説明

眼科用レーザ手術装置

【課題】 簡単な構成で、レーザスポットのZ方向の移動速度を向上させ、効率的に手術ができる眼科手術システムを提供する。
【解決手段】 パルスレーザ光を出射するレーザ光源と、レーザ光をターゲット位置に照射させる照射光学系であって,レーザ光のスポットを3次元的に移動させる移動光学系を有する照射光学系と、を備え、レーザ光によって眼球組織を切断又は破砕する眼科用レーザ手術装置において、前記移動光学系は、前記レーザ光をターゲット位置に集光させ前記スポットを形成するための対物レンズと、前記レーザ光を発散光又は収束光として前記対物レンズに向けて導光させるための少なくとも1枚のレンズからなる第1レンズユニットと、該第1レンズユニットと前記対物レンズとの間に置かれ,前記第1レンズユニットと前記対物レンズとの間の光路長を変更させる光路長変更手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、術眼にレーザ光を照射して組織を切断等し除去するための眼科用レーザ手術装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フェムト秒パルスレーザビーム等の超短パルスレーザビームを照射して患者眼(術眼)の水晶体等の組織を切断(破砕)する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1の装置は、白内障を治療するために水晶体のターゲット位置(レーザスポット位置)に微小なプラズマを発生させることによって、水晶体組織を機械的に切断、破砕する。これらの組織を除去し、眼内レンズ等を眼内に挿入することで白内障を治療する。患者眼の奥行方向をZ方向、Z方向に直交する方向をXY方向とすると、レーザスポットをXY方向に移動(走査)させる場合、2つのガルバノミラーを用いる。一方、レーザスポットをZ方向に移動(走査)する場合、対物レンズ、又は、対物レンズより上流に配置されたビームエキスパンダのレンズをZ方向(光軸)に沿って移動させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2010−538699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような、レーザスポットのZ方向の移動では、レンズ等の光学素子の移動を必要とする。このため、レーザスポットをZ方向に沿って高速に移動させる場合、レンズの移動における位置精度の高さ、レンズの移動に伴う振動の抑制が要求される。これらに対応するためには、装置構成が複雑化してしまう。
【0005】
本発明は、簡単な構成で、レーザスポットのZ方向の移動速度を向上させ、効率的に手術ができる眼科手術システムを提供することを技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために、以下の構成を有することを特徴とする。
(1) パルスレーザ光を出射するレーザ光源と、レーザ光をターゲット位置に照射させる照射光学系であって,レーザ光のスポットを3次元的に移動させる移動光学系を有する照射光学系と、を備え、レーザ光によって眼球組織を切断又は破砕する眼科用レーザ手術装置において、前記移動光学系は、前記レーザ光をターゲット位置に集光させ前記スポットを形成するための対物レンズと、前記レーザ光を発散光又は収束光として前記対物レンズに向けて導光させるための少なくとも1枚のレンズからなる第1レンズユニットと、該第1レンズユニットと前記対物レンズとの間に置かれ,前記第1レンズユニットと前記対物レンズとの間の光路長を変更させる光路長変更手段と、を備えることを特徴とする。
(2) (1)に記載の眼科用レーザ手術装置は、前記光路長変更手段と前記対物レンズとの間に置かれ,前記光路長変更手段を介して前記対物レンズに向かう前記レーザ光の発散状態または収束状態を変更するための少なくとも1枚のレンズからなる第2レンズユニットを備えることを特徴とする。
(3) (2)に記載の眼科用レーザ手術装置において、前記移動光学系は、前記レーザ光を2次元的に走査するための走査ユニットを有し、該走査ユニットは前記光路長変更手段を経た前記レーザ光を2次元的に走査させることを特徴とする。
(4) (1)乃至(3)の何れかに記載の眼科用レーザ装置において、前記光路長変更手段は、ーザ光の光路を偏向する反射面を持つ第1反射部材と、該第1反射部材の反射面に対して直交する反射面を持ち,前記第1反射部材によって偏向される前のレーザ光の光軸に対して45度の角度を成す反射面を持つ第2反射部材と、前記第1反射部材によって偏向されたレーザ光を前記第2反射部材に入射させるために2つの反射面を備える反射ユニットであって,前記第1反射部材の反射面と平行な反射面を持つ第3反射部材と、前記第2反射部材の反射面と平行な反射面を持つ第4反射部材と、を備える反射ユニットと、前記第1反射部材により反射されたレーザ光と前記第2反射部材に入射するレーザ光の光路長を変更するために,前記第1反射部材に反射されたレーザ光の光軸方向に沿って前記反射ユニットを移動させる駆動ユニットと、を備えることを特徴とする。
(5) (4)に記載の眼科用レーザ手術装置において、前記第1反射部材は、レーザ光を直角方向に偏向するように配置されている、ことを特徴とする。
(6) (4)又は(5)に記載の眼科用レーザ手術装置において、前記反射ユニットは、直角プリズムである、ことを特徴とする。
(7) (4)乃至請求項6に記載の何れかの眼科用レーザ手術装置において、前記第1反射部材と前記第2反射部材は、一体となった直角プリズムである、ことを特徴とする。
(8) (1)乃至(7)に記載の何れかの眼科用レーザ手術装置において、前記第1レンズユニットは、入射するレーザ光を発散光とする負の屈折力を有する、ことを特徴とする
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、簡単な構成で、レーザスポットのZ方向の移動速度を向上させ、効率的に手術ができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の実施形態である眼科用レーザ手術手術装置の概略構成図である。本実施形態の眼科用レーザ手術装置は、術眼の水晶体をレーザにより切断、破砕する装置である。
【0009】
眼科用レーザ手術装置100は、集光点でブレイクダウンを発生させる特性を有するパルスのレーザ光を出射するレーザユニット(レーザ光源)10、レーザ光を導光しターゲット(眼球組織)に照射するレーザ照射光学系(レーザ照射ユニット)20、術眼を観察するための観察光学系(観察ユニット)30、術眼を固定保持するための眼球固定ユニット40、装置100を操作するための操作ユニット50、装置100の設定・確認等を行う表示手段であるモニタ60、装置100を統括・制御する制御部70、を備えている。
【0010】
レーザユニット10は、レーザの集光点(レーザスポット)でプラズマを発生させる(ブレイクダウンを起こす)超短パルスレーザを出射するレーザ光源である。レーザユニット10としては、フェムト秒からピコ秒オーダーのパルス幅のパルスレーザを出射するデバイスが用いられる。パルスレーザの集光点では、プラズマが発生し、ターゲット組織、ここでは、眼球組織である水晶体が切開、破砕される。
【0011】
照射光学系20は、パルスレーザのスポットを奥行方向(Z方向、光軸方向)に沿って移動させるためのビームエキスパンダユニット(以下、単にエキスパンダと記す)21と、パルスレーザ光のスポットをターゲット面で2次元的(光軸に直交するXY方向)に走査(偏向)する光スキャナ(走査ユニット)22と、レーザの光軸と観察光軸とを合致させるビームスプリッタ23と、レーザをターゲット面に結像させる(ターゲット面にレーザスポットを形成させる)結像光学系としての対物レンズ24と、術眼と接触するアプリケータ25と、を備えている。エキスパンダ21及び光スキャナ22によってレーザ光のスポットを術眼の水晶体内で三次元的に移動する移動光学系が構成される。
【0012】
エキスパンダ21は、対物レンズ24の上流(レーザユニット10側)で、かつ、光スキャナ22よりも上流に配置される。エキスパンダ21が備える光学素子を光軸に沿って移動させることによって、レーザのスポット位置をZ方向に沿って移動させる(詳細は後述する)。光スキャナ22としては、例えば回転軸が互いに直交する2つのガルバノミラーが用いられる。これにより、レーザスポットが、所定の2次元平面、ここでは、光軸に直交するXY平面上で走査されることとなる。なお、光スキャナとしては、レゾナントミラー、回転プリズム、ポリゴンミラーとガルバノミラーの組合せによるスキャナ、等を用いることもできる。ビームスプリッタ23は、レーザユニット(レーザ光源)10から出射されたレーザ光を反射し、照明光及び照明光の反射光を透過する特性を有するダイクロイックミラーとされる。対物レンズ24は、パルスレーザをミクロンからサブミクロンオーダーの微小なスポット径として、ターゲット面に結像させる役割を持つ。アプリケータ25は、透光性を有する(透明な)コンタクトレンズであり、術眼の角膜の圧平に用いられる。このとき、術眼の角膜はアプリケータ25の前面(接触面)から、一定の位置に位置決めされることとなる。従って、アプリケータ25は、眼球組織を固定保持すると共に、レーザ照射の位置決めをする役割を持つ。
【0013】
レーザのスポット位置でブレイクダウンが起こることにより、眼球組織にスポットサイズ程度の機械的破壊(亀裂等)が起こる。レーザのスポットは、光スキャナ22によりXY方向で移動され、エキスパンダ21によりZ方向に移動されることにより、3次元的に移動される(位置を変えられる)。眼球組織において、レーザスポットが3次元的に移動され、各スポットが繋げられることにより、眼球組織は3次元的な形状(予め設定されたレーザ照射のパターン)に切断される。レーザ照射のパターンについては詳細を後述する。
【0014】
観察光学系30は、2次元撮像素子を有するカメラ31と、ビームスプリッタ32、照明光源33、照明光、術眼での反射光を導光するための導光光学系である光学素子34、を備えている。ビームスプリッタ32は、照明光の一部を反射し、術眼からの反射光(照明光)の一部を透過する特性を持つ。本実施形態ではビームスプリッタ32は、ハーフミラーとされる。照明光源33は、可視光等の術眼の照明に適した照明光を発光する。カメラ31の2次元撮像素子は、例えば、照明光の波長に対して感度を有するイメージャとする。なお、照明光源33は、赤外光を発する光源であってもよい。照明光源が赤外光を発する場合にはカメラ31は赤外光を好適に受光可能なものが用いられる。なお、観察光学系30は、対物レンズ24を共用している。
【0015】
眼球固定ユニット40は、吸着リング41、アプリケータ25、を備えている。吸着リング41は、環状の部材であり、前眼部の強膜に当接する形状となっている。吸着リング41は、図示を略すポンプ等により吸引を受け、吸着リング41に眼球を吸い付けることで術眼を固定保持する。なお、アプリケータ25は、眼球固定ユニット40に共用されている。また、アプリケータは、リング41の内側に液体を充填する方式でもよい。この場合、レンズ(コンタクトレンズ)と角膜との間に液体が満たされ、角膜はレンズに圧平されない。
【0016】
操作ユニット50は、装置100の設定を行うための入力手段51と、レーザ照射のトリガ信号を入力するための照射指示スイッチとなるフットスイッチ52と、を備えている。入力手段51としては、モニタ60に表示された設定画面で、手術条件等を指定するポインティングデバイスであるマウス、手術条件等の数値、情報を入力するキーボード、等である。
【0017】
モニタ60には、カメラ31によって撮影された術眼の正面像(観察画像)が写しだされる。また、モニタ60には、手術条件、レーザの照射パターン、等が表示される。
【0018】
制御部70は、CPU(Central Processing Unit)であり、レーザユニット10、エキスパンダ21、光スキャナ22、カメラ31、照明光源33、リング41、が接続される。また、制御部70には、制御プログラム、レーザ照射のパターン、設定した手術条件、撮影画像、等を記憶するメモリ71が接続される。また、メモリ71には、別の測定装置により取得された測定データ等も記憶される。
【0019】
次に、レーザスポットのZ方向の移動について説明する。図2は、レーザスポットをZ方向に沿って移動させる光学系を説明する図である。図2では、説明の簡便のため、途中光路に設けられる各種光学部材(光スキャナ22、ミラー23、アプリケータ25等)は図示を略した。
【0020】
エキスパンダ(ビームエキスパンダユニット)21は、第1レンズユニットであるレンズ駆動,ミラー81、ミラー82、反射ユニット85、第2レンズユニットであるレンズ80B、反射ユニット85を移動させる駆動ユニット88、を備えている。
【0021】
レーザユニット10からのレーザ光のビームBは、平行光として、エキスパンダ21に入射する。レンズ80Aは、負の屈折力を備えるレンズ(第1レンズユニット)であって少なくとも1枚のレンズからなり、入射した平行光を発散光とする役割を持つ。レンズ80Aは、一定の焦点距離を持ち、光軸L上に固定的に配置されている。このため、レンズ80Aからは一定の発散角を持つ発散光が出射される。レンズ80Bは、本実施形態であは正の屈折力を備えるレンズ(第2レンズユニット)であって少なくとも1枚のレンズからなる。このようなレンズ80Bは、入射される発散光の発散状態を変更させ(ビーム径を小さくする方向に変更させ)、光スキャナ21(図示は略す)、対物レンズ24へと導光する役割を持つ。レンズ80Bは、一定の焦点距離を持ち、光軸L上に固定的に配置されている。対物レンズ24は、一定の焦点距離を持ち、光軸L上に固定的に配置されている。このため、対物レンズ24は、入射したレーザ光の発散角(又は収束角)に応じて、レーザスポットのZ方向での結像位置を変更する。
【0022】
レンズ80Aとレンズ80Bの間には、ミラー81及びミラー82と、反射ユニット85と、が配置される。本実施形態ではミラー81,82、及び反射ユニット85を、レンズ80Aと対物レンズ28との間の光路長を変更させる光路変更手段として機能させるようにしている。ミラー81は、光軸L上に固定的に配置される全反射ミラー(第1反射部材)であり、ミラー81に入射する前のレーザ光の軸を直角に偏向させるように配置される。ミラー81の反射面は、入射するレーザ光及び出射(反射)するレーザ光の軸(偏向前後のレーザ光の軸)に対して45度の角度を成している。
【0023】
レンズ80Aによる反射方向には、反射ユニット85が光軸方向に対して移動可能(光路長を変更可能)に配置される。また、ミラー82は、反射ユニット85にて反射されたレーザ光をレンズ80Bに向けて反射させるために光軸L上に固定的に配置される全反射ミラー(第2反射部材)である。ミラー82は、ミラー82の反射面が、ミラー81の反射面と直交するように配置されている。ミラー82は、ミラー82の反射面は、光軸L(ミラー81での偏向前のレーザ光の軸)に対して45度の角度を成すように配置されている。本実施形態では、ミラー81とミラー82は、反射面が直交すると共に、光軸Lに対してそれぞれ、45度の角度を成すように配置されている。
【0024】
反射ユニット85は、ガラスで作製された直角プリズムである。反射ユニット85は、ミラー81の反射面と平行な反射面を持つ反射部(第3反射部材)86と、ミラー82の反射面と平行な反射面を持つ反射部(第4反射部材)87を備えている。反射部86と反射部87の反射面は直交している。このため、反射ユニット85は、直角二等辺三角形の形状をしている。反射部86の反射面は、ミラー81により偏向されたレーザ光の軸に対して45度の角度を成している。反射部87の反射面は、ミラー82に入射するレーザ光が45度の角度となるように反射ユニット85の位置が決められている。反射部86及び87は、直角プリズム内に一体的に形成されている。反射ユニット85は、ミラー81からのレーザ光の方向は一致させた状態で、ミラー82へと反射する機能を有している。なお、直角プリズムにおいて、反射部86及び87は、全反射ミラーとなるようにコーティング処理されている。
【0025】
レンズ80Aを通ったレーザ光は、ミラー81で反射され直角方向に偏向され、反射部86で反射され直角方向に偏向される。反射部86にて反射されたレーザ光は、さらに反射部87で反射され直角方向に偏向され、ミラー82に向かう。ミラー82に反射され直角方向に偏向され、レンズ80Bを通過する。これにより、レーザ光は、レンズ80A通過時の光軸Lと同じ方向に偏向されて(戻されて)レンズ80Bへと到る。レーザ光は、対物レンズ24によってレーザスポットとされる。
【0026】
反射ユニット85には、駆動ユニット88により一方向に移動可能に保持される。駆動ユニット88は、ステッピングモータとスライダ(レール)等を含んでいる。駆動ユニット88は、ミラー81により偏向された後のレーザ光の光軸方向に沿って反射ユニット85を移動させる。
【0027】
駆動ユニット88が、反射ユニット85を移動させることにより、レンズ80Aとレンズ80B(対物レンズ24)の間の光路長が変更される。レンズ80Aから出射されたレーザ光は一定の発散角を持つ発散光となっているため、レーザ光の光路長の変更に伴って、レンズ80B上でのレーザ光のビーム径が変更される。レンズ80Bの焦点距離は一定であるため、入射したレーザ光のビーム径に応じて、レンズ80Bからのビームの発散角(又は収束角)が異なる。また、対物レンズ24の焦点距離は一定であるため、対物レンズ24に入射するレーザ光の発散角によって対物レンズ24により形成されるレーザスポットの位置(集光位置)がZ方向上で変わることとなる。
【0028】
このようなZ方向の焦点位置の移動について図2を用いて詳細に説明する。図2では、反射ユニット85の移動による光路長の変更状態を、実線部分と点線部分にて示している。。
【0029】
反射ユニット85が、実線で示される位置にあるとき、レンズ80Aを出射した発散光は、ミラー81、反射ユニット85の反射部86、反射部87、ミラー82、でそれぞれ反射(直角に偏向)され、レンズ80Bに到る。発散光は、レンズ80Bの屈折力によってビームを絞られ下流の光学素子に導光される(出射される)。ここで、レンズ80Bを出射するレーザ光は、平行光とされるものとする。従って、反射ユニット85の位置では、レンズ80Aからレンズ80Bまでの光路長が、レンズ80Aの焦点とレンズ80Bの焦点が一致する長さとなっている。レーザ光は、対物レンズ24によりターゲット面に結像される。このとき、レーザスポットは、対物レンズ24の焦点距離の位置に形成される。
【0030】
一方、反射ユニット85が、点線で示される反射ユニット85aの位置に配置される場合、レンズ80Aを出射した発散光はミラー81で反射され、反射ユニット85aの反射部で反射される。反射ユニット85a(点線部分)は、反射ユニット85(実線部分の位置)よりもミラー81及び82に近いため、光路長が短くなり、その結果レンズ80Bに向かうレーザ光のビーム径が小さくなる(発散角が小さくなる)。レンズ80Bから出射したレーザ光は、若干発散されて対物レンズ24に入射する。対物レンズ24は、発散したビームをより遠くに集光させる。言い換えると、レーザスポットは、反射ユニット85が実線で示される位置にある場合よりも奥側に形成される。
【0031】
以上のようにして、反射ユニット85を一方向に沿って移動させることによってレーザ光の光路長を変更し、レーザスポットの位置をZ方向に沿って移動させることができる。なお、反射ユニット85を一体的な部材(直角プリズム)とすることで、部材の配置精度が向上する。直角プリズムである反射ユニット85は、反射ユニット85に入射するレーザ光の方向と同じ方向のレーザ光を反射する構成であるため、反射ユニット85が、ミラー81により偏向されたレーザ光の軸に対して傾いて(反射ユニット85の移動方向の面に沿って傾いて)配置されていても、ミラー82に対して精度よくレーザ光を偏向できる。また、駆動ユニット88による反射ユニット85の移動動作において、反射ユニット85が振動しても、上記の関係が維持される。このため、反射ユニット85を高速で移動させても、レーザスポットがXY平面上でずれにくい。このため、簡単な構成でレーザスポットのZ方向の移動を高速化できる。さらに、反射ユニット85の移動によって、反射ユニット85に対するレーザ光の往路と復路の両方の光路長を変更することができる。このため、反射ユニット85の微小な移動により、レーザスポットのZ方向の位置を大きく(ここでは、2倍)変更できる。これにより、レーザスポットのZ方向の移動(走査)の頻度が多い照射パターンで一連のレーザ照射の速度を向上でき、手術時間を短くできる。例えば、Z方向でのレーザスポットの位置移動を終えた後に、XY方向の位置を変えて、XY上の別の位置でレーザスポットをZ方向に沿って移動させる照射パターンの高速化が望める。また、第1レンズ群を負の屈折力を持つレンズとすることによって、レーザ光を発散光とでき、第2レンズ群までの光路中でレーザ光が結像することがない。このため、反射ユニット85にパルスレーザによる損傷が起こりにくい。また、第2レンズ群を正の屈折力を持つレンズとすることによってビーム径を絞ることができる。これにより、レンズ80Bの下流の部材(例えば、光スキャナ22、対物レンズ24、等)のサイズを大きくする必要がなく、装置の大型化を抑制できる。
【0032】
以上のような構成を備える装置の動作について説明する。手術に先立ち、術者は手術条件、パターンを設定する。術者は、患者を手術台等に寝かせ、眼球固定ユニット40により眼球を固定する。術眼は吸着リンク41で保持され、アプリケータ25によって圧平される。フットスイッチ42が術者によって踏まれると、制御部70は、トリガ信号に基づいてレーザ照射を開始する。制御部70は、設定された手術条件及び照射パターンに基づいてレーザを照射する。制御部70は、照射パターンに基づいてレーザユニット10を制御すると共に、エキスパンダ21(駆動ユニット88)及び光スキャナ22を制御する。このとき、制御部70は、レーザスポットを、照射パターンにおける奥側から手前側に向かって移動させながら、レーザ照射を行う。術眼Eの水晶体組織(水晶体核及び嚢の一部)は切断、破砕される。レーザ照射が終わると、破砕された水晶体は、別の灌流吸引装置により除去され、術眼Eの嚢には眼内レンズが設置され、手術が終わる。
【0033】
なお、以上の説明では、ミラー81によって、レーザ光の光軸を直交する方向に偏向する構成としてが、これに限るものではない。反射ユニット85及びミラー82の向きがミラー81に対応し、対物レンズ24上でのビーム径を変更できる構成であればよい。
【0034】
なお、以上の説明では、ミラー81及び82をミラーで構成したが、これに限るものではない。ミラー81及び82の関係を維持して、レーザ光を偏向(反射)できる構成であればよい。ミラー81及び82を一体として直角プリズムであってもよい。この場合、プリズムの表面に反射コーティングをすることが好ましい。
【0035】
なお、以上の説明では、反射ユニット85を直角プリズムとしたが、これに限るものではない。反射部86及び87の関係を維持して、レーザ光の偏向する構成であればよい。個別のミラーにより、反射ユニットを構成してもよい。また、反射ユニット85を一体的に作製されたコーナーキューブとしてもよい。
【0036】
なお、以上の説明ではでは、術眼の水晶体を破砕する実施形態を例に挙げたが、これに限るものではない。術眼の眼球にレーザを照射し、組織の切開、破砕を行う構成であればよい。本発明を角膜、虹彩等を切除する装置に利用可能である。
【0037】
なお、以上の説明では、レンズ80Aを負の屈折力を持つレンズ、レンズ80Bを正の屈折力を持つレンズとしたが、この構成に限るものではない。第1レンズユニットは、光路長が変更される光路上においてレーザ光を発散または、収束させる構成であればよく、正の屈折力を持つ構成としてもよい。また、第2レンズユニット群は、対物レンズ24にレーザ光を導光する構成であれば、負の屈折力を持つ構成であってもよい。第1レンズユニットは、少なくとも1枚のレンズで構成されればよい。同様に、第2レンズユニットは、少なくとも2枚のレンズで構成さればよい。
【0038】
なお、以上の説明では、第2レンズユニットであるレンズ80Bを用いる構成としたが、これに限るものではない。レンズ80Bは必ずしも必要ない。対物レンズ24に入射するビームのビーム径が変更される構成であればよい。例えば、ミラー82の下流の近傍に対物レンズ24が配置される構成であってもよい。この場合、光スキャナ22の下流にエキスパンダ21を配置する構成とする。
【0039】
なお、以上の説明では、レーザとしてフェムト秒パルス種光レーザを用いたが、これに限るものではない。加熱を伴わず、対象物の材質も選ばず、ミクロンオーダの微細な加工が可能、透明対象物の内部加工が可能、等の特性を持つピコ秒パルス等の超短パルスのレーザビームを発するものであればよい。
【0040】
以上のように本発明は実施形態に限られず、種々の変容が可能であり、本発明はこのような変容も技術思想を同一にする範囲において含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施形態である眼科手術システムの概略構成図である。
【図2】レーザスポットをZ方向に沿って移動させる光学系を説明する図である。
【符号の説明】
【0042】
10 レーザユニット
21 ビームエキスパンダユニット
22 光スキャナ
80A、80B レンズ
81、82 ミラー
85 反射ユニット
88 駆動ユニット
100 眼科用レーザ手術装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルスレーザ光を出射するレーザ光源と、レーザ光をターゲット位置に照射させる照射光学系であって,レーザ光のスポットを3次元的に移動させる移動光学系を有する照射光学系と、を備え、レーザ光によって眼球組織を切断又は破砕する眼科用レーザ手術装置において、
前記移動光学系は、
前記レーザ光をターゲット位置に集光させ前記スポットを形成するための対物レンズと、
前記レーザ光を発散光又は収束光として前記対物レンズに向けて導光させるための少なくとも1枚のレンズからなる第1レンズユニットと、
該第1レンズユニットと前記対物レンズとの間に置かれ,前記第1レンズユニットと前記対物レンズとの間の光路長を変更させる光路長変更手段と、
を備えることを特徴とする眼科用レーザ手術装置。
【請求項2】
請求項1に記載の眼科用レーザ手術装置は、前記光路長変更手段と前記対物レンズとの間に置かれ,前記光路長変更手段を介して前記対物レンズに向かう前記レーザ光の発散状態または収束状態を変更するための少なくとも1枚のレンズからなる第2レンズユニットを備えることを特徴とする眼科用レーザ装置。
【請求項3】
請求項2に記載の眼科用レーザ手術装置において、前記移動光学系は、前記レーザ光を2次元的に走査するための走査ユニットを有し、該走査ユニットは前記光路長変更手段を経た前記レーザ光を2次元的に走査させることを特徴とする眼科用レーザ装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れかに記載の眼科用レーザ装置において、
前記光路長変更手段は、
ーザ光の光路を偏向する反射面を持つ第1反射部材と、
該第1反射部材の反射面に対して直交する反射面を持ち,前記第1反射部材によって偏向される前のレーザ光の光軸に対して45度の角度を成す反射面を持つ第2反射部材と、
前記第1反射部材によって偏向されたレーザ光を前記第2反射部材に入射させるために2つの反射面を備える反射ユニットであって,
前記第1反射部材の反射面と平行な反射面を持つ第3反射部材と、
前記第2反射部材の反射面と平行な反射面を持つ第4反射部材と、
を備える反射ユニットと、
前記第1反射部材により反射されたレーザ光と前記第2反射部材に入射するレーザ光の光路長を変更するために,前記第1反射部材に反射されたレーザ光の光軸方向に沿って前記反射ユニットを移動させる駆動ユニットと、
を備えることを特徴とする眼科用レーザ装置。
【請求項5】
請求項4に記載の眼科用レーザ手術装置において、
前記第1反射部材は、レーザ光を直角方向に偏向するように配置されている、
ことを特徴とする眼科用レーザ手術装置。
【請求項6】
請求項4又は請求項5に記載の眼科用レーザ手術装置において、
前記反射ユニットは、直角プリズムである、
ことを特徴とする眼科用レーザ手術装置。
【請求項7】
請求項4乃至請求項6に記載の何れかの眼科用レーザ手術装置において、
前記第1反射部材と前記第2反射部材は、一体となった直角プリズムである、
ことを特徴とする眼科用レーザ手術装置。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7に記載の何れかの眼科用レーザ手術装置において、
前記第1レンズユニットは、入射するレーザ光を発散光とする負の屈折力を有する、
ことを特徴とする眼科用レーザ手術装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−78398(P2013−78398A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−218700(P2011−218700)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000135184)株式会社ニデック (745)
【Fターム(参考)】