説明

眼科用剤

【課題】本発明は、光に不安定な薬物、特にベルベリンを含有し、該薬物の安定性が良好な眼科用剤を提供することを目的とする。
【解決手段】光に不安定な薬物を含有する眼科用組成物が、波長400nm以下の吸光度が0.5以上である樹脂製容器に充填されてなる眼科用剤とする。好ましくは、更に波長600nmの吸光度が1.0以下である樹脂製容器を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光に不安定な薬物を含有する眼科用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ベルベリン等の光に対して不安定な薬物は、十分遮光された容器に保存して安定性を確保するのが通常である。しかし眼科用剤は、異物試験が可能となるように容器は透明であることが必須であり、光が透過するため徐々に分解が進行し、安定性を保つことは困難である。
上記安定性をあげるため、WO91−1718号公報では、ホウ酸と多価アルコールを配合する光安定化方法が提案されているが、薬物によっては光による分解抑制が確保できない。
また、容器として着色されたものを使用することがあるが、着色容器が必ずしも光安定性に効果があるとは限らない。
【0003】
【特許文献1】WO91−1718
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、光に不安定な薬物を含有し、該薬物の安定性が良好な眼科用剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、特定の吸光度を有する樹脂製の容器本体を使用することによって、充填された光に不安定な薬物、特にベルベリン類を有する眼科用剤組成物の保存安定性(光による分解抑制)が良好となることを知見し本発明をなすに至ったものである。
すなわち、本発明は
【0006】
<1>光に不安定な薬物を含有する眼科用組成物が、波長400nm以下の吸光度が0.5以上である樹脂製容器に充填されてなることを特徴とする、眼科用剤。
<2>容器が、さらに波長600nmの吸光度が1.0以下である樹脂製容器であることを特徴とする<1>に記載の眼科用剤。
<3>容器の材質がポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート、アクリロニトリルスチレンおよびアクリロニトリルブタジエンスチレンのいずれか1種、これらの共重合ポリエステル、または2種以上の混合体で構成された容器である<1>または<2>に記載の眼科用剤。
<4>上記容器の材質が、アゾ系色素、フタロシアニン系色素,アントラキノン系色素から選ばれる色素及び/または紫外線吸収剤を0.00001〜0.5質量%含有する樹脂であることを特徴とする<1>〜<3>に記載の眼科用剤。
<5>着色された容器の色相が、黄〜緑、または茶色〜かっ色である<1>〜<4>に記載の眼科用剤。
を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の前記構成とすることによって、ベルベリン類等の光に不安定な薬物を含有し、それらの保存安定性(薬物の光による分解抑制)が良好な眼科用剤を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
(1)点眼液組成物
<光に不安定な薬物>
本発明に使用される光に不安定な薬物としては、ベルベリン類が好ましく挙げられる。
ベルベリン類は天然物由来の抗炎症剤として配合,防腐効力を高める効果もある薬物で、塩化ベルベリン、硫酸ベルベリン等が挙げられる。
ベルベリン類の配合量は、眼科用組成物中、0.0001〜0.1g/100mL、好ましくは0.0003〜0.05g/100mL,更に好ましくは0.0005〜0.025g/100mLである。この範囲で、溶解性、有効性、防腐効力増強効果などが優れ、本発明の容器に充填した際の光安定性も良好である。
【0009】
ベルベリン類の他、光に不安定な薬物としてビタミンA類(パルミチン酸レチノール、酢酸レチノール等)、ピリドキシン類(塩酸ピリドキシン等)、アズレン類(アズレンスルホン酸ナトリウム等)、コバラミン(シアノコバラミン、メコバラミン等)、プラノプロフェン等が挙げられ、これらも好適に使用することができる。

【0010】
<その他任意成分>
本発明には、前記光に不安定な薬物の他に、前記以外の薬物や添加剤を含有することができる。
【0011】
前記薬物としては、以下のものが挙げられる。
・抗ヒスタミン剤…マレイン酸クロルフェニラミン,塩酸ジフェンヒドラミン,塩酸レボカバスチン等
・抗炎症剤…グリチルリチン酸二カリウム,塩化リゾチーム,イプシロン-アミノカプロン酸,アラントイン,硫酸亜鉛,乳酸亜鉛等
・抗アレルギー剤…クロモグリク酸ナトリウム,フマル酸ケトチフェン,トラニラスト,アシタザノラスト,等
・抗充血剤…塩酸テトラヒドロゾリン,塩酸ナファゾリン,硝酸ナファゾリン等
・ビタミン類…天然ビタミンE,酢酸トコフェロール,パンテノール,パントテン酸ナトリウム,パントテン酸カルシウム,FAD,アスコルビン酸等
・アミノ酸類…L-アスパラギン酸カリウム,L-アスパラギン酸マグネシウム,L-アスパラギン酸マグネシウム・カリウム,アミノエチルスルホン酸(タウリン)等
・角膜保護剤…コンドロイチン硫酸ナトリウム,ヒアルロン酸ナトリウム等
・サルファ剤…スルファメトキサゾール,スルファメトキサゾールナトリウム,スルフィソキサゾール,スルフィソミジンナトリウム等
・局所麻酔剤…クロロブタノール
・無機塩類…塩化ナトリウム,塩化カリウム,塩化カルシウム,炭酸水素ナトリウム,炭酸ナトリウム,硫酸マグネシウム等
【0012】
眼科用剤に配合できる添加剤としては、以下の成分があげられる。
・清涼化剤、香料…メントール,カンフル,ボルネオール,ユーカリ油,カフェイン、ハッカ油,ハッカ水,ラベンダー油,ローズマリー油,ベルガモット油,リュウノウ,ゲラニオール等
・防腐剤…塩化ベンザルコニウム,塩化ベンゼトニウム,塩化セチルピリジニウム,アルキルアミノエチルグリシン,パラベン類,ソルビン酸類,グルコン酸クロルヘキシジン,ブチルヒドロキシトルエン,ブチルヒドロキシアニソール,フェニルエチルアルコール,アルキルポリアミノエチルグリシン,ベンジルアルコール等
・緩衝剤・pH調節剤…ホウ酸,ホウ砂,トロメタモール,リン酸,リン酸ナトリウム,リン酸水素ナトリウム,酢酸ナトリウム,塩酸,水酸化ナトリウム等
・安定剤…エデト酸ナトリウム,ポリエチレングリコール,グリセリン,プロピレングリコール等
・高分子化合物…ポリビニルアルコール,ポリビニルピロリドン,メチルセルロース,ヒドロキシプロピルメチルセルロース,ヒドロキシエチルセルロース等
これらは、本発明の効果を損なわず、眼科学的に許容される範囲の量、含有することができる。
【0013】
本発明の眼科用剤組成物は、好ましくは以下の物性を有することが好ましい。
・pH・・・4〜9、好ましくは5〜8、更に好ましくは6〜8
・浸透圧比・・・0.6〜3、好ましくは0.8〜2、更に好ましくは0.85〜1.55
・粘度・・・1〜50mPa・s
【0014】
(2)容器
本発明の眼科用剤は、前記眼科用組成物が口部を有する容器(本体)に充填され、さらに点眼口を有する中栓が前記点眼容器の口部に設置され、キャップ(スクリュータイプまたはワンタッチタイプ)により密閉される。あるいは、点眼口を有するキャップを容器に直接設置して密閉できるようにしても良い。
【0015】
<容器>
ベルベリン等の光に不安定な薬物の光安定性を向上させるため、本発明においては、特定の吸光度を有する樹脂製の容器を使用する。
具体的には、本発明の容器の吸光度は、波長400nm以下の吸光度が0.5以上であり、好ましくは1.0以上である。波長400nm以下の吸光度が0.5未満の場合、ベルベリン等の薬物の安定性が悪くなる。さらに好ましくは、波長600nmの吸光度が1.0以下、特に0.5以下の樹脂である。この範囲の吸光度を有する容器を使用すると、薬物の良好な安定性とともに、異物感検査が容易な透明性を有する容器が得られる。
【0016】
そのような容器は、色素や紫外線吸収剤を含有する樹脂を使用することにより、得ることができる。
本発明の眼科用剤容器本体として好ましい樹脂としては、透明性,成形性,使用性の点から、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリアリレート(AR)、アクリロニトリルスチレン(AS)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、およびそれらの共重合体や混合物等が挙げられる。これらのうち、更に好ましくはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートである。
【0017】
樹脂の吸光度を上記吸光度とする具体的手段としては、色素、紫外線吸収剤を樹脂に配合する手段、着色フィルムをシュリンクラップ加工等により容器に巻きつける手段、シリカ、酸化亜鉛、酸化チタン等を蒸着等によりコーティングする手段などがあり、特に容器に直接色素、紫外線吸収剤等を練りこんで配合する手段が好ましい。樹脂に練りこんで透明性を確保できる色素としては、疎水性染料が好ましい。色素の種類としては、ニトロ系、ベンゼンアゾ系、ナフタレンアゾ系、アゾ系、スチルベン系、トリフェニルメタン系、キサンテン系、キノリン系、ポリメチン系、アゾメチン系、チアゾール系、キノンイミン系、アントラキノン系、インジゴイド系、フタロシアニン系などの疎水性染料が挙げられる。具体的には、フタロシアニン系色素(主に青色〜紫色)、アゾ系色素(主に黄色〜赤色)、アントラキノン系色素(主に黄色〜紫色)などを好ましく使用することができる。
【0018】
フタロシアニン系色素としては青色404号、アゾ系色素としては、黄色205号、黄色401号、黄色404号、黄色405号、黄色5号、黄色406号、黄色4号、黄色402号、黄色407号、だいだい色203号、だいだい色401号、だいだい色403号、だいだい色205号、だいだい色402号、だいだい色204号、赤色221号、228号、404号、225号、501号、505号、202号、203号、204号、205号、206号、207号、208号、219号、220号、405号、2号、102号、201号、227号、502号、503号、504号、506号、かっ色201号、が挙げられる。
アントラキノン系色素としては、青色204号、青色403号、紫色401号、紫色201号、緑色201号、緑色202号などがあげられる。
【0019】
これらを組み合わせて、黄色、黄緑、緑、茶色、かっ色の色相となるよう、調整することが好ましい。
前記色素の配合量は、色素の合計が樹脂全体に対して好ましくは0.00001〜0.5質量%、より好ましくは0.0001〜0.2質量%、特に好ましくは0.0005〜0.1%である。この範囲で、薬物の光安定性と透明性が特に良好である。
【0020】
紫外線吸収剤としては、フェニルサリチレート、4-t-ブチルサリチレート、p-オクチルフェニルサリチレートなどのサリチル酸誘導体、2-ヒドロキシ-4-オクトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-オクタデシロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-ドデシロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-5-クロロベンゾフェノン、2,4-ジベンゾイルレゾルシノール、4,6-ジベンゾイルレゾルシノールなどのベンゾフェノン誘導体、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3’,5’-tert-ブチル-2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-tert-アミルフェニル)ベンゾトリアゾールなどのベンゾトリアゾール系誘導体、芳香族エステル化合物、ヒンダードアミン系光安定化剤、商品名チヌビン(R)に代表される樹脂添加用紫外線吸収剤、光安定化剤などがあげられる。
上記紫外線吸収剤の配合量合計は、樹脂全体に対して0.01%〜5%、好ましくは0.1〜3%である。配合量が多すぎると容器表面からの溶出など、安全性に問題が生じる場合がある。
【0021】
<中栓、キャップ>
本発明の眼科用剤の容器に使用する中栓、キャップは、公知の眼科用剤容器に使用される材質のキャップを使用することができるが、本発明の目的からすれば、遮光性がある半透明または不透明なものを使用することが好ましい。
中栓の材質としては、メルトフローレート2.0以下、好ましくは1.2〜1.8のポリエチレン、ポリプロピレンが好ましく使用される。
キャップの材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレンが好ましく使用される。
これらの樹脂に、酸化チタン、酸化亜鉛、色素、顔料、紫外線防止剤、帯電防止剤、可塑剤などを練りこんだもの、塗装、蒸着、コーティング、被服等を施すことにより光が透過しにくいように加工した材質が好ましく使用される。
【実施例】
【0022】
表1に記載した点眼剤組成物を、表2に示した容器に充填し、塩化ベルベリンの保存安定性を評価した。
<保存条件> 日光暴露1ヶ月
<塩化ベルベリン残存率測定方法>
液体クロマトグラフ法により保存前後の塩化ベルベリン濃度を定量し、残存率を求めた。
<容器吸光度測定法>
容器の肉厚が最も薄く平滑となる面が、光線に対して垂直となるように吸光光度計に設置し、波長400nm以下の吸収スペクトルおよび波長600nmにおける吸光度を測定した。なお、本試験にて測定した容器は、波長400nm以下の吸光度の最小値はいずれも波長400nmにて観測されたため、以下の実施例では400nmにおける吸光度の値を記載した。
<透明性評価基準>
日本薬局方「プラスチック製医薬品容器試験法」の透明性試験第2法に従い判定した。

【0023】
【表1】





【0024】
【表2】

【0025】
本発明の他の実施例を表3,表4に示した。

【0026】
【表3】

【0027】
【表4】


ヒドロキシプロピルメチルセルロース:信越化学工業(株)製 メトローズ60SH−4000
ポリビニルピロリドン:BASF社製 Kollidon90F
ヒドロキシエチルセルロース:HERCULES社製 NATROSOL 250 G Pharm
ベルベリン安定性:◎…99%以上,○…95%〜99%未満,△…90%〜95%未満,×…90%未満

【0028】
組成16の眼科用剤組成物について、蛍光灯下(1500ルクス)にて1週間保存後、液体クロマトグラフ法によりプラノプロフェン含量を定量し、残存量を求めたところ、表6に示す通り、容器1に充填した場合の残存率は約60%程度であるのに対し、容器2、3、5に充填した場合は残存率は90%以上であり、安定性が良好であった。

【0029】
【表5】

【0030】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
光に不安定な薬物を含有する眼科用組成物が、波長400nm以下の吸光度が0.5以上である樹脂製容器に充填されてなることを特徴とする、眼科用剤。
【請求項2】
容器が、さらに波長600nmの吸光度が1.0以下である樹脂製容器であることを特徴とする、請求項1に記載の眼科用剤。
【請求項3】
容器の材質がポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート、アクリロニトリルスチレンおよびアクリロニトリルブタジエンスチレンのいずれか1種、これらの共重合ポリエステル、または2種以上の混合体で構成された容器である請求項1または2に記載の眼科用剤。
【請求項4】
上記容器の材質が、アゾ系色素、フタロシアニン系色素,アントラキノン系色素から選ばれる色素及び/または紫外線吸収剤を0.00001〜0.5質量%含有する樹脂であることを特徴とする請求項1〜3に記載の眼科用剤。
【請求項5】
着色された容器の色相が、黄〜緑、または茶色〜かっ色である請求項1〜4に記載の眼科用剤。
【請求項6】
光に不安定な薬物がベルベリンである、請求項1〜5に記載の眼科用剤。

【公開番号】特開2008−154810(P2008−154810A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−347299(P2006−347299)
【出願日】平成18年12月25日(2006.12.25)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】