説明

眼用レンズ表面用コーティング剤およびそれにより得られる眼用レンズ

【課題】乾燥および湿潤の両方の状態で滑性を与える親水性と疎水性の両方の性質を有する生体適合性の眼用レンズ表面用コーティング剤を提供する。また、眼用レンズ本体および該コーティング剤により形成されたコーティング層を有するコーティング層の固定に優れ、表面改質特性に優れた眼用レンズを提供する。
【解決手段】疎水性ブロックAの主鎖の片末端に親水性ブロックBが結合し、かつ該疎水性ブロックAのもう1つの末端に、眼用レンズ表面に存在する官能基と結合できるアルコキシシランまたはハロゲン化シラン骨格を有する反応性基Xを少なくとも1つ有するブロックCが結合した下式で表わされるブロック共重合体を含有する眼用レンズ表面用コーティング剤。
B−A−C

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼用レンズ、とくにコンタクトレンズ表面のコーティング剤およびそのコーティング剤から形成されるコーティング層を有するコンタクトレンズに関する。
【背景技術】
【0002】
眼用レンズは、その酸素透過性向上を目的としてケイ素およびフッ素を含むモノマーが使用されており、これらの成分により格段の酸素透過性を実現することが可能となっている。しかし、これらの成分は、生体適合性が低く、とりわけケイ素含有成分を主成分として使用した材料においては、親水性が低く、さらには独特の粘着性により、角膜表面への吸着現象を引き起こすなどの生体適合性の低さが問題となっており、この点を解決すべく種々の表面処理が検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、フッ素およびシリコーンを含有するレンズ基材の表面にラジカル重合の開始剤部分を共有結合した無機または有機バルク材料を付与して、グラフト重合によるコーティング層の導入が検討されている。しかしながら、グラフト重合による表面コーティングは、コーティング層の制御が難しく、目的とするコーティング層を形成できないという問題がある。また、固定化されるポリマーは親水性ポリマーのみからなるものであって、生態適合性を充分に改善できたものではなかった。
【0004】
また、特許文献2には、親水性および防汚性に優れると共に、表面が汚れても、その汚れを容易に除去することが可能であるコンタクトレンズとして、基材表面に、架橋剤と反応し得る官能基を有する幹ポリマーに親水性ポリマー側鎖を導入してなる親水性グラフトポリマーおよび架橋剤を含有する親水性塗布液組成物を塗布し、加熱、乾燥することにより、架橋構造を有する親水性層を形成したコンタクトレンズ得ることが開示されている。また、第2の方法として、基材表面に、熱、酸または輻射線により親疎水性が変化する官能基を有し、かつ、該基材表面に直接化学結合により結合されうる構造を有する高分子化合物が存在し、その表面の所定領域に、加熱、酸の供給または輻射線の照射を行って、表面の親疎水性を変化させることで、所定の親疎水性領域が形成される高分子化合物含有層を備えてなるコンタクトレンズが検討されている。しかし、ポリマーを基材表面で三次元的に架橋反応することを目的としており、導入するポリマーの方向性の制御を全く意図していない。
【0005】
また、特許文献3には、特定の炭水化物および該炭水化物1種以上を含むオリゴ糖からなる群より選択される1種以上のさらなる炭水化物が酵素的に結合している受容体糖質を表面に共有結合させて有する有機バルク材料を含む眼科用成形物、たとえばコンタクトレンズまたはあらゆる種類の眼補てつ物が検討されている。しかしながら、糖鎖を代表とする親水性成分からのみ構成されるコーティング層では、例えば、防汚性や角膜等の生体組織との相互作用を防ぐなどのバリア層としての機能が不足しているばかりか、親水性成分の効果を充分に発現できないなど、眼用レンズ基材へのコーティング層としては不充分であった。
【0006】
さらに、特許文献4には、その上に水性流体の連続層を保持することができる一つ以上の湿潤性表面を有する、バルク材料および親水性被覆を含む眼科用装置が開示されており、親水性被覆として糖がコーティングされているが、特許文献3と同様に親水性分のみでは、表面改善性に優れるものとはならなった。
【0007】
これらの問題点を解決するために、特許文献5では、物品の表面を、親水性モノマーと疎水性モノマーからなる重合性組成物で被覆し、次いで前記組成物を照射により共重合させて得られるコーティングが開示されている。しかしながら、重合反応はグラフト重合により行われているため、構造設計の再現性がよくなく、表面改善性が充分ではなかった。
【0008】
また、特許文献6には、疎水性ブロックおよび親水性ブロックを有し、かつ眼用レンズ表面の官能基と結合できる反応性基有するブロックが結合した構造を有する眼用レンズの表面に適用するコーティング剤が開示されている。しかしながら、特許文献1では、コーティング剤と眼用レンズ表面とはコーティング剤中のアミノ基と眼用レンズ表面のカルボキシル基とを触媒を使用して共有結合(ペプチド結合)させて固定化するものであり、固定化後に、使用した触媒を取り除く必要があるなど改善すべき点を有するものであった。
【0009】
【特許文献1】特表2004−536633号公報
【特許文献2】特開2003−177360号公報
【特許文献3】特表2003−503160号公報
【特許文献4】特表平7−501256号公報
【特許文献5】特開平7−179811号公報
【特許文献6】国際公開公報2005/68571号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、乾燥および湿潤の両方の状態で滑性を与える親水性と疎水性の両方の性質を有する生体適合性の眼用レンズ表面用コーティング剤を提供することを目的とする。また、眼用レンズ本体および該コーティング剤により形成されたコーティング層を有するコーティング層の固定に優れ、表面改質特性に優れた眼用レンズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明は、疎水性ブロックAの主鎖の片末端に親水性ブロックBが結合し、かつ該疎水性ブロックAのもう1つの末端に、眼用レンズ表面に存在する官能基と結合できるアルコキシシランまたはハロゲン化シラン骨格を有する反応性基Xを少なくとも1つ有するブロックCが結合した下式で表わされるブロック共重合体を含有する眼用レンズ表面用コーティング剤に関する。
B−A−C
【0012】
前記疎水性ブロックAがフッ素原子含有置換基を有することが好ましい。
【0013】
前記フッ素原子含有置換基が、フッ素を含有する炭素数1〜20のアルキル基であることが好ましい。
【0014】
前記親水性ブロックBが、少なくとも1つの糖鎖を含む(メタ)アクリレートモノマーの単独重合体またはそれらの共重合体を含むことが好ましい。
【0015】
前記親水性ブロックBが、さらにポリエチレングリコール、N−ビニルピロリドン、ジメチルアクリルアミド、メタクリル酸からなる群から選択されるモノマーの単独重合体またはそれらの共重合体を含むことが好ましい。
【0016】
前記親水性ブロックBの重合度が、5〜5000であることが好ましい。
【0017】
また、本発明は、眼用レンズ本体および前記コーティング剤で形成されたコーティング層を有する眼用レンズに関する。
【0018】
眼用レンズがコンタクトレンズであることが好ましい。
【0019】
前記コンタクトレンズ本体が、ケイ素元素および/またはフッ素元素を含有する共重合体からなることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明のコーティング剤は、眼用レンズ表面に存在する官能基と結合できるアルコキシシランあるいはハロゲン化シラン骨格を有する官能基Xを有するので、触媒を使用することなく、シリコン含有基結合により基材に堅固に固定することができる。また、本発明のコーティング剤で表面処理するので、耐脂質付着性向上、親水性を向上し、装用感向上するなどの生体組織との間に起こる諸問題を解決した眼用レンズおよびコンタクトレンズを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明は、疎水性ブロックAの主鎖の片末端に親水性ブロックBが結合し、かつ該疎水性ブロックAのもう1つの末端に、眼用レンズ表面に存在する官能基と結合できるアルコキシシランまたはハロゲン化シラン骨格を有する反応性基Xを少なくとも1つ有するブロックCが結合した下式で表わされるブロック共重合体を含有する眼用レンズ表面用コーティング剤に関する。
B−A−C
【0022】
本発明のコーティング剤は、分子設計通りに合成したブロックコポリマーを使用しており、目的の構造を有するコーティング層を再現性良く導入できる。
【0023】
本発明における疎水性ブロックAは、フッ素原子含有置換基を有することが好ましい。フッ素原子含有置換基を有することで、シリコーンを主成分とするレンズ基材の表面特性である、べたつき、眼の表面上で動きがなくなるなど、角膜等の生体組織との好ましくないインタラクションを誘発するなどの性質をより改善することができる。
【0024】
フッ素原子含有置換基を有する疎水性ブロックAとしては、たとえば、水酸基やアミノ基を含むモノマーと共重合して得られるフッ化アルキルモノマーからなるフッ素ポリマーがあげられる。なかでも、フッ素原子含有置換基が、フッ素含有する炭素数1〜20のアルキル基であることが表面修飾用物質に求められる規則正しい配列を形成するという点から好ましい。前記炭素数は、3〜18であることがより好ましく、さらに好ましくは炭素数5〜15である。
【0025】
本発明のコーティング剤は、前記疎水性ブロックAのいずれかの片末端に親水性ブロックBが結合した構造を有する。親水性ブロックBを末端とすることで、眼用レンズ表面側に親水性ブロックが存在させることができるので、結果として汚染性に対する耐性を付与し、また表面濡れ性が改善され装用感が向上するなどという利点がある。
【0026】
親水性ブロックBとしては、線状ポリマーで、自己架橋しないものであれば使用することができるが、耐脂質汚染性や親水性向上という点から、少なくとも1つの糖鎖を含む(メタ)アクリレートモノマー(たとえば、ポリサッカライド、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、グルコースなど)の単独重合体またはそれらの共重合体が好ましく、なかでもグルコースが好ましく用いられる。また、水分の保持性や、医療用具としての安全性、生体適合性の点から、本発明に用いる親水性ブロックBとしては、前記少なくとも1つの糖鎖を含む(メタ)アクリレートモノマーの単独重合体またはそれらの共重合体に、さらに、エチレングリコール、N−ビニルピロリドン、ジメチルアクリルアミドおよびメタクリル酸からなる群より選択されるモノマーの単独重合体またはそれらの共重合体からなる親水性ブロックであることがより好ましい。
【0027】
親水性ブロックの重合度は、好ましくは5〜5000であり、より好ましくは15〜1000、さらに好ましくは20〜500である。親水性ブロックの重合度が5未満であると、親水性部位としての効果が不充分となる傾向がある。また、5000を超えると、疎水性ポリマーとブロック構造を形成するのが困難となる傾向がある。
【0028】
ブロック共重合体の親水性ブロックと疎水性ブロックとの割合は、好ましくは親水性ブロック:疎水性ブロックが重量比で1:1000〜1000:1であり、より好ましくは1:500〜500:1である。親水性ブロック:疎水性ブロックが重量比で1:1000より親水性ブロックが少なくなると、表面の親水性が不足する傾向がある。また、親水性ブロック:疎水性ブロックが重量比で1000:1より疎水性ブロックが少なくなると、疎水性ブロックが親水性ブロック内部に埋没し、その機能が阻害されたり、眼用レンズ表面との化学反応が阻害される傾向がある。
【0029】
疎水性ブロックAおよび親水性ブロックBにより、眼用レンズ基材表面に、最低でも疎水性層の上に親水性層を形成する二層あるいは、それ以上の複層膜を形成することができる。
【0030】
本発明のコーティング剤は、疎水性ブロックAのもう1つの末端に、眼用レンズ表面に存在する官能基と結合できるアルコキシシランまたはハロゲン化シラン骨格を有する反応性基Xを少なくとも1つ有するブロックCが結合した構造を有する。
【0031】
眼用レンズ表面に存在する官能基と結合できる反応性基Xを有することで、眼用レンズ基材と強く結合することができる。反応性基Xがアルコキシシランまたはハロゲン化シラン骨格を有するので、無触媒での反応が可能となる。
【0032】
アルコキシシランまたはハロゲン化シラン骨格を有する反応性基Xとしては、たとえば、−Si(−O−CH33、−Si(−O−CH2CH33、−Si(CH32Clなどが挙げられ、反応性および安全性の観点から、−Si(−O−CH33が好ましく用いられる。
【0033】
また、本発明は眼用レンズ本体および前記コーティング剤で形成されたコーティング層を有する眼用レンズに関する。
【0034】
ここで、本発明において眼用レンズとは、コンタクトレンズ、眼内レンズなどをいう。
【0035】
眼用レンズ本体としては、ケイ素元素および/またはフッ素元素を含有する共重合体からなることが好ましい。たとえば、2以上の活性不飽和基を有し、数平均分子量が2000〜100000のシロキサンマクロモノマー(A)、低級脂肪酸ビニルエステル(B)、ケイ素含有モノマー(C)、フッ素含有モノマー(D)および架橋性化合物(E)からなる群より選択され、かつケイ素元素および/またはフッ素元素を含有する重合成分を重合させて得られたシロキサン含有重合体などがあげられる。
【0036】
前記シロキサンマクロモノマー(A)の活性不飽和基とは、ラジカル重合に供することが可能な活性不飽和基のことであり、たとえば(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、ビニルカルバメート基などがあげられる。
【0037】
シロキサンマクロモノマー(A)の数平均分子量は、レンズ材料の柔軟性の点から2000以上、好ましくは2500以上であることが望ましく、レンズ材料の形状回復性の点から100000以下、好ましくは50000以下であることが望ましい。
【0038】
なお、通常シロキサンマクロモノマーは、水濡れ性に劣り、それ単独では比較的機械的強度が不足するものが多い。したがって、本発明に用いられるシロキサンマクロモノマー(A)としては、水濡れ性の向上を目的としてマクロモノマー構造中に式:
【0039】
【化1】

で表わされるウレタン基を有するものが好ましく、その個数は平均2個以上、好ましくは平均4個以上、また平均20個以下、好ましくは平均14個以下であることが望ましい。
【0040】
本発明においては、シロキサンマクロモノマー(A)として、とくに一般式(I−1):
1−(−U1−S1−)n−U2−S2−U3−A2 (I−1)
[式中、A1およびA2はそれぞれ独立して活性不飽和基、炭素数1〜20のアルキレン基を有する活性不飽和基または炭素数1〜20のアルキレングリコール基を有する活性不飽和基、
1は両隣のA1およびS1とまたはS1およびS1とウレタン結合を形成するジウレタン性基、
2は両隣のA1およびS2とまたはS1およびS2とウレタン結合を形成するジウレタン性基、
3は両隣のS2およびA2とウレタン結合を形成するジウレタン性基、
1およびS2はそれぞれ独立して式:
【0041】
【化2】

(式中、R1およびR2はそれぞれ独立して炭素数1〜20のアルキレン基、R3、R4、R5、R6、R7およびR8はそれぞれ独立してフッ素原子で置換されていてもよい直鎖状、分岐鎖状もしくは環状の炭素数1〜20のアルキル基または式:A3−U4−R1−O−R2−(式中、A3は活性不飽和基、炭素数1〜20のアルキレン基を有する活性不飽和基もしくは炭素数1〜20のアルキレングリコール基を有する活性不飽和基、U4は隣りあうA3およびR1とウレタン結合を形成するジウレタン性基を示し、R1およびR2は前記と同じ)で表わされる基、xは1〜1500の整数、yは0または1〜1499の整数、x+yは1〜1500の整数を示す)で表わされる基、
nは0または1〜10の整数を示す]
で表わされるマクロモノマーや、
一般式(I−2):
1−S3−B1 (I−2)
[式中、B1はウレタン結合を有する活性不飽和基、
3は式:
【0042】
【化3】

(式中、R1およびR2はそれぞれ独立して炭素数1〜20のアルキレン基、R3、R4、R5、R6、R7およびR8はそれぞれ独立してフッ素原子で置換されていてもよい直鎖状、分岐鎖状もしくは環状の炭素数1〜20のアルキル基または式:A3−U4−R1−O−R2−(式中、A3は活性不飽和基、炭素数1〜20のアルキレン基を有する活性不飽和基もしくは炭素数1〜20のアルキレングリコール基を有する活性不飽和基、U4は隣りあうA3およびR1とウレタン結合を形成するジウレタン性基を示し、R1およびR2は前記と同じ)で表わされる基、xは1〜1500の整数、yは0または1〜1499の整数、x+yは1〜1500の整数を示す)で表わされる基を示す]
で表わされるマクロモノマーが好ましく用いられる。
【0043】
前記一般式(I−1)において、A1およびA2にて示される活性不飽和基としては、前記したように、たとえば(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、ビニルカルバメート基などがあげられる。これらのなかでもレンズ材料にさらに良好な柔軟性を付与することができ、他の重合成分との共重合性にすぐれる点から、アクリロイルオキシ基およびビニル基が好ましく、とくにアクリロイルオキシ基が好ましい。
【0044】
また前記活性不飽和基がアルキレン基またはアルキレングリコール基を有する場合、かかるアルキレン基やアルキレングリコール基の炭素数は好ましくは1〜20であり、1〜10であることがより好ましい。
【0045】
また、一般式(I−1)中、S1およびS2で示される式:
【0046】
【化4】

(式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、xおよびyは前記と同じ)で表わされる基において、R1およびR2は好ましくは炭素数1〜5のアルキレン基、R3〜R8は好ましくは炭素数1〜5のアルキル基であり、またかかるR3〜R8を示す式:A3−U4−R1−O−R2−中のA3は、前記例示と同様の活性不飽和基を示し、かかる活性不飽和基がアルキレン基またはアルキレングリコール基を有する場合、アルキレン基やアルキレングリコール基の炭素数は1〜20が好ましく、1〜10であることがより好ましい。またxは1〜500の整数、yは0または1〜499の整数、x+yは1〜500の整数であることが好ましい。
【0047】
さらに一般式(I−1)中、nは0または1〜5の整数であることが好ましい。
【0048】
一方、前記一般式(I−2)において、B1にて示されるウレタン結合を有する活性不飽和基としては、たとえば(メタ)アクリロイルイソシアネート基、(メタ)アクリロイルオキシイソシアネート基、アリルイソシアネート基、ビニルベンジルイソシアネート基などがあげられる。また、一般式(I−2)中でS3にて示される基は、前記一般式(I−1)中のS1およびS2にて示される基と同様である。
【0049】
前記マクロモノマーのなかでも、形状回復性に代表される柔軟性および機械的強度の付与の効果が大きいという点から、式:
1−U2−S2−U3−A2
(式中、A1、A2、U2、U3およびS2は前記と同じ)で表わされるマクロモノマーおよび式:
1−(−U1−S1−)n′−U2−S2−U3−A2
(式中、A1、A2、U1、U2、U3、S1およびS2は前記と同じ、n′は1〜4の整数を示す)で表わされるマクロモノマーが好ましく、とくに式:
【0050】
【化5】

で表わされる基、aは20〜50の整数を示す)
で表わされるマクロモノマーが好ましい。
【0051】
前記低級脂肪酸ビニルエステル(B)の代表例としては、たとえば一般式(II):
【0052】
【化6】

(式中、Rは水素原子またはハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜15のアルキル基を示す)で表わされる化合物が好ましい。かかる化合物の具体例としては、たとえばギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、モノクロロ酢酸ビニル、モノフルオロ酢酸ビニル、トリクロロ酢酸ビニル、トリフルオロ酢酸ビニルなどがあげられ、これらは単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0053】
前記低級脂肪酸ビニルエステル(B)のなかでも、形状回復性および親水性の付与の効果が大きいという点から、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルおよびピバリン酸ビニルが好ましく、とくに酢酸ビニルが好ましい。
【0054】
前記ケイ素含有モノマー(C)の代表例としては、たとえばペンタメチルジシロキサニルメチル(メタ)アクリレート、トリメチルシロキシジメチルシリルプロピル(メタ)アクリレート、メチルビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレート、トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレート、モノ[メチルビス(トリメチルシロキシ)シロキシ]ビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレート、トリス[メチルビス(トリメチルシロキシ)シロキシ]シリルプロピル(メタ)アクリレート、トリメチルシリルメチル(メタ)アクリレート、トリメチルシリルプロピル(メタ)アクリレート、メチルビス(トリメチルシロキシ)シリルエチルテトラメチルジシロキサニルメチル(メタ)アクリレート、テトラメチルトリイソプロピルシクロテトラシロキサニルプロピル(メタ)アクリレート、テトラメチルトリイソプロピルシクロテトラシロキシビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレート、トリメチルシロキシジメチルシリルプロピル(メタ)アクリレートなどのケイ素含有(メタ)アクリレート;たとえばトリス(トリメチルシロキシ)シリルスチレン、メチルビス(トリメチルシロキシ)シリルスチレン、ジメチルシリルスチレン、トリメチルシリルスチレン、トリス(トリメチルシロキシ)シロキサニルジメチルシリルスチレン、[メチルビス(トリメチルシロキシ)シロキサニル]ジメチルシリルスチレン、ペンタメチルジシロキサニルスチレン、ヘプタメチルトリシロキサニルスチレン、ノナメチルテトラシロキサニルスチレン、ペンタデカメチルヘプタシロキサニルスチレン、ヘンエイコサメチルデカシロキサニルスチレン、ヘプタコサメチルトリデカシロキサニルスチレン、ヘントリアコンタメチルペンタデカシロキサニルスチレン、トリメチルシロキシペンタメチルジシロキシメチルシリルスチレン、トリス(ペンタメチルジシロキシ)シリルスチレン、[トリス(トリメチルシロキシ)シロキサニル]ビス(トリメチルシロキシ)シリルスチレン、メチルビス(ヘプタメチルトリシロキシ)シリルスチレン、トリス[メチルビス(トリメチルシロキシ)シロキシ]シリルスチレン、トリメチルシロキシビス[トリス(トリメチルシロキシ)シロキシ]シリルスチレン、ヘプタキス(トリメチルシロキシ)トリシロキサニルスチレン、トリス[トリス(トリメチルシロキシ)シロキシ]シリルスチレン、[トリス(トリメチルシロキシ)ヘキサメチルテトラシロキシ][トリス(トリメチルシロキシ)シロキシ]トリメチルシロキシシリルスチレン、ノナキス(トリメチルシロキシ)テトラシロキサニルスチレン、メチルビス(トリデカメチルヘキサシロキシ)シリルスチレン、ヘプタメチルシクロテトラシロキサニルスチレン、ヘプタメチルシクロテトラシロキシビス(トリメチルシロキシ)シリルスチレン、トリプロピルテトラメチルシクロテトラシロキサニルスチレンなどの一般式:
【0055】
【化7】

(式中、pは1〜15の整数、qは0または1、rは1〜15の整数を示す)で表わされるケイ素含有スチレン誘導体などがあげられ、これらは単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0056】
前記ケイ素含有モノマー(C)のなかでも、レンズ材料に高酸素透過性および柔軟性、とくに形状回復性を同時に付与する効果がより大きいという点から、ケイ素含有(メタ)アクリレートが好ましく、トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルアクリレートがとくに好ましい。
【0057】
前記フッ素含有モノマー(D)の代表例としては、たとえば2,2,2−トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、2,2,3,3−テトラフルオロ−t−ペンチル(メタ)アクリレート、2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロブチル(メタ)アクリレート、2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−t−ヘキシル(メタ)アクリレート、2,3,4,5,5,5−ヘキサフルオロ−2,4−ビス(トリフルオロメチル)ペンチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,4,4−ヘキサフルオロブチル(メタ)アクリレート、2,2,2,2′,2′,2′−ヘキサフルオロイソプロピル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,4,4,4−ヘプタフルオロブチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレートなどのほか、一般式:
【0058】
【化8】

(式中、R1は炭素数3〜15のフルオロアルキル基、R2は水素原子またはメチル基を示す)で表わされる、たとえば3−パーフルオロブチル−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−パーフルオロヘキシル−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−パーフルオロオクチル−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−(パーフルオロ−3−メチルブチル)−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−(パーフルオロ−5−メチルヘキシル)−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−(パーフルオロ−7−メチルオクチル)−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどのフルオロアルキル(メタ)アクリレートがあげられる。
【0059】
これらのなかでも、酸素透過性、柔軟性および耐脂質汚染性のうち、とくにレンズ材料に柔軟性を付与する効果が大きいという点から、フルオロアルキルアクリレートが好ましい。
【0060】
さらに、通常フッ素化合物は酸素透過性および耐脂質汚染性を付与し得るものの、水濡れ性に劣るものが多い。これに対し、酸素透過性および耐脂質汚染性を損なうことなく、レンズ材料に柔軟性および水濡れ性を付与することができるという観点から、とくに一般式:
【0061】
【化9】

(式中、R′1は炭素数3〜15、好ましくは3〜8、さらに好ましくは4〜6のパーフルオロアルキル基を示す)で表わされる水酸基を有するフルオロアルキルアクリレートが好ましい。
【0062】
前記シロキサンマクロモノマー(A)および低級脂肪酸ビニルエステル(B)を用いる場合、レンズ材料に充分な柔軟性ならびに機械的強度および酸素透過性が付与されるようにするには、(A)/(B)が30/70以上、好ましくは50/50以上であることが望ましく、またレンズ材料に充分な形状回復性および親水性が付与されるようにするには、前記割合が90/10以下、好ましくは80/20以下であることが望ましい。
【0063】
また、前記シロキサンマクロモノマー(A)およびケイ素含有モノマー(C)を用いる場合のシロキサンマクロモノマー(A)とケイ素含有モノマー(C)との割合((A)/(C)(重量比))は、形状回復性を低下させずにレンズ材料に充分な機械的強度が付与されるようにするには、20/80以上、好ましくは25/75以上であることが望ましく、またレンズ材料に充分な酸素透過性が付与されるようにするには、前記割合が90/10以下、好ましくは80/20以下であることが望ましい。
【0064】
前記シロキサンマクロモノマー(A)および前記フッ素含有モノマー(D)を用いる場合、レンズ材料にシロキサンマクロモノマー(A)による効果が充分に発現されるようにするには、シロキサンマクロモノマー(A)とフッ素含有モノマー(D)との割合が20/80以上、好ましくは40/60以上であることが望ましく、またレンズ材料にとくに充分な耐脂質汚染性が付与されるようにするには、前記割合が90/10以下、好ましくは85/15以下であることが望ましい。
【0065】
前記架橋性化合物(E)の代表例としては、2以上の重合性基を有するものがあげられ、たとえばエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、ビニル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、メタクリロイルオキシジエチルアクリレート、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート、アジピン酸ジアリル、ジエチレングリコールジアリルエーテル、トリアリルイソシアヌレート、α−メチレン−N−ビニルピロリドン、4−ビニルベンジル(メタ)アクリレート、3−ビニルベンジル(メタ)アクリレート、2,2−ビス(p−(メタ)アクリロイルオキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(m−(メタ)アクリロイルオキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(o−(メタ)アクリロイルオキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,4−ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシヘキサフルオロイソプロピル)ベンゼン、1,3−ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシヘキサフルオロイソプロピル)ベンゼン、1,2−ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシヘキサフルオロイソプロピル)ベンゼン、1,4−ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシイソプロピル)ベンゼン、1,3−ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシイソプロピル)ベンゼン、1,2−ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシイソプロピル)ベンゼンなどがあげられ、これらは単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0066】
前記架橋性化合物(E)のなかでも、レンズ材料に光学特性および機械的強度を付与する効果が大きく、取扱いやすいという点から、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、アジピン酸ジアリルおよびジエチレングリコールジアリルエーテルが好ましく、とくにエチレングリコールジ(メタ)アクリレートおよびジエチレングリコールジアリルエーテルが好ましい。
【0067】
架橋性化合物(E)の重合成分中の含有量は、レンズ材料に充分に光学特性および機械的強度を付与するためには、0.01重量%以上、好ましくは0.05重量%以上であることが望ましく、またレンズ材料に機械的強度は付与されるものの、柔軟性が低下するおそれをなくすためには、15重量%以下、好ましくは10重量%以下であることが望ましい。
【0068】
前記レンズ材料の調製の際には、その種類および配合量を適宜調整した重合成分に、通常、まず後述する熱重合法、光重合法などの、活性不飽和基にラジカルを発生させて重合反応に供するラジカル重合法に応じ、ラジカル重合開始剤、光増感剤などが添加される。
【0069】
前記ラジカル重合開始剤の代表例としては、たとえばアゾビスイソブチロニトリル、アゾビスジメチルバレロニトリル、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンパーオキサイドなどの熱重合開始剤;メチルオルソベンゾイルベンゾエート、メチルベンゾイルフォルメート、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾイン−n−ブチルエーテルなどのベンゾイン系光重合開始剤;2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、p−イソプロピル−α−ヒドロキシイソブチルフェノン、p−t−ブチルトリクロロアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、α,α−ジクロロ−4−フェノキシアセトフェノン、N,N−テトラエチル−4,4−ジアミノベンゾフェノンなどのフェノン系光重合開始剤;1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン;1−フェニル−1,2−プロパンジオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシム;2−クロロチオキサンソン、2−メチルチオキサンソンなどのチオキサンソン系光重合開始剤;ジベンゾスバロン;2−エチルアンスラキノン;ベンゾフェノンアクリレート;ベンゾフェノン;ベンジルなどがあげられる。
【0070】
前記光増感剤は、単独では紫外線照射によって活性化しないが、光開始剤とともに用いると、助触媒として機能し、光開始剤を単独で用いた場合よりもすぐれた効果を発揮するものである。このような光増感剤としては、たとえば1,2−ベンゾアントラキノンや、n−ブチルアミン、ジ−n−ブチルアミン、トリエチルアミンなどのアミン類;トリ−n−ブチルホスフィン、アリルチオ尿素、s−ベンジルイソチウロニウム−p−トルエンスルフィネート、ジエチルアミノエチルメタクリレートなどがあげられる。
【0071】
ラジカル重合開始剤、光増感剤などは、これらのなかから1種または2種以上を適宜選択して用いればよい。これらの使用量は、重合成分全量100重量部(以下、部という)に対して0.002〜2部程度、好ましくは0.01〜1部程度であることが望ましい。
【0072】
ラジカル重合法においては、重合成分とラジカル重合開始剤や光増感剤とのみを重合に供してもよいが、たとえば重合成分同士の相溶性をより向上させるために、希釈剤を用いてもよい。
【0073】
希釈剤の代表例としては、たとえばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノールなどのアルコール;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン;ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテルなどがあげられ、これらは単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0074】
前記希釈剤のなかでも、重合成分の溶解性にすぐれるという点から、炭素数1〜6のアルコールが好ましく、とくにn−プロパノール、n−ブタノールおよびn−ペンタノールが好ましい。
【0075】
前記重合成分と希釈剤との混合割合は、重合成分が希釈剤に充分に溶解するようにするためには、重合成分と希釈剤との重量比(重合成分/希釈剤)が90/10以下、好ましくは80/20以下であることが望ましい。また、得られる重合体が白濁し、光学特性が低下したり、機械的強度が不足するおそれをなくすためには、前記重量比が30/70以上、好ましくは50/50以上であることが望ましい。
【0076】
前記レンズ材料は、公知のいかなる製法によっても製造することが可能であるが、得られるレンズ材料の性能を最大限に活用することを可能にするといった点から、とくに前記重合成分および必要に応じて希釈剤を、ソフトコンタクトレンズのレンズ前面の形状に対応した鋳型と、レンズ後面の形状に対応した鋳型との2つからなる鋳型内に注入して密閉したのち、重合反応を行って重合体を調製し、レンズを作製することが好ましい。
【0077】
鋳型内に重合成分と必要に応じて希釈剤との混合物を注入したのち、重合反応を行なって重合体を製造する。かかる重合反応の方法にはとくに限定がなく、通常の方法を採用することができる。
【0078】
重合反応の方法としては、たとえば前記ラジカル重合開始剤が配合された重合成分と、必要に応じて希釈剤との混合物を、まずたとえば30〜60℃程度にて数時間〜数10時間加熱して重合させ、ついで120〜140℃程度まで数時間〜10数時間で順次昇温して重合を完結させる方法(熱重合法)、前記混合物を、たとえば紫外線などのラジカル重合開始剤の活性化の吸収帯に応じた波長の光線を照射して重合させる方法(光重合法)、熱重合法と光重合法とを組合せて重合を行なう方法などがあげられる。これらのなかでは、短時間での重合が可能であるという点では光重合法が好ましい。
【0079】
前記熱重合法を用いる場合には、恒温槽または恒温室内で加熱してもよく、またマイクロ波のような電磁波を照射してもよく、その加熱は段階的に行なってもよい。また、前記光重合法を用いる場合には、前記光増感剤をさらに添加してもよい。
【0080】
かくして得られた重合体を鋳型内から脱離させてレンズ材料を得ることができる。
【0081】
なおレンズ材料には、必要に応じて切削加工、研磨加工などの機械的加工を施してもよい。
【0082】
前記レンズ材料にコーティング剤との化学結合を導入する目的で、加水分解処理を施すことができる。
【0083】
前記加水分解処理とは、加水分解により分解が可能な低級脂肪酸ビニルエステル(B)に由来する単位を後述するアルカリ性化合物にてアルカリ処理するかまたはたとえば硫酸にて酸処理してビニルアルコールとすることや、アクリル酸誘導体構造を有する化合物に対しては、加水分解によりアクリル酸とすることが可能である。ただし、後者の酸処理による加水分解処理は、反応速度がおそく、かつ均一なものが得られにくく、副反応がおこるという欠点があるので、アルカリ処理による加水分解処理が望ましい。かかる加水分解処理により、含水率をそれほど上昇させることなくレンズ材料に官能基を導入することができる。
【0084】
アルカリ処理に用いられるアルカリ性化合物としては、たとえばアンモニア、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物などがあげられる。かかるアルカリ性化合物の具体例としては、たとえば水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムなどがあげられる。これらのアルカリ性化合物はおもに固体であるため、たとえば水、アルコール類、エーテル類などに溶解し、アルカリ溶液として加水分解処理に用いるのがよい。
【0085】
前記アルコール類としては、たとえばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどがあげられ、前記エーテル類としては、たとえばジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどがあげられる。
【0086】
加水分解処理に用いられるアルカリ性化合物のアルカリ溶液のなかでは、アルコール類を用いたものが好ましく、加水分解処理をより効率よく進めるために、なかでもその濃度が0.01〜1モル/リットルの水酸化ナトリウムのメタノール水溶液が好ましく、とくにメタノール水溶液がメタノールと水との混合割合(メタノール/水(体積比))が10/90〜90/10のものが好ましい。
【0087】
加水分解処理は前記アルカリ溶液や、酸性化合物の溶液に重合体を浸漬することにより行なわれる。
【0088】
加水分解処理の温度にはとくに限定がなく、一般に0〜100℃、好ましくは10〜70℃程度に設定することが望ましい。
【0089】
加水分解処理の時間は、アルカリ性化合物や酸性化合物の種類、アルカリ性化合物や酸性化合物の濃度、加水分解処理の温度などにより異なるので一概には決定することができないが、レンズ材料の親水性が効果的に向上するようにするには、0.1時間以上、好ましくは0.5時間以上であることが望ましく、また白濁するなどして透明性が低下したり、機械的強度が低下しすぎてコンタクトレンズとして不適切な材料となるほか、時間がかかりすぎて作業性がわるくなるおそれをなくすためには、30時間以下、好ましくは15時間以下であることが望ましい。
【0090】
加水分解処理されたレンズ材料は、たとえば生理食塩水(0.9%塩化ナトリウム水溶液)中で数時間煮沸処理してもよい。
【0091】
本発明のコーティング剤による眼用レンズ本体の表面のコーティング方法としては、以下の3つの方法があげられるが、これらに限定されるものではない。
【0092】
(1)ブロック共重合体が可溶性のジメチルホルムアミド、ジクロロメタン、1,2−ジクロロメタン等の溶媒に、ブロック共重合体、必要に応じて触媒を溶解し、その中へ眼用レンズ本体を浸漬することによりコーティングする方法。
(2)ブロック共重合体および必要に応じて触媒を展開した展開層の中に、眼用レンズ本体を浸漬したり、引き出したりすることで、規則的に表面をコーティングする方法。
(3)粉末状のブロック共重合体と触媒を混合し、この混合物を眼用レンズ本体上に塗布し、加熱により反応させてコーティングする方法。
【0093】
触媒として、(1)および(2)では、たとえば、ジプロピルカルボジイミドと1−ヒドロキシ−7−アザベンゾトリアゾールの組み合わせ、またはジシクロヘキシルカルボジイミドとN−ヒドロキシベンゾトリアゾールの組み合わせを用いることが好ましく、(3)ではp−トルエンスルホン酸を用いることが好ましい。
【0094】
眼用レンズ本体表面上のブロック共重合体のコーティングの厚さは、0.1〜1000Å、好ましくは5〜500Åである。厚さが、0.1Å未満であると、コーティングの効果が得られない傾向がある。また、1000Åを超えると、酸素透過性等の基材特性を損なう傾向がある。
【実施例】
【0095】
以下、具体的な実施例によって本発明の眼用レンズ表面用コーティング剤およびそれにより得られる眼用レンズをさらに詳細に説明する。以下の実施例は単に説明を目的とするものであり、条件および技術範囲などを限定する目的のものではない。
【0096】
製造例1
40mLピリジンの中に、0.4molD−グルコースを溶解させ、0.6mLビニルメタクリレートを加えた。2gのプロテアーゼエンザイム(商品名Proleather−FG、(株)アマノエンザイム製)を加えることで、反応を開始し、25℃において40時間反応させた。前記エンザイムをろ過により除去することで、反応を終了し、ろ液を真空乾燥して黄褐色の油状物を得た。油状物はエチルアセテート/メタノール溶液の中で、再結晶し、2.92gの白色粉末を得た。赤外分光並びにNMRにより、6−0−メタクリロイルグルコースと同定した。
【0097】
実施例1
窒素雰囲気の100mL三つ口フラスコに10mLのジメチルホルムアミド、10nmolの6−O−メタクリロイルグルコース並びに50mgのベンジルパーオキサイドを加え、マクネチックスターラーを用いて攪拌した。70℃において5時間反応した。
【0098】
次に、10nmolの2−(パーフルオロヘプチル)エチルアクリレートを三口フラスコに加え、さらに3時間反応と継続した。
【0099】
2mmolの3−(トリメトキシシリル)プロピルアクリル酸エステルを加え、末端分を修飾した。クロロホルムを加え、反応を終了した。生成物は、エチルアセテートを用いて回収した。その収率は65%であった。赤外分光、紫外可視分光並びにNMRにより両親媒性ブロックコポリマー ポリ−6−O−メタクリロイルグルコース−2−(パーフルオロヘプチル)エチルアクリレート(Glu−PF1)であると同定した。
【0100】
実施例2
20mmolの6−O−メタクリロイルグルコース、30mgのベンジルパーオキサイドを使用した以外は、実施例1と同様の反応を行い、収率50%の反応生成物を回収した。赤外分光、紫外可視分光並びにNMRにより両親媒性ブロックコポリマー 6−O−メタクリロイルグルコース−2−(パーフルオロヘプチル)エチルアクリレート(Glu−PF2)であると同定した。
【0101】
実施例3
50mmolの6−O−メタクリロイルグルコース、20mgのベンジルポーオキサイドを使用した以外は、実施例1と同様の反応を行い、収率50%の反応生成物を回収した。赤外分光、紫外可視分光並びにNMRにより両親媒性ブロックコポリマー 6−O−メタクリロイルグルコース−2−(パーフルオロヘプチル)エチルアクリレート(Glu−PF5)であると同定した。
【0102】
製造例2
0.4molのコンドロイチン硫酸、0.6molのビニルメタクリレートを用いる以外は、製造例1と同様に反応させ、3gの白色粉末を得た。赤外分光、紫外可視分光並びにNMRによりコンドロイチン硫酸メタクリレートであると同定した。
【0103】
実施例4
50mmolのコンドロイチン硫酸メタクリレート、20mgのベンジルパーオキサイドを使用した以外は、実施例1と同様に反応を行い、収率54%の反応生成物を回収した。赤外分光、紫外可視分光並びにNMRにより両親媒性ブロックコポリマー コンドロイチン硫酸メタクリレート−2−(パーフルオロヘプチル)エチルアクリレート(Con−PF1)であると同定した。
【0104】
実施例5
眼用レンズ材料の作製
以下に示す構造を有するシロキサンマクロモノマー31重量部、トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルアクリレート21重量部、酢酸ビニル28重量部、3−パーフルオロ−2−ヒドロキシプロピルアクリレート20重量部、ジエチレングリコールジアリルエーテル0.8重量部、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン0.2重量部からなるモノマー混合液をポリプロピレン製型内に充填し、紫外線(主波長:360nm、照射強度:10mW/cm2)に10分間暴露することにより、眼用レンズ材料を得た。
【0105】
シロキサンマクロモノマーの構造式:
【化10】

【0106】
さらに得られた眼用レンズを0.5mol/L水酸化ナトリウムメタノール・水混合溶液(メタノール/水=1/1)に35℃において6時間浸漬することで、前処理を施した。
【0107】
実施例6
実施例1で得られたコーティング剤Glu−PF1の5重量%メチルフォルムアミド溶液を調製した。実施例5で作製した眼用レンズを窒素雰囲気下、12時間浸漬した。反応終了後取り出した眼用レンズを、メタノールおよび水を用いて洗浄し、表面から未反応コポリマーを除去した。
【0108】
実施例7
実施例2で得られたコーティング剤Glu−PF2の5重量%メチルフォルムアミド溶液を調製した。実施例5で製造したレンズ材料を窒素雰囲気下、12時間浸漬した。反応終了後取り出した眼用レンズを、メタノールおよび水を用いて洗浄し、表面から未反応コポリマーを除去した。
【0109】
実施例8
実施例3で得られたコーティング剤Glu−PF5の5重量%メチルフォルムアミド溶液を調製した。実施例5で作製した眼用レンズを窒素雰囲気下、12時間浸漬した。反応終了後取り出した眼用レンズを、メタノールおよび水を用いて洗浄し、表面から未反応コポリマーを除去した。
【0110】
実施例9
実施例4で得られたコーティング剤Con−PF1の5重量%メチルフォルムアミド溶液を調製した。実施例5で作製した眼用レンズを窒素雰囲気下、12時間浸漬した。反応終了後取り出した眼用レンズを、メタノールおよび水を用いて洗浄し、表面から未反応コポリマーを除去した。
【0111】
比較例1
3−(トリメトキシシリル)プロピルアクリル酸エステルを用いないこと以外は、実施例1と同様の方法によりブロックポリマーを得た。得られたブロックポリマーの5重量%メチルフォルムアミド溶液を調製し、実施例6と同様の方法で眼用レンズと反応させた。反応終了後取り出した眼用レンズを、メタノールを用いて洗浄し、表面から未反応コポリマーを除去した。
【0112】
実施例1〜9および比較例1で得られたコーティング層を有する眼用レンズを用いて以下の評価を行った。
【0113】
(全反射減衰分光法(ATR法)による表面分析)
フーリエ変換赤外分光光度計を用いたATR法により充分に洗浄した実施例5〜9で得られた眼用レンズの表面分析を行った。分析結果を比較したところ、実施例5で得られた眼用レンズに比べ、実施例6〜9で得られた眼用レンズ表面は、カルボニルに帰属される1280cm-1付近のピークの減少と、フッ素由来の1204cm-1付近および1149cm-1付近の付近ピークの増加が観測された。また、比較例1で得られた眼用レンズ表面は、実施例5で得られたコーティング剤で処理していない眼用レンズにおけるART法による表面分析と差異がなかった。
【0114】
(X線光電子分光装置(XPS)による表面分析)
X線光電子分光装置(日本電子(株)製、JPS−9000MX)を使用し、X線としてMgKα線を10kV、10mAの出力で照射し、フッ素、酸素、窒素、炭素およびケイ素について、アナライザー通過エネルギー10eV(分解能0.9eV)で実施例5〜9で得られたコーティング層を有する眼用レンズの表面を測定し、コーティング前の眼用レンズ表面と比較した。
【0115】
X線光電子分析装置を用いて、実施例5〜9で得られた眼用レンズ表面分析を行ったところ、珪素成分が15%程度存在する実施例5に比べ、実施例6〜9の眼用レンズ表面は10%程度まで珪素成分の存在比率が低下していた。
【0116】
(酸素透過係数(Dk)の測定)
GTG(GAT to GAS)ANALYZER(REHDERDEVELOPMENT COMPANY製)を用いて、測定時間2分、温度35℃にて測定し、その得られた測定値をISO 9912−2にて規格化されたメニコンEX(Dk=64×10-11(cm2/sec)・(mLO2/(mL・mmHg))を用いて換算して、Dk値を求めた。
【0117】
実施例5で作製した眼用レンズの酸素透過係数は、200×10-11(cm2/sec)・(mLO2/(mL・mmHg))、実施例6の酸素透過係数は185×10-11(cm2/sec)・(mLO2/(mL・mmHg))であり、コーティング前後において、酸素透過係数の変化はわずかであった。
【0118】
(脂質付着性)
人工眼脂(スクアレン、コレステロール、ワックス、コレステロールパルミテート)中に実施例5で得られた眼用レンズを浸漬し、37℃にて16時間振盪したのち、クロロホルム/メタノール溶液にて、30分間抽出を行い、抽出液中の脂質成分をガスクロマトグラフィー/マススペクトロメトリー(GC/MS)にて定量した。
【0119】
実施例5で作製した眼用レンズには、平均60μgの脂質成分が付着したことに比べ、実施例8は平均15μg/レンズ、実施例9は10μg/レンズまで付着する脂質成分を低減することが可能となった。
【0120】
従って、ガス透過性というケイ素成分を主成分とする眼用レンズ本体の長所を損なうことなく、一方でケイ素成分を主成分とする眼用レンズ本体の表面特性における最大の課題である脂質付着性を低下させることができたことにより、眼用レンズとしての高機能化が可能となった。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明のコーティング剤は、種々の眼用レンズに適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性ブロックAの主鎖の片末端に親水性ブロックBが結合し、かつ該疎水性ブロックAのもう1つの末端に、眼用レンズ表面に存在する官能基と結合できるアルコキシシランまたはハロゲン化シラン骨格を有する反応性基Xを少なくとも1つ有するブロックCが結合した下式で表わされるブロック共重合体を含有する眼用レンズ表面用コーティング剤。
B−A−C
【請求項2】
前記疎水性ブロックAがフッ素原子含有置換基を有する請求項1記載のコーティング剤。
【請求項3】
前記フッ素原子含有置換基が、フッ素を含有する炭素数1〜20のアルキル基である請求項2記載のコーティング剤。
【請求項4】
前記親水性ブロックBが、少なくとも1つの糖鎖を含む(メタ)アクリレートモノマーの単独重合体またはそれらの共重合体を含む請求項1〜3のいずれかに記載のコーティング剤。
【請求項5】
前記親水性ブロックBが、さらにポリエチレングリコール、N−ビニルピロリドン、ジメチルアクリルアミド、メタクリル酸からなる群から選択されるモノマーの単独重合体またはそれらの共重合体を含む請求項4記載のコーティング剤。
【請求項6】
前記親水性ブロックBの重合度が、5〜5000である請求項1〜5のいずれかに記載のコーティング剤。
【請求項7】
眼用レンズ本体および請求項1〜6のいずれかに記載のコーティング剤で形成されたコーティング層を有する眼用レンズ。
【請求項8】
コンタクトレンズ本体および請求項1〜6のいずれかに記載のコーティング剤で形成されたコーティング層を有するコンタクトレンズ。
【請求項9】
前記コンタクトレンズ本体が、ケイ素元素および/またはフッ素元素を含有する共重合体からなる請求項8項記載のコンタクトレンズ。

【公開番号】特開2007−206166(P2007−206166A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−22410(P2006−22410)
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【出願人】(000138082)株式会社メニコン (150)
【Fターム(参考)】