説明

眼内圧を調整するための構造体

【課題】眼内圧を調整するための3次元多孔質構造体を提供する。
【解決手段】本構造体は共重合体、例えばコラーゲンとグリコサミノグリカン、の混合物を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、幾つかの実施形態において、インプラントとして使用される薬剤を含まない生分解性3次元多孔質コラーゲン・グリコサミノグリカン・スカフォルド(scaffold)に概ね関し、特に傷あとの形成を防ぎ、緑内障に対して眼内圧調整するための生理水緩衝環境を結膜腔内に生成するよう設計された用具に関する。
【0002】
[関連する出願への相互参照]
本出願は、2002年12月20日付で出願した米国特許出願第10/327,528号(放棄)の一部継続出願である2006年06月21日付で出願した米国特許出願第11/471,695号の一部継続出願である。これら全ての出願を本明細書に援用する。
【背景技術】
【0003】
緑内障は眼内圧上昇、視神経損傷、進行性視野欠損等の一連の症状を伴う。大多数の患者が、血管による水再吸収を増やしこれにより眼内圧を下げるために、ベータ遮断薬、縮瞳薬、アドレナリン作動薬、又は炭酸脱水酵素抑制剤の経口摂取または局所適用による治療を受ける。患者の大多数は、薬物治療に最初はかなり好反応を示すが、多くの場合、時間が経つと反応を示さなくなる。薬物治療に急速に反応しない患者の場合、外科的介入が眼内圧を維持するために必要である。
【0004】
緑内障濾過手術は、眼内圧を下げるための現在唯一の手術である。緑内障濾過手術の手順は、前房から房水を排出するために線維柱帯(trabeculum)に開口を作ることと、眼内圧を下げるために前房と結膜下腔の間に濾過胞(filtering bleb)又は排出孔(drainage fistula)を作ることから成る(Bergstrom et al., 1991; Miller et al., 1989)。しかし、手術後の傷あとの成長により、この濾過胞又は排出孔は閉塞され高眼内圧が再現する結果となる(Peiffer el al., 1989)。このため、傷あとの形成を防ぐことが緑内障手術の成功にとって重要な考慮事項であるべきである。
【0005】
臨床治療はマイトマイシン−C、5−フルオロウラシル、ブレオマイシン、ベータ−アミノプロピオニトリル、D−ペニシラミン、ヒト組織プラスミノゲン活性化因子、及びコルチコステロイドを使用して線維芽細胞増殖を抑制し、緑内障手術後の傷あとの成長を防ぐ。しかし、結膜が薄くなる又は眼内炎症等の所見される副作用は失明を引き起すことがある。
【0006】
特許文献1及び特許文献2は、濾過胞または排出孔の代わりに人工の材料で作られたポンプ又はチューブ状の用具を結膜下腔または前房の近辺に移植し、眼内圧を下げることを開示している。これらの非分解性の用具は、排出孔または濾過胞として機能し、短期の利益をもたらすが、結局は傷あとの形成によって機能しなくなる。また、これらの用具は生分解性ではなく、窮屈になったり2次感染の危険性がある。また、臨床において、このような用具の移植後、傷あとの形成の顕著な減少は見られない。実際は、再生組織はしばしば移植された用具に浸入するか又は締め付けて、排出路を閉塞する。大部分において、これは一般的に役立つ治療法ではない。
【0007】
ヒト組織工学の長年の研究は、傷あとを防ぐのに大きな進歩を達成した(Yannas et al., 1989; Yannas, 1998)。例えば、人工皮膚は傷治癒に大きな貢献をしている(Orgill et al., 1996; Yannas et al., 1982)。特許文献3及び特許文献4は、傷治癒に有用であり傷あとの形成を防ぐ人工皮膚を開示している。両方のタイプの人工皮膚とも、分解性層と非分解性層とを組み合わせている。合成ポリマーから成る非分解性層は人工皮膚の水分の流れを調整し、3次元(3D)コラーゲン・ムコ多糖又はコラーゲン・グリコサミノグリカン共重合体から成る分解性層は、創傷部を直接被覆し組織再生を支援する。3Dコラーゲン・ムコ多糖又はコラーゲン・グリコサミノグリカン共重合体は、再生線維芽細胞と分泌された細胞間基質とのランダムな再構成をもたらし、結果として傷あとの形成を減少させる。
【0008】
皮膚の生理機能を真似るために、幾つかの従来の方法及び用具は、成分間の高強度の化学的結合と水分の流れの機能的調整とを備えるよう設計されている。また、これらの生成物は、一般に、インプラントとして使用されるものでなく、外面に適用されるものである。このような人工皮膚をインプラントとして緑内障治療に直接適用することは不可能である。緑内障手術後の傷あとの形成を防ぎ眼内圧を調整するための別の解決法が大いに望まれている。
【0009】
特許文献5と特許文献6はそれぞれ、細胞増殖を抑制し、組織再生を調整し、傷あとの成長を防ぐ生物学的に活性な分子を運ぶインプラントを開示している。しかし、その成分は完全には生分解性ではない。特許文献7と特許文献8はそれぞれ、細胞増殖抑制剤と生分解性の媒介物との組み合わせと眼内組織への直接適用とを開示する。これらの特許文献は、薬剤媒介物の非分解性の問題に対処しているが、注入箇所から薬剤が漏れ出す危険がまだある。患部は制御できないであろう。また、このような生分解性基質は、物理的手段で眼内圧を調整すること、即ち、生理水緩衝溜めを作ることで眼内液の圧力を調整することが出来る圧力調節器として機能しない。
【0010】
【特許文献1】米国特許第5,713,844号明細書
【特許文献2】米国特許第5,743,868号明細書
【特許文献3】米国特許第4,060,081号明細書
【特許文献4】米国特許第5,489,304号明細書
【特許文献5】米国特許第6,299,895号明細書
【特許文献6】米国特許第6,063,116号明細書
【特許文献7】米国特許第6,013,628号明細書
【特許文献8】米国特許第6,218,360号明細書
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0011】
幾つかの実施形態では、本発明は、結膜下腔内に移植後、完全な生分解性の3D多孔質コラーゲン・グリコサミノグリカン・スカフォルドを提供する。この3D多孔質構造体は眼内圧を低減し、増殖する細胞と基質との再配置をもたらし、傷あと形成を防ぎ、生分解後、恒久的生理水溜めシステムを提供する。
【0012】
本発明の目的は、幾つかの実施形態では、緑内障に対する移植される新しい用具を提供することである。幾つかの好適な実施形態では、I型コラーゲンを精製し、インプラントとして使用される生分解性の3D多孔質コラーゲン・グリコサミノグリカン・スカフォルドを作る方法を提供する。このインプラントは、再生成中の細胞再構成をもたらし、緑内障手術後、眼内圧(IOP)を調整するための生理水緩衝溜めを作る。一方、調製処理において更なるアルデヒド結合は行われないので、硬さと化学残存物の可能性とが低減される。
【0013】
本発明の更なる目的は、幾つかの実施形態では、動物の結膜下腔内に本用具を移植する手順を提供することである。薬剤を移植時及び移植後に加える必要はない。本発明は、3D多孔質構造体と生分解後の残存腔とだけによって傷あとの成長を防ぎ、眼内圧を調整する。本発明は薬剤媒介物又は薬剤担体としては使用されない。
【0014】
1つの実施例では、眼内圧を移植後測定した。他の実施例では、移植後3日目、7日目、14日目、21日目、28日目に異なる細胞評価を行い、スカフォルドの生分解性と組織再生とを調べた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の上記と他の目的、特徴、形態、及び利点は、添付の図面を参照しながら下記の詳細な説明を読むことによってより良く理解されるであろう。
【0016】
幾つかの実施形態では、本発明はコラーゲン・グリコサミノグリカン(GAG)共重合体から成る完全に生分解性3D多孔質スカフォルドを提供する。用語「スカフォルド」と「コラーゲン基質」の両方がコラーゲン・グリコサミノグリカン共重合体から成る基質、又はこれらの共重合体と同様に機能する重合体から成る基質を指す。多くの研究と特許が、コラーゲン単体又は他の生体材料と組み合わせた使用を開示しているが、本発明は高温(実施例参照)及び紫外線を重合のための主要エネルギーとして使用し、非自明なことに調製において更なるアルデヒド結合反応は行われず、従ってアルデヒド残存物がない。結果として、最終生成物は、再生組織の再構成をもたらす3D多孔質構造を維持するだけでなく、他の従来技術(米国特許第5,629,191号、米国特許第6,063,396号、及びHsu et al., 2000)に開示された生成物に比べて柔らかである。また、本発明の幾つかの実施形態は、眼内液圧を調整し、また、傷が成熟する前に強膜トンネル内での癒着の可能性を減少させる3D生理水緩衝溜めとして働くのに適した範囲の飽和後静圧特性と剛性特性とを有するスカフォルドを提供する。
【0017】
他方、多くの従来の方法と用具は、薬剤媒介物又は担体となるインプラントを提供し、この媒介物又は担体から放出された薬剤は、局所的に細胞増殖を抑制し傷あとの成長を防ぐ。しかし、薬剤の再充填は煩雑であり、幾つかの薬剤については、副作用は評価されていない。従って、本発明は、これらの問題の解決法として緑内障に対して眼内圧調整するための構造体を提供する。本スカフォルドは、増殖する細胞と基質とが3D多孔質構造内再配置において分散するよう直接導くことで傷あとの形成を防ぐ。結果として、スカフォルドが分解した後の残存腔は疎な結合組織によって満たされ、眼内圧を緩衝する恒久の水溜めとして働く。本スカフォルドは異常な眼内圧の再現を防ぐだけでなく、薬剤の充填時に発生する可能性のある危険と副作用との問題がない。
【0018】
このスカフォルドの飽和後の静圧は、スカフォルドに使用された共重合体の割合に応じて増加する。従って、幾つかの実施形態では、このスカフォルドは約0.5mmHg〜約5.5mmHgの飽和後静圧を有する。他の実施形態では、飽和後静圧は約0.5mmHg〜約5mmHg、約0.75mmHg〜約4.75mmHg、約1mmHg〜約4.5mmHg、約1.25mmHg〜約4.25mmHg、約1.5mmHg〜約4mmHg、約1.75mmHg〜約3.75mmHg、約2mmHg〜約3.5mmHg、約2.25mmHg〜約3.25mmHg、約2.5mmHg〜約3mmHg、又は約2.75mmHgである。当業者は理解するであろうように、スカフォルドの飽和後静圧を変える多くの方法、例えばスカフォルドに含まれるコラーゲンの割合を変える等、が存在する。
【0019】
スカフォルドの剛性は、圧力の急激な降下が現れ、次に圧力の急激な上昇が現れるパターン(図11)の圧力変化が起こることなくスカフォルドが耐える最大圧を意味する。幾つかの実施形態では、剛性は、次の表に示すように約0.1KPa〜約1.5KPaである。
【0020】
【表1】

【0021】
しかし、移植後、崩壊することなくその形を維持するためにスカフォルドは最小限の物理的強度を持つべきであるので、スカフォルドは、0.5KPa以上の剛性を持つことが好ましい。より好適な実施形態では、剛性は約1KPa以上であり、最も好適な実施形態では、剛性は約1.4KPa以上である。
【0022】
上記全ての実施形態は、コラーゲン・グリコサミノグリカンで作られている。コラーゲンに類似したゼラチンまたは他の重合体又は共重合体で作られたスカフォルドが、緑内障治療のためのインプラントとして、又は眼の傷の覆いとして使用される場合は、上記のような特性の飽和後静圧と剛性を持つべきである。
【0023】
幾つかの実施形態では、緑内障インプラントとして使用するスカフォルドを製造する時の溶液中のコラーゲン・グリコサミノグリカン共重合体の割合は、酢酸又は水溶液中で約0.125%〜約8%の範囲である。本発明の幾つかの実施形態では、コラーゲンはI型コラーゲンであってよい。
【0024】
グリコサミノグリカンは、これらに限定されないが、コンドロイチン6硫酸、コンドロイチン4硫酸、ヘパリン、ヘパラン硫酸、ケラタン硫酸、デルマタン硫酸、キチン、キトサン、及びこれらの混合物のうちの1つ以上であってよい。コラーゲンは、これに限定されないが、コラーゲンに類似したゼラチンであってもよい。
【0025】
幾つかの実施形態では、I型コラーゲンとグリコサミノグリカンとは6:1、10:1、12:1、24:1、48:1、又は96:1の重量比(コラーゲン:グリコサミノグリカン)で、高温で高速で完全に混合することにより架橋結合されてもよい。リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で飽和後に、本スカフォルドをアルデヒド結合により作られたものより柔らかく保つために、調製において2次アルデヒド結合反応は行われない。好ましくは、スカフォルドは移植のために準備されるまで乾燥した状態に保つのがよい。
【0026】
幾つかの実施形態では、スカフォルドは約10μm〜約300μmの範囲のサイズの複数の孔を有している。孔のサイズは約20μm〜約200μmであってもよい。幾つかの実施形態では、孔のサイズは、スカフォルドを生理食塩水で飽和させた後、測定されるが、他の実施形態では、孔のサイズは、乾燥したスカフォルドにおいて測定される。
【0027】
本発明の幾つかの実施形態は、緑内障手術において本開示のスカフォルドを使用する方法に係る。下記の実施例に示すように、本開示のスカフォルドの比とサイズを持ったコラーゲン・グリコサミノグリカン共重合体を切り出し、リン酸緩衝生理食塩水で飽和させた。外科医は、円蓋から角膜縁まで結膜を慎重に切開し強膜を曝し、結膜下腔と前房とを接続する線維柱帯チャネルを作ってよい。次に、外科医は、PBSで飽和させたスカフォルドを強膜弁の上の結膜下腔の中に移植する。
【0028】
PBSで飽和させたスカフォルドは、眼内圧に抗する静圧を提供し、前房から過剰な房水が漏出するのを防ぎ、それにより緑内障手術直後の低眼圧症を防ぐ。また、インプラントの物理的効果と位置に基づいて、眼内圧と静圧との圧力差の変動によって強膜弁と強膜床との間の接触機会と時間が低減されうる。このため、強膜トンネル内の癒着の可能性が効率的に削減できる。移植されたスカフォルドの生分解性3D多孔質構造は、薬剤及び化学物質を含まない環境を提供し、増殖する細胞と基質との再配置をもたらし、その結果、傷あとの成長を防ぐ。完全に分解した後、疎な組織構造体が残る。この疎な構造体は恒久的な生理房水緩衝溜めを提供し、眼内圧を調整する。
【0029】
本発明は、幾つかの実施形態において、本明細書に記載したスカフォルドを含むキットにも関する。眼のレーザー手術において使用するこのようなキットは、米国特許第6,607,527号又は米国特許第5,533,997号に記載されたマーカー等の位置決めマーカーを備えてもよい。
【0030】
下記の実施例は限定のためではなく例示のために開示される。
【0031】
<実施例1>
I型コラーゲンの調製
次のプロセスはI型コラーゲンを調製するために使用することが出来る。300グラムのウシの腱を約0.5cm3の小片に切り、95%エタノール10リットルに4℃で24時間漬ける。これらの腱小片を0.5M酢酸溶液10リットルに入れ、この混合物を4℃で72時間攪拌する。次にペプシン(SIGMA P7000, 4000 unit/ml)を加え、その混合物を4℃で24時間攪拌する。この混合物を濾過し残留物を捨てる。塩化ナトリウムをその濃度が1.0Mになるまで加える。次にその溶液を4℃で30分間磁気攪拌し混合する。10,000gで30分間遠心分離機(Beckman Avanti J-20)にかけ、上澄み液を取除く。得られたペレットを、50mMトリス塩酸溶液(pH7.4)10リットルを加えて浮遊させ、4℃で30分間攪拌する。次に塩化ナトリウムをその濃度が4.0Mになるまで加える。この溶液を4℃で30分間完全に混合する。10,000gで30分間遠心分離機にかけた後、上澄み液を取除く。得られたペレットを、50mMトリス塩酸溶液(pH7.4)10リットルに浮遊させ、この溶液を4℃で30分間完全に混合する。再び塩化ナトリウムをその濃度が2.5Mになるまで加え、この溶液を4℃で30分間攪拌する。10,000gで30分間遠心分離機にかけ、上澄み液を取除く。得られたペレットを、イソプロパノールとH2Oの混合溶液(イソプロパノール:H2O=1:4)5リットルを加えて浮遊させ、4℃で30分間磁気攪拌し混合する。10,000g、4℃で30分間遠心分離機にかけた後、上澄み液を取除き、得られたペレットを、0.05M酢酸溶液5リットルに浮遊させる。この遠心分離と浮遊とを2回実行する。得られた溶液を−90℃で冷凍する。この溶液を凍結乾燥させ、I型コラーゲンの完全に乾燥した生成物を得る。
【0032】
薬剤を含まない生分解性3D多孔質コラーゲン・グリコサミノグリカン・スカフォルドの調製
実施例1のプロセスで得られたI型コラーゲン4.8gを0.05M酢酸溶液400mlに溶解する。この溶液を10℃の水槽内で磁気攪拌により、3,500rpmで60分間、次に7,000rpmで30分間、次に11,500rpmで60分間と段階的に混合する。コンドロイチン6硫酸(C−6−S)0.48gを0.05M酢酸溶液80mlに溶解する。次にこのC−6−S溶液とI型コラーゲン溶液とを磁気攪拌により、3,500rpmで60分間、次に7,000rpmで30分間、次に11,500rpmで60分間と段階的に混合する。コラーゲン・C−6−S混合物を4リットルフラスコに注ぐ。この混合物を圧力が30mtorr未満になるまで真空に引き4℃で保存する。このコラーゲン・C−6−S混合物160mlを14cm×22cmのステンレス製トレイ内に入れる。このコラーゲン・C−6−S混合物を、シート状のコラーゲン・C−6−S混合物が得られるまで−90℃で凍結乾燥させる。シート状のコラーゲン・C−6−S混合物をアルミホイルバッグに封入し、温度105℃で24時間真空に曝すことでコラーゲン・C−6−S混合物を重合させる。コラーゲン・C−6−S共重合体のシートをアルミホイルバッグから取り出し、UVクロスリンク装置内で各面を254nm紫外線に2時間曝すことで架橋結合させる。コラーゲン・C−6−S共重合体の3D多孔質シートを乾燥したアルミホイルバッグ内に4℃で保存する。
スカフォルドのコラーゲンとグリコサミノグリカンとの比は、10:1に維持することができる。本発明の上記実施形態と従来技術に開示されたものとの差は、スカフォルドの調製において更なるアルデヒド架橋結合は行われないということである。従って、化学残存物の可能性はない。また、調製において化学的な2次架橋結合は行われないので、得られたスカフォルドはずっと柔らかである。
【0033】
<実施例2>
生理緩衝液で飽和させた後の静圧の測定
0.25%、0.5%、1%コラーゲン・C−6−S共重合体をそれぞれ含む緑内障に対して眼内圧を調整するための複数の構造体を、直径7mm、7.5mm、8mm、8.5mm、9mm、厚み2〜3mmの円板に切断する。それら円板の重さをはかりで量り記録する。コラーゲン・C−6−S共重合体が飽和されるまで円板を0.1MのPBSに浸し、重さを量る。このステップを10回繰り返す。スカフォルドの単位面積当たりの飽和後静圧を次の式に基づいて計算する:スカフォルドの飽和後静圧(mmHg)=[飽和したスカフォルドの重さ(mg)−乾燥したスカフォルドの重さ(mg)]×0.0736/スカフォルドの面積(mm2)。測定値の変化はtテストで評価する。
スカフォルドの飽和後静圧は、予想される最大の眼内緩衝圧である。測定データは、スカフォルド中のコラーゲン・C−6−S共重合体(CG)の濃度が高くなると、飽和後静圧は大きくなることを示す(図1参照)。これはコラーゲン分子がH2Oと高い結合親和性を持っているからである。また、測定データは、コラーゲン・C−6−S共重合体の濃度が同じでサイズが異なるスカフォルドの飽和後静圧はその面積に正比例することを示す。この結果は、コラーゲン・C−6−S共重合体の安定で均一な性質を示す。従って、様々な濃度のコラーゲン・C−6−S共重合体を含む異なる形のスカフォルドを、異なる要求の前に調製することができる。
【0034】
<実施例3>
緑内障に対して眼内圧を調整するための構造体の移植の動物モデル
緑内障に対して眼内圧を調整するための0.5%コラーゲン・C−6−S共重合体構造体を直径8mm、厚み2〜3mmの小さな幾つかの同じ円板に切断する。これらの円板を0.1MのPBSに4〜6時間完全に浸し飽和させる。体重2.5〜3.5kgの17匹のニュージーランド・アルビノウサギの雌にケタミン(35mg/kg,BW)とキシラジン(5mg/kg,BW)との筋肉注射によって麻酔した。全てのスカフォルドをこれらの動物の右眼に移植し、左眼は外科的偽対照として使用した。瞼を検鏡で開け、右眼に長さ約8〜10mmの傷を眼用はさみで作った。この傷は角膜・強膜縁から2mm離れた位置で10時と12時の間に位置する。結膜上皮及び固有質を分離し強膜を露出させる。線維柱帯上にスカフォルドを移植する結膜下腔と前房とを接続するチャネルを作る。この傷を閉じる。外科的偽対照とするために、スカフォルド移植のない同じ外科処置を左眼にも行う。
【0035】
<実施例4>
眼内圧を調整する構造体の移植後の組織学的評価
17匹の移植されたウサギは移植後3日目、7日目、14日目、21日目、28日目にケタミン(2×35mg/kg,BW)とキシラジン(2×5mg/kg,BW)とから成る過剰な麻酔薬により屠殺した。すぐに瞼を含む眼を取出し、4%ホルムアルデヒドに一晩漬け固定する。インプラントとその下の強膜床を切出し、脱水し、パラフィンに包埋した。ミクロトームを使用して7μm厚で切片を切出し、一般的な組織学的観察のためにH&E(ヘマトキシリンとエオシン)で染色し、コラーゲン沈着及びリモデリングを評価するためにマッソン3色染料で染色した。筋線維芽細胞の分布を特定するためのα−SMA(α−平滑筋アクチン)免疫細胞化学のために、追加の組織切片を使用した。H&E染色、マッソン3色染色、及びα−SMA免疫細胞化学の手順を下記に説明する。
【0036】
緑内障に対して眼内圧を調整する構造体の移植後のH&E染色による一般的な組織学的評価
スライドを56℃で10分間加熱して組織切片の脱パラフィンを行い、100%キシレンに3分間浸す(3回繰り返す)。これらのスライドを100%エタノールに2分間(3回繰り返す)浸し、90%、80%、70%、50%エタノールに順次それぞれ3分間浸し再水和させる。これらのスライドをヘマトキシリン溶液内で10分間染色し、蒸留水に5分間浸し(2回繰り返す)過剰な染料を取除く。次にこれらのスライドをエオシン溶液に20秒間浸す。これらのスライドを蒸留水で5分間洗浄し(2回繰り返す)過剰な染料を取除く。染色された組織を50%、70%、80%、90%、100%エタノールに順次それぞれ10秒間浸して脱水する。100%エタノールで2次処置後、これらのスライドを100%キシレンに10秒間浸す(3回繰り返す)。これらのスライドをパーマウントまたはポリマウントで覆い、光学顕微鏡で観察する。
【0037】
移植された眼と移植されていない眼の両方の傷領域は、手術後3日目と7日目に典型的な急性の炎症反応を示した。時折細長い線維芽細胞群、マクロファージ、及び異なる種類のリンパ球から成る多数の免疫原細胞が集まっていた。線維芽細胞によって分泌されたコラーゲンは傷の近くに沈着する。炎症細胞と線維芽細胞はスカフォルドの内部領域の強膜に近い3分の1から半分に浸入していた(図2(a)、(b))。移植されたスカフォルドは7日後徐々に分解したが、残存部が見える。再生細胞が残存する3D多孔質構造体の不規則な孔群に沿って分布する。線維芽細胞は支配的に孔群を越えて伸び、強膜の上皮層に直接結合する。免疫反応は14日目から徐々に減少し、手術後21日目までに完全におさまった。移植された傷と移植されていない傷とで免疫反応とおさまるまでの時間とに差はなかった。この結果は、スカフォルドは追加の免疫反応を引き起こさなかったことを示す。また、スカフォルドが分解された後の移植領域に、浸入した分散された再生細胞と分泌されたコラーゲンからなる疎な構成のネットワークが残されていた。一方、移植されていない手術領域はコラーゲン線維の密に詰まった配列によって占められ、移植されていない左眼の結膜はずっと厚かった。
【0038】
マッソン3色染色によるコラーゲンの特定
組織スライドを100%キシレン溶液に5分間浸し(2回繰り返す)脱パラフィンを行い、100%、100%、95%、80%、70%エタノールに順次浸しこれを10〜20回繰り返して再水和させる。組織スライドをボーインズ溶液(Sigma M HT10-32)を使用して56℃で1時間媒染剤漬けし、次に室温でフード内に一晩置く。流れる水道水で組織スライドを洗浄し、組織切片から黄色の着色を取除き、短時間蒸留水ですすぐ。組織切片をワイゲルト鉄ヘマトキシリン溶液(Sigma HT10-79)内で10分間染色する。流れる水道水で10分間洗浄し、蒸留水ですすぐ。これらの組織スライドを新しく調製したリンモリブデン酸・リンタングステン酸溶液に10〜15分間浸す。この新しく調製したリンモリブデン酸・リンタングステン酸溶液はリンモリブデン酸(Sigma HT15-3)と10%(w/v)リンタングステン酸(Sigma HT15-2)を1:1の体積比で混合することで調製できる。組織スライドをアニリン青溶液に5分間浸して染色し、短時間蒸留水ですすぐ。これらの組織スライドを1%氷酢酸溶液に3〜5分間浸し、70%、80%、90%、100%エタノールに順次それぞれ10秒間曝して脱水する。100%エタノールで2次処置後、これらの組織スライドを100%キシレンに10秒間浸す(3回繰り返す)。これらの組織スライドをパーマウントまたはポリマウントで覆い、顕微鏡で観察する。
【0039】
手術後3日目に移植された傷領域と移植されていない傷領域に、染色されたコラーゲン線維が現れた。手術後14日目に得た組織切片では、移植されていない傷領域に傷あとがずっと高密度に詰まったコラーゲン線維配列によって形成されていた(図2(c)、(d))。手術後28日目まで傷あと組織は連続的に成長した(図2(g)、(h))。手術後14日目のα−SMAの免疫染色の結果と比較すると、移植されていない傷領域にもっと多くの密に整列した筋線維芽細胞が存在する(図2(e)、(f))。観察によって、スカフォルドが傷あとの形成を防ぐことが確認された。
【0040】
α−SMA免疫細胞化学による活性な筋線維芽細胞の分布の特定
56℃で10分間加熱して組織スライドの脱パラフィンを行い、100%キシレンに3分間浸す(3回繰り返す)。これらの組織スライドを100%エタノールに3分間(2回繰り返す)浸し、90%、80%、70%、50%エタノールに順次それぞれ3分間浸す。これらの組織スライドを0.1MのPBSで3分間洗浄し(2回繰り返す)、室温で3%H2Oに15分間浸す。組織スライドを0.2%Triton-X 100を含む0.1MのPBS(PBST)で2〜3分間洗浄する(3回繰り返す)。10%ウシ胎児血清(FBS)を含む0.1MのPBSTで非特定結合を室温で25分間ブロッキングする。組織スライドを1:500に希釈したα−SMA(ネオマーカー)単クローン抗体で4℃で一晩培養する。組織スライドをPBSTで2〜3分間洗浄(3回繰り返す)した後、組織スライドを1:400に希釈したビオチン化抗マウス/ウサギIgG(DAKO LSAB2R system)で室温で15分間培養する。組織スライドをPBSTで2〜3分間洗浄する(3回繰り返す)。ストレプトアビジン−HRP(DAKO LSAB2R system)を組織切片に添加し、室温で15分間培養する。組織スライドをPBSTで2〜3分間洗浄する(3回繰り返す)。クロモゲン(DAKO LSAB2R system)反応を室温で10分間行わせる。組織スライドをPBSTで2〜3分間洗浄する(3回繰り返す)。ヘマトキシリン溶液で30秒間対比染色し、PBSで3分間洗浄し(3回繰り返す)、蒸留水で5分間洗浄する(2回繰り返す)。これらのスライドを56℃でグリセロールゲル(DAKO)で覆い、顕微鏡で観察する。上記DAKO LSAB2R systemの物質はビオチン化リンクとストレプトアビジン−HRPとを含む。ビオチン化リンクは、安定化タンパク質と0.015mol/Lアジ化ナトリウムとを含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に入れられたビオチン標識親和分離ヤギ抗ウサギ及びヤギ抗マウス免疫グロブリンを含む。ストレプトアビジン−HRPは、安定化タンパク質と抗菌剤とを含むPBSに入れられた西洋ワサビペルオキシダーゼと複合したストレプトアビジンである。
【0041】
移植されていない眼において、α−SMAの免疫染色は、手術後14日目までに多数の筋線維芽細胞が強膜表面に平行に整列し、筋線維芽細胞によって分泌された密に集合したコラーゲン線維が傷収縮を起こさせたことを明らかにした。一方、移植された眼の移植領域においては、少しだけの分散された筋線維芽細胞が分布していた。これらは残存するスカフォルドと傷領域周辺とにランダムに付着している(図2(e)、(f))。従って、移植された眼では傷収縮はめったに起こらない。上皮下腔内のコラーゲン線維の集合と移植されていない眼の傷に近接した筋線維芽細胞の収縮とによって、手術後21日目には明らかに傷が収縮していた。この結果、上皮下腔は小さく又はなくなっていた。一方、移植された眼では、コラーゲン・C−6−S共重合体の分解に加えてコラーゲン線維と筋線維芽細胞とのランダムな分布により、上皮下腔はより大きかった。手術後28日目の観察は、移植された眼では、線維芽細胞と筋線維芽細胞との数が減少し、移植された傷領域でストロマがコラーゲン線維で置換えられたことを示した。これらのコラーゲン線維はランダムな向きに整列していた。一方、移植されていない眼においては、明らかな傷あとが形成されていた(図2(g)、(h))。
【0042】
<実施例5>
眼内圧(IOP)の変化
実施例4の雌ニュージーランド・アルビノウサギの眼内圧はトノペンで測定した。3日目、7日目、14日目、21日目、28日目に測定に先立ち、ウサギに半分の量のケタミン(35mg/kg,BW)とキシラジン(5mg/kg,BW)とを筋肉注射して麻酔した。更なる形態学的研究のためにウサギを屠殺する前に、同じ測定を行った。移植前の眼内圧と比べた時の、眼内圧の変化率は次の式で求められる:IOP変化率(%)=((移植前のIOP−移植後のIOP)/移植前のIOP)×100。
【0043】
移植されていない眼の場合は、前房に接続されたチャネルを作った直後、IOPは約16%減少し、14日目まで一定であった。その後、徐々に増加し手術前に測定した値に戻った。移植された眼の場合は、チャネルを作った直後、IOPは約14%減少し、手術後7日目には33%減少した。組織再生成の間もIOPは減少し、手術後28日目には減少量は約55%に達した(図3)。これらの結果は、時間的に形態学的観察と合致する。
【0044】
<実施例6>
コラーゲン基質
電子顕微鏡を走査することで、コラーゲン基質は散漫な多数の孔を持った物質からできていることが分かった。コラーゲン基質の孔のサイズは20μm〜200μmの範囲であった(コラーゲン・グリコサミノグリカンの割合は約1%)(図4)。孔のサイズは共重合体の割合に関係しているので、より低い割合の共重合体を含むスカフォルドの孔のサイズは200μmより大きい。
【0045】
前述の結果によれば、コラーゲン基質は、組織(上皮、ストロマ、及び血管)再成長のための生理的構造体を提供し、結膜の傷を病理学的よりも生理学的プロセスで治癒させる。ウサギを使った濾過手術の場合、1ヶ月の分解期間は、対照グループと比べて顕著な胞を生成するのに十分であった。本発明のスカフォルド使用後、結膜のストロマは顕著な胞を持った房水システムの一部となり、房水システム内の分散されたコラーゲンは傷あと形成がなく周囲のコラーゲンと区別がつかない。
【0046】
本コラーゲンインプラントは抗線維化剤なしで生成された胞よりも疎な構成の、抗線維化剤ありで生成された胞よりも豊かな胞組織を生成するので、抗線維化剤の代わりとなる可能性がある。分解性のコラーゲンインプラントを使用し濾過手術の傷治癒を正常化するこの新しい手法は物理的な面と生理的な面の両方からの潜在的な利益を提示する。
【0047】
PBSに浸したスカフォルドに印加する重さを徐々に増加させた時、スカフォルドの高さの減少とともに圧力は概ね上昇した。しかし、歪みが約0.32に達した時、PBSに浸したスカフォルドの圧力は小さな範囲において降下した。同時に、PBSがスカフォルドからかなり放出された(コラーゲン・グリコサミノグリカンの割合は約1%であり、コラーゲンとグリコサミノグリカンの比は24:1)(図11)。歪みは長さの変化量/元の長さである。この基質が外力によって圧縮された時、基質はより堅く、より変形し難くなる。しかし、外力が基質の剛性(約1.12〜1.19Kpa)を超えると、PBSに浸したスカフォルドは、その構造が押しつぶされ保持されていたPBSが流れ出す。このため、歪んだスカフォルドはその3D構造と飽和後静圧を維持できなくなる。
【0048】
本スカフォルドは強膜弁に圧力を印加する課題と、治癒するまで機能する胞を維持する課題との両方を解決できる。
【0049】
ヘマトキシリン・エオシン染色
移植された眼と対照の眼の両方の傷領域は、手術後3日目と7日目に典型的な急性の炎症反応を示した。細長い線維芽細胞、マクロファージ、及び異なる種類のリンパ球がインプラント表面に集まっていた。移植された基質は手術の7日後に分解を始めた。
【0050】
内に伸びる細胞が表面よりは低い密度でインプラントの多孔質パターン中に分布していた。炎症反応は手術後14日目から徐々に減少し、対照グループでは21日目までに、インプラントが完全に分解した28日目までに完全におさまった。
【0051】
対照の眼では、α−SMAの免疫染色は、手術後14日目まで強膜表面に平行に整列した多数の筋線維芽細胞と、筋線維芽細胞によって分泌され密に集合したコラーゲン線維とを示した。一方、移植された眼においては、残存するスカフォルドと傷領域周辺とにランダムに付着したより少ない筋線維芽細胞を示した(図5)。インプラントが分解する間、胞腔は顕著であった(図6)。
【0052】
手術後21日目には、対照の眼の縮小した胞サイズはより明白となり、結膜下腔内のコラーゲン線維の集合と結合していた(図7)。手術の28日後の対照の眼は、結膜下腔内の密な線状コラーゲンで満たされた縮小した胞腔を示した。手術後21日目の移植されたグループは、コラーゲンが中に分散された顕著な胞を結膜下腔内に有していた。構造を持ったインプラントはもう見られなかった(図8)。胞の深さの比較は、移植されたグループの胞は、対照グループの胞の5〜6倍の深さであることを明らかにした(10−0ナイロンの直径を単位として使用した)。
【0053】
本3Dコラーゲン基質は2つの目的を達成するために設計された:細胞の成長を抑える生理的環境を提供し、浅い前房を防ぐための強膜弁上の物理的重しを提供する。2つのパラメータである濃度と温度は基質の内部構造に関係する。この実施例では、1%コラーゲン・グリコサミノグリカン共重合体が採用され、凍結乾燥処理を行った。
【0054】
前述の結果によれば、コラーゲン基質は、組織(上皮、ストロマ、及び血管)再成長のための生理的構造体を提供し、結膜の傷を病理学的よりも生理学的プロセスで治癒させる。ウサギを使った濾過手術の場合、1ヶ月の分解期間は、対照グループと比べて顕著な胞を生成するのに十分であった。本発明のスカフォルド使用後、結膜のストロマは顕著な胞を持った房水システムの一部となり、房水システム内の分散されたコラーゲンは傷あと形成がなく周囲のコラーゲンと区別がつかない。
【0055】
本コラーゲンインプラントは抗線維化剤なしで生成された胞よりも疎な構成の、抗線維化剤ありで生成された胞よりも豊かな胞組織を生成するので、抗線維化剤の代わりとなる可能性がある。分解性のコラーゲンインプラントを使用し濾過手術の傷治癒を正常化するこの新しい手法は物理的な面と生理的な面の両方からの潜在的な利益を提示する。
【0056】
<実施例7>
胞が失敗する原因を結膜下及び強膜弁繊維増多の面から説明した。大多数の研究が線維芽細胞の増殖に注目し、これを抑制することを試みている。しかし、ヒト組織工学は繊維増多を避ける別の手法、即ち、線維芽細胞の増殖を抑制するのではなく、線維芽細胞による移動とコラーゲン沈着とのパターンを導くことを提示する。しかし、傷表面を小さくする自然治癒の能力が濾過手術成功率に関係する別のキーである。本実施例ではコラーゲン・スカフォルドの剛性をスカフォルド圧縮後のリバウンド効果と、移植後の胞サイズとから計算する。
【0057】
傷治癒のプロセスの間、筋線維芽細胞が収縮において重要な役割をはたす。この収縮の生理学的意味は、傷を覆う新しい組織の面積の減少である。しかし、濾過手術においては、この現象は液溜めの深さとサイズを縮小するので胞の失敗の可能性を増加させる(図6)。一方、傷治癒のプロセスは永久には続かない。炎症の期間において、傷はしだいに閉じ、成熟する、即ち、細胞質が減り細胞外基質が増える。即ち、永続する異物は成熟した傷内に胞を維持するのに必要ではない。上記着想に基づくと、筋線維芽細胞のすぼむ効果に抗する剛性を提供でき、炎症の期間が終わるまで持続する生分解性材料は濾過手術の結果を改善することができる。
【0058】
本実施例の結果は、大多数の細胞がスカフォルドの表面上に存在しスカフォルドの内部構造(孔)に浸入することがないことを示す。実際、傷治癒の期間、胞は崩れることなくそのサイズがスカフォルドによって維持される(図7)。スカフォルドを覆う房水の層が密な細胞質をスカフォルド外に作り、これが胞サイズを維持するのに貢献する可能性があるという組織学において興味深い発見があった。
【0059】
濾過手術の間にできた結膜の傷は、はさみによる胞の拡張と、傷の縫合とによる。この処置は結膜下ストロマ炎症と線維芽細胞の筋線維芽細胞への転換とを引き起こす。筋線維芽細胞の収縮効果によって、胞サイズは徐々に減少し、胞は完全に消滅する場合がある。これは、炎症期間がより長いリスクの高い患者においてより顕著である。早期の炎症抑制又は線維芽細胞の増殖の抑制がないと、臨床において失敗率が高くなる。代謝拮抗薬の使用により術後早期において良好な結果が得られるが、長期的な合併症の心配がある。
【0060】
成功する濾過手術は次の特性を持つはずである。第1に結膜が通常の構造を保って機能的に働く、第2に胞が安定な生理的状態に維持される、そして第3に、傷が成熟した後も強膜トンネルが存在する。従って、すぼむ効果に抗する剛性を提供できる生分解性スカフォルドが成功する濾過手術を可能にすることができる。
【0061】
幾つかの非生分解性インプラントは、一定の胞サイズとインプラント自身の永続するサイズとを提供することができる。実際は、液溜めはインプラント自身であり、胞ではない。胞の機能は、房水の動的な排出路としての外側結膜層である。しかし、永続する異物により、ある期間おさまっていた傷が炎症を起こす場合がある。胞が長く持続されるのは慢性炎症反応の結果の1つである。長期の効果を求める安全な方法は、従来の濾過手術に必要な異物のない新しい環境の前房と結膜の間の排出システムを作ることである。従来の濾過手術に比べて、特に高リスクの症例の場合に手術結果を改善することが本発明の目的である。機能的な結膜は、結膜の傷内のコラーゲン基質によって再生成できることが立証された(2000 IOVS Hsu)。傷治癒に伴う収縮を防ぎ液溜めのサイズを維持することができるスカフォルドは、良好なIOP調整と長期の効果とを提供する可能性がある。ヒト組織工学は濾過手術の結果を改善する可能性のある方法である。
【0062】
好適な実施形態を参照しながら本発明を説明したが、本発明は上記で説明した詳細には限定されないことは理解されるであろう。上記説明において様々な置換え及び変更を提示したが、当業者は他の置換え及び変更を想到するであろう。従って、そのような置換え及び変更の全てが、添付の請求項により定義される本発明の範囲内に入ることが意図されている。引用した全ての文献を本明細書に援用する。
【0063】
[図面の簡単な説明]
図1は、コラーゲン・グリコサミノグリカンの濃度が異なるスカフォルドの静圧の変化を示す。
図2は、雌ニュージーランド・アルビノウサギにスカフォルドを移植後の形態学的評価を示す。(a)(c)(e)(g)は移植したグループの結果を、(b)(d)(f)(h)は偽手術を行ったグループの結果を示す。
図2(a)は、免疫反応細胞が移植領域の参照箇所(*)に浸入した。スカフォルドは部分的に分解し、幾つかの再生細胞がこの領域に浸入した(太い矢印)。(H&E染色、40倍、3日目)。
図2(b)は、免疫反応細胞が偽手術を行ったグループの参照箇所(*)に浸入した。(H&E染色、40倍、3日目)。
図2(c)は、線維芽細胞(もつれた実線)と分泌されたコラーゲン(太い矢印)が移植領域の該参照箇所内にランダムに配置されていた。(マッソン3色染色、400倍、14日目)。
図2(d)は、線維芽細胞(もつれた実線)と分泌されたコラーゲン(太い矢印)が偽手術を行ったグループの該参照箇所内に密に配置されていた。(マッソン3色染色、400倍、14日目)。
図2(e)は、非常に少数のα−SMA免疫反応細胞(太い矢印)が分解したスカフォルドの残った領域内にランダムに見られた。(α−SMA免疫細胞化学、400倍、14日目)。
図2(f)は、多数のα−SMA免疫反応細胞(太い矢印)が偽手術を行ったグループの該参照箇所内に密に配置されていた。(α−SMA免疫細胞化学、400倍、14日目)。
図2(g)は、非常に少量のコラーゲンが完全に分解したスカフォルド(太い矢印)の残った領域内にランダムに分布していた。(マッソン3色染色、2倍、28日目)。
図2(h)は、典型的な傷あと組織(太い矢印)が現れ、密に配置されたコラーゲン線維が偽手術を行ったグループの該参照箇所内に分布していた。(マッソン3色染色、2倍、28日目)。
図3は、スカフォルド移植後の眼内圧の変化を示す。
図4は、コラーゲン基質の電子顕微鏡像を示す。
図5は、結膜下腔内の細胞(白矢印)が表面に集まった完全な状態のインプラントを示す。その核が茶色に染色されている(マッソン3色染色、20倍、7日目)。
図6は、顕著な胞内の部分的に分解したインプラント(白矢印)を示す。細胞群がこのインプラント内に存在する。一方、インプラントが分解した領域にはコラーゲンだけが残されている(黒矢印)(マッソン3色染色、20倍、14日目)。
図7は、対照グループの崩壊した胞(長い黒矢印)内に沈着した線状コラーゲン(白矢印)を示す。この写真には強膜が見える。右上隅に10−0ナイロン(直径20〜30μm、短い黒矢印)が見える(マッソン3色染色、21日目)。
図8は、移植したグループの顕著な胞(長い黒矢印)内に沈着したランダムなコラーゲン(白矢印)を示す(長い黒矢印で示された深さは短い黒矢印で示された10−0ナイロンの直径の16倍である)。この写真には強膜は写っていない。右上隅に10−0ナイロン(直径20〜30μm、黒矢印)が見える(マッソン3色染色、21日目)。
図9は、スカフォルド移植前の形態学的評価を示す。
図10は、スカフォルド移植前の形態学的評価を示す。
図11は、抗圧縮圧力とPBSに浸したコラーゲン基質の歪みとの関係を示す。この圧力は0.32KPaまで歪みに比例して上昇した。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】コラーゲン・グリコサミノグリカンの濃度が異なるスカフォルドの静圧の変化を示す。
【図2】雌ニュージーランド・アルビノウサギにスカフォルドを移植後の形態学的評価を示す。(a)(c)(e)(g)は移植したグループの結果を、(b)(d)(f)(h)は偽手術を行ったグループの結果を示す。
【図3】スカフォルド移植後の眼内圧の変化を示す。
【図4】コラーゲン基質の電子顕微鏡像を示す。
【図5】結膜下腔内の細胞(白矢印)が表面に集まった完全な状態のインプラントを示す。その核が茶色に染色されている(マッソン3色染色、20倍、7日目)。
【図6】顕著な胞内の部分的に分解したインプラント(白矢印)を示す。細胞群がこのインプラント内に存在する。一方、インプラントが分解した領域にはコラーゲンだけが残されている(黒矢印)(マッソン3色染色、20倍、14日目)。
【図7】対照グループの崩壊した胞(長い黒矢印)内に沈着した線状コラーゲン(白矢印)を示す。この写真には強膜が見える。右上隅に10−0ナイロン(直径20〜30μm、短い黒矢印)が見える(マッソン3色染色、21日目)。
【図8】移植したグループの顕著な胞(長い黒矢印)内に沈着したランダムなコラーゲン(白矢印)を示す(長い黒矢印で示された深さは短い黒矢印で示された10−0ナイロンの直径の16倍である)。この写真には強膜は写っていない。右上隅に10−0ナイロン(直径20〜30μm、黒矢印)が見える(マッソン3色染色、21日目)。
【図9】スカフォルド移植前の形態学的評価を示す。
【図10】スカフォルド移植前の形態学的評価を示す。
【図11】抗圧縮圧力とPBSに浸したコラーゲン基質の歪みとの関係を示す。この圧力は0.32KPaまで歪みに比例して上昇した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生理食塩水で飽和後の約0.5mmHg〜約5.5mmHgの静圧と、
生理食塩水で飽和後の約0.5KPa〜約2KPaの剛性と
を生成する濃度で2つ以上の共重合体を含むスカフォルド。
【請求項2】
前記飽和後の静圧は、約1.75mmHg〜約3.5mmHgである請求項1に記載のスカフォルド。
【請求項3】
1KPa〜1.6KPaの剛性を有する請求項1に記載のスカフォルド。
【請求項4】
1KPa〜1.6KPaの剛性を有する請求項2に記載のスカフォルド。
【請求項5】
0.5KPa〜2KPaの剛性を有する請求項1に記載のスカフォルド。
【請求項6】
0.5KPa〜2KPaの剛性を有する請求項2に記載のスカフォルド。
【請求項7】
前記2つ以上の共重合体は、コラーゲンまたはゼラチンを含む請求項1に記載のスカフォルド。
【請求項8】
前記2つ以上の共重合体は、コンドロイチン6硫酸、コンドロイチン4硫酸、ヘパリン、ヘパラン硫酸、ケラタン硫酸、デルマタン硫酸、キチン、キトサン、及びこれらの混合物から成るグループから選択されたグリコサミノグリカンを含む請求項1に記載のスカフォルド。
【請求項9】
前記共重合体のうちの1つは、I型コラーゲンである請求項1に記載のスカフォルド。
【請求項10】
約10μm〜約300μmの孔サイズを有する請求項1に記載のスカフォルド。
【請求項11】
請求項1に記載のスカフォルドを備えるキット。
【請求項12】
コラーゲンとグリコサミノグリカンとを含むスカフォルドであって、
約1mmHg〜約4mmHgの飽和後静圧を有するスカフォルド。
【請求項13】
請求項12に記載のスカフォルドを備えるキット。
【請求項14】
コラーゲンとグリコサミノグリカンとを含むスカフォルドであって、
約10μm〜約300μmの孔サイズを有するスカフォルド。
【請求項15】
前記孔サイズは約20μm〜約200μmである請求項14に記載のスカフォルド。
【請求項16】
請求項15に記載のスカフォルドを備えるキット。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−296026(P2008−296026A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−142801(P2008−142801)
【出願日】平成20年5月30日(2008.5.30)
【出願人】(508161182)生立生物科技股▲分▼有限公司 (1)
【Fターム(参考)】