説明

眼用レンズ用染料組成物、それを用いた染色方法、及び着色眼用レンズ

【課題】安定した染色を簡便で経済的に、かつ環境にも配慮して行うことを可能とする、インクジェット式塗布装置による染色に適用される眼用レンズ用染料組成物を提供する。
【解決手段】本発明は、インクジェット式塗布装置により眼用レンズを染色するために用いられる染料組成物であって、[A]α、β−不飽和カルボニル基、スチリル基、ビニルベンジル基及びアリル基から選択される炭素−炭素二重結合を有する基を分子内に少なくとも1つ有する染料、[B]ラジカル重合開始剤、並びに、[C]上記[A]成分及び[B]成分の少なくとも一部を溶解させることができる溶媒及び/又は[D]ラジカル重合性基を分子内に少なくとも1つ有する単量体を含むことを特徴とする眼用レンズ用染料組成物である。当該染料組成物は、[D]ラジカル重合性基を分子内に少なくとも1つ有する単量体を含まない態様であってよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼用レンズ用染料組成物、それを用いた眼用レンズの染色方法、及び着色眼用レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
眼用レンズの分野、とりわけコンタクトレンズについては、その製造、流通、販売においてコンタクトレンズの度数などの規格を識別し、管理するために、レンズの一部に、規格の数字などを印刷することが行われている。また、使用者がレンズの表裏を判別し易いように、同様に数字、文字、図形などを印刷表示することも行われている。さらに、眼の虹彩が疾病や傷害などによって欠損した患者に対して、整容性の観点から、コンタクトレンズに人の眼の虹彩の色や形状を模した印刷を施すことによって自然な外見が得られるように、虹彩様を着色したコンタクトレンズが用いられることもある。また、ファッション性の観点から、虹彩の色を変えたコンタクトレンズも需要が多い。このように眼用レンズにマークや染色を施すことは、レンズの製造における重要な要素となっている。
【0003】
従来、眼用レンズに文字、数字、図形等を印刷する方法としては、染料や顔料を含む染色液を用いるパッド印刷法やスクリーン印刷法などが知られている。パッド印刷法は、マーキングする文字などを刻印した凹状の溝にインク溶液を貯留してから、それをパッドに転写し、さらにインクが乗ったパッドを被印刷物に接触させて印刷するものである。スクリーン印刷法は、文字、数字、図形などの形状をなす孔にメッシュを貼付し、次いで該メッシュを被印刷物に圧着して、その上から染色液を塗布し、特定の部位に所望の形状を印刷するものである。しかし、これら方法には以下のような不都合がある。例えば、パッド印刷法で、コンタクトレンズのような眼用レンズの所望の位置にマークを印刷する場合、印刷対象の数字や文字の形状に相当する溝を予め金属などの基盤にエッチングして準備しておく必要がある。かかるエッチングにはかなりの時間が必要であり、基盤の計画的な供給を困難としている。また、スクリーン印刷法においては、乳剤などを用いて予め印刷対象の数字や文字などの形状の孔を作製しておく必要があるが、これも同様にかなりの時間が必要である。さらに、例えば、これら方法でコンタクトレンズに実際に印刷する場合、コンタクトレンズにパッド又はスクリーンを動かないように圧着させる必要があるが、この作業には圧着させるための専用の固定用具や治具が必要である。例えば、スクリーン印刷法の場合は、スクリーンを引張りながら、かつそれをコンタクトレンズに圧着するように固定化する必要があり、大がかりな用具が必要となる。さらには、異なる文字、数字、図形ごとに、エッチング基盤や染色用スクリーンを用意する必要がある。また、個々のコンタクトレンズの印刷工程又はバッチでの印刷工程ごとに、再度用具を組み立てなおす必要があり、非常に煩雑な工程が含まれてくる。従って、パッド印刷法やスクリーン印刷法においては、これら用具の調製や製造工程の煩雑さに起因して、処理できる数に限りがあるため、コストの増加や、用具及び工程に関する管理維持に関する労力の増大などを招来することになる。さらに、インクの塗布量、インクの圧着性のばらつきによって、インクの転写不良が発生したり、時として、印刷物が滲んだり、印刷物の鮮鋭さが劣る場合がある。
【0004】
そこで、これらのパッド印刷法やスクリーン印刷法に替えて、インクジェット式塗布装置によりマーキングする方法が提案されている。インクジェット式塗布装置は、染色溶液を非常に微小な液滴として被染色面に塗布するものであり、表面に着床した液滴は一つのドットを形成し、このドットの集まりによって所望の文字、数字、図形のパターンを形成することが可能となる。一般に、小さなドットが高密度で集合した場合の文字、数字、図形は、鮮鋭なコントラストを与え、優れた視認性のマークとなる。インクジェット式塗布装置を用いて印字、描画する際、液滴の大きさ、液滴が着床する地点などは、コンピューターなどによって正確に制御することができ、コンピューターのプログラムの変更などによって容易にマークの形や大きさを変更することが可能である。また、複数のインクジェットノズルを用いることによって複数の染料を同時に印刷することも可能で、多様な発色などが容易に行え、また色の諧調性にも優れるといった秀でた特徴を有する。従って、インクジェット式塗布装置による印刷においては、パッド印刷法やスクリーン印刷法のように、異なる文字、数字、図形ごとに刻印された型やスクリーンを用意する必要はない。また、インクジェット式塗布装置による印刷は、非接触式の印刷方法であり、パッドやスクリーンを接触又は圧着させるなどの余分な工程が不要となるため、非常に生産性が高く、一定した高品質の印刷ができるという優れた利点を有する。かかるインクジェット式塗布装置の利点に鑑みて、コンタクトレンズなどの眼用レンズに対するマーキング方法がいくつか開示されている。
【0005】
特開平8−112566号公報には、含水性コンタクトレンズの所望の部分に、インクジェット式塗布装置にて染色液を印刷する方法が開示されている。この文献では、インクジェット式塗布装置を用いることによって、作業性に優れたマーキングが可能となることが示されている。しかし、当該文献には、染色液として反応性染料やバット染料等を用いることが記載されている。コンタクトレンズなどの眼用レンズにマーキングや染色を行う場合には、これら眼用レンズは眼に直接接触して用いられるものであるため、眼に対する安全性を担保するという観点から、マーキング部位から染料が溶出しないようにする必要がある。また、コンタクトレンズ、特に含水性ソフトコンタクトレンズは、保管時あるいは使用時に、水に浸漬されることによって膨潤し、あるいは、必要に応じて煮沸、洗浄などの処理を行うことが要求される。そのようにコンタクトレンズが、水による膨潤や、煮沸、洗浄などの処理を多数回にわたって受けた場合であっても、品質的な耐久性の観点から、マーキング部位から染料が溶出することを防止する必要がある。しかし、上記先行文献で用いられる染料のうち反応性染料に関しては、眼用レンズの素材の化学構造の中に該染料と反応しうる活性基を有している必要があるが、かかる反応性染料と反応しうる活性基を有していない眼用レンズ素材においては染料が反応しないため染料が外部へ溶出するおそれがある。従って、本先行文献で示される反応性染料においては、適用可能な眼用レンズ素材の種類が限定されるという不都合がある。一方、バット染料を用いる場合においては通常これをアルカリ溶液として還元状態にして染料溶液とするが、かかる溶液はたやすく空気中で酸化され不溶性物質となるため、インクジェット式塗布装置の吐出ノズル中で固化し、詰りの原因となるおそれがある。これを防止するためには不活性環境下での作業が必要となり、そのためには不活性環境下でインクの製造や充填やインクジェットによる塗布が可能となるような装置や設備が必要となり、多大なコストがかかるといった製造面での不都合が含まれる。また、バット染料ではアルカリ溶液や定着液を用いる必要があるが、作業後に不要となったこれら溶液(廃棄物)の処理において多額のコストがかかったりするなど、経済性または環境面での問題も内在する。
【0006】
このようにインクジェット式塗布装置を用いた眼用レンズの染色方法において、反応性染料と反応しうる基を有していない眼用レンズに対しても染料の溶出をほとんど起こさない染料組成物は、開発されていない。さらには、また大量のアルカリ溶液や定着液を用いなくても済むような、経済的にも環境的にも配慮された染色方法は存在していないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−112566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこれらの不都合を解消するためになされたものである。すなわち、本発明の目的は、安定した染色を簡便で経済的に、かつ環境にも配慮して行うことを可能とする、インクジェット式塗布装置による染色のために適用される眼用レンズ用染料組成物及び染色方法、並びにそれに基づく眼用レンズを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究の結果、特定の炭素−炭素二重結合を有する基を分子内に少なくとも1つ有する染料、ラジカル重合開始剤、並びに、これらの成分の少なくとも一部を溶解させることができる溶媒及び/又はラジカル重合性基を分子内に少なくとも1つ有する単量体(ラジカル重合性単量体)を含むことによって、眼用レンズに対し耐溶出性が極めて高く、安定した染色印刷物を形成することができる眼用レンズ用染料組成物が得られ、しかもそのような染料組成物は、インクジェット式塗布装置による印刷方法のために好適に用いられることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
上記課題を解決させるためになされた発明は、
インクジェット式塗布装置により眼用レンズを染色するために用いられる染料組成物であって、
[A]α、β−不飽和カルボニル基、スチリル基、ビニルベンジル基及びアリル基からなる群より選択される炭素−炭素二重結合を有する基を分子内に少なくとも1つ有する染料、
[B]ラジカル重合開始剤、並びに、
[C]上記[A]成分及び[B]成分の少なくとも一部を溶解させることができる溶媒及び/又は[D]ラジカル重合性基を分子内に少なくとも1つ有する単量体
を含むことを特徴とする眼用レンズ用染料組成物である。
【0011】
当該眼用レンズ用染料組成物は、特定の炭素−炭素二重結合を有する基を分子内に少なくとも1つ有する染料とラジカル重合開始剤とに加えて、これらの少なくとも一部を溶解させることができる溶媒及び/又はラジカル重合性単量体を含むため、眼用レンズに対して耐溶出性に極めて優れた(半恒久的に安定で溶出がほとんどない)染色印刷物を形成することができる。当該眼用レンズ用染料組成物から形成された染色印刷物は、水による膨潤や、煮沸、洗浄の際でも、染料が溶出することがなく、耐久性が極めて高い。このような優れた耐溶出性は、染料分子が、電磁波や熱によってラジカル反応し、眼用レンズを構成する高分子の網目構造の中で重合するか、あるいは眼用レンズの高分子とグラフト反応することによって、この染料分子が眼用レンズに強固に定着することによって達成されると考えられる。この効果は、反応性染料と反応しうる基を有していない眼用レンズについても、同様に得られる。また、当該眼用レンズ用染料組成物は、多量のアルカリ溶液や定着液を用いることなく、単に電磁波や熱によって染料組成物を硬化・定着させることで、簡便に染色可能であるため、インクジェット式塗布装置を用いて、眼用レンズに印刷するために用いられる。
【0012】
当該眼用レンズ用染料組成物は、上記[D]ラジカル重合性基を分子内に少なくとも1つ有する単量体を含まない態様で用いることができる。このように、当該眼用レンズ用染料組成物が、ラジカル重合性単量体を含まない場合でも、眼用レンズに対して耐溶出性に極めて優れた染色印刷物を形成することができ、また、単に電磁波や熱によって染料組成物を硬化・定着させることで、簡便に染色可能である。
【0013】
当該眼用レンズ用染料組成物は、均一な溶液の形態であることが好ましい。このように染料組成物を均一な溶液の形態とすることによって、インクジェット式塗布装置を用いた眼用レンズへの印刷時に、吐出ノズル中における詰りを効果的に防止することができると共に、良好な染色印刷物を得ることが可能となる。また、均一な溶液の形態である当該染料組成物は、眼用レンズの内部にまで容易かつ均一に浸透することが可能である。
【0014】
当該眼用レンズ用染料組成物において、[A]成分の炭素−炭素二重結合を有する基がα、β−不飽和カルボニル基である場合、この基は(メタ)アクリレート基又は(メタ)アクリルアミド基であることが好ましい。[A]成分の炭素−炭素二重結合を有する基としてこれらの基を選択することによって、染料組成物の眼用レンズに対する耐溶出性及び眼用レンズへの印刷特性を、より一層向上させることができる。
【0015】
当該眼用レンズ用染料組成物は、[E]界面活性剤をさらに含むことが好ましい。当該眼用レンズ用染料組成物が界面活性剤をさらに含むことによって、この染料組成物の眼用レンズへの印刷時において、浸透の速度及び均一性を向上させることができる。
【0016】
本発明におけるインクジェット式塗布装置により眼用レンズを染色するための方法は、以下の工程を包含する。
(1)インクジェット式塗布装置を用いて、上記眼用レンズ用染料組成物を眼用レンズの表面に塗布する工程、
(2)塗布した上記眼用レンズ用染料組成物の少なくとも一部を上記眼用レンズの内部に浸透させる工程、及び
(3)次いで、眼用レンズ用染料組成物を重合させるために、該染料組成物に活性エネルギー線及び/又は熱を付与する工程。
【0017】
このように、当該眼用レンズの染色方法においては、上記の[A]、[B]、並びに[C]及び/又は[D]の各成分を含む眼用レンズ用染料組成物を用いることから、反応性染料と反応しうる基を有していないものを含むいかなる眼用レンズに対しても、耐溶出性に極めて優れた染色印刷物を形成することができる。また、この染色方法によれば、上記各成分を含む眼用レンズ用染料組成物を用いると共に、アルカリ溶液や定着液を用いる必要がないため、廃棄物の量を低減することができ、簡便に、かつ経済的にも環境的にも配慮された方法で染色を行うことが可能である。すなわち、当該染色方法は、作業性、簡便性、経済性、環境面のいずれの観点においても優れた方法であると言える。
【0018】
当該眼用レンズの染色方法の上記工程(2)において、塗布した上記眼用レンズ用染料組成物の全部が眼用レンズの内部に浸透してから、眼用レンズ用染料組成物を重合させるために、該染料組成物に活性エネルギー線及び/又は熱を付与することができる。このように、塗布した染料組成物の全部が眼用レンズの内部に浸透した状態で電磁波や熱を付与することによって、高分子網目構造を形成し、眼用レンズ内部に定着する。このような染料組成物による高分子網目構造は、眼用レンズの高分子網目構造との間で相互侵入網目構造を形成し、それらが互いに強固に定着することで、溶剤等に対して非常に安定な印刷物が得られる。
【0019】
当該眼用レンズの染色方法の上記工程(2)において、塗布した上記眼用レンズ用染料組成物の一部が眼用レンズの内部へ浸透し、残りの部分が大気との間で界面を形成する状態において、眼用レンズ用染料組成物を重合させるために、該染料組成物に活性エネルギー線及び/又は熱を付与することができる。この場合においても、眼用レンズの内部に浸透した一部の染料組成物が、眼用レンズの高分子網目構造との間で相互侵入網目構造を形成することで、染料の溶出は起こらず、印刷物が強固に眼用レンズ表面に形成・定着される。
【0020】
当該眼用レンズの染色方法の上記工程(1)において、インクジェット式塗布装置を用いて、乾燥した状態の眼用レンズの表面へ上記眼用レンズ用染料組成物を塗布することができる。当該染料組成物が、上記の[A]成分及び[B]成分に加えて、[C]成分の溶媒及び/又は[D]成分のラジカル重合性単量体を含むことから、このように乾燥した状態の眼用レンズに対して当該染料組成物を適用する場合であっても、多量のアルカリ溶液や定着液を用いることなく、単に電磁波や熱を用いることによって、染料組成物を硬化・定着させ、簡便に染色印刷物を得ることができる。
【0021】
上記眼用レンズ用染料組成物を硬化させて得られる硬化物を、表層の少なくとも一部に有することで、着色眼用レンズを形成することができる。このような眼用レンズは、上記[A]、[B]、並びに[C]及び/又は[D]の各成分を含む染料組成物から形成されているため、耐溶出性が優れており、眼に対する安全性を十分に確保することができる。
【0022】
当該着色眼用レンズにおける基材である眼用レンズとしては、コンタクトレンズを用いることができる。生活用として広く普及しているコンタクトレンズに対する染色のために上記眼用レンズ用染料組成物を用いる場合には、この染料組成物の硬化物が優れた耐溶出性を有することにより、高い商品価値と信頼性を有するコンタクトレンズを提供することが可能となる。このような効果は、コンタクトレンズとして含水性ソフトコンタクトレンズを使用する場合においても、同様に得られる。
【0023】
当該着色眼用レンズにおける含水性ソフトコンタクトレンズとしては、シリコーン化合物を含む単量体の共重合体から形成されているものを用いることが好ましい。このように含水性ソフトコンタクトレンズが、シリコーン化合物を含む単量体の共重合体から形成されていることによって、コンタクトレンズに高い柔軟性及び酸素透過性を付与することができる。
【0024】
当該着色眼用レンズにおける基材である眼用レンズとしては、酸素透過性硬質コンタクトレンズを用いることができる。このように眼用レンズとして、酸素透過性硬質コンタクトレンズを用いる場合においても、上記同様、染料組成物の硬化物が優れた耐溶出性を有することにより、高い商品価値と信頼性を有するコンタクトレンズを提供することができる。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したように、本発明の眼用レンズ用染料組成物によれば、眼用レンズに対して耐溶出性に極めて優れ、半恒久的に安定で溶出が殆どない染色印刷物を形成することができる。この染色印刷物は、水による膨潤や、煮沸、洗浄の際でも、染料が溶出することがなく、耐久性が極めて高い。このような効果は、反応性染料と反応しうる基を有していない眼用レンズについても、同様に得られる。さらに、当該眼用レンズ用染料組成物は、多量のアルカリ溶液や定着液を用いることなく、単に電磁波や熱を用いて染料組成物を硬化・定着させることで、簡便に染色可能であるため、インクジェット式塗布装置を用いて、眼用レンズに印刷するために用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態を詳説する。
【0027】
本発明に係るインクジェット式塗布装置により眼用レンズを染色するために用いられる眼用レンズ用染料組成物は、[A]α、β−不飽和カルボニル基、スチリル基、ビニルベンジル基、及びアリル基からなる群より選択される炭素−炭素二重結合を有する基を分子内に少なくとも1つ有する染料、[B]ラジカル重合開始剤、並びに、[C]上記[A]成分及び[B]成分の少なくとも一部を溶解させることができる溶媒、及び/又は[D]ラジカル重合性基を分子内に少なくとも1つ有する単量体を含む。以下、当該眼用レンズ用染料組成物の各成分について順に説明する。
【0028】
[A]成分:特定の炭素−炭素二重結合を有する基を分子内に少なくとも1つ有する染料
[A]成分の染料は、可視光の一部を吸収又は反射することによって特定の色を発色する化学構造を有し、かつ特定の炭素−炭素二重結合を有する基を分子内に少なくとも1つ有する化合物として定義される。この炭素−炭素二重結合を有する基は、α、β−不飽和カルボニル基、スチリル基、ビニルベンジル基及びアリル基からなる群より選択される。このような染料を用いることによって、眼用レンズに対し耐溶出性に極めて優れた染色印刷物を形成可能な染料組成物が得られる。形成された染色印刷物の耐溶出性が極めて高くなる理由としては、染料分子が眼用レンズの基材を構成する高分子網目の中で重合するため、あるいは眼用レンズの基材の高分子へのグラフト反応によって染料分子が固定化するためなどが考えられる。
【0029】
上記α、β−不飽和カルボニル基は、(メタ)アクリレート基又は(メタ)アクリルアミド基であることが好ましい。[A]成分における炭素−炭素二重結合を有する基がこれらの特定の基であることによって、染料組成物の眼用レンズに対する耐溶出性を向上させることができると共に、眼用レンズへの印刷特性をより高めることが可能となる。なお、上記スチリル基は、置換基を有しないスチリル基であっても、α−メチル基等の置換基を有するスチリル基であってもよい。ビニルベンジル基は、o−、m−及びp−ビニルベンジル基のいずれであってもよい。
【0030】
可視光の一部を吸収又は反射することによって特定の色を発色する染料の化学構造の観点からは、アゾ系染料、アントラキノン系染料、ニトロ系染料、フタロシアニン系染料、キノンイミン系染料、キノリン系染料、カルボニル系染料、トリアリールメタン系染料、メチン系染料等に分類することができる。
【0031】
(メタ)アクリレート基を分子内に少なくとも1つ有する染料としては、特に限定されないが、例えば1−フェニルアゾ−4−(メタ)アクリロイルオキシナフタレン、1−フェニルアゾ−2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシナフタレン、1−ナフチルアゾ−2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシナフタレン、1−(α−アントリルアゾ)−2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシナフタレン、1−((4’−フェニルアゾ)フェニル)アゾ−2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシナフタレン、1−(2’,4’−キシリルアゾ)−2−(メタ)アクリロイルオキシナフタレン、1−(o−トリルアゾ)−2−(メタ)アクリロイルオキシナフタレン、2,4−ジヒドロキシ−3−(p−(メタ)アクリロイルオキシメチルフェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−5−(p−(メタ)アクリロイルオキシメチルフェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−3−(p−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−5−(p−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−3−(p−(メタ)アクリロイルオキシプロピルフェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−5−(p−(メタ)アクリロイルオキシプロピルフェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−3−(o−(メタ)アクリロイルオキシメチルフェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−5−(o−(メタ)アクリロイルオキシメチルフェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−3−(o−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−5−(o−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−3−(o−(メタ)アクリロイルオキシプロピルフェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−5−(o−(メタ)アクリロイルオキシプロピルフェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−3−(p−(N,N−ジ(メタ)アクリロイルオキシエチルアミノ)フェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−5−(p−N,N−ジ(メタ)アクリロイルオキシエチルアミノ)フェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−3−(o−N,N−ジ(メタ)アクリロイルオキシエチルアミノ)フェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−5−(o−(N,N−ジ(メタ)アクリロイルオキシエチルアミノ)フェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−3−(p−(N−エチル−N−(メタ)アクリロイルオキシエチルアミノ)フェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−5−(p−(N−エチル−N−(メタ)アクリロイルオキシエチルアミノ)フェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−3−(o−(N−エチル−N−(メタ)アクリロイルオキシエチルアミノ)フェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−5−(o−(N−エチル−N−(メタ)アクリロイルオキシエチルアミノ)フェニルアゾ)ベンゾフェノン等を挙げることができる。
【0032】
(メタ)アクリレート基を分子内に少なくとも1つ有する染料の他の例としては、下記式(1)で表される1−((4−(フェニルアゾ)フェニル)アゾ)−3−メタクリロイルオキシ−2−ナフトール、下記式(2)で表される1−フェニルアゾ−3−メタクリロイルオキシ−2−ナフトール、下記式(3)で表される1−フェニルアゾ−4−メタクリロイルオキシ−ナフタレン、下記式(4)で表される2,4−ジヒドロキシ−5−(4−(2−(N−(2−メタクリロイルオキシ)エチル)カルバモイルオキシエチル)フェニルアゾ)ベンゾフェノンが挙げられる。
【0033】
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【0034】
(メタ)アクリルアミド基を分子内に少なくとも1つ有する染料としては、特に限定されないが、例えば下記式(5)で表されるテトラ−(4−メタクリルアミド)銅フタロシアニン、テトラ−(メタクリルアミド)ドデカノイル銅フタロシアニン等を挙げることができる。
【0035】
【化5】

【0036】
スチリル基を分子内に少なくとも1つ有する染料としては、特に限定されないが、例えば1−(エテニルフェニル)アミノ−アントラキノン、下記式(6)で表される1,4−ビス((エテニルフェニル)アミノ)−アントラキノン、下記式(7)で表される1,8−ビス((エテニルフェニル)アミノ)−アントラキノン、1−(エテニルフェニル)アミノ−4−ヒドロキシアントラキノン、1−(エテニルフェニル)アミノ−4−(4−メチルフェニル)アミノ−アントラキノン等を挙げることができる。
【0037】
【化6】

【0038】
【化7】

【0039】
ビニルベンジル基を分子内に少なくとも1つ有する染料としては、特に限定されないが、例えば1,4−ビス((ビニルベンジル)アミノ)−アントラキノンを挙げることができる。
【0040】
アリル基を分子内に少なくとも1つ有する染料としては、特に限定されないが、例えば下記式(8)で示される1−(4−アリルオキシメチルフェニル)アミノ−4−ヒドロキシアントラキノン、下記式(9)で示される1−(4−アリルオキシエチルフェニル)アミノ−4−ヒドロキシアントラキノン、下記式(10)で示される1,4−ビス(4−アリルオキシエチルフェニル)アミノアントラキノン等を挙げることができる。
【0041】
【化8】

【化9】

【化10】

【0042】
当該染料組成物における[A]成分の染料の使用割合は、特に限定されないが、後述する[C]成分の溶媒及び/又は[D]ラジカル重合性単量体の合計100質量部に対し、0.1質量部以上10質量部以下であることが好ましく、0.5質量部以上5質量部以下であることがより好ましい。このように[A]成分の使用割合を0.1質量部以上とすることによって、染色印刷物の十分な視認性を得ることができる。また[A]成分の使用割合を10質量部以下とすることによって、組成物中の溶解しない部分の発生を低減することが可能であると共に、染料の過剰による眼用レンズへの浸透ムラ及びそれに誘発される染色ムラの発生(レンズ装着時における外見の悪化)を防止することができる。当該染料組成物において、[A]成分の染料は、1種類単独であっても、複数種を混合して用いてもよい。なお、当該染料組成物には、[A]成分に加えて、上記効果を阻害しない程度の量の非反応性染料(例えば、「D&C Green No.6」や「D&C Red No.17」)を加えてもよい。
【0043】
[B]成分:ラジカル重合開始剤
[B]成分のラジカル重合開始剤は、活性エネルギー線(紫外光や可視光等の光線(電磁波))又は熱を付加することによってラジカル(遊離基)を発生する化合物であって、[A]成分の特定の炭素−炭素二重結合を有する基を分子内に少なくとも1つ有する染料自身のラジカル重合、あるいは、[A]成分の染料と後述する[D]成分のラジカル重合性基を分子内に少なくとも1つ有する単量体とのラジカル重合を開始させうるものであると定義される。[B]成分のラジカル重合開始剤は、このように定義される性質を有するものである限り、特に限定されるものではない。
【0044】
活性エネルギー線によるラジカル重合開始剤の具体例としては、
2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニルホスフィンオキサイド(TMDPO)、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイドなどのホスフィンオキサイド系光重合開始剤;メチルオルソベンゾイルベンゾエート、メチルベンゾイルフォルメート、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾイン−n−ブチルエーテルなどのベンゾイン系光重合開始剤;2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、p−イソプロピル−α−ヒドロキシイソブチルフェノン、p−t−ブチルトリクロロアセトフェノン、α,α−ジクロロ−4−フェノキシアセトフェノン、N,N−テトラエチル−4,4−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ビスジメチルアミノベンゾフェノンなどのフェノン系光重合開始剤;1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、1−フェニル−1,2−プロパンジオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシム、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オンなどのケトン系光重合開始剤;2−クロロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントンなどのチオキサントン系光重合開始剤;ベンジルメチルケタール、ベンジルジメチルケタール、アセトフェノンジエチルケタールなどのケタール系光重合開始剤;その他、ジベンゾスパロン、ベンゾフェノン、ベンジル等が挙げられる。
【0045】
熱によるラジカル重合発生剤の具体例としては、
2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシヘキサノエート、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド等が挙げられる。
【0046】
上記染料組成物における[B]成分のラジカル重合開始剤の使用割合は、特に限定されないが、後述する[C]成分の溶媒及び/又は[D]成分のラジカル重合性単量体の合計100質量部に対して、0.1質量部以上20質量部以下であることが好ましく、0.5質量部以上15質量部以下であることがより好ましい。[B]成分の使用割合を0.1質量部以上とすることによって、ラジカル重合反応性を高度なレベルに保ち、眼用レンズに定着していない染料の溶出・薄色化を抑制することができる。[B]成分の使用割合を20質量部以下とすることによって、眼用レンズ基材中のラジカル重合開始剤の残留量を低減し、安全性を高めると共に、眼用レンズへのラジカル重合開始剤の浸透ムラ及びそれに誘発される染色ムラを防止することができる。ラジカル重合開始剤は、1種類を単独で用いてもよく、複数種の化合物を併用してもよい。
【0047】
[C]成分:溶媒
[C]成分の溶媒は、[A]成分及び[B]成分を少なくとも一部溶解させることができる液体であれば特に限定されるものではない。[C]成分の溶媒は、[A]成分及び[B]成分に加えて、後述する任意成分である[D]成分のラジカル重合性基を分子内に少なくとも1つ有する単量体の少なくとも一部を溶解させることができる液体であることが好ましい。また、[C]成分の溶媒は、[A]成分及び[B]成分の実質的に全て、あるいは[A]成分、[B]成分及び任意成分の[D]成分の実質的に全てを溶解させることができる液体であることが、さらに好ましい。
【0048】
当該染料組成物に用いられる[C]成分の溶媒の代表的なものとしては、
水;メタノール、エタノール、プロパノール、グリセロール、トリフルオロエチルアルコール、ヘキサフルオロイソプロピルアルコールなどのアルコール類;
メチルエチルケトン、アセトンなどのケトン類;
トルエン、ベンゼン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶剤;
ヘキサン、オクタンなどの鎖状脂肪族炭化水素系溶剤;
シクロヘキサン、デカリンなどの環状脂肪族炭化水素系溶剤;
酢酸エチル、酢酸メチルなどのエステル系溶剤;
ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶剤;
クロロホルム、塩化メチレン、四塩化炭素、フロンなどのハロゲン化炭素系溶剤;
ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド系溶剤;
その他、ジメチルスルフォキシド、塩化ナトリウムなどの電解質塩を含む水等を挙げることができる。
この[C]成分の溶媒は、1種類を単独で用いてもよく、複数種を併用してもよい。
【0049】
[D]成分:ラジカル重合性基を分子内に1つ有する単量体
ここで言う「ラジカル重合性基」は、ラジカル重合可能な不飽和基を意味する。[D]成分のラジカル重合性基を分子内に1つ有する単量体として、液体状の単量体を用いる場合において、[A]成分の染料及び[B]成分のラジカル重合開始剤がこの液体状単量体に溶解しうるときには、[C]成分の溶媒を用いることなく、かかる単量体を用いて染料溶液を形成することができる。当該染料組成物においては、[C]成分の溶媒及び[D]成分の単量体を併用することもできる。当該染料組成物において、[D]成分の単量体を用いることによって、[A]成分の染料分子による眼用レンズ基材中における高分子網目状の重合、定着、あるいは眼用レンズ基材の高分子とのグラフト反応による固定化がさらに強固なものとなり、染色印刷物の洗浄等に対する耐剥離性・耐溶出性がより一層高くなると考えられる。また、このような[D]成分の単量体を用いることによって、反応性染料と反応し得る官能基を有していない眼用レンズ基材に対しても、恒久的に安定で溶出がほとんどない染色印刷物を与えることが可能となる。
【0050】
[D]成分のラジカル重合性基を分子内に1つ有する単量体の例としては、
メタクリル酸、アクリル酸等の不飽和基含有カルボン酸類;
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n−ペンチル(メタ)アクリレート、t−ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート類;
メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレートなどのアルコキシ基含有(メタ)アクリレート類;
ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ジヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレートなどのヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート類;
スチレン、ペンタフルオロスチレン、o、m、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、トリメチルスチレン、トリフルオロメチルスチレン、(ペンタメチル−3,3−ビス(トリメチルシロキシ)トリシロキサニル)スチレン、(ヘキサメチル−3−トリメチルシロキシトリシロキサニル)スチレン、ジメチルアミノスチレン等のスチレン誘導体類;
N−ビニル−2−ピロリドン、1−メチル−3−メチレン−2−ピロリジノン、N−ビニルカプロラクタム、N−(メタ)アクリロイルピロリドンなどの炭素−炭素不飽和基含有ラクタム類;
(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル−N−アミノエチル(メタ)アクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミド類;
エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、4−ビニルベンジル(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、ビニル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、メタクリロイルオキシエチルアクリレート、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート、アジピン酸ジアリル、トリアリルイソシアヌレート、α−メチレン−N−ビニルピロリドンなどの不飽和基を2つ以上有する多官能性単量体類;
ペンタメチルジシロキサニルメチル(メタ)アクリレート、ペンタメチルジシロキサニルプロピル(メタ)アクリレート、メチルビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレート、トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレート、モノ(メチルビス(トリメチルシロキシ)シロキシ)ビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレート、トリス(メチルビス(トリメチルシロキシ)シロキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレート、メチルビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルグリセリル(メタ)アクリレート、トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルグリセリル(メタ)アクリレート、モノ(メチルビス(トリメチルシロキシ)シロキシ)ビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルグリセリル(メタ)アクリレート、トリメチルシリルエチルテトラメチルジシロキサニルプロピルグリセリル(メタ)アクリレート、トリメチルシリルメチル(メタ)アクリレート、トリメチルシリルプロピル(メタ)アクリレート、トリメチルシリルプロピルグリセリル(メタ)アクリレート、ペンタメチルジシロキサニルプロピルグリセリル(メタ)アクリレート、メチルビス(トリメチルシロキシ)シリルエチルテトラメチルジシロキサニルメチル(メタ)アクリレート、テトラメチルトリイソプロピルシクロテトラシロキサニルプロピル(メタ)アクリレート、テトラメチルトリイソプロピルシクロテトラシロキシビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレートなどのシリコン含有(メタ)アクリレート類;
トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、ヘキサフルオロイソプロピル(メタ)アクリレート、テトラフルオロ−t−ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキサフルオロブチル(メタ)アクリレート、ヘキサフルオロ−t−ヘキシル(メタ)アクリレート、オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート、2,3,4,5,5,5−ヘキサフルオロ−2,4−ビス(トリフルオロメチル)ペンチル(メタ)アクリレート、ドデカフルオロヘプチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシオクタフルオロ−6−トリフルオロメチルヘプチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシドデカフルオロ−8−トリフルオロメチルノニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシヘキサデカフルオロ−10−トリフルオロメチルウンデシル(メタ)アクリレート等のフッ素含有(メタ)アクリレート類;
アミノエチル(メタ)アクリレート、N−メチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどのアミノアルキル(メタ)アクリレート類;
ベンジル(メタ)アクリレートなどの芳香環含有(メタ)アクリレート類;
イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸などの、アルキル基、フッ素含有アルキル基、シロキサニルアルキル基で置換されていてもよいアルキルエステル類;
ビニルイミダゾール、N−ビニルピペリドン、N−ビニルピペリジン、N−ビニルサクシンイミドなどのヘテロ環式N−ビニル単量体等が挙げられる。
【0051】
これらの単量体の中でも、ラジカル重合反応性及び入手容易性の観点から、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、4−ビニルベンジル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、1−メチル−3−メチレン−2−ピロリジノン、メチル(メタ)アクリレート、トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、スチレン、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、N−ビニルピロリドンが好ましい。
この[D]成分の単量体は、1種類を単独で用いてもよく、複数種を併用してもよい。
【0052】
当該染料組成物における[C]成分及び[D]成分は、上述のように、いずれか一方のみを用いてもよく、それぞれの使用割合及び両者の比率は特に限定されない。例えば、当該染料組成物における[C]成分を用いる場合の使用割合は0.1質量%以上99.8質量%以下、[D]成分を用いる場合の使用割合は1質量%以上99.8質量%以下とすることができる。
【0053】
[E]成分:界面活性剤
[E]成分の界面活性剤は、染料組成物の溶液をより円滑に眼用レンズ基材内部に浸透させるために、また染料組成物から形成される染色印刷物の滲みを防止するために用いることができる。さらに、界面活性剤は、後述する染料組成物中のミセルを安定化する作用を有する。このような界面活性剤は、染料組成物溶液中に溶解あるいは乳化させた状態で用いられる。
【0054】
界面活性剤の具体例としては、
ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー及びその誘導体、ソルビタン脂肪酸エステル、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタンなどのポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(例えば、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油)、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸及びその塩等の非イオン系界面活性剤;
脂肪酸塩、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキル酢酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩等の陰イオン系界面活性剤;
アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩等の陽イオン系界面活性剤;
アルキルアミノ脂肪酸ナトリウム、アルキルベタイン、アルキルカルボキシベタイン等の両性界面活性剤などが挙げられる。
これらの界面活性剤の中でも、染料組成物溶液の眼用レンズ基材内部への浸透性の点において、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油が最も好ましい。
【0055】
当該染料組成物における[E]成分の使用割合は、特に限定されないが、0.001質量%以上5質量%以下とすることが好ましい。[E]成分の使用割合を0.001質量%以上とすることによって、染料組成物の浸透性を効果的に高め、染色印刷物の滲みの発生を抑制することができる。[E]成分の使用割合は0.01質量%以上とすることがより好ましい。一方、[E]成分の使用割合を5質量%以下とすることによって、界面活性剤の過剰使用による不経済を防止することができる。[E]成分の使用割合は2質量%以下とすることがより好ましい。[E]成分の界面活性剤は、1種類を単独で用いてもよく、複数種を併用してもよい。
【0056】
[眼用レンズ用染料組成物]
本発明の眼用レンズ用染料組成物は、上記の[A]成分の特定の炭素−炭素二重結合を有する基を分子内に少なくとも1つ有する染料、[B]成分のラジカル重合開始剤、並びに、[C]成分の溶媒、及び/又はラジカル重合性基を分子内に少なくとも1つ有する単量体、必要に応じて、[E]成分の界面活性剤等のその他の任意成分を適当量混合することによって調製される。これらの成分を混合する順序は、特に限定されない。
【0057】
当該染料組成物の形態は、均一な溶液であることが望ましい。当該染料組成物が、このように均一な溶液であることによって、インクジェット式塗布装置を用いた眼用レンズへの印刷時に、吐出ノズル中における詰りを効果的に防止することができると共に、良好な染色印刷物を得ることが可能となる。また均一な溶液の形態である当該染料組成物は、眼用レンズの内部にまで容易かつ均一に浸透することが可能である。ここでいう「均一な溶液」は、染料組成物中に染料が分子状に分散溶解した状態のみではなく、染料の少なくとも一部がミセルなどの凝集体を成している状態のものを含む。ただし、ここでのミセルなどの凝集体は、眼用レンズの内部まで浸透可能であるように、眼用レンズの基材中に形成されている高分子網目構造を通過できる程度の大きさであることが好ましい。ミセルなどの凝集体のサイズは、眼用レンズ材料を形成する高分子網目構造の種類や大きさに依存するため、一概に規定することはできないが、平均的な上限が500〜600nmであることが好ましい。
【0058】
[眼用レンズ]
当該染料組成物によって染色する眼用レンズは、人の眼に装着することにより視力の矯正、整容性向上等を可能とするレンズであり、コンタクトレンズに限らず、眼内レンズ、人工角膜、角膜オンレイ、角膜インレイ等を含む概念である。このような眼用レンズは、一般に架橋構造を有する高分子材料からなり、レンズ内部に高分子網目構造を有する。生活用として広く普及しているコンタクトレンズへの染色のために当該染料組成物を用いる場合には、この染料組成物の硬化物が優れた耐溶出性を有することによって、高い商品価値と信頼性を有するコンタクトレンズを提供することができる。コンタクトレンズとしては、水を含んで柔軟化する含水性ソフトコンタクトレンズ、非含水性ソフトコンタクトレンズ、硬質酸素透過性コンタクトレンズ、あるいはこれらの組み合わせからなるハイブリッドコンタクトレンズを挙げることができる。当該染料組成物は、上述のように耐溶出性に極めて優れ、半恒久的に安定で溶出がほとんどない染色印刷物を形成可能であるため、ソフトコンタクトレンズ、特に含水性ソフトコンタクトレンズにも好適に用いられ、耐久性に優れた染色印刷物を形成することができる。これらの眼用レンズの材質としては、公知のいずれのものを用いることもできる。例えば、含水性ソフトコンタクトレンズの材質としては、ポリヒドロキシエチルメタクリレート等の高分子化合物を水系の溶媒で膨潤したハイドロゲルを用いることができる。
【0059】
上述のように眼用レンズとして含水性ソフトコンタクトレンズを用いる場合、シリコーン化合物を含む単量体の共重合体から形成されているものが好ましく用いられる。このようにシリコーン化合物を含む単量体の共重合体から形成されている含水性ソフトコンタクトレンズは、コンタクトレンズに高い柔軟性及び酸素透過性を付与することができる。このような共重合体としては、特に限定されないが、例えばシリコーンモノマー(もしくはマクロマー)と含水性モノマーとを共重合させたシリコーンハイドロゲルを用いることができる。用いられるシリコーンモノマー等の例としては、ウレタン結合を介してエチレン性不飽和基及びポリジメチルシロキサン構造を有する化合物、分子内に親水性構造部分を有するシリコーン化合物、シリコーン含有アルキル(メタ)アクリレート、シリコーン含有スチレン誘導体およびシリコーン含有フマル酸ジエステルなどを挙げることができる。
【0060】
当該染料組成物による染色の対象となる眼用レンズとしては、反応性染料と反応しうる基を有していない眼用レンズを好適に用いることができる。眼用レンズが、従来から用いられている反応性染料と反応しうる基を有していない場合でも、上述のように染料分子が眼用レンズにおいて高分子網目構造を形成することによって、優れた耐溶出性を有する染色印刷物を得ることができると考えられる。
【0061】
[眼用レンズの染色方法]
次に、上記の眼用レンズ用染料組成物を用いて、インクジェット式塗布装置により眼用レンズを染色するための方法について説明する。当該方法は、
(1)インクジェット式塗布装置を用いて、本発明の眼用レンズ用染料組成物を眼用レンズの表面に塗布する工程、
(2)塗布した上記眼用レンズ用染料組成物の少なくとも一部を上記眼用レンズの内部に浸透させる工程、及び
(3)次いで、眼用レンズ用染料組成物を重合させるために、該染料組成物に活性エネルギー線及び/又は熱を付与する工程
をこの順に含む。
【0062】
[(1)の塗布工程]
上記(1)の工程において、インクジェット式塗布装置を用いて、眼用レンズの表面に本発明の染料組成物の溶液又は分散液を塗布する。当該染料組成物の塗布のために、公知のインクジェット式塗布装置を用いることができる。代表的なインクジェット式塗布装置は、染料液供給系とピエゾ素子などの圧電素子を備えたノズルから構成された吐出装置とからなり、圧電素子に電圧を負荷することによって生じる振動で、染色液を微小な液滴としてノズルから吐出する機構を有する。所望の液滴を吐出できるものである限り、いずれのインクジェット式塗布装置でも好適に用いることができる。ノズルは、単一であっても複数であっても構わない。複数のノズルを配した吐出装置においては、異なる染料を含む溶液又は分散液を同時に吐出することが可能であり、高速で良質な多色印刷を行うことができる。このような複数のノズルを備えたインクジェット式塗布装置もまた、好適に用いることができる。かかる多色印刷を行う場合は、異なる色調の染料を含む2種類以上の染料組成物(溶液又は分散液)をそれぞれ貯留タンクに充填し、コンピューターなどによってプログラム化された走査方式で、所望の位置に種々の染料組成物を吐出することによって印刷物を得ることができる。
【0063】
当該染料組成物は、乾燥した状態の眼用レンズの表面に塗布することもできる。当該染料組成物が、上記の[A]成分及び[B]成分と共に、[C]成分の溶媒及び/又は[D]成分のラジカル重合性単量体を含むことから、乾燥した状態の眼用レンズに対して当該染料組成物を適用する場合においても、眼用レンズにこの組成物の少なくとも一部が十分に浸透し、耐溶剤性・耐久性の高い染色印刷物を簡便に得ることができると考えられる。
【0064】
[(2)の浸透工程]
上記(2)の工程では、インクジェット式塗布装置で吐出された当該染料組成物(溶液又は分散液)が、眼用レンズの表面に着床し、この染料組成物が眼用レンズの表面から内部へ完全に浸透するまで放置してよい。あるいはその代わりに、当該染料組成物が眼用レンズの表面に着床した後、この染料組成物の一部が眼用レンズの内部へ浸透し、残りの部分が大気との間で界面を形成する状態を形成するまで放置してもよい。このいずれかの状態が形成された時点で、後述の工程(3)における電磁波又は熱の付与を行うことができる。それぞれの場合の当該染料組成物の浸透に要する時間は、特に限定されるものではなく、この染料組成物の成分及びその割合、染料組成物の必要浸透度、塗布時の周囲温度等の多数のファクターに依存する。従って、当該染料組成物の浸透時間は、顕微鏡を用いて染料組成物が眼用レンズの内部に浸透していく様子を目視観察することによって、決定することができる。当該染料組成物が眼用レンズの表面から内部へ完全に浸透するまでに要する時間は、特に限定されないが、例えば60秒以上20分以下である。また、当該染料組成物の一部が眼用レンズの表面から内部に浸透し、残りの部分が大気との間で界面を形成するまでに要する時間は、特に限定されないが、例えば、10秒以上3分以下である。
【0065】
[(3)の重合工程]
上記(3)の工程では、上記(2)の工程で眼用レンズに塗布された染料組成物にエネルギーを付与することによってラジカル重合・硬化させ、硬化物を眼用レンズに定着させる。[A]成分の染料自身の重合、あるいは[A]成分の染料と[D]成分のラジカル重合性単量体との重合は、エネルギーを付与することで[B]成分のラジカル重合開始剤からラジカル(遊離基)が発生することによって開始される。このようなエネルギーの負荷方法の形態としては、活性エネルギー線(紫外光や可視光などの光線(電磁波))及び熱のいずれか1種、あるいはこの中の複数種の組み合わせを採用することができる。活性エネルギー線を発生させるための装置としては、公知のものを用いることができるが、例えば高圧水銀灯を用いた発生装置、ブラックライト、LED装置などを適用することができる。例えば、紫外光の照射において、365nm付近に最大波長を有する紫外線照射装置を用いて、30〜60秒間紫外線を付与し、硬化物を形成することができる。一方、熱を発生させるための装置としても、公知のものを用いることができるが、適度な温度に設定可能な恒温槽などを適用することができる。
【0066】
このように眼用レンズに塗布された染料組成物にエネルギーを付与する工程は、上記(2)の工程により、染料組成物が眼用レンズの内部に完全に浸透した状態か、又は、染料組成物の一部が眼用レンズの内部へ浸透し、残りの部分が大気との間で界面を形成する状態において、実施することができる。前者の方法によれば、染料組成物が眼用レンズの内部へ完全に浸透した状態で、ラジカル重合によって硬化物の高分子網目構造が形成され、眼用レンズ内に定着する。従って、得られた染色印刷物は、高分子網目構造として眼用レンズ内部に包含され、レンズ基材の高分子材料の網目構造との間で相互侵入網目構造を形成すると考えられる。このような相互侵入網目構造によって、その硬化物は、眼用レンズ内部に強固に定着し、極めて耐久性の高い安定した染色印刷物が得られる。一方後者の方法によれば、染料組成物の一部が眼用レンズに浸透した状態で、ラジカル重合によって硬化物の高分子網目構造が形成され、眼用レンズ内に定着する。この際、染色印刷物の一部分が眼用レンズの表面から突出した状態となる場合もあるが、染料組成物の一部が眼用レンズ内部に浸透し、重合硬化するため、眼用レンズの基材との間で、上記同様の相互侵入網目構造が形成される。従って、このように染料組成物の一部が眼用レンズに浸透した状態でエネルギーを付与し、ラジカル重合させた場合でも、その硬化物は、強固に眼用レンズに定着し、極めて耐久性の高い安定した染色印刷物を得ることができる。当該染料組成物を用いた染色においては、印刷物の種類や染色の用途によって、上記いずれかの染色方法、あるいはそれらを併用した方法を選択することも可能である。
【0067】
このような眼用レンズの染色方法においては、多量のアルカリ溶液や定着液を用いることなく、単に電磁波や熱を用いて染料組成物を硬化・定着させることができるため、簡便な操作で染色作業を行うことができる。また、この染色方法によれば、インクジェット式塗布装置を用いることによって、眼用レンズの微細な対象に対して正確に染色を行うことができる。
【0068】
[着色眼用レンズ]
例えば上記の工程(1)〜(3)を含む染色方法を用いることにより、コンタクトレンズ等の眼用レンズの表層の少なくとも一部に、当該染料組成物を硬化させて得られる硬化物を有する着色眼用レンズを得ることができる。
【0069】
このような着色眼用レンズは、上述したように耐溶出性に極めて優れ、半恒久的に安定で溶出がほとんどない染色印刷物を有する。この染色印刷物は、水による膨潤や、煮沸、洗浄の際でも、染料が溶出することがなく、耐久性が極めて高いという特性を発現する。着色眼用レンズの優れた耐溶出性は、染料の分子が、電磁波等によってラジカル反応し、眼用レンズを構成する高分子の網目構造の中で重合するか、あるいは眼用レンズの高分子とグラフト反応することによって、染料分子が眼用レンズに強固に定着することにより発現すると考えられる。この着色眼用レンズは、高い耐溶出性を有することから、安全性の点で非常に優れており、商品価値及び信頼性が高い眼用レンズを、消費者に提供することが可能である。
【実施例】
【0070】
以下、実施例に基づき本発明を詳述するが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるものではない。
【0071】
眼用レンズ用染料組成物の調製
[実施例1]
[A]成分の染料として1,4−ビス((エテニルフェニル)アミノ)−アントラキノン0.2質量部、[B]成分のラジカル重合開始剤として2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン0.5質量部、並びに[D]成分のラジカル重合性単量体として1−メチル−3−メチレン−2−ピロリジノン10質量部及びエチレングリコールジメタクリレート1質量部を混合して、眼用レンズ用染料組成物を調製した。次いで、ピエゾ式インクジェット式塗布装置を用いて、シリコーン基を含有する含水性ソフトコンタクトレンズ(反応性の染料と反応しうる基を有していない)の外面側の表面に、ドットで構成されたラインパターンを形成するようにこの染料組成物を塗布した。塗布後3分間静置し、顕微鏡で観察することにより、染料組成物の全てがレンズ基材の内部に浸透していることを確認した。この状態で、照射装置としてウシオ電機株式会社製の紫外線照射器「UVスポットキュアUIS−250−01」を用い、最大波長365nmの紫外線をレンズに40秒間照射することによって、染料組成物を重合・硬化させ、表層に染色印刷物を有する含水性ソフトコンタクトレンズを得た。
【0072】
[実施例2〜44、比較例1〜4]
成分組成を表1〜3に記載されている通り変更した以外は、実施例1と同様にして、これらの実施例及び比較例に係る表層に染色印刷物を有する含水性ソフトコンタクトレンズを得た。なお、表中では、実施例は「Ex」、比較例は「Cp」との略号を用いた。
【0073】
[実施例45]
実施例1と同様の成分を混合することにより眼用レンズ用染料組成物を調製した。次いで、ピエゾ式インクジェット式塗布装置を用いて、シリコーン基を含有する含水性ソフトコンタクトレンズの外面側の表面に、ドットで構成されたラインパターンを形成するようにこの染料組成物を塗布した。塗布の直後から、レンズを顕微鏡で継続的に観察し、約60秒後には、染料組成物の一部がレンズの内部へ浸透し、残りの部分が大気との間で界面を形成している状態であることを確認した。この状態で、照射装置としてウシオ電機株式会社製の紫外線照射器「UVスポットキュアUIS−250−01」を用い、最大波長365nmの紫外線をレンズに40秒間照射することによって、染料組成物を重合・硬化させ、表層に染色印刷物を有する含水性ソフトコンタクトレンズを得た。
【0074】
[実施例46〜47]
成分組成を表3に記載されている通り変更した以外は、実施例45と同様にして、これらの実施例に係る表層に染色印刷物を有する含水性ソフトコンタクトレンズを得た。
【0075】
[実施例48]
[A]成分の染料として1,4−ビス((エテニルフェニル)アミノ)−アントラキノン0.1質量部及び1−フェニルアゾ−3−メタクリロイルオキシ−2−ナフトール0.1質量部、[B]成分のラジカル重合開始剤としてベンゾインメチルエーテル0.5質量部、並びに[D]成分のラジカル重合性単量体として1−メチル−3−メチレン−2−ピロリジノン10質量部を混合して、眼用レンズ用染料組成物を調製した。次いで、ピエゾ式インクジェット式塗布装置を用いて、シリコーンを含有する含水性ソフトコンタクトレンズ(反応性の染料と反応しうる基を有していない)の外面側の表面に、虹彩模様を形成するようにこの染料組成物を塗布し、顕微鏡で観察することにより、染料組成物の全てがレンズ基材の内部に浸透していることを確認した。この状態で、照射装置としてウシオ電機株式会社製の紫外線照射器「UVスポットキュアUIS−250−01」を用い、最大波長365nmの紫外線をレンズに5秒間照射することによって、染料組成物を重合・硬化させ、表層に染色印刷物を有する虹彩模様付きシリコーン含有含水性ソフトコンタクトレンズを得た。
【0076】
上記のように作製した表層に染色印刷物を有する含水性ソフトコンタクトレンズの物性評価は、以下の方法により行った。
【0077】
〔耐オートクレーブ性〕
生理食塩水中で、121℃の温度下、20分間の高圧蒸気滅菌処理を2サイクル行った後、肉眼により染色印刷物の視認性(染色印刷物のラインパターンを明確に識別できる程度)を確認し、以下のように評価した。結果を表1〜3に示す。
○:視認性は良好であった。
×:視認性は不良であった。
【0078】
[耐溶剤性]
エタノール中で、30℃の温度下、6時間浸漬した後、肉眼により染色印刷物の視認性(染色印刷物のラインパターンを明確に識別できる程度)を確認し、以下のように評価した。結果を表1〜3に示す。なお、比較例1〜4についての耐溶剤性の評価は、耐オートクレーブ性評価で退色が確認されたため、実施しなかった。
○:視認性は良好であった。
×:視認性は不良であった。
【0079】
【表1】

【0080】
【表2】

【0081】
【表3】

【0082】
表1〜3の結果から、本発明による[A]成分の反応性の染料、[B]成分のラジカル重合開始剤、並びに、[C]成分の溶媒及び/又は[D]ラジカル重合性単量体を含む眼用レンズ用染料組成物は、そのような組成を有しない染料組成物と比べ、眼用レンズに対し耐溶出性・耐久性が格段に優れた染色印刷物を形成可能であることが分かった。また、当該眼用レンズ用染料組成物は、[C]成分の溶媒及び[D]ラジカル重合性単量体のいずれか一方のみを含む場合であっても、所望の優れた効果を発揮することが分かった。さらに、当該眼用レンズ用染料組成物の一部をレンズに浸透させて硬化させた場合であっても、その全部を浸透・硬化させた場合と同様に、優れた耐溶出性・耐久性を有する染色印刷物が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0083】
以上のように、本発明の眼用レンズ用染料組成物は、耐溶出性・耐久性が非常に優れた染色印刷物を形成可能であり、十分な安全性を示すことから、コンタクトレンズを始めとする眼用レンズの染色のために幅広く用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット式塗布装置により眼用レンズを染色するために用いられる染料組成物であって、
[A]α、β−不飽和カルボニル基、スチリル基、ビニルベンジル基及びアリル基からなる群より選択される炭素−炭素二重結合を有する基を分子内に少なくとも1つ有する染料、
[B]ラジカル重合開始剤、並びに、
[C]上記[A]成分及び[B]成分の少なくとも一部を溶解させることができる溶媒及び/又は[D]ラジカル重合性基を分子内に少なくとも1つ有する単量体
を含むことを特徴とする眼用レンズ用染料組成物。
【請求項2】
上記[D]ラジカル重合性基を分子内に少なくとも1つ有する単量体を含まない請求項1に記載の眼用レンズ用染料組成物。
【請求項3】
均一な溶液の形態である請求項1又は請求項2に記載の眼用レンズ用染料組成物。
【請求項4】
上記α、β−不飽和カルボニル基が、(メタ)アクリレート基、又は(メタ)アクリルアミド基である請求項1、請求項2又は請求項3に記載の眼用レンズ用染料組成物。
【請求項5】
[E]界面活性剤をさらに含む請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の眼用レンズ用染料組成物。
【請求項6】
インクジェット式塗布装置により眼用レンズを染色するための方法であって、
(1)インクジェット式塗布装置を用いて、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の眼用レンズ用染料組成物を眼用レンズの表面に塗布する工程、
(2)塗布した上記眼用レンズ用染料組成物の少なくとも一部を上記眼用レンズの内部に浸透させる工程、及び
(3)次いで、眼用レンズ用染料組成物を重合させるために、該染料組成物に活性エネルギー線及び/又は熱を付与する工程
を有する眼用レンズの染色方法。
【請求項7】
上記工程(2)において、塗布した上記眼用レンズ用染料組成物の全部が上記眼用レンズの内部に浸透してから、眼用レンズ用染料組成物を重合させるために、該染料組成物に活性エネルギー線及び/又は熱を付与する請求項6に記載の眼用レンズの染色方法。
【請求項8】
上記工程(2)において、塗布した上記眼用レンズ用染料組成物の一部が上記眼用レンズの内部へ浸透し、残りの部分が大気との間で界面を形成する状態において、眼用レンズ用染料組成物を重合させるために、該染料組成物に活性エネルギー線及び/又は熱を付与する請求項6に記載の眼用レンズの染色方法。
【請求項9】
上記工程(1)において、インクジェット式塗布装置を用いて、乾燥した状態の眼用レンズの表面へ上記眼用レンズ用染料組成物を塗布する請求項6から請求項8のいずれか1項に記載の眼用レンズの染色方法。
【請求項10】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の眼用レンズ用染料組成物を硬化させて得られる硬化物を、表層の少なくとも一部に有する着色眼用レンズ。
【請求項11】
眼用レンズがコンタクトレンズである請求項10に記載の着色眼用レンズ。
【請求項12】
上記コンタクトレンズが、含水性ソフトコンタクトレンズである請求項11に記載の着色眼用レンズ。
【請求項13】
上記含水性ソフトコンタクトレンズが、シリコーン化合物を含む単量体の共重合体から形成されている請求項12に記載の着色眼用レンズ。
【請求項14】
上記コンタクトレンズが、酸素透過性硬質コンタクトレンズである請求項11に記載の着色眼用レンズ。

【公開番号】特開2011−106064(P2011−106064A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−263381(P2009−263381)
【出願日】平成21年11月18日(2009.11.18)
【出願人】(000138082)株式会社メニコン (150)
【Fターム(参考)】