説明

眼用レンズ物品の製造方法及びそれに用いられる製造装置

紫外線ランプに起因する問題を悉く解消すること、及び、安定した品質を有利に確保することの出来る眼用レンズ物品の製造方法、及びそれに用いられる眼用レンズ物品の製造装置を提供すること。 光透過性材料からなる上型26と下型28との型合わせにより、目的とする眼用レンズ物品を与える形状の成形キャビティ30が形成される成形型10を用い、かかる成形キャビティ30内に、モノマー液50を充填する一方、その充填されたモノマー液50の重合を、成形型10の上下の少なくとも一方の型の側に設置されたLED光源12から照射される光で行なうことにより、眼用レンズ物品をモールド成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼用レンズ物品の製造方法及びそれに用いられる製造装置に係り、特に、光重合の際の光源としてLEDを用いて、眼用レンズ物品を有利に製造することの出来る方法及びそれに用いられる製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、コンタクトレンズや眼内レンズの如き眼用レンズ、またはその半完成品、例えば、一方の面が完成されたレンズ面形状に成形されている一方、他方の面が、レンズ面としては未だ完成されていない、切削加工等の後加工を必要とする形状に成形された、前記眼用レンズを与える眼用レンズ材料、更には両面切削等の加工によって、目的とするコンタクトレンズや眼内レンズが形成されるレンズブランク等の、所謂眼用レンズ物品の製造方法の一つとして、雄型と雌型との組合せや上型と下型との組合せ等のように、第一の型と第二の型とを組み合わせて型合わせを行い、それらの型の間に、前記眼用レンズ物品を与える形状の成形キャビティが形成されるように構成した、樹脂材料等の光透過性材料からなる成形型を用い、この成形型の成形キャビティ内に、所定のモノマー液を充填した後、UV光を照射することにより、成形型を透過するUV光にて、充填されたモノマー液を重合せしめて、目的とする眼用レンズ物品をモールド成形するようにした技術が、知られている。
【0003】
ところで、このようにして眼用レンズ物品を製造するに際しては、通常、バッチ方式が採用されており、1つの光源から照射されたUV光で、多数の眼用レンズ物品がモールド成形されている。この際、光源としては、一般に、キセノンランプや、水銀ランプ、重水素ランプ等の紫外線ランプが用いられ、このような紫外線ランプからのUV光が、光重合を同時に行なう複数の成形型の全てに万遍なく均一に照射されるように、従来より各種の工夫がなされてきている。例えば、ドーム状のハウジングの内面にミラー等の反射板を設置して、かかるドーム状のハウジングの頂部に配設された光源から放射されるUV光を該反射板で反射させることにより、全ての成形型の成形キャビティ内に充填されるモノマー液に、UV光が略一定の放射照度で照射されるように、調整を行なっている。
【0004】
しかしながら、このようにして、ミラー等の反射板を用いて光照射を行なっても、全ての成形型に対して同様に光を照射することは極めて困難であり、成形型の配置される部位によっては、UV光が充分に照射されないといった問題があった。そして、このような不均等な光照射の下で、モールド成形操作が同時に行なわれた眼用レンズ物品にあっては、所謂製造ロット番号が同一な眼用レンズ物品であっても、例えば、複数の成形型が並べられたうちの中央部に配置されたものと、端部に配置されたものとでは、重合度や架橋結合度が異なってしまうといった問題が、しばしば生じていたのである。また、重合度や架橋結合度が異なることによって、レンズ物性やレンズ形状に悪影響が生じ、例えば、或るコンタクトレンズにあっては、そのエッジが明確に形成されない等、品質にバラツキが生じていたのである。
【0005】
また、従来より光源として汎用されている紫外線ランプは、モノマー液を光重合するのに必要とされる波長の光以外に、レンズ材質に弊害をもたらすような不必要な波長の光を発生するため、そのような波長の光によって悪影響が及ぼされないように、光フィルター等の遮蔽手段によって、余分な波長の光をカットする必要があった。更に、紫外線ランプは、ランプ寿命が短いところから、交換頻度が高く、交換の度毎に、UV光が成形型中のモノマー液に所定の放射照度で照射され得るように、煩雑な放射照度設定を行なわなければならなかったのである。加えて、紫外線ランプは、発熱するところから冷却を行なう必要があると共に、点灯後、放射照度が安定するまでに時間が掛かり、また、点灯時間が長くなると、放射照度が低下するといった欠点をも内在している。
【0006】
一方、特表2003−503234号公報(特許文献1)においては、生体適合性がある重合性材料からなる眼用成形品の一定した品質を確保することを目的として、多数の光ファイバーを紫外灯に接続し、かかる光ファイバーを、それぞれ、多数ある注型成形用型のうちの一つに取り付け、そして、紫外灯からのUV光を、該光ファイバーを通じて成形型に照射して、モールド成形を行なうようにした手法が、明らかにされている。
【0007】
このように、多数の成形型に対して、紫外灯の光を直接照射するのではなく、複数の光ファイバーを通じて、それぞれの成形型毎に光を照射するようにすれば、成形型の配置場所の違いによる、光の照射ムラの発生を防止して、各成形型に均等にUV光を照射することが出来るようになる。しかしながら、紫外灯自体において、均一な放射照度を確保し得る部位が狭く、一つの紫外灯に取り付けることの出来る光ファイバーの数にも限界があった。更に、かかる手法では、複数の光ファイバーを紫外灯に取り付ける作業が煩雑であったり、光ファイバーで光が損失する等の問題が内在している。しかも、紫外灯を点灯することによって発生する熱を逃がすためのクーリングが必要となったり、また、紫外灯の使用時間に伴う放射照度変化の問題、更には、紫外灯が壊れた場合に、多数の成形型に影響が及ぼされる等の、紫外線ランプに起因する問題が、依然として、払拭されていないのである。
【0008】
また、特開昭59−215838号公報(特許文献2)においても、紫外線照射光源とキャビティ又はキャビティコアとを光ファイバーで光学的に連結して、高価な光源を複数の成形型で兼用するようにした成形装置が提案されているが、そこでも、上記特許文献1と同様な問題が内在している。
【0009】
【特許文献1】特表2003−503234号公報
【特許文献2】特開昭59−215838号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、紫外線ランプの使用に起因する上記した問題を悉く解消して、安定した品質を有利に確保することの出来る眼用レンズ物品の製造方法、及びそれに用いられる眼用レンズ物品の製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そして、本発明は、上述の如き課題を解決するために為されたものであって、その第一の態様とするところは、光透過性材料からなる上型と下型とを型合わせすることにより、それらの型の間に、眼用レンズやその半完成品、レンズブランク等の、目的とする眼用レンズ物品を与える形状の成形キャビティが形成されるようにした成形型を用い、かかる成形キャビティ内に、モノマー液を充填する一方、該成形型の上下の少なくとも一方の型の側に設置されたLEDから光を照射することにより、該成形型を透過する光にて、前記成形キャビティに充填されたモノマー液を光重合して、前記目的とする眼用レンズ物品をモールド成形することを特徴とする眼用レンズ物品の製造方法にある。
【0012】
また、本発明に従う眼用レンズ物品の製造方法における第二の態様にあっては、前記成形型が複数配置され、かかる成形型の一つ毎に、前記LEDが設置される構成が、有利に採用されることとなる。
【0013】
さらに、本発明に従う眼用レンズ物品の製造方法の第三の態様においては、前記上型が凸面状の成形キャビティ面を有する雄型である一方、前記下型が凹面状の成形キャビティ面を有する雌型であり、前記LEDが、該雄型から上方に離隔した位置で、且つ成形される眼用レンズ物品の光軸上に設置される。
【0014】
加えて、本発明に従う眼用レンズ物品の製造方法の第四の態様においては、前記モノマー液は、少なくとも1種のアクリル系モノマーを含有している。
【0015】
また、本発明に従う眼用レンズ物品の製造方法の第五の態様では、前記アクリル系モノマーが、シリコン含有アクリル系モノマーであり、かかるシリコン含有アクリル系モノマーが、前記モノマー液中に、10〜70重量%の割合で含有されることとなる。
【0016】
さらに、本発明に従う眼用レンズ物品の製造方法の第六の態様においては、前記アクリル系モノマーが、ジアルキル(メタ)アクリルアミドであり、かかるジアルキル(メタ)アクリルアミドが、前記モノマー液中に、30〜70重量%の割合で含有されることとなる。
【0017】
更にまた、かかる本発明に従う眼用レンズ物品の製造方法の第七の態様では、前記LEDの照射時間が、60分以下とされる。
【0018】
加えて、本発明に従う眼用レンズ物品の製造方法の第八の態様においては、ピーク波長が350〜500nm、好ましくは360〜470nm、特に好ましくは360〜400nmの範囲内にある光を、前記LEDから照射して、前記モノマー液を、UV吸収剤の不存在下において、光重合せしめることを特徴とする。
【0019】
また、本発明に従う眼用レンズ物品の製造方法の第九の態様においては、前記モノマー液がUV吸収剤を含有しており、且つ前記LEDから照射される光のピーク波長が、380〜500nm、好ましくは400〜470nmの範囲内にあるようにされている。
【0020】
さらに、本発明に従う眼用レンズ物品の製造方法の第十の態様においては、前記モノマー液が、更に色素を含有するように構成されている。特に、この色素としては、黄色又は橙色のものが、好適に用いられることとなる。
【0021】
そして、本発明に従う眼用レンズ物品の製造方法の第十一の態様においては、前記LEDの二つが用いられて、前記成形型の上方と下方にそれぞれ配置され、それら二つのLEDから相対向するように光が照射せしめられることとなる。
【0022】
また、本発明に従う眼用レンズ物品の製造方法の第十二の態様においては、前記モノマー液の光重合に際して、405nmでの吸光係数の高い光重合開始剤が用いられる。
【0023】
ところで、本発明は、上述せる如き眼用レンズ物品の製造方法に有利に用いられる製造装置も、また、その対象とするものであって、光透過性材料からなる上型と下型とを型合わせすることにより、それらの型の間に、眼用レンズやその半完成品、レンズ等の、目的とする眼用レンズ物品を与える形状の成形キャビティが形成されるようにした成形型と、該成形型の上下の少なくとも一方の型の側に設置され、前記成形型の前記成形キャビティに充填されるモノマー液に対して光を照射するためのLEDとを含んで構成されることを特徴とする眼用レンズ物品の製造装置を、その一つの態様としている。
【0024】
また、本発明に従う眼用レンズ物品の製造装置における第二の態様にあっては、所定の搬送手段に、前記成形型が複数配置されると共に、それぞれの成形型毎に、前記LEDが設置される構成が採用される。
【0025】
さらに、本発明に従う眼用レンズ物品の製造装置の第三の態様おいては、前記LEDから照射される光の放射照度を測定するための測定手段が、前記成形型を挟んで、前記LEDに対向する側に設置され、かかる測定手段にて、放射照度が測定されるようになっている。
【0026】
加えて、本発明に従う眼用レンズ物品の製造装置の第四の態様においては、前記LEDに供給する電圧を制御するための制御手段が設けられ、該制御手段にて、前記測定手段にて測定された放射照度の値と目標値とが一致するように該LEDに供給する電圧が制御されて、該LEDから照射される光の放射照度が一定に保たれることとなる。
【0027】
また、本発明に従う眼用レンズ物品の製造装置の第五の態様では、前記LEDから照射される光を拡散するための拡散手段が、前記成形型と前記LEDの間に設けられ、かかる拡散手段を介して光を照射することにより、該LEDからの光の照射角度が広げられて、前記成形型の前記成形キャビティに充填されたモノマー液に対して、かかる光が均一に照射されるようになる。
【0028】
さらに、本発明に従う眼用レンズ物品の製造装置の第六の態様においては、前記拡散手段を前記成形型から離隔する方向乃至は接近する方向に移動するための移動手段が設けられ、かかる移動手段にて、該拡散手段の位置を調整することにより、前記成形キャビティに充填されたモノマー液に対して、前記光が均一に照射されることとなる。
【発明の効果】
【0029】
そして、本発明に従う眼用レンズ物品の製造方法における、先述した第一の態様によれば、光透過性材料からなる成形型の成形キャビティに充填されたモノマー液を、LEDから発せられる光にて重合するようにしているところから、紫外線ランプに起因する問題を悉く解消することが出来るのである。即ち、LEDは、紫外線ランプと比べると重合に不必要な波長の光を出さないところから、モノマー液に対して、その重合に有効な波長の光のみを有利に照射せしめることが出来る。また、紫外線ランプはランプ寿命が短く、頻繁に交換をしなければならなかったのに対して、LEDは、寿命が長く、また、点灯直後でも安定した放射照度が得られるところから、放射照度設定も容易である。その上、或る成形型の成形キャビティに充填されたモノマー液の重合操作の終了から、次の成形型の成形キャビティに充填されたモノマー液の重合操作を開始するまでの間、消灯することも可能となり、眼に対して有害である光を不必要に照射しなくても良いといった利点も得られるのである。更に、LEDは、紫外線ランプに比して発熱が非常に少ないところから、モノマー液に伝導された熱によって重合の制御が困難となるようなこともないのである。しかも、LEDは、供給する電圧量を変化させることによって、放射照度の微調整を容易に行なうことが出来るといった特徴をも有しているのである。
【0030】
このように、LEDを光源として使用すると、モノマー液に対して、安定した放射照度の光を、長期間に亘って、有利に且つ安全に照射することが出来るところから、眼用レンズ物品を、安定した品質で有利に製造することが出来るのである。しかも、LEDを用いることにより、高い放射照度を効率的に得ることが出来るようになって、モノマー液の迅速な重合も可能となる。
【0031】
しかも、LEDは、一つ一つの大きさが小さく、また指向角も小さいところから、小さな眼用レンズ物品をモールド成形するための成形型に有効に適用され、そのような成形型毎に、別個に設置することが、容易に実現され得るのである。
【0032】
従って、本発明に従う眼用レンズ物品の製造方法の第二の態様によれば、一組の成形型に対して、少なくとも一つのLEDが設置されているところから、少なくとも一つの光源で、一組の成形型の成形キャビティ内に充填されたモノマー液が重合されることとなる。これにより、一つの光源で複数の成形型に光を照射する場合に惹起されていた、照射ムラによる品質の不安定化が、有利に解消されることとなる。また、各成形型に照射されるLED光を、それぞれ別個に管理することが出来る利点もある。このため、眼用レンズ物品の安定した品質を、より一層有利に維持することが出来るのである。
【0033】
さらに、本発明に従う眼用レンズ物品の製造方法の第三の態様によれば、LEDから照射される光が、成形キャビティ内に充填されたモノマー液全体に確実に照射されることとなる。つまり、LEDから放射される光が、一定の指向角を有することから、成形キャビティ内に到達する前に成形型の表面で屈折又は反射する等して、充分な光が成形キャビティ内に導入され得なくなるといった問題が有利に防止されて、LED光が成形キャビティ全体に有利に照射されるようになるのである。
【0034】
加えて、本発明に従う眼用レンズ物品の製造方法の第四乃至第六の態様によれば、モノマー液において、アクリル基乃至はメタクリル基を有するアクリル系モノマーが含有せしめられているところから、光重合が有効に実現されることとなる。特に、アクリル系モノマーとして、シリコン含有アクリル系モノマーを所定の割合で用いる場合には、酸素透過性に優れた眼用レンズ物品が有利に得られるのであり、また、アクリル系モノマーとして、ジアルキル(メタ)アクリルアミドを所定の割合で用いる場合には、親水性又は含水性に優れた眼用レンズ物品が有利に得られることとなる。
【0035】
また、本発明に従う眼用レンズ物品の製造方法の第七の態様によれば、良好なる作業性をもって、眼用レンズ物品を製造することが出来る。
【0036】
さらに、本発明に従う眼用レンズ物品の製造方法の第八乃至第十の態様によれば、モノマー液の重合が効果的に実現され、本発明の目的がより一層有利に達成され得ることとなる。
【0037】
そして、本発明に従う眼用レンズ物品の製造方法の第十一の態様によれば、UV吸収剤を含有するモノマー液のLEDを用いた光重合操作が、効果的に進行せしめられ得るのである。
【0038】
更にまた、本発明に従う眼用レンズ物品の製造方法の第十二の態様によれば、長波長側のLED発光波長を効果的に吸収して、迅速に重合を進行せしめ、以て目的とする眼用レンズ物品を有利に得ることが出来る。
【0039】
また、本発明に従う眼用レンズ物品の製造装置の第一の態様においては、光源として、LEDが採用されているところから、上述せるように、紫外線ランプに起因する問題が悉く解消され得ると共に、眼用レンズ物品の品質を安定に維持することが出来るという特徴が発揮される。
【0040】
さらに、本発明に従う眼用レンズ物品の製造装置の第二の態様によれば、前記した眼用レンズ物品の製造方法の第二の態様と同様に、照射ムラによる品質の不安定化が、有利に解消されて、眼用レンズ物品の安定した品質を、より一層有利に維持することが可能となると共に、眼用レンズ物品を、連続的に大量生産することも可能となる。
【0041】
加えて、本発明に従う眼用レンズ物品の製造装置の第三の態様によれば、照射光の放射照度が測定されるところから、かかる放射照度の測定値から、LEDからの光の照射条件、ひいては重合条件が的確であるか、否か等を判断することが出来る。そして、放射照度が高過ぎたり、低過ぎたりした場合には、LED光の照射時間を適宜に変更したり、或いは、LEDに供給する電圧を適宜に変更する等して、モノマー液の重合を制御、管理し、眼用レンズ物品の品質を一定に保つようにすることが出来る。
【0042】
また、本発明に従う眼用レンズ物品の製造装置における第四の態様によれば、制御手段にて、前記測定手段にて測定された放射照度の値と、予め設定された目標値とが一致するように、LEDに供給する電圧が制御されるようになっているところから、自動的に、光の放射照度を一定に保つことが可能となり、ひいては、眼用レンズ物品の安定した品質を更に有利に確保することが可能となる。
【0043】
さらに、本発明に従う眼用レンズ物品の製造装置における第五の態様や第六の態様によれば、成形キャビティ内のモノマー液に対して、LEDからの光が万遍なく均一に照射せしめられ得るのである。このため、眼用レンズ物品として、例えば、コンタクトレンズを製造する場合には、コンタクトレンズの外周縁のエッジ部も確実に重合されて、目的とする形状の眼用レンズ物品が正確に成形され得ることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明に従う眼用レンズ物品の製造装置の一例の要部を概略的に示す部分断面説明図である。
【図2】本発明手法に従って、モールド重合用成形型を用いて眼用レンズ物品を製造する工程の別の一例を示す部分断面説明図であって、複数の成形型の一つ毎に設置されたLED光源から、成形型の各々に対して、光を照射させた状態を示している。
【図3】本発明に従う眼用レンズ物品の製造装置の他の一例の要部を概略的に示す部分断面説明図である。
【符号の説明】
【0045】
10 成形型 12 LED光源
14 光検出器 16 光強度制御装置
18 拡散レンズ 20 クランク装置
22 ステッピングモータ 24 搬送機
26 雄型 28 雌型
30 成形キャビティ 32 底部
34 後面成形キャビティ面 44 凹部
48 前面成形キャビティ面 50 モノマー液
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明することとする。
【0047】
先ず、図1には、本発明に従う構造を有する眼用レンズ物品の製造装置の一実施形態として、コンタクトレンズの製造装置が、概略的に示されている。そして、この図1からも明らかなように、本実施形態のコンタクトレンズ製造装置は、コンタクトレンズをモールド成形するための成形型10と、かかる成形型10に対して所定のピーク波長の光を照射せしめるLEDからなる光源12と、該LED光源12から照射された光の放射照度を測定する、測定手段たる光検出器14と、該光検出器14にて測定された放射照度からLED光源12に供給する電圧を制御する、制御手段たる光強度制御装置16と、成形型10とLED光源12との間に設けられた、拡散手段たる拡散レンズ18と、該拡散レンズ18を前記成形型10から離隔する方向乃至は接近する方向に移動せしめる、移動手段たるクランク装置20及びステッピングモータ22と、成形型10を保持して搬送する搬送手段としての搬送機24とを有して、構成されている。
【0048】
そこにおいて、成形型10は、断面図として示されており、上型としての雄型26と、下型としての雌型28とから構成されている。また、何れの型も、光が透過可能な材料から形成されており、それら雄型26と雌型28とが型合わせされることにより、それらの型の間に、目的とするコンタクトレンズを与える形状の成形キャビティ30が形成されるようになっている。ここで、かかる成形型10を構成する光透過性材料としては、LED光源12から放射される光を透過することが出来るものであれば、特に限定されるものではなく、具体例としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12等のポリアミド等の樹脂材料及びそれらの組合せや、ガラス、石英、溶融石英等の無機材料を挙げることが出来る。これらの中でも、成形キャビティ30に充填されるモノマー液やその重合体との親和性、経済性、成形性等を考慮すると、特に、ポリオレフィンやポリアミド等の樹脂材料が、好適に採用されることとなる。また、かかる成形型10を構成する雄型26と雌型28は、同一の光透過性材料から形成されていても、或いは、それぞれ別個に異なる光透過性材料から形成されていても、何等差支えない。更に、モノマー液がUV吸収剤を含有している場合において、後述するように、ピーク波長が380〜500nmの照射光を用いて重合せしめるときには、成形型10を構成する光透過性材料としては、LED光の主波長での透過率が、一般に20%以上、より好ましくは25%以上のものが望ましく、例えばポリプロプレンやポリメチルペンテン等が有利に用いられることとなる。
【0049】
より具体的には、上記の成形型10を構成する雄型26は、全体として、上方が開口された有底円筒形状を呈しており、その下部に位置する底部32が、キャビティ形成部として、外方に凸なる湾曲面形状とされており、かかる底部32の外面(凸面)が、目的とするコンタクトレンズの後面(ベースカーブ面)に正確に対応した形状の後面成形キャビティ面34を与えるように構成されている。そして、かかる底部32の厚みは、特に制限されるものではないものの、後述するLED光源12からの光が、底部32を通じて成形キャビティ30内に導入されるところから、該成形キャビティ30内にLED光が均等に照射され得るように、略一定であることが望ましく、また、重合収縮等による影響や光の減衰等を考慮すると、0.1mm〜3mm程度とされることが、望ましい。特に、LED光源12を用いた光照射によれば、成形型10の型材の温度上昇は殆ど惹起されることがないところから、底部32の厚さを薄くすることが出来る特徴を発揮する。なお、雄型26には、筒壁部36の上側の開口部側の外周部に、径方向外方に突出する外フランジ部38が、一体的に形成されている。
【0050】
一方、成形型10を構成する雌型28は、全体として、下方が開口された有底円筒形状を呈しており、その上部に位置する上底部40が、略半球面状に下方に向かって窪んだボール形状の凹部44とされて、キャビティ形成部となっている。そして、かかる半球状の凹部44の深さ方向中間部分に、段差46が設けられて、この段差46よりも下側の底部側部位の内面(凹面)が、目的とするコンタクトレンズの前面(フロントカーブ面)に正確に対応した前面成形キャビティ面48とされている。
【0051】
そして、それら雄型26と雌型28は、図1に示されるように、雄型26の筒壁部36の底部側角部と雌型28の段差46の角部とにおいて互いに当接するように、また、雄型26の外フランジ部38の下面と雌型28の上端面とが互いに当接するように、組み付けられて、型合わせされることにより、雄型26の後面成形キャビティ面34と雌型28の前面成形キャビティ面48との間の空間にて、目的とするコンタクトレンズを与える形状の成形キャビティ30が形成されるようになっている。
【0052】
また、かかる成形キャビティ30内には、図1に示されるように、目的とするコンタクトレンズを構成する重合体を与えるモノマー液50が、充填されている。このモノマー液50は、雄型26と雌型28との型合せに先立って、雌型28の凹部44内に、所定量において収容され、そして、その収容後、上述せるようにして、雄型26と雌型28との型合せが行なわれることによって、成形キャビティ30内に充填されることとなる。また、そのような型合せによって、成形キャビティ30から溢れ出た余剰のモノマー液50は、雄型26の筒壁部36の底部側角部と雌型28の段差46の角部との当接部位の上側に形成された空間52、つまり、雄型26の筒壁部36の上側外周面と雌型28の凹部44における開口部側部位の内周面との間に形成された、円環状の空間52に、溜められるようになっている。
【0053】
ここにおいて、重合せしめられるモノマー液50としては、目的とするコンタクトレンズを構成する重合体を与える、従来から公知の各種の液状のモノマー組成物が、用いられることとなるのであるが、かかるモノマー液50には、少なくとも1種のアクリル系モノマー(アクリル基乃至はメタクリル基含有モノマー)が含有せしめられていることが望ましく、これによって、モノマー液50の光重合性が良好に確保されることとなる。なお、かかるアクリル基乃至はメタクリル基を有するアクリル系モノマーの具体例としては、例えば、ケイ素含有(メタ)アクリレート、アルキル(メタ)アクリレート、フッ素含有(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、アリール含有(メタ)アクリレート、N−アルキル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジアルキル(メタ)アクリルアミド等を挙げることが出来る。更に好適には、かかるアクリル系モノマーは、モノマー液50中に、少なくとも10重量%の割合において含有されることが、望ましい。なお、上記において、更には以下の記載において、「(メタ)アクリル」は、アクリル及び/又はメタクリルを示す一方、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及び/又はメタクリレートを示すものとして、用いられている。
【0054】
特に、アクリル系モノマーとして、国際公開第01/71415号パンフレットや特開平6−121826号公報等に開示の如きシリコン含有アクリル系モノマーを選択し、これを、モノマー液50中に、主たる構成成分として、10〜70重量%の割合において含有せしめれば、得られるコンタクトレンズに、優れた酸素透過性が有利に付与されることとなる。また、アクリル系モノマーとして、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジプロピル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド等のジアルキル(メタ)アクリルアミドを用い、これを、モノマー液50中に、主たる構成成分として、30〜70重量%の割合において含有せしめれば、得られるコンタクトレンズに、優れた親水性或いは含水性が有利に付与されることとなる。
【0055】
また、かかるモノマー液50には、必要に応じて、目的とするレンズの種類(例えば、ハード、ソフト、非含水性、含水性等)や、レンズに必要とされる特性(例えば、酸素透過性、着色、紫外線吸収性等)に応じて、上述せる如きアクリル系モノマー以外の従来から公知の各種のモノマー成分や、従来から一般的に用いられている各種の添加剤、例えば、紫外線(UV)吸収剤や色素等が、従来と同様に、適量において、添加せしめられても何等差支えなく、更には、非重合性の溶媒が、重合の妨げにならない程度の量において添加されていてもよい。
【0056】
ここで、上記のUV吸収剤や色素としては、例えば、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、サリチル酸誘導体系等の公知のUV吸収剤や、アゾ系、アントラキノン系、ニトロ系、フタロシアニン系等の公知の色素(塗料)を挙げることが出来、中でも、それらUV吸収剤や色素は、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基等の重合性基を有し、本発明に従う光重合操作によって、モノマー液50を構成するモノマー類と共重合せしめられて、重合体の一成分として、目的とする眼用レンズ物品を形成するようにされることが望ましい。なお、それらUV吸収剤や色素のモノマー液50への添加量としては、従来から公知の範囲内において適宜に選定されることとなるが、一般に、UV吸収剤は、全重合成分の100重量部に対して0.02〜2重量部程度の割合において用いられ、また色素は、全重合成分の100重量部に対して0.0001〜0.1重量部程度の割合において用いられることとなる。
【0057】
さらに、上記モノマー液50には、従来と同様に、光による重合が有利に実現され得るように、メチルオルソベンゾイルベンゾエート、メチルベンゾイルフォルメート、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾイン−n−ブチルエーテル等のベンゾイン系光重合開始剤や、N,N−テトラエチル−4,4−ジアミノベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾフェノン等のベンゾフェノン系光重合開始剤、ベンジル等のカルボニル系光重合開始剤、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、1−(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン等のアセトフェノン系光重合開始剤、ベンゾイルパーオキサイド等の過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系重合開始剤、メタロセン系等のカチオンタイプの重合開始剤等の、従来から公知の重合開始剤のうちの1種又は2種以上が適宜に添加される。そして、これらの重合開始剤の中でも、ラジカル型の開始剤が、重合性や重合速度の点から好適に用いられることとなる。更に、このような重合開始剤に加えて、公知の光増感剤を併用することも、有効である。
【0058】
また、本発明において、405nm付近の波長での吸光係数の高い光重合開始剤の採用は、LED光源12からの長波長側の発光波長を吸収し易くして、それによって重合率を向上し、迅速に重合を進める上において、有利である。なお、かかる波長:405nmでの吸光係数の高い開始剤としては、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、1,2−オクタンジオン−1−[4−(フェニルチオ)−2−(O−ベンゾイルオキシム)]、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、ビス(η−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)−フェニル)チタニウム、4−メチルベンゾイル−ジフェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジメトキシ−フォスフィンオキサイド、イソブチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド、イソブチルベンゾイル−ジメトキシ−フォスフィンオキサイド、ベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド、2−メチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド、ベンゾイル−ジエトキシ−フォスフィンオキサイド、2,6−ジクロロベンゾイル−ジメトキシ−フォスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジクロロベンゾイル)−(4−ブチルフェニル)フォスフィンオキサイド、2,4−トリクロロメチル(4´−メトキシスチリル)−6−トリアジン、2−(2′−(5′′−メチルフリル)エチリデン)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン等を挙げることが出来、これら開始剤は、一般に、100ml/g・cm以上の吸光係数(405nm)を有している。そして、これらの開始剤は、照射光のピーク波長が400nm以上であるLEDを、LED光源12として用いた場合において、特に有効である。また、UV吸収剤を含有せしめたモノマー液50の光重合では、重合開始剤はUV吸収剤による光吸収を避けて、より長波長側での光吸収を示す特性を有することが望ましいところから、前記した波長:405nmでの吸光係数の高い重合開始剤を用いることが、推奨されるのである。更に、そのような吸光係数の高い重合開始剤を、波長:405nmでの吸光係数の低い他の重合開始剤や光増感剤と併用することも、有効であり、更にまた、UV吸収剤に光増感剤を組み合わせて用いることも、可能である。
【0059】
ところで、本実施形態の製造装置においては、光を照射し得るLED光源12が、上述の如き構造とされた成形型10の上型たる雄型26の側、具体的には、成形型10内で成形されるコンタクトレンズの光軸(光学的中心軸)上で、且つ雄型26から上方に所定の距離だけ離隔した位置に、配置されている。
【0060】
このように、LED光源12は、従来の紫外線ランプに比して一個一個の大きさが小さいところから、一組の成形型10に対して、少なくとも一つずつ、設置することが出来るのである。従来では、前述せるように、一つの紫外線ランプ光源の光を、複数の成形型に対して照射するために、ドーム状のハウジング等の、比較的に大きな設備が必要とされていたのであるが、成形型10毎にLED光源12を設置すれば、そのようなハウジング等が不要となるのであり、これにより、眼用レンズ物品の製造装置が有利に小型化され得る利点がある。また、成形型10毎にLED光源12を設置すれば、一つの光源で複数の成形型に対して光を照射する場合に惹起されていた、光の照射ムラによる眼用レンズ物品の品質の不安定化もなくなる。更には、大量生産を行なっても、成形型10毎に、LED光の照射条件を管理することが出来るようになる。このため、眼用レンズ物品の安定した品質を、より一層有利に維持することが出来るのである。
【0061】
また、本実施形態においては、成形型10内で成形されるコンタクトレンズの光軸上にLEDが配置され、凸面状の後面成形キャビティ面34を有する雄型26側から、換言すれば、成形型10内で成形されるコンタクトレンズの凹面側から、LED光が照射されるようになっているため、LED光が成形型10の雄型26を透過して、成形型10の成形キャビティ30内に充填されたモノマー液50に対して、有利に照射されることとなるのである。つまり、凹面状の前面成形キャビティ面48を有する雌型28側から、換言すれば、成形型10内で成形されるコンタクトレンズの凸面側からLED光を照射するようにすると、成形型10の凸面状の表面に光が照射されることとなり、LEDから発せられる光が、指向角を有することから、成形キャビティ内30に到達する前に成形型10の表面で屈折や反射する等して、充分な光が成形キャビティ30内、特にコンタクトレンズ周縁部に対応する部位に導入され得なくなる恐れがあるのであるが、成形型10の凹面状の表面に照射すれば、光の屈折や反射による透過光の減少が有利に抑制されて、成形キャビティ30全体に、LED光が有利に照射され得るようになり、これによって、作業性やレンズ完成度、安全性が高度に確保されることとなる。
【0062】
さらに、LED光源12は、従来のキセノンランプや、水銀ランプ、重水素ランプ等の紫外線ランプと比べると、モノマー液50の重合に不必要な波長の光を放射するものではないところから、モノマー液50に対して、ピーク波長を中心に有効な波長の光のみを有利に照射することが出来るといった利点が得られる。加えて、LED光源12は、発熱や消費電力が少ない、寿命が長い、点灯直後でも安定した放射照度が得られる等の長所を有しているところから、従来の紫外線ランプにおける問題を悉く解消することが出来るのである。即ち、前述せるように、紫外線ランプは、ランプ寿命が短く、そのために頻繁に交換をしなければならなかったのに対して、LEDは、寿命が長く、また、点灯直後でも安定した放射照度が得られ、且つ、供給する電圧量を変化させることによって、放射照度の微調整を簡単に実施することが出来るところから、経済性に優れると共に、所望とする放射照度を容易に得ることが出来る。しかも、LEDを用いると、重合操作の終了から次の重合操作開始までのインターバルにおいて、消灯することも可能となり、眼に有害光となる光の不必要な照射を避けることも可能となる。更に、LEDは、紫外線ランプに比して発熱が非常に少ないところから、重合前の雰囲気温度を一定に保つことが出来、熱による重合が進行することなく、モノマー液50の重合を、従来に比して制御し易くなっているのである。
【0063】
なお、ここにおいて、LED光源12として用いられるLED(発光ダイオード)としては、モノマー液50を重合することの出来る波長の光を放射し得るものである必要がある。具体的には、LED光源12から照射される光の波長としては、開始剤にも依存するが、モノマー液50の重合性の点から、かかるモノマー液50がUV吸収剤を含有していない場合においては、そのピーク波長が、一般に350〜500nmの範囲に、より好ましくは360〜470nmの範囲に、更に好ましくは360〜400nmの範囲にあることが、望ましい。何故なら、かかるピーク波長が、上記の範囲より短い波長範囲にある場合には、コンタクトレンズ材料(コンタクトレンズを構成する重合体)が劣化してしまう恐れがあるからであり、また、長い波長範囲にある場合には、重合性が低下したり、熱の発生が問題となるからである。特に、UV吸収剤を含有するモノマー液50を用いて、UV吸収性レンズ(眼用レンズ物品)を製造する場合には、ピーク波長が、一般に380〜500nm、好ましくは400〜470nmの範囲にあることが望ましい。このように、LED光源12の照射光における望ましいピーク波長は、モノマー液50中のUV吸収剤の存在の有無により変化するものの、必要に応じて適宜に添加される色素の有無によっては、殆ど影響を受けることはないのである。なお、このLED光源12から照射される光には、上記した波長範囲以外に、ピーク波長が実質的に存在しないことが、望ましい。
【0064】
また、LED光源12の指向角(2θ1/2)は、従来の紫外線ランプ等に比して小さいことが知られており、特に限定されるものではないものの、小さ過ぎると、有効照射面積が得られ難く、反対に、大き過ぎると、有効な放射照度が得られ難い。このため、LEDの光エネルギーの有効活用の点から、上記の指向角は10〜120°であることが、望ましい。なお、かかる指向角は、製造する眼用レンズ物品の大きさ、つまり、光照射すべき面積等に応じて適宜に設定され、特に、含水性コンタクトレンズでは、上記した範囲の中でも、20〜110°、非含水性コンタクトレンズでは、上記した範囲の中でも、30〜120°が好ましい。
【0065】
さらに、上記の指向角が目的とする眼用レンズ物品の大きさに対して小さい場合、例えば、指向角が10°未満の場合等には、必要に応じて、LED光を拡散するための拡散手段を、LED光源12と成形型10との間の光路上に設置することが出来る一方、指向角が目的とする眼用レンズ物品の大きさに対して大きい場合、例えば、指向角が120°を超える場合等には、LED光を集光するための集光手段を、LED光源12と成形型10との間の光路上に設置することが可能である。このように、拡散手段や集光手段を介してLED光を照射するようにすれば、均一な重合が有利に実現されることとなる。ここにおいて、上記拡散手段としては、拡散フィルタ等の拡散板や拡散レンズ等を挙げることが出来る一方、上記集光手段としては、集光レンズ等を挙げることが出来る。
【0066】
なお、本実施形態においては、LED光源12から放射される光の指向角が、成形キャビティ10に対して小さいところから、図1において断面形態で示されるように、LED光源12と成形型10との間に、拡散レンズ18が、配置されており、LED光源12から発せられた光が、拡散レンズ18を透過することによって、照射角度が広げられて、成形型キャビティ30内に充填されたモノマー液50に対して、万遍なく均一に照射され得るようになっている。この結果、モノマー液50の重合が局部的に進行するようなことが有利に回避されて、モノマー液50の均一な重合を、極めて有利に実現することが出来るようになっているのである。また、LED光源12と成形型10との間の距離も短縮することが出来る。
【0067】
また、LED光源12から、成形型10のキャビティ形成部(32、44)の外面に至るまでの、鉛直方向の距離(照射距離:D)としては、特に制限されるものではないが、良好なる作業性を確保して、LED光源12の汚染や重合熱による影響等を回避するために、照射光のピーク波長、UV吸収剤の存在の有無、LED光源12の指向角や光照射すべき面積等に応じて、0.5〜30mm程度の範囲内において、適宜に設定されることとなる。具体的には、モノマー液50がUV吸収剤を含まない場合において、照射光のピーク波長が350〜400nmである重合では、3〜30mmの照射距離(D)が有利に採用され、また照射光のピーク波長が400〜500nmである重合では、1〜30mmの照射距離(D)が有利に採用されることとなる。更に、モノマー液50がUV吸収剤又はそれと共に色素を含む場合においては、ピーク波長が380〜500nmである照射光を用いた重合のために、0.5〜25mmの照射距離(D)が、有利に採用されることとなる。なお、成形型10の照射光の主波長での透過率が50%以下となるような場合には、LED光源12を近接させることが望ましく、一般に、0.5〜5mm程度の照射距離(D)が採用されることとなる。
【0068】
さらに、本実施形態の製造装置においては、LED光源12から照射される光の強度、具体的には、放射照度を測定する光検出器14が、成形型10の下型たる雌型28の下方に、該成形型10を挟んで、LED光源12に対向するように設置されている。そして、LED光源12から放射された光のうち、成形型10を透過した光が、かかる光検出器14で検出されるようになっている。
【0069】
また、上記光検出器14は、コンピューター等の演算処理部と、可変電圧回路とを内蔵する光強度制御装置16に接続せしめられている。そして、光検出器14で測定された放射照度のデータが光強度制御装置16に入力され、かかる光強度制御装置16にて、LED光源12へ供給する電圧量が制御されるようになっている。より具体的には、光強度制御装置16では、予め、モノマー液50の重合に必要な放射照度の目標値が設定されており、光強度制御装置16の演算処理部で、光検出器14から入力された測定値と、予め設定された目標値とが一致するか、どうかの演算処理が行なわれる。そして、測定値と目標値が一致しない場合には、測定値が目標値に一致するように、可変電圧回路にて、LED光源12に供給する電圧の印加量が増加乃至は低減せしめられるのである。そして、光強度制御装置16から、該光強度制御装置16に接続せしめられたLED光源12に供給される電圧によって、LEDから照射される光の強度が、微調整されて、一定に保たれるようになっているのである。なお、上記目標値は、例えば、オペレーターが、キーボード等を用いた入力操作によって、適宜に設定することが出来るようになっている。
【0070】
加えて、本実施形態の製造装置には、前記した拡散レンズ18を、成形型10から離隔する方向(上方)、或いは、成形型10に接近する方向(下方)に移動するための移動手段たる、クランク装置20とステッピングモータ22とが、設置されている。そして、ステッピングモータ22の回転運動が、公知のクランク装置20によって往復運動に変換されることによって、ステッピングモータ22の駆動力にて、クランク装置20に連結された拡散レンズ18が上下方向(図1中、イの方向)に移動することが出来るようになっている。このように、ステッピングモータ22を用いれば、拡散レンズ18の位置の微調整が容易に実施され得るのである。このため、成形型10の成形キャビティ30に充填されたモノマー液50全体に、LED光が照射され得ないような場合、例えば、成形キャビティ30の中央部のみに光が照射されて、コンタクトレンズ周縁部に対応する成形キャビティ30の部位に光が照射されないような場合、ステッピングモータ22の駆動力によって、拡散レンズ18を上方に移動せしめれば、成形型10の成形キャビティ30の全体に光が照射され得るようになるのである。また逆に、成形型10に対して照射される光が広がり過ぎている場合には、ステッピングモータ22の駆動力によって、拡散レンズ18の位置を下方に移動させれば良いのである。
【0071】
また、本実施形態においては、前述せる如き成形型10が、搬送手段たる搬送機24上に載置されている。なお、かかる搬送機24は、例えば、ベルトコンベアやチェーンコンベア等、従来より公知のものにて構成され得るが、ここでは、ベルトコンベアにて構成されている。そして、搬送機24の作動によるベルトの移動に伴って、該ベルトの移動方向に、成形型10が搬送されるようになっている。なお、この搬送機24のベルトには、前記成形型10の外寸より小さな大きさの透孔25が、互いに所定間隔を隔てて、多数形成されており、成形型10は、そのような透孔25の周囲を覆うようにして載置されているのである。
【0072】
ところで、かくの如き構造とされた本実施形態のコンタクトレンズの製造装置を用いて、目的とするコンタクトレンズを製造する際には、例えば、以下のようにして、その操作が進められることとなる。なお、以下では、一具体例として、複数のコンタクトレンズを連続的に製造する方法を詳述することとする。
【0073】
すなわち、先ず、目的とするコンタクトレンズを成形するための成形型10の複数が準備され、かかる成形型10のうちの雌型28が、搬送機24の所定の位置に載置、保持される。そして、搬送機24を作動させて、先ず、図示しないモノマー液供給装置まで雌型28を搬送する。そして、雌型28が、モノマー液を供給する場所に到達したら、搬送機24を一旦停止し、雌型28の凹部44内に、それぞれ、目的とするコンタクトレンズを構成する重合体を与えるモノマー液50を、所定量ずつ供給する。そして、このモノマー液供給工程の後、搬送機24を再び作動せしめて、モノマー液50が収容された雌型28を、型合せ工程を実施する場所まで搬送する。そして、かかる雌型28が、型合せ工程を実施する場所に到達したら、搬送機24を一旦停止し、雌型28の上方から雄型26を、雌型28における前記段差46の角部に対して、雄型26における筒壁部36の外周面の底部32側角部が当接するように、また、雄型26の外フランジ部38の下面と雌型28の上面とが互いに当接するように、組み付けて、型合わせを行なう。これにより、雄型26と雌型28との間に成形キャビティ30が形成されると共に、かかる成形キャビティ30内にモノマー液50が充填される。
【0074】
そして、上述の如くして、モノマー液50の充填が終了したら、搬送機24を再び作動させて、モノマー液50が充填された成形型10のそれぞれを、搬送機24の搬送方向の下流側に配置された光照射位置、つまり、図1や図2に示されるように、LED光源12と光検出器14の間まで搬送する。そして、成形型10が、LED光源12と光検出器14の間に到達したら、搬送機24を停止して、成形されるコンタクトレンズの光軸上に、LED光源12がそれぞれ一つずつ位置するように止める一方、各成形型10に対して、成形型10の上方に設置乃至は配置された各LED光源12から光を放射する。これにより、LED光源12から放射された光が、光透過性を有する成形型10の雄型26を通じて、成形キャビティ30内に有利に導入され、以て、前記成形キャビティ30に充填されたモノマー液50が光重合せしめられる。
【0075】
また一方、成形型10毎にそれぞれ一つずつ配設された光検出器14は、成形型10を挟んで対向するように位置せしめられたLED光源12から照射される光の強度を、成形型10を介して検知し、そしてその検出された光の強度、具体的には放射照度を、公知のインターフェースを介して、光強度制御装置16に入力する。このようにして、放射照度が入力されると、光強度制御装置16は、光検出装置14から入力された放射照度が、予め設定された目標値と一致しているか、どうかを判別し、その目標値を下回る場合には、LED光源12に供給する電圧の印加量を増加せしめるようにする一方、その目標値を上回る場合には、LED光源12に供給する電圧量を低減せしめるようにして、光検出器14にて検知される放射照度が目標値に一致するように、フィードバック制御を行なう。なお、このようなLED光源12から放射される光の照射強度は、図2に示されるように、LED光源12毎に制御されることが望ましく、このように成形型10毎にLED光源12を配設して、LED光源12から発せられる光を個別に制御するようにすれば、製品の品質をより一層高度に且つ安定に確保することが出来、以て、不良品の発生率も極めて効果的に低減されることとなる。
【0076】
さらに、LED光源12から発せられる光の指向角が、目的とするコンタクトレンズの直径に比して小さい場合には、換言すれば、コンタクトレンズを与える成形キャビティ30全体に光が照射されない場合には、図1の実線や図2の二点鎖線にて示されるように、LED光源12と成形型10との間に、拡散手段たる拡散レンズ18を配設して、成形されるコンタクトレンズの周縁部に対応する部位まで、成形キャビティ30全体に、LED光が照射されるようにする。この際、拡散レンズ18の位置は、ステッピングモータ22とクランク装置20にて構成される移動手段にて微調整されることとなる。これに対して、使用するLED光源12の指向角が、目的とするコンタクトレンズの直径に比して大き過ぎる場合には、図示はしないものの、拡散手段と同様に、LED光源12と成形型10との間に、集光レンズ等の集光手段が配設されることが望ましく、かかる集光手段を配設することによって、LED光源12から発せられるLED光の光エネルギーが、モノマー液50の重合に有効に用いられて、重合に寄与しない光の無駄な照射が有利に低減されることとなる。
【0077】
なお、この成形型10に対するLED光の照射のために、型合せ工程においてモノマー液50が充填された複数の成形型10を、LED光源12と光検出器14との間まで搬送する際には、それと同時に、モノマー液50が収容された別の雌型28の複数が、型合せ工程を実施する場所まで搬送され、またそれと同時に、モノマー液50が収容されていない別の雌型28の複数が、モノマー液供給装置まで搬送されるようになっている。即ち、型合せ工程によりモノマー液50が成形キャビティ30内に充填された成形型10に対して、LED光源12から光が照射せしめられる(光照射工程の実施)一方で、モノマー液50が収容された別の雌型28に、雄型26を組み付ける型合せ工程が実施されると共に、それらとは更に別の雌型28の凹部44内に、モノマー液50を供給するモノマー液50の充填工程が実施されることからなる、三つの工程が、異なる成形型10に対して同時的に進行せしめられるようになっているのである。
【0078】
なお、光の照射工程において、LED光源12からモノマー液50に照射される光の波長は、特に限定されるものではないが、モノマー液50中のモノマー成分を充分に重合させる上で、上述せるように、モノマー液50中にUV吸収剤が存在しない場合には、ピーク波長が350〜500nmの範囲にあるLED光が、また、モノマー液50中にUV吸収剤が存在する場合には、ピーク波長が380〜500nmの範囲内にあるLED光が、特に、好適に採用される。また、LED光源12からの単位面積当たりの照射量、所謂放射照度としては、特に制限されるものではないものの、小さ過ぎる場合には、モノマー液50の重合が進行せず、また、大き過ぎても、コンタクトレンズ材料の劣化等の悪影響が及ぼされる恐れがあるところから、好ましくは0.5〜30mW/cm、更に好ましくは1〜20mW/cmとされる。
【0079】
また、成形型10に対するLED光の照射時間も、目的とするコンタクトレンズの大きさやLED光源から発せられる光の強さ、モノマー液50の種類等に応じて、適宜に決定されるところではあるものの、作業性やレンズの完成度を考慮すると、上限としては、好ましくは120分以下、更に好ましくは60分以下とされる一方、下限としては、好ましくは3分以上、更に好ましくは5分以上とされる。何故なら、照射時間が長過ぎる場合には、光照射工程、ひいては目的とするコンタクトレンズの製造工程全体を無用に長期化させ、作業性の悪化や生産性の低下を招来することとなるからであり、また、LED光の照射時間が短すぎると、モノマー液50に対する光の照射量が少な過ぎるところから、モノマー液50中のモノマー成分の光重合が不充分となって、残留モノマー量が増加するといった問題が惹起されるからである。
【0080】
さらに、本工程では、光源として、LED光源12が採用されているところから、光照射による発熱が比較的に少なく、熱による重合の進行が抑制され得るのであるが、より一層安定した重合を実現すべく、光照射工程の間、成形型10が、環境温度+5℃程度以下、つまり、環境温度よりも大略5℃を越えることがないように、光照射工程が実施されることが望ましい。尤も、かかる光重合温度としては、LED光源12の適正作動最高温度以下であれば、如何なる温度も採用可能であり、そのような温度領域内において昇温しつつ重合させることも可能である。また、光重合を開始させてから一定時間の後、成形型10のみを熱重合槽に移動させて、本発明の目的の達成に悪影響をもたらさない限りにおいて、加熱を行ない、重合を促進させるようにすることも出来る。
【0081】
かくして、かくの如き成形型10への光照射によって、成形型10の成形キャビティ30に充填されたモノマー液50が光重合せしめられることにより、目的とするコンタクトレンズが形成されるのである。なお、このようにして形成されたコンタクトレンズには、雄型26の後面成形キャビティ面34に対応したベースカーブ面と、雌型28の前面成形キャビティ面48に対応したフロントカーブ面が付与されることとなる。
【0082】
そして、かかる成形型10への光照射工程が終了した後、搬送機24を再び作動せしめて、光重合が実施された成形型10の複数を、LED光源12と光検出器14の間から、搬送機24の搬送方向の下流側に搬送する。その後、成形型10の雄型26を雌型28から取り外すことによって型開きを行ない、そして、従来と同様な離型操作で、コンタクトレンズを脱型することにより、目的とするコンタクトレンズが得られるのである。
【0083】
このように、本実施形態においては、光透過性材料からなる成形型の成形キャビティに充填されたモノマー液50を、LED光源12から発せられる光にて重合するようにしているところから、従来の紫外線ランプを使用した際に惹起せしめられていた問題が有利に解消され、成形型10の成形キャビティ30内に充填されたモノマー液50に対して、安定した放射照度のLED光を、長期間に亘って有利に照射することが出来る。従って、眼用レンズ物品たるコンタクトレンズを、安定した品質で有利に製造することが出来るのである。
【0084】
しかも、一組の成形型10に対して、一つのLED光源12が設置されているところから、一つの光源で複数の成形型に光を照射する場合に惹起されていた、照射ムラによる品質の不安定化が、有利に解消されることとなる。また、各成形型10に照射される光を、それぞれ別個に制御することが可能となって、眼用レンズ物品たるコンタクトレンズの高い品質を、より一層容易に確保することが出来るのである。また、高い放射照度を効率的に得ることも可能となり、モノマー液50の迅速な重合も可能となる。
【0085】
以上、本発明の代表的な実施形態について詳述してきたが、それは、あくまでも、例示に過ぎないものであって、本発明は、そのような実施形態に係る具体的な記述によって、何等限定的に解釈されるものではないことが、理解されるべきである。
【0086】
例えば、上記の実施形態では、一組の成形型10に対して、一つのLED光源12が配置されていたが、一組の成形型10に対して配置するLED光源12の数は、上記した一個に何等限定されるものではなく、二つ以上のLED光源12を配置することも可能である。但し、一組の成形型10に対して、二つ以上のLED光源12を配置する場合には、LED光源12から発せられる光が、成形キャビティ30内に充填されたモノマー液50の光重合に有利に寄与するように、成形型10の上方と下方に、それぞれ、少なくとも一つずつ、LED光源12を設置せしめ、そして、成形型10の上側と下側からLED光を照射するようにすることが望ましい。特に、このような成形型10の上方と下方の二方向からの光照射は、UV吸収剤又はそれと共に色素を含むモノマー液50を、ピーク波長が380〜500nmの光にて重合せしめる場合において、得られる重合生成物たる眼用レンズ物品の変形不良を減少させる等の点から、有利に採用されることとなる。尤も、コンタクトレンズを製造するに際しては、二つ以上のLED光源12を用いなくとも、一つのLED光源12のみで充分な光エネルギーを得ることも可能である。
【0087】
また、上例では、LED光源12が、雄型26から離隔した位置で、且つ成形されるコンタクトレンズの光軸上に設置されており、かかるLED光源12からの光が、後面成形キャビティ面34側から照射されるようになっていたところから、成形キャビティ内に到達する前に成形型の表面で屈折する等して、充分なLED光が成形キャビティ内に導入され得なくなるといった問題が有利に防止されて、LED光が成形キャビティ全体に有利に照射されるようになっていたのであるが、図3に示されるように、LED光源12を、雌型28側に設置して、LED光源12から発せられる光を、前面成形キャビティ面48側から照射することも可能である。なお、このように雌型28側にLED光源12を設置する場合、光検出器14は、雄型26側に配置されることが望ましい。また、LED光源12は、成形される眼用レンズ物品の光軸上に設置されることが望ましい。
【0088】
さらに、上記実施形態では、LED光源12から照射される光の照射角度を広げるために、拡散手段たる拡散レンズ18が設けられていたが、かかる拡散レンズ18は、眼用レンズ物品の寸法やLED光源12から成形型10までの距離、LED光源の指向角等に応じて、適宜に用いられるものであって、本発明において、何等必須のものではない。また、前述せるように、拡散手段に代えて、集光手段を使用することも可能である。
【0089】
加えて、上例では、拡散レンズ18を上下方向に移動するための移動手段として、ステッピングモータと公知のクランク装置からなるものが採用され、駆動手段であるステッピングモータによって、拡散レンズ18の微少な移動が有利に実現され得るようになっていたが、駆動手段はステッピングモータ以外にも、従来から公知のものを採用することが可能である。また、かかる移動手段も、上記した拡散レンズ18と同様に、必要に応じて使用され得るものであって、本発明において、必ずしも必要とされるものではない。
【0090】
また、上記実施形態では、演算処理部と可変電圧回路とを内蔵する光強度制御装置16によって、LED光源12から照射される光の放射照度が、自動的に一定に保たれるようになっていたが、このような光強度制御装置16を何等使用することなく、作業者が、LED光源12に供給する電圧を適宜に設定することも可能である。
【0091】
さらに、上例では、光検出器14にて、LED光源12から照射される光の強度、具体的には、放射照度が検知されるようになっていたが、かかる放射照度は、直接的に検知されても、或いは放射照度以外の光の強さを表わす物理量から換算される等して、間接的に検知されても、何等差支えない。また、この光検出器14も必要に応じて使用されるものであって、本発明において、何等必須のものではない。
【0092】
また、前記実施形態では、コンタクトレンズを製造するための製造装置及びその製造方法に対して本発明を適用したものの具体例を示したが、本発明は、そのようなコンタクトレンズの他、眼内レンズ等の眼用レンズ、或いは、それらの眼用レンズの半完成品(例えば、一方の面が完成されたレンズ面形状に成形されている一方、他方の面が、レンズ面としては未だ完成されていない、切削加工等の後加工を必要とする形状に成形された、該眼用レンズを与える眼用レンズ材料)、更にはそのような眼用レンズを、両面切削等の加工を施すことによって与え得るレンズブランク等の、所謂眼用レンズ物品を成形するための成形型及びそれらの製造方法に対しても、有利に適用され得るものである。そして、特に、眼用レンズ物品が眼内レンズの場合には、その厚みは、コンタクトレンズに比してかなり大きいものであるところから、成形型10の上方と下方に、それぞれ、少なくとも一つずつ、LED光源12を設置して、上下方向から、LED光を照射することが望ましく、また、眼内レンズを製造する際のLED光源12の指向角としては、10〜100°が好ましい。
【0093】
さらに、本実施形態では、搬送機24を用いて、この搬送機24に保持された複数の成形型10(雌型28)を、搬送機24の作動により、モノマー液供給位置と型合せ位置と光照射位置とに、順次搬送して、それぞれの搬送位置で、モノマー液供給工程と型合せ工程と光照射工程とを、それぞれ同時に実施することによって、目的とする眼用レンズ物品たるコンタクトレンズを連続的に大量生産するようにした製造方法の具体例を挙げたが、本発明は、このような方法に何等限定されるものではなく、搬送機24を使用することなく、上述せる如き各工程を、一つの成形型10毎に独立して行なうようにすることも可能である。要するに、本発明においては、光源としてLEDが採用されているところから、一つの光源を一つの成形型10毎に配置することが出来、そのため、一つの光源にて複数の成形型に対して光照射を実施する場合とは異なって、目的とする眼用レンズ物品を、個別に且つ効率的に製造することが出来るのである。また、レンズ規格毎にLED光の照射量や照射時間を設定する等、場合に応じて、LED光源毎に異なる光照射を同時に実施することも可能である。
【0094】
更にまた、成形型10を構成する雄型26及び雌型28の構造も、公知の各種のものが適宜に選定されて用いられ得、前記実施形態に示されるものに、特に限定されるものでないことは、勿論である。
【0095】
その他、一々列挙はしないが、本発明が、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施の態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、何れも、本発明の範疇に属するものであることは、言うまでもないところである。
【実施例】
【0096】
以下に、本発明の代表的な実施例を含むいくつかの実験例を示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実験例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には、上記の具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが、理解されるべきである。
【0097】
先ず、本発明に従って、光重合せしめられるモノマー液(50)として、下記表1及び表2に示される組成の配合液1及び配合液2を調製する一方、照射光のピーク波長、換言すれば最大発光波長が、それぞれ異なる5種のLED光源(12)を、下記表3に示されるように、準備した。更に、市販の三種の光重合開始剤、即ち2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン(開始剤A)、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド(開始剤B)及びビス(2,4,6−ポリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド(開始剤C)を準備した。
【0098】
【表1】

【0099】
【表2】

【0100】
【表3】

【0101】
次いで、かかる配合液1、2において開始剤A〜Cを選択して得られる各種のモノマー液(50)について、図3に示されるLED光の照射構造において、各種ピーク波長のLED光源(12)を用いて、室温で30分間、所定のピーク波長のLED光を照射せしめて、それぞれ、光重合を行なった。なお、成形型(10)を構成する雄型(26)及び雌型(28)は、何れも、ポリプロピレンを材質とするものであり、また、LED光源(12)と雌型(28)との間の距離となる照射距離(D)は、5mmとされた。
【0102】
かかる各種のモノマー液(50)に対する各種ピーク波長のLED光源(12)を用いた光重合操作において得られた重合生成物たるコンタクトレンズ製品(眼用レンズ物品)について、未重合モノマーが残存しているか、どうかについて調べ、その結果を、下記表4に示した。なお、下記表4における評価基準において、○は、光重合して得られたコンタクトレンズ製品において、僅かに未重合モノマーが残留していることを検知した場合を示し、また△は、コンタクトレンズ製品において、未重合モノマーが存在していることを示し、更に×は、コンタクトレンズ製品中に未重合モノマーの残存量が多く、製品自体が軟質であって、変形され易いものであることを示している。
【0103】
【表4】

【0104】
また、表1及び表2に示される配合液1及び配合液2に対して、更に、UV吸収剤:2−[2´−ヒドロキシ−5´(2´´−メタクリロイルオキシエトキシ)−3´−ターシャリブチルフェニル]−5−メチル−2H−ベンゾトリアゾールの1重量部を、それぞれ添加し、これに、下記表5に示される如き組合せにおいて、開始剤A〜Cを用いて、モノマー液(50)を調製した後、それを、図3に示される如きポリプロピレン製の成形型10を構成する雄型(26)と雌型(28)との間に形成される成形キャビティ(30)に、充填せしめた。
【0105】
そして、そのような各種のモノマー液(50)が充填された成形型(10)に対して、その雄型(26)側と雌型(28)側の2方向から、対向するようにして、同じピーク波長を有するLED光源(12)の二つを用いて、それぞれ、所定のピーク波長の光を照射せしめることにより、光重合を行ない、目的とするコンタクトレンズ製品(眼用レンズ物品)を製造した。なお、かかる光重合は、室温下において、30分間の光照射を行なうことにより実施され、また、雄型(26)又は雌型(28)に対する各LED光源(12)からの距離である照射距離(D)は、それぞれ、2mmとされた。
【0106】
かくして得られたUV吸収剤を添加せしめたモノマー液(50)の、各種ピーク波長のLED光による光重合によるモールド成形品(コンタクトレンズ製品)について、上記と同様に評価して、その結果を、下記表5に併せて示した。
【0107】
【表5】

【0108】
かかる表4の結果から明らかな如く、UV吸収剤を含有していないモノマー液(50)を用いた、本発明に従う光重合操作においては、400nm以下のピーク波長のLED光源(12)を用いることによって、何れの重合開始剤を用いた場合にあっても、得られた重合生成物であるコンタクトレンズ製品を水和させた場合にコンタクトレンズとして充分な形状保持性を有するモールド成形品として、得ることが出来た。また、405nmでの吸光係数の高い開始剤であるフォスフィンオキサイド系の開始剤B若しくは開始剤Cを添加した場合にあっては、380nm〜470nmの範囲のピーク波長を有するLED光源(12)を用いて、光重合することにより、目的とするコンタクトレンズ製品を有利に得ることが出来た。
【0109】
また、UV吸収剤を含むモノマー液(50)にあっても、表5に示される如く、405nmでの吸光係数の高い開始剤であるフォスフィンオキサイド系の開始剤B若しくはCを用い、そして、380nm〜470nmまでのピーク波長を有するLED光源(12)を用いて光重合を行なうことにより、目的とするコンタクトレンズ製品を有利にモールド成形することが可能であった。
【0110】
なお、上記の表4や表5に示される組成のモノマー液(50)に対して、更に、色素として、1−フェニルアゾ−3−メタクリロイルオキシ−2−ナフトールの0.002重量部を加えて、上記した各種ピーク波長のLED光源(12)を用いて光重合を行なったところ、何れも、上記と同様な結果が得られ、モノマー液(50)の光重合には、色素の存在が大きな影響をもたらすものでないことを、確認した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性材料からなる上型と下型とを型合わせすることにより、それらの型の間に、眼用レンズやその半完成品、レンズブランク等の、目的とする眼用レンズ物品を与える形状の成形キャビティが形成されるようにした成形型を用い、かかる成形キャビティ内に、モノマー液を充填する一方、該成形型の上下の少なくとも一方の型の側に設置されたLEDから光を照射することにより、該成形型を透過する光にて、前記成形キャビティに充填されたモノマー液を光重合して、前記目的とする眼用レンズ物品をモールド成形することを特徴とする眼用レンズ物品の製造方法。
【請求項2】
前記成形型が複数配置され、かかる成形型の一つ毎に、前記LEDが設置されている請求項1に記載の眼用レンズ物品の製造方法。
【請求項3】
前記上型が凸面状の成形キャビティ面を有する雄型である一方、前記下型が凹面状の成形キャビティ面を有する雌型であり、前記LEDが、該雄型から上方に離隔した位置で、且つ成形される眼用レンズ物品の光軸上に設置されている請求項1又は請求項2に記載の眼用レンズ物品の製造方法。
【請求項4】
前記モノマー液が、少なくとも1種のアクリル系モノマーを含有している請求項1乃至請求項3の何れかに記載の眼用レンズ物品の製造方法。
【請求項5】
前記アクリル系モノマーが、シリコン含有アクリル系モノマーであり、かかるシリコン含有アクリル系モノマーが、前記モノマー液中に、10〜70重量%の割合で含有されている請求項4に記載の眼用レンズ物品の製造方法。
【請求項6】
前記アクリル系モノマーが、ジアルキル(メタ)アクリルアミドであり、かかるジアルキル(メタ)アクリルアミドが、前記モノマー液中に、30〜70重量%の割合で含有されている請求項4又は請求項5に記載の眼用レンズ物品の製造方法。
【請求項7】
前記LEDの照射時間が、60分以下である請求項1乃至請求項6の何れかに記載の眼用レンズ物品の製造方法。
【請求項8】
ピーク波長が350〜500nmの範囲内にある光を、前記LEDから照射して、前記モノマー液を、UV吸収剤の不存在下において、光重合せしめることを特徴とする請求項1乃至請求項7の何れかに記載の眼用レンズ物品の製造方法。
【請求項9】
前記モノマー液がUV吸収剤を含有しており、且つ前記LEDから照射される光のピーク波長が、380〜500nmの範囲内にある請求項1乃至請求項7の何れかに記載の眼用レンズ物品の製造方法。
【請求項10】
前記モノマー液が、色素を含有している請求項8又は請求項9に記載の眼用レンズ物品の製造方法。
【請求項11】
前記LEDの二つが用いられて、前記成形型の上方と下方にそれぞれ配置され、それら二つのLEDから相対向するように光が照射せしめられる請求項1乃至請求項10の何れかに記載の眼用レンズ物品の製造方法。
【請求項12】
前記モノマー液の光重合に際して、405nmでの吸光係数の高い光重合開始剤が用いられる請求項1乃至請求項11の何れかに記載の眼用レンズ物品の製造方法。
【請求項13】
光透過性材料からなる上型と下型とを型合わせすることにより、それらの型の間に、眼用レンズやその半完成品、レンズブランク等の、目的とする眼用レンズ物品を与える形状の成形キャビティが形成されるようにした成形型と、該成形型の上下の少なくとも一方の型の側に設置され、前記成形型の前記成形キャビティに充填されるモノマー液に対して光を照射するためのLEDとを含んで構成されることを特徴とする眼用レンズ物品の製造装置。
【請求項14】
所定の搬送手段に、前記成形型が複数配置されると共に、それぞれの成形型毎に、前記LEDが設置されている請求項13に記載の眼用レンズ物品の製造装置。
【請求項15】
前記LEDから照射される光の放射照度を測定するための測定手段が、前記成形型を挟んで、前記LEDに対向する側に設置され、かかる測定手段にて、放射照度を測定するように構成したことを特徴とする請求項13又は請求項14に記載の眼用レンズ物品の製造装置。
【請求項16】
前記LEDに供給する電圧を制御するための制御手段が設けられ、該制御手段にて、前記測定手段にて測定された放射照度の値と目標値とが一致するように該LEDに供給する電圧を制御して、該LEDから照射される光の放射照度を一定に保つようにしたことを特徴とする請求項15に記載の眼用レンズ物品の製造装置。
【請求項17】
前記LEDから照射される光を拡散するための拡散手段が、前記成形型と前記LEDの間に設けられ、かかる拡散手段を介して光を照射することにより、該LEDからの光の照射角度を広げて、前記成形型の前記成形キャビティに充填されたモノマー液に対して、かかる光が均一に照射されるようにしたことを特徴とする請求項13乃至請求項16の何れかに記載の眼用レンズ物品の製造装置。
【請求項18】
前記拡散手段を前記成形型から離隔する方向乃至は接近する方向に移動するための移動手段が設けられ、かかる移動手段にて、該拡散手段の位置を調整することにより、前記成形キャビティに充填されたモノマー液に対して、前記光が均一に照射されるようにしたことを特徴とする請求項17に記載の眼用レンズ物品の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【国際公開番号】WO2005/032791
【国際公開日】平成17年4月14日(2005.4.14)
【発行日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514382(P2005−514382)
【国際出願番号】PCT/JP2004/013345
【国際出願日】平成16年9月14日(2004.9.14)
【出願人】(000138082)株式会社メニコン (150)
【Fターム(参考)】