼内挿入状態下における支持部14の先端部分の嚢内面への当接反力を利用して、支持部14が周溝28,30,32の形成部分で曲がり、且つ周溝28,30,32が溝幅方向に潰れるように変形して溝幅方向の両壁内面46,48が相互に当接するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学部と支持部が軟質材料によって一体形成されて、折畳み又は巻上げで変形させることによりコンパクト化して眼内に挿入することが出来るようにされたワンピース型の眼内レンズに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、白内障等の手術では、角膜(鞏膜)や水晶体前嚢部分等の眼組織に設けた切開部を通じて、嚢内の水晶体を摘出、除去せしめた後、その水晶体に代替する眼内レンズを、前記切開部より眼内に挿入して、嚢内に配する手法が、採用されてきている。
【0003】
このような白内障手術等において用いられる眼内レンズは、一般に、光学部と支持部から構成されている。光学部は、正面視で略円形とされており、その中央部分が、所望の視力を提供するための光学特性を有するレンズ領域とされている。一方、支持部は、光学部から外周側に向かって延び出して形成されており、眼内挿入状態下で嚢の外周部分の内面に対して先端部分が当接せしめられることによって、光学部を嚢内に位置決め保持するようになっている。
【0004】
ところで、眼内レンズの眼内挿入に際しては、眼組織に設ける切開部を可能な限り小ならしめることが望ましい。そこで、近年では、2〜3mmかそれ以下の小さな切開創を通じて水晶体を嚢内から吸引除去する超音波水晶体乳化吸引術が採用されるようになってきている。しかし、小さな切開部から水晶体を除去し得ても、その後、眼内レンズを嚢内に挿入する際、より大きな切開が必要となると、超音波水晶体乳化吸引術による利点が得られなくなってしまう。
【0005】
すなわち、水晶体除去の後に眼内挿入する眼内レンズは、一般に、光学部の外径寸法が6mm程度とされていることから、眼内レンズをそのままの状態で眼内に挿入しようとすると、水晶体を除去するのに切開した創を広げる必要がある。そこで、近年では、柔軟で変形容易な軟質材料で光学部を形成し、これを折り畳んだり巻き上げたりしてコンパクトにした状態で、小さな切開創から眼内に挿入出来るようにしたフォールダブルタイプの眼内レンズが開発され、提供されるようになってきている。
【0006】
ところが、このようなフォールダブルタイプの眼内レンズでは、埋植状態下で及ぼされる位置決めのための外力によって光学部が変形し易いという新たな問題があった。即ち、眼内レンズの嚢への挿入と、その後の嚢の収縮の結果、嚢内に埋植された眼内レンズには、嚢の外周内面に当接せしめられた支持部に対して、外力としての当接反力が作用せしめられる。また、従来から採用されているスリーピース型のフォールダブルタイプの眼内レンズでは、光学部に比して支持部の剛性が大きくされている。そのために、支持部の嚢内面への当接反力が光学部に及ぼされてしまい、非常に柔らかい材料で形成された光学部の変形が問題となり易いのである。
【0007】
そこで、近年では、光学部と支持部を含む全体を軟質材料で形成してワンピース型とすることも検討されている。このように眼内レンズの全体を軟質材料で一体成形すると、その製造も容易となり、構造が簡単になるという利点もある。
【0008】
しかしながら、眼内レンズを軟質材料で一体成形した場合には、折畳みや巻上げが可能な程に軟質の光学部と同じ材料で支持部を形成すると、埋植状態下、その先端部の嚢内面への当接で及ぼされる外力によって、支持部自体が不規則に変形し易いという問題があった。特に、支持部の全体が軟質材料で形成されて光学部から外方に延び出していることから、外力が及ぼされた際の変形が座屈のように急に発生することとなり、変形の位置や程度,態様が予測し難い。そのために、支持部による光学部の支持形態や支持位置を安定して得ることが難しいという問題があったのである。
【0009】
なお、このような問題に対処するために支持部を厚肉とすることも考えられるが、変形が防止される程に支持部の剛性を大きくすると、支持部の嚢内面への当接反力がそのまま光学部に及ぼされてしまう。その結果、軟質材料で形成された光学部に対して大きな変形が発生してしまうという矛盾があり、必ずしも有効な方策ではない。
【0010】
また、本発明の先行技術として、米国特許第5716403号明細書(特許文献1)や米国特許公開2003−0204257号(特許文献2)がある。前者(特許文献1)に記載の眼内レンズにおいては、支持部の基端側(光学部との接続側)近くにエルボー(肘状継手部)が設けられており、当該部位において支持部を内方(光学部への接近方向)に屈曲容易としている。また、後者(特許文献2)には、支持部の基端側に薄肉部を形成すると共に、該薄肉部の外側に厚肉部を形成した眼内レンズが提案されている。
【0011】
かかる何れの米国特許に記載の構造であっても、支持部の一部に小強度部位を設けて、そこに変形を集中させようとするものであり、支持部における変形位置を特定させることはできるかも知れない。しかしながら、小強度部位での変形の程度が予測できないという問題がある。加えて、小強度部位で変形することにより、支持部の嚢内面への当接反力が小強度部位で殆ど吸収されてしまって光学部にまで作用され難くなるという問題もある。
【0012】
このような問題に起因して、上述の特許文献1,2に記載の眼内レンズでは、眼内レンズの埋植時に嚢内で光学部が安定して位置決めされ難くなってしまうという不具合があった。特に近年では、後発白内障の発生を抑える目的で、光学部を嚢の網膜側の内面に押し付けて保持することが望ましいと考えられている。しかし、特許文献1,2に記載された従来構造の眼内レンズでは、支持部に設けられた小強度部位の変形によって外力が吸収されてしまって、光学部まで及ぼされ難いことから、光学部を嚢に対して十分に強く押し付けることが難しいという問題がある。
【0013】
また一方、特開平8−332194号公報(特許文献3)には、支持部の全体を蛇腹状に湾曲成形した構造が開示されている。しかしながら、支持部を蛇腹状としても変形の位置や程度が必ずしも安定すると言い難い。また、蛇腹状としたことで支持部が網膜側と角膜側の何れか一方に向かって予測不能に膨らむように変形し易いことから、眼内レンズの光学部を嚢の網膜側の内面に対して安定して強く押し付けることが実質的に不可能であるという問題がある。
【0014】
更にまた、特表平9−501856号公報(特許文献4)にも、光学部と支持部を一体成形した眼内レンズが開示されている。しかしながら、この公報に開示された眼内レンズは、剛性乃至は半剛性材料で形成されることにより、毛様体筋の弛緩に伴う外力の変化を利用して支持部を屈曲変形させて、光学部を嚢内で光軸方向で積極的に変位させるようにしたものに過ぎない。従って、かかる眼内レンズは、軟質材料で形成されたフォールダブルレンズを前提とする本発明とは全く異質のものであり、しかも、眼内レンズの光学部を嚢の網膜側の内面に対して安定して強く押し付けることさえ、決して実現し得るものでない。
【0015】
【特許文献1】米国特許第5716403号明細書
【特許文献2】米国特許公開2003−0204257号
【特許文献3】特開平8−332194号公報
【特許文献4】特表平9−501856号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
ここにおいて、本発明は、上述の如き事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、軟質材料で一体形成されたフォールダブルタイプの眼内レンズであって、その支持部における座屈様の不規則な変形を防止しつつ、支持部の嚢内面に対する当接反力を光学部に対して有効に作用せしめて、かかる光学部を、嚢の網膜側内面に対して安定して強く押し付けて保持せしめることの出来る、新規な構造のワンピース型眼内レンズを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。また、本発明の態様乃至は技術的特徴は、以下に記載のものに限定されることなく、明細書全体および図面に記載されたもの、或いはそれらの記載から当業者が把握することの出来る発明思想に基づいて認識されるものであることが理解されるべきである。
【0018】
すなわち、本発明の特徴とするところは、所定の光学特性を有するレンズ領域を含んで構成されて正面視で略円形とされた光学部と、該光学部から外周側に向かって延び出して眼内への挿入状態下で嚢の外周部分の内面に対して先端部分が当接せしめられることにより該光学部を嚢の網膜側の内面に押し付けるようにして位置決め保持せしめる支持部とが、折畳み又は巻上げ可能な軟質材料で一体形成されてなるワンピース型の眼内レンズにおいて、眼内挿入状態下で角膜側に位置せしめられる前記支持部の前面に、前記光学部の周方向に延びる周溝を形成して、眼内挿入状態下で該支持部の先端部分が嚢の外周部分の内面に当接せしめられることで及ぼされる外力を利用して該支持部が該周溝の形成部分で曲がり、且つ該周溝が溝幅方向に潰れるように変形して該周溝の溝幅方向の両壁内面が相互に当接するように構成したことにある。
【0019】
このような本発明に従う構造とされた眼内レンズにおいては、次の(1)〜(3)を主たる理由として、埋植状態下で光学部が嚢の網膜側内面に対して押し付けられた状態で安定して位置決めされることとなる。それにより、小さな切開創から眼内へ挿入することが可能とされて、後発白内障の抑制にも効果的であると共に、製造が容易で実用性に優れたフォールダブルタイプの眼内レンズが、軟質材料の一体成形品によって実現可能となるのである。
【0020】
(1)埋植状態下、支持部における周溝の形成部位では、嚢内面への当接反力によって支持部に及ぼされる外力が偏倚して曲げモーメントを生じる。その結果、支持部が、周溝の形成部位において、周溝の形成側で凹となる方向へ確実に曲げ変形せしめられる。この支持部の変形に基づいて、光学部が嚢内で網膜側に変位せしめられて押し付けられることとなる。
【0021】
(2)支持部が曲げ変形した埋植状態下では、嚢内面への当接反力で支持部に及ぼされる外力が、周溝の両壁内面の相互の当接部位を通じて、光学部に伝達される。それ故、周溝の形成部位においても、過度の変形が防止されると共に、支持部から光学部に向けて外力が有効に伝達されて、光学部が嚢内で網膜側に強固に押し付けられる。
【0022】
(3)支持部の嚢内面への当接反力による外力は、周溝の形成部位における支持部の変形によって軽減され、光学部に対して直接に大きな外力として及ぼされることがない。それ故、周溝によって支持部が特定方向に変形することで、嚢内で光学部が網膜側に確実に変位して嚢内面に押し付けられつつも、光学部における大きな応力や歪の発生が回避されて良好な光学特性が確保される。
【0023】
また、本発明に係るワンピース型の眼内レンズにおいては、前記支持部が全体に亘って略一定の厚さ寸法とされており、その前面に開口するようにして前記周溝が形成されることによって、該周溝の形成部位の厚さ寸法が該支持部における他の部分よりも小さくされている構成が、好適に採用される。
【0024】
このような構成に従えば、支持部の嚢内面への当接反力による外力が、支持部の嚢内面への当接部位から周溝の形成部位まで安定して伝達され得る。それ故、支持部において、周溝の形成部位に予定する変形が一層安定して生ぜしめられて、光学部の位置決めが一層安定して実現可能となる。
【0025】
また、本発明に係るワンピース型の眼内レンズにおいては、前記支持部における少なくとも前記周溝の形成部位よりも先端部分が、前記光学部の光軸方向で前面側に向かって傾斜して、該光学部から外周側に延び出している構成が、好適に採用される。
【0026】
このような構成に従えば、光学部の中心軸に対して略直交する方向に及ぼされる支持部の嚢内面への当接反力が、支持部の光学部からの延び出し方向に対して傾斜方向に作用せしめられる。その結果、嚢内面への当接反力が、支持部に対して特定方向のモーメントを生ずることとなり、かかるモーメントにより、光学部が嚢内で網膜側に向けて一層積極的に変位せしめられて、嚢内面に対してより効率的に押し付けられ得る。
【0027】
また、本発明に係るワンピース型の眼内レンズにおいては、眼内挿入状態下で網膜側に位置せしめられる前記支持部の後面を、その全体に亘って、折れ線や局部的な凹凸のない滑らかな平面又は湾曲面からなる連続面とした構成が、好適に採用される。
【0028】
このような構成に従えば、眼内レンズの埋植状態下、支持部の後面が、その先端部分から基端側(光学部側)に向かう所定長さに亘る領域で嚢内面に当接する場合においても、支持部の後面が嚢内面に対して滑らかに当接する。これにより、支持部の嚢内面に対する局部的な当接刺激が回避されると共に、支持部の嚢内面への当接状態を一層安定化させて、光学部の支持状態をより安定化させることが出来る。なお、折れ線や局部的な凹凸のない滑らかな湾曲面とは、支持部の延び出し方向において、単一曲率の湾曲面や、曲率の漸変する湾曲面、或いは共通接線をもって接続せしめられた複数の湾曲面や湾曲面と平面の組み合わせの面などをいう。
【0029】
また、本発明に係るワンピース型の眼内レンズにおいては、前記支持部における前面を、前記周溝の形成部位を除く実質的な全体に亘って、折れ線や局部的な凹凸のない滑らかな平面又は湾曲面からなる連続面とした構成が、好適に採用される。
【0030】
このような構成に従えば、支持部において周溝以外の部位での不規則な変形を一層有利に防止することが出来、周溝の形成部位において目的とする支持部の変形態様をより安定して発現させることが可能となる。特に、本構成は、上述の支持部の後面を全体に亘って滑らかな平面又は湾曲面からなる連続面とした構成を組み合わせて採用することが望ましく、それによって、支持部における目的とする変形態様がより一層安定して生ぜしめられ得る。
【0031】
また、本発明に係るワンピース型の眼内レンズにおいては、前記支持部における前記周溝が、該支持部と前記光学部との略境界線上に形成されている構成が、好適に採用される。
【0032】
このような構成に従えば、光学部の外周縁部と支持部の境界線上で、支持部を湾曲させることが出来る。それ故、光学部の外周縁部における嚢内面に対する密着性を、光学部の外周縁部から外方に延び出す支持部によって邪魔されることなく、一層有利に得ることが可能となる。
【0033】
また、上述の如く、光学部と支持部の境界線上に周溝を形成する際には、かかる周溝を挟んで位置する支持部側端部の肉厚寸法が光学部側端部の肉厚寸法よりも大きくされており、且つ該周溝の形成部分の肉厚寸法は、該支持部側端部と該光学部側端部のどちらの肉厚寸法よりも小さくされている構成が採用され得る。
【0034】
このような構成に従えば、支持部の剛性を不規則な変形が防止される程度に確保しつつ、光学部の最大厚さ寸法を抑えて光学部を一層コンパクトに折り畳みや巻上げすることが可能となると共に、支持部から光学部への応力の伝達を抑えて埋植状態下における光学部の変形を抑えることが可能となる。
【0035】
また、本発明に係るワンピース型の眼内レンズにおいては、前記光学部と前記支持部の境界部分において、眼内挿入状態下で網膜側に位置せしめられる該光学部と該支持部の両後面が、共通接線を有する滑らかな面によって接続されている構成が、好適に採用される。
【0036】
このような構成に従えば、光学部と支持部の境界に形状的な折線部分がなく、光学部の外周縁部を嚢の網膜側内面に押し付けた際にも、嚢内面に対する押し付け状態が一層安定して発現されると共に、嚢内面に対する刺激や悪影響が軽減される。なお、本態様においては、例えば、光学部と支持部の境界部分の両後面が、軸直角方向に向かって一定の曲率半径や漸変する曲率半径で延びる湾曲面や、平坦面によって、有利に構成される。
【0037】
また、本発明に係るワンピース型の眼内レンズにおいては、前記支持部における前記周溝が、前記光学部と略同一の中心軸上で周方向に延びる円形乃至は円弧形の溝である構成が、好適に採用される。
【0038】
このような構成に従えば、支持部が軟質材料で形成されていることと相俟って、支持部において湾曲せしめられる周溝の形成部位が、周方向の全体に亘って、光学部の外周縁部から略等しく離れた位置に設定される。即ち、支持部が硬質材料で形成されていると、直線的に延びる周溝でなければ有効な湾曲が生ぜしめられ難いが、支持部が軟質材料で形成されていることから、円形乃至は円弧形で周方向に延びる周溝によって、支持部において湾曲せしめられる部位を、光学部の略中心軸回りに形成することが可能となるのである。そして、これにより、周溝の形成部位で湾曲した支持部によって、光学部を、嚢内において一層安定して位置決めおよび支持することが可能となる。特に、本構成は、支持部が光学部の周方向に或る程度の幅寸法を有する構成と組み合わせて、有利に採用される。
【0039】
また、本発明に係るワンピース型の眼内レンズにおいては、前記支持部における前記周溝が、底部から開口部に向かって次第に拡開する断面形状をもって周方向に延びている構成が、好適に採用される。
【0040】
このような構成に従えば、周溝の形成部位における曲がり易さを十分に確保しつつ、曲がった場合に周溝の両壁内面の当接面積を大きく確保することも可能となる。これにより、埋植状態下において、周溝の両壁内面の当接状態が一層安定して維持され得て、光学部の位置決めの精度と安定性の更なる向上が図られ得る。本構成においては、例えば略V字形状や、レ字形状、或いは溝内に凸となる湾曲形状等の拡開断面形状の周溝が有利に採用される。
【0041】
また、本発明に係るワンピース型の眼内レンズにおいては、前記光学部の前記光軸方向における投影面積:aに対する、前記支持部の該光軸方向における投影面積:bの比の値を、b/a=0.3〜3.0とした構成が、好適に採用される。
【0042】
このような構成に従えば、眼内レンズの嚢内への挿入操作の容易性と、嚢内への埋植状態下における光学部の位置決め安定性とが、より高度に両立して達成可能となる。なお、b/aの値が0.3より小さいと、支持部の嚢内面への当接に伴って支持部に及ぼされる応力に対抗するだけの支持部の部材強度を確保することが難しくなって、光学部の位置決め力が不足したり、座屈等の不安定な変形が生ぜしめられたりするおそれがある。一方、b/aの値が3.0より大きいと、支持部が光学部の周囲に大きく広がることとなり、眼内レンズの全体を小さくして眼内挿入する際の切開創が大きくなり過ぎる場合がある。
【0043】
また、本発明に係るワンピース型の眼内レンズにおいては、前記支持部における最大厚さ寸法:t(max) に対する、該支持部における前記周溝の形成部位における厚さ寸法:t(min) の比の値を、t(min) /t(max) =0.5〜0.8とした構成が、好適に採用される。
【0044】
このような構成に従えば、埋植状態下、支持部の周溝まわりにおける曲がり変形が、目的とする程度に安定して一層有利に発現されることとなり、光学部の嚢内での位置決めと保持がより効果的に達成され得る。なお、t(min) /t(max) の値が0.5より小さいと、周溝の形成部位への応力や歪の集中が大きくなり過ぎて、周溝の形成部位における強度や耐久性の確保に支障が生ずるおそれがある。一方、t(min) /t(max) の値が0.8より大きくなると、周溝の形成部位への応力や歪の集中が十分に発揮され難くなり、当該部位において目的とする曲げ変形とそれに基づく応力緩和が有効に発揮され難くなり、その結果、支持部における不規則な変形や座屈が発生して、光学部が安定して位置決めされ難くなるおそれがある。
【0045】
また、本発明に係るワンピース型の眼内レンズにおいては、前記支持部の厚さ寸法を0.1〜0.55mmとした構成が、好適に採用される。
【0046】
このような構成に従えば、埋植状態下で支持部の不規則な変形を抑えて、支持部による光学部の位置決め精度を確保しつつ、支持部を折り畳んだり巻き上げたりする操作を容易に行うことが可能となり、眼内への挿入操作が一層容易となる。
【0047】
また、本発明に係るワンピース型の眼内レンズにおいては、前記光学部の外径寸法が3.2〜6.0mmである構成が、好適に採用される。
【0048】
このような構成に従えば、嚢内への埋植状態下で支持部による光学部の位置決めの精度と安定性の向上が一層有利に実現される。また、同時に、眼内レンズを嚢内に挿入するに際してより小さくして、小さな切開創から容易に入れることが可能となる。なお、人間の嚢の大きさが略一定であることから、光学部の外径寸法が3.2mmより小さいと、反対に支持部の外方への延び出し長さが大きくなる結果、支持部の形状安定性が確保し難くなって、支持部による光学部の位置決め安定性が低下するおそれがある。また、暗所においては、光学部の外形寸法が虹彩径よりも小さくなり、光学部が僅かにずれることでグレアを生じ易くなるという問題もある。一方、光学部の外径寸法が6.0mmを越えると、十分に小さく折り畳んだり巻き上げたりすることが難しくなって眼内挿入時の切開創が大きくなるだけでなく、支持部の有効長さが小さくなって、支持部の湾曲や傾斜による光学部の嚢内後方への変位量を十分に確保し難くなり、嚢の網膜側内面に対する光学部の押し付けが不十分となるおそれがある。
【0049】
また、本発明に係るワンピース型の眼内レンズにおいては、前記光学部の最大厚さを0.1〜0.75mmとした構成が、好適に採用される。
【0050】
このような構成に従えば、埋植状態下で安定した光学特性を確保するために必要な光学部の強度乃至は剛性を確保しつつ、光学部を折り畳んだり巻き上げたりする操作を容易に行うことが可能となり、挿入時における眼内への挿入操作が一層容易となる。
【0051】
また、本発明に係るワンピース型の眼内レンズにおいては、前記支持部が、前記光学部の中心軸を挟んだ両側で対向位置するようにして一対、互いに実質的に独立して形成されており、それら一対の支持部に対して、それぞれ、前記周溝が形成されている構成が、好適に採用される。
【0052】
このような構成に従えば、支持部による光学部の支持性能、特に光学部の光学中心の視軸上への支持性能を、一対の支持部を介して光学部に及ぼされる位置決め力に基づいて有利に確保することが出来る。それと同時に、光学部の周上で支持部が独立して一対形成されていることから、各支持部における形状や大きさを適当に調節することにより、支持部による光学部の位置決め強度等の特性を大きな自由度で適宜に設定することが可能となる。
【0053】
また、本発明に係るワンピース型の眼内レンズにおいては、前記支持部の延び出し方向で相互に離隔して、前記周溝が複数条形成されている構成が、好適に採用される。
【0054】
このような構成に従えば、一つの周溝の形成部位への応力や歪の集中を回避しつつ、支持部の全体として曲がりの程度を大きく設定したり、或いは支持部の全体としての曲がりの形状を一層自由に各種設定することが可能となる。それ故、例えば、眼内挿入状態下におげる光学部の光軸方向後方への変位量を一層大きく設定したり、或いは支持部を嚢の内面に対して一層広い領域で嚢内面に沿うように変形させて密着状態でより安定して当接させること等も可能となる。
【0055】
そこにおいて、複数条の周溝が形成されたワンピース型の眼内レンズにあっては、眼内挿入状態下において、前記支持部が複数条形成された前記周溝の各形成部位で曲がることにより、該支持部の後面が、その先端部分から前記光学部に向かう所定長さの領域において嚢内面に重ね合わせられて当接するようになっている構成が、好適に採用される。
【0056】
さらに、上述の支持部に形成される複数条の周溝は、例えば、(a)前記支持部の延び出し方向の中央よりも光学部側に位置する基端側周溝と、(b)該支持部の延び出し方向の中央よりも先端部側に位置する先端側周溝と、(c)それら基端側周溝と先端側周溝の間に位置する少なくとも一つの中間周溝とを、含んで、有利に構成される。
【0057】
このような複数条の周溝の形態を採用することにより、基端側周溝によって支持部から光学部の応力や歪の伝達を十分に小さく抑えつつ、先端側周溝と中間周溝によって、支持部の先端部分を所定長さに亘って比較的に大きく曲げ変形させることが出来、例えば嚢内面に対して、支持部の先端部分を比較的に長い領域に亘って重ね合わせて、より安定して当接させることも可能となる。なお、中間周溝の形成位置は、基端側周溝と先端側周溝の間であればどこでもよく、支持部の中央を意味するものではない。
【0058】
また、本発明に係るワンピース型の眼内レンズにおいては、前記軟質材料が、ガラス転移温度が30℃以下で、且つ、屈折率が1.51以上である構成が、好適に採用される。
【0059】
このような構成に従えば、眼内レンズを折り畳んだり巻き上げたりする操作を容易に行い、一層コンパクトにすることが可能となり、挿入時における眼内への挿入操作が容易となる。なお、ガラス転移温度が30℃を越えたり、屈折率が1.51を超えたりすると折畳みや巻き上げが難しくなり、眼内レンズの小切開創からの挿入がし難くなる。
【0060】
さらに、本発明は、上述の如き本発明に従う構造とされたワンピース型の眼内レンズにおける位置決め構造であって、眼内挿入状態下で前記支持部の先端部分を嚢の外周部分の内面に当接させることで及ぼされる外力を利用して該支持部を前記周溝の形成部分で曲げ変形させると共に、該周溝を溝幅方向に潰れるように変形させて該周溝の溝幅方向の両壁内面を相互に当接させることで、該周溝の両壁内面の当接部分を通じて該支持部に及ぼされる外力を該支持部の延び出し方向に伝達せしめて前記光学部まで作用させることにより、該光学部を嚢の網膜側の内面に押し付けるようにして位置決めする眼内レンズの位置決め構造も、特徴とする。
【0061】
このような本発明の位置決め構造によれば、軟質材料の一体成形品であるフォールダブルタイプの眼内レンズでありながら、その埋植状態下では、支持部が所定形状に安定して湾曲変形せしめられると共に、支持部の嚢内面への当接反力が支持部を通じて光学部に対して有効に及ぼされる。これにより、光学部が嚢内で網膜側に所定量だけ変位せしめられて、光学部が嚢の網膜側内面に対して押し付けられた状態で、安定して位置決めされ得る。
【発明の効果】
【0062】
上述の説明から明らかなように、本発明に従う構造とされたワンピース型の眼内レンズにおいては、眼の嚢内に挿入された埋植状態下で、支持部が周溝の作用で目的とする形状に安定して湾曲せしめられて、光学部に対して適当な位置決め力が及ぼされる。これにより、光学部が嚢の網膜側内面に対して押し付けられた状態で安定して位置決めされ得る。
【0063】
従って、本発明に従えば、小さな切開創から眼内へ挿入することが可能とされて、後発白内障の抑制にも効果的であると共に、製造が容易で実用性に優れたフォールダブルタイプの眼内レンズが、軟質材料の一体成形品によって有利に実現可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0064】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0065】
先ず、図1及び図2には、本発明の一実施形態としてのフォールダブルタイプの眼内レンズ10の正面図及び縦断面図が示されている。この眼内レンズ10は、光学部12と一対の支持部14,14から構成されている。
【0066】
なお、このように光学部12と支持部14,14を有する眼内レンズ10は、フォールダブルタイプの眼内レンズを与えるのに十分な可視光線の透過率を備えていることに加えて、優れた軟質性と或る程度の弾性を備えた各種の材料によって形成され得る。好ましくは、ガラス転移温度が30℃以下で、且つ、屈折率が1.51以上である軟質材料で形成される。このような軟質材料では、常温下で眼内レンズ10を容易に折り畳んだり巻き上げたりして、一層コンパクトにすることが可能となり、埋植時における眼内への挿入を一層容易に行うことが出来る。
【0067】
具体的には、特開平10−24097号公報や特開平11−56998号公報等に記載されているものが、本発明に係る眼内レンズ10の成形材料として好適に採用される。その中でも、形状回復性に優れた眼内レンズを得るために、以下(i)に示す如き(メタ)アクリル酸エステルを、一種又は二種以上含むモノマーを採用することが望ましい。また、以下(ii)に示す如き任意モノマーが適宜に配合される。更に、必要に応じて、以下(iii)に示す如き添加物が必要に応じて加えられる。
【0068】
(i)含有モノマー
以下の如き、直鎖状,分岐鎖状又は環状のアルキル(メタ)アクリレート類;
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等
以下の如き、水酸基含有(メタ)アクリレート類;
ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等
以下の如き、芳香環含有(メタ)アクリレート類;
フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、フェニルエチル(メタ)アクリレート等
以下の如き、シリコン含有(メタ)アクリレート類;
トリメチルシロキシジメチルシリルメチル(メタ)アクリレート、トリメチルシロキシジメチルシリルプロピル(メタ)アクリレート等
なお、「(メタ)アクリレート」とは、「・・・アクリレート」並びに「・・・メタクリレート」の二つの化合物を総称するものであり、後述するその他の(メタ)アクリル誘導体についても同様とする。
【0069】
(ii)任意モノマー
以下の如き、(メタ)アクリルアミドまたはその誘導体;
(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド等
以下の如き、N−ビニルラクタム類;
N−ビニルピロリドン等
スチレンまたはその誘導体
以下の如き、架橋性モノマー;
ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート
【0070】
(iii)添加物
熱重合開始剤、光重合開始剤、光増感剤等
色素等
紫外線吸収剤等
【0071】
また、このようなモノマー材料を用いて、図示されている如き眼内レンズ10を一体成形するに際しては、従来から公知の各種手法が何れも採用可能であり、例えば切削加工成形法やモールド成形法によって目的とする眼内レンズ10を得ることが出来る。切削加工成形法によれば、上述の如きモノマー材料からなる所定の重合成分を重合して棒状やブロック状,板状等の適当な形状のレンズブランクスを成形した後、旋盤等を用いて、かかるレンズブランクに対して切削加工を施すことにより、所望形状の眼内レンズ10を得ることが出来る。また、モールド成形法によれば、目的とする眼内レンズ10の形状に対応した成形キャビティを有する成形型を用いて、上述の如きモノマー材料からなる所定の重合成分を、その成形キャビティ内に導入し、そこで適当な重合操作を実施することによって、所望形状の眼内レンズ10を得ることが出来る。なお、モノマー材料の重合方法としては、モノマー材料に応じて、従来から公知の熱重合方法や光重合方法、或いはそれらを組み合わせた重合方法等が適宜に採用される。
【0072】
上述の如くして一体成形された眼内レンズ10において、その光学部12は、正面視が円形を呈する略円盤形状とされている。この光学部12の中央部分又はその全体の領域が、人の眼の水晶体の代替機能を果たす光学特性を備えたレンズ領域とされている。なお、光学部12のレンズ面(前面16および後面18)は、要求される光学特性に応じて各種形状とされ得、その両面16,18の形状が、凹面や凸面,平面等を任意に組み合わせて設定される。本実施形態では、前面16と後面18が何れも球状凸面とされた凸レンズ形状の光学部12が採用されている。
【0073】
ここにおいて、光学部12の外径寸法:Dは、3.2〜6mmとすることが好ましく、より好適には3.5〜4.6mmとされる。蓋し、光学部12は、人の水晶体としての機能を有効に果たし得るのに適当なサイズが必要とされる。それに加えて、眼内レンズ10が収容状態で挿入される人の嚢のサイズが略一定であることから、光学部12の外径寸法が3.2mmより小さいと支持部14,14が長くなり過ぎて不安定な変形等が発生し易くなる一方、光学部12の外径寸法が6mmより大きいと支持部14,14が短くなり過ぎて後述する外力の緩衝作用や光学部12の後方変位量等が十分に得られ難くなるおそれがある。
【0074】
また、光学部12の光軸方向(図2中の左右方向)の肉厚寸法(厚さ):Tは、最大値で0.1〜0.75mmとされることが望ましく、より好適には最大値で0.25〜0.50mmとされる。蓋し、光学部12の肉厚寸法の最大値が0.1mmに満たないと埋植状態下での光学部12の形状保持性能が安定して発揮され得ないおそれがある一方、光学部12の肉厚寸法の最大値が0.75mmを越えると嚢内挿入に際して光学部12を十分に小さく折り畳んだり巻き上げたりすることが難しくなる場合がある。なお、本実施形態では、両凸形の光学部12とされており、幾何中心である光軸上で最大肉厚寸法を有するようになっている。また、かかる最大肉厚寸法:Tの具体的な値は、採用する材料の特性(軟質性等)や、光学部12の形状,大きさ等を総合的に考慮して設計される。
【0075】
一方、一対の支持部14,14は、互いに同一形状とされており、光学部12を径方向一方向(図1中の上下方向)に挟んだ両側に位置している。そして、この支持部14,14は、光学部12の外周縁部から、それぞれ、外周側に向かって径方向外方に延び出すようにして、光学部12と一体形成されている。
【0076】
この支持部14,14は、各支持部14の延出方向の先端面19,19間の距離:Lが、好ましくは8〜14mmとなるように、より好適には8.5〜13.5mmとなるように、光学部12の外径寸法を考慮して、その突出長さを設定される。これにより、一般的な人の嚢のサイズに適合することとなり、光学部12を含む眼内レンズ10を嚢内に有利に位置決めすることが可能となる。
【0077】
特に本実施形態では、各支持部14は、全体として、光学部12の外周縁部から光軸方向一方の側に僅かに傾斜して延び出している。その傾斜方向は、光学部12の軸直角方向線に対して前面16側、換言すれば眼内レンズ10の埋植時に角膜側に位置せしめられる方の面側とされている。
【0078】
また、各支持部14は、全体に亘って略一定の肉厚寸法とされており、その肉厚寸法:tは、光学部12の外周縁部の肉厚寸法と略同一である。更に、支持部14は、光学部12の周方向に所定幅で広がる幅寸法をもって、光学部12の外周縁部から外方に向かって延び出している。なお、支持部14の肉厚寸法:tは、好ましくは0.1〜0.55mm、より好適には0.20〜0.55mm、更に好適には0.25〜0.50mmとされる。蓋し、支持部14の肉厚寸法が0.1mmに満たないと埋植状態下で不規則に変形して光学部12を安定して位置決めし難くなるおそれがある一方、支持部14の肉厚寸法が0.55mmを越えると嚢内への挿入に際して支持部14を十分に小さく折り畳んだり巻き上げたりすることが難しくなる場合がある。
【0079】
なお、一般に、支持部14の肉厚寸法は、その最大値が光学部12の最大肉厚寸法を越えないように設定される。特に、本実施形態では、支持部14の肉厚寸法は、その最大値が、光学部12の外周縁部の厚さ寸法と同一かそれより小さく設定されている。これにより、支持部14を不必要に厚肉とすることなく、埋植状態下で及ぼされる外力の光学部12への伝達を緩和すると共に、光学部12を有利に位置決めすることが可能となる。なお、光学部12の外周縁部の厚さ寸法とは、光学部12の外周において支持部14が形成されていない部分の肉厚寸法をいうものとする。
【0080】
さらに、支持部14の幅寸法は、光学部12に接続された基端部分において、光学部12の周方向で略1/2周弱の長さを有しており、延び出し方向の先端側に行くに従って次第に幅寸法が小さくなっている。図1に示されているように、支持部14の幅方向両側面20,20は、外方に僅かに凸となる湾曲面で相互に次第に接近している。また、支持部14の延出方向の先端面19も、光学部12と略同一中心軸上で周方向に延びる円弧状の湾曲面とされている。
【0081】
なお、支持部14の寸法は、光学部12との接続部位における強度や耐久性および光学部12の嚢24内での位置決め力等を考慮して、光学部12に接続された基端部分において、光学部12の周方向で1/12周以上とすることが望ましく、より好適には1/6〜1/2周とされる。また、支持部14の先端面19では、嚢24の内面への当接面積を周方向で十分に確保するために、光学部12の外径寸法:Dの1/4以上の幅寸法とすることが望ましく、より好適には1/2以上の幅寸法とされる。
【0082】
また、支持部14の大きさは、光学部12に対して、下式を満足するように設定されることが望ましい。但し、下式中、aは、光学部12における光軸方向での投影面積であり、bは、一対の支持部14,14全体における光軸方向での投影面積である。
0.3 ≦ b/a
【0083】
蓋し、上式中のb/aの値が0.3より小さくなると、挿入時に及ぼされる外力が支持部14の変形等によって十分に緩和され難くなって光学部12に大きな歪等が発生したり、或いは支持部14の局部的な歪が大きくなり過ぎて座屈状に変形することで光学部12に対する位置決め精度が低下するおそれがある。なお、より好適には、0.4≦b/aを満足するように設定される。更に好ましくは、b/a≦3.0となるように設定される。支持部14が光学部12に対して大きくなり過ぎると、支持部14の剛性が大きくなり過ぎるおそれがある。
【0084】
さらに、支持部14の後面22は、光学部12の外周縁部から先端に至るまで、折れ点や折れ線を持たないで広がる滑らかな面形状とされている。なお、支持部14の後面22とは、後述する図3に示されているように眼内レンズ10が嚢24に挿入された埋植状態下で網膜側に位置せしめられる方の面をいう。また、折れ点や折れ線を持たない滑らかな面とは、平面の他、曲率半径が一定の球状面や円弧状湾曲面、更に共通接線をもって曲率半径が変化する二次元乃至は三次元の湾曲面を含む。
【0085】
具体的には、光学部12と支持部14の境界部分において、両方の後面18,22が共通接線をもって接続されるように、支持部14の後面22の曲率半径や延び出し方向が設定されている。例えば、光学部12の後面18が一定の曲率半径の球面であれば、支持部14の後面22も、光学部12の後面18と同じ中心点と曲率半径をもつ球面の一部として好適に形成される。或いは、光学部12の後面18の外周縁部から接線方向に延びる円錐台形状面(テーパ付き筒状面)の一部や平坦面として、支持部14の後面22が好適に形成される。
【0086】
特に図示されているように、支持部14の後面22が部分的な球面である場合には、その曲率半径は、20〜80mmとすることが望ましい。これにより、眼内レンズ10の埋植状態下において、支持部14の嚢24の内面に対する良好な当接状態が発現されて、より効果的な位置決め保持が可能となる。
【0087】
一方、支持部14の前面26は、好適には、後面22と略相似な面形状で広がって形成される。この前面26には、3条の周溝28,30,32が形成されている。これらの周溝は、支持部14の延出方向で互いに所定距離を隔てて位置しており、基端側周溝28,中間周溝30,先端側周溝32とされている。
【0088】
基端側周溝28は、光学部12と支持部14の境界部分に沿って周方向に延びている。中間周溝30は、支持部14の延出方向の略中央部分を周方向に延びている。先端側周溝32は、支持部14の延出方向の先端縁部近くを周方向に延びている。特に本実施形態では、中間周溝30と先端側周溝32の離隔距離が、中間周溝30と基端側周溝28の離隔距離よりも小さく設定されている。
【0089】
また、本実施形態では、これら3条の周溝28,30,32は、何れも、略一定の断面形状で、支持部14の幅方向の全長に亘って連続して形成されている。また、何れの周溝28,30,32も、光学部12の光学中心軸を略中心とする円周上に延びるようにして、支持部14の幅方向に湾曲して形成されている。
【0090】
ここにおいて、各周溝28,30,32の断面形状は、互いに同一である必要もなく、大きさも互いに異なっていても良い。周溝28,30,32として好適に採用される断面形状について、幾つかの具体例を、図4〜8に示す。なお、これら図4〜8に示された各周溝は、何れも、本実施形態における3条の周溝28,30,32の何れにも適宜に採用されるが、説明上、図4〜8中では、各周溝にそれぞれ異なる符号を付することとする。
【0091】
図4に示された周溝34は、断面が矩形状を有しており、平坦な底部から略一定の溝幅寸法で両側壁が立ち上がって、支持部14の前面26に開口するように形成されている。
【0092】
図5に示された周溝36と図6に示された周溝38は、何れも、断面が略楔形状乃至は三角形状とされており、支持部14の前面26での開口側に向かって次第に拡開して形成されている。特に、図5に示された周溝36は、最深の一点の底部から開口部に向かって両側に均等に拡開する二等辺三角形状の断面とされている。一方、図6に示された周溝38は、最深の一点の底部から片方の側壁が前面26から略垂直に延びると共に他方の側壁が傾斜して延びて、開口部に向かって一方の側に拡開する直角三角形状の断面とされている。
【0093】
図7に示された周溝40と図8に示された周溝42は、何れも、溝幅寸法が開口部に向かって累進的に大きくなるようにして、最深の一点の底部から開口部に向かって拡開する異形の断面形状とされている。特に、図7に示された周溝40は、その両側の側壁が、内方に向かって凸となる湾曲形状とされている。一方、図8に示された周溝42は、その片方の側壁が直線的に延びており、他方の側壁だけが内方に向かって凸となる湾曲形状とされている。
【0094】
また、これらの周溝34,36,38,40,42は、その深さ寸法:dの値が、支持部14の最大厚さ寸法値:t(max) の0.2〜0.5倍とされることが望ましい。これにより、支持部14の強度や耐久性が、周溝の形成部位においても有利に確保されると共に、埋植状態下で外力が及ぼされた際の支持部14の形状安定性等も一層有利に確保される。
【0095】
上述の如き構造とされた眼内レンズ10は、光学部12と支持部14,14を含む全体が適当な方向に折り畳まれ、或いは巻き上げられることにより、全体のサイズを小さくすることが可能とされる。そして、良く知られているように、人の眼の嚢24の一部を切開して、そこから水晶体を吸引等で除去せしめた後、かかる切開創を通じて、小サイズ化した眼内レンズ10を、嚢24内に挿し入れる。この挿し入れの操作は、必要に応じて適当な挿入具を利用して行われる。
【0096】
なお、フォールダブルタイプの眼内レンズは、軟質性の材料によって形成されているため、挿入時に外力が作用すると容易に変形してしまい、安定した形状で嚢24内への挿入を行うことが難しい場合がある。本実施形態では、例えば、周溝28,30,32に引っ掛けることが可能とされた先端部を備えた挿入具を用いることで、眼内レンズ10を容易に嚢24内に挿入することも出来る。
【0097】
すなわち、図9(a)に例示されているように、眼内レンズ10を適当な方向に折り畳み、挿入具44の先端部45を、一方の支持部14の周溝32に引っ掛けた状態で挿入具44を操作することにより、挿入具44を係止した方の支持部14を前方に位置させて、該支持部14で光学部12と他方の支持部14を引っ張るようにして眼内に引き入れて挿入することが可能となる。これにより、光学部12や支持部14,14の変形を最小限に抑えつつ、所定の形状を保持したままで、しかも光学部12に触れることなく、眼内レンズ10を嚢24内へ挿し入れることが可能となるのである。
【0098】
なお、眼内レンズ10の支持部14に形成された周溝28,30,32に対して、周方向の複数箇所に係止される先端部を備えた挿入具を採用することも可能であり、それによって、眼内レンズ10を一層安定して眼内に挿入することが可能となる。具体的には、例えば図9(b)に示されているように、眼内レンズ10の挿入方向で前方側と後方側に位置する支持部14,14の周溝28,28に対して、それぞれ引っ掛けられる一対の先端部45,45を備えた挿入具47を採用することが出来る。
【0099】
また、このような周溝を利用して眼内レンズを眼内に挿入する施術方法は、本実施形態の如き一対の板状の支持部14,14を備えた眼内レンズ10の他、後述する環状の支持部を備えた眼内レンズ(図12参照)にも同様に適用できる。更に、後述する略ループ状の支持部を備えた眼内レンズ(図11参照)では、光学部12を直接に後方から押して眼内レンズを眼内に挿入することも可能であるが、上述の如く、周溝に引っ掛けた挿入具を利用して施術しても良い。特に、略ループ状の支持部を有する眼内レンズであっても、その支持部の光学部に対する接続部分が、光学部の周方向で1/4周以上の長さに亘る場合には、光学部を直接に押して眼内に挿入することが難しくなるが、その場合でも、周溝に引っ掛けた挿入具を利用して光学部を引張るようにして眼内に挿入することで、容易に且つ形状安定性を保ちつつ、施術することが可能となる。
【0100】
而して、図3に示されているように、嚢24の内部に全体を収容するようにして埋植せしめられた眼内レンズ10は、嚢24内で、自身の弾性に基づいて初期形状に復元するように広がる。必要に応じて適当な器具を用いて、嚢24内において、眼内レンズ10を広げると共に位置調節することによって、図3に示されているように、眼光学の中心軸に対して光学部12の光軸が略一致するように、眼内レンズ10を嚢24に対して位置決めする。
【0101】
このような眼内レンズ10の埋植状態下では、眼内レンズ10における両支持部14,14の先端面19,19間の距離:Lが、嚢24の内径寸法よりも大きく設定されていることから、両支持部14,14の先端面19,19は、嚢24の外周内面に対して密着して当接する。その際、支持部14,14は、嚢24から当接反力を受けることとなり、この当接反力によって支持部14,14が変形せしめられる。
【0102】
ここにおいて、各支持部14は、図2に示されている初期状態で、光学部12に対して前方(角膜側に相当する図3中の右側)に向けて、当初から傾斜していることから、嚢24への当接反力が光学部12の光軸に略直角な方向に及ぼされることにより、各支持部14,14は、光学部12に対して傾斜角度が一層大きくなる方向に曲げモーメントが発生して変形せしめられる。即ち、この曲げモーメントにより、各支持部14には、前面26側に圧縮応力が生ぜしめられる一方、後面22には、引張応力が生ぜしめられることとなる。
【0103】
特に、各支持部14には、前面に周溝28,30,32が形成されていることにより、支持部14では、その延出方向に軸力が作用せしめられたとしても、各周溝28,30,32の形成部位において実質的に偏倚して力が作用することで曲げモーメントが発生する。それ故、これらの周溝28,30,32の形成部位では、特に応力集中が発生して、前面26側で凹となり、後面22側で凸となる形態の曲げ変形が惹起される。
【0104】
その結果、図3にもイメージ的な断面図が示されているように、支持部14自体の軟質性と嚢24自体の軟質性とが相俟って、支持部14,14は、その延出方向の先端部分だけでなく、先端縁部から光学部12に向かう所定長さ領域に亘って、更には図示されているように実質的に全長に亘って、嚢24の内面に対して密着状態で当接せしめられることとなる。
【0105】
また、特に嚢24の当接反力が最も有効に作用せしめられる一対の支持部14,14の先端縁部付近を支点として、支持部14,14の傾斜角度の増大と湾曲変形することに伴い、光学部12には、嚢24内で後方(図3中の左方に相当する網膜側)に向けて変位せしめる力が、支持部14,14を介して及ぼされることとなる。
【0106】
これにより、眼内レンズ10は、嚢24内において、支持部14,14の嚢24内面への押し付け密着に伴う係止作用や摩擦作用で位置決めされている。また、その光学部12は、外周縁部において、嚢24の内面に対して押し付けられて密着せしめられている。特に本実施形態では、光学部12と支持部14,14の境界部分の全長に亘って基端側周溝28が形成されていることから、かかる境界部分で折れるように曲げられることとなる。その結果、光学部12の外周縁部が、その全周に亘って、即ち支持部14,14で邪魔されることなく、嚢24の内面に対して一層有利に密着状態で押し付けられ得る。
【0107】
さらに、支持部14,14に形成された各周溝28,30,32は、その形状や拡開寸法が適当に設計されることにより、眼内レンズ10が嚢24内に収容された埋植状態下で、支持部14,14の嚢24への当接反力として及ぼされる外力で湾曲せしめられた際、図4〜8の(b)に示されているように、溝幅方向の両側壁面46,48が、互いに当接するようになっている。なお、図4に示されている如き矩形断面の周溝34では、両側壁面46,48が、周溝34の開口端部付近で当接することから、かかる当接状態が明確に認識出来る。また、図7や図8に示されている如き内方凸の湾曲側壁を有する周溝40,42では、支持部14の僅かな湾曲によって側壁面46,48の最深部分が直ちに当接することから、かかる当接状態が容易に認識出来る。更にまた、図5や図6に示されている如き三角断面の周溝36,38では、図面では判りづらいが、支持部14の湾曲に際して圧縮側となる周溝36,38の最底部では、軟質で殆ど収縮しない材料によって形成された支持部14の一部である側壁面46,48の最底部が、圧縮応力によって周溝36,38内に膨出変形することから、その当接状態が容易に理解される。
【0108】
すなわち、このように支持部14における周溝28,30,32の形成部位では、曲げ変形せしめられるに際して、各周溝28,30,32の両壁内面46,48が相互に当接することにより、かかる周溝28,30,32の形成部位において、それ以上の曲げ変形に対して大きな抵抗力が発揮される。それ故、支持部14は、各周溝28,30,32によって埋植状態下での湾曲位置や方向,形状が安定して設定されており、不規則な変形が防止されて、目的とする形状が安定して発現されることとなる。
【0109】
また、周溝28,30,32の形成部位において、両壁内面46,48が相互に当接するまで曲げられた埋植状態下では、支持部14を通じて、支持部14の先端部分の嚢24に対する当接反力が光学部12にまで効率的に伝達されることとなる。それ故、支持部14の嚢24に対する当接反力が、各周溝28,30,32の形成部位における変形で効果的に吸収軽減されており、光学部12に対する外力の過度の伝達に起因する光学部12における歪の発生が抑えられる。それと同時に、光学部12には、支持部14の嚢24に対する当接反力が、適当な大きさで有効に及ぼされることにより、光学部12の外周縁部が嚢24の内面に対して押圧状態に保持されることとなり、後発白内障の予防効果も有利に発揮され得る。
【0110】
特に本実施形態では、各支持部14,14における周溝が、光学部12の略中心軸回りの周方向に延びる円弧形状とされていると共に、各支持部14,14が光学部12の外周縁部に対して十分な長さで接続されていることから、支持部14,14を通じて及ぼされる外力が、光学部12の外周縁部の略全周に亘る非常に広い領域に対して略均等に作用せしめられる。それ故、光学部12における局部的な応力集中等が一層効果的に回避されて、埋植状態下における光学部12の形状の安定性と、嚢24に対する当接状態の安定性とが、共に一層効果的に達成され得るのである。
【0111】
以上、図1〜3に示された本発明の一実施形態の眼内レンズ10について詳述してきたが、本発明は、上述の眼内レンズ10についての具体的な説明によって限定的に解釈されるものでない。本発明をより正確に理解できるように、本発明の別の具体的な実施形態を、以下に、更に幾つか図示して、例示する。なお、以下の実施形態では、上述の第一の実施形態としての眼内レンズ10と同様な構造とされた部材および部位については、それぞれ、第一の実施形態と同一の符号を図中に付することにより、その詳細な説明を省略する。
【0112】
図10には、本発明の第二の実施形態としての眼内レンズ50の正面図が示されている。本実施形態では、両支持部14,14の略中央部分に対して、それぞれ、略小判形状の肉抜窓52が、厚さ方向に貫通して形成されている。
【0113】
このような肉抜窓52を形成することにより、支持部14の光学部12に対する接続部の長さや、嚢に対する当接部の長さを十分に確保しつつ、支持部14の容積を小さくすることが可能となる。これにより、支持部14を含む眼内レンズ50を一層小さく折り畳むことが可能となる。また、肉抜窓52の形状を適当に調節することにより、支持部14の剛性等を調節することも出来る。更に、肉抜窓52を通じての嚢内での体液循環を促進することも可能である。更にまた、眼内レンズ50を嚢内に挿入した後、適当な器具を用いて嚢内において眼内レンズの位置調整をする際に、器具を肉抜窓52に引っ掛ける等することによって、器具による眼内レンズ50の操作が容易となる。
【0114】
図11には、本発明の第三の実施形態としての眼内レンズ54の正面図が示されている。本実施形態では、両支持部14,14に対して、それぞれ切欠部56が形成されている。この切欠部56は、各支持部14,14を、光学部12の中心軸回りの同じ周方向側からえぐり取るような形態で、円弧状の湾曲した内面をもって形成されている。また、切欠部56が形成されることにより、各支持部14は、光学部12からの延出方向の中間部分において、最も狭幅とされている。
【0115】
このような切欠部56を形成することにより、上述の第二の実施形態における眼内レンズ50の肉抜窓52と同様な作用効果を、何れも有効に得ることが可能となる。
【0116】
図12には、本発明の第四の実施形態としての眼内レンズ58の正面図が示されている。本実施形態の眼内レンズ58は、その支持部として、光学部12の外周縁部の全周に亘って広がる環状支持部60を備えている。この環状支持部60は、円環プレート形状とされており、光学部12の全周に亘って略一定の延出寸法で径方向外方に広がっている。
【0117】
このような環状支持部60を備えた眼内レンズ58においては、光学部12と環状支持部60を含む全体が、中心軸回りで方向性のない回転体形状とされていることから、眼内レンズ58を折り畳んだり巻き上げたりして小さくする際や、嚢内に挿入する際などにおいても、その方向性を考慮する必要がない。それ故、取扱いが容易となるという利点がある。また、環状支持部60の外周縁部が、嚢内面に対して一層長い部分で当接せしめられることから、嚢内での光学部12の位置決めを一層高精度に且つ安定して行うことも可能となる。
【0118】
なお、上述の図10〜12に示された各眼内レンズ50,54,58は、各縦断面形状が第一の実施形態の眼内レンズ10と実質的に同一とされることから、その図示および説明を省略する。
【0119】
さらに、上述の第一〜四の実施形態としての眼内レンズ10,50,54,58では、何れも、支持部14,60に対して基端側,中間,先端側の3条の周溝28,30,32が形成されていたが、かかる周溝の形成位置や数等は、何等限定されるものでない。具体的に例示すると、例えば、図13〜15に示されているように、各支持部14において2条の周溝30,32を備えた態様や、図16〜18に示されているように、各支持部14において1条の周溝30を備えた態様、或いは図19〜21に示されているように、各支持部14において4条の周溝28,30,32,62を備えた態様などが、何れも採用可能である。
【0120】
なお、図15,図18,図21は、図13,図16,図19に示された各態様の周溝を備えた眼内レンズの嚢内への埋植状態を説明するためのモデル的な縦断面説明図であるが、それらの図において嚢の図示は省略する。また、それら図15,図18,図21、および各眼内レンズの縦断面図を示す図14,17,20にあっては、作図上の理由から、前記第一の実施形態において対応する図2および図3に比して、角膜側と網膜側の位置が図面上で左右反対となっていることに注意するべきである。
【0121】
また、単一の周溝を設ける場合には、図16に示されているものとは異なり、第一の実施形態の眼内レンズ10における基端側周溝28だけを採用したり、先端側周溝32だけを採用することも可能である。また、2条の周溝を設ける場合には、図14に示されているものとは異なり、第一の実施形態の眼内レンズ10における基端側周溝28と中間周溝30だけを採用したり、基端側周溝28と先端側周溝32だけを採用することも可能である。更にまた、4条以上の周溝を設ける場合には、それらを支持部の延出方向で等間隔で形成する他、任意の異なる間隔で形成することが出来る。
【0122】
また、図22には、本発明の第八の実施形態としての眼内レンズ64が示されている。なお、本実施形態の眼内レンズ64の正面図は図1と略同様であることから図示を省略する。
【0123】
すなわち、本実施形態の眼内レンズ64では、支持部66の肉厚寸法:t’が光学部68の外周縁部の肉厚寸法に比して、大きくされていると共に、支持部66の肉厚寸法:t’が光学部68の最大肉厚寸法以下とされている。また、特に本実施形態では、支持部66は、周溝28,30,32の形成部分以外が略一定の肉厚寸法とされていると共に、周溝28,30,32の形成部分は、光学部68の外周縁部の肉厚寸法より小さな肉厚:t’’を有するように設定されている。なお、光学部68は、少なくとも一方が凸状球面とされた凸レンズ形状とされており、光学部68の中心軸上で肉厚寸法が最大となると共に、その外周縁部で肉厚寸法が最小となっている。
【0124】
このような眼内レンズ64では、外力の作用による不規則な変形が防止されるに十分な支持部66の剛性を確保しつつ、光学部68の最大厚さ寸法を抑えることができて、一層コンパクトに折り畳みや巻上げをすることが可能となる。また、支持部66に光学部68の最小肉厚寸法より小さな肉厚:t’’とされた周溝28,30,32を形成したことによって、支持部から光学部への応力の伝達を抑えて、埋植状態下における光学部68の変形を抑えることが出来る。
【0125】
また、支持部における周溝は、支持部の周方向の全体に亘って連続していることが、支持部における安定した変形のために望ましいが、それは必ずしも本発明において必須でない。例えば、破線状に分断された周溝や、支持部の幅方向の一部だけに形成された周溝を採用することも可能である。
【0126】
また、支持部は、その後面の略全体が嚢の内面に接触している必要はない。例えば、支持部の先端部だけが嚢の内面に当接した状態で埋植せしめられるようになっていても良い。
【0127】
また、支持部を3本以上の複数本形成しても良い。なお、複数本の支持部を採用する場合には、光学部12の中心軸回りの周方向で実質的に等間隔であることが望ましい。
【0128】
その他、一々列挙はしないが、本発明は当業者の知識に基づいて種々なる変更,修正,改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明に含まれるものであることは、言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1】本発明の第一の実施形態としての眼内レンズの正面図である。
【図2】図1に示された眼内レンズの縦断面図である。
【図3】図1に示された眼内レンズの埋植状態を示す縦断説明図である。
【図4】図1に示された眼内レンズの支持部において採用され得る周溝の具体例を示す縦断面図であって、(a)は図2におけるα部分の拡大図であり、(b)は当該部分の埋植時の変形状態を示す説明図である。
【図5】図1に示された眼内レンズの支持部において採用され得る周溝の別の具体例を示す縦断面図であって、(a)は図2におけるα部分の拡大図であり、(b)は当該部分の埋植時の変形状態を示す説明図である。
【図6】図1に示された眼内レンズの支持部において採用され得る周溝の更に別の具体例を示す縦断面図であって、(a)は図2におけるα部分の拡大図であり、(b)は当該部分の埋植時の変形状態を示す説明図である。
【図7】図1に示された眼内レンズの支持部において採用され得る周溝の更に別の具体例を示す縦断面図であって、(a)は図2におけるα部分の拡大図であり、(b)は当該部分の埋植時の変形状態を示す説明図である。
【図8】図1に示された眼内レンズの支持部において採用され得る周溝の更に別の具体例を示す縦断面図であって、(a)は図2におけるα部分の拡大図であり、(b)は当該部分の埋植時の変形状態を示す説明図である。
【図9】図1に示された眼内レンズの眼内への挿入手段を例示する説明図である。
【図10】本発明の第二の実施形態としての眼内レンズの正面図である。
【図11】本発明の第三の実施形態としての眼内レンズの正面図である。
【図12】本発明の第四の実施形態としての眼内レンズの正面図である。
【図13】本発明の第五の実施形態としての眼内レンズの正面図である。
【図14】図13に示された眼内レンズの縦断面図である。
【図15】図13に示された眼内レンズの埋植状態を示す縦断説明図である。
【図16】本発明の第六の実施形態としての眼内レンズの正面図である。
【図17】図16に示された眼内レンズの縦断面図である。
【図18】図16に示された眼内レンズの埋植状態を示す縦断説明図である。
【図19】本発明の第七の実施形態としての眼内レンズの正面図である。
【図20】図19に示された眼内レンズの縦断面図である。
【図21】図19に示された眼内レンズの埋植状態を示す縦断説明図である。
【図22】本発明の第八の実施形態としての眼内レンズの縦断面図である。
【符号の説明】
【0130】
10 眼内レンズ(第一の実施形態)
12 光学部
14 支持部
16 (光学部の)前面
18 (光学部の)後面
22 (支持部の)後面
24 嚢
26 (支持部の)前面
28 基端側周溝
30 中間周溝
32 先端側周溝
50 眼内レンズ(第二の実施形態)
54 眼内レンズ(第三の実施形態)
58 眼内レンズ(第四の実施形態)
64 眼内レンズ(第八の実施形態)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の光学特性を有するレンズ領域を含んで構成されて正面視で略円形とされた光学部と、該光学部から外周側に向かって延び出して眼内への挿入状態下で嚢の外周部分の内面に対して先端部分が当接せしめられることにより該光学部を嚢の網膜側の内面に押し付けるようにして位置決め保持せしめる支持部とが、折畳み又は巻上げ可能な軟質材料で一体形成されてなるワンピース型の眼内レンズにおいて、
眼内挿入状態下で角膜側に位置せしめられる前記支持部の前面に、前記光学部の周方向に延びる周溝を形成して、眼内挿入状態下で該支持部の先端部分が嚢の外周部分の内面に当接せしめられることで及ぼされる外力を利用して該支持部が該周溝の形成部分で曲がり、且つ該周溝が溝幅方向に潰れるように変形して該周溝の溝幅方向の両壁内面が相互に当接するように構成したことを特徴とするワンピース型の眼内レンズ。
【請求項2】
前記支持部が全体に亘って略一定の厚さ寸法とされており、その前面に開口するようにして前記周溝が形成されることによって、該周溝の形成部位の厚さ寸法が該支持部における他の部分よりも小さくされている請求項1に記載のワンピース型の眼内レンズ。
【請求項3】
前記支持部における少なくとも前記周溝の形成部位よりも先端部分が、前記光学部の光軸方向で前面側に向かって傾斜して、該光学部から外周側に延び出している請求項1又は2に記載のワンピース型の眼内レンズ。
【請求項4】
眼内挿入状態下で網膜側に位置せしめられる前記支持部の後面を、その全体に亘って、折れ線や局部的な凹凸のない滑らかな平面又は湾曲面からなる連続面とした請求項1乃至3の何れかに記載のワンピース型の眼内レンズ。
【請求項5】
前記支持部における前面を、前記周溝の形成部位を除く実質的な全体に亘って、折れ線や局部的な凹凸のない滑らかな平面又は湾曲面からなる連続面とした請求項1乃至4の何れかに記載のワンピース型の眼内レンズ。
【請求項6】
前記支持部における前記周溝が、該支持部と前記光学部との略境界線上に形成されている請求項1乃至5の何れかに記載のワンピース型の眼内レンズ。
【請求項7】
前記支持部と前記光学部の境界線上に形成された前記周溝を挟んで、該支持部側端部の肉厚寸法が、該光学部側端部の肉厚寸法よりも大きくされている請求項6に記載のワンピース型の眼内レンズ。
【請求項8】
前記光学部と前記支持部の境界部分において、眼内挿入状態下で網膜側に位置せしめられる該光学部と該支持部の両後面が、共通接線を有する滑らかな面によって接続されている請求項1乃至7の何れかに記載のワンピース型の眼内レンズ。
【請求項9】
前記支持部における前記周溝が、前記光学部と略同一の中心軸上で周方向に延びる円形乃至は円弧形の溝である請求項1乃至8の何れかに記載のワンピース型の眼内レンズ。
【請求項10】
前記支持部における前記周溝が、底部から開口部に向かって次第に拡開する断面形状をもって周方向に延びている請求項1乃至9の何れかに記載のワンピース型の眼内レンズ。
【請求項11】
前記光学部の前記光軸方向における投影面積:aに対する、前記支持部の該光軸方向における投影面積:bの比の値を、b/a=0.3〜3.0とした請求項1乃至10の何れかに記載のワンピース型の眼内レンズ。
【請求項12】
前記支持部における最大厚さ寸法:t(max) に対する、該支持部における前記周溝の形成部位における厚さ寸法:t(min) の比の値を、t(min) /t(max) =0.5〜0.8とした請求項1乃至11の何れかに記載のワンピース型の眼内レンズ。
【請求項13】
前記支持部の厚さ寸法が0.1〜0.55mmである請求項1乃至12の何れかに記載のワンピース型の眼内レンズ。
【請求項14】
前記光学部の外径寸法が3.2〜6.0mmである請求項1乃至13の何れかに記載のワンピース型の眼内レンズ。
【請求項15】
前記光学部の最大厚さが0.1〜0.75mmである請求項1乃至14の何れかに記載のワンピース型の眼内レンズ。
【請求項16】
前記支持部が、前記光学部の中心軸を挟んだ両側で対向位置するようにして一対、互いに実質的に独立して形成されており、それら一対の支持部に対して、それぞれ、前記周溝が形成されている請求項1乃至15の何れかに記載のワンピース型の眼内レンズ。
【請求項17】
前記支持部の延び出し方向で相互に離隔して、前記周溝が複数条形成されている請求項1乃至16の何れかに記載のワンピース型の眼内レンズ。
【請求項18】
眼内挿入状態下において、前記支持部が複数条形成された前記周溝の各形成部位で曲がることにより、該支持部の後面が、その先端部分から前記光学部に向かう所定長さの領域において嚢内面に重ね合わせられて当接するようになっている請求項17に記載のワンピース型の眼内レンズ。
【請求項19】
複数条の前記周溝が、
前記支持部の延び出し方向の中央よりも光学部側に位置する基端側周溝と、
該支持部の延び出し方向の中央よりも先端部側に位置する先端側周溝と、
それら基端側周溝と先端側周溝の間に位置する少なくとも一つの中間周溝と
を含んで構成されている請求項17又は18に記載のワンピース型の眼内レンズ。
【請求項20】
前記軟質材料が、ガラス転移温度が30℃以下で、且つ、屈折率が1.51以上である請求項1乃至19の何れかに記載のワンピース型の眼内レンズ。
【請求項21】
請求項1乃至20の何れかに記載のワンピース型の眼内レンズにおける位置決め構造であって、
眼内挿入状態下で前記支持部の先端部分を嚢の外周部分の内面に当接させることで及ぼされる外力を利用して該支持部を前記周溝の形成部分で曲げ変形させると共に、該周溝を溝幅方向に潰れるように変形させて該周溝の溝幅方向の両壁内面を相互に当接させることで、該周溝の両壁内面の当接部分を通じて該支持部に及ぼされる外力を該支持部の延び出し方向に伝達せしめて前記光学部まで作用させることにより、該光学部を嚢の網膜側の内面に押し付けるようにして位置決めすることを特徴とするワンピース型の眼内レンズにおける位置決め構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2006−6484(P2006−6484A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−185500(P2004−185500)
【出願日】平成16年6月23日(2004.6.23)
【出願人】(000138082)株式会社メニコン (150)
【Fターム(参考)】