説明

眼疾患を予防または治療するための方法および組成物

本発明は、哺乳動物被検体における眼疾患または病状を予防または治療する方法を提供する。この方法は、化学式D−Arg−2’,6’−Dmt−Lys−Phe−NH(SS−31)またはPhe−D−Arg−Phe−Lys−NH(SS−20)で表される治療上有効量の芳香族カチオン性ペプチドを投与することを含む。本発明は、糖尿病性網膜症、白内障、網膜色素変性症、緑内障、黄斑変性症、脈絡膜血管新生、網膜変性症および酸素誘導性網膜症などの眼疾患または病状を、予防または治療する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、2009年8月24日に出願された米国仮出願第61/236,440号、2009年8月28日に出願された米国仮出願第61/237,745号、および2010年5月26日に出願された米国仮特許第61/348,470号に対する優先権を主張する。これらの出願全体の内容を参照により援用する。
本技術は、一般的に、眼疾患または病状を予防または治療する組成物および方法に関する。特に本技術は、哺乳動物被検体において、眼疾患または病状(例えば糖尿病性網膜症、白内障、網膜色素変性症、緑内障、脈絡膜血管新生、および酸素誘導性網膜症)を予防または治療するために、有効量の芳香族カチオン性ペプチドを投与することに関する。
【背景技術】
【0002】
以下の説明は、読み手の理解を助けるために提供される。提供される情報または引用される文献はいずれも、本発明の先行技術と認めるものではない。
【0003】
視神経および網膜の疾患および変性症状は、世界中で失明の主要原因である。網膜の著しく大きな変性症状が加齢黄斑変性症(ARMD)である。ARMDは米国の50歳以上の人における失明の最も一般的な原因であり、その罹患率は年齢とともに増加する。ARMDは湿性(新生血管性)または乾性(非新生血管性)に分類され、疾患の乾性形態がより一般的である。黄斑変性症は、通常は年齢に伴って中心網膜が歪み、薄くなったときに起こるが、眼内炎および血管新生(湿性ARMDのみ)および/または眼内感染症を特徴とすることもある。酸化的組織損傷、局所炎症、および成長因子(VEGFおよびFGFなど)の生成の原因となるフリーラジカル、および炎症性メディエータのその後の生成は、ARMDの湿性形態と同様に、不適切な血管新生を引き起こす。
【0004】
網膜症は、I型糖尿病での失明の主要原因であり、II型糖尿病でもよく見られる。網膜症の程度は糖尿病の期間に依存し、一般的には糖尿病の発病から10年以上後に起こり始める。糖尿病性網膜症は非増殖性と分類されることがあり、その場合の網膜症は毛細血管透過性、浮腫と滲出液、または増殖性が高まることを特徴とし、その場合の網膜症は網膜から硝子体へ延びる血管新生、瘢瘍化、線維組織の沈着、および網膜剥離の可能性を特徴とする。糖尿病性網膜症は、高血糖による糖化タンパク質の形成に起因すると考えられている。他の幾つかのあまり一般的ではない網膜症としては、脈絡膜新生血管膜(CNVM)、嚢胞様黄斑浮腫(CME)、網膜上膜(ERM)、および黄斑円孔が挙げられる。
【0005】
緑内障は、視神経に対する損傷によって失明を引き起こす一群の眼疾患から構成されている。房水排出が不十分なことによる眼内圧(IOP)の上昇が緑内障の主要原因である。緑内障は眼の老化とともに進行することがよくあり、あるいは眼球の損傷、炎症、腫瘍の結果として、あるいは白内障や糖尿病の進行症例として起こる可能性がある。ステロイドを用いた治療によって生じるIOPの上昇が原因の場合もある。緑内障での有効性が証明されている薬物治療では、硝子体液産生を減らすか、房水排出を促進することでIOPを下げる。当該薬剤は血管拡張剤であることが多く、それ自体は交感神経系に作用し、アドレナリン拮抗薬を含む。
【発明の概要】
【0006】
本技術は、概して、治療または予防を必要とする被検体に、治療上有効量の芳香族カチオン性ペプチドの投与することで、哺乳動物の眼疾患または症状の治療または予防に関する。
【0007】
一態様において、本開示では、治療または予防を必要とする哺乳動物被検体の眼疾患を治療または予防する方法、治療上有効量のペプチドD−Arg−2’6’−Dmt−Lys−Phe−NH2またはPhe−D−Arg−Phe−Lys−NH2を被検体に投与することを含む方法を提供する。一実施形態では、眼疾患は、糖尿病性網膜症、白内障、網膜色素変性症、緑内障、黄斑変性症、脈絡膜血管新生、網膜変性症、および酸素誘導性網膜症からなる群から選択される。
【0008】
一態様において、開示では、治療上有効量の芳香族カチオン性ペプチドを哺乳動物被検体に投与することを含む、哺乳動物被検体の眼疾患を治療または予防する方法を提供する。一部の実施形態では、芳香族カチオン性ペプチドは以下を有するペプチドである。
少なくとも1の正味正電荷;
最小4個のアミノ酸;
最大約20個のアミノ酸;
正味正電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基の総数(r)の関係において、3pmがr+1以下の最大数である;芳香族基の最小数(a)と正味正電荷の総数(pt)の関係において、2aがpt+1以下である最大数であり、aが1でる場合を除き、ptが1であってもよい。特定の実施形態では、哺乳動物被検体がヒトである。
【0009】
一実施形態では、2pmがr+1以下の最大数であり、ptと等しくてもよい。前記芳香族カチオン性ペプチドは、最小2または最小3の正電荷を有する水溶性ペプチドであってもよい。
【0010】
一実施形態では、前記ペプチドは1つ以上の天然に存在しないアミノ酸、例えば1つ以上のD−アミノ酸を含む。一部の実施形態では、C末端にあるアミノ酸のC末端カルボキシル基がアミド化されている。特定の実施形態では、前記ペプチドは最小4個のアミノ酸を有する。前記ペプチドは最大約6個、最大約9個、または最大約12個のアミノ酸を有してもよい。
【0011】
一実施形態では、前記ペプチドは化学式Phe−D−Arg−Phe−Lys−NH2(SS−20)または2’,6’−Dmp−D−Arg−Phe−Lys−NH2を有してもよい。特定の実施形態では、前記芳香族カチオン性ペプチドは化学式D−Arg−2’,6’−Dmt−Lys−Phe−NH2(区別しないでSS−31、MTP−131、またはBendavia(商標)と呼ばれる)を有する。
【0012】
一実施形態では、前記ペプチドは、以下の化学式Iで定義される:
【化1】


式中、R1とR2は、それぞれ独立して、以下から選択される
(i)水素;
(ii)直鎖状または分岐状の炭素数1〜6のアルキル;
(iii)
【化2】

(iv)
【化3】

(v)
【化4】

3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、およびR12 はそれぞれ独立して以下から選択される
(i)水素;
(ii)直鎖状または分岐状の、炭素数1〜6のアルキル;
(iii)炭素数1〜6のアルコキシ;
(iv)アミノ;
(v)炭素数1〜4のアルキルアミノ;
(vi)炭素数1〜4のジアルキルアミノ;
(vii)ニトロ;
(viii)ヒドロキシル;
(ix)ハロゲン、ここで「ハロゲン」はクロロ、フロロ、ブロモ、およびヨードを含み、nは1〜5の整数である。
【0013】
特定の実施形態では、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、およびR12はすべて水素で、nは4である。別の実施形態では、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、およびR11はすべて水素、R8およびR12はメチル、R10はヒドロキシル、ならびにnは4である。
【0014】
一実施形態では、前記ペプチドは以下の化学式IIで定義される:
【化5】


ここで、R1とR2はそれぞれ独立して以下から選択される
(i)水素;
(ii)直鎖状または分岐状の、炭素数1〜6のアルキル;
(iii)
【化6】

(iv)
【化7】

(v)
【化8】

3とR4はそれぞれ独立して以下から選択される
(i)水素;
(ii)直鎖状または分岐状の、炭素数1〜6のアルキル;
(iii)炭素数1〜6のアルコキシ;
(iv)アミノ;
(v)炭素数1〜4のアルキルアミノ;
(vi)炭素数1〜4のジアルキルアミノ;
(vii)ニトロ;
(viii)ヒドロキシル;
(ix)ハロゲン、ここで「ハロゲン」はクロロ、フロロ、ブロモ、およびヨードを含み、R5、R6、R7、R8、およびR9はそれぞれ独立して以下から選択される
(i)水素;
(ii)直鎖状または分岐状の、炭素数1〜6のアルキル;
(iii)炭素数1〜6のアルコキシ;
(iv)アミノ;
(v)炭素数1〜4のアルキルアミノ;
(vi)炭素数1〜4のジアルキルアミノ;
(vii)ニトロ;
(viii)ヒドロキシル;
(ix)ハロゲン、ここで「ハロゲン」はクロロ、フロロ、ブロモ、およびヨードを含み、nは1〜5の整数である。
【0015】
前記芳香族カチオン性ペプチドはさまざまな方法で投与することができる。一部の実施形態では、前記ペプチドは眼内投与、経口投与、局所投与、鼻腔内投与、静脈内投与、皮下投与、または経皮投与(例えばイオンフォレシスにより)することができる。
【0016】
一態様において、本開示では、局所投与、イオンフォレシス投与、または眼内投与用に製剤化された治療上有効量のペプチドD−Arg−2’6’−Dmt−Lys−Phe−NH2またはPhe−D−Arg−Phe−Lys−NH2を含む医薬組成物を提供する。
【0017】
一態様において、本開示では、治療上有効量のペプチドD−Arg−2’6’−Dmt−Lys−Phe−NH2またはPhe−D−Arg−Phe−Lys−NH2を含む眼製剤を提供する。一実施形態では、前記製剤は隔膜、房水、および水晶体内で可溶である。一実施形態では、前記製剤は防腐剤をさらに含む。一実施形態では、前記防腐剤は1%未満の濃度で存在する。
【0018】
一実施形態では、前記製剤は、酸化防止剤、金属錯体、抗炎症薬、抗生物質、および抗ヒスタミン剤からなる群から選択される活性薬剤をさらに含む。一実施形態では、前記酸化防止剤はビタミンA、ビタミンC、ビタミンE、リコピン、セレン、α−リポ酸、コエンザイムQ、グルタチオン、またはカロテノイドである。一実施形態では、前記製剤は、アセクリジン、アセタゾールアミド、アネコルタブ、アプラクロニジン、アトロピン、アザペンタセン、アゼラスチン、バシトラシン、ベフノロール、ベタメタゾン、ベタキソロール、ビマトプロスト、ブリモニジン、ブリンゾラミド、カルバコール、カルテオロール、セレコキシブ、クロラムフェニコール、クロルテトラサイクリン、シプロフロキサン、クロモグリケート、クロモリン、シクロペントレート、シクロスポリン、ダピプラゾール、デメカリウム、デキサメタゾン、ジクロフェナック、ジクロルフェナミド、ジピベフリン、ドルゾラミド、エコチオフェート、エメダスチン、エピナスチン、エピネフリン、エリスロマイシン、エトキスゾラミド、オイカトロピン、フルドロコルチゾン、フルオロメトロン、フルルビプロフェン、ホミビルゼン、フラマイセチン、ガンシクロビル、ガチフロキサシン、ゲンタマイシン、ホマトロピン、ヒドロコルチゾン、イドクスウリジン、インドメタシン、イソフルロフェート、ケトロラック、ケトチフェン、ラタノプロスト、レボベタキソロール、レボブノロール、レボカバスチン、レボフロキサシン、ロドキサミド、ロテプレドノール、メドリゾン、メタゾラミド、メチプラノロール、モキシフロキサシン、ナファゾリン、ナタマイシン、ネドクロミル、ネオマイシン、ノルフロキサシン、オフロキサシン、オロパタジン、オキシメタゾリン、ペミロラスト、ペガプタニブ、フェニレフリン、フィゾスチグミン、ピロカルピン、ピンドロール、ピレノキシン、ポリミキシンB、プレドニゾロン、プロパラカイン、ラニビズマブ、リメキソロン、スコポラミン、セゾラミド、スクアラミン、スルファセタミド、スプロフェン、テトラカイン、テトラサイクリン、テトラヒドロゾリン、テトリゾリン、チモロール、トブラマイシン、トラボプロスト、トリアムシノロン、トリフルオロメタゾラミド、トリフルリジン、トリメトプリム、トロピカミド、ウノプロストン、ビダラビン、キシロメタゾリン、それらの薬学的に許容される塩、およびそれらの組み合わせ、からなる群から選択される活性薬剤をさらに含む。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1A−1B】図1Aおよび1Bは、30mMのグルコース(HG)との併用処理として使用されるさまざまな濃度のSS−31(10nM、100nM、1μM、および10μM)の効果を示す。図1Aは、アネキシンV/PI染色法後にフローサイトメトリーによって評価されるアポトーシスの分析を示し、治療後24時間のHRECの生存率(Q3)がそれぞれ99.3%、83.2%、84.3%、90.7%、92.8%、および94.3%であることが分かった。図1BはHRECの生存率のグラフ表示である。100nM、1μM、および10μMの濃度のSS−31のデータは、SS−31による併用処理を行っていない高濃度グルコースに曝された細胞で見られるデータよりも著しく高かった。* p<0.05対30mM高濃度グルコース治療群。
【0020】
【図2A−2F】図2A〜2Fは、SS−31による併用処理によって、24時間と48時間30mMのグルコースに曝されたHREC中の細胞内活性酸素種(ROS)が減少したことを示す一連の顕微鏡写真である。細胞内ROSはジヒドロエチジウムを用いて測定した。2A、2Dは通常の培地;2B、2Eは30mMグルコース;および2C、2Fは30mMグルコース+SS−31(100nM)でそれぞれ24時間と48時間培養した。
【0021】
【図3A−3B】図3Aおよび3Bは、SS−31が、高濃度グルコースで処理されたHRECのミトコンドリア膜電位の消失を防ぐことを示す。図3A:HRECのΔΨmは、JC−1蛍光プローブ染色後のフローサイトメトリーで測定した。高濃度グルコース(30mM)処理によって、24時間および48時間で培養HRECのミトコンドリア膜電位の急速な消失をもたらした。その一方、フローサイトメトリー分析からは、SS−31で併用処理した30mMグルコースの群では、高濃度グルコース単独の群と比較してΔΨmが増加することが分かった。図3B:24時間および48時間SS−31によって併用処理した高濃度グルコースHRECのΔΨmの定量分析であり、高濃度グルコース単独ではΔΨmに悪影響を及ぼした。一方で、SS−31はΔΨmを対照濃度に回復させた。数値は、3回繰り返しで行われた6つの個別の実験の平均値±標準偏差を表す。*P<0.05。
【0022】
【図4A−4D】図4Aおよび4Dは、通常濃度グルコース群とSS−31併用処理群のHRECではシトクロムc染色とHSP60染色がより正確に重なり合っていて、シトクロムcとミトコンドリアが共局在化していることが分かることを示す共焦点顕微鏡画像である。処理後24時間と48時間、シトクロムcは30mMのグルコースで処理されたHRECの細胞質中で明らかに増加した。図4Bおよび4Eは、ウエスタンブロット法で測定されるミトコンドリアと細胞質中のシトクロムc含有量を示す。図4Cおよび4Fは、24時間および48時間、高濃度グルコースとSS−31によって併用処理されたHRECのミトコンドリアと細胞質中のシトクロムc含有量の比率の定量分析を示す。
【0023】
【図5A−5B】図5Aおよび5Bは、高濃度グルコース(HG)によって処理されたHREC中のカスパーゼ3の発現の増加がSS−31併用処理によって減少したことを、ウエスタンブロット法によって示す。カスパーゼ3発現はβ−アクチンの発現に標準化された。図5C〜Eは、SS−31が、高濃度グルコース処理治療HREC中のTrx2の発現を増加させることを示す。図5Cは、24時間および48時間、SS−31で処理され、30mMのグルコースに曝されたHREC中のTrx2のmRNAレベルを示す。図5Dは、ウエスタンブロット法で測定されたTrx2タンパク質の発現レベルを示す。図5Eは、SS−31による併用処理を行った場合と行わない場合で、高濃度グルコースに曝された後24時間および48時間のHREC中のTrx2のタンパク質濃度の定量分析を示す。
【0024】
【図6】図6は、糖尿病ラットの水晶体に対するSS−31の効果の写真を示す。上の列:糖尿病ラットから得た水晶体;下の列:SS−31またはSS−20で治療された糖尿病ラットから得た水晶体。
【0025】
【図7】図7は、糖尿病ラットの水晶体に対するSS−31とSS−20の効果を示す一連の写真である。糖尿病は、高脂肪食とストレプトゾトシン(HFD/STZ)(上の列)、またはストレプトゾトシン(STZ)単独(下の列)で誘導された。
【0026】
【図8】図8は、健常ラット、糖尿病ラット、およびSS−31で治療された糖尿病ラットからの水晶体上皮を示す一連の顕微鏡写真である。糖尿病はSTZによって誘導された。
【0027】
【図9】図9は、健常ラット、糖尿病ラット、およびSS−31で治療された糖尿病ラットからの水晶体上皮を示す一連の顕微鏡写真である。糖尿病はHFD/STZによって誘導された。
【0028】
【図10】図10は、エバンスブルーの溢出によって分析された、健常ラット(NRC)、糖尿病ラット、およびSS−20またはSS−31で治療された糖尿病ラットの血液網膜関門の完全性を示す一連のグラフである。(A)STZによって誘導された糖尿病;(B)HFD/STZによって誘導された糖尿病。
【0029】
【図11】図11は、健常ラット(NRC)、糖尿病ラット(HFD/STZ)、およびSS−31で治療された糖尿病ラットの網膜微小血管を示す一連の顕微鏡写真である。
【0030】
【図12】図12は、健常ラット(NRC)、糖尿病ラット(STZ)、およびSS−31で治療された糖尿病ラットの網膜微小血管を示す一連の顕微鏡写真である。
【0031】
【図13A−13D】図13A〜13Dは、健常ラット(A)、STZラット(B)、STZ/SS−20治療ラット(C)、またはSTZ/SS−31治療ラット(D)の網膜微小血管中の密着結合タンパク質クローディン5の分布を示す一連の顕微鏡写真である。
【0032】
【図14】図14は、非罹患個体からの小柱網細胞(HTM)およびSS−31を投与した緑内障罹患個体からの小柱網細胞(GTM)に対してSS−31には細胞毒性がないことを示すグラフである。
【0033】
【図15】図15は、SS−31による併用処理によって、緑内障罹患個体(GTM)からの小柱網細胞中の200μMのH22によって誘導されたミトコンドリア膜電位(ΔΨm)の減少を用量依存的に抑制したことを示す一連の共焦点顕微鏡写真である。
【0034】
【図16】図16は、SS−31による併用処理によって、200μMのH22によって誘導された緑内障罹患個体(GTM)からの小柱網細胞中のTMRMおよびフローサイトメトリーで測定されるミトコンドリア膜電位(ΔΨm)の減少を抑制したことを示す一連のグラフである。
【0035】
【図17】図17は、GTMとHTM細胞中のミトコンドリア膜電位(ΔΨm)を比較するグラフである。
【0036】
【図18】図18は、逆位相コントラスト顕微鏡法を用いて観察された、SS−31の治療に反応したGTM細胞中の形態変化を示す一連の顕微鏡写真である。
【0037】
【図19】図19は、共焦点顕微鏡法を用いて観察した、SS−31による併用処理によって、400μMのH22によって生じたGTM細胞中のミトコンドリア膜電位の消失を用量依存的に減少させたことを示す一連の顕微鏡写真である。
【0038】
【図20】図20は、TMRMおよび共焦点顕微鏡法(倍率200倍)を用いて観察した、SS−31による併用処理によって、400μMのH22によって生じたGTM細胞中のミトコンドリア膜電位(ΔΨm)の消失を減少させたことを示す一連の顕微鏡写真である。
【0039】
【図21】図21は、逆位相コントラスト顕微鏡法を用いて観察された、SS−31の治療に反応したGTM細胞中の形態変化を示す一連の顕微鏡写真である。
【0040】
【図22】図22は、SS−31が初代ヒト網膜色素上皮(RPE)細胞の生存率には効果がないことを示すグラフである(MTT試験により測定)。
【0041】
【図23A】図23Aは、RPE細胞の生存率(MTT試験により測定)に対するさまざまな濃度のtBHPの影響を示すグラフである。図23Bは、高濃度のtBHPに曝された場合の細胞生存率に対するさまざまな濃度のSS−31の効果を示すグラフである。
【0042】
【図24A−24C】図24A〜24Cは、脈絡膜血管新生(CNV)マウスモデルでの病理学的効果を説明する一連の顕微鏡写真である。図24Dは、治療群と対照群のCNV領域を示すグラフである。
【0043】
【図25】図25は、酸素誘導性網膜症(OIR)マウスモデルでのさまざまな病理学的効果を説明する一連の顕微鏡写真である。P17健常マウスと比較してP17 OIRマウスでの無血管状態および血管新生の領域を示している。
【0044】
【図26A−26D】図26A〜26Dは、OIRマウスモデルでのSS−31投与の効果を示す一連の顕微鏡写真である。図26Eは、対照群と治療群の血管新生領域を示すグラフである。SS−31は血管新生領域を減少させた。
【0045】
【図27A】図27Aは、マウス網膜腫瘍から得られた661W錐状体細胞株の細胞生存率に対するさまざまな用量のtBHPの効果を示すグラフである。図27Bは、tBHP誘導661W細胞死の減少に対する1μMのSS−31の効果を示すグラフである。
【0046】
【図28】図28は、対照マウスとSS−31治療マウスにおける網膜変性症のマウスモデルでの網膜外核層(ONL)の厚みを示す一連の顕微鏡写真である。
【0047】
【図29】図29は、対照マウスとSS−31治療マウスの錐状体内節および外節を選択的に染色するピーナッツ凝集素(PNA)によって染色された平面状に装着した網膜中の錐状体細胞の密度を示す一連の顕微鏡写真である。
【0048】
【図30】図30は、網膜変性のマウスモデルの酸化的脂質損傷のマーカーであるアクロレインの染色を示す一連の顕微鏡写真である。
【0049】
【図31】図31は、FACS分析を用いたRPE細胞の3つの群における細胞内ROS産生の蛍光強度を示す一連のグラフである。図31Aは対照RPE細胞でのROS産生を示し;図31Bは500μMのtBHPで3時間処理されたRPE細胞でのROS産生を示し、図31Cは500μMのtBHPで3時間、および1μMのSS−31で処理されたRPE細胞でのROS産生を示す。
【0050】
【図32】図32は、FACS試験でJC−1により標識化されたMMPの分析を示す一連のグラフである。3つの異なる濃度のSS−31群を分析した。
【0051】
【図33A−33C】図33A〜33Cは、tBHPによって誘導されたMMP減少に対する1μMのSS−31の効果を示す一連のグラフである。図33A:対照群;図33B:3時間500μMのtBHPによる処理群;図33C:4時間1μMのSS−31+3時間500μMのtBHPによる処理群。図33Dは、さまざまな群の蛍光比を比較するグラフである。*P<0.01、C対B。
【0052】
【図34A−34C】図34A〜34Cは、24時間250μMのtBHPによって誘導された細胞アポトーシスに対するSS−31の効果を示す一連のグラフである。図34A:対照群;図34B:24時間250μMのtBHPによる処理群;図34C:4時間1μMのSS−31+24時間250μMのtBHPによる処理群。図34Dは、さまざまな群の蛍光比を比較するグラフである。*P<0.05、C対B。
【0053】
【図35】図35は、RPE細胞の3つの群でのtBHPによって誘導されるMDA濃度を示すグラフである。*P<0.05、4時間1μMのSS−31+24時間250μMのtBHPによる処理群対24時間250μMのtBHPによる処理群。
【0054】
【図36】図36は、FACS分析を用いて測定した対照群およびSS−31治療群でのGTMおよびHTM細胞のTMRMの蛍光強度を示すグラフを示す。
【0055】
【図37】図37は、FACS分析を用いて測定した対照群およびSS−31治療群でのGTMおよびHTM細胞のROSの蛍光強度を示すグラフを示す。
【0056】
【図38】図38は、Q2+Q4の4分割分析の細胞の比率で評価された対照群およびSS−31治療群の細胞アポトーシスを示す一連のグラフである。
【0057】
【図39】図39は、SS−31が、H22で処理されたGTM3およびiHTM細胞の細胞内ROS産生を減少させたことを示す一連のグラフである。
【0058】
【図40】図40は、SS−31が、GTM3およびiHTM細胞でのH22誘導ミトコンドリア脱分極を防いだことを示す一連のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0059】
当然のことながら、本発明を十分に理解してもらうために、本発明の特定の形態、様式、実施形態、変化、および特徴があらゆるレベルで詳細に後述されている。
【0060】
本発明の実施では、分子生物学、タンパク質生化学、細胞生物学、免疫学、微生物学および組み換え型DNAにおける多くの従来技術が使用される。これらの技術は公知であり、それぞれ次の参考文献で説明されている:Current Protocols in Molecular Biology, Vols. I−III, Ausubel, Ed.(1997);Sambrook et al, Molecular Cloning:A Laboratory Manual, Second Ed.(Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, 1989);DNA Cloning:A Practical Approach, Vols. I and II, Glover, Ed.(1985);Oligonucleotide Synthesis, Gait, Ed.(1984);Nucleic Acid Hybridization, Hames & Higgins, Eds.(1985);Transcription and Translation, Hames & Higgins, Eds.(1984);Animal Cell Culture, Freshney, Ed.(1986);Immobilized Cells and Enzymes(IRL Press, 1986);Perbal, A Practical Guide to Molecular Cloning;the series, Meth. EnzymoL,(Academic Press, Inc., 1984);Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells, Miller & Calos, Eds.(Cold Spring Harbor Laboratory, NY, 1987);およびMeth. EnzymoL, Vols. 154 and 155, Wu & Grossman, and Wu, Eds。
【0061】
本願明細書で使用される用語の定義を下記に示す。別段に定義されなければ、本願明細書で使用されるすべての技術および科学用語は一般的に、本発明が属する技術分野における当事者によって共通して理解されるものと同じ意味を有する。
【0062】
本願明細書および追加請求項で使用される場合、別段に明確に指示されないかぎり、単数形は複数の指示対象を含む。例えば、「細胞」への言及は2つ以上の細胞の組み合わせなどを含む。
【0063】
本願明細書で使用される場合、「約」は当事者には明らかであり、使用される文脈に応じてある程度変わり得る。当事者にとって明確ではない用語が使用される場合、使用される文脈から判断して、「約」は列挙される値の最大プラスマイナス10%を意味するものであってもよい。
【0064】
本願明細書で使用される場合、被検体に対する化学物質、医薬品、またはペプチドの「投与」には、被検体にその目的とする機能を果たすための化合物を導入または供給する経路を含む。投与は、経口、眼内、鼻腔内、非経口(静脈、筋肉内、腹腔内、または皮下)、または局所を含む適切な経路によって行うことができる。投与には、自己投与および他者による投与を含む。
【0065】
本願明細書で使用される場合、用語「アミノ酸」には天然アミノ酸や合成アミノ酸のほかに、天然アミノ酸に似た方法で機能するアミノ酸類似物やアミノ酸模倣体も含む。天然アミノ酸は、遺伝情報によってコードされるもののほかに、ヒドロキシプロリン、γ−カルボキシグルタミン酸、およびο−ホスホセリンなどの後で修飾されるこれらアミノ酸でもある。アミノ酸類似物は、ホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルホキシド、メチオニンメチルスルホニウムなどの天然アミノ酸と同じ基本化学構造、すなわち水素、カルボキシル基、アミノ基、およびR基に結合するα−炭素を有する化合物を意味する。当該類似物は修飾R基(ノルロイシンなど)または修飾ペプチド主鎖を有するが、天然アミノ酸と同じ基本化学構造を維持する。アミノ酸模倣体は、アミノ酸の全体化学構造と違う構造を有するが、天然アミノ酸に似た方法で機能する化合物を意味する。本明細書中では、アミノ酸は一般に知られている3文字の記号、またはIUPAC−IUB生化学命名法委員会によって推奨される1文字の記号で言及できる。
【0066】
本願明細書で使用される場合、用語「有効量」は、眼疾患に伴う症状の予防または減少をもたらす量などの、期待する治療および/または予防の効果を達成するために十分な量を意味する。被検体に投与される組成物の量は、疾患の種類や重症度、および全体的な健康、年齢、性別、体重、および薬物耐性などの個体の特性によって決まる。これは、疾患の段階、重症度、および種類によっても決まる。当事者は、これらや他の要因に応じて適切な用量を決定することができる。前記組成物は、1つ以上の追加治療化合物との併用で投与することもできる。本明細書中で述べられる方法では、芳香族カチオン性ペプチドが眼疾患の1つ以上の兆候または症状を有する被検体に投与される。例えば、「治療上有効量」の芳香族カチオン性ペプチドは、最低限で眼疾患の生理学的効果が改善される濃度を意味する。
【0067】
「単離」または「精製」されたポリペプチドまたはペプチドには、化学物質が抽出される細胞または組織の発生源からの細胞物質または他の汚染ポリペプチドが実質的にない、あるいは化学合成されるときの化学的前駆体または他の化学薬品が実質的にない。例えば、単離された芳香族カチオン性ペプチドには、化学物質の診断上または治療上の使用を妨げる物質がないことになる。当該妨害物質としては、酵素、ホルモン、および他のタンパク性および非タンパク性溶質が挙げられる。
【0068】
本願明細書で使用される場合、用語「ポリペプチド」、「ペプチド」、および「タンパク質」は、本明細書中では区別しないで、ペプチド結合または修飾ペプチド結合、すなわちペプチドイソスターでお互いに結合した2つ以上のアミノ酸を含む重合体を意味する。ポリペプチドは、一般的にペプチド、グリコペプチド、またはオリゴマーと呼ばれる短鎖と、一般的にタンパク質と呼ばれる長鎖の両方を意味する。ポリペプチドは、20種類の遺伝子コードアミノ酸以外のアミノ酸を含むものであってもよい。ポリペプチドは、翻訳後プロセッシングなどの自然過程で、または当技術分野で公知の化学的修飾技術で修飾されたアミノ酸配列を含む。
【0069】
本願明細書で使用される場合、用語「同時」治療的使用は、同じ経路によって、かつ同時または実質的に同時に、少なくとも2つの有効成分を投与することを意味する。
【0070】
本願明細書で使用される場合、用語「個別」治療的使用は、異なる経路によって、同時または実質的に同時に、少なくとも2つの有効成分を投与することを意味する。
【0071】
本願明細書で使用される場合、用語「順次」治療的使用は、異なる時期に、同一または異なる投与経路で、少なくとも2つの有効成分を投与することを意味する。特に順次使用は、他の投与前、または開始の前の1つの有効成分をすべて投与することを意味する。それ故に、他の有効成分を投与する前に数分、数時間、または数日にわたって有効成分の1つを投与することができる。この場合には同時治療はない。
【0072】
本願明細書で使用される場合、用語「治療」または「処置」または「緩和」は、治療的処置と予防方法または予防対策の両方を意味し、目的は標的とされる病状または疾患を防止または抑制する(減少させる)ことである。本明細書中で述べられる方法に従って治療量の芳香族カチオン性ペプチドの投与を受けた後、被検体が観察可能および/または測定可能な眼疾患の兆候または症状の1つ以上の減少または消失を示す場合、被検体は眼疾患に関してうまく「治療」されている。また、当然のことながら、述べられるような病状の治療または予防のさまざまな様式は「実質的」を意味することを目的としており、それには治療または予防の全体だけでなく全体以下を含み、一部の生物学的または医学的に関連性のある結果が達成される。
【0073】
本願明細書で使用される場合、疾患または病状の「予防」または「予防する」は、統計検体において、未治療対照検体と比較して治療検体での疾患または病状の発生を減少させる、または未治療検体と比較して疾患または病状の1つ以上の症状の発病を遅らせる、または重症度を低下させる化合物を意味する。
芳香族カチオン性ペプチド
【0074】
本技術は、特定の芳香族カチオン性ペプチドの投与による眼疾患の治療または予防に関する。理論によって限定されることを望まないが、前記芳香族カチオン性ペプチドは、眼内酸化的損傷の重症度または発生を減らすことで眼疾患を治療または予防できる。前記芳香族カチオン性ペプチドは水溶性、かつ高極性である。これらの特性にも関わらず、前記ペプチドは細胞膜を簡単に浸透できる。前記芳香族カチオン性ペプチドは一般的に、ペプチド結合によって共有結合された最小3個のアミノ酸または最小4個のアミノ酸を含む。前記芳香族カチオン性ペプチドに存在するアミノ酸の最大数は、ペプチド結合によって共有結合された約20個のアミノ酸である。好適には、アミノ酸の最大数は約12個、より好適には約9個、最も好適には約6個である。
【0075】
前記芳香族カチオン性ペプチドの前記アミノ酸は任意のアミノ酸にすることができる。本願明細書で使用される場合、「アミノ酸」は、少なくとも1つのアミノ基および少なくとも1つのカルボキシル基を含む有機分子を意味するために使用される。一般的に、少なくとも1つのアミノ基はカルボキシル基に対してα位に位置する。前記アミノ酸は天然のものであってもよい。例えば、天然アミノ酸としては、哺乳動物のタンパク質中で通常見られる20種類の最も一般的な左旋性(L)アミノ酸、すなわち、アラニン(Ala)、アルギニン(Arg)、アスパラギン(Asn)、アスパラギン酸(Asp)、システイン(Cys)、グルタミン(Gln)、グルタミン酸(Glu)、グリシン(Gly)、ヒスチジン(His)、イソロイシン(Ile)、ロイシン(Leu)、リジン(Lys)、メチオニン(Met)、フェニルアラニン(Phe)、プロリン(Pro)、セリン(Ser)、スレオニン(Thr)、トリプトファン(Trp)、チロシン(Tyr)、およびバリン(Val)が挙げられる。他の天然アミノ酸としては、例えば、タンパク質合成と関係がない代謝過程で合成されるアミノ酸が挙げられる。例えば、アミノ酸オルニチンおよびシトルリンは尿素生成中の哺乳動物の代謝で合成される。天然アミノ酸の別の例としてはヒドロキシプロリン(Hyp)が挙げられる。
【0076】
前記ペプチドは、任意に1つ以上の非天然アミノ酸を含む。好適には、前記ペプチドは天然に発生するアミノ酸を有しない。前記非天然アミノ酸は左旋性(L−)、右旋性(D−)、またはそれらの混合物であってもよい。非天然アミノ酸は、生物の通常の代謝過程では一般的に合成されない、そしてタンパク質中では天然に発生しないそれらのアミノ酸である。さらに、前記非天然アミノ酸は一般的なプロテアーゼによっても認識されることはない。前記非天然アミノ酸は、ペプチドの任意の位置に存在できる。例えば、前記非天然アミノ酸はN末端、C末端、またはN末端とC末端の間の位置に存在できる。
【0077】
例えば、前記非天然アミノ酸は、天然アミノ酸では見られないアルキル基、アリール基、またはアルキルアリール基を含むものであってもよい。非天然アルキルアミノ酸のいくつかの例としては、α−アミノ酪酸、β−アミノ酪酸、γ−アミノ酪酸、δ−アミノ吉草酸、およびε−アミノカプロン酸が挙げられる。非天然アリールアミノ酸のいくつかの例としては、オルト−、メタ−、およびパラ−アミノ安息香酸が挙げられる。非天然アルキルアリールアミノ酸のいくつかの例としては、オルト−、メタ−、およびパラ−アミノフェニル酢酸、およびγ−フェニル−β−アミノ酪酸が挙げられる。非天然アミノ酸としては、天然アミノ酸の誘導体が挙げられる。前記天然アミノ酸の誘導体としては、例えば、天然アミノ酸に1つ以上の化学基を付加したものが挙げることが可能である。
【0078】
例えば、1つ以上の化学基を、フェニルアラニンまたはチロシン残基の芳香環の2位、3位、4位、5位、または6位の位置、またはトリプトファン残基のベンゾ環の4位、5位、6位、または7位の1つ以上に付加できる。前記の基は、芳香環に付加できる任意の化学基であってもよい。前記の基のいくつかの例としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、またはt−ブチルなどの分岐または非分岐の炭素数1〜4のアルキル、炭素数1〜4のアルキルオキシ(すなわち、アルコキシ)、アミノ、炭素数1〜4のアルキルアミノ、および炭素数1〜4のジアルキルアミノ(例えば、メチルアミノ、ジメチルアミノ)、ニトロ、ヒドロキシル、ハロ(すなわち、フルオロ、クロロ、ブロモ、またはヨード)が挙げられる。天然アミノ酸の非天然誘導体のいくつかの具体例として、ノルバリン(Nva)およびノルロイシン(Nle)が挙げられる。
【0079】
ペプチド中のアミノ酸の修飾の別の例としては、ペプチドのアスパラギン酸またはグルタミン酸残基のカルボキシル基の誘導体化がある。誘導体化の一例は、アンモニアによる、またはメチルアミン、エチルアミン、ジメチルアミン、またはジエチルアミンなどの第1級または第2級アミンによるアミド化である。誘導体化の別の例としては、例えば、メチルまたはエチルアルコールによるエステル化が挙げられる。別の前記修飾としては、リジン、アルギニン、またはヒスチジン残基のアミノ基の誘導体化が挙げられる。例えば、前記アミノ基をアクリル化できる。いくつかの適切なアクリル基としては、例えば、アセチルまたはプロピオニル基などの上述の炭素数1〜4のアルキル基のいずれかを含むベンゾイル基またはアルカノイル基が挙げられる。
【0080】
前記非天然アミノ酸は一般的なプロテアーゼに好適には耐性を示し、より好適には無反応である。プロテアーゼに耐性がある、または無反応である非天然アミノ酸の例としては、上述の天然L−アミノ酸のいずれかの右旋性(D−)形態のほか、L−および/またはD−非天然アミノ酸も挙げられる。D−アミノ酸は通常、タンパク質中では生じないが、細胞の通常のリボソームタンパク質合成装置以外によって合成される特定のペプチド抗生物質中で見つかる。本願明細書で使用される場合、D−アミノ酸は非天然アミノ酸と考えられる。
【0081】
プロテアーゼ感受性を最低限に抑えるため、ペプチドは、アミノ酸が天然に発生するか発生しないかに関係なく、5個未満、好適には4個未満、さらに好適には3個未満、最も好適には2個未満が隣接する、一般的なプロテアーゼによって認識されるL−アミノ酸を有する必要がある。好適には、前記ペプチドはD−アミノ酸のみを含み、L−アミノ酸は含まない。ペプチドがアミノ酸のプロテアーゼ感受性配列を含む場合、好適にはアミノ酸の少なくとも1つは非天然D−アミノ酸であり、それによって、プロテアーゼ耐性を授与する。プロテアーゼ感受性配列の例としては、エンドペプチターゼおよびトリプシンなどの一般的なプロテアーゼによって簡単に開裂される2つの以上が隣接する基本アミノ酸が挙げられる。基本アミノ酸の例としては、アルギニン、リジン、およびヒスチジンが挙げられる。
【0082】
芳香族カチオン性ペプチドは、ペプチド中のアミノ酸残基の総数と比較して、生理学的pHで最小数の正味正電荷を有する必要がある。前記生理学的pHでの正味正電荷の最小数は以下(pm)と呼ばれる。前記ペプチド中のアミノ酸残基の総数は以下(r)と呼ばれる。以下で述べられる正味正電荷の最小数はすべて生理学的pHでの値である。本願明細書で使用される場合の用語「生理学的pH」は哺乳動物の体の組織および臓器の細胞中の通常pHを意味する。例えば、ヒトの生理学的pHは通常約7.4であるが、哺乳動物の通常の生理学的pHは約7.0〜約7.8の間のいずれかのpHである場合がある。
【0083】
本願明細書で使用される場合の「正味電荷」は、ペプチド中に存在するアミノ酸によって帯びている正電荷の数と負電荷の数の差し引きの数を意味する。本明細書では、当然のことながら正味電荷は生理学的pHで測定される。生理学的pHで正の電荷を帯びた天然アミノ酸としては、L−リジン、L−アルギニン、およびL−ヒスチジンが挙げられる。生理学的pHで負の電荷を帯びた天然アミノ酸としては、L−アスパラギン酸およびL−グルタミン酸が挙げられる。
【0084】
一般的に、ペプチドは正に電荷を帯びたN末端アミノ基および負の電荷を帯びたC末端カルボキシル基を有する。前記電荷は、生理学的pHでお互いに打ち消し合う。正味電荷の計算の例として、ペプチドTyr−Arg−Phe−Lys−Glu−His−Trp−D−Argは1の負の電荷を帯びたアミノ酸(すなわち、GLu)および4の正の電荷を帯びたアミノ酸(すなわち、2のArg残基、1のLys、および1のHis)を有する。そのため、上記ペプチドは3の正味正電荷を有する。
【0085】
一実施形態では、前記芳香族カチオン性ペプチドは、3pmがr+1以下の最大数である生理学的pHでの正味正電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基の総数(r)の関係を有する。本実施形態では、正味正電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基の総数(r)の関係は以下のとおりである:
【表1】

【0086】
別の実施形態では、前記芳香族カチオン性ペプチドは、2pmがr+1以下の最大数である正味正電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基の総数(r)の関係を有する。この実施形態では、正味正電荷の最小数(pm)とアミノ酸の総数(r)の関係は、以下の通りである:
【表2】

【0087】
一実施形態では、正味正電荷の最小数(pm)とアミノ酸残基の総数(r)は等しい。別の実施形態では、ペプチドは3個または4個のアミノ酸残基および最小1の正味正電荷を有し、好適には最小2の正味正電荷を有し、さらに好適には最小3の正味正電荷を有する。
【0088】
また、前記芳香族カチオン性ペプチドは、正味正電荷の総数(pt)と比較して最小数の芳香族基を有することも重要である。前記最小数の芳香族基は以下(a)と呼ばれる。芳香族基を有する天然アミノ酸としては、アミノ酸ヒスチジン、トリプトファン、チロシン、およびフェニルアラニンが挙げられる。例えば、ヘキサペプチドLys−Gln−Tyr−D−Arg−Phe−Trpは2の正味正電荷(リジンとアルギニン残基による寄与)と3個の芳香族基(チロシン、フェニルアラニン、およびトリプトファン残基による寄与)を有する。
【0089】
また、前記芳香族カチオン性ペプチドは、ptが1で、aもおそらく1である場合を除き、3aがpt+1以下の最大数である芳香族基の最小数(a)と生理学的pHでの正味正電荷の総数(pt)の関係を有する必要がある。本実施形態では、芳香族基の最小数(a)と正味正電荷の総数(pt)の関係は以下のとおりである:
【表3】

【0090】
別の実施形態では、前記芳香族カチオン性ペプチドは、2aがpt+1以下の最大数である芳香族基の最小数(a)と生理学的pHでの正味正電荷の総数(pt)の関係を有する。本実施形態では、芳香族アミノ酸残基の最小数(a)と正味正電荷の総数(pt)の関係は以下のとおりである:
【表4】

【0091】
別の実施形態では、芳香族基の最小数(a)と正味正電荷の総数(pt)は等しい。
【0092】
カルボキシル基、特にC末端アミノ酸の末端カルボキシル基は、好適には、例えばC末端アミドを形成するアンモニアでアミド化される。あるいは、C末端アミノ酸の末端カルボキシル基は、第1級または第2級アミンによってアミド化してもよい。前記第1級または第2級アミンは、例えば、アルキルであってもよく、特に分岐または非分岐の炭素数1〜4のアルキルまたはアリールアミンであってもよい。それ故に、ペプチドのC末端の前記アミノ酸はアミド基、N−メチルアミド基、N−エチルアミド基、N,N−ジメチルアミド基、N,N−ジエチルアミド基、N−メチル−N−エチルアミド基、またはN−フェニル−N−エチルアミド基に変換してもよい。また、前記芳香族カチオン性ペプチドのC末端では生じないアスパラギン、グルタミン、アスパラギン酸、およびグルタミン酸残基の遊離型のカルボキシレート基も、ペプチド内のどこで生じてもアミド化してもよい。これらの内部位置のアミド化は、上述のようにアンモニアまたは、第1級または第2級アミンのいずれかであってもよい。
【0093】
一実施形態では、前記芳香族カチオン性ペプチドは、2の正味正電荷および少なくとも1つの芳香族アミノ酸を有するトリペプチドである。特定の実施形態では、前記芳香族カチオン性ペプチドは、2の正味正電荷および2つの芳香族アミノ酸を有するトリペプチドである。
【0094】
芳香族カチオン性ペプチドとしては以下のペプチド例が挙げられるが、これに限定されるものではない:
Lys−D−Arg−Tyr−NH2
Phe−D−Arg−His
D−Tyr−Trp−Lys−NH2
Trp−D−Lys−Tyr−Arg−NH2
Tyr−His−D−Gly−Met
Phe−Arg−D−His−Asp
Tyr−D−Arg−Phe−Lys−Glu−NH2
Met−Tyr−D−Lys−Phe−Arg
D−His−Glu−Lys−Tyr−D−Phe−Arg
Lys−D−Gln−Tyr−Arg−D−Phe−Trp−NH2
Phe−D−Arg−Lys−Trp−Tyr−D−Arg−His
Gly−D−Phe−Lys−Tyr−His−D−Arg−Tyr−NH2
Val−D−Lys−His−Tyr−D−Phe−Ser−Tyr−Arg−NH2
Trp−Lys−Phe−D−Asp−Arg−Tyr−D−His−Lys
Lys−Trp−D−Tyr−Arg−Asn−Phe−Tyr−D−His−NH2
Thr−Gly−Tyr−Arg−D−His−Phe−Trp−D−His−Lys
Asp−D−Trp−Lys−Tyr−D−His−Phe−Arg−D−Gly−Lys−NH2
D−His−Lys−Tyr−D−Phe−Glu−D−Asp−D−His−D−Lys−Arg−Trp−NH2
Ala−D−Phe−D−Arg−Tyr−Lys−D−Trp−His−D−Tyr−Gly−Phe
Tyr−D−His−Phe−D−Arg−Asp−Lys−D−Arg−His−Trp−D−His−Phe
Phe−Phe−D−Tyr−Arg−Glu−Asp−D−Lys−Arg−D−Arg−His−Phe−NH2
Phe−Try−Lys−D−Arg−Trp−His−D−Lys−D−Lys−Glu−Arg−D−Tyr−Thr
Tyr−Asp−D−Lys−Tyr−Phe−D−Lys−D−Arg−Phe−Pro−D−Tyr−His−Lys
Glu−Arg−D−Lys−Tyr−D−Val−Phe−D−His−Trp−Arg−D−Gly−Tyr−Arg−D−Met−NH2
Arg−D−Leu−D−Tyr−Phe−Lys−Glu−D−Lys−Arg−D−Trp−Lys−D−Phe−Tyr−D−Arg−Gly
D−Glu−Asp−Lys−D−Arg−D−His−Phe−Phe−D−Val−Tyr−Arg−Tyr−D−Tyr−Arg−His−Phe−NH2
Asp−Arg−D−Phe−Cys−Phe−D−Arg−D−Lys−Tyr−Arg−D−Tyr−Trp−D−His−Tyr−D−Phe−Lys−Phe
His−Tyr−D−Arg−Trp−Lys−Phe−D−Asp−Ala−Arg−Cys−D−Tyr−His−Phe−D−Lys−Tyr−His−Ser−NH2
Gly−Ala−Lys−Phe−D−Lys−Glu−Arg−Tyr−His−D−Arg−D−Arg−Asp−Tyr−Trp−D−His−Trp−His−D−Lys−Asp
Thr−Tyr−Arg−D−Lys−Trp−Tyr−Glu−Asp−D−Lys−D−Arg−His−Phe−D−Tyr−Gly−Val−Ile−D−His−Arg−Tyr−Lys−NH2
【0095】
一実施形態では、μオピオイド受容体作動薬活性を有するペプチドは化学式Tyr−D−Arg−Phe−Lys−NH2(本願明細書では「SS−01」と呼ぶ)を有する。SS−01は、アミノ酸チロシン、アルギニン、およびリジンが寄与した3の正味正電荷を有し、そしてアミノ酸フェニルアラニンおよびチロシンが寄与した2つの芳香族基を有する。SS−01のチロシンは、化学式2’,6’−Dmt−D−Arg−Phe−Lys−NH2(本願明細書では「SS−02」と呼ぶ)を有する化合物を生成する2’6’−ジメチルチロシンなどのチロシンの修飾誘導体であってもよい。SS−02は640の分子量を有し、生理学的pHで正味正電荷を帯びている。SS−02は、エネルギーに依存しない方法で複数の哺乳動物細胞型の細胞膜を簡単に浸透する(Zhao et al.,J. Pharmacol Exp Ther. 304:425−432,2003)。
【0096】
μオピオイド受容体作動薬活性を持たないペプチドは、一般的にN末端(すなわち、アミノ酸位置1)にチロシン残基またはチロシンの誘導体を有さない。前記N末端のアミノ酸は、チロシン以外の天然または非天然アミノ酸であってもよい。一実施形態では、N末端のアミノ酸はフェニルアラニンまたはその誘導体である。フェニルアラニンの典型的な誘導体としては、2’−メチルフェニルアラニン(Mmp)、2’6’−ジメチルフェニルアラニン(2’,6’−Dmp)、N,2’,6’−トリメチルフェニルアラニン(Tmp)、および2’−ヒドロキシ−6’−メチルフェニルアラニン(Hmp)が挙げられる。
【0097】
μオピオイド受容体作動薬活性を持たないペプチドの例では、化学式Phe−D−Arg−Phe−Lys−NH2(本願明細書では「SS−20」と呼ぶ)を有する。あるいは、N末端フェニルアラニンは、2’,6’−ジメチルフェニルアラニン(2’6’−Dmp)などのフェニルアラニンの誘導体であってもよい。アミノ酸位置1に2’,6’−ジメチルフェニルアラニンを含むSS−01は、化学式2’,6’−Dmp−D−Arg−Phe−Lys−NH2を有する。一実施形態では、SS−01のアミノ酸配列は、DmtがN末端にないように再配列される。μオピオイド受容体作動薬活性を持たない前記芳香族カチオン性ペプチドの例は、化学式D−Arg−2’6’−Dmt−Lys−Phe−NH2(SS−31)を有する。
【0098】
SS−01、SS−20、SS−31、およびそれらの誘導体は、機能的類似物をさらに含むことができる。前記類似物がSS−01、SS−20、またはSS−31と同じ機能を有する場合、ペプチドはSS−01、SS−20、またはSS−31の機能的類似物と考えられる。例えば、前記類似物は、SS−01、SS−20、またはSS−31の置換異性体になることがあり、1つ以上のアミノ酸が別のアミノ酸で置換される。
【0099】
SS−01、SS−20、またはSS−31の適切な置換異性体としては、保存アミノ酸置換が挙げられる。アミノ酸は、物理化学的性質によって以下のように分類できる。
(a)非極性アミノ酸:Ala(A) Ser(S) Thr(T) Pro(P) Gly(G) Cys (C);
(b)酸性アミノ酸:Asn(N) Asp(D) Glu(E) Gln(Q);
(c)塩基性アミノ酸:His(H) Arg(R) Lys(K);
(d)疎水性アミノ酸:Met(M) Leu(L) Ile(I) Val(V);および
(e)芳香族アミノ酸:Phe(F) Tyr(Y) Trp(W) His (H)。
【0100】
同じ分類内の別のアミノ酸によるペプチド中のアミノ酸の置換は保存的置換と呼ばれ、元のペプチドの物理的化学的性質を維持できる。その一方で、異なる群内の別のアミノ酸によるペプチド中のアミノ酸の置換は、元のペプチドの性質を変える可能性が一般的に高い。
【0101】
一部の実施形態では、芳香族カチオン性ペプチドは表5に示すような化学式を有する。
【表5−1】

【表5−2】

【表5−3】

【表5−4】

【表5−5】

Dab=ジアミノ酪酸
Dap=ジアミノプロピオン酸
Dmt=ジメチルチロシン
Mmt=2’−メチルチロシン
Tmt=N,2’,6’−トリメチルチロシン
Hmt=2’−ヒドロキシ,6’−メチルチロシン
dnsDap=β−ダンシル−L−α、β−ジアミノプロピオン酸
atnDap=β−アントラニロイル−L−α、β−ジアミノプロピオン酸
Bio=ビオチン
【0102】
μオピオイド受容体を活性化させない他の芳香族カチオン性ペプチドの例としては、表6に示す芳香族カチオン性ペプチドが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【表6】

Cha=シクロヘキシルアラニン
【0103】
表5および6に示したペプチドのアミノ酸はL−またはD−構成であってもよい。
【0104】
ペプチドは、当該技術分野で公知の方法のいずれかで合成できる。タンパク質を化学合成するための適切な方法としては、例えば、Solid Phase Peptide Synthesis、Second Edition、Pierce Chemical Company (1984)、およびMethods Enzymol. 289、Academic Press, Inc、New York (1997)でStuartとYoungによって説明されたものが挙げられる。
芳香族カチオン性ペプチドの予防的および治療的使用
【0105】
本願明細書で述べられる芳香族カチオン性ペプチドは、疾患の予防または治療に有用である。特に、本開示では、眼疾患および病状のリスクがある(あるいは感染しやすい)被検体を治療するための予防および治療両方の方法を提供する。それ故に、本方法は、それを必要としている被検体に有効量の芳香族カチオン性ペプチドを投与することによって、被検体の眼疾患の予防および/または治療を提供する。例えば、被検体には、眼疾患または病状に寄与する1つ以上の要因を改善する目的で芳香族カチオン性ペプチド組成物を投与できる。
【0106】
本技術の一態様としては、治療目的のために被検体の眼疾患を軽減する方法を含む。治療用途では、組成物または薬剤は、当該疾患の疑いがある、または既に罹患している被検体に、その合併症および当該疾病の進行における中期病理学的表現型を含む当該疾患の症状を治療する、または少なくとも部分的に進行を阻むのに十分な量で投与される。そのため本開示では、眼疾患に悩む個体を治療する方法を提供する。一部の実施形態では、前記技術は、芳香族カチオン性ペプチドを投与することによって、哺乳動物の糖尿病性網膜症、白内障、網膜色素変性症、緑内障、脈絡膜血管新生、網膜変性症、および酸素誘導性網膜症などの特定の眼疾患を治療または予防する方法を提供する。
【0107】
一実施形態では、糖尿病性網膜症を治療または予防するために、被検体に芳香族カチオン性ペプチドが投与される。糖尿病性網膜症は、毛細血管瘤および点状出血を特徴とする。その後、微小血管の閉塞によって、網膜に綿状白斑を形成する。さらに、血管透過性が増大するために、網膜浮腫および/または硬性白斑が糖尿病性網膜症を患う個体に形成される場合がある。その後、血管新生が現れ、硝子体中での結合組織成長の摩擦によって網膜剥離が引き起こされる。また、回りまわって失明につながる可能性がある虹彩ルベオーシスおよび血管新生緑内障も起きることもある。糖尿病性網膜症の症状としては、読み取り能力の低下、目のかすみ、片目の突然の失明、光の周りに輪か見える、暗い点が見える、および/または点滅光が見えることが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0108】
一実施形態では、白内障を治療または予防するために、被検体に芳香族カチオン性ペプチドが投与される。白内障は、自然のままの水晶体の透明度を低下させることを特徴とする先天性または後天性疾患である。白内障を患う個体は、水晶体表面の曇り、水晶体内部の曇り、および/または水晶体の腫れを含むが、これに限定されるものではない1つ以上の症状を示すことがある。先天性白内障関連疾患の典型的な例としては、偽白内障、膜内白内障、冠状白内障、層状白内障、点状白内障、および糸状白内障である。後天性白内障関連疾患の典型的な例としては、老年性白内障、後発白内障、褐変白内障、併発白内障、糖尿病性白内障、および外傷性白内障である。また、後天性白内障は感電、放射線、超音波、薬品、全身性疾患、および栄養障害によっても誘導される。後天性白内障にはさらに術後白内障が含まれる。
【0109】
一実施形態では、網膜色素変性症を治療または予防するために、被検体に芳香族カチオン性ペプチドが投与される。網膜色素変性症は、桿体細胞および/または錐状体細胞の損傷を特徴とする疾患である。網膜に暗い線があることが、網膜色素変性症を患う個体において典型的である。また、網膜色素変性症個体は、頭痛、四肢の無感覚または刺痛、閃光、および/または視覚障害を含むが、これに限定されるものではないさまざまな症状も示す。例えば、次の参考文献を参照:Heckenlively et al., Clinical findings and common symptoms in retinitis pigmentosa. Am J Ophthalmol. 105(5): 504−511 (1988)。
【0110】
一実施形態では、緑内障を治療または予防するために、被検体に芳香族カチオン性ペプチドが投与される。緑内障は、眼内圧の上昇を特徴とする遺伝的疾患であり、視力低下につながる。緑内障は、外傷、手術、および他の構造的奇形などの個体に既に存在するさまざまな眼科病状から生じることがある。緑内障はどんな年齢でも生じる可能性があるが、高齢個体でよく発症し、失明につながる。緑内障患者は、典型的には眼内圧が21mmHg以上である。しかし、視野および視神経乳頭に緑内障性変形が見られる正常眼圧緑内障は、前記眼内圧上昇、すなわち21mmHg以上にならなくても、起こる可能性がある。緑内障の症状としては、目のかすみ、眼の激痛、頭痛、光の周りに後光が見える、吐き気、および/または嘔吐が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0111】
一実施形態では、黄斑変性症を治療または予防するために、被検体に芳香族カチオン性ペプチドが投与される。黄斑変性症は、典型的には加齢に伴う病気である。黄斑変性症の一般的な分類としては、湿性、乾性、および加齢に伴うものではない黄斑変性症が挙げられる。全症例の約80〜90パーセントを占める乾性黄斑変性症は、萎縮性、非滲出性、またはドルセノイド黄斑変性症としても公知である。乾性黄斑変性症では、ドルーゼンは典型的には網膜色素上皮組織の下に蓄積する。ドルーゼンが黄斑内の光受容体の機能を妨げると、その後、失明が生じる。乾性黄斑変性症の症状としては、乱視、中心視覚の歪み、明暗の歪み、および/または色覚の変化が挙げられるが、これに限定されるものではない。乾性黄斑変性症によって、視力が徐々に失われることがある。
【0112】
湿性黄斑変性症は、血管新生、網膜下血管新生、滲出、または円板状変性症としても公知である。湿性黄斑変性症では、黄斑の下で血管が異常に成長する。血管から黄斑に血液が漏れ出し、光受容体に損傷を与える。湿性黄斑変性症は急速に進行し、中心視覚に大きな損傷を引き起こす可能性がある。湿性および乾性黄斑変性症は同一の症状を有する。しかし、加齢に伴うものではない黄斑変性症は希であり、遺伝、糖尿病、栄養不良、怪我、感染症、または他の要因と関係がある可能性がある。加齢を伴うものではない黄斑変性症の症状としては、乱視、中心視覚の歪み、明暗の歪み、および/または色覚の変化も挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0113】
一実施形態では、脈絡膜血管新生を治療または予防するために、被検体に芳香族カチオン性ペプチドが投与される。脈絡膜血管新生(CNV)は、眼の脈絡膜層に新しい血管が成長することを特徴とする疾患である。新たに形成される血管はブルッフ膜を通って脈絡膜で成長し、網膜下腔へ浸入する。CNVは視力障害や完全な失明に至る可能性がある。CNVの症状としては、罹患した眼にちらつき、点滅光、または灰色の点が見える、目のかすみ、乱視、および/または失明が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0114】
一実施形態では、網膜変性症を治療または予防するために、被検体に芳香族カチオン性ペプチドが投与される。網膜変性症は、網膜の破壊に関連する遺伝的疾患である。網膜組織は、動脈や静脈の閉塞、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、および/または水晶体後部線維増殖症などのさまざまな理由で変性することがある。網膜変性症としては、一般的には網膜分離症、格子様変性が挙げられ、進行性黄斑変性症と関連がある。網膜変性症の症状としては、視力低下、失明、夜盲症、視野狭窄、周辺視野の喪失、網膜剥離、および/または光過敏症が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0115】
一実施形態では、酸素誘導性網膜症を治療または予防するために、被検体に芳香族カチオン性ペプチドが投与される。酸素誘導性網膜症(OIR)は、微小血管変性を特徴とする疾患である。OIRは、未熟児網膜症を研究するために確立されたモデルである。OIRは、異常血管新生に至る血管細胞の損傷と関連がある。微小血管変性は、OIRと関連した身体的変化に寄与する虚血につながる。酸化ストレスも、内皮細胞が過酸化傷害になりやすいOIRの血管閉塞で重要な役割を果たす。しかし、周皮細胞、平滑筋細胞、および血管周囲星状細胞は一般的に過酸化傷害に耐性を示す。例えば、次の参考文献を参照:Beauchamp et al., Role of thromboxane in retinal microvascular degeneration in oxygen−induced retinopathy, J Appl Physiol. 90: 2279−2288 (2001)。未熟児網膜症を含むOIRは一般的に無症候性である。しかし、異常な眼の動き、内斜視、重度の近視、および/または白色瞳孔は、OIRまたは未熟児網膜症の兆候である可能性がある。
【0116】
一態様において、本発明では、眼疾患の1つ以上の兆候またはマーカーを調整する芳香族カチオン性ペプチドを被検体に投与することによって、被検体の眼疾患を予防する方法を提供する。眼疾患のリスクがある被検体は、例えば、本明細書中で述べられるような診断分析または予後分析のいずれかまたは組み合わせによって特定できる。予防的用途では、芳香族カチオン性ペプチドの医薬品または薬剤が、疾患または病状が疑われる、またはリスクがある被検体に、疾患の生化学的、組織学的、および/または行動的症状、その合併症、および当該疾病の進行における中期病理学的表現型を含む、疾患のリスクを排除または減らす、重症度を低下させる、または発生を遅らせるために十分な量で投与される。予防的芳香族カチオン薬の投与は、疾患または傷害が予防されるように、あるいはその進行が遅らされるように、異常の症状特性の兆候の前に行うことができる。異常の種類に応じて、例えば、ミトコンドリア機能を強化または向上させる、または酸化的損傷を減らすように作用する芳香族カチオン性ペプチドを被検体治療のために使用できる。適した化合物は、本明細書中で述べられるスクリーニング試験に基づいて決定できる。
【0117】
芳香族カチオン性ペプチドを主体とした治療法の生物学的効果の測定。さまざまな実施形態で、特定の芳香族カチオン性ペプチドを主体とした治療法の効果、およびその投与が治療として行われるかどうかを測定するため、適切なインビトロ内またはインビボ試験が行われる。さまざまな実施形態では、特定の芳香族カチオン性ペプチドを主体とした治療法が細胞型に目的の効果を与えるかを測定するために、被検体の障害に関係する型の典型的な細胞を用いてインビトロ試験を行うことができる。治療用の化合物は、ヒト被験者で試験する前に、ラット、マウス、ニワトリ、ウシ、サル、ウサギなどの適切な動物モデル系で試験できる。同様に、体内試験の場合、ヒト被験者に投与する前に、当該技術分野で公知の動物モデル系のいずれかを使用できる。一実施形態では、眼疾患と関連する症状を示す被検体への芳香族カチオン性ペプチドの投与により、それらの症状の1つ以上で改善をもたらす。

投与の様式および有効薬量
【0118】
ペプチドに対して、細胞、臓器、または組織を接触させるための当事者に公知の方法を、適用してもよい。適切な様式としては、インビトロ、エクスビボ、またはインビボの方法が挙げられる。体内法として、典型的には上述のような芳香族カチオン性ペプチドの動物への、好適にはヒトへの投与が挙げられる。治療のために体内で使用される場合、芳香族カチオン性ペプチドは有効量(すなわち、目標とする治療効果を有する量)で被検体に投与される。投与量と投薬計画は、被検体の眼疾患の程度、その治療指数などの使用される特定の芳香族カチオン性ペプチドの特性、被検体、および被検体の病歴によって決まる。
【0119】
有効量を、医師や臨床医によく知られている方法によって、前臨床試験および臨床試験の際に、定めることが可能である。好適には医薬品で、本発明の方法に有用であるペプチドの有効量を、医薬品を投与するための多くの公知の方法で必要とする哺乳動物に投与できる。一部の実施形態では、前記ペプチドを全身投与、局所投与、または眼内投与できる。
【0120】
本明細書中で述べられる芳香族カチオン性ペプチドは、本明細書中で述べられる障害の治療または予防のために単独または併用で被検体に投与するための医薬品に組み込むことができる。前記化合物として典型的には、活性薬剤および薬学的に許容可能な担体が挙げられる。本願明細書で使用される場合、用語「薬学的に許容可能な担体」としては、医薬品投与に適合した生理食塩水、溶剤、分散媒質、コーティング剤、抗菌剤、抗真菌薬、等張剤、吸収遅延剤などが挙げられる。補助的な活性化合物も、組成物に組み込むことができる。
【0121】
医薬品は典型的には、その意図とした投与経路に適合するように製剤化される。投与経路の例としては、非経口(例えば、静脈内、皮内、副腔内、または皮下)、経口、吸入、経皮(局所)、眼内、イオンフォレシス、および経粘膜投与が挙げられる。非経口、皮内、または皮下投与に使用される溶液または懸濁液は以下の成分を含むことができる:注射用水、生理食塩水溶液、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、または他の合成溶剤などの無菌希釈剤;ベンジルアルコールまたはメタルパラベンなどの抗菌剤;アスコルビン酸または亜硫酸水素ナトリウムなどの酸化防止剤;エチレンジアミン四酢酸などのキレート剤;酢酸塩、クエン酸塩、またはリン酸塩などの緩衝液;および塩化ナトリウムまたはデキストロースなどの張性の調整用薬剤。pHは、塩酸または水酸化ナトリウムなどの、酸または塩基で調整できる。非経口調製品を、ガラス製またはプラスチック製のアンプル、使い捨て注射器、または複数回投与用バイアルに封入できる。患者または治療医師の都合上、投薬製剤は、治療単位に必要なすべての機器(例えば、薬品のバイアル、希釈液のバイアル、注射器、および針)を含むキットで提供してもよい。
【0122】
注射用に適した医薬品には、無菌注射剤または分散剤を準備なしで調製できるように、無菌水溶液(水溶性の場合)または分散剤および無菌粉末を含めてもよい。静脈内投与の場合、適切な担体としては、生理食塩水、静菌性水、Cremophor EL(商標)(BASF,Parsippany,NJ.)またはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)が挙げられる。すべての場合で、非経口投与用組成物は無菌であり、容易に注射可能な流動性が存在するような程度の液体である必要がある。製造および保存の条件の下で安定していて、細菌や菌類などの微生物の汚染作用に対して保護する必要がある。
【0123】
前記芳香族カチオン性ペプチド組成物は担体を含むことができ、その担体は、例えば水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、およびそれらの適切な混合物を含む溶剤または分散剤にしてもよい。例えば、レシチンなどのコーティングを用いる、分散液の場合には目的とする粒径を維持する、および界面活性剤を用いることで、適切な流動性を維持できる。微生物の作用の防止は、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チオメルサールなどのさまざまな抗菌剤および抗真菌剤によって達成できる。酸化を防止するために、グルタミンおよび他の酸化防止剤を誘導できる。多くの場合、例えば糖類や、マンニトール、ソルビトールなどのポリアルコール類や、または塩化ナトリウムの等張剤を組成物に含むことが望ましい場合がある。注射組成物の持続的吸収は、例えばモノステアリン酸アルミニウムまたはゼラチンなどの吸収を遅らせる化学物質を組成物に含むことによって行うことができる。
【0124】
無菌注射剤は、上記で列挙された成分の1つまたは組み合わせとともに、適切な溶剤に活性化合物を必要量で組み込み、必要な場合には、その後に濾過滅菌することで調製できる。一般的に、分散剤は、無菌賦形剤に活性化化合物を組み込むことで調製され、これには、塩基性分散媒や上記で列挙されたその他の必要な成分を含む。無菌注射剤調製用の無菌粉末の場合、調製の典型的な方法としては真空乾燥や凍結乾燥が挙げられ、これらによって、それについての事前に無菌濾過した溶液から、活性成分の粉末に加えて、追加の必要な成分を獲得することができる。
【0125】
眼科用の場合、治療化合物は溶液、懸濁液、および眼での使用に適した軟膏に製剤化される。点眼製剤の場合、一般的には次の参考文献を参照:Mitra (ed.), Ophthalmic Drug Delivery Systems, Marcel Dekker, Inc., New York, N.Y. (1993)、または次の参考文献も参照:Havener, W. H., Ocular Pharmacology, C.V. Mosby Co., St. Louis (1983)。点眼医薬品は、溶液、懸濁液、軟膏、クリーム、または固体挿入物の剤形で眼への局所投与に適するものであってもよい。単回投与の場合、0.1ng〜5000μg、1ng〜500μg、または10ng〜100μgの芳香族カチオン性ペプチドがヒトの眼に点眼することができる。
【0126】
点眼調製品は、使用上有害ではない抗菌剤などの無毒性物質を含むものであってもよく、例えば、チメロサール、塩化ベンザルコニウム、メチルおよびプロピルパラベン、臭化ベンジルドデシニウム、ベンジルアルコール、またはフェニルエタノール;塩化ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、またはグルコン酸塩などの緩衝成分:ソルビタンラウリン酸モノエステル、トリエタノールアミン、モノパルミチン酸ポリオキシエレンソルビタン、エチレンジアミン4酢酸などの他の従来成分などである。
【0127】
点眼溶液または懸濁液は、眼内の芳香族カチオン性ペプチド許容濃度を維持する必要があるたびに投与される。哺乳動物の眼への投与は、日に約1回または2回であってもよい。
【0128】
経口組成物としては一般的に、不活性希釈剤または可食性担体が挙げられる。経口治療的投与の目的ために、活性化合物を賦形剤に組み込むことができ、そして錠剤、トローチ、またはゼラチンカプセルなどのカプセルの剤形で使用できる。薬学的に適合する結合剤、および/または補助物質を、組成物の一部として含有することができる。錠剤、丸薬、カプセル、トローチなどは、以下の成分または同様の性質の化合物のいずれかを含有できる:微結晶性セルロース、ガムトラガカント、またはゼラチンなどの結合剤;澱粉またはラクトースなどの賦形剤、アルギン酸、プリモジェル、またはコーンスターチなどの分解剤;ステアリン酸マグネシウムまたはステロートなどの滑剤;コロイド状二酸化ケイ素;ショ糖またはサッカリンなどの甘味剤;またはペパーミント、サリチル酸メチル、またはオレンジ香料などの香料添加剤。
【0129】
吸入による投与の場合、例えば二酸化炭素などのガスなどの適切な推進剤を含む加圧容器またはディスペンサー、または噴霧器からのエアゾールスプレーの剤形で化合物を送達できる。前記方法には、米国特許第6,468,798号で述べられた方法を含む。
【0130】
本明細書中で述べられるような治療化合物の全身投与は、経粘膜的または経皮的方法によって行うこともできる。経粘膜的または経皮的投与の場合、浸透される障壁に適合している浸透剤が製剤中に使用される。前記浸透剤は一般的に当該技術分野で公知であり、例えば、経粘膜的投与の場合には、洗浄剤、胆汁塩、およびフシジン酸誘導体を含む。経粘膜的投与は、鼻腔用スプレーの使用を通じて達成できる。経皮的投与の場合、活性化合物は、一般的に当該技術分野で公知なように軟膏、ゲル、またはクリームに製剤化される。一実施形態では、経皮的投与がイオンフォレシスによって行ってもよい。
【0131】
治療用タンパク質またはペプチドは、担体系で製剤化できる。前記担体はコロイド系であってもよい。前記コロイド系は、リポソーム、リン脂質二重層賦形剤にすることができる。一実施形態では、前記治療用ペプチドは、ペプチドの完全性を維持しながらリポソームでカプセル化される。当事者は十分理解しているように、リポソームを調製する方法にはさまざまなものがある(次の参考文献を参照:Lichtenberg et al., Methods Biochem. Anal, 33:337−462 (1988); Anselem et al, Liposome Technology, CRC Press (1993))。リポソーム製剤はクリアランスを遅らせ、細胞取り込みを増加させることができる(以下のReddy, Ann.による文献を参照、Pharmacother., 34 (7−8):915−923 (2000))。活性剤は、可溶性、不溶性、透過性、非透過性、生分解性、または胃保持型高分子またはリポソームを含むが、これに限定されるものではない薬学的に許容可能な成分から調製される粒子内に投入することもできる。前記粒子としては、ナノ粒子、生分解性ナノ粒子、微小粒子、生分解性微小粒子、ナノ球体、生分解性ナノ球体、微小球体、生分解性微小球体、カプセル、エマルジョン、リポソーム、ミセル、およびウイルスベクター系が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0132】
前記担体は、例えば生分解性、生体適合性高分子マトリックスなどの高分子にすることもできる。一実施形態では、前記治療用ペプチドは、タンパク質の完全性を維持しながら高分子マトリックスでカプセル化できる。前記高分子は、ポリペプチド、タンパク質、または多糖類などの天然高分子、またはポリα−ヒドロキシ酸などの合成高分子である。例としては、例えばコラーゲン、フィブロネクチン、エラスチン、酢酸セルロース、ニトロセルロース、多糖類、フィブリン、ゼラチン、およびそれらの組み合わせなどから作られる担体が挙げられる。一実施形態では、前記高分子がポリ乳酸(PLA)または乳酸/グリコール酸共重合体(PGLA)である。前記高分子マトリックスは、微小球体およびナノ球体を含むさまざまな形態または大きさに調製および単離することができる。高分子製剤は治療効果の持続期間が長くなる可能性がある(次の参考文献を参照:Reddy, Ann. Pharmacother., 34 (7−8):915−923 (2000))。臨床試験では、ヒト成長ホルモン(hGH)用高分子製剤が使用されてきた(次の参考文献を参照:Kozarich and Rich, Chemical Biology, 2:548−552 (1998))。
【0133】
高分子微小球体徐放性製剤の例は、PCT公報第WO99/15154号(Tracy等)、米国特許第5,674,534号および第5,716,644号(両方とも、Zale等)、およびPCT公報第WO96/40073(Zale等)、およびPCT公報第WO00/38651号(Shah等)で述べられている。米国特許第5,674,534号および第5,716,644号およびPCT公報第WO96/40073号では、塩との凝集に対して安定化させたエリスロポエチンの粒子を含む高分子マトリックスを説明している。
【0134】
一部の実施形態では、前記治療化合物は、インプラントおよびマイクロカプセル化送達システムを含み、放出制御製剤など、体内から排出に対して治療化合物を保護する担体で調製される。エチレン酢酸ビニル、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、およびポリ乳酸などの生分解性、生体適合性高分子を使用できる。当該製剤は、公知の技術を用いて調製できる。前記物質は、Alza CorporationおよびNova Pharmaceuticals, Inc.などからも市販で入手できる。薬学的に許容可能な担体として、リポソーム懸濁液(細胞特異的抗原に対するモノクローナル抗体を持つ特定の細胞に標的とされたリポソームを含む)を使用できる。これらは、例えば、米国特許第4,522,811号で述べられているように当事者に公知の方法に従って調製できる。
【0135】
前記治療化合物は、細胞内送達を高めるように製剤化することもできる。例えば、リポソーム送達システムが公知であり、例えば次の参考文献を参照:Chonn and Cullis, “Recent Advances in Liposome Drug Delivery Systems,” Current Opinion in Biotechnology 6:698−708 (1995); Weiner, “Liposomes for Protein Delivery: Selecting Manufacture and Development Processes,” Immunomethods 4 (3) 201−9 (1994); and Gregoriadis, “Engineering Liposomes for Drug Delivery: Progress and Problems,” Trends Biotechnol. 13 (12):527−37 (1995).Mizguchi等著『Cancer Lett』,100:63−69(1996)では、インビボおよびインビトロの両方で細胞にタンパク質を送達するために融合性リポソームを使用することを説明している。
【0136】
治療薬の用量、毒性、および治療効果は、細胞培養または実験動物での標準的製薬手順で、例えば、LD50(個体群の50%で死に至る用量)およびED50(個体群の50%で治療効果がある用量)を決定することで決定できる。毒性と治療効果の用量比が治療指数であり、LD50/ED50の比で表すことができる。高い治療指数を示す化合物が望ましい。中毒性副作用を示す化合物を使用されることがある一方、非感染細胞に対する損傷の可能性を最小限に抑えるために、当該化合物の標的を罹患組織の部位にするように、送達システムの設計には注意する必要がある。これによって、副作用を減らすことになる。
【0137】
細胞培養試験および動物試験から得られるデータは、ヒト用の幅広い用量の製剤化で使用できる。当該化合物の用量は、好適には、毒性をあまり示さない、または毒性のないED50を含む幅広い血中濃度内に入る。用量は、採用される剤形および利用される投与経路に応じてこの範囲内で変えてもよい。方法で使用されるあらゆる化合物に対して、細胞培養試験から最初に治療有効量を推定できる。用量は、細胞培養で決定されるように、IC50(すなわち、症状の最大半量の抑制を達成する試験化合物の濃度)を含む循環血漿濃度範囲を達成する動物モデルで公式化できる。当該情報は、ヒトに有用な用量をより正確に決定するために使用できる。血漿中の濃度を、例えば、高性能液体クロマトグラフィーで測定してもよい。
【0138】
典型的には、治療または予防の効果を達成するのに十分な、有効量の前記芳香族カチオン性ペプチドは、約0.000001mg/体重1kg/日〜約10,000mg/体重1kg/日の範囲に及ぶ。好適には、用量範囲は約0.0001mg/体重1kg/日〜約100mg/体重1kg/日である。例えば、用量は毎日、2日毎、または3日毎に1mg/体重1kgまたは10mg/体重1kg、または毎週、2週間毎、または3週間毎に1〜10mg/体重1kgの範囲であってもよい。一実施形態では、ペプチドの単回投与は0.1〜10,000μg/体重1kgの範囲に及ぶ。一実施形態では、担体中の芳香族カチオン性ペプチドの濃度は0.2〜2000μg/(送達される製剤1mL)の範囲に及ぶ。例示的治療投薬計画では、日に1回または週に1回の投与を必要とする。被検体のブドウ糖またはインシュリンの血中濃度を測定して、それに応じて用量または投与を調整することで、間隔が示されたものより不規則になることもある。治療用途では、疾患の進行が抑制されるか停止されまで、好適には、被検体が疾患の症状の部分的または全体的な改善を示すまで、相対的に短い間隔で相対的に高い用量が必要になることがよくある。その後、患者に予防投薬計画を施すことができる。
【0139】
一部の実施形態では、芳香族カチオン性ペプチドの治療的有効量を、10-11〜10-6モル、例えば約10-7モルの標的組織でのペプチドの濃度として定義することが可能である。この濃度が0.001〜100mg/kgの全身用量または体表面積で同等の用量で送達されるものであってもよい。標的組織で治療濃度を維持するように、用量のスケジュールが最適化されることになり、最も好適には、毎日または毎週1回投与であるが、連続投与(例えば、静脈注入または経皮的塗布)を含む。
【0140】
一部の実施形態では、「低」、「中」、または「高」の用量レベルで、芳香族カチオン性ペプチドの用量が規定される。一実施形態では、低用量は約0.0001〜約0.5mg/kg/h、好適には、約0.01〜約0.1mg/kg/hである。一実施形態では、中用量は約0.1〜約1.0mg/kg/h、好適には、約0.1〜約0.5mg/kg/hである。一実施形態では、高用量は約0.5〜約10mg/kg/h、好適には、約0.5〜約2mg/kg/hである。
【0141】
当事者は十分理解することであるが、疾患または障害の重症度、被検体の全体的な健康および/または年齢、および他の疾患の存在を含むが、これに限定されるものではない、特定の要因が効果的に治療するために必要な用量やタイミングに影響を及ぼすことがある。さらに、本明細書中に記載される治療組成物を治療有効量用いた被検体の治療としては、単回治療または一連の治療が挙げられる。
【0142】
当事者は十分理解することであるが、疾患または障害の重症度、被検体の全体的な健康および/または年齢、および他の疾患の存在を含むが、これに限定されるものではない、特定の要因が効果的に治療するために必要な用量やタイミングに影響を及ぼすことがある。さらに、本明細書中に記載される治療組成物を治療有効量用いた被検体の治療としては、単回治療または一連の治療が挙げられる。
【0143】
本方法に従って治療される哺乳動物は、例えば、羊、豚、牛、および馬などの家畜;犬や猫などの愛玩動物;ラット、マウス、およびウサギなどの実験動物を含む任意の哺乳動物であってもよい。好適な実施形態では、哺乳動物がヒトである。

芳香族カチオン性ペプチドと他の治療薬による併用治療
【0144】
場合によっては、別の治療薬と組み合わせて、本明細書中で述べられる芳香族カチオン性ペプチド(または薬学的に許容される塩、エステル、アミド、プロドラッグ、または溶媒和物)の少なくとも1つを施すことが適切であろう。単なる例として、本明細書中の芳香族カチオン性ペプチドの1つの投与を受けたときに患者が経験した副作用の1つが炎症である場合、初期治療薬と組み合わせて抗炎症薬を投与することが適切であろう。あるいは、単なる例として、本明細書中に記載の化合物の1つの治療有効性は補助物質の投与によって高めることが可能である(すなわち、補助物質それだけで最低限の治療効果を有するが、別の治療薬と組み合わせることで、患者に対する全体的な治療効果が高められる)。あるいは、単なる例として、患者が経験した効果は、眼疾患の予防または治療でも治療効果がある別の治療薬(治療計画も含む)とともに本明細書中に記載の化合物の1つを投与することで高められることが可能である。単なる一例として、芳香族カチオン性ペプチドの1つの投与を伴う黄斑変性症の治療において、患者に黄斑変性症の他の治療薬または治療を提供することでも、高い治療効果が得られよう。いかなる場合にも、治療を受けている眼疾患、障害、または病状に関わらず、患者が経験する全体的な効果は、単純に2つの治療薬の効果の加算になることがあり、あるいは患者は相乗効果を経験することが可能である。
【0145】
考えられる組み合わせ治療の具体的な限定されない例としては、一酸化窒素(NO)誘導剤、スタチン、負電荷リン脂質、酸化防止剤、無機物、抗炎症剤、抗血管新生剤、マトリックスメタロプロテイナーゼ阻害剤、およびカロテノイドとともに少なくとも1つの芳香族カチオン性ペプチドを使用することが挙げられる。いくつかの例として、適切な組み合わせ薬剤が複数の分類に入れてもよい(単なる例として、ルテインは酸化防止剤およびカロテノイドである)。さらに、芳香族カチオン性ペプチドは、単なる例としてシクロスポリンAを含む患者に効果をもたらす追加薬剤とともに投与されることもある。
【0146】
さらに、芳香族カチオン性ペプチドは、単なる例として、体外レオフェレシス(膜差次的濾過としても公知)の使用、移植可能小型望遠鏡の使用、ドルーゼンのレーザー光凝固術、および微小刺激治療を含む、患者に相乗効果をもたらす手順との組み合わせで使用されることもある。
【0147】
酸化防止剤を使用することが、黄斑変性症および栄養失調症の患者に効果があることが証明されている。例えば次の参考文献を参照:Arch. Ophthalmol., 119: 1417−36(2001);Sparrow et al., J. Biol Chem., 278:18207−13(2003)。少なくとも1つの芳香族カチオン性ペプチドとの組み合わせで使用できる適切な酸化防止剤の例としては、ビタミンC、ビタミンE、β−カロテンおよび他のカロテノイド、コエンザイムQ、4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル(テンポールとしても公知)、ルテイン、ブチルヒドロキシトルエン、レスベラトロール、トロロクス類似物(PNU−83836−E)、およびコケモモ抽出物が挙げられる。
【0148】
特定の無機物を使用することも、黄斑変性症および栄養失調症の患者に効果があることが証明されている。例えば次の参考文献を参照:Arch. Ophthalmol., 119: 1417−36(2001)。少なくとも1つの芳香族カチオン性ペプチドとの組み合わせで使用できる適切な無機物の例としては、酸化第二銅などの銅含有無機物;酸化亜鉛などの亜鉛含有無機物;セレン含有化合物が挙げられる。
【0149】
特定の負電荷リン脂質を使用することも、黄斑変性症および栄養失調症の患者に効果があることが証明されている。例えば次の参考文献を参照:Shaban & Richter, Biol. Chem., 383:537−45 (2002); Shaban, et al., 9 Exp. Eye Res., 75:99−108 (2002)。少なくとも1つの芳香族カチオン性ペプチドとの組み合わせで使用できる適切な負電荷リン脂質の例としては、カルジオリピンおよびフォスファチジルグリセロールが挙げられる。正電荷および/または中性リン脂質も、芳香族カチオン性ペプチドとの組み合わせで使用された場合に黄斑変性症および栄養失調症の患者に効果をもたらすことが可能である。
【0150】
特定カロテノイドの使用は、光受容体細胞で必要な光防御の維持に関連付けられてきた。カロテノイドは、食物、藻類、細菌、ならびに鳥および貝などの特定の動物で見つけることができるテルペノイド群の天然の黄色から赤色の色素である。カロテノイドは、600以上の天然カロテノイドが特定されている大きな分子の集合である。カロテノイドとしては、炭化水素(カロテン)およびその酸素化物、アルコール誘導体(キサントフィル)が挙げられる。これらには、アクチニオエリトロール、アスタキサンチン、カンタキサンチン、カプサンチン、カプソルビン、β−8’−アポ−カロテナール(アポ−カロテナール)、β−12’−アポ−カロテナール、α−カロテン、β−カロテン「カロテン」(α−およびβ−カロテンの混合物)、γ−カロテン、β−クリプトキサンチン、ルテイン、リコピン、ビオレリトリン、ゼアキサンチン、およびそれらのヒドロキシル−またはカルボキシル−含有部分のエステルが挙げられる。カロテノイドの多くはシス−およびトランス−異性体として天然に発生する一方、合成化合物はラセミ化合物であることがよくある。
【0151】
ヒトでは、網膜が主にゼアキサンチンとルテインの2つのカロテノイドを選択的に蓄積する。これらの2つのカロテノイドは、強力な酸化防止剤であり、青色光を吸収するため、網膜の保護に役立つと考えられる。ウズラでの研究からは、カロテノイドの不足した食事で育てられた群では網膜のゼアキサンチン濃度が低く、非常に多くのアポトーシスを起こした光受容細胞からも明らかなように、重度の光損傷を患った一方で、ゼアキサンチン濃度の高い群では最小限の損傷であったことが確認されている。少なくとも1つの芳香族カチオン性ペプチドとの組み合わせ使用に適切なカロテノイドの例としては、ルテインおよびゼアキサンチンのほか、前述のカロテノイド類も挙げられる。
【0152】
適切な一酸化窒素誘導剤としては、内因性NOを活性化させる、あるいは体内で内因性内皮由来血管弛緩因子(EDRF)の濃度を上げる、あるいは一酸化窒素合成酵素のための物質である化合物を含む。当該化合物としては以下のものが挙げられ、例えば、L−アルギニン、L−ホモアルギニン、およびN−ヒドロキシ−L−アルギニンであり、それらのニトロソ化およびニトロシル化類似物(例えば、ニトロソ化L−アルギニン、ニトロシル化L−アルギニン、ニトロソ化N−ヒドロキシ−L−アルギニン、ニトロシル化N−ヒドロキシ−L−アルギニン、ニトロソ化L−ホモアルギニン、およびニトロシル化L−ホモアルギニン)を含み、およびL−アルギニンおよび/またはその薬学的に許容される塩の前駆体で、例えば、シトルリン、オルニチン、グルタミン、リジン、これらのアミノ酸の少なくとも1つを含むポリペプチド、酵素アルギナーゼの阻害剤(例えば、N−ヒドロキシ−L−アルギニンおよび2(S)−アミノ−6−ボロノヘキサン酸)および一酸化窒素合成酵素、サイトカイン、アデノシン、プラジキニン、カルレティキュリン、ビサコジル、およびフェノールフタレインのための物質を含む。EDRFは内皮細胞によって分泌される血管弛緩因子であり、一酸化窒素またはそれに密接に関連する誘導体として特定されている(Palmer et al, Nature, 327:524−526 (1987); Ignarro et al, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 84:9265−9269(1987))。
【0153】
スタチンは脂質低下薬および/または適切な一酸化窒素誘導剤として働く。さらに、スタチンの使用と黄斑変性症の発症または進行との間の関係が実証されている(G. McGwin, et al., British Journal of Ophthalmology, 87:1121−25(2003))。したがって、スタチンは、芳香族カチオン性ペプチドと組み合わせて投与した場合に、眼疾患(黄斑変性症、栄養失調症、および網膜ジストロフィーなど)を患う患者に効果をもたらす。適切なスタチンとしては、単なる例として、ロスバスタチン、ピタバスタチン、シンバスタチン、プラバスタチン、セリバスタチン、メバスタチン、ベロスタチン、フルバスタチン、コンパクチン、ロバスタチン、ダルバスタチン、フルイドスタチン、アトルバスタチン、アトルバスタチンカルシウム(アトルバスタチンのヘミカルシウム塩である)、およびジヒドロコンパクチンが挙げられる。
【0154】
一緒に芳香族カチオン性ペプチドを使用できる適切な抗炎症薬としては、単なる例として、アスピリンおよび他のサリチル酸塩、クロモリン、ネドクロミル、テオフィリン、ジレウトン、ザフィルルカスト、モンテルカスト、プランルカスト、インドメタシン、およびリポオキシゲナーゼ阻害剤;非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)(イブプロフェンおよびナプロキシンなど);プレドニゾン、デキサメタゾン、シクロオキシゲナーゼ阻害剤(すなわち、ナプロキセン(商標)またはセレブレックス(商標)などのCOX−1および/またはCOX−2阻害剤);スタチン(単なる例として、ロスバスタチン、ピタバスタチン、シンバスタチン、プラバスタチン、セリバスタチン、メバスタチン、ベロスタチン、フルバスタチン、コンパクチン、ロバスタチン、ダルバスタチン、フルイドスタチン、アトルバスタチン、アトルバスタチンカルシウム(アトルバスタチンのヘミカルシウム塩である)、およびジヒドロコンパクチン);および解離性ステロイド類が挙げられる。
【0155】
黄斑変性症または網膜変性症に関連する眼疾患または症状を治療するために、適切なマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)阻害剤も、芳香族カチオン性ペプチドと組み合わせて投与してもよい。MMPは、細胞外マトリックスの大部分の成分を加水分解することが知られている。これらのプロテイナーゼは、正常組織改造、胚形成、創傷治癒、および血管形成などの生体内作用で中心的役割を担う。しかし、黄斑変性症を含む多くの病状でMMPの過剰発現が観察されている。多くのMMPは特定されており、その大部分はマルチドメイン亜鉛エンドペプチダーゼである。多くのメタロプロテイナーゼ阻害剤が公知である(例えば、Whittacker M.等による『MMP阻害剤の検討』(Chemical Reviews 99(9):2735−2776(1999))を参照。)。MMP阻害剤の典型的な例としては、メタロプロテイナーゼの組織阻害剤(TIMP)(例えば、TIMP−1、TIMP−2、TIMP−3、またはTIMP−4)、α−2−マクログロブリン、テトラサイクリン類(例えば、テトラサイクリン、ミノサイクリン、およびドキシサイクリン)、ヒドロキサメート類(例えば、バチマスタット、マリミスタット、およびトロケード)、キレート剤(例えば、EDTA、システイン、アセチルシステイン、D−ペニシラミン、および金塩)、合成MMPフラグメント、スクシニルメルカプトプリン、ホスホナミデート、およびヒドロキサム酸が挙げられる。芳香族カチオン性ペプチドと組み合わせて使用してもよいMMP阻害剤の例としては、単なる例として、前述の阻害剤のいずれかが含まれる。
【0156】
抗血管新生薬または抗VEGF薬を使用することも、黄斑変性症および栄養失調症の患者に効果があることが証明されている。少なくとも1つの芳香族カチオン性ペプチドと組み合わせて使用してもよい適切な抗血管新生薬または抗VEGF薬の例としては、Rhufab V2(ルセンティス(商標))、トリプトファニル−tRNA合成酵素(TrpRS)、Eye001(抗VEGFペグ化アプタマー)、スクアラミン、Retaane(商標)15mg(デポー懸濁液用酢酸アネコルタブ;Alcon,Inc.)、コンブレタスタチンA4プロドラッグ(CA4P)、マクジェン(商標)Mifeprex(商標)(ミフェプリストン−ru486)、テノン嚢下トリアムシノロンアセトニド、硝子体内結晶性トリアムシノロンアセトニド、プリノマスタット(AG3340−合成マトリックスメタロプロテイナーゼ阻害剤、Pfizer)、フルオシノロンアセトニド(フルオシノロン眼内移植物、Bausch&Lomb/Control Delivery Systemsを含む)、VEGFR阻害剤(Sugen)、およびVEGFトラップ(Regeneron/Aventis)が挙げられる。
【0157】
視覚障害を緩和するために用いられている他の薬物療法を、少なくとも1つの芳香族カチオン性ペプチドと組み合わせて使用することができる。当該療法としては、非熱的レーザーの使用とともに用いられるビスダイン(商標)、PKC 412、Endovion(NeuroSearch A/S)、単なる例としてグリア由来神経栄養因子および毛様体神経栄養因子を含む神経栄養因子、ジアタゼム、ドルゾラミド、光合成物、9−シス−レイチナール、フォスフォリンアイオダイドまたはエコチオフェートまたは炭酸脱水酵素阻害剤を含む点眼薬(Echo療法を含む)、AE−941(AEterna Laboratories, Inc)、Sirna−027(Sirna Therapeutics, Inc.)、ペガプタニブ(NeXstar Pharmaceuticals/Gilead Sciences)、ニューロトロフィン類(単なる例として、NT−4/5、Genentechを含む)、Cand5(Acuity Pharmaceuticals)、ラニビズマブ(Genentech)、INS−37217(Inspire Pharmaceuticals)、インテグリン拮抗薬(Jerini AGおよびAbbott Laboratoriesの製品を含む)、EG−3306(Ark Therapeutics Ltd.)、BDM−E(BioDiem Ltd.)、サリドマイド(例示すると、例えば、EntreMed, Inc.製)、カルジオトロフィン−1(Genentech)、2−メトキシエストラジオール(Allergan/Oculex)、DL−8234(Toray Industries)、NTC−200(Neurotech)、テトラチオモリブデート(ミシガン大学)、LYN−002(Lynkeus Biotech)、小型藻類化合物(Aquasearch/Albany, Mera Pharmaceuticals)、D−9120(Celltech Group pic)、ATX−S10(Hamamatsu Photonics)、TGF−beta 2(Genzyme/Celtrix)、チロシンキナーゼ阻害剤(Allergan, SUGEN, Pfizer)、NX−278−L(NeXstar Pharmaceuticals/Gilead Sciences)、Opt−24(OPTIS France SA)、網膜細胞神経節神経保護物質(Cogent Neurosciences)、N−ニトロピラゾール誘導体(Texas A&M University System)、KP−102(Krenitsky Pharmaceuticals)、およびシクロスポリンAが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0158】
いかなる場合にも、複数の治療薬をどんな順番でも、あるいは同時にでも投与できる。同時の場合、複数の治療薬を1種類のまとめた剤形または数種類の剤形で提供できる(単なる例として、1種類の溶液または2種類の別の溶液として)。治療薬のうちの1つを複数の用量で投与すること、あるいは両方を複数の用量で投与することができる。同時ではない場合、複数回の投与の間隔は0週以上から約4週間以下、約6週間以下、約2ヶ月以下、約4ヶ月以下、約6ヶ月以下、または約1年以下までさまざまである。さらに、組み合わせ方法、組成物および製剤は、2種類の薬剤のみの使用に限定されるものではない。単なる例として、芳香族カチオン性ペプチドが、少なくとも1つの酸化防止剤と少なくとも1つの負電荷リン脂質とともに投与される;あるいは、芳香族カチオン性ペプチドが、少なくとも1つの酸化防止剤と少なくとも1つの一酸化窒素生成の誘導剤とともに投与される;あるいは、芳香族カチオン性ペプチドが、少なくとも1つの一酸化窒素の誘導剤と少なくとも1つの負電荷リン脂質とともに投与されるなど。
【0159】
さらに、芳香族カチオン性ペプチドは、患者に付加的効果または相乗効果をもたらすかもしれない処置と組み合わせ使用されることもある。視覚障害を緩和することが公知である、提案されている、または考えられている処置としては、「限定網膜移動術」、光線力学的治療(単なる例として、受容体標的化PDT、Bristol−Myers Squibb, Co.;PDTとともに注射用ポリフィマーナトリウム;ベルテポルフィン、QLT Inc.;PDTとともにロスタポルフィン、Miravent Medical Technologies;PDTとともにタラポルフィンナトリウム、Nippon Petroleum;モテキサフィンルテチウム、Pharmacyclics, Inc.を含む)、アンチセンスオリゴヌクレオチド類(単なる例として、Novagali Pharma SAによって試験された製品、およびISIS−13650, Isis Pharmaceuticalsを含む)、レーザー光凝固術、ドルーゼンレーザー療法、黄斑円孔手術、黄斑移動術、移植可能小型望遠鏡、ファイル運動血管造影法(マイクロレーザー療法および栄養血管凝固治療としても公知)、陽子ビーム療法、微小刺激療法、網膜剥離および 硝子体手術、強膜バックル、黄斑下手術、経瞳孔温熱療法、光化学系I療法、RNA干渉(RNAi)の使用、体外レオフェレシス(膜差次的濾過およびレオテラピーとしても公知)、マイクロチップ埋め込み、幹細胞療法、遺伝子置換療法、リボザイム遺伝子療法(低酸素症応答配列の遺伝子療法、Oxford Biomedica;Lentipak、Genetix;PDEF遺伝子療法、GenVecを含む)、光受容体/網膜細胞移植術(網膜色素上皮細胞Diacrin, Inc.;網膜細胞移植物、Cell Genesys, Inc.を含む)、および鍼治療が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0160】
さらに、個体に効果をもたらすために使用してもよい組み合わせとしては、個体が特定の眼疾患に関連していることが公知である突然変異遺伝子の保持者であるかを確認する遺伝子検査を使用することを含む。単なる例として、ヒトABCA4遺伝子の欠損は、シュタルガルト病、錐体杆体ジストロフィー、加齢黄斑変性症、および網膜色素変性症を含む5つの特徴のある網膜表現型と関連があると考えられる。例えば、次の参考文献を参照:Allikmets et al., Science, 277:1805−07 (1997); Lewis et al., Am. J. Hum. Genet., 64:422−34 (1999); Stone et al., Nature Genetics, 20:328−29 (1998); Allikmets, Am. JHum. Gen., 67:793−799 (2000); Klevering, et al., Ophthalmology, 11 1:546−553 (2004)。さらに、シュタルガルト病の常染色体優性は、ELOV4遺伝子の突然変異遺伝子によって引き起こされる。次の参考文献を参照:Karan, et al., Proc. Natl. Acad. Sci.(2005)。これらの突然変異遺伝子のいずれかを保有する患者には、本明細書中に記載の方法で治療および/または予防の効果が見られることが期待される。
【0161】
(実施例)
本発明は以下の実施例でさらに説明されるが、これによって制限するものと解釈してはならない。
【実施例1】
【0162】
ヒト網膜上皮細胞の損傷を誘導した高血糖の予防
【0163】
ヒト網膜上皮細胞(HREC)の損傷を誘導した高血糖の予防における本発明の芳香族カチオン性ペプチドの効果を培養HRECで調査した。
【0164】
本発明の研究でのHREC培養の方法は公知である。一般的には、次の参考文献を参照:Li B, Tang SB, Zhang G, Chen JH, Li BJ. Culture and characterization of human retinal capillary endothelial cell. Chin Ophthal Res 2005; 23: 20−2; Premanand C, Rema M, Sameer MZ, Sujatha M, Balasubramanyam M. Effect of curcumin on proliferation of human retinal endothelial cells under in vitro conditions. Invest Ophthalmol Vis Sci 2006; 47:2179−84。
【0165】
簡単に言うと、HREC細胞を以下の3つの群に分けた:正常対照群;30mMのグルコースが投与された群;30mMのグルコース+SS−31が投与された群。さまざまな濃度のSS−31(10nM、100nM、1μM、10μM)とともに高濃度グルコースで併用処理されたHRECの生存率を、アネキシンV+PI試験およびフローサイトメトリーを用いて測定した。一般的には、次の参考文献を参照:Koopman, G., Reutelingsperger, C. P., Kuijten, G. A. M., Keehnen, R. M. J., Pals, S. T., and van Oers, M. H. J. 1994. Annexin V for flow cytometric detection of phosphatidylserine expression on B cells undergoing apoptosis. Blood 84: 1415; Homburg, C. H., de Haas, M., von dem Borne, A. E., Verhoeven, A. J., Reutelingsperger, C. P., and Roos, D. 1995. Human neutrophils lose their surface Fc gamma RIII and acquire Annexin V binding sites during apoptosis in vitro. Blood 85: 532; Vermes, L, Haanen, C, Steffens−Nakken, H., and Reutelingsperger, C. 1995. A novel assay for apoptosis −flow cytometric detection of phosphatidylserine expression on early apoptotic cells using fluorescein labelled Annexin V. J. Immunol. Meth. 184: 39; Fadok, V. A.,Voelker, D. R., Campbell, P. A., Cohen, J. J., Bratton, D. L., and Henson, P. M. 1992. Exposure of phosphatidylserine on the surface of apoptotic lymphocytes triggers specific recognition and removal by macrophages. J. Immunol. 148: 2207。
【0166】
SS−31とともに高濃度グルコースで併用処理したHRECの生存率は、24時間と48時間で検査した。結果は図1に示したとおりであり、SS−31の投与によって、アポトーシスを起こした細胞および壊死細胞は減るとともに、HRECの生存率は著しく増加した。また、SS−31の治療によってROSの生成も減少させた(図2)。
【0167】
高濃度グルコースで処理されたHRECのミトコンドリア膜電位消失に対する保護剤としてのSS−31の評価を調査した。高濃度グルコースが誘導した細胞死に対するSS−31の保護効果においてミトコンドリア媒介経路が重要だったかを確認するために、フローサイトメトリーでΔΨmを測定した。SS−31を用いずに高濃度グルコースでHRECを24時間または48時間処理した後、JC−1蛍光プローブによって、高濃度グルコース群で緑色蛍光に対する赤色蛍光の比率の大幅な減少が観察されることで示されるように、ミトコンドリア膜電位の急速な消失が検出された。対照的に、100nMのSS−31併用処理群のΔΨmは事実上変化がないままで、通常濃度グルコース対照群と同程度であった(図3)。これらのデータからは、SS−31が、高濃度グルコース環境に曝されることで生じるミトコンドリア膜電位消失を予防したことを示唆している。
【0168】
グルコース(30mmol/L)はHRECのミトコンドリアからのシトクロムcの放出を誘導した。固定HRECをシトクロムc抗体およびミトコンドリア特異抗体(HSP60)で免疫標識化した。共焦点顕微鏡分析から、正常培養およびグルコースとともにSS−31による併用処理のHRECでは、シトクロムc染色とミトコンドリア染色が重なり合っていて、シトクロムcおよびミトコンドリアが共局在化していることを示すことが分かった(図4)。30mmol/Lのグルコースを用いた24時間または48時間の処理後、一部のシトクロムcがHRECの細胞質中で観察され、グルコースはHREC細胞のミトコンドリアから細胞質へのシトクロムcの放出を誘導するが、SS−31はそのようなミトコンドリアと細胞質間の転移を減らすことができることを示している。
【0169】
ミトコンドリアからのシトクロムc放出を予防することで、カスパーゼ−3の活性を下げることになった。図5に示すとおり、SS−31は、高濃度グルコース処理HREC中のカスパーゼ−3のタンパク質発現を減少させた。開裂カスパーゼ−3タンパク質発現レベルは、ウエスタンブロット法で測定された(図5A)。HRECを30mMのグルコースに24時間および48時間曝した場合、カスパーゼ−3発現のレベルは劇的増加した。同時に、SS−31併用処理群では、カスパーゼ−3タンパク質レベルの著しい減少を示した(*p<0.05)。図5Bは、SS−31を用いて24時間および48時間併用処理した高濃度グルコース中のHRECのカスパーゼ−3発現レベルの定量分析を示す。
【0170】
SS−31は、高濃度グルコースで処理したHREC中のTrx2の発現を増加させた。図5Cは、24時間および48時間、SS−31で併用処理され、30mMのグルコースに曝されたHREC中のTrx2のmRNAレベルを示す。Trx2のmRNA発現レベルは、定量リアルタイムPCRで測定した。Trx2の相対的なmRNAレベルは、18S mRNAレベルで標準化された(* p<0.05対正常濃度グルコース培地群および30mM高濃度グルコース処理群)。各時間に対して、3つの個別のサンプルを使用した。図5Dは、ウエスタンブロット法で測定されたTrx2タンパク質の発現レベルを示す。SS−31で併用処理された高濃度グルコース群のTrxのタンパク質発現は、正常濃度グルコース群と比較して著しく増加した(*p<0.05)。図5Eは、SS−31による併用処理を行わない場合と行った場合で、高濃度グルコースに曝した24時間および48時間後のHREC中のTrx2のタンパク質レベルの定量分析を示す。
【0171】
これらの結果が示しているのは、SS−31は高濃度グルコース環境中のHREC細胞の生存率を高めるということである。同様に、SS−31および他の芳香族カチオン性ペプチドは糖尿病性網膜症を予防する方法として有用であろう。
【実施例2】
【0172】
高脂肪食を与えられたラットでの糖尿病性網膜症の予防
【0173】
糖尿病性網膜症の進行を予防することにおける本発明の芳香族カチオン性ペプチドの効果を、スプラーグドーリーラットモデルで調査した。本実施例では上記実験の結果を述べる。
【0174】
糖尿病のラットモデルは、SDラットで6週間のHFDと低用量のSTZ(30 mg/kg)注射または単回高用量(65 mg/kg)のSTZの組み合わせによって構築した。一般的には次の参考文献を参照:K. Srinivasan, B. Viswanad, Lydia Asrat, C.L. Kaul and P. Ramarao, Combination of high−fat diet−fed and low−dose streptozotocin−treated rat: A model for type 2 diabetes and pharmacological screening, Pharmacological Research, 52(4): 313−320, 2005。正常食(NRC)が与えられた同じバッチのラットを対照として使用した。表7〜10は治療スケジュールおよび実験プロトコルを示す。
【表7】

【表8】

【表9】

【表10】

【0175】
このような実験プロトコルに従って、SDラットモデルでの糖尿病に関連した病状の治療における芳香族カチオン性ペプチドの効果を証明した。SS−20およびSS−31の投与によって、糖尿病ラットの水晶体での白内障形成の予防または回復に向かわせることになった(図6および7、表11および12)。
【表11】


-: 透明;
+: 少し混濁;
++: 混濁;
+++: 中程度の混濁;
++++: 重度の混濁;
【表12】

【0176】
SDラットモデルにおける水晶体上皮に対する前記芳香族カチオン性ペプチドの効果を調査した。SS−31を投与することにより、STZラットモデル(図8)とHFD/STZラットモデル(図9)の両方で上皮細胞の変化を減少させた。
【0177】
SDラットモデルにおける内側血液網膜関門機能に対する前記芳香族カチオン性ペプチドの効果を調査した。SS−20およびSS−31を投与することにより、SS−20またはSS−31が投与されていないHFDを与えられたラットと比べて内側血液網膜関門機能を向上させることになった(図10)。
【0178】
SDラットモデルにおける網膜微小血管に対する前記芳香族カチオン性ペプチドの効果を調査した(図11および図12)。SS−31を投与することによって、STZまたはHFD/STZラットで見られた網膜微小血管の変化を減少させた。
【0179】
SDラットモデルにおける網膜微小血管中の密着結合タンパク質クローディン5の分布に対する前記芳香族カチオン性ペプチドの効果を調査した。共焦点顕微鏡下で密着結合タンパク質クローディン5の分布を検出した(図13)。クローディン5は、正常ラット(A)では網膜血管に沿ってスムーズに、直線的に、および均一に分布されたが、STZラット(B)では直線形状が崩れていた。SS−20(10 mg/kg)またはSS−31(10 mg/kg)で治療されたSTZラットにおける網膜血管でのクローディン5の分布は正常ラットのものと同様であった(それぞれ、パネルCおよびD)。
【0180】
要約すれば、これらの研究結果は集合的に、芳香族カチオン性ペプチドが眼における糖尿病の悪影響、例えば白内障や微小血管系を予防または補正することを立証している。そのため、本発明の前記芳香族カチオン性ペプチドの投与は、ヒト被験者での糖尿病に関連した眼疾患を予防または治療する方法において有用である。
【実施例3】
【0181】
SS−31は、緑内障の小柱網細胞における酸化ストレスを予防する。
【0182】
緑内障の小柱網細胞におけるペプチドの効果を研究することで、緑内障の予防または治療における本発明の前記芳香族カチオン性ペプチドの効果を調査した。緑内障は、世界中で不可逆的失明の2番目に多い原因である。原発性開放隅角緑内障(POAG)は緑内障の主な亜型である。POAGでは、小柱網の目に見える異常はない。しかし、正常な機能を行う小柱網内の細胞の能力は弱まっていると考える。
【0183】
本実施例では、本発明の前記芳香族カチオン性ペプチドの効果を、POAG患者(GTM)からの小柱網細胞と非疾患個体(HTM)からの小柱網細胞の間で比較した。本発明の研究で有用な方法は説明されてきている。一般的には、次の参考文献を参照:He Y, Ge J, Tombran−Tink J., Mitochondrial defects and dysfunction in calcium regulation in glaucomatous trabecular meshwork cells. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2008, 49(11):4912−22; He Y, Leung KW, Zhang YH, Duan S, Zhong XF, Jiang RZ, Peng Z, Tombran−Tink J, Ge J. Mitochondrial complex I defect induces ROS release and degeneration in trabecular meshwork cells of POAG patients: protection by antioxidants. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2008, 49(4): 1447−58。GTM細胞は、HTM細胞と比較してミトコンドリア膜電位の著しい障害を示す(図18)。
【0184】
細胞を以下の3つの群に分けた:「群A」細胞は、SS−31の投与前に過酸化水素にさらした。「群B」細胞は、過酸化水素の投与前にSS−31にさらした。「群C」細胞は、SS−31と過酸化水素を同時に投与した。
【0185】
SS−31にHTMまたはGTM細胞の細胞毒性効果があるかを評価するために、細胞にさまざまな濃度のSS−31を投与し、LDH試験を用いて細胞毒性を測定した。LDH細胞毒性試験は、細胞の細胞毒性を試験する比色法である。本試験では、損傷を受けた細胞から放出される安定した細胞質性の乳酸脱水素酵素(LDH)を定量的に測定する。この放出されるLDHを、ジアフォラーゼによるテトラゾリウム塩(ヨードニトロテトラゾリウム(INT))の赤色ホルマザンへの変換を生じる共役酵素反応によって測定される。本発明の研究で有用な細胞からLDHを検出する方法は公知である。一般的には次の参考文献を参照:Haslam, G. et al. (2005) Anal. Biochem. 336: 187; Tarnawski, A. (2005) Biochem. Biophys. Res. Comm. 333: 207; Round, J. L et al (2005) J. Exp. Med. 201: 419; Bose, C etal (2005) Am. J. Physiol. Gastr. L. 289: G926; Chen, A. and Xu, J. (2005) Am. J. Physiol. Gastr. L. 288: G447。LDH活性は、定義した時間にわたるNADH酸化またはINT減少として測定される。結果は図14に示されており、SS−31がHTMおよびGTM細胞の生存率に影響を与えないことを示している。
【0186】
本発明の研究で有用なTMTRを用いたミトコンドリア膜電を測定する方法は次の参考文献で述べられている:Andrea Rasola and Massimo Geuna, A flow cytometry assay simultaneously detects independent apoptotic parameters, Cytometry 45:151−157, 2001; Mitoprobe JC−1 Kit for Flow Cytometry, Molecular Probes, Invitrogen, USA。図16はGTM細胞での結果を示す。まとめると、これらの結果は、SS−31がSS−31の投与前に過酸化水素にさらされた細胞のミトコンドリア膜電位を改善することを立証している。
【0187】
群A:細胞がSS−31の投与前に過酸化水素にさらされた場合のHTMおよびGTM細胞のミトコンドリア膜電位(ΔΨm)を調査した。まず、テトラメチルローダミンメチルエステル(TMRM、500nM x 30分)で標識化された細胞の共焦点顕微鏡法を用いて、ミトコンドリア膜電位を測定した(図15)。また、ミトコンドリア選択プローブテトラメチルローダミンメチルエステル(TMRM、500nMx30分)で細胞を標識化することで、フローサイトメトリーを用いたミトコンドリア膜電位の測定も行った(図16、17)。
【0188】
群B:細胞が過酸化水素の投与前にSS−31にさらされた場合のGTM細胞の形態を調査した。図18は、さまざまな濃度のSS−31を投与した細胞の逆位相コントラスト顕微鏡法の結果を示す。この結果は、SS−31が濃度依存および時間依存の方法で過酸化水素介在形態変化から細胞を保護することを示す。すなわち、SS−31ペプチドに曝された細胞では、過酸化水素介在の細胞消失が減少した。また、細胞が過酸化水素の投与前にSS−31にさらされた場合のHTMおよびGTM細胞のミトコンドリア膜電位(ΔΨm)も調査した。テトラメチルローダミンメチルエステル(TMRM、500nMx30分)で標識化された細胞の共焦点顕微鏡法を用いて、ミトコンドリア膜電位を測定した(図19〜21)。これらの結果は、SS−31が過酸化水素に曝された細胞のミトコンドリア膜電位を用量依存的に改善することを示している。そのため、SS−31はGTM細胞での酸化ストレスに対する保護効果をもたらす。
【0189】
GTMおよびHTM細胞の急性酸化損傷を緩和する上でのSS−31の効果を調査した。図36は、FACS分析を用いたGTMおよびHTM細胞のTMRMの蛍光強度を示す。H22、SS−31 10-6M、SS−31 10-7M、SS−31 10-8M中のGTM対照と比較した蛍光強度の割合はそれぞれ35.2±2.12%、56.2±4.04%、50.3±4.46%、47.5±2.82%であり、n=4;HTM群はそれぞれ37.4±0.725%、57.7±1.80%、50.6±3.06%、49.4±2.27%、n=4;**はGTM H22群と比較してP<0.01を意味し;*はGTM H22群と比較してP<0.05を意味し;▲▲▲はHTM H22群と比較してP<0.001を意味する。
【0190】
図37は、FACS分析を用いて、対照群およびSS−31治療群でのGTMおよびHTM細胞のROSの蛍光強度を示す。H22、SS−31 10-6M、SS−31 10-7M、SS−31 10-8M中のGTM対照と比較した細胞内ROS産生の割合はそれぞれ146.0±2.27%、84.5±8.75%、102.0±5.69%、133.0±5.17%であり(n=3);HTM群はそれぞれ153.0±3.46%、79±2.39%、91.8±3.49%、129.0±8.24%であり(n=4)、H22群は対照と比較してP<0.001 GTMおよびHTM;***はGTM H22群と比較してP<0.001を意味し;▲▲▲はHTM H22群と比較してP<0.001を意味し;▲▲はHTM H22群と比較してP<0.01を意味する。図38は、SS−31がH22で誘導される細胞アポトーシスの量を減少させたことを示す。
【0191】
GTMおよびHTM細胞の持続性酸化損傷に関するSS−31の効果を調査した。SS−31の保護効果を調査するために、細胞を10-6、10-7、10-8MのSS−31で1時間事前治療し、その後、200μMのH22で1時間培養した。図39および表13は、GTMおよびHTM細胞の持続性酸化損傷からのROS産生に関するSS−31の効果を示す。図40および表14は、各治療群におけるGTMおよびHTM細胞でのMMPの変化を示す。
【表13】

【表14】

【0192】
まとめると、これらの結果は、SS−31が10-4Mの濃度でGTMとHTMの両方の細胞に対して細胞毒性を持たず、過酸化水素によって誘導される持続性および急性酸化ストレスをSS−31(>10-9M)で予防できることを証明している。そのため、本発明の前記芳香族カチオン性ペプチドは、ヒト被験者での緑内障を予防または治療する方法において有用である。
【実施例4】
【0193】
SS−31は、初代網膜色素上皮細胞における酸化ストレスを予防する。
【0194】
初代網膜色素上皮細胞(RPE)の細胞での酸化的損傷を防止または削減する上での本発明の芳香族カチオン性ペプチドの効果を試験するために、これらの細胞を培養した。初代網膜色素上皮細胞の試験に有用な方法は述べられてきた。次の参考文献を参照:Dunn l., ARPE−19, A Human Retinal Pigment Epithelial Cell Line with Differentiated Properties, Experimental Eye Research, 1996, 62(2): 155−170。まず、SS−31がこれらの細胞に悪影響を及ぼさないことが分かった。さまざまな濃度のSS−31単独で初代培養ヒトRPE細胞を培養し、細胞の生存率をMTT試験で測定した(図22)。
【0195】
次に、tBHPおよびさまざまな濃度のSS−31の存在下で初代RPE細胞の生存率を試験した。細胞は、96ウェルプレートにウェルあたり10,000個の細胞を入れ、24時間培養し、その後、24時間飢餓処理を行った。その後、細胞を高濃度のtBHPにさらすか(図23A)、またはさまざまな濃度のSS−31で4時間プレインキュベートし、その後、6時間tBHPで刺激した(図23B)。これらの結果は、SS−31がtBHPの投与に応えて細胞生存率を高めたことを示す。FACS分析を用いて、3つの群のRPE細胞での細胞内ROS産生も調査した。図31Aは対照RPE細胞でのROS産生を示し;図31Bは500μMのtBHPにより3時間処理されたRPE細胞でのROS産生を示し;図31Cは500μMのtBHPにより3時間、および1μMのSS−31により処理されたRPE細胞でのROS産生を示す。図32は、FACS分析でJC−1によって標識化されたMMPを示す。3つの異なる濃度のSS−31群を分析した。3時間500μMのtBHPで処理した群で緑色に対する赤色の比率は1.08、4時間10nMのSS−31+3時間500μMのtBHPで処理した群で緑色に対する赤色の比率は1.25;4時間100nMのSS−31+3時間500μMのtBHPで処理した群で緑色に対する赤色の比率は1.4;4時間1μMのSS−31+3時間500μMのtBHPで処理した群で緑色に対する赤色の比率は2.28である。図33は、tBHPによって誘導されたMMP減少に対する1μMのSS−31の効果を示す。図33A:対照群、R/Gは3.63±0.24;図33B:3時間500μMのtBHPによる処理群、R/Gは1.08±0.11;図33C:4時間1μMのSS−31+3時間500μMのtBHPによる処理群、R/Gは2.38±0.18。図33Dは、さまざまな群の蛍光比を比較するグラフである。*P<0.01、C対B。
【0196】
図34は、24時間250μMのtBHPによって誘導された細胞アポトーシスに対するSS−31の効果を示す。図34A:対照群;(Q2+Q4)%=1.27±0.3%;図34B:24時間250μMのtBHPによる処理群;(Q2+Q4)%=15.7±0.6%;図34C:4時間1μMのSS−31+24時間250μMのtBHPによる処理群;(Q2+Q4)%=8.4±0.8%。図34Dは、さまざまな群の蛍光比を比較するグラフである。*P<0.05、C対B。図35は、RPE細胞の3つの群でのtBHPによって誘導されるMDA濃度を示すグラフである。(*P<0.05)。
【0197】
まとめると、これらの結果は、SS−31が初代網膜色素上皮細胞における酸化ストレスを予防することを証明している。そのため、本発明の前記芳香族カチオン性ペプチドは、ヒト被験者での網膜細胞に対する損傷を予防または治療する方法において有用である。
【実施例5】
【0198】
CNVマウスモデルでの本発明の前記芳香族カチオン性ペプチドによる脈絡膜血管新生の予防および治療
【0199】
一方では脈絡膜血管新生(CNV)の予防を、そして他方ではCNVの治療をさらに証明するために、CNVのマウスモデルで本発明の前記芳香族カチオン性ペプチドを試験した(図24)。CNVは、レーザーによる火傷で眼に誘導した。本研究で有用な方法は次の参考文献を参照:Reich, Mol Vis 2003; 9:210−216。
【0200】
簡単に言うと、週齢5〜6の雄C57BL/6マウスを飽水クロラールで麻酔し、瞳孔をトロピカミドで拡張させた。コンタクトレンズとして使用されるカバースリップを用いて、右眼の視神経乳頭の周りの円形の眼底に4つのレーザースポット(532nm、260mw、0.01秒、50μm;Novus Spectra, Lumenis, USA)を当てた。レーザー光凝固術の前日に、1 mg/kg、9 mg/kg SS−31、または賦形剤の毎日の腹腔内注射を開始した。
【0201】
1週間後、マウスに深い麻酔をかけ、PBS緩衝フルオレセインデキストラン1mL(50 mg/mL)で左心室から灌流した。眼を摘出し、4%パラホルムアルデヒドで2時間固定した。眼を眼球赤道で切開し、前半分と網膜を取り除いた。強膜と脈絡膜を含む後眼部を4〜5回半径方向に切って4分の1に切断し、スライドに載せた。すべてのフラットマウント標本を蛍光顕微鏡(AxioCam MRC;Carl Zeiss)で調査した。各CNV病変の面積の測定には、Image−Pro Plusソフトウェア(Media Cybernetics, Silver Spring, MD)を使用した。
【0202】
各群に48箇所の血管新生があった。IMAGE−PROPLUS6.0ソフトウェアを用いて血管新生の面積を計算した。CNVモデル、1 mg/kg SS−31、および9 mg/kg SS−31の群での血管新生の面積はそれぞれ0.0130±0.0034、0.0068±0.0025、0.0067±0であった。これらの結果は、2種類の濃度のSS−31は脈絡膜血管新生の面積を大幅に減少させたことを示している(P<0.05)(図24)。
【実施例6】
【0203】
OIRマウスモデルでの本発明の芳香族カチオン性ペプチドによる酸素誘導性網膜症(OIR)の予防および治療
【0204】
酸素誘導性網膜症(OIR)の予防をさらに証明するために、OIRのマウスモデルで本発明の前記芳香族カチオン性ペプチドを試験した(図25)。このモデルでは、部分的に網膜血管系が発達した生後7日の仔マウスを高酸素状態(酸素75%)に5日間曝し、これによって網膜血管の成長を停止させ、著しい血管閉塞を引き起こす。生後12日目、仔マウスを室内の空気に戻し、生後17日目までに、血色の良い代償性網膜血管新生が生じた。病理学的血管新生のこのモデルは、増殖性糖尿病網膜症(DR)の代替として幅広く使用されている。
【0205】
OIRの予防に関する本発明の前記芳香族カチオン性ペプチドの効果を調査するため、仔マウスにOIRを誘導して、マウスには約6週間、芳香族カチオン性ペプチド(例えば、SS−20またはSS−30)を同時に投与した。結果は図26に示しており、SS−31による治療によって補償性網膜血管新生を予防したことが分かる。そのため、本発明の前記芳香族カチオン性ペプチドは、哺乳動物被験者での増殖性糖尿病網膜症を予防する方法において有用である。
【実施例7】
【0206】
網膜色素変性症のモデルで酸化防止剤が光受容体の細胞死を減少させる。
【0207】
錐状体細胞特異的系統661Wはマウス網膜腫瘍から得られた。661W細胞の本研究で有用な方法はこれまでに説明されている。一般的には、次の参考文献を参照:Gearoid Tuohy, Sophia Millington−Ward, Paul F. Kenna, Peter Humphries and G. Jane Farrar, Sensitivity of Photoreceptor−Derived Cell Line (661W) to Baculoviral p35, Z−VAD.FMK, and Fas−Associated Death Domain, Investigative Ophthalmology and Visual Science. 2002;43:3583−3589。錐状体細胞での酸化的損傷を防止または削減する上での本発明の前記芳香族カチオン性ペプチドの効果を試験するために、これらの細胞を培養した(図27)。まず、tBHPが661W細胞の生存率に影響を及ぼすことが分かった(図27A)。さまざまな用量のtBHPを細胞に3時間投与した。次に、さまざまな用量のSS−1がtBHP誘導661Wの細胞死を減少させることが分かった(図27B)。
【0208】
tBHP、100nmol/LのSS−31によって誘導されるミトコンドリアの生存能力の低下を防ぐSS−31の潜在能力を、661W細胞の培養物に投与した。結果は図30に示し、JC−1試験で示されるとおり、SS−1を投与しなかった細胞と比較してSS−31がミトコンドリアの生存率を大幅に高めたことが分かる。
【実施例8】
【0209】
網膜変性症のマウスモデルでのSS−31の効果。
【0210】
網膜変性症の予防をさらに証明するために、網膜変性症のマウスモデルで本発明の前記芳香族カチオン性ペプチドを試験した。CNVは、レーザーによる火傷で眼に誘導される(実施例5を参照)。網膜変性症のマウスモデルは、光受容体の細胞死の原因を理解することを期待して長年調査されている。他のすべての網膜細胞型を保存したまま網膜中の光受容体の変性を表す以下の自然発生のマウス突然変異が見つかっている:網膜変性(以前はrd、rodless網膜rと同じ、現在はPde6b rdl);プルキンエ細胞変性(pcd);神経(nr);網膜緩慢変性(rds、現在Prph Rd2);網膜変性3(rd3);運動ニューロン変性(mnd):網膜変性4(rd4);網膜変性5(rd5);白斑(vit、現在Mitfmi−vit);網膜変性6(rd6);網膜変性7(rd7);神経セロイドリポフスチン症(nclf);網膜変性8(rd8);網膜変性9(rd9);網膜変性10(rd10);および錐状体光受容体機能喪失(cpf11)。
【0211】
図28は、対照マウスとSS−31治療マウスにおける網膜変性症のマウスモデルでの網膜外核層(ONL)の厚みを示す一連の顕微鏡写真である。結果は、SS−31治療マウスが、未治療マウスと比較してONLの数多くの細胞の列を維持したことを示す。また、錐状体内節および外節を選択的に染色するピーナッツ凝集素(PNA)によって染色された平面状に装着した網膜からは、錐状体細胞密度がSS−31治療マウスの場合よりも高いことも分かる(図29)。これらの結果は、SS−31による治療が、網膜変性症のマウスモデルで網膜外核層に対する代償性損傷を予防したことを示している。そのため、本発明の前記芳香族カチオン性ペプチドは、哺乳動物被験体での網膜変性症を予防する方法において有用である。
【0212】
(対応特許)
本発明は、本願で述べられる特定の実施形態に関して限定されるものではなく、本発明の個別の態様のただ1つの説明となることを目的としている。当事者には明白なように、その精神及び範囲から逸脱することなく本発明の多くの変更及び変形を行うことができる。本明細書中に列挙される内容に加えて、本発明の範囲内の機能的に同等の方法及び機器は、前述の説明から当事者には明白である。前記変更及び変形は追加請求項の範囲に入れることを目的とする。本発明は、前記請求項が権利を与えられる同等物の全範囲とともに、追加請求項のみに関して限定されるものである。当然のことながら、本発明が特定の方法、試薬、化合物、組成物、または生物系に限定されるものではなく、もちろん変わる可能性がある。また当然のことながら、本願明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明するためだけのものであり、限定するためのものではない。
【0213】
さらに、開示の特徴または側面がマーカッシュグループの観点から記述される場合、それによって、当事者はマーカッシュグループのメンバーの個々のメンバーまたはサブグルーブの観点からも開示が記述されることを認識する。
【0214】
当事者には明らかなように、ありとあらゆる目的のため、特に書面による明細の提供に関して、本願明細書で開示されるすべての範囲は、そのありとあらゆる考え得る部分的な範囲及び部分的な範囲の組み合わせを包含する。少なくとも同等半分、3分の1、4分の1、5分の1、10分の1などに分けられている同じ範囲を十分に説明及び可能にしているので、いずれの記載される範囲も簡単に認識できる。限定されない例として、本願明細書にて開示される各範囲は下部3分の1、中央3分の1、上部3分の1などに簡単に分けることができる。また、当事者には明らかなように、「最大」、「少なくとも」、「より大きい」、「より小さい」などのすべての言葉は列挙される数字を含み、その後に上述のように部分的な範囲に分けることができる範囲である。最後に、当事者には明らかなように、範囲には個々の数字を含む。したがって、例えば1〜3個の細胞を有する群は、1個、2個、または3個の細胞を有する群のことを言う。同様に、1〜5個の細胞を有する群は、1個、2個、3個、4個、または5個の細胞を有する群のことなどを言う。
【0215】
本願明細書で紹介または引用されるすべての特許、特許出願、仮出願、および特許公報は、すべての図および表を含み、本明細書の明示的指導と矛盾しない範囲で、その全体の内容が引用により援用される。
【0216】
他の実施形態は以下の請求項で示される。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5−1】

【図5−2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療または予防を必要とする哺乳動物被検体の眼疾患を治療または予防するための方法であって、
化学式D−Arg−2’6’−Dmt−Lys−Phe−NH2またはPhe−D−Arg−Phe−Lys−NH2で調製される治療上有効量のペプチドを被検体に投与することを含む、方法。
【請求項2】
請求項1の方法であって、
前記眼疾患が、糖尿病性網膜症、白内障、網膜色素変性症、緑内障、黄斑変性症、脈絡膜血管新生、網膜変性症、および酸素誘導性網膜症からなる群から選択される、方法。
【請求項3】
請求項1の方法であって、
前記ペプチドがD−Arg−2’6’−Dmt−Lys−Phe−NH2である、方法。
【請求項4】
請求項1の方法であって、
前記ペプチドがPhe−D−Arg−Phe−Lys−NH2である、方法。
【請求項5】
請求項1の方法であって、
前記被検体がヒトである、方法。
【請求項6】
請求項1の方法であって、
前記ペプチドが眼内に、イオンフォレシス、経口投与、局所投与、全身投与、静脈内投与、皮下投与、または筋肉内投与される、方法。
【請求項7】
請求項1の方法であって、
さらに、2番目の活性薬剤を個別、順次、または同時に投与することを含む、方法。
【請求項8】
請求項7の方法であって、
前記2番目の活性薬剤が、酸化防止剤、金属錯体、抗炎症薬、抗生物質、および抗ヒスタミン剤からなる群から選択される、方法。
【請求項9】
請求項8の方法であって、
前記酸化防止剤がビタミンA、ビタミンC、ビタミンE、リコピン、セレン、α−リボ酸、コエンザイムQ、グルタチオン、またはカロテノイドである、方法。
【請求項10】
請求項7の方法であって、
前記2番目の活性薬剤が、アセクリジン、アセタゾールアミド、アネコルタブ、アプラクロニジン、アトロピン、アザペンタセン、アゼラスチン、バシトラシン、ベフノロール、ベタメタゾン、ベタキソロール、ビマトプロスト、ブリモニジン、ブリンゾラミド、カルバコール、カルテオロール、セレコキシブ、クロラムフェニコール、クロルテトラサイクリン、シプロフロキサン、クロモグリケート、クロモリン、シクロペントレート、シクロスポリン、ダピプラゾール、デメカリウム、デキサメタゾン、ジクロフェナック、ジクロルフェナミド、ジピベフリン、ドルゾラミド、エコチオフェート、エメダスチン、エピナスチン、エピネフリン、エリスロマイシン、エトキスゾラミド、オイカトロピン、フルドロコルチゾン、フルオロメトロン、フルルビプロフェン、ホミビルゼン、フラマイセチン、ガンシクロビル、ガチフロキサシン、ゲンタマイシン、ホマトロピン、ヒドロコルチゾン、イドクスウリジン、インドメタシン、イソフルロフェート、ケトロラック、ケトチフェン、ラタノプロスト、レボベタキソロール、レボブノロール、レボカバスチン、レボフロキサシン、ロドキサミド、ロテプレドノール、メドリゾン、メタゾラミド、メチプラノロール、モキシフロキサシン、ナファゾリン、ナタマイシン、ネドクロミル、ネオマイシン、ノルフロキサシン、オフロキサシン、オロパタジン、オキシメタゾリン、ペミロラスト、ペガプタニブ、フェニレフリン、フィゾスチグミン、ピロカルピン、ピンドロール、ピレノキシン、ポリミキシンB、プレドニゾロン、プロパラカイン、ラニビズマブ、リメキソロン、スコポラミン、セゾラミド、スクアラミン、スルファセタミド、スプロフェン、テトラカイン、テトラサイクリン、テトラヒドロゾリン、テトリゾリン、チモロール、トブラマイシン、トラボプロスト、トリアムシノロン、トリフルオロメタゾラミド、トリフルリジン、トリメトプリム、トロピカミド、ウノプロストン、ビダラビン、キシロメタゾリン、それらの薬学的に許容される塩、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、方法。

【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【公表番号】特表2013−502460(P2013−502460A)
【公表日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−526880(P2012−526880)
【出願日】平成22年8月23日(2010.8.23)
【国際出願番号】PCT/US2010/046338
【国際公開番号】WO2011/025734
【国際公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(512044909)ステルス ペプチドズ インターナショナル インコーポレイテッド (4)
【Fターム(参考)】