説明

眼内薬物送達システム

眼領域または部位における埋め込みのための大きさにされ、かつそれに好適な、生分解性インプラントおよび眼症状の治療法。ミクロスフェアのようなインプラントは、10日〜1年またはそれ以上の期間にわたって、治療有効量における活性剤の長期間放出を与える。活性剤は、エストラジオール、例えば2-メトキシエストラジオール、またはα2アドレナリン作用薬、例えばブリモニジンおよびその誘導体、またはプロスタグランジン類似体から選択される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼症状を治療するための薬物送達システムおよび方法に関する。本発明は、特に、治療薬および生侵食性(bioerodible)ポリマーを含んで成る持続放出薬物送達システムを、眼の領域または部位に投与することによって、眼症状を治療するシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
眼症状は、眼、または眼の部分もしくは領域の1つを冒すかまたはそれに係わる疾患、病気または症状を包含しうる。一般的に言えば、眼は、眼球、および眼球を構成する組織および液体、眼周囲筋(例えば、斜筋および直筋)、ならびに眼球内にまたは眼球に近接して存在する視神経の部分を包含する。前眼症状は、眼の領域または部位、例えば、水晶体包の後壁もしくは毛様体筋の前方に位置する眼周囲筋、眼瞼、または眼球の組織もしくは液体を、冒すかまたはそれに係わる疾患、病気または症状である。従って、前眼症状は、結膜、角膜、結膜、前房、虹彩、後房(虹彩の後ろであるが、水晶体包の後壁の前)、水晶体および水晶体包、ならびに前眼領域または部位を血管化するか、維持するかまたは神経支配する血管、リンパ管および神経を、主に冒すかまたはそれらに係わる。
【0003】
前眼症状は、例えば、以下の疾患、病気または症状を包含しうる:無水晶体症;偽水晶体;乱視;眼瞼痙攣;白内障;結膜疾患;結膜炎;角膜疾患;角膜潰瘍;眼乾燥症候群;眼瞼疾患;涙器疾患;涙管閉塞症;近視;老眼;瞳孔障害;屈折障害および斜視。緑内障は、前眼症状と考えることができる。なぜなら、緑内障治療の臨床目的が、眼の前房における水性液の高圧を減少させる(即ち、眼内圧を減少させる)ことでありうるからである。
【0004】
後眼(眼の後方)症状は、後眼領域または部位、例えば、脈絡膜または強膜(水晶体包の後壁面の後方位置にある)、硝子体、硝子体房、網膜、視神経(即ち、視神経円板)、ならびに後眼領域または部位を血管化するかまたは神経支配する血管および神経を、主に冒すかまたはそれらに係わる疾患、病気または症状である。
【0005】
即ち、後眼症状は、例えば、以下の疾患、病気または症状を包含しうる:黄斑変性(例えば、非滲出性加齢性黄斑変性および滲出性加齢性黄斑変性);脈絡膜新生血管形成;急性黄斑視神経網膜症;黄斑水腫(例えば、類嚢胞黄斑水腫および糖尿病性黄斑水腫);ベーチェット病、網膜障害、糖尿病性網膜症(増殖性糖尿病性網膜症を含む);網膜動脈閉塞症;網膜中心静脈閉塞;ブドウ膜炎網膜疾患;網膜剥離;後眼部位または位置を冒す眼外傷;眼レーザー治療によって生じたまたは影響を受けた後眼症状;光ダイナミック療法によって生じたまたは影響を受けた後眼症状;光凝固;放射線性網膜症;網膜上膜障害;網膜分岐静脈閉塞症;前部虚血性視神経障害;非網膜症糖尿病性網膜機能不全、網膜色素変性および緑内障。緑内障は後眼症状と考えることもできる。なぜなら、緑内障治療の治療目的が、網膜細胞または視神経細胞の損傷または損失による視力低下を予防するかまたは視力低下の発生を減少させること(即ち、神経保護)でありうるからである。
【0006】
黄斑、例えば加齢性黄斑変性(「AMD」)は、世界における失明の主要原因である。1300万人のアメリカ人が、黄斑変性の徴候を有していると推定される。黄斑変性は、網膜黄斑、読んだり運転したりするのに必要とされる鮮明、直接視に関与している網膜の光感受性部位の、破壊を生じる。中心視力が、特に影響を受ける。黄斑変性は、乾性(委縮性)または湿性(滲出性)として診断される。黄斑変性の乾性形態は、黄斑変性の湿性形態より一般的であり、AMD患者の約90%が乾性AMDと診断される。該疾患の湿性形態は、一般に、より深刻な視力低下を生じる。黄斑変性は、ゆっくりした、または突然の、痛みのない視力低下を生じうる。黄斑変性の原因は明らかでない。AMDの乾性形態は、黄斑組織の老化および菲薄化(thinning)、黄斑における色素沈着、またはそれら2つの過程の組合せによって生じうる。湿性AMDの場合、新しい血管が網膜の下に成長し、血液および液体を漏出させる。この漏出は、網膜細胞を死滅させ、中心視力に盲点を生じる。
【0007】
黄斑水腫(「ME」)は、黄斑の腫脹を生じうる。水腫は、網膜血管からの液体漏出によって生じる。血液が、弱い血管壁から漏出して、錐体(色を感知し、日中の視野が依存する神経終末)に富む黄斑の極めて狭い領域に入る。次に、不鮮明化が、中心視野の中央またはそのすぐ横に生じる。視力低下が、数カ月間で進行しうる。網膜血管閉塞、眼炎症および加齢性黄斑変性は全て、黄斑水腫と関連付けられている。黄斑は、白内障摘出後の腫脹によっても影響を受けうる。MEの症候は、ぼやけた中心視覚、歪んだ視覚、ピンク視(vision tinted pink)および光感受性を包含する。MEの原因は、下記を包含する:網膜静脈閉塞、黄斑変性、糖尿病性黄斑漏出、眼炎症、突発性中心性漿液性網脈絡膜症、前部または後部ブドウ膜炎、扁平部炎、網膜色素変性、放射線性網膜症、後部硝子体剥離、網膜上膜形成、突発性傍中心窩網膜毛細血管拡張症、Nd:YAG嚢切開または虹彩切開。MEを有する患者の中には、緑内障用の局所エピネフリンまたはプロスタグランジン類似体の使用歴を有する者もある。MEの第一線治療は、一般に、局所適用される抗炎症滴剤である。
【0008】
糖尿病性網膜症は、20〜74才の成人における失明の主要原因である。黄斑虚血は、糖尿病性網膜症の患者における、不可逆性視力低下および減少したコントラスト感度の主要原因である。この虚血に関与している毛細血管非灌流および減少した毛細血管血流が、蛍光眼底血管造影図において、中心窩無血管区域(FAZ)の増加またはFAZの輪郭の不規則性として臨床的に見られる。これらの所見は、他の、おそらくはより周知の、視覚をおびやかす糖尿病性網膜症の合併症(黄斑水腫および増殖性網膜症を包含する)を予測するものである。おそらくより重大なことに、広範囲毛細血管非灌流は、糖尿病性網膜症からの低視覚予後も予測するものである。
【0009】
黄斑水腫および増殖性網膜症のために使用可能であるかまたは開発中の治療法、例えば、レーザー光凝固、硝子体内コルチコステロイドおよび抗-VEGF療法が存在する。レーザー光凝固が、黄斑虚血に直接的に関連した視力低下に関して研究されているが、現在、この適応症(indication)について既知の治療法が存在しない。
【0010】
正常眼球の哺乳動物の眼の外面は、結膜上皮として知られている組織層を有し、その下に、テノン筋膜と呼ばれる(結膜支質とも呼ばれる)組織層がある。眼球を超えて後方へ伸長するテノン筋膜の広がりは、テノン嚢として知られている筋膜鞘を形成している。テノン筋膜の下に、上強膜がある。集合的に、結膜上皮およびテノン筋膜は、結膜と称される。認識されるように、テノン筋膜の下に上強膜があり、その下に強膜があり、その次に脈絡膜がある。大部分のリンパ管およびそれに関連した排液系(それに近接して配置された治療薬の除去に極めて有効である)は、眼の結膜に存在する。
【0011】
眼の症状を治療するために、治療薬を眼に投与することができる。例えば、緑内障に特徴的な高眼圧を治療するための、降圧薬の標的組織は、毛様体および/または小柱網でありうる。残念なことに、点眼剤の形態の眼用局所降圧薬の投与は、それが毛様体および/または小柱網標的組織に到達する前に、全てではないにしても大部分の治療薬の急速な流失を生じ、それにより、高眼圧症状を有効に治療するために頻繁な再投薬を必要とする。さらに、抗緑内障薬およびその防腐剤の局所投与による患者への副作用は、眼の不快感から、視覚をおびやかす眼表面の変化(結膜充血(眼の赤味)、刺痛、減少した涙産生および機能、減少した涙液膜安定性、表存性点状角膜炎、扁平上皮細胞化生、および細胞形態の変化を包含する)に及ぶ。これらの局所抗緑内障点眼薬の有害作用は、患者の投薬遵守を妨げることによって緑内障の治療を妨げ、さらに、点眼薬での長期治療は、濾過手術のより高い不成功率(a higher failure of filtration surgery)に関係している。Asbell P.A.ら、Effects of topical antiglaucoma medications on the ocular surface, Ocul Surf 2005 Jan;3(1):27-40;Mueller M.ら、Tear film break up time and Schirmer test after different antiglaucomatous medications, Invest Ophthalmol Vis Sci 2000 Mar 15;41(4):S283。
【0012】
後部(即ち、黄斑に近い)テノン腔下にデポー剤を投与することは知られている。例えば、米国特許第6413245号、第4欄参照。さらに、テノン腔下または脈絡膜上の位置に、ポリ乳酸インプラントを投与することも知られている。例えば、米国特許第5264188号、および米国特許出願公開第20050244463号参照。
【0013】
抗炎症(即ち、免疫抑制)薬を、眼症状、例えば後眼症状(炎症、例えば、ブドウ膜炎または黄斑水腫を包含する)の治療に使用することができる。従って、局所または経口グルココルチコイドが、ブドウ膜炎の治療に使用されている。局所および経口薬剤投与に関する重大な問題は、薬剤が適切な(即ち、治療的)眼内濃度を達成できないことである。例えば下記参照:Bloch-Michel E.(1992).Opening address:intermediate uveitis, In Intermediate Uveitis, Dev. Ophthalmol, W.R.F. Boekeら編、Basel:Karger, 23:1-2;Pinar, V.ら(1997). Intraocular inflammation and uveitis, In Basic and Clinical Science Course. Section 9(1997-1998) San Francisco:American Academy of Ophthalmology, p.57-80, 102-103, 152-156;Boeke, W.(1992). Clinical picture of intermediate uveitis, In Intermediate Uveitis, Dev. Ophthalmol. W.R.F. Boekeら編、Basel:Karger, 23:20-7;およびCheng C-Kら(1995), Intravitreal sustained-release dexamethasone device in the treatment of experimental uveitis, Invest. Ophthalmol. Vis. Sci. 36:442-53。
【0014】
全身グルココルチコイド投与は、ブドウ膜炎の治療ために、単独で、または局所グルココルチコイドに加えて、使用することができる。しかし、ステロイドの高血漿濃度への長期間暴露(2〜3週間にわたって1mg/kg/日の投与)が、眼における治療レベルを達成するのに必要とされることが多い。
【0015】
残念なことに、これらの高薬剤血漿レベルは、一般に、全身性副作用、例えば、高血圧、高血糖、感染に対する感受性の増加、消化性潰瘍、精神病、および他の合併症を生じる。Cheng C-Kら(1995)、Intravitreal sustained-release dexamethasone device in the treatment of experimental uveitis, Invest. Ophthalmol. Vis. Sic. 36:442-53;Schwartz, B., (1966) The response of ocular pressure to corticosteroids, Ophthalmol. Clin. North Am. 6:929-89;Skalka, H.W.ら(1980), Effect of corticosteroids on cataract formation, Arch Ophthalmol 98:1773-7;およびRenfro, L.ら(1992), Ocular effects of topical and systemic steroids, Dermatologic Clinics 10:505-12。
【0016】
さらに、短い血漿半減期を有する薬剤について、薬剤の眼内組織への暴露が限定されるので、治療量の活性剤の眼への送達が不可能でないにしても困難になりうる。従って、後眼症状を治療するために薬剤を送達するより有効な方法は、薬剤を、眼に直接的に、例えば硝子体に直接的に、配置することである。Maurice, D.M.(1983) Micropharmaceutics of the eye, Ocular Inflammation Ther. 1:97-102;Lee, V.H.L.ら(1989), Drug delivery to the posterior segment, Chapter 25 In Retina. T.E.OgdenおよびA.P.Schachat編、St. Louis:CV Mosby, Vol. 1, p.483-98;およびOlsen, T.W.ら(1995), Human scleral permeability:effets of age, cryotherapy, transscleral diode laser, and surgical thinning, Invest. Ophthalmol. Vis. Sci. 36:1893-1903。
【0017】
薬剤の硝子体内注射のような技術は、有望な結果を示しているが、活性剤、例えばグルココルチコイドの、短い眼内半減期(約3時間)により、硝子体内注射は、多くの場合、治療薬レベルを維持するために繰り返す必要があることが多い。さらに、この反復方法は、副作用、例えば、網膜剥離、眼内炎および白内障の可能性を増加させる。Maurice, D.M.(1983), Micropharmaceutics of the eye, Ocular Inflammation Ther. 1:97-102;Olsen, T.W.ら(1995), Human scleral permeability:effects of age, cryotherapy, transscleral diode laser, and surgical thinning, Invest. Ophthamol. Vis. Sci. 36:1893-1903;ならびに、Kwak, H.WおよびD'Amico,D.J.(1992), Evaluation of the retinal toxicity and pharmacokinetics of dexamethasone after intravitreal injection, Arch. Ophthalmol. 110:259-66。
【0018】
さらに、局所、全身および眼周囲グルココルチコイド療法は、毒性、および慢性的全身薬剤暴露続発症に関連した長期副作用により、注意深く監視する必要がある。Rao, N.A.ら(1997), Intraocular inflammation and uveitis, In Basic and Clinical Science Course, Section 9(1997-1998)San Francisco:American Academy of Ophthalmology, p.57-80, 102-103, 152-156;Schwartz, B.(1966), The response of ocular pressure to corticosteroids, Ophthalmol Clin North Am 6:929-89;Skalka, H.W.およびPichal, J.T.(1980), Effect of corticosteroids on cataract formation, Arch Ophthalmol 98:1773-7;Renfro, LおよびSnow, J.S.(1992), Ocular effects of topical and systemic steroids, Dermatologic Clinics 10:505-12;Bodor, N.ら(1992), A comparison of intraocular pressure elevating activity of loteprednol etabonate and dexamethasone in rabbits, Current Eye Research 11:525-30。
【0019】
硝子体内または強膜上に配置される既知の薬物送達システムは、一般に、強膜の所定位置に縫合されるか、または該システムを所定位置に保持するために何らかの付着手段を有し、それによって、眼の通常の頻繁な動きによって該システムが押出されるかまたはそうでなければ元位置から移動するのを防いでいる。押出によって、薬物送達システムが、結膜を侵食し、失われうる。薬物送達システムのその投与位置からの移動は、標的組織に到達した治療薬の最適以下の量または過剰量の、望ましくない作用を有しうる。
【0020】
眼内薬物送達システムは、生分解性ポリマー、例えば、ポリ(ラクチド)(PLA)ポリマー、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)(PLGA)ポリマー、ならびにPLAおよびPLGAポリマーのコポリマーから製造しうる。PLAおよびPLGAポリマーは加水分解によって分解し、分解生成物、乳酸およびグリコール酸は、二酸化炭素および水に代謝される。特定のPLAおよびPLGA生分解性ポリマーの一般的特性を、表1に示す。
【表1】

【0021】
薬物送達システムは、種々の活性剤と共に配合されている。例えば、眼内使用を意図した2-メトキシエストラジオールポリ乳酸ポリマーインプラント(ロッドおよびウエハとして)を、溶融押出法によって製造することが知られている。例えば、米国特許出願公開第20050244471号を参照。さらに、眼内使用を意図したブリモニジンポリ乳酸ポリマーインプラントおよびミクロスフェアを製造することも知られている。例えば、米国特許出願公開第20050244463号および第20050244506号、および米国特許出願第11/395019号を参照。さらに、眼内使用を意図したビマトプロスト含有ポリ乳酸ポリマーインプラントおよびミクロスフェアを製造することも知られている。例えば、米国特許出願公開第20050244464号および第20060182781号、および米国特許出願第11/303462号および第11/371118号参照。
【0022】
ブリモニジンは、眼房水産生を減少させ、ブドウ膜強膜流出を増加させることによって、開放隅角緑内障を治療するために使用されるα2B-選択性アドレナリン作用薬である。酒石酸ブリモニジンの化学構造は、以下の通りである:
【化1】

【0023】
酒石酸ブリモニジンの化学式は、5-ブロモ-6-(2-イミダゾリジニリデンアミノ)キノキサリン タータレートC15H16N5O6Brまたは(C11H10BrN5.C4H6O6)である。
【0024】
酒石酸ブリモニジンは、眼用溶液において、0.2%、0.15%および0.1%の濃度で使用されている。ブリモニジンは網膜細胞において神経保護作用を有しうることが示唆されている。例えば、米国特許第5856329号、第6194415号、第6248741号および第6465464号参照。
【0025】
米国特許第6217895号は、眼の後区にコルチコステロイドを投与する方法を記載しているが、生侵食性インプラントは開示していない。米国特許第5501856号は、網膜/硝子体の障害または緑内障の手術後に、眼の中に適用される眼内インプラント用の制御放出医薬調製物を開示している。米国特許第5869079号は、生分解性持続放出インプラントにおける親水性および疎水性要素(entities)の組合せを開示し、デキサメタゾンを含んで成るポリ乳酸ポリグリコール酸(PLGA)コポリマーインプラントを記載している。薬剤放出動態の生体外試験によって示されているように、HPMCのような放出促進剤を配合物に添加していなければ、開示されている100〜120μg 50/50 PLGA/デキサメタゾンインプラントは、第四週の始めまで、認めうる薬剤放出を示さなかった。
【0026】
米国特許第5824072号は、眼の脈絡膜上腔または無血管領域に導入するためのインプラントを開示し、デキサメタゾンを含んで成るメチルセルロース(即ち、非生分解性)インプラントを記載している。WO 9513765号は、治療目的で、眼の脈絡膜上または無血管領域に導入するための、活性剤を含んで成るインプラントを開示している。米国特許第4997652号および第5164188号は、マイクロカプセル封入薬剤を含んで成る生分解性眼インプラント開示し、琥珀酸ヒドロコルチゾンを含んで成るマイクロカプセルを眼の後区に埋め込むことを記載している。
【0027】
米国特許第5164188号は、眼の脈絡膜上に導入するためのカプセル封入剤を開示し、ヒドロコルチゾンを含んで成るマイクロカプセルおよびプラック(plaques)を毛様体輪に配置することを記載している。米国特許第5443505号および第5766242号は、眼の脈絡膜上腔または無血管領域に導入するための、活性剤を含んで成るインプラントを開示し、ヒドロコルチゾンを含んで成るマイクロカプセルおよびプラックを毛様体輪に配置することを記載している。
【0028】
Zhouらは、増殖性硝子体網膜症(PVR)の眼内管理のための、5-フルオロウリジン、トリアムシノロン、ヒト組換え組織プラスミノゲン活性化因子を含んで成る多剤インプラントを開示している。Zhou, Tら(1998), Development of multiple-drug delivery implant for intraocular management of proliferative vitreoretinopathy, Journal of Controlled Release 55:281-295。
【0029】
米国特許第6046187号は、患者のある部位における局所麻酔薬の投与の前、同時または後に、1つまたはそれ以上のグルココルチコステロイド薬を投与することによって、局所麻酔を調節する方法および組成物を記載している。米国特許第3986510号は、眼球の強膜の眼球結膜および眼瞼の眼瞼結膜の表面によって境界付けられるものとして示される眼嚢における挿入および保持、または眼の角膜部分への配置に適合した形の、生侵食性薬剤放出速度調節物質内に閉じ込められた薬剤配合物の1つまたはそれ以上の内部レザバーを有する眼挿入物を記載している。
【0030】
米国特許第6369116号は、強膜弁に挿入される放出調節剤を有するインプラントを記載している。EP 0654256は、切開部を塞ぐための、硝子体手術後の強膜栓の使用を記載している。米国特許第4863457号は、結膜下領域(その上にある結膜と、その下にある強膜の間)中か、または中間層強膜弁(partial thickness sclera flap)内の強膜自体の中に、インプラントを配置することによる、緑内障濾過手術(filtration surgery)の失敗を防ぐための生侵食性インプラントの使用を記載している。
【0031】
EP 488401は、網膜/硝子体の障害または緑内障の手術後に、眼の中に適用するための、特定ポリ乳酸から製造された眼内インプラントを記載している。EP 430539は、脈絡膜上に挿入される生侵食性インプラントの使用を記載している。
【0032】
所定位置に縫合または固定される眼内薬物送達システムは、知られている。縫合または他の固定手段は、薬物送達システム内または上に治療薬を含有するため、または治療薬が生体内で放出しうるようにするために必要でない薬物送達システムに、感受性眼組織を接触させる必要がある。そのような縫合または眼固定手段は、単に周辺的または補助的価値しか意味せず、それらの使用は、治癒時間、患者の不快感、および感染または他の合併症のリスクを増加しうる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0033】
従って、眼内薬物送達システムを所定位置に縫合または固定せず、眼表面充血または他の有害副作用をほとんど又は全く示さずに、有効量の治療薬を所望眼内標的組織に与える、眼症状治療用の持続放出眼内薬物送達システムが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0034】
本発明は、これらおよび他の要求を満たし、薬物送達システムの眼内投与が眼表面充血をほとんど又は全く生じず、治療有効量の治療薬の持続放出を与えることができる、眼症状治療用の薬物送達システムを提供する。
【0035】
定義
以下の用語は、以下の意味を有するものと定義される。
【0036】
「約」は、およそまたはほぼを意味し、本明細書に示されている数値または範囲に関して、記載または特許請求されている数値の±10%を意味する。
【0037】
「活性剤」、「薬剤」および「治療薬」は、本明細書において同義的に使用され、眼症状を治療するために使用される物質を意味する。
【0038】
高眼圧症状治療用の薬物送達システムの投与部位に関する「前眼内位置」は、テノン下、脈絡膜上、強膜内、強膜上、および角膜輪部から眼の表面の湾曲に沿って約10mm未満(好ましくは約8mm未満)に位置する他の眼内位置を意味する。
【0039】
薬物送達システムに関する「生物適合性」は、下記のことを意味する:薬物送達システムの哺乳動物の眼への眼内投与の際に、薬物送達システムが投与された眼表面およびその付近に充血が観察されないか、または薬物送達システムが投与された眼表面およびその付近に観察された充血が、薬物送達システムの眼内投与から10日以内に正常または高正常(hi normal)眼表面充血評点であることが観察され、かつ、薬物送達システムが眼内位置において原位置に留まっている残り期間にわたって、眼表面充血が正常または高正常評点の眼表面充血を維持している。観察された眼表面充血は、表2のOSH評点法を使用して判定することができる。
【0040】
「生侵食性ポリマー」は、生体内で分解するポリマーを意味する。生侵食性ポリマーを含有する薬物送達システムは、下記の薬剤放出の三相パターンを有しうる:表面結合薬剤からの初期バースト;拡散放出からの第二相:および、ポリマーマトリックスの分解による放出。このように、時間経過に伴うポリマーの侵食が、全部の活性剤を放出するのに必要とされる。従って、ポリマー膨潤によって薬剤を放出する作用をするメチルセルロースのようなヒドロゲルは、「生侵食性(または生分解性)ポリマー」という用語から明確に除外される。「生侵食性」および「生分解性」という単語は同義語であり、本明細書において互換的に使用される。
【0041】
「累積放出プロフィール」は、インプラントから、生体内で時間経過と共に眼領域または部位に、または生体外で時間経過と共に特定の放出媒質(release medium)に、放出された活性剤の累積合計パーセントを意味する。
【0042】
「薬物送達システム」は、薬物送達システムの生体内投与後に、治療量の治療薬を放出することができる物理的装置を意味する。薬物送達システムは、インプラント(例えばロッド、シリンダー、フィラメント、ファイバー、ディスクまたはウエハとして構成することができる)、またはミクロスフェアの集合体であってよい。
【0043】
「緑内障」は、原発性、続発性および/または先天性緑内障を意味する。原発性緑内障は、開放隅角および閉塞隅角緑内障を包含しうる。続発性緑内障は、種々の他の症状、例えば、傷害、炎症、血管疾患および糖尿病の、合併症として生じうる。
【0044】
眼症状に関する「炎症媒介」は、抗炎症薬での治療が有効となりうる任意の眼症状を意味し、以下の眼症状を包含するが、それらに限定されない:ブドウ膜炎、黄斑水腫、急性黄斑変性、網膜剥離、眼腫瘍、真菌またはウイルス感染、多病巣性脈絡膜炎、糖尿病性ブドウ膜炎、増殖性硝子体網膜症(PVR)、交換性眼炎、フォークト・小柳・原田(VKH)症候群、ヒストプラスマ症、およびブドウ膜拡散(uveal diffusion)。
【0045】
「傷害」または「損傷」は置き換え可能であり、例えば炎症のような、炎症媒介症状から生じる細胞性および形態学的症状発現および症候を意味する。
【0046】
「眼内」は、眼組織の中または下を意味する。薬物送達システムの眼内投与は、テノン下、結膜下、脈絡膜上、硝子体内などの位置への薬物送達システムの投与を包含する。薬物送達システムの眼内投与は、局所、全身、筋肉内、皮下、腹腔内などの位置への薬物送達システムの投与を除外する。
【0047】
「生体外で無限降下条件下に測定」は、生体外での薬剤放出を測定するアッセイを意味し、これにおいて、実験は、受容媒質中の薬剤濃度が、飽和の5%を超えないように設計される。好適なアッセイの例は、例えば、USP23; NF18 (1995) p.1790-1798に見出しうる。
【0048】
「眼症状」は、例えば網膜疾患のような、眼、または眼の部分もしくは領域の1つを冒すかまたはそれに係わる疾患、病気または症状を意味する。眼は、眼球、および眼球を構成する組織および液体、眼周囲筋(例えば、斜筋および直筋)、ならびに眼球内にまたは近接に存在する視神経の部分を包含する。
【0049】
「複数」は、2つまたはそれ以上を意味する。
【0050】
「後眼症状」は、後眼領域または部位、例えば、脈絡膜または強膜(水晶体包の後壁面の後方位置にある)、硝子体、硝子体房、網膜、視神経(即ち、視神経円板)、ならびに後眼領域または部位を血管化するかまたは神経支配する血管および神経を、冒すかまたはそれらに係わる疾患、病気または症状を意味する。
【0051】
「ステロイド性抗炎症薬」および「グルココルチコイド」は、本明細書において置き換え可能に使用され、治療有効レベルで投与した場合に炎症を減少させるステロイド性物質、化合物または薬剤を包含することを意味する。
【0052】
生侵食性インプラントからの活性剤放出速度の「実質的に連続的な速度」という語句におけるような、インプラントからの活性剤の放出プロフィールまたは放出特性に関する「実質的に」は、放出速度(即ち、放出される活性剤の量/時間単位)が、選択された期間(即ち、日数)にわたって、100%より大で変化しない、より好ましくは50%より大で変化しないことを意味する。「実質的に均質に分散し」という語句におけるような、ポリマー中の活性剤のブレンディング、混合または分散に関する「実質的に」は、そのような均質分散において活性剤の粒子(即ち、集合体)が存在しないかまたはほとんど存在しないことを意味する。
【0053】
インプラントに関して、「眼領域または部位における(または、それへの)挿入(または、埋め込み)に好適な」は、過度の組織損傷を生じず、かつインプラントが埋め込まれるかまたは挿入される患者の現在の視力を不当に物理的に損なうことなく、挿入または埋め込まれうるような大きさ(寸法)を有するインプラントを意味する。
【0054】
「持続期間」または「持続放出」におけるような「持続」は、30日より長い期間、好ましくは少なくとも20日間(即ち、20日〜365日間)、最も好ましくは少なくとも30日間を意味する。持続放出は、1年またはそれ以上にわたって持続しうる。
【0055】
「治療レベル」または「治療量」は、眼症状の徴候を減少または予防するために眼症状を安全に治療するのに適切な、眼領域に局所的に送達される活性剤の量または濃度を意味する。
【0056】
本発明による生侵食性インプラントは、異なる放出特性をそれぞれ有する2つまたはそれ以上の異なる生侵食性ポリマーを使用して製造することができる。1つの変化形において、第一量の薬剤または活性剤を、第一ポリマーとブレンドし、得られた材料を押出し、次に、粒子に砕き、次に、該粒子を追加量の薬剤または活性剤および同じかまたは第二のポリマーとブレンドして、押出、射出成形または直接圧縮によって、最終生侵食性インプラントを形成する。得られたインプラントは、最初にポリマーをブレンドすることによって形成されたインプラントと異なる放出プロフィールを有し、各レベルでの活性剤の連続的または実質的に連続的な放出を与える。
【0057】
よりさらなる変化形において、活性剤を第一および第二生侵食性ポリマーと別々にブレンドして、第一および第二薬剤ポリマー混合物を形成することができ、該混合物を同時押出して、異なる放出特性を有する第一および第二領域を有するインプラントを製造することができる。得られたインプラントは、2つのポリマーを最初にブレンドすることによって形成されたインプラントと異なる放出プロフィールを有し、薬剤の連続放出を与える。インプラントは、1つまたはそれ以上の活性剤を含有しうる。さらに、インプラント中の2つの活性剤は、互いに共有結合してプロドラッグを形成することができ、インプラントからの放出時に、2つの別々の活性剤に解離する。さらに、インプラントは、例えば、生体内埋め込み後すぐに放出されるメトセル(高溶解性を有するポリマー)のポリマーマトリックスへの添加によって、インプラントのポリマーマトリックス中に急速気孔形成剤を含んで成ることができる。気孔形成添加剤は、ポリマーマトリックス中に気孔を形成する作用をすることができ、それによって薬剤放出の全ての相を増加させ、放出速度を個別調整するのに使用することができる。
【0058】
本発明は、眼症状を治療する薬物送達システムを包含し、該薬物送達システムは、(a)眼領域または部位への挿入に好適な少なくとも1つの生侵食性インプラント、を含んで成ることができ、該生侵食性インプラントは (i)活性剤および(ii)生侵食性ポリマーを含んで成り、該生侵食性インプラントは、治療レベルの活性剤を、眼領域または部位に、約30日〜約1年間にわたって放出することができる。好ましくは、生侵食性インプラントは、生体内で、治療レベルの活性剤を眼領域または部位に、実質的に連続的な速度で放出することができる。より好ましくは、生侵食性インプラントは、硝子体への埋め込み時、約50日〜約1年間にわたって、治療レベルの活性剤を、眼領域または部位に、実質的に連続的な速度で放出することができる。活性剤は、抗炎症薬であることができる。生侵食性ポリマーは、PLGAコポリマーであることができる。
【0059】
生侵食性インプラントは、約1μg〜約100mgの重さを有し、約0.1mm未満の寸法を有さず、約20mmより大きい寸法を有さない。
【0060】
本発明の範囲に含まれる薬物送達システムは、複数の生侵食性インプランを含んで成ることができる。活性剤は、生侵食性ポリマーに実質的に均質に分散させることができるか、または活性剤は、活性剤および生侵食性ポリマーの粒子の形態において、生侵食性ポリマーと会合させることができる。
【0061】
好ましい実施形態において、薬物送達システムは、下記を含んで成ることができる:(a)生侵食性ポリマーの部分に実質的に均質に分散された活性剤の部分;および(b)活性剤および生侵食性ポリマーの粒子の形態において、同じかまたは異なる生侵食性ポリマーの部分と会合した、同じかまたは異なる活性剤の部分。
【0062】
さらなる実施形態において、薬物送達システムは、(a)眼領域または部位への挿入に好適な生侵食性インプラントを含んで成ることができ、該生侵食性インプラントは (i)活性剤および(ii)生侵食性ポリマーを含んで成り、該生侵食性インプラントは、後眼領域または部位への挿入時に、治療レベルの活性剤を、少なくとも約40日間にわたって放出することができる。
【0063】
さらに、薬物送達システムは、(a)後眼領域または部位に埋め込み可能な複数の生侵食性インプラント、を含んで成ることができ、各インプラントは (i)活性剤および(ii)生侵食性ポリマーを含んで成り、該複数の生侵食性インプラントは、生体内で、治療レベルの活性剤を、約5日〜約1年間にわたって、実質的に連続的に放出することができる。この薬物送達システムは、(a)第一放出特性を有する第一インプラント、および(b)第二放出特性を有する第二インプラント、を含んで成ることができ、該第一および第二放出特性が異なる。薬物送達システムの放出プロフィールは、第一および第二放出プロフィールの総和に対応しうる。特に、この薬物送達システムは、(a)第一放出特性を有する第一インプラント、(b)第二放出特性を有する第二インプラント、および(c)第三放出特性を有する第三インプラント、を含んで成ることができる。そして、薬物送達システムの放出プロフィールは、第一、第二および第三放出プロフィールの総和に対応しうる。薬物送達システムは、異なる生侵食性ポリマーを有する少なくとも2つの異なるインプラントを含んで成ることができる。従って、薬物送達システムは、第一、第二および第三生侵食性インプラントを含んで成ることができ、第一インプラントは、第一平均分子量を有する第一ポリマーを含んで成り;第二インプラントは、第二平均分子量を有する第二ポリマーを含んで成り;第三インプラントは、第三平均分子量を有する第三ポリマーを含んで成る。
【0064】
本発明の特定実施形態は、(a)後眼領域に埋め込み可能な複数の生侵食性インプラント、を含んで成る眼症状の治療用の薬物送達システムであることができ、各インプラントは、(i)抗炎症薬および(ii)生侵食性ポリマーを含んで成り、該複数の生侵食性インプラントは、5日〜1年間にわたって実質的に連続的に薬剤を放出することができる。
【0065】
眼症状の治療用の長時間放出生侵食性インプラントを製造する好ましい方法は、(a)活性剤および第一生侵食性ポリマーをブレンドし、押出して、第一固体材料を形成し;(b)第一固体材料を粒子に砕き;(c)粒子を、活性剤および第二生侵食性ポリマーとブレンドし、押出(または、直接圧縮)し、それによって生侵食性インプラントを形成する、ことによって行うことができ、該生侵食性インプラントは、治療レベルの活性剤を、約50日〜約1年間にわたって、実質的に連続的な速度で放出することができる。
【0066】
別の実施形態において、眼症状の治療用の生侵食性インプラントは、(a)ステロイド性抗炎症薬および第一生侵食性ポリマーをブレンド(次に、押出、射出成形などを行う)して、第一固体材料を形成し;(b)該固体材料を粒子に砕き;(c)該粒子を、ステロイド性抗炎症薬および第二生侵食性ポリマーとブレンド(次に、押出、射出成形などを行う)して、生侵食性インプラントを形成する、ことによって製造することができ、該生侵食性インプラントは、治療レベルの活性剤を、約50日〜約1年間にわたって、実質的に連続的な速度で放出することができる。そのような生侵食性インプラントは、薬剤を実質的に連続的に放出することができる。
【0067】
眼症状の治療用の生侵食性インプラントは、(a)第一生侵食性ポリマーと共に分散された活性剤を含んで成る分散物、(b)活性剤および第二生侵食性ポリマーを含んで成る粒子、として形成することができ、該粒子は、該分散物の活性剤放出特性と異なる活性剤放出特性を有する。
【0068】
本発明による眼症状の治療法は、眼領域または部位に、前記の薬物放出システムを埋め込むことを含んで成ることができる。
【0069】
眼内位置、例えば前テノン下領域に投与するための眼内薬物送達システムに含有するのに特に有用な治療薬は、下記を包含する:降圧薬、例えば、酒石酸ブリモニジン、ブリモニジン遊離塩基、ラタノプロスト、ビマトプロストおよびその類似体、β遮断薬、炭酸脱水酵素阻害薬、およびプロスタグランジン受容体作用薬(EP2およびEP4 E-化合物を包含する)およびマレイン酸チモロール。さらに、薬物送達システムは、コルチコステロイド誘発高眼圧を減少させるのを助けるグルココルチコイド受容体遮断薬(例えばRU-486)、ならびに強膜を通る治療薬の移動を促進する作用をする(即ち、治療薬の拡散率を減少させることによる)賦形剤(特に、テノン下インプラントに有利)として、強膜浸透促進剤、例えばBAK、を含んで成ることができる。
【0070】
本発明の実施形態は、複数のミクロスフェア、およびミクロスフェア用の水性ビヒクルを含んで成る、生物適合性の注射可能な眼内薬物送達システムである。ミクロスフェアは、エストラジオールである治療薬、および1つまたはそれ以上の生分解性ポリマーから本質的に成ることができ、全ての該生分解性ポリマーがポリ乳酸(PLA)ポリマーである。この薬物送達システムは、薬物送達システムを18〜30ゲージまたは20〜28ゲージ注射針によって眼内位置に注射することを可能にする粘度を有しうる。この薬物送達システム中のエストラジオールは、2-メトキシエストラジオールであることができる。薬物送達システム中のエストラジオールは、ミクロスフェアの重量の約20wt%〜約50wt%を占めることができ、PLAポリマーは、ミクロスフェアの重量の約50wt%〜約80wt%を占める。PLAポリマーは、ポリ(D,L)ラクチドポリマーであることができる。さらに、PLAポリマーは、約1dL/gm〜約1.4dL/gmのインヘレント粘度を有しうる。さらに、この薬物送達システムのミクロスフェアは、約2ミクロン〜約6ミクロンの平均直径を有しうる。
【0071】
本発明の好ましい実施形態は、約2ミクロン〜約6ミクロンの平均直径を有する複数のミクロスフェア、およびミクロスフェア用の水性ビヒクルを含んで成る、生物適合性の注射可能な眼内薬物送達システムであり、該ミクロスフェアは、下記の物質から本質的に成り:(1)2-メトキシエストラジオールであって、ミクロスフェアの重量の約20wt%〜約50wt%を占める2-メトキシエストラジオール;および、(2)1つまたはそれ以上の生分解性ポリマーであって、全ての該生分解性ポリマーが約1dL/gm〜約1.4dl/gmのインヘレント粘度を有するポリ(D,L)ラクチドポリマーであり、該PLAポリマーがミクロスフェアの重量の約50wt%〜約80WT%を占める、1つまたはそれ以上の生分解性ポリマー;該薬物送達システムは、20〜26ゲージ注射針によって眼内位置に注射しうる。
【0072】
本発明は、眼症状を治療する方法も包含し、該方法は下記の工程を含んで成り:(a)複数のミクロスフェア、およびミクロスフェア用の水性ビヒクルを含んで成る生物適合性薬物送達システムを準備する工程であって、該ミクロスフェアが、エストラジオールである治療薬、および1つまたはそれ以上の生分解性ポリマーから本質的に成り、全ての該生分解性ポリマーがポリ乳酸(PLA)ポリマーである工程;および、(b)薬物送達システムを20〜26ゲージ注射針によって眼内位置に注射し、それによって眼症状を治療する工程;該方法は有意な眼表面充血を生じない。この方法において、眼内位置は、テノン下、結膜下または眼球後眼内位置であることができる。
【0073】
本発明の別の実施形態は、複数のミクロスフェア、およびミクロスフェア用の水性ビヒクルを含んで成る、生物適合性の注射可能な眼内薬物送達システムであり、該ミクロスフェアは、下記の物質から本質的に成り:(1)α2-アドレナリン作用薬である治療薬;および、(2)1つまたはそれ以上の生分解性ポリマーであって、全ての該生分解性ポリマーがポリ乳酸(PLA)ポリマーである、1つまたはそれ以上の生分解性ポリマー;該薬物送達システムは、24〜30ゲージ注射針によって眼内位置に注射することを可能にする約15,000cps〜約100,000cpsの20℃における粘度を有する。α2アドレナリン作用薬は、ブリモニジン(単独で使用される「ブリモニジン」という単語は、ブリモニジン遊離塩基および/または酒石酸ブリモニジンを包含する)でありうる。さらに、α2-アドレナリン作用薬は、ミクロスフェアの約0.5w%〜約15wt%を占めることができ、PLAポリマーは、ミクロスフェアの約85wt%〜約99.5wt%を占め、ミクロスフェアは約8ミクロン〜約14ミクロンの平均直径を有しうる。意義深いことに、ミクロスフェアは、約0.5μg/日〜約40μg/日のα2アドレナリン作用薬を、約10日〜約100日間にわたって放出しうる。
【0074】
本発明の別の好ましい実施形態は、(a)約8ミクロン〜約14ミクロンの平均直径を有する複数のミクロスフェア、および(b)ミクロスフェア用の水性ビヒクル、を含んで成る生物適合性の注射可能な眼内薬物送達システムであり、該ミクロスフェアは、下記の物質から本質的に成り:(1)ブリモニジンであって、ミクロスフェアの約0.5wt%〜約15wt%を占めるブリモニジン;および、(2)1つまたはそれ以上の生分解性ポリマーであって、全ての該生分解性ポリマーが、約0.4dL/gm〜約0.8dL/gmのインヘレント粘度を有するポリ(D,L)ラクチドポリマーであり、該PLAポリマーがミクロスフェアの約85wt%〜約99.5wt%を占める、1つまたはそれ以上の生分解性ポリマー;該薬物送達システムは、20〜36ゲージ注射針によって眼内位置に注射することができ、該ミクロスフェアは、約0.5μg/日〜約20μg/日のブリモニジンを、約10日〜約100日間にわたって放出しうる。
【0075】
本発明は、眼症状を治療する方法も包含し、該方法は下記の工程を含んで成り:(a)複数のミクロスフェア、およびミクロスフェア用の水性ビヒクルを含んで成る生物適合性薬物送達システムを準備する工程であって、該ミクロスフェアが、ブリモニジンである治療薬、および1つまたはそれ以上の生分解性ポリマーから本質的に成り、全ての該生分解性ポリマーがポリ乳酸(PLA)ポリマーである工程;および、(b)薬物送達システムを20〜26ゲージ注射針によって眼内位置に注射し、それによって眼症状を治療する工程;該方法は有意な眼表面充血を生じない。
【0076】
本発明の範囲に含まれる好ましい方法は、下記の工程を含んで成る眼症状の治療法であり:(a)α2アドレナリン作用薬、および1つまたはそれ以上の生分解性ポリマーから本質的に成るインプラントを含んで成る生物適合性薬物送達システムを準備する工程であって、全ての該生分解性ポリマーがポリ乳酸(PLA)ポリマーまたはポリオルトエステルである工程;および、(b)薬物送達システムを眼内位置に埋め込み、それによって眼症状を治療する工程;該方法は有意な眼表面充血を生じない。眼内位置は、テノン下、結膜下、脈絡膜上、強膜内または眼球後眼内位置であることができる。
【0077】
本発明の範囲に含まれる別の好ましい方法は、下記の工程を含んで成る眼症状の治療法であり:(a)プロスタグランジン類似体、および1つまたはそれ以上の生分解性ポリマーから本質的に成るインプラントを含んで成る生物適合性薬物送達システムを準備する工程であって、全ての該生分解性ポリマーがポリ乳酸(PLA)ポリマーまたはポリオルトエステルである工程;および、(b)薬物送達システムを眼内位置に埋め込み、それによって眼症状を治療する工程;該方法は有意な眼表面充血を生じない。
【0078】
本発明の範囲に含まれる別の好ましい方法は、下記の工程を含んで成る眼症状の治療法である:(a)α2アドレナリン作用薬、および1つまたはそれ以上の生分解性ポリ乳酸(PLA)ポリマーから本質的に成るインプラントを含んで成る生物適合性薬物送達システムを準備する工程;および、(b)薬物送達システムを硝子体内位置に埋め込み、それによって眼症状を治療する工程。
【図面の簡単な説明】
【0079】
下記の図面は、本発明の態様および特徴を例示するものである。
【0080】
【図1】図1は、3個または6個の400μgブリモニジンDDS(薬物送達システム)ロッド形インプラントを前テノン下眼内位置に投与されたウサギについて、X軸の時間(日)に対してY軸にIOP(眼内圧)をmmHgで示すグラフである。図1の左端の第一データ点は、第0日(DDSをウサギの眼に投与した日)に得た。図1における3つのグラフは、下記のインプラントのテノン下配置の、時間経過に伴うIOPへの作用を示す:(a)合計2400μgのブリモニジンを与える6個のインプラント;(b)合計1200μgのブリモニジンを与える3個のインプラント;および(c)プラセボインプラントの配置。図1の左下の角に挿入されている写真は、第21日のウサギの眼の写真であり、眼表面充血の不存在、および3個のテノン下配置400μgブリモニジンインプラントの存在を示す。
【0081】
【図2】図2は、イヌの眼に、3個の150μgブリモニジンPLAインプラントの前テノン下挿入を行った後に測定したIOP(mmHg)をY軸に示す図である。IOPを、ゼロまたは基準線IOPに対して測定した。基準線IOPは、3個のインプラントをイヌの眼に投与する直前に測定したIOPである。インプラント挿入(第1日)後の日数を、X軸に示す。
【0082】
【図3】図3は、イヌの眼に、600μgのビマトプロストを含有するミクロスフェア懸濁液の前テノン下注射を行った後に測定したIOP(mmHg)をY軸に示す図である。IOPを、ゼロまたは基準線IOPに対して測定した。インプラント挿入(第1日)後の日数を、X軸に示す。
【0083】
【図4】図4は、前強膜内位置に、2個の200μgブリモニジンロッド形インプラントを投与された(下のグラフ線)、またはプラセボ(「片方の眼(fellow eye)」)インプラントを投与された、正常圧ウサギについて、X軸の時間(日)に対してY軸にIOP(mmHg)を示すグラフである。
【0084】
【図5】図5は、前脈絡膜上位置に、2個の200μgブリモニジンロッド形インプラントを投与された正常圧ウサギについて、X軸の時間(日)に対してY軸にIOP(mmHg)を示すグラフである。
【0085】
【図6】図6は、前強膜内位置に、200μg親油性プロスタミド(20wt%)含有ディスク形(圧縮)インプラント(「DDS」)を配置されたイヌ、またはそのイヌの他方の(片方の)眼の同じ位置にプラセボ(「片方の眼」)インプラントを投与されたイヌについて、X軸の時間(日)に対してY軸にIOP(mmHg)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0086】
本発明は、本明細書に記載されている薬物送達システムの眼内投与後に眼表面充血をほとんど又は全く生じずに種々の眼症状を治療するための、特定の薬物送達システム配合物およびこれらの薬物送達システムの投与法の発見に基づいている。本発明は、局所または全身的投与に対して、眼内投与だけのための構造にされ形状にされた薬物送達システムを包含する。眼内投与は、埋め込みまたは注射によって行うことができる。本発明の範囲に含まれる薬物送達システムは、生分解性インプラントおよびミクロスフェアであることができる。薬物送達システムは、一体構造(monolithic)であることができ、即ち、活性剤が生分解性ポリマーマトリックス全体に均質に分布または分散している。治療薬を、本発明によって製造された薬物送達システムから、約20日〜12ヶ月間またはそれ以上の期間にわたって放出させることができる。我々の薬物送達システムの重要な特徴は、薬物送達システムを、それが投与された眼内位置に固定するために、どのような手段(キャップ、突起物または縫合タブ)も含まないことである。我々の薬物送達システムは、押出または移動のリスクをほとんど伴わずに所定位置に固定され、なぜなら、それらは、投与部位における眼球の湾曲に適合する形状にされ(即ち、ロッド、ウエハまたはディスクの形状にされる)、それらが周囲眼組織によって囲まれる眼内(例えば、テノン腔下または強膜内)にそれらを配置するのに充分に小さい寸法を有するからである。
【0087】
このように、本明細書に開示する薬物送達システムは、所定位置に縫合されず、投与部位における薬物システムの強固な固定を確実にするために使用されるキャップ、突起物または他のメカニズムを有さない。縫合または他の固定手段は、治療薬を薬物送達システム内または上に含有するかまたは治療薬を生体内で放出するのに必要とされない薬物送達システムに、感受性眼組織を接触させることを必要とする。そのような縫合または眼固定は、単に周辺的または従属的価値を意味するにすぎず、それらの使用は、治癒時間、患者の不快感、および感染または他の合併症のリスクを増加しうる。さらに、縫合糸は炎症を生じる場合があり、生侵食性でない縫合糸は、縫合材料を除去するために付加的手順を必要とすることが多い。
【0088】
前テノン下、前脈絡膜上腔、および前強膜内位置は、角膜輪部(角膜が強膜に出会う位置)から、ヒト眼の表面に沿って後方に約2mm〜10mmに及ぶ。さらに、角膜輪部から約10mmより遠くに、後テノン下、後脈絡膜上腔、および後強膜内位置が存在する。
【0089】
我々は、所定位置に縫合されず、どのような特定の固定メカニズムも有さない薬物送達システムの前眼内位置投与が、好都合にも、薬物送達システムが押出されるかまたは移動する可能性がない位置に薬物送達システムを配置し、前位置により、昇圧薬の毛様体および小柱網への有効投与も可能にすることを見出した。意義深いことに、薬物送達システム用の好適なアプリケーターを使用して、好適な形状にされた薬物送達システムを前眼内位置に投与することが、自己治癒法を与え、即ち、薬物送達システムを所定位置に保持するために縫合を必要としないだけでなく、眼内投与部位への入口部位の傷を治癒させるために閉じるのに必ず必要とされる縫合も必要としないことを我々は見出した。自己治癒は、18〜30ゲージ針のカニューレによる眼内投与のための形状にされた生物適合性インプラント(12mm以下の長さ)を使用することによって得られる。
【0090】
降圧治療効果Yを達成するためにXの用量の治療薬を送達するために、眼内薬物送達システムを前テノン下位置に投与する場合、前強膜内位置における同薬物送達システムの配置は、同治療効果Yを得るために、約0.5Xのみの用量の治療薬を必要とし、上脈絡膜位置における同薬物送達システムの配置は、同治療効果Yを得るために、約0.3X〜約0.5X未満のみの用量の治療薬を必要とすることを我々は見出した。
【0091】
このように、眼内構造物、例えば毛様体および/または小柱網に、降圧薬を送達するために、薬物送達システムを眼のより深くに投与するほど(前テノン下から、強膜内、脈絡膜上の投与部位へ進むにつれて)、同治療薬で同降圧効果を得るために、比例的に少ない量の治療薬が必要とされる。
【0092】
本発明は、眼の形態および構造の理解を必要とする。哺乳動物の眼球の外面は、テノン嚢として知られている組織層を有し、その下に、強膜、次に、脈絡膜が存在する。テノン嚢と強膜の間に、テノン腔下として知られている実質的空間が存在する。別の実質的空間は、強膜と脈絡膜の間に存在し、脈絡膜上腔と称される。眼の前方の眼位置(例えば毛様体)への治療薬の送達は、好適な形状にされた薬物送達システムを、前テノン腔下、前脈絡膜上腔のような位置に配置することによって容易化しうる。さらに、薬物送達システムは、強膜内、例えば前強膜内位置に、投与することができる。そのような薬物送達インプラント位置からの治療薬の側方移動の際に、それは結膜および強膜を通って角膜に拡散されうるかまたは輸送されうる。強膜および/または脈絡膜を通る治療薬の垂直移動の際に、それを眼の前構造物に送達することができる。例えば、高眼圧または緑内障の治療用の房水抑制薬を、前テノン腔下、脈絡膜上腔または強膜内に配置した薬物送達システムから、毛様体の領域に送達することができる。
【0093】
理解しうるように、薬物送達システムの強膜内投与は、脈絡膜上(強膜と脈絡膜の間)投与と同じ程度に硝子体に接近して、薬物送達システムを配置しない。そのような理由から、薬物送達システムの投与時に硝子体に不注意に接近する可能性を減少させるために、薬物送達システムの強膜内投与が脈絡膜上投与より好ましい場合がある。
【0094】
さらに、リンパ網(lymphatic network)が眼のテノン筋膜中または上に存在し、より深い眼組織は減少した血流速度を有するので、テノン下およびより眼内部の位置における薬物送達システムの投与は、眼リンパ系による治療薬の急速除去の回避(減少したリンパ排液)、および投与部位からの治療薬の低い循環除去のみの存在、の2重の利点を与えることができる。両方の要因が、毛様体および小柱網標的組織への有効量の治療薬の輸送に有利に作用する。
【0095】
本発明の範囲に含まれる薬物送達システムの重要な特性は、眼内位置(例えば、前テノン下、結膜下または脈絡膜上位置)に埋め込むかまたは注射して、有意な充血の発生または持続なしに、眼内埋め込みまたは注射部位におよびそれに近接に、治療薬の持続放出を与えうることである。これは我々の薬物送達システムの重要な利点であり、なぜなら、眼組織の充血は、埋め込まれるかまたは注射された薬物送達システムの1つまたはそれ以上の構成成分の毒性および/または生物適合性の欠如を示すからである。さらに、充血は美容的にも望ましくない副作用である。
【0096】
下記の表2は、薬物送達システムの眼内投与後に存在するあらゆる眼表面充血(OSH)の程度を測定し記録する、目視判定的かつ定量的方法を示す。即ち、OSHは指示画像眼表面要素(indicated pictorial eye surface factors)に従って毎日評価しうる。OSHは、埋め込みまたは注射の前部位における、肉眼で見える眼刺激によく相関している。表2のOSH採点システムは、周辺前眼内投与(例えば、前テノン腔下への投与)後の充血の程度を判定するのに有用である。周辺前眼内投与は、例えば、硝子体内投与を除外する。
【0097】
本発明の好ましい実施形態において、眼内投与後10日までまたはそれ以内の眼表面充血(OSH)評点は、正常または高正常評点であるかまたはそれへの復帰評点であり、これはOSHの有意でない量または発生の定義として使用しうる。好ましくは、OSH評点は、薬物送達システムを眼内投与してから少なくとも50日間にわたって、正常または高正常に留まる。
【表2】

【0098】
重要なことに、薬物送達システムがPLAおよび/またはPLGAポリマーを含んで成る場合、生体内でのPLAおよび/またはPLGAポリマー分解の速度は、テノン腔下に存在する局所乳酸およびグリコール酸濃度を決定する。我々は、眼内投与を意図した薬物送達システムの配合におけるPLAおよびPLGAポリマー混合物の選択的使用が、より中性の(従って、より生理的)pH環境を与えうることを見出した。これは、眼充血の発生を減少させ、かつ、生体内DDSポリマー生侵食によって生じる好ましくない局所pH環境による眼組織毒性のリスクも減少させる。前テノン腔下において、その中の眼組織の緩衝能力は極めて限られているので、遅い分解速度を有する主にPLAであるポリマーまたはコポリマーで配合された薬物送達システムが、長時間薬物放出、減少した充血または無充血、およびpH誘発眼組織毒性がほとんど又は全くないという利点を有するDDSを与えうることを我々は確認した。
【0099】
ポリラクチド(PLA)ポリマーは、2つの化学形態、ポリ(L-ラクチド)およびポリ(D,L-ラクチド)で存在する。純粋ポリ(L-ラクチド)は位置規則性であり、従って高結晶性でもあり、従って生体内で極めて遅い速度で分解する。ポリ(D,L-ラクチド)は位置不規則性であり、これは生体内でのより速い分解を生じる。従って、主にポリ(L-ラクチド)ポリマー、残りがポリ(D-ラクチド)ポリマーの混合物であるPLAポリマーは、主にポリ(D-ラクチド)ポリマーであるPLAポリマーより遅い速度で生体内分解する。PLGAは、ポリ(D,L-ラクチド)とポリ(グリコリド)を、可能な種々の比率で組み合わせたコポリマーである。PLGAにおけるよりグリコリド含有量が高いほど、より速いポリマー分解になる。
【0100】
本発明の1つの実施形態において、眼内投与のための薬物送達システム(即ち、テノン腔下における埋め込みによる)は、少なくとも75wt%のPLAおよび約25wt%以下のポリ(D,L-ラクチド-コ-グリコリド)ポリマーから構成されるか、成るか、または本質的に成る。
【0101】
毛様体領域は、急速な薬剤クリアランスを示さない。従って、眼の赤道において、眼内投与によって、例えば結膜下注射によって、投与された治療薬が、その位置から眼に入って、毛様体領域に到達しうると我々は推定する。我々は、前テノン腔下を、薬物送達システムの投与に好ましい位置として選択し、なぜなら、薬物送達システムから放出された治療薬が、この位置から、毛様体領域(標的組織)に拡散するかまたは輸送されると我々は考えるからである。言い換えれば、薬物送達システムの前テノン腔下への投与は、房水(高IOP)抑制剤を、毛様体領域に有効に送達して、眼症状、例えば、高眼圧および緑内障を治療することができる。本発明の解釈上、前テノン下、前脈絡膜上腔および前強膜内位置を、角膜輪部(角膜が強膜と出会う位置)から、ヒト眼の表面に沿って後方に約2〜10mmに及ぶものと我々は定義する。この領域を通って入る房水抑制剤の理想目的地は、房水が産生される無色素毛様体上皮である。前眼内(例えば、テノン下)位置において、薬物送達システムが接近しうる他の組織は、毛様体支質、虹彩根および小柱網である。主にブドウ膜強膜流れを向上させることによって眼内圧を下げる治療薬、例えばプロスタミドおよびプロスタグランジンは、送達システムによって前テノン下領域に有効に送達しうる。
【0102】
一般に、点眼剤を使用した場合、活性剤が角膜を通り、房水にかなり均一に分布し、小柱網を通って、毛様体に入る。これは全て、眼の周囲360°で起こり、そこには、毛様体(房水産生領域)ならびに小柱網および虹彩根(ここで排液が行われる)が存在する。
意外にも、薬剤拡散MRI画像分析により、眼の四分円におけるテノン下インプラントを使用した場合に、活性剤が、インプラントの四分円における毛様体領域を優先的に通り、次に、活性剤が房水に入り、均一に分布し、次に、活性剤が通常の排液経路(小柱網および虹彩根)を360°で通って出ることを、我々は確認した。従って、1つの四分円に配置した前テノン下インプラントが、活性剤を前区域において360°で分散させることができる。
【0103】
好ましい薬物送達システムは、持続放出インプラントまたはミクロスフェアである。前テノン下位置におけるインプラントは、好ましくは、低プロフィールを有し、即ち、厚さが1mm未満であり、より好ましくは直径が0.5mm未満であり、それによって、インプラント押出の可能性を減少させ、異物感も抑える。ヒト成人において、毛様体は角膜輪部の1〜3mm後ろに伸長し、従って、薬物送達システムの理想位置は、該輪部の2〜6mm後ろと考えられる。前テノン下配置のために、眼の周囲360°の任意の位置が許容されるが、但し、眼瞼の下の位置が、送達システムを他者によって視覚的に見えにくくするのに好ましいと考えられる。本発明の範囲に含まれる薬物送達システムは、強膜内、脈絡膜上または硝子体内位置を有する毛様体領域上で、眼の前方に配置することができる。
【0104】
注射針によって眼内位置に投与することができるミクロスフェアの懸濁液は、本発明の範囲に含まれる。そのような懸濁液の投与は、20℃におけるミクロスフェア懸濁液の粘度が、約300,000cP未満であることを必要とする。20℃における水の粘度は、1.002cPである(cPは、粘度の測度であるセンチポアズである)。オリーブ油の粘度は84cP、ヒマシ油の粘度は986P、グリセロールの粘度は1490cPである。
【0105】
本発明のインプラントは、生分解性ポリマーと混合された、またはそれに分散された、治療薬を含有しうる。インプラント組成物は、好ましい薬剤放出プロフィール、使用される特定の活性剤、治療されている眼症状、および患者の病歴によって変化しうる。我々の薬物送達システムに使用しうる治療薬は、下記の治療薬を包含するが、それらに限定されない(本発明の範囲に含まれる薬物送達システム中に、単独で、または別の治療薬と組み合わして使用しうる):ace-阻害薬、内因性サイトカイン、基底膜に作用する薬剤、内皮細胞の増殖に作用する薬剤、アドレナリン作用薬または遮断薬、コリン作用薬または遮断薬、アルドースレダクターゼ阻害薬、鎮痛薬、麻酔薬、抗アレルギー薬、抗炎症薬、降圧薬、昇圧薬、抗細菌薬、抗ウイルス薬、抗真菌薬、抗原虫薬、抗感染薬、抗腫瘍薬、代謝拮抗薬、抗血管形成薬、チロシンキナーゼ阻害薬、抗生物質、例えばアミノグリコシド、例えば、ゲンタマイシン、カナマイシン、ネオマイシンおよびバンコマイシン;アムフェニコール、例えばクロラムフェニコール;セファロスポリン、例えばセファゾリン HCl;ペニシリン、例えば、アンピシリン、ペニシリン、カルベニシリン、オキシシリン、メチシリン;リンコサミド、例えばリンコマイシン;ポリペプチド抗生物質、例えばポリミキシンおよびバシトラシン;テトラサイクリン系抗生物質、例えばテトラサイクリン;キノロン、例えばシプロフラキシンなど;スルホンアミド、例えばクロラミンT;およびスルホン、例えば、親水性要素としてのスルファニル酸、抗ウイルス薬、例えば、アシクロビル、ガンシクロビル、ビダラビン、アジドチミジン、アザチオプリン、ジデオキシイノシン、ジデオキシシトシン、デキサメタゾン、シプロフラキシン、水溶性抗生物質、例えば、アシクロビル、ガンシクロビル、ビダラビン、アジドチミジン、ジデオキシイノシン、ジデオキシシトシン;エピネフリン;イソフルロフェート;アドリアマイシン;ブレオマイシン;マイトマイシン;ara-C;アクチノマイシンD;スコポラミンなど;鎮痛薬、例えば、コデイン、モルヒネ、ケテロラク、ナプロキセンなど、麻酔薬、例えばリドカイン;β-アドレナリン遮断薬またはβ-アドレナリン作用薬、例えば、エフィドリン、エピネフリンなど;アルドースレダクターゼ阻害薬、例えば、エパルレスタット、ポナルレスタット、ソルビニル、トルレスタット;抗アレルギー薬、例えば、クロモリン、ベクロメタゾン、デキサメタゾンおよびフルニソリド;コルヒチン、駆虫薬、例えばイベルメクチンおよびスラミンナトリウム;抗アメーバ薬、例えばクロロキンおよびクロルテトラサイクリン;および抗真菌薬、例えばアンホテリシンなど、抗血管形成化合物、例えば、酢酸アネコルタブ、レチノイド、例えばタザロテン、抗緑内障薬、例えば、ブリモニジン(AlphaganおよびAlphagan P)、アセトゾラミド、ビマトプロスト(ルミガン)、チモロール、メベフノロール;メマンチン、ラタノプロスト(キサラタン);α-2アドレナリン受容体作用薬;2-メトキシエストラジオール;抗新生物薬、例えば、ビンブラスチン、ビンクリスチン、インターフェロン;α、βおよびγ、代謝拮抗薬、例えば、葉酸類似体、プリン類似体およびピリミジン類似体;免疫抑制薬、例えば、アザチオプリン、シクロスポリンおよびミゾリビン;縮瞳薬、例えば、カルバコール、散瞳薬、例えばアトロピン、プロテアーゼ阻害薬、例えば、アプロチニン、カモスタット、ガベキサート、血管拡張薬、例えばブラジキニン、および種々の増殖因子、例えば、上皮増殖因子、塩基性繊維芽細胞増殖因子、神経成長因子、炭素脱水酵素阻害薬など。
【0106】
1つの変化形において、活性剤はメトトレキサートである。別の変化形において、活性剤はレチン酸である。別の変化形において、活性剤は抗炎症薬、例えば、非ステロイド性抗炎症薬である。使用しうる非ステロイド性抗炎症薬は、アスピリン、ジクロフェナク、フルルビプロフェン、イブプロフェン、ケトロラク、ナプロキセンおよびスプロフェンを包含するが、それらに限定されない。さらなる変化形において、抗炎症薬は、ステロイド性抗炎症薬、例えばデキサメタゾンである。
【0107】
我々の薬物送達システムに使用しうるステロイド性抗炎症薬は、下記の薬剤を包含するが、それらに限定されない:21-アセトキシプレグネノロン、アルクロメタゾン、アルゲストン、アムシノニド、ベクロメタゾン、ベタメタゾン、ブデソニド、クロロプレドニゾン、クロベタゾール、クロベタゾン、クロコルトロン、クロプレドノール、コルチコステロン、コルチゾン、コルチバゾール、デフラザコート、デソニド、デスオキシメタゾン、デキサメタゾン、ジフロラゾン、ジフルコルトロン、ジフルプレドナート、エノキソロン、フルアザコート、フルクロロニド、フルメタゾン、フルニソリド、フルオシノロンアセトニド、フルオシノニド、フルオコルチンブチル、フルオコルトロン、フルオロメトロン、酢酸フルペロロン、酢酸フルプレドニデン、フルプレドニソロン、フルランドレノリド、フルチカゾンプロピオネート、ホルモコルタール、ハルシノニド、ハロベタゾールプロピオネート、ハロメタゾン、酢酸ハロプレドン、ヒドロコルタメート、ヒドロコルチゾン、ロテプレドノールエタボネート、マジプレドン、メドリゾン、メプレドニゾン、メチルプレドニゾロン、モメタゾンフロエート、パラメタゾン、プレドニカルベート、プレドニゾロン、プレドニゾロン25-ジエチルアミノ-アセテート、燐酸プレドニゾロンナトリウム、プレドニゾン、プレドニバール、プレドニリデン、リメキソロン、チキソコルトール、トリアムシノロン、トリアムシノロンアセトニド、トリアムシノロンベネトニド、トリアムシノロンヘキサアセトニド、および任意のそれらの誘導体。
【0108】
1つの実施形態において、コルチゾン、デキサメタゾン、フルオシノロン、ヒドロコルチゾン、メチルプレドニゾロン、プレドニゾロン、プレドニゾンおよびトリアムシノロンならびにそれらの誘導体が、好ましいステロイド性抗炎症薬である。別の好ましい変化形において、ステロイド性抗炎症薬はデキサメタゾンである。別の変化形において、生分解性インプラントは、2つまたはそれ以上のステロイド性抗炎症薬の組合せを含有する。
【0109】
活性剤、例えばステロイド性抗炎症薬は、インプラントの約10wt%〜約90wt%を占めうる。1つの変化形において、該薬剤は、インプラントの約40wt%〜約80wt%を占めうる。好ましい変化形において、該薬剤は、インプラントの約60wt%を占めうる。本発明のより好ましい実施形態において、該薬剤は、インプラントの約50wt%を占めうる。
【0110】
薬物送達システムに存在する治療活性剤は、インプラントまたはミクロスフェアの生分解性ポリマーに均質に分散させることができる。インプラントは、例えば、逐次または二重押出法によって製造できる。使用される生分解性ポリマーの選択は、所望の放出動態、患者の耐性、治療される疾患の種類などによって変化しうる。考慮されるポリマー特性は、埋め込み部位における生物適合性および生分解性、対象の活性剤との適合性、および処理温度を包含するが、それらに限定されない。生分解性ポリマーマトリックスは、一般に、インプラントの少なくとも約10wt%、少なくとも約20wt%、少なくとも約30wt%、少なくとも約40wt%、少なくとも約50wt%、少なくとも約60wt%、少なくとも約70wt%、少なくとも約80wt%、少なくとも約90wt%を占める。1つの変化形において、生分解性ポリマーマトリックスは、インプラントの約40wt%〜50wt%を占める。
【0111】
使用しうる生分解性ポリマーは、分解した際に生理的に許容される分解生成物を生じる有機エステルまたはエーテルのようなモノマーからなるポリマーを包含するが、それらに限定されない。無水物、アミド、オルトエステルなどを、単独かまたは他のモノマーと組み合わして使用してもよい。ポリマーは、一般に縮合重合体である。ポリマーは架橋または非架橋であることができる。架橋されている場合、それらは一般に軽度以下の架橋であり、5%未満の架橋、一般に1%未満の架橋である。
【0112】
通例、炭素および水素の他に、ポリマーは酸素および窒素、特に酸素を含有する。酸素は、オキシ、例えばヒドロキシまたはエーテル、カルボニル、例えば非オキソ-カルボニル、例えばカルボン酸エステルなどとして存在しうる。窒素は、アミド、シアノおよびアミノとして存在しうる。使用しうる生分解性ポリマーの例示的リストが、Heller, Biodegradable Polymer in Controlled Drug Delivery, In:「CRC Critical Reviews in Therapeutic Drug Carrier Systems」, Vol. 1. CRC Press, Boca Raton FL(1987)に記載されている。
【0113】
特に対象となるのは、ホモ-またはコポリマーであるヒドロキシ脂肪族カルボン酸、および多糖類のポリマーである。対象のポリエステルに包含されるのは、D-乳酸、L-乳酸、ラセミ乳酸、グリコール酸、カプロラクトンおよびそれらの組合せの、ホモ-またはコポリマーである。グリコール酸および乳酸のコポリマーが特に対象であり、生分解速度はグリコール酸の乳酸に対する比率によって制御される。ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(PLGA)コポリマーにおける各モノマーのパーセントは、0〜100%、約15〜85%、約25〜75%、または約35〜65%であってよい。ある特定の変化形において、25/75 PLGAおよび/または50/50 PLGAコポリマーが使用される。他の変化形において、PLGAコポリマーがポリラクチドポリマーと共に使用される。
【0114】
親水性および疎水性末端PLGAの混合物を含有する生分解性ポリマーマトリックスも使用してよく、ポリマーマトリックス分解速度を調節するのに有用である。疎水性末端(キャップまたは末端キャップとも称される)PLGAは、ポリマー末端に性質上疎水性のエステル結合を有する。一般的な疎水性末端基は、アルキルエステルおよび芳香族エステルを包含するが、それらに限定されない。親水性末端(非キャップとも称される)PLGAは、ポリマー末端に性質上親水性の末端基を有する。ポリマー末端に親水性末端基を有するPLGAは、それが水を取り込み、より速い速度で加水分解を受けるので、疎水性末端PLGAより速く分解する(Tracyら、Biomaterials 20: 1057-1062 (1999))。加水分解を促進するために組み込みうる好適な親水性末端基は、カルボキシル、ヒドロキシルおよびポリエチレングリコールを包含するが、それらに限定されない。特定の末端基は、一般に、重合工程で使用された開始剤から生じる。例えば、開始剤が水またはカルボン酸である場合、生じる末端基は、カルボキルまたはヒドロキシルである。同様に、開始剤が単官能アルコールである場合、生じる末端基はエステルまたはヒドロキシルである。
【0115】
種々の目的のために、他の物質を薬物送達システム配合物に使用しうる。例えば、緩衝剤および防腐剤を使用しうる。使用しうる防腐剤は、亜硫酸水素ナトリウム、硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、塩化ベンザルコニウム、クロロブタノール、チメロサール、酢酸フェニル水銀、硝酸フェニル水銀、メチルパラベン、ポリビニルアルコールおよびフェニルエチルアルコールを包含するが、それらに限定されない。使用しうる緩衝剤の例としては、望ましい投与経路に関してFDAによって承認されている炭酸ナトリウム、硼酸ナトリウム、燐酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどが挙げられるが、それらに限定されない。電解質、例えば、塩化ナトリウムおよび塩化カリウムも配合物に含有しうる。
【0116】
生分解性薬物送達システムは、活性剤の放出を加速または遅延させる付加的親水性または疎水性化合物も含有しうる。さらに、米国特許第5869079号に記載されているような放出調節剤を、インプラントに含有させることができる。使用される放出調節剤の量は、所望の放出プロフィール、調節剤の活性、および調節剤不存在下のグルココルチコイドの放出プロフィールに依存する。緩衝剤、または放出強化剤または調節剤が、親水性である場合、それは放出促進剤としても作用しうる。親水性添加剤は、薬剤粒子を取り囲む物質のより速い溶解(該溶解は、露出される薬剤の表面積を増加させ、それによって薬剤拡散の速度を増加させる)によって、放出速度を増加させる作用をする。同様に、疎水性の緩衝剤または促進剤または調節剤は、よりゆっくり溶解し、薬剤粒子の露出を遅くし、それによって薬剤拡散の速度を遅くする。
【0117】
本発明の範囲に含まれる薬物放出システムは、生分解性ポリマーマトリックスに分散された活性剤の粒子を用いて配合できる。理論に拘束されるわけではないが、活性剤の放出は、生分解性ポリマーマトリックスの侵食によって、および眼液、例えば硝子体液への、粒子状薬剤の拡散、次に、ポリマーマトリックスの溶解および活性剤の放出によって、達成できると考えられる。インプラントからの活性剤の放出動態に影響を与える要素は、インプラントの大きさおよび形、活性剤粒子の大きさ、活性剤の溶解性、活性剤対ポリマーの比率、製造方法、露出される表面積、およびポリマーの侵食速度のような特徴を包含しうる。この形態の活性剤放出によって得られる放出動態は、架橋ヒドロゲルの場合のようにポリマー膨潤によって活性剤を放出する配合物によって得られる放出動態と異なる。その場合、活性剤が、ポリマー侵食によって放出されるのではなく、ポリマー膨潤および薬剤拡散によって放出され、露出された経路を通って液体が拡散すると共に薬剤を放出する。
【0118】
活性剤の放出速度は、生分解性ポリマーマトリックスを構成している1つまたはそれ以上のポリマー主鎖成分の分解速度に、少なくとも部分的に依存しうる。例えば、縮合重合体が加水分解(メカニズムのうちの1つ)によって分解し、それにより、インプラントによる水の取り込みを促進するインプラント組成の何らかの変化が、加水分解速度を増加させ、それによってポリマー分解および侵食の速度を増加させ、従って活性剤放出の速度を増加させると考えられる。
【0119】
本発明のインプラントの放出動態は、インプラントの表面積に部分的に依存しうる。より大きい表面積は、より多くのポリマーおよび活性剤を眼液に露出し、その結果、より速いポリマーマトリックスの侵食および該液における活性剤粒子の溶解を生じる。従って、インプラントの大きさおよび形も、放出速度、治療期間、埋め込み部位における活性剤濃度を制御するのに使用しうる。同等の活性剤負荷において、より大きいインプラントは比例的に多い投与量を送達するが、表面積対質量比に依存して、より遅い放出速度を有しうる。眼領域における埋め込みのために、インプラントの総重量は、好ましくは、例えば、約100μg〜約15mgである。より好ましくは、約300μg〜約10mg、最も好ましくは約500μg〜約5mgである。本発明の特に好ましい実施形態において、インプラントの重量は、約500μg〜約2mg、例えば約500μg〜約1mgである。
【0120】
生侵食性インプラントは、一般に固体であり、粒子、シート、パッチ、プラーク、フィルム、ディスク、ファイバー、ロッドなどとして形成してよく、または、インプラントが所望の放出動態を有し、目的とする眼の医学的症状に治療的な活性剤量を送達する限り、選択された埋め込み部位に適合する任意の大きさまたは形であってもよい。インプラントの大きさの上限は、所望される放出動態、埋め込み部位におけるインプラント許容性、挿入時の大きさ制限、および取扱の容易性のような要素によって、決定される。例えば、硝子体眼房は、約0.05mm〜3mmの直径および約0.5〜約10mmの長さを一般に有する比較的大きいロッド形インプラントを収容することができる。1つの変化形において、ロッドは、約0.1mm〜約1mmの直径を有する。別の変化形において、ロッドは、約0.3mm〜約0.75mmの直径を有する。よりさらなる変化形において、可変形状であるがほぼ同じ容積を有する他のインプラントも使用しうる。
【0121】
活性剤、ポリマーおよび任意の他の調節剤の比率は、変化する比率を用いていくつかのインプラントを配合することによって、実験的に決定しうる。溶解または放出試験のUSP認可方法を使用して、放出速度を測定することができる(USP 23; NF 18 (1995) p.1790-1798)。例えば、無限降下法を使用して、水中に0.9%のNaClを含有する測定量の溶液に、計量した薬物送達装置試料を添加し、該溶液量は、放出後の薬剤濃度が飽和の20%未満、好ましくは5%未満になる量である。混合物を37℃で維持し、ゆっくり撹拌して、生侵食後の薬剤拡散を確実にする。時間の関数としての溶解薬剤の外観を、当分野で既知の種々の方法、例えば、分光測光法、HPLC、質量分析などによって追跡しうる。
【0122】
本発明の薬物送達システムおよび方法によって治療できる眼症状の例としては、下記の症状が挙げられるが、それらに限定されない:緑内障、ブドウ膜炎、黄斑水腫、黄斑変性、網膜剥離、後眼腫瘍、真菌またはウイルス感染、多病巣性脈絡膜炎、糖尿病性網膜症、増殖性硝子体網膜症(PVR)、交感性眼炎、フォークト・小柳・原田(VKH)症候群、ヒストプラスマ症、ブドウ膜拡散および血管閉塞。1つの変化形において、インプラントは、下記のような医学的症状を治療するのに特に有用である:ブドウ膜炎、黄斑水腫、血管閉塞症状、増殖性硝子体網膜症(PVR)、および他の種々の網膜症。
【0123】
本発明の薬物送達システムは、注射器によって眼内位置に注射することができ、または、強膜における切開後に、鉗子、トロカールまたは他のタイプのアプリケーターによる配置を包含する種々の方法によって、眼に挿入する(埋め込む)ことができる。ある場合において、切開せずに、トロカールまたはアプリケーターを使用しうる。好ましい変化形において、手持ち型アプリケーターを使用して、1つまたはそれ以上の生分解性インプラントを眼に挿入することができる。手持ち型アプリケーターは、一般に、18〜30 GAステンレス鋼針、レバー、アクチュエーターおよびプランジャーを有して成る。1つまたはそれ以上のインプラントを後眼領域または部位に挿入するのに好適な装置は、米国特許出願第10/666872号に開示されている装置を包含する。
【0124】
埋め込み方法は、一般に、先ず、眼領域内の標的領域に、針、トロカールまたは埋め込み装置を近づけることを含む。標的領域、例えば硝子体腔にいったん入れば、手持ち型装置のレバーを下に押して、アクチュエーターがプランジャーを前方に動かすようにすることができる。プランジャーが前方へ動くと共に、それは1つまたはそれ以上のインプラントを標的領域(例えば、硝子体)に押し入れることができる。
【0125】
種々の方法を使用して、本発明の範囲に含まれるインプラントを製造しうる。有用な方法は、相分離法、界面法、押出法、圧縮法、成形法、射出成形法、加熱加圧法などを包含する。
【0126】
インプラントを製造するのに使用される手法の選択および手法パラメーターの操作は、薬剤の放出速度に影響を与えることができる。室温圧縮法は、散在された薬剤およびポリマーの離散微粒子を有するインプラントを生じる。押出法は、製造温度が増加すると共に、連続ポリマーマトリックス内の薬剤の漸進的でより均質な分散を有するインプラントを生じる。
【0127】
押出法の使用は、インプラントの大規模製造を可能にし、ポリマーマトリックス内の薬剤の均質分散を有するインプラントを生じる。押出法を使用する場合、選択されるポリマーおよび活性剤は、製造に必要とされる温度、一般に少なくとも約50℃において、安定である。押出法は、約25℃〜約150℃、より好ましくは約60℃〜約130℃の温度を使用する。
【0128】
種々の押出法によって、ポリマーマトリックス内の活性剤の分散の均質性を包含するが、それに限定されない種々の特性を有するインプラントが得られる。例えば、ピストン押出機、一軸押出機、および二軸押出機の使用は、一般に、活性剤の漸進的でより均質な分散を有するインプラントを生じる。1つの押出法を使用した場合、押出パラメーター、例えば、温度、押出速度、ダイの形状寸法およびダイ表面仕上げが、製造されるインプラントの放出プロフィールに影響を与える。
【0129】
ピストン押出法によってインプラントを製造する1つの変化形において、先ず、薬剤およびポリマーを室温で混合し、次に、約60℃〜約150℃の温度範囲、より一般的には約100℃の温度に、約0〜約1時間、より一般的には約0〜約30分間、さらに一般的には約5分〜約15分間、最も一般的には約10分間にわたって加熱する。次に、インプラントを、約60℃〜約130℃の温度、好ましくは約90℃の温度で押出す。
【0130】
例示のスクリュー押出法において、活性剤およびポリマーの粉末ブレンドを、約80℃〜約130℃の温度にあらかじめ設定した一軸または二軸押出機に添加し、押出機における最短滞留時間で、フィラメントまたはロッドとして直接的に押出す。次に、押出されたフィラメントまたはロッドを、その意図する使用の医学的症状の治療に適切な投与量の活性剤を有する小さいインプラントに切断する。
【0131】
本発明のインプラントシステムは、多くの生侵食性インプラントの組合せを含有することができ、各インプラントは、同時投与した場合に薬剤の長時間連続放出を与える特有のポリマー組成および薬剤放出プロフィールを有する。さらに、得られる薬剤連続放出は持続性であり、ポリマーのブレンドから成る単一インプラントを使用して得られる放出プロフィールと異なる。例えば、少なくとも120日間の連続放出を得るために、速い、中程度、および遅い放出特性を有する別々のポリマーから製造された3つの個別インプラントを使用することができ、速い放出のインプラントは、大部分の薬剤を0〜60日で放出し、中程度の放出のインプラントは、大部分の薬剤を60〜100日で放出し、遅い放出のインプラントは、大部分の薬剤を100日以降で放出する。速い放出のインプラントの例としては、ある特定の低分子量で急速分解プロフィールのポリラクチドポリマー(例えば、Boehringer Ingelheim GmbH, Germany製造のR104であり、これは分子量約3,500のポリ(D,L-ラクチド)である)から製造されたインプラントが挙げられる。中程度放出のインプラントの例としては、ある特定の中程度分子量で中程度分解プロフィールのPLGAコポリマー(例えば、Boehringer Ingelheim GmbH, Germany製造のRG755であり、これは、wt/wt 75%ラクチド:25% グリコリド、分子量約40,000およびインヘレント粘度0.50〜0.70dl/gを有するポリ(D,L-ラクチド-コ-グリコリド)である)から製造されたインプラントが挙げられる。遅い放出のインプラントの例としては、他のある特定の高分子量で遅い分解プロフィールのポリラクチドポリマー(例えば、Boehringer Ingelheim GmbH, Germany製造のR203/RG755であり、その分子量は、R203について約14,000(固有粘度0.25〜0.35dl/g)、RG755について約40,000である)から製造されたインプラントが挙げられる。これらのインプラントは、一緒に投与した場合に、生体外で少なくとも120日間にわたって薬剤の長期連続放出を与え、これは、硝子体内(即ち生体内)で、約240日間までにわたって、少なくとも約5〜10ngデキサメタゾン当量/mLの持続薬剤レベル(濃度)を生じうる。
【0132】
異なる放出特性をそれぞれ有する1つまたはそれ以上の異なる生侵食性ポリマーを使用して、長期放出プロフィールを有する単一生侵食性インプラントを、本発明によって製造することもできる。1つのそのような方法において、薬剤または活性剤の粒子を第一ポリマーとブレンドし、押出して、フィラメントまたはロッドを形成する。次に、このフィラメントまたはロッド自体を、先ず、小片に砕き、次に、約30μm〜約50μmの大きさ(直径)の粒子にさらに粉砕し、次に、該粒子を追加量の薬剤または活性剤および第二ポリマーとブレンドする。次に、この第二混合物を、フィラメントまたはロッドに押出し、次に、適切な大きさに切断して、最終インプラントを形成する。得られたインプラントは、最初に2つのポリマーをブレンドし、次にそれを押出すことによって形成されたインプラントと異なる放出プロフィールを有する。形成されたインプラントは、第一ポリマーと異なる特定の放出特性をそれ自体が有する第二ポリマーおよび薬剤ブレンドに拘束された、ある特定の放出特性を有する薬剤および第一ポリマーの初期粒子を含有すると考えられる。インプラントの例は、RG755、R203、RG503、RG502、RG502Hを第一ポリマーとし、RG502、RG502Hを第二ポリマーとして形成したインプラントである。使用しうる他のポリマーは、PURAC America, Inc. Lincolnshire, ILから入手可能なPDL(ポリ(D,L-ラクチド))およびPDLG(ポリ(D,L-ラクチド-コ-グリコリド))ポリマーを包含する。ポリ(カプロラクトン)ポリマーも使用しうる。特定のポリマーの特徴は以下の通りである:(1)RG755は、分子量約40,000、ラクチド分(重量による)75%およびグリコリド分(重量による)25%を有する;(2)R203は、分子量約14,000およびラクチド分100%を有する;(3)RG503は、分子量約28,000、ラクチド分50%およびグリコリド分50%を有する;(4)RG502は、分子量約11,700(インヘレント粘度0.16〜0.24dl/g)、ラクチド分50%およびグリコリド分50%を有する;(5)RG502Hは、分子量約8,500、ラクチド分50%、グリコリド分50%、およびポリマー鎖末端に遊離酸を有する。
【0133】
一般に、インヘレント粘度が0.16である場合、分子量は約6,300であり、インヘレント粘度が0.28である場合、分子量は約20,700である。本明細書に記載されている全てのポリマー分子量は、平均分子量(ダルトン)であることを認識することが重要である。
【0134】
本発明によって、少なくとも10ng/mLのデキサメタゾンまたはデキサメタゾン当量に対応するレベルにおいて、少なくとも60日間にわたって、薬剤の連続的または実質的に連続的な放出が達成できる。
【0135】
他の方法において、種々の放出特性を有するポリマーを使用して、単一インプラントを製造することができ、その場合、別々の薬剤ポリマーブレンドを準備し、次に、それらを同時押出して、異なる放出プロフィールを有する異なる区域または領域を有するインプラントを形成する。これらの同時押出インプラントの全体的薬剤放出プロフィールは、先ずポリマーをブレンドし、次にそれらを押出すことによって形成されたインプラントのプロフィールと異なる。例えば、薬剤または活性剤の第一および第二ブレンドを、種々のポリマーを使用して形成することができ、2つのブレンドを同軸押出して、ある特定の放出特性を有する内側コア領域、および第二の異なる放出特性を有する外側シェル領域を有するインプラントを形成することができる。
【0136】
本明細書に開示されている薬物送達システムを使用して、下記を包含する種々の眼疾患または症状を予防または治療することができる:
黄斑症/網膜変性: 黄斑変性(加齢性黄斑変性(ARMD)、例えば、非滲出性加齢性黄斑変性および滲出性加齢性黄斑変性を含む)、脈絡膜新生血管形成、網膜症(糖尿病性網膜症を含む)、急性および慢性黄斑視神経網膜症、中心性漿液性網脈絡膜症、および黄斑水腫(類嚢胞黄斑水腫および糖尿病性黄斑水腫を含む)。
ブドウ膜炎/網膜炎/脈絡膜炎: 急性多発性斑状色素上皮症、ベーチェット病、バードショット脈絡網膜症、感染症(梅毒、ライム病、結核症、トキソプラスマ症)、ブドウ膜炎(中間部ブドウ膜炎(扁平部炎)および前部ブドウ膜炎を含む)、多病巣性脈絡膜炎、多発性一過性白点症候群(MEWDS)、眼類肉腫症、後強膜炎、ほ行性脈絡膜炎、網膜下線維症、ブドウ膜炎症候群、およびフォークト-小柳-原田症候群。
血管疾患/滲出性疾患: 網膜動脈閉塞症、網膜中心静脈閉塞症、播種性血管内凝固症、網膜分岐静脈閉塞症、高血圧性眼底変化、眼虚血症候群、網膜動脈小血管瘤、コーツ病、中心窩傍(parafoveal)毛細管拡張症、半網膜静脈閉塞症、乳頭静脈炎、網膜中心動脈閉塞症、網膜分岐動脈閉塞症、頸動脈疾患(CAD)、霜状分岐血管炎、鎌状赤血球網膜症および他の異常ヘモグロビン症、網膜色素線条症、家族性滲出性硝子体網膜症、イールズ病。
外傷性/外科手術性: 交感性眼炎、ブドウ膜炎網膜疾患、網膜剥離、外傷、レーザー、PDT、光凝固、手術中の低灌流、放射線網膜症、骨髄移植網膜症。
増殖性疾患: 増殖性硝子体網膜症および網膜上膜、増殖性糖尿病性網膜症。
感染性疾患: 眼ヒストプラスマ症、眼トキソカラ症、推定眼ヒストプラスマ症候群(POHS)、眼内炎、トキソプラスマ症、HIV感染関連網膜疾患、HIV感染関連脈絡膜疾患、HIV感染関連ブドウ膜炎疾患、ウイルス性網膜炎、急性網膜壊死、進行性網膜外層壊死、真菌性網膜疾患、眼梅毒、眼結核症、びまん性片側性亜急性神経網膜炎、およびハエウジ病。
遺伝病: 色素性網膜炎、関連網膜ジストロフィーを伴う全身疾患、先天性停在夜盲症、錐体ジストロフィー、シュタルガルト病および黄色斑眼底、ベスト病、網膜色素上皮のパターンジストロフィー、X連鎖網膜分離症、ソーズビー眼底ジストロフィー、良性同心性黄斑症、ビエッティ(Biett's)結晶状ジストロフィー、弾性線維性仮性黄色腫。
網膜断裂/円孔: 網膜剥離、黄斑円孔、巨大網膜断裂。
腫瘍: 腫瘍に関連した網膜疾患、先天性RPE肥大、後部ブドウ膜メラノーマ、脈絡膜血管腫、脈絡膜骨腫、脈絡膜転移、網膜および網膜色素上皮の複合(combined)過誤腫、網膜芽細胞腫、眼底の血管増殖性腫瘍、網膜星状細胞腫、眼内リンパ性腫瘍。
その他: 点状内脈絡膜症、急性後極部多発性板状色素上皮症、近視性網膜変性、急性網膜色素上皮炎など。
【0137】
以下の実施例は、本発明の態様および実施形態を例示するものである。
【実施例1】
【0138】
2-メトキシエストラジオールポリ乳酸ミクロスフェア(ウサギ)
この実験において、2-メトキシエストラジオールを活性剤として含んで成るPLA基剤ミクロスフェアを作製し、注射によってウサギの眼の種々の眼内位置に投与した。意義深いことに、我々は、ミクロスフェアが充分に許容され、全ての眼の赤味(眼表面充血)が、眼内投与から1週間以内になくなった(消散した)ことを見出した。従って、本明細書に記載した方法によるこれらのミクロスフェアの投与は、有意な眼表面充血を生じなかった。
【0139】
この実験に使用したミクロスフェアは、29.7wt%の、治療薬としての2-メトキシエストラジオール、および70.3wt%の、インヘレント粘度(iv)1.2dL/gmを有するポリ(D,L)ラクチドポリマー(Birmingham)を含んでいた。投与前に、ミクロスフェアを、ミクロスフェアのビヒクルとしての等張燐酸緩衝生理食塩水(IPBS)pH7.4に懸濁させた。200μL量のこのミクロスフェア懸濁液体は、ビヒクル1mLにつき100mgのミクロスフェアを含有していた。ミクロスフェアは、約4μmの平均直径を有し、塩化メチレンからポリビニル酸(PVA)溶液への溶媒蒸発によって作製した。
【0140】
これは、60匹の雌ニュージーランド白ウサギを使用した3ヵ月間の試験であった。10%ポリ乳酸(PLA)ミクロスフェア中に配合した2-メトキシエストラジオール(配合物1)、または2%ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)中の2-メトキシエストラジオールの10%懸濁液(配合物2)の、結膜下、テノン下および眼球後注射を行った。60匹のウサギを、各10匹の6つのグループに分けた。6つのグループはそれぞれ、5.96mgの2-メトキシエストラジオールを含有する200μLのPLAミクロスフェア、または20mgの2-メトキシエストラジオールを含有する200μLのHPC懸濁液の、単一両側結膜下、テノン下または眼球後注射を受けた。
【0141】
10%PLAミクロスフェア2-メトキシエストラジオール配合物を、26ゲージ針を使用する注射器によって結膜下に送達し、23ゲージ針を使用してテノン下眼内位置に送達し、22ゲージ針を使用して眼球後眼内位置に送達した。2%HPC配合物中10%の2-メトキシエストラジオールを、結膜下注射については23ゲージ針を使用し、テノン下投与については21ゲージ針を使用して送達した。
【0142】
設定された6つ動物グループおよびミクロスフェア投与の詳細を、下記の表3に示す。投与後の指定された時点で、血液および選択された眼組織を採取した。
【表3】

【0143】
配合物番号1(グループ1、2および3に投与)は、13mLの滅菌等張燐酸緩衝生理食塩水(IPBS)を1.3gの2-メトキシエストラジオール(PLAミクロスフェア)に添加することによって調製された2-メトキシエストラジオールPLAミクロスフェアの10%懸濁液であった。調製物を5分間音波処理し、次に、さらに5分間渦混合して、適切な懸濁液を得た。投与前および投与後に、単一30μLアリコートを滅菌条件下に得た。使用したIPBSビヒクルの濃度は、1.0016g/mLであった。配合物番号2は、5分間音波処理し、次に、さらに5分間渦混合して、適切な懸濁液を得た。この場合も、用量投与の前および後に、単一30μLアリコートを滅菌条件下に得た。
【0144】
グループ1および4の動物は、結膜下注射によって投与し、グループ2および5の動物は、テノン下注射によって投与し、グループ3および6の動物は、眼球後注射によって投与した。各動物の両眼に投与し、200μL/眼の用量を投与した。
【0145】
投与の直前に、動物に、キシラジン(20mg/mL)の筋肉(IM)注射、次に、ケタミン(100mg/mL)のIM注射によって、軽く麻酔をかけた。眼を、用量投与のために以下のように準備した:用量投与の約10〜15分前に、2滴の0.5%塩酸プロパラカインを各眼に入れた。次に、各投与日に新しく作られ、注射用に0.9%塩化ナトリウムを使用して調製されたBetadine(登録商標)希釈溶液、USP(1%ポビドンヨードを与える)を用いて、各眼を約2〜3分間濯いだ。この間、ポビドンヨード溶液で湿らせたコットン付きアプリケーター(CTA)を2つ使用して、眼瞼および眼瞼縁を包含する眼窩周囲領域を清浄にした。注射部位に特に注意を払いながら、ヨード溶液で湿らせた別の清浄CTAを使用して強膜および結膜嚢円蓋を清浄にした。頭を横に傾け、注射器およびカテーテルチップ(catheter tip)を使用して、眼を0.9%滅菌生理食塩水で洗浄した。1〜2滴の0.5%塩酸プロパラカイン(局所眼用麻酔)を眼に適用した。
【0146】
結膜下眼周囲注射(グループ1および4)
上外側四分円における眼球結膜を、鉗子で持ち上げた。上向きのべベル(bevel)を有する26ゲージ、1/2インチの皮下注射針を、結膜下腔に挿入し、0.2mLの配合物番号1(グループ1)または配合物番号2(グループ4)を注射した。
【0147】
テノン下注射(グループ2および5)
眼球結膜(角膜輪部より上2〜3mm)、および輪部から2~3mmで始まる上外側四分円におけるテノン嚢を通って、上向きのべベルを有する25ゲージ、5/8インチの皮下注射針を挿入することによって、テノン下注射を行った。5〜10μLの滅菌生理食塩水を注射することによって、この位置に小さいブレブ(bleb)を形成した。組織のブレブを、21ゲージ、1インチの皮下注射針で穿刺して、テノン腔下への平滑(blunt)カニューレの挿入を可能にした。23ゲージ平滑カニューレを、テノン腔下に挿入し、上外側方向に約10〜15mm後方的に進めた。次に、0.2mLの配合物番号1(グループ2)または配合物番号2(グループ5)を、ミクロスフェア懸濁液ボーラスが視神経に近い強膜の後面に一般に配置されるように注射した。
【0148】
眼球後注射(グループ3および6)
前方から後方への眼窩の曲線に沿うように曲げた22ゲージ、1.5インチの螺旋針を使用して、眼球後注射を行った。針を外眼角の結膜接合部に挿入し、針が眼球の後部の眼窩骨に出会うまで、針を後方に進めた。スタイレットを除去し、吸引を行った。血液が吸引された場合、針の位置を変え、2回目の吸引を行った。血液が吸引されなければ、0.2mLの配合物番号1(グループ3)または配合物番号2(グループ6)を注射し、針を除去した。グループ1〜6の各動物への用量投与後に、AKWA Tears(登録商標)、低刺激眼軟膏剤を各動物の投与された眼に適用して、眼が乾燥するのを防いだ。全てのグループにおいて、投与後に、シプロフロキサシン軟膏剤を投与した。
【0149】
この実験において、10%懸濁液としての2-メトキシエストラジオールポリ乳酸ポリマーミクロスフェア、および2%HPC配合物の特定の配合物を、注射器で種々の眼内位置に投与できることを我々は確認した。意義深いことに、使用した配合物の眼内投与の3つの異なる部位のそれぞれにおいて、一過性の眼刺激(眼表面充血)が生じただけであり、投与後の最初の1週間以内に充血が消えた(2-メトキシエストラジオール投与部位において、眼の表面が正常な白い外観に戻った)。死亡、または体重における薬剤関連作用が観察されなかった。
【実施例2】
【0150】
結膜下ブリモニジンポリ乳酸ミクロスフェア(ウサギ)
乳酸ポリマー、ブリモニジン治療薬ミクロスフェアを作製し、ウサギの眼の結膜下腔に注射器で注射する2つの実験を行った。PLAブリモニジンミクロスフェアは、水性ビヒクル、例えば等張燐酸緩衝生理食塩水中の、懸濁液として注射した。20℃におけるミクロスフェア懸濁液の粘度は、約200,000cpsまでであった。ブリモニジン含有ミクロスフェアを、結膜下に注射して(25〜30注射針ゲージを使用)、治療レベルの治療薬(ブリモニジン)を、前眼房(例えば、高眼圧の治療のため)および/または後眼房に投与して、網膜症状を治療した。
【0151】
意義深いことに、両方の実験において、ブリモニジン含有PLAミクロスフェアは、充分に許容された(ミクロスフェアの注射から7日後に充血なし)。
【0152】
I. 第一実験において、ミクロスフェアの配合は、pH7.4のIPBSビヒクル中、2wt%ブリモニジン遊離塩基、および0.6dL/gmのi.v.を有する98wt%PLA(Birmingham Polymers)であった。ミクロスフェアは、11μmの平均直径を有していた。
【0153】
ミクロスフェアは、塩化メチレンからPVA(ポリビニルアルコール)溶液への、溶媒蒸発法によって作製した。ミクロスフェア10〜100mg/mLが、IPBSビヒクルに懸濁していた。100〜200μLのミクロスフェア懸濁液を、眼内位置に投与した。
【0154】
ブリモニジンがポリ乳酸(PLA)に均質に分布または分散されたブリモニジン遊離塩基ミクロスフェアを、エマルジョン/溶媒蒸発法によって作製した。非溶媒(連続水性相)をブリモニジンで飽和して、ポリマー相からのブリモニジンの損失を防ぎ、負荷効率を増加させた。さらに、ブリモニジン飽和メタノールを使用して、エマルジョンを急冷した。メタノールは、ジクロロメタンを素早く除去するシンク(sink)として作用し、ミクロスフェアを、ブリモニジンがそれから拡散しうる前に硬化させる。ミクロスフェアを作製するのに使用した詳細な手順は、以下の通りである:
【0155】
1gのPLAを、175mgのブリモニジン遊離塩基と合わし、100℃で混合した。次に、PLAポリマー/ブリモニジン混合物を、38℃で、60mLのジクロロメタンに添加した(ポリマー相)。9.6gのPVAを、320mLの水中において、pH7.8で、80mgのブリモニジン遊離塩基と合わして、遊離塩基で飽和された水性相を形成した(水性相)。高剪断インペラーを用いる連続混合下における水性相へのポリマー相の滴下によって、PLAポリマー相を水性相で乳化した。900mgのブリモニジン遊離塩基を含有する350mLのメタノールを、エマルジョンに添加し、4時間攪拌して、ジクロロメタンを抜き出し、ミクロスフェアを硬化させた。得られたPLAミクロスフェアを、真空下に1時間にわたって蒸発によってさらに硬化させた。硬化ミクロスフェアを、遠心分離によって、残留PVA溶液から分離した。ミクロスフェアペレットを、酢酸緩衝液で3回、懸濁させ、洗浄した。ミクロスフェアを真空下に45℃で一晩乾燥させた。乾燥ミクロスフェアを篩によって分粒した。ミクロスフェアに負荷されたブリモニジンン遊離塩基のパーセントを、UVによって分析し、両方の実験において、眼内圧(IOP)をMedtronic Solan, Model 30標準空気眼圧計で測定した。
【0156】
II. 第二実験において、ニュージーランド白ウサギに、溶媒蒸発法によって作製した98wt%PLA(resomer 206)および2wt%酒石酸ブリモニジンから成るミクロスフェアの単一両側結膜下注射を行った。PLA resomer 206は、0.6dL/gmのインヘレント粘度を有する。
【0157】
ミクロスフェアを、ビヒクルとしてのIPBSに懸濁した酒石酸ブリモニジンミクロスフェアの単一100μL眼内注射として投与した。ミクロスフェアは、配合物中に10mg/mLミクロスフェアの濃度で存在し、従って、100μL注射は、980μgのPLAおよび20μgの酒石酸ブリモニジンを含有していた。
【0158】
同じミクロスフェア(98wt%PLAおよび2wt%酒石酸ブリモニジン)をまた、IPBS中に200mg/mLの濃度で配合し、従って、200μL注射によって、9.8mgのPLAおよび200μgのブリモニジンが投与された。作製されたプラセボミクロスフェアは、100wt%PLA(10mg/mL)または100wt%PLA100mg/mLを含有していた。注射されたミクロスフェアからのブリモニジンの持続放出を、投与後3ヵ月間にわたって観察した。
【0159】
この実験に使用した雌ニュージーランド白ウサギは、7〜10月齢であり、投与日において体重2.49〜3.36kgであった。実施した試験は、単一注射平行設計であり、10の処置グループ、および各動物から収集した非連続(non-serial)試料を使用した。試験のさらなる詳細は、下記の表4に示す。
【表4】

【0160】
表4に示されているように、20匹のウサギのそれぞれが、酒石酸ブリモニジン含有ミクロスフェア配合物の単一両側結膜下注射を受けた。
【0161】
視神経保護のための、網膜および虹彩毛様体に位置するブリモニジンの特定受容体標的が、ブリモニジン濃度2nMを必要とするので、持続放出ミクロスフェアの投与からの10倍高い濃度(10〜20nM;3〜6ng/mL)が、得るべき推奨標的濃度であると我々は判断した。
【0162】
持続放出ミクロスフェアに負荷された酒石酸ブリモニジンの量は、硝子体クリアランス(0.487mL/日)、およびブリモニジンの所望の標的治療濃度に基づいた。関係式Css=Ro/Cl[式中、Ro=送達速度、Css=定常状態濃度、Cl=硝子体クリアランス]とすれば、3ヵ月間にわたる薬物送達システムからのブリモニジンの必要とされる放出速度は、1.46〜2.92ng/日と算出された。10mg/mLおよび100mg/mLミクロスフェア懸濁液が、60日間にわたって1.4および14μgブリモニジン/日の放出速度を与えると我々は判断した。
【0163】
PLAミクロスフェア懸濁液の結膜下注射を、10mg/mL(20μg酒石酸ブリモニジン)および100mg/mL(200μg酒石酸ブリモニジン)ミクロスフェアに関して、以下の通りに行った。鉗子を用いて、背側頭四分円における眼球結膜を持ち上げた。ミクロスフェアまたはプラセボを結膜下腔に注射した。10mg/mLのミクロスフェアを100μLの量で投与した。
【実施例3】
【0164】
眼内ブリモニジンポリ乳酸インプラント(ウサギ)
I. テノン下配置
A. 第一実験において、酒石酸ブリモニジンPLAインプラントを、前テノン腔下に埋め込んだ。3つまたは6つの酒石酸ブリモニジンインプラント(各インプラントは400μgの酒石酸ブリモニジンを含有)を、ニュージーランド白ウサギの右眼の縁から上側頭に3〜4mmで前テノン下領域に埋め込んだ(インプラント配置が、図1の右下の角に写真で示されている)。3つのインプラント(従って、合計投与量1200μg)を3匹のウサギに配置し、6つのインプラント(従って、合計投与量2400μg)を3匹のウサギに配置し、プラセボインプラントを3匹のウサギに配置した。
【0165】
図1は、インプラントの配置が、50日間にわたって眼内圧の低下を生じ、用量反応が生じたことを示している。IOPは、空気眼圧計を使用して測定した。
【0166】
歯状鉗子を用いて、縁の後方約3〜4mmの結膜を持ち上げて、前テノン腔下にインプラントを配置した。Wescott鋏を使用して、結膜を差し込み(entered)、テノン筋膜を上強膜から切り離して、インプラントを配置するポケットを形成した。テノン下ポケットは、並列に配置した3つのインプラントとほぼ同じ大きさであった。この配置は、切開領域にインプラントを固定し、後方への移動の可能性を減少させた。一般に、インプラントは上強膜に縫合されず、非生侵食性インプラントについては、縫合は任意である。さらに、結膜創傷の縫合は任意であり、単一9-0ビクリル(vicryl)をxに使用して(using a single 9-0 vicryl in an x-fashion)行った。合計6つのインプラントを投与されたウサギにおいて、他方の3つのインプラントは、同じ手順を使用して、上鼻側四分円におけるテノン下に配置した。
【0167】
意義深いことに、観察期間を通して、ウサギの眼は白く、臨床的毒性の徴候がなかった。図1の写真において、3つの400μgブリモニジンインプラントの右側の、眼表面の僅かに赤い区域は、インプラントの存在と関係がなく、なぜなら、この区域は、強膜における直筋腱挿入部の血管化部位であるので、通常そのような有色(colored)または陰影(shaded)であるからである。この写真は、第21日に撮った。意義深いことに、ウサギの眼はインプラント投与から約7日後にこの図1の写真と同じ外観を有し、その後50日の観察期間にわたって眼はこの白い外観(高または高正常OSH評点)を維持し、50日の観察期間にわたって臨床毒性の徴候がなかった。
【0168】
インプラントの配合は、35wt%(400μg)酒石酸ブリモニジン、40wt% PLAポリマー(Resomer R203S)および25wt%第二PLAポリマー(Resomer R208)であった。インプラント重量は1.14mg±15%であった。二軸押出機を使用してインプラントを作製した。単一インプラントが、生体外で全400μgのブリモニジンを約7ヵ月間にわたって放出することを前もって確認した。
【0169】
即ち、生体外試験は、この400μg(35wt%)酒石酸ブリモニジンインプラントが、実質的に線形の放出プロフィールを有することを示し、該プロフィールにおいて、約10%のブリモニジンが第15日までに放出され、約33%が第30日まで、約55%が第60日まで、約68%が第90日まで、約75%が第120日まで、約100%が第150日〜第210日までにインプラントから放出された。
【0170】
プラセボインプラントを、ブリモニジン含有インプラントと同じ方法で作製し、但し、プラセボインプラントは、62wt% PLAポリマーResomer R203Sおよび38wt%第二PLAポリマーResomer R208を含んでいた。ウサギの眼に一緒に埋め込まれた6つの各個別インプラント(非プラセボ)は、7ヵ月間わたる6つのインプラントからの酒石酸ブリモニジン約2.4mgの合計放出のために、約7ヶ月間にわたって約400μgのブリモニジンを放出する(生体外放出試験によって確認)ように配合された。図1に示すように、これらのテノン下インプラントは、プラセボと比較して、降圧作用を示した。
【0171】
B. 第二実験において、我々は、ウサギの眼のテノン下位置に、ブリモニジンポリ乳酸ウエハインプラントを投与した。インプラントを全重量1mgのウエハ(熱加熱法によって作製)として配合し、該インプラントは、25wt%酒石酸ブリモニジンおよび75wt% PLAポリマーResomer R206を含有していた。これらのブリモニジンインプラントは、ウサギの前テノン腔下に配置され、3ヵ月の追跡期間にわたって充分に許容された(ウエハインプラントの埋め込みから7日後に無充血)。
【0172】
このように、10匹のニュージーランド白ウサギに、熱加圧法によって作製されたポリ乳酸ウエハの単一両側テノン下埋め込みを行った。ウサギは、7〜10月齢であり、投与日において体重2.49〜3.36kgであった。各ウエハは、約1mgの合計重量であり、25wt%(250μg)酒石酸ブリモニジンおよび75wt% PLA(resomer 206)(750μg)を含有していた。作製したプラセボウエハは、100wt% PLA resomer R206を含有していた。
【0173】
ウエハインプラントからの持続放出酒石酸ブリモニジンを、インプラント埋め込み後3ヵ月間にわたって観察した。この実験は、単一インプラント平行設計であり、5つの処置グループ、および各動物から収集した非連続試料を使用した。試験のさらなる詳細は、下記の表5に示す。
【表5】

【0174】
表5に示されているように、10匹の雌ウサギをこの試験に使用し、各処置グループにおいて2匹のウサギであった。10匹の動物のそれぞれに、酒石酸ブリモニジン含有ウエハ配合物の単一両側テノン下埋め込みを行った。
【0175】
動物に、縁から背直筋の側方に3mmの結膜切開の後に、前テノン腔下へのインプラント(ウエハ)の外科的埋め込みを行った。この実験に使用した酒石酸ブリモニジン持続放出インプラントのテノン下投与は、網膜へのブリモニジンの持続放出を与えることができる。我々は、PLAウエアが、30日間にわたる5μgブリモニジン/日、および90日までの1.25μgブリモニジン/日の放出速度を与えることを確認した。
【0176】
ウエハ薬物送達システムの外科的テノン下埋め込みを、以下のように行った。結膜切開を形成し(縁から背直筋の側方に3mm)、鉗子を用いて、背側頭四分円における眼球結膜を持ち上げた。適切な薬物送達システム物品またはプラセボを保持している滅菌鉗子を、前テノン腔下に導入した(投与した)。結膜を10〜0プロレン(prolene)縫合材で閉じた。
【0177】
これらの実験は、薬物送達システムをテノン下に埋め込んで、治療レベルの活性剤(例えばブリモニジン)を、前眼房(例えば、高い眼内圧を治療するため)および/または後眼房(網膜症状を治療するため)に与えうることを明らかにした。
【0178】
II. 脈絡膜上配置
この実験において、ニュージーランド白ウサギの眼に、酒石酸ブリモニジンロッド形インプラントを投与した。各インプラントは、200μgの酒石酸ブリモニジンを、インプラント全重量の35wt%として含有していた。インプラントの40wt%はPLA Resomer R203Sであり、残りの25wt%はPLA Resomer R208であった。インプラントは、二軸押出機を使用する溶融押出法によって作製した。各インプラントの重量は、約0.571mg±15%であった。インプラントを、右眼の縁から上側頭に3〜4mmで前脈絡膜上腔に配置した。幅2.3mmの三日月形(crescent angled)眼科用ブレードをインプラント部位に入れ、露出させた後に、鉗子を使用して2つのインプラント(合計投与量400μg)をウサギの眼の前脈絡膜上腔に配置した。切開区域を、1本の吸収性縫合糸で閉じた。上脈絡膜腔は、強膜と脈絡膜の間に存在する。各インプラントは、生体外で、約200μgの薬剤を約3〜4ヵ月間にわたって放出した。図5は、インプラントが眼内圧の低下を約35日間にわたって与え、いくらかの残留IOP低下作用が、約83日まで見られた。
【0179】
III. 強膜内配置
ニュージーランド白ウサギの右眼の縁から上側頭に3〜4mmで強膜内(前強膜内位置)に、2つの200μg酒石酸ブリモニジンインプラントを配置した。各インプラントは、200μg(35wt%)酢酸ブリモニジン、40wt% PLA Resomer R203S、および25wt% PLA Resomer R208から成っていた。インプラントを、二軸押出機を使用する溶融押出法によって作製した。1つのインプラントの重量は、約0.571mg±15%であった。インプラントを、鉗子によって強膜ポケットに配置した。
【0180】
インプラントは、生体外で、各インプラントから約200μgのブリモニジンを、約3〜4ヵ月間にわたって放出した。2つのインプラント(合計投与量400μg)を、幅2.3mmの三日月形眼科用ブレードで強膜に約50%の深さに形成された強膜内トンネルにおいて、1つのウサギの眼に配置した。そのように形成された強膜ポケットにインプラントを配置し、切開区域を、1本の吸収性縫合糸で閉じた。図4は、35日間にわたって眼内圧が減少し、徐々に基準線に戻ったことを示す。
【実施例4】
【0181】
テノン下ビマトプロストPLGAインプラント(イヌ)
この実験において、生分解性ロッド形ビマトプロスト含有インプラントを、6匹のイヌの眼に投与した。2匹のイヌはそれぞれ、3つの並列プラセボインプラントを投与され、2匹のイヌは、3つの並列薬剤含有インプラントを投与され、残りの2匹のイヌは、それぞれ6つの並列薬剤含有インプラントを投与された。各インプラントは、15wt%(150μg)ビマトプロスト、75wt% RG752Sおよび10wt% PEG3350から成っていた。各インプラントの重さは、約1mgであった。RG752Sは、D,L-ラクチド/グリコリド比が75:25のポリ(D,L-ラクチド-コ-グリコリド)ポリマーである。RG752Sは、0.1%クロロホルム中25℃において0.16〜0.24dl/gのインヘレント粘度を有し、Boehringer Ingelheim Chemicals. Inc. Petersburg, Virginiaから入手可能である。PEG-3350は、式[HO(C2H4O)nで示され、平均分子量3350を有する広く入手可能な合成ポリグリコールである。
【0182】
インプラントを溶融押出法によって作製した。単一インプラントは、生体外で、約150μgのビマトプロストを2〜3ヵ月間にわたって放出し、約10%のビマトプロストが約10日後に、約35%が約20日後に、約50%が約30日後に、約80%が約40日後に、生体外で放出されることが前もって確認された。この実験において、ビマトプロストインプラントを、イヌ(ビーグル)の左眼の縁から上側頭に3〜4mmで前テノン下領域に配置した。埋め込みされたイヌの眼の1つに関する図2は、約12mmHgまでの眼内圧の低下が生じ、IOP低下が、このイヌの眼へのブリモニジンインプラント投与後の全82日間にわたって観察されたことを示す。
【実施例5】
【0183】
結膜下ブリモニジンポリオルトエステルインプラント(ウサギ)
この実験において、ポリオルトエステルポリマーを基剤とする薬物送達システムを結膜下に埋め込んで、治療レベルの活性剤(例えばブリモニジン)を、前眼房(例えば、高い眼内圧を治療するため)および/または後眼房(網膜症状を治療するため)に与えうることを我々は確認した。この実施例において、いくつかのポリオルトエステル(POE)インプラント(ロッド)を作製し、3種類のPOE配合インプラントを、ウサギの眼の結膜下に眼内挿入した。挿入した3つのPOEインプラント配合物のうちの2つ(ロット1およびロット2)の詳細を、以下に示す。
【0184】
作製した各POEインプラント配合物は、先に記載した溶融押出法によって作製された1mgロッド形インプラントであった。各インプラントは、20wt%(または200μg)ブリモニジンおよび80wt%(または800μg)POEから成っていた。POEは、3,9-ジエチリデン-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン(DETOSU)、シクロヘキサンジメタノール(CDM)、トリエチレングリコール(TEG)および1,10-デカンジオール(DD)の重縮合によって生成されたポリ(オルトエステル)ポリマーであった。トリエチレングリコールグリコリド(TEG-GL)を潜伏性酸性触媒として添加して、POE主鎖の加水分解を開始した。POEポリマー分子量は、約30,000〜約35,000ダルトンであった。
【0185】
この実験において、ニュージーランド白ウサギに、ポリ-オルト-エステルロッドインプラントの単一両側結膜下埋め込みを行った。作製したプラセボは、100wt% POEポリマーを含有していた。
【0186】
POEインプラントからの酒石酸ブリモニジンの持続放出が、インプラント投与後3ヵ月間にわたって観察された。
【0187】
全30匹の雌ニュージーランド白ウサギをこの実験に使用した(10匹の各ウサギに、3つのブリモニジンPOEインプラント配合物の1つを投与した)。
【0188】
動物は、7〜10月齢であり、投与日において体重2.49〜3.36kgであった。実施した試験は、単一インプラント平行設計試験であった。試験のさらなる詳細が、使用した3つのPOEインプラント配合物の2つに関して、下記の表6に示されている。
【表6】

【0189】
ロット1インプラントのPOEは、98 DETOSU、40 CDM、45 DD 10 TEG、および5 TEG GLから成っていた(相対重量比率)。 ロット2インプラントのPOEは、98 DETOSU、40 CDM、55 DD 0 TEG、および5 TEG GLから成っていた(相対重量比率)。
【0190】
各ウサギに、酒石酸ブリモニジン含有ロッド配合物の、単一両側結膜下埋め込みを行った。ロット1およびロット2の2つのPOEロッドインプラントは、それぞれ、2.2および2.6μg/日の生体内ブリモニジン放出速度を与えた。
【0191】
ウサギに、縁から背直筋の側方に3mmの結膜切開を行い、鉗子を用いて、背側頭四分円における眼球結膜を持ち上げた後に、結膜下腔へのPOEインプラント(ロッド)の結膜下外科的埋め込みを行った。適切な薬物送達システム物品またはプラセボを保持している滅菌鉗子を、結膜下腔に導入した(投与した)。結膜を10〜0プロレン縫合材で閉じた。
【実施例6】
【0192】
眼内ビマトプロストミクロスフェア(イヌ)
25ゲージ針を有する注射器を使用して、6匹のイヌ(ビーグル)の左眼の縁から上側頭に3〜4mmで前テノン下領域にビマトプロストミクロスフェアを注射した。
【0193】
ミクロスフェアは、冷却PLG溶液法を使用してBrookwood Pharmaceuticalsによって製造されたPLGA(75:25-酸)ミクロスフェアであった。ミクロスフェアは6.8wt%ビマトプロストを含有していた。生体外放出速度は、13日間にわたって、ビマトプロストの累積放出が25%であることを示した。合計放出時間は、約6〜8週間であると推定された。
【0194】
合計6匹のイヌをこの試験に使用した。3匹のイヌは、合計300μgのビマトプロストを含有するミクロスフェアを投与され、3匹のイヌは、合計600μgのビマトプロストを含有するミクロスフェアを投与された。図3は、600μgミクロスフェア配合物注射を受けたイヌの眼におけるIPOの基準線からの低下をグラフで示し、この動物におけるこのビマトプロストミクロスフェアが、36日の観察期間にわたって10mgHgまでのIOP低下を与えたことを示している。
【0195】
第二実験において、親油性プロスタミド(20wt%、1mgインプラント中に約200μgの薬剤)2ディスクインプラント(2)を、2匹のイヌ(ビーグル)の左眼の縁から上側頭に3〜4mmで前テノン下領域に配置した。単一インプラントは、生体外で、約100〜200μgの薬剤を約1ヵ月間にわたって放出した。対照については、プラセボインプラントを、2匹の他のイヌの同じ位置に配置した。図6は、50日の観察期間にわたって、プラセボ(「片方の眼」)と比較した眼内圧の低下を示している。
【0196】
歯状鉗子を用いて、縁の後方約3〜4mmの結膜を持ち上げることによって、前テノン腔下にインプラントを配置した。Wescott鋏を使用して、結膜を差し込み、テノン筋膜を上強膜から切り離して、インプラントを配置するポケットを形成した。インプラントを上強膜のポケットに配置し、結膜を9-0ビクリル縫合糸で閉じた。
【0197】
使用した親油性プロスタミドは、眼圧降下活性を有する合成プロスタミド類似体であった。使用した親油性プロスタミドの化学名は、7-{2-[5-(3-フルオロ-4-メチル-チオフェン-2-イル)-3-メトキシ-ペンタ-1-エニル]-3,5-ジヒドロキシ-シクロペンチル}-ヘプタ-5-エン酸エチルアミドである。分子式はC25H38F1N1O4S1であり、分子量は467.64である。使用した親油性プロスタミドの構造式は、以下の通りである:
【化2】

【0198】
インプラントは、直接圧縮法を使用して作製した。先ず、親油性プロスタミドを、20wt%において、50:50 ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)(Boehringer-Ingelheim, RG502)と混合した。次に、混合物を、Parr Pellet Pressで直接的に圧縮してペレットにした。各インプラントについて、5mgの20%親油性プロスタミドおよびRG502ブレンドを、3mmダイに装填した。次に、150ポンドの圧力を10秒間加えることによって、パンチがブレンドをタブレットに圧縮した。インプラントの最終アッセイ値は、5mgのインプラントにつき1.12mgの親油性プロスタミドであった。
【0199】
1つのインプラントを、20mLのガラスシンチレーションバイアル中の20mLの等張燐酸緩衝生理食塩水(受容媒質(receiver media))に入れることによって、生体外放出試験を行った。インプラントを37℃で振とうし、適切な時点で、受容媒質を完全に、新しい等張燐酸緩衝生理食塩水と交換した。除去した各アリコートを、放出された親油性プロスタミドについてHPLCによって分析した。6日後に、約35〜40%の親油性プロスタミドがこの生体外アッセイにおいて放出されたことを我々は見出した。
【実施例7】
【0200】
硝子体内ブリモニジンインプラント
この実験において、急性および慢性網膜傷害、疾患および症状を治療し、糖尿病性黄斑虚血を有する患者の視力およびコントラスト感度を向上させ、網膜神経保護を与え、糖尿病性網膜症に関連した変化、例えば小血管瘤(これは、血管漏出および黄斑水腫に関連しうる)に関連した変化を予防するための、硝子体内投与用のブリモニジン薬物送達システムを作製した。
【0201】
ポリ(D,L-ラクチド-コ-グリコリド)生分解性ポリマーを使用するかまたは使用せずに、ポリ(D,L-ラクチド)生分解性ポリマーに、治療薬酒石酸ブリモニジンを分散させることによって、硝子体内投与に好適な円柱形(ロッド形)インプラントを作製した。ピストン駆動押出機または二軸押出機/マイクロコンパウンダー(Daca)を使用する溶融押出によって、インプラントを作製した。ピストン押出機で作製したブリモニジンインプラントは、ブリモニジンを約1ヵ月間にわたって放出することができる。Daca押出機で作製したインプラントは、ブリモニジンを3〜4ヵ月間にわたって放出することができる。インプラントの直径は約0.46mm(0.457mm±0.013mm)であり、長さは、種々の投与量を収容するために約2mm〜約6mmの範囲である。インプラントの重さは、約0.4mg〜約1.2mgの範囲である。
【0202】
低濃度(50μg酒石酸ブリモニジン)インプラントを、ピストン押出機で作製した。ブリモニジンおよびポリマーを、押出機バレルに添加するかなり前に、Turbula振とう機(Glenn Mills Inc., Type T2F)に据え付けたステンレス鋼混合カプセルにおいて、混合し、ブレンドし、次に、混合物を加熱し、次に、加熱混合物を機械駆動カムによってダイに通した。
【0203】
Daca押出機インプラントは、ブリモニジンおよびポリマーをTurbula振とう機で混合しブレンドすることによって作製した。次に、粉末ブレンドをDaca二軸押出機/マイクロコンパウンダーに漸増的に添加した。押出バレル温度は、87〜93℃以内に調節した。いったん押出機温度を設定すれば、バレル温度を設定値の±1℃以内に維持することができる。得られたフィラメントを、所望の投与量に依存して、約0.4mg〜約1.2mgの重さの2mm〜6mmの長さのインプラントを生じる長さに切断した。Daca作製インプラントは、ピストン押出機で作製したインプラントより平滑であり、より低い多孔性であった。これは、インプランへの媒質のより遅い透過、従って、より遅い薬剤放出を生じる。インプラントは、酒石酸ブリモニジンが生分解性ポリマーマトリックスに分散された円柱形固体インプラントであった。溶媒または他の加工助剤は、いずれの方法にも使用されなかった。
【0204】
これらのインプラントの2つの実施形態がある:50または100μg用量の酒石酸ブリモニジンを送達する低濃度配合インプラント、および200または400μg用量の酒石酸ブリモニジンを送達する高濃度配合インプラント。投与量は、各配合物について、DDSインプラントの長さによって決まる。従って、50μgインプラントは、100μgインプラントの半分の長さであり、200μgインプラントは、400μgインプラントの半分の長さである。
【0205】
低濃度および高濃度配合物の組成を、下記の表7に示す。
【表7】

【0206】
インプラントは、関連米国特許第6899717号及び第7090681号並びに米国特許出願公開第2005 0203542号および第2005 01543399号に示されている1つまたはそれ以上のアプリケーターを使用して、硝子体内投与することができる。アプリケーターは、インプラントを含有するカニューレ付きの針を含んで成る。針は、Dow 360CFシリコーン油で外側を潤滑にされた22ゲージの薄肉皮下注射針であってよい。シリコーンゴムスリーブを、ハブ(hub)から針の切欠き(cut-out)において、針に配置することができる。スリーブは、インプラントを所定位置に保持するために、針の切欠きにはまる遠位末端における小リングを有する設計にしうる。挿入の間、スリーブは眼の外に留まり、結膜と接触することができる。
【0207】
3つのポリマー賦形剤を使用して、我々のブリモニジン硝子体内インプラントの2種類の配合物を調製した。1つの配合物は、50および100μg用量の酒石酸ブリモニジンを送達し、もう一方の配合物は200および400μg用量の酒石酸ブリモニジンを送達する。低濃度インプラント配合物は、2つの異なる分子量のポリ(D,L-ラクチド)(PLA)生分解性ポリマー(Resomer R203SおよびResomer R208)および50:50ポリ(D,L-ラクチド-コ-グリコリド)(PLGA)生分解性ポリマー(Resomer RG502H)を含有していた。高濃度配合物は、低濃度配合物と同じ2つの生分解性ポリ(D,L-ラクチド)ポリマーを含有していたが、PLGAポリマーは含有していなかった。全てのポリマー賦形剤は、Boehringer IngelheimによってcGMP条件下に製造されている。
【0208】
インプラントは、下記のPLAポリマーを使用して作製できる:(1)Rosomer(登録商標)R203およびResomer(登録商標)R206;(2)Resomer(登録商標)R203SおよびResomer(登録商標)R208;または(3)Resomer(登録商標)R203S、Resomer(登録商標)R208およびResomer(登録商標)RG502H(後者は、ポリ(D,L-ラクチド-コ-グリコリド)コポリマーである)。
【0209】
我々のインプラントは、下記の表8に示すように、2つのPLAポリマー(Resomer R203およびResomer R206)、ならびに200μgの酒石酸ブリモニジンのブレンドを使用して製造できる。
【表8】

【0210】
低濃度配合物は12%酒石酸ブリモニジンであり、高濃度配合物は35%酒石酸ブリモニジンである。一般に、20%未満の薬剤負荷を有するインプラントは、溶解の初期に薬剤を放出するために、インプラントの表面に充分な薬剤を有さず、従って、親油性PLGAポリマーを低濃度マトリックスに添加して、溶解の初期に薬剤放出を促進させる。インプラントにおける酒石酸ブリモニジン用量は、個々の配合物についてインプラントの長さによって決まった。例えば、50μgインプラントは100μgインプラントの半分の長さであり、200μgインプラントは400μgインプラントの半分の長さである。2つの配合物の特性が、下記の表9に示されている。
【表9】

【0211】
【表10】

【0212】
【表11】

【0213】
【表12】

【0214】
【表13】

【0215】
低濃度50μgブリモニジンインプラントの酒石酸ブリモニジンインプラント加速薬剤放出プロフィールを、高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)によって測定した。40℃および速度50rpmに維持された振とう水浴中の、燐酸緩衝生理食塩水(PBS、pH7.4)および0.5% Triton(登録商標)X100から成る媒質において、薬剤が21日間にわたって放出された。試験は、第1日、第10日および第21日において、媒質のアリコートを除去することから成った。各時点において、試料を、下記から成るHPLC系に注入した:Waters Symmetry C-18カラム(4.6 x 150mm、3.5μm);移動相:17mM燐酸カリウム緩衝液および0.24mMヘプタンスルホン酸(ナトリウム塩)を含有し、pHを燐酸で3.0に調節した水/アセトニトリル/メタノール(84/8/8、v/v/v)を使用。
【0216】
50μgの酒石酸ブリモニジンが、生体外でインプラントから完全に放出されるのに約22日を要し、検出されたブリモニジンの濃度は一般に約0.5ppm〜6ppmの範囲である。我々のインプラントにおける治療薬は、代替的に、クロニジンまたはアプラクロニジンであってよい。
【0217】
第30日までに、生体内硝子体液において95〜99%のブリモニジンが、ピストン押出された50μg酒石酸ブリモニジンインプラントから放出されたことを我々は見出した。1つおよび2つのインプラントからの網膜薬剤レベルが、それぞれ第42日および第90日まで検出可能であった。200μg用量/動物までの全身的薬剤レベルは検出されず、これは、眼組織への選択的送達が行われたことを示した。
【0218】
ブリモニジンインプラントを生分解性固体ロッドとして配合し、該ロッドは、眼の硝子体に挿入され、6ヵ月までの期間にわたって酒石酸ブリモニジンをゆっくり放出する。インプラントからの酒石酸ブリモニジンのゆっくりした放出は、持続的な非毒性の日用量を生じ、網膜細胞の長期神経保護を与える。
【0219】
前記の実施例で行った実験が、前眼位置、例えばテノン下位置にインプラントを投与する我々の特定手順の開発、ならびに好ましくかつ代替的なインプラント形態および含有物に導いた。第一に、我々は、インプラントの縁において結膜の侵食が起こり得ること、そして、これによりインプラントの押出(即ち、インプラントの眼からの飛び出し)が必ず生じることを見出した。押出の発生を減少させるために、インプラントは、好ましくは、ロッドまたは円筒形インプラントであり、なぜなら、そのようなインプラントの形は、眼に充分受け入れられ、好適なカニューレ口径の注射器を使用して投与するのが容易であるからである。より好ましくは、インプラントの全ての端(例えば、円筒形インプラントの2つの末端)を丸めるか、平滑にし、その結果、インプラントがどのような端も呈さず、それに代わって平滑連続湾曲を呈する。
【0220】
第二に、インプラントを、好ましくは、縁から2mmより大きい(即ち、縁から2mmより大きく約10mmまで)の前テノン下位置に配置する。我々は、縁から2mm以内にインプラントを配置することが、結膜の端における侵食の可能性を増加させることを見出し、その理由はおそらく、その位置において上眼瞼縁がインプラントを捕捉し、これらの定荷重が結膜へのストレスを生じうるからである。第三に、柔軟性(malleable)インプラント、例えばシリコーン製インプラントが、結膜侵食の発生を減少しうることを我々は確認し、なぜなら、それらは眼球の端の湾曲によく適合することができ、それにより上眼瞼の通過の際にほとんど何も与えないからである。従って、柔軟性インプラントは、縁から2mm未満の前眼内位置への投与に好適でありうる。
【0221】
第四に、より小さいインプラント、例えば、長さ約2mmまたはそれ以下、幅0.5mmまたはそれ以下のロッド形インプラントは、押出される可能性が低いことを我々は確認した。そのようなより小さいインプラントの場合、より高いwt%薬剤負荷および/または同じ位置に配置される複数のインプラントの使用を必要とする。
【0222】
第五に、眼の上方または上部が、下方または下部の眼四分円位置と比較して、薬剤濃度を増加させるために眼へインプラント投与するのに、より適した位置であることを我々は見出した。結膜の主要除去機構は、リンパ排液系による。リンパ管は二層で存在する:結膜上皮のすぐ下の1つの微細網;他方と連絡する別の層であって、テノン筋膜の中間帯に存在し、より大きい直径のリンパ管を有する層。リンパ管は、前結膜の周囲に拡散的に存在し、下側頭領域および下鼻側領域の両方に存在するより大きいリンパ管を通って排液する。ここから、リンパ管は、頚部リンパ節および内側リンパ節鎖にそれぞれ合流する。それらは、さらに、下位で排液し、最後により大きいリンパ管、例えば胸管に入り、次に、静脈血系に入る。眼におけるリンパ液の正味移動は、上方から下方(上方眼表面から下方眼表面)であり、薬物送達システムを上強膜において上方に配置することは、より長い眼薬剤接触時間を可能にし、これは眼における薬剤濃度を増加しうる。逆に、インプラントを下方に配置することは、放出される薬剤が主要リンパ除去本幹により近いので、より短い接触時間となる。注目すべきことに、現在の技術(the art)は、薬物送達システムインプラントを眼の下方四分円に配置することを教示しており、なぜなら、上眼瞼が下眼瞼よりかなり多く動くという極めて単純な理由により、下眼瞼が上四分円と比較してインプラント押出を生じる可能性がより低いからである。このように、我々が推奨する上四分円インプラント配置は、前記の理由から、反直観的である。
【0223】
第六に、インプラントへの強膜浸透促進剤の添加は有用になりうる。通常、強膜は解剖学的関門であり、プロスタグランジンおよび/または防腐剤、例えば塩化ベンザルコニウムの添加は、強膜を通る薬剤浸透を増加しうる。我々の発見は、強膜浸透促進剤および降圧活性剤の両方を、インプラントから溶出しうることである。
【0224】
第七に、我々は、2つまたはそれ以上の高圧剤をインプラントに添加することができる。例えば、併用点眼剤における酒石酸ブリモニジンへのチモロールの添加は、IOP降下作用を強化しうることが以前に示されている。さらに、β遮断薬をプロスタミド/プロスタグランジンに添加することができ、これは、結膜充血を減少しうる。α作用薬またはプロスタミド/プロスタグランジンへのβ遮断薬の添加は、眼アレルギーまたは充血を減少しうる。
【0225】
前記の全ての文献、論文、特許、出願および刊行物は、それらの全内容が参照により本明細書に組み入れられる。
【0226】
従って、以下の特許請求の範囲の精神および範囲を、前記の推奨実施形態の記載に限定すべきでない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) 複数のミクロスフェア、および
(b) ミクロスフェア用の水性ビヒクル、
を含んで成り;
該ミクロスフェアが、
(1) エストラジオールである治療薬、および
(2) 全ての生分解性ポリマーががポリ乳酸(PLA)ポリマーである1つまたはそれ以上の生分解性ポリマー、
から本質的に成り;
該薬物送達システムが、20〜30ゲージ注射針によって該薬物送達システムを眼内位置に注射することを可能にする粘度を有する、生物適合性の注射可能な眼内薬物送達システム。
【請求項2】
エストラジオールが、2-メトキシエストラジオールである請求項1に記載の薬物送達システム。
【請求項3】
エストラジオールが、ミクロスフェアの重量の約20wt%〜約50wt%を占め、PLAポリマーが、ミクロスフェアの重量の約50wt%〜約80wt%を占める請求項1に記載の薬物送達システム。
【請求項4】
PLAポリマーが、ポリ(D,L)ラクチドポリマーである請求項1に記載の薬物送達システム。
【請求項5】
PLAポリマーが、約1dL/gm〜約1.4dL/gmのインヘレント粘度を有する請求項1に記載の薬物送達システム。
【請求項6】
ミクロスフェアが、約2ミクロン〜約6ミクロンの平均直径を有する請求項1に記載の薬物送達システム。
【請求項7】
(a) 約2ミクロン〜約6ミクロンの平均直径を有する複数のミクロスフェア、および
(b) ミクロスフェア用の水性ビヒクル、
を含んで成り;
該ミクロスフェアが、
(1) ミクロスフェアの重量の約20wt%〜約50wt%を占める2-メトキシエストラジオール、および
(2) 全ての生分解性ポリマーが約1dL/gm〜約1.4dL/gmのインヘレント粘度を有するポリ(D,L)ラクチドポリマーであり、該PLAポリマーがミクロスフェアの重量の約50wt%〜約80wt%を占める1つまたはそれ以上の生分解性ポリマー、
から本質的に成り;
該薬物送達システムを20〜26ゲージ注射針によって眼内位置に注射することができる、生物適合性の注射可能な眼内薬物送達システム。
【請求項8】
(a) 複数のミクロスフェア、およびミクロスフェア用の水性ビヒクルを含んで成る生物適合性薬物送達システムを準備する工程であって、該ミクロスフェアが、エストラジオールである治療薬、およびり、全ての生分解性ポリマーがポリ乳酸(PLA)ポリマーである1つまたはそれ以上の生分解性ポリマーから本質的に成る工程;および、
(b) 薬物送達システムを20〜26ゲージ注射針によって眼内位置に注射し、それによって眼症状を治療する工程;
を含んで成り;
有意な眼表面充血を生じない、眼症状を治療する方法。
【請求項9】
眼内位置が、テノン下、結膜下または眼球後眼内位置である請求項1に記載の方法。
【請求項10】
(a) 複数のミクロスフェア、および
(b) ミクロスフェア用の水性ビヒクル、
を含んで成り;
該ミクロスフェアが、
(1) α2アドレナリン作用薬である治療薬、および
(2) 全ての生分解性ポリマーががポリ乳酸(PLA)ポリマーである1つまたはそれ以上の生分解性ポリマー、
から本質的に成り;
該薬物送達システムが、24〜30ゲージ注射針によって該薬物送達システムを眼内位置に注射することを可能にする20℃における粘度約15,000cps〜約100,000cpsを有する、生物適合性の注射可能な眼内薬物送達システム。
【請求項11】
α2アドレナリン作用薬が、ブリモニジンである請求項10に記載の薬物送達システム。
【請求項12】
α2アドレナリン作用薬が、ミクロスフェアの約0.5wt%〜約15wt%を占め、PLAポリマーがミクロスフェアの約85wt%〜約99.5wt%を占める請求項10に記載の薬物送達システム。
【請求項13】
PLAポリマーが、ポリ(D,L)ラクチドポリマーである請求項10に記載の薬物送達システム。
【請求項14】
PLAポリマーが、約0.4dL/gm〜約0.8dL/gmのインヘレント粘度を有する請求項10に記載の薬物送達システム。
【請求項15】
ミクロスフェアが、約8ミクロン〜約14ミクロンの平均直径を有する請求項10に記載の薬物送達システム。
【請求項16】
ミクロスフェアが、約0.5μg/日〜約20μg/日のα2アドレナリン作用薬を、約10日〜約100日の期間にわたって放出することができる請求項10に記載の薬物送達システム。
【請求項17】
(a) 約8ミクロン〜約14ミクロンの平均直径を有する複数のミクロスフェア、および
(b) ミクロスフェア用の水性ビヒクル、
を含んで成り;
該ミクロスフェアが、
(1) ミクロスフェアの約0.5wt%〜約15wt%を占めるブリモニジン、および
(2) 全ての生分解性ポリマーが約0.4dL/gm〜約0.8dL/gmのインヘレント粘度を有するポリ(D,L)ラクチドポリマーであり、該PLAポリマーがミクロスフェアの約85wt%〜約99.5wt%を占める1つまたはそれ以上の生分解性ポリマー、
から本質的に成り;
該薬物送達システムを20〜26ゲージ注射針によって眼内位置に注射することができ、該ミクロスフェアが約0.5μg/日〜約20μg/日のブリモニジンを約10日〜約100日の期間にわたって放出することができる、生物適合性の注射可能な眼内薬物送達システム。
【請求項18】
(a) 複数のミクロスフェア、およびミクロスフェア用の水性ビヒクルを含んで成る生物適合性薬物送達システムを準備する工程であって、該ミクロスフェアが、ブリモニジンである治療薬、および、全ての生分解性ポリマーがポリ乳酸(PLA)ポリマーである1つまたはそれ以上の生分解性ポリマーから本質的に成る工程;および、
(b) 薬物送達システムを20〜26ゲージ注射針によって眼内位置に注射し、それによって眼症状を治療する工程;
を含んで成り;
有意な眼表面充血を生じない、眼症状を治療する方法。
【請求項19】
眼内位置が、テノン下、結膜下または眼球後眼内位置である請求項1に記載の方法。
【請求項20】
(a) α2アドレナリン作用薬、および全ての生分解性ポリマーがポリ乳酸(PLA)ポリマーまたはポリオルトエステルである1つまたはそれ以上の生分解性ポリマーから本質的に成るインプラントを含んで成る生物適合性薬物送達システムを準備する工程であって、工程;および、
(b) 薬物送達システムを眼内位置に埋め込み、それによって眼症状を治療する工程;
を含んで成り;
有意な眼表面充血を生じない、眼症状を治療する方法。
【請求項21】
眼内位置が、テノン下、結膜下、脈絡膜上、強膜内または眼球後眼内位置である請求項20に記載の方法。
【請求項22】
(a) プロスタグランジン類似体、および全ての生分解性ポリマーがポリ乳酸(PLA)ポリマーまたはポリオルトエステルである1つまたはそれ以上の生分解性ポリマーから本質的に成るインプラントを含んで成る生物適合性薬物送達システムを準備する工程;および、
(b) 薬物送達システムを眼内位置に埋め込み、それによって眼症状を治療する工程;
を含んで成り;
有意な眼表面充血を生じない、眼症状を治療する方法。
【請求項23】
(a) α2アドレナリン作用薬、および1つまたはそれ以上の生分解性ポリ乳酸(PLA)ポリマーから本質的に成るインプラントを含んで成る生物適合性薬物送達システムを準備する工程;および、
(b) 薬物送達システムを硝子体内位置に埋め込み、それによって眼症状を治療する工程
を含んで成る、眼症状を治療する方法。
【請求項24】
α2アドレナリン作用薬が、酒石酸ブリモニジンである請求項23に記載の方法。
【請求項25】
(a) 酒石酸ブリモニジン、および1つまたはそれ以上の生分解性ポリ乳酸(PLA)ポリマーから本質的に成るインプラントを含んで成る生物適合性薬物送達システムを準備する工程;および、
(b) 薬物送達システムを前テノン腔下に埋め込み、それによって眼内圧を降下させる工程
を含んで成る、眼内圧を降下させる方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2010−511433(P2010−511433A)
【公表日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−539402(P2009−539402)
【出願日】平成19年11月9日(2007.11.9)
【国際出願番号】PCT/US2007/084224
【国際公開番号】WO2008/070402
【国際公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【出願人】(591018268)アラーガン、インコーポレイテッド (293)
【氏名又は名称原語表記】ALLERGAN,INCORPORATED
【Fターム(参考)】