説明

眼科における局所用のマクロライド系医薬品組成物

【課題】主作用成分としてアジスロマイシンなどのマクロライド系の抗生物質を安定に含有する、局所適用して使用される眼の感染症の予防、および/または治療のための医薬品組成物の提供。
【解決手段】濃度が0.7〜2重量%のアジスロマイシンを、カプリル酸および/またはカプリン酸のトリグリセリドからなる油性媒体中に溶解し、それによって得られた溶液を、常温から80℃の温度で、孔の寸法が0.2μm以下の濾過膜を介した濾過によって殺菌し、その後、点眼単一用量の小瓶に殺菌された水薬を詰めることからなる、点眼薬の形状をした医薬品組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼中への局所適用に使用するのに適した、眼の感染の予防と治療のための新規な医薬品組成物に関するものである。マクロライド系の抗生物質を備え、主作用成分として、滴下することができる点眼薬の医薬品の形状を呈することを提案するものである。
【背景技術】
【0002】
マクロライドは、眼の感染症に対するものを含めて、とくに効果的な抗生物質であることが以前から知られている。それは天然起源の、あるいはある程度合成された化合物であり、その化学式は、一般的に糖類に組み合わされたラクトン基を含むヘテロ環を備えている。
【0003】
マクロライドの基本的例はエリスロマイシンであり、その分子のラクトン基のヘテロ環はすでに14鎖環である。抗生物質の効果は、エリストロマイシンそのものについてだけでなく、主環に対する各種の置換体によってその構造から派生する多数の化合物についても実証された。この点に関して、14鎖環についてのクラリスロマイシン、ロキシスロマイシン、ジリスロマイシンだけでなく、二つの置換体を結合する環式化によって16鎖のラクトン環に至るスピラマイシンまたはジョサマイシンなどの化合物もあげることができる。
【0004】
アザライドは、マクロライド族の中ではもっと新しいグループに当たる。それらは、ラクトン基の環の中に環内窒素原子を挿入することによって、エリスロマイシンの基礎構造から派生する。マクロライド抗生物質の亜群の先頭に来るのは、N−メチル−11−アザ−10−デゾキソ−10−ジヒドロ−エリスロマイシンに対応するアジスロマイシンである。この化合物において、エリスロマイシンの位置11と12のヒドロキシル基は置換されていないため、ラクトン基環は15環となる。これは二水和物の形でとくに普及しているものだが、それに限定されることなく、化合物は、従来から、この属の他の化合物の場合と同様に、生物学的に親和性のあるいっさいの塩の形を取ることもできる。
【0005】
眼科で用いられるすべての化合物の場合と同様、医薬品業界は全身経路による投与よりも局所適用にマクロライドが使用できるように研究し、そして、こと眼への適用においては、点眼薬の形態がまず頭に浮かぶ。しかしながら、この方向での試みは、障碍に直面したため、本発明はその解決を目的とする。とくに国際公開第00/57866号パンフレット(Insite Vision)による、先行技術の文書を参照することができる。この文書には粘膜の特性、眼科治療に関連する疾患と病原体、および抗生物質投与条件に関する一般的知識がまとめられ、主としてアジスロマイシンとその使用条件に関心を向けてマクロライドの各種の化学式が詳細に述べられている。アザライドの局所適用によって眼疾患を治療することに苦心している発明者らは、懸濁ポリマーを添加した水の中に懸濁液の形で問題のアザライドを賦形する以外の方法を知らない。欧州特許出願公開第0925789号明細書(Pfizer)に記載のアジスロマイシン懸濁液の形の組成物に対しても同じ批判が当てはまる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、それに由来する問題点を、とくに眼の粘膜と角膜の炎症のおそれの観点から、回避することを可能にする。それはまた、もっと一般的には、眼科への適用におけるマクロライド族の抗生物質の活性を利用する条件の改善を目的とする。したがって、その目的は、角膜と眼の結合組織内への作用成分の浸透を容易にし、その保持と残留時間を向上させ、点眼の都度投与すべき有効用量に応じて必要な濃度で製品が眼の炎症を引き起こさないことを確実にし、毎日の点眼回数と治療時間を減らし、またもっと一般的に、局所適用の利点を残すことを含めて、医療実施の各種の要求事項をよりよく満たすことにある。このような観点から、本発明は、また、とくに治療の優れた快適さを保証し、組成物の投与を容易にし、局所適用の結果としてあらわれることのある眼のいっさいの障碍を回避することを目的としている。本発明はまた、とくにコストに関して、医薬品の工業的製造条件、ならびに使用までの製品の保存可能期間を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
これらの、および以下の説明を読むことによってもっとよく理解できるその他の目的を考慮して、本発明は、油性媒体中に溶解された、マクロライド族の抗生物質化合物を有効治療成分として含有する点眼薬の形を呈することを特徴とする、局所適用による眼の感染症治療に適した医薬品組成物を提案するものである。
【0008】
これは、アザライド、そしてとくにアジスロマイシンにとくに有利に適用される。後者の化合物は、現在のところ本発明の範囲では最良のものと思われる。したがって、以下に説明される本発明のすべての特徴は、特記事項なき限り当てはまるが、それが一番よく当てはまる有効成分は、工業の観点からは、この場合アザライド族の典型的化合物としてのアジスロマイシンである。
【0009】
先行技術のごとく水媒質ではなく、油性媒体を利用することによって、有効濃度において有効成分を完全に溶解することが可能になる。極めて良質の溶液である液体を得ることが可能になり、懸濁液に対するその特徴は、液体の粘度に関係なく、懸濁液の粒子ができうる限り微細であることとみなされている。くわえて、各種の媒質内にマクロライド族を溶解させるために考えられる技術の中のどのようなものであっても、とくにアザライドの場合は、溶液の不安定性という問題につきあたってしまい、これは容易に理解できるように、眼に局所適用して使用されるための組成物ではとくに重大であり、好条件での工業化における制約にもなる。
【0010】
極めて良質の溶液の主たる利点の一つは、その場合有効成分が眼の全表面に対して均質につけられことにあり、他方、懸濁液の場合は、眼に対する有効化合物の粒子の接触が不均一になる。さらに、アザライドはほとんど水に溶けず、涙にも溶けない、したがって、その粒子は涙によって眼から容易に除去され、そのため水に懸濁した形の組成物については、その残留時間が短くなる。
【0011】
本発明による賦形剤にマクロライドが完全に溶解することに関連して、賦形剤の油性に固有の物性は眼の中での組成物の残留時間増大にも貢献する。事実、眼の表面上に油膜が形成され、水性組成物の場合よりも、涙によって除去されにくい。
【0012】
油性点眼薬の形の本発明による組成物の組成には、ほかにも利点がある。とりわけ、それは視覚にほとんど何の障害も引き起こさない、この点は油性媒体のために向上する残留時間の利点を有する組成物としては意外である。ところが、たとえば、眼科での局所適用に通常用いられている塗り薬、クリームなどの他の生薬の形態は投与後比較的長い時間視覚障害を引き起こす。
【0013】
本発明はまた、眼科における局所適用に適した医薬品組成物の調製方法において、有利には、製品の溶解を促進するために他の状況では使用することができるものなどの、他の成分なしに、また同じく有利には乳化剤、濃縮剤、または各種の保存剤などの二次成分を添加することなしに、油性媒体の中に抗生物質を溶解させることをもって成ることを特徴とする方法に関するものである。
【0014】
本発明の二次的な特徴によれば、油性媒体の中の有効化合物の溶解は常温で行われ、方法の実施条件を簡素化し、そのコストを下げるだけでも、一般的に好適であり、あるいは適度に加熱して、とくに30℃と90℃の間に含まれる温度で、好適には50から80℃程度で、またとくに有効化合物がアジスロマイシンであるときには70℃に近い温度で行われる。事実、本発明によって推奨される有効化合物は、水にほとんど溶けないだけでなく、熱に弱いことがわかっており、また有効成分が安定している温度で操作することが重要である。
【0015】
たいていの場合、濾過によってそれを実施することからなる方法の第二の段階で、同じ温度条件で、好適には溶解の場合と同様低温で、溶液の殺菌も実現できるように、比較的低い粘度の賦形剤が選ばれるだろう。ここに本発明の大きな利点の一つを見ることができる、なぜなら、例えば、孔の寸法が最大で0.2μmに等しく、好適には0.1と0.2μmの間に含まれる濾過膜を介して、簡単かつ効果的に溶液を消毒することが可能であり、これは懸濁液の場合には考えられない。
【0016】
これはマクロライド、もっと詳細にはアザライドである感熱性分子の本願の場合とくに有利である、なぜならそれらが含まれている組成物は、加圧蒸気滅菌器などの高温加熱を利用する従来の手段では殺菌できないからである。同様に、特定の抗生物質が含まれる組成物の殺菌に広く使用されているもう一つの方法であるガンマ線への曝露はマクロライドの崩壊を引き起こす、したがって、それを避けた方がよい。
【0017】
一般的に、油性媒体の中の有効成分の濃度は特定の有効化合物によって、総重量に対して0.1から2%の範囲で大幅に変動することがある。しかしながら、とくにアジスロマイシンの場合検証することができたように、本発明は、比較的高い有効成分の濃度で安定した溶液に至るという利点があるため、処理効果の問題から、総重量に対して0.7から2%の間、とくに1から1.5%程度の濃度が好ましいことになる。
【0018】
本発明の好適実施態様の場合、抗生物質の有効化合物の溶解賦形剤として使用された油性媒体はさらに、後述の一つまたは複数の二次的特徴にも応えるものであり、それらを同時に、あるいは技術的に可能ないっさいの組み合わせで適用することができる。
【0019】
したがって、油性媒質は植物性であるが、精製および/または水素添加され常温で100mPa.s(すなわち100cPo)未満の粘度を有する油脂を選択することが望ましい。これによって、滴下するための利便性の点で、点眼薬に適した条件だけでなく、とくに有利な工業的製造条件を満たすことができる。
【0020】
さらに、とくに眼の角膜上での残留の問題に関して、最終組成物の粘度が常温で少なくとも10mPa.sであることが望ましい。実際には、少なくとも医薬品の製造工程をできるだけ簡素化しようとする場合、推奨粘度は10と50mPa.sの間に含まれ、好適には20から40mPa.s程度である。実際、この場合、少しも加熱を必要とすることなしに、油内のマクロライド溶液に低温で殺菌を実施して、工業的製造の便宜を図ることができる。
【0021】
もちろん、特定の用途分野の場合、最終製品の投与条件に適合する濃縮剤を添加して得られる医薬品組成物を完成させることが有益であることを妨げないことに変わりはない。このために当業者は、溶液を損なうことなしに粘度を増すために殺菌条件で使用する濃縮剤を業界で見つけることができるだろう(例えば、セチル酸、ステアリン酸、またはそれらの誘導体)。有効成分の段階的かつ長期的放出の「遅延」効果は、このように溶液の粘度を変えることによって得られるが、本発明によれば、それが容易に滴下できなければならないことを見失ってはならない。
【0022】
本発明の実施に適した油性媒体のその他の特性は化学に属するものである。対応する要求事項は通常、中鎖トリグリセリド、または英語で「medium chain triglyceride」と呼ばれる油脂によってとくに好適に満たされる。欧州薬局方によって定められた規格によれば、これらの油脂はココヤシの実から抽出され、主として、少なくとも95%がカプリル酸またはカプリン酸である飽和脂肪酸のトリグリセリドで構成される。したがって、それぞれカプリル酸/カプリン酸トリグリセリドで、あるいはトリグリセリドカプリレート/カプレートで構成されると言われる。
【0023】
中鎖トリグリセリドで構成された媒体内にマクロライドを溶解してこのように得られた組成物は局所適用による眼科治療にとくに適しているが、それは、とりわけ、本発明の目的の一つに、すなわち組成物による眼の組織の、炎症のおそれを最小限に押さえることを保証するという目的に応えているためである。炎症には、配合に使用された媒体またはそれに組み合わされた化合物によって引き起こされるおそれのある一時的なやけ、ひりひり感または涙などのすべての影響が含まれる。このことは、炎症の結果として、眼の中に涙が存在することによって、抗生物質組成品の除去速度が増加するだけにいっそう重要である。
【0024】
したがって、化学的に明確に定義され、眼との接触によって炎症を引き起こすおそれのある二次生成物に組み合わされることのない特性を有する、中鎖トリグリセリドを本発明の枠内で使用することは全く有利である。くわえて、この油性媒体内に使用された抗生物質のマクロライドの可溶性を考慮に入れると、本発明による組成物は、懸濁ポリマーなどの添加剤の追加を必要としないという利点があり、それよって眼の組織の炎症のおそれが大幅に減少される。同じ理由で、中鎖トリグリセリドによって構成された油性溶剤は、本発明によれば、マクロライドの溶解のために同じように挙げることができるが、眼に炎症を起こすという問題があるラノリンよりもはるかに望ましい。
【0025】
本発明の実施の枠内で、中鎖トリグリセリドのこれらの特徴からの有利な結果として、配合の組成がよりよく制御され、炎症性の添加物によって発生することのある副作用が低減され、点眼薬の工業的製造がよりよく管理される。
【0026】
本発明の実施においてより一般的に、油性媒体は工業的に処理可能であり、主として、具体的には少なくとも80%(また好適には少なくとも95%)が、脂肪酸トリグリセリドで構成される植物性の油脂から選択される。それは、好適にはグリセロールの三つのアルコール基が脂肪酸の酸基によってエステル化された化合物であり、脂肪酸は、好適には飽和炭化水素のカルボキシル酸である。くわえて、本発明に従って有効化合物の溶剤として用いられた油性媒体は、有利にはそれを主として構成するかかるトリグリセリドが直鎖の端のカルボキシル酸基を有する中分子量の一つまたは複数の炭化水素酸から派生するように選択される。したがって、酸の分子は好適には中程度の長さである。この観点から、それはとくに5から12の炭素原子を、また好適には8から10の炭素原子を有し、これはとくにカプリル酸とカプリン酸に当てはまる。
【0027】
本発明の配合に有利に用いられる油性媒体は、不飽和率がきわめて低い。従来、油の不飽和率は多重結合を結合することのできるハロゲン率によって決定することができる。油100gあたりの沃素分子で表されるハロゲン率は沃素の数で知られている。したがって、本発明による油性媒体は好適には1以下の沃素数を有する。他方で、本発明の配合に好適に用いられる油性媒体は、有利には0.9と1の間に含まれる、好適には0.95に近い密度を有する。本発明の別の特性によれば、その屈折率は好適には1と2の間に含まれ、より好適には1.3と1.5の間に含まれ、とくに1.45程度であり、その密度は有利には1に近く、とくに0.9と1の間に含まれる。
【0028】
本発明の推奨実施態様によれば、有効治療成分はアジスロマイシンであり、その濃度は重量%で0.7と2%の間に含まれ、好適には重量%で1と1.5%の間である。本発明による油性媒体は、これらの濃度でアジスロマイシンを完全に溶解することが可能であり、それは水性媒体に比較してとくに有利である。実際、水性組成物の中に、例えば、(SIFIの名義での欧州特許出願公開第1075837号明細書で意図されているような)クエン酸/塩化合物混合物内にアジスロマイシンを溶かす手段は従来知られているが、本発明者らは、アジスロマイシンがこの種の溶液においては比較的安定しないことを確認した。きわめて有利なことに、それは本発明による植物性の油性溶液内では反対にきわめて安定している。
【0029】
本発明の特定の配合によれば医薬品組成物は、有利には単一用量の小瓶に詰められるのに適している。これは片眼に一回ずつ、都合二回の点眼に有効な量の製品を含む、使い捨ての包装を意味する。本発明の組成物は安定しているので、このとき溶液にいっさいの添加物、とくにいっさいの保存料を加えないことが有利である。
【0030】
しかしながら、本発明の別の実施態様によれば、医薬品組成物は、先に述べたごとく、保存料を含んでいる。この解決法は、一般的に製品が複数回用量の瓶に包装されるときに好適である。保存料は好適にはフェノキシエタノール、フェニルエチルアルコール、クロロブタノール、第四アンモニウム塩、あるいは点眼薬に適したその他いっさいの保存料である。この最後の場合、配合の調製の際に、塩化ベンザルコニウムなどの第四アンモニウム塩は、有利には高温で取り込まれ、その濃度は、好適には重量%で0.01%を超えない。パラベン型の保存料は、通常の仕方で取り込まれる。それはとりわけ、パラヒドロキシ安息香酸メチルおよび/またはプロピルおよび/またはブチルである。
【0031】
本発明の推奨調製法によれば、医薬品組成物は濾過によって、有利には多孔性が0.1と0.2μmの間に含まれる膜上で殺菌される。この操作は低温で、もっと正確には常温で、あるいは30から40℃の温度でわずかに加熱して、あるいはもっと高いが80℃未満の温度で、例えば、70℃程度の温度で実現することができる。この最後の解決法は、油性媒体内の有効化合物の溶解も比較的高温で行われるときにとくに好適であり、この場合は、殺菌と同じ温度条件とすることができる。しかしながら、選択した油性媒体の粘度によって可能なときは、便利さとコストの理由から、常温濾過で殺菌を実施するのが一般的に好ましいと思われる。酢酸セルロース、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)系のものなどの異なるタイプの膜をこの濾過作業に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の特徴の説明ならびにそれらの利点と結果の説明を完成するために、つぎに、非制限的な、本発明による医薬品の調製のいくつかの実施例を考察する。有効成分はアミン基の塩化なしに塩基の形で存在する。アジスロマイシン系の他の二つの医薬品に対する本発明による医薬品の有効性の二つの比較例も提供され、また有効成分の濃度が異なる本発明によるアジスロマイシン系の組成物について、眼の薬動力学の例も提供される。
【実施例1】
【0033】
百等分の配合として、重量%で1.5%のアジスロマイシンを元にした点眼薬を実現する:
アジスロマイシン 1.5g
中鎖トリグリセリド Q.S.P. 100g
【0034】
使用される油性媒体は、その中のグリセロールのアルコール基が、その鎖が線形で長さが中程度の飽和炭化水素のカルボキシル酸、すなわち主としてカプリン酸および/またはカプリル酸によってすべてエステル化された、中鎖トリグリセリドの95%で精製された油脂について欧州薬局方の定義に対応する。
【0035】
正規最終質量の99%に対応する中鎖トリグリセリド(TCM)の質量が湯煎で70℃に加熱される。アジスロマイシン粉末は撹拌しつつトリグリセリド内に溶解される。全体を数分間70℃に維持し、ついで常温になるまで溶液を冷却させる。ついでTCMで重量を調節し、攪拌しながら数分間混合物を仕上げる。
【0036】
冷却後、アジスロマイシンは溶液内に残り、得られた溶液は透明で清浄である。それを濾過によって実施される殺菌処理を施す。それは常温で実施される。濾過は、無菌環境内で、ポリエーテルスルホンの膜で作られた0.2μmの目のフィルタ上で実施される。極めて良質な溶液が得られ、水性媒体内のマクロライド配合物の場合のように、懸濁ポリマーの添加の必要はない。
【0037】
温度25℃、湿度60%および温度40℃、湿度75%で実施した安定性試験では、得られた溶液が六ヶ月を超える期間の間、経時的に安定していることがわかった。
【実施例2】
【0038】
単一用量の小瓶に包装される、重量%で1%のアジスロマイシンを元に点眼薬を実現する:
アジスロマイシン 1g
中鎖トリグリセリド Q.S.P. 100g
【0039】
実施例1と同様に、中鎖トリグリセリドの媒体内にアジスロマイシン点眼薬を調製するが、濃度は組成物の総重量に対して重量%で1%とする。得られた溶液は、実施例1のごとく濾過して殺菌する。本実施例で採用した中鎖トリグリセリドの分画については、製品の粘度は30mPa.s(20℃で30cPo)になる。その密度は、0.95である。その屈折率は、1.45に等しい。この値は、健康な被験者において1.33に等しい、涙のそれにきわめて近い。その結果、眼に点眼薬をつけたときに視覚障害を起こすおそれが最小になる。
【実施例3】
【0040】
保存料を含む、重量%で1%のアジスロマイシンを元に点眼薬を実現する。複数用量の瓶詰めのこの点眼薬は、100gに対する重量で表したとき、次の組成を有する:
アジスロマイシン 1g
塩化ベンザルコニウム 0.01g
中鎖トリグリセリド Q.S.P. 100g
【0041】
その正規最終質量の99%に対応するトリグリセリドTCMのある量を湯煎で70℃に加熱する。アジスロマイシン粉末と塩化ベンザルコニウムは、攪拌してTCM内に溶解される。全体を数分間70℃に維持し、常温になるまで冷却させる。ついで、TCMで重量を調整し、数分間攪拌して混合物を仕上げる。次に溶液を、ポリエーテルスルホン膜の高流量型0.2μmのフィルタ上で、無菌環境で濾過する。
【実施例4】
【0042】
実施例1のごとく操作して、単一用量の小瓶に包装される、重量%で0.5%のアジスロマイシンを元に点眼薬を実現する。
百等分の配合は次の通りである:
アジスロマイシン 0.5g
中鎖トリグリセリド Q.S.P. 100g
【0043】
比較として、アジスロマイシンを塩酸で溶解して、重量%で1%のアジスロマイシン水性組成物を実現する。溶液のpHは、トリスヒドロキシメチルアミノメタンで7.1に調節した。
【0044】
溶液は、温度と湿度がそれぞれ、40℃と75%という条件のもとで光の当たらないところに保存した。異なる時間間隔で溶液から標本を採取し、アジスロマイシンの経時崩壊を観察するために高圧液体クロマトグラフィで分析した。水溶液の場合、およそ四週間後から分子の崩壊が観察されはじめ、ついで加速し、二ヶ月後には化合物の約80%が崩壊した。
【0045】
反対に、同じ条件で分析した本発明による組成物に関しては、6ヶ月保存した後でもアジスロマイシンは安定していた。溶液は清浄で透明なままである。
【実施例5】
【0046】
保存料を備えた、重量%で0.5%のアジスロマイシンを元に点眼薬を実現する。複数用量の瓶詰めのこの点眼薬は、100gに対する重量で表したとき、次の組成を有する:
アジスロマイシン 0.5g
塩化ベンザルコニウム 0.01g
中鎖トリグリセリド Q.S.P. 100g
【0047】
その正規最終質量の99%に対応する、トリグリセリドTCMのある量を湯煎で70℃に加熱する。アジスロマイシン粉末と塩化ベンザルコニウムは、攪拌TCM内に溶解される。全体を数分間70℃に維持し、常温になるまで冷却させる。ついで、TCMで重量を調整し、数分間攪拌して混合物を仕上げる。次に溶液を、ポリエーテルスルホン膜の高流量型0.2μmのフィルタ上で、無菌環境で濾過する。
【実施例6】
【0048】
先の実施例のごとく操作して、重量%で0.5%のロキシスロマイシンを元に点眼薬を実現する。組成物は、複数用量の瓶詰め包装用のため、保存料を備えている。
ロキシスロマイシン 0.5g
塩化ベンザルコニウム 0.01g
中鎖トリグリセリド Q.S.P. 100g
【実施例7】
【0049】
複数用量の瓶詰めに包装される、重量%で0.5%のクラリスロマイシンを元に点眼薬を実現する。
百等分の配合は次の通りである:
クラリスロマイシン 0.5g
クロロブタノール 0.5g
中鎖トリグリセリド Q.S.P. 100g
【0050】
その正規最終質量の99%に対応する市販の中鎖トリグリセリド(TCM)の一定の量を湯煎で70℃に加熱する。クラリスロマイシン粉末は攪拌してTCM内に溶解される。全体を数分間70℃に維持し、温度が40℃になるまで冷却させる。ついで、クロロブタノールを添加して、完全に冷却するまで攪拌を続ける。TCMで重量を調整し、数分間攪拌して混合物を仕上げる。最後に溶液を、0.2μmの濾過ポリエーテルスルホン膜上で、無菌環境で濾過する。
【実施例8】
【0051】
先の実施例のごとく操作して、重量%で0.5%のエリスロマイシンを含む、エリスロマイシン系の点眼薬を実現する。点眼薬は単一用量の小瓶の包装用であり、保存料は添加されない。
【実施例9】
【0052】
次の百等分の組成に対応する、重量%で0.5%のエリスロマイシンを元に点眼薬を実現する:
エリスロマイシン 0.5g
クロロブタノール 0.5g
中鎖トリグリセリド Q.S.P. 100g
【0053】
先の実施例のごとく操作する。得られた溶液は透明である。粘度は常温で30mPa.s程度である。製品は、眼に滴下してつけるために単一用量の小瓶に詰められて市販される。
【0054】
変型として、この実施例は先のものと同様に、TCMに混和できる濃縮剤を溶液に加えて、例えば、100mPa.sに達することができる値まで粘度を変化させることができる。
【0055】
もっと高い粘度も実現できるが、溶液が点眼に適し、滴の形成が妨げられないように、十分な流動性を確保する方がここでは望ましい。
【実施例10】
【0056】
実施例2で調製した点眼薬を、医薬品の眼科生物処理性を検査するために、薬動力学試験にかけた。投与量は、アジスロマイシン系の他の二つの調製物と比較して、ウサギの眼の結合組織内、角膜内、そして涙の中で実施した。アジスロマイシン率は当初単一用量の投与後六日間の間一日数回測定した。
【0057】
このようにして、三つの方式を試験した。第一のものは、錠剤の吸収による投与後、20mg/kgに濃縮したアジスロマイシンの経口服用に関するものである。第二は、ウサギの眼の表面に懸濁液を滴下して局所投与した、重量%で1%に濃縮されたアジスロマイシン水性懸濁液の経眼服用に関するものである。第三は、同様に投与される、実施例2に従って調製された油性溶液に関するものである。
【0058】
結合組織に対する結果から第一の方式、すなわちアジスロマイシンの経口服用は、アジスロマイシンの結合組織濃度が0.1μg/gを超えることができず、他の二つの方式では、投与後24時間でかなりの率に達し、水性方式の場合は0.55μg/g、本発明の油性方式の場合は、0.60μg/gに達することがわかった。後者が高いのはなによりも最小平均アジスロマイシン率の存在が長いことによる。事実この率は、水性懸濁液では一日だけしか0.25μg/g(病原菌を除去するための最低率)を超えないのに対し、油性溶液(実施例2によって調製した点眼薬)の場合、三日間にわたって0.25μg/gを超えていた。
【0059】
角膜に関しては、経眼服用は72時間後にしか検出できず、六日後に0.25μg/gになった。水性懸濁液は、滴下後一日で3μg/g程度の率に至り、滴下後六日で0.6μg/gまで下がった。油性溶液ははるかに高い率を示す;アジスロマイシンの濃度は滴下後24時間で3.8μg/gに達し、六日後1μg/gを超えたままであった。
【0060】
アジスロマイシンが、きわめて顕著な角膜局所性を示すだけでなく、実施例2によって調製された点眼薬の配合は、眼のこの区域への有効成分の至適放出に適している。角膜の場合、アジスロマイシンの局所使用は、その作用部位に有効成分を急速に放出するのにもっと効果的であることが分かる。
【0061】
眼内の試験に関して、アジスロマイシンの涙率は、滴下後一日でもなお抗生物質的に有意である。涙率は水性懸濁液の場合1.9μg/gであり、油性溶液の場合は2.0μg/gである。この場合はアジスロマイシンの存在が検出できないので、経口服用には不足である。
【実施例11】
【0062】
実施例1と4に従って調製した配合物をヒトでの眼科薬動力学試験にかけた。
【0063】
試験は、一回または複数回に分けて患者の眼の表面に点眼薬を一滴たらし、異なる時間間隔で、治療した眼の涙を採取することをもってなる。
【0064】
採取した標本は、それらのアジスロマイシン含有率を求めるために、質量分光測定器に接続した高圧液体クロマトグラフィによって分析する。このようにして得られた結果は各採取時間の涙の中のアジスロマイシン濃度に対応する。所望の治療効果を得るために、涙の中のアジスロマイシン濃度が少なくとも0.5μg/gに等しいか確認した。この値は、感作病原菌全体について、眼の部位で効果を得るために必要な濃度としてアジスロマイシンについて一般的に記載されている阻害最低濃度に対応する。したがって、アジスロマイシン濃度と組成物残留時間は、阻害最低濃度(CIM)以上の抗生物質容量が対象となる眼の組織に伝播されるために、互いの関係において、十分高くなければならない。
【0065】
点眼薬を一滴だけ投与した後の涙の動力学:
【0066】
それぞれの配合について、眼の表面に一滴投与した後、0.5;1;2;4;8と24時間でアジスロマイシン涙濃度の測定を実施した。
【0067】
アジスロマイシンを0.5%配合した点眼薬は、涙の中のアジスロマイシン濃度が0.85μg/g未満であり、投与後一時間の時限の、きわめて速く実施したものを含めて、すべての採取について、この値は配合法の定量化の下限値に対応する。
【0068】
アジスロマイシンを1.5%配合した点眼薬では、次の涙の中のアジスロマイシン濃度が得られた:
【0069】
【表1】

【0070】
ここでも、1.5%の点眼薬を一回の用量で投与した24時間後、0.5μg/gを大幅に超える率で、涙の中にまだアジスロマイシンが存在することが分かる。
【0071】
アジスロマイシンが1%の点眼薬の濃度でも満足できる結果が認められたため、アジスロマイシンが1から1.5%程度の濃度が、したがって、ヒトにおいて治療上効果的な濃度を放出するのに適しているように思われる。
【0072】
点眼薬の反復投与後の涙の動力学:
【0073】
この研究は、先と同様に、しかし一定時間間隔毎に点眼薬を複数滴投与した後の涙の中のアジスロマイシンの測定を実施するものである。
【0074】
点眼薬はここではアジスロマイシン1.5%で服用される。最初の一滴は時間0で、ついで別の一滴が次の時間でそれぞれ投与される:12;24;48と72時間。涙の採取は最初の投与から72;96;120と144時間後に実施される。
【0075】
次の涙の中のアジスロマイシン濃度が得られた:
【0076】
【表2】

【0077】
3日(すなわち72時間)の期間に分散した、実施例1の1.5%のアジスロマイシン溶液の連続五回の適用後、最初の投与から6日(すなわち144時間)で涙の中にやはり高いアジスロマイシン濃度が認められた。
【0078】
先の記載は、とくに今説明したばかりの詳細な実施例を用いて、本発明が設定した目的を達成するために、どのように本発明が当業者の予想できなかった仕方で処理するかを明らかに説明している。とくに、先の結果から明らかなごとく、本発明によるアジスロマイシンが1または1.5%の組成物の限定された回数の滴下によって、比較的長い期間の間、阻害最低濃度をはるかに超える涙濃度を得ることが可能であり、ヒトにおいて得られた薬動力学結果から、低い服用回数で構成される投与法で細菌による眼の感染症治療にとくに適している。
【0079】
治療上有効な抗生物質用量を眼の組織に長期間放出させるために、低い回数の点眼しか必要としないことにより、数多くの利点が提供され、それはとくに治療の快適さと、組成物の成分に対して患者が感作性を発現するおそれが減少されるということである。言い換えれば、治療期間が短いほど、点眼回数は制限され、それだけ眼の反応/炎症のおそれが低下する。局所使用は、経口形態の使用とは反対に、用量の適用直後から抗細菌レベルで潜在的効果を有するという利点がある。くわえて、油性配合は水性懸濁液から得られるものを超える、結膜および角膜の涙率を得ることを可能にする。
【0080】
眼の疾患の治療における抗生物質有効性のこれらの利点は、とくに殺菌の便利さに関して、既知の懸濁液と区別される溶液の物理的形態または製造条件にむしろ結びつけられる利点に追加される。くわえて、本発明は、水溶液では不可避であろうし、その場合、pH調整緩衝液を添加しなければならないであろう、塩水の形態よりも、その塩基の形態でマクロライド族の有効化合物を利用しようとする。
【0081】
最後に、本発明による脂肪酸トリグリセリドの使用は眼の組織への局所適用での使用の枠内できわめて有利である、なぜなら、追加の化合物の添加を必要とすることなく、脂肪酸トリグリセリドの化学組成が明らかに定義され、有効化合物全体を溶かす能力が優れているので、炎症反応のおそれを最小に押さえながら、眼の表面で長い残留時間を得ることを可能にするからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0082】
【特許文献1】国際公開第00/57866号パンフレット
【特許文献2】欧州特許出願公開第0925789号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第1075837号明細書

【特許請求の範囲】
【請求項1】
濃度が0.7〜2重量%のアジスロマイシンを、カプリル酸および/またはカプリン酸のトリグリセリドからなる油性媒体中に溶解し、それによって得られた溶液を、常温から80℃の温度で、孔の寸法が0.2μm以下の濾過膜を介した濾過によって殺菌し、その後、点眼単一用量の小瓶に殺菌された水薬を詰めることからなることを特徴とする、点眼薬の形状をした医薬品組成物の製造方法。

【公開番号】特開2010−43109(P2010−43109A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−234250(P2009−234250)
【出願日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【分割の表示】特願2002−580979(P2002−580979)の分割
【原出願日】平成14年4月11日(2002.4.11)
【出願人】(503171360)
【氏名又は名称原語表記】LABORATOIRES THEA
【Fターム(参考)】