説明

眼科用用途のための局所薬物送達システム

水不溶性薬物の混合ナノミセル製剤を包含する眼科用用途のための局所薬物送達システムおよび後部眼区分に影響を及ぼす疾患を処置する方法が開示される。実施態様において、眼科用水溶液は、pH5.0〜8.0の生理学的に許容し得る緩衝液におけるナノミセルを含んでおり、ここで約0.01 % w/v〜約1.00 % w/vの濃度のコルチコステロイドが、該疎水性コアから伸びる親水性鎖から構成される外層(corona)を有する混合ミセルの疎水性コア内への封入により可溶化されており、該ナノミセルは、約1.0 % w/v〜約3.0 % w/vの濃度範囲のオクトキシノール-40により安定化された約3.0 % w/v〜約5.0 % w/vの濃度範囲のビタミンE TPGSを包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明に開示された実施態様は、局所薬物送達システム、より具体的にはコルチコステロイドの混合ナノミセル製剤、および後部眼区分に影響する疾患を処置する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術
眼科用マーケットには、薬物を点眼薬およびその他の従来の眼科用製剤を用いて送達できる緑内障などの前眼部の症状;ならびに加齢性黄斑変性症(AMD)および糖尿病性黄斑浮腫(DME)などの硝子体または後眼部に影響を及ぼす網膜疾患が含まれ、これらは西洋での失明の主要病因である。
【0003】
眼の前面に対する疾患および損傷は、米国において医療的眼科処置のために来院する主要原因である。これらの疾患および損傷は、最も痛みが伴う眼の症状の一つに位置づけられ、障害および失明を引き起こし得る。眼表面の主な臨床的問題には、眼表面の乾燥、涙液層異常および関連合併症;病理学および瘢痕化の原因となる眼表面の創傷;角膜変性ジストロフィーおよび遺伝的疾患;炎症性疾患;および外側の眼の感染が挙げられる。眼の疾患および損傷は、痒み、涙眼から視覚障害にわたる範囲の兆候を有し得る。それ故に、なんらかの疾患が次第に悪化するか、または他の重大な問題の誘因となり得るので、眼の問題を迅速に解決することが重要である。殆どの眼疾患に関する薬理学的管理には、液滴として眼の表面へ溶液を局所適用することが挙げられる。前眼部の組織に最終的に到達する局所適用される該薬物用量が比較的少量であるにも関わらず、一般的に投与される薬物濃度が非常に高いため、局所製剤は有効性を維持する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
網膜および脈絡膜などの後眼部の組織に対する疾患および損傷は、先進工業国において多くの最も一般的な失明疾患に関与している。加齢性黄斑変性症(AMD)は、単独で1000万人以上のアメリカ人に影響を及ぼしている。AMDおよび後眼部に影響を及ぼす他の疾患、例えば糖尿病網膜症、緑内障および網膜色素変性症などに由来する重度の視力低下は、世界中で不可逆的な失明に関する大部分の症例を占めている。現在、後眼部疾患の処置は、後眼内の標的組織に薬物の有効用量を送達する際の困難性により大幅に制限される。一方新規薬物はこれらの疾患の処置のために出現しているが、現在の標準的治療は、硝子体への直接的注射による投与である。この種の治療方法は、患者に多大な我慢を強いるだけでなく、組織損傷および感染の高いリスクを伴う。局所用点眼滴は、後眼部に到達することは稀であり、血液-眼の関門は全身投与される薬物を眼の組織を通過するのを防止する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(概要)
本発明に開示された実施態様は、コルチコステロイドの混合ナノミセル製剤を含む眼科用用途の局所薬物送達システムおよび後部眼区分に影響を及ぼす疾患を処置する方法に関する。
【発明の効果】
【0006】
本明細書に示した態様に従って、pH5.0〜8.0の生理学的に許容し得る緩衝液中のナノミセルを包含する眼科用水溶液が開示される、ここで該約0.01 % w/v〜約1.00 % w/vの濃度のコルチコステロイドは、該疎水性コアから伸びる親水性鎖から構成される外層(corona)を有する混合ミセルの疎水性コア内への封入により可溶化されており、ここで該ナノミセルは、約1.0 % w/v〜約3.0 % w/vの濃度範囲のオクトキシノール-40により安定化された約3.0 % w/v〜約5.0 % w/vの濃度範囲のビタミンE TPGSを含む。実施態様において、該眼科用水溶液は、pH6.6〜7.0を有する。
【0007】
本明細書に示した態様に従って、約0.01 % w/v〜約1.00 % w/vの濃度範囲のコルチコステロイド; 約3.0 % w/v〜約5.0 % w/vの濃度範囲のビタミンE TPGS;および 約1.0 % w/v〜約3.0 % w/vの濃度範囲のオクトキシノール-40を包含する点眼薬が開示され、ここで該コルチコステロイドは、該ビタミンE TPGS および該オクトキシノール-40の混合ミセルの疎水性コア内への封入により可溶化される。実施態様において、ウサギへの点眼薬の単回用量の投与後に、後部の網膜-脈絡膜中のデキサメタゾン組織レベルは、少なくとも 30 ng/gの濃度に等しい。
【0008】
本明細書に示した態様に従って、生理学的に許容し得るpH5.0〜8.0を有する緩衝液中にナノミセルを含む単回用量の眼科用水溶液を包含するキットが開示される、ここで約0.01 % w/v〜約1.00 % w/vの濃度のコルチコステロイドは、該疎水性コアから伸びる親水性鎖から構成される外層を有する混合ミセルの疎水性コア内への封入により可溶化されており、ここで該ナノミセルは、約1.0 % w/v〜約3.0 % w/vの濃度範囲のオクトキシノール-40により安定化された約3.0 % w/v〜約5.0 % w/vの濃度範囲のビタミンE TPGSを含み、ここで該単位用量は、医薬上許容し得る包装材から製造されたバイアル内に含まれる。実施態様において、単位用量は約50 μLである。
【0009】
本明細書に示した態様に従って、生理学的に許容し得るpH5.0〜8.0の緩衝液中にナノミセルを含む有効量の眼科用水溶液を患者の眼に投与することを包含する後眼部眼の症状を処置するための方法を開示するものであり、ここで約0.01 % w/v〜約1.00 % w/vの濃度範囲のコルチコステロイドが、該疎水性コアから伸びる親水性鎖から構成される外層を有する混合ミセルの疎水性コア内への封入により可溶化されており、ここで該ナノミセルは、約1.0 % w/v〜約3.0 % w/vの濃度範囲のオクトキシノール-40により安定化された約2.0 % w/v〜約5.0 % w/v の濃度範囲のビタミンE TPGSを含む。
【0010】
本明細書に示した態様に従って、コルチコステロイド担持ナノミセルの水溶液を含む本開示内容の製剤を眼に局所的に適用すること;該コルチコステロイド担持ナノミセルを、強膜の水性チャンネル/コアから受動拡散により移行させること;該コルチコステロイド担持ナノミセルをエンドサイトーシスにより、脈絡膜から網膜色素上皮の基底外側へと移行させること;該コルチコステロイドを、該ナノミセルから該網膜色素上皮中へと排出すること;および該後眼部疾患を処置すること、を包含する後眼部疾患を処置する方法を開示するものである。
【0011】
(図面の簡単な説明)
本明細書に開示した実施態様に従って、添付の図面を参照してさらに説明されるが、図面において同等の構造はいくつかの図表を通じて同等の数字等により示される。提示された図面は、本発明に開示された実施態様の原理を説明するために取り扱われる他は重点をおく必要はない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本開示内容の製剤を用いる、眼の強膜の水性チャンネル/孔からの局所適用した疎水性薬物の透過性ならびに結膜/脈絡膜血管およびリンパ管の回避に関する実施態様の略図である。
【0013】
上記に規定した図面は本明細書に開示した実施態様を示すものであるが、その他の実施態様も議論されたとおりに理解される。この開示は、代表的な説明の例示として存在しており、制限されるものではない。多くの他の改変および実施態様は、当業者により考えられ、本発明に開示された実施態様の範囲および基本的な精神の範囲内に全て存在し得る。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(発明の詳細)
本発明の実施形態は、水不溶性(疎水性)薬物を含む刺激性のない混合ナノミセルに関する。疎水性薬物の可溶化は、該疎水性コアから伸びる親水性鎖から構成される外層を有する混合ミセルの疎水性コア内への封入により達成される。実施態様において、該ナノミセルは、2つの非イオン性界面活性剤;規定した比率にて、約10を超えるHLB指数を有する第一の非イオン性界面活性剤および約13を超えるHLB指数を有する第二の非イオン性界面活性剤から構成される。実施態様において、第一の非イオン性界面活性剤のHLB指数および第二の非イオン性界面活性剤のHLB指数の間の絶対相違は、約3を超える。実施態様において、第一の非イオン性界面活性剤は、主に球状構造として作用し、第二の非イオン性界面活性剤は、第一の非イオン性界面活性剤の2つのポリマー鎖の間にそれ自体を挿入することによりナノミセル構造に強度を付与する。実施態様において、ナノミセルにとって好適な担体は水溶液である。かかる安定化は、光学的透明度を有する高疎水性の薬物の水溶液の形成をもたらすと考えられる。本開示のナノミセルの水溶液は、緩衝剤、等張剤、界面活性剤、キレート剤、抗生物質、抗感染剤、診断薬および保存剤を含めた他の成分を含み得るが、これらに限定するものではない。まとめると、所望により他の成分(上記した)を包含する本発明の混合ナノミセル水溶液は、本発明の「製剤」として知られる。
【0015】
実施態様において、本発明の混合ナノミセルは、少なくとも一つのコルチコステロイドを担持する。実施態様において、該少なくとも一つのコルチコステロイドは、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、プレドニソン、トリアムシノロン、ベタメタゾン、ブデソニド、およびデキサメタゾンからなる群から選択される。実施態様において、本発明の混合ナノミセルは、該コルチコステロイドデキサメタゾンを担持する。実施態様において、本発明の混合ナノミセルは、コルチコステロイドの溶解性およびバイオアベイラビリティーを実質的に改善できる。実施態様において、デキサメタゾンを含む本発明の混合ナノミセルは、約10倍までデキサメタゾンの溶解性を改善できる。
【0016】
実施態様において、約10 nm〜約20 nmの範囲のサイズを有する本発明の混合ナノミセルは、該コルチコステロイドの標的とする疾患組織への効率的な蓄積を可能とする。実施態様において、本開示の混合ナノミセル水溶液は、コルチコステロイドを、後眼部へ送達するために局所的に適用された薬物送達プラットフォームとして使用され得る。溶液は、好適な投薬形態、例えば点眼薬にて手動により眼に送達され得るか、または医薬物の計量投薬を可能とする好適な微液滴または噴霧装置により送達される。本明細書に開示された実施形態の製剤の局所投与後に、該コルチコステロイドは後眼部に到達することができることが判った。以下の実施例に示したように、水晶体および硝子体液内で有意なレベルをもたらさずに、有意に高いレベルのデキサメタゾンが該後眼部において見いだされ、該コルチコステロイドが眼から進む(going)従来経路を介して該後眼部に到達しないということを示唆している。それよりむしろ、薬物が、眼の周辺部に向かう非従来経路を介して後眼部に移行されると考えられる。従って、本発明に開示された実施形態の製剤は、後眼部の眼の症状を処置するために、患者の眼に局所適用するのに特に有用である。
【0017】
実施態様において、本発明に開示された製剤は、眼に局所的に適用される。実施態様において、本開示内容の製剤は、患者または対象における眼の症状を処置、低減、保護、改善および緩和するために使用される。実施態様において、本発明に開示された製剤は、後眼部障害および疾患の処置に使用される。実施態様において、本開示内容の製剤は、後眼部(後部)の眼の症状の処置に使用され、この症状には、例えば、特発性ブドウ膜炎、眼の表面の炎症、加齢性黄斑変性症(AMD、ウェットおよびドライ)、糖尿病性眼の症状、例えば糖尿病網膜症および黄斑、黄斑浮腫、緑内障、視神経炎、眼の高血圧、手術後の眼の痛みおよび炎症、後眼部新血管形成(PSNV)、増殖性硝子体網膜症(PVR)、高血圧性網膜症、サイトメガロウイルス網膜炎(CMV)、脈絡膜新生血管膜(CNVM)、血管の閉塞性疾患、網膜色素変性症、神経痛、加齢(例えば、筋弛緩薬および他の審美用製品)、痕跡性の眼表面の疾患、眼の感染、炎症性の眼疾患、眼の表面疾患、角膜疾患、網膜疾患、全身性疾患の眼の徴候、遺伝性の眼の症状、ならびに眼腫瘍を含むが、これらに限定されない。
【0018】
本開示内容の製剤局所投与後に、該薬剤は、該後眼部に到達することができるということが判る。局所投与後に後部眼の組織に到達する分子がとり得る次の2つの経路がある:(1)角膜、房水、水晶体、硝子体液および最終的には網膜を通過する眼内経路;および(2)該強膜、脈絡膜、および網膜を通過する結膜周辺の経強膜経路。疎水性薬物に対して、眼内経路は、親水性の間質が、経角膜吸収のための律速障壁となるために上手くいかないことが多い。さらに、前部および後部区分における房水が、反対方向に流れて、房水から水晶体へ、その後の該水晶体毛様小帯空間から硝子体液への分子の通過を妨害する、即ちこの好ましくない経路を引き起こす。該経強膜経路は、強膜の水性チャンネル/孔を介する受動拡散により、疎水性分子の後眼部の送達のためのより有望な経路を提供する。
【0019】
混合ナノミセル中に封入されたデキサメタゾンのような水不溶性薬物は、水中で両親媒性分子の球状構造を形成する。図1は、本開示の混合ナノミセルの水溶液を用いる眼の強膜の水性チャンネル/孔を介する局所適用された水不溶性薬物の透過性および結膜/脈絡膜血管およびリンパ管の回避に関する実施態様の代表的な概略図である。実施態様において、後眼部の眼の症状を処置する方法は、本開示内容の製剤を眼に投与すること(例えば、局所適用する)を包含し、該製剤は、水不溶性薬物を担持したナノミセルの水溶液;水不溶性薬物を担持したナノミセルを、該強膜の水性チャンネル/孔を介する受動拡散により移行させる;水不溶性薬物を担持したナノミセルを、エンドサイトーシスにより該脈絡膜から該網膜色素上皮の該基底外側に移行させる;該水不溶性薬物を、ナノミセルから網膜色素上皮に排出すること;および後眼部疾患を処置することを含む。実施態様において、ナノミセルの外層内の親水性鎖は、結膜/脈絡膜の血管およびリンパ管による流出を部分的に回避する。実施態様において、この制限された眼内部の薬物浸透は、本開示内容の製剤の局所適用の結果として達成される。実施態様において、この制限された眼内部の薬物浸透により、眼の水晶体および硝子体液内の水不溶性薬物が無視できる濃度となる。実施態様において、この制限された眼内部の薬物浸透は、実質的に同じ程度を維持する眼内圧(IOP)をもたらす、即ち本製剤の局所適用を理由とするIOPの増加はない。実施態様において、この制限された眼内部の薬物浸透は、白内障を進行させない。
【0020】
混合ナノミセル構造の外部表面は、親水性−OH群が該外部環境に突き出る。これらのミセルナノ担体は、その親水性外層に起因して、該強膜の水性チャンネル/孔を通過できると考えられており、これは約30 nm〜約300 nm のサイズの範囲にある。次いで、ナノミセルは、エンドサイトーシスを介して網膜色素上皮(RPE)の基底外側上で吸収され得る。該ミセルナノ担体の内容物は、細胞膜と融合後に細胞内部に排出される。また、この通過中に、該親水性ナノミセル外層は、結膜/脈絡膜の血管およびリンパ管による体循環への薬物排出を回避することを助けるとも考えられている。実施態様において、本開示内容の製剤は、疎水性薬物分子を、治療量にて網膜、ブッフ膜およびRPEへと送達できる。該混合ナノミセルは、角膜、水晶体、および硝子体を通過するというよりもむしろ結膜および強膜を優先的に通過して疎水性薬物を送達できるので、水晶体および硝子体内で無視できるレベルまたは検出できないレベルが観察される。それ故に、ここで開示される実施態様の製剤は、後眼部(後側部)の症状を処置するための、患者の眼への局所適用に特に有用である。
【0021】
本開示内容の製剤により処置される患者または対象は、ヒトまたは非ヒト動物を意味することができる。実施態様において、本開示は、それが必要なヒト患者における後眼部の眼症状を処置するための方法を提供する。実施態様において、本開示内容は、処置が必要な動物患者(例えば、イヌ、ウマ、ネコ、ウサギ、アレチネズミ、ハムスター、齧歯動物、鳥類、水棲哺乳類、ウシ、ブタ、ラクダおよび他の動物が含まれるがこれらに限定するものではない)における後眼部眼の症状の処置のための方法を提供する。
【0022】
本明細書において使用したとおり、用語「ミセル」および「ナノミセル」とは、界面活性剤分子の凝集体(またはクラスター)をいう。ミセルは、界面活性剤の濃度が臨海ミセル濃度(CMC)よりも高い場合にのみ形成する。界面活性剤は両親媒性である化学物質であって、疎水性および親水性基の両方を含むことを意味する。ミセルは、例えば球形状、円筒状、および円盤状の形態を含めた様々な形状で存在できる。少なくとも2つの異なる分子種を含んでいるミセルは、「混合ミセル」である。ナノミセルは、両親媒性分子の球状構造を水中で形成するナノメートルのサイズの範囲を有するコロイド状粒子である。
【0023】
重合性ミセルは、貧水溶性薬物を送達するための医薬用ナノ担体として利用され、これはミセルの疎水性内部コアに溶解され得る。このように、ミセルは、多様な疎水性(水不溶性)薬物の溶解性およびバイオアベイラビリティーを改良するように働くことができる(Lukynov et al., Polyethylene glycol-diacyllipid micelles demonstrate increased accumulation in subcutaneous tumors in mice. Pharm. Res. 2002, 19:1424-1429.)。小さなサイズのミセル(通常、約10〜約100 nm)は、カットオフサイズが0.22μmの膜を介する濾過によりミセルの滅菌に関する利点を提供する。混合ミセル製剤の別の実施態様は、例えばMu et al., 2005に記載されており、これは貧水溶性抗癌剤のカンプトセシンの混合ミセル製剤中にポリエチレングリコールホスファチジルエタノールアミンコンジュゲートおよびビタミンE TPGSを含んでいる(Mu et al., Int. J. Pharmaceutics 2005、306:142-149)。ミセルは1以上の重合性非イオン性界面活性剤から形成され得る。該ミセルサイズが可視光波長よりも小さいため、光が小さなミセルにより散乱されず、透明、清澄な溶液になると考えられる。
【0024】
本明細書において使用したとおり、用語「LX214」とは、強力なカルシニューリン阻害剤であるボクロスポリンの0.2%の局所製剤をいう。該局所製剤は、混合ナノミセルの非炎症性水溶液であり、該ナノミセルは、規定した量のオクトキシノール-40とビタミンE TPGSとの混合物を含んでいる。実施態様において、該局所的製剤は、光学的透明度を有する。実施態様において、該平均のナノミセルサイズは、約10 nm〜約30 nm、約12 nm〜約28 nm、約14 nm〜約26 nm、約16 nm〜約24 nm、約18 nm〜約22 nmの範囲である。
【0025】
本明細書において使用したとおり、用語「光学的透明度」とは、90%以上の1.0cmパスにおいて400nm波長の光の透過として規定される。本開示内容の眼科用水溶液は、高度の光学的透明度を有する。該溶液の光学的透明度は、可視光波長(約350 nm)の最小波長よりも一般的に小さいナノミセルサイズとなる。実施態様において、本開示内容の製剤は、パス長の約0.1%/ミクロンよりも低い吸収損失により実質的に透明である。実施態様において、本開示内容の製剤は、400 nmにて測定されたパス長の約0.05 %/ミクロンよりも低い吸収損失により実質的に透明である。
【0026】
HLB指数(親水性/親油性のバランス)は、非イオン性界面活性剤の親水性または親油性の測定として1950にGriffinにより導入された概念である。該HLB指数は、Marszallのフェノール滴定方法により実験的に決定され得る;"Parfumerie、Kosmetik", Vol. 60, 1979, pp. 444-448を参照されたい;別の文献は、Rompp, Chemistry Lexicon, 8th Edition 1983, p. 1750においても見出される。例えば米国特許番号第4,795,643号(Seth)を参照されたい。
【0027】
「処置すること」または「処置」は、症候の予防、治療、安定化、または改善が起こることを目的として対象(例えば、患者)を医学的に管理することを意味する。処置は、能動的処置、即ち特に疾患の改善を目的とする処置;緩和的処置、即ち疾患の治癒よりもむしろ症候の軽減のために設計された処置;予防処置、即ち疾患の予防を目的とする処置;および対症的処置、即ち、疾患の改善を目的として別の特定の追加治療を用いる処置を包含する。それ自体、「処置」はまた、疾患または障害の発病を遅延させること、または疾患または障害を阻害すること、それにより予防的価値を提供することをいう。
【0028】
本明細書において開示された実施形態において、治療上有効量は、処置が必要な対象の眼に局所適用される。「治療上有効量」とは、処置される疾患または症状に対して、個々の化合物または他の化合物との組合せのいずれかとして、治療効果または予防的価値を誘導するのに十分である治療剤の量をいう。この句は、この用量が、この病気を完全に根絶するべきであることを意味すると理解されるべきではない。治療上有効量は、とりわけ、本方法において使用される化合物の薬理学的特性、処置される症状、投与頻度、送達様式、処置される個々の特徴、疾患の重症度、および患者の応答によって変化する。
【0029】
眼の疾患を処置するために、本開示内容の製剤を、罹患した眼(両眼)に局所適用できる。ある実施形態において、該眼用製剤を、規定した容量、例えば、約10、20、35、50、75、100、150、または200 μlまたはそれ以上にて適用できる。適用頻度は、特に、処置される眼の疾患のタイプ、症状の重症度、年齢および患者の性別、製剤中の水不溶性薬物の量、および処置されるべき眼の組織における薬物動力学的プロファイルに依存する。ある実施形態において、該製剤を、1日あたり1回以上投与できる。該製剤を1日に1回以上投与する場合、投与頻度は、1日あたり2、3、4、8回までである。ある実施形態において、該製剤を1日あたり1〜4回投与できる。ある実施形態において、該製剤を、2日毎に1回投与できる。ある実施形態において、該製剤を4日毎に1回適用できる。ある実施形態において、該製剤を1週間に1回投与できる。特定の眼の障害について投与されるべき頻度および量を決定することは、当技術および内科医の判断の十分範囲内である。
【0030】
ある実施形態において、本開示内容の眼用製剤を、キットの形態において提供してもよい。それ自体、該キットは、容器、バイアル、単回用量ユニットまたは1つの溶液貯蔵器内に眼用製剤を含有し得る。キットは、計量された用量を投薬するためのディスペンサーならびに該製剤の投薬および用途のための指示書を含有し得る。実施態様において、該キットはまた、製剤の供給物(単位用量)を含有するキットの部分組立て構成要素(sub-assembly components)を含有する逐次的な分配手段、例えば一連の瓶、ボトル、容器またはアンプルなどの複数回の1日分のセットを提供する。
【0031】
実施態様において、本開示内容の製剤は、約0.01 % w/v〜約80 % w/v、約0.05 % w/v〜約16 % w/v、約0.10 % w/v〜約3.2 % w/v、約0.15 % w/v〜約0.60 % w/vの水不溶性薬物を含む。実施態様において、本開示内容の製剤は、約0.20 % w/vの水不溶性薬物を含む。実施態様において、本開示内容の製剤は、約0.10 % w/vの水不溶性薬物を含む。好適な水不溶性薬物の種類は、ペプチド、環状ペプチド(例えば、いくつかのカルシニューリン阻害剤)、エイコサノイド(例えば、プロスタサイクリンおよびプロスタグランジン)、抗炎症性薬物、免疫抑制薬物(例えば、いくつかのmTOR 阻害剤)、自律神経系の薬物(例えば、βブロッカー、αブロッカー、βアゴニスト、およびαアゴニスト)、抗血管新生薬、生物製剤、遺伝子治療剤 (例えば、ウイルスベクター)、抗感染剤 (例えば、抗真菌剤、抗生物質、および 抗ウイルス剤)、モノクローナル抗体およびそのフラグメント、レチノイド、RNAi、光感作剤、ステロイド(例えば、コルチコステロイド)、混合薬剤、免疫改変剤、化学治療剤、Gタンパク質受容体拮抗剤、受容体チロシンキナーゼ(RTK)阻害剤、成長ホルモン阻害剤、インテグリン阻害剤、Sdf1/CXCR4 経路阻害剤、nACh受容体拮抗剤、そのアナログまたは医薬上許容される塩、エステルまたはプロドラッグを含むが、これらに限定するものではない。実施態様において、該水不溶性薬物は、シクロスポリンA、ボクロスポリン、アスコマイシン、タクロリムス(FK506)、シロリムス(ラパマイシン)、ピメクロリムス、デキサメタゾン、そのアナログまたは医薬上許容される塩、エステルまたはプロドラッグの1つから選択される。実施態様において、該水不溶性薬物は、カルシニューリン阻害剤である。実施態様において、該カルシニューリン阻害剤は、ボクロスポリンである。実施態様において、該水不溶性薬物は、mTOR 阻害剤である。実施態様において、該mTOR 阻害剤は、ラパマイシンである。実施態様において、該水不溶性薬物はコルチコステロイドである。実施態様において、該コルチコステロイドは、デキサメタゾンである。該製剤は、さらに医薬用賦形剤、例えば、抗生物質、抗感染剤、診断薬および保存剤を包含するが、これらに限定するものではない。
【0032】
カルシニューリン阻害剤
カルシニューリンは、細胞内シグナル伝達経路に関与するカルシウム/カルモジュリン調節タンパク質ホスファターゼである。カルシニューリンに対する文献について、例えば、Rusnak and Mertz, Physiol. Rev. 80, 1483-1521 (2000) および Feske et al., Biochem. Biophys. Commun. 311, 1117-1132 (2003)を参照されたい。カルシニューリン阻害剤は、カルシニューリンホスファターゼ(PP2B、PP3)、即ち遺伝子調節に関連のある細胞性酵素を標的化することにより、適切な基質のカルシニューリン脱リン酸化を遮断する物質である。カルシニューリン阻害剤は、特に、T-細胞増殖を阻害する際に効果的であることがわかっており、この作用様式はカルシニューリン阻害剤の臨床効果に寄与して、慢性的な炎症を処置し、免疫抑制剤として作用する。
【0033】
本開示内容のカルシニューリン阻害剤は、好ましくはカルシニューリン阻害活性を有するイムノフィリン結合化合物である。イムノフィリン結合カルシニューリン阻害剤はイムノフィリンと共にカルシニューリンを阻害する複合体を形成する化合物、例えばシクロフィリンおよびマクロフィリンである。シクロフィリン結合カルシニューリン阻害剤の例示は、シクロスポリンまたはシクロスポリン誘導体(以後シクロスポリン)であり、マクロフィリン結合カルシニューリン阻害剤の例示は、アスコマイシンおよびアスコマイシン誘導体(以後アスコマイシン)であり、例えば Liu et al., Cell 66, 807-815 (1991) および Dumont et al., J. Exp. Med., 176, 751-780 (1992)を参照されたい。アスコマイシンおよびその製造は知られている。アスコマイシン(FR 520)は、例えば、米国特許第3,244,592号および欧州特許第EP 349061号に開示されるマクロライド抗生物質である。広範囲のアスコマイシン誘導体が知られており、これは真菌種のなかで天然であるか、または発酵方法の操作または化学誘導体化により得られる。アスコマイシン型のマクロライド類には、アスコマイシン、タクロリムス(FK506)およびピメクロリムスが挙げられる。
【0034】
シクロスポリンは、11個のアミノ酸から構成される真菌ペプチドである。1983以来免疫抑制剤として使用されてきた。シクロスポリンは、IL-2の産生を阻害する。シクロスポリンは、免疫応答性リンパ球、特にTリンパ球の細胞質タンパク質シクロフィリン(イムノフィリン)に結合する。シクロスポリンおよびシクロフィリンの複合体は、正常な環境の下ではインターロイキン-2の転写を誘導するカルシニューリンを阻害する。シクロスポリンはまた、リンホカインの産生およびインターロイキンの放出を阻害し、エフェクターT細胞の機能低下をもたらす。シクロスポリンは、急性の拒絶反応の処置に使用されるが、腎毒性のため、新規の免疫抑制剤に代替されることが多い。
【0035】
シクロスポリンおよびその製造は、例えば米国特許番号第4,117,118号に開示されている。当初土壌真菌類 Potypaciadium infilatumから抽出されたシクロスポリンは、環状の11のアミノ酸構造を有し、例えばシクロスポリンAからI、例えばシクロスポリンA、B、C、D および Gを包含する。シクロスポリンA (シクロスポリン;シクロ(L-アラニル-D-アラニル-N-メチル-L-ロイシル-N-メチル-L-ロイシル-N-メチル-L-バリル-((3R,4R,6E)-6,7-ジデヒドロ-3-ヒドロキシ-N,4-ジメチル-L-2-アミノオクタノイル-L-2-アミノブタノイル-N-メチルグリシル-N-メチル-L-ロイシル-L-バリル-N-メチルロイシル))は、ドライアイ症候群の処置に使用される市販購入し得る眼科用エマルジョン(Ding et al., US Pat. No. 5,474,979, Restasis(登録商標)) に利用される。Domb (米国特許第7,026,290号)は、少なくとも約8のHLB(親水性/親油性のバランス)および約5未満の低いHLBを有する界面活性剤界面活性剤を含むシクロスポリンの送達のための分散可能な濃縮物を開示する。
【0036】
本開示内容のシクロスポリンはまた、シクロスポリンアナログを包含する。例えば、シクロスポリンアナログは、Naickerらの米国特許第 6,998,385号に開示されており(これを出典明示により本明細書の一部とする)、これは特に興味深いものである。シクロスポリンアナログの好ましい例示は、ボクロスポリン(シクロスポリンA、6((2S,3R,4R)-3-ヒドロキシ-4-メチル-2-(メチルアミノ)-6,8-ノナジエノイン酸)−;特異的なトランス型ISATx247、トランス-ISA247 CAS RN 368455-04-3を包含する)であり、例えば、Naicker et al., 米国特許第7,429,562号に記述されており、これは出典明示により本明細書に組み込まれる。ボクロスポリンの別の組成物は、例えばNaicker et al., 米国特許第7,060,672号に記述されており、これは出典明示により本明細書の一部に組み込まれる。
【0037】
ボクロスポリン(“VCS”)は、次世代のカルシニューリン阻害剤である。この種類の他の分子と同様に、VCSは、免疫応答性リンパ球、特にTリンパ球を可逆的に阻害して、リンホカイン産生および放出を阻害する。この作用は、カルシニューリンの阻害により主に媒介され、ホスファターゼ酵素は細胞の細胞質に存在する。VCSは、より強力で、毒性が低いシクロスポリンAの半合成の誘導体である。
【0038】
タクロリムス(FK506)は、真菌生成物でもある別のカルシニューリン阻害剤であるが、マクロライドラクトン構造を有する。タクロリムス(Prograf(登録商標)、経口用、注射可能、Astellas Pharma US; および Protopic(登録商標)、局所用、Astellas Pharma US)は、肝臓、腎臓、心臓、肺 および 心臓/肺の移植と併せて免疫抑制剤として使用される。タクロリムスはまた、IL-2の産生を阻害する。タクロリムスは、イムノフィリン(FK結合タンパク質 12、FKBP12)に結合し、次いで該複合体がカルシニューリンに結合して、そのホスファターゼ活性を阻害する。
【0039】
アスコマイシンは、イムノマイシン、FR-900520、FK520とも呼ばれるが、強力な免疫抑制特性を有するタクロリムス(FK506)のエチルアナログでもある。アスコマイシンは、イムノフィリン、特にマクロフィリン-12と結合することにより作用する。アスコマイシンは、Th1 (インターフェロン-およびIL-2)およびTh2 (IL-4 および IL-10) サイトカインの産生を阻害することがわかる。さらに、アスコマイシンは、アトピー性応答の重要な細胞成分であるマスト細胞の活性化を優先的に阻害する。アスコマイシンは、より選択的な免疫調節効果をもたらす、すなわちアレルギー性接触皮膚炎の誘起段階を阻害するが、全身投与された場合には一次免疫応答を損なわない。
【0040】
ピメクロリムスは、アトピー性皮膚炎(湿疹)の処置に使用される免疫調節剤である。それは、商標名ElidelとしてNovartis(しかし2007年の初期からはカナダでは該分子をGaldermaが促販している)より市販されてから、現在のところ、局所用クリームとして入手できる。ピメクロリムスは、アスコマイシンマクロラクタム誘導体である。ピメクロリムスは、タクロリムスのように、マクロラクタム免疫抑制剤のアスコマイシン類に属しており、カルシニューリン経路によるT細胞活性化の阻害および多くの炎症性サイトカインの放出の阻害に作用し、こうして免疫性および炎症性シグナルのカスケードを防止する。
【0041】
実施態様において、カルシニューリン阻害剤、例えばシクロスポリンA、ボクロスポリン、アスコマイシン、タクロリムス、ピメクロリムス、そのアナログ、またはその医薬上許容される塩は、本開示内容の水性の非刺激性の混合ナノミセル製剤に利用される。実施態様において、該カルシニューリン阻害剤は、ボクロスポリンである。
【0042】
mTOR 阻害剤
この一般的な治療プロファイルを示す別の種類の化合物は、mTOR 阻害剤である。MTOR 阻害剤は、「ラパマイシンの哺乳類標的」(mTOR)として知られる分子標的を標的とする。この種の原型的な化合物はシロリムスである。
【0043】
シロリムス(ラパマイシン、Rapamune(登録商標)、経口用、Wyeth Pharmaceuticals, Inc.)は、放線菌類のStreptomyces hygroscopicusから単離された微生物の産生物である。シロリムスは、その免疫抑制効果から抗真菌剤として1970年代に初めて発見されたものであるが、抗生物質としての用途としては開発されていなかった。タクロリムスとの構造類似性により、結局、実験的な臓器移植におけるシロリムスの免疫抑制特性を技術者は調査することとなった(Gummert et al., 1999)。シロリムスはイムノフィリン(FK結合タンパク質12、FKBP12)と結合するが、該複合体は、mTOR 複合体1 (mTORC1)を直接結合することによりラパマイシン(mTOR) 経路の哺乳類の標的を阻害する。シロリムスは、インターロイキン-2 (IL-2)への応答を阻害し、それによりT-およびB-細胞の活性化を遮断する。これに対して、タクロリムスおよびシクロスポリンは、IL-2産生を阻害する。シロリムス(ラパマイシン)は、米国特許第5,387,589号でのKulkarniにおいて眼の炎症を処置する方法において開示されている。シロリムスを含む眼用処置のための製剤はDor et al., WO 2006/086744に開示されている。
【0044】
実施態様において、免疫抑制mTOR 阻害剤、例えばシロリムス(ラパマイシン)、テムシロリムス、エベロリムス、そのアナログ、またはその医薬上許容される塩が、本開示内容の水性の非刺激性の混合ナノミセル製剤に利用される。
【0045】
コルチコステロイド
コルチコステロイドとは、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、プレドニソン、トリアムシノロン、ベタメタゾン、ブデソニド、およびデキサメタゾンを含むが、これらに限定しない。副腎コルチコステロイドは、かかるホルモンと化学構造および生物活性において類似する、副腎皮質から抽出されたホルモンまたは合成物質である。コルチコステロイドは、類似した作用メカニズムを有する:それらは、細胞質において特異的なコルチコステロイド結合タンパク質と結合する。その後、これらの複合体は核へと輸送され、細胞DNAの別個の部分に結合する。コルチコステロイドは、一般的に化学構造に基づいて4つのクラスに分類される。
【0046】
プレドニゾロンは、主にグルココルチコイドおよび鉱質コルチコイド活性を有するコルチコステロイド薬物であり、広い範囲の炎症および自己免疫症状(喘息、ブドウ膜炎、リューマチ関節炎、潰瘍性大腸炎およびクローン病、ベル痙攣、多発性硬化症、群発性頭痛、および全身性エリテマトーデスを包含するが、これに限定しない症状)の処置に有用となる。プレドニゾロンアセテートの眼科用懸濁液は、滅菌性の眼科用懸濁液として製造される副腎皮質ステロイド生成物であり、眼の膨張、赤み、そう痒、およびアレルギー性反応を減少させるために使用される。
【0047】
メチルプレドニゾロンは、合成グルココルチコイド薬物である。大部分の副腎皮質ステロイドのように、メチルプレドニゾロンは、その抗炎症性効果として通常使用される。処方されるメチルプレドニゾロンについての病状のリストはむしろ長く、他のコルチコステロイド、例えばプレドニゾロンと類似している。
【0048】
プレドニゾンは、通常、経口摂取される合成コルチコステロイド薬物であるが、筋肉内注射により送達されてもよく、多くの様々な症状に使用され得る。主にグルココルチコイド効果を有する。プレドニゾンは、肝臓によりプレドニゾロンへと変換されるプロドラッグであり、これは活性薬物であり、かつステロイドでもある。
【0049】
トリアムシノロンは、経口投与、注射、吸入、または局所用軟膏またはクリームとして投与される合成コルチコステロイドである。
【0050】
ヒドロコルチゾンは、副腎皮質により産生されるステロイドホルモンである。ヒドロコルチゾンは、一般的には眼内(アレルギー、損傷または感染を理由とする)または耳内(湿疹を理由とする)の炎症の短期的処置に使用される。
【0051】
ベタメタゾンは、抗炎症性および免疫抑制特性を有する適度に強力なグルココルチコイドステロイドである。ベタメタゾンは、局所クリーム、軟膏、泡沫状、ローションまたはゲルとして適用し、そう痒(例えば、湿疹から)を処置する。
【0052】
デキサメタゾンは、強力な合成コルチコステロイドである。経口適用に基づく動物およびヒトの試験により、おおよそ6〜7倍のプレドニゾロンの有効性および少なくとも30倍のコルチゾンの有効性を持つことが示される。この化合物の有効性は、メチルラジカルおよびフッ素原子をプレドニゾロンラジカルに添加することにより達成される。MAXIDEX(登録商標) 0.1% (デキサメタゾン眼科用懸濁液)は、滅菌性の局所眼用懸濁液として製造される副腎皮質ステロイドである。
【0053】
実施態様において、コルチコステロイド、例えばプレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、プレドニソン、トリアムシノロン、ヒドロコルチゾン、ベタメタゾンおよびデキサメタゾンを、本開示内容の水性の非刺激性の混合ナノミセル製剤に用いる。実施態様において、該コルチコステロイドはデキサメタゾンである。
【0054】
実施態様において、本開示内容の混合ナノミセル製剤は、2つの非イオン性界面活性剤を包含する。実施態様において、本開示内容の混合ナノミセル製剤は、約10を超えるHLB指数を有する第一の非イオン性界面活性剤、および約13を超えるHLB指数を有する第二の非イオン性界面活性剤を包含する。実施態様において、約10を超えるHLB指数を有する第一の非イオン性界面活性剤は、様々な鎖長のポリエチレングリコールと様々な化学成分のエステルおよびエーテル結合を有するビタミンEの様々な化学誘導体から選択される。特に好ましいものは、約500および6000DaのPEG分子量を有するビタミンEトコフェロールポリエチレングリコールスクシネート(TPGS)誘導体である。実施態様において、約10を超えるHLB指数を有する該ビタミンE重合性誘導体は、ビタミンE トコフェロールポリエチレングリコール1000 スクシネート(ビタミンE TPGS、トコフェルソラン)である。実施態様において、ビタミンE TPGSは、該水不溶性薬物の可溶化に寄与し、水性条件にて眼の不快症状を減少させ得る。実施態様において、ビタミンE TPGSは、該組成物中に約0.01 % w/v〜約20 % w/v にて存在する。実施態様において、ビタミンE TPGSは、該組成物中に約1.0 % w/v〜約7.0 % w/vにて存在する。明細書全体をとおして、該用語、重量パーセント(wt%)とは、別途記載がなければ、単位容量(unit volume)あたりの量を指すものであると理解されよう。
【0055】
ビタミンE トコフェロールポリエチレングリコール1000 スクシネート(ビタミンE TPGS、トコフェルソラン、MWおおよそ1,513 g/mol,Eastman Chemical Co., Kingsport, Tenn)は、天然起源のビタミンEの水溶性誘導体である両親媒性の賦形剤である。ビタミンE TPGSまたはPEG化ビタミンEは、ビタミンE 誘導体であって、ここでポリエチレングリコールサブユニットは、コハク酸ジエステルによりビタミンE 分子の環状ヒドロキシルで結合される。ビタミンE TPGSは、約13のHLB 指数を有する両親媒性非イオン性界面活性剤である。様々な化学成分のエステルおよびエーテル結合を包含するビタミンE TPGSの様々な化学誘導体は、ビタミンE TPGSの規定に包含される。水溶性ビタミンEの起源として機能するほかに、ビタミンE TPGSは、乳化剤、可溶化剤、吸収増強剤、脂溶性薬物送達製剤のためのビヒクルとしての用途として示唆されてきた。ビタミンE TPGS は、FDA 承認生成物の成分である、GlaxoSmithKline PharmaceuticalsのAgenerse(登録商標)(Amprenavir、抗ウイルス HIV プロテアーゼ阻害剤)である。
【0056】
実施態様において、約13を超えるHLBを有する第二の非イオン性界面活性剤は、両親媒性ポリエチレングリコール(PEG)-アルキルエーテル界面活性剤またはポリエチレングリコール(PEG)-アルキルアリールエーテル界面活性剤である。一態様において、この界面活性剤は、約13を超えるHLBを有する PEG 5-100 オクチルフェニルエーテルから選択される。この態様において、PEG オクチルフェニル化合物は、オクトキシノール-9、オクトキシノール-10、オクトキシノール-11、オクトキシノール-12、オクトキシノール-13、オクトキシノール-16、オクトキシノール-20、オクトキシノール-25、オクトキシノール-30、オクトキシノール-33、オクトキシノール-40、オクトキシノール-70から選択される。特定の態様において、PEG-アルキルフェニルエーテル界面活性剤は、オクトキシノール-40である。実施態様において、オクトキシノール-40は、眼の不快感の低下および光学的に透明な安定な混合ミセル製剤の形成に関与する。別の態様において、約10を超えるHLBを有する界面活性剤は、PEG-5-100 ノニルフェニルエーテル; チロキサポール(エトキシ化 p-tert-オクチルフェノールホルムアルデヒドポリマー)、PEG-脂肪酸モノエステル界面活性剤、PEG-グリセロール脂肪酸エステル、およびPEG-ソルビタン脂肪酸エステルから選択される。PEG-脂肪酸モノエステル界面活性剤は、PEG-15 オレエート、PEG-20ラウレート、PEG-20オレエート、PEG-20ステアレート、PEG-32ラウレート、PEG-32オレエート、PEG-32 ステアレート、PEG-40ラウレート、PEG-40オレエート、およびPEG-40ステアレートが挙げられるが、これらに限定しない。PEG-グリセロール脂肪酸エステルには、PEG-15 ラウリン酸グリセリル、PEG-20 ラウリン酸グリセリル、PEG-30 ラウリン酸グリセリル、PEG-40 ラウリン酸グリセリル、およびPEG-20 ステアリン酸グリセリルが挙げられるが、これらに限定しない。PEG-脂肪酸ソルビタンエステルには、PEG-4 モノラウリン酸ソルビタン、PEG-4 モノステアリン酸ソルビタン、PEG-5 モノオレイン酸ソルビタン、PEG-20 モノラウリン酸ソルビタン、PEG-20 モノパルミチン酸ソルビタン、PEG-20 モノステアリン酸ソルビタン、およびPEG-20 モノオレイン酸ソルビタンが挙げられるが、これらに限定しない。実施態様において、約13を超えるHLBを有する第二の界面活性剤はオクトキシノール-40である。オクトキシノール-40は、市販製剤(Acular(登録商標)および Acular LS(登録商標) of Allergan, Inc., CA)において界面活性剤として使用される。オクトキシノール-40 (IGEPAL CA-897)は、約18のHLB 指数である。実施態様において、オクトキシノール-40は、該組成物中に約0.001 % w/v〜約10 % w/vにて存在する。実施態様において、オクトキシノール-40は、該組成物中に約0.01 % w/v〜約5.0 % w/vにて存在する。
【0057】
実施態様において、水不溶性(即ち、疎水性)薬物を含む本開示内容の製剤は、後眼部の眼の症状を処置する方法において眼に局所適用され得る。実施例に示されるように、本開示内容の製剤の局所的投与後に、該水不溶性薬物は、後眼部に到達することができる、即ち後眼部の眼の症状のための処置を提供できることが判った。実施態様において、該水不溶性薬物は、該製剤中に約0.01 % w/v〜約10 % w/v、好ましくは、約0.1 % w/v〜約3.0 % w/vの濃度にて存在する。実施態様において、該水不溶性薬物は、ボクロスポリンであり、該ボクロスポリンは、該製剤中に約0.02 % w/v〜約0.5 % w/vの濃度にて存在する。実施態様において、該水不溶性薬物はデキサメタゾンであり、該デキサメタゾンは、製剤中に約0.1 % w/v 〜約1.0 % w/vの濃度にて存在する。実施態様において、ビタミンE TPGSは、該製剤中に約0.001 % w/v〜約20 % w/v、約0.1 % w/v〜約5 % w/vの濃度にて存在する。実施態様において、オクトキシノール-40またはそのホモログ混合物は、該製剤中に約0.001 % w/v〜約10 % w/v、好ましくは、約0.01 % w/v〜約3.0 % w/vの濃度にて存在する。好ましくは、本発明で開示された実施形態の製剤中の界面活性剤の全量は、全組成物の30パーセント以下であり、残る主要成分は水である。
【0058】
実施態様において、本開示内容の製剤は、約0.2 % w/v のボクロスポリン、約2.5 % w/v のビタミンE TPGS、および 約2.0 % w/vのオクトキシノール-40を含む。実施態様において、本開示内容の製剤は、約0.5 % w/vのボクロスポリン、約3.5 % w/v のビタミンE TPGS、および 約2.0 % w/v のオクトキシノール-40を含む。実施態様において、本開示内容の製剤は、約2.0 % w/vにてボクロスポリンを含む。実施態様において、本開示内容の製剤は、約0.1 % w/v のデキサメタゾン、約4.5 % w/v の ビタミンE TPGS、および約2.0 % w/v のオクトキシノール-40を含む。実施態様において、本開示内容の製剤は、約0.2 % w/v の ラパマイシン、約4.5 % w/v のビタミンE TPGS、および約2.0 % w/v のオクトキシノール-40を含む。
【0059】
本開示内容の製剤はまた、他の成分、例えば緩衝液、滑剤、等張剤、抗感染剤、抗生物質、抗酸化剤、生体接着性ポリマー、増粘剤、湿潤剤および保存剤を含有できるが、これに限定するものではない。眼への局所適用のためのこの開示した混合製剤のいずれにおいても、該混合物は、約pH5から約pH8にて製剤されるのが好ましい。このpH範囲は実施例に記載したとおり、該混合物への緩衝物質の添加により達成され得る。実施態様において、該製剤における組成物中のpH範囲は、約pH 6.6〜約pH 7.0である。本開示内容の製剤を、任意の一般的な緩衝系、例えばリン酸塩、ホウ酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、炭酸塩およびホウ酸塩-ポリオール複合体により緩衝することができ、既知の技術に従って好適な生理学的値にpHおよびオスモル濃度が調整されることは理解されよう。本開示内容の実施態様の該製剤は、緩衝水溶液中で安定である。即ち、該組成物を不安定にさせる緩衝液と任意の他成分との間の有害な相互作用がない。
【0060】
等張剤には、例えばマンニトール、デキストロース、塩化ナトリウム、キシリトールおよびグリセロールが挙げられる。これらの等張剤は、該組成物のオスモル濃度を調整するために使用され得る。一態様において、本開示内容の製剤のオスモル濃度は、約75〜約 350 mOsmol/kgの範囲となるように調整される。
【0061】
実施態様において、本開示内容の製剤は、さらに1以上の生体接着性ポリマーを含む。生体接着とは、特定の合成および生物学的マクロ分子および親水コロイドが生物組織に接着する能力をいう。生体接着とは、ポリマー、生物組織および周囲環境の特性に部分的に依存している複雑な現象である。いくつかのファクターは、ポリマーの生体接着能に関与することが判った;水素架橋(-OH、COOH)を形成することができる官能基の存在、陰イオン電荷の存在および強度、粘膜層に浸透するための重合鎖に対する十分な弾力性、ならびに高分子量。生体接着システムは、歯科、整形外科、眼科、および外科的適用に用いられている。しかしながら、近年、他の領域、例えば軟組織を基にした人工置換物および生体活性剤の局所放出のための徐放システムにおける生体接着材の使用に大きな関心がもたれている。かかる適用には、口腔または鼻腔中へ薬剤の放出および経腸または直腸投与における薬物放出のためのシステムが挙げられる。
【0062】
実施態様において、生体接着性ポリマーを、所望により該製剤に導入して、該粘度を増強させ、それによって眼内の滞留時間を増加させる。本開示内容の生体接着性ポリマーには、例えば、カルボン酸重合体様のCarbopol(登録商標) (カルボマー)、Noveon(登録商標) (ポリカルボフィル)など;セルロース誘導体、例えばアルキルおよびヒドロキシアルキルセルロース様のメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどを含む;ローカストビーン(locust beam)の様なガム、キサンタン、アガロース、カラヤ、グアーなど;および他のポリマーには、例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、Pluronic(登録商標)(ポロキサマー)、トラガカント、およびヒアルロン酸などを包含するが、これらに限定しない;眼への封入された医薬の徐放性送達および放出制御送達を提供するための相遷移ポリマー(例えば、アルギン酸、カラギーナン(例えば、Eucheuma)、キサンタンとローカストビーンガムとの混合物、ペクチン、酢酸フタル酸セルロース、アルキルヒドロキシアルキルセルロースおよびその誘導体、ヒドロキシアルキル化ポリアクリル酸およびその誘導体、ポロキサマーおよびその誘導体等が挙げられる。これらのポリマーにおける物理的特性は、単独または他のファクターと併用して、環境因子、例えばイオン強度、pHまたは温度などの変化により媒介され得る。実施態様において、所望の1以上の生体接着性ポリマーは、該組成物中に約0.01 wt%〜約10 wt%/容量、好ましくは約0.1〜約5 wt%/容量にて存在する。実施態様において、該混合ナノミセル製剤は、例えば、PVP-K-30、PVP-K-90、HPMC、HEC、およびポリカルボフィルから選択される親水性ポリマー賦形剤を所望によりさらに含む。実施態様において、該ポリマー賦形剤は、PVP-K-90、PVP-K-30またはHPMCから選択される。実施態様において、該ポリマー賦形剤は、PVP-K-90またはPVP-K-30から選択される。
【0063】
実施態様において、保存剤が必要な場合には、所望により任意の十分知られた系、例えばEDTAを含む/含まないベンジルアルコール、塩化ベンザルコニウム、クロルヘキシジン、Cosmocil(登録商標)CQまたはDowicil(登録商標)200を用いて該製剤を保存してもよい。
【0064】
該組成物のための医薬上許容し得るパッキング材には、ポリプロピレン、ポリスチレン、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリカーボネート、塩化ポリビニリジン、および当業者には周知の他の材が挙げられるが、これに限定しない。実施態様において、該製剤は、成形同時充填(blow-fill-seal)技術を用いて無菌的に包装され得る。成形同時充填(BFS)とは、一体型の連続的な機械サイクルにて、空洞の容器が吹き込み成型され、滅菌生成物により充填されて封止される無菌充填過程をいうものであります。該技術は、従来の無菌充填および蓋付け操作に代わり、多くの場合に高い生産効率および処理効率による経費節約を提供する技術である。
【0065】
実施態様において、本開示内容の該製剤は、単回使用用のビン、小包、LDPE BFSバイアル、アンプル、LDPE BFS容器、またはHDPE BFS容器に充填される。
【0066】
実施態様において、反復投与は、複数の単回使用パッケージとして供給され得る。実施態様において、該製剤は、定量適用が可能なビン、容器または装置に、例えば局所的な眼科適用のための点滴器を備えた容器などに適宜詰められる。
【0067】
この正確な投薬計画は臨床医師の裁量に委ねられるが、本開示内容の製剤を各眼に1日に1〜4回1〜2滴以上の液滴を置くことにより局所適用することが勧められる。例えば、該製剤は、1日に1、2、3、4、5、6、7または8回、またはそれ以上適用されてもよい。実施態様において、本開示内容の製剤は、1〜2滴を各眼に1日1回または2回置くことにより局所的に適用される。
【0068】
実施態様において、本開示内容の製剤は、患者の眼に局所適用されて、この眼内へ移行して、眼の中間部分では無視できる薬物の蓄積量にて薬物を後眼部に放出する。実施態様において、眼の中間部では無視できる薬物の蓄積とは、少なくとも一つの房水、水晶体、および硝子体液中では無視できる薬物の蓄積をいう。本開示内容の製剤は、現行の治療と関連する副作用を有意に減少させて、後眼部の症状を処置できると考えられる。現行のコルチコステロイド治療の副作用は、白内障および眼の高血圧を包含するが、これらに限定するものではない。これらの副作用は、治療効果の低下および治療の中止を引き起こすことが多い。
【0069】
実施態様において、本開示内容の製剤を、後眼部に疎水性の水不溶性薬物を送達するための局所的に適用される薬物送達プラットフォームとして使用できる。実施態様において、本開示内容の製剤を、眼に局所適用する。実施態様において、本開示内容の製剤は、患者または対象における眼の症状を、処置、減少、改善および/または緩和させるために使用される。実施態様において、本開示内容の製剤は、後眼部の疾患を処置、減少、予防、改善および/または緩和させるために使用される。「後眼部(back-of-eye)」の疾患の例示には、とりわけ、黄斑浮腫、例えば血管造影嚢胞状黄斑浮腫(angiographic cystoid macular edema);網膜虚血および脈絡膜血管新生;黄斑変性;網膜疾患(例えば、糖尿病網膜症、糖尿病性網膜浮腫、網膜剥離);炎症性疾患、例えば未知の病因(特発性)のブドウ膜炎(全ブドウ膜炎を包含する)または脈絡膜症(多焦点脈絡膜症を包含する)または全身(例えば、自己免疫)疾患と関連のある;上強膜炎または強膜炎;バードショット(Birdshot)網膜脈絡膜症;血管疾患(網膜虚血、網膜血管炎、脈絡膜血管不全、脈絡膜血栓症);視神経の新血管形成;および視神経炎が含まれる。
【0070】
実施態様において、眼科用水溶液は、pH5.0〜8.0を有する生理学的に許容し得る緩衝液中のナノミセルを包含し、ここで約0.01 % w/v〜約1.00 % w/vの濃度のコルチコステロイドが、該疎水性コアから伸びる親水性鎖から構成される外層を有する混合ミセルの疎水性コア内への封入により可溶化される、ここで該ナノミセルは、約1.0 % w/v〜約3.0 % w/vの濃度範囲のオクトキシノール-40により安定化される約3.0 % w/v〜約5.0 % w/vの濃度範囲のビタミンE TPGSを含む。実施態様において、該眼科用水溶液は、pH6.6〜7.0を示す。
【0071】
実施態様において、点眼用製剤は、約0.01 % w/v〜約1.00 % w/vの濃度範囲のコルチコステロイド;約3.0 % w/v〜約5.0 % w/vの濃度範囲のビタミンE TPGS;および約1.0 % w/v〜約3.0 % w/vの濃度範囲のオクトキシノール-40を包含し、ここで該コルチコステロイドは、該ビタミンE TPGS および該オクトキシノール-40の混合ミセルの疎水性コア内への封入により可溶化される。実施態様において、ウサギへの点眼用製剤の単回用量の投与後に、後部の網膜-脈絡膜中のデキサメタゾン組織レベルは、少なくとも30 ng/gの濃度に等しい。
【0072】
実施態様において、キットは、pH5.0〜8.0の生理学的に許容し得る緩衝液中にナノミセルを含む単回用量の眼科用水溶液を包含し、ここで約0.01 % w/v〜約1.00 % w/vの濃度のコルチコステロイドが、該疎水性コアから伸びる親水性鎖から構成される外層を有する混合ミセルの疎水性コア内への封入により可溶化されている、ここで該ナノミセルは、約1.0 % w/v〜約3.0 % w/vの濃度範囲のオクトキシノール-40により安定化された約3.0 % w/v〜約5.0 % w/vの濃度範囲のビタミンE TPGSを含み、ここで該単位用量は、医薬上許容し得る包装材から製造されたバイアル内に含まれる。実施態様において、単位用量は約50 μLである。
【0073】
本開示内容のナノミセルの製造方法は、溶媒溶液を形成する溶媒中にコルチコステロイドと約10を超えるHLB 指数を有する第一の界面活性剤および約13を超えるHLB指数を有する第二の界面活性剤とを混合すること;溶媒溶液を蒸発させて、固体に近い物質を形成すること;固体に近い物質を水溶液で水和させること;および固体に近い物質を溶解させてナノミセル(ここで、該ナノミセルは光学的に透明である)を提供すること、を包含する。実施態様において、該コルチコステロイドは、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、プレドニソン、トリアムシノロン、ヒドロコルチゾン、ベタメタゾン、デキサメタゾン、そのアナログまたはその組合せのうちの1つから選択される。実施態様において、該コルチコステロイドはデキサメタゾンである。
【0074】
対象における眼の症状を処置、低下、改善または緩和するための方法は、pH5.0〜8.0を有する生理学的に許容し得る緩衝液中のナノミセルを包含する眼科用水溶液を提供すること、ここで約0.01 % w/v〜約1.00 % w/vの濃度のコルチコステロイドは該疎水性コアから伸びる親水性鎖から構成される外層(corona)を有する混合ミセルの疎水性コア内への封入により可溶化されており、該ナノミセルは、約1.0 % w/v〜約3.0 % w/vの濃度範囲のオクトキシノール-40により安定化される約3.0 % w/v〜約5.0 % w/vの濃度範囲のビタミンE TPGSを含む;ならびに、眼の症状を処置、減少、改善または緩和するのに十分な頻度にて該眼科用水溶液の量を対象に投与すること、を含む。実施態様において、眼の症状は、後眼部の症状または障害である。実施態様において、該コルチコステロイドは、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、プレドニソン、トリアムシノロン、ヒドロコルチゾン、ベタメタゾン、デキサメタゾン、そのアナログまたはその組合せの1つから選択される。実施態様において、該コルチコステロイドがデキサメタゾンである。
【0075】
対象における眼の症状を処置、低下、改善または緩和するための方法は、pH5.0〜8.0を有する生理学的に許容し得る緩衝液中のナノミセルを包含する眼科用水溶液を提供すること、ここで約0.01 % w/v〜約1.00 % w/vの濃度のコルチコステロイドは、該疎水性コアから伸びる親水性鎖から構成される外層(corona)を有する混合ミセルの疎水性コア内への封入により可溶化されており、該ナノミセルは、約1.0 % w/v〜約3.0 % w/vの濃度範囲のオクトキシノール-40により安定化される約3.0 % w/v〜約5.0 % w/vの濃度範囲のビタミンE TPGSを含む;ならびに眼の症状を処置、減少、改善または緩和するのに十分な頻度で該眼科用水溶液の量を対象に投与すること、を包含する。実施態様において、該コルチコステロイドは、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、プレドニソン、トリアムシノロン、ヒドロコルチゾン、ベタメタゾン、デキサメタゾン、そのアナログまたはその組合せの1つから選択される。実施態様において、該コルチコステロイドはデキサメタゾンである。
【0076】
後眼部疾患を処置する方法は、局所的に本開示内容の製剤、即ちコルチコステロイド担持ナノミセルの水溶液を含む製剤を眼に適用すること;コルチコステロイド担持ナノミセルを、該強膜の該水性チャンネル/孔を介する受動拡散により移行させること;コルチコステロイド担持ナノミセルをエンドサイトーシスにより該脈絡膜から該網膜色素上皮の該基底外側に移行させること;該コルチコステロイドを該ナノミセルから該網膜色素上皮に放出排出すること;ならびに後眼部疾患を処置すること、を包含する。実施態様において、該コルチコステロイドは、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、プレドニソン、トリアムシノロン、ヒドロコルチゾン、ベタメタゾン、デキサメタゾン、そのアナログまたはその組合せの1つから選択される。実施態様において、該コルチコステロイドはデキサメタゾンである。
【0077】
ここに開示された実施形態は、以下の実施例に記載されるが、これは本開示内容の理解を補足するために示されたものであり、後記する特許請求の範囲に規定される開示範囲をいずれにおいても制限すると理解されるべきではない。以下の実施例は、記載された実施形態の実施方法および使用方法の開示および記述により、当業者の理解を提供できるように示したものであって、発明者がこの発明として見なす範囲を限定するものでも、以下の実験が全てのまたは唯一の行った実験であることを意図するものでもない。使用した数値に関する精度を確実にするための努力は払われているが(例えば、量、温度など)、ある程度の実験誤差および偏差は考慮されるべきである。別途記載がなければ、部とは重量部であり、分子量とは重量平均分子量であり、温度とは摂氏温度であり、および圧力とは大気圧または準大気圧である。
【実施例】
【0078】
実施例
一般的には、全ての試薬は市販購入可能であり、別途記載がなければさらなる精製なしに使用できる。ボクロスポリンを、Isotechnika, Inc.(Edmonton, Alberta, Canada)から得た。Isotechnikaから入手したストックを、Lux Biosciences(the New Jersey Center for Biomaterials at Rutgers University)にて保存した; シクロスポリンA をXenos Bioresources, Inc., Santa Barbara, CA から得た;シロリムスおよびタクロリムスを、Haorui Pharma-Chem, Inc., NJ から得た;デキサメタゾンを、Biomol, Plymouth, PA から得た。ビタミンE TPGS (NF Grade)を、Eastman Chemical Companyから得て、IGEPAL CA-897 (オクトキシノール-40) を、Rhodia, Inc. から得た。滅菌脱イオン水を、EASY Pure UV Compact Ultra Pure Water System(Barnstead、IA) を用いて、UMKC (University of Missouri, Kansas City)の研究所内で調製した。Kollidon(登録商標)30 (PVP)および Kollidon(登録商標) 90 F (Povidone K 90) をBASFから得た。ヒドロキシエチルセルロース 100 cps および 5000 cps を、Spectrum, Methocel(登録商標)から得て、HPMCを、Colorcon, Noveon(登録商標)から得て、ポリカルボフィルを Lubrizol Advanced Materialsから得た。
【0079】
実施例1
混合ナノミセル製剤の調製
0.02 wt%、0.2 wt%、0.4 wt%、0.5 wt%、および1.0 wt%の薬剤濃度を有する本開示内容の混合ナノミセル製剤を後記のとおり製造した。基本的な2X 薬剤の製剤を、表1に示した比率とした。1つのプロトコールでは、例えば、およそ50 mLに必要なカルシニューリン阻害剤およびビタミンE TPGSを計算し、秤量し、次いで透明な溶液を得るまでおよそ95%のエタノール(5 mL)中で混合した。エタノール溶液を、真空下に蒸発させて、薄いフィルムの固体様物質を得た。脱イオン水(およそ25 mL)を、オクトキシノール-40と混合し、該薄いフィルムの固体様物質に該溶液を添加して、おおよそ20分間超音波処理に供して、混合ミセルを完全に形成させた。この調製した2Xの薬剤の製剤を室温で貯蔵した。別法として、およそ50 mLに必要な薬物、ビタミンE TPGSおよびオクトキシノール-40の量を計算して、秤量し、95% エタノール(約5 mL)中で混合して、薄いフィルム状の固体様物質を形成させるために真空下で蒸発させた。次いで、該薄いフィルムの固体様物質を、脱イオン水(およそ25 mL)に溶解させ、おおよそ20分間超音波処理を行うかまたはロータリーエバポレーター内の回転運動により混合して、完全な混合ミセルを形成させた。この調製した2X 製剤を室温で貯蔵した。
【0080】
表1
【表1】

【0081】
表1に示した基本的な2X 製剤を、実施例1に記載した別法のプロトコールに記載したとおりに調製した。該カルシニューリンまたはmTOR阻害剤が、ボクロスポリン、シクロスポリンA、シロリムスまたはタクロリムスである基本製剤を調製した。50 mLの製剤として一つの調製物では;緩衝液混合物を表2に示した成分量を脱イオン水(25 mL)に溶解して調製し、2X緩衝液を調製した。2X緩衝液混合物を、保存剤を含んだものと含まない(N/A)双方の混合物を調製した。
【0082】
表2. 緩衝液混合物
【表2】

【0083】
表3Aに示したポリマー賦形剤の必要な量を、2X緩衝液混合物(2.5 mL)中に分散させて、穏やかにボルテックスで混合して透明な溶液とした。基本的な2X 製剤を、等量加えて混合し、均一な溶液とした。溶液のpHを、NaOHまたはHClを用いて約pH 6.8の目標値まで調整した。溶液のオスモル濃度をNaClにより調整して、約280-300 mOsmol/kgの範囲とする。該製剤を、ナイロンメンブランフィルター(0.22 μm)により滅菌し、次いで室温で使用するまで保存した。
【0084】
表3A:
【表3】

【0085】
製剤(100 mL)の調製のための別法において、表1に示した基本的な2X 製剤を、ボクロスポリン(“VCS”) を用いて調製した。0.2 wt%/容量、0.4 wt%/容量および0.5 wt%/容量のVCS 濃度の製剤を作成するために、100 mLに必要な適切な量の薬物:ビタミンE TPGSおよびオクトキシノール-40を、計算して、秤量し、次いで95% エタノール(10 mL)中で混合し、おおよそ12時間真空下で蒸発させて、薄いフィルム状の固体様物質を形成させた。薄いフィルム状の固体様物質を、脱イオン水(50 mL)に溶解させて、おおよそ20分間超音波処理を行うか、またはロータリーエバポレーター中の回転運動により混合して、混合ミセルの完全な形成を確実にした;次いで室温で貯蔵した。表3Bおよび3Cに示したポリマー賦形剤の必要な量を、脱イオン水(40 mL)中に分散させて、透明なポリマー溶液となるまで攪拌した。表3Bおよび3Cに示した他の成分を、基本的な2X製剤(50 mL)に添加し、透明な緩衝液溶液となるまで十分攪拌した。該透明な緩衝溶液を、透明なポリマー溶液にゆっくりと移して、十分混合した。該溶液のpHを、NaOHまたはHClを用いて約pH6.8の目標pHに調整した。該溶液のオスモル濃度を280-300 mOsmol/kgの範囲に維持した。該容量を水により100 mLとした。該製剤を、ナイロンメンブランフィルター(0.22 μm)により滅菌し、次いで使用するまで室温で貯蔵した。
【0086】
表3B:
【表4】

【0087】
表3C.
【表5】

【0088】
実施態様において、0.2 % w/vのVCS 濃度を有する本開示内容のナノミセル製剤は、表3Dにある組成物を有する眼科用溶液である:
表3D:
【表6】

【0089】
実施態様において、おおよそ0.05% w/v のシクロスポリンA(CsA)濃度を有する本開示内容のナノミセル製剤は、表4にある組成物を有する眼科用溶液である:
表4:
【表7】

【0090】
表4に示した該製剤を、実施例1の別法に記載した方法と類似した様式を用いて製剤した。該 CsA 製剤 を約6.88のpHに調整し、またオスモル濃度は320 mOsm/kgであった。
【0091】
実施例2
0.2 wt%/volのボクロスポリンナノミセル製剤 (LX214)の局所投与後の14C-ボクロスポリンの眼の分布および薬物動態
NZW ウサギ(30 匹の雌/8匹の雄) を、単回用量 (SD)および7日間の反復投与(RD)試験に使用した(表5A)。DBウサギ(16匹の雌)を、単回用量試験(表5B)で使用した。動物は、処理しない(コントロール)か、または7日間に1回または毎日の局所眼用量[片眼または両眼に0.2% 14C-LX214 溶液(35 μL)]が投与された。血液および眼の組織の放射活性レベルを、燃焼の後の液体シンチレーション計測により計画された時点で評価した。血液中のボクロスポリン濃度を大気圧イオン化質量スペクトル分析法 (LC-API/MS/MS) 方法と一体となった有効な液体クロマトグラフィー (LC-API/MS/MS) を用いて測定した。
【0092】
表5A
【表8】

a 局所用量製剤は0.2% ボクロスポリンを含有した。目的とする用量
は〜3μCi/35μLおよび70ngのボクロスポリンであった。
b 処置群2(SD群)に対する投与前濃度として使用した。
c 薬物動態評価(SD群)に使用した。
d 処置群5(RD群)に対する投与前濃度として使用した。
e 薬物動態評価(MD群)に使用した。
【0093】
表5B
【表9】

a 局所用量製剤は0.2% ボクロスポリンを含有した。目的とする用量は
〜3μCi/35μLおよび70ngのボクロスポリンであった。
b 処置群2(SD群)に対する投与前濃度として使用した。
c 薬物動態評価(SD群)に使用した。
【0094】
各サンプル採取時点に、t検定を用いてウサギ2株内または2株間での該組織濃度を比較した。SigmaStat(登録商標) 3.5 (Systat, Inc., San Jose, CA)を統計学的分析のために用いた(p < 0.05)。非コンパートメントパラメータ分析を、平均組織14C-LX214 濃度−時間データに対して行った。薬物動態分析を、WinNonlin 5.2 (Pharsight, Corporation, Mountain View, CA)を用いて行った。CmaxおよびTmax、計算可能なAUC および t1/2を報告した。
【0095】
単回用量(SD)または反復用量(RD)(7日間1日に1回)の両眼投与の後に14C LX214-誘導放射活性について選択した薬物動力学的パラメータ(Cmax、AUC、Tmax、および t1/2)を、NZWメスおよびDBメスのウサギ各々について表6および7にまとめた。単回用量投与後、眼の組織内へ薬物の迅速な浸透(放射活性として測定した)が、最も高い濃度(>1mg eq/g組織)にて、瞼、結膜、角膜、瞬膜および涙内で起こり、最も低い濃度(1-11 ng eq/g組織)にて、房水および硝子体液、および水晶体で起きた。残っている他の眼の組織は、ボクロスポリンおよび/または関連残留物の様々なレベル(20-223ng eq/g組織)に達した。7日までの反復投与の後に、14C LX214 t1/2において明確な変化はなく、最小の組織蓄積を示唆している(表6)。眼の後部(例えば、脈絡膜/網膜および視神経)において、各時点で測定されたレベルは、推定治療濃度の30 eq ng/gよりも実質的に高かった。しかし、単回投与後の組織レベルと比較して、有意な薬剤蓄積は7日間の反復投与後に観察されなかった。薬剤の高いレベルは、本開示内容の製剤1回の局所適用(単回用量)により達成され得る。より具体的には、高い薬物レベルは、投与後24時間までおよびそれ以上で眼の組織内に維持されており、QD(1日に1回)投薬は本開示内容の組成物を用いて達成できるということが示唆される。薬物の濃度は、眼の前眼部(角膜、結膜、強膜)および後眼部(網膜、視神経)の組織内で高いが、眼の中間部(房水および硝子体液)では最小であり、該薬物の輸送は、眼を介する受動的メカニズム以外のメカニズムが示唆される。後眼部で達成されたこの高い薬物レベルにより、後眼部の疾患(例えば、網膜、視神経関連疾患、例えば緑内障)の処置のための本開示内容の組成物の局所投与が実行可能となる。様々な水不溶性薬物(カルシニューリン、MTOR 阻害剤、およびコルチコステロイドを含めるが、これに限定するものではない)を、本開示内容の組成物と共に用いることができる。特に後眼部の組織、例えば脈絡膜/網膜および視神経中の高レベルが、本開示内容の製剤を用いて示された。
【0096】
表6
【表10】

【0097】
表7
【表11】

【0098】
表8は、14C-ボクロスポリンの単回の局所眼投与後のNZWおよびDBウサギにおける14C-ボクロスポリンから得られた放射活性のCmax比較を示す。
表8
【表12】

【0099】
実施例3
デキサメタゾン混合ナノミセル製剤の製造
コルチコステロイド、例えばデキサメタゾンの水溶解度は、おおよそ 0.159 mg/mLである。この実施例において、本薬物であるデキサメタゾンの溶解度を約6.2倍(1 mg/mL)まで改善した。実施態様において、組成物を0.1 wt%の薬物濃度(デキサメタゾン)とするために、以下の手法を用いた。薬物の基本製剤を表9に示した割合にて作成した。この手法では、最終製剤(50 mL)のために、デキサメタゾン、ビタミンE TPGS および オクトキシノール-40 を、計算し、秤量し、95% エタノール(6 mL)中で透明な溶液が得られるまで混合した。エタノール溶液を、真空下で蒸発させて、薄いフィルム状の固体様物質を得た。脱イオン水(25 mL)を、薄いフィルム状の固体様物質に添加し、おおよそ20分間超音波処理し、混合ミセルの完全な形成を確保した。この調製した2X 製剤を室温で貯蔵した。
【0100】
表9
【表13】

【0101】
一般的な組成物の調製:
表9に示した基本の2X 製剤を、基本製剤の手法に記述されたとおりに製造し、ここで用いた薬物はステロイドのデキサメタゾンであった。製剤(50 mL)の製造において:緩衝液の混合物を、2X 緩衝液を調製するために、表10に示した成分の量を脱イオン水(25 mL)に溶解させることによって調製した。
【0102】
表10
【表14】

【0103】
ポリマー賦形剤(PVP-K-90, 1.2%, 50 mLに対して0.3 g)を、2X 緩衝液混合物(25 mL) に分散させて、穏やかにボルテックスにより混合して、透明な溶液を得た。この基本の2X製剤を、等量添加して混合し、均一な溶液を得た。該溶液のpHを、NaOHまたはHClにより目的のpH6.8に調整した。該溶液のオスモル濃度を、約280-300 mOsmol/kgの範囲内となるようにNaClを用いて調整した。該製剤を、ナイロン膜フィルター(0.22 μm)により滅菌し、次いで4℃で使用するまで貯蔵した。
【0104】
実施態様において、本開示内容のデキサメタゾン混合ナノミセル製剤は、表11に示した成分を包含する:
表11
【表15】

【0105】
安定性試験は、冷蔵庫内(〜4℃)で約40日後に、組成物中のデキサメタゾン濃度が、ほぼ一定量(サンプルを、分析前に1000倍希釈した)残っていたことを示した。安定性サンプル中のデキサメタゾンの分析を、逆相高速液体クロマトグラフィーにより分析した。移動相は、40% アセトニトリル:60% 水:0.1% トリフルオロ酢酸から構成され、1 ml/分の流速にて送出される。固定相は、C18-カラム, 250 × 4.6 mm (Phenomenex, Torrance, CA)から構成される。0.1% デキサメタゾンを含む混合ミセル組成物の粒子サイズは、おおよそ20 nmのミセルサイズを示した。0.1% の混合ミセル製剤の粘度を測定すると2.79 センチポアズであった。該光学的透明度を、ブランクとして水を用いてUV可視光の分光光度計(モデル: Biomate-3, Thermo Spectronic, Waltham, MA)を用いて400 nmにて製剤の吸光度を測定することにより評価した。該薬剤を含有する製剤のUV 吸光度は水(ブランク)と同様であったので、製剤は透明であった。
【0106】
実施例4
0.1 wt%/volのデキサメタゾンナノミセル製剤の局所投与後の14C-デキサメタゾンの眼の分布および薬物動態
この試験を、雄のニュージーランド白ウサギ(NZW)の眼の組織、涙、および血液内の濃度を決定することにより、0.1% wt%/容量の本開示内容のデキサメタゾンの眼適用後の局所用製剤(眼あたり50 μLの単回用量)の経時的な分布を評価するために実施した。
【0107】
2.0〜2.5 kgの体重の雄のNZW ウサギ(n=4)を、単回用量(SD)試験で使用した。動物を、ケタミンHCl (35 mg/kg) および キシラジン(3.5 mg/kg)を用いる筋肉注射により、この実験の前に麻酔した。麻酔は実験を通じて維持される。0.1% デキサメタゾン混合ミセル製剤(ビタミンE TPGS-4.5%およびオクトキシノール-40-2.0%)(50μl)を局所注入した。60分後に、耳辺縁の血管を介するペントバルビタール・ナトリウムの静脈内注射により深い睡眠の下で安楽死を行った。安楽死の後、眼球を直ちに取り出して(平均150秒以内で)、氷冷リン酸塩緩衝液(pH 7.4)を含有するビーカーに移した。反復洗浄を、冷リン酸塩緩衝液中で行い、表面に吸着したあらゆる薬物を除去する。房水を、角膜と結膜の間の穿刺術により吸引し、次いで硝子体液を、強膜の縁結合部で小さな切開部を作った後にツベルクリンシリンジ(1 ml)を用いて吸引した。この取り出した眼球を切開し、以下の組織を切り出した:角膜、虹彩-毛様体(ICB)、水晶体、網膜-脈絡膜(RC)および強膜。切り出した後、該組織をKimwipes(登録商標)を用いて乾燥させて、秤量した。房水および硝子体液中のタンパク質含量を、Bradford (Bio-Rad protein estimation kit, Hercules, CA)法により測定した。全ての組織サンプルを次の分析の前に-80℃で貯蔵した。
【0108】
組織を、緩衝液(1.5 ml)を要する強膜を例外として、冷リン酸塩緩衝液(4℃)(おおよそ500 μl)(pH 7.4)中で、氷浴中で約4分間、組織ホモジナイザー(Tissue Tearor, Model 985-370; Dremel Multipro, Racine, WI)を用いて均質化した。200μlの房水(AH)および硝子体液(VH)を、さらなる処理をせずにそのまま分析に用いた。次に、組織均質化物(角膜、虹彩-毛様体、水晶体、網膜-脈絡膜および強膜)、房水および硝子体液(200 μl)を、さらなるサンプル処理のために使用した。
【0109】
デキサメタゾンを、単純な液体-液体抽出を用いてこの眼の組織均質物から抽出した。プレドニゾロンを、デキサメタゾンについての定量的LC-MS/MS アッセイの内部標準(IS)として使用した。10 μg/mlの濃度でIS(25μl)を、全ての組織均質物サンプルに添加し、30秒ボルテックスより攪拌した。t-ブチルメチルエーテル(500μl)を、該サンプルに添加し、次いで1分間激しくボルテックスにより攪拌した。次いで、サンプルを、10,000 rpm、25分間、4℃で遠心分離した。次いで、該上清を分離し、SpeedVac(登録商標) (SAVANT Instruments, Inc., Holbrook, NY)を用いて蒸発させた。この乾燥残留物を、0.05% 蟻酸を含有するアセトニトリル:水(70:30)(100 μl)に溶解し、次いでサンプルを、1分間ボルテックスにより攪拌した。校正曲線を、濃度を変化させたデキサメタゾンと共に適切なコントロール組織(非処置動物から得た組織)を混合する(spiking)ことにより作成した。全ての標準物およびサンプルを、同じ抽出方法に供した。全ての標準物およびサンプルを、LC-MS/MSを用いて分析した。
【0110】
眼の組織の均質物からのデキサメタゾンの分析は、液体クロマトグラフィー系(Agilent HP1100, Agilent Technology Inc., Palo Alto, CA, USA)およびC18-カラム 50 × 4.6 mm (Phenomenex, Torrance, CA)に連結したターボ・イオンスプレー源(API 2000; Applied Biosystems, Foster City, CA, USA)上でエレクトロスプレーオン化 (ESI)による三連四重極質量分析計を用いて行った。移動相は、0.1% 蟻酸と共に、70% アセトニトリルおよび30% 水から構成され、0.2 ml/分の流速で送出される。注入されるサンプル容量は25 μlであって、該分析時間は7分間であった。複数の反応モニタリング(MRM)モードを用いて、目的とする化合物を検出した。定量極限は、2.7 ng/mlであることが判った。表12は、本開示内容の0.1% デキサメタゾン混合ナノミセル製剤を単回の点眼薬局所投与後の眼の体液中および組織中で達成されたデキサメタゾンの濃度を示す。
【0111】
表12:
【表16】

【0112】
この報告は、後部のブドウ膜炎の処置のための硝子体液中で必要なデキサメタゾンの治療濃度レベルは、0.01-4.0 μg/mLであることを示す。開示されたナノミセル製剤は、後眼部症状を処置するために現行の治療と関連のある副作用を有意に減少できると考えられる。例えば、現行のステロイド治療に関するかかる副作用には、白内障および眼の高血圧が含まれる。結果として、用量を制限する長期間の毒性、例えば白内障および眼の高血圧または緑内障を、低減または完全に回避できる。これらの副作用は、治療効果の低下および治療の中止を引き起こすことが多い。本開示内容のナノミセル製剤を用いれば、単回の点眼薬投与(50 μL)後に網膜-脈絡膜(RC〜50 ng/g 組織)において達成されるデキサメタゾンの濃度は、後眼部疾患の処置のための治療濃度範囲に入る。高い濃度レベルは、複数回の投薬後またはナノミセル内に担持するより高量の薬物により、RC内で達成され得ると考えられる。興味深いことに、水晶体および硝子体液内のデキサメタゾンの濃度は、検出極限(LOD = 2.5 ng/mL)以下である。この興味深い結果は、局所的投与により、該ナノミセルが、眼球内的に水晶体および硝子体液を介するのではなく、強膜の水性チャンネル/孔を介して透過して、経強膜的にRPE(眼球周辺)に到達することを示唆している。硝子体内注射/移植は、化合物を眼の後眼部に直接送達することにより、増加した眼内圧、出血、網膜剥離、白内障、眼内炎の様なそれらの特有の潜在的な副作用が、長期間の治療を制限する合併症をもたらす。硝子体および硝子体液中の無視できる濃度のレベルは、このような副作用を、この新たに開発した混合ナノミセル製剤を用いて、大きく減弱できるか、またはさらに排除できるということを示唆する。
【0113】
実施例5
ラパマイシン(シロリムス)混合ナノミセル製剤の調製
ラパマイシン(シロリムス)は、USFDA 承認 mTOR 阻害剤である。それは、低い水性溶解度(2.6 μg/mL)を有する疎水性薬剤である。この実施例において、該薬物、即ちラパマイシンの溶解度が約2000倍まで(4 mg/mL)改善された。
【0114】
おおよそ25 nmのラパマイシン(シロリムス)のナノ混合ミセル製剤を溶媒蒸発方法により製造した。製剤の調製を2つのステップに分けた:1.基本製剤の調製および2.再水和。簡単には、ラパマイシン(200 mg)、Vit E TPGS (4.5 gm)およびオクトキシノール-40(2 gm)を、エタノール(10mL)に別々に溶解した。全ての3つの溶液を、丸底フラスコ内で一緒に混合した。該溶液を混合して、均質溶液を得た。溶媒を、ロータリーエバポレーターにより蒸発させて、薄い固体状のフィルムを得た。製剤中の残留エタノールを、高真空下に終夜室温にて除去した。得られた薄いフィルムを2回蒸留した水(50 mL)により水和させた。再水和した製剤を、おおよそ20分間超音波処理した。得られた再水和製剤を、リン酸塩緩衝溶液(pH 6.8)を用いて100 mLとし、これを0.2μmのナイロンフィルター膜を通して濾過して滅菌し、その他の異物粒子を除去した。
【0115】
実施例6
ラパマイシンナノミセル製剤(0.2 wt%/vol)の局所投与後の14C-ラパマイシンの眼の分布および薬物動態
動物試験について、溶解度において〜1000倍の増加を示した0.2% ラパマイシン製剤(2 mg/mL)を使用した。この実験のための動物のプロトコールは、University of Missouri Kansas City Institutional Animal Care and Use committee (UMKC IACUC)により承認された。おおよそ2.5 kgを秤量するNZW 雄ウサギを、Myrtle's Rabbitry(Thompson Station, TN)から得た。動物を、UMKC 動物施設において24時間順応させた。処置のために、N=3 動物 を使用した。動物を、ケタミンHCl (35 mg/kg) およびキシラジン(3.5 mg/kg)を筋肉注射による投与により実験の前に麻酔した。麻酔は、この実験を通して維持された。0.2% ラパマイシン混合ナノミセル製剤(Vit. E TPGS-4.5%およびオクトキシノール-40-2.0%)(50μl)を、左目の結膜嚢に局所点眼した。製剤の注入前に1分間、緩衝液(50μl)を、コントロール処置として右眼の結膜嚢中に局所点眼した。60分後に、耳辺縁の血管を介するペントバルビタール・ナトリウムの静脈内注射により深い麻酔下で安楽死させた。
【0116】
安楽死の後に、眼球を直ちに取り出して、氷冷リン酸塩緩衝液(pH 7.4)を含有するビーカーに移した。摘出した眼球を、2回リン酸塩緩衝液で洗浄して、表面上に吸着したあらうる薬物を取り除いた。房水(AH)を、角膜と結膜の間の穿刺により吸引し、次いで硝子体液(VH)を、強膜の縁結合部で小さな切開部を作った後にツベルクリンシリンジ(1 ml)を用いて吸引した。摘出した眼球を切開し、以下の組織を切り出した:角膜、虹彩-毛様体(ICB)、水晶体、網膜-脈絡膜(RC)および強膜。切り出した後、該組織を、Kimwipes(登録商標)を用いて乾燥させて秤量した。全ての組織を以下に記載した方法を用いて均質化し、-80℃で貯蔵した。組織均質物を解凍した。タンパク質含量を、1つのアリコートにて決定し、各均質物のもう一つのアリコートを、以下に記載したようにラパマイシン含量のために使用した。
【0117】
組織均質化:
4種の組織(網膜-脈絡膜、水晶体、角膜および虹彩毛様体)/動物を、組織ホモジナイザー(Tissue Tearor, 985-370; Dremel Multipro, Racine, WI) を用いて、氷浴中で約4分間、冷(4℃)リン酸塩緩衝液(pH 7.4)(500 μL)中で均質化した。強膜は、均質化のために2.0 mLの緩衝液が必要であった。房水および硝子体液は均質化を必要としない。
【0118】
タンパク質決定:
該組織抽出物(角膜、水晶体、強膜、網膜-脈絡膜、虹彩毛様体)、房水および硝子体液中のタンパク質含量を、Bradford (Bio-Rad Protein estimation kit, Hercules, CA)方法により、製造業者の説明書に従って測定した。
【0119】
ラパマイシン決定のための抽出:
各組織均質物(角膜、虹彩-毛様体、水晶体、網膜-脈絡膜および強膜)(200 μL)、房水(100 μL)および硝子体液(200 μL)を、ラパマイシン分析のために抽出した。エリスロマイシンを、内部標準物(IS)として使用した。5 μg/mLの濃度でIS (25μl)を、ブランク以外の全ての組織均質物のサンプルに添加し、60秒間ボルテックスにより攪拌した。ラパマイシンおよびISを、タンパク質沈殿方法を用いて眼の組織均質物から抽出した。メタノール(v/v)中で50 % トリエチルアミン(25μl)を、全てのサンプルに添加し、次いで2分間激しくボルテックスに供した。タンパク質を、メタノール(800 μL)と共に上記混合物を添加することにより沈殿させて、さらに2分間ボルテックスにより混合した。次いで、サンプルを、10,000 rpmにて30分間4℃で遠心分離を行った。次いで上清(500 μL)を分離し、SpeedVac(登録商標)(SAVANT Instruments, Inc., Holbrook, NY)を用いてエバポレートした。乾燥残留物を、HPLCの移動相[0.1% 蟻酸を含むアセトニトリル-水 (80:20 v/v)](100 μL)に溶解させ、続いて2分間ボルテックスにより混合した。各組織均質物についての校正曲線の標準を、濃度を変化させたラパマイシン(校正曲線の範囲10.48-1000 ng/mL)と共に個々のコントロール組織均質物(ブランク)を混合することにより作成した。7つの校正曲線(組織あたりに1つ)を作成し、各組織均質物サンプル分析に従って分析した。1つのサンプルマトリクス/組織を、コントロール処理眼から抽出した。全ての標準物およびサンプルを、LC-MS/MSを用いて分析した。
【0120】
ラパマイシン分析のための分析方法:
眼の組織均質物からのラパマイシンの分析を、液体クロマトグラフィー系(Prominence HPLC shimadzu, Riverwood Drive, Columbia Maryland-21046, USA )および逆相 C 8-カラム, 5μm, 50×4.6 mm (Waters Corporation US)に連結したターボ・イオンスプレー源(API 3200; Applied Biosystems, Foster City, CA, USA)上にエレクトロスプレーイオン化(ESI)を備えた三連四重極質量分析計を用いて行い、カラム温度を40℃に維持した(Flatron CH-30 Column heater, flatiron Systems Inc., USA)。この移動相は、0.1% 蟻酸を有するアセトニトリル-水 (80:20 v/v)から構成され、0.25 mL/分の流速で送出される。注入されるサンプル容量は20 μLであり、該分析の実施時間は7分間であった。複数の反応モニタリング (MRM) モードを利用して、目的の化合物を検知した。ラパマイシンm/z[M+Na]:936.4/409.3およびIS m/z[M+H]:734.4/576.5 についてのMRM遷移を最適化した。校正曲線は、個々の組織サンプル抽出物において10.48 ng/mL、29.95 ng/mL、187.20 ng/mL、312.00 ng/mL、480.00 ng/mL、640.00 ng/mL、800.00 ng/mL および 1000.00 ng/mL のラパマイシンから構成される。定量の低い極限を決定すると、10.48 ng/mLであった。
【0121】
単離した眼組織中のラパマイシンレベルを表13に提供した。該組織抽出物中のng/mL単位を、組織サンプルの実重量に基づいてng/g組織に変換した。ラパマイシンは、AH、VH および水晶体内では検出されなかった。最も高い濃度を、角膜に続いて虹彩毛様体、強膜、次いで網膜/脈絡膜(眼組織の後部)で検出した。該製剤を局所適用した場合に、局所適用によるラパマイシンの治療レベルよりも高い値が、網膜/脈絡膜(糖尿病性黄斑浮腫、レチナール新血管形成、ウェット型加齢性黄斑変性症についての標的)で達成されたことに注目されたい。外側にあるその親水性鎖のためにミセルナノ担体は、強膜の水性チャンネル/孔を利用して効果的に透過することができ、この直径は30 nmから300 nmの範囲にある。加えて、親水性ミセルの外層は、結膜/脈絡膜の血管およびリンパ管による体循環への薬物の排出を回避する助けとなる。強膜の水性チャンネルを利用すると、ラパマイシンは、経強膜経路を横切り、後眼部(網膜脈絡膜)に到達する。このように、該薬物の房水、水晶体および硝子体液への拡散が、薬剤の疎水性質のために回避される。即ち、反復される硝子体内注射に関連する副作用を回避することができる。
【0122】
表13:
【表17】

【0123】
開示内容の混合ナノミセル製剤の製造のために、2つの非イオン性界面活性剤、即ちビタミンE TPGS および オクトキシノール-40 を選択したが、これは混合ナノミセルを容易に形成した。実施態様において、2.5% ビタミンE TPGS および 2.0% オクトキシノール-40を、本開示内容のボクロスポリンナノミセル製剤を製造するために使用した。実施態様において、4.5% ビタミンE TPGS および 2.0% オクトキシノール-40を、本開示内容のラパマイシンナノミセル製剤および本開示内容のデキサメタゾンナノミセル製剤の製造に用いた。調製した製剤のオスモル濃度は、約75 mOsm/kg〜約325 mOsm/kgであった。混合ナノミセルのサイズ、即ち0.2% ラパマイシン製剤を、粒子サイズ分析器により決定し、多分散指数0.206を有する25.3±1.2 nmであることが判った。ボクロスポリン(〜12nm)およびデキサメタゾン(〜18nm)と比較した場合に、ラパマイシンミセルサイズが増加した。混合ナノミセルは解離して、疎水性ラパマイシンを放出し、約83℃〜約90℃の温度範囲で乳白色の水溶性懸濁液を形成し、冷却することによって、おおよそ2分間〜おおよそ3分間の再生時間により透明な溶液を再度形成する。ボクロスポリンナノミセル製剤と比較して、デキサメタゾンおよびラパマイシンの混合ナノミセル製剤は、より高い温度で解離した。該混合ナノミセルの吸光度を、ブランクとして水を用いて400 nmでのUV可視分光光度計で観察した。該製剤の吸光度は無視できる(0.033 AU)ことが判った。これは、該製剤が透明であり、薬剤の沈殿が観察されないことを示す。ナノミセル製剤内のラパマイシンの封入を、分離のためにC-8 カラムを用いて、278 nmの波長にてUV-HPLCにより計測した。カラム温度をおおよそ40℃で維持した。ボクロスポリンまたはデキサメタゾンの封入効率を、分離のためにZorbax SB-フェニルカラムを用いて、各々波長210 nmおよび254nmでのUV-HPLCにより決定した。ボクロスポリン分析のために、カラム温度は70℃で維持された。
【0124】
局所投与したラパマイシンを含有する0.2%混合ナノミセル製剤を使用して、様々な眼組織中のラパマイシンレベルを試験した。該ナノミセル製剤は、網膜/脈絡膜(眼の後眼部)において治療薬物レベルを示した。硝子体液中では薬物は検出されなかった。該薬物レベルは、房水および水晶体において検出極限以下であった。最も高い濃度を、角膜に続いて虹彩毛様体、強膜、次いで網膜/脈絡膜において検出した。網膜/脈絡膜への薬物送達における類似の傾向を、該カルシニューリン阻害剤(ボクロスポリン)およびコルチコステロイド(デキサメタゾン)により観察した。ボクロスポリンおよびデキサメタゾンについての眼の組織分布データは、該網膜/脈絡膜において各々の組織の薬物レベルあたり、おおよそ252ng/gmおよびおおよそ50 ng/gmを示した。ラパマイシン製剤は、網膜および脈絡膜において薬物濃度の驚異的な増加を示した。網膜/脈絡膜において検出された薬物濃度は、おおよそ370 ng/g 組織であった(ボクロスポリンおよびデキサメタゾンよりも、各々1.5倍および〜7.5倍以上)。以下の表14は、本開示内容の0.2% ボクロスポリンナノミセル製剤、本開示内容の0.1% デキサメタゾンナノミセル製剤および本開示内容の0.2% ラパマイシンナノミセル製剤についての物理学的特性を比較するものである。
【0125】
表14:
【表18】

N.D-測定されない(100℃を超える)
【0126】
本明細書で引用された全ての特許、特許出願、および公開文献は、出典明示により全てを本明細書の一部とする。様々な上記開示物および他の態様および機能またはその改変が、多くの様々な系または適用に組み合わされるのが好ましいことが認められよう。当業者により続いて為され得る様々な予想外のまたは予期せぬ変更、改変、差違、または改善もまた、特許請求の範囲に含まれると意図されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
pH5.0〜8.0の生理学的に許容し得る緩衝液中のナノミセルを含む、眼科用水溶液:
ここで約0.01 % w/v〜約1.00 % w/vの濃度範囲のコルチコステロイドが、該疎水性コアから伸びる親水性鎖から構成される外層(corona)を有する混合ミセルの疎水性コア内への封入により可溶化されており、該ナノミセルは、約1.0 % w/v〜約3.0 % w/vの濃度範囲のオクトキシノール-40により安定化された約2.0 % w/v〜約5.0 % w/v の濃度範囲のビタミンE TPGS を含む。
【請求項2】
該コルチコステロイドの濃度が約0.05 % w/v〜約0.25% w/vである、請求項1記載の眼科用水溶液。
【請求項3】
該コルチコステロイドが、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、プレドニソン、トリアムシノロン、ベタメタゾン、ブデソニド、およびデキサメタゾンからなる群から選択される、請求項1記載の眼科用水溶液。
【請求項4】
該コルチコステロイドがデキサメタゾンである、請求項1記載の眼科用水溶液。
【請求項5】
該pHが約6.6〜約7.0の範囲にある、請求項1記載の眼科用水溶液。
【請求項6】
該ビタミンE TPGSの濃度が約4.0 % w/v〜約5.0 % w/vである、請求項1記載の眼科用水溶液。
【請求項7】
該オクトキシノール-40の濃度が約1.5 % w/v〜約2.5 % w/vである、請求項1記載の眼科用水溶液。
【請求項8】
下記のものを含む、点眼薬:
約0.01 % w/v〜約1.00 % w/vの濃度範囲のコルチコステロイド、
約2.0 % w/v〜約5.0 % w/vの濃度範囲のビタミンE TPGS、および
約1.0 % w/v〜約3.0 % w/vの濃度範囲のオクトキシノール-40;
ここで該コルチコステロイドは、該ビタミンE TPGS および該オクトキシノール-40の混合ミセルの疎水性コア内への封入により可溶化されている。
【請求項9】
該コルチコステロイドの濃度が約0.05 % w/v〜約0.25 % w/vである、請求項8記載の点眼薬。
【請求項10】
該コルチコステロイドが、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、プレドニソン、トリアムシノロン、ベタメタゾン、ブデソニド、およびデキサメタゾンからなる群から選択される、請求項8記載の点眼薬。
【請求項11】
該コルチコステロイドがデキサメタゾンである、請求項8記載の点眼薬。
【請求項12】
該ビタミンE TPGSの濃度が約4.0 % w/v〜約5.0 % w/vである、請求項8記載の点眼薬。
【請求項13】
該オクトキシノール-40の濃度が約1.5 % w/v〜約2.5 % w/vである、請求項8記載の点眼薬。
【請求項14】
該デキサメタゾンが、製剤中に約0.1 wt % w/vの濃度で存在し、該ビタミンE TPGSが、製剤中に約4.5 % w/vの濃度で存在し、該オクトキシノール-40が、製剤中に約2.0 % w/vの濃度で存在する、請求項11記載の点眼薬。
【請求項15】
pH5.0〜8.0の生理学的に許容し得る緩衝液中のナノミセルを含む単位用量の眼科用水溶液を含むキットであって、ここで約0.01 % w/v〜約1.00 % w/vの濃度範囲のコルチコステロイドが、疎水性コアから伸びる親水性鎖から構成される外層(corona)を有する混合ミセルの疎水性コア内への封入により可溶化されており、該ナノミセルは、約1.0 % w/v〜約3.0 % w/vの濃度範囲のオクトキシノール-40により安定化された約2.0 % w/v〜約5.0 % w/v の濃度範囲のビタミンE TPGS を含み、該単位用量は医薬上許容し得る包装材から製造されたバイアル内に含まれる、キット。
【請求項16】
該単位用量が約50μLである、請求項15記載のキット。
【請求項17】
該コルチコステロイドがデキサメタゾンであり、該デキサメタゾンは、製剤中に約0.1 wt % w/vの濃度で存在し、該ビタミンE TPGSが、製剤中に約4.5 % w/vの濃度で存在し、、および該オクトキシノール-40が、製剤中に約2.0 % w/vの濃度で存在する、請求項15記載のキット。
【請求項18】
該医薬上許容し得る包装材が低密度ポリエチレンまたは高密度ポリエチレンである、請求項15記載のキット。
【請求項19】
pH5.0〜8.0を有する生理学的に許容し得る緩衝液中のナノミセルを含む有効量の眼科用水溶液を患者の眼に投与することを含む後眼部の眼の症状を処置する方法であって、
ここで約0.01 % w/v〜約1.00 % w/vの濃度範囲のコルチコステロイドが、疎水性コアから伸びる親水性鎖から構成される外層(corona)を有する混合ミセルの疎水性コア内への封入により可溶化されており、該ナノミセルは、約1.0 % w/v〜約3.0 % w/vの濃度範囲のオクトキシノール-40により安定化された約2.0 % w/v〜約5.0 % w/vの濃度範囲のビタミンE TPGSを含む、処置方法。
【請求項20】
該コルチコステロイドが、約0.1 wt % w/vの濃度で溶液中に存在するデキサメタゾンであって、該ビタミンE TPGSが約4.5 % w/vの濃度で溶液中に存在し、および該オクトキシノール-40が約2.0 % w/vの濃度で溶液中に存在する、請求項19記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2012−529509(P2012−529509A)
【公表日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−514962(P2012−514962)
【出願日】平成22年5月5日(2010.5.5)
【国際出願番号】PCT/US2010/033779
【国際公開番号】WO2010/144194
【国際公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(510098124)ラックス・バイオサイエンシーズ・インコーポレイテッド (2)
【氏名又は名称原語表記】LUX BIOSCIENCES, INC.
【Fターム(参考)】